TOP > 国内特許検索 > 循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法 > 明細書

明細書 :循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-062990 (P2019-062990A)
公開日 平成31年4月25日(2019.4.25)
発明の名称または考案の名称 循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法
国際特許分類 A61B   5/02        (2006.01)
A61B   5/0215      (2006.01)
FI A61B 5/02 A
A61B 5/02 D
A61B 5/02 610A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-188611 (P2017-188611)
出願日 平成29年9月28日(2017.9.28)
発明者または考案者 【氏名】重見 研司
【氏名】松岡 達
【氏名】次田 佳代
【氏名】松木 悠佳
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100180758、【弁理士】、【氏名又は名称】荒木 利之
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
Fターム 4C017AA02
4C017AA06
4C017AA07
4C017AA16
4C017AA19
4C017AB10
4C017AC01
4C017BB12
4C017BC01
4C017BC11
4C017BC14
4C017BC17
4C017BC20
4C017BC23
4C017BC28
4C017CC03
4C017EE15
4C017FF05
要約 【課題】測定された血管内圧の時間変化の波形から一心拍毎に前負荷の指標となる値を算出する循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法を提供する。
【解決手段】循環系指標算出装置1は、患者4の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から患者4の循環系の指標を算出する循環系指標算出手段102と、算出された循環系の指標の時間変化を表示処理する表示処理手段103とを有する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
コンピュータを、
患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段として機能させるための循環系指標算出プログラム。
【請求項2】
前記算出手段は、前記血管内圧として動脈圧の時間変化に対する回帰曲線を求め、循環系としての血管の流路抵抗と血管のコンプライアンスに対する一心拍の圧力応答を表す減衰関数を前記回帰曲線とする請求項1に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項3】
前記算出手段は、複数心拍の前記収束値の平均から前記循環系の指標を算出する請求項1又は2に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項4】
前記算出手段は、前記循環系の指標として平均循環充満圧を算出する請求項1~3のいずれか1項に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項5】
前記算出手段は、前記減衰関数の前記収束値を算出するとともに、さらに前記減衰関数の時定数を算出する請求項2に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項6】
前記コンピュータを、
前記算出手段が算出した前記循環系の指標の時間変化を表示処理する表示処理手段としてさらに機能させる請求項1~5のいずれか1項に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項7】
前記表示処理手段は、前記循環系の指標の時間変化と、前記患者の生体情報の時間変化とを同期して表示する請求項6に記載の循環系指標算出プログラム。
【請求項8】
患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段を有する循環系指標算出装置。
【請求項9】
患者の血管内圧を測定する測定器と、
前記測定器によって測定された前記患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段を有する循環系指標算出装置と、
前記循環系指標算出装置が算出した前記循環系の指標の時間変化を表示処理する表示装置とを備える循環系指標算出システム。
【請求項10】
患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の範囲を定めるステップと、
心周期の拡張期の範囲の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求めるステップと、
当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出するステップとを有する循環系指標算出方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学の分野において、心臓、動脈、静脈及び末梢血管を含む循環系の状態を把握するために静脈圧、動脈圧、心拍出量、血液量等の循環系の指標となる値を知ることは、術中の患者の状態を管理するために非常に重要である。
【0003】
従来の技術として、循環系の状態を把握するための指標の一つとして心拍出量を測定する循環系指標算出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示された循環系指標算出装置は、熱希釈法を用いて心拍出量を求める際に用いられるものであって、患者の血液温度情報と心電図とを取得し、患者の心臓内に冷水を注入したときの血液温度情報に基づいて熱希釈曲線と心拍出量を算出し、患者の血液温度情報と同時に測定された心電図と熱希釈曲線とを同一画面内に同期させて表示するとともに、心電図のうち期外収縮を含む第一心電図と期外収縮を含まない第二心電図とを異なる表示態様で画面に表示する。医師は、表示された画面を確認し、測定中における期外収縮の有無を判断して、測定結果における期外収縮の影響を考察する。
【0005】
上記した特許文献1の循環系指標算出装置は、測定中における期外収縮の有無を判断するための情報を表示するため、当該期外収縮の有無を判断するための情報がない場合に比べて再計測の回数を抑制し、患者の負担を抑制するものの、熱希釈法は患者の心臓内に冷水を注入する必要があり、比較的大きな侵襲を伴うものである。
【0006】
そこで、熱希釈法に比べて侵襲の程度を抑制したものとして、測定された動脈圧波形から心拍出量を算出する循環系指標算出装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
非特許文献1に開示された循環系指標算出装置は、血管コンプライアンスを考慮して測定された動脈圧波形を動脈血管量波形へ変換し、変換した動脈血液量波形についてデータを評価するために自己相関処理を行って補正前の心拍出量を算出し、ノモグラムを用いて校正係数を決定して補正前の心拍出量から補正後の心拍出量を算出して表示部に表示する。動脈圧波形から動脈血管量波形への変換は、患者の身長、体重、年齢等の固有情報により定まる係数を用いて予め定められた数式により行われる。また、自己相関処理では、心周期ごとの波形を求めることで心拍数が算出されるとともに、補正前の一回拍出量が自己相関結果から算出され、心拍数と一回拍出量との積から補正前の心拍出量が求められる。なお、ノモグラムの算出方法は非公開であるが、患者の身長、体重、年齢等の固有情報に関するファクターを変数として用いて算出されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2016‐187538号公報
【0009】

【非特許文献1】佐藤慎他、“機器紹介 低侵襲連続的心拍出量モニタシステム「LiDCOrapid」”、循環制御、日本、2014年、第35巻、第2号、166‐176頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した非特許文献1の循環系指標算出装置は、測定された動脈圧波形から心拍出量を算出するものであるが、心拍出量は前負荷及び後負荷の影響を受けるものであり、いずれか一方のみに起因する指標を測定するものではない。
【0011】
従って、本発明の目的は、測定された血管内圧の時間変化の波形から一心拍毎に前負荷の指標となる値を算出する循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の循環系指標算出プログラム、循環系指標算出装置、循環系指標算出システム及び循環系指標算出方法を提供する。
【0013】
[1]コンピュータを、
患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段として機能させるための循環系指標算出プログラム。
[2]前記算出手段は、前記血管内圧として動脈圧の時間変化に対する回帰曲線を求め、循環系としての血管の流路抵抗と血管のコンプライアンスに対する一心拍の圧力応答を表す減衰関数を前記回帰曲線とする前記[1]に記載の循環系指標算出プログラム。
[3]前記算出手段は、複数心拍の前記収束値の平均から前記循環系の指標を算出する前記[1]又は[2]に記載の循環系指標算出プログラム。
[4]前記算出手段は、前記循環系の指標として平均循環充満圧を算出する前記[1]~[3]のいずれかに記載の循環系指標算出プログラム。
[5]前記算出手段は、前記減衰関数の前記収束値を算出するとともに、さらに前記減衰関数の時定数を算出する前記[2]に記載の循環系指標算出プログラム
[6]前記コンピュータを、
前記算出手段が算出した前記循環系の指標の時間変化を表示処理する表示処理手段としてさらに機能させる前記[1]~[5]のいずれかに記載の循環系指標算出プログラム。
[7]前記表示処理手段は、前記循環系の指標の時間変化と、前記患者の生体情報の時間変化とを同期して表示する前記[6]に記載の循環系指標算出プログラム。
[8]患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段を有する循環系指標算出装置。
[9]患者の血管内圧を測定する測定器と、
前記測定器によって測定された前記患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出する算出手段を有する循環系指標算出装置と、
前記循環系指標算出装置が算出した前記循環系の指標の時間変化を表示処理する表示装置とを備える循環系指標算出システム。
[10]患者の血管内圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の範囲を定めるステップと、
心周期の拡張期の範囲の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求めるステップと、
当該回帰曲線の収束値から当該心拍における前記患者の循環系の指標を算出するステップとを有する循環系指標算出方法。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、8~10に係る発明によれば、測定された血管内圧の時間変化の波形から一心拍毎に前負荷の指標となる値を算出することができる。
請求項2に係る発明によれば、血管内圧のうち動脈圧の時間変化に対する回帰曲線を求め、循環系としての血管の流路抵抗と血管のコンプライアンスに対する一心拍の圧力応答を表す減衰関数を回帰曲線として用いることができる。
請求項3に係る発明によれば、複数心拍の収束値の平均から循環系の指標を算出することができる。
請求項4に係る発明によれば、循環系の指標として平均循環充満圧を算出することができる。
請求項5に係る発明によれば、減衰関数の収束値を算出するとともに、さらに減衰関数の時定数を算出することができる。
請求項6に係る発明によれば、算出手段が算出した循環系の指標の時間変化を表示処理することができる。
請求項7に係る発明によれば、循環系の指標の時間変化と、患者の生体情報の時間変化とを同期して表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態に係る循環系指標算出システムの構成の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、実施の形態に係る循環系指標算出装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、動脈圧情報の構成の一例を示す概略図である。
【図4】図4は、生体情報の構成の一例を示す概略図である。
【図5】図5は、循環系指標情報の構成の一例を示す概略図である。
【図6】図6は、循環系指標算出手段の動作を説明するための動脈圧波形及びその微分値を示すグラフ図である。
【図7】図7は、循環系指標算出手段の動作を説明するための一心拍の動脈圧波形を示すグラフ図である。
【図8】図8は、循環系指標算出手段のフィッティング動作を説明するためのグラフ図である。
【図9】図9は、表示処理手段の表示動作の一例を説明するための概略図である。
【図10】図10は、循環系指標算出システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【図11】図11は、心拍出量及び静脈還流量と平均右心房圧との関係を示すグラフ図である。
【図12】図12は、動脈圧の減衰を表すモデルとしての回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態]
(循環系指標算出システムの構成)
図1は、実施の形態に係る循環系指標算出システムの構成の一例を示す概略図である。

【0017】
この循環系指標算出システム6は、患者4の手術を行う場合等に、測定された患者4の血管内圧から循環系の指標となる値を算出し、医師5に患者4の状態を知らせるために、循環系の指標となる値を表示するためのもの、又は循環系の指標となる値を生体情報と同期して表示するためのものである。ここで、循環系指標算出システム6は、血管内圧の一例として動脈圧を測定し、循環系の指標となる値として平均循環充満圧を算出するものであり、平均循環充満圧は一心拍毎に算出するものとする。

【0018】
循環系指標算出システム6は、表示部12と操作部13とを備えた専用に設計された機器又はPC(Personal Computer)やタブレット端末等の情報処理装置であって情報を処理する循環系指標算出装置1と、例えばAラインにより患者4の動脈圧を測定する動脈圧センサ2と、患者4の心電図や血圧、脈拍、脳波、呼吸等の生体情報を測定する生体センサ3と、動脈圧センサ2及び生体センサ3で測定された情報並びに循環系指標算出装置1で算出された情報を表示する生体情報モニタ3Aとを有する。循環系指標算出装置1、動脈圧センサ2、生体センサ3、生体情報モニタ3Aは、医師5によって操作される。

【0019】
循環系指標算出装置1は、動脈圧センサ2及び生体センサ3から得られる情報に基づいて、患者4の状態を示す指標として平均循環充満圧を算出して生体情報とともに経時的に表示部12及び/又は生体情報モニタ3Aに表示するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やHDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の電子部品を備える。

【0020】
なお、循環系指標算出装置1は、表示部12及び操作部13を有しないサーバ装置として構成してもよく、その場合は端末装置の要求に応じて動作し、サーバ装置として構成する場合は遠隔地に配置されるものであってもよい。また、循環系指標算出装置1は、患者4の手術を行う手術室に配置されるものであってもよいし、複数の手術室を監視する部屋に配置されて複数の生体情報モニタ3Aに接続されるものであってもよい。また、循環系指標算出装置1は、算出した指標に基づいて、例えば、患者4に輸液、輸血するように図示しない注入装置を制御するものであってもよい。

【0021】
動脈圧センサ2は、患者4の動脈に挿入される針と、針と一端が接続された動脈ラインと、動脈ラインの他端に設けられて動脈圧に比例した電圧を出力する圧トランスデューサとを有する。圧トランスデューサの出力信号は、生体情報モニタ3Aを介して循環系指標算出装置1に入力される。

【0022】
各機器は、専用線により相互に通信可能に接続されるが、有線又は無線の通信ネットワークにより接続されてもよいし、イントラネットやLAN(Local Area Network)等の通信網を用いて接続されるものであってもよい。

【0023】
循環系指標算出装置1は、上記構成において、生体情報モニタ3Aを介して動脈圧センサ2及び生体センサ3から出力される情報を受信し、受信した動脈圧の情報に基づいて平均循環充満圧を算出するとともに、生体センサ3から得られた生体の情報を適宜組み合わせて表示部12に表示する。医師5は、表示部12又は生体情報モニタ3Aに表示された情報を確認し、患者4の状態を判断して輸液、輸血等の処置を行う。

【0024】
なお、循環系指標算出装置1、動脈圧センサ2、生体センサ3及び生体情報モニタ3Aの機能の全部又は一部を一体に構成してもよいし、各装置の機能の一部又は全部を他の装置に含めてもよい。特に、循環系指標算出装置1の機能を生体情報モニタ3Aに内蔵するように構成してもよい。また、循環系指標算出装置1、動脈圧センサ2及び生体センサ3の機能の全部又は一部を遠隔地に配置された機器で動作させるように構成してもよい。また、循環系指標算出装置1に対して複数の生体情報モニタ3Aを対応させ、循環系指標算出装置1に同時に複数の患者の循環系の指標を算出させるものであってもよい。また、循環系指標算出装置1は、動脈圧センサ2及び生体センサ3から直接、動脈圧情報及び生体情報を受信してもよいし、図1に図示しているように生体情報モニタ3Aを介して受信してもよい。

【0025】
(循環系指標算出装置の構成)
図2は、実施の形態に係る循環系指標算出装置1の構成例を示すブロック図である。

【0026】
循環系指標算出装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、HDDやフラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、画像及び文字により情報を表示する表示部12と、操作内容に応じて制御部10に対して操作信号を出力する操作部13と、外部装置と通信する通信部14とを備える。

【0027】
制御部10は、後述する循環系指標算出プログラム110を実行することで、動脈圧情報取得手段100、生体情報取得手段101、循環系指標算出手段102、表示処理手段103及び情報出力手段104等として機能する。

【0028】
動脈圧情報取得手段100は、通信部14及び生体情報モニタ3Aを介して動脈圧センサ2から動脈圧に比例した信号を取得して動脈圧の数値に変換し、時刻情報とともに動脈圧情報111として記憶部11に記録する。

【0029】
生体情報取得手段101は、通信部14及び生体情報モニタ3Aを介して生体センサ3から心電図や血圧計、パルスオキシメータ等の情報を取得し、時刻情報とともに生体情報112として記憶部11に記録する。

【0030】
循環系指標算出手段102は、動脈圧情報111から循環系の指標となる値として平均循環充満圧を算出し、時刻情報とともに循環系指標情報113として記憶部11に記録する。

【0031】
循環系指標算出手段102は、動脈圧情報111を、時刻を横軸に動脈圧を縦軸に描いた波形に対し、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から平均循環充満圧を求める。回帰曲線は、毛細血管を含む動脈と静脈間の全血管の流路抵抗と、血管自体の拡張収縮に伴う管内容量の変化とを考慮したモデルとし、指数関数的に減衰するものを採用し、当該回帰曲線を定義するパラメータから収束値と時定数が算出される。詳しくは後述する。

【0032】
表示処理手段103は、動脈圧情報111、生体情報112及び循環系指標情報113の全て又は適宜選択した一部を表示部12に表示処理する。表示方法は、リアルタイム表示、履歴表示、複数拍動の平均値表示、予測値の表示を適宜選択することができ、複数の情報を表示する場合には各情報を時刻で同期して表示するものとする。表示方法は数値によるもの、グラフによるもの、色によるもの等、その方法は限定されない。

【0033】
情報出力手段104は、動脈圧情報111及び循環系指標情報113の全て又は適宜選択した一部を、生体情報モニタ3Aに表示された生体情報112とともに表示するように生体情報モニタ3Aに対して出力するものである。特に、情報出力手段104は、生体情報モニタ3Aにおいて動脈圧情報111、生体情報112及び循環系指標情報113が同期して表示されるように情報を出力することが好ましい。

【0034】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100‐104として動作させる循環系指標算出プログラム110、動脈圧情報111、生体情報112及び循環系指標情報113等を記憶する。

【0035】
図3は、動脈圧情報111の構成の一例を示す概略図である。

【0036】
動脈圧情報111は、動脈圧情報取得手段100が動脈圧センサ2から取得した情報であって、値を取得した時刻tと、動脈圧pとを有する。

【0037】
図4は、生体情報112の構成の一例を示す概略図である。

【0038】
生体情報112は、生体情報取得手段101が生体センサ3から取得した情報であって、値を取得した時刻tと、心電図V、心拍数H、血圧P、体温T…等の生体情報とを有する。なお、図に示した生体情報は例示であってこれらに限定されるものではない。

【0039】
図5は、循環系指標情報113の構成の一例を示す概略図である。

【0040】
循環系指標情報113は、循環系指標算出手段102が動脈圧情報111から循環系の指標となる値として算出した情報であって、値を算出した時刻tと、循環系の指標である平均循環充満圧Psfとを有する。

【0041】
(循環系指標算出システムの動作)
次に、本実施の形態の作用を上記に説明した構成を前提とし、図1~図10、図12を参照しつつ、(1)基本動作、(2)平均循環充満圧算出動作及び(3)表示処理動作に分けて説明する。

【0042】
(1)基本動作
図10は、循環系指標算出システム6の動作を説明するためのフローチャートである。

【0043】
まず、医師5は、患者4が手術室に入室した後、患者4に対し動脈圧センサ2の一部としての針を動脈に刺入し、生体センサ3として心電図、非観血的血圧計、パルスオキシメータ、脳波計等を装着する。なお、動脈圧センサ2の一部としての針は動脈ラインを介して圧トランスデューサに接続されて動脈圧が計測される。

【0044】
次に、必要に応じて、麻酔を行うため患者4の静脈に静脈留置針の刺入を行い、麻酔用の鎮静薬ポンプ及び鎮痛薬ポンプをそれぞれ接続する。また、人工呼吸器を患者4に取り付ける。

【0045】
その後、循環系指標算出装置1の動脈圧情報取得手段100は、通信部14及び生体情報モニタ3Aを介して動脈圧センサ2から動脈圧に比例した信号を取得して(S1)動脈圧の数値に変換し、図3に示したように、時刻情報とともに動脈圧情報111として記憶部11に記録する。

【0046】
また、循環系指標算出装置1の生体情報取得手段101は、通信部14及び生体情報モニタ3Aを介して生体センサ3から心電図や血圧計、パルスオキシメータ等の情報を取得し(S2)、図4に示したように、時刻情報とともに生体情報112として記憶部11に記録する。

【0047】
次に、循環系指標算出手段102は、動脈圧情報111から循環系の指標となる値として平均循環充満圧を算出する。算出方法の具体的手順を以下に説明する(S3~S7)。

【0048】
(2)平均循環充満圧算出動作
図6は、循環系指標算出手段102の動作を説明するための動脈圧波形及びその微分値を示すグラフ図である。

【0049】
まず、循環系指標算出手段102は、図6上段に示すように、横軸を時刻、縦軸を動脈圧として動脈圧情報111を描いた波形とするとともに、図6下段に示すように、当該動脈圧波形を時間で微分した波形とする(S3)。

【0050】
動脈圧波形のうち上行脚を時間で微分したものから正のピークが得られ(t=tp1、tp2…)、循環系指標算出手段102は、当該ピークの立ち上がりの始まり(t=tB0、tB1…)を一心拍の始まりとする。つまり、循環系指標算出手段102は、範囲(tB0~tB1)、範囲(tB1~tB2)…をそれぞれ一心拍の範囲として特定する(S4)。

【0051】
次に、循環系指標算出手段102は、一心拍の範囲内において拡張期の始点を特定する(S5)。特定方法の具体的手順を以下に説明する。

【0052】
図7は、循環系指標算出手段102の動作を説明するための一心拍の動脈圧波形を示すグラフ図である。

【0053】
一心拍の動脈圧波形は、一般的に図7に示すような形状を有しており、重複切痕であるノッチの図中左の谷Pを境として収縮期(tBi‐1~tai)と拡張期(tai~tBi)に分けられる。循環系指標算出手段102は、ノッチの左の谷Pを特定するために衝撃波であるピークPと重拍波であるピークP付近の双方に接する接線lを引き、当該接線lと距離dmaxが最大となる点を計算によって求めてこの点をノッチの左の谷P(t=tai)とする。

【0054】
次に、循環系指標算出手段102は、時刻(t=tai)から予め定めた期間tnfだけ(例えば、tnf=100msec)後の時刻(t=tAi)を、回帰曲線を求める始点とする。つまり、循環系指標算出手段102は、範囲(tAi~tBi)の下行脚の波形に対する回帰曲線を求める。なお、上述した下行脚の範囲を求める方法は一例であり、始点及び終点を定められれば方法は限定されるものではない。なお、tnfは定数であってもよいし、心拍数が高い場合には短く、心拍数が低い場合には長くして、脈拍数に合わせて変更するようにしてもよい。

【0055】
循環系指標算出手段102は、拡張期の減衰波形に、一例として、以下の数式を用いてフィッティングする(S6)ことで、範囲(tAi~tBi)の波形に対する回帰曲線を求める。
【数1】
JP2019062990A_000003t.gif

【0056】
ここで、Pesは、t=tAiにおける動脈圧であり、Pは収束値を示している。回帰曲線を求める手法の具体例として、最小二乗法が用いられ、最小二乗法アルゴリズムの一例としてレーベンバーグ・マーカート法を用いてフィッティングを行うことができる。

【0057】
上記した数式(数1)は、血管の流路抵抗、血管のコンプライアンスを考慮し、血液循環を一時的に停止した場合に動脈圧が減衰して、血管内に均一に血液が分布したときに血管内圧がPに収束するモデルから導出したものである。つまり、Pは血液循環を一時的に停止した場合の血管内圧の定常値である平均循環充満圧Psfに対応する値である。

【0058】
上記した数式(数1)は、一例として、以下の電気回路を用いたモデルから類推導出することができる。

【0059】
図12は、動脈圧の減衰を表すモデルとしての回路図である。

【0060】
心臓からの拍出による圧力を電圧Vに、流量を電流Iに、血管のコンプライアンスをキャパシタの静電容量Cに、血管の流路抵抗を抵抗の抵抗値Rに、平均循環充満圧を定電圧Vの電源に置き換え、図12に示すように、キャパシタと抵抗を並列に接続し、これらと電池を直列に接続した回路を疑似モデルとして想定すると、当該減衰回路の電圧Vはパルス応答の後に指数関数的に減衰して、値はVに収束するものとなる。なお、当該関数が、循環系の圧力の特性を示すものとして妥当であることを示す根拠として、次に説明する論文で説明された結果との相関が挙げられる。

【0061】
つまり、上記した数式(数1)を一心拍毎にフィッティングすることにより得られる収束値Pが以下に示す文献の平均循環充満圧の値と良好に相関することを発明者らは確認した(Jacinta J. Maas, et al.、“Bedside Assessment of Total Systemic Vascular Compliance, Stressed Volume, and Cardiac Function Curves in Intensive Care Unit Patients”、Anesthesia & Analgesia、2012年、10月、Volume 115、Issue 4、p880‐887参照。)。当該文献によると、上腕を駆血して橈骨動脈圧と中心静脈圧とを測定すると、橈骨動脈圧が減衰するとともに中心静脈圧が上昇する。橈骨動脈圧の減衰の結果、そして中心静脈圧の上昇の結果、両者は同じ値に収束し、当該同値に収束した値が平均循環充満圧Psfである。当該平均循環充満圧Psfと一心拍毎にフィッティングにより得られる収束値Pは良好に相関する。

【0062】
なお、上記近似及び導出された数式は例示であって、血管の流路抵抗、血管のコンプライアンスを考慮したモデルから導出された数式であれば上記の数式(数1)に限られるものではなく、少なくとも収束値が求まればよく、適宜定数を乗じてもよいし、異なる数式を用いてもよい。

【0063】
図8は、循環系指標算出手段102のフィッティング動作を説明するためのグラフ図である。

【0064】
図8において、破線は連続する拍動の動脈圧波形を示しており、実線は範囲(tAi~tBi)に対して上記数式をフィッティングしたものである。実線は、血管内圧の定常値Pまで伸びており、定常値Pは血液循環を一時停止した場合の平均循環充満圧Psfに対応する。

【0065】
循環系指標算出手段102は、上記数式を破線の動脈圧波形にフィッティングすることでパラメータ(Pes,P,τ)を定め、Pから平均循環充満圧Psfを算出するとともに、時定数τを算出する(S7)。循環系指標算出手段102は、図5に示したように、算出した平均循環充満圧Psfを、対応する動脈圧波形の時刻とともに循環系指標情報113として記憶部11に格納する。なお、対応する時刻は、一心拍の動脈圧波形の始点、終点又は始点と終点の間の任意の時刻を選択してよい。

【0066】
次に、循環系指標算出手段102は、一心拍毎に得られた平均循環充満圧Psf及び時定数τを、当該心拍に対応する時刻の生体情報112と対応付ける(S8)。つまり、図4及び図5に示した、同時刻の生体情報112と循環系指標情報113とを対応付ける。

【0067】
(3)表示処理動作
次に、表示処理手段103又は情報出力手段104は、平均循環充満圧Psf及びこれに対応付けられた生体情報112を表示部12に表示する(S9)。

【0068】
図9は、表示処理手段103又は情報出力手段104の表示動作の一例を説明するための概略図である。

【0069】
表示画面103Aは、表示処理手段103によって表示部12に表示された表示内容又は情報出力手段104によって生体情報モニタ3Aに表示された表示内容であり、メニュー、患者情報、時刻情報を表示するヘッダ表示領域1030と、生体情報112と生体情報112を経時的にグラフ表示した生体情報表示領域1031と、循環系指標情報113と循環系指標情報113を経時的にグラフ表示した循環系指標情報表示領域1032とを有し、生体情報表示領域1031のグラフ表示と循環系指標情報表示領域1032のグラフ表示とは同期して表示される。

【0070】
医師5は、表示部12又は生体情報モニタ3Aに表示された上記表示画面103Aの表示内容を確認し、患者4の循環系の状態を判断して輸液、輸血等の処置を適宜行う。

【0071】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、患者4の動脈圧の時間変化のうち、心周期の拡張期の波形に対する回帰曲線を一心拍毎に求め、当該回帰曲線の収束値から平均循環充満圧Psfを算出したため、測定された血管内圧の時間変化の波形から一心拍毎に前負荷の指標となる値を算出することができる。また、平均循環充満圧Psfは、血管容量と血液量とから定まる指標であるため、術前の数値と術中又は術後の数値とを比較することで、患者の血管容量及び血液量、並びに患者の血管容量及び血液量の経過を監視することができる。

【0072】
また、従来の平均循環充満圧を測定する方法は駆血が必要で、かつ、値が求まるまで少なくとも数十秒を要するため大きな侵襲を伴うものであったが、本願発明は少なくとも駆血を必要としないため上記侵襲を低減することができる。また、従来の平均循環充満圧は、測定までに数十秒を要するものであるから複数心拍における平均値と考えられるが、本願発明は一心拍毎に求めることができる。また、本願発明により求められた複数心拍の平均循環充満圧の平均をとることで精度を向上することができる。

【0073】
また、従来は輸液の反応性を評価するために一回拍出量変動(SVV:Stroke Volume Variation)、脈圧変動(PPV:Pulse Pressure Variation)を測定していた。SVVは動脈圧ラインから得られる圧波形に基づいて心拍出量を算定し、その一回心拍出量の呼吸性変動を変化率で表すものである。PPVは、動脈圧ラインから得られる脈圧の呼吸性変動の変化率を算出するものである。これらの値はどのくらいの輸液を行ってよいか評価するためのものであり、PPV及びSVVのいずれも輸液により反応のある数値であるが、呼気時、吸気時により変動するものであり一心拍毎の数値をそれぞれ比較することができないため、患者の血管容量及び血液量、並びに患者の血管容量及び血液量の経過を監視するためには用いることができなかったが、本願で算出する平均循環充満圧Psfに対応するPは、一心拍毎に数値が求まるものであるため、術前の数値と術中又は術後の数値とを比較することで、患者の適正な血液量を管理し、患者の血管容量及び血液量の経過を監視することができる。

【0074】
また、以下に説明するように、平均循環充満圧Psfからさらに静脈還流抵抗の解析が可能となる。

【0075】
図11は、心拍出量及び静脈還流量と平均右心房圧との関係を示すグラフ図である。

【0076】
心拍出量曲線及び整脈還流量曲線は、個体内変動及び個体間変動はあるものの概ね図11に示すような形状となる。静脈還流曲線の横軸との交点が平均循環充満圧Psfであり、心拍出量曲線と整脈還流量曲線との交点が循環平衡点Pceであり、中心静脈圧Cvpをその圧力とするものである。中心静脈圧Cvpは、右心房内圧であり中心静脈ライン等から測定される。

【0077】
図11において、静脈還流量曲線の右下がりの傾きの逆数は静脈還流抵抗を示すため、PsfとPceの2点が定まれば静脈還流抵抗が求められる。従来、リアルタイムで平均循環充満圧Psfが測定できなかったため、臨床では静脈還流抵抗を求められなかったが、本発明によりPsfが算出可能となるため、臨床において静脈還流抵抗が算出可能となる。また、逐次、静脈還流抵抗を算出することで静脈還流抵抗の時間変化を測定することができる。

【0078】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。

【0079】
例えば、上記実施の形態では大動脈の動脈圧、つまり、体循環の血管内圧に対応する動脈圧を測定したが、肺循環の血管内圧に対応する動脈圧、つまり、肺動脈圧を測定してもよく、数値の絶対値は動脈圧に比べて小さいものの、肺動脈圧からも平均循環充満圧を求めることができる。また、全体循環の血管内圧として大動脈圧及び肺動脈圧を総合して測定してもよく、大動脈圧及び肺動脈圧から平均循環充満圧を求めてもよい。

【0080】
また、上記実施の形態では、動脈圧の下行脚に対して回帰曲線を求めたが、静脈圧の増加曲線に対して回帰曲線を求めて平均循環充満圧を求めてもよい。静脈圧の変動幅が小さいためノイズ対策等は必要となるものの、理論的には静脈圧からも平均循環充満圧が算出される。

【0081】
また、上記実施の形態では、動脈圧波形の微分値から一心拍の範囲を定義したが、心電図の波形等の生体情報をはじめとする他の情報から一心拍の範囲を定義してもよい。

【0082】
また、時定数τのリアルタイム表示、履歴表示、複数拍動の平均値表示、予測値の表示を表示部12及び/又は生体情報モニタ3Aにさらに表示するようにしてよいのはもちろん、時定数τから算出される他の生体情報のリアルタイム表示、履歴表示、複数拍動の平均値表示、予測値の表示を表示部12及び/又は生体情報モニタ3Aにさらに表示するようにしてもよい。

【0083】
また、表示部12、操作部13、通信部14は、循環系指標算出装置1の必須の構成でないことはもちろんであり、省略してもよいし、別装置としてもよい。同様に生体センサ3は、循環系指標算出システム6に必須の構成ではなく、省略してもよいし、別システムとして用意してもよい。

【0084】
上記実施の形態では制御部10の各手段100~104の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD‐ROM等の記録媒体に記憶して提供してもよいし、インターネットを介して配信することで提供することもできる。また、クラウド上で動作するプログラムであってもよい。また、上記実施の形態で説明した上記動作の順序の入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 :循環系指標算出装置
2 :動脈圧センサ
3 :生体センサ
3A :生体情報モニタ
4 :患者
5 :医師
6 :循環系指標算出システム
10 :制御部
11 :記憶部
12 :表示部
13 :操作部
14 :通信部
100 :動脈圧情報取得手段
101 :生体情報取得手段
102 :循環系指標算出手段
103 :表示処理手段
103A :表示画面
104 :情報出力手段
110 :循環系指標算出プログラム
111 :動脈圧情報
112 :生体情報
113 :循環系指標情報
1030 :ヘッダ表示領域
1031 :生体情報表示領域
1032 :循環系指標情報表示領域

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11