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明細書 :腎癌薬物療法の効果判定のための血中バイオマーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6325177号 (P6325177)
登録日 平成30年4月20日(2018.4.20)
発行日 平成30年5月16日(2018.5.16)
発明の名称または考案の名称 腎癌薬物療法の効果判定のための血中バイオマーカー
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/68
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2017-545194 (P2017-545194)
出願日 平成28年10月11日(2016.10.11)
国際出願番号 PCT/JP2016/080084
国際公開番号 WO2017/065127
国際公開日 平成29年4月20日(2017.4.20)
優先権出願番号 2015202614
優先日 平成27年10月14日(2015.10.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年9月28日(2017.9.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】中井川 昇
【氏名】上野 大樹
【氏名】矢尾 正祐
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 特表2015-519876(JP,A)
特表2009-511028(JP,A)
特表2015-513370(JP,A)
特表2008-542742(JP,A)
特表2014-517300(JP,A)
調査した分野 G01N 33/48-33/98
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
腎癌治療のための薬物療法を受けている腎癌患者から分離された血液試料中のPARK7レベルを測定することを含む、前記薬物療法の効果判定を補助する方法であって、PARK7レベルの上昇は、当該薬物療法が効果的ではないことの指標となる、方法。
【請求項2】
PARK7レベル上昇は、前記血液試料中のPARK7レベルの測定値が、前記患者の少なくとも前回測定値よりも高いことを意味する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血液試料が血漿試料又は血清試料である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
腎癌薬物療法の効果判定血中バイオマーカーとしてのPARK7の使用であって、患者における血中PARK7レベルの上昇は、当該患者が受けている腎癌薬物療法が効果的ではないことを示す、使用。
【請求項5】
PARK7からなる、腎癌薬物療法の効果判定血中バイオマーカーであって、患者における当該バイオマーカーの血中レベルの上昇は、当該患者が受けている腎癌薬物療法が効果的ではないことを示す、バイオマーカー。
【請求項6】
腎癌治療薬の候補物質の効果判定を補助する方法であって、腎癌を有する被検体から前記候補物質の投与前及び投与後に分離された血液試料中のPARK7レベルを測定することを含み、投与後の血液試料におけるPARK7レベル低下、当該候補物質が腎癌治療に有効である可能性があることの指標となり、ここで、前記PARK7レベルの低下は、投与後の血液試料におけるPARK7レベルが投与前の血液試料におけるPARK7レベルよりも低いことを意味する、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、腎癌薬物療法の効果判定のための血中バイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
腎癌の日本国内における発生頻度は10万人当たり7~8人とされており、年々増加している。腎癌治療の原則は外科的切除であるが、全腎癌患者の30%程度が転移をきたし進行性と言われている。手術が困難な進行性症例に対しては、薬物療法や免疫療法が適用される。
【0003】
腎癌患者に対して現在使用可能な薬物療法剤は分子標的薬であり、血管新生を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の他、mTOR阻害剤がある。このような薬物療法剤の腎癌に対する有効性は、CTスキャン等の画像により調べた腫瘍の縮小率によって判定が行われている。しかしながら、縮小をほとんど認めない薬剤もあり、効果判定自体が困難とされている。例えば、TKIの奏効率(腫瘍縮小率)は、従来の抗がん剤ほど著明ではなく、CT画像で30%以上の縮小を認める症例は10~30%程度である。また、薬物療法が有効な患者においても、CTスキャンによって縮小が認められるまでに数か月かかることが多い。そのため、現状では、CT画像にて明らかな進行が確認されるまで薬物療法剤の投与を継続している。
【0004】
TKIには高血圧、下痢、全身倦怠感、手足症候群など、従来の抗がん剤とは異なる様々な副作用があり、問題視されている。薬物療法による治療を開始して早期の段階で治療効果が判定できれば、実は効果が得られていない無効な治療を継続することが無くなり、患者の予後改善やQOLの改善につながる。しかしながら、上述の通りCTスキャンによる効果判定は迅速性に欠けるという問題がある。そのうえ、CTスキャンを頻回にとることは放射線被曝の問題から困難であり、薬物療法剤の変更のタイミングが遅れることがある。腎癌の病態を反映する特異的な血液検査法(血中バイオマーカー)を確立できれば、被爆の問題がなく頻回の検査が可能であり、CTスキャンの無い施設であっても必要なタイミングで効果判定が可能となるが、そのような血中バイオマーカーは現状存在しない。
【0005】
DJ-1は、協調的に細胞を癌化させる新規癌遺伝子として北大有賀らによって1997年に単離された。その後、同遺伝子は、2003年に家族性パーキンソン病の原因遺伝子PARK7として単離され、現在ではPARK7/DJ1と称されている。PARK7/DJ1が、活性酸素による酸化ストレスの防御や、転写調節、プロテアーゼ、ミトコンドリア機能調節に関わるという報告があり、また乳癌や非小細胞肺癌との関連性も指摘されている(非特許文献1、2)。PARK7/DJ1と腎癌(renal carcinoma)に関する報告は、2009年のSitaramらの報告(非特許文献3)と2013年のBaumunkらの報告(非特許文献4)の2件がある。
【0006】
非特許文献3では、RT-PCRでPARK7/DJ-1、c-Myc及びhTERTの発現を解析しており、PARK7/DJ-1の発現は正常組織(n=49)<乳頭状腎細胞癌(n=23)<腎明細胞癌(n=153)と腎細胞癌(RCC)で高発現していることなどが報告されているが、DJ-1、cMyc、hTERTの発現と予後に相関は認めなかったとされている。
【0007】
非特許文献4では、RCC91例でPDK-1及びPARK7/DJ1の発現をRT-PCR解析しており、PARK7/DJ1は正常腎組織、RCCともに発現を認めたが、両者に差はなく、臨床・病理学的にも相関を認められるようなものはなかったとされている。
【0008】
以上のように、腎癌の進行ないしは活動性とPARK7の組織内発現との相関は既報では否定的であり、ましてや血中PARK7レベルと腎癌薬物療法の治療効果に相関があること、PARK7が腎癌薬物療法の効果判定のための血中バイオマーカーとして有用であることは、全く知られていない。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Le Naour et al., Clin. Cancer Res. 7, 3328-3335, 2001
【非特許文献2】MacKeigan et al., Cancer Res. 63, 6928-6934, 2003
【非特許文献3】Sitaram et al., Int. J. Cancer, 125, 783-790, 2009
【非特許文献4】Baumunk et al., World J Urol, 31, 1191-1196, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、腎癌薬物療法剤の有効性を血液検査によって簡便に判定することを可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、TKI治療により長期無増悪生存期間が得られた治療反応群において血中濃度が低下し、治療無反応(進行)群において血中濃度が上昇するタンパク質のスクリーニングを鋭意に行なった結果、PARK7がTKI及びmTOR阻害剤の有効性判定のための有力な血中バイオマーカーとなることを見出し、さらに、血中PARK7レベルは腎癌の病態(活動性)を反映することから、TKI及びmTOR阻害剤のような分子標的治療薬のみならず、将来実用化されるであろう新規腎癌治療薬を含む様々な腎癌薬物療法剤及びその候補物質の治療効果判定にも血中PARK7レベルを活用できることを見出し、本願発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、腎癌治療のための薬物療法を受けている腎癌患者から分離された血液試料中のPARK7レベルを測定することを含む、前記薬物療法の効果判定を補助する方法であって、PARK7レベルの上昇は、当該薬物療法が効果的ではないことの指標となる、方法を提供する。また、本発明は、腎癌薬物療法の効果判定血中バイオマーカーとしてのPARK7の使用であって、患者における血中PARK7レベルの上昇は、当該患者が受けている腎癌薬物療法が効果的ではないことを示す、使用を提供する。さらに、本発明は、PARK7からなる、腎癌薬物療法の効果判定血中バイオマーカーであって、患者における当該バイオマーカーの血中レベルの上昇は、当該患者が受けている腎癌薬物療法が効果的ではないことを示す、バイオマーカーを提供する。さらに、本発明は、腎癌治療薬の候補物質の効果判定を補助する方法であって、腎癌を有する被検体から前記候補物質の投与前及び投与後に分離された血液試料中のPARK7レベルを測定することを含み、投与後の血液試料におけるPARK7レベル低下、当該候補物質が腎癌治療に有効である可能性があることの指標となり、ここで、前記PARK7レベルの低下は、投与後の血液試料におけるPARK7レベルが投与前の血液試料におけるPARK7レベルよりも低いことを意味する、方法を提供する。


【発明の効果】
【0013】
本発明により、腎癌薬物療法の効果判定を可能とする血中バイオマーカーが初めて提供された。薬物療法を受けている患者の血中PARK7レベルは、使用中の薬物療法剤の治療効果を判定するためのデータとして有用であり、医師による薬物療法の効果判定の大きな補助となる。血中PARK7レベルによれば治療開始後のごく早い時期から効果判定が可能であり、CTスキャンにより縮小の有無を判定する手法よりも早期に薬物療法の効果を判定することができる。また本発明によれば少量の血液試料で治療効果を判定可能であるため、被爆の心配もなく頻繁にモニター可能であり、この点でも迅速な治療効果判定に有利である。血液検査であればCTスキャンの無い施設でも簡便に実施できるので、利便性は非常に高い。治療効果が得られなくなった場合には早い段階でそれを察知して治療薬の変更等の対処が可能になり、適切なタイミングで治療効果の判定をすることができるので、実は治療効果が得られていない薬物療法を続けてしまう腎癌患者が減り、QOLの改善と医療経済効果が期待できるとともに、腎癌患者の生命予後の改善も期待できる。血中PARK7レベルは腎癌の活動性を反映していることから、様々な薬物療法剤の効果判定の他、腎癌治療薬候補物質の効果判定にも活用できる。治療薬候補物質の効果判定に血中PARK7レベルを利用すれば、例えば、ヒト腎癌の新規治療薬の臨床試験において、当該新規治療薬の効果を迅速に評価することが可能になる。本発明は、新規腎癌治療薬の開発にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】TKIの投与開始から2週間の時点で血中PARK7レベルが低下した腎癌症例群と、血中PARK7レベルが上昇した腎癌症例群について、無増悪生存率を調べた結果である。
【図2】mTOR阻害剤投与を開始した腎癌患者4例について、血中PARK7レベルの変化をELISAにより調べた結果と、PET/CTにより腎癌の活動性を調べた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
配列番号2に示すアミノ酸配列はヒトPARK7のアミノ酸配列である。NCBIのデータベースには転写バリアント1、2、X1として複数のmRNA配列が登録されているが(アクセッション番号NM_007262.4、NM_001123377.1、XM_005263424.2)、いずれもコードするPARK7タンパク質のアミノ酸配列は同一である。配列番号1には、PARK7遺伝子のmRNA配列の一例として、NM_007262.4に登録されている塩基配列を示した。

【0016】
本発明で対象となる患者は、腎癌(特に、転移性腎癌や根治切除不能な腎癌などの進行性腎癌)を罹患し、薬物療法を受けている腎癌患者であり、典型的にはヒト患者である。

【0017】
本発明において、腎癌という語は腎細胞癌と同義であり、淡明細胞癌、乳頭状腎細胞癌、嫌色素性細胞癌、集合管癌等が包含される。

【0018】
「薬物療法」という語には、腎癌に対して治療効果を奏する各種の薬剤による療法が包含され、例えばサイトカイン等を用いた免疫療法も包含される。薬物療法に用いる薬剤は特に限定されず、低分子化合物、分子標的薬、核酸医薬、抗体医薬、ペプチド医薬等の様々な薬剤が包含される。現在実用化されている腎癌薬物療法剤は分子標的薬であり、大別すると、スニチニブ、ソラフェニブ等の血管新生を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)と、主として癌の増殖を調節する酵素を抑制することにより癌の増殖を抑制するmTORタンパク質阻害剤とがある。いずれの薬物療法剤でも、下記実施例に記載される通り、血中PARK7レベルの変化は使用中の薬剤の効果を反映しており、本発明による効果判定が可能である。また、近年、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体等の免疫チェックポイント阻害薬が癌治療分野において注目を集めている。日本及び諸外国において腎癌、悪性黒色腫、非小細胞肺癌等の様々ながんに対する治療薬として免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が進められ、一部は既に日本国内でも承認に至っており、将来的には腎癌の治療薬としても承認、実用化されると期待される。こうした免疫チェックポイント阻害薬のような新規な腎癌治療剤も、本発明による治療効果判定の対象となる。血中PARK7レベルは腎癌の活動性を反映しており、腎癌の活動性の変化を血中PARK7レベルの変化によって評価することができるので、血中PARK7レベルを指標とした本発明は、上記の例示に限定されず、様々な腎癌薬物療法剤の効果判定に利用することができる。

【0019】
血液試料には、全血、血漿、血清が包含される。本発明で用いる血液試料は、例えば血漿試料又は血清試料であり得る。あるいは、血液試料は血漿試料であり得る。

【0020】
血液試料は、薬剤投与を受けている期間中継続的に採取する。比較のため、薬物療法を開始する前又は開始時点でも血液試料を採取することが望ましい。通常は数週間ごとに血液試料を採取するが、患者の状態、症状等に応じて血液試料採取のタイミングは適当に変更してよい。

【0021】
試料中のPARK7レベルは、試料中のPARK7タンパク質又はその断片の存在量を測定することによって調べることができる。試料中のPARK7レベルを測定する手段としては、ポリペプチドを測定可能な手段であれば特に限定されない。ポリペプチドを測定する手法としては、免疫測定法や質量分析等を挙げることができるが、免疫測定法は大掛かりな機器類が不要であり測定操作も簡便なので、本発明においても好ましく用いることができる。PARK7を検出可能なポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は公知であり、市販品も存在する。また、上述の通りPARK7のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列も公知であるので、常法のハイブリドーマ法等によりPARK7を特異的に認識する抗PARK7抗体又はその抗原結合性断片を調製して用いてもよい。

【0022】
抗PARK7ポリクローナル抗体は、例えば、PARK7タンパク質の全長又は適当な部分領域断片を適宜アジュバントと共に非ヒト動物に免疫し、該非ヒト動物から採取した血液から抗血清を得て、該抗血清中のポリクローナル抗体を精製することで得ることができる。免疫は、被免疫動物中での抗体価を上昇させるため、通常数週間かけて複数回行なう。抗血清中の抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、アフィニティーカラム精製等により行なうことができる。

【0023】
抗PARK7モノクローナル抗体は、例えば、上記のようにPARK7タンパク質の全長又は適当な断片を免疫した非ヒト動物より、脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製し、PARK7タンパク質と結合する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし、これを増殖させて培養上清から得ることができる。

【0024】
非ヒト動物の免疫に用いるPARK7全長タンパク質又はその断片は、本願配列表にも記載した公知のPARK7の塩基配列及びアミノ酸配列情報に基づき、化学合成や遺伝子工学的手法等の常法により作製できる。

【0025】
化学合成法の具体例としては、例えばFmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等を挙げることができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。化学合成の場合は、アミノ酸配列のみに基づいて所望のポリペプチドを合成できる。

【0026】
遺伝子工学的手法でPARK7全長タンパク質又はその断片を製造する場合は、例えば、ヒトcDNAライブラリーからPARK7 cDNAの所望の領域を増幅し、これを適当なベクターに組み込み、適当な発現系にてポリペプチドを発現させ、このポリペプチドを回収すればよい。用いるベクターや各種の発現系(細菌発現系、酵母細胞発現系、哺乳動物細胞発現系、昆虫細胞発現系、無細胞発現系など)も周知であり、種々のベクターや宿主細胞、試薬類、キットが市販されているため、当業者であれば適宜選択して使用することができる。ヒト由来培養細胞も市販・分譲されており、入手は容易である。

【0027】
「抗原結合性断片」は、もとの抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している限り、いかなる抗体断片であってもよい。具体例としては、Fab、F(ab')2、scFv等を挙げることができるが、これらに限定されない。FabやF(ab')2は、周知の通り、モノクローナル抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。scFv(single chain fragment of variable region、単鎖抗体)の作製方法も周知であり、例えば、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、該ベクターで大腸菌を形質転換してscFvを発現させ、これを大腸菌から回収することにより、scFvを得ることができる。

【0028】
免疫測定自体はこの分野において周知である。免疫測定法を反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法等があり、また、標識に基づいて分類すると、酵素免疫分析、放射免疫分析、蛍光免疫分析等がある。本発明においては、定量的検出が可能な免疫測定方法のいずれを用いてもよい。特に限定されないが、例えば、サンドイッチELISA等のサンドイッチ法を好ましく用いることができる。

【0029】
サンドイッチ法では、PARK7に結合する抗PARK7抗体を固相に不動化し(固相化抗体)、試料と反応させ、洗浄後、固相化抗体と同時にPARK7に結合できる抗PARK7抗体(典型的には、固相化抗体とは異なる部位でPARK7に結合する抗PARK7抗体)に標識を付した標識抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識抗体を測定する。固相化抗体と標識抗体は、いずれもポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。抗体に代えて該抗体の抗原結合性断片を用いることもできる。

【0030】
標識抗体の測定は、標識物質からのシグナルを測定することにより行なうことができる。シグナルの測定方法は、標識物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、酵素標識の場合、該酵素の基質を反応系内に添加し、酵素反応により生じる発色や発光の量を吸光光度計やルミノメータを用いて測定すればよい。PARK7を種々の濃度で含む濃度既知の標準試料について、抗PARK7抗体又はその抗原結合性断片を用いて免疫測定を行ない、標識からのシグナルの量と標準試料中のPARK7濃度との相関関係をプロットして検量線を作成しておき、PARK7濃度が未知の血液試料について同じ操作を行なって標識からのシグナル量を測定し、測定値をこの検量線に当てはめることにより、当該血液試料中のPARK7を定量することができる。なお、測定値は、患者の過去の測定値と比較できればよいので、濃度の絶対値の算出は必須ではなく、シグナル検出値の比較によってPARK7レベルの変動を評価してもよい。

【0031】
固相化抗体と標識抗体の両者をモノクローナル抗体とする場合、モノクローナル抗体の組み合わせが好ましいかどうかは、実際に免疫測定を行なってみることで容易に調べることができる。所望により、抗体の認識部位の同定を行なって、異なるエピトープを認識するかどうかを調べてもよい。抗体の認識部位の同定は、この分野で周知の常法により行なうことができる。簡潔に説明すると、例えば、対応抗原であるPARK7をトリプシン等のようなタンパク質分解酵素により部分消化し、認識部位を調べるべき抗体を結合させたアフィニティーカラムに部分消化物溶液を通じて消化物を結合させ、次いで結合した消化物を溶出させて常法の質量分析を行なうことにより、抗体の認識部位を同定することができる。

【0032】
PARK7の血中レベルは腎癌の大きさによって異なり、腫瘍が大きければ血中レベルも高く、腫瘍が小さい患者では健常者と血中レベルがあまり変わらないこともあり、腎癌患者全般に共通して適用可能な絶対的数値としてカットオフ値を設定することは困難である。しかしながら、薬物療法の効果が得られている場合にはPARK7の血中レベルが低く維持され、効果が無い場合又は失われてきた場合にはPARK7の血中レベルが上昇するという変動は、腎癌の大きさにかかわらず認められる。従って、本発明においては、個人の中でのPARK7レベルの変化を調べ、患者自身の過去の測定値との比較により、PARK7レベルが上昇したか否かが判断される。

【0033】
過去の測定値より上昇しているか否かは、少なくとも前回測定値との比較により判断される。すなわち、主として前回測定値との比較により判断され、適宜前々回及びそれ以前の変動傾向を考慮して判断することができる。血中PARK7レベルが低下している場合、又は低下した状態が維持されている場合、使用中の薬剤が治療効果を奏していると判断できるので、同じ薬剤を使用し続けて経過観察を続ければよい。急激な上昇があった場合、腎癌が急速に進展している可能性があるので、早急に使用薬剤の種類を変えることが望ましい。ゆるやかに上昇する傾向が認められる場合には、すぐに使用薬剤の種類を変更してもよいし、次回測定時期を早めて上昇傾向を再確認した上で薬剤の種類変更を検討してもよい。また、その薬剤による治療を開始した時から血中PARK7レベルに特段の変動が見られない場合には、当該薬剤があまり有効ではない可能性もあるので、必要に応じて次回測定時期を早め、副作用の程度も考慮に入れて、使用薬剤の変更を検討してよい。

【0034】
血中PARK7レベルは腎癌の活動性を反映していることから、血中PARK7レベルを指標として腎癌治療薬候補物質の効果判定も可能である。候補物質の効果判定では、腎癌を有する被検体に候補物質を投与する。被検体は、ヒト又は非ヒト哺乳動物である。ヒトの場合は、主として臨床試験における候補物質の効果判定が想定される。非ヒト哺乳動物は、例えば、腎癌細胞を移植された腎癌モデル動物であり得る。被検体からは、候補物質の投与前及び投与後に血液試料を採取し、これら血液試料におけるPARK7レベルを測定する。投与後の血液試料の採取は1回でもよいし、複数回でもよい。投与前の血中PARK7レベルと比較して投与後の血中PARK7レベルが低下している場合、当該候補物質が腎癌治療に有効である可能性があると判定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
1.TKIによる治療中の腎癌患者における血中PARK7濃度の変化と予後の相関
腎癌治療薬としてTKI(チロシンキナーゼ阻害剤)の投与を受けている進行性腎細胞癌患者19例について、投与開始時及び開始2週目に血液試料を採取し、血漿を分離し、血漿中のPARK7レベルを測定した。測定には市販のサンドイッチELISAキット(Cyclex社)を使用し、標識酵素HRP及び基質物質の反応による発色をルミノメータにより検出した。キットに添付のPARK7スタンダードを用いて標準試料を調製し、検量線を作成した。この検量線に当てはめて血漿試料中のPARK7濃度を算出した。算出したPARK7濃度の比較、あるいはルミノメータの検出値の比較により、血漿中PARK7レベルの変動を評価したところ、TKI投与開始時と比較して投与開始2週目に血漿中PARK7レベルが低下した症例は13例、上昇した症例は6例であった。これら低下症例群と上昇症例群について、無増悪生存期間を調べた。
【実施例】
【0037】
結果を図1に示す。治療開始時よりもPARK7レベルが低下した13症例と、PARK7レベルが上昇した6例との間では、無増悪生存期間に有意差が認められ、PARK7低下症例群の方が有意に無増悪生存率が高かった(P=0.0313)。無増悪生存期間の中央値は、低下症例群で215日、上昇症例群で103日であった。以上により、治療開始から2週目という早い段階から血中PARK7レベルによる腎癌薬物療法の治療効果判定が可能であることが確認された。
【実施例】
【0038】
2.mTOR阻害剤(テムスロリムス)による治療中の腎癌患者における血中PARK7濃度の変化と予後の相関
mTOR阻害剤の投与を開始した腎癌4症例を対象に、治療中の血中PARK7濃度の変化を測定した。血中PARK7濃度の測定は上記1と同様に市販のELISAキットを使用し、血漿中のPARK7濃度として測定し、ルミノメータによる検出値を比較して血中PARK7レベルの変動を評価した。
【実施例】
【0039】
mTOR阻害剤による治療効果の臨床評価は、FDG PET/CTにより行なった。血中PARK7濃度の測定と並行して、FDG PET/CTにより腎癌の進行を評価した。FDGは、ブドウ糖にポジトロン核種を導入した薬剤であり、生体内での挙動はブドウ糖とほぼ同じである。癌の活動性が高い場合には腫瘍部にブドウ糖が高集積するので、FDGの集積を調べることで癌の活動性を評価することができる。
【実施例】
【0040】
結果を図2に示す。各画像の下に記載したSUVmaxはFDGの集積を半定量化した値である。mTOR阻害剤治療中に血中PARK7の濃度が低下した3症例(症例1~3)では、いずれもPET/CTによる評価でFDGの集積が低下しており、癌の活動性が低下していること、すなわち治療効果が得られていることが示された。一方、PARK7の濃度が上昇した1症例(症例4)では、FDGの集積に変化が認められず、治療効果が得られていないことが示された。以上により、mTOR阻害剤タイプの腎癌治療薬についても血中PARK7濃度の変化によって治療効果を判定できることが示唆された。
図面
【図1】
0
【図2】
1