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明細書 :酵素製剤を用いた紅麹焼酎製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-093748 (P2018-093748A)
公開日 平成30年6月21日(2018.6.21)
発明の名称または考案の名称 酵素製剤を用いた紅麹焼酎製造法
国際特許分類 C12G   3/02        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
FI C12G 3/02
C12N 1/14 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2016-238357 (P2016-238357)
出願日 平成28年12月8日(2016.12.8)
発明者または考案者 【氏名】吉▲崎▼ 由美子
【氏名】▲高▼峯 和則
【氏名】奥津 果優
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100170221、【弁理士】、【氏名又は名称】小瀬村 暁子
【識別番号】100188271、【弁理士】、【氏名又は名称】塚原 優子
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4B115
Fターム 4B065AA58X
4B065CA42
4B115AG02
4B115AG17
要約 【課題】紅麹を用いた焼酎の製造方法の提供。
【解決手段】米紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程、および得られたもろみを蒸留する工程を含む、紅麹焼酎の製造方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
米紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程、および
得られたもろみを蒸留する工程
を含む、紅麹焼酎の製造方法。
【請求項2】
前記分解酵素が、もろみ中の米粒の硬さを低下させることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分解酵素が、細胞壁分解酵素、プロテアーゼ、アミラーゼ、ヌクレアーゼ、およびデアミナーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分解酵素が、細胞壁分解酵素およびプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記分解酵素が、グルカナーゼまたはセルラーゼである細胞壁分解酵素である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分解酵素が、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物由来のグルカナーゼである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記トリコデルマ(Trichoderma)属微生物が、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分解酵素が、リゾプス(Rhizopus)属微生物由来のプロテアーゼである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記リゾプス(Rhizopus)属微生物が、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
米紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程を含む、もろみの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、紅麹を用いた焼酎の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅麹菌は、モナスカス属種(Monascus sp.)の糸状菌であり、抗高脂血症に対する薬効成分であるモナコリンK、脳および脊髄において抑制性神経伝達物質として作用するγ-アミノ酪酸(GABA)、および食品用紅色色素など、有用な二次代謝産物を生成する微生物としてよく知られている。また古くより、紅麹菌を用いて製造された紅麹は、日本をはじめとする中国および台湾などのアジア諸国において発酵食品に用いられてきた。しかしながら、紅麹の利用範囲は、日本で麹菌として一般的に使用されているアスペルギルス属種(Aspergillus sp.)を用いて製造された麹と比べて限定的であり、日本では沖縄県の豆腐ようなどの一部の発酵食品に限られている。
【0003】
焼酎製造においては、近年新しい酒質の開発に対するニーズが高まっている。さらには焼酎製造により生じる焼酎粕と呼ばれる副産物の有効利用方法の開発が望まれている。
【0004】
本発明者らは、紅麹菌におけるグルコアミラーゼおよびα-アミラーゼ産生を改善する培養条件等について報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Yoshizaki Y et al., J. Biosci. Bioeng., 110, 670-674 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紅麹を用いた焼酎の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、焼酎の製造において、紅麹を発酵させて得られたもろみ中の米粒が硬い状態で残り、もろみの蒸留効率(アルコール回収率)が低いという問題を見い出した。さらに本発明者らは、紅麹に分解酵素を添加して発酵させることにより、得られたもろみ中の米粒の硬さが低下し、蒸留時のアルコール回収率が改善することを見い出し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]米紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程、および
得られたもろみを蒸留する工程
を含む、紅麹焼酎の製造方法。
[2]前記分解酵素が、もろみ中の米粒の硬さを低下させることができる、[1]に記載の方法。
[3]前記分解酵素が、細胞壁分解酵素、プロテアーゼ、アミラーゼ、ヌクレアーゼ、およびデアミナーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記分解酵素が、細胞壁分解酵素およびプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素である、[3]に記載の方法。
[5]前記分解酵素が、グルカナーゼまたはセルラーゼである細胞壁分解酵素である、[4]に記載の方法。
[6]前記分解酵素が、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物由来のグルカナーゼである、[5]に記載の方法。
[7]前記トリコデルマ(Trichoderma)属微生物が、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)である、[6]に記載の方法。
[8]前記分解酵素が、リゾプス(Rhizopus)属微生物由来のプロテアーゼである、[4]に記載の方法。
[9]前記リゾプス(Rhizopus)属微生物が、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)である、[8]に記載の方法。
[10]米紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程を含む、もろみの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、紅麹を用いた焼酎の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、紅麹に分解酵素を添加して発酵させた場合の、アルコール発酵および米粒の硬さを評価した、実施例1の結果を示すグラフである。「N.D.」は測定しなかったことを示す。
【図2】図2は、紅麹に分解酵素を添加して発酵させて得られたもろみの写真である。
【図3】図3は、紅麹に分解酵素を添加して発酵させた場合の、アルコール発酵を評価した、実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
(焼酎の製造方法)
一般的な焼酎の製造では、麹から発酵によって得られたもろみを蒸留し、焼酎原酒を得る。典型的には、麹に、水および酵母を添加して発酵させることにより一次もろみを製造し、得られた一次もろみに、水および炭水化物原料を添加して発酵させ二次もろみを製造し、それを蒸留することにより焼酎原酒を得る。

【0012】
一方、本発明は、紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵により製造したもろみを用いた、紅麹焼酎の製造方法を提供する。本明細書において「紅麹」とは、後述のように、紅麹菌を用いて製造した麹を指す。本明細書において「紅麹焼酎」とは、紅麹を用いて製造した焼酎を指す。本製造方法は、紅麹(例えば、米紅麹)および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程、および得られたもろみを蒸留する工程を含み得る。分解酵素を用いることにより、分解酵素を添加しない場合と比べて、もろみ中の米粒の硬さが低下し、蒸留時のアルコール回収率が改善し、効率的に紅麹焼酎を製造することができる。

【0013】
(もろみ製造)
本明細書において「麹」とは、麹原料(例えば、米)に麹菌を繁殖させたものをいう。麹は、当技術分野で慣用の方法によって製造できる。例えば、麹原料を洗浄し、浸漬し、蒸した後、冷ました麹原料に麹菌を種付けし、繁殖させて、麹を製造することができる。このような麹の製造を、一般に製麹という。本明細書において「紅麹」とは、麹菌として紅麹菌を用いて製造した麹を指す。本発明において、紅麹は、米紅麹であってよい。本明細書において「米紅麹」とは、麹原料として米を用いて製造された紅麹を指す。紅麹菌は、モナスカス(Monascus)属に属し、食品に利用できる任意の紅麹菌であってよく、例えば、モナスカス・アンカ(Monascus anka)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)、モナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・ビトレウス(Monascus vitreus)、およびモナスカス・ルーバー(Monascus ruber)等が挙げられる。

【0014】
本発明に係る紅麹焼酎の製造方法は、紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程を含み得る。本明細書において「もろみ原料」とは、発酵させることによりもろみを製造するために用いる原料をいう。本発明では、もろみ原料は、紅麹および分解酵素に加えて、例えば、水および酵母を含んでよい。一実施形態では、もろみ原料は、炭水化物原料を含んでもよい。一実施形態では、紅麹に、水、酵母および分解酵素を少なくとも添加して発酵させることにより一次もろみを製造し、得られた一次もろみに、水および炭水化物原料を少なくとも添加して発酵させることにより二次もろみを製造し、それを蒸留工程に用いてもよい。別の実施形態では、紅麹に、水、酵母および分解酵素を少なくとも添加して発酵させることによりもろみ(一次もろみ)を製造し、それを蒸留工程に用いてもよい。但し、もろみの製造工程はこれらに限定されない。典型的には、本発明では、一次もろみを製造した後、二次もろみを製造し、それを蒸留工程に用いる。本明細書において「一次もろみ」とは、少なくとも麹、水、および酵母を含む混合物を発酵させたものをいう。また本明細書において単に「もろみ」と称するときは、全発酵工程が終了した、蒸留されるもろみのことを意味する。

【0015】
本発明で用いる「酵母」は、アルコール発酵能を有する酵母であれば特に限定しないが、例えば、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母であってよい。酵母としては、公知の焼酎酵母、泡盛酵母、清酒用酵母、例えば、鹿児島5号酵母、鹿児島2号酵母、協会2号酵母等を使用してもよい。

【0016】
本明細書において「分解酵素」とは、有機物、例えば食品等の成分を分解できる酵素を指す。本発明で用いる分解酵素は、典型的には、化学結合の加水分解反応を触媒する加水分解酵素である。分解酵素は、特に限定されないが、細胞壁分解酵素、プロテアーゼ、アミラーゼ、ヌクレアーゼ、およびデアミナーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素であってよい。分解酵素は、細胞壁分解酵素およびプロテアーゼからなる群から選択される少なくとも1種の酵素であってよい。本発明に係る方法では、1種のみの分解酵素を使用してもよいし、2種以上の分解酵素を組み合わせて使用してもよい。分解酵素は、微生物(例えば、細菌または真菌)、植物および動物等のいずれの生物に由来するものであってもよく、あるいは遺伝子組み換えによって製造された酵素であってもよい。分解酵素は、好ましくは真菌に由来し得る。本発明では、市販の分解酵素を用いてもよい。

【0017】
「細胞壁分解酵素」は、植物細胞の細胞壁の構成成分、例えば、セルロース、ヘミセルロースおよびペクチンなどを分解する酵素を指す。細胞壁分解酵素としては、例えば、セルラーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、およびβ-グルコシダーゼ等が挙げられる。細胞壁分解酵素は、好ましくはグルカナーゼまたはセルラーゼである。

【0018】
「グルカナーゼ」は、グルカンの加水分解を触媒する酵素の総称である。グルカンは、D-グルコースがグルコシド結合で連結した多糖の総称である。グルカンとしては、グルコース残基のアノマー炭素原子の配置により、α-グルカンおよびβ-グルカンがある。グルカナーゼは、α-グルカンを分解するα-グルカナーゼ、およびβ-グルカンを分解するβ-グルカナーゼに大きく分類されるが、切断するグルコシド結合によりさらに細かく分類される。グルカナーゼの例としては、α-1,4-グルカナーゼ、α-1,6-グルカナーゼ、プルラナーゼ、β-1,3-グルカナーゼ、β-1,4-グルカナーゼ、およびβ-1,6-グルカナーゼがある。グルカナーゼは、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼまたはそれらの混合酵素のいずれであってもよい。グルカナーゼは、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物(例えば、トリコデルマ・ロンギブラキアツム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride))、ペニシリウム(Penicillium)属微生物、またはアスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。グルカナーゼは、好ましくは、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物、例えばトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来である。市販のグルカナーゼとしては、例えば、Novozymes社のViscozyme L; 新日本化学工業株式会社のスミチーム グルカン、スミチーム PEG、およびスミチーム TG; エイチビィアイ株式会社のセルロシン BGL; 天野エンザイム株式会社のセルラーゼ T4およびセルラーゼ A3等が挙げられる。グルカナーゼは、キシラナーゼ、グルコシダーゼ、およびペクチナーゼのうちの1種以上と組み合わせて使用してもよい。

【0019】
「セルラーゼ」は、セルロースの加水分解を触媒する酵素の総称である。セルラーゼとしては、エンド-グルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、およびβ-グルコシダーゼが挙げられる。セルラーゼは、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物(例えば、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride))またはアスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のセルラーゼとしては、例えば、Novozymes社のCelluclast 1.5L; エイチビィアイ株式会社のセルロシン AC40、セルロシン TP25、およびセルロシン T3; ヤクルト薬品工業株式会社のセルラーゼ オノズカ12S; 新日本化学工業株式会社のスミチーム C、スミチーム AC、およびスミチーム CS; ナガセケムテックス株式会社のセルラーゼ SSおよびセルラーゼ XP-425等が挙げられる。

【0020】
「キシラナーゼ」(キシラーゼ)は、キシランの加水分解を触媒する酵素を指す。キシラナーゼは、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物(例えば、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride))またはアスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のキシラナーゼとしては、例えば、セルロシン HC100(エイチビィアイ株式会社)およびスミチーム NX(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。

【0021】
「マンナナーゼ」は、マンナンを加水分解する酵素を指す。マンナナーゼは、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のマンナナーゼとしては、例えば、スミチーム ACH(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。マンナナーゼは、キシラーゼおよび/またはセルラーゼと組み合わせて使用してもよい。

【0022】
「ペクチナーゼ」は、ペクチンを分解する酵素の総称である。ペクチナーゼは、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、およびペクチンエステラーゼ等を含み得る。ペクチナーゼは、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus))またはリゾプス(Rhizopus)属微生物(例えば、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae))に由来するものであってよい。市販のペクチナーゼとしては、新日本化学工業株式会社のスミチーム AP2、スミチーム PX、スミチーム MC、スミチーム PTE、およびスミチーム SPCが挙げられる。ペクチナーゼは、セルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼと組み合わせて使用してもよい。

【0023】
「ポリガラクツロナーゼ」は、ペクチン酸を構成するD-ガラクツロン酸のα-1,4-グリコシド結合を加水分解する酵素を指す。ポリガラクツロナーゼは、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のポリガラクツロナーゼとしては、例えば、スミチーム SPG(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。

【0024】
「β-グルコシダーゼ」は、糖のβ-グリコシド結合を加水分解し、グルコースを生成する酵素を指す。β-グルコシダーゼは、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のβ-グルコシダーゼとしては、例えば、スミチーム BGA(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。

【0025】
「ヘミセルラーゼ」は、ヘミセルロースを加水分解する酵素の総称である。ヘミセルロースは、ペクチン質を除去した植物細胞壁からアルカリ溶液で抽出される多糖類の総称である。ヘミセルロースとしては、キシラン、キシログルカン、マンナン、およびグルコマンナン等がある。ヘミセルラーゼは、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ガラクトマンナナーゼ等を含み得る。ヘミセルラーゼは、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属微生物(例えば、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei))、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))またはバチルス(Bacillus)属微生物(例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis))に由来するものであってよい。市販のヘミセルラーゼとしては、新日本化学工業株式会社のスミチーム X、スミチーム SNX、およびスミチーム GMA等が挙げられる。

【0026】
「プロテアーゼ」は、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素である。プロテアーゼとしては、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、またはそれらの混合酵素のいずれであってもよい。プロテアーゼは、例えば、バチルス(Bacillus)属微生物(例えば、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis))、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))、またはリゾプス(Rhizopus)属微生物(例えば、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae))に由来するものであってよい。プロテアーゼは、好ましくは、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)由来である。市販のプロテアーゼとしては、例えば、Novozymes社のAlcalase 2.4L FGおよびFlavourzyme; 天野エンザイム株式会社のニューラーゼ F3G; エイチビィアイ株式会社のオリエンターゼ 20Aおよびオリエンターゼ 22BF; ヤクルト薬品工業株式会社のパンチダーゼ NP-2およびプロテアーゼ YP-SS; ナガセケムテックス株式会社のデナプシン 2P、デナチーム AP、およびセルレース ナガセ等が挙げられる。

【0027】
「アミラーゼ」とは、デンプンなどの糖鎖のグリコシド結合を加水分解する酵素を指す。アミラーゼとしては、α-アミラーゼ、β-アミラーゼおよびグルコアミラーゼが挙げられる。「α-アミラーゼ」は、α-1,4グリコシド結合をランダムに切断するエンド型の酵素である。「β-アミラーゼ」は、糖鎖の非還元性末端からマルトース単位でα-1,4グリコシド結合を切断するエキソ型の酵素である。「グルコアミラーゼ」は、糖鎖の非還元性末端からグルコース単位でα-1,4グリコシド結合を切断するエキソ型の酵素である。α-アミラーゼは、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))に由来するものであってよい。市販のα-アミラーゼとしては、例えば、スミチーム AS(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。グルコアミラーゼは、例えばリゾプス属微生物(例えば、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae))に由来するものであってよい。市販のグルコアミラーゼを含む酵素としては、例えば、スミチーム焼酎(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。グルコアミラーゼはプロテアーゼと組み合わせて使用してもよい。

【0028】
「ヌクレアーゼ」は、核酸のホスホジエステル結合を加水分解する酵素を指す。ヌクレアーゼとしては、エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼまたはそれらの混合酵素のいずれであってもよい。ヌクレアーゼは、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属微生物(例えば、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum))に由来するものであってもよい。市販のヌクレアーゼとしては、例えば、スミチーム NP(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。

【0029】
「デアミナーゼ」は、化合物のアミノ基を除去する反応(脱アミノ化)を触媒する酵素である。デアミナーゼは、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物(例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae))に由来するものであってよい。市販のデアミナーゼとしては、例えば、スミチーム DEA(新日本化学工業株式会社)が挙げられる。

【0030】
一実施形態では、分解酵素は、分解酵素を添加しない場合と比べて、もろみ中の米粒(例えば、米紅麹に由来する米粒)の硬さを低下(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%低下)させることができる酵素であり得る。米粒の硬さは、当技術分野で公知の任意の装置で測定でき、例えば、物性試験機(例えば、英弘精機株式会社(東京、日本)のテクスチャーアナライザー(Ta.XT. Plus textureanalyzer))を用いて測定できる。米粒の硬さの低下につれ、米粒は崩壊し、もろみ中に米粒は存在しなくなる。米粒の硬さを低下させ、それにより米粒を崩壊させることができる分解酵素も本発明における使用に好適である。

【0031】
分解酵素の添加量は、反応が十分に行われる量であれば特に限定されるものではなく、使用する酵素の種類や力価、発酵温度や発酵期間等を考慮して適宜決定し得る。例えば、分解酵素の添加量は、麹原料(炭水化物原料を添加して発酵させる場合は、麹原料と炭水化物原料の総原料)当たり0.01~1(w/w)%または0.05~0.5(w/w)%、例えば0.1(w/w)%であってよい。

【0032】
分解酵素は、発酵開始時に添加してもよく、または発酵の途中で添加してもよいが、発酵開始時に添加することが好ましい。また、使用する分解酵素は一度に全量添加しても、複数回に分けて添加してもよい。

【0033】
一実施形態では、本発明に係る紅麹焼酎の製造方法は、紅麹に、水、酵母および分解酵素を少なくとも添加して発酵させることからなる、もろみを製造する工程を含んでよい。このようなもろみ製造工程(一次発酵工程のみ)を含む方法により製造された焼酎は、一般に泡盛と称される。

【0034】
別の実施形態では、本発明に係る紅麹焼酎の製造方法では、上記のようにして得られたもろみ(一次もろみ)に、水および炭水化物原料を添加して発酵させ二次もろみを製造してもよい。「二次もろみ」とは、一次もろみおよび炭水化物原料を含む混合物において酵母にアルコール発酵させたものをいう。

【0035】
本明細書において「炭水化物原料」とは、焼酎製造において「主原料」とも呼ばれる澱粉質又は糖質(糖)を多く含む原料を指す。炭水化物原料は、澱粉質を多く含む澱粉質原料であっても、糖質を多く含む糖質原料であってもよい。炭水化物原料としては、特に限定されないが、例えば、穀類(例えば、米、トウモロコシ、蕎麦、粟、麦、モロコシ類)および芋類(例えば、サツマイモ、ジャガイモ)、ソテツの実、穀類より製造した麹等の澱粉質原料、または黒糖等の糖質原料を使用することができる。一実施形態では、炭水化物原料は、穀類であってよく、例えば米であってよい。

【0036】
また二次もろみの製造において、他の原料を加えてもよい。そのような原料としては、特に限定されないが、例えば、あしたば、あずき、あまちゃづる、アロエ、ウーロン茶、梅の種、えのきたけ、おたねにんじん、かぼちゃ、牛乳、ぎんなん、くず粉、くまざさ、くり、グリーンピース、こならの実、ごま、こんぶ、サフラン、サボテン、しいたけ、しそ、大根、脱脂粉乳、たまねぎ、つのまた、つるつる、とちのきの実、トマト、なつめやしの実、にんじん、ねぎ、のり、ピーマン、ひしの実、ひまわりの種、ふきのとう、べにばな、ホエイパウダー、ほていあおい、またたび、抹茶、まてばしいの実、ゆりね、よもぎ、落花生、緑茶、れんこん、またはわかめを使用することができる。

【0037】
もろみを製造するための発酵期間は、当業者であれば適宜設定することができるが、例えば、発酵期間は約5~15日間であってよい。一次もろみの製造後に二次もろみを製造する場合は、一次もろみの発酵期間を例えば5~8日間とし、二次もろみの発酵期間を例えば8~15日間としてもよいが、特に限定されない。また、もろみを製造するための発酵温度は、適宜設定することができ、例えば、約25~30℃であってよい。もろみを製造するために用いる麹、水、酵母、および場合により炭水化物原料等の原料の量も、焼酎の製造に通常使用される範囲で適宜調整することができる。もろみを製造するために添加する水の量は、例えば、麹原料に対して100~250(v/w)%または150~200(v/w)%、例えば180(v/w)%であってよい。

【0038】
さらに別の実施形態では、本発明に係る紅麹焼酎の製造方法では、二次もろみに、さらに麹または炭水化物原料を添加して発酵させること等により、三次もろみ、四次もろみ等を製造してもよい。三次もろみ等の製造における発酵期間、発酵温度、用いる水および原料(例えば炭水化物原料や他の原料)の量は、焼酎の製造に通常使用される範囲で適宜調整することができる。

【0039】
以上のような工程を経て最終的に「もろみ」が製造される。もろみ製造工程において、他の成分を添加してもよい。

【0040】
本発明はまた、上記のようにして、紅麹および分解酵素を含むもろみ原料を用いた発酵によりもろみを製造する工程を含む、もろみの製造方法にも関する。

【0041】
本発明に係る方法では、分解酵素を添加することにより、分解酵素を添加しない場合と比べて、米粒(例えば、米紅麹に由来する米粒)の硬さが低下したもろみを製造することができる。本発明に係る方法で製造したもろみ中の米粒の硬さは、分解酵素を添加しない場合と比べて、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%低下し得る。もろみ中の米粒の硬さは、当技術分野で公知の任意の装置で測定でき、例えば、物性試験機(例えば、英弘精機株式会社(東京、日本)のテクスチャーアナライザー(Ta.XT. Plus textureanalyzer))を用いて測定できる。本発明に係る方法では、米粒の硬さが低下し、それにより米粒が崩壊したもろみを製造してもよい。

【0042】
一実施形態では、本発明に係る方法では、分解酵素を添加することにより、分解酵素を添加しない場合と比べて、アルコール度数が増加したもろみを製造することができる。もろみのアルコール度数は、分解酵素を添加しない場合と比べて、例えば、少なくとも1.05倍、少なくとも1.08倍、少なくとも1.10倍、少なくとも1.12倍、少なくとも1.15倍または少なくとも1.20倍増加し得る。もろみのアルコール度数は、例えば、メスシリンダーにとったもろみろ液(例えばガーゼろ過したろ液)をフラスコに移し、少量のメスシリンダー洗液を2回同フラスコに加え、フラスコ内の溶液を、留液が用いたもろみろ液の約75%に達するまで蒸留し、留液を、用いたもろみろ液の容量になるように水で定容し、アルコール度数を密度計を用いて測定することによって決定できる。

【0043】
一実施形態では、本発明に係る方法では、全糖量が減少したもろみを製造することができる。全糖量とは、対象材料(ここでは、もろみ)を加水分解したサンプル中の還元糖の量(濃度)を意味する。全糖量は、グルコース換算値で、対象材料の量に対する割合(重量/重量%)として算出する。もろみの全糖量は、分解酵素を添加しない場合と比べて、例えば、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%減少し得る。もろみの全糖量は、例えば、酸分解したもろみのろ液(例えばガーゼろ過したろ液)を用いてソモギー変法で測定することができる。酸分解したもろみは、乳鉢で緩やかに磨りつぶしたもろみ10g、脱塩水100mlおよび25%HCl 10mlを加え、長さ約1mの空気冷却管をつけて沸騰浴中にて2.5時間加熱することによって得ることができる。酸分解したもろみのろ液は、前記の加熱終了後、反応液を水冷して10%NaOH溶液で微酸性になるまで中和し、200mlに定容した後、ろ紙でろ過することによって得ることができる。ソモギー変法で用いるソモギーA液は、1000ml中にロッシェル塩90g、第3リン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O)225g、硫酸銅(CuSO4・5H2O)30gおよびヨウ素酸カリウム(KIO3)3.5gを含む水溶液とし得る。ソモギーB液は、1000ml中にシュウ酸カリウム(K2C2O4・H2O)90gおよびヨウ化カリウム40gを含む水溶液とし得る。ソモギー変法では、ソモギーA液に、サンプルおよび水を加え、加熱して沸騰させ、3分間沸騰を持続させた後、冷却し、次にソモギーB液および硫酸溶液を加え、デンプン溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することによって、還元糖の量を測定できる。

【0044】
(蒸留)
本発明に係る焼酎の製造方法では、次に、得られたもろみを蒸留する。蒸留によって焼酎原酒が得られる。蒸留方法は、特に限定しないが、例えば単式蒸留機によって行う単式蒸留、または連続式蒸留機によって行う連続蒸留であってもよい。蒸留は、減圧蒸留であっても常圧蒸留であってもよい。また蒸留における加熱様式は、特に限定されず、直火だきによる加熱、直接蒸気吹き込みによる加熱、および間接加熱のいずれであってもよい。蒸留は、公知の蒸留機、例えば単式蒸留機を用いて行うことができる。

【0045】
蒸留工程では、発生した蒸気を冷却して液化し、得られた液体が焼酎原酒となる。蒸留は、得られる焼酎原酒のアルコール濃度が20~45(v/v)%、好ましくは30~45(v/v)%となるように行うことが好ましい。
必要に応じて、蒸留後にろ過を行い、沈殿を取り除いてもよい。

【0046】
蒸留後に、焼酎原酒を容器に詰めて貯蔵・熟成を行なってもよい。これにより、風味や香気といった酒質を安定させることができる。容器としては、タンク、樽、甕等を用いることができる。必要に応じて、貯蔵後にろ過を行い、沈殿を取り除いてもよい。貯蔵後の焼酎原酒に水を加えて(すなわち割水し)、アルコール濃度を調整してもよい。必要に応じて、割水後にろ過を行い、沈殿を取り除いてもよい。最後に、上記アルコール濃度を調整した焼酎を瓶詰して市販の焼酎とし得る。

【0047】
一実施形態では、本発明に係る方法では、蒸留時のアルコール回収率が、分解酵素を添加しない場合と比べて、増加し得る。アルコール回収率は、分解酵素を添加しない場合と比べて、例えば、少なくとも1.05倍、少なくとも1.06倍、少なくとも1.07倍、少なくとも1.08倍、少なくとも1.09倍、または少なくとも1.10倍増加し得る。アルコール回収率は、例えば、もろみのアルコール度数にもろみの重量を乗算してもろみ中のアルコール総量を算出し、焼酎原酒のアルコール度数に焼酎原酒の重量を乗算して焼酎原酒中のアルコール総量を算出し、もろみ中のアルコール総量に対する焼酎原酒中のアルコール総量の割合を算出することによって得ることができる。もろみのアルコール度数の測定方法は、上に記載されている。焼酎原酒のアルコール度数は、酒類用振動式密度計(DA-155、京都電子工業株式会社(京都、日本))などの市販の密度計を用いて測定できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
分解酵素のスクリーニング
本発明者らが、紅麹を用いた焼酎の製造を試みたところ、発酵終了時にもろみ中の米粒が硬い状態で残り、それに伴い蒸留中に蒸気吹き込みによるもろみの撹拌および加熱が均一に進行せず、アルコール回収率が低くくなる問題に直面した。この問題を解決するため、紅麹焼酎を製造する際に、分解酵素を用いることを検討した。
【実施例】
【0050】
市販の分解酵素(表1)から、米粒溶解度およびアルコール発酵の改善に寄与する酵素をスクリーニングした。
【実施例】
【0051】
【表1】
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【実施例】
【0052】
表1に示すα-アミラーゼ(No. 1)、グルコアミラーゼ(No. 2)、プロテアーゼ(No. 3~No. 12)、ヌクレアーゼ(No. 13)、デアミナーゼ(No. 14)、および細胞壁分解酵素(No. 15~28およびNo. 30~44)の分解酵素を用いて、以下のように小規模のアルコール発酵試験を行った。
【実施例】
【0053】
紅麹の調製を、既報の方法に準じて行った(Yoshizaki Y et al., J. Biosci. Bioeng., 110, 670-674 (2010); Shiraishi Y et al., J. Inst. Brew.. 122(3), 381-387 (2016))。具体的には、株式会社本坊商店(鹿児島、日本)より購入した焼酎用米1kgを洗米後、1時間浸漬し、その後1時間水切りを行った。水切り後の米を家庭用蒸し器にて1時間蒸煮した。蒸煮後、蒸し米を約45℃まで冷し、紅麹菌の種麹(モナスカス・アンカ(Monascus anka)、株式会社秋田今野商店(秋田、日本))10gを植菌した。種麹を植菌した米を、十分に胞子が全体に行き渡るように撹拌後、35℃、湿度98%に設定した恒温器に移した(製麹工程)。種麹を植菌した米は、温度が39℃を超えた時点で撹拌し、冷却した。製麹工程を約96時間行い、紅麹を得た。麹は使用するまで-20℃にて保管した。
【実施例】
【0054】
次に、米(麹原料)8gに相当する紅麹に、8mg(麹原料である米の0.1(w/w)%)の分解酵素および酵母前培養液0.15mlを含む、15ml(米に対して約180(v/w)%)の脱塩水を加え、30℃にて8日間発酵を行い、もろみを得た。酵母としては、鹿児島県酒造組合より供給された鹿児島5号酵母を用いた。対照のもろみを、分解酵素を加えないこと以外は同様の方法で発酵を行うことによって得た。
【実施例】
【0055】
発酵の開始時に、材料を含む容器の全体の初期重量を測定し、発酵期間中毎日撹拌後に容器重量を計測して、初期重量から各日の重量の差を算出し、発酵中に発生した二酸化炭素量とした。さらに、酵素無添加のもろみ(対照)における二酸化炭素量との差を算出した。発生した二酸化炭素量が多いほど、アルコール発酵が増加していることが示される。
【実施例】
【0056】
もろみ中の米粒の硬さを、テクスチャーアナライザー(Ta.XT. Plus textureanalyzer、英弘精機株式会社(東京、日本))を用いて測定した。圧縮プログラムは、元の米粒の厚みの50%まで圧縮するように設定し、直径0.5インチのプローブを用いて、2.0mm/sの速度で1粒を圧縮した。分析は、各サンプルにつき10回行い、平均値を算出した。値が大きいほど、米粒が硬いことが示される。
【実施例】
【0057】
結果を図1に示す。ほぼすべての分解酵素で、対照と比較して、二酸化炭素発生量が多くなり、アルコール発酵が亢進したことが示された(図1の左側のグラフ)。また、プロテアーゼまたは細胞壁分解酵素を添加したもろみの多くで、α-アミラーゼ(No. 1)またはグルコアミラーゼ(No. 2)を添加したもろみより、二酸化炭素発生量が多くなり、アルコール発酵がより促進されていることが示された(図1の左側のグラフ)。
【実施例】
【0058】
もろみ中の米粒の硬さは、No. 10、11、17~20、23~25、27、28および30の分解酵素を用いた場合には、米粒がほぼ完全に崩壊し、存在しなかったため、測定しなかった。その他の分解酵素を添加したすべてのもろみで、もろみ中の米粒の硬さは、対照と比べて減少していることが明らかになった(図1の右側のグラフ)。
【実施例】
【0059】
以上の結果から、試験した分解酵素の大部分がアルコール発酵の増加および米粒の硬さの低下(溶解度の増加)の両方に寄与することが示された。特に、プロテアーゼ系酵素においてはニューラーゼ F3G(No. 5)が、細胞壁分解酵素においてはスミチーム TG(No. 28)およびスミチーム AC(No. 21)が、これら両方に大きく寄与することが示された。
【実施例】
【0060】
次に、酵素を添加せずに製造したもろみ(対照)、ならびにスミチーム AS(No. 1)、スミチーム焼酎(No. 2)、ニューラーゼ F3G(No. 5)、もしくはスミチーム TG(No. 28)を用いて製造したもろみの性状を目視で確認した。結果を図2に示す。対照では米粒の形がほぼ完全に残り、固形分の流動性が著しく低いことが確認された(図2)。一方、ニューラーゼ F3G(No. 5)またはスミチーム TG(No. 28)が添加されたもろみでは、一部の米粒の形が確認されたものの、もろみの流動性が著しく改善された(図2)。
【実施例】
【0061】
[実施例2]
分解酵素を用いた紅麹焼酎の製造
スミチーム AS(α-アミラーゼ)(No. 1)、スミチーム焼酎(グルコアミラーゼ)(No. 2)、ニューラーゼ F3G(プロテアーゼ)(No. 5)、およびスミチーム TG(細胞壁分解酵素)(No. 28)を用いて、約1.5kgスケールで泡盛仕込み(発酵工程において炭水化物原料を添加しない)による焼酎の小仕込み製造試験を行った。
【実施例】
【0062】
紅麹は実施例1と同様の方法で調製した。米(麹原料)500gに相当する紅麹に、酵母前培養液10mlを含む900ml(米に対して180(v/w)%)の脱塩水を加えた。またこの時、脱塩水に予め0.5g(麹原料である米の0.1(w/w)%)の分解酵素を溶解させておいた。30℃の恒温水浴中で10日間発酵を行い、もろみを得た。対照のもろみを、分解酵素を加えないこと以外は同様の方法で14日間発酵を行うことによって得た。また、白麹を用いて分解酵素を加えずに9日間発酵を行うことによって、もろみを得た。白麹は、紅麹菌の種菌10gの代わりに白麹菌の種菌(河内菌白麹菌、株式会社河内源一郎商店(鹿児島、日本))1gを用い、製麹工程を約43時間行ったことを除いて、実施例1に記載の紅麹の調製方法と同様の方法によって調製した。
【実施例】
【0063】
実施例1と同様の方法によって発酵中に発生した二酸化炭素量を算出した結果を図3に示す。紅麹を用いて製造したもろみでは、仕込み3日目には、分解酵素を添加したもろみ群と酵素無添加もろみ(対照)との間でアルコール発酵に大きな差が確認され、分解酵素を添加したもろみ群では、アルコール発酵が増加したことが示された(図3)。この結果から、いずれの分解酵素を添加した場合でも、発酵が速く進行することが示された。
【実施例】
【0064】
また、もろみのアルコール度数、全糖量および直接還元糖量を、国税庁所定分析法注解に準じて測定した。
【実施例】
【0065】
もろみのアルコール度数測定は以下のように行った。もろみをガーゼろ過して得られたろ液100mlをメスシリンダーにとり、300ml容平底フラスコに移した。このメスシリンダーを約10mlの脱塩水で2回洗浄し洗液を同平底フラスコに加えた。フラスコ内の溶液を試験蒸留器にて蒸留した。必要に応じて消泡剤(0.1%Triton X-100)を1ml加えた。留液が75mlに達した時点で蒸留をやめ、脱塩水で100mlに定容した。溶液をよく混ぜた後、アルコール濃度を酒類式振とう密度計(DA-155、京都電子工業株式会社)を用いて測定した。
【実施例】
【0066】
もろみの全糖量は、以下のように、酸分解したもろみのろ液を用いて、ソモギー変法で測定した。200ml容三角フラスコに、乳鉢で緩やかに磨りつぶしたもろみ10g、脱塩水100mlおよび25%HCl 10mlを加え、長さ約1mの空気冷却管をつけて沸騰浴中にて2.5時間加熱した。加熱終了後、反応液を水冷して10%NaOH溶液で微酸性になるまで中和し、200mlに定容した後、No.2ろ紙にてろ過した。得られたろ液を用いて、以下のソモギー法に従って全糖量を測定した。ソモギーA液を、ロッシェル塩90g、第3リン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O)225gを蒸留水約600mlに溶かして得た溶液に、硫酸銅(CuSO4・5H2O)30gを蒸留水約100mlに溶かして得た溶液を加え、さらに、ヨウ素酸カリウム(KIO3)3.5gを少量の蒸留水に溶かして得た溶液を加え、全量を1000mlとすることによって調製した。ソモギーB液を、シュウ酸カリウム(K2C2O4・H2O)90g、ヨウ化カリウム40gを蒸留水に溶かして1000mlとすることによって調製した。100ml容三角フラスコにソモギーA液10mlに、サンプル3ml、脱塩水17mlを加え、電熱線ヒーター上で加熱して2分以内に沸騰させ、正確に3分間沸騰を持続させた後、速やかに冷却した。次にソモギーB液10mlを加え、さらに2N硫酸溶液10mlを加えてよく混合し、直ちに0.05Nチオ硫酸ナトリウムで滴定した。指示薬には1%デンプン溶液を使用した。ブランクにはもろみサンプルの代わりに脱塩水を用いたものを使用した。
【実施例】
【0067】
もろみの直接還元糖量は、ガーゼろ過したもろみのろ液を用いて、上記のソモギー変法で測定した。
【実施例】
【0068】
次に、発酵後のもろみ1kgを、ガラス製蒸留器を用いて蒸気吹き込みによる常圧蒸留にて蒸留し、焼酎原酒を得た。留液のアルコール度数が10%を下回った時点で蒸留を終了した。留液のアルコール度数は、携帯型蒸留物用アルコール度数計(DMA35、株式会社アントンパールジャパン)を用いて測定した。得られた焼酎原酒のアルコール度数は、酒類用振動式密度計(DA-155、京都電子工業株式会社(京都、日本))を用いて測定した。もろみのアルコール度数にもろみの重量を乗算してもろみ中のアルコール総量を算出し、焼酎原酒のアルコール度数に焼酎原酒の重量を乗算して焼酎原酒中のアルコール総量を算出し、もろみ中のアルコール総量に対する焼酎原酒中のアルコール総量の割合を、蒸留におけるアルコール回収率とした。焼酎原酒のアルコール度数測定後、焼酎原酒を孔径5μmのメンブレンフィルターにてろ過した。ろ液を1カ月以上冷暗所にて保存した後、脱塩水にてアルコール度数25%に調整し、焼酎を得た。
発酵終了日のもろみ分析結果および蒸留分析結果を表2に示す。
【実施例】
【0069】
【表2】
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【実施例】
【0070】
分解酵素を用いることでもろみのアルコール度数が高くなり、全糖量が減少することが示された(表2)。全糖量の減少は、糖からアルコールへの発酵の促進を示す。このことから、紅麹焼酎製造において分解酵素を用いると、アルコール量が増加することが示された。
【実施例】
【0071】
蒸留は、まとめた留液のアルコール度数が約38%に到達した時点を目安に行ったが、蒸留時間は、もろみのアルコール度数と比例していた(表2)。アルコール回収率(蒸留歩合)は、いずれの酵素を加えた場合にも、対照より高いことが示された(表2)。また酵素間を比較すると、アルコール回収率(蒸留歩合)は、ほぼ同等か、スミチーム TG(No. 28)において良好であることが示された。
【実施例】
【0072】
また、紅麹焼酎の製造において分解酵素を用いることで、もろみのアルコール度数および全糖量、ならびに蒸留時のアルコール回収率は、一般的な焼酎の製造に使用される白麹を用いた場合の値に近づくことが示された。
【実施例】
【0073】
以上のことから、紅麹焼酎もろみの硬さによる蒸留時のアルコール回収率低下の問題を、分解酵素の添加により改善でき、特にプロテアーゼまたは細胞壁分解酵素の添加により大幅に改善できることが示された。
【実施例】
【0074】
[実施例3]
分解酵素を用いて製造した紅麹焼酎の官能評価
紅麹焼酎は、白麹焼酎と異なる酒質を有しており、チーズやミルクを連想させる香りと、いちごのようなフルーティーな香りを特徴とする。分解酵素の添加が、酒質を変化させることが考えられたために、官能評価による酒質の比較を行った。
【実施例】
【0075】
実施例2で得られた焼酎の官能評価を、鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター教員および大学院生(男性3名、女性4名)によるサンプル名を伏せたブラインドテストにて行った。官能評価は香りのみで実施した。類似度試験では、酵素無添加で製造した紅麹焼酎(対照)と比較して、実施例2で分解酵素を添加して製造した4種の紅麹焼酎のうち最も類似しているものを1位として順位付けし、順位を評点として類似度を求めた。類似度の評点が低いほど対照と類似していることが示される。嗜好度試験では、酵素無添加で製造した紅麹焼酎(対照)、分解酵素を添加して製造した4種の紅麹焼酎、および白麹焼酎について、好き1点、普通2点、嫌い3点として点数を集め、この点数を評点として用いた。嗜好度の評点が低いほど嗜好度が高いことが示される。スチューデントのt検定にて、各点数の有意差を求めた。
官能評価の結果を表3に示す。
【実施例】
【0076】
【表3】
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【実施例】
【0077】
類似度試験では、スミチーム焼酎(No. 2)またはスミチーム TG(No. 28)を添加して製造された紅麹焼酎は、酵素無添加の紅麹焼酎(対照)と最も類似していることが示された(表3)。ニューラーゼ F3G(プロテアーゼ)(No. 5)を添加して製造された紅麹焼酎は、オリジナル(対照)の酒質とやや異なることが示された(表3)。ただし、評価者より「全体として酒質に大きな差異がない」との意見が得られており、酵素の添加は、酒質に大きく影響しないことが確認された。
【実施例】
【0078】
嗜好度試験では、酵素無添加で製造した紅麹焼酎(対照)は白麹焼酎とほぼ同等の嗜好度であることが示された(表3)。またスミチーム TG(No. 28)を添加して製造した紅麹焼酎は、白麹焼酎と比較して有意に嗜好度が高く、さらに対照の紅麹焼酎よりも嗜好度が高いことが示された(表3)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明により、既存の設備を変えることなく効率的な紅麹焼酎の製造が可能となる。また本発明は、従来の白麹などの麹から製造した焼酎とは異なる酒質の焼酎を製造するために用いることができる。紅麹菌は様々な有用な二次代謝産物を生成するため、本発明の方法で製造した紅麹焼酎の焼酎粕(蒸留の副産物)は高機能性となることから、本発明は、焼酎粕の有効な利用を促進する上でも有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2