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明細書 :高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤及びその製造方法、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-090777 (P2018-090777A)
公開日 平成30年6月14日(2018.6.14)
発明の名称または考案の名称 高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤及びその製造方法、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル及びその製造方法
国際特許分類 C08K   5/09        (2006.01)
C08B  37/08        (2006.01)
C08H   1/00        (2006.01)
C08J   3/075       (2006.01)
C07K  14/78        (2006.01)
FI C08K 5/09
C08B 37/08 A
C08H 1/00
C08J 3/075
C07K 14/78
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2017-210101 (P2017-210101)
出願日 平成29年10月31日(2017.10.31)
優先権出願番号 2016213024
優先日 平成28年10月31日(2016.10.31)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】成田 武文
【氏名】柚木 俊二
【氏名】村松 和明
出願人 【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査請求 未請求
テーマコード 4C090
4F070
4H045
4J002
Fターム 4C090AA04
4C090BA47
4C090BB05
4C090BB17
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB53
4C090BB75
4C090BB92
4C090CA04
4C090CA36
4F070AA01
4F070AA62
4F070AC42
4F070AC59
4F070AE08
4F070GA09
4F070GB02
4F070GB06
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA34
4H045FA65
4J002AB001
4J002AB051
4J002AD001
4J002CL021
4J002EG096
4J002FD146
要約 【課題】高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の提供。
【解決手段】下記式Aにより表される化合物又はゲニピンを加熱してなる反応物を含む、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
JP2018090777A_000009t.gif
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式Aにより表される化合物を含む、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤。
【化1】
JP2018090777A_000008t.gif

式A中、Mは対カチオンを表し、Rは置換基を表し、nは0~2の整数を表す。
【請求項2】
ゲニピンを加熱してなる反応物である、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質を含む、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
【請求項4】
前記高分子多糖類又はタンパク質が、キトサンである、請求項3に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
【請求項5】
前記高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の含有量が、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全量に対し、1mmol/L~6mmol/Lである、請求項3又は請求項4に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
【請求項6】
前記高分子多糖類又はタンパク質の含有量が、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全質量に対し、0.5質量%~10質量%である、請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
【請求項7】
pHが6.0~9.0である、請求項3~請求項6のいずれか1項に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
【請求項8】
リン酸緩衝液中で、ゲニピンを加熱する工程を含む、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸緩衝液が、リン酸ナトリウム緩衝液である、請求項8に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
【請求項10】
前記リン酸緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水である、請求項8に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸緩衝液が、リン酸二水素ナトリウム溶液である、請求項8に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
【請求項12】
前記加熱する工程における加熱温度が20℃~70℃であり、かつ、加熱時間が3時間~168時間である、請求項8~請求項11のいずれか1項に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は請求項2に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法。
【請求項14】
請求項8~請求項12のいずれか1項に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法により得られた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤及びその製造方法、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の再構築および機能再生を目的とした組織再生工学において、これらを達成するために世界中でバイオマテリアルの開発が実施されている。例えば、生体高分子多糖類又は生体タンパク質のキトサン、コラーゲン、ゼラチンなどを生体内に移植しようとした場合、機械的強度が乏しいために材料自体を成形できない、生体内に移植した場合ただちに分解、吸収されてしまうなど生体内での安定性が低いといった問題がある。そこで、このような高分子多糖類又はタンパク質の機械的特性や生体内安定性を高める方法の一つとして化学的架橋が知られている。
【0003】
従来の化学的架橋の方法として、非特許文献1には、グルタルアルデヒドを用いた化学的架橋の方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、ゼラチンをスクシンイミド化ポリ-L-グルタミン酸により架橋して成る医用材料が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、水溶性カルボジイミドが、タンパク質・ペプチド合成の縮合剤として記載されている。
【0006】
非特許文献3には、クチナシ由来で漢方薬として経口しているゲニピンという架橋剤が記載されている。
【0007】
非特許文献4には、生体材料にジエポキシ化合物を使用した場合の細胞毒性について記載されている。
【0008】
非特許文献5には、コラーゲンゲルに対するゲニピン架橋の影響について記載されている。
【0009】
特許文献2には、ゲニピンとコラーゲンとを含むコラーゲン水溶液であって、前記コラーゲン水溶液は25℃でのゲル化時間が30分以上であるものである、コラーゲン水溶液が記載されている。
【0010】
非特許文献6には、ペプシン消化コラーゲン(PSC)を基質としたコラーゲン/ゲニピン水溶液が記載されている。
【0011】
非特許文献7には、塩基性条件下でキトサンとゲニピンとを重合させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開平9-103479号公報
【特許文献2】特開2014-103985号公報
【0013】

【非特許文献1】Van Luyn M J., Biomaterials, 13(14), pp.1017-1024(1992)
【非特許文献2】Huang Lee LL., J.Biomed., Mater. Res., 24(9), pp.1185-1201(1990)
【非特許文献3】Chang et al. Biomaterials 23,pp.2447-2457(2002)
【非特許文献4】Nishi C.et al., J Biomed Mater Res. 29(7):829-834(1995)
【非特許文献5】Harini G. Sundararaghavan et al., J Biomed Mater Res A. 87(2),pp.308-320(2008)
【非特許文献6】Yunoki S., et al., International Journal of Biomaterials. 620765(2013)
【非特許文献7】MI L-F., J Polym Sci Part A 43,1985-2000(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献1や特許文献1には、グルタルアルデヒドを架橋剤として使用することが記載されているが、非特許文献1には、グルタルアルデヒドは細胞毒性が高いことが示されている。
また、非特許文献2には、水溶性カルボジイミドを細胞に直接投与した場合、細胞毒性が高いことが示されている。
非特許文献3に記載のゲニピンは、上述のグルタルアルデヒドや水溶性カルボジイミド等と比較すると、細胞毒性が極めて低いことが知られている。例えば、グルタルアルデヒドよりも細胞毒性が5,000~10,000倍も低いことがわかっている(非特許文献4)。しかしながら、このゲニピンでさえ、添加濃度を上げると細胞毒性が高くなることが示されている(非特許文献5)。
【0015】
上述のゲニピンについて、非特許文献6によれば、ペプシン消化によりテロペプチドフリーとなったブタ皮膚由来コラーゲンを用いて,コラーゲン/ゲニピン混合水溶液のゲル化特性を明らかにした。この際、コラーゲン/ゲニピン混合水溶液は、室温流動性が30分以上もありながら、体温では急速にゲル化することが示されている。
しかしながら、本発明者らは、ゲル化時間が更に短いことが要求される用途(例えば、止血剤など)においては、ゲニピンを用いることが適していない場合があることを見出した。
また、非特許文献7には、ゲニピンは強アルカリ水溶液のOHプロトンによってアルドール縮合による開環重合することが報告されている。
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、後述する式Aにより表される化合物は高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤として非常に優れた架橋活性を有していること、及び、式Aにより表される化合物と高分子多糖類又はタンパク質とを含む架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルは、ゲル化時間が短いことを見出した。
優れた架橋活性を有する架橋剤を用いることにより、生体への毒性が抑えられるような低濃度(例えば、1mM~6mMなど)で用いた場合であっても、高分子多糖類又はタンパク質の架橋が可能となる点で、非常に有用であると考えている。
また、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルのゲル化時間が短いことにより、組織用接着剤、止血剤等のような、ゲル化時間が短いことが求められる用途にも架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルを適用することが可能となる点で、非常に有用であると考えている。
更に、本発明者らは、式Aにより表される化合物は、例えばゲニピンの加熱により、ゲニピンのピラン環構造部分が開環した化合物として得られるが、ゲニピンの加熱条件を変えることにより、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルのゲル化時間を調整できることを見出した。
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルのゲル化時間を調整することにより、例えば内視鏡用ゲルのような、室温における流動性が高いことが求められる架橋タンパク質の提供、組織用接着剤、止血剤等のような、ゲル化時間が短いことが求められる架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質の提供等、用途の異なる材料の提供が可能となるため、非常に有用であると考えている。
【0017】
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、加熱によりゲニピンの開環する割合が高くなるため、ピラン環構造部分が開環したゲニピンとタンパク質のアミノ基との接触確率が高くなり、タンパク質のアミノ基を早く架橋することが可能となると推測している。
【0018】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、架橋活性に優れた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤を提供することである。
本発明の他の一実施形態が解決しようとする課題は、ゲル化時間が短い架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルを提供することである。
本発明の他の一実施形態が解決しようとする課題は、架橋活性に優れた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法を提供することである。
本発明の他の一実施形態が解決しようとする課題は、ゲル化時間が短い架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式Aにより表される化合物を含む、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤。
【0020】
【化1】
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【0021】
式A中、Mは対カチオンを表し、Rは置換基を表し、nは0~2の整数を表す。
<2> ゲニピンを加熱してなる反応物である、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤。
<3> 前記<1>又は<2>に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質とを含む、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
<4> 前記高分子多糖類又はタンパク質が、キトサンである、前記<3>に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
<5> 前記高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の含有量が、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全量に対し、1mmol/L~6mmol/Lである、前記<3>又は<4>に記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
<6> 前記高分子多糖類又はタンパク質の含有量が、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全質量に対し、0.5質量%~10質量%である、前記<3>~<5>のいずれか1つに記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
<7> pHが6.0~9.0である、前記<3>~<6>のいずれか1つに記載の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル。
<8> リン酸緩衝液中で、ゲニピンを加熱する工程を含む、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
<9> 前記リン酸緩衝液が、リン酸ナトリウム緩衝液である、前記<8>に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
<10> 前記リン酸緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水である、前記<8>に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
<11> 前記リン酸緩衝液が、リン酸二水素ナトリウム溶液である、前記<8>に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
<12> 前記加熱する工程における加熱温度が20℃~70℃であり、かつ、加熱時間が3時間~168時間である、前記<8>~<11>のいずれか1つに記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法。
<13> 前記<1>又は<2>に記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法。
<14>前記<8>~<12>のいずれか1つに記載の高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法により得られた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態によれば、架橋活性に優れた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤を提供することができる。
本発明の他の一実施形態によれば、ゲル化時間が短い架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルを提供することができる。
本発明の他の一実施形態によれば、架橋活性に優れた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法を提供することができる。
本発明の他の一実施形態によれば、ゲル化時間が短い架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1、2、3及び比較例1における分光光度計実験の結果である。
【図2】実施例4、比較例2及び3における貯蔵粘弾性(G’)を測定した結果である。
【図3】加熱時間の異なるゲニピン反応物を用いた架橋高分子多糖類形成用ゾルのゲル化曲線である。
【図4】ゲニピンの加熱時間と架橋高分子多糖類形成用ゾルのゲル化時間の関係を示すグラフである。
【図5】ゲルの硬さの評価結果を示すグラフである。
【図6】ゲニピン反応物の濃度を変更した場合の動的粘弾性測定結果を示すグラフである。
【図7】UV吸収スペクトルの測定結果を示すチャートである。
【図8】FT-IRスペクトルの測定結果を示すチャートである。
【図9】13C-NMRスペクトルの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示について詳細に説明する。
なお、本開示において、「xx~yy」の記載は、xx及びyyを含む数値範囲を表す。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、式で表される化合物における基の表記に関して、置換あるいは無置換を記していない場合、上記基が更に置換基を有することが可能な場合には、他に特に規定がない限り、無置換の基のみならず置換基を有する基も包含する。例えば、式において、「Rはアルキル基を表す」との記載があれば、「Rは無置換アルキル基又は置換基を有するアルキル基を表す」ことを意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
以下、本開示を詳細に説明する。

【0025】
(高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤)
本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤(以下、単に「架橋剤」ともいう。)の第一の態様は、下記式Aにより表される化合物を含む。
式Aにより表される構造は、ゲニピンに由来する構造であってもよいし、他の化合物に由来する構造であってもよいが、ゲニピンに由来する構造であることが好ましい。
また、本開示に係る架橋剤の第二の態様は、ゲニピンを加熱してなる反応物である。ゲニピンを加熱することにより、式Aにより表される化合物、すなわち、ゲニピンの開環反応物が得られているものと推測されるが、他の構造のゲニピン反応物が更に含まれている可能性等もあり、定かではない。
本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤は、アミノ基を含む高分子多糖類又はタンパク質を架橋することが可能である。
本開示に係るタンパク質架橋用架橋剤は、高分子多糖類中のアミノ基、又は、タンパク質中のアミノ基(例えば、リシン(リジン)の側鎖アミノ基)同士を架橋すると考えられる。

【0026】
【化2】
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【0027】
Rとしては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基が好ましく挙げられる。
nは0又は1が好ましく、0であることがより好ましい
式A中、Mは対カチオンを表す。Mは式A中のOと結合していても解離していてもよいが、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
また、Mとしては、特に限定されないが、例えば水素イオン、ナトリウムイオン又はマグネシウムイオン等が挙げられる。

【0028】
(高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法)
本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法は、リン酸緩衝液中で、ゲニピンを加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)を含むことが好ましい。
本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤は、ゲニピンの加熱をリン酸緩衝液中で行うことにより、身体に直接塗布可能である等、生体に適用しやすいという利点がある。

【0029】
<加熱工程>
〔リン酸緩衝液〕
加熱工程において用いられるリン酸緩衝液としては、特に制限なく公知のリン酸緩衝液を用いることが可能であるが、生体に適用しやすい観点から、リン酸ナトリウム緩衝液であることが好ましく、リン酸緩衝生理食塩水であることがより好ましい。
また、調製を容易とする観点から、リン酸二水素ナトリウム溶液であることが好ましい。
リン酸緩衝液としては、例えば、50mmol/Lのリン酸水素二ナトリウム水溶液(140mmol/Lの塩化ナトリウムを含有)と、50mmol/Lのリン酸二水素ナトリウム水溶液(140mmol/Lの塩化ナトリウムを含有)とを、超純水を溶媒として、pHメータによりpHを測定しながら撹拌、混合して、pH7.0、140mmol/L塩化ナトリウム含有50mmol/Lリン酸緩衝液として調整することが可能である。

【0030】
〔加熱方法〕
加熱工程における加熱方法としては、特に限定されないが、pHを6.0~9.0としたリン酸緩衝液中に、0.5mmol/L~20mmol/Lとしてゲニピンを溶解し、37℃とすることにより加熱される。
加熱温度、加熱時間を調整することにより、開環するゲニピンの割合(開環比)が調整される。
加熱温度としては、特に制限されないが、20℃~70℃が好ましく、30℃~40℃がより好ましい。
加熱時間としては、特に制限されないが、3時間~168時間が好ましく、3時間~72時間がより好ましく、6時間~48時間が更に好ましい。

【0031】
(架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾル)
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルは、本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質とを含む。
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルは、例えば37℃等に加熱することにより、前記高分子多糖類又はタンパク質間に本開示に係るタンパク質架橋用架橋剤による架橋が形成され、ゲルが形成される。

【0032】
<高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の含有量>
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルは、生体への毒性及びゲル化速度の観点から、前記高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の含有量が、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全量に対し、1mmol/L~6mmol/Lであることが好ましく、0.5mmol/L~3mmol/Lであることがより好ましい。

【0033】
<高分子多糖類又はタンパク質>
前記高分子多糖類又はタンパク質としては、特に限定されず、公知の高分子多糖類又はタンパク質が用いられる。
本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤は、キトサン、コラーゲン、ゼラチンなどの生体高分子多糖類又は生体タンパク質を架橋できる点が非常に有用である。
従って、前記タンパク質としては、キトサン、コラーゲン、ゼラチン等の生体高分子多糖類又は生体タンパク質が好ましく、キトサンがより好ましい。

【0034】
<高分子多糖類又はタンパク質の含有量>
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルは、高分子多糖類又はタンパク質を、1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルにおける、高分子多糖類又はタンパク質の含有量は、ゲル強度の向上およびゲル化時間を短くする観点から、架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの全質量に対し、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%がより好ましく、0.5質量%~3質量%がより好ましい。

【0035】
<pH>
架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルのpHは、6.0~9.0であることが好ましく、7.0~8.0であることがより好ましい。
上記pHは、pHメータ(堀場製作所社製、NaVih F-71)により測定される。

【0036】
(架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法)
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法の第一の態様は、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む。
本開示に係る架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルの製造方法の第二の態様は、本開示に係る高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤の製造方法により得られた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤と、高分子多糖類又はタンパク質と、を混合する工程を含む。
いずれの態様においても、混合方法としては特に制限されず、公知の混合方法を使用することが可能である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1~3及び比較例1)
<キトサン溶液の準備>
3gキトサンパウダー(和光純薬工業(株)製)を400mmol/L酢酸溶液(300mL)に入れ、溶解し、1%キトサン溶液を調製した。1%キトサン溶液を透析チューブに分注した後、超純水内に透析チューブを浸漬させ、脱塩を行った。なお、3時間毎に超純水を交換し、この作業を3回実施した。その後、15mLチューブに分注し、冷蔵庫(4℃)に保管した。
【実施例】
【0039】
<リン酸緩衝液(NPB)の準備>
濃度50mmol/Lのリン酸水素二ナトリウム水溶液(140mmol/Lの塩化ナトリウム含有)及び濃度50mmol/Lのリン酸二水素ナトリウム水溶液(140mmol/Lの塩化ナトリウム含有)を、超純水を溶媒として調製した。pHメータ(堀場製作所社製、商品名「NAVIh F-71」)によりpHを測定しながら、これらを撹拌、混合し,pH7.0、140mmol/L塩化ナトリウム含有50mmol/Lリン酸緩衝液を調整し、これをNPBとした。
【実施例】
【0040】
<ゲニピン溶液の準備>
ゲニピン(和光純薬工業(株)製)をNPBに溶解し,濃度2mmol/L~10mmol/Lのゲニピン水溶液を調製した。これを50mLチューブに入れた後、冷蔵庫(4℃)に保管した。
【実施例】
【0041】
<ゲニピン溶液の加熱>
上記ゲニピン溶液を37℃水浴で6時間、12時間又は24時間加熱した。その後、10mLシリンジ(テルモ社製 製品名「テルモシリンジ SS-10LZP」)の先端に0.45μmサイズのフィルター(Merck millipore社 製品名Filter unit)を取り付けた後、加熱したゲニピンをろ過した。フィルターろ過後、50mLチューブに分注し、ゲニピン溶液として、冷蔵庫に保管した。6時間加熱したゲニピン反応物溶液をGe(6)、12時間加熱したゲニピン反応物溶液をGe(12)、24時間加熱したゲニピン反応物溶液をGe(24)、加熱を行わなかったゲニピン溶液をGe(0)とした。
【実施例】
【0042】
13C-NMR実験>
Ge(24)を用い、13C-NMR(JEOL社 製品名JNM-ECA600)にて構造変化を評価した。
Ge(24)を凍結した後凍結乾燥機にて24時間乾燥した。
凍結乾燥したサンプルをDO溶液に溶かした後、NMRチューブ(直径4mm)に注入した。その後、13Cの周波数は150MHzで実施した。
【実施例】
【0043】
<分光光度計実験>
ゲニピン溶液Ge(6)、Ge(12)、Ge(24)及びGe(0)に対し、分光光度計((株)島津製作所製 UV-3100S)を用いて、極大吸収波長を調べた。測定波長は200~400nmで実施した。
【実施例】
【0044】
<動的粘弾性実験>
キトサンを基質として、ゲニピン反応物溶液Ge(6)、Ge(12)、Ge(24)及びGe(0)の架橋活性を動的粘弾性測定により評価した。動的粘弾性装置として、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の商品名「HAAKE MARS III」を用いた。ジオメトリ及び測定プログラムは実験目的に応じて使い分けた。以下に測定条件を示す。
【実施例】
【0045】
下記表1に、各実施例及び比較例において用いたキトサン含有量、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤のゲニピン反応物(ゲニピン)含有量、溶媒、加熱時間、ゲニピン反応物溶液の種類を記載した。
【実施例】
【0046】
【表1】
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【実施例】
【0047】
(実施例1の結果)
表1の実施例1のゲニピン反応物溶液を用いた、分光光度計実験の結果を図1に示す。実施例1の結果、極大吸収波長は250nmであり、加熱を行っていない比較例1のゲニピン溶液の極大吸収波長240nmと比較して、極大吸収波長がシフトしていることがわかる。
これは、ゲニピンの加熱により極大吸収波長がシフトしたためであると推測される。
【実施例】
【0048】
(実施例2の結果)
表1の実施例2のゲニピン反応物溶液を用いた、分光光度計実験の結果を図1に示す。実施例2の結果、極大吸収波長は248nmであり、比較例1のゲニピン溶液の極大吸収波長240nm及び実施例1のゲニピン溶液の極大吸収波長246nmと比較して、極大吸収波長がシフトしていることがわかる。
これは、ゲニピンの開環により極大吸収波長がシフトしたためであると推測され、実施例1におけるゲニピン溶液よりも、実施例2におけるゲニピン反応物溶液の方が、開環したゲニピンが多いことが推測される。
【実施例】
【0049】
(実施例3の結果)
表1の実施例3のゲニピン反応物溶液を用いた、分光光度計実験の結果を図1に示す。実施例3の結果、極大吸収波長は252nmであり、比較例1のゲニピン溶液の極大吸収波長240nm、実施例1のゲニピン反応物溶液の極大吸収波長246nm及び実施例2のゲニピン反応物溶液の極大吸収波長248nmと比較して、極大吸収波長がシフトしていることがわかった。
これは、ゲニピンの開環により極大吸収波長がシフトしたためであると推測され、実施例1及び実施例2におけるゲニピン反応物溶液よりも、実施例3におけるゲニピン反応物溶液の方が、更に開環したゲニピンが多いことが推測される。
【実施例】
【0050】
(比較例1の結果)
表1の比較例1のゲニピン溶液を用いた、分光光度計実験の結果を図1に示す。比較例1の結果、極大吸収波長は240nmを示した。
【実施例】
【0051】
(実施例4及び比較例2~3)
<ゼラチン溶液の準備>
濃度10質量%になるようゼラチンパウダー(MP Biomedicals社)を超純水にて調整した後、70℃の水浴で溶解した。これを15mL遠心チューブにて小分けし冷蔵庫(4℃)に保管した。
【実施例】
【0052】
〔37℃における架橋活性〕
上述のゼラチン溶液と、上述のGe(24)又はGe(0)を混合し、撹拌操作を経て測定を開始した。
23℃にて60秒間保持した後、37℃まで30秒間昇温し、30分間その温度で一定に保持したときの貯蔵粘弾性を測定した。測定条件は下記のとおりであった。
ジオメトリ:パラレルセンサー(内径60mm)
測定プロファイル:CD(Controlled Deformation)モードによるオシレーション測定(せん断応力=1Pa、温度23℃~37℃、周波数=1Hz、時間=60分)とした。
測定開始後、貯蔵粘弾性(G’)と損失弾性率(G’’)とが交差するまでの時間を「37℃のゲル化時間」とした。
【実施例】
【0053】
下記表2に、各実施例及び比較例において用いたゼラチン含有量、高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤のゲニピン反応物(ゲニピン)含有量、溶媒、加熱時間、ゲニピン反応物溶液の種類を記載した。
【実施例】
【0054】
【表2】
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【実施例】
【0055】
(実施例4及び比較例2~3の結果)
表2の実施例4又は比較例2~3の架橋高分子多糖類又は架橋タンパク質形成用ゾルを用いて、貯蔵粘弾性(G’)を測定した結果を図2に示した。測定温度は37℃とした。
図2に記載の結果から、加熱していないゲニピンを用いた場合と比較して、加熱したゲニピンを用いた場合には、基質としてゼラチンを用いた場合であっても、ゲル化時間が短くなることがわかる。
【実施例】
【0056】
(実施例5~10及び比較例4~5)
【実施例】
【0057】
<材料>
以下の実施例において使用した化合物の詳細は下記の通りである。
・ゲニピン粉末:和光純薬工業(株)製、
・キトサン100:和光純薬工業(株)製
・酢酸:和光純薬工業(株)製
・リン酸二水素ナトリウム:和光純薬工業(株)製
・リン酸水素二ナトリウム:和光純薬工業(株)製
・重水:ISOTEC(株)製
【実施例】
【0058】
<リン酸緩衝液の調製>
リン酸水素二ナトリウム水溶液及びリン酸二水素ナトリウム水溶液を濃度100 mmol/Lで調製し、pHが7.0になるように混合した(PB-100)。同様の操作で濃度400mMのリン酸緩衝液も調製した(PB-400)。
【実施例】
【0059】
<キトサン水溶液の調製>
キトサン100の粉末2gを5%酢酸水溶液に加え、キトサンが完全に溶解するまで攪拌した。得られた水溶液を透析チューブ(分画分子量:1kDa)に入れ、純水に対して透析した。透析外液のpHが5.0を超えたことを確認し、透析外液であるキトサン水溶液を回収した。その一部を取り出して60℃、一晩乾燥させた後の質量からキトサン濃度を求めた。イオン交換水を添加して濃度を1.4質量%に調節したものを以下の実験に用いた。
【実施例】
【0060】
<ゲニピン反応物溶液の調製>
ゲニピン粉末(5mg/mL)を200mLのPB-100もしくはイオン交換水に加え、室温にてマグネティックスターラーで完全に溶解させた。PB-100に溶解したGeを37℃の水浴で加熱し、加熱時間が12時間、24時間、36時間、及び48時間のゲニピン反応物溶液を調製した。
加熱時間が12時間のゲニピン反応物溶液をGe-12、加熱時間が24時間のゲニピン反応物溶液をGe-24、加熱時間が36時間のゲニピン反応物溶液をGe-36、加熱時間が48時間のゲニピン反応物溶液をGe-48とした。
また、イオン交換水に溶解したゲニピンを使用直前にPB-400と混合して希釈し、溶媒をPB-100としたゲニピン溶液をGe-0と定義した。
【実施例】
【0061】
<架橋高分子多糖類形成用ゾルの製造>
バイオロジカルチューブ(容量15mL又は50mL)に1.4質量%キトサン水溶液を所定重量加え、撹拌を促すためにマグネティックスターラーを装填した。PB-100で50μg/mLまで希釈した上記Ge-12、Ge-24、Ge-36、Ge-48、及び、Ge-0を、それぞれ、キトサン水溶液の比重を1と見なして等容積添加した。チューブを振り混ぜた後、2500rpmで30秒間遠心分離して脱泡し、架橋高分子多糖類形成用ゾルを製造した。製造後、速やかに動的粘弾性測定へと供した。
【実施例】
【0062】
<動的粘弾性測定によるゲニピン架橋特性の評価>
〔粘弾性変化の追跡〕
レオメータ(HAAKE Mars III、Thermo fisher Scientific Inc.製)を用いて架橋高分子多糖類形成用ゾルの動的粘弾性測定を行い、粘弾性の時間変化を追跡した。温度を37℃に設定したパラレルプレートセンサー(直径60mm)のボトムに架橋高分子多糖類形成用ゾルを流し、上部センサーをギャップ1mmまで近づけ、一定応力下(1Pa)、周波数1Hzの動的粘弾性測定を開始した。貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)の変化を記録し、G’とG’’の交点(ゲル化点)に達する時間をゲル化時間と定義した。
【実施例】
【0063】
〔ゲルの硬さの評価〕
シャーレ上に作製したゲルの動的粘弾性測定を行い、架橋されたキトサンゲルの硬さからゲニピン反応物の架橋能を評価した。架橋高分子多糖類形成用ゾルを内径35mmのバイオロジカルディッシュに流し込み、ゲルの乾燥を防ぐために加湿した37℃インキュベーターに静置した。24時間後にディッシュをインキュベーターから取り出し、動的粘弾性測定に供した。ディッシュの底面には滑り防止のためシリコーンゴムシートを挿入し、内径20mmの上部センサーには紙やすりを予め貼付した。上部センサーをゲルに接触させ、周波数0.2Hzの応力分散測定(0.1Pa~100Pa)を行った。線形粘弾性測定が実行された応力1Paもしくは10PaにおけるG’を記録した。
【実施例】
【0064】
上記粘弾性変化の追跡及びゲルの硬さの評価における、各実施例又は比較例において使用された架橋高分子多糖類形成用ゾルの詳細は、表3に記載の通りである。
実施例9、実施例10及び比較例5においては、ゲニピン反応物又はゲニピンの含有量(最終濃度)が下記値となるように、ゲニピン溶液を希釈した後にキトサン水溶液と混合した。
【実施例】
【0065】
【表3】
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【実施例】
【0066】
上記粘弾性変化の追跡及びゲルの硬さの評価結果を図3~図6に示す。
図3は加熱時間の異なるゲニピン反応物を用いた架橋高分子多糖類形成用ゾルのゲル化曲線である。
図3から、架橋高分子多糖類形成用ゾルの10分後のG’の増加はゲニピンの加熱時間が長くなるにつれて促進されることがわかる。
Ge-0を用いた場合にG’は最も穏やかな増加を示し、測定開始から10分後におけるG’は0.65Paであった。一方、Ge-48を用いた場合にG’は最も鋭い増加を示し、測定開始から10分後におけるG’は41Paに達した。
【実施例】
【0067】
ゲニピンの加熱時間と架橋高分子多糖類形成用ゾルのゲル化時間の関係を図4に示す。加熱時間が長いほどゲル化時間が短くなり、図3で示されたゲニピンの加熱時間とG’の関係性を反映していた。Ge-0を用いた場合のゲル化時間が5.8分間であったのに対し、Ge-48ではゲル化時間が0.6分間まで短縮された。
【実施例】
【0068】
ゲルの硬さの評価において、ディッシュに作製した架橋高分子多糖類形成用ゾルの24時間後のG’を図5に示す。ゲニピンの加熱時間が増加するにつれてゲルの弾性率が低下した。Ge-0を用いた場合のゲル弾性率は1999±173Paであったが、Ge-48を用いた場合には726±74Paまで低下した。
【実施例】
【0069】
ゲニピン反応物の濃度を変更した場合の動的粘弾性測定結果を図6に示す。同じGe濃度(500μg/ml)において、Ge-24を用いた場合のゲル化はGe-0を用いた場合よりも速いことがわかる。またGe-24の濃度を75μg/mlまで低下させると、ゲル化速度は500μg/mlのGe-0に近い値となった。
【実施例】
【0070】
以上のように、本実施例に係る加熱後のゲニピンを用いることにより、架橋活性に優れた高分子多糖類又はタンパク質架橋用架橋剤が提供されることがわかる。
ここで、架橋活性に優れるということは、同濃度で添加した場合に架橋速度が速くなるという点においても有用であるし、また、架橋速度を同等とするための架橋剤の濃度を低濃度とすることができるという点においても、細胞毒性等を考慮すると非常に有用であると考えられる。
また、本実施例によれば、ゲニピンの加熱時間を調整することにより、ゲル化時間(ゲル化速度)を調整することができることもわかる。
【実施例】
【0071】
〔ゲニピンの構造分析〕
加熱によるゲニピンの構造変化を分析するため、紫外(UV)分光分析、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光分析、及び13C核磁気共鳴(NMR)分析を行った。
【実施例】
【0072】
-UV分光分析-
分光光度計(UV-3100S、島津製作所製)を用いてGe-0(比較例6)、Ge-24(実施例11)及びGe-48(実施例12)のUVスペクトルを、波長200~300nmの範囲で測定した。調製後のGe-0、Ge-24及びGe-48の濃度はUV分光分析には濃度が高すぎたので、PB-100を加えて濃度を25μg/mLまで希釈してから測定した。
【実施例】
【0073】
-FT-IR-
FT-IR装置(FT/IR-6300、日本分光社製)を用いてゲニピンの官能基の分析を行った。Ge-0(比較例7)又はGe-48(実施例13)を凍結乾燥した粉末10mgと臭化カリウム粉末500mgを混合し、乳鉢で均一化した後、錠剤成形器に入れて加圧製錠した。測定波長は3800cm-1から400cm-1まで、分解能4cm-1、積算回数64回とした。PB-100を乾燥したサンプルの測定をブランク測定として同時に行った。各Geのスペクトルは実測スペクトルとPB-100のスペクトルの差スペクトルとして表示した。
【実施例】
【0074】
13C-NMR-
NMR装置(JNM-ECA600、JEOL Resonance inc)を用いて、デカップリングモードによる13C-NMR定量測定を行った。Ge-0(比較例8)はGe粉末(5mg/mL)を脱イオン水で溶解した後、エバポレータ(RE301B-V、ヤマト科学製)を用いてGe水溶液を濃縮し、PB-400を添加して溶媒濃度がPB-100になるように調節した。Ge-48(実施例14)は同様にエバポレータを用いて水溶液を濃縮した。その後、重水を4分の1容量添加して、NMR管(直径4mm)に充填した。周波数150 MHzで測定を行った。
【実施例】
【0075】
<測定結果>
図7にUV吸収スペクトルの測定結果を示す。Ge-0は波長240nmに極大吸収を示した。一方、ゲニピンの加熱により極大吸収波長は長波長側へシフトし、Ge-48では極大吸収波長が252nmであった。Ge-12、Ge-24、およびGe-36のUV吸収スペクトルはGe-48とほぼ重なった。
【実施例】
【0076】
図8にFT-IRスペクトルの測定結果を示す。Ge-0およびGe-48を比べると、ジヒドロピラン環のC=Oに帰属されるピーク(1632cm-1)にゲニピンの水酸基に帰属されるピーク(3285cm-1および3378cm-1)が同時に減少した。
【実施例】
【0077】
図9に13C-NMRスペクトルの測定結果を示す。ゲニピンを構成する炭素の13C-NMRスペクトルの帰属はMichael F, Yiu-FAI NG, Paul D, “Mechanism and Kinetics of the Crosslinking Reaction between Biopolymers Containing Priamry Amine Groups and Genipin”, Marine Drugs, 2003:8,3941-3953を参照し、図中に各炭素の帰属を示した。Ge-0とGe-48の明確な違いが2点観察された。1つ目は、Ge-0では見られなかったカルボニル炭素領域(180~210 ppm)に明瞭な2本のピークがGe-48に出現したこと、2つ目はピークの数がGe-0の12本から著しく増加したことである。
【実施例】
【0078】
UVスペクトルの極大吸収波長のシフト(図7)は、ゲニピンの芳香環においてπ電子の状態を変えるような構造変化が生じたことを意味する。
FT-IRスペクトルのピラン環由来の吸収ピークの減少(図8)は、ピラン環の開裂を示唆するものである。
13C-NMRスペクトルには、Ge-0では観察されなかったカルボニル炭素領域に少なくとも2本の新たなピークが出現した(図9)。FT-IRスペクトルにおける水酸基由来の吸収ピーク強度の減少も考慮すると、ピラン環の開裂によるアルドールの形成が強く示唆され、少なくとも式Aにより表される化合物は含まれていると考えられる。
以上の解析により、加熱によりゲニピンのピラン環が開環することが示唆されるが、13C-NMRスペクトルに見られる多数のピークから、加熱によるゲニピンの構造変化パターンは複数種あるとも考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8