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明細書 :蛍光ガラス線量計用ガラス及びそれを備えた蛍光ガラス線量計

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-086305 (P2019-086305A)
公開日 令和元年6月6日(2019.6.6)
発明の名称または考案の名称 蛍光ガラス線量計用ガラス及びそれを備えた蛍光ガラス線量計
国際特許分類 G01T   1/06        (2006.01)
C03C   3/091       (2006.01)
C03C   4/12        (2006.01)
C09K  11/00        (2006.01)
C09K  11/08        (2006.01)
FI G01T 1/06
C03C 3/091
C03C 4/12
C09K 11/00 D
C09K 11/08 G
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-212128 (P2017-212128)
出願日 平成29年11月1日(2017.11.1)
発明者または考案者 【氏名】角野 広平
【氏名】橋川 凌
【氏名】藤井 康浩
【氏名】若杉 隆
【氏名】岡田 有史
【氏名】木野村 淳
【氏名】齊藤 毅
出願人 【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
4G062
4H001
Fターム 2G188KK04
4G062AA01
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4G062NN34
4H001CA04
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4H001XA47
4H001XB11
4H001XB12
4H001XB31
4H001XB41
4H001XB51
4H001XB61
要約 【課題】耐水性を含めた耐久性に優れており、且つ、コストメリットの高い賦活剤を用いた蛍光ガラス線量計用ガラス、並びに、当該ガラスを用いた蛍光ガラス線量計を提供する。
【解決手段】ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、当該ガラス母体に銅がドープされている銅ドープケイ酸塩ガラスからなることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、当該ガラス母体に銅がドープされている銅ドープケイ酸塩ガラスからなることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項2】
前記ガラス母体は、酸化物表示でSiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、請求項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項3】
前記ケイ酸塩ガラスがホウケイ酸塩ガラスである、請求項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項4】
前記ガラス母体は、酸化物表示でBと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、請求項3に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項5】
前記ケイ酸塩ガラスがアルミノホウケイ酸塩ガラスである、請求項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項6】
前記ガラス母体は、酸化物表示でAlと、Bと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、請求項5に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項7】
銅以外の金属であって前記ガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属が更にドープされている、請求項1~6のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項8】
前記ガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属が銀である、請求項7に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項9】
前記ガラス母体100モル%に対する前記銅のドープ量は、外割且つ金属銅換算で0.005モル%以下である、請求項1~8のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラスを備えることを特徴とする蛍光ガラス線量計。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線被曝量の測定に有用な、蛍光ガラス線量計用ガラス及びそれを備えた蛍光ガラス線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線作業従事者などが放射線被曝量の測定に用いる個人被曝線量計としては、現在、蛍光ガラス線量計(いわゆるガラスバッジ)が一般に用いられている。また、蛍光ガラス線量計用ガラス(検出子)としては、銀を賦活剤(発光中心)として用いた銀ドープリン酸塩ガラスが主に用いられており、例えば、非特許文献1には、銀ドープリン酸塩ガラスのラジオフォトルミネッセンス(Radio photoluminescence,以下「RPL」ともいう)の研究成果について詳細な報告がなされている。
【0003】
RPLの概要は次の通りである。例えば、銀ドープリン酸塩ガラスに放射線が照射されるとガラス中に正孔と電子が発生する。正孔と電子は、それぞれガラス中にドープされたAgイオンに捕獲され、正孔を捕獲したAgはAg2+に変化し、電子を捕獲したAgはAgに変化する。そして、Ag2+とAgは共に紫外線を照射すると可視光の発光を示す。なお、Agは紫外線を照射すると紫外光を発光するが、可視光の発光は示さない。このような、放射線照射(被曝)により誘起される発光はRPLと称される。
【0004】
銀を賦活剤としたRPLの発光強度は、ガラス中のAg2+,Agの量に比例し、当該Ag2+,Agの量は照射された放射線量に比例するため、発光強度を測定することによりガラスに照射された放射線量(すなわち被曝量)を計測することができる。また、正孔や電子を捕獲して生成したAg2+,Agは安定で経時変化が殆どないため、発光強度の測定は何度でも行うことができる。更に、被曝した蛍光ガラスは、熱処理により被曝前の状態に戻るため、原理的には、蛍光ガラス線量計は繰り返し用いることができる。
【0005】
蛍光ガラス線量計用ガラスについては、銀ドープリン酸塩ガラスが開発されて以降は、基本的にこの銀ドープリン酸塩ガラスの改良に留まっており、ガラス母体又は賦活剤の種類を変えた新規な材料の研究は殆ど進められていなかったが、近年ようやくガラス母体や賦活剤の種類を変えた研究が進められつつある。
【0006】
なお、本願に関連する他の先行技術文献としては、次のものが挙げられる。
【0007】
特許文献1には、ガラス母体を改良した発明として、「メタりん酸ナトリウムとメタりん酸カルシウムで構成されるNa-Caガラスに、銀が添加されていることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。」が開示されている(請求項1)。
【0008】
特許文献2には、ガラス母体の水分量を調整した発明として、「銀イオンを含有するリン酸塩ガラス(銀活性リン酸塩ガラス)からなり、β-OH値が0.05~0.15mm-1であることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。」が開示されている(請求項1)。
【0009】
また、非特許文献2には、賦活剤を銅に変更した銅ドープリン酸塩ガラスのRPL特性について報告されている。具体的には、ガラス母体であるリン酸塩ガラス100モル%に対して外割で銅を0.13モル%(酸化物換算)含有する場合について報告されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2014-130023号公報
【特許文献2】特開2016-153784号公報
【0011】

【非特許文献1】応用物理、第40巻、第12号(1971)、横田良助「蛍光ガラス線量計の最近の進歩」
【非特許文献2】S. Kawabata, et al., Jpn. J. Appl. Phys., 55, 06GD03 (2016), “In situ ion-beam-induced luminescence analysis for evaluating a micrometer-scale radio-photoluminescence glass dosimeter”.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、従来の蛍光ガラス線量計用ガラスのガラス母体としてはリン酸塩ガラスが主として用いられている。しかしながら、リン酸塩ガラスは一般的なケイ酸塩系ガラス(いわゆるシリケートガラス)に比べて耐水性が低いという欠点がある。従って、原理的には繰り返し用いることができる蛍光ガラス線量計であっても、耐水性が低いゆえに時間経過や被曝量測定の過程でガラス母体が劣化し、長期に亘る再利用を妨げている実態がある。また、耐水性が低いゆえに、福島第一原子力発電所の事故現場に見られるような原発施設や水処理施設など、高温多湿の環境下での使用には適していない。
【0013】
また、従来用いられている賦活剤としての銀は高価であるため、蛍光ガラス線量計の原材料費のうち約1割を占め、高コストになるという欠点もある。コストを下げるには銀の含有量を少なくするか、銀に代わる元素を賦活剤とする必要がある。しかしながら、賦活剤の含有量を少なくすると発光強度が小さくなるため含有量削減は難しい。更に、RPL現象を発現する元素としては銀以外にも知られているが、有力な元素は主に希土類元素であるため銀と同様に高価であり、コスト削減の効果は得られ難い。
【0014】
よって、本発明は、耐水性を含めた耐久性に優れており、且つ、コストメリットの高い賦活剤を用いた蛍光ガラス線量計用ガラス、並びに、当該ガラスを用いた蛍光ガラス線量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、賦活剤として銅をドープした銅ドープケイ酸塩ガラスを用いる場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記の蛍光ガラス線量計用ガラス及びそれを備えた蛍光ガラス線量計に関する。
1.ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、当該ガラス母体に銅がドープされている銅ドープケイ酸塩ガラスからなることを特徴とする蛍光ガラス線量計用ガラス。
2.前記ガラス母体は、酸化物表示でSiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、上記項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
3.前記ケイ酸塩ガラスがホウケイ酸塩ガラスである、上記項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
4.前記ガラス母体は、酸化物表示でBと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、上記項3に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
5.前記ケイ酸塩ガラスがアルミノホウケイ酸塩ガラスである、上記項1に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
6.前記ガラス母体は、酸化物表示でAlと、Bと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有する、上記項5に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
7.銅以外の金属であって前記ガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属が更にドープされている、上記項1~6のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
8.前記ガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属が銀である、上記項7に記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
9.前記ガラス母体100モル%に対する前記銅のドープ量は、外割且つ金属銅換算で0.005モル%以下である、上記項1~8のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラス。
10.上記項1~9のいずれかに記載の蛍光ガラス線量計用ガラスを備えることを特徴とする蛍光ガラス線量計。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、当該ガラス母体に賦活剤として銅がドープされていることを特徴とし、耐水性を含めた耐久性に優れており、且つ、賦活剤である銅は銀や希土類元素と比べて低コストであることから、蛍光ガラス線量計の提供に際してコスト削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験例1における、0モル%,0.005モル%,及び0.01モル%の銅をドープしたABS25(アルミノホウケイ酸塩ガラス25Na2O・25Al2O3・10B2O3・40SiO2)における、X線照射前後での光の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】試験例1における、0モル%,0.005モル%,及び0.01モル%の銅をドープしたABS25における、X線照射前後での紫外光を照射した際の発光スペクトルを示す図である。
【図3】試験例2における、0.005モル%銅をドープしたホウケイ酸塩ガラス及びアルミノリン酸塩ガラスにおける、X線照射前後での発光スペクトルを示す図である。
【図4】試験例3における、0.005モル%銅をドープしたABS25に対して、X線の代わりに照射量を変えてガンマ線を照射した際の吸収線量の増加と発光強度との相関関係を示す図である。
【図5】試験例4における、従来品の銀ドープリン酸塩ガラスにおける、X線照射前後の発光スペクトルを示す図である。
【図6】試験例5における、実施例1のガラス試料と比較例3のガラス試料をともに室温で6ヶ月保存した後の外観を示す図(左図:比較例3、右図:実施例1)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
蛍光ガラス線量計用ガラス及びそれを用いた蛍光ガラス線量計
本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、ケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、当該ガラス母体に銅がドープされている銅ドープケイ酸塩ガラスからなることを特徴とする。

【0020】
上記特徴を有する本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、耐水性を含めた耐久性に優れており、且つ、賦活剤である銅は銀や希土類元素と比べて低コストであることから、蛍光ガラス線量計の提供に際してコスト削減が可能である。

【0021】
ガラス母体は、ケイ酸塩ガラスであれば特に限定されず、例えば、酸化物表示で少なくとも酸化ケイ素と、アルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物とを含有するガラスが挙げられる。具体的には、酸化物表示でSiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有するガラスが挙げられる。金属酸化物としては、CaOと、NaO及びKOの少なくとも一種が好ましく、CaOとNaOがより好ましい。

【0022】
上記ケイ酸塩ガラスとしては、0~30CaO・2~50NaO・40~95SiOで示されるガラス(添え字を除き、数字はモル%を示す)が好ましく、具体的には、10CaO・14NaO・76SiO、14CaO・14NaO・72SiO、25NaO・75SiO等で示されるガラスが挙げられる。

【0023】
なお、ガラス母体はケイ酸塩ガラスの中でも特にホウケイ酸塩ガラスであることが好ましく、その場合は、酸化物表示でBと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有するガラスが挙げられる。ここで、前述のケイ酸塩ガラスの場合と同様に、金属酸化物としては、NaO及びKOの少なくとも一種が好ましく、NaOがより好ましい。

【0024】
上記ホウケイ酸塩ガラスとしては、2~30NaO・5~40B・40~80SiOで示されるガラス(添え字を除き、数字はモル%を示す)が好ましく、具体的には、25NaO・10B・65SiO、25NaO・25B・50SiO、5NaO・25B・70SiO等で示されるガラスが挙げられる。

【0025】
なお、ガラス母体はホウケイ酸塩ガラスの中でも特にアルミノホウケイ酸塩ガラスであることが好ましく、その場合は、酸化物表示でAlと、Bと、SiOと、LiO,NaO,KO,RbO,CsO,BeO,MgO,CaO,SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも一種の金属酸化物とを含有するガラスが挙げられる。ここで、前述のケイ酸塩ガラスの場合と同様に、金属酸化物としては、NaO及びKOの少なくとも一種が好ましく、NaOがより好ましい。

【0026】
上記アルミノホウケイ酸塩ガラスとしては、2~35NaO・2~30Al・5~40B・30~60SiOで示されるガラス(添え字を除き、数字はモル%を示す)が好ましく、具体的には、25NaO・25Al・10B・40SiO、30NaO・20Al・10B・40SiO、20NaO・30Al・10B・40SiO等で示されるガラスが挙げられる。

【0027】
本発明では、ガラス母体としてケイ酸塩ガラス(好ましくはホウケイ酸塩ガラス、より好ましくはアルミノホウケイ酸ガラス)を用いることにより、従来品に主に用いられているリン酸塩ガラスに比して耐水性を含めた耐久性に優れている。一方、ガラス母体としてシリカガラスを用いる場合には、溶融法でガラス中に銅を均一に溶融させるためにはかなりの高温を必要とする点で現実的ではない。その他、ゾル-ゲル法によりガラス中に銅を均一に溶解させる手法も考えられるが、ゾル-ゲル法に用いられる原料は高価でありこちらも実用的ではない。

【0028】
本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、上記ガラス母体に対して賦活剤として銅がドープされている。銅のドープ量は、所望のRPL特性が得られる範囲で限定的ではないが、ガラス母体100モル%に対する銅のドープ量は、外割且つ金属銅換算で0.005モル%以下であることが好ましい。ドープ量が0.005モル%を超える場合には、ガラス中のCuの絶対量が多くなり、それに対する、放射線照射で新たに生成するCuの量の比が相対的に小さくなるため、RPL特性の顕著な発現が低下するおそれがある。なお、所望のRPL特性の発現のために、銅のドープ量は0.00001モル%以上であることが好ましい。

【0029】
また、本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、上記賦活剤としての銅に加えて他の金属を併用することもできる。このような銅と併用できる金属としては、ガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属であればよく、例えば、銀が挙げられる。このように他の金属を銅と併用することでRPL特性をより高めることができる。なお、銀に代表される他の金属を併用する場合には、ガラス母体100モル%に対して、外割且つ金属換算で0.00001モル%以上0.01モル%以下の範囲でドープすることが好ましく、この範囲であれば銀を用いる場合であっても高コストの問題は回避することができる。

【0030】
本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスの調製方法は限定的ではなく、例えば、ガラス母体を構成する各原料及び賦活剤としての銅(銀などの他の金属を併用する場合はそれも含む)を所定量秤量し、乳鉢で混合した後、白金坩堝又はアルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下1200~1600℃で1~3時間程度溶融させ、ガラス融液をカーボン板などの基板に流し出した後、ガラス転移温度Tg付近で1~3時間程度アニールすることにより調製することができる。

【0031】
ガラス母体を構成する各原料及び賦活剤としての銅(原料)としては酸化物が使用でき、例えば、NaNO、NaCO、Al、Al(OH)、SiO、B、HBO、Na、CuO、CuO、CuSO、AgO、Ag(NO)等が挙げられる。

【0032】
板状のガラスを得た後は、蛍光ガラス線量計の検出子に適した所望の形状となるように成形、研磨等を行う。また、前記アニールはガラス化直後にガラスに存在する歪みを除くために行う。なお、本発明は上記蛍光ガラス線量計用ガラスを検出子として備えた蛍光ガラス線量計の発明も包含するが、本発明のガラスを用いること以外は、公知の蛍光ガラス線量計を構成する材料をそのまま適用することができる。

【0033】
本発明の蛍光ガラス線量計は、銅を賦活剤とした上記本発明のガラスを検出子として備えており、RPL特性を発現する。先ず、本発明のガラスに放射線が照射されると従来のリン酸塩ガラスと同様にガラス中に正孔(h)と電子(e)が形成される。これらの正孔及び電子のうち、電子(e)がガラス中のCu2+に捕獲されてCuに変化することにより紫外線照射下で蛍光(可視光)を発する。なお、ガラス中に存在するCu2+は紫外線照射下で発光しない。従って、本発明の蛍光ガラス線量計のRPLの発光強度は、ガラス中のCuの量に比例し、当該Cuの量は照射された放射線量に比例するため、発光強度を測定することによりガラスに照射された放射線量(すなわち被曝量)を計測することができる。また、電子を捕獲して生成したCuは安定で経時変化が殆どないため、発光強度の測定は何度でも行うことができる。更に、被曝した蛍光ガラスは、ガラス転移温度以下の温度でアニール(熱処理)することにより被曝前の状態にリセットされるため、原理的には、蛍光ガラス線量計は繰り返し用いることができ、しかも従来のリン酸塩ガラスを用いる場合よりも耐水性を含む耐久性に優れており、原発施設、水処理施設等高温多湿の状況下でも長期に亘り使用可能である点で優位性がある。

【0034】
一般に、ガラスに銅をドープした際は、銅はCu又はCu2+の状態で存在する。どちらの価数の銅イオンが多いかは限定的ではなく、ガラス母体の種類、銅のドープ量、溶融条件等によってさまざまである。両方の銅イオンを含む状態でガラスに放射線が照射されると正孔と反応してCuはCu2+に変化し、電子と反応してCu2+はCuに変化する。しかしながら、銅ドープガラスのRPL特性では、Cuのみが発光中心となるため、放射線照射に起因して正孔と電子の関与する反応が同時に生じると、被曝量に比例した発光強度の変化が得られないおそれがあり、場合によってはCuがCu2+に変化する反応が優勢となると発光強度が減少することも考えられる。よって、銅を発光中心とするRPLでは放射線照射前にガラス中に存在するCu2+の量をできるだけ多くし、且つ、Cuの量をできるだけ少なくすることが重要となる。これにより、電子と反応してCu2+がCuに変化する確率を、正孔と反応してCuがCu2+に変化する確率よりも増やすことができる。本発明のガラスは、ホウケイ酸塩ガラスをガラス母体とし、そこに銅をドープすることにより、他のガラス母体を用いる場合よりも銅ドープガラス中のCu2+の量をできるだけ多くすることが可能であり、それが本発明のガラスの優れたRPL特性の発現に繋がっている。

【0035】
とりわけ銅のドープ量が少ない時には、Cu2+量に対するCu量の割合が格段に低くなり、Cuが正孔を捕獲してCu2+に変化する確率よりも、Cu2+が電子を捕獲してCuに変化する確率が高くなることが考えられる。なお、ガラス中のCuに比べてCu2+の量をできるだけ多くするためには、酸化的な雰囲気で溶融する方が好ましい。よって、ガラス原料としNaNOなどの硝酸塩を用いる方法がある。また、一般に金属酸化物の金属イオンは温度が高いほど低酸化数になる傾向があるため、高酸化段階の割合を多くするためには溶融温度をできるだけ下げる方が好ましい。

【0036】
本発明の蛍光ガラス線量計用ガラスは、賦活剤としての銅の他に、銅以外の金属でありガラス母体中で複数の酸化数で存在し得る金属(好ましくは銀)を更にドープしてもよい。このような金属は、ガラス作製段階の溶融時には、銅を酸化するとともに自身は還元されて低い酸化数の状態にある。従って、作製したガラス中にはより多くのCu2+が含まれている。このガラスに放射線が照射されるとガラス中に正孔(h)と電子(e)が形成され、電子はCu2+に捕獲され、Cu2+はCuに変わる。一方、正孔は、ガラス溶融時に銅を酸化して低い酸化状態にある金属イオンに捕獲される。このメカニズムにより、正孔がCuに捕獲されRPL発光強度が低下するのを防ぐことができる。このような作用を有する金属としては、例えば銀が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【実施例】
【0038】
実施例1~4及び比較例1~3のガラスの調製
アルミノホウケイ酸塩ガラス25Na2O・25Al2O3・10B2O3・40SiO2(以下「ABS25ともいう」)100モル%に対して外割で0モル%(比較例1),0.005モル%(実施例1)及び0.01モル%(実施例2)の銅(金属銅換算)をドープしたガラスを調製した。
【実施例】
【0039】
比較例1…25Na2O・25Al2O3・10B2O3・40SiO2(銅ドープなし)
実施例1…25Na2O・25Al2O3・10B2O3・40SiO2・0.005CuO
実施例2…25Na2O・25Al2O3・10B2O3・40SiO2・0.01CuO。
【実施例】
【0040】
また、ホウケイ酸塩ガラス(25Na2O・10B2O3・65SiO2)100モル%に対して外割で0.005モル%の銅(金属銅換算)をドープしたガラス(実施例3)を調製した。
【実施例】
【0041】
また、ホウケイ酸塩ガラス(5Na2O・25B2O3・70SiO2)100モル%に対して外割で0.005モル%の銅(金属銅換算)をドープしたガラス(実施例4)を調製した。
【実施例】
【0042】
また、アルミノリン酸塩ガラス(30Na2O・60P2O5・10Al2O3)100モル%に対して外割で0.005モル%の銅(金属銅換算)をドープしたガラス(比較例2)を調製した。
【実施例】
【0043】
更に、アルミノリン酸塩ガラス(30Na2O・60P2O5・10Al2O3)100モル%対して外割で0.09モル%の銀(金属銀換算)をドープしたガラス(比較例3)を調製した。
【実施例】
【0044】
各ガラスの調製に際しては、原料粉末(NaNO,Al,SiO,B,NaPO,(NH)HPO,CuO,AgOから選択)を各組成となるように乳鉢で混合した後、ホウケイ酸塩ガラスの場合は白金坩堝で、アルミノリン酸塩ガラス及びアルミノホウケイ酸塩ガラスの場合はアルミナ坩堝に移して溶融した。
【実施例】
【0045】
溶融条件は、アルミノリン酸塩ガラスの場合は1200℃で、ホウケイ酸塩ガラスの場合は1400℃で、アルミノホウケイ酸塩ガラスの場合は1600℃で2時間溶融した。
【実施例】
【0046】
ガラス融液をカーボン板に流し出した後、ガラス転移点Tg付近で1時間アニールした。
【実施例】
【0047】
得られたガラスを厚さ約1mmに成形し、光学研磨を行って各ガラス試料とした。
【実施例】
【0048】
試験例1(X線照射前後における光の吸収スペクトル及び発光スペクトル)
比較例1、実施例1及び実施例2で調製した各ガラス試料に対してX線(RhKα)を照射し、X線照射前後における光の吸収スペクトル及び紫外光を照射した時の発光スペクトルを測定した。光の吸収スペクトルを図1に示し、発光スペクトルを図2に示す。
【実施例】
【0049】
図1に示すX線照射前の光の吸収スペクトルでは、Cuのドープ量が増加するとともに5.2eV(240nm)付近の吸収が増加した。これはCuのドープ量が増加するとともにガラス内に存在するCuが増加したためであると考えられる。比較例1(銅をドープしていないABS25)では、X線照射前後の吸収はともに小さい。また、X線照射によって5.2,3.5,2.3eV(240,350,550nm)付近の吸収が増加し、各ガラス試料は茶色に着色した。これらはE’センター(5.2eV)と非架橋酸素ホールセンターNBOHC(3.5,2.3eV)とに帰属される。
【実施例】
【0050】
図2に示すように、実施例1(0.005モル%の銅をドープしたABS25)及び実施例2(0.01モル%の銅をドープしたABS25)の各ガラス試料の発光スペクトルでは、2.5eV(500nm)付近にピークをもつブロードな発光が認められた。この発光はCuのd-s遷移に帰属される。これに対して、比較例1(銅をドープしていないABS25)では当該発光は殆ど認められなかった。
【実施例】
【0051】
実施例1のガラス試料では、X線照射前の発光強度に対してX線照射後の発光強度が大きく増加した。しかしながら、実施例2のガラス試料では、X線照射前に比べてX線照射後の発光強度が減少した。この理由としては、X線照射によって生成したNBOHCによる着色のために励起光及び発光が吸収されたこと、及びX線照射によって生成された正孔をCuが捕獲してCuの量が減少したことが考えられる。実施例1及び実施例2のガラス試料は、いずれも放射線被曝量の測定に用いる被曝線量計として利用できるが、X線照射前後の発光強度の変化を測定するという観点では変化率の大きい方が好ましい。
【実施例】
【0052】
試験例2(銅をドープした各種ガラス試料のX線照射前後における発光スペクトル)
0.005モル%の銅をドープしたホウケイ酸塩ガラス(実施例3、実施例4)及びアルミノリン酸塩ガラス(比較例2)におけるX線照射前後での発光スペクトルを測定した。結果を図3に示す。
【実施例】
【0053】
どのガラス試料についてもX線照射前後の発光スペクトルにおいて2.8~2.3eV(450~550nm)付近にピークをもつブロードなCuによる発光が観察された。
【実施例】
【0054】
これらの3種のガラス試料の中で、実施例4のガラス試料(5Na2O・25B203・70SiO2・0.005CuO)のみがX線照射後に発光強度が増加した。他のガラス試料では、逆にX線照射によって発光強度が減少した。
【実施例】
【0055】
試験例3(実施例4のガラス試料へのガンマ線の照射量と発光強度との関係)
実施例4のガラス試料(5Na2O・25B203・70SiO2・0.005CuO、試験例2でX線照射後に発光強度が増加した試料)に対してX線の代わりに照射量を変えてガンマ線(60Coガンマ線)を照射した。ガンマ線の照射量と発光強度との関係を図4に示す。
【実施例】
【0056】
図4に示すように、吸収線量の増加とともに発光強度が増加した。特に吸収線量が1.1kGy以下では吸収線量と発光強度との間に良い直線関係が得られた。これは、当該ガラス試料が放射線量計用蛍光ガラスとして優れた特性を有していることを意味する。
【実施例】
【0057】
また、発光波長はX線照射の場合と同じであった。このことから、X線からガンマ線のエネルギー範囲で、2.5eV(500nm)付近の発光強度を測定することで被曝量を評価できることが示唆された。
【実施例】
【0058】
試験例4(比較例3のガラス試料におけるX線照射前後の発光スペクトル)
比較例3のガラス試料(Agドープアルミノリン酸塩ガラス30Na2O・60P2O5・10Al2O3・0.09AgO)におけるX線照射前後の発光スペクトルを図5に示す。
【実施例】
【0059】
X線照射によって1.9eV(650nm)付近に大きなピークが観測されるとともに2.7eV(460nm)付近に小さなピークが観測された。これらはそれぞれAg2+、Agに由来するRPLであると考えられる。
【実施例】
【0060】
上記発光と比較して、前述の実施例1のガラス試料(0.005モル%の銅をドープしたABS25)のX線照射前後の発光強度は約1/2であった。しかしながら、比較例3のガラス試料の銀ドープ量が金属銀換算で0.09モル%であることを考慮すると、金属銅換算で0.005モル%の銅をドープした実施例1のガラス試料は、格段に感度が高いことが分かる。
【実施例】
【0061】
試験例5(実施例1のガラス試料と比較例3のガラス試料の耐水性の評価)
実施例1のガラス試料(0.005モル%の銅をドープしたABS25)と比較例3のガラス試料(Agドープアルミノリン酸塩ガラス30Na2O・60P2O5・10Al2O3・0.09AgO)をともに室温で6ヶ月保存したところ、図6に示すように、実施例1のガラス試料(図6の右側)は全く変化が認められなかったが、比較例3のガラス試料(図6の左側)は表面に白濁が認められた(なお、ガラス試料の着色はX線照射による)。このことは、実施例1のガラス試料(ガラス母体がケイ酸塩ガラス)は比較例3のガラス試料(ガラス母体がリン酸塩ガラス)に比べて耐水性が非常に向上していることを意味している。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
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