TOP > 国内特許検索 > 活性型タンパク質の製造方法若しくはタンパク質の安定化方法、並びにそれらの方法のために用いられるポリペプチド、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びそのポリヌクレオチドを有するベクター > 明細書

明細書 :活性型タンパク質の製造方法若しくはタンパク質の安定化方法、並びにそれらの方法のために用いられるポリペプチド、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びそのポリヌクレオチドを有するベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-038395 (P2018-038395A)
公開日 平成30年3月15日(2018.3.15)
発明の名称または考案の名称 活性型タンパク質の製造方法若しくはタンパク質の安定化方法、並びにそれらの方法のために用いられるポリペプチド、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びそのポリヌクレオチドを有するベクター
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
C07K  14/195       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/00 C
C07K 14/195
請求項の数または発明の数 16
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2017-164319 (P2017-164319)
出願日 平成29年8月29日(2017.8.29)
優先権出願番号 2016171308
優先日 平成28年9月1日(2016.9.1)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】藤原 伸介
【氏名】高 楽
出願人 【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4H045
Fターム 4B064AG01
4B064CA01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA42
4H045CA11
4H045FA72
4H045FA74
4H045FA82
4H045GA45
要約 【課題】活性型タンパク質を製造、若しくはタンパク質を安定化する、方法の提供。
【解決手段】遺伝子組換えによる活性型タンパク質の製造方法であって、以下の工程[1]~[5]を含む方法。[1](a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は(b)シャペロニン改変体、静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された(c)目的タンパク質を遺伝子組換えにより生産する工程、[2]他のタンパク質から単離されていない目的タンパク質(c)を、溶液中において、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)と共存させて、静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程、[3]結合体を含む溶液を加熱処理して、他のタンパク質を変性させる工程、[4]結合体と変性タンパク質とを含む溶液から、未変性の目的タンパク質(c)を単離する工程、[5]工程[4]より得られた未変性の目的タンパク質(c)から前記アミノ酸配列領域を切除する工程
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
遺伝子組換えによる活性型タンパク質の製造方法であって、以下の工程[1]~[4]を含む方法:
[1](a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負に荷電している前記シャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された (c)目的タンパク質
を遺伝子組換えにより生産する工程;
[2]前記工程[1]により得られた、他のタンパク質から単離されていない前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることにより、前記静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程;
[3]前記工程[2]により得られた、前記結合体を含む溶液を加熱処理することにより、他の前記タンパク質を変性させる工程;及び
[4]前記工程[3]により得られた、前記結合体と変性タンパク質とを含む溶液から、未変性の前記目的タンパク質(c)を単離する工程。
【請求項2】
さらに、
[5]前記工程[4]により得られた、未変性の前記目的タンパク質(c)から、前記アミノ酸配列領域を切除する工程
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負に荷電している前記シャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された(c)目的タンパク質
を安定化する方法であって、
[i]前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることにより、前記静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程
を含む方法。
【請求項4】
前記改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が、20~30個のアミノ酸からなり、20%以上のアミノ酸が、アスパラギン酸及びグルタミン酸のいずれか、又はアスパラギン酸及びグルタミン酸のいずれかである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が、前記シャペロニン(a)のC末端側20~30個の尾部とのアミノ酸配列同一性80%以上を示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノ酸配列領域が、等電点9~12を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アミノ酸配列領域が、等電点2~5を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程[2]又は工程[i]で使用する溶液のpHが、8.5~10.5である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記工程[2]又は工程[i]で使用する溶液のpHが、3~6である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記シャペロニン(a)が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記改変体(b)が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と配列同一性80%以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)を遺伝子組換えにより、前記目的ポリペプチド(c)と同一の宿主内において発現させることにより、前記工程[2]において、前記目的タンパク質(c)を、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させる、請求項1、2及び4~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記目的ポリペプチド(c)と、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)とを遺伝子組換えにより、同一の宿主内において発現させることにより、前記工程[i]において、前記目的タンパク質(c)を、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させる、請求項3~11のいずれか一項に記載の安定化方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)を含む組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)をコードするポリヌクレオチドを有するベクター。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型タンパク質の製造方法若しくはタンパク質の安定化方法、並びにそれらの方法のために用いられるポリペプチド、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びそのポリヌクレオチドを有するベクター等に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、正しい三次元構造を取る(以下、「フォールディング」という)ことによって、本来の機能を発揮することができる。1990年頃までは、フォールディングは自発的に起こるものと考えられていた。その後、細胞内でのタンパク質のフォールディングにおいては、分子シャペロニンと称されるタンパク質群が関与していることが明らかにされた。用語「分子シャペロニン」(本明細書において、単に「シャペロニン」と称すこともある)は、分子シャペロンと呼ばれる大きな集団の中に含まれる1グループを指す。
【0003】
シャペロニンは複数のサブユニットからなる複合体として機能し、このシャペロニン複合体は、60kDaの球状タンパク質一つが十分に収まる程度の大きさの、空洞部(キャビティ)と呼ばれる空間を分子内に有する。シャペロニン複合体は、この空洞部に様々なタンパク質の折り畳み中間体又は変性タンパク質等を一時的に収容することができ、タンパク質の折り畳み構造が正常に形成されると、ATPの分解と共役してその折り畳まれたタンパク質を空洞部外へと放出する。
【0004】
細胞内は、一般に、タンパク質が適切なフォールディングを行う上では過酷な環境である。特に、遺伝子組換え法によりタンパク質を強制発現させた場合などには、細胞内のタンパク質濃度が高くなっており、フォールディングの途中で凝集(封入体)が生じやすい。このため、産業上有用なタンパク質を遺伝子組換え法により得ようとする際に、活性型タンパク質として得ることが困難な場合がある。
【0005】
タンパク質を遺伝子組換え技術により得ようとする際の障害としては、他にも、例えば、目的タンパク質が宿主に対して何らかの毒性を示すこと、又は目的タンパク質が可溶性タンパク質として発現したしても、宿主由来プロテアーゼにより分解されてしまうこと、等が挙げられる。
【0006】
これらの問題を解決するためには、従来、目的タンパク質ごとに適切な発現条件を、試行錯誤を経て見出す必要があった。
【0007】
これらの問題を、このように個別具体的にではなく、根本的に解決しようとする手段として、目的タンパク質とシャペロニンサブユニットとを連結した融合タンパク質を利用する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【0008】
しかし、これらの方法においては、目的タンパク質とシャペロニンサブユニットとを連結した融合タンパク質をコードする融合遺伝子を発現ベクターに組み込む必要があり、サイズが大きくなるために宿主内で不安定化する傾向があった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開第2002/052029号
【特許文献2】特開2010-246522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、活性型タンパク質を製造、若しくはタンパク質を安定化する、新しい方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アーキア由来の高温誘導型シャペロニンのループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電していることに着目した。本発明者らは、このループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が人工的に付加された目的タンパク質を遺伝子組換えにより産生し、これをアーキア由来高温誘導型シャペロニンと共存させることにより両者の結合体を形成することができ、目的タンパク質を安定化できることを見出した。本発明者らは、さらに、このことを利用すれば、目的タンパク質を活性型のまま効率的に遺伝子組換え法により産生することができることを見出した。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき、さらなる試行錯誤を経て完成されたものであり、下記の態様を含む。
【0013】
[項1]
遺伝子組換えによる活性型タンパク質の製造方法であって、以下の工程[1]~[4]を含む方法:
[1](a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電している前記シャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された
(c)目的タンパク質
を遺伝子組換えにより生産する工程;
[2]前記工程[1]により得られた、他のタンパク質から単離されていない前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることにより、前記静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程;
[3]前記工程[2]により得られた、前記結合体を含む溶液を加熱処理することにより、他の前記タンパク質を変性させる工程;及び
[4]前記工程[3]により得られた、前記結合体と変性タンパク質とを含む溶液から、未変性の前記目的タンパク質(c)を単離する工程。
[項2]
さらに、
[5]前記工程[4]により得られた、未変性の前記目的タンパク質(c)から、前記アミノ酸配列領域を切除する工程
を含む、項1に記載の製造方法。
[項3]
(a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電している前記シャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された(c)目的タンパク質
を安定化する方法であって、
[i]前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることにより、前記静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程
を含む方法。
[項4]
前記改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が、20~30個のアミノ酸からなり、20%以上のアミノ酸が、アスパラギン酸及びグルタミン酸のいずれか、又はアスパラギン酸及びグルタミン酸のいずれかである、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
[項5]
前記改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が、前記シャペロニン(a)のループ構造を有するC末端側20~30個の尾部とのアミノ酸配列同一性80%以上を示す、項4に記載の方法。
[項6]
前記アミノ酸配列領域が、等電点9~12を示す、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項7]
前記アミノ酸配列領域が、等電点2~5を示す、項1~5のいずれか一項に記載の方法。[項8]
前記工程[2]又は工程[i]で使用する溶液のpHが、8.5~10.5である、項6に記載の方法。
[項9]
前記工程[2]又は工程[i]で使用する溶液のpHが、3~6である、項7に記載の方法。
[項10]
前記シャペロニン(a)が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列からなる、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
[項11]
前記改変体(b)が、配列番号1で表わされるアミノ酸配列と配列同一性80%以上である、項10に記載の方法。
[項12]
前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)を遺伝子組換えにより、前記目的ポリペプチド(c)と同一の宿主内において発現させることにより、前記工程[2]において、前記目的タンパク質(c)を、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させる、項1、2及び4~11のいずれか一項に記載の製造方法。
[項13]
前記目的ポリペプチド(c)と、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)とを遺伝子組換えにより、同一の宿主内において発現させることにより、前記工程[i]において、前記目的タンパク質(c)を、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させる、項3~11のいずれか一項に記載の安定化方法。
[項14]
項1~11のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)を含む組成物。
[項15]
項1~13のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)をコードするポリヌクレオチド。
[項16]
項1~13のいずれか一項に記載の方法のために用いられる、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)をコードするポリヌクレオチドを有するベクター。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、活性型タンパク質を製造、若しくはタンパク質を安定化する、新しい方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】GFPを単独で熱処理した場合と、CpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合におけるGFP残存活性を示したグラフである。
【図2】S1-GFPを単独で熱処理した場合と、CpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合におけるGFP残存活性を示したグラフである。
【図3】S2-GFPを単独で熱処理した場合と、CpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合におけるGFP残存活性を示したグラフである。
【図4】S3-GFPを単独で熱処理した場合と、CpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合におけるGFP残存活性を示したグラフである。
【図5】夾雑物存在下におけるS1-GFPCpkBによる安定化効果を、SDS-PAGEにより調べた結果を示す写真である。
【図6】夾雑物存在下におけるS3-GFPのCpkBによる安定化効果を、SDS-PAGEにより調べた結果を示す写真である。
【図7】夾雑物存在下における4OTA-S1のCpkBによる安定化効果を、SDS-PAGEにより調べた結果を示す写真である。
【図8】夾雑物存在下におけるS1-GFTAのCpkBによる安定化効果を、SDS-PAGEにより調べた結果を示す写真である。
【図9】磁気ビーズに固定したCpkBによるGFPの安定化を、SDS-PAGEにより調べた結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1. 活性型タンパク質の製造方法
本発明の活性型タンパク質の製造方法は、遺伝子組換えによる方法であって、以下の工程[1]~[4]を含む方法である:
[1](a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電している前記シャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域(静電相互作用タグ)が付加された
(c)目的タンパク質
を遺伝子組換えにより生産する工程;
[2]前記工程[1]により得られた、他のタンパク質から単離されていない前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることにより、前記静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程;
[3]前記工程[2]により得られた、前記結合体を含む溶液を加熱処理することにより、他の前記タンパク質を変性させる工程;及び
[4]前記工程[3]により得られた、前記結合体と変性タンパク質とを含む溶液から、未変性の前記目的タンパク質(c)を単離する工程。

【0017】
1.1 アーキア由来の高温誘導型シャペロニン(a)
本発明で用いる、アーキア由来の高温誘導型シャペロニン(a)は、高温領域におけるシャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電していることを特徴とする。

【0018】
シャペロニンの主要な活性は、一般に、細胞内で新たに合成されたポリペプチド、又は何らかの理由で変性したタンパク質の凝集を阻止することである。具体的には、ATPを補助因子としてタンパク質の正常なフォールディング及び/又は安定化を行う活性を指す。このため、シャペロニン活性とは、ATPase活性に依存するタンパク質の巻き戻し活性を指す。

【0019】
本発明において、シャペロニン活性は、具体的には以下のようにして評価することができる。シャペロニン活性を測定しようとするシャペロニン又はその改変体を、ATP存在下で、目的タンパク質と共存させる。その共存の前後において、目的タンパク質の75℃下での活性半減期を測定する。共存後の半減期/共存前の半減期の計算値が、1.5を超えていれば、シャペロニン活性があるとみなす。目的タンパク質毎に測定をせずとも、シャペロニン活性を測定しようとするシャペロニン又はその改変体を、GFPと共存させ、その共存の前後において、GFPの75℃下での活性半減期を測定し、上記と同様に共存後の半減期/共存前の半減期を算出し、この計算値が1.5を超えているものを一律に、シャペロニン活性を有するものとしてもよい。

【0020】
アーキアとしては、特に限定されず、本発明で用いるシャペロニン(a)が、高温領域におけるシャペロニン活性を有していることが重要であり、その点では、好熱性アーキア又は超好熱性アーキアが好ましい。

【0021】
具体的なアーキアとしては、例えば、Thermococcus kodakarensis、Pyrococcus furiosus及びSulfolobus solfataricus等が挙げられる。

【0022】
具体的なアーキア由来の高温誘導型シャペロニンとしては、例えば、Thermococcus kodakarensis由来のCpkB、Pyrococcus furiosus由来のPf-CPN及びSulfolobus solfataricus由来のSsol_0790及びCpnγ等が挙げられる。

【0023】
例えば、CpkBは、Thermococcus sp.株KS-1の、シャペロニンαサブユニットと、アミノ酸配列がほぼ同一である(配列同一性83%)。

【0024】
CpkBは、C末端の10アミノ酸の等電点が3.1であり、例えば大腸菌由来のシャペロニンGroELのC末端の10アミノ酸の等電点が約5.5であることと比較して、非常に低いといえる。

【0025】
Thermococcus kodakarensis由来のCpkBのアミノ酸配列は、配列番号1で表わされる。

【0026】
Sulfolobus solfataricus由来のCpnγは、わずかに正に荷電しているC末端領域を有する。具体的には、そのアミノ酸配列はIAAAPAKQQPQPQQPNPYLG(配列番号2)であり、等電点は約8.6である。

【0027】
1.2 シャペロニン改変体(b)
本発明においては、シャペロニン(a)の代わりに、又はシャペロニン(a)と共に、シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電しているシャペロニン(a)の改変体(シャペロニン改変体(b))を用いることもできる。

【0028】
シャペロニン活性においては、一般に、C末端側の30アミノ酸の領域が、目的タンパク質への結合とリフォールディングに重要であることが報告されている(Gao Le、「Chaperonin Mechanism For Thermo- and Cold-Stress Adaptation of the Hyperthermophilic Archaeon, Thermococcus Kodakarensis」、[online]、2013年5月31日、関西学院大学リポジトリ、[平成28年8月16日検索]、インターネット(URL:http://kgur.kwansei.ac.jp/dspace/bitstream/10236/11602/1/52-33.pdf))。この知見を含め、技術常識を参照することで、改変体(b)を適宜作製することができる。

【0029】
改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部は、好ましくは、20~30個のアミノ酸からなる。この場合、このC末端尾部と静電相互作用しうる、目的タンパク質に付加するアミノ酸配列領域を設計しやすいという利点がある。

【0030】
改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部は、好ましくは、20%以上のアミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸のいずれかであり、より好ましくは、30%以上のアミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸のいずれかであり、さらに好ましくは、35%以上のアミノ酸が、アスパラギン酸又はグルタミン酸のいずれかである。この場合、このC末端尾部と静電相互作用しうる、目的タンパク質に付加するアミノ酸配列領域を設計しやすいという利点がある。

【0031】
改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部は、好ましくは、基礎となるシャペロニン(a)のC末端側20~30個の尾部とのアミノ酸配列同一性80%以上、特に90%以上、を示す。

【0032】
改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部は、より好ましくは、基礎となるシャペロニン(a)のC末端側20~30個の尾部とのアミノ酸配列同一性80%以上、特に90%以上、を示す。

【0033】
改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部は、さらに好ましくは、基礎となるシャペロニン(a)のC末端側20~30個の尾部とのアミノ酸配列同一性80%以上、特に90%以上、を示す。

【0034】
なお、本発明において、アミノ酸配列同一性は、BLASTによって計算する。アライメントの際には、アミノ酸の挿入又は欠失に対応するギャップを考慮するものとする。

【0035】
改変体(b)は、好ましくは、基礎となるシャペロニン(a)のアミノ酸配列と配列同一性80%以上であり、より好ましくは、同配列同一性が90%以上であり、さらに好ましくは、同配列同一性が95%以上である。

【0036】
改変体(b)が基礎とするシャペロニン(a)のアミノ酸配列としては、好ましくは配列番号1で表わされるアミノ酸配列が挙げられる。

【0037】
1.3 静電相互作用タグが付加されてなる目的タンパク質(c)
静電相互作用タグが付加されてなる目的タンパク質(c)は、シャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域(静電相互作用タグ)が付加された、目的タンパク質である。

【0038】
静電相互作用タグは、目的タンパク質(c)とシャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部との相互作用が、目的タンパク質(c)とシャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)との結合体が形成される程度にまで強いものであればよい。この点において、静電相互作用タグは、シャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が負に荷電している場合、好ましくは、等電点9~12を示し、より好ましくは、等電点10~12を示す。あるいは、当該C末端尾部が正に荷電している場合、好ましくは、等電点2~5を示し、より好ましくは、等電点2~4を示す。

【0039】
静電相互作用タグは、特に限定されず、幅広く選択することができるが、例えば、取扱性の点等から、アミノ酸数が3~15個であれば好ましく、4~10個であればより好ましい。静電相互作用タグは、天然由来の平均的なアミノ酸配列と比較すると、負に荷電している場合、アルギニン及び/又はリジンを相対的により豊富に含んでいればよい。また、正に荷電している場合、アスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を相対的により豊富に含んでいればよい。そのような配列は、上記の等電点等も考慮しながら、適宜設計することができる。

【0040】
静電相互作用タグは、目的タンパク質(c)の分子表面に存在していることが好ましい。より具体的には、目的タンパク質(c)とシャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)との結合体形成を生じさせる溶液中における、目的タンパク質(c)の分子表面に存在していることが好ましい。

【0041】
静電相互作用タグは、最終的に目的タンパク質(c)から切除することができれば、目的タンパク質のみを得ることができ、有利であるため、選択的な切除が可能な様式によって目的タンパク質と連結していることが好ましい。そのような結合様式としては、特に限定されず、例えば、限定分解的プロテアーゼの認識部位を介した連結が挙げられる。限定分解的プロテアーゼとしては、特に限定されず、幅広く使用できる。例えば、Genenase I、Thrombin及びGactor Xa等が挙げられる。限定分解的プロテアーゼの認識部位としては、例えば、Pro-Gly-Ala-Ala-His-Tyr(Genenase)、Leu-Val-Pro-Arg-Gly-Ser(Thrombin)、Ile-Glu/Asp-Gly-Arg(Factor Xa)等が挙げられる。

【0042】
目的タンパク質としては、特に限定されず、幅広く選択することができるが、シャペロニン(a)又はシャペロニン改変体(b)の空洞部に捕捉される必要があるため、その分子量が、5kDa~100kDaであることが好ましく、5~80kDaであることがより好ましく、5kDa~60kDaであることがさらに好ましい。

【0043】
1.4 工程[1]
工程[1]においては、定法に従って、遺伝子組換えにより目的タンパク質(c)を生産すればよい。

【0044】
宿主としては、特に限定されず、幅広く選択することができる。例えば、大腸菌、アーキア、及び酵母等が挙げられる。

【0045】
1.5 工程[2]
工程[2]においては、前記工程[1]により得られた、他のタンパク質から単離されていない前記目的タンパク質(c)を、溶液中において、シャペロニン(a)及び/又はシャペロニン改変体(b)と共存させることにより、静電相互作用を介した両者の結合体を得る。

【0046】
本発明によれば、宿主において生産された目的タンパク質(c)を、精製することなく、例えば細胞破砕等の簡便な方法において溶液中に他のタンパク質と混在した状態で得て、この溶液をそのまま用いることができる。具体的には、宿主細胞を適切な緩衝液中でソニケーション等により破砕し、その細胞破砕液を遠心分離することによって、目的タンパク質(c)を含む粗細胞質画分を得ることができる。この粗細胞質画分を溶液中において、シャペロニン(a)及び/又はシャペロニン改変体(b)と共存させることによって、工程[2]を行うことができる。

【0047】
あるいは、目的ポリペプチド(c)を遺伝子組換えにより、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)と同一の宿主内において発現させ、上記と同様に細胞破砕液又は粗細胞質画分等を得ることにより、目的タンパク質(c)を、前記シャペロニン(a)及び/又は前記改変体(b)と共存させることもできる。

【0048】
特に限定されないが、シャペロニン(a)又は改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が負に荷電している場合、工程[2]で用いる溶液のpHが、8.5~10.5である場合に、静電相互作用を介した両者の結合体がより効率的に得られる。この点で、溶液のpHが、9.0~10.0であればより好ましく、9.0~9.5であればさらに好ましい。

【0049】
また、特に限定されないが、シャペロニン(a)又は改変体(b)のループ構造を有するC末端尾部が正に荷電している場合、工程[2]で用いる溶液のpHが、3~6である場合に、静電相互作用を介した両者の結合体がより効率的に得られる。この点で、溶液のpHが、4~5であればより好ましく、4~4.5であればさらに好ましい。

【0050】
特に限定されないが、工程[2]で用いる溶液は、ATPを含有していることが好ましい。ATP濃度は特に限定されず、幅広く適宜設定することができるが、1mM~5mMであれば好ましく、2mM~5mMであればより好ましく、2mMであればさらに好ましい。

【0051】
シャペロニン(a)及び/又はシャペロニン改変体(b)は、必要に応じて、担体に結合していてもよい。担体としては、例えば、磁気ビーズ等が挙げられる。シャペロニン(a)及び/又はシャペロニン改変体(b)が磁気ビーズに固定化されていると、シャペロニン(a)及び/又はシャペロニン改変体(b)と目的タンパク質(c)との結合体を磁力により集積又は回収等することができるといった有利な効果が得られる。

【0052】
1.6 工程[3]
工程[3]においては、工程[2]により得られた、前記結合体を含む溶液を加熱処理することにより、他の前記タンパク質を変性させる。

【0053】
加熱処理の温度は、大部分の宿主由来のタンパク質を変性させることができればよく、特に限定されず、またタンパク質の種類に応じて異なる。一例として、50℃~90℃、60~80℃等が挙げられる。

【0054】
かかる加熱処理によって、宿主由来のタンパク質を変性させ、溶液中で沈殿させることができる。一方、目的タンパク質(c)は、シャペロニン又はその改変体の空洞部内に保持されているため、それ自体が耐熱性のものでなかったとしても変性しない。

【0055】
工程[3]は、工程[2]で使用した溶液中に目的タンパク質(c)とシャペロニン又はその改変体との結合体を存在させたまま行ってもよいし、その溶液とは異なる溶液中に該結合体を存在させた状態で行ってもよい。

【0056】
1.7 工程[4]
工程[4]においては、工程[3]により得られた、前記結合体と、宿主由来の変性タンパク質とを含む溶液から、未変性の目的タンパク質(c)を単離する。

【0057】
より具体的には、目的タンパク質(c)とシャペロニン又はその改変体との結合体から、目的タンパク質(c)を放出させる。そのための手段としては、特に限定されず、幅広く選択することができる。例えば、該結合体を含む溶液中にATPを添加することにより、シャペロニン又はその改変体の作用により目的タンパク質(c)を放出させることができる。

【0058】
1.8 工程[5]
工程[5]においては、工程[4]により得られた、未変性の前記目的タンパク質(c)から、アミノ酸配列領域を切除する。

【0059】
選択的な切除が可能な様式によってアミノ酸配列領域が目的タンパク質と連結していると好ましい。例えば、限定分解的プロテアーゼの認識部位を介して両者が連結している場合には、その特定のプロテアーゼを作用させることによって、選択的にアミノ酸配列領域を切除できる。

【0060】
2. 目的タンパク質を安定化する方法
本発明のタンパク質の安定化方法は、
(a)アーキア由来の高温誘導型シャペロニン、又は
(b)シャペロニン活性を有し、かつループ構造を有するC末端尾部が生理的pH下で負又は正に荷電しているシャペロニンの改変体
のループ構造を有するC末端尾部と静電相互作用しうるアミノ酸配列領域が付加された(c)目的タンパク質
を安定化する方法であって、
[i]目的タンパク質(c)を、溶液中において、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)と共存させることにより、静電相互作用を介した両者の結合体を得る工程
を含む方法である。

【0061】
この安定化方法においては、工程[i]において、目的タンパク質(c)とシャペロニン(a)及び/又は改変体(b)との結合体を形成することにより、目的タンパク質(c)をシャペロニン(a)及び/又は改変体(b)の空洞部内に収容し、これにより、目的タンパク質(c)の安定化が図られる。

【0062】
具体的には、例えば、目的タンパク質(c)を熱、有機溶媒及び界面活性剤等から守ることができる。

【0063】
3. 組成物
本発明の組成物は、上記1.又は2.のいずれかの方法のために用いられる、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)を含む組成物である。

【0064】
4. ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、上記1.又は2.のいずれかの方法のために用いられる、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)をコードするポリヌクレオチドである。

【0065】
5. ベクター
本発明のベクターは、上記1.又は2.のいずれかの方法のために用いられる、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)をコードするポリヌクレオチドを有するベクターである。

【0066】
本発明のベクターは、具体的には、上記1.又は2.のいずれかの方法において使用される宿主に適した発現ベクターであり、そのようなベクターは、適宜設計することができる。この設計の際には、宿主に応じた適切なプロモーターの選択等を行う。

【0067】
特に限定されないが、例えば、T7 RNAポリメラーゼとT7プロモーターを用いたpETシステムを利用することができ、この場合は宿主として、L8-UV5 lacプロモーターの支配下にT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が組み込まれたバクテリオファージλDE3の溶原菌を宿主として用いる必要がある。

【0068】
本発明のベクターは、目的タンパク質(c)をもさらに発現するようなベクターであってもよい。この場合、好ましくは、シャペロニン(a)及び/又は改変体(b)をコードするポリヌクレオチドと、目的タンパク質(c)をコードするポリヌクレオチドとは、それぞれ別々のプロモーターの制御化にある。

【0069】
従来、目的タンパク質を安定化する目的で、目的タンパク質とシャペロニンサブユニットとを連結した融合タンパク質をコードする融合遺伝子を発現ベクターに組み込む技術が提案されていたが、サイズが大きくなるために宿主内で不安定化する傾向があった。本発明のベクターは、同一プロモーターの制御下に置くポリヌクレオチドのサイズを相対的に小さくできるため、有利である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
実験例1:CpkBと結合するペプチドタグのデザイン
Thermococcus kodakarensis由来のCpkBは、C末端の10アミノ酸の等電点が3.1であり、例えば大腸菌由来のシャペロニンGroELのC末端の10アミノ酸の等電点が約5.5であることと比較して、非常に低いといえる。
【実施例】
【0072】
そこで、本発明者らは、CpkBは基質認識の過程において、タンパク質中の正電荷をC末端側で認識しているのではないかとの仮説を立て、これを検証することとした。
【実施例】
【0073】
電荷を有するアミノ酸、極性を有するアミノ酸、及び疎水性を有するアミノ酸を含む、複数のシグナル・タグを作製し、イン・シリコ・ドッキング・シミュレーションを行って、CpkB二量体とより強く相互作用するものを選別した。AutoDock 4.2.6(The Scripps Research Institute, CA,U.S.)を用いて解析を行った。各タグについて得られた結合エネルギー(ΔGbind (kcal/mol))を、等電点(pI)と合わせて表1に示す。
【実施例】
【0074】
【表1】
JP2018038395A_000002t.gif
【実施例】
【0075】
その結果、正電荷を有するタグほど、より低い結合エネルギーを示すことが判った。負電荷を有するタグは、正の結合エネルギーを示す一方で、極性又は疎水性を示すタグは、いずれも中間程度の結合エネルギーを有していた。
【実施例】
【0076】
中でも、GKGKK(以下、「S1」)とGGRRGR(以下、「S2」)とが、それぞれ一番目、二番目に低い結合エネルギーを有していた。また、正の結合エネルギーを示したGGDDGD(以下、「S3」)を以降の実施例に対する比較例として使用することにした。
【実施例】
【0077】
実験例2:Cpnγと結合するペプチドタグのデザイン
Sulfolobus solfataricus由来のCpnγは、C末端の20アミノ酸の等電点が約8.6であり、例えば大腸菌由来のシャペロニンGroELのC末端の10アミノ酸の等電点が約5.5であることと比較して、非常に高いといえる。
【実施例】
【0078】
そこで、本発明者らは、CpnγのC末端領域は、負電荷アミノ酸を有するペプチドタグと電気的に相互作用するのではないかとの仮説を立て、これを検証することとした。具体的には、負電荷アミノ酸を有する様々なペプチドタグをデザインし、実験例1と同様に、イン・シリコ・ドッキング・シミュレーションを行って、Cpnγとの相互作用をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
【実施例】
【0079】
【表2】
JP2018038395A_000003t.gif
【実施例】
【0080】
これらの結果より、負電荷アミノ酸を有するペプチドタグがCpnγのC末端領域と相互作用することが示唆された。
【実施例】
【0081】
実施例1:各種ペプチドタグを付加することによるGFPの安定化
ATGコドン側にHisタグを付加した組換えGFP(約30kDa)のHisタグのすぐ先に、S1、S2及びS3をそれぞれ個別に付加した。これらの組換え体を、それぞれ、S1-GFP、S2-GFP及びS3-GFPと表記する。なお、当該コンストラクションは、pET21aをベースに行った。これらのベクターを以降、それぞれ、pET21a-S1-histag-GFP、pET21a-S2-histag-GFP及びpET21a-S3-histag-GFPと表記する。また、タグとしてHisタグのみが付いた組換えGFPタンパク質(以下、単に「GFP」と表記することがある)を発現するベクター(pET21a-histag-GFP)も用意した。
【実施例】
【0082】
これらのベクターを、E. coli BL21(DE3)RILに導入し、LB培地中で25℃において、タンパク質発現を誘導した。OD660が約0.2となった時点で、IPTG(1mM)を添加することにより遺伝子発現を誘導した。25℃で10時間培養後、細胞を回収し、100mM Tris-HClバッファー(pH9.0;バッファーA)に再懸濁させた。ソニケーションによって細胞を破砕し、遠心分離(13,200ppm、15分間)によって上清を回収した。この上清をNi-NTAカラム(QIAGEN)にアプライし、200mMイミダゾールを含むバッファーAを用いて溶出した。得られた溶出液をさらに陽イオン交換クロマトグラフィー[MonoQ HR 5/5(GEヘルスケア)]を通し、NaCl直線グラジエント(0~0.5M)をかけて溶出した。
【実施例】
【0083】
これらのGFP、及びS1~S3-GFPを、75℃、総量20μlのHKMバッファー(25mM HEPES-NaOH、100mM KCl、5mM MgCl、pH9.0)にて数分間、処理した。この際、20nmolのCpkBと共存させる条件と、共存させない条件との2通り行った。共存時、各種組換えGFPとCpkB(モノマー)とのモル比は、1:1となるように調整した。GFP活性を、EnVesion(登録商標)2014 Multilabel Reader(パーキンエルマー)を用いて、蛍光観察により評価した(蛍光535nm;励起485nm)。
【実施例】
【0084】
GFP(図1)、並びにS1-GFP(図2)、S2-GFP(図3)及びS3-GFP(図4)を、それぞれ単独で熱処理した場合と、CpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合におけるGFP残存活性を、図に示す。各図中において、白い棒グラフがCpkB非共存下での残存活性を評価したものであり、黒い棒グラフがCpkB共存下での残存活性を評価したものである。
【実施例】
【0085】
それぞれ単独で熱処理した場合は、いずれも4分以内に活性が失活した。具体的には、半減期は、それぞれ、順に、1.96分、1.92分、1.95分及び1.99分であった。
【実施例】
【0086】
タグのないGFPをCpkBと共存させた状態で同様に熱処理した場合には、半減期が3.61秒まで増加した。S1-GFPとS2-GFPは、CpkB共存時、半減期がそれぞれ8.87分と7.31分となり、タグのないGFPと比較すると、それぞれ半減期が約2.5倍と約2倍にまで増加した。一方、S3-GFPは、CpkB共存時、半減期が3.26分となり、これはタグのないGFPのものよりも短かった。
【実施例】
【0087】
実施例2:各種ペプチドタグを付加することによる4OTA及びGFATの安定化
実施例1と同様の方法で、より分子量の大きい、4OTA(ヘキサマーで約60kDa)及びGFTA(モノマーで約68kDa)について試験を行った。なお、4OTAについては、N末端側の活性ドメインを阻害しないようにするため、C末端側にS1タグを付加した(4OTA-S1)。GFTAについては、N末端側にS1タグを付加した(S1-GFTA)。
【実施例】
【0088】
その結果、4OTAに関しては、CpkB非共存時の半減期が2.39分であり、共存時には5.71分にまで増加した。さらに、S1タグ付加時には、CpkB共存時の半減期が8.33分にまで増加した。
【実施例】
【0089】
また、GFTAに関しては、CpkB非共存時の半減期が2.13分であり、共存時には3.59分にまで増加した。さらに、S1タグ付加時には、CpkB共存時の半減期が4.67分にまで増加した。
【実施例】
【0090】
実施例3:夾雑物存在下における目的タンパク質の安定化
実施例1及び2と同様、S1-GFP、S3-GFP、4OTA-S1及びS1-GFTAを大腸菌内で発現させ、細胞を10mlのHKMバッファーにてソニケーションで破砕した。15,000rpm、10分間遠心分離を行い、上清を粗細胞質画分として回収した。それぞれの粗細胞質画分1μl(pET21a-S1-histag-GFP及びpET21a-S3-histag-GFPを導入した細胞についてはタンパク質濃度470μg/mlに調整;pET21a-4OTA-histag-S1を導入した細胞についてはタンパク質濃度160μg/mlに調整;pET21a-S1-GFP-histagを導入した細胞についてはタンパク質濃度960μg/mlに調整)を、精製した2μlのCpkBを含む液(460μg/ml)と混ぜ、75℃にて、10mMのATPを含有するHKMバッファーにて、所定時間(S1-GFP及びS3-GFPについては20分間;4OTA-S1については40分間;S1-GFTAについては10分間)インキュベーションした。
【実施例】
【0091】
熱処理後、遠心分離を行い不溶性タンパク質を除いた後、SDS-PAGEを行った。
【実施例】
【0092】
S1-GFP(図5)、S3-GFP(図6)、4OTA-S1(図7)及びS1-GFTA(図8)のそれぞれについての結果を図に示す。各図において、白い三角及び黒い三角は、CpkB及びタグ付きタンパク質をそれぞれ示す。レーンのうち、「M」は分子マーカー、「C」は熱処理前の大腸菌細胞破砕液、「1」はCpkB不存在下で熱処理を行った後の可溶性画分、「2」は、CpkB存在下で熱処理を行った後の可溶性画分を、それぞれ電気泳動させたものである。
【実施例】
【0093】
CpkB不存在下で熱処理を行った後の可溶性画分を電気泳動した際に、S1タグの付いたGFPのバンドが確認できた(図5)。一方、S3タグの付いたGFPについては、バンドが確認できなかった(図6)。これらの結果から、S1タグがCpkBと強い相互作用を示すことが確認できた。
【実施例】
【0094】
また、S1-GFPについては、バンドの濃さが4OTA-S1(図7)及びS1-GFTA(図8)に比べてより濃厚であった。この結果は、S1-GFPとCpkBとの相互作用が、4OTA-S1又はS1-GFTAとCpkBとの相互作用のいずれよりもより強いものであったことを示唆している。
【実施例】
【0095】
実施例4:磁気ビーズに固定したCpkBによるGFPの安定化
磁気ビーズはサーモサイエンティフィック社のPierce TM NHS-Activated Magnetic Beadsを使用した。CpkB溶液(0.1mg/ml)と磁気ビーズを室温で平衡化させた。300μlの磁気ビーズを1.5mlのマイクロ遠心チューブに入れて磁気スタンドに設置し、磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。氷冷した1mM塩酸1mlをチューブに加え、ボルテックスミキサーで穏やかに15秒間混合した。磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。300μlのCpkB(0.1mg/ml)溶液をチューブに添加し、30秒間ボルテックスミキサーで混合した。チューブを室温で2時間または1晩インキュベートした。磁気スタンドで磁気ビーズを回収した。磁気ビーズに0.1Mグリシン(pH2.0)1mlを加え、チューブを15秒間ボルテックスミキサーで混合後、磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。この操作をもう一度繰り返した。超純水1mlを磁気ビーズに加え、15秒間ボルテックスミキサーで混合した。磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。磁気ビーズに1mlのクエンチングバッファー(3Mエタノールアミン、pH9.0)を加え、チューブを30秒間ボルテックスミキサーで混合した。チューブを室温で2時間、回転装置上でインキュベートした。磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。1mlの精製水をチューブに加えてよく混合し、磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。チューブに1mlの保存用バッファーを加えて混合し、磁気スタンドで磁気ビーズを回収して上清は廃棄した。この手順を2回繰り返した。磁気ビーズに300μlの保存用バッファーを加えてよく混和し、使用するまで4℃で保存した。この試料を磁気ビーズ固定化CpkBとして使用した。
【実施例】
【0096】
pET21a-S1-histag-GFPを、E. coli BL21(DE3)RILに導入し、LB培地中で37℃において、5ml培養した。OD660が約0.2となった時点で、IPTG(1mM)を添加することにより遺伝子発現を誘導した。25℃で10時間培養後、細胞を回収し、500μlの100mM Tris-HClバッファー(pH9.0;バッファーA)に再懸濁させた。ソニケーションによって細胞を破砕し、遠心分離(13,200rpm、15分間)によって上清を回収した。
【実施例】
【0097】
この上清をTris-HClバッファー(pH9.0;バッファーA)でタンパク質濃度が2mg/mlになるように調整した。このうち40μlを分取し100μl相当の磁気ビーズ固定化CpkBに加えた。1M HKMバッファー(pH9.5)を5μl(1/10量)添加した。振とうしながら75℃で5分インキュベートし、20mM ATPを5μl添加し(最終濃度2mM)、75℃で20分振とうしながらインキュベートした。磁気スタンドで磁気ビーズ固定化CpkBを除き、上清を新しいエッペンドルフチューブに移した。
【実施例】
【0098】
遠心により、沈殿を完全に除き、上清を分取した。このうち20μlをSDS-PAGE(12%)により分析した。
【実施例】
【0099】
S1-GFPの結果は図9の左側、タグがないGFPの結果は図9の右側に示す。
【実施例】
【0100】
磁気ビーズ固定化CpkB不存在下で熱処理を行わない場合のS1-GFPの残存率を100%としたとき、磁気ビーズ固定化CpkB存在下で熱処理を行った後の残存率は64%、磁気ビーズ固定化CpkB不存在下で熱処理を行った後の残存率は16%であった。
【実施例】
【0101】
磁気ビーズ固定化CpkB不存在下で熱処理を行わない場合のタグなしGFPの残存率を100%としたとき、磁気ビーズ固定化CpkB存在下で熱処理を行った後の残存率は39%、磁気ビーズ固定化CpkB不存在下で熱処理を行った後の残存率は12%であった。
【実施例】
【0102】
これらの結果から、磁気ビーズ固定化CpkBのタンパク質安定化効果は、タグなしGFPの場合と比較してS1-GFPでより強く発現することが確認できた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8