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明細書 :白内障の誘導方法、白内障のモデル生物、白内障の予防剤ならびに治療剤のスクリーニング方法、および、白内障誘導剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-000060 (P2019-000060A)
公開日 平成31年1月10日(2019.1.10)
発明の名称または考案の名称 白内障の誘導方法、白内障のモデル生物、白内障の予防剤ならびに治療剤のスクリーニング方法、および、白内障誘導剤
国際特許分類 C12N  15/01        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 X
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-119108 (P2017-119108)
出願日 平成29年6月16日(2017.6.16)
発明者または考案者 【氏名】沖 昌也
【氏名】金田 文人
【氏名】▲高▼村 佳弘
【氏名】三宅 誠司
【氏名】稲谷 大
【氏名】内田 博之
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045BB20
2G045FA16
要約 【課題】従来とは異なる糖尿病の発症モデルを開発するとともに、当該発症モデルを利用した技術を提供することを目的とする。
【解決手段】水晶体のDNAに損傷を与えることによって、白内障を誘導する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程を有する、白内障の誘導方法。
【請求項2】
上記白内障は、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、または、糖尿病白内障である、請求項1に記載の白内障の誘導方法。
【請求項3】
上記損傷工程は、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体に所定の強度の刺激を加えることによって、DNAに損傷を与える工程であり、
上記刺激は、当該刺激を加えた後の当該水晶体の断面の一部分のみが混濁する程度の強度の刺激である、請求項1または2に記載の白内障の誘導方法。
【請求項4】
上記損傷工程は、以下の(i)および/または(ii)を包含する、請求項1~3の何れか1項に記載の白内障の誘導方法:
(i)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、紫外線、または、放射線を照射すること、
(ii)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、DNAの損傷を引き起こす物質を接触させること。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の方法によって得られる、白内障のモデル生物。
【請求項6】
採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、
上記接触工程の後で、上記採取された水晶体のDNA、または、上記非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、を有する、白内障の予防剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、
上記損傷工程の後で、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、を有する、白内障の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
DNAの損傷を引き起こす物質を有効成分として含有している、白内障誘導剤。
【請求項9】
上記DNAの損傷を引き起こす物質は、DNAのアルキル化、DNAの切断、DNAへの化合物の付加、または、DNAへの塩基類似体の挿入を引き起こすものである、請求項8に記載の白内障誘導剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障の誘導方法、白内障のモデル生物、白内障の予防剤ならびに治療剤のスクリーニング方法、および、白内障誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障は、水晶体が混濁(例えば、白濁)することによって、視力が低下する疾患である。白内障の罹患者では、一般的に、水晶体の、核、皮質、または、後嚢下などに混濁が生じる。
【0003】
白内障の種類としては、加齢白内障、および、糖尿病白内障などが挙げられる。加齢白内障は、罹患者の数が最も多い白内障である。加齢白内障の場合、加齢に伴って罹患者の数が増加し、60歳代の日本人の約66~85%、70歳代の日本人の約84~97%が加齢白内障を患っているという報告がある。一方、糖尿病白内障の場合、発症が比較的早期であり、40歳代でも発症し得ることが知られている。
【0004】
白内障を治すには、現時点では外科手術しか手段がない。白内障の進行を予防するための点眼剤として、グルタチオン製剤およびピレノキシン製剤が認可されてはいるが(非特許文献1および2参照)、これらの製剤を点眼していても混濁が進行し、手術を受けるに至る場合が多いのが現状である。それ故に、確実な予防効果を有する製剤の開発が求められている。
【0005】
白内障の治療方法の開発、および、白内障の予防剤(または、治療剤)の開発を進めるにあたっては、白内障を誘導するための発症モデルが必要である。例えば、白内障の治療方法(または、治療剤)を開発する場合、まず、白内障の症状を示す水晶体を作製する必要がある。そして、当該水晶体に対して、新規な治療方法(または、新規な治療剤)を施し、これによって白内障の症状が緩和されれば、当該新規な治療方法(または、新規な治療剤)は、白内障の治療に有効であると考えることができる。一方、白内障の予防剤の開発を進める場合、水晶体と新規な予防剤とを接触させ、その後で、水晶体に対して白内障を誘導するための処置を施す。このとき、水晶体が白内障を発症しなければ、当該新規な予防剤は、白内障の予防に有効であると考えることができる。
【0006】
上述したように、白内障に関連する分野において、白内障を誘導するための発症モデルは、極めて重要である。このような発症モデルとして、現在、ガラクトース添加培地を用いた、ex vivoにおいて糖尿病白内障を誘導する発症モデルが用いられている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Matensson.J et.al. (1989) Glutathione ester prevents buthionine sulfoximine-induced cataracts and lens epithelial cell damage, Proc Natl Acad Sci U S A, vol.86, pp.8727-8731.
【非特許文献2】Ciuffi.M et.al. (1999) Protective Effect of Pirenoxine and U74389F on Induced Lipid Peroxidation in Mammalian Lenses. An in vitro, ex vivo and in vivo study, EXPERIMENTAL EYE RESEARCH, vol.68, pp.347-359.
【非特許文献3】Takamura.Y et al. (2003) Apoptotic cell death in the lens epithelium of rat sugar cataract. EXPERIMENTAL EYE RESEARCH, vol.77, pp.51-57.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ガラクトース添加培地を用いた発症モデルは、糖尿病白内障を誘導するための発症モデルであって、糖尿病白内障以外の白内障を誘導するための発症モデルではない。現在、糖尿病白内障以外の白内障の治療方法および予防剤(または、治療剤)の開発に用いることができる発症モデルは存在せず、糖尿病白内障を誘導するメカニズムとは異なるメカニズムを介して白内障を誘導する発症モデルの開発が望まれている。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、従来とは異なる糖尿病の発症モデルを開発するとともに、当該発症モデルを利用した技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ガラクトースなどの糖を用いることなく、DNAに損傷を与えることによって白内障を誘導することができることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本発明は、ガラクトースなどの糖を用いていないことから、糖尿病白内障を誘導するメカニズムとは異なるメカニズムを用いた、白内障を誘導する技術であると考え得る。本発明の一実施形態は、以下の構成からなるものである。
【0011】
<1>採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程を有する、白内障の誘導方法。
【0012】
<2>上記白内障は、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、または、糖尿病白内障である、<1>に記載の白内障の誘導方法。
【0013】
<3>上記損傷工程は、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体に所定の強度の刺激を加えることによって、DNAに損傷を与える工程であり、上記刺激は、当該刺激を加えた後の当該水晶体の断面の一部分のみが混濁する程度の強度の刺激である、<1>または<2>に記載の白内障の誘導方法。
【0014】
<4>上記損傷工程は、以下の(i)および/または(ii)を包含する、<1>~<3>の何れかに記載の白内障の誘導方法:
(i)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、紫外線、または、放射線を照射すること、
(ii)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、DNAの損傷を引き起こす物質を接触させること。
【0015】
<5><1>~<4>の何れかに記載の方法によって得られる、白内障のモデル生物。
【0016】
<6>採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、上記接触工程の後で、上記採取された水晶体のDNA、または、上記非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、を有する、白内障の予防剤のスクリーニング方法。
【0017】
<7>採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、上記損傷工程の後で、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、を有する、白内障の治療剤のスクリーニング方法。
【0018】
<8>DNAの損傷を引き起こす物質を有効成分として含有している、白内障誘導剤。
【0019】
<9>上記DNAの損傷を引き起こす物質は、DNAのアルキル化、DNAの切断、DNAへの化合物の付加、または、DNAへの塩基類似体の挿入を引き起こすものである、<8>に記載の白内障誘導剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、糖による発症メカニズムとは異なる発症メカニズムを用いて、白内障を誘導することができる。
【0021】
本発明の一態様によれば、糖による発症メカニズムとは異なる発症メカニズムを標的とした、糖尿病用の新たな予防剤、および、治療剤をスクリーニングすることができる。
【0022】
本発明の一態様によれば、糖による発症メカニズムとは異なる発症メカニズムを用いて白内障を誘導することができる、新たな白内障誘導剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例における、DNAの損傷によって誘導された白内障の像である。
【図2】本発明の実施例における、DNAの損傷によって誘導された白内障の像である。
【図3】本発明の実施例における、DNAの損傷によって誘導された白内障の像である。
【図4】本発明の実施例における、DNAの損傷によって誘導された白内障の像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。

【0025】
〔1.用語の定義〕
[1-1.白内障]
本明細書において「白内障」とは、水晶体に混濁(例えば、白濁)を生じる疾患を意図する。白内障によって水晶体に生じる混濁には、例えば、皮質混濁;核混濁;後嚢下混濁;皮質スポーク状混濁;前嚢下混濁;線維ひだ、水隙、または、核周囲の徹照下点状混濁;水疱;点状混濁;冠上混濁などの類型がある。「白内障」の種類としては、加齢白内障、および、併発白内障(例えば、糖尿病白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、および、ステロイド白内障)などを挙げることができる。

【0026】
「糖尿病白内障」とは、血液中または血漿中のグルコース濃度が持続的に上昇している状態によって特徴づけられる疾患(例えば、高血糖症、または、糖尿病(例えば、一型糖尿病、または、二型糖尿病))の罹患者に発症している、水晶体の混濁を意図する。糖尿病白内障では、水晶体の皮質または後嚢下に混濁が生じることが多いことが大規模疫学調査で知られているが、混濁の生じる箇所はこれらに限定されない。

【0027】
本発明の対象となる白内障は、特に限定されないが、例えば、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、および、糖尿病白内障を挙げることができる。

【0028】
[1-2.予防剤]
本明細書において「予防剤」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。当該予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
(1)予防剤を投与しなかった場合と比較して、予防剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の発症を防止する、または、発症のリスクを低減する。
(2)予防剤を投与しなかった場合と比較して、予防剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の再発を防止する、または、再発のリスクを低減する。
(3)予防剤を投与しなかった場合と比較して、予防剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の兆候が生じることを防止する、または、兆候が生じるリスクを低減する。

【0029】
なお、疾患に係る1つ以上の症状は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。

【0030】
[1-3.治療剤]
本明細書において「治療剤」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。当該治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
(1)治療剤を投与しなかった場合と比較して、治療剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
(2)治療剤を投与しなかった場合と比較して、治療剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加、または、重症度の進行を防止する。
(3)治療剤を投与しなかった場合と比較して、治療剤を投与した場合には、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度、または、重症度の進行速度を低減する。

【0031】
なお、疾患に係る1つ以上の症状は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。

【0032】
〔1.白内障誘導剤〕
本実施の形態の白内障誘導剤は、DNA(例えば、染色体DNAなど)の損傷を引き起こす物質を有効成分として含有している。

【0033】
上記物質によってDNAに引き起こされる損傷は、特に限定されないが、例えば、DNAのアルキル化、DNAの切断(例えば、一本鎖DNAの切断、または、二本鎖DNAの切断)、DNAへの化合物の付加(例えば、DNAの欠失、DNAの挿入、または、塩基ミスマッチを引き起こすもの)、または、DNAへの塩基類似体の挿入があり得る。

【0034】
上記損傷がDNAのアルキル化である場合、DNAの損傷を引き起こす物質が、直接的にDNAをアルキル化してもよいし、間接的にDNAをアルキル化(例えば、DNAの損傷を引き起こす物質によって誘導された他の物質がDNAをアルキル化)してもよい。DNAの損傷を引き起こす物質の具体例としては、MMS(methyl methane sulfonate)、EMS(ethyl methane sulfonate)、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、メクロレタミン(Mechlorethamine)、ウラムスチン(Uramustine)、メルファラン(Melphalan)、クロラムブシル(Chlorambucil)、イホスファミド(Ifosfamide)、ベンダムスチン(Bendamustine)、カルムスチン(Carmustine)、ロムスチン(Lomustine)、ストレプトゾシン(Streptozocin)、ブスルファン(Busulfan)、ニトロソグアニジン(nitrosoguanidine)、ニトロソアミン、および、N-エチル-N-ニトロソウレアを挙げることができる。

【0035】
上記損傷がDNAの切断である場合、DNAの損傷を引き起こす物質が、直接的にDNAを切断してもよいし、間接的にDNAを切断(例えば、DNAの損傷を引き起こす物質によって誘導された他の物質(例えば、フリーラジカル)がDNAを切断)してもよい。DNAの損傷を引き起こす物質の具体例としては、ブレオマイシン、および、ネオカルジノスタチンを挙げることができる。

【0036】
上記損傷がDNAへの化合物の付加である場合、DNAの損傷を引き起こす物質が、直接的にDNAに付加してもよいし、間接的にDNAへ化合物を付加(例えば、DNAの損傷を引き起こす物質によって誘導された他の物質がDNAを架橋)してもよい。DNAの損傷を引き起こす物質の具体例としては、シスプラチン(Cisplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、ネダプラチン(Nedaplatin)、サトラプラチン(Satraplatin)、トリプラチン テトラニトレート(Triplatin tetranitrate)、ベンゾピレン、臭化エチジウム、クリセン、マイトマイシンC(Mitomycin C)、アンゲリシン(Angelicin)、ソラレン、および、トリオキシサレンを挙げることができる。

【0037】
上記損傷がDNAへの塩基類似体の挿入である場合、DNAの損傷を引き起こす物質が、直接的にDNAに挿入されてもよいし、間接的にDNAへ塩基類似体を挿入(例えば、DNAの損傷を引き起こす物質によって誘導された塩基類似体がDNAへ挿入)してもよい。DNAの損傷を引き起こす物質の具体例としては、BrdU、および、EdUを挙げることができる。

【0038】
本実施の形態の白内障誘導剤によって誘導される白内障としては、特に限定されないが、例えば、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、および、糖尿病白内障を挙げることができる。

【0039】
本実施の形態の白内障誘導剤は、液体状の剤型であってもよいし、固体状の剤型であってもよい。本実施の形態の白内障誘導剤が液体状の剤型である場合には、有効成分と、必要に応じて有効成分以外の成分とを、所望の溶媒に溶かすことによって、白内障誘導剤を作製することができる。上記溶媒は、水晶体に対して毒性が低いものであればよく、例えば、水、および、生理的食塩水であってもよい。本実施の形態の白内障誘導剤が固体状の剤型である場合には、有効成分と、必要に応じて有効成分以外の成分とを、混合することによって、白内障誘導剤を作製することができる。なお、本実施の形態の白内障誘導剤の製造方法は、特に限定されず、公知の方法に従えばよい。

【0040】
本実施の形態の白内障誘導剤は、有効成分以外の成分を含有していてもよい。

【0041】
上記有効成分以外の成分としては、特に限定されないが、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。

【0042】
上記緩衝剤の例としては、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等が挙げられる。上記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。上記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等が挙げられる。上記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられる。上記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が挙げられる。

【0043】
pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。

【0044】
上記等張化剤の例としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール等)が挙げられる。

【0045】
上記防腐剤の例としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられる。

【0046】
上記抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。

【0047】
上記高分子量重合体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲン等が挙げられる。

【0048】
本実施の形態の白内障誘導剤は、所定の強度の刺激を水晶体に加えることができる濃度の有効成分を含有していることが好ましい。なお、「所定の強度の刺激」については、後述する〔2.白内障の誘導方法〕にて、詳細に説明する。当該構成であれば、重度の症状の白内障ではなく、中度~軽度の症状の白内障を誘導することができる。重度の症状の白内障の場合には、当該白内障を予防または治療することは難しい。一方、中度~軽度の症状の白内障の場合には、当該白内障を予防または治療することは容易である。つまり、当該構成であれば、後述するスクリーニング方法において、スクリーニングの感度を向上させ、これによって、白内障の予防剤および治療剤を容易にスクリーニングすることができる。

【0049】
本実施の形態の白内障誘導剤に含有されている有効成分の量は、特に限定されず、例えば、白内障誘導剤を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。

【0050】
本実施の形態の白内障誘導剤に含有されている有効成分の量は、また、例えば、1mLの白内障誘導剤あたり、1ng/mL~100mg/mLであってもよく、1ng/mL~10mg/mLであってもよく、1ng/mL~1mg/mLであってもよく、1ng/mL~500μg/mLであってもよく、1ng/mL~100μg/mLであってもよい。

【0051】
本実施の形態の白内障誘導剤に含有されている有効成分の濃度は、また、例えば、白内障誘導剤において、1nM~1Mであってもよく、1nM~100mMであってもよく、1nM~50mMであってもよく、1nM~10mMであってもよく、1nM~5mMであってもよく、1nM~1mMであってもよい。

【0052】
本実施の形態の治療剤に含有されている有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。

【0053】
本実施の形態の治療剤に含有されている有効成分以外の成分の量は、また、例えば、1mLの白内障誘導剤あたり、0ng/mL~100mg/mLであってもよく、0ng/mL~10mg/mLであってもよく、0ng/mL~1mg/mLであってもよく、0ng/mL~500μg/mLであってもよく、0ng/mL~100μg/mLであってもよい。

【0054】
本実施の形態の白内障誘導剤に含有されている有効成分以外の成分の濃度は、また、例えば、白内障誘導剤において、0nM~1Mであってもよく、0nM~100mMであってもよく、0nM~10mMであってもよく、0nM~5mMであってもよく、0nM~1mMであってもよい。

【0055】
〔2.白内障の誘導方法〕
本実施の形態の白内障の誘導方法は、採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程を有している。

【0056】
本実施の形態の誘導方法によって誘導される白内障としては、特に限定されないが、例えば、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、および、糖尿病白内障を挙げることができる。

【0057】
上記損傷は、特に限定されないが、例えば、DNAのアルキル化、DNAの切断(例えば、一本鎖DNAの切断、または、二本鎖DNAの切断)、DNAへの化合物の付加(例えば、DNAの欠失、DNAの挿入、または、塩基ミスマッチを引き起こすもの)、または、DNAへの塩基類似体の挿入であり得る。

【0058】
上記水晶体は、生体から採取された水晶体であってもよいし、生体が非ヒト生物である場合には、生体内に保持されている水晶体であってもよい。上記生体としては、特に限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト生物(例えば、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットなどの、ヒト以外の哺乳類)を挙げることができる。

【0059】
上記損傷工程は、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体に所定の強度の刺激(例えば、紫外線、放射線、または、DNAの損傷を引き起こす物質など)を加えることによって、DNAに損傷を与える工程であってもよい。この場合、できるだけ弱い強度の刺激を水晶体に加えることが好ましい。当該構成であれば、重度の症状の白内障ではなく、中度~軽度の症状の白内障を誘導することができる。重度の症状の白内障の場合には、当該白内障を予防または治療することは難しい。一方、中度~軽度の症状の白内障の場合には、当該白内障を予防または治療することは容易である。つまり、当該構成であれば、後述するスクリーニング方法において、スクリーニングの感度を向上させ、これによって、白内障の予防剤および治療剤を容易にスクリーニングすることができる。

【0060】
上記刺激の強度は、損傷工程に先立って、予め決定することができる。刺激の強度の決定方法の一例について、以下に説明する。勿論、本発明は、以下の決定方法に限定されない。また、刺激の種類は、特に限定されない。

【0061】
上記刺激は、採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に刺激を加えてから所定の時間(例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、7日間、10日間など)が経過してから当該水晶体の断面を観察した場合に、断面の一部分のみ(換言すれば、断面の全体では無く、一部分のみ)が混濁する強度の刺激であることが好ましい。

【0062】
水晶体の断面の全面積を「A」とし、当該断面において混濁している箇所の面積を「a」とした場合、「a/A」の値は、特に限定されないが、「0<a/A<1.0」、より好ましくは「0<a/A<0.9」、より好ましくは「0<a/A<0.8」、より好ましくは「0<a/A<0.7」、より好ましくは「0<a/A<0.6」、より好ましくは「0<a/A<0.5」、より好ましくは「0<a/A<0.4」、より好ましくは「0<a/A<0.3」、より好ましくは「0<a/A<0.2」、最も好ましくは「0<a/A<0.1」である。なお、上述した「a/A」の値の下限値は、「0」に限定されず、例えば、0.01、0.03、0.05、0.07、または、0.09であってもよい。

【0063】
水晶体の断面の観察は、市販の顕微鏡を用いて行うことができる。このとき、断面の写真をとり、市販の画像解析ソフトを用いて解析することにより、混濁が生じている領域を特定することができる。例えば、水晶体の断面の写真をとり、当該断面を複数の領域に細分化し、各領域における白色度を複数の段階(例えば、3段階、5段階、7段階、または、10段階など)に評価する。そして、白色度の高い段階(例えば、最も白色度が高い段階、最も白色度が高い段階および2番目に白色度が高い段階、など)に評価された領域を、混濁が生じている領域として特定することができる。

【0064】
上記損傷工程は、以下の(i)または(ii)を包含することが可能である:
(i)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、紫外線、または、放射線(例えば、α線、β線、γ線、または、X線)を照射すること、または、
(ii)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、DNAの損傷を引き起こす物質を接触させること。

【0065】
換言すれば、上記損傷工程では、上記の(i)または(ii)によって、上述した所定の強度の刺激を水晶体に加え、これによって、DNAに損傷を与えてもよい。

【0066】
上記水晶体に対して照射される紫外線、または、放射線の線量は、特に限定されない。例えば、様々な生物種(例えば、酵母、および、ショウジョウバエ)において突然変異体を作製する時に用いる線量であり得る。

【0067】
上記水晶体に対して接触させるDNAの損傷を引き起こす物質の濃度は、特に限定されない。例えば、DNAの損傷を引き起こす物質の濃度を、1ng/mL~100mg/mL、1ng/mL~10mg/mL、1ng/mL~1mg/mL、1ng/mL~500μg/mL、または、1ng/mL~100μg/mLに調整した水溶液を準備し、当該水溶液と、水晶体とを接触させてもよい。また、DNAの損傷を引き起こす物質の濃度を、1nM~1M、1nM~100mM、1nM~50mM、1nM~10mM、1nM~5mM、または、1nM~1mMに調整した水溶液を準備し、当該水溶液と水晶体とを接触させてもよい。

【0068】
DNAの損傷を引き起こす物質としては、〔1.白内障誘導剤〕の欄で既に説明した具体的な物質を用いることができる。

【0069】
本実施の形態の白内障の誘導方法は、損傷工程の後で、DNAに損傷を与えられた水晶体を培養する培養工程を有していてもよい。当該構成によれば、白内障を誘導するための時間を確保することができる。

【0070】
培養工程の時間は、特に限定されず、水晶体に加える刺激の強度に応じて、適宜、設定すればよい。培養工程の時間は、例えば、1日間~10日間、1日間~7日間、1日間~4日間、1日間~4日間、1日間~3日間、または、1日間~2日間であってもよい。重度の症状の白内障ではなく、中度~軽度の症状の白内障を誘導するという観点からは、1日間~4日間が好ましく、3日間~4日間が更に好ましく、4日間が最も好ましい。

【0071】
培養工程では、生体内に保持されている水晶体を生体内に保持された状態で維持してもよいし、生体から採取した水晶体を培地中で培養してもよい。当該培地としては、特に限定されないが、例えば、M199培地(SIGMA社製)を用いることができる。

【0072】
〔3.白内障のモデル生物〕
本実施の形態の白内障のモデル生物は、上述した〔2.白内障の誘導方法〕に記載の方法によって得られるモデル生物である。例えば、当該モデル生物を用いれば、後述する〔4.白内障の予防剤または治療剤のスクリーニング方法〕を行うことができる。また、当該モデル生物を用いれば、白内障の発症メカニズムを解明することができる。

【0073】
上記モデル生物は、生体そのものであってもよいし、生体から採取された組織(例えば、水晶体)であってもよい。上記生体としては、ヒト、および、非ヒト生物(例えば、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットなどの、ヒト以外の哺乳類)を挙げることができる。

【0074】
より具体的に、本実施の形態の白内障のモデル生物は、採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程によって得られるものであり得る。

【0075】
本実施の形態の白内障のモデル生物では、上記白内障は、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、または、糖尿病白内障であり得る。

【0076】
本実施の形態の白内障のモデル生物では、上記損傷工程は、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体に所定の強度の刺激を加えることによって、DNAに損傷を与える工程であり、上記刺激は、当該刺激を加えた後の当該水晶体の断面の一部分のみが混濁する程度の強度の刺激であり得る。

【0077】
本実施の形態の白内障のモデル生物では、上記損傷工程は、以下の(i)および/または(ii)を包含し得る:(i)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、紫外線、または、放射線を照射すること、(ii)上記採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体に対して、DNAの損傷を引き起こす物質を接触させること。

【0078】
本実施の形態の白内障のモデル生物では、水晶体のDNAの様々な箇所に、様々な種類の損傷が与えられていると考えられる。出願時において、これらを特定することは、困難を極め、過大な経済的支出や時間を要する。

【0079】
それ故に、本願には、出願時において、本実施の形態の白内障のモデル生物を構造または特性などにより直接特定することが不可能である、または、実際的でない事情が存在する。

【0080】
〔4.白内障の予防剤または治療剤のスクリーニング方法〕
本実施の形態の白内障の予防剤のスクリーニング方法は、採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、当該接触工程の後で、上記採取された水晶体のDNA、または、上記非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、を有している。

【0081】
一方、本実施の形態の白内障の治療剤のスクリーニング方法は、採取された水晶体のDNA、または、非ヒト生物の水晶体のDNAに損傷を与える損傷工程と、当該損傷工程の後で、上記採取された水晶体、または、上記非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる接触工程と、を有している。

【0082】
上記白内障としては、特に限定されないが、例えば、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、ステロイド白内障、および、糖尿病白内障を挙げることができる。

【0083】
損傷工程については既に説明したので、その説明を省略する。以下では、接触工程について説明する。

【0084】
上記接触工程では、採取された水晶体、または、非ヒト生物の水晶体と、被検物質と、を接触させる。

【0085】
上記被検物質は、白内障の予防剤または治療剤に含まれる有効成分の候補となる物質であって、その具体的な構成は、限定されない。被検物質は、低分子化合物、または、高分子化合物であってもよい。また、被検物質は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、糖、または、これらの複合体であってもよい。

【0086】
水晶体と被検物質との接触は、培地中で培養されている水晶体と被検物質とを接触させることによって行うことも可能であるし、生体内に保持されている水晶体と被検物質とを接触させることによって行うことも可能である。上記培地としては、特に限定されず、例えば、M199培地(SIGMA社製)を用いることができる。

【0087】
本実施の形態の白内障の予防剤のスクリーニング方法は、損傷工程の後(例えば、損傷工程の1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、7日後、または、10日後)で、水晶体の断面において混濁している領域を検出するための検出工程を有していてもよい。また、本実施の形態の白内障の治療剤のスクリーニング方法は、接触工程の後(例えば、接触工程の1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、7日後、または、10日後)で、同様に、水晶体の断面において混濁している領域を検出するための検出工程を有していてもよい。

【0088】
上記検出工程において、被検物質と接触した水晶体の断面において混濁している領域の面積が、被検物質と接触していない水晶体の断面において混濁している領域の面積よりも小さくなっていれば、当該被検物質を、白内障の予防剤または治療剤の有効成分として用いることができる。

【0089】
より具体的に、上記検出工程において、被検物質と接触していない水晶体の断面において混濁している領域の面積を100%とした場合、被検物質と接触した水晶体の断面において混濁している領域の面積が、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下であれば、当該被検物質を、白内障の予防剤または治療剤の有効成分として用いることができる。

【0090】
なお、混濁している領域は、市販の顕微鏡を用いて特定することができる。例えば、水晶体の断面の写真をとり、市販の画像解析ソフトを用いて解析することにより、混濁している領域を特定することができる。より具体的に、水晶体の断面の写真をとり、当該断面を複数の領域に細分化し、各領域における白色度を複数の段階(例えば、3段階、5段階、7段階、または、10段階など)に評価する。そして、白色度の高い段階(例えば、最も白色度が高い段階、最も白色度が高い段階および2番目に白色度が高い段階、など)に評価された領域を、混濁が生じている領域として特定することができる。勿論、混濁している領域の特定は、当該方法以外の周知の方法によっても行うことができる。
【実施例】
【0091】
<試験1>
6週齢のSDラット(三協ラボサービス社製)の左右の眼球から、水晶体を摘出した。右眼から摘出した水晶体は、M199培地(SIGMA社製)を用いて培養した。一方、左眼から摘出した水晶体は、(i)M199培地に、4mM、2mM、若しくは、1mMのMMS(methyl methanesulfonate)を添加した培地、または、(ii)M199培地に、800μg/mL、400μg/mL、若しくは、200μg/mLのブレオマイシンを添加した培地、を用いて培養した。
【実施例】
【0092】
各水晶体の培養にはインキュベーターを使用し、当該インキュベーター内の温度を37℃に保った。培養開始から4日後に、培地から各水晶体を取り出し、SZX12(Olympas社製)を用いて顕微鏡観察を行った。
【実施例】
【0093】
図1に、MMSの試験結果を示し、図2に、ブレオマイシン(BM:bleomycin)の試験結果を示す。図1および図2から明らかなように、MMS、および、ブレオマイシンは、何れも、濃度依存的に、水晶体に混濁(具体的には、白濁)を発生させた。このことは、MMS、および、ブレオマイシンが、何れも、白内障を誘導する能力を有していることを示している。
【実施例】
【0094】
また、本実施例は糖を用いずに白内障を誘導していることから、誘導された白内障は、糖尿病白内障のみならず、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、または、ステロイド白内障のモデルとして用いることが可能な白内障であると考えられる。
【実施例】
【0095】
また、水晶体の断面の全面積を「A」とし、当該断面において混濁している箇所の面積を「a」とした場合、本実施例における「a/A」の値は、何れのデータも「0<a/A<1.0」を満たしていた。
【実施例】
【0096】
また、MMSは、DNAをアルキル化することによって、DNAに損傷を引き起こす物質であり、一方、ブレオマイシンは、フリーラジカルによってDNAを切断することによって、DNAに損傷を引き起こす物質である。つまり、MMSと、ブレオマイシンとでは、DNAに引き起こされる損傷の種類が異なっている。そして、損傷の種類が異なっていても白内障を誘導化できるということは、本願発明では、DNAに損傷を引き起こす方法、および、DNAに損傷を引き起こす薬剤の種類が限定されないことを示している。
【実施例】
【0097】
<試験2>
6週齢のSDラット(三協ラボサービス社製)の左右の眼球から、水晶体を摘出した。右眼から摘出した水晶体は、M199培地(SIGMA社製)を用いて培養した。一方、左眼から摘出した水晶体は、M199培地に、400mM、40mM、4mM、1mM、0.5mM、または、0.1mMのMMS(methyl methanesulfonate)を添加した培地、を用いて培養した。
【実施例】
【0098】
各水晶体の培養にはインキュベーターを使用し、当該インキュベーター内の温度を37℃に保った。培養開始から1日後、2日後、または、4日後に、培地から各水晶体を取り出し、SZX12(Olympas社製)を用いて顕微鏡観察を行った。
【実施例】
【0099】
図3および図4に、MMSの試験結果を示す。図3および図4から明らかなように、MMSは、濃度依存的に、水晶体に混濁(具体的には、白濁)を発生させた。このことは、MMSが、白内障を誘導する能力を有していることを示している。
【実施例】
【0100】
また、本実施例は糖を用いずに白内障を誘導していることから、誘導された白内障は、糖尿病白内障のみならず、加齢白内障、先天白内障、外傷性白内障、アトピー白内障、放射線白内障、または、ステロイド白内障のモデルとして用いることが可能な白内障であると考えられる。
【実施例】
【0101】
また、水晶体の断面の全面積を「A」とし、当該断面において混濁している箇所の面積を「a」とした場合、本実施例における「a/A」の値は、MMSの濃度が低濃度の場合には、「0<a/A<1.0」を満たしていた。当該試験結果から、DNAの損傷を引き起こす物質の濃度は、40mM未満が好ましく、0.1mM以上40mM未満がより好ましく、0.5mM以上4mM以下がより好ましく、0.5mM以上1mM以下が最も好ましい、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、白内障の発症メカニズムの解明を目的とする分野、および、白内障の治療方法の開発を目的とする分野などに、広く利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3