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明細書 :細胞の配置方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-088237 (P2019-088237A)
公開日 令和元年6月13日(2019.6.13)
発明の名称または考案の名称 細胞の配置方法
国際特許分類 C12N   5/077       (2010.01)
C12N   5/078       (2010.01)
FI C12N 5/077
C12N 5/078
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-219854 (P2017-219854)
出願日 平成29年11月15日(2017.11.15)
発明者または考案者 【氏名】吉川 研一
【氏名】剣持 貴弘
【氏名】貞包 浩一朗
【氏名】藤本 直
【氏名】辻 翔都
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA91X
4B065BD27
4B065BD38
4B065CA44
要約 【課題】液滴内に細胞を3次元的に配置する方法を提供する。
【解決手段】水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に細胞を配置させることができ、上皮細胞、間葉系細胞、実質細胞を含む多種類の細胞からなる3次元組織体を、artificial scaffoldを用いることなく形成することができるもので、関連特許技術と組み合わせることによって、organoid形成を可能とするものである。上皮細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、上皮細胞は液滴の周縁部に配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、上皮細胞は液滴の中央部に配置される。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内における細胞の配置方法であって、
前記細胞が上皮細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、上皮細胞は液滴の周縁部に配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、上皮細胞は液滴の中央部に配置され、
前記細胞が間葉系細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、間葉系細胞は液滴の内部に分散して配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、間葉系細胞は液滴の周縁部に配置されることを特徴とする、
水/水相分離を形成している水溶性高分子の水溶液中に浮遊する液滴内における細胞の配置方法。
【請求項2】
前記間葉系細胞は、赤血球であることを特徴とする請求項1に記載の細胞の配置方法。
【請求項3】
前記第一の水溶性高分子はデキストランであり、前記第二の水溶性高分子はポリエチレンゴリコールであることを特徴とする請求項1に記載の細胞の配置方法。
【請求項4】
前記上皮細胞同士又は前記間葉系細胞同士が接触し、水溶性高分子の水溶液による枯渇効果によってこれらの細胞の接触が維持されることを特徴とする請求項1に記載の細胞の配置方法。
【請求項5】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に配置された細胞であって、
第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍であり、前記液滴の周縁部に配置されている上皮細胞。
【請求項6】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に配置された細胞であって、
第一の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点の近傍であり、第二の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点よりも増加しており、前記液滴の中央部に配置されている上皮細胞。
【請求項7】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に配置された細胞であって、
第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍であり、前記液滴の内部に分散して配置されている間葉系細胞。
【請求項8】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に配置された細胞であって、
第一の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点の近傍であり、第二の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点よりも増加しており、前記液滴の周辺部に配置されている間葉系細胞。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の配置方法に関し、より詳しくは水/水相分離を形成している系における液滴内での細胞の配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器の機能が損なわれてしまう臓器不全症に対しては、機能を損なった臓器に対して臓器移植が有効な治療法として実施されている。しかし、臓器移植のニーズに対してドナー臓器の供給は不足しており、臓器移植に代わる治療法の開発は急務である。
【0003】
多能性幹細胞を用いて、幹細胞から分化誘導した臓器を活用して傷害を受けた臓器の機能を回復させる再生医療研究が進められている。多細胞生物の組織や臓器は異種細胞からなる三次元構造を持ち、組織や臓器を人工的に作製するには、この構造を再現する必要がある。
【0004】
オルガノイド(organoid)は、3次元的にin vitroでつくられた臓器である。オルガノイドは、組織の細胞、ES細胞又はiPS細胞から、自己複製能力及び分化能力で、3次元的な培養で自己組織化により形成される。オルガノイドを構築し、再生医療に展開するためには、実際の細胞や臓器と同様に細胞を3次元的に配置する必要がある。
【0005】
例えば非特許文献1には、マイクロファブリケーション技術を培養底面の基材へ応用して培養底面にパターンを形成し、ES細胞を培養したところ、ヒトES細胞はパターン化した接着面で増殖・分化して立体構造体を形成し、腸オルガノイドを形成した旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、立体的なパターンが形成された足場に細胞を播種することで三次元組織形成を行なう手法では、比較的低密度の組織は形成できても、高密度の厚い組織や異種細胞の層構造等を再現することは困難である。
【0007】
また例えば非特許文献2には、ヒトのiPS細胞をWNTシグナル刺激物質により数日間にわたり処理することで分化させ、その後FGF9の添加処理により中胚葉へと分化させ、分化させた中胚葉を遠心分離により試験管内において細胞を3次元的に配置し、培養することにより腎臓オルガノイドを形成した旨が記載されている。
【0008】
しかしながら、遠心分離による細胞の3次元的配置では細胞への物理ダメージが蓄積する虞がある。
【0009】
また例えば特許文献1には、複数の細胞をインクジェットで吐出して細胞を3次元的に配置し、組織体を形成する技術が記載されている。インクジェットの方式としては、圧電素子を用いた圧電加圧方式、ヒータを用いたサーマル方式、静電引力によって液を引っ張る静電方式等が挙げられる。
【0010】
しかしながら、細胞を基盤表面(artificial scaffold)に吐出し、細胞を集積させるインクジェット方式では、熱や電場によるダメージを細胞に与える虞がある。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2017-083439号公報
【0012】

【非特許文献1】A xenogeneic-free system generating functional human gut organoids from pluripotent stem cells, Hajime Uchida, Masakazu Machida, Takumi Miura, Tomoyuki Kawasaki, Takuya Okazaki, Kengo Sasaki, Seisuke Sakamoto, Noriaki Ohuchi, Mureo Kasahara, Akihiro Umezawa, Hidenori Akutsu. JCI insight 2017, January 12
【非特許文献2】Kidney organoids from human iPS cells contain multiple lineages and model human nephrogenesis. Minoru Takasato, Pei X. Er, Han S. Chiu, Barbara Maier, Gregory J. Baillie, Charles Ferguson, Robert G. Parton, Ernst J. Wolvetang, Matthias S. Roost, Susana M. Chuva de Sousa Lopes, Melissa H. Little Nature, 526, 564-568 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、artificial scaffoldを用いることなく、細胞を3次元的に的確に配置できる細胞の配置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる細胞法配置方法は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内における細胞の配置方法であって、前記細胞が上皮細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、上皮細胞は液滴の周縁部に配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、上皮細胞は液滴の中央部に配置され、前記細胞が間葉系細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、間葉系細胞は液滴の内部に分散して配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、間葉系細胞は液滴の周縁部に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞を3次元的に的確に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを用いた濃度に依存した相図(相分離の様子)を説明する図である。
【図2】液滴内における上皮細胞の配置を説明する図であり、そのうち(a)は液滴の周縁部での配置であり、(b)は液滴の中央部での配置である。
【図3】液滴内における血液細胞(間葉系細胞)の配置を説明する図であり、そのうち(a)は液滴の内部での分散配置であり、(b)は液滴の周縁部での配置である。
【図4】液滴内における上皮細胞の配置の制御理由を考察する図であり、そのうち(a)は液滴の周縁部での配置であり、(b)は液滴の中央部での配置である。
【図5】液滴内における異なる種類の細胞の同時配置を説明する図であり、そのうち(a)は相転移点近傍での配置であり、(b)は相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させた場合の配置である。
【図6】PEG水溶液とDextran水溶液とを混合させて水-水相分離システムを作製する工程を説明する図である。
【図7】カバーガラス間のスペースに観察用の溶液を注入する工程を説明する図である。
【図8】PEG 5% Dextran 5%において、液滴の周縁部に上皮細胞が配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【図9】PEG 10% Dextran 5%において、液滴の中央部に上皮細胞が配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【図10】PEG 5% Dextran 5%において、液滴の内部に赤血球が分散して配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【図11】PEG 5% Dextran 5%において、液滴の内部に赤血球が分散して配置される状態を示す蛍光イメージング写真図である。
【図12】PEG 10% Dextran 5%において、液滴の周辺部に赤血球が配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【図13】PEG 10% Dextran 5%において、液滴の周辺部に赤血球が配置される状態を示す蛍光イメージング写真図である。
【図14】アルブミン 20% PEG 10%において、液滴の中央部に赤血球が配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【図15】PEG 5% Dextran 5%において、液滴の周縁部に上皮細胞が配置されるとともに、液滴の内部に赤血球が分散して配置される状態を示す明視野観察写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。

【0018】
本発明者は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、浮遊する高分子液滴内に細胞を3次元的に自在に配置可能とする手法を新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。

【0019】
第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子とについて、一分子同士の相互作用ポテンシャルを下記とする。
ε11・・・第一の水溶性高分子と第一の水溶性高分子との間のポテンシャル
ε22・・・第二の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との間のポテンシャル
ε12・・・第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との間のポテンシャル
このとき第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との結合が一つ増すときの自由エネルギーの増加は下記式となり、ε>0の場合に相分離となる。

【0020】
【数1】
JP2019088237A_000003t.gif

【0021】
図1は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とが水/水相分離を形成している系を説明する図である。Binodal曲線よりも上の領域の系では相分離を起こし、下の領域の系では相分離を起こさずに均一な溶液となる。図1に示されるように、Binodal曲線の上方には点線で示される液滴界面変異境界線が示されており、Binodal曲線と液滴界面変異境界線との間の領域では緩い界面が形成される弱い相分離領域であり、液滴界面変異境界線よりも上の領域ではシャープな界面が形成される強い相分離領域である。図1では弱い相分離領域と強い相分離領域とを併せて相分離領域(ミクロ液滴生成領域)として示されている。

【0022】
第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内において、上皮細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍(臨界点近傍)では(図1の記号★参照)、上皮細胞は液滴の周縁部に配置される(図2(a))。ここで相転移点の近傍とは、相転移点における第一の水溶性高分子の水溶液濃度をCとし、相転移点における第二の水溶性高分子の水溶液濃度をCとすると、例えば、0.95C~1.05C且つ0.95C~1.05Cの場合を意味する。また、液滴の周縁部とは、例えば、液滴を半径rの球体と仮定した場合、1.00r~0.95rにおける領域を意味する。

【0023】
一方、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加(第二の水溶性高分子リッチ)させると(図1の記号☆参照)、上皮細胞は液滴の中央部に配置される(図2(b))。ここで相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させるとは、相転移点の近傍よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させることを意味し、例えば、0.95C~1.05C且つ1.75C~2.25Cの場合を意味する。また、液滴の中央部とは、例えば、液滴を半径rの球体と仮定した場合、中心点~0.05rにおける領域を意味する。

【0024】
次に、血液細胞(間葉系細胞)の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍(臨界点近傍)では(図1の記号★参照)、血液細胞は液滴の内部に分散して配置される(図3(a))。一方、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加(第二の水溶性高分子リッチ)させると(図1の記号☆参照)、血液細胞は液滴の周縁部に配置される(図3(b))。

【0025】
細胞が上述の挙動を示す理由については必ずしも下記理論に拘泥されるわけではないが、細胞の形態の相違や、細胞表面の糖鎖と水溶性高分子との相互作用が、重要な因子となっていると考えられる。

【0026】
上皮細胞は球形近似の形態であり、サイズも比較的大きいため、相転移点近傍では、水/水相分離の界面に追いやられる傾向が高い(図4(a))。一方で相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との分離が顕著となり、上皮細胞表面の糖鎖同士の相互作用により上皮細胞は液滴の中央部に配置される(図4(b))。なお後述するように図4では、第一の水溶性高分子がデキストラン(以下Dex又はDextranと記載されることがある。)であり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコール(以下PEGと記載されることがある。)として例示されている。

【0027】
血液細胞の場合は球形に近似する形態では無く、サイズも比較的小さいため、相転移点近傍では、水/水相分離の界面に追いやられることなく液滴の内部に分散して配置される。一方で相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との分離が顕著となり、水/水相分離の界面に追いやられ血液細胞は液滴の周縁部に配置される。

【0028】
水/水相分離を形成する第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液との組み合わせは、特に限定されるものではないが例えば下記表1に示される通りであり、特に第一の水溶性高分子がデキストランであり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールである組み合わせが好ましい。

【0029】
【表1】
JP2019088237A_000004t.gif

【0030】
第一の水溶性高分子の水溶液及び第二の水溶性高分子の水溶液のそれぞれの分子量は、特に限定されるものではないが例えば第一の水溶性高分子がデキストランの場合、重量平均分子量150000~250000とすることが可能であり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールの場合、重量平均分子量5000~7000とすることが可能である。

【0031】
高分子液滴内に配置される上皮細胞は、特に限定されるものではないが例えば表皮細胞(顆粒層)、呼吸器(鼻腔、咽頭、気道、肺)の上皮細胞、消化管(食道、胃、小腸、大腸)の上皮細胞、乳腺等の導管上皮細胞等が挙げられる。上皮細胞の由来は特に限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳類由来の上皮細胞が好適である。上皮細胞は、生体の上皮細胞であっても、単離された上皮細胞であってもよい。単離された上皮細胞は、公知の手法によって維持及び培養をすることができる。また、ES細胞、iPS細胞、Muse細胞等の多能性幹細胞から誘導された上皮細胞であってもよい。

【0032】
高分子液滴内に配置される間葉系細胞は、特に限定されるものではないが例えば赤血球、血小板、白血球、リンパ球等が挙げられる。また正常細胞であってもよく、癌細胞や炎症部位の細胞等の何らかの疾患を起こしている細胞等であってもよい。

【0033】
図2(a)(b)又は図3(a)(b)に図示されたように、高分子溶液中において細胞同士が接近すると、枯渇効果によって細胞同士の凝集が引き起される。枯渇効果とは、高分子溶液中で2つの物体が接近すると2つの物体間に存在する高分子が排除されて、2つの物体間に高分子が存在しない領域(即ち、高分子が枯渇した領域)が形成され、一方で2つの物体の周りに高分子が存在する領域が形成され、浸透圧が働いて2つの物体は周りから押されて凝集を引き起こす現象効果をいう。細胞同士は、通常の溶液中では細胞膜電位による静電反発相互作用や細胞膜の揺らぎ運動に伴う反発効果等によって離れてしまうが、高分子溶液中では枯渇効果によって接触し続ける。即ち、枯渇効果によって細胞同士の接触が、細胞膜間の反発相互作用の影響を無視して維持される。

【0034】
枯渇効果によって細胞の接触が維持されると、細胞同士は接着する。接着することにより、細胞同士は枯渇効果が生じ得ない環境下におかれても離れることがない程度に安定して接触状態が継続される。細胞同士が接着状態に至るまでの接触時間は、数秒では足りず数分必要であり、300秒(5分)以上あれば十分である。

【0035】
本発明では、単一種類の細胞を液滴内に配置するだけではなく、複数種類の細胞を液滴内に配置することが可能である。例えば細胞が間葉系細胞の場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、間葉系細胞は液滴の中央部に配置され、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加させると、間葉系細胞は液滴の周縁部に配置される。

【0036】
そのため例えば上皮細胞及び間葉系細胞を用いる場合、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍では、上皮細胞は液滴の周縁部に配置され、間葉系細胞は液滴の中央部に配置される(図5(a))。しかし、相転移点よりも第二の水溶性高分子の濃度を増加(第二の水溶性高分子リッチ)させると、上皮細胞は液滴の中央部に配置され、間葉系細胞は液滴の周縁部に配置される(図5(b))。なお図5では、第一の水溶性高分子がデキストランであり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールとして例示されている。

【0037】
また、本発明は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊する第一の水溶性高分子の液滴内に配置された細胞にも関する。

【0038】
即ち、本実施形態にかかる細胞は、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍であり、上記液滴の周縁部に配置されている上皮細胞である。

【0039】
また、本実施形態にかかる細胞は、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点の近傍であり、第二の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点よりも増加しており、上記液滴の中央部に配置されている上皮細胞である。

【0040】
また、本実施形態にかかる細胞は、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度と第二の水溶性高分子の水溶液の濃度とが相転移点の近傍であり、上記液滴の内部に分散して配置されている間葉系細胞である。

【0041】
また、本実施形態にかかる細胞は、第一の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点の近傍であり、第二の水溶性高分子の水溶液の濃度が相転移点よりも増加しており、上記液滴の周辺部に配置されている間葉系細胞である。

【0042】
本実施形態にかかる細胞は、上述したように、接触している細胞同士は枯渇効果により細胞同士が接着する。そのため枯渇効果が生じ得ない環境下におかれても離れることがない程度に安定して接触状態が継続され、オルガノイド形成にも有利である。
【実施例】
【0043】
1.実施例1(上皮細胞の配置)
第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のDextran(分子量200,000)を使用し、第二の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量6,000)を使用した。上皮細胞としてマウス乳腺上皮細胞(NMuMG cells)を使用した。
【実施例】
【0044】
PEG及びDextranをそれぞれ20 wt%で生理食塩水(NaCl 0.9%)に溶解させ、ストックした。それらの溶液を混合させ、PEG 5%とDextran 5%の水-水相分離システムを作製した(図6)。
【実施例】
【0045】
作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記上皮細胞を入れた。PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が潰れないように2枚のカバーグラスの間にカバーグラスを挟むことで、0.1mmのスペースを作成した。そのスペース内に上記上皮細胞が入った上記溶液を流し込んだ(図7)。明視野観察の結果、Dextran水溶液の濃度とPEG水溶液の濃度とが相転移点の近傍(臨界点近傍)では、上皮細胞は液滴の周縁部に配置されることが確認された(図8)。
【実施例】
【0046】
次に、上記と同様にしてPEG 10%とDextran 5%の水-水相分離システムを作製した。作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記上皮細胞を入れた。上記と同様にしてカバーグラスのスペース内に上記上皮細胞が入った上記溶液を流し込んだ。明視野観察の結果、相転移点よりもPEG水溶液の濃度を増加させた場合では、上皮細胞は液滴の中央部に配置されることが確認された(図9)。
【実施例】
【0047】
2.実施例2(赤血球の配置)
上記と同様に第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のDextran(分子量200,000)を使用し、第二の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量6,000)を使用した。赤血球として株式会社日本バイオテスト研究所(Nippon Bio-Test Laboratories inc.)の馬保存血液(Horse Blood in Alsevers)を使用した。
【実施例】
【0048】
上記と同様にPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離システムを作製した。作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記赤血球を入れた。上記と同様にしてカバーグラスのスペース内に上記赤血球が入った上記溶液を流し込んだ。明視野観察の結果、Dextran水溶液の濃度とPEG水溶液の濃度とが相転移点の近傍(臨界点近傍)では、赤血球は液滴の内部に分散して配置されることが確認された(図10)。また蛍光イメージングによる観察でも、赤血球は液滴の内部に分散して配置されることが確認された(図11)。なお蛍光色素の組み合わせはFITCとRhodamineであり、蛍光波長は637 nmであった。
【実施例】
【0049】
次に、上記と同様にしてPEG 10%とDextran 5%の水-水相分離システムを作製した。作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記赤血球を入れた。上記と同様にしてカバーグラスのスペース内に上記赤血球が入った上記溶液を流し込んだ。明視野観察の結果、相転移点よりもPEG水溶液の濃度を増加させた場合では、赤血球は液滴の周辺部に配置されることが確認された(図12)。また蛍光イメージングによる観察でも、赤血球は液滴の周辺部に配置されることが確認された(図13)。なお上述と同様に蛍光色素の組み合わせはFITCとRhodamineであり、蛍光波長は637 nmであった。
【実施例】
【0050】
3.実施例3(実施例2と異なる組み合わせの水溶性高分子)
第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量60,000)を使用し、第二の水溶性高分子としてアルブミン(200kDa)を使用した。赤血球としてコスモ・バイオ株式会社のGlutaraldehyde Stabilized Mouse RBCs (1%)(CLD38)を使用した。
【実施例】
【0051】
上記と同様にしてアルブミン 20%とPEG 10%の水-水相分離システムを作製した。作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記赤血球を入れた。上記と同様にしてカバーグラスのスペース内に上記赤血球が入った上記溶液を流し込んだ。明視野観察の結果、赤血球は液滴の中央部に配置されることが確認された(図14)。
【実施例】
【0052】
4.複数種類の細胞の同時配置
第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のDextran(分子量200,000)を使用し、第二の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量6,000)を使用した。細胞は2種類使用した。即ち、上皮細胞としてマウス乳腺上皮細胞(NMuMG cells)を使用し、且つ、赤血球としてコスモ・バイオ株式会社のGlutaraldehyde Stabilized Mouse RBCs (1%)(CLD38)を使用した。
【実施例】
【0053】
次に、上記と同様にしてPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離システムを作製した。作成した水-水相分離システムを形成する溶液中に、上記上皮細胞及び赤血球を入れた。上記と同様にしてカバーグラスのスペース内に上記2種類の細胞が入った上記溶液を流し込んだ。明視野観察の結果、上皮細胞は液滴の周辺部に配置され、赤血球は液滴の中央部に配置されることが確認された(図15)。
【産業上の利用可能性】
【0054】
オルガノイドの生産に利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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