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明細書 :繊維集合体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-099969 (P2019-099969A)
公開日 令和元年6月24日(2019.6.24)
発明の名称または考案の名称 繊維集合体及びその製造方法
国際特許分類 D04H   1/728       (2012.01)
D01F   6/72        (2006.01)
D01D   5/04        (2006.01)
FI D04H 1/728
D01F 6/72
D01D 5/04
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2017-235217 (P2017-235217)
出願日 平成29年12月7日(2017.12.7)
新規性喪失の例外の表示 新規性喪失の例外適用申請有り
発明者または考案者 【氏名】吉田 裕安材
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4L035
4L045
4L047
Fターム 4L035BB02
4L035BB13
4L035CC03
4L035DD13
4L035EE20
4L035FF01
4L045AA01
4L045AA08
4L045BA34
4L045BA60
4L045CB40
4L047AA26
4L047AB08
4L047BA10
4L047EA22
要約 【課題】 尿素骨格を備える環状低分子化合物を用いて、エレクトスピニング法により非晶質構造あるいは結晶質構造のファイバー化を可能とし、特徴的で好適な繊維集合体の用途を提供する。
【解決手段】 エレクトロスピニング法により、尿素骨格を有する環状低分子化合物をファイバー化してなる繊維集合体の製造方法であって、エレクトロスピニング用に前記環状低分子化合物の溶液を調製する工程と、前記溶液をエレクトロスピニング法により紡糸して繊維集合体を作製する紡糸工程とを備え、前記紡糸工程における紡糸環境の湿度を制御することにより、非晶質構造と結晶質構造のファイバーを選択的に製造することを特徴とする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
エレクトロスピニング法により、尿素骨格を有する環状低分子化合物をファイバー化してなる繊維集合体の製造方法であって、
エレクトロスピニング用に前記環状低分子化合物の溶液を調製する工程と、
前記溶液をエレクトロスピニング法により紡糸して繊維集合体を作製する紡糸工程とを備え、
前記紡糸工程における紡糸環境の湿度を制御することにより、非晶質構造と結晶質構造のファイバーを選択的に製造することを特徴とする繊維集合体の製造方法。
【請求項2】
前記紡糸工程において、
非晶質構造のファイバーを製造する際には、前記紡糸環境を20%~40%の範囲の湿度に制御し、
結晶質構造のファイバーを製造する際には、前記紡糸環境を10%以下の湿度に制御することを特徴とする請求項1記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項3】
前記環状低分子化合物として、Cucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)を使用することを特徴とする請求項1または2記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項4】
前記環状低分子化合物の溶液を調製する工程において、
前記環状低分子化合物の溶媒として、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と濃塩酸とを、体積比でHFIP:HCl=10:1~7:1とした混合溶媒を使用することを特徴とする請求項3記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項5】
尿素骨格を有する環状低分子化合物のファイバーを含む繊維集合体であって、
CO2の吸着材として用いられる繊維集合体。
【請求項6】
前記環状低分子化合物が、Cucurbit[6]urilであることを特徴とする請求項5記載の繊維集合体。
【請求項7】
前記繊維集合体を構成するファイバーが非晶質であることを特徴とする請求項5または6記載の繊維集合体。
【請求項8】
前記繊維集合体を構成するファイバーが結晶質であることを特徴とする請求項5または6記載の繊維集合体。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ククルビツリル(Cucurbituril)等の環状低分子化合物の繊維集合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融紡糸、湿式紡糸、エレクトロスピニングといった紡糸法においては、一般的に、分子間相互作用や分子の絡み合いが大きな高分子が利用されてきた。これに対し、近年、ある種の低分子化合物を用いたファイバーの作製例として、界面活性剤(非特許文献1)、アミノ酸誘導体(非特許文献2)、オリゴペプチド(非特許文献3)、シクロデキストリン(非特許文献4、5)についての報告がある。本現象は、比較的相互作用が小さいと考えられる低分子化合物のファイバー化が可能であることを示すものであり、学術的に大きな関心を集めている。
【0003】
本発明者は、シクロデキストリンと同様な環状化合物であるCucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)に注目し、Cucurbit[6]uril(CB[6])のファイバー化についても報告した(非特許文献6)。このCB[6]のファイバー化は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と濃塩酸(HCl)の混合溶液を用いることにより、既報のCB[6]の最大溶解度6.1(w/v)%を44.1(w/v)%まで高めることにより、エレクトロスピニング法により不織布を作製することに成功したものである。CB[6]は上下の底の抜けた樽状の立体構造を有する尿素骨格を備える環状低分子化合物であり、シクロデキストリンと同様に、その空洞に疎水性のゲスト分子を包接することができ、近年では超分子化学におけるホスト分子として注目されている(非特許文献7)。
また、CB[6]は、CO2分子の吸着に高い選択性を示すことが報告されており(非特許文献8)、CB[6]の不織布をCO2ガスの吸着用途に利用することも考えられている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】M. G. McKee et al., Science, 311, 353 (2006).
【非特許文献2】G. Singh et al., Adv. Mater., 20, 2332 (2008).
【非特許文献3】A. S. Tayi et al., Biomacromolecules, 15, 1323 (2014).
【非特許文献4】A. Celebioglu et al., J. Colloid Interface Sci., 404, 1 (2013).
【非特許文献5】T. Kida et al., Chem. Commun., 50, 14245 (2014).
【非特許文献6】K. Miyazawa et al., Fiber Preprints, Japan 2P222 (2016).
【非特許文献7】H.-J. Buschmann et al., J. Solution Chem. 1998, 27, 135.
【非特許文献8】H. Kim et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、環状化合物であるCucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)は、樽状の立体構造の空洞部分にゲスト分子を包接する機能を備え、n値により空洞径が異なることから、個々にゲスト分子を選択的に吸着することが可能である。CB[6]によりCO2分子を吸着する作用も、選択的にゲスト分子を吸着するCB[6]の吸着作用の一つである。
本発明は、尿素骨格を備える環状低分子化合物を用いて、エレクトスピニング法により非晶質構造あるいは結晶質構造のファイバー化を可能とし、環状低分子化合物を用いて繊維集合体を作製すること、また、その繊維集合体の特徴的で好適な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る繊維集合体の製造方法は、エレクトロスピニング法により、尿素骨格を有する環状低分子化合物をファイバー化してなる繊維集合体の製造方法であって、エレクトロスピニング用に前記環状低分子化合物の溶液を調製する工程と、前記溶液をエレクトロスピニング法により紡糸して繊維集合体を作製する紡糸工程とを備え、前記紡糸工程における紡糸環境の湿度を制御することにより、非晶質構造と結晶質構造のファイバーを選択的に製造することを特徴とする。
前記紡糸工程において、非晶質構造のファイバーを製造する際には、前記紡糸環境を20%~40%の範囲の湿度に制御し、結晶質構造のファイバーを製造する際には、前記紡糸環境を5%以下の湿度に制御することを特徴とする。
また、前記環状低分子化合物として、Cucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)を使用することを特徴とする。
また、前記環状低分子化合物の溶液を調製する工程において、前記環状低分子化合物の溶媒として、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と濃塩酸とを、体積比でHFIP:HCl=10:1~7:1とした混合溶媒を使用することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る繊維集合体は、尿素骨格を有する環状低分子化合物のファイバーを含む繊維集合体であって、CO2の吸着材として特に好適に用いられる。
また、前記環状低分子化合物が、Cucurbit[6]urilであることを特徴とする。また、前記繊維集合体を構成するファイバーが非晶質または結晶質であることによりCO2の好適な吸着材として繊維集合体を提供することができる。
【0008】
なお、一般的な高分子繊維では、その結晶性を結晶化度によって評価することが可能であるが、Cucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)のような低分子化合物については結晶化度によって結晶性を評価することはできず、単に結晶か否かを判別することになる。紡糸したファイバーが結晶か否かの判断にはXRD測定を利用することができる。結晶性のファイバーのXRDパターンには鋭いピークがあらわれ、非晶質のファイバーではブロードなパターンとなることから結晶質と非晶質とを容易に判別することができる。
また、ファイバーの構造的な相違を判別する方法として、ファイバーの屈曲性を比較する方法もある。結晶質の場合は非晶質の場合と比べてファイバーの屈曲性が大きく劣り、たとえばSEM画像でファイバーの曲りを観察すると、画像中で30度以上曲がったファイバーの割合が結晶性のファイバーの場合は7%程度、非晶質の場合は44%程度といったように大きく異なることから結晶質と非晶質を判別することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る繊維集合体の製造方法によれば、紡糸環境の湿度を制御するだけで、非晶質構造と結晶質構造のファイバーを選択して製造することができ、用途に応じて非晶質ファイバーあるいは結晶質ファイバーからなる繊維集合体を提供することができる。また、本発明に係る先生集合体はCO2の吸着材として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】CB[6]の化学構造を示す説明図(a)、およびエレクトロスピニング法によりCB[6]の不織布を作製する方法を模式的に示す図である。
【図2】紡糸環境の湿度を20%として作製した繊維集合体のSEM像(a)、および湿度を5%として作製したときの繊維集合体のSEM像である(b)。
【図3】紡糸環境の湿度を5%、10%、20%、30%、40%として作製した繊維集合体のSEM像である。
【図4】図2(a)の繊維集合体についてのXRDパターン(a)、図2(b)の繊維集合体についてのXRDパターン(b)である。
【図5】CB[6]溶液の濃度を10wt%、20wt%、30wt%、40wt%として作製した繊維集合体のSEM像である。
【図6】実験例3において使用した繊維集合体のSEM像と外観写真である。
【図7】実験例3の繊維集合体について測定したCO2の吸着等温線である。
【図8】粉体のCB[6]についての既報の吸着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(CB[6]繊維集合体の作製方法)
本発明においては環状低分子化合物であるCucurbit[n]uril(CB[n], n=5,6,7,8,10,14)をエレクトロスピニング法により繊維集合体(不織布)を作製する。以下にCB[6]を例に、エレクトロスピニング法により繊維集合体を作製する方法について説明する。
図1(a)はCB[6]の化学構造を示す図、図1(b)はCB[6]を用いてエレクトロスピニング法により繊維集合体(不織布)を作製する方法を模式的に示す。
CB[6]は尿素骨格を含む環状分子であり、図1(a)に示すように、上下の底の抜けた樽状の立体構造を有する。CB[6]の繊維集合体は、CB[6]を溶媒に溶解した溶液をシリンジに投入し、ノズルと電極との間に電圧を印加しながらシリンジから溶液を射出することにより電極上にファイバーを形成することによって得られる。

【0012】
エレクトロスピニング法によりCB[6]の繊維集合体(不織布)を作製するには、まず、所要濃度のCB[6]の溶液を調製する必要がある。CB[6]の溶液を調製した例としては、60%ギ酸水溶液を溶媒に使用して溶液を調製した例がある(非特許文献7)。この例におけるCB[6]の最大溶解度は125 mM(125 mg/mL)であり、この溶液を用いてエレクトロスピニングを行っても紡糸の成功には至らなかった。この原因として、使用する溶液の濃度が低いこと、また溶媒の揮発性が低いことが挙げられ、より高濃度の溶液を調製可能で、かつ高揮発性の溶媒条件の探索が望ましい。

【0013】
より高濃度のCB[6]の溶液を調製する方法として、本発明者は1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と濃塩酸との混合溶媒を用いる方法が有効であることを見出している。また、CB[6]の混合溶媒として、体積比でHFIP:HCl=10:1~7:1の場合が最適であることを見出している(非特許文献6)。実際には、HFIP 200μL+HCl 20μLの混合溶媒(220μL)あるいはHFIP 700μL+HCl 100μLを調製し、この混合溶媒に加えるCB[6]の量を調節することによって溶液の濃度(0~44%まで)を調整した。HFIPと濃塩酸の混合溶媒にCB[6]を加えることで常温で容易に溶解するが、溶解が不十分な場合はボルテックスミキサーや超音波を併用することもできる。HFIPと濃塩酸は本来、混ざらない組み合わせであり、CB[6]が界面活性剤のような作用をしていると考えられる。また、前記溶媒比率から変化させると、いずれかの溶媒が分離する。

【0014】
エレクトロスピニング法は、ナノ-マイクロメートル径のファイバーを迅速かつ容易に作製する方法として有用である。エレクトロスピニング法による紡糸では、非常に広いパラメータの設定が可能であり、温度や湿度などの「紡糸環境」や、溶液の濃度や粘度、導電性といった「溶液特性」の他に、印加電圧や極板間距離、射出速度などの「紡糸条件」を制御することによってファイバー化することができる。
CB[6]の溶液を用いてエレクトロスピニング法によりファイバー化する際には、CB[6]の溶液の粘度を30 mPa・sec程度以上(溶液の濃度300 mM(300 mg/mL)以上)に設定する必要がある。

【0015】
エレクトロスピニング法を用いてファイバー化するときの、印加電圧や極板間の距離、射出速度等の条件も、的確にファイバーを形成するための制御条件ではあるが、これらの制御条件は、形成しようとする繊維集合体に合わせて適宜調整する条件であり、溶液特性についての条件に対しては従たる条件であり、溶液特性についての条件が満足された上での制御条件である。

【0016】
(非晶質ファイバーと結晶質ファイバー)
エレクトロスピニング法を用いてファイバー化するときの、温度や湿度などの「紡糸環境」に関する条件は、一般的にはファイバー化するときに適宜調整する条件である。しかしながら、本発明においては、紡糸環境のうちの湿度条件がきわめて重要な作用をなす。CB[6]の繊維集合体は、CB[6]の溶液を使用してエレクトロスピニング法によりファイバー化することで得られるが、繊維集合体を構成するファイバーの紡糸環境のうち湿度条件により、非晶質構造となる場合と、結晶質構造とする場合が左右されるからである。

【0017】
すなわち、CB[6]の溶液をエレクトロスピニングする際の紡糸環境の湿度を高く設定した場合には非晶質構造のファイバーが得られ、湿度を低く設定した場合には結晶質構造のファイバーが得られる。なお、紡糸環境の湿度を高く設定したとは、エレクトロスピニング装置を設置した室内を通常の空調状態(湿度20~40%)に設定してファイバー化した場合であり、湿度を低く設定したとは、室内がきわめて乾燥した状態になるように空調を制御した状態(湿度10%以下)でファイバー化した場合を意味する。

【0018】
上記のようにエレクトロスピニング法を利用してCB[6]をファイバー化してなる繊維集合体を作製する際に、紡糸環境の湿度条件を制御することで、非晶質構造のファイバーと結晶質構造のファイバーを作り分ける方法は、エレクトロスピニング法を利用する繊維集合体の製造方法としてきわめて特徴的である。
実際に、上記方法によって得られる、非晶質構造のファイバーからなる繊維集合体は綿状のものとして得られるのに対し、結晶質構造のファイバーからなる繊維集合体はファイバーが密に凝縮したものとして得られるという形態上の差異がある。
また、非晶質構造のファイバーからなる綿状の繊維集合体は、CO2分子の高い吸着能を備えるという作用上の特徴がある。この繊維集合体によるCO2分子を吸着する作用は、繊維集合体が非晶質構造のファイバーからなることに起因するものと推定される。

【0019】
<実験例1>
エレクトロスピニング法によりCB[6]をファイバー化する際に紡糸環境がどのように影響するかを調べる実験を行った。
・溶液の調製
CB[6] 350mg(350 μmol)を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) 700 μLと濃塩酸100 μLに連続的に加えて、常温で溶解させ、濃度44%のエレクトロスピニング用の溶液を調製した。
・エレクトロスピニング条件
電極間距離:5cm
射出速度:0.44mL/h
印加電圧:20kV
湿度:5%、10%、20%、30%、40%

【0020】
図2(a)は、上記実験条件のうち、紡糸環境の湿度20%のときの繊維集合体のSEM像、図2(b)は、湿度5%のときの繊維集合体のSEM像である。
図2(a)、(b)に示すSEM像は同一倍率のものであり、いずれもCB[6]がファイバー化され不織布状の繊維集合体が形成されている。SEM像からは繊維集合体を構成するファイバーの非晶質構造と結晶質構造の相違を見分けることは困難であるが、図2(a)、(b)のSEM像でファイバーの屈曲性に僅かな相違が見られる。

【0021】
図3は、紡糸環境の湿度を5%、10%、20%、30%、40%としたときの繊維集合体のSEM像である。湿度5%、10%、20%、30%で紡糸したものは確実にファイバー化され、湿度40%で紡糸した場合はビーズファイバーが形成され、完全にはファイバー化されていない。図3でdはファイバーの直径である。

【0022】
図4(a)、(b)は、図2(a)、(b)に示した繊維集合体について測定したXRDパターンを示す。
図4(a)に示すXRDパターンはきわめてなだらかな典型的な非晶質ファイバーが示すパターンとなっている。このXRDパターンから、図2(a)に示す繊維集合体は非晶質構造のファイバーからなることが分かる。
一方、図4(b)に示すXRDパターンには、結晶化度が高いことを示すきわめてシャープなピークがあらわれている。このXRDパターンは既報のCB[6]結晶固体のX線回折パターンと酷似しており(非特許文献8)、湿度5%で作製したCB[6]不織布が結晶性のファイバーからなることを示す。
図2(a)、(b)で、ファイバーの屈曲性に若干の差異が見られた理由は、図2(a)が非晶質構造のファイバー、図2(b)は結晶質構造のファイバーであることによると考えられる。

【0023】
本実験結果は、エレクトロスピニング法によりCB[6]をファイバー化して繊維集合体を形成する際に、紡糸環境の湿度条件が、非晶質構造あるいは結晶質構造のファイバーを形成する際の制御条件になっていることを示す。このように、エレクトロスピニング法により紡糸する際の湿度条件によってファイバーの結晶性が左右される理由としては、高分子化合物からなるファイバーでは高分子間の結晶性や絡み合いが分子配列、つまりファイバーの結晶化度に決定的であるのに対し、CB[6]ファイバーのような低分子化合物からなるファイバーでは、系中に存在する水分子の濃度がファイバーの結晶性を大きく左右するためであると考えられる。

【0024】
<実験例2>
エレクトロスピニング法によりCB[6]をファイバーする際に、CB[6]溶液の濃度がどのように影響するかを調べる実験を行った。
・溶液の調製
ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) 700 μLと濃塩酸100 μLの混合溶媒に加えるCB[6]の分量を調整し、CB[6]の濃度を10wt%、20wt%、30wt%、40wt%とした4種類のエレクトロスピニング用の溶液を調製した。
・エレクトロスピニング条件
電極間距離:5cm
射出速度:0.44mL/h
印加電圧:20kV
湿度:5%

【0025】
図5は、上記4種の濃度のCB[6]溶液を使用し、上記エレクトロスピニング条件で紡糸したサンプルのSEM像を示す。
図5は、CB[6}の溶液の濃度が10wt%および20wt%の場合は、ビーズファイバーとなり、濃度30wt%及び40wt%の場合は正常なファイバーが形成されることを示す。すなわち、エレクトロスピニング法によりCB[6]を正常にファイバー化する際には、CB[6]の溶液の濃度を30wt%以上に設定する必要があることを示している。

【0026】
<実験例3>
CB[6]は、CO2分子を選択的に吸着する機能を備えることが知られている。実験例3では、エレクトロスピニング法によりファイバー化したCB[6]の繊維集合体について、CO2分子の吸着能について調べる実験を行った。
CO2の吸着能の実験に使用した繊維集合体は、エレクトロスピニング用のCB[6]の溶液として濃度44%の溶液を使用し、エレクトロスピニングの紡糸環境を湿度5%として作製したものである。エレクトロスピニングの電極間距離、射出速度、印加電圧は実験例1と同様である。
図6は上記方法によって得られた繊維集合体のSEM像と、得られた繊維集合体のサンプルの外観写真を示す。繊維集合体は正常なファイバーの集合体からなっている。

【0027】
図7は、上述した方法によって作製したCB[6」の繊維集合体について、CO2分子の吸着特性を測定した吸着等温線である。この吸着等温線は、CO2気体の圧力を0(Torr)から700(Torr)まで徐々に上げていき、各圧力でサンプル(不織布)に吸着されたCO2分子の平衡吸着量を測定し(黒丸)、また、CO2の圧力を700(Torr)から0(Torr)まで徐々に下げていき、サンプルに吸着(残留)されているCO2分子の平衡吸着量を測定した(白丸)ものである。測定温度は298Kである。

【0028】
図7の吸着等温線は、本測定に使用したCB[6]の繊維集合体(不織布)は、室温、0.1barの圧力下において、23mg/mの吸着量を有することを示す。この吸着量はCB[6]の粉体についてのCO2の既報値(非特許文献8)と同等の値である。
CO2を吸着する固体材料としては金属有機構造体(MOF)が注目されている。本発明に係るCB[6]の不織布(繊維集合体)のCO2の吸着量をMOFによるCO2の吸着量と比較すると、MOFよりも若干劣るもののCO2の吸着材として十分に実用に供することができる値である。

【0029】
図7に示す吸着等温線は、CB[6]の不織布にCO2を吸着させた後、CO2の圧力を下げていってもCO2の脱離が緩やかであること、すなわちCB[6]の不織布にいったんCO2が吸着されるとCO2が脱離し難いことを示している。
図8は、CB[6]の粉体について得られたCO2、の吸着等温線である。図8ではCO2(黒丸:吸着、白丸:脱離)、CH4(黒四角:吸着、白四角:脱離)、CO(黒三角:吸着、白三角:脱離)についての吸着等温線を示している。

【0030】
図7と図8のCO2についての吸着等温線でCO2の脱離作用について比較すると、CB[6]繊維集合体は粉体のものとくらべて、明らかに脱離作用が緩やかであることがわかる。すなわち、CO2の吸着材としての機能について見ると、CB[6]の繊維集合体はCB[6]の粉体と比べてCO2を吸着して保持する作用がきわめて高い点で特徴的である。したがって、CB[6]の繊維集合体はCO2を貯蔵して運搬するといった用途に用いる吸着材として効果的に利用することが可能である。
一般的に、気体吸着においてヒステリシスが生じるケースとして、高分子材料におけるナノ孔の例が知られている。圧力の増大に伴い、ナノ孔が開き、ガス吸着に利用されるが、減圧により孔が閉じ、ガス分子がトラップされ、放出され難くなる。上記の実験結果は、同様の現象がCB[6]ナノファイバーに対しても起きていることを示唆するものと考えられる。

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7