TOP > 国内特許検索 > 脂質二重膜の特性の検査方法、薬剤のスクリーニング方法、および脂質二重膜の特性の解析システム > 明細書

明細書 :脂質二重膜の特性の検査方法、薬剤のスクリーニング方法、および脂質二重膜の特性の解析システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-113417 (P2019-113417A)
公開日 令和元年7月11日(2019.7.11)
発明の名称または考案の名称 脂質二重膜の特性の検査方法、薬剤のスクリーニング方法、および脂質二重膜の特性の解析システム
国際特許分類 G01N  13/02        (2006.01)
FI G01N 13/02
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 25
出願番号 特願2017-246976 (P2017-246976)
出願日 平成29年12月22日(2017.12.22)
発明者または考案者 【氏名】老木 成稔
【氏名】岩本 真幸
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
要約 【課題】脂質二重膜の特性を簡易に検査することができる新規の検査方法を提供すること。
【解決手段】脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜の特性の検査方法であり、内圧検出工程、長短径検出工程、および、接触角検出工程、を含み、検出値に基づいて脂質二重膜の張力γを算出することを特徴とする、脂質二重膜の特性の検査方法を提供する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜の特性の検査方法であり、
上記第一のバブルの内圧ΔPおよび上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する内圧検出工程、
上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出する長短径検出工程、
上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する接触角検出工程、ならびに、
下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出工程、を含むことを特徴とする、脂質二重膜の特性の検査方法。
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
【請求項2】
さらに、
上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出工程、
上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出工程、および、
下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出工程、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の脂質二重膜の特性の検査方法。
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である)
【請求項3】
脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜を用いた、上記脂質二重膜の特性を変化させる薬剤のスクリーニング方法であり、
上記脂質二重膜中に対して薬剤の導入を行う薬剤導入工程、
上記薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出工程、および、
上記張力γを基準値と比較することによって薬剤を判定する第1の薬剤判定工程、を含み、
上記張力算出工程は、
上記第一のバブルの内圧ΔPおよび上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する内圧検出工程、
上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出する長短径検出工程、ならびに
上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する接触角検出工程、を含み
下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する工程であることを特徴とする、薬剤のスクリーニング方法。
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
【請求項4】
さらに、
上記薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出工程、および、
上記膜厚Tを基準値と比較することによって薬剤を判定する第2の薬剤判定工程、を含み、
上記膜厚算出工程は、
上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出工程、および
上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出工程、を含み、
下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する工程であることを特徴とする、請求項3に記載の薬剤のスクリーニング方法。
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である)
【請求項5】
脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜の特性の解析システムであり、
上記第一のバブルの内圧ΔPを検出する第一の内圧検出部、および、上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する第二の内圧検出部、
上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出し、かつ、上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する、長短径-接触角検出部、ならびに、
下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出部、を備えることを特徴とする、脂質二重膜の特性の解析システム。
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
【請求項6】
さらに、
上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出部、
上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出部、および、
下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出部、を備えることを特徴とする、請求項5に記載の脂質二重膜の特性の解析システム。
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質二重膜の特性の検査方法、薬剤のスクリーニング方法、および脂質二重膜の特性の解析システム、に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、一般的に、脂質二重膜にて形成されている細胞膜によって覆われており、当該細胞膜によって、細胞と外界との境界が形成されている。
【0003】
細胞膜は、外界から細胞内へ物質が自由拡散することを防ぐ機能を有しているのみならず、外界から細胞内へ物質を選択的に取り込む機能も有している。このような細胞膜の機能は、細胞膜を形成している脂質や、細胞膜中に埋め込まれている様々な膜タンパク質などによって発現されている。
【0004】
近年、細胞膜の研究の発展に伴い、人工的に脂質二重膜を作製する技術の開発、および、当該脂質二重膜の特性を検査および解析する技術の開発、が求められている(例えば、特許文献1、および非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2014-100672号公報(2014年6月5日公開)
【0006】

【非特許文献1】Masayuki Iwamoto & Shigetoshi Oiki, Sci. Rep. 5, 9110, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、脂質二重膜の特性(例えば、膜の厚さおよび膜張力などの物理的特性)を検査および解析する従来の技術は、脂質二重膜の特性を、簡易に検査または解析するという観点からは十分なものでなく、さらなる改善の余地があった。
【0008】
本発明の一実施形態の目的は、脂質二重膜の特性を検査することができる検査方法、および、脂質二重膜の特性を解析することができる解析システムを提供することである。また、本発明の他の一実施形態の目的は、脂質二重膜の特性を変化させる薬剤をスクリーニングできる薬剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜の特性の検査方法であり、上記第一のバブルの内圧ΔPおよび上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する内圧検出工程、上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出する長短径検出工程、上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する接触角検出工程、ならびに、下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出工程、を含むことを特徴とする、脂質二重膜の特性の検査方法。
【0010】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
〔2〕さらに、上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出工程、上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出工程、および、下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出工程、を含むことを特徴とする、〔1〕に記載の脂質二重膜の特性の検査方法。
【0011】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
〔3〕脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜を用いた、上記脂質二重膜の特性を変化させる薬剤のスクリーニング方法であり、上記脂質二重膜中に対して薬剤の導入を行う薬剤導入工程、上記薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出工程、および、上記張力γを基準値と比較することによって薬剤を判定する第1の薬剤判定工程、を含み、上記張力算出工程は、上記第一のバブルの内圧ΔPおよび上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する内圧検出工程、上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出する長短径検出工程、ならびに上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する接触角検出工程、を含み下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する工程であることを特徴とする、薬剤のスクリーニング方法。
【0012】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
〔4〕さらに、上記薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出工程、および、上記膜厚Tを基準値と比較することによって薬剤を判定する第2の薬剤判定工程、を含み、上記膜厚算出工程は、上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出工程、および上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出工程、を含み、下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する工程であることを特徴とする、〔3〕に記載の薬剤のスクリーニング方法。
【0013】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
〔5〕脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜の特性の解析システムであり、上記第一のバブルの内圧ΔPを検出する第一の内圧検出部、および、上記第二のバブルの内圧ΔPを検出する第二の内圧検出部、上記第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、上記第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出し、かつ、上記脂質二重膜と上記第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび上記脂質二重膜と上記第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する、長短径-接触角検出部、ならびに、下記式(1)~(5)から上記脂質二重膜の張力γを算出する張力算出部、を備えることを特徴とする、脂質二重膜の特性の解析システム。
【0014】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは上記第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは上記第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は上記脂質二重膜における上記第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は上記脂質二重膜における上記第二のバブルの側の単分子層の張力である)
〔6〕さらに、上記脂質二重膜の静電容量Cを検出する静電容量検出部、上記脂質二重膜の面積Aを検出する面積検出部、および、下記式(6)から上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する膜厚算出部、を備えることを特徴とする、〔5〕に記載の脂質二重膜の特性の解析システム。
【0015】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、脂質二重膜の特性を簡易に検査または解析することができる。また、本発明の他の一実施形態によれば、脂質二重膜の特性を変化させる薬剤を簡易にスクリーニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る解析システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る解析システムの構成を示す概略図である。
【図3】(a)本発明の一実施形態に係る解析システムにおける脂質二重膜形成部の構成を示す概略図であり、脂質二重膜に垂直な断面の断面図である。(b)図3の(a)のA-A線矢視断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る解析システムを示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る解析システムを示すブロック図である。
【図6】(a)バブルの維持圧の減圧にともなう2つのバブルおよび脂質二重膜の形状の変化を示す図である。(b)図6の(a)を模式的に示した概略図である。
【図7】バブルの維持圧の減圧にともなうイオン電流の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。

【0019】
〔1.本発明の特徴点〕
本発明の一実施形態に係る検査方法は、脂質二重膜の特性(具体的には、物理的特性である張力)を測定するために、バブルの内圧、バブルの長径および短径、ならびに、バブルを覆っている脂質一重膜と脂質二重膜との接触角を、それぞれ一度測定(検出)すればよい。

【0020】
また、本発明の一実施形態に係る検査方法は、脂質二重膜の特性(具体的には、物理的特性である膜厚)を測定するために、脂質二重膜の、静電容量と面積とを、それぞれ一度測定(検出)すればよい。

【0021】
従って、本発明の一実施形態に係る検査方法は、ある組成の脂質二重膜の物理的特性である張力および膜厚を、極めて簡便にかつ短時間に算出(例えば、リアルタイムにて算出)することができる。

【0022】
また、本発明の一実施形態に係る検査方法では、脂質二重膜の張力だけでなく、脂質二重膜を構成する、バブル由来の2枚の単分子層の各張力を算出することもできる。なお、上記単分子層とは、バブルの脂質一重膜のうち、脂質二重膜を構成している部分のことである。

【0023】
〔2.脂質二重膜の特性の検査方法〕
本発明の一実施形態は、内圧検出工程、長短径検出工程、接触角検出工程、および張力算出工程、を含む、脂質二重膜の特性の検査方法を提供する。

【0024】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜の特性の検査方法は、上述した構成を有することにより、脂質二重膜の特性、特に脂質二重膜の張力、を簡易に検査することができるという利点を有する。

【0025】
本明細書において、「脂質二重膜の特性の検査方法」を単に「検査方法」とも称する。

【0026】
(脂質二重膜形成工程)
本発明の一実施形態に係る検査方法において、検査される脂質二重膜は、脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜である。故に、本検査方法は、脂質二重膜を形成する脂質二重膜形成工程を含んでいてもよい。

【0027】
本脂質二重膜形成工程において、脂質二重膜を形成する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法が用いられ得る。例えば、次の(1)および(2)を有する方法が挙げられる:
(1)油(油相とも称する)の中に水溶液からなるバブル(液滴とも称する。)を少なくとも2つ形成する。ここで、油の中に形成された水溶液からなるバブルでは、バブルの形成後、油中に含まれる、または、バブル内の水溶液中に含まれる、所望の脂質がバブルと油との界面に移動することによって、当該界面において、当該脂質を含む脂質一重膜が形成される。その結果、バブルは、脂質一重膜で覆われたバブルとなる;
(2)次に、脂質一重膜で覆われた複数のバブルのうち少なくとも2つのバブル(すなわち、第一のバブルおよび第二のバブル)を接触させることによって、それらバブルの接触面に脂質二重膜が形成される。

【0028】
ここで、バブルを構成する水溶液は、電解質溶液であってもよい。水溶液が電解質溶液である場合には、バブルは、電解質溶液バブルともいえる。

【0029】
油の中に水溶液からなるバブルを形成する方法としては、以下の(1)~(3)の方法が挙げられるが、これらに限定されない:(1)マイクロピペットまたはシリンジなどによって油へ水溶液を滴下する方法(以下、滴下方法とも称する);(2)マイクロピペットまたはシリンジの先端を油の中に挿入し、油の中に水溶液を注入する方法(以下、注入方法とも称する);および(3)(i)少なくとも2つの微小流路を、各微小流路の開口部が近接するように、かつ、各微小流路の開口部がバブル形成用流路内に満たされた油の中に浸かった状態にて配置し、(ii)その後、各開口部から水溶液を放出して、油の中に、水溶液からなるバブルを形成させた後、開口部からの水溶液の放出を停止する、方法。

【0030】
2つのバブルを接触させる方法としては、例えば、2つのバブルをマニピュレーターで操作する方法、および、一方のバブルを形成した後、当該バブルの上に他方のバブルを形成し、重力を利用して2つのバブルを接触させる方法、および、2つの微小流路系の開口部同士を近接させることによって当該2つの開口部から膨らんだバブル同士を自動的に接触させる方法、が挙げられるがこれらに限定されない。

【0031】
本脂質二重膜形成工程は、特願2017—063796に記載の技術を用いて実施されてもよい。なお、特願2017—063796の全体が、本明細書中において参考文献として援用される。

【0032】
本脂質二重膜形成工程で使用する油は、特に限定されないが、リン脂質、ヘキサデカン、デカン、スクアレン、シリコンオイル、およびミネラルオイル等があげられる。これらの中でも、形成された2枚の脂質一重膜の間隙に入り込まず、形成された脂質二重膜が生体膜に近い膜構造となること、および揮発性の低さからヘキサデカンが好ましい。

【0033】
油には、脂質一重膜を形成可能な脂質が含まれていてもよい。別の構成としては、水溶液に、脂質一重膜を形成可能な脂質が含まれていてもよい。別の構成としては、油および水溶液の両方に、脂質一重膜を形成可能な脂質が含まれていてもよい。油が脂質一重膜を形成可能な脂質を含む場合には、水溶液に脂質一重膜を形成可能な脂質が含まれていない場合であっても、バブルが脂質一重膜で覆われることが可能になる。

【0034】
上記脂質一重膜を形成可能な脂質としては、脂質二重膜を形成できる限り特に限定されないが、例えばリン脂質、およびコレステロールがあげられる。リン脂質としては、特に限定されないが、例えば、ホスファチジルコリン、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、およびホスファチジルグリセロール等があげられる。

【0035】
油が脂質一重膜を形成可能な脂質を含む場合、当該脂質の濃度は特に限定されないが、10mg/ml~200mg/mlであることが好ましく、15mg/ml~150mg/mlであることがより好ましく、25mg/ml~100mg/mlであることがさらに好ましく、40mg/ml~60mg/mlであることが特に好ましい。上記構成であれば、水溶液が脂質一重膜を形成可能な脂質を含まない場合であっても、短時間(例えば、10秒未満)の脂質一重膜層形成時間を実現できる。

【0036】
本脂質二重膜形成工程で使用する水溶液は、水を主成分とする溶液であれば特に限定されず、水溶液は様々な成分(例えば、塩、塩基、糖、脂質、およびタンパク質など)を含んでいてもよい。水溶液の組成は、適宜設定されることが可能であり、例えば、特定の細胞質ゾルの成分、血液成分、またはリンパ液成分など生体内の特定の環境の成分を模した組成であってもよい。

【0037】
水溶液に含まれる塩としては、特に限定されないが、生体中に含まれる塩などから適宜選択され、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、およびリン酸塩等の金属塩、ならびにアミノ酸塩等があげられる。

【0038】
水溶液に含まれる塩基としては、特に限定されないが、グアニン、アデニン、チミン、およびシトシン等があげられる。

【0039】
水溶液に含まれる脂質としては、特に限定されないが、コレステロール、糖脂質、リン脂質、および複合脂質等があげられる。これら脂質成分の中には、形成されたバブルにおいて、バブルと油との界面に移動し、脂質一重膜の成分になり得るものもある。そのような、脂質一重膜の成分になり得る脂質は、コレステロール、糖脂質、リン脂質、および複合脂質等である。つまり、本発明の一実施形態では、バブルを覆っている脂質一重膜は、コレステロール、糖脂質、リン脂質、および複合脂質等の脂質を含んでもよい。

【0040】
水溶液は、脂質一重膜を形成可能な脂質を含んでもよい。水溶液が脂質一重膜を形成可能な脂質を含む場合には、油に脂質一重膜を形成可能な脂質が含まれていない場合であっても、バブルが脂質一重膜で覆われることが可能になる。水溶液に含まれる脂質一重膜を形成可能な脂質としては、油に含まれる脂質一重膜を形成可能な脂質と同様の物質をあげることができ、上述した通りである。

【0041】
水溶液が脂質一重膜を形成可能な脂質を含む場合、当該脂質の濃度は特に限定されないが、10mg/ml~200mg/mlであることが好ましく、15mg/ml~150mg/mlであることがより好ましく、25mg/ml~100mg/mlであることがさらに好ましく、40mg/ml~60mg/mlであることが特に好ましい。上記構成であれば、水溶液が脂質一重膜を形成可能な脂質を含まない場合であっても、短時間(例えば、10秒未満)の脂質一重膜層形成時間を実現できる。

【0042】
水溶液に含まれるタンパク質としては、特に限定されないが、酵素タンパク質、輸送タンパク質、および膜タンパク質等があげられる。これらのタンパク質は、脂質二重膜内に埋め込まれ、これによって、細胞膜を再現することができる。

【0043】
膜タンパク質としては、限定されず、各種イオンチャネル、膜貫通接着タンパク質、トランスポータ、および膜貫通型輸送タンパク質等があげられる。また、上記タンパク質は、膜タンパク質であるか否かが不明なタンパク質、膜タンパク質であるが機能未知なタンパク質、または、機能が未知なタンパク質であってもよい。

【0044】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜形成方法ではまた、脂質二重膜を形成すると同時に、または、脂質二重膜が形成された後に、例えば、自由拡散、および/または、マイクロピペットなどを用いること、によって、膜タンパク質を脂質二重膜に埋め込むことが可能である。

【0045】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜形成方法ではまた、チャネルタンパク質等の膜タンパク質を発現させる方法を含んでいてもよい。この場合には、発現された膜タンパク質が自由拡散、および/または、マイクロピペットなどを用いること、によって、脂質二重膜に埋め込まれ得る。

【0046】
膜タンパク質を発現させる方法としては、例えば、バブル内の水溶液が膜タンパク質をコードする遺伝子(DNA、RNA等)を含み、かつ、遺伝子をインヴィトロで転写および翻訳させるために必要な任意のタンパク質を含むことによって、達成され得る。また、膜タンパク質以外のタンパク質と、膜に移行させるためのシグナルペプチドとからなる融合タンパク質を発現させてもよい。

【0047】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜形成方法ではまた、膜タンパク質の機能を測定する方法を含んでいてもよい。例えば、膜タンパク質としてチャネルタンパク質を用いる場合には、バブル内に電流を検出する電流検出部を設け、かつ、脂質二重膜にあらかじめ膜電位を負荷しておくことにより、チャネルタンパク質の機能を単一チャネル電流として測定できる。

【0048】
これら膜タンパク質を発現させる方法および膜タンパク質の機能を測定する方法を組み合わせることにより、本発明の一実施形態は、膜タンパク質を発現させるとともに、膜タンパク質の機能をリアルタイムで測定できるシステムを提供できる。当該システムの具体例としては、次のようなシステムが挙げられる。システムが備える第一のバブルにチャネルタンパク質をコードするDNAと、当該DNAをインヴィトロで転写および翻訳させ得る任意のタンパク質とを導入する。次に、当該システムを37度に維持することにより、チャネルタンパク質がバブル内で合成され、当該チャネルタンパク質は自発的に脂質二重膜に移行する。脂質二重膜にあらかじめ膜電位を負荷しておくことによって、チャネルタンパク質の機能を、単一チャネル電流として測定できる。

【0049】
本脂質二重膜形成工程ではまた、脂質二重膜が形成された後に、脂質二重膜を形成するバブル内に、任意の成分を添加することが可能であるか、または、バブルから任意の成分を回収することも可能である。この場合には、例えば、マイクロピペットなどを用いて、バブル内に任意の成分を注入、または、バブル内の任意の成分を吸引すればよい。

【0050】
本検査方法では、第一のバブルと第二のバブルとは、大きさ(長径および短径)、内圧、バブル内部の水溶液の組成、および、バブルを覆う脂質一重膜の組成、が同じであってもよく、または異なっていてもよい。ここで、「水溶液の組成」とは、上述したような、水溶液に含まれる様々な成分の種類および含有量など、を指す。また、「脂質一重膜の組成」とは、脂質一重膜に含まれる様々な成分(例えば、リン脂質、およびコレステロールなどの脂質、ならびに、膜タンパク質などのタンパク質)の種類および含有量などを指す。
また、第一のバブルと第二のバブルとは、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角が異なっていてもよい。さらに、上述した点の相違の結果として、第一のバブルと第二のバブルとは、バブルを覆う脂質一重膜の張力および/または膜厚、が同じであってもよく、または異なっていてもよい。

【0051】
(内圧検出工程)
内圧検出工程は、第一のバブルの内圧ΔPおよび第二のバブルの内圧ΔPを検出する工程である。また、検出された内圧ΔPおよび内圧ΔPの情報は、内圧信号として、後述する張力算出工程に用いられ得る。

【0052】
ここで、内圧ΔPおよび内圧ΔPを合わせて、内圧ΔPとも称する。また、内圧ΔPは、バブルの脂質一重膜にかかる圧力でもあり、油相からバブルの脂質一重膜にかかる圧力と、バブル内部から、バブルの脂質一重膜にかかる圧力との差である。

【0053】
本内圧検出工程は、バブルの内圧ΔPを検出することができればよく、内圧ΔPを検出するための具体的な方法は、特に限定されない。内圧ΔPを検出するための方法のいくつかの例を以下に記載するが、本発明は、これらの方法に限定されない。

【0054】
例えば、油の中に水溶液からなるバブルを形成する方法が上述した注入方法である場合には、水溶液を油の中に注入する時に水溶液に加えられる圧力を、内圧ΔPとすることができる。この場合には、水溶液を注入するマイクロピペットまたはシリンジの内側の空間内に設けられたセンサによって、水溶液に加えられる圧力(印加する圧力)を検出することができる。さらに、かかる圧力に基づき内圧ΔPを得、得られた内圧ΔPの値を、後述する張力算出工程に用いることができる。

【0055】
また、例えば、バブルの中に挿入されたセンサによって、バブルの中の圧力を直接検出し、かかる圧力に基づき内圧ΔPを得、得られた内圧ΔPの値を、後述する張力算出工程に用いることができる。

【0056】
つまり、本内圧検出工程は、バブルの中の圧力を直接検出する工程であってもよいし、バブルに加えられる力から、バブルの中の圧力を間接的に検出する工程であってもよい。

【0057】
上述したセンサとしては、それぞれの検出対象を検出できる限り特に限定されず、周知のセンサを使用することができる。

【0058】
ここで、脂質二重膜を形成する二つのバブル、第一のバブルおよび第二のバブル、について、バブルの内部の水溶液の組成、および、バブルを覆う脂質一重膜の組成がともに同じである場合を考える。この場合には、内圧ΔPおよび内圧ΔPは等しいと仮定してもよい。従って、脂質二重膜を形成する二つのバブルのうちのいずれか一方のバブルの内圧ΔPを検出して、当該内圧ΔPを、内圧ΔPおよび内圧ΔPとしてもよい。

【0059】
(長短径検出工程)
長短径検出工程は、第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、第二のバブルの長径R12および短径R22、を検出する工程である。ここで、第一のバブルの長径R11および第二のバブルの長径R12を合わせて、長径Rとも称し、第一のバブルの短径R21および第二のバブルの短径R22を合わせて、短径Rとも称する。検出された長径Rおよび短径Rの情報は、それぞれ、後述する張力算出工程に用いられ得る。

【0060】
本長短径検出工程は、バブルの長径Rおよびバブルの短径Rを検出することができればよく、バブルの長径Rおよび短径Rを検出するための具体的な方法は、特に限定されない。なお、バブルの長径Rとは、バブルの径のうち最も長い径を指し、バブルの短径Rとは、バブルの径のうち最も短い径を指す。また、バブルの径は、バブルの中心を通る直線のうち、バブルの脂質一重膜によって切り取られた線分の長さである。本長短径検出工程の一例を、以下に説明する。

【0061】
本長短径検出工程では、例えば、撮像部を用いてバブルを撮像し、撮像データから、バブルの長径Rおよび短径Rを検出してもよい。

【0062】
本長短径検出工程では、二つのバブルがともに写しだされた一つの撮像データを取得することが好ましい。また、二つのバブルがともに写しだされた一つの撮像データを取得する場合には、これら二つのバブルは、撮像データにおいて互いに重なり合わないことが好ましい。撮像部を用いて、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面に対して平行な方向から二つのバブルを撮像することによって、互いに重なり合わない二つのバブルを含む一つの撮像データを取得することが可能となる。脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面に対して平行な方向は、脂質二重膜に対して平行な方向ともいえる。また、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面は、2つのバブルの接触面でもある。

【0063】
本検査方法におけるバブルの形状は特に限定されないが、楕円形および略真円形などの略円形であり得る。

【0064】
ここで、脂質二重膜を形成する二つのバブル(第一のバブルおよび第二のバブル)について、バブルの内部の水溶液の組成、および、バブルを覆う脂質一重膜の組成がともに同じである場合を考える。この場合には、長径R11および長径R12は等しく、また、短径R21および短径R22は等しいと仮定することができる。従って、脂質二重膜を形成する二つのバブルのうちのいずれか一方のバブルの長径および短径を検出して、当該長径および短径を、第一のバブルの長径R11および短径R21、ならびに、第二のバブルの長径R12および短径R22とすることができる。

【0065】
(接触角検出工程)
本検査方法が含む接触角検出工程は、脂質二重膜と第一のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θおよび脂質二重膜と第二のバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θ、を検出する工程である。また、検出された接触角θおよび接触角θの情報は、後述する張力算出工程に用いることができる。

【0066】
本明細書において、「脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面」を、「脂質二重膜とバブルとの境界面」、または単に「境界面」と称する場合もある。また、上述したように、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面は、2つのバブルの接触面でもある。

【0067】
本接触角検出工程は、脂質二重膜とバブルとの境界面に発生する接触角θを検出することができればよく、接触角θを検出するための具体的な方法は特に限定されない。本接触角検出工程の一例を、以下に説明する。

【0068】
本接触角検出工程では、例えば、撮像部を用いて境界面を撮像し、当該撮像データから接触角θを検出してもよい。

【0069】
本接触角検出工程において、境界面を撮像する場合には、境界面に対して平行な方向から接触角を撮像することが好ましい。上記の構成であれば、境界面とバブルとが重なり合わないため、正確に接触角θを検出することができる。

【0070】
ここで、脂質二重膜を形成する二つのバブル(第一のバブルおよび第二のバブル)について、バブルの内部の水溶液の組成、および、バブルを覆う脂質一重膜の組成がともに同じである場合を考える。この場合には、接触角θおよび接触角θは等しいと仮定することができる。従って、脂質二重膜を形成する二つのバブルのうちのいずれか一方のバブルの接触角θを検出して、当該接触角θを、接触角θおよび接触角θとしてもよい。

【0071】
(張力算出工程)
本検査方法が含む張力算出工程は、下記式(1)~(5)から脂質二重膜の張力γを算出する工程である。

【0072】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は脂質二重膜における第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は脂質二重膜における第二のバブルの側の単分子層の張力である)。

【0073】
具体的には、本張力算出工程は、(i)第一のバブルの内圧ΔP、第一のバブルの長径R11および短径R21から、式(1)に基づき、第一のバブルの脂質一重膜の張力γを算出し、(ii)第二のバブルの内圧ΔP、第二のバブルの長径R12および短径R22から、式(2)に基づき、第二のバブルの脂質一重膜の張力γを算出し、(iii)上記(i)で得られた張力γから、式(3)に基づき、脂質二重膜における第一のバブルの側の単分子層の張力γb1を算出し、(iv)上記(ii)で得られた張力γから、式(4)に基づき、脂質二重膜における第二のバブルの側の単分子層の張力γb2を算出し、かつ、(v)上記(iii)で得られた張力γb1および上記(iv)で得られた張力γb2から、式(5)に基づき、脂質二重膜の張力γを算出する工程である。

【0074】
ここで、内圧ΔPおよび内圧ΔPは、上記内圧検出工程にて検出された内圧ΔPであり得、長径Rおよび短径Rは、上記長短径検出工程にて検出された長径Rおよび短径Rであり得、接触角θは、上記接触角検出工程にて検出された接触角θであり得る。

【0075】
本張力算出工程では、脂質二重膜の張力γを算出することができる限り、張力γを算出するための具体的な方法は特に限定されず、周知の方法を用いることができる。本張力算出工程では、例えば、記憶部及び演算部を備えるコンピュータなどを使用することができる。

【0076】
ここで、脂質二重膜を形成する二つのバブル(第一のバブルおよび第二のバブル)について、バブルの内部の水溶液の組成、および、バブルを覆う脂質一重膜の組成がともに同じである場合を考える。この場合には、張力γおよび張力γは等しく、また、張力γb1および張力γb2は等しいと仮定することができる。従って、脂質二重膜を形成する二つのバブルのうちのいずれか一方のバブルについて脂質一重膜の張力、および単分子層の張力を算出し、当該単分子層の張力を、張力γb1および張力γb2としてもよい。

【0077】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜の特性の検査方法は、さらに、静電容量検出工程、面積検出工程、および膜厚算出工程を含み、脂質二重膜の膜厚Tを算出することが好ましい。

【0078】
本発明の一実施形態に係る検査方法、すなわち本検査方法は、上述した構成を有することにより、脂質二重膜の特性として、脂質二重膜の張力に加えて脂質二重膜の膜厚を、簡易に検査することができるという利点を有する。

【0079】
(静電容量検出工程)
静電容量検出工程は、脂質二重膜の静電容量Cを検出する工程である。また、検出された静電容量Cの情報は、後述する膜厚算出工程に用いられ得る。

【0080】
本静電容量検出工程は、脂質二重膜の静電容量Cを検出することができればよく、静電容量Cを検出するための具体的な方法は特に限定されず、周知の方法を用いることができる。本静電容量検出工程の一例を、以下に説明する。

【0081】
例えば、第一のバブルの中、および第二のバブルの中、にそれぞれ配置した電極を使用し、当該電極間にランプ波を発生させることによって脂質二重膜の容量性電流値を取得し、当該容量性電流値から、静電容量Cを検出することができる。この場合には、上記電極間に脂質二重膜が存在するように、各電極を配置する。脂質二重膜の静電容量Cをより正確に検出する観点から、上記各電極は、脂質二重膜に近い位置に配置することが好ましい。ランプ波を発生させるための装置としては、特に限定されず、周知の装置を用いることができる。

【0082】
(面積検出工程)
面積検出工程は、脂質二重膜の面積Aを検出する工程である。また、検出された面積Aの情報は、後述する膜厚算出工程に用いられ得る。

【0083】
本面積検出工程は、脂質二重膜の面積Aを検出することができればよく、面積Aを検出するための具体的な方法は特に限定されない。本面積検出工程の一例を、以下に説明する。

【0084】
本面積検出工程では、例えば、撮像部を用いて脂質二重膜を撮像し、撮像データを取得することによって、面積Aを検出してもよい。

【0085】
本面積検出工程において、脂質二重膜を撮像する場合には、脂質二重膜に対して垂直な方向から脂質二重膜を撮像することが好ましい。上記の構成であれば、脂質二重膜の全面が写しだされた撮像データを取得できるため、正確に面積Aを検出することができる。脂質二重膜に対して垂直な方向は、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面に対して垂直な方向ともいえる。

【0086】
また、脂質二重膜が真円であると近似できる場合には、脂質二重膜に平行な方向から脂質二重膜を撮像することによって、得られた撮像データから脂質二重膜の直径を取得することができ、かかる直径から、面積Aを検出することができる。脂質二重膜に平行な方向は境界面に対して平行な方向である。それ故に、脂質二重膜が真円であると近似できる場合には、上記接触角検出工程にて得られた撮像データから、面積Aを検出することができる。ここで、脂質二重膜が真円であると近似できる場合とは、例えばバブルの直径が50μm以下の場合などである。

【0087】
(膜厚算出工程)
本検査方法が含む膜厚算出工程は、下記式(6)から脂質二重膜の膜厚Tを算出する工程である。

【0088】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
具体的には、本膜厚算出工程は、脂質二重膜の静電容量Cおよび面積A、ならびに、脂質二重膜の比誘電率ε、および真空の誘電率εから、式(6)に基づき、脂質二重膜の膜厚Tを算出する。また、脂質二重膜の膜厚Tの算出は、解析部を用いて行われてもよい。

【0089】
ここで、静電容量Cは、上記静電容量検出工程にて検出された静電容量Cであり得、面積Aは、上記面積検出工程にて検出された面積Aであり得る。

【0090】
本明細書において、「脂質二重膜の比誘電率」とは、また、脂質二重膜の疎水性コア領域に存在するリン脂質の炭化水素鎖層と当該炭化水素鎖層に挟まれた油とからなる複合層を均一の油相とみなしたとき、当該複合層の比誘電率である。油がヘキサデカンである場合には、脂質二重膜の比誘電率は、例えば2.2である。

【0091】
上記「真空の誘電率」は、基礎物理定数であり、本明細書では、科学技術データ委員会(Committee on Data for Science and Technology: CODATA)によって提供された推奨値を採用するものとする。例えば、真空の誘電率を2014年の推奨値に基づき、小数点以下第4位を四捨五入して小数点以下第3位まで示すと、8.854×10-12Fm-1である。

【0092】
〔3.薬剤のスクリーニング方法〕
本発明の他の一実施形態は、薬剤導入工程、張力算出工程、および、第1の薬剤判定工程、を含む、脂質二重膜の特性を変化させる薬剤のスクリーニング方法を提供する。

【0093】
本発明の一実施形態に係る薬剤のスクリーニング方法は、上述した構成を有することにより、脂質二重膜の特性、特に脂質二重膜の張力、を変化させる薬剤を簡易にスクリーニングすることができるという利点を有する。

【0094】
本明細書中において、「薬剤のスクリーニング方法」を「薬剤スクリーニング方法」とも称する。

【0095】
(脂質二重膜形成工程)
本発明の一実施形態に係る薬剤スクリーニング方法は、脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成される脂質二重膜を用いる。故に、本薬剤スクリーニング方法は、脂質二重膜を形成する脂質二重膜形成工程を含んでいてもよい。

【0096】
本薬剤スクリーニング方法における脂質二重膜形成工程の態様は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が援用され得る。

【0097】
(薬剤導入工程)
薬剤導入工程は、脂質二重膜中に対して薬剤の導入を行う工程である。

【0098】
本薬剤導入工程は、脂質二重膜中に薬剤を導入することができればよく、薬剤の導入を行う方法は、特に限定されない。例えば、マイクロピペットなどを用いて、油に、および/または、バブル内に、薬剤を添加する方法を挙げることができる。油およびバブル内に添加された薬剤は、拡散または脂質二重膜中の任意の成分との相互作用によって、脂質二重膜中に導入され得る。

【0099】
本薬剤導入工程では、より簡便に薬剤を導入するために、潅流法により、脂質二重膜中に対して薬剤が導入されることが好ましい。潅流法について、以下に説明する。

【0100】
潅流法は、油中における脂質二重膜とバブルとの境界面(すなわち脂質二重膜)の近傍において任意の成分を噴射することにより、当該成分を脂質二重膜中に導入する方法である。噴射された任意の成分は、速やかに、脂質二重膜中に組み込まれる。

【0101】
(張力算出工程)
張力算出工程は、薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の張力γを算出する工程であり、内圧検出工程、長短径検出工程、および接触角検出工程を含み、下記式(1)~(5)から脂質二重膜の張力γを算出する工程である。

【0102】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは第一のバブルの脂質一重膜の張力であり、γは第二のバブルの脂質一重膜の張力であり、γb1は脂質二重膜における第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は脂質二重膜における第二のバブルの側の単分子層の張力である)
本薬剤スクリーニング方法が含む張力算出工程における内圧検出工程、長短径検出工程、および接触角検出工程の態様は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が援用され得る。

【0103】
また、本薬剤スクリーニング方法が含む張力算出工程は、内圧ΔP、長径R、および短径Rから脂質一重膜の張力を算出し、さらに、当該脂質一重膜の張力および接触角θから脂質二重膜の張力γを算出するものである。従って、本薬剤スクリーニング方法が含む張力算出工程の実質的態様は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項で説明した張力算定工程の態様と同じであり、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が援用され得る。

【0104】
(第1の薬剤判定工程)
第1の薬剤判定工程は、張力算出工程を通して得られた張力γを基準値と比較することによって薬剤を判定する工程である。

【0105】
上記基準値は、薬剤の導入の前に張力算出工程を通して得られた張力γの値であってもよく、他の薬剤の導入後に張力算出工程を通して得られた張力γの値であってもよく、または、あらかじめ設定された所定の値であってもよい。

【0106】
張力γの値が変化すると、脂質二重膜中に存在する膜タンパク質の機能が変化し得る。つまり、張力γを変化させ得る薬剤は、膜タンパク質の機能を調節し得る(例えば、膜タンパク質の酵素活性を上昇させる、または、膜タンパク質の酵素活性を低下させる。)。それ故に、第1の薬剤判定工程によって、膜タンパク質を標的とする薬剤の候補になり得る物質を選択することができる。

【0107】
上記「張力算出工程を通して得られた張力γを基準値と比較することによって薬剤を判定する」とは、例えば、張力算出工程を通して得られた張力γと基準値との差の絶対値に基づいて、投与した薬剤が脂質二重膜の張力γを変化させ得る薬剤であるか否か、を判定することを意図する。

【0108】
本発明の一実施形態に係る薬剤スクリーニング方法は、さらに、膜厚算出工程、および第2の薬剤判定工程を含むことが好ましい。

【0109】
本発明の一実施形態に係る薬剤スクリーニング方法、すなわち本薬剤スクリーニング方法は、上述した構成を有することにより、脂質二重膜の特性として、脂質二重膜の張力に加えて脂質二重膜の膜厚、を変化させる薬剤を簡易にスクリーニングすることができるという利点を有する。

【0110】
(膜厚算出工程)
膜厚算出工程は、薬剤の導入の後に上記脂質二重膜の膜厚Tを算出する工程であり、静電容量検出工程、および面積検出工程を含み、下記式(6)から脂質二重膜の膜厚Tを算出する工程である。

【0111】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
本薬剤スクリーニング方法が含む膜厚算出工程における静電容量検出工程、および面積検出工程の態様は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が援用され得る。

【0112】
また、本薬剤スクリーニング方法が含む膜厚算出工程は、静電容量C、面積A、脂質二重膜の比誘電率ε、および真空の誘電率εから脂質二重膜の膜厚Tを算出するものである。従って、本薬剤スクリーニング方法が含む膜厚算出工程の実質的態様は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項で説明した膜厚算定工程の態様と同じであり、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が援用され得る。

【0113】
(第2の薬剤判定工程)
第2の薬剤判定工程は、膜厚算出工程を通して得られた膜厚Tを基準値と比較することによって薬剤を判定する工程である。

【0114】
上記基準値は、薬剤の導入の前に膜厚算出工程を通して得られた膜厚Tの値であってもよく、他の薬剤の導入後に膜厚算出工程を通して得られた膜厚Tの値であってもよく、または、あらかじめ設定された所定の値であってもよい。

【0115】
膜厚Tの値が変化すると、脂質二重膜中に存在する膜タンパク質の機能が変化し得る。つまり、膜厚Tを変化させ得る薬剤は、膜タンパク質の機能を調節し得る(例えば、膜タンパク質の酵素活性を上昇させる、または、膜タンパク質の酵素活性を低下させる。)。それ故に、第2の薬剤判定工程によって、薬剤の候補になり得る物質を選択することができる。

【0116】
上記「膜厚算出工程を通して得られた膜厚Tを基準値と比較することによって薬剤を判定する」とは、例えば、膜厚算出工程を通して得られた膜厚Tと基準値との差の絶対値に基づいて、投与した薬剤が脂質二重膜の膜厚Tを変化させ得る薬剤であるか否か、を判定することを意図する。

【0117】
〔4.脂質二重膜の特性の解析システム〕
本発明の他の一実施形態は、第一の内圧検出部および第二の内圧検出部、長短径-接触角検出部、ならびに、張力算出部を備える、脂質二重膜の特性の解析システムを提供する。

【0118】
本発明の一実施形態に係る脂質二重膜の特性の解析システムは、上述した構成を有することにより、脂質二重膜の特性、特に脂質二重膜の張力、を簡易に解析することができるという利点を有する。

【0119】
本発明の一実施形態に係る解析システム、すなわち本解析システムについて、図1~5を参照して説明する。

【0120】
図1は、本発明の一実施形態に係る解析システム100の構成を示す概略図である。解析システム100は、脂質二重膜形成部1、第一の内圧検出部10、第二の内圧検出部20、長短径-接触角検出部30、および張力算出部40を備える。ここで、解析システム100は脂質二重膜形成部1を備えているが、脂質二重膜形成部1を備えていない解析システムも、本発明の範囲内である。

【0121】
脂質二重膜形成部1において、脂質一重膜で覆われた第一のバブルと脂質一重膜で覆われた第二のバブルとの接触面に形成された脂質二重膜が作製される。次に、第一のバブルの内圧ΔPが第一の内圧検出部10によって検出され、第二のバブルの内圧ΔPが第二の内圧検出部20によって検出され、第一のバブルの長径R11、短径R21および接触角θ、ならびに第二のバブルの長径R12、短径R22、および接触角θが長短径-接触角検出部30によって検出される。その後、内圧ΔP、内圧ΔP、長径R11、短径R21、長径R12、短径R22、接触角θ、接触角θから、脂質二重膜の張力γが張力算出部40によって算出される。

【0122】
(脂質二重膜形成部1)
脂質二重膜形成部1について、図3を参照してさらに説明する。図3の(a)は、本発明の一実施形態に係る解析システムにおける脂質二重膜形成部の構成を示す概略図であり、脂質二重膜に垂直な断面の断面図である。

【0123】
脂質二重膜形成部1は、容器2と油相3とバブル4とから構成される。容器2は油相3およびバブル4を収容可能に構成される。容器2の形状および材質は、周知の構成が用いられる。油相3は、バブル4を覆っており、すなわち、バブル4は、油相3および別のバブル4と接している。

【0124】
油相3として使用可能な油は、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の(脂質二重膜形成工程)の項の説明が援用され得る。バブル4は、水溶液からなり、第一のバブルM1と第二のバブルM2とから構成される。なお、解析システム100におけるバブル4は、2つであるが、本発明の他の態様では、バブル4の数は2つ以上であれば特に限定されるものではない。バブル4に使用される水溶液の態様としては、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の(脂質二重膜形成工程)の項の説明が援用され得る。

【0125】
第一のバブルM1は、第二のバブルM2の鉛直上方に積層されており、第一のバブルM1および第二のバブルM2の接触面6には、脂質二重膜7が形成されている。なお、接触面6は、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面でもあるため、接触面6は、後述する境界面6と同一の構成を指す。また、解析システム100では、第一のバブルM1および第二のバブルM2は、鉛直方向に積層されているが、本発明の他の態様では、第一のバブルおよび第二のバブルが水平方向に配置されていてもよい。第一のバブルおよび第二のバブルが鉛直方向に積層されている場合には、脂質二重膜は水平方向に形成され、第一のバブルおよび第二のバブルが水平方向に配置されている場合には、脂質二重膜は鉛直方向に形成される。図3の(b)は、図3の(a)のA-A線矢視断面図である。

【0126】
本解析システムにおける脂質二重膜形成部のその他の態様としては、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が適宜援用され得る。

【0127】
(第一の内圧検出部10および第二の内圧検出部20)
解析システム100では、第一の内圧検出部10および第二の内圧検出部20は、それぞれ、マイクロピペット5の内部に設けられている。マイクロピペット5のそれぞれは第一のバブルM1または第二のバブルM2に対して力を加えるように配置されている。ここで、第一の内圧検出部10および第二の内圧検出部20を単に「内圧検出部10および20」とも称する。

【0128】
内圧検出部10および20は、それぞれ、マイクロピペット5に加わる力(すなわちバブルによる反発の力であり、バブルの圧力ともいえる)を検出可能なセンサを備えている。内圧検出部10および20は、それぞれ、さらに、センサにより検出された力(または圧力)から内圧ΔPを検出してもよい。

【0129】
図4に示すように、内圧検出部10および20によって検出された内圧ΔPは、張力算出部40に出力される。

【0130】
上記センサとしては、マイクロピペット5に加わる力を検出可能であれば特に限定されず、周知のセンサを使用できる。

【0131】
本解析システムにおいて、第一の内圧検出部および第二の内圧検出部は、それぞれ、バブルの内圧ΔPを検出することができる限り、特に限定されない。

【0132】
本解析システムにおける第一の内圧検出部および第二の内圧検出部のその他の態様としては、上記〔1.脂質二重膜の特性の検査方法〕の項の説明が適宜援用されてもよい。すなわち、第一の内圧検出部および第二の内圧検出部は、バブルの中に設けられたセンサを備えており、かかるセンサはバブルの中の圧力を検出可能な構成であってもよい。

【0133】
(長短径-接触角検出部30)
長短径-接触角検出部30は、水平方向から、バブル4を撮像し、バブル4が写しだされた撮像データを取得する。故に、解析システム100において、長短径-接触角検出部30は、長短径-接触角撮像部ともいえる。なお、水平方向とは、接触面(境界面)6および脂質二重膜7と平行な方向である。従って、長短径-接触角検出部30は、第一のバブルおよび第二のバブルを同時に撮像可能である。当該撮像データから、第一のバブルの長径および短径、第二のバブルの長径および短径、第一のバブルの脂質一重膜と脂質二重膜との境界面に発生する接触角、ならびに、第二のバブルの脂質一重膜と脂質二重膜との境界面に発生する接触角を同時に検出することができる。

【0134】
長短径-接触角検出部30は、上述したようにバブル4を撮像することにより得られた撮像データを解析することにより、バブルの長径Rおよび短径R、ならびに接触角θを検出することができるものであってもよい。

【0135】
図4に示すように、撮像データ、長径R、短径R、および/または、接触角θは、張力算出部40に出力される。

【0136】
上記長短径-接触角撮像部としては、バブルの長径Rおよび短径Rならびに接触角θを解析可能な解像度の撮像データを取得することができるものであればよく、周知の構成を使用することができる(例えば、顕微鏡のレンズ、または、顕微鏡自体)。上記レンズは、例えば、顕微鏡に用いられる対物レンズであってもよい。従って、上記長短径-接触角撮像部は、対物レンズと、対物レンズに入射した光を受光する撮像素子から構成されていてもよい。

【0137】
本解析システムにおいて、長短径-接触角検出部は、バブルの長径Rおよび短径R、ならびに接触角θを検出することができる限り、上記構成に特に限定されない。

【0138】
(張力算出部40)
張力算出部40は、第一の内圧検出部10および第二の内圧検出部20より得た内圧ΔP、長短径-接触角検出部30より得られた長径Rおよび短径R2、ならびに接触角θから、下記式(1)~(5)を適用して、脂質二重膜の張力γを算出する。

【0139】
式(1)ΔP=γ×(1/R11+1/R21
式(2)ΔP=γ×(1/R12+1/R22
式(3)γb1=γ×cosθ
式(4)γb2=γ×cosθ
式(5)γ=γb1+γb2
(ここで、γは第一のバブルM1の脂質一重膜の張力であり、γは第二のバブルM2の脂質一重膜の張力であり、γb1は脂質二重膜における第一のバブルの側の単分子層の張力であり、γb2は脂質二重膜における第二のバブルの側の単分子層の張力である)。

【0140】
張力算出部40としては、特に限定されないが、例えば、記憶部及び演算部を備えるコンピュータなどを使用することができる。

【0141】
本発明の一実施形態に係る解析システムは、さらに、静電容量検出部、面積検出部、および、膜厚算出部を備えることが好ましい。図2は、本発明の一実施形態に係る解析システム200の構成を示す概略図である。解析システム200は、上述した解析システム100の構成に加えて、静電容量検出部50、面積検出部60、および膜厚算出部70を備える。

【0142】
解析システム200では、脂質二重膜の張力γに加えて、脂質二重膜の膜厚Tを算出する。具体的には、脂質二重膜の静電容量Cが静電容量検出部50によって検出され、脂質二重膜の面積Aが面積検出部60によって検出される。その後、静電容量C、面積A、脂質二重膜の比誘電率、および真空の誘電率から、脂質二重膜の膜厚Tが膜厚算出部70によって算出される。

【0143】
(静電容量検出部50)
静電容量検出部50は、電極およびランプ波発生装置を備える。電極は、第一のバブルおよび第二のバブルの内部にそれぞれに配置されており、電極間にランプ波を発生させることによって脂質二重膜の電気抵抗値が取得される。図2では、電極は、マイクロピペット5の内部に配置されており、マイクロピペット5内部に満たされた電解質溶液を介して電流がそれぞれのバブルの内部に伝達される。

【0144】
静電容量検出部50は、上述したように取得された脂質二重膜7の電気抵抗値を解析することにより、脂質二重膜7の静電容量Cを検出する。

【0145】
図5に示すように、静電容量Cは、膜厚算出部70に出力され得る。

【0146】
本解析システムにおいて、静電容量検出部は、脂質二重膜の静電容量Cを検出することができる限り、上記構成に特に限定されない。

【0147】
(面積検出部60)
面積検出部60は、鉛直下方から、脂質二重膜7を撮像し、脂質二重膜7が写しだされた撮像データを取得する。なお、鉛直下方とは、接触面(境界面)6および脂質二重膜7に対して垂直な方向である。従って、面積検出部60は、脂質二重膜7の全面を撮像可能である。

【0148】
面積検出部60は、上述したように脂質二重膜7を撮像することにより得られた撮像データを解析することにより、脂質二重膜の面積Aを検出する。

【0149】
図5に示すように、脂質二重膜の面積Aは、膜厚算出部70に出力され得る。

【0150】
本解析システムにおいて、面積検出部は、脂質二重膜の面積Aを検出することができる限り、上記構成に特に限定されない。

【0151】
(膜厚算出部70)
膜厚算出部70は、静電容量検出部50より得た静電容量C、面積検出部60より得られた面積A、脂質二重膜の比誘電率、および真空の誘電率から、下記式(6)を適用して、脂質二重膜の膜厚Tを算出する。

【0152】
式(6)T=ε×ε×A/C
(ここでεは上記脂質二重膜の比誘電率であり、εは真空の誘電率である。)
膜厚算出部70としては、特に限定されないが、例えば、記憶部及び演算部を備えるコンピュータなどを使用することができる。張力算出部40と膜厚算出部70とは同じ装置が用いられてもよい。

【0153】
(本解析システムの用途)
本解析システムは、上述した脂質二重膜の特性の検査方法を実施するためのシステムとして用いることが可能である。また、本解析システムは、特に、上述した薬剤スクリーニング方法を実施するためのシステムとして好適に用いることができる。

【0154】
なお、本発明の各部や各処理ステップは、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することが可能である。

【0155】
したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本発明を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。

【0156】
上記記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであってもよいし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであってもよい。

【0157】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されていることが好ましい。

【0158】
また、上記プログラムメディアは、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等があり得る。

【0159】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。

【0160】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【実施例】
【0161】
本発明者らは、脂質二重膜の特性の変化によって、膜の機能が変化することを初めて見出した。以下、実施例において、脂質二重膜の張力を変化させた場合に、膜に埋め込まれた膜タンパク質の活性が変化することを実証する。
(操作)
(1.脂質二重膜の作製)
最初に、2mg/mLの濃度で膜タンパク質を含むリポソーム溶液(すなわちプロテオリポソーム溶液)を作製した。ここで、プロテオリポソーム溶液は、電解液にリポソームおよび膜タンパク質を溶解した溶液である。膜タンパク質としては、カリウムチャネルであるKcsAを用いた。作製したプロテオリポソーム溶液を2本のマイクロピペットに充填し、その後、当該マイクロピペットを容器内に満たされたヘキサデカン(油相)中に挿入した。ここで、容器は、倒立顕微鏡(IX73、オリンパス社製)のステージ上に配置した。また、マイクロピペットの先端は約30μmであった。
【実施例】
【0162】
次に、プロテオリポソーム溶液を2本のマイクロピペットのそれぞれからヘキサデカン中に押出し、脂質一重膜で覆われたバブルを2つ作製した。バブルの直径は、約100μmとした。次に、作製された2つのバブルを、マイクロピペットを操作することにより接触させ、2つのバブルの接触面に脂質二重膜を形成させた。ここで、マイクロピペットの操作は、モーター駆動式マイクロマニピュレーター(EMM-3NV、ナリシゲ社製)を用いて行った。また、マイクロピペットの内圧を、ニューマティックマイクロジンジェクター(IM-11-2)を用いて制御した。マイクロピペットの内圧は、バブルの維持圧でもある。
【実施例】
【0163】
ここで、KcsAの働きによるイオン電流の変化(すなわちKcsAの活性)を測定するために、2つのバブル内のプロテオリポソーム溶液のpHを非対称とした(pH7およびpH4)。リファレンス電極は、pH7.5のプロテオリポソーム溶液を含むバブルを作製したマイクロピペットに接続した。
【実施例】
【0164】
(2.イオン電流の測定)
イオン電流を測定するための電極を、マイクロピペット内部に配置した。電極は、Ag/AgCl金属線電極(E255、ワーナーインスツルメンツ社製)を使用した。イオン電流は、パッチクランプ増幅器(EPC800USB、HEKA社製)を用いて、電圧固定化で測定した。電流シグナルは、周波数のカットオフのために1kHzでフィルタ処理し、A/Dコンバーター(Digidata 1550A、モレキュラーデバイス社製)によって5kHzでサンプリングした。サンプリングした電流シグナルは、ソフトウェア(pCLAMP、モレキュラーデバイス社製)を用いてコンピュータ内に保存した。
【実施例】
【0165】
(3.バブルの維持圧の減圧による、脂質二重膜の変化)
マイクロピペットの内圧を減少させることにより、バブルの維持圧が減少(すなわち減圧)する。バブルの維持圧を減圧させたときの、脂質一重膜で覆われた2つのバブル、および2つのバブルの接触面に形成された脂質二重膜の変化を、図6に示した。図6の(a)は、バブルの維持圧の減圧にともなう2つのバブルおよび脂質二重膜の形状の変化を示す図である。図6の(b)は、図6の(a)を模式的に示した概略図である。
【実施例】
【0166】
図6より、バブルの維持圧の減圧に伴い、脂質二重膜の面積が増加し、脂質二重膜とバブルの脂質一重膜との境界面に発生する接触角θが増加することが分かった。
【実施例】
【0167】
バブルの維持圧の減少は、バブルの内圧の減少も引き起こす。従って、本発明の式(1)および(2)を参照すると、バブルの内圧の減少によって、バブルの脂質一重膜の張力が減少することが分かる。さらに、本発明の式(3)~(5)を参照すると、バブルの脂質一重膜の張力の減少によって、脂質二重膜の張力が減少することが分かる。
【実施例】
【0168】
(4.バブルの維持圧の減圧による、膜タンパク質の活性の変化)
次に、バブルの維持圧の減少に伴う膜タンパク質(KcsA)の活性の変化を、バブルの維持圧の減少に伴うイオン電流の変化を測定することにより、評価した。
【実施例】
【0169】
経時的にイオン電流を測定し続ける中、ある時点でバブルの維持圧を減少させ、イオン電流の変化を評価した。結果を図7に示す。図7は、バブルの維持圧の減圧にともなうイオン電流の変化を示すグラフである。
【実施例】
【0170】
図7より、バブルの維持圧の減圧にともない、イオン電流が減少することが示された。イオン電流の減少は、すなわち、カリウムチャネルKcsAの活性が減少したことを示している。従って、バブルの維持圧の減少、すなわち、脂質二重膜の張力の減少に伴い、カリウムチャネルKcsAの活性が減少したことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、脂質二重膜に関する分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0172】
1 脂質二重膜形成部
2 容器
3 油相
4 バブル
5 マイクロピペット
6 接触面
7 脂質二重膜
10 第一の内圧検出部
20 第二の内圧検出部
30 長短径-接触角検出部
40 張力算出部
50 静電容量検出部
60 面積検出部
70 膜厚算出部
100、200 解析システム
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6