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明細書 :セルソーティングを用いた尿中マイクロRNAに基づく尿路上皮癌の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-061445 (P2018-061445A)
公開日 平成30年4月19日(2018.4.19)
発明の名称または考案の名称 セルソーティングを用いた尿中マイクロRNAに基づく尿路上皮癌の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/06
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2016-199849 (P2016-199849)
出願日 平成28年10月11日(2016.10.11)
発明者または考案者 【氏名】中川 昌之
【氏名】榎田 英樹
【氏名】吉野 裕史
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
【識別番号】100188271、【弁理士】、【氏名又は名称】塚原 優子
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA07
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ57
4B063QR56
4B063QS12
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
要約 【課題】尿路上皮癌の検出方法の提供。
【解決手段】被験体における尿路上皮癌の検出方法であって、被験体の尿から得られた、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルにおいて、1つ以上のmiRNAの量を測定する工程を含む、検出方法。また、前期サンプルが尿の細胞ペレットからセルソーターを用いて回収されたものであり、miRNAの量が対照量と比べて増大する場合に、前記被験体の尿路上皮癌が示される尿路上皮癌の検出方法。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
被験体における尿路上皮癌の検出方法であって、
被験体の尿から得られた、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルにおいて、以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記サンプルが、セルソーターを用いて回収されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルが、尿の細胞ペレットからセルソーターを用いて回収されたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記尿の細胞ペレットが、セルソーターに供される前にポリエチレングリコール溶液中で保存される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記miRNAの量が対照量と比べて増大する場合に、前記被験体の尿路上皮癌が示される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記増大が、2倍以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記尿路上皮癌が、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、及び尿道癌からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記miRNAが、miR-200c、miR-205、miR-200a、miR-96、miR-183及びmiR-519aからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体が、血尿を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被験体が、ヒトである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定するためのポリヌクレオチドを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路上皮癌の検出方法、及び尿路上皮癌の検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在臨床において、尿路上皮癌(膀胱癌及び腎盂尿管癌)の診断には、尿細胞検査が有用である。しかし、尿細胞検査は、特異度が高いものの(90~95%)、感度が低く(30~40%)、陰性であっても癌を否定できないという欠点がある。そのため、尿路上皮癌が疑われる場合、超音波及びCTに加えて、侵襲的な膀胱鏡検査及び尿管鏡検査が一般的に行われている。また、治療後の再発の確認のため定期的な内視鏡検査が必要である。そのため、患者への侵襲性及び医療コストが問題となっている。
【0003】
マイクロRNA(miRNA)は約21塩基の短いRNAであり、主に翻訳阻害及びmRNAの切断により、標的遺伝子を制御している。多くの遺伝子がmiRNAによって制御されていると考えられている。また、癌などの疾患に、miRNAによる異常な遺伝子制御が関与していることが報告されている。
【0004】
本発明者らは、特定のmiRNAの発現量を指標とした膀胱癌等の尿路上皮癌の検出方法を開発している(特許文献1及び2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2009-100687号公報
【特許文献2】特開2011-36242号公報
【0006】

【非特許文献1】Yamada et al., Cancer Sci. 2011, Vol. 102, Issue 3, p. 522-529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、尿路上皮癌の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、尿へ血液が混入することにより、尿に由来するサンプル中のマイクロRNA量が影響を受けることを見い出した。さらに、セルソーターを用いて血液細胞と膀胱由来細胞の混合物から膀胱由来細胞のみを単離し回収できること、そして膀胱癌などの尿路上皮癌で発現が増加するmiRNAを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]被験体における尿路上皮癌の検出方法であって、
被験体の尿から得られた、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルにおいて、以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定する工程を含む、方法。
[2]前記サンプルが、セルソーターを用いて回収されたものである、[1]に記載の方法。
[3]前記サンプルが、尿の細胞ペレットからセルソーターを用いて回収されたものである、[2]に記載の方法。
[4]前記尿の細胞ペレットが、セルソーターに供される前にポリエチレングリコール溶液中で保存される、[3]に記載の方法。
[5]前記miRNAの量が対照量と比べて増大する場合に、前記被験体の尿路上皮癌が示される、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記増大が、2倍以上である、[5]に記載の方法。
[7]前記尿路上皮癌が、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、及び尿道癌からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記miRNAが、miR-200c、miR-205、miR-200a、miR-96、miR-183及びmiR-519aからなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記被験体が、血尿を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記被験体が、ヒトである、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定するためのポリヌクレオチドを含む、[1]~[10]のいずれかに記載の方法に使用するためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、尿路上皮癌の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、尿への血液の混入によるmiRNA量への影響を評価するための、定量的PCRの結果を示すグラフである。
【図2】図2は、血液、及びGFPを発現する膀胱癌細胞の、セルソーター分析結果を示す。図2a及び2bは、GFPを発現する膀胱癌細胞の結果を示す。図2c及び2dは、血液の結果を示す。図2a及び2cは、セルソーターによる分析結果を示すドットプロットである。図2a及び2cは、縦軸に側方散乱光-面積(SSC-A)を、横軸に前方散乱光-面積(FSC-A)を示す。図2b及び2dは、細胞が発する光の波長域と細胞数を示すグラフである。「P6」は、緑色光の波長域を示す。
【図3】図3は、血液と、GFPを発現する膀胱癌細胞との混合物からの、膀胱癌細胞の回収を示す。図3a~3cは、使用した階層化ゲーティングを示す。図3aは、縦軸にSSC-Aを、横軸にFSC-Aを示す。図3bは、縦軸に前方散乱光-幅(FSC-W)を、横軸に前方散乱光-高さ(FSC-H)を示す。図3cは、縦軸に側方散乱光-幅(SSC-W)を、横軸に側方散乱光-高さ(SSC-H)を示す。図3dは、回収した細胞が緑色光を発する細胞であることを示すグラフである。
【図4】図4は、70%エタノール中で保存したRNAの分解を評価するためのアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【図5】図5は、異なる保存液中で保存した細胞のセルソーター分析結果を示すドットプロットである。図5a~5cは、対照(保存なし)の結果を示し、図5d~5fは、RNAlater(登録商標)中で保存した細胞の結果を示し、図5g~5iは、30%ポリエチレングリコール中で保存した細胞の結果を示す。図5a、5d及び5gは、縦軸にSSC-Aを、横軸にFSC-Aを示す。図5b、5e及び5hは、縦軸にFSC-Wを、横軸にFSC-Hを示す。図5c、5f及び5iは、縦軸にSSC-Wを、横軸にSSC-Hを示す。
【図6】図6は、尿路上皮癌患者の尿と正常尿からセルソーターを用いて回収した尿路上皮細胞画分におけるmiRNAの定量的PCR結果(Ct値)を示すグラフである。図6a~6cは、それぞれ、miR-200a、miR-205、及びmiR-200cの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(検出方法)
本発明は、被験体における尿路上皮癌の検出方法(又は診断方法若しくは診断を補助する方法)を提供する。

【0013】
本明細書において、「尿路上皮癌」とは、腎盂、尿管、膀胱又は尿道の尿路上皮に発生する癌を指す。尿路上皮癌の例としては、例えば、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、及び尿道癌が挙げられる。

【0014】
本明細書において、「被験体」は、好ましくは哺乳動物、例えば霊長類(例えば、カニクイザル、チンパンジー及びヒト)及び非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネコ、イヌ、モルモット、ラット及びマウス)であり、より好ましくはヒトである。一実施形態では、被験体は、尿路上皮癌に罹患していることが疑われる被験体であってよい。尿路上皮癌に罹患していることが疑われる被験体は、従来の検査法(例えば、尿検査紙を用いた尿検査、及び尿細胞検査)によって、同定され得る。好ましい一実施形態では、被験体は、血尿を有する被験体であってもよい。血尿は、例えば市販の尿検査紙を用いて、当業者であれば容易に判定できる。

【0015】
本方法では、被験体の尿から得られたサンプルを用いる。尿は、特別の医療設備を必要とせず、簡単にかつ苦痛を伴わずに採取することができるという利点がある。尿は、尿路上皮細胞などの少量の細胞を含む。尿路上皮細胞(移行上皮細胞ともいう)は、腎盂から尿管及び膀胱を経て尿道に至るまでの尿路の内側を覆っている細胞である。一実施形態では、尿路上皮細胞は、膀胱に由来する上皮細胞であってもよい。本発明に係る方法では、尿から得られた、尿路上皮細胞が富化されたサンプルにおけるmiRNAの発現量を指標として用いる。

【0016】
尿は、尿路上皮細胞に加えて、血液細胞(例えば、赤血球及び白血球)を含み得る。本発明者らは、尿への血液細胞の混入により、尿に由来するサンプル中のmiRNA量が影響を受けることを後述の実施例において見い出した。本発明に係る方法では、血液細胞の混入によるmiRNA量への影響を排除するため、被験体の尿から得られた、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを用いる。本明細書において、血液細胞の「除去」は、完全な除去だけでなく、処理前と比較して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上又は99.9%以上の血液細胞の除去を含み得る。本明細書において、尿路上皮細胞の「富化」(又は精製若しくは単離)は、細胞集団において尿路上皮細胞の相対量が増大することを意味する。一実施形態では、尿路上皮細胞が富化されたサンプルは、全細胞集団の80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上又は99.9%以上が尿路上皮細胞であるサンプルであってよい。

【0017】
血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルは、当技術分野で公知のいずれかの方法によって被験体の尿から得てよい。当該サンプルは、例えば、市販の血液細胞溶解試薬を用いて得てもよい。一実施形態では、当該サンプルは、セルソーターを用いて回収されたものであってよい。本明細書において、「セルソーター」とは、フローサイトメーターに細胞を分取する機能(ソーティング系)を組み合わせた装置を指す。一般に、セルソーターでは、細胞を含む細い流体にレーザー光を照射し、発生する前方散乱光(Forward Scatter、FSC)及び側方散乱光(Side Scatter、SSC)等のシグナルのそれぞれの高さ(H)、幅(W)及び面積(A)(パラメーター)を個々の細胞について測定し、得られた情報に基づいて目的の細胞を回収できる。FSCは、細胞の大きさについての情報を与え、SSCは、細胞内の複雑さ及び細胞内顆粒についての情報を与える。セルソーターとしては、BD FACSAria(商標)II(BD Biosciences社)などの市販の装置を使用できる。セルソーターは、製造業者の説明書に従って当業者であれば操作することができる。当業者は、セルソーターによって血液細胞と尿路上皮細胞とを分離し、細胞の大きさ、内部構造の複雑さ及び細胞内顆粒の情報に基づいて、尿路上皮細胞を単離(精製)することにより、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを得ることができる。例えば、膀胱細胞(例えば、BOY-GFP細胞などの膀胱癌細胞)及び血液細胞について、それぞれ、前方散乱光及び側方散乱光のシグナルのそれぞれの高さ(H)、幅(W)及び面積(A)の6つのパラメーターを測定し、膀胱細胞のみをソーティングできるパラメーター値の設定を決定し、その設定を用いて、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを尿から取得してもよい。予め装置に保存されたパラメーター値の設定を用いてもよい。

【0018】
尿を直接セルソーターに供し、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを得てもよい。あるいは、尿の細胞ペレット(血液細胞及び尿路上皮細胞を含む)をセルソーターに供し、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを得てもよい。尿の細胞ペレットは、例えば尿細胞検査において用いられる、慣用の方法を用いて得てもよい。尿の細胞ペレットは、例えば、尿を遠心分離(例えば、500×g~2000×gで4~6分間、例えば5分間)し、細胞ペレットと上清に分離し、上清を除去することによって得ることができる。上清の除去は、例えばアスピレータ、ピペット又はデカンテーションによって行ってよい。尿の細胞ペレットは、直接セルソーターに供してもよい。あるいは、尿の細胞ペレットは、ポリエチレングリコール溶液中で保存した後に、セルソーターに供してもよい。ポリエチレングリコール溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば、5~70(w/v)%、10~50(w/v)%、20~40(w/v)%、又は25~35(w/v)%であってもよい。ポリエチレングリコール溶液は、塩化ナトリウム水溶液(例えば、1M~5M NaCl又は2M~4M NaCl)中の溶液であってもよい。ポリエチレングリコール溶液中での保存は、冷凍(例えば-20℃~-80℃での)保存であってもよい。保存期間は、特に限定されないが、例えば、1日~1年又は1週間~1ヶ月の範囲であってもよい。ポリエチレングリコール溶液中での保存は、後述の実施例で示すように、RNAのクオリティの保持及びセルソーターによる分離能保持の観点から、好ましい。

【0019】
本発明に係る方法では、以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を、尿路上皮癌の指標として用いる。本明細書では、マイクロRNA(miRNA)は、その生合成過程で生成されるmiRNAスター(miRNA*)鎖も包含する。

【0020】
本発明では、上記miRNAの量を、尿路上皮癌の予後を判定(予測)するための指標として用いることもできる。

【0021】
ヒト及びその他の生物種に由来する上記miRNAの配列情報は、miRBaseデータベース(Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2014 42:D68-D73; Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2011 39:D152-D157; Griffiths-Jones S, Saini HK, van Dongen S, Enright AJ. NAR 2008 36:D154-D158; Griffiths-Jones S, Grocock RJ, van Dongen S, Bateman A, Enright AJ. NAR 2006 34:D140-D144; Griffiths-Jones S. NAR 2004 32:D109-D111)から入手できる。例として、ヒトの上記miRNAの塩基配列を表1に示す。本発明者らは、後述の実施例において、表1に示す99種のmiRNAが、膀胱癌において正常膀胱と比較して増加することを見い出した。

【0022】
【表1】
JP2018061445A_000003t.gif
JP2018061445A_000004t.gifJP2018061445A_000005t.gif

【0023】
本発明に係る方法では、上記miRNAの1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90個又は99個全て)の量を測定してよい。一実施形態では、測定されるmiRNAは、miR-200c、miR-205、miR-200a、miR-96、miR-183及びmiR-519aからなる群から選択される。別の実施形態では、測定されるmiRNAは、miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205及びmiR-200aからなる群から選択される。好ましい一実施形態では、測定されるmiRNAは、miR-200c、miR-205及びmiR-200aからなる群から選択される。

【0024】
一実施形態では、測定したmiRNAの量が対照量と比べて増大する(例えば、2倍以上、4倍以上、6倍以上、8倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上又は30倍以上である)場合に、被験体の尿路上皮癌が示される。対照量は、正常で健康な個体若しくは個体集団、又は尿路上皮癌に罹患していないことが分かっている個体若しくは個体集団において測定された量であってよい。対照量は、複数の個体において得られた量の平均値であってもよい。対照量は、以前に測定され、データベースに記憶された値であってもよい。

【0025】
また、あらかじめカットオフ値(閾値)を定めておいてもよい。カットオフ値を超えた場合に、被験体の尿路上皮癌が示され得る。カットオフ値は、例えば、ROC(receiver operating characteristic curve、受信者動作特性曲線)解析により定めることができる。また、ROC解析により、本発明の方法による診断精度(感度及び特異度)を決定することができる。ROC解析では、例えば、患者のサンプルと健常人のサンプルにおいてmiRNAの量を測定し、各カットオフ値での感度及び特異度を算出し、感度及び偽陽性率(1-特異度)を縦軸及び横軸にそれぞれプロットして、ROC曲線を作成する。ROC曲線下面積(area under the curve、AUC)を指標に、カットオフ値を定めることができる。

【0026】
本発明に係る方法では、RNA量の測定は、典型的には、尿から得られた、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルからトータルRNAを抽出し、抽出したRNAを用いて当技術分野で公知の核酸定量方法、例えば、PCRプライマーを用いる定量的PCR法(例えば、リアルタイムPCR法)、核酸プローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション法及びマイクロアレイ法などを用いて行うことができる。RNAの抽出は、ISOGEN(ニッポンジーン社(Nippon Gene))などの市販のRNA抽出試薬を用いて行ってよい。リアルタイムPCR法は、例えば、TaqMan microRNA Assay(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific))などのキット及びABI 7300 Sequence Detection System(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社)などの装置を用いて行ってもよい。

【0027】
本発明に係る方法は、尿路上皮癌の従来の検査法である、尿細胞検査、膀胱鏡検査、尿管鏡検査、超音波検査、CT検査、及びMRI検査のいずれか1つ又は複数と組み合わせて行ってもよい。このように組み合わせることにより、検査の感度及び特異度が向上し得る。

【0028】
本発明に係る方法により、被験体の尿路上皮癌が示された場合、被験体において癌を治療してもよい。治療としては、例えば、罹患部の切除、抗癌剤(例えば、ゲムシタビン、シスプラチン、メトトレキサート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、及び/又はシスプラチン)による化学療法、及び放射線療法が挙げられる。

【0029】
本発明はまた、被験体における尿路上皮癌の検出方法であって、
被験体の尿から、血液細胞が除去され尿路上皮細胞が富化されたサンプルを得る工程、及び
該サンプルにおいて、以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定する工程
を含む、方法を提供し得る。

【0030】
尿に由来するサンプルを用いるため、本発明に係る検出方法は非侵襲的であるという利点がある。また、尿への血液の混入によるマーカー量への影響を排除することができるため、本発明に係る方法は高い特異度をもたらすことができる。特に、血尿を有する癌以外の患者、例えば尿路結石症患者及び尿路感染症患者と、尿路上皮癌患者との識別にも本発明に係る方法は有用であり得る。

【0031】
(キット)
本発明は、上記の被験体における尿路上皮癌の検出方法に使用するためのキットも提供する。キットは、以下:
miR-200c、miR-944、miR-1323、miR-205、miR-200a、miR-200b、miR-516b、miR-203、miR-210、miR-141、miR-518b、miR-135b、miR-519a*、miR-518a-3p、miR-523*、miR-519c-5p、miR-518e*、miR-519b-5p、miR-522*、miR-429、miR-200b*、miR-512-5p、miR-1283、miR-224、miR-515-5p、miR-1246、miR-183*、miR-517b、miR-517a、miR-200a*、miR-1307、miR-523、miR-498、miR-516a-5p、miR-519a、miR-520a-3p、miR-515-3p、miR-1293、miR-512-3p、miR-520g、miR-524-5p、miR-301b、miR-518e、miR-518f、miR-21、miR-449c、miR-522、miR-1268、miR-519b-3p、miR-526b、miR-1269、miR-371-5p、miR-519d、miR-521、miR-3687、miR-141*、miR-518c、miR-520f、miR-182、miR-518c*、miR-767-5p、miR-520h、miR-548x、miR-372、miR-525-5p、miR-520c-3p、miR-519c-3p、miR-934、miR-517c、miR-520d-3p、miR-183、miR-96、miR-466、miR-205*、miR-520b、miR-200c*、miR-335*、miR-526b*、miR-671-5p、miR-524-3p、miR-526a、miR-518d-5p、miR-520c-5p、miR-525-3p、miR-138、miR-518f*、miR-708、miR-1292、miR-151-3p、miR-3180、miR-3180-3p、miR-1254、miR-31、miR-520a-5p、miR-371-3p、miR-1248、miR-3145、miR-149、及びmiR-449b
からなる群から選択される1つ以上のmiRNAの量を測定するためのポリヌクレオチドを含む。このポリヌクレオチドは、上記miRNAに相補的な塩基配列若しくは15塩基以上(例えば19塩基以上)の連続した塩基を含むその断片、又は上記miRNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含み得る。

【0032】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、低ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件は、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度及び塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む。

【0033】
本キットに含まれるポリヌクレオチドはDNA又はRNAであってよいが、安定性の観点から、DNAであることが好ましい。このポリヌクレオチドは、標的核酸である上記miRNAを検出するためのプローブ及びプライマーとして使用できる。キットは、例えば、PCR用の酵素、基質及び緩衝液、又はノーザンハイブリダイゼーション用試薬等をさらに含んでもよい。キットは、標的核酸である上記miRNAを検出するためのプローブが基板上に配置されたマイクロアレイチップであってもよい。本キットに含まれるポリヌクレオチドは、DNA組換え技術、PCR法、又は市販の核酸自動合成機を用いた合成法などの一般的な技術を用いて作製することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
尿への血液の混入によるマイクロRNA量への影響
本発明者らは、尿中のmiR-96及びmiR-183の量を指標として尿路上皮癌を検出する方法を以前に報告している(Yamada et al., Cancer Sci. 2011, Vol. 102, Issue 3, p. 522-529; 特開2011-36242号公報; 特開2009-100687号公報)。しかし、肉眼的血尿患者を対象とした前向き試験では、検査の特異度が低下する可能性が示唆された。本実施例では、尿へ血液が混入することにより、miRNA量が影響を受けるかどうかを調べた。
【実施例】
【0035】
以下の4種類のサンプルを調べた: 尿サンプル(30ml)、血尿サンプル(30mlの尿と100μlの血液の混合物)、血清サンプル(400μl)、及び血液サンプル(400μl)。サンプルを3000rpm(1710×g)、5分間で遠心分離し、得られた沈殿物を以下の工程に用いた。
【実施例】
【0036】
トータルRNAの抽出、cDNA合成及び定量的PCRを次のように行った。トータルRNAを、ISOGEN(ニッポンジーン社(Nippon Gene), Tokyo, Japan)を用いたフェノールクロロホルム法によって抽出した。cDNAを、得られたトータルRNAからmiRNA特異的なプライマー(TaqMan microRNA Assay, PEアプライド・バイオシステムズ社(PE Applied Biosystems); 現サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific))を用いた逆転写反応によって合成した。逆転写反応は、100nMのトータルRNA、50nMのステム-ループRTプライマー、1×RTバッファー、各0.25mMのdNTPs、3.33U/μlのMultiScribe逆転写酵素及び0.25U/μlのRNaseインヒビターの反応液を調製し、この反応液を16℃で30分、42℃で30分、85℃で5分インキュベートすることによって行った(逆転写反応後の反応液は4℃で保存した)。定量的PCRを、ABI 7300 Sequence Detection Systemを用いて、95℃で10分間のインキュベート後の、45回の95℃15秒及び60℃10分の反応によって行った。各サンプルについて定量的PCRの結果からCt値を得た。各サンプルについて得られたCt値から2^(40-Ct)値を算出し、この値を用いて、各miRNAの発現レベルを評価した。結果を、表2及び図1に示す。
【実施例】
【0037】
【表2】
JP2018061445A_000006t.gif
【実施例】
【0038】
血尿サンプルでは、miR-96及びmiR-183のいずれの量も、尿サンプルと比較して増加したことが示された。また、miR-96及びmiR-183の量は、血清サンプル(血液中の血球成分などが除去されたサンプル)におけるより、血液サンプルにおける方がはるかに高かったことから、血液中の血液細胞(赤血球及び白血球などの血球成分)がmiR-96及びmiR-183の量に影響を及ぼすことが示された。
【実施例】
【0039】
以上の結果から、尿に血液、特に、血液細胞が混入することにより、マイクロRNAの量が影響を受けることが示された。
【実施例】
【0040】
[実施例2]
セルソーターによる血液細胞と膀胱癌細胞の分離、及び膀胱癌細胞の回収
本実施例では、セルソーターを用いて血液細胞と膀胱癌細胞を分離し、両者の混合物から膀胱癌細胞のみを回収できるかどうかを調べた。
【実施例】
【0041】
GFP(緑色蛍光タンパク質)を発現する膀胱癌細胞(BOY-GFP株、AntiCancer Japan株式会社)及び血液を、それぞれ、セルソーター(BD FACSAria(商標)II、BD Biosciences)を用いて解析した。結果を図2に示す。GFPを発現する膀胱癌細胞と血液とは、ポピュレーションの場所が異なり、含まれる細胞の大きさ、内部構造の複雑さ及び細胞内顆粒に違いがあることが示された(図2a(膀胱癌細胞)及び図2c(血液))。また、GFPを発現する膀胱癌細胞では緑色光を発する細胞が多数検出されたのに対し、血液では緑色光を発する細胞が検出されないことが確認された(図2b(膀胱癌細胞)及び図2d(血液))。
【実施例】
【0042】
続いて、GFPを発現する膀胱癌細胞と血液とを混合したサンプルを、膀胱癌細胞のみをソーティングできるようにゲートをかけたセルソーターに供し、膀胱癌細胞のみをソーティングできるかどうかを調べた。図3a~3cに実際に使用した階層化ゲーティングを示す。階層化ゲーティングでは、散乱光により得られる6つのパラメーター(側方散乱光(SSC)及び前方散乱光(FSC)のシグナルのそれぞれの高さ(H)、面積(A)及び幅(W)のパラメーター)を組み合わせて細胞の大きさ、内部構造の複雑さ及び細胞内顆粒を解析し、パラメーターの組み合わせについて設定した領域内の細胞を階層的にソートする。以下の頂点を有するP1~P3領域を設定した。
P1(図3a): (FSC-A/SSC-A、値×1000) 頂点1; 31/135、頂点2; 65/222、頂点3; 254/250、頂点4; 216/18、頂点5; 89/28、頂点6; 44/59
P2(図3b): (FSC-H/FSC-W、値×1000) 頂点1; 34/118、頂点2; 110/118、頂点3; 110/86、頂点4; 39/74
P3(図3c): (SSC-H/SSC-W、値×1000) 頂点1; 21/138、頂点2; 117/138、頂点3; 120/80、頂点4; 22/76
【実施例】
【0043】
階層化ゲーティングによるソーティング後の細胞は緑色光を発する細胞のみであり、99%以上の精度(純度)で膀胱癌細胞のみをソーティングできることが示された(図3d)。
【実施例】
【0044】
以上の結果から、セルソーターを用いて血液細胞と膀胱癌細胞を分離し、細胞の大きさ、内部構造の複雑さ及び細胞内顆粒の情報に基づいて、血液細胞と膀胱癌細胞の混合物から膀胱癌細胞のみを回収できることが示された。
【実施例】
【0045】
[実施例3]
サンプル保存法の検討
本実施例では、セルソーターによる分離能を保持でき、かつ、RNAのクオリティを保持できるサンプル保存法を検討した。3種類の保存液(30%ポリエチレングリコール(PEG)、RNAlater(登録商標)及び70%エタノール)を検討した。
【実施例】
【0046】
70%エタノール中で保存したサンプルは、ソーティング可能であることはすでに知られている。70%エタノール中で保存したサンプルにおいてRNAのクオリティが保たれているかどうかを調べた。American Type Culture Collection(ATCC; Manassas, VA, USA)から購入した786-o細胞、T24細胞及びA498細胞、並びに鹿児島大学医歯学総合研究科で樹立した膀胱癌細胞株であるBOY細胞からISOGEN(ニッポンジーン社)を用いて製造業者のプロトコルに従ってRNAサンプルを調製した。786-o細胞由来のRNAサンプルを70%エタノールと混合し、-80℃で一晩インキュベートした。インキュベート後のRNAサンプルをアガロースゲル電気泳動によって解析した。結果を図4に示す。エタノール処理したサンプル(786-o RNA(70%エタノール保存))では786-o RNA(保存なし)で見られる28s rRNA及び18s rRNAのバンドは消失したことから、70%エタノール中の保存によりRNAは分解することが示された。
【実施例】
【0047】
RNAlater(登録商標)又はポリエチレングリコール中で保存したサンプルでは、RNAのクオリティが保たれることがすでに分かっている。RNAlater(登録商標)又はポリエチレングリコール中で保存したサンプルが、セルソーターによる分離能を保持できるかどうかを検討した。RNAlater(登録商標)はサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)から購入した。30%ポリエチレングリコール溶液は、ポリエチレングリコール8000(シグマ-アルドリッチ社(Sigma-aldrich))を3M NaCl中で30(w/v)%の濃度で溶解することにより調製した。膀胱癌細胞(BOY-GFP株)をRNAlater(登録商標)又は30%ポリエチレングリコール溶液と混合し、-20℃で一晩インキュベートした。インキュベート後のサンプルをセルソーター(BD FACSAria(商標)II、BD Biosciences)を用いて解析した。結果を図5に示す。RNAlater(登録商標)中で保存したサンプル(図5d~5f)は、対照(保存なし)(図5a~5c)と比べて異なるポピュレーションを示した。一方、ポリエチレングリコール中で保存したサンプル(図5g~5i)は、対照(保存なし)(図5a~5c)と類似したポピュレーションを示した。
【実施例】
【0048】
以上の結果から、ポリエチレングリコールを用いた保存法により、サンプルのセルソーターによる分離能を保持でき、かつ、RNAのクオリティを保持できることが示された。
【実施例】
【0049】
[実施例4]
膀胱癌で発現が増加するmiRNAの選択
本実施例では、ヒト臨床検体10例(膀胱癌5検体及び正常膀胱粘膜5検体)を用いて、次世代シークエンサーでマイクロRNAの全ゲノム解析を行った。解析は、理研ジェネシス社(Riken Genesis Co., Ltd.)に依頼した。Z-score法にて結果を解析した。膀胱癌検体で正常膀胱検体と比較して発現が増加したマイクロRNAを、有意性の指標であるp値に基づいてソートし、99種のマイクロRNAを選択した(表3)。
【実施例】
【0050】
【表3】
JP2018061445A_000007t.gif
JP2018061445A_000008t.gifJP2018061445A_000009t.gif
【実施例】
【0051】
[実施例5]
尿からセルソーターを用いて回収された尿路上皮細胞画分におけるmiRNAの発現
本実施例では、実施例4で選択した99種のマイクロRNAのうち、3種のマイクロRNA(miR-200c、miR-205及びmiR-200a)について、尿からセルソーターを用いて回収した尿路上皮細胞画分における発現量を定量的PCRを用いて測定した。
【実施例】
【0052】
ヒト尿路上皮癌(膀胱癌及び腎盂尿管癌)10例並びに正常11例の尿を用いた。尿を50ml遠心管に移し、遠心分離した(1500rpm、5分)。遠心分離後、上清を捨て、ペレット画分(細胞画分)に30%ポリエチレングリコール(PEG)を加え、-20℃で保存した。
【実施例】
【0053】
-20℃で保存したサンプルを溶解、遠心分離後、ペレットをリン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。その後、セルソーティング装置(BD FACSAria(商標)II、BD Biosciences)を用いて、尿路上皮細胞(膀胱由来の細胞)と血液細胞とを、レーザー照射により得られる細胞の大きさ、内部構造の複雑さ及び細胞内顆粒の情報に基づいて分離し、尿路上皮細胞を含む画分を回収した。細胞分離の設定は、実施例2でGFPを発現する膀胱癌細胞株と血液との混合物から膀胱癌細胞のみを回収できた設定と同じとした。セルソーティングで回収した尿路上皮細胞画分は、十分なRNA量及びクオリティを保持していた。
【実施例】
【0054】
得られた尿路上皮細胞画分を用いて、実施例1に記載したとおりに、サンプルからのトータルRNAの抽出、cDNA合成及び定量的PCRを行った。定量的PCRにより得られたCt値を図6及び表4に示す。
【実施例】
【0055】
【表4】
JP2018061445A_000010t.gif
【実施例】
【0056】
Ct値が低いほど、マイクロRNAの発現量は大きいことが示される。miR-200c、miR-205及びmiR-200aはいずれも、尿路上皮癌患者の尿から得られた尿路上皮細胞画分において、正常尿と比較して有意に低いCt値を示したことから、これらのマイクロRNAは、尿路上皮癌患者の尿から得られた尿路上皮細胞画分において正常尿と比較して有意に発現が増加したことが確認できた(図6)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5