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明細書 :高級脂肪酸検出センサー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-036182 (P2018-036182A)
公開日 平成30年3月8日(2018.3.8)
発明の名称または考案の名称 高級脂肪酸検出センサー
国際特許分類 G01N   5/02        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
FI G01N 5/02 A
C12P 7/64
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2016-170737 (P2016-170737)
出願日 平成28年9月1日(2016.9.1)
発明者または考案者 【氏名】小林 拓朗
【氏名】倉持 秀敏
【氏名】徐 開欽
出願人 【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100093816、【弁理士】、【氏名又は名称】中川 邦雄
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
Fターム 4B064AD87
4B064CC30
4B064CE09
4B064DA16
要約 【課題】迅速に高級脂肪酸を検出でき、さらに有機性廃棄物のメタン発酵処理において、油脂の分解過程で生じる高級脂肪酸の阻害が連続運転の障害となるので、発酵処理液中の高級脂肪酸を迅速に検出し、濃度モニタリング可能な高級脂肪酸検出センサーを提供する。
【解決手段】有機性廃棄物発酵液中の高級脂肪酸を吸着・検出するために、水晶振動子の表面に絶縁を目的とした第一膜と高級脂肪酸吸着を目的とした第二膜からなる二重の被膜が形成された高級脂肪酸検出センサーを使用することで、メタン発酵液中の高級脂肪酸濃度を短時間で定量的に測定する。絶縁を目的とした第一膜としては例えば高分子のポリビニルブチラールなど、高級脂肪酸吸着を目的とした第二膜としては例えば高分子のスチレン-ジビニルベンゼン共重合体などが使用できる。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
水晶板に金属電極を備える水晶振動子と、少なくとも前記金属電極を覆い絶縁する第一膜と、前記第一膜の表面をコーティングし高級脂肪酸を吸着するための第二膜と、からなることを特徴とする高級脂肪酸検出センサー。
【請求項2】
前記第一膜が、絶縁の機能を有する高分子または無機物であることを特徴とする請求項1に記載の高級脂肪酸検出センサー。
【請求項3】
前記絶縁の機能を有する高分子が、ポリビニルブチラール(PVB)であることを特徴とする請求項2に記載の高級脂肪酸検出センサー。
【請求項4】
前記第二膜が、高級脂肪酸の吸着もしくは収着性能を有する高分子であることを特徴とする請求項1に記載の高級脂肪酸検出センサー。
【請求項5】
前記高級脂肪酸の吸着もしくは収着性能を有する高分子が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体(PSDVB)であることを特徴とする請求項4に記載の高級脂肪酸検出センサー。
【請求項6】
有機性廃棄物の発酵液中での使用であって、
前記第一膜及び第二膜の前記水晶振動子表面への被膜量さらに有機性廃棄物発酵液濃度を調節して、測定中の前記水晶振動子の直列共振抵抗を制御し、十分な発振余裕度を保持することを特徴とする請求項1~請求項5の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーの利用方法。
【請求項7】
前記有機性廃棄物発酵液のpHを調節して、検出対象である高級脂肪酸の解離を促すことでトリグリセリドとの混合物中において高級脂肪酸の選択的な検出を行うことを特徴とする請求項1~請求項5の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーの利用方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーを用いて、有機性廃棄物の発酵液中の高級脂肪酸の濃度を把握し、前記高級脂肪酸の濃度を抑制制御することを特徴とする有機性廃棄物発酵槽の運転管理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速に高級脂肪酸を検出でき、有機性廃棄物の発酵処理液中に発酵途中で生成される高級脂肪酸の濃度をモニタリングすることも可能な高級脂肪酸検出センサー、さらにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を含む有機性廃棄物は、単位重量あたりエネルギー密度の高さや発生量の大きさの点で、バイオ燃料生産にとって魅力的な原料である。油脂性の廃棄物から生産される燃料の形態は、主にバイオディーゼルかバイオガスである。
【0003】
その中でも、油脂の純度が低く、油分の抽出が難しい食品廃棄物やグリーストラップ汚泥等はメタン発酵によるバイオガスへの変換に適している。乾燥重量1gあたりのメタン発生ポテンシャルは、炭水化物が375mL、タンパク質が525mLであるのに対して、脂質は1,019mLであり、高いメタン収率が期待できる。
【0004】
最近では、メタン収率を向上させるための取り組みとして、油脂高含有廃棄物と他のバイオマスとの混合発酵が世界的に検討されている(特許文献1)。
【0005】
メタン発酵において、油脂すなわちトリグリセリドは、まず微生物群が分泌するリパーゼに触媒されてグリセリンと脂肪酸とに加水分解される。一般的に、発酵原料に含まれるトリグリセリドは炭素数12以上の高級脂肪酸で構成されている。加水分解によって生成する高級脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸であることが多い。これらの高級脂肪酸は、β酸化と呼ばれる多段階の逐次反応を経て、酢酸と水素へと分解される。酢酸と水素は、メタン生成菌により最終的にメタンへと変換される。有機性廃棄物の発酵処理の上で最も問題となりやすいのは、高級脂肪酸がメタン生成菌に対して強い阻害をもたらすことである。
【0006】
高級脂肪酸は、わずか数mMの濃度でメタン生成菌を失活させ、メタン発酵槽の連続運転を破綻させるのに十分である。通常、上で述べたβ酸化反応が滞りなく進行していれば、高級脂肪酸が蓄積することはない。しかしながら、β酸化は率速段階となりやすく、過剰な油脂の負荷、即ち高い油脂濃度の有機性廃棄物の発酵処理は高級脂肪酸に由来する阻害を引き起こす可能性が高まる。
【0007】
このような問題に対して、カルシウムやベントナイト、ゼオライト添加等、阻害を低減するための対策も研究されてきた。Kosterは、カルシウム添加による高級脂肪酸無害化までの暴露時間の、メタン生成菌への阻害に対する影響を調査しており、7.5mMのラウリン酸への約90分の暴露によってメタン生成菌の活性が70%以上も低下したと報告している(特許文献2)。
【0008】
つまり、上述のような対策によってメタン生成菌の活性の低下を抑制しつつ安定したメタン発酵を行うためには、発酵液の高級脂肪酸濃度をリアルタイムで把握し、阻害が危惧される水準に至った際には、対策のための意思決定を迅速に行うことが理想的である。
【0009】
しかしながら、従来メタン発酵における発酵液中の高級脂肪酸の測定は、ガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフによるものであり、測定場所が制限されるうえに長い測定時間が必要である。さらに、抽出や誘導体化等の複雑な前処理を必要とする。一般に、即日に発酵液中の高級脂肪酸の濃度を特定することは困難である。短時間で、メタン発酵における発酵液中の高級脂肪酸を測定する手法は知られていない。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】J. Hunter Long, Tarek N. Aziz, Francis L. de los Reyes III, Joel J. Ducoste, Anaerobic co-digestion of fat, oil, and grease (FOG): A review of gas production and process limitations, Process Safety and Environmental Protection, 90(3), pp. 231-245, 2012
【非特許文献2】Koster I.W. (1987) Abatement of long-chain fatty acid inhibition of methanogenesis by calcium addition, Biological Wastes, 22, 295-301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上で述べた現状を踏まえ、迅速に高級脂肪酸を検出でき、さらに有機性廃棄物発酵液中の高級脂肪酸を吸着・検出するためのセンサーであって、簡素な前処理および測定方法であり、短時間で高級脂肪酸の濃度を把握することが可能な、高級脂肪酸検出センサーを提供する。また、その検出法は高級脂肪酸と共存し、性質がやや類似する酢酸を主とする低級脂肪酸とトリグリセリドの誤検出を抑制する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、様々な成分を含む有機性廃棄物発酵液相で使用可能な改良された水晶振動子を用い、その表面を絶縁し、さらに高級脂肪酸を吸着する物質で被膜されたセンサーによって、簡素な前処理と測定かつ従来法よりも短時間での、有機性廃棄物発酵液中の高級脂肪酸定検出を可能とした。
即ち、課題の解決に至った本発明は下記の構成よりなる。
(1)
水晶板に金属電極を備える水晶振動子と、少なくとも前記金属電極を覆い絶縁する第一膜と、前記第一膜の表面をコーティングし高級脂肪酸を吸着するための第二膜と、からなることを特徴とする高級脂肪酸検出センサー。
(2)
前記第一膜が、絶縁の機能を有する高分子または無機物であることを特徴とする(1)に記載の高級脂肪酸検出センサー。
(3)
前記絶縁の機能を有する高分子が、ポリビニルブチラール(PVB)であることを特徴とする(2)に記載の高級脂肪酸検出センサー。
(4)
前記第二膜が、高級脂肪酸の吸着もしくは収着性能を有する高分子であることを特徴とする(1)に記載の高級脂肪酸検出センサー。
(5)
前記高級脂肪酸の吸着もしくは収着性能を有する高分子が、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体(PSDVB)であることを特徴とする(4)に記載の高級脂肪酸検出センサー。
(6)
有機性廃棄物の発酵液中での使用であって、
前記第一膜及び第二膜の前記水晶振動子表面への被膜量さらに有機性廃棄物発酵液濃度を調節して、測定中の前記水晶振動子の直列共振抵抗を制御し、十分な発振余裕度を保持することを特徴とする(1)~(5)の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーの利用方法。
(7)
前記有機性廃棄物発酵液のpHを調節して、検出対象である高級脂肪酸の解離を促すことでトリグリセリドとの混合物中において高級脂肪酸の選択的な検出を行うことを特徴とする(1)~(5)の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーの利用方法。
(8)
(1)~(5)の何れか1項に記載の高級脂肪酸検出センサーを用いて、有機性廃棄物の発酵液中の高級脂肪酸の濃度を把握し、前記高級脂肪酸の濃度を抑制制御することを特徴とする有機性廃棄物発酵槽の運転管理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高級脂肪酸検出センサーによれば、簡便な装置で、迅速に高級脂肪酸を検出でき、さらに1時間程度の分析によって発酵液中に含まれる高級脂肪酸の検出が可能である。そして、発酵槽において定期的な分析を行うことで、発酵槽中の発酵液の高級脂肪酸濃度増減を定量的に把握することができる。また、トリグリセリドや酢酸といった、発酵液に共存する類似物質の誤検出をせず、高級脂肪酸を選択的に検出することが可能である。その結果、高級脂肪酸の濃度を把握したうえで、発酵槽中の発酵液の高級脂肪酸の濃度を抑制制御することで、有機性廃棄物の発酵槽の連続運転を、安定して良好に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の高級脂肪酸検出センサーによる有機性廃棄物の発酵処理(メタン発酵)液における具体的な高級脂肪酸の検出、分析手順例である。
【図2】本願発明の一例であるメタン発酵液における高級脂肪酸検出システム(QCM測定システム)の概略図である。
【図3】本発明の高級脂肪酸検出センサーの模式図である。(A)平面図、(B)正面一部透視図である。
【図4】フローセルの模式図である。
【図5】本発明の高級脂肪酸検出センサーを用いた異なる濃度のパルミチン酸溶液の測定例である。
【図6】メタン発酵槽の連続運転における、(a)ガス生成速度・原料投入量、(b)高級脂肪酸濃度・pHの推移データである。
【図7】メタン発酵槽の連続運転におけるQCMによる振動数変化率と高級脂肪酸濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここでは、有機性廃棄物の処理液として、便宜的にメタン発酵液を試料とした分析を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

【0016】
本発明の高級脂肪酸検出センサーによる具体的な高級脂肪酸の検出、分析手順は、図1に示す通りである。まず、メタン発酵槽から試料水(発酵液)を採取する。

【0017】
次に、前処理として、生ごみの発酵液など、固形物を多く含む試料水の場合には、ろ過や遠心分離によって固形物を除去する必要がある。大抵の場合には、既存の水晶振動子を改良した高級脂肪酸検出センサーによる検出感度に対して試料水には過剰量の高級脂肪酸が含有されているので、適宜水を用いて試料水を希釈する。

【0018】
また、高級脂肪酸とトリグリセリドは水に溶解せず、試料水中に分散しにくい。ただし、高級脂肪酸のみは電離してイオン化することで溶解するので、よく分散し、トリグリセリドと区別して高級脂肪酸検出センサーによる検出が可能となる。そこで、試料水のpHを、高級脂肪酸が電離しうる塩基性に調整して高級脂肪酸の電離を促す。pHに応じて高級脂肪酸の電離度は変化するため、試料のpHは統一するのがよい。

【0019】
その上で、試料水、又は希釈試料水を水晶振動子マイクロバランス(QCM)装置へ供し、QCM法による周波数測定をする。

【0020】
図2は、メタン発酵液についての、本願発明の一例の高級脂肪酸検出システムの構成例を示している。高級脂肪酸検出システム1は、主に固形物除去、必要な希釈及びpH調整済みの前処理試料水2aを貯溜する容器2と、前処理試料水2aの比較対象、測定前後に使用するブランク水3aを貯溜する容器3と、高級脂肪酸検出センサー5が組み込まれたフローセル4と、試料水を吸引する例えばペリスタポンプなどのポンプ6と、廃液7の送液場所と、発振機8と、周波数ロガー9とで構成される。前処理試料水2a、ブランク水3aは、バルブ2b、3bで流量が調節される。

【0021】
フローセル4内の高級脂肪酸検出センサー5は、所定時間の周波数5fを発振機8に送信する。発振機8は、取得した周波数5fをデジタル信号に変換して、周波数ロガー9に周波数データとして送信する。周波数ロガー9は、発振機8から送られてきた周波数データを蓄積する。蓄積された周波数データは、高級脂肪酸濃度の推定のためのデータ解析に利用される。

【0022】
高級脂肪酸濃度の推定のためのデータ解析は次の通りに行う。通水開始からの経過時間(秒:s)を横軸に、その時間における周波数の、初期周波数からの減少量(Hz)、すなわち各時間における周波数と通水0秒後の周波数との差の絶対値を縦軸にとり図示すると、経過時間50秒以後は概ね安定して直線的な減少を示す。

【0023】
この直線区間、例えば50秒から150秒までのデータに対する回帰直線の傾き(周波数変化率:Hz/s)は、0~100 mg/Lの高級脂肪酸濃度範囲において、その濃度に比例して増大する。したがって、あらかじめ既知濃度の高級脂肪酸溶液を用いて外部検量線を作成しておくことで、有機性廃棄物の発酵液の測定から得られた周波数変化率から、高級脂肪酸濃度を決定することができる。

【0024】
図3に示すように、高級脂肪酸検出センサー5は、既存の水晶振動子5eを改良したものである。水晶振動子5eは、水晶板5aの両側に金属電極5b、5bが取り付けられた構造をしており、金属電極5bに電圧を印加すると一定の高周波数で振動する性質を示す。

【0025】
水晶振動子5eの金属電極5b上にナノ~マイクログラムの物質が吸着すると、その質量に比例して共振周波数が減少する。そこで、水晶振動子5eの片方の表面に高級脂肪酸を吸着し得る物質を被膜し、周波数の減少率によって試料水中の高級脂肪酸濃度の高低を評価することとした。

【0026】
高級脂肪酸検出センサー5への被膜例は図3に示す通りであり、先ず、少なくとも前処理試料水2aと接触する側の金属電極5b全体を覆い、さらには片面の全体を覆い、金属電極5bの絶縁を目的とした高分子などの第一膜5c、例えばポリビニルブチラール薄膜を形成させる。第一膜5cとしては、その他に絶縁の機能を有する無機物も使用できる。さらに、金属電極5bの上方の第一膜5cには、高級脂肪酸の吸着又は収着を目的とした高分子などの第二膜5d、例えばスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の薄膜を形成させる。

【0027】
水晶振動子5eの片面に二重の膜を有する高級脂肪酸検出センサー5を、図4に示すフローセル4内にセットして、高級脂肪酸の検出、濃度測定を行う。

【0028】
図4はフローセル4の構造を示しており、ポンプ6の吸引で前処理試料水2aは入口4bからセル4a内に取り入れられ、流路4d(破線)を通過し、高級脂肪酸検出センサー5を設置したフローセル4内のスペース4fに流れ込み、水晶振動子を備える高級脂肪酸検出センサー5の片面の中央部に接触する。その後、前処理試料水2aは、周縁部に向かい同心円状に流れ、再び上方の流路4dを通過して出口4cから排出される。矢印が、前処理試料水2aの流れ方向を示す。

【0029】
高級脂肪酸検出センサー5とセル4aの間はOリング4eで圧着されており、前処理試料水2aは高級脂肪酸検出センサー5の片面だけに接触する。測定開始前はブランク水3aでフローセル4の流路4d、スペース4f内を満たす。その後、ポンプ6により一定速度で前処理試料水2aを吸引し、フローセル4の流路4d、スペース4fへ供給する。ポンプ6による前処理試料水2aの吸引流速は0.15mL/min以下、通水時間は3-5分程度、概ね4分程度で十分である。そのため、必要なる前処理試料水2aの量はわずかでよい。

【0030】
この高級脂肪酸検出システム1を用いた高級脂肪酸の測定例は図5に示す通りである。模擬試料水として、pHを10.7に調整したパルミチン酸溶液を使用した。パルミチン酸のpKaは様々な研究者の間で8~9の範囲で報告されており、pH10.7において、パルミチン酸はほとんど電離しており、水中によく分散している。パルミチン酸濃度を0,12.5,25,50,100ppmwにそれぞれ調整した溶液を、それぞれ上述の方法でフローセル4に供給しながら、高級脂肪酸検出センサー5の周波数変化を記録した値をプロットした(図5)。

【0031】
図5に示すように、測定開始から30秒程度は周波数が不安定化する場合があるものの、それ以降は図5が示すように安定した周波数減少が確認された。測定開始から50秒~150秒の期間はサンプルごとにほぼ一定速度の減少が観察され、その減少率(Hz/s)はパルミチン酸濃度に応じて明らかに増大した。このように、測定によって算出された高級脂肪酸検出センサー5の周波数減少率を指標として、高級脂肪酸濃度の推定が可能である。
【実施例1】
【0032】
図6に示すように、本発明の高級脂肪酸検出センサー5の使用例として、油脂の含有率の高いグリーストラップ廃棄物を処理するメタン発酵槽から採取した試料水を用いた測定を実施した。図6(a)は試料水を採取したメタン発酵槽の運転状況を示している。メタン発酵槽は有効容積6Lの円柱型水槽であり、モーター付き攪拌翼により200rpmの速度で常時攪拌されていた。1日1回規定量の汚泥の引き抜きと原料投入とを行って、半連続運転を実施した。発酵液はウォータージャケットに温水を循環することによって35℃に維持されていた。
【実施例1】
【0033】
生成したバイオガスの累積量はマイクロガスカウンターを用いて記録され、ガス生成速度に換算してプロット(●)した(図6(a))。図6(b)の高級脂肪酸濃度は、採取した試料水を凍結乾燥して完全に乾燥させ、脂肪酸メチル化キット(ナカライ化学社製、型番06482-04)を使用して遊離脂肪酸をメチル化し、精製フィルターでろ過した後、FIDガスクロマトグラフで測定した。
【実施例1】
【0034】
メタン発酵槽にはグリーストラップ廃棄物を原料として毎日投入し、次第に容積負荷を上昇させながら約80日間の運転を行った。図6(a)にはメタン発酵槽容積あたり1日あたりの原料投入量(容積負荷、(グレー背景))とガス生成速度(●)の推移が、図6(b)にはFIDガスクロマトグラフにより分析した発酵液中の高級脂肪酸濃度(C8-C22の合計(●))、pHの推移が示されている。容積負荷上昇に従って高級脂肪酸濃度が上昇した。高級脂肪酸濃度が6mMを超える高水準に到達した時期(78日目)にバイオガス生成が急減し、最終的にメタン発酵が停止した。
【実施例1】
【0035】
このような運転特性を示したメタン発酵槽から、QCMのための試料水を採取した。採取した試料水はpHを10.7に調整し、十分に安定して電離が進行したことを確認した。その後5,000rpm、10分間遠心分離し、上澄み水を採取して前処理試料水として測定に使用した。その結果を図7に示す。
【実施例1】
【0036】
図7は、いくつかの同一試料でガスクロマトグラフとQCMの測定を行い、得られた高級脂肪酸濃度(●)と周波数変化率(○)の関係を図示したものである。高級脂肪酸検出センサーの第一膜にはPVBを、第二膜にはPSDVBゲル(ジーエルサイエンス社製、型番PLS-2 for AQUA)を用いた。図5と同様に、周波数変化率は高級脂肪酸濃度に応じて増大することが確認され、周波数変化率の算出による高級脂肪酸濃度の推定は、メタン発酵液に対しても適用可能であることが示された。
【実施例1】
【0037】
なお、周波数変化率は、安定して周波数が減少する区間において、周波数の減少量/区間の経過時間で示される。具体的には、ロギングされた通水開始50秒後から150秒後までの各経過時間と、各時間における周波数と通水0秒後の周波数との差の絶対値のデータセットを用いて回帰直線を算出する。その回帰直線の傾き(Hz/s)を周波数変化率とする。
【符号の説明】
【0038】
1 高級脂肪酸検出システム
2 容器
2a 前処理試料水
2b バルブ
3 容器
3a ブランク水
3b バルブ
4 フローセル
4a セル
4b 入口
4c 出口
4d 流路
4e Oリング
4f スペース
5 高級脂肪酸検出センサー
5a 水晶板
5b 金属電極
5c 第一膜
5d 第二膜
5e 水晶振動子
5f 周波数
6 ポンプ
7 廃液
8 発振機
9 周波数ロガー

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6