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明細書 :変異型マルチ銅オキシダーゼ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-118261 (P2019-118261A)
公開日 令和元年7月22日(2019.7.22)
発明の名称または考案の名称 変異型マルチ銅オキシダーゼ
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/04        (2006.01)
H01M   4/90        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/04 D
H01M 4/90 Y
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2017-252737 (P2017-252737)
出願日 平成29年12月28日(2017.12.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り (1)第69回日本生物工学会大会プログラムのウェブサイトのアドレス:https://www.sbj.or.jp/2017/program/program_3p-g027_g047.html、 ウェブサイトの掲載日:平成29年7月10日 (2)第69回日本生物工学会大会講演要旨集、第207頁、公益社団法人日本生物工学会 (3)第69回日本生物工学会大会、開催日:平成29年9月13日
発明者または考案者 【氏名】高村 映一郎
【氏名】坂元 博昭
【氏名】里村 武範
【氏名】末 信一朗
【氏名】櫻庭 春彦
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100141472、【弁理士】、【氏名又は名称】赤松 善弘
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
5H018
Fターム 4B050CC04
4B050DD02
4B050LL05
4B050LL10
5H018AA07
5H018AS03
要約 【課題】熱安定性及び保存安定性に優れ、高い酸化還元電位を得ることができる変異型McoP及びそれをコードする核酸、変異型McoPを含む電極材料、カソード電極並びに燃料電池を提供すること。
【解決手段】(A)配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列、又は(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含有し、マルチ銅オキシダーゼ活性を有する変異型マルチ銅オキシダーゼ。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
(A)配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列、または
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列
を含有し、マルチ銅オキシダーゼ活性を有することを特徴とする変異型マルチ銅オキシダーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼをコードする核酸。
【請求項3】
カソード電極に用いられる電極材料であって、請求項1に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有することを特徴とする電極材料。
【請求項4】
燃料電池に用いられるカソード電極であって、電極基材と請求項1に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼとを含み、前記電極基材の表面に前記変異型マルチ銅オキシダーゼを有することを特徴とするカソード電極。
【請求項5】
請求項4に記載のカソード電極を有する燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型マルチ銅オキシダーゼに関する。さらに詳しくは、本発明は、電極材料、カソード電極、燃料電池などに有用な変異型マルチ銅オキシダーゼ、核酸、電極材料およびカソード電極、ならびに電子機器の電源などに有用な燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応によって燃料から電子を取り出すので、発熱によるエネルギー損失を招く従来の熱機関発電装置と比べ、高い発電効率で燃料から電気を得ることができる。燃料電池のなかでも、電極の表面に酸化還元酵素を有する酵素燃料電池は、燃料として、例えば、グルコース、エタノールなどの非化石燃料を用いることができる。したがって、酵素燃料電池は、環境負荷を低減することができ、しかも高い発電効率で電気を得ることができることから、近年、注目されている。
【0003】
ところで、ピュロバクルム・アエロフィラム(Pyrobaculum aerophilum)由来のマルチ銅オキシダーゼは、高い熱安定性を有することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ピュロバクテリウム・アエロフィラム由来のマルチ銅オキシダーゼは、酸化還元電位が非常に低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】アンドレ・テー・フェルナンデス(Andre T.Fernandes)ら、「古細菌ピュロバクルム・アエロフィラム由来のマルチ銅酸化酵素は亜酸化窒素還元酵素活性を示す(The multicopper oxidase from the archaeon Pyrobaculum aerophilum shows nitrous oxide reductase activity)」、ザ・フェブス・ジャーナル(The FEBS Journal)、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・インク(John Wiley & Sons,Inc.)、2010年、277巻、3176-3189頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れた変異型マルチ銅オキシダーゼ、当該変異型マルチ銅オキシダーゼを工業的に生産することができる核酸、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れた電極材料およびカソード電極、ならびに高い電池電圧を有し、熱安定性および保存安定性に優れた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、
(1)(A)配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列、または
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列
を含有し、マルチ銅オキシダーゼ活性を有することを特徴とする変異型マルチ銅オキシダーゼ、
(2)前記(1)に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼをコードする核酸、
(3)カソード電極に用いられる電極材料であって、前記(1)に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有することを特徴とする電極材料、
(4)燃料電池に用いられるカソード電極であって、電極基材と前記(1)に記載の変異型マルチ銅オキシダーゼとを含み、前記電極基材の表面に前記変異型マルチ銅オキシダーゼを有することを特徴とするカソード電極、および
(5)前記(4)に記載のカソード電極を有する燃料電池
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れた変異型マルチ銅オキシダーゼ、当該変異型マルチ銅オキシダーゼを工業的に生産することができる核酸、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れた電極材料およびカソード電極、ならびに高い電池電圧を有し、熱安定性および保存安定性に優れた燃料電池を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の燃料電池の一実施態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.変異型マルチ銅オキシダーゼおよびそれをコードする核酸
本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、(A)配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列〔以下、「アミノ酸配列(A)」という〕、または
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列〔以下、「アミノ酸配列(B)」という〕
を含有し、マルチ銅オキシダーゼ活性を有することを特徴とする。

【0010】
本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、アミノ酸配列(A)またはアミノ酸配列(B)を含有しているので、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れる。したがって、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、燃料電池のカソード電極の電極材料などの用途に好適に使用することができる。

【0011】
本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、酸素分子を4電子還元し、2分子の水分子を生成する活性を有する。また、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、電子供与体から電子を受容する部位と、電子受容体に電子を供与する部位とを異なる位置に有しているので、電子供与体からの電子の受容と、電子受容体への電子の供与とを並行することができる。したがって、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼによれば、例えば、酸素分子の還元反応などを高い効率で触媒することができる。

【0012】
アミノ酸配列(A)は、配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列である。アミノ酸配列(A)を含有するポリペプチドは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドよりも高い酸化還元電位を有し、しかも当該ポリペプチドと同等以上の熱安定性および保存安定性を有する。

【0013】
配列番号:2に示されるアミノ酸配列は、野生型マルチ銅オキシダーゼのアミノ酸配列である。野生型マルチ銅オキシダーゼは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するものであれば、いかなる生物種由来の野生型マルチ銅オキシダーゼであってもよい。野生型マルチ銅オキシダーゼの生物種としては、例えば、ピュロバクルム・アエロフィラムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0014】
疎水性アミノ酸残基は、天然アミノ酸残基であってもよく、非天然アミノ酸残基であってもよい。疎水性アミノ酸残基は、酸化還元電位を向上させる観点から、変異型マルチ銅オキシダーゼの立体構造において、当該疎水性アミノ酸残基の側鎖とT1銅との間に水分子が入り込まない距離をとるアミノ酸残基であることが好ましい。疎水性アミノ酸残基の側鎖とT1銅との間の距離は、酸化還元電位を向上させる観点から、好ましくは0.5nm以下、より好ましくは0.35nm以下、より好ましくは0.3nm以下である。疎水性アミノ酸残基の側鎖とT1銅との間の距離の下限は、変異型マルチオキシダーゼの用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、変異型マルチオキシダーゼの用途などに応じて決定することが好ましい。

【0015】
疎水性アミノ酸残基としては、例えば、式(I):

【0016】
【化1】
JP2019118261A_000003t.gif

【0017】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~12のアラルキル基を示し、R1およびR2の両方が水素原子である場合を除く)
で表わされるアミノ酸残基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0018】
式(I)で表わされるアミノ酸残基において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~12のアラルキル基である。ただし、式(I)で表わされるアミノ酸残基において、R1およびR2の両方が水素原子である場合が除かれる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0019】
式(I)で表わされるアミノ酸残基のなかでは、高い酸化還元電位を確保するとともに変異型マルチ銅オキシダーゼの比活性を向上させる観点から、R1およびR2がそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基であるアミノ酸残基およびR1が炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~12のアラルキル基であり、R2が水素原子であるアミノ酸残基が好ましく、R1およびR2がいずれもメチル基であるバリン残基、R1がイソプロピル基であり、R2が水素原子であるロイシン残基、R1がエチル基であり、R2がメチル基であるイソロイシン残基、R1がベンジル基であり、R2が水素原子であるフェニルアラニン残基がより好ましく、ロイシン残基およびフェニルアラニン残基がさらに好ましい。

【0020】
アミノ酸配列(B)は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列である。アミノ酸配列(B)を含有するポリペプチドは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドよりも高い酸化還元電位を有し、しかも当該ポリペプチドと同等以上の熱安定性および保存安定性を有する。

【0021】
配列番号:2に示されるアミノ酸配列との間の配列同一性は、高い酸化還元電位および高い熱安定性を確保する観点から、少なくとも80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、より一層好ましくは99%以上であり、その上限は100%である。なお、本明細書において、「配列同一性」は、ベーシックローカルアラインメントサーチツール(BLAST)アルゴリズムに基づくプロテイン-プロテインブラスト(Protein-Protein BLAST)をデフォルト値のパラメータで用い、配列番号:2に示されるアミノ酸配列(参照配列)に対して、評価対象のアミノ酸配列(クエリー配列)をアラインメントして算出された値をいう。

【0022】
配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基は、配列番号:2に対して、アルゴリズムに基づくProtein-Protein BLASTをデフォルト値で用いてアライメントされたアミノ酸配列において、配列番号:2の470位と同じ列に位置するメチオニン残基である。

【0023】
アミノ酸配列(B)に用いられる疎水性アミノ酸残基は、アミノ酸配列(A)に用いられる疎水性アミノ酸残基と同様である。

【0024】
アミノ酸配列(B)は、変異型マルチ銅オキシダーゼの工業生産性を高める観点から、配列番号:2のアミノ末端側の配列の一部が、タグを含むアミノ酸配列(以下、「タグ配列」ともいう)またはシグナルペプチドのアミノ酸配列(以下、「シグナル配列」という)と置換されていてもよい。タグとしては、例えば、Hisタグ、HAタグ、mycタグ、V5タグ、GSTタグ、MBPタグなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。タグ配列は、本発明の目的を妨げない範囲で、他のアミノ酸配列を含有することができる。タグ配列としては、例えば、配列番号:5に示されるアミノ酸配列などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものはない。シグナル配列としては、例えば、OmpAシグナル配列などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。配列番号:2のアミノ末端側の配列の一部は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドよりも高い酸化還元電位を確保するとともに当該ポリペプチドと同等以上の熱安定性および保存安定性を確保する観点から、好ましくは配列番号:2の1~60位からなるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:2の1~50位からなるアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:2の1~29位からなるアミノ酸配列である。

【0025】
アミノ酸配列(B)は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等以上の熱安定性を確保する観点から、熱安定性の発現に寄与するアミノ酸残基を有することが好ましい。熱安定性の発現に寄与するアミノ酸残基としては、例えば、配列番号:2の230位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の265位のフェニルアラニン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の290位のフェニルアラニン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の390位のプロリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の409位のプロリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の412位のバリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の415位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の423位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の434位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の436位のトリプトファン残基に対応するアミノ酸残基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアミノ酸残基のなかでは、高い熱安定性を発現させる観点から、配列番号:2の230位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の265位のフェニルアラニン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の290位のフェニルアラニン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の390位のプロリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の409位のプロリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の412位のバリン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の415位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の423位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基、配列番号:2の434位のロイシン残基に対応するアミノ酸残基および配列番号:2の436位のトリプトファン残基に対応するアミノ酸残基が好ましい。

【0026】
アミノ酸配列(B)は、本発明の目的を妨げない範囲で、配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対して、アミノ酸残基の保存的置換を有していてもよい。アミノ酸残基の保存的置換としては、例えば、特定のアミノ酸残基と、親水性、疎水性、電荷、pKa、立体構造上における特徴などの点で当該特定のアミノ酸残基に類似した機能を発揮するアミノ酸残基との置換などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。保存的置換の具体例としては、以下のアミノ酸残基群(1)~(6)のいずれかに属する1つのアミノ酸残基を同じアミノ酸残基群に属する他のアミノ酸残基に置換することなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
アミノ酸残基群(1):グリシン残基およびアラニン残基
アミノ酸残基群(2):バリン残基、イソロイシン残基およびロイシン残基
アミノ酸残基群(3):アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン残基およびグルタミン残基
アミノ酸残基群(4):セリン残基およびスレオニン残基
アミノ酸残基群(5):リジン残基およびアルギニン残基
アミノ酸残基群(6):フェニルアラニン残基およびチロシン残基

【0027】
アミノ酸配列(B)は、本発明の目的を妨げない範囲で、配列番号:2において、1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を有することができる。なお、置換、欠失、挿入または付加される対象のアミノ酸残基は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列における配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基および熱安定性の発現に寄与するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基である。

【0028】
置換、欠失、挿入または付加されるアミノ酸残基の個数は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等以上の熱安定性および保存安定性を有するポリペプチドが得られる範囲の個数である。なお、本明細書において、「1または数個」とは、1~20個、好ましくは1~15個、さらに好ましくは1~10個、より好ましくは1~3個、より一層好ましくは1または2個をいう。

【0029】
変異型マルチ銅オキシダーゼのマルチ銅オキシダーゼ活性は、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)と変異型マルチ銅オキシダーゼと0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH3)とを含む反応液の波長420nmにおける吸光度の変化を測定し、1分間に1μmolの2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)を酸化する変異型マルチ銅オキシダーゼの量を求めることによって得られる。

【0030】
本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼをコードする核酸(以下、「本発明の核酸」という)を用いて当該核酸にコードされた変異型マルチ銅オキシダーゼを発現させることなどによって製造することができる。本発明の核酸は、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼをコードしているので、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの工業的生産に用いることができる。

【0031】
核酸の種類としては、例えば、DNA、mRNAなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0032】
本発明の核酸は、例えば、配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸に対して、配列番号:2の470位のメチオニン残基のコドンを疎水性アミノ酸残基のコドンに置換する部位特異的変異を導入すること、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸に対して、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基のコドンを疎水性アミノ酸残基のコドンに置換する部位特異的変異を導入することなどによって得ることができる。

【0033】
核酸への部位特異的変異の導入方法としては、例えば、変異導入用のプライマー対を用いるPCR法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0034】
変異導入用のプライマー対としては、例えば、配列番号:1において、配列番号:2の470位のメチオニン残基のコドンが疎水性アミノ酸残基のコドンに置換された塩基配列を含有するプライマーを含むプライマー対;配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基のコドンが疎水性アミノ酸残基のコドンに置換された塩基配列を含有するプライマーを含むプライマー対などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0035】
疎水性アミノ酸残基が天然アミノ酸残基である場合に用いられるプライマー対の具体例としては、配列番号:1において、配列番号:2の470位のメチオニン残基のコドンが当該天然アミノ酸残基のコドンに置換された塩基配列からなるプライマーを含むプライマー対、より具体的には、配列番号:3に示される塩基配列からなるプライマーと配列番号:4に示される塩基配列からなるプライマーとを含むプライマー対、配列番号:6に示される塩基配列からなるプライマーと配列番号:4に示される塩基配列からなるプライマーとを含むプライマー対などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0036】
疎水性アミノ酸残基が非天然アミノ酸残基である場合に用いられるプライマーの具体例としては、配列番号:1において、配列番号:2の470位のメチオニン残基のコドンがアンバーコドンまたは4塩基コドンに置換された塩基配列からなるプライマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0037】
疎水性アミノ酸残基が天然アミノ酸残基である場合、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、例えば、
(I)本発明の核酸を宿主細胞に導入して変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を得る工程、
(II)工程(I)で得られた変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を培養して培養物を得る工程、および
(III)工程(II)で得られた培養物から変異型マルチ銅オキシダーゼを単離する工程
を含む方法などによって製造することができる。

【0038】
工程(I)では、本発明の核酸を宿主細胞に導入して変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を得る。

【0039】
宿主細胞への本発明の核酸の導入は、例えば、本発明の核酸を含む遺伝子導入用担体を用いて宿主細胞を形質転換することなどによって行なうことができる。

【0040】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌などの細菌、昆虫細胞、酵母、植物細胞、動物細胞などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、変異型マルチ銅オキシダーゼの工業生産性を向上させる観点から、好ましくは細菌、より好ましくは大腸菌である。大腸菌としては、例えば、大腸菌BL21-RILPなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0041】
遺伝子導入用担体は、変異型マルチ銅オキシダーゼを細胞内に蓄積させるものであってもよく、変異型マルチ銅オキシダーゼを細胞外に分泌させるものであってもよい。遺伝子導入用担体は、生物担体であってもよく、非生物担体であってもよい。生物担体としては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクターなどのベクターなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、非生物担体としては、例えば、金粒子、デキストラン、リポソームなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの遺伝子導入用担体は、用いられる宿主細胞に応じて、適宜選択することができる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合、遺伝子導入用担体として、プラスミドベクターまたはファージベクターを用いることができる。宿主細胞が大腸菌BL21-RILPである場合、pET系プラスミドベクターを用いることができる。この場合、変異型マルチ銅オキシダーゼを過剰発現させることができ、しかも変異型マルチ銅オキシダーゼを容易に精製することができる。

【0042】
ベクターは、変異型マルチ銅オキシダーゼの精製を容易にするためのエレメント、例えば、タグ配列に対応する塩基配列またはシグナル配列に対応する塩基配列を有していてもよい。

【0043】
遺伝子導入用担体が、ベクターである場合、当該遺伝子導入用担体は、ベクターのクローニングサイトに本発明の核酸を挿入し、ベクターが有するプロモーターに作動可能に連結させることによって作製することができる。なお、本明細書において、「作動可能に連結」とは、核酸にコードされたポリペプチドが、プロモーターなどのエレメントによる制御下に当該ポリペプチドの生物学的活性を示す状態で発現するようにエレメントに連結されていることを意味する。

【0044】
遺伝子導入用担体が、非生物担体である場合、当該遺伝子導入用担体は、必要に応じて、本発明の核酸をプロモーターに作動可能に連結させて得られた核酸構築物を、当該非生物担体に担持させることによって作製することができる。核酸構築物は、複製開始起点、ターミネーターなどの遺伝子の発現に必要なエレメントを含有していてもよい。

【0045】
形質転換法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法、DEAE-デキストラン法、パーティクルガン法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。形質転換法は、遺伝子導入用担体の種類、宿主細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、遺伝子導入用担体の種類、宿主細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。

【0046】
工程(II)では、工程(I)で得られた変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を培養して培養物を得る。

【0047】
変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞の培養条件は、遺伝子導入用担体の種類、宿主細胞の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、遺伝子導入用担体の種類、宿主細胞の種類などに応じて決定することが好ましい。遺伝子導入用担体において、本発明の核酸がプロモーターに作動可能に連結されている場合、変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞の培養条件として、プロモーターの種類に応じた発現誘導条件を用いることができる。

【0048】
工程(III)では、工程(II)で得られた培養物から変異型マルチ銅オキシダーゼを単離する。

【0049】
遺伝子導入用担体が変異型マルチ銅オキシダーゼを細胞内に蓄積させるものである場合、工程(III)において、培養物を遠心分離などに供して変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を回収し、変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞から変異型マルチ銅オキシダーゼを単離することができる。変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞からの変異型マルチ銅オキシダーゼの単離は、例えば、変異型マルチ銅オキシダーゼ発現細胞を超音波破砕法、溶菌法、凍結破砕法などによって破砕し、得られた細胞抽出液を遠心分離、超遠心分離、限外濾過、塩析、透析、イオン交換カラムクロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーなどに供することなどによって行なうことができる。

【0050】
遺伝子導入用担体が変異型マルチ銅オキシダーゼを細胞外に分泌させるものである場合、培養物を遠心分離、濾過などに供して培養上清を回収し、培養上清から変異型マルチ銅オキシダーゼを単離することができる。

【0051】
なお、疎水性アミノ酸残基が非天然アミノ酸残基である場合、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの製造方法の具体例としては、配列番号:1に示される塩基配列において、470位のメチオニン残基に対応する部位のコドンがアンバーコドンまたは4塩基コドンに置換された塩基配列からなるDNAを保持する組換ベクターと、当該非天然アミノ酸残基を有する非天然アミノ酸-tRNAとを用い、無細胞翻訳系でタンパク質合成を行なう工程を含む方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0052】
以上説明したように、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼは、アミノ酸配列(A)またはアミノ酸配列(B)を含有し、マルチ銅オキシダーゼ活性を有しているので、高い酸化還元電位を有し、しかも熱安定性および保存安定性に優れる。また、本発明の核酸によれば、本発明のマルチ銅オキシダーゼをコードしているので、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを工業的に生産することができる。したがって、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼおよび本発明の核酸は、電極材料、カソード電極、燃料電池などの開発および製造に用いられることが期待されるものである。

【0053】
2.電極材料
本発明の電極材料は、カソード電極に用いられる電極材料であって、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有することを特徴とする。本発明の電極材料は、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有しているので、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れる。したがって、本発明の電極材料によれば、熱安定性および保存安定性に優れ、高い電池電圧を有する燃料電池を得ることができる。

【0054】
本発明の電極材料における変異型マルチ銅オキシダーゼの含有率は、本発明の電極材料の用途、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、本発明の電極材料の用途、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの種類などに応じて決定することが好ましい。本発明の電極材料における変異型マルチ銅オキシダーゼの含有率の一例として、0.1~100質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0055】
本発明の電極材料は、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの他に、必要により、導電助剤、バインダー、溶媒、分散媒などをさらに含有することができる。

【0056】
導電助剤としては、例えば、炭素材料、金属材料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。炭素材料としては、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブなどのカーボンナノチューブ;黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維;フッ化カーボンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。金属材料としては、例えば、金属、導電性金属酸化物などの粉末;金属、導電性金属酸化物などの繊維などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。金属としては、例えば、ニッケル、パラジウム、金、白金、銀、銅などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。導電性金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの導電助剤のなかでは、導電効率を向上させる観点から、カーボンナノチューブが好ましく、多層カーボンナノチューブがより好ましい。導電助剤としてカーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブの表面への本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼの吸着量を向上させ、電流密度を向上させる観点から、カーボンナノチューブは、1-ピレン-カルボン酸などの分散媒にカーボンナノチューブを分散させた分散液として用いることが好ましい。カーボンナノチューブの直径の一例として、1~200nmなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。カーボンナノチューブの長さの一例として、0.005~1000μmなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0057】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのバインダーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。

【0058】
本発明の電極材料における導電助剤およびバインダーの各含有率は、本発明の電極材料の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、本発明の電極材料の用途などに応じて決定することが好ましい。本発明の電極材料における導電助剤の含有率の一例として、0~50質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。本発明の電極材料におけるバインダーの含有率の一例として、0~20質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0059】
溶媒としては、例えば、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。分散媒としては、例えば、精製水、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。本発明の電極材料における溶媒または分散媒の含有率は、本発明の電極材料の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、本発明の電極材料の用途などに応じて決定することが好ましい。本発明の電極材料における溶媒または分散媒の含有率の一例として、0~50質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0060】
本発明の電極材料は、例えば、変異型マルチ銅オキシダーゼを、必要により、導電助剤、バインダー、溶媒、分散媒などと混合することなどによって製造することができる。本発明の電極材料においては、変異型マルチ銅オキシダーゼを導電助剤に担持させてもよい。

【0061】
以上説明したように、本発明の電極材料は、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有しているので、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れる。したがって、本発明の電気材料は、カソード電極、燃料電池などの開発および製造に用いられることが期待されるものである。

【0062】
3.カソード電極および燃料電池
本発明のカソード電極は、燃料電池に用いられるカソード電極であって、電極基材と本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼとを含み、電極基材の表面に変異型マルチ銅オキシダーゼを有することを特徴とする。本発明のカソード電極は、電極基材の表面に本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを有しているので、高い酸化還元電位を有し、熱安定性および保存安定性に優れる。したがって、本発明のカソード電極によれば、高い電池電圧を有し、熱安定性および保存安定性に優れた燃料電池を得ることができる。

【0063】
また、本発明の燃料電池は、本発明のカソード電極を有する。したがって、本発明の燃料電池は、高い電池電圧を有し、熱安定性および保存安定性に優れる。本発明の燃料電池は、メディエータ型燃料電池であってもよく、直接電子移動型燃料電池であってもよい。

【0064】
以下、本発明の燃料電池を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の燃料電池の一実施態様を示す概略説明図である。

【0065】
燃料電池1は、電池ケース2と、カソード電極3と、アノード電極4と、カソード電極3およびアノード電極4を隔離するセパレータ5とを備えている。

【0066】
電池ケース2は、カソード電極3と、アノード電極4と、セパレータ5とを収容する。電池ケース2の内部は、セパレータ5により、カソード側の還元反応槽6と、アノード側の酸化反応槽9とに区画されている。電池ケース2を構成する材料、電池ケース2の形状および大きさは、燃料電池の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、燃料電池の用途などに応じて決定することが好ましい。

【0067】
カソード電極3は、電極基材3aと、電極基材3aの表面に形成された酵素層3bとを備えている。カソード電極3では、酸素を還元して水分子を生成する反応が行なわれる。

【0068】
電極基材3aに用いられる基材としては、例えば、グラッシーカーボン、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、グラファイトなどの炭素材料からなる電極基材;アルミニウム、ニッケル、パラジウム、金、白金、銀、銅などの金属からなる電極基材、酸化スズ、酸化インジウム、酸化タングステン、二酸化チタンなどの導電性金属酸化物からなる電極基材など挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。電極基材3aの具体例としては、例えば、グラッシーカーボン電極などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0069】
酵素層3bは、本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを含有している。酵素層3bの厚さおよび酵素層3bにおける変異型マルチ銅オキシダーゼの含有率は、本発明の燃料電池の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、本発明の燃料電池の用途などに応じて決定することが好ましい。酵素層3bの厚さの一例として、3~100nmなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。酵素層3bにおける変異型マルチ銅オキシダーゼの含有率の一例として、0.1~100質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0070】
カソード電極3は、例えば、電極基材3aの表面に酵素層3bを形成させることなどによって製造することができる。電極基材3aにおける酵素層3bの形成方法としては、例えば、本発明の電極材料を電極基材3aの表面に塗布し、乾燥させる方法、物理的吸着、イオン結合、共有結合などによって本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを電極基材3aの表面に固定する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0071】
アノード電極4は、電極基材4aと、電極基材4aの表面に形成された燃料酸化層4bとを含む。アノード電極4では、燃料を酸化し、電子とプロトンとを生じる燃料酸化反応が行なわれる。

【0072】
燃料を構成する燃料成分としては、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖;ラクトース、スクロース、マルトース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなどの多糖;メタノール、エタノールなどのアルコール;水素ガス
;プロリン、ヒドロキシプロリンなどのアミノ酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。燃料における燃料成分の含有率は、燃料成分の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから、燃料成分の種類などに応じて決定することが好ましい。燃料における燃料成分の含有率の一例として、0.1~100質量%などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。燃料成分が固体である場合、当該燃料成分は、アノード電極4における反応効率を向上させる観点から、液体で用いることが好ましい。この場合、燃料として、固体の燃料成分を溶媒に溶解させた溶液または固体の燃料成分を分散媒に分散させた分散液を用いることができる。

【0073】
電極基材4aに用いられる基材は、カソード電極3の電極基材3aに用いられる基材と同様である。

【0074】
燃料酸化層4bは、燃料の酸化反応を触媒する触媒を含有する。触媒としては、例えば、酸化還元酵素、金属触媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。酸化還元酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼなどのヒドロゲナーゼなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。触媒は、燃料の種類に応じて選択することができる。金属触媒としては、例えば、白金触媒、パラジウム触媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの触媒のなかでは、環境負荷を低減する観点から、酸化還元酵素が好ましい。なお、触媒として金属触媒を用いる場合、アノード電極4が当該金属触媒からなる電極であってもよい。

【0075】
燃料酸化層4bの厚さは、本発明の燃料電池の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、本発明の燃料電池の用途などに応じて決定することが好ましい。また、燃料酸化層4bにおける触媒の含有率は、触媒の種類、本発明の燃料電池の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、触媒の種類、本発明の燃料電池の用途などに応じて決定することが好ましい。

【0076】
アノード電極4は、例えば、電極基材4aの表面に燃料酸化層4bを形成させることなどによって製造することができる。燃料酸化層4bが酸化還元酵素を含有する場合、電極基材4aにおける燃料酸化層4bの形成方法としては、例えば、物理的吸着、イオン結合、共有結合などによって酸化還元酵素を電極基材4aの表面に固定する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0077】
セパレータ5は、電池ケース2の内部をカソード電極3が配置された還元反応槽6と、アノード電極4が配置された酸化反応槽9とに区画し、カソード電極3とアノード電極4と隔離している。セパレータ5は、液体および電子を通過させないがプロトンを通過させる材料によって形成されている。セパレータ5を構成する材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0078】
還元反応槽6は、還元反応に用いられる酸素分子を含む電解液を収容している。還元反応槽6において、カソード電極3は、酵素層3bが酸素分子を含む電解液に接触するように配置されている。還元反応槽6には、酸素ガス、酸素分子を含む電解液などを矢印B方向に流通させて還元反応槽6内に供給するための供給流路7と、還元反応槽6内の反応生成物、使用後の電解液、余剰の酸素ガスなどを矢印B方向に流通させて還元反応槽6外に排出するための排出流路8とが接続されている。

【0079】
電解液としては、例えば、クエン酸ナトリウム緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、グッドバッファーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。

【0080】
なお、還元反応槽6は、還元反応槽6の内部を本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼのマルチ銅オキシダーゼ活性の発現に適した温度に維持するための温度調節部を有していてもよい。また、本発明においては、還元反応槽6を用いる代わりに、酵素層3bに含まれる本発明の変異型マルチ銅オキシダーゼを酸素ガスに直接接触させて酸素分子の還元反応を触媒させるための酸素ガス接触部を用いてもよい。

【0081】
酸化反応槽9は、酸化反応に用いられる燃料を収容している。酸化反応槽9において、アノード電極4は、燃料酸化層4bが燃料に接触するように配置されている。酸化反応槽9には、燃料を矢印A方向に流通させて酸化反応槽9内に供給するための供給流路10と、酸化反応槽9内の反応生成物を矢印A方向に流通させて排出するための排出流路11とが接続されている。

【0082】
燃料電池1において、酸化反応槽9内のアノード電極4では、燃料が酸化され、プロトンおよび電子が生じる。酸化反応槽9で生じた酸化反応槽9で生じたプロトンは、セパレータ5を通って還元反応槽6に移動する。また、電子は、アノード電極4の端部に設けられた導線12を通じて燃料電池1外に取り出される。還元反応槽6内のカソード電極3では、プロトンと、カソード電極3の端部に設けられた導線13から取り入れられた電子とが用いられ、電解液中の酸素分子が還元され、水分子が生じる。燃料電池1では、アノード電極4における燃料の酸化電位とカソード電極3における酸素分子の還元電位との間の電位差が、変異型マルチ銅オキシダーゼの代わりに野生型マルチ銅オキシダーゼを用いたときの電位差と比べて大きいため、大きい起電力を得ることができる。酸化反応に用いられる燃料は、供給流路10内を矢印A方向に流通させることにより、酸化反応槽9内に供給される。酸化反応槽9内で生じた反応生成物は、排出流路11内を矢印A方向に流通させることにより、酸化反応槽9外に排出される。還元反応に用いられる酸素ガス、酸素分子を含む電解液などは、供給流路7内を矢印B方向に流通させることにより、還元反応槽6内に供給される。還元反応槽6内で生じた反応生成物、使用後の電解液、余剰の酸素ガスなどは、排出流路8内を矢印B方向に流通させることにより、還元反応槽6外に排出される。

【0083】
なお、本発明においては、セパレータ5を設けず、還元反応槽6と酸化反応槽9とを兼ねた酸化還元槽を用いてもよい。酸化還元槽は、燃料を収容している。

【0084】
以上説明したように、本発明の燃料電池およびカソード電極によれば、優れた熱安定性および保存安定性を発現し、しかも高い電池電圧を得ることができることから、例えば、電子機器などの電源などに用いられることが期待される。
【実施例】
【0085】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。以下において、各略語の意味は、以下のとおりである。
【実施例】
【0086】
<略語の説明>
ABTS:2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)
HEPES:2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸
IPTG:イソプロピリ-β-D-チオガラクト-ピラノシド
McoP:ピュロバクルム・アエロフィラム(Pyrobaculum aerophilum)由来のマルチ銅オキシダーゼ
Ni-NTA:ニッケル-ニトリル三酢酸
MWCNT:多層カーボンナノチューブ
【実施例】
【0087】
実施例1
(1)HisタグMcoP(M470L)をコードするDNAの調製
発現プラスミドpET15bに野生型McoPをコードする塩基配列の一部(配列番号:1の88~1434位の塩基配列)からなるDNAを組み込み、HisタグMcoPを発現させるためのHisタグMcoP発現用プラスミドを得た。
【実施例】
【0088】
得られたHisタグMcoP発現用プラスミドを鋳型とし、フォワードプライマーM470L(配列番号:3)と、リバースプライマー(配列番号:4)、変異導入用キット〔東洋紡(株)製、商品名:KOD-plus-Mutagenesis Kit〕とを用いてPCRを行なった。PCRのサーマルプロファイルは、94℃で2分間のインキュベーションおよび98℃で10秒間のインキュベーションと68℃で7.5分間のインキュベーションとを1サイクルとする10サイクルの反応である。
【実施例】
【0089】
得られた反応液に含まれる鋳型プラスミドを制限酵素DpnIで消化し、変異型McoP〔HisタグMcoP(M470L)〕をコードするDNAを含むPCR産物を得た。T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてPCR産物の両末端をリン酸化し、リン酸化PCR産物を得た。その後、T4 DNAリガーゼを用いてリン酸化PCR産物のセルフライゲーションを行ない、DNA構築物を得た。
【実施例】
【0090】
得られたDNA構築物を用い、大腸菌DH5αを形質転換した。得られた細胞を、50μg/mLアンピシリンを含有するLBアンピシリンプレート〔組成:1質量%トリプシン、0.5質量%酵母エキス、1質量%塩化ナトリウム、1.5質量%寒天および残部精製水〕上に播種し、37℃で8時間培養して、形質転換体を得た。
【実施例】
【0091】
得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、当該プラスミドに含まれるMcoPをコードするDNA領域の配列を解析した。
【実施例】
【0092】
その結果、プラスミドは、配列番号:2の470位のメチオニン残基に対応するアミノ酸残基がロイシン残基に置換され、配列番号:2の1~29位のアミノ酸配列が配列番号:5に示されるHisタグ配列に置換された変異型McoP〔HisタグMcoP(M470L)〕をコードするDNAを保持していることがわかった。したがって、以下において、当該プラスミドをHisタグMcoP(M470L)発現用プラスミドとして用いた。
【実施例】
【0093】
(2)変異型McoP発現細胞の調製
実施例1(1)において、DNA構築物を用いる代わりにHisタグMcoP(M470L)発現用プラスミドを用いたことおよび大腸菌DH5αを用いる代わりに大腸菌BL21-RILPを用いたことを除き、実施例1(1)と同様の操作を行ない、HisタグMcoP(M470L)発現細胞を得た。
【実施例】
【0094】
(3)HisタグMcoP(M470L)の製造
実施例1(2)で得られたHisタグMcoP(M470L)発現細胞を、50μg/mLアンピシリンを含有するLB培地〔組成:1質量%トリプシン、0.5質量%酵母エキス、1質量%塩化ナトリウムおよび残部精製水〕中、20℃で培養した。波長600nmにおける培養液の光学密度が0.6になった時点で、1mM IPTG溶液を培養液に添加した。得られた培養液を振とうさせながら、20℃で21時間培養した。その後、4℃の温度条件下において、培養液を8000×gで10分間の遠心分離に供し、細胞を回収した。回収された細胞を緩衝液に懸濁し、細胞懸濁液を得た。
【実施例】
【0095】
超音波ホモジナイザー〔(株)トミー精工製、品番:UD-210〕を用い、細胞懸濁液に20KHzの超音波を4.5分間照射して細胞破砕物を得た。4℃の温度条件下において、細胞破砕物を15000×gで10分間遠心分離することにより、上清を得た。上清を80℃で10分間インキュベーションすることにより、アポMcoP以外のタンパク質を熱変性させた。4℃の温度条件下において、上清を15000×gで10分間遠心分離することにより、熱変性した変性タンパク質を当該上清から除去し、アポMcoP(M470L)を含むアポ酵素液を得た。アポ酵素液を1mM硫酸銅含有HEPES緩衝液に懸濁し、4℃で8時間静置することにより、アポMcoPに銅イオンを取り込ませ、ホロ酵素液を得た。
【実施例】
【0096】
50mM HEPES緩衝液(pH7.5)を用いてNi-NTAカラム〔ジー・イー・ヘルスケア(GE Healthcare)社製、商品名:HisTrap HP column〕を平衡化した。平衡化したNi-NTAカラムにホロ酵素液を供した後、当該カラムを洗浄してNi-NTAカラムから未吸着の夾雑タンパク質を除去した。その後、溶出緩衝液〔組成:100mM酢酸緩衝液(pH3.0)〕を用いてNi-NTAカラムに吸着したタンパク質を溶出し、タンパク質を含む画分を得た。
【実施例】
【0097】
1M酢酸緩衝液(pH3.0)100μLと、逆浸透膜濾過水840μLと、タンパク質を含む画分10μLとをこの順に試験管に添加し、混合した。得られた混合物を温浴中50℃で2分間加熱した。加熱後の混合物を20mM ABTS水溶液50μLが入ったプラスチック製セルに添加し、混合することにより、1mM ABTS含有反応液を得た。分光光度計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ダブルビーム分光光度計U-2010〕を用い、プラスチック製セル内の反応液の波長420nmにおける吸光度の1分間の変化を測定した。McoP活性の1ユニットは、1分間に1μmolのABTSを酸化する量と定義した。タンパク質を含む画分からマルチ銅オキシダーゼ活性を示す画分を選別することにより、HisタグMcoP(M470L)を含有する酵素液を得た。
【実施例】
【0098】
実施例2
(1)HisタグMcoP(M470F)をコードするDNAの調製
実施例1(1)において、フォワードプライマーM470Lを用いる代わりにフォワードプライマーM470F(配列番号:6)を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、形質転換体を得た。
【実施例】
【0099】
得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、当該プラスミドに含まれるMcoPをコードするDNA領域の配列を解析した。
【実施例】
【0100】
その結果、プラスミドは、配列番号:2の470位のメチオニン残基に対応するアミノ酸残基がフェニルアラニン残基に置換され、配列番号:2の1~29位のアミノ酸配列が配列番号:5に示されるHisタグ配列に置換された変異型McoP〔HisタグMcoP(M470F)〕をコードするDNAを保持していることがわかった。したがって、以下において、当該プラスミドをHisタグMcoP(M470F)発現用プラスミドとして用いた。
【実施例】
【0101】
(2)変異型McoP発現細胞の調製
実施例1(2)において、HisタグMcoP(M470L)発現用プラスミドを用いる代わりにHisタグMcoP(M470F)発現用プラスミドを用いたことを除き、実施例1(2)と同様の操作を行ない、HisタグMcoP(M470F)発現細胞を得た。
【実施例】
【0102】
(3)Hisタグ変異型McoP(M470F)の製造
実施例1(3)において、実施例1(2)で得られたHisタグMcoP(M470L)発現細胞を用いる代わりに実施例2(2)で得られたHisタグMcoP(M470F)発現細胞を用いたことを除き、実施例1(3)と同様の操作を行ない、HisタグMcoP(M470F)を含有する酵素液を得た。
【実施例】
【0103】
比較例1
(1)McoP発現細胞の調製
実施例1(2)において、HisタグMcoP(M470L)発現用プラスミドを用いる代わりにHisタグMcoP発現用プラスミドを用いたことを除き、実施例1(2)と同様の操作を行ない、HisタグMcoP発現細胞を得た。
【実施例】
【0104】
(2)HisタグMcoPの製造
実施例1(3)において、実施例1(2)で得られたHisタグMcoP(M470L)発現細胞を用いる代わりに比較例1(1)で得られたHisMcoP発現細胞を用いたことを除き、実施例1(3)と同様の操作を行ない、HisタグMcoPを含有する酵素液を得た。
【実施例】
【0105】
試験例1
50℃、60℃、70℃、80℃、85℃、90℃、95℃または100℃に保たれた温浴中において、実施例1で得られた酵素液10μLを10分間インキュベーションすることにより、実施例1で得られた酵素液の熱処理を行なった。熱処理後の酵素液を氷上で冷却した後、4℃の温度条件下において、酵素液を10000×gで10分間遠心分離することにより、上清を得た。
【実施例】
【0106】
1M酢酸緩衝液(pH3.0)100μLと、逆浸透膜濾過水840μLと、上清(酵素量:10μg)10μLとをこの順に試験管に添加し、混合した。得られた混合物を温浴中50℃で2分間加熱した。加熱後の混合物を20mM ABTS水溶液50μLが入ったプラスチック製セルに添加し、混合することにより、1mM ABTS含有反応液を得た。分光光度計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ダブルビーム分光光度計U-2010〕を用い、プラスチック製セル内の反応液の波長420nmにおける吸光度の1分間の変化を測定し、McoP活性を算出した。最大McoP活性を100%として、各温度におけるHisタグMcoP(M470L)の残存活性を求めた。
【実施例】
【0107】
前記において、実施例1で得られた酵素液を用いる代わりに実施例2および比較例1で得られた各酵素液を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、各温度におけるHisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれの残存活性を求めた。
【実施例】
【0108】
その結果、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)は、50~100℃での熱処理後においても、70%以上の残存活性を示したことから、比較例1で得られたHisタグMcoPと同様に高い熱安定性を有することがわかった。
【実施例】
【0109】
試験例2
実施例1で得られた酵素液を25℃でインキュベーションし、インキュベーション開始直後(0日間)、インキュベーション開始時から2日間経過後、4日間経過後、6日間経過後、8日間経過後、10日間経過後および30日間経過後に酵素液を採取した。
【実施例】
【0110】
1M酢酸緩衝液(pH3.0)100μLと、逆浸透膜濾過水840μLと、酵素液10μLとをこの順に試験管に添加し、混合した。得られた混合物を温浴中50℃で2分間加熱した。加熱後の混合物を20mM ABTS水溶液50μLが入ったプラスチック製セルに添加し、混合することにより、1mM ABTS含有反応液を得た。分光光度計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ダブルビーム分光光度計U-2010〕を用い、プラスチック製セル内の反応液の波長420nmにおける吸光度の1分間の変化を測定し、McoP活性を算出した。最大McoP活性を100%として、HisタグMcoP(M470L)の残存活性の経時的変化を求めた。
【実施例】
【0111】
前記において、実施例1で得られた酵素液を用いる代わりに実施例2および比較例1で得られた各酵素液を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、HisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれの残存活性の経時的変化を求めた。
【実施例】
【0112】
その結果、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)は、インキュベーション開始時から30日間経過後においても、80%以上の残存活性を示したことから、比較例1で得られたHisタグMcoPと同様に高い保存安定性を有することがわかった。
【実施例】
【0113】
試験例3
1M酢酸緩衝液(pH3.0)100μLと、逆浸透膜濾過水840μLと、実施例1で得られた酵素液10μLとをこの順に試験管に添加し、混合した。得られた混合物を温浴中50℃で2分間加熱した。加熱後の混合物をABTS濃度が200μM~20mMである各ABTS水溶液50μLが入ったプラスチック製セルに添加し、混合することにより、ABTS濃度が10μM~1mMである各ABTS含有反応液を得た。分光光度計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ダブルビーム分光光度計U-2010〕を用い、プラスチック製セル内の反応液の波長420nmにおける吸光度の1分間の変化を測定し、McoP活性を算出した。McoP活性の1ユニットは、1分間に1μmolのABTSを酸化する量と定義した。算出されたMcoP活性を用い、のKm値およびVmax値を求めた。
【実施例】
【0114】
前記において、実施例1で得られた酵素液を用いる代わりに実施例2および比較例1で得られた各酵素液を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、ABTSに対するHisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれのKm値およびVmax値を求めた。
【実施例】
【0115】
ABTSに対するHisタグMcoP(M470L)、HisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれのKm値およびVmax値を表1に示す。
【実施例】
【0116】
【表1】
JP2019118261A_000004t.gif
【実施例】
【0117】
表1に示された結果から、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)のKm値は、比較例1で得られたHisタグMcoPのKm値よりも小さいことがわかる。また、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)のVmax値は、いずれも比較例1で得られたHisタグMcoPのVmax値よりも大きいことがわかる。これらの結果から、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)は、比較例1で得られたHisタグMcoPよりもABTSに対する親和性が高いことがわかる。
【実施例】
【0118】
試験例4
実施例1で得られた酵素液と、緩衝液とを酵素液/緩衝液(体積比)が1/1となるように混合した。得られた混合物を50℃で30分間インキュベーションした後、氷上で冷却した。4℃の温度条件において、各混合物を10000×gで10分間遠心分離することにより、上清を得た。なお、緩衝液として、0.5Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3)、0.5Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4)、0.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4)、0.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)、0.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、0.5Mビス-トリス/塩酸緩衝液(pH5.5)、0.5Mビス-トリス/塩酸緩衝液(pH6)、0.5Mビス-トリス塩酸緩衝液(pH7)、0.5M HEPES/水酸化ナトリウム緩衝液(pH7)、0.5M HEPES/水酸化ナトリウム緩衝液(pH8)、0.5Mトリス/塩酸緩衝液(pH8)、0.5Mトリス/塩酸緩衝液(pH9)、0.5Mグリシン/水酸化ナトリウム(pH9)、0.5Mグリシン/水酸化ナトリウム(pH10)または0.5Mグリシン/水酸化ナトリウム(pH11)を用いた。
【実施例】
【0119】
1M酢酸緩衝液(pH3.0)100μLと、逆浸透膜濾過水840μLと、上清(酵素量:10μg)10μLとをこの順に試験管に添加し、混合した。得られた混合物を温浴中50℃で2分間加熱した。加熱後の混合物を20mM ABTS水溶液50μLが入ったプラスチック製セルに添加し、混合することにより、1mM ABTS含有反応液を得た。分光光度計〔(株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ダブルビーム分光光度計U-2010〕を用い、プラスチック製セル内の反応液の波長420nmにおける吸光度の1分間の変化を測定し、McoP活性を算出した。最大McoP活性を100%として、各pHの緩衝液でインキュベーション後のHisタグMcoP(M470L)の残存活性を求めた。
【実施例】
【0120】
前記において、実施例1で得られた酵素液を用いる代わりに実施例2および比較例1で得られた各酵素液を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、各pHの緩衝液でインキュベーション後のHisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれの残存活性を求めた。
【実施例】
【0121】
残存活性が80%以上であるpHを安定PHとした。HisタグMcoP(M470L)、HisタグMcoP(M470F)およびHisタグMcoPそれぞれの安定pHを表2に示す。
【実施例】
【0122】
【表2】
JP2019118261A_000005t.gif
【実施例】
【0123】
表2に示された結果から、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)の安定pHの範囲は、比較例1で得られたHisタグMcoPの安定pHの範囲と同一であることがわかる。また、実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)の安定pHの範囲は、比較例1で得られたHisタグMcoPおよび実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)の安定pHの範囲よりも広いことがわかる。
【実施例】
【0124】
実施例3
超純水1mLにMWCNT(直径:10~20nm、長さ:5~15nm)10mgおよび1-ピレン-カルボン酸12mgを添加し、混合した。超音波洗浄機中において、混合物に28kHzの超音波を30分間照射することにより、混合物の超音波処理を行なった。混合物の超音波処理をさらに5回繰り返した。得られた超音波処理物を10000×gで10分間遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物を超純水に懸濁し、得られた懸濁液を10000×gで10分間遠心分離して沈殿物を回収することにより、沈殿物の洗浄を行なった。沈殿物の洗浄をさらに2回行なった。洗浄後の沈殿物をその濃度が10mg/mLとなるように超純水に懸濁してMWCNT分散液を得た。
【実施例】
【0125】
ダイヤモンド研磨剤およびアルミナ研磨剤を用いてグラッシーカーボン電極を研磨した。研磨後のグラッシーカーボン電極を50μM硫酸水溶液中で10分間超音波洗浄した後、1~-1Vの範囲で掃引を行なうことによって洗浄した。洗浄後のグラッシーカーボン電極の表面にMWCNT分散液10μLを滴下し、乾燥させ、MWCNT修飾グラッシーカーボン電極を得た。
【実施例】
【0126】
MWCNT修飾グラッシーカーボン電極の表面に当該電極の表面7.065mm2あたり実施例1(3)で得られた酵素液10μLを滴下し、乾燥させた。乾燥後の電極の表面に当該電極の表面7.065mm2あたり0.5質量%パーフルオロカーボン化合物分散液〔シグマアルドリッチ社製、商品名:Nafion〕10μLを滴下し、乾燥させることにより、MWCNT/McoP修飾電極を得た。
【実施例】
【0127】
実施例4
実施例3において、実施例1(3)で得られた酵素液を用いる代わりに実施例2(3)で得られた酵素液を用いたことを除き、実施例3と同様の操作を行ない、MWCNT/McoP修飾電極を得た。
【実施例】
【0128】
比較例2
実施例3において、実施例1(3)で得られた酵素液を用いる代わりに比較例1(2)で得られた酵素液を用いたことを除き、実施例3と同様の操作を行ない、MWCNT/McoP修飾電極を得た。
【実施例】
【0129】
試験例5
実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極と、白金対極と、銀/塩化銀参照電極と、電解液として0.1mM HEPES/水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.5)とを用い、三電極式電気化学セルを作製した。
【実施例】
【0130】
得られた三電極式電気化学セルと、電気化学測定装置〔ビー・エー・エス(株)製、商品名:Als1200シリーズ〕とを用い、掃引幅:0~+0.8V、初期電位:+0.8V、掃引速度:10m/s、電解液の温度:50℃および窒素飽和雰囲気の条件下にサイクリックボルタンメトリを行ない、サイクリックボルタモグラムを得た。
【実施例】
【0131】
前記において、実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いる代わりに実施例4で得られたMWCNT/McoP修飾電極または比較例2で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、サイクリックボルタモグラムを得た。
【実施例】
【0132】
得られたサイクリックボルタモグラムを用い、酸化電流ピークと還元電流ピークの中点における銀/塩化銀電極基準の電位(以下、「中点電位」という)を求めた。その結果を表3に示す。
【実施例】
【0133】
【表3】
JP2019118261A_000006t.gif
【実施例】
【0134】
表3に示された結果から、実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの中点電位および実施例4で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの中点電位は、比較例2で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの中点電位に対し、正側に+118~+129mVシフトしていることがわかる。これらの結果から、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)の各酸化還元電位は、比較例1で得られたHisタグMcoPの酸化還元電位と比べて増加していることがわかる。
【実施例】
【0135】
試験例6
試験例5において、電解液として0.1mM HEPES/水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.5)〕を用いる代わりに0.1mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3)を用いたことおよび窒素飽和雰囲気の条件を用いる代わりに酸素飽和雰囲気の条件を用いたことを除き、試験例5と同様の操作を行ない、サイクリックボルタモグラムを得た。
【実施例】
【0136】
得られたサイクリックボルタモグラムを用い、酸素分子の標準電極電位基準の還元開始電位を求めた。その結果を表4に示す。
【実施例】
【0137】
【表4】
JP2019118261A_000007t.gif
【実施例】
【0138】
表4に示された結果から、実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位および実施例4で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位は、比較例2で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位に対し、正側に+119~+129mVシフトしていることがわかる。また、表4に示された結果から、実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位および実施例4で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位は、比較例2で得られたMWCNT/McoP修飾電極を用いたときの酸素分子の還元開始電位と比べて、酸素分子の還元の際の標準電極電位に近いことがわかる。これらの結果から、実施例3で得られたMWCNT/McoP修飾電極および実施例4で得られたMWCNT/McoP修飾電極によれば、比較例2で得られたMWCNT/McoP修飾電極と比べて、高い起電力を有する電池を得ることができることがわかる。
【実施例】
【0139】
以上の結果から、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)は、比較例1で得られたHisタグMcoPよりも高い酸化還元電位を有していることがわかる。
【実施例】
【0140】
なお、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる変異型McoPを作製し、当該変異型McoPを用いて試験例1~6と同様の操作を行なった場合にも、実施例1で得られたHisタグMcoP(M470L)および実施例2で得られたHisタグMcoP(M470F)を用いた場合と同様の傾向が見られる。
【実施例】
【0141】
以上説明したように、配列番号:2において、470位のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列または配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号:2の470位に対応する位置のメチオニン残基が疎水性アミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含有し、McoP活性を有する変異型McoPによれば、高い熱安定性を得ることができ、しかも野生型McoPよりも高い酸化還元電位を得ることができることがわかる。したがって、本発明の変異型McoPは、燃料電池などのカソード電極の電極材料などに用いられることが期待されるものである。
【符号の説明】
【0142】
1 燃料電池
2 電池ケース
3 カソード電極
3a 電極基材
3b 酵素層
4 アノード電極
4a 電極基材
4b 燃料酸化層
5 セパレータ
6 還元反応槽
9 酸化反応槽
7,10 供給流路
8,11 排出流路
12,13 導線
【配列表フリ-テキスト】
【0143】
配列番号:3は、フォワードプライマーM470Lの配列である。
配列番号:4は、リバースプライマーの配列である。
配列番号:5は、発現プラスミドpET15b由来のHisタグ配列である。
配列番号:6は、フォワードプライマーM470Fの配列である。
図面
【図1】
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