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明細書 :癌深達度診断システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年5月24日(2018.5.24)
発明の名称または考案の名称 癌深達度診断システム
国際特許分類 A61B   1/045       (2006.01)
A61B   1/00        (2006.01)
A61B   1/018       (2006.01)
FI A61B 1/045 615
A61B 1/00 526
A61B 1/018 515
国際予備審査の請求
全頁数 21
出願番号 特願2017-528675 (P2017-528675)
国際出願番号 PCT/JP2016/070460
国際公開番号 WO2017/010461
国際出願日 平成28年7月11日(2016.7.11)
国際公開日 平成29年1月19日(2017.1.19)
優先権出願番号 2015139114
優先日 平成27年7月10日(2015.7.10)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】佐伯 壮一
【氏名】斯波 将次
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100139686、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 史朗
審査請求 未請求
テーマコード 4C161
Fターム 4C161AA01
4C161BB08
4C161CC07
4C161FF35
4C161FF40
4C161FF46
4C161HH51
4C161MM10
4C161NN01
4C161QQ09
4C161RR01
4C161RR18
4C161SS21
要約 癌深達度診断システムは、内視鏡と、内視鏡と共に体内に導入され、対象腫瘍が位置する対象組織に低コヒーレンス光を出射して光干渉信号を取得するマイクロ断層プローブと、光干渉信号に基づいて対象腫瘍を含む対象組織の断層像および断層像内の血管における血流速情報を取得する判定部とを備え、判定部は、断層像および血流速情報に基づいて対象腫瘍の深達度を判定する。
特許請求の範囲 【請求項1】
内視鏡と、
前記内視鏡と共に体内に導入され、対象腫瘍が位置する対象組織に低コヒーレンス光を出射して光干渉信号を取得するマイクロ断層プローブと、
前記光干渉信号に基づいて前記対象腫瘍を含む対象組織の断層像および前記断層像内の血管における血流速情報を取得する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記断層像および前記血流速情報に基づいて前記対象腫瘍の深達度を判定する、
癌深達度診断システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記断層像および前記血流速情報に基づいて、前記対象腫瘍の新生血管のうち、粘膜下層または筋層に存在する血管と連通した連通新生血管を特定し、前記連通新生血管の評価結果に基づいて前記対象腫瘍の深達度を判定する、
請求項1に記載の癌深達度診断システム。
【請求項3】
前記マイクロ断層プローブは、高周波変調された前記低コヒーレンス光を出射する、
請求項1または2に記載の癌深達度診断システム。
【請求項4】
前記血流速情報は、前記血管が押圧されて血流速が所定値以下に低下した後の血流回復に伴う血流速の立ち上がりに関する情報を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の癌深達度診断システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の深達度を診断するシステムに関する。
本願は、2015年7月10日に出願された日本国特願2015-139114に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
消化管に発生する癌は、早期癌であれば転移のリスクも少なく、その一部は内視鏡的切除が可能である。一方、進行癌である場合、転移のリスクが高くなるため、外科的切除を行うのが基本である。したがって、消化管の癌を適切に治療するためには、早期癌であるか進行癌であるかを正確に見極めることが重要であり、そのためには腫瘍の深達度(組織の厚さ方向への広がり度合い)を正しく評価することが鍵となる。
【0003】
消化管癌の深達度の評価方法として、NBI(Narrow-Band Imaging)法で取得した画像を用いる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この方法では、NBI法で取得された画像(NBI画像)に基づき、癌の腫瘍に特有の新生血管の走行状態を評価することにより腫瘍の深達度を評価している。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2014-42842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、腫瘍が粘膜筋板を超えて成長しているかどうかを画像から判断することは容易ではない。その結果、現状NBI画像に基づいた癌深達度の正診率は、例えば胃癌では70%弱であり、改善の余地が残されている。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、高精度に癌深達度を診断することができる癌深達度診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内視鏡と、前記内視鏡と共に体内に導入され、対象腫瘍が位置する対象組織に低コヒーレンス光を出射して光干渉信号を取得するマイクロ断層プローブと、前記光干渉信号に基づいて前記対象腫瘍を含む対象組織の断層像および前記断層像内の血管における血流速情報を取得する判定部とを備え、前記判定部は、前記断層像および前記血流速情報に基づいて前記対象腫瘍の深達度を判定する癌深達度診断システムである。
【0008】
前記判定部は、前記断層像および前記血流速情報に基づいて、前記対象腫瘍の新生血管のうち、粘膜下層または筋層に存在する血管と連通した連通新生血管を特定し、前記連通新生血管の評価結果に基づいて前記対象腫瘍の深達度を判定してもよい。
【0009】
前記マイクロ断層プローブは、高周波変調された前記低コヒーレンス光を出射するものでもよい。
前記血流速情報は、前記血管が押圧されて血流速が所定値以下に低下した後の血流回復に伴う血流速の立ち上がりに関する情報を含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の癌深達度診断システムによれば、高精度に癌深達度を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】胃壁の断面を模式的に示す図である。
【図2】粘膜層と腫瘍を示す図である。
【図3】粘膜層と腫瘍を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態における癌深達度診断システムの全体構成を示す図である。
【図5】同癌深達度診断システムにおけるマイクロ断層プローブの機構を示す模式図である。
【図6】同癌深達度診断システムの使用時の一動作を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態における癌深達度診断システムにおける内視鏡先端部を示す図である。
【図8】同先端部を異なる方向から見た図である。
【図9】試験流路の構造を示す図である。
【図10A】イントラリピッド溶液を用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図10B】同3次元血流速断層分布像の一部を取り出した血流速分布グラフ。
【図11A】イントラリピッド溶液を用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図11B】同3次元血流速断層分布像の一部を取り出した血流速分布グラフ。
【図12A】赤血球浮遊液を用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図12B】同3次元血流速断層分布像の一部を取り出した血流速分布グラフ。
【図13A】赤血球浮遊液を用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図13B】同3次元血流速断層分布像の一部を取り出した血流速分布グラフ。
【図14】メダカを用いた検討の概要を示す模式図。
【図15A】メダカを用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図15B】メダカを用いた検討における3次元血流速断層分布像。
【図16】本発明の癌深達度診断システムにおけるアルゴリズムの一例を示す図である。
【図17】ヒト皮下毛細血管における血流速分布の測定結果。
【図18】ヒト皮下毛細血管における血流速分布の測定結果(血管拡張剤塗布後)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図6を参照して説明する。まず、本発明における癌深達度評価の原理について説明する。
図1は、胃壁の断面を模式的に示す図である。胃壁Gwは、胃の内腔側から、粘膜層Mc、粘膜筋板Lm、粘膜下層Sm、筋層Mp、漿膜Seの順で各層が積層された構成を有する。日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第14版」では、癌細胞の塊である腫瘍が粘膜下層Smまでにとどまり、筋層Mpに達していないものを最も深達度が低いT1としている。日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン2014年第4版」では、内視鏡的治療の適応となるのは、深達度T1の病変のうち、腫瘍が粘膜層Mcに限局して存在しているものだけであり、腫瘍が粘膜下層に達しているケースは、外科手術の適応となる。

【0013】
したがって、処置対象の腫瘍が、内視鏡的治療および外科手術のいずれの適応であるかを判断するためには、腫瘍が粘膜筋板Lmを超えているか否かという情報を取得するのが最も好ましい。しかしながら、胃壁の断層像において、粘膜筋板Lmを非侵襲的かつリアルタイムに鮮明に観察可能な手段は今のところ存在しないため、腫瘍が粘膜筋板Lmを超えて粘膜下層Smに達しているか否かを非侵襲的かつリアルタイムに判断することは現状困難である。

【0014】
そこで、発明者らは、粘膜筋板を観察するのではなく、全く新しい考え方で胃壁における腫瘍の深達度を評価することを考えた。
癌細胞の塊である腫瘍は、自身が成長するために内部および周囲に血管を新生する。これにより腫瘍の内部および周囲に構築される新生血管のネットワークは、腫瘍の成長に伴って密となる。
粘膜層Mc内に発生した腫瘍Tmは、その初期において、図2に示すように、自身の周囲に新生血管Nv1を形成する。形成された新生血管Nv1は、粘膜層Mc内にもともと存在している毛細血管と連通することで血液を腫瘍Tmに流し、腫瘍Tmに栄養及び酸素を供給する。

【0015】
腫瘍Tmが成長して一定の大きさになると、粘膜層Mc内の毛細血管のみでは、必要な酸素や栄養を賄うことが困難になってくる。すると腫瘍Tmは、図3に示すように、粘膜筋板Lmを貫通する新たな新生血管Nv2を形成し、粘膜下層Smや筋層Mpに存在する、より径の大きな血管との連通を試みる。例えば、Kishi K, et al., Journal of Surgical Oncology, 106(3) : 294-298, 2012には、胃の静脈に流した蛍光物質が胃粘膜内に存在する腫瘍に取り込まれることが報告されている。これは、新生血管Nv2の存在を証明するものと言える。

【0016】
新生血管Nv2が、粘膜下層Smや筋層Mpに存在する血管と連通すると、新生血管Nv2には、先に形成されている新生血管Nv1よりも多くの血液が流れ込む。その結果、新生血管Nv2における血流の流速は、新生血管Nv1よりも速い所定値以上となる。
新生血管Nv2が粘膜下層Smや筋層Mpに存在する血管と連通した状態は、腫瘍Tmが粘膜筋板Lmを間もなく超える程度に成長していること、もしくは腫瘍Tmが既に粘膜筋板Lmを超える程度に成長していることを意味する。発明者らは、粘膜層Mc内における新生血管内の血流速を評価することで、粘膜筋板を直接観察することなく、処置対象の腫瘍が内視鏡的治療の適応であるか否かを判別できることを見出した。

【0017】
粘膜層Mc内に存在する毛細血管や腫瘍Tmが形成する新生血管は、内径がμmオーダーの微小なものであるが、低コヒーレンス光を用いたマイクロ断層可視化システムを用いることにより、新生血管の血流速の情報を有する画像を取得することが可能である。
以下、本実施形態の癌深達度診断システムについて説明する。

【0018】
図4は、本実施形態の癌深達度診断システムの全体構成を示す図である。癌深達度診断システム1は、内視鏡100と、内視鏡100のチャンネルに挿通されて内視鏡100と共に体内に導入されるマイクロ断層プローブ10とを備えている。内視鏡100としては、光学観察可能な公知の各種内視鏡を適宜選択して用いることができる。

【0019】
図5は、マイクロ断層プローブ10の機構を示す模式図である。マイクロ断層プローブ10は、光源21、オブジェクトアーム22、リファレンスアーム23、および光検出器24を備えている。マイクロ断層プローブ10の各光学要素は、光ファイバで互いに接続されている。
光源21から出射された光は、カプラ(ビームスプリッタ)25により分けられる。分けられた光の一方はオブジェクトアーム22に導かれる物体光となり、他方がリファレンスアーム23に導かれる参照光となる。

【0020】
オブジェクトアーム22は、サーキュレータ26と、物体光を測定対象に出射する光学機構30とを有している。オブジェクトアーム22に導かれた物体光は、サーキュレータ26を介して光学機構30に導かれ、測定対象Wに照射される。物体光は、測定対象Wの表面及び断面にて後方散乱光として反射されてサーキュレータ26に戻り、カプラ27に導かれる。
光学機構30は、図示しない光ファイバ、駆動部、および光回転ジョイントを備えており、その基本構造は公知である。光学機構30は、駆動部で光ファイバを回転することにより、物体光を走査しつつ測定対象Wに出射可能である。駆動部としては、例えば回転アクチュエータ等を用いることができる。

【0021】
リファレンスアーム23は、サーキュレータ28および反射鏡29を有している。リファレンスアーム23に導かれた参照光は、サーキュレータ28を介して、コリメートレンズや集光レンズ等を通り反射鏡29に導かれる。反射鏡29で反射された参照光は、サーキュレータ28に戻り、カプラ27に導かれる。すなわち、物体光と参照光とがカプラ27で合波(重畳)され、生じた干渉光が光検出器24により検出される。
反射鏡29としては、ガルバノミラーやレゾナントミラー等を用いることができる。レゾナントミラーを用いると、高速に断層像を取得することができる。レゾナントミラーを用いる場合、コリメートレンズとレゾナントミラーとの間に凹状に湾曲した反射面を有する曲面ミラーが配置されてもよい。

【0022】
図4に示すように、マイクロ断層プローブ10には、入力装置31、制御演算部(判定部)32、および表示装置33が接続されている。入力装置31は、使用者が各種設定や光学機構30の駆動部への操作入力等を行う部位であり、その構成に特に制限はない。制御演算部32は、入力装置31への入力に基づいてマイクロ断層プローブ10の各部への指令信号を生成、送信することで、マイクロ断層プローブ10の動作を制御する。また、光検出器24から受信した光干渉信号に対して各種演算や処理を行い、測定対象Wの断層画像データ(断層像)や各種情報を取得したり、断層画像データに基づいて所定の基準の基づく判定を行ったりする。表示装置33は、制御演算部32で取得された画像データや各種情報を表示する。

【0023】
カプラ27で合波された干渉光は、光検出器24に入力される。光検出器24は、これを光干渉信号(干渉光強度を示す信号)として検出する。光検出器24から出力されたアナログの光干渉信号は、A/D変換器41(図4参照)でデジタル信号に変換されて制御演算部32に入力される。制御演算部32から送信されたデジタルの指令信号は、D/A変換器42でアナログ信号に変換されて光学機構30等に入力される。

【0024】
マイクロ断層プローブ10は、OCT(Optical Coherence Tomography)によるマイクロ断層像に加えて、断層像内に存在する物質の速度に関する情報を取得する。詳細については後述する。

【0025】
上記のように構成された本実施形態の癌深達度診断システム1の使用時の動作について説明する。
まず使用者は、内視鏡100を患者の口に挿入し、先端部を胃内へ導入する。内視鏡100で胃内を観察しながら深達度診断の対象となる対象腫瘍の位置を特定し、先端部を対象腫瘍が位置する対象組織の近傍に移動させる。

【0026】
次に使用者は、内視鏡100の鉗子口101からマイクロ断層プローブ10を挿入して、内視鏡100のチャンネル(不図示)内にマイクロ断層プローブ10を導入する。そして、マイクロ断層プローブ10の先端に設けられた光学機構30を内視鏡100から突出させる。マイクロ断層プローブ10は、内視鏡100を胃内に導入する前に予め内視鏡に挿入しておいてもよい。

【0027】
使用者は、図6に示すように、対象組織Stにマイクロ断層プローブ10の出射面を向け、対象組織Stに向けて物体光を出射する。物体光は、マイクロ断層プローブ10を対象組織Stの表面に接触させて出射してもよいし、わずかに離間させて出射してもよい。出射された物体光は、対象組織Stの表面および対象腫瘍を含む対象組織Stの内部で反射され、一部がマイクロ断層プローブ10に戻る。光学機構30を駆動することにより、対象腫瘍を含む対象組織Stの断層複数スライス分の情報を連続的に取得することができる。

【0028】
光検出器24で検出された光干渉信号は、ST-FFT(短時間高速フーリエ変換)等の所定の処理がなされた後に制御演算部32に送られる。制御演算部32では、受信した光干渉信号の信号強度に基づいて対象腫瘍を含む対象組織StのOCT断層像を作成するとともに、周波数解析に基づいて検出されたドップラー変調周波数を用いて断層像内の移動物体の流速分布を作成する。したがって、血管内の赤血球の流速分布を取得することにより、断層像内の各血管内を流れる血液の流速に関する情報(血流速情報)を取得することができる。

【0029】
制御演算部32は、断層像および流速分布の作成後自動的に、あるいは使用者の指示により、断層像および血流速情報に基づいて、対象腫瘍の深達度を判定する。判定の基本的考え方は、上述したように、粘膜下層Smや筋層Mpに存在する血管と連通した新生血管Nv2(以下、「連通新生血管」と称することがある。)を、血流速情報に基づいて特定し、評価するというものである。連通新生血管を特定するための血流速の閾値は、例えば1mm/秒とすることができる。連通新生血管の特定は、血流速情報と、断層像から取得される血管径の値とを組み合わせて行ってもよい。一般に新生血管Nv2は、新生血管Nv1よりも径が大きいため、このようにすることで、連通新生血管の特定精度をさらに高めることができる。
特定された連通新生血管の評価基準については、一種類に限られない。例えば、下記のように多種多様な基準設定が可能である。各基準の値として、複数の断層像における最大値、最小値、平均値等が採用されてもよい。
・連通新生血管の有無
・連通新生血管の数
・連通新生血管の断層像における面積または面積比率
・断層像における連通新生血管の流量(流速と断面積の積)
制御演算部32は、設定された評価基準に基づいて対象腫瘍の深達度を判定し、表示装置33に表示する。評価基準と深達度との関連付けや深達度評価の段階設定等は、使用者が入力装置31を用いて適宜設定することができる。また、複数の評価基準を組み合わせて深達度が判定されてもよい。

【0030】
以上説明したように、本実施形態の癌深達度診断システム1によれば、マイクロ断層プローブ10により取得された対象腫瘍を含む対象組織の光干渉信号に基づいて、対象腫瘍を含む対象組織の断層像および断層像内の血流速情報が取得される。そして、取得された断層像および血流速情報に基づいて、制御演算部32が断層像における連通新生血管の状態を評価し、当該評価に基づいて対象腫瘍の深達度を判定する。
したがって、光学内視鏡を用いた対象組織の観察と並行し、リアルタイムかつ高精度に対象腫瘍の深達度を判定することができる。その結果、対象腫瘍について内視鏡的治療の適応であるか否かを迅速に判断することができ、患者に対する侵襲を最小限に抑えつつ、適切な治療を行うことができる。

【0031】
また、2次元イメージでの診断が可能であり、患者の体動や臓器の蠕動に起因するアーチファクトを好適に排除することができる。

【0032】
さらに、癌深達度診断システム1は、公知の方法により腫瘍の新生血管を含む胃粘膜内の毛細血管ネットワークの3次元可視化も可能である。毛細血管ネットワークの情報は定性的であるが、癌深達度診断システム1では上述した断層像および血流速情報等の定量的な情報と組み合わせることで、さらに高精度の診断を行うことができる。たとえば、毛細血管ネットワークにおける位置と血流速とを用いて連通新生血管を特定してもよい。
NBI法と拡大内視鏡とを組み合わせて取得される従来の毛細血管ネットワーク画像では、異なる深さに位置する血管が重畳して示されるが、癌深達度診断システム1では、深さ方向の情報を含めた立体的な毛細血管ネットワークの情報を取得することができる。したがって、血流速情報と組み合わせることで、流体力学に基づいた数値計算により、連通新生血管から対象腫瘍に供給される血液量を逆解析で求めることが可能となる。連通新生血管から多くの血液が対象腫瘍に供給されるということは、対象腫瘍において細胞増殖が活発に行われていることを示しているため、連通新生血管から対象腫瘍に供給される血液量の情報に基づいて、制御演算部32に対象腫瘍の深達度や転移リスク(対象腫瘍が転移する可能性)等をより高精度に算出させることができる。

【0033】
また、上述の図5では、フーリエドメインOCTの一種であるSS-OCT(Swept-source OCT)の構成例を示したが、これに代えてSD-OCT(Spectral-domain OCT)が用いられてもよい。

【0034】
本発明の第二実施形態について、図7および図8を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図7は、本実施形態の癌深達度診断システム201における内視鏡200の先端部を示す図である。癌深達度診断システム201では、マイクロ断層プローブ10がチャンネル内でなく内視鏡200内に配置されており、内視鏡とマイクロ断層プローブとが一体化されている。対象組織に物体光を出射する光学機構30は、内視鏡200の先端部に設けられたプローブ部210内に配置されている。図8に示すように、物体光が出射される光学機構30の出射口30aは透明な部材で覆われており、出射口30aおよび出射口30aの周囲には、接触した組織を押圧する押圧面211が形成されている。

【0035】
上記のように構成された癌深達度診断システム201の使用時の動作について説明する。使用者はまず押圧面211を対象組織Stに軽く接触させた状態でOCT断層像および断層像内の各血管における血流速情報を取得し、連通新生血管の位置を特定する。断層像および血流速情報は、制御演算部32や、図示しない内蔵記憶媒体等に記憶される。

【0036】
次に、使用者は、内視鏡200を操作して、押圧面211で対象組織Stを押圧しながら連通新生血管の血流速を確認する。連通新生血管の血流速が所定値(例えば1mm/秒)以下になり、虚血状態となったら、使用者は、内視鏡200を操作して押圧面211による対象組織の押圧を解除する。対象組織の押圧が解除されると、対象組織内の各血管における血流が回復し、血流速が再び増加する。血流回復に伴う血流速の変化は、経時的に制御演算部32により取得される。したがって、制御演算部32は、血流回復に伴う血流速の立ち上がり(増加の傾き)を断層像内の各血管に関する血流速情報の一つとして取得することができる。

【0037】
虚血後の血流回復に伴う血流速の立ち上がりに関する情報は、様々な態様で制御演算部32による深達度判定に用いることができる。例えば、最大血流速と血流速の立ち上がりとを組み合わせて連通新生血管を特定することにより、連通新生血管の特定精度を高めてもよいし、血流速の立ち上がりを評価基準の一つとして、単独または他の評価基準と組み合わせて用いることにより、対象腫瘍の深達度判定が行われてもよい。

【0038】
本実施形態の癌深達度診断システム201によれば、第一実施形態の癌深達度診断システム1と同様に、リアルタイムに対象腫瘍の深達度を判定することができる。
さらに、制御演算部32が、血流速情報の一つとして各血管における血流速が所定値以下になった後の血流回復に伴う血流速の立ち上がりに関する情報を取得可能であるため、連通新生血管の特定精度や対象腫瘍深達度の判定精度を向上させることができる。

【0039】
さらに、内視鏡200とマイクロ断層プローブ10とが一体化されているため、出射口30aの周囲に大きな押圧面211を設けることができる。その結果、連通新生血管を虚血状態にする際の組織押圧を好適に行うことができる。加えて、マイクロ断層プローブの挿抜の手間もなく、操作性に優れたシステムとすることができる。

【0040】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。

【0041】
例えば、上述の例では、ST-FFT等の処理による周波数解析を行い,血流によるドップラー変調周波数を検出して血流速情報を得る例を説明したが、マイクロ断層プローブから高周波変調された低コヒーレンス光を出射するように癌深達度診断システムを構成することで、より高精度に血流速情報を得ることができる。高周波変調は、公知の電気光学変調器(EOM)や、音響光学変調器(AOM)等を用いて行うことができる。高周波変調を行う場合は、TD-OCT(Time-domain OCT)を用いた構成が好適である。
さらに、高周波変調された低コヒーレンス光により取得された干渉信号に、ヒルベルト変換を含む処理を行うことで、血流速情報の分解能を大幅に高めることができる。具体的には、干渉信号を実部として位相を90度シフトさせて虚部を取得し、実部及び虚部からなる解析信号を作成する。この解析信号を用いて振幅および位相を決定し、さらに振幅及び位相に基づいてドップラー周波数を決定することで、より高精度に血流速を算出して血流速情報を取得することができる。毛細血管を流れる血流の速度は、それほど高くない。血流速情報の分解能を高めることで、低速域の検出精度が大きく向上するため、毛細血管の血流速情報の取得精度を著しく向上させることができる。その結果、判定部で算出される深達度や転移リスク等の精度もさらに向上する。

【0042】
さらに、隣接自己相関法を併用することで、干渉信号において隣接位相情報を参照し、同相ノイズを低減することができる。その結果、血流速情報の分解能をさらに高めることができる。隣接自己相関法を用いる場合、必ずしもEOMを用いなくてもよいが、EOMを用いることで高周波帯での検出が可能となるメリットがある。
発明者らの検討では、ニュートン流体であるイントラリピッド溶液、および赤血球浮遊液を用いたin vitroの検討において、隣接自己相関法の導入により、流速500μm/秒以下のマイクロ流れの検出、および流速500μm/秒以下のマイクロ流れにおける血液レオロジー特定の検出に成功している。さらに、メダカを用いたin vivoの検討では、隣接自己相関法の導入により、空間解像度5~25μmの3Dマイクロ断層像の可視化、および3Dドップラー周波数分布のマイクロ断層可視化に成功し、血管の拍動によるドップラー周波数の検出も可能であった。
上述したアルゴリズムの変更により、連通新生血管の特定精度および連通新生血管に関する情報の精度をさらに高め、対象腫瘍の深達度の判定精度をより向上させることが可能である。

【0043】
図9に、イントラリピッド溶液および赤血球浮遊液の検討に用いた試験流路の構造を示す。流路の寸法は、X軸方向250μm、Z軸方向40μmであり、ヒト毛細血管を想定した値に設定した。
図10Aから図11Bに、イントラリピッド溶液の測定結果を示す。図10Aおよび図10Bは、平均流速0.5mm/秒の条件下における結果であり、図10Aが3次元血流速断層分布像、図10Bは、3次元血流速断層分布像のうち、X=125μmの部位のみ取出した流速分布のグラフである。この検討では、偏り誤差72μm/秒、ばらつき誤差352μm/秒であった。
図11Aおよび図11Bは、平均流速1.0mm/秒の条件下における結果であり、図11Aが3次元血流速断層分布像、図11Bは、3次元血流速断層分布像のうち、X=125μmの部位のみ取出した流速分布のグラフである。この検討では、偏り誤差57μm/秒、ばらつき誤差385μm/秒であった。イントラリピッド溶液を用いた検討では、光軸方向(Y軸方向)の計測精度13.4μm/秒で流速検出をすることができた。

【0044】
図12Aから図13Bに、赤血球浮遊液(Hct40%)の測定結果を示す。図12Aおよび図12Bは、平均流速0.5mm/秒の条件下における結果であり、図12Aが3次元血流速断層分布像、図12Bは、3次元血流速断層分布像のうち、X=125μmの部位のみ取出した流速分布のグラフである。この検討では、ばらつき誤差201μm/秒であった。
図13Aおよび図13Bは、平均流速1.0mm/秒の条件下における結果であり、図13Aが3次元血流速断層分布像、図13Bは、3次元血流速断層分布像のうち、X=125μmの部位のみ取出した流速分布のグラフである。この検討では、ばらつき誤差439μm/秒であった。

【0045】
図14から図15Bに、メダカを用いた検討の概要および測定結果を示す。図14に示すように、ステージ301上に設置したスライドグラス302の上に、メダカ303を静置し、オブジェクトアームの先端304からメダカ303に物体光を照射して、尾びれ付近の部位の毛細血管を測定した。
図15Aおよび図15Bは、3次元血流速断層分布像である。3次元的に蛇行しながら交差する毛細血管と、その毛細血管内における血流速ドップラー周波数分布が可視化できている。

【0046】
次に、本発明の癌深達度診断システムを用いてヒト皮下の毛細血管における血流速分布を測定したデータを示す。測定部位は前腕内側とし、皮膚表面から深さ500μm程度までの範囲を測定対象とした。

【0047】
上記測定に用いたアルゴリズム、信号取得条件、および解析条件を図16に示す。この測定では、ヒルベルト変換後に隣接自己相関法を用いて同相ノイズを低減している。

【0048】
結果を図17および図18に示す。図17および図18において、左側が断層像であり、右側が血流速断層分布像である。断層像および血流速断層分布像において、白線で皮膚表面の位置を示している。
図17において、表面から深さ100μm前後(縦軸(Z軸)における600μm付近)に表皮と真皮との境界部が存在するが、血流速断層分布像において毛細血管の血流速を示す像(黒い微小点)が境界部付近に認められる。この検討では200μm/秒以下の血流速を検出することができた。

【0049】
図18には、同一部位に血管拡張作用を有するニコチン酸メチル(0.1質量%)を塗布し、5分後に測定した結果を示している。ニコチン酸メチルの血管拡張作用により、検出された毛細血管の血流速像が増加していることが確認できる。本検討では、血流速も塗布前の1.5倍となっており、血流速が上昇した領域が大きく広がっていた。

【0050】
以上のように、本発明の癌深達度診断システムにより、ヒト毛細血管の血流速を断層可視化することが可能であることが確認された。ヒト皮膚表皮直下の毛細血管の直径は10μm程度であり、癌の新生血管の末端の直径と同程度である。血流速状態も癌の新生血管と同レベルと考えられる。
ヒト皮膚表皮直下の透明度は、消化管粘膜に比べ非常に低いため、ヒト皮膚での血流速の検出は光学的により困難である。したがって、光学的には、粘膜層における毛細血管の血流速の可視化は、ヒト皮下に比して容易であるため、本発明の癌深達度診断システムを用いて粘膜層内の連通新生血管における血流速をマイクロ断層可視化することにより、初期微小癌の診断を行うことは十分可能であると言える。
さらに、上述したヒト皮下の検討において使用したニコチン酸メチルは血管拡張剤の一つであり、連通新生血管の存在状態を模擬的に再現することを意図している。ニコチン酸メチル塗布後に検出血流速が上昇した状態は、消化管癌において連通新生血管が存在している状態に近く、連通新生血管の特定および情報取得と同等の検出が行えたと言える。

【0051】
食道や大腸壁も胃壁と同様に粘膜下層および筋層を有するため、連通新生血管を特定及び評価する本発明の癌深達度診断システムは、胃癌だけでなく食道癌や大腸癌等の他の消化管癌を対象腫瘍とすることも可能である。

【0052】
また、OCT断層像を得る前に、微小粒子を静脈投与してもよい。このようにすると、赤血球に代えて、連通新生血管内を流れる微小粒子のドップラー変調信号から血流速情報を得ることができる。毛細血管等の、血管径が10μm程度の血管では、赤血球がスムーズに流れにくいため、ドップラー信号が取得しにくい場合があるが、微小粒子を用いることにより、毛細血管内におけるドップラー変調を明りょうに発生させることができる。微小粒子としては、生体適合性を有するナノ粒子等を用いることができる他、ある種の造影剤も微小粒子を含んでいるため、利用可能である。

【0053】
さらに、本発明の癌深達度診断システムで取得される深達度は、癌治療において新生血管抑制剤を投与した後の効果判定の指標としても用いることができる。

【0054】
なお、本発明は、以下の技術思想を含むものである。
(付記項1)
対象腫瘍が位置する対象組織に低コヒーレンス光を出射して光干渉信号を取得し、
前記光干渉信号に基づいて前記対象腫瘍を含む対象組織の断層像および前記断層像内の血管における血流速情報を取得し、
前記断層像および前記血流速情報に基づいて前記対象腫瘍の深達度を判定する、
病変の深達度判定方法。
(付記項2)
高周波変調された前記低コヒーレンス光を出射して前記光干渉信号が取得される、
付記項1に記載の病変の深達度判定方法。
(付記項3)
前記血流速情報は、前記血管が押圧されて血流速が所定値以下に低下した後の血流回復に伴う血流速の立ち上がりに関する情報を含む、付記項1または2に記載の病変の深達度判定方法。
【符号の説明】
【0055】
1、201 癌深達度診断システム
10 マイクロ断層プローブ
100、200 内視鏡
32 制御演算部(判定部)
Nv2 新生血管(連通新生血管)
Mp 筋層
St 対象組織
Sm 粘膜下層
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10A】
9
【図10B】
10
【図11A】
11
【図11B】
12
【図12A】
13
【図12B】
14
【図13A】
15
【図13B】
16
【図14】
17
【図15A】
18
【図15B】
19
【図16】
20
【図17】
21
【図18】
22