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明細書 :レーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-154163 (P2017-154163A)
公開日 平成29年9月7日(2017.9.7)
発明の名称または考案の名称 レーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法
国際特許分類 B23K  26/38        (2014.01)
B23K  26/08        (2014.01)
B23K  26/60        (2014.01)
B23K  26/142       (2014.01)
FI B23K 26/38 A
B23K 26/08 H
B23K 26/60
B23K 26/142
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2016-041435 (P2016-041435)
出願日 平成28年3月3日(2016.3.3)
発明者または考案者 【氏名】中村 保之
【氏名】岩井 紘基
【氏名】佐野 一哉
出願人 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000442、【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4E168
Fターム 4E168AD07
4E168CA13
4E168CB11
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA28
4E168DA37
4E168EA17
4E168FB01
4E168GA00
要約 【課題】比較的低出力のレーザ切断機を用いて広範囲の切断対象物を切断可能なレーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法を提供する。
【解決手段】制御装置8は、マニピュレータ6及び開閉弁10aの駆動制御モードとして、厚板の切断に適した厚板切断モードを記憶している。厚板切断モードの実行時には、まず開閉弁10aを閉制御した状態でレーザ光Lを切断対象物Sに照射する加熱走行を行って、切断対象物Sに融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドBを形成する。次いで、開閉弁10aを開制御した状態でレーザ光Lを加熱バンドBに照射する切断走行を行って、切断対象物Sを融点以上まで加熱する
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザ光の出射口及びアシストガスの噴射口を備えたレーザ切断ヘッドと、前記噴射口に前記アシストガスを供給する配管に設けられた開閉弁と、前記レーザ切断ヘッドを保持し、切断対象物に対する前記レーザ切断ヘッドの配設位置及び姿勢を自在に調整可能であるように構成されたマニピュレータと、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードとして、厚板の切断に適した厚板切断モードを記憶しており、前記厚板切断モードの実行時には、前記開閉弁を閉制御した状態で前記レーザ光を前記切断対象物に照射する加熱走行を行って、前記切断対象物に融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成し、次いで、前記開閉弁を開制御した状態で前記レーザ光を前記予備加熱バンドに照射する切断走行を行って、前記切断対象物を融点以上まで加熱することを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードとして、薄板の切断に適した薄板切断モードを更に記憶しており、前記薄板切断モードの実行時には、前記加熱走行を行うことなく、前記切断走行のみを行うことを特徴とする請求項1に記載のレーザ切断装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードを、前記厚板切断モードから前記薄板切断モードに、又は、前記薄板切断モードから前記厚板切断モードに切り替えるモード切替操作部を備えていることを特徴とする請求項2に記載のレーザ切断装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に、前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面にフォーカスさせるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のレーザ切断装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に、前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面からデフォーカスさせるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のレーザ切断装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面にフォーカスさせたときには、前記切断走行を行う際の前記レーザ光の照射位置が、前記加熱走行を行う際の前記レーザ光の照射位置と異なるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする請求項4に記載のレーザ切断装置。
【請求項7】
切断対象物である厚板の切断に際し、前記切断対象物にレーザ切断ヘッドから出射されたレーザ光を照射して、前記切断対象物に融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成する加熱走行と、前記予備加熱バンドに前記レーザ切断ヘッドから出射されたレーザ光を照射して、前記切断対象物を融点以上まで加熱する切断走行とを行い、
前記加熱走行の実行時には、前記切断対象物に対するアシストガスの噴射を停止し、前記切断走行の実行時には、前記切断対象物に対して前記アシストガスを噴射することを特徴とするレーザ切断能力向上方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法に係り、特に、厚板の切断に適したレーザ切断装置及びレーザ切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今後、東京電力福島第一原子力発電所をはじめ、軽水炉の廃止措置が予定されており、解体工期の短縮や二次廃棄物発生量の低減等によるコスト削減が求められている。
【0003】
レーザ切断機は、構造物の切断速度が速く解体工期の短縮を図れること、狭い切断幅で構造物を切断可能で切断によって生じる二次廃棄物の発生量を低減できること、厚鋼板の切断にも適用可能であることなどから、原子炉の解体作業への適用が検討されている。
【0004】
レーザ切断機は、レーザ切断ヘッドから構造物の予定切断箇所にレーザ光を照射して融点以上の温度まで加熱すると共に、加熱部にアシストガスを噴射して、その圧力で加熱部に生じた溶融物(ドロス)を吹き飛ばす切断機であって、従来、厚鋼板の切断にも適用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平06-226481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ切断機の選定は、切断対象である構造物の図面により板厚等を確認した上で行われるが、実機は図面と異なる場合があるので、選定したレーザ切断機で切断対象である構造物を切断できないという事態が発生することも想定される。
【0007】
即ち、切断しようとする構造物の板厚や直径に対して低出力のレーザ切断機が選定されると、切断箇所を融点まで加熱するまでの時間が長くなり、その結果、加熱部の発熱が熱伝導によって周囲に拡散してしまうため、必要な切断速度が得られないという問題や必要な構造物を切断できないという問題が生じる。
【0008】
なお、高出力のレーザ切断機を準備すれば、このような問題の発生を回避できるが、装置費用が高価になるため、採用しがたい。
【0009】
勿論、レーザ切断機の選定の困難さは、原子炉の解体に特有の問題ではなく、化学プラントの解体等、板厚や直径が異なる各種の鋼材を切断するあらゆる場合に生じる。
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的低出力のレーザ切断機を用いて広範囲の切断対象物を切断可能なレーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、レーザ切断装置に関しては、レーザ光の出射口及びアシストガスの噴射口を備えたレーザ切断ヘッドと、前記噴射口に前記アシストガスを供給する配管に設けられた開閉弁と、前記レーザ切断ヘッドを保持し、切断対象物に対する前記レーザ切断ヘッドの配設位置及び姿勢を自在に調整可能であるように構成されたマニピュレータと、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードとして、厚板の切断に適した厚板切断モードを記憶しており、前記厚板切断モードの実行時には、前記開閉弁を閉制御した状態で前記レーザ光を前記切断対象物に照射する加熱走行を行って、前記切断対象物に融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成し、次いで、前記開閉弁を開制御した状態で前記レーザ光を前記予備加熱バンドに照射する切断走行を行って、前記切断対象物を融点以上まで加熱することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の課題を解決するため、レーザ切断能力向上方法に関しては、切断対象物である厚板の切断に際し、前記切断対象物にレーザ切断ヘッドから出射されたレーザ光を照射して、前記切断対象物に融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成する加熱走行と、前記加熱バンドに前記レーザ切断ヘッドから出射されたレーザ光を照射して、前記切断対象物を融点以上まで加熱する切断走行とを行い、前記加熱走行の実行時には、前記切断対象物に対するアシストガスの噴射を停止し、前記切断走行の実行時には、前記切断対象物に対して前記アシストガスを噴射することを特徴とする。
【0013】
低出力のレーザ切断機を用いて厚板を切断できないのは、厚板にレーザ光を照射しても熱伝導によってレーザ光照射部の熱が拡散してしまい、厚板のレーザ光照射部が融点以上の温度まで加熱されないことが一つの要因として考えられる。つまり、切断対象物を所定の温度まで予備加熱しておけば、低出力のレーザ切断機を用いて厚板を切断することも可能になる。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、切断対象物に対するレーザ光の加熱走行を行って、切断対象物に融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成した後に、再度加熱バンドにレーザ光を照射して切断対象物を融点以上まで加熱する切断走行を行う。これにより、レーザ切断ヘッドの能力以上の厚板の切断が可能になるので、構造物の解体を安価かつ効率的に行うことができる。また、加熱走行時には、切断対象物に対するアシストガスの噴射を停止するので、アシストガスの無駄も防止できる。
【0014】
また本発明は、前記構成のレーザ切断装置において、前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードとして、薄板の切断に適した薄板切断モードを更に記憶しており、前記薄板切断モードの実行時には、前記加熱走行を行うことなく、前記切断走行のみを行うことを特徴とする。
【0015】
本構成によると、制御装置に厚板切断モード及び薄板切断モードの両方を記憶しておくので、切断対象物の板厚に応じた適正な切断モードを選択することができ、切断対象物の板厚の大小に拘らず、切断対象物を効率的に切断することができる。
【0016】
また本発明は、前記構成のレーザ切断装置において、前記制御装置は、前記マニピュレータ及び前記開閉弁の駆動制御モードを、前記厚板切断モードから前記薄板切断モードに、又は、前記薄板切断モードから前記厚板切断モードに切り替えるモード切替操作部を備えていることを特徴とする。
【0017】
本構成によると、モード切替操作部を操作することによってマニピュレータ及び開閉弁の駆動制御モードを容易に変更できるので、切断対象物の板厚に応じた切断モードの切り替えが容易になる。
【0018】
また本発明は、前記構成のレーザ切断装置において、前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に、前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面にフォーカスさせるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする。
【0019】
加熱走行時に、レーザ切断ヘッドから出射されるレーザ光を切断対象物の表面にフォーカスさせると、切断対象物に形成される予備加熱バンドの幅を小さくできるので、熱伝導による放熱を抑制できて、切断対象物を効率的に予備加熱することができる。
【0020】
また本発明は、前記構成のレーザ切断装置において、前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に、前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面からデフォーカスさせるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする。
【0021】
加熱走行時に、レーザ切断ヘッドから出射されるレーザ光を切断対象物の表面からデフォーカスさせると、切断対象物の表面に照射されるレーザ光の強度を低く抑えられるので、切断対象物に不要な切り込みが形成されない。よって、切断走行時におけるレーザ光の照射位置を加熱走行時におけるレーザ光の照射位置からずらす必要がなく、厚板の切断作業を効率的に行うことができる。
【0022】
また本発明は、前記構成のレーザ切断装置において、前記制御装置は、前記加熱走行を行う際に前記レーザ切断ヘッドから出射される前記レーザ光を前記切断対象物の表面にフォーカスさせたときには、前記切断走行を行う際の前記レーザ光の照射位置が、前記加熱走行を行う際の前記レーザ光の照射位置と異なるように、前記マニピュレータの駆動を制御することを特徴とする。
【0023】
加熱走行を行う際にレーザ光を切断対象物の表面にフォーカスさせると、切断対象物の表面に照射されるレーザ光のエネルギー密度が高くなるために、切断対象物に切り込みが形成される。よって、切断走行を行う際のレーザ光の照射位置を加熱走行を行う際のレーザ光の照射位置からずらさないと、切断対象物の表面にレーザ光をフォーカスすることができず、切断対象物の切断を効率的に行うことができない。これに対して、切断走行を行う際のレーザ光の照射位置を加熱走行を行う際のレーザ光の照射位置からずらせば、切断対象物の表面にレーザ光をフォーカスすることができるので、切断対象物の切断を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、レーザ切断ヘッドの能力以上の厚板の切断が可能になって、構造物の解体を安価かつ効率的に行うことができる。また、加熱走行時には、切断対象物に対するアシストガスの噴射を停止するので、アシストガスの無駄も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るレーザ切断装置の構成図である。
【図2】実施形態に係るレーザ切断ヘッドの構成図である。
【図3】実施形態に係るレーザ切断ヘッドの光学系を示す図である。
【図4】実施形態に係るレーザ切断ヘッドのレーザ出射口及びアシストガス噴射口の構成を示す要部正面図である。
【図5】実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【図6】実施形態に係るレーザ切断装置を加熱走行させたときに形成される予備加熱バンドと切断走行時におけるレーザ光のフォーカス位置とを示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るレーザ切断ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係るレーザ切断装置及びレーザ切断能力向上方法について、図面を用いて説明する。

【0027】
実施形態に係るレーザ切断装置は、図1に示すように、レーザ電源1、レーザ発振器2、レーザ電源1に電源を供給する分電盤3、及び、レーザ電源1を冷却する冷却水循環装置(チラー)4を備えている。また、実施形態に係るレーザ切断装置は、これに加えて、レーザ発振器2に接続されたレーザ切断ヘッド5、レーザ切断ヘッド5を自在に駆動するマニピュレータ6、レーザ切断ヘッド5にアシストガスを供給する高圧アシストガス容器7、及び、レーザ電源1及びマニピュレータ6の駆動を制御する制御装置8を備えている。レーザ発振器2とレーザ切断ヘッド5とは、光ファイバ等の導光体9を介して接続される。また、高圧アシストガス容器7とレーザ切断ヘッド5とは、ホース等の配管10を介して接続されており、配管10には開閉弁10aが備えられている。開閉弁10aの開閉は、制御装置8によって制御される。

【0028】
レーザ発振器2としては、波長1070nmのレーザ光を発光するファイバレーザ発振器が好適に用いられるが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、ファイバレーザ発振器以外の固体レーザ発振器又は炭酸ガスレーザ発振器等のガスレーザ発振器を用いることもできる。その他、レーザ電源1、分電盤3及びチラー4については、公知に属する事項であり、かつ本発明の要旨でもないので、説明を省略する。

【0029】
実施形態に係るレーザ切断ヘッド5は、図2に示すように、筒状に形成されており、その断面中央部に略L字状の光路11が開設されている。光路11は、レーザ切断ヘッド5の長さ方向に形成された第1光路11aと、レーザ切断ヘッド5の径方向に形成された第2光路11bとから構成されており、第1光路11aと第2光路11bの間には、反射ミラー12が設置されている。第1光路11aにはコリメートレンズ13が設置され、第2光路11bにはフォーカスレンズ14が設置される。よって、実施形態に係るレーザ切断ヘッド5は、図3に示すように、切断対象物Sに対してレーザ光Lをフォーカスすることができる。なお、レーザ切断ヘッド5内に反射ミラー12を設置する構成に代えて、レーザ切断ヘッド5内の所要の位置に反射ミラー面を形成する構成とすることもできる。

【0030】
レーザ発振器2から出射されたレーザ光Lは、導光体9を介してレーザ切断ヘッド5の第1光路11aに入射した後、反射ミラー12にて反射されて第2光路11b側に光路を変更し、第2光路11bに開口されたレーザ光出射口15より外部に向けて出射される。実施形態に係るレーザ切断ヘッド5は、図2に示すように、第1光路11aに対する第2光路11bの形成角度θ1が90度以上になっている。反射ミラー12の設定角度は、第1光路11aを伝播してきたレーザ光Lの光路が、第2光路11bの軸心に沿う方向に変更されるように調整される。

【0031】
このようにすると、図2に示すように、切断対象物Sからの反射レーザ光L1がレーザ切断ヘッド5外に反射されるので、レーザ切断ヘッド5内への反射レーザ光L1の入射量を低減でき、反射レーザ光L1の入射に起因する反射ミラー12及びレーザ発振器2等の故障を防止できる。

【0032】
即ち、図2に示すように、切断対象物Sの表面と第1光路11aとが平行になるようにレーザ切断ヘッド5を設定した場合には、第1光路11aに対する第2光路11bの形成角度θ1が90度になっていると、切断対象物Sの表面の反射レーザ光L1が直接的にレーザ切断ヘッド5内に戻るため、反射ミラー12及びレーザ発振器2等が故障する原因となる。これに対して、第1光路11aに対する第2光路11bの形成角度θ1を90度以上にしておけば、図2に示すように、切断対象物Sの表面に立てられた仮想の垂直線に対して、0度以上の角度θ2でレーザ光を照射できるので、レーザ切断ヘッド5内への反射レーザ光L1の入射量を低減できて、反射ミラー12及びレーザ発振器2等の故障を回避することができる。

【0033】
なお、レーザ切断ヘッド5内への反射レーザ光L1の入射量を低減するためには、切断対象物Sに対するレーザ光の入射角度を0度以上の角度θ2とすれば良く、必ずしも第1光路11aに対する第2光路11bの形成角度θ1を90度以上とする必要はない。即ち、第1光路11aに対する第2光路11bの形成角度θ1が90度であるレーザ切断ヘッド5を用いた場合にも、マニピュレータ6を用いてレーザ切断ヘッド5を傾斜させることにより、同様の効果が得られる。

【0034】
レーザ切断ヘッド5の先端部に開口されたレーザ光出射口15の周囲には、図4に示すように、配管10を介して高圧アシストガス容器7から供給されるアシストガスを切断対象物Sの表面に向けて噴射するアシストガス噴射口16が形成されている。なお、図4の例では、レーザ光出射口15とアシストガス噴射口16とが同心に形成されているが、必ずしも同心に形成する必要はなく、切断対象物Sの溶解部にアシストガスを噴射できれば足りる。

【0035】
切断対象物Sの切断は、切断対象物Sの予定切断箇所にレーザ切断ヘッド5から出射されたレーザ光を照射して、レーザ光の照射部を局部的に溶解し、溶解部に生成されたドロスをアシストガス噴射口16から噴射されるアシストガスによって吹き飛ばすことにより行われる。従って、アシストガス噴射口16は、切断対象物Sのレーザ光照射部に、ドロスを除去するに十分な圧力及び風量のアシストガスが噴射されるように設計される。

【0036】
本実施形態に係るレーザ切断ヘッド5は、光路11を略L字状に形成したので、狭隘部の切断作業に適する。

【0037】
マニピュレータ6は、切断対象物Sに対するレーザ切断ヘッド5の配設位置及び姿勢、切断対象物Sに対するレーザ光の照射方向(回転方向)を自在に変更するもので、多関節のリンクと各リンクを駆動するモータ等のアクチュエータとをもって構成されている。

【0038】
制御装置8は、図5に示すように、一般的なサーバやパーソナルコンピュータ等と同様に、CPU21、RAM22、ROM23、HDD24及び外部インタフェースである入力部25及び出力部26を含むハードウェア資源と、ROM23及びHDD24に記憶されたソフトウェア資源とから構成されている。

【0039】
CPU21は、図1に示したレーザ切断装置全体の駆動を制御する演算手段であり、実施形態に係るレーザ切断能力向上方法を実施するに必要な各種のデータが格納されている。各種のデータには、切断パラメータと位置情報とがある。切断パラメータとしては、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光の強度、切断対象物Sの切断速度、レーザ切断ヘッド5に供給されるアシストガスの圧力及び風量、並びに、レーザ切断ヘッド5のレーザ光出射口15から切断対象物Sの表面までの距離であるスタンドオフ量を挙げることができる。

【0040】
また、位置情報としては、切断対象物Sである構造物各部の座標等を挙げることができる。これらの座標は、例えば構造物の設計図や、レーザ測距機等を用いた座標測定で得られたデータを格納できる。

【0041】
RAM22は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU21が情報を処理する際の作業領域として用いられる。

【0042】
ROM23は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムのほか、レーザ切断ヘッド5を用いた切断対象物Sの切断能力向上方法を実施する際に用いる各種の設定値及び計算式等が格納されている。各種の設定値には、レーザ切断ヘッド5の仕様や型式が含まれる。また、各種の計算式には、CPU21から読み出された切断パラメータ及び位置情報とマニピュレータ6に備えられたロータリエンコーダの出力とから、レーザ切断ヘッド5のスタンドオフ値を算出する計算式が含まれる。

【0043】
HDD24は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、基本ソフトウェアや各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納される。本実施形態に係るHDD24には、マニピュレータ6及び開閉弁10aの駆動制御モードとして、厚板の切断に適した厚板切断モード及び薄板の切断に適した薄板切断モードを実行するためのプログラムが記憶されている。このように、HDD24に厚板切断モード及び薄板切断モードの両方を記憶しておくと、切断対象物Sの板厚に応じた適正な切断モードを選択できるので、切断対象物Sの板厚の大小に拘らず、切断対象物を効率的に切断することができる。

【0044】
厚切り切断モードは、開閉弁10aを閉制御した状態で、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを切断対象物Sに照射する加熱走行を行って、切断対象物Sに融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成し、次いで、開閉弁10aを開制御した状態で、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを加熱バンドに照射する切断走行を行って、レーザ光Lの照射部を融点以上まで加熱する切断対象物Sの切断モードである。

【0045】
これに対して、薄切り切断モードは、加熱走行は行わず、開閉弁10aを開制御した状態で、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光を切断対象物Sに照射する切断走行のみを行って、レーザ光Lの照射部を融点以上まで加熱する切断対象物Sの切断モードである。

【0046】
なお、本明細書において「厚板」とは、1回の切断走行で切断対象物Sを切断できない板厚の構造材を言い、「薄板」とは、1回の切断走行で切断対象物Sを切断できる板厚の構造材を言う。

【0047】
入力部25には、キーボード入力装置、タッチパネル入力装置及びマウスなどの入力装置、マニピュレータ6に備えられたロータリエンコーダ等が接続される。キーボード入力装置等の入力装置は、マニピュレータ6及び開閉弁10aの駆動制御モードを、厚板切断モードから薄板切断モードに、又は、薄板切断モードから厚板切断モードに切り替えるモード切替操作部として機能する。このように、入力装置を操作することによって厚板切断モードと薄板切断モードの選択を行えるようにすると、切断対象物Sの板厚に応じた切断モードの切り替えを容易に行うことができるので、レーザ切断機の使用を便利なものにできる。

【0048】
出力部26には、レーザ電源1、レーザ発振器2、チラー4、液晶表示装置等の表示装置及びマニピュレータ6に備えられたモータ等のアクチュエータが接続される。

【0049】
このようなハードウェア構成において、ROM23やHDD24に格納されたプログラムがRAM22に読み出され、CPU21がRAM22にロードされたプログラムに従って演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部とハードウェアとの組み合わせによって、実施形態に係るレーザ切断能力向上方法を実現する機能ブロックが構成される。

【0050】
なお、上述した制御装置8は、実施の一例を説明したものに過ぎず、本発明の要旨がこれに限定されるものではない。例えば、制御装置8としては、一般的なパーソナルコンピュータやタブレットコンピュータを用いることもできる。また、各種の設定値及び計算式等を格納するメモリは、制御装置8内に組み込まれたROM23に限定されるものではなく、例えばUSBメモリなどの外付けタイプの記憶装置を用いることもできる。

【0051】
実施形態に係るレーザ切断能力向上方法は、切断対象物Sが厚板である場合に、マニピュレータ6及び開閉弁10aの駆動制御モードを、厚板の切断に適した厚板切断モードに切り替えられるようにしたことを特徴とする。

【0052】
即ち、キーボード入力装置等の入力装置を操作することによって、マニピュレータ6及び開閉弁10aの駆動制御モードが、薄板切断モードから厚板切断モードに切り替えられると、制御装置8は、開閉弁10aを閉制御した状態で、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを切断対象物Sに照射する加熱走行を行って、切断対象物Sに融点以下の所定の温度まで予備加熱された予備加熱バンドを形成し、次いで、開閉弁10aを開制御した状態で、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを加熱バンドに照射する切断走行を行って、前記切断対象物を融点以上まで加熱する。

【0053】
このようにすると、レーザ光Lの加熱走行によって切断対象物Sが融点以下の所定温度まで予備加熱されるので、使用するレーザ切断装置の能力以上の厚板の切断が可能になる。また、加熱走行時には、切断対象物Sに対するアシストガスの噴射を停止するので、アシストガスの無駄も防止できる。

【0054】
加熱走行時には、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを切断対象物Sの表面にフォーカスさせることもできるし、切断対象物Sの表面からにデフォーカスさせることもできる。

【0055】
加熱走行時に、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを切断対象物Sの表面にフォーカスさせると、図6(a)に示すように、切断対象物Sに形成される予備加熱バンドBの幅を小さくできるので、予備加熱バンドBからの放熱を抑制できて、切断対象物Sを効率的に予備加熱することができる。しかしながら、この場合には、切断対象物Sの表面が融点に達しやすくなって、切断対象物Sの表面に切り込みIが形成されやすくなる。そして、切り込みIの上にはレーザ光Lをフォーカスさせることが難しいので、この場合には、図6(a)に示すように、切断走行時におけるレーザ光Lのフォーカス位置を、加熱走行時におけるレーザ光Lのフォーカス位置からずらして、切断走行を実施する。

【0056】
これに対して、加熱走行時に、レーザ切断ヘッド5から出射されるレーザ光Lを切断対象物Sの表面からデフォーカスさせると、切断対象物Sの表面に切り込みIが形成されにくくなるので、図6(b)に示すように、切断走行時におけるレーザ光Lのフォーカス位置を、加熱走行時におけるレーザ光Lのフォーカス位置に設定できる。

【0057】
なお、前記の実施形態においては、レーザ切断ヘッド5にL字状の光路11を形成したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、図7に示すように、筒状に形成されたレーザ切断ヘッド5の一端に設けられたレーザ光入射口から、レーザ切断ヘッド5の他端に設けられたレーザ光出射口に至る直線状の光路を形成することもできる。本構成のレーザ切断ヘッド5は、内部に反射ミラー12等の光路変更部材を備える必要がないので、レーザ切断ヘッド5の構成を簡略化できて、レーザ切断ヘッド5の低コスト化を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 レーザ電源
2 レーザ発振器
3 分電盤
4 冷却水循環装置(チラー)
5 レーザ切断ヘッド
6 マニピュレータ
7 高圧アシストガス容器
8 制御装置
9 導光体
10 配管
11 光路
11a 第1光路
11b 第2光路
12 反射ミラー
13 コリメートレンズ
14 フォーカスレンズ
15 レーザ光出射口
16 アシストガス噴射口
21 CPU
22 RAM
23 ROM
24 HDD
25 入力部
26 出力部
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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