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明細書 :壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法、装置、及び、表面修飾パターンの定量的可視化方法、装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5328799号 (P5328799)
登録日 平成25年8月2日(2013.8.2)
発行日 平成25年10月30日(2013.10.30)
発明の名称または考案の名称 壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法、装置、及び、表面修飾パターンの定量的可視化方法、装置
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
FI G01N 21/64 F
G01N 21/64 G
請求項の数または発明の数 8
全頁数 13
出願番号 特願2010-532874 (P2010-532874)
出願日 平成21年9月25日(2009.9.25)
国際出願番号 PCT/JP2009/066652
国際公開番号 WO2010/041560
国際公開日 平成22年4月15日(2010.4.15)
優先権出願番号 2008263639
優先日 平成20年10月10日(2008.10.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年9月5日(2012.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】佐藤 洋平
【氏名】嘉副 裕
【氏名】宮川 修
個別代理人の代理人 【識別番号】100080458、【弁理士】、【氏名又は名称】高矢 諭
【識別番号】100076129、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 圭佑
【識別番号】100089015、【弁理士】、【氏名又は名称】牧野 剛博
審査官 【審査官】横尾 雅一
参考文献・文献 特開2002-168870(JP,A)
特開2002-125696(JP,A)
特表2004-502173(JP,A)
佐藤洋平、菱田公一,マイクロ・ナノスケール多変量時空間分布計測 壁面極近傍の流れの構造とイオン挙動を捉える,日本機械学会誌,日本,2008年 2月 5日,第111巻、第1071号,第88頁-第91頁
Coppeta J , et.al.,Dual emission laser induced fluorescence for direct planar scalar behavior measurements,Experiments in Fluids,1998年 6月,Vol.25, No.1,p.1-15
一柳満久、外3名,マイクロチャネル表面改質パターニングによる電気浸透流動への影響,第44回日本伝熱シンポジウム講演論文集,2007年 5月22日,D231
一柳満久、外3名,非一様ゼータ電位を有するマイクロチャネル内の流動特性,第45回日本伝熱シンポジウム講演論文集,日本,2008年 7月 2日
嘉副裕、佐藤洋平,ナノ・レーザ誘起蛍光法によるマイクロチャネル壁面ゼータ電位計測,日本機械学会論文集 B編,日本,2006年10月25日,第72巻、第722号,第2457頁-第2464頁
調査した分野 G01N 21/62-21/83
G01K 11/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価に際して、
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、
前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入するステップと、
該溶液を測定対象面に流すステップと、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させるステップと、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子を用いて、測定対象面の蛍光強度を測定するステップと、
前記2色の蛍光強度の比を計算するステップと、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換するステップと、
を備えたことを特徴とする壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法。
【請求項2】
前記蛍光強度比と壁面におけるゼータ電位の関係を較正することを特徴とする請求項1に記載の壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法。
【請求項3】
前記第1の蛍光色素として、赤色発光のジクロロトリ(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ハイドレート(Dichlorotris(1,10-phenanthroline)ruthenium(II)hydrate)を用い、前記第2の蛍光色素として、緑色発光の3,6‐ジアミノ‐9‐[2,4‐ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]‐4‐(リチオオキシスルホニル)‐5‐スルホナトキサンチリウム/3,6‐ジアミノ‐9‐[2,5‐ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]‐4‐(リチオオキシスルホニル)‐5‐スルホナトキサンチリウム(3,6‐Diamino‐9‐[2,4‐bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]‐4‐(lithiooxysulfonyl)‐5‐sulfonatoxanthylium/3,6‐diamino‐9‐[2,5‐bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]‐4‐(lithiooxysulfonyl)‐5‐sulfonatoxanthylium)を用いることを特徴とする請求項1に記載の壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法。
【請求項4】
前記2次元撮像素子が、一台の3CCDカメラであることを特徴とする請求項1に記載の壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法。
【請求項5】
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入する手段と、
該溶液を測定対象面に流す手段と、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させる手段と、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子と、
該2次元撮像素子を用いて測定した2色の蛍光強度の比を計算する手段と、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換する手段と、
を備えたことを特徴とする壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価装置。
【請求項6】
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入するステップと、
該溶液を、表面修飾によってゼータ電位が局所的に分布している測定対象面に流すステップと、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を得るステップと、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子を用いて、測定対象面の蛍光強度を測定するステップと、
前記2色の蛍光強度の比を計算するステップと、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換することにより、表面修飾パターンを可視化するステップと、
を備えたことを特徴とする表面修飾パターンの定量的可視化方法。
【請求項7】
前記表面修飾が、オクタデシルトリクロロシランによって行われたものである請求項に記載の表面修飾パターンの定量的可視化方法。
【請求項8】
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入する手段と、
該溶液を、表面修飾によってゼータ電位が局所的に分布している測定対象面に流す手段と、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させる手段と、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子と、
該2次元撮像素子を用いて測定した2色の蛍光強度の比を計算する手段と、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換することにより、表面修飾パターンを可視化する手段と、
を備えたことを特徴とする表面修飾パターンの定量的可視化装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法、装置、及び、表面修飾パターンの定量的可視化方法、装置に係る。特に、細胞生物分野、電気化学分野、マイクロ・ナノスケール熱流体工学分野に用いるのに好適な、壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価方法、装置、及び、これを利用した表面修飾パターンの定量的可視化方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面科学の分野において、吸着性や濡れ性といった物質表面の性質について多くの研究が行われてきた。更にSAMs(Self-assembled monolayers)(Whitesides, G. M. et al., Annu. Rev. Biomed. Eng., 3, 335-373, 2001.[以下、非特許文献1]参照)と呼ばれる、有機物の単分子膜を物質表面に形成させる表面修飾技術が考案され、物質表面の性質を能動的に変化させる試みも多く行われてきた。
【0003】
近年、試料の分離・混合・反応・検出といった機能を集積化したマイクロ流体デバイスの発展に伴い、固液界面の電位であるゼータ電位(Kirby, B. J. et al., Electrophoresis, 25, 187-202, 2004.[以下、非特許文献2]参照)が、これらの動電学を利用したデバイスの性能を決定する重要なパラメータの一つとなった。電気化学、生物化学の分野では、マイクロ流体デバイス内に表面修飾をパターン状に施し、濡れ性や物質吸着性を制御する研究が盛んに行われている。
【0004】
こうした物質表面に関する研究を受けて、表面の性質を評価しようとする計測技術が考案されてきた。電子顕微鏡を用いて物質表面の構造を可視化した手法(Lopez, G. P. et al., Langmuir, 9, 1513-1516, 1993.[以下、非特許文献3]参照)、SAMsの膜厚や内部に含まれる分子の種類によって表面修飾を評価する手法(Yang, X. M. et al., Appl. Phys. Lett., 69(26):4020-4022, 1996.[以下、非特許文献4]参照)、あるいは、濡れ性を用いて表面の性質を評価した手法(Lopez, G. P. et al., Science, 260, 647-649, 1993.[以下、非特許文献5]参照)などが提案されてきた。
【0005】
前記のようなマイクロ流体デバイスの性能評価や最適設計に向けて、デバイス内流路表面のゼータ電位の定量的な計測が有効である。即ち、デバイス内流路の壁面に施された表面修飾パターンや、液体試料混合により発生するゼータ電位の2次元分布を定量的に可視化すれば、デバイス性能への寄与を評価することが可能となる。
【0006】
従来までのマイクロ流動場におけるゼータ電位の計測法としては流動電位法(Oldham, I. B. et al., J. Colloid Sci., 18, 328-336, 1963.[以下、非特許文献6]参照)、電流モニタリング法(Sze, A. et al., J. Colloid Interface Sci., 261, 402-410, 2003.[以下、非特許文献7]参照)、あるいは、電気浸透流速度を計測してHelmholtz-Smoluchowskiの式を用いて算出する方法(Sinton, D. et al., J. Colloid Interface Sci., 254, 184-189, 2002.[以下、非特許文献8]参照)などが考案されてきたが、いずれも流路全体の平均としてのゼータ電位の計測法であった。
【0007】
一方、発明者のうち二人が開発したナノ・レーザ誘起蛍光法(Kazoe, Y. and Sato, Y., Anal. Chem., 79, 6727-6733, 2007.[以下、非特許文献9]参照)によって、初めてデバイス内におけるゼータ電位の2次元分布の計測が可能となった。このナノ・レーザ誘起蛍光法は、水溶液中で陰イオン化する蛍光色素(赤色)、および屈折率の異なる界面における光の全反射によって発生するエバネッセント波(Axelrod, D. et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 13, 247-268, 1984.[以下、非特許文献10]、特開2007-85915号公報[以下、特許文献1]参照)を用いている。エバネッセント波は,強度が界面からの距離に対して指数関数的に減衰するため、これを流路壁面において発生させることにより、壁面からの距離数百ナノメートル程度の壁近傍の範囲を照明することができる。蛍光色素を水溶液に混入して流路内に流入すると、負極に帯電した蛍光色素の壁面近傍の濃度分布は、壁面ゼータ電位に依存して変化する。よって、エバネッセント波により励起した際の蛍光強度もゼータ電位に依存する。従って、蛍光強度の分布からゼータ電位分布を知ることができる。
【0009】
前記ナノ・レーザ誘起蛍光法によりゼータ電位の2次元分布を取得するためには、CCDカメラにより蛍光強度画像を取得するが、取得画像は励起光強度の分布に起因する蛍光強度分布を含んでいるため、リファレンス画像を取得して補正を行う必要がある。そのため、CCDカメラで撮像される画像自体からはゼータ電位の2次元的な分布を可視化することは困難であり、リアルタイムでの計測には不向きである。また計測位置や流路形状が異なる際においても再度補正を行う必要があり、位置のずれに起因する計測誤差や、計測手法の煩雑さなどに難点があった。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、マイクロ流体デバイス内等における壁面におけるゼータ電位の2次元的分布や表面修飾パターンを、リアルタイムに可視化し、更に、定量的に評価可能とすることを課題とする。
【0011】
本発明は、壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価に際して、
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入するステップと、
該溶液を測定対象面に流すステップと、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させるステップと、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子を用いて測定対象面の蛍光強度を測定するステップと、
前記2色の蛍光強度の比を計算するステップと、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換するステップと、
を備えるようにして、前記課題を解決したものである。
【0012】
本発明は、又、
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入する手段と、
該溶液を測定対象面に流す手段と、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させる手段と、
前記蛍光の2色を強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子と、
該2次元撮像素子を用いて測定した2色の蛍光強度の比を計算する手段と、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換する手段と、
を備えたことを特徴とする壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価装置を提供するものである。
【0013】
ここで、前記蛍光強度比と壁面におけるゼータ電位の関係を較正することができる。
【0014】
又、前記第1の蛍光色素として、赤色発光のジクロロトリ(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ハイドレート(Dichlorotris(1,10-phenanthroline)ruthenium(II)hydrate)を用い、前記第2の蛍光色素として、緑色発光の3,6-ジアミノ-9-[2,4-ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]-4-(リチオオキシスルホニル)-5-スルホナトキサンチリウム/3,6-ジアミノ-9-[2,5-ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]-4-(リチオオキシスルホニル)-5-スルホナトキサンチリウム(3,6-Diamino-9-[2,4-bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]-4-(lithiooxysulfonyl)-5-sulfonatoxanthylium/3,6-diamino-9-[2,5-bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]-4-(lithiooxysulfonyl)-5-sulfonatoxanthylium)(Alexa Fluor(登録商標)488)を用いることができる。
【0016】
又、前記2次元撮像素子を、一台の3CCDカメラとすることができる。
【0017】
本発明は、又、
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入するステップと、
該溶液を、表面修飾によってゼータ電位が局所的に分布している測定対象面に流すステップと、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を得るステップと、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子を用いて、測定対象面の蛍光強度を測定するステップと、
前記2色の蛍光強度の比を計算するステップと、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換すことにより、表面修飾パターンを可視化するステップと、
を備えたことを特徴とする表面修飾パターンの定量的可視化方法を提供するものである。
【0018】
本発明は、又、
水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を溶液に混入する手段と、
該溶液を、表面修飾によってゼータ電位が局所的に分布している測定対象面に流す手段と、
前記測定対象面をエバネッセント波によって励起することにより、各蛍光色素の濃度分布に応じた2色の蛍光強度分布を生成させる手段と、
前記蛍光の2色の強度を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子と、
該2次元撮像素子を用いて測定した2色の蛍光強度の比を計算する手段と、
あらかじめ作成しておいた、前記蛍光強度の比と壁面におけるゼータ電位との関係式を使って、前記蛍光強度の比の分布を、壁面におけるゼータ電位の2次元分布に変換することにより、表面修飾パターンを可視化する手段と、
を備えたことを特徴とする表面修飾パターンの定量的可視化装置を提供するものである。
【0019】
ここで、前記表面修飾が、オクタデシルトリクロロシランによって行われるものとすることができる。
【0020】
本発明によれば、発明者の一人が開発したナノ・レーザ誘起蛍光法に、水溶液中で陽イオン化する第1の蛍光色素、及び、水溶液中で陰イオン化し、且つ、前記第1の蛍光色素とは蛍光波長の異なる第2の蛍光色素を導入すると共に、該蛍光の2色を各色に分離して取得可能な2次元撮像素子を導入することにより、より簡易な方法で、マイクロ流体デバイス内等における表面修飾等によるゼータ電位の2次元分布を可視化して、定量的計測をリアルタイムで行うことが可能になる。
【0021】
又、従来手法に比較して、計測手順の大幅な軽減や、計測過程における計測誤差の低減をもたらすことができる。
【0022】
更に、本発明を用いることによって、マイクロ流体デバイス内等において、表面修飾パターンや液体試料の混合・反応によって起こる複雑なイオン挙動の2次元分布等を定量的に可視化することができる。そのため、マイクロ熱流体システム内等の複雑な流動場についての様々な知見を得ることができる。例えば、ゼータ電位に依存して形成される電気浸透流動場は、ゼータ電位分布を把握することにより解析することができる。又、細胞やたん白質の吸着性の制御、あるいは、壁面の濡れ性の制御等を目的としたデバイスの性能評価や最適設計の際に有用である。その他にも、細胞生物分野や電気化学、更にはマイクロ流体工学分野等の幅広い分野にわたる応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の原理を示す図
【図2】本発明を実施するための計測システムの一例の全体構成図
【図3】図2の計測流路部分を拡大して示す斜視図
【図4】本発明の実施形態における蛍光強度比とゼータ電位の関係の例を示す図
【図5】同じく(A)3CCDカメラにより撮像した、OTSパターンを100×100μmのタイル状に表面修飾した石英ガラスのゼータ電位分布の例と、(B)較正曲線を用いたゼータ電位分布の定量的評価の例を示す図
【図6】同じく(A)3CCDカメラにより撮像した、OTSパターンを一辺50μmの正三角形状に表面修飾した石英ガラスのゼータ電位分布の例と、(B)較正曲線を用いたゼータ電位分布の定量的評価の例を示す図

【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
壁面におけるゼータ電位分布を求める際に適用した本実施形態で用いた蛍光色素は、水溶液中で陽イオン化する赤色の蛍光色素としてのジクロロトリ(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ハイドレート(Dichlorotris(1,10-phenanthroline)ruthenium(II)hydrate)(励起波長449nm、蛍光582nm)、および、陰イオン化する緑色の蛍光色素としての3,6-ジアミノ-9-[2,4-ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]-4-(リチオオキシスルホニル)-5-スルホナトキサンチリウム/3,6-ジアミノ-9-[2,5-ビス(リチオオキシカルボニル)フェニル]-4-(リチオオキシスルホニル)-5-スルホナトキサンチリウム(3,6-Diamino-9-[2,4-bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]-4-(lithiooxysulfonyl)-5-sulfonatoxanthylium/3,6-diamino-9-[2,5-bis(lithiooxycarbonyl)phenyl]-4-(lithiooxysulfonyl)-5-sulfonatoxanthylium)(Alexa Fluor(登録商標)488)(励起波長495nm、蛍光519nm)である。
【0026】
2種の蛍光色素を含む溶液(溶液中濃度はジクロロトリ(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ハイドレート:50μmol/l、Alexa Fluor(登録商標)488:5μmol/l)を流路内に流入すると、それぞれの蛍光色素の壁面近傍の濃度分布は壁面ゼータ電位に依存する。負の値を有する壁面ゼータ電位の絶対値が比較的大となる場合、図1(A)に例示する如く、陽イオンである赤色発光の蛍光色素の壁面近傍濃度が、緑色発光の蛍光色素のそれと比して大となる。逆に壁面ゼータ電位の絶対値が比較的小となる場合、図1(B)に例示する如く、相対的に緑色発光の蛍光色素の壁面近傍の濃度が大となる。
【0027】
従って、表面修飾によってゼータ電位が局所的に分布している流路壁面近傍をエバネッセント波によって励起することにより、2色の蛍光色素の濃度分布に応じた蛍光強度分布が得られる。この蛍光を、例えば3CCDカメラを用いて撮像することにより、赤・緑2色の蛍光強度比の分布として壁面ゼータ電位の2次元分布を可視化することができる。これによって表面修飾パターンを可視化することができる。
【0028】
壁面ゼータ電位は、2色の色素の蛍光強度比で一意に決定するため、励起光強度の分布に依存することなくリファレンス画像による補正は不必要になる。そのため、3CCDカメラの画像によってリアルタイムに表面修飾のパターンを可視化することが可能となる。またリファレンス画像を取得する際に発生する位置ずれに起因する計測誤差を除去することができ、更に計測手法の簡易化にもつながる。
【0029】
上述のエバネッセント波光学計測を実現するために、図2に示すような計測システムを構築した。このシステムでは、レーザー10から発振される例えば波長λ=488nmのレーザー光を、光軸中心近傍の光を使って強度分布を一様に近づけるためのピンホール12及びミラー14を経て、図3に詳細に示す如く、プリズム16を介して計測流路18の壁面のガラス18a内に入れ、界面における全反射によって流路内にエバネッセント波を発生させた。エバネッセント波によって励起された蛍光色素からの蛍光は、例えば倍率20倍、開口0.45の対物レンズ30によって拡大し、蛍光以外のバックグラウンド光を除くためのフィルター32、ミラー34、及び、例えば、1.4倍の拡大レンズ36を通して3CCDカメラ38により撮像した。
【0030】
図において、20は、ガラス表面でレーザーが乱反射することにより発生する散乱光を防止するため、ガラス18aの厚さの違いに対応するレーザーの出射光路を作るための可動式プリズムである(特許文献1参照)。
【0031】
更に、計測される2色の蛍光色素の蛍光強度比および壁面ゼータ電位の較正を行うことにより、表面修飾による壁面ゼータ電位分布を定量的に評価することが可能となる。表1(較正に用いた溶液)および表2(較正に用いた流路壁面の材質)に示したように、溶液中のイオン種や壁面の材質を様々に変えた条件において蛍光強度比および壁面ゼータ電位を計測し、その関係を図4に示した。
【0032】
【表1】
JP0005328799B2_000002t.gif

【0033】
【表2】
JP0005328799B2_000003t.gif

【0034】
図4から、非特許文献9に記載した従来のナノ・レーザ誘起蛍光法では不可能であった広い範囲にわたり良好な直線性が得られていることが分かる。従って、図4のグラフから、例えば、最小二乗法により近似曲線を用いて較正曲線を引き、蛍光強度比および壁面ゼータ電位の関係を求めることにより、蛍光強度比の2次元分布から壁面ゼータ電位分布を定量的に算出することができる。ゼータ電位の計測には、直径500nmの蛍光粒子を溶液中に混入し、壁面近傍での電気浸透流速度を計測することによって、以下に示す(1)式 (Helmholtz-Smoluchowskiの式)を用いて壁面ゼータ電位を算出した。
【数1】
JP0005328799B2_000004t.gif
ここで、ζ はゼータ電位[V]、μは粘性係数[Pa・s]、εは誘電率[C/V・m]、Eは電界強度[V/cm]、ueofは電気浸透流速度[m/s]を表す。
【実施例】
【0035】
図5に、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)を100×100μmのタイル状に表面修飾した石英ガラスに本計測法を適用して、ゼータ電位のリアルタイムの可視化および、定量的評価を行った結果を示す。本手法により、図5(A)に示す如く、ガラス壁面に施した表面修飾によって形成されたゼータ電位の2次元分布の可視化が可能となった。更に較正曲線を適用して、図5(B)に示す如く、ゼータ電位の2次元的な分布を定量的に評価することが可能となった。
【0036】
図6(A)(B)に、OTSを一辺50μmの正三角形状のパターンに表面修飾した例を示す。
【0037】
なお前記実施形態においては、陽イオンの色素として、赤色発光のジクロロトリ1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ハイドレートを用い、陰イオンの色素として、緑色発光のAlexa Fluor(登録商標)488を用いたが、イオンの種類はこれに限定されず、例えば陰イオンの色素として、フルオレセイン(Fluorescein)(励起波長494nm、蛍光波長518nm)を用いることも可能である。
【0038】
又、蛍光色の組合せも赤と緑に限定されず、他の2色の組合せを用いることができる。
【0039】
更に、2次元撮像素子も3CCDカメラに限定されず、MOSを用いたカメラや、例えばフィルタを用いて各色を分離撮像可能とした複数台のカメラを用いることも可能である。色数も3色に限定されず、蛍光色に対応する色数(2色)を分離して撮像可能であれば良い。
【0040】
又、各色素の励起波長に合わせて、レーザーを複数台設けることも可能である。
【産業上の利用の可能性】
【0042】
本発明は、細胞生物分野、電気化学分野、マイクロ・ナノスケール熱流体工学分野における壁面におけるゼータ電位の分布の定量的評価、及び、表面修飾パターンの定量的可視化に用いることができる。
図面
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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