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明細書 :ホウ素含有化合物とタンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年5月24日(2018.5.24)
発明の名称または考案の名称 ホウ素含有化合物とタンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物
国際特許分類 A61K  47/66        (2017.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  31/69        (2006.01)
A61K  41/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
FI A61K 47/66
A61P 35/00
A61K 31/69
A61K 41/00
A61K 47/42
国際予備審査の請求
全頁数 21
出願番号 特願2017-534171 (P2017-534171)
国際出願番号 PCT/JP2016/071899
国際公開番号 WO2017/026276
国際出願日 平成28年7月26日(2016.7.26)
国際公開日 平成29年2月16日(2017.2.16)
優先権出願番号 2015156726
優先日 平成27年8月7日(2015.8.7)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】中村 浩之
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
4C086
Fターム 4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA11
4C084AA12
4C084MA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA43
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZB26
要約 大量のホウ素を腫瘍組織へ選択的に送り込む手段の確立を目的として、式(I):X-L-Y〔式中、Xは10Bを含有する基を表し、Lはリンカーを表し、Yはリジン残基と結合する基を表す。〕で表される化合物と、リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物であって、組成物中に含まれる前記化合物と前記タンパク質のモル比(前記化合物のモル数/前記タンパク質のモル数)が10を超えるモル比であることを特徴とする医薬組成物を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
式(I):X-L-Y〔式中、Xは10Bを含有する基を表し、Lはリンカーを表し、Yはリジン残基と結合する基を表す。〕で表される化合物と、リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物であって、組成物中に含まれる前記化合物と前記タンパク質のモル比(前記化合物のモル数/前記タンパク質のモル数)が10を超えるモル比であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質が、トランスフェリンであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質が、アルブミンであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
式(I)におけるYが、マレイミジル基又はイソチオシアネート基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
式(I)におけるXが、ホウ素クラスターから誘導される基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
式(I)におけるXが、クロソドデカボレート、クロソカルボラン、又はニドカルボランから誘導される基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
式(I)におけるLが、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ホウ素中性子捕捉療法に用いられることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素10(10B)を含む化合物と腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy; BNCT)とは、人体には無害の低エネルギー熱中性子をホウ素薬剤により捕捉させ、熱中性子と10Bとの反応により、一細胞内の微小環境でリチウムとα線を発生させて癌細胞を破壊する新しい癌治療法である。
【0003】
低エネルギーの熱中性子はエネルギーの高い高速中性子とは異なり、人体には無害であるが、熱中性子と10Bとの反応は、リチウムとヘリウム原子核(α線)を生じ、これらのエネルギーは2.4MeVとおよそ1つの細胞を破壊するのに十分なエネルギーである。
【0004】
癌治療の理想的な方法とは、正常組織に重大な障害を与えることなく、癌細胞を殺すことであり、BNCTによって有効な治療効果を得るためにはホウ素を癌細胞に選択的にデリバリーする必要がある。
【0005】
血管形成が未熟な腫瘍組織周辺は、リポソームなどの微粒子が蓄積しやすいという特性(EPR効果、Enhanced permeation and retention effect)がある。この特性に基づき、リポソームを利用した癌細胞へのホウ素のデリバリーシステムが開発されてきた。例えば、本発明者らは、リポソームの脂質二分子膜へホウ素化合物を導入し、非常に高濃度でホウ素をデリバリーできるシステムの開発に成功している(非特許文献1)。また、ホウ素化合物を導入したリポソーム膜内にも、ホウ素化合物を導入することにより、ホウ素の高集積化に成功している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】H. Nakamura, Y. Miyajima, T. Takei, S. Kasaoka, K. Maruyama, Chem. Commun. 1910-1911 (2004)
【非特許文献2】H. Koganei, M. Ueno, S. Tachikawa, L. Tasaki, H. S. Ban, M. Suzuki, K. Shiraishi, K. Kawano, M. Yokoyama, Y. Maitani, K. Ono, H. Nakamura, Bioconjugate Chem. 24, 124-132 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにリポソームを利用したデリバリーシステムは、大量のホウ素を癌細胞へ送り込むことが可能であるが、癌細胞への選択性はあまり高くなく、癌細胞だけでなく、腎臓や脾臓にもホウ素を蓄積させてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来のホウ素デリバリーシステムの問題を解決し、大量のホウ素を癌組織へ選択的に送り込む手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、クロソドデカボレートのようなホウ素クラスターをマレイミドと結合させ、更にこの化合物にアルブミンを結合させたものが高い選択性を持って腫瘍組織に取り込まれることを見出した。また、当初、マレイミドはアルブミン内のフリーのシステイン残基(ジスルフィド結合を形成していないシステイン残基、Cys 34)とのみ結合していると考えられていたが、アルブミン内のリジン残基とも結合していることを見出し、この知見から以下の発想を得た。
1)タンパク質中に存在するリジン残基の数は、フリーのシステイン残基の数に比べ、非常に多いことから、タンパク質1分子に対して、非常に多くのマレイミド分子を結合させ得ること、
2)トランスフェリンのようなフリーのシステイン残基を持たないタンパク質にも、マレイミドを介してホウ素クラスターを結合させ得ること、
3)マレイミドの代わりに、イソチオシアネート基などのリジン結合基を利用して、タンパク質にホウ素クラスターを結合させ得ること、
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下の(1)~(8)を提供するものである。
(1)式(I):X-L-Y〔式中、Xは10Bを含有する基を表し、Lはリンカーを表し、Yはリジン残基と結合する基を表す。〕で表される化合物と、リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを含む医薬組成物であって、組成物中に含まれる前記化合物と前記タンパク質のモル比(前記化合物のモル数/前記タンパク質のモル数)が10を超えるモル比であることを特徴とする医薬組成物。
【0011】
(2)リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質が、トランスフェリンであることを特徴とする(1)に記載の医薬組成物。
【0012】
(3)リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質が、アルブミンであることを特徴とする(1)に記載の医薬組成物。
【0013】
(4)式(I)におけるYが、マレイミジル基又はイソチオシアネート基であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
(5)式(I)におけるXが、ホウ素クラスターから誘導される基であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0015】
(6)式(I)におけるXが、クロソドデカボレート、クロソカルボラン、又はニドカルボランから誘導される基であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0016】
(7)式(I)におけるLが、アルキレン基(但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。)であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0017】
(8)ホウ素中性子捕捉療法に用いられることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0018】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2015-156726の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医薬組成物は、腫瘍細胞に選択的に取り込まれ、正常な細胞にはほとんど取り込まれないので、腫瘍細胞を選択的に破壊することができる。また、腫瘍細胞に取り込まれるホウ素の量も多いので、投与量を少なくすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】MIDの合成経路を示す図。
【図2】MIDとアルブミン(BSA)のコンジュゲートの生体分布を示す図。
【図3】MIDとアルブミン(BSA)との結合実験の結果を示す図。
【図4】MIDとアルブミン(BSA)との濃度依存的結合実験の結果を示す図。
【図5】MIDとアルブミン(BSA)との時間依存的結合実験の結果を示す図。反応時間:1h (lane1-3 )、3h (lane 4)、6h (lane 5)、12h (lane 6)、24h (lane 7)、Buffer pH=7.4.
【図6】NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)とトランスフェリンの結合実験の結果を示す図。Buffer (PBS): pH=7.4 (lane1,2,6)、8.0 (lane3)、9.0 (lane4)、10 (lane5)
【図7】NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)とトランスフェリンの濃度依存的結合実験の結果を示す図。Buffer: pH=10 (lanes1-5)、pH=7.4 (lanes 6-9)
【図8】MIDとNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)のBSAおよびトランスフェリンに対する結合実験の結果を示す図。Buffer: pH=7.4
【図9】MIDとアルブミン(BSA)およびトランスフェリンとの結合実験の結果を示す図。
【図10】MIDとアルブミン(BSA)とのpH依存的結合実験の結果を示す図。
【図11】マウス大腸癌細胞へのホウ素試薬の取込み実験の結果を示す図。
【図12】MIDで処理したマウス血液のWestern Blottingの結果を示す図。
【図13】MID-BSAコンジュゲートを注入したマウスにおける腫瘍量の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の医薬組成物は、式(I):X-L-Y〔式中、Xは10Bを含有する基を表し、Lはリンカーを表し、Yはリジン残基と結合する基を表す。〕で表される化合物と、リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを含有することを特徴とするものである。

【0022】
本発明において「コンジュゲート」とは、式(I)で表される化合物と、リジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とが結合して生成した複合体を意味する。

【0023】
本発明において「腫瘍集積性タンパク質」とは、腫瘍細胞又は腫瘍組織に選択的に集まる性質を示すタンパク質を意味し、例えば、EPR効果を示すタンパク質などが含まれる。EPR効果を得るためには、タンパク質の分子サイズが重要であり、例えば、粒径であれば、1~200nmであることが好ましく、4~100nmであることがより好ましく、分子量であれば、40~2000kDaであることが好ましく、60~1500kDaであることがより好ましい。従って、本発明の「腫瘍集積性タンパク質」も、このような粒径及び/又は分子量であることが好ましい。腫瘍集積性タンパク質の具体例としては、アルブミン、トランスフェリン、サイトカイン、増殖因子、免疫グロブリンなどを挙げることができる。アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、マウス血清アルブミン、ラット血清アルブミンなどを挙げることができる。アルブミンとして、HSAを用いる場合は、本発明の医薬組成物を投与する患者から採取したHSAを用いてもよく、それ以外のHSAを用いてよい。トランスフェリンとしては、ウシ血清トランスフェリン、ヒト血清トランスフェリン、マウス血清トランスフェリン、ラット血清トランスフェリンなどを挙げることができる。免疫グロブリンは、全抗体、抗体フラグメントのいずれでもよい。抗体フラグメントとしては、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなどを挙げることができる。免疫グロブリンのクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれでもよい。免疫グロブリンは、ヒト由来のものであっても、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギなど)由来のものであってもよい。

【0024】
式(I)におけるXは、10Bを含有する基であればどのようなものでもよく、BPAのように分子中に一つホウ素原子を持つ化合物から誘導される基でもよいが、ホウ素クラスターから誘導される基が好ましい。ホウ素クラスターは、ホウ素中性子捕捉療法に用いることができる多面体構造のものであればどのようなものでもよく、例えば、クロソドデカボレート([B12H12]2-)、イオン性クロソカルボラン([CB11H12]-)、脂溶性クロソカルボラン([C2B10H12])、ニドカルボラン([C2B9H11]-)、ビスジカルボリド金属錯体([(C2B9H11)2M])、GB10([B10H12]2-)などを挙げることができる。ホウ素クラスター中に含まれるホウ素原子は、すべて10Bであってもよいが、一部のみが10Bであってもよい。なお、本明細書中では、「ホウ素クラスターから誘導される基」というように「誘導される基」という表現が用いられているが、これは、例えば、ホウ素クラスター中の一つの水素原子を除去することによって誘導される基を意味する。

【0025】
式(I)におけるYは、リジン残基と結合する基であればどのようなものでもよく、例えば、マレイミジル基(マレイミドの窒素原子と結合する水素原子を除去することによって誘導される基)、イソチオシアネート基(-N=C=S)、イソシアネート基(-N=C=O)、アルデヒド(-CHO)、ケトン(-CO-)、塩化スルホニル(-SO2Cl)、活性化エステル(-CO2Su、-CO2Bt、-CO2At、但し、Su、Bt、At下記の基を表す)などを挙げることができる。
【化1】
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【0026】
式(I)におけるLは、リンカーとしての機能を持つものであればどのようなものでよいが、アルキレン基であることが好ましい。但し、アルキレン基の1以上の-CH2-は、-O-、-S-、-NH-、又は-CO-で置換されていてもよい。アルキレン基の炭素数は特に限定されないが、5~20であることが好ましく、5~15であることがより好ましい。なお、アルキレン基中の-CH2-を、-O-、-S-、又は-NH-で置換した場合も、これらの基は1つの炭素を持つものとして、前記した「アルキレン基の炭素数」に含める。好ましいリンカーとしては、-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH-CO-CH2-CH2-CH2-、-S-CH2-CH2-O-CH2-CH2-NH-CO-CH2-CH2-CH2-、-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-、-S-CH2-CH2-O-CH2-CH2-、-CO-NH-CH2-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-O-CH2-CH2-CH2-NH-CO-CH2-CH2-などを挙げることできるが、これらに限定されるわけではない。

【0027】
式(I)で表される化合物の具体例としては、実施例に記載したリンカーを介してマレイミドをクロソドデカボレートに結合させた化合物(化合物1)(Maleimide-closo-dodecaborate conjugate、以下、「MID」ということがある。)、リンカーを介してイソチオシアネート基をクロソドデカボレートに結合させた化合物(化合物11)(以下、「NCS-ドデカボレート」ということがある。)などを挙げることができる。

【0028】
組成物中に含まれる式(I)で表される化合物とリジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質のモル比(前記化合物のモル数/前記タンパク質のモル数)は、10を超えることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましい。このように前記タンパク質に対する前記化合物の量を多くすることにより、前記タンパク質に結合する前記化合物の分子数が多くなり、その結果、腫瘍組織に取り込まれるホウ素量が多くなると考えられる。

【0029】
式(I)で表される化合物とリジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートは、前記化合物と前記タンパク質を混合し、両者を反応させることにより生成できる。

【0030】
混合時における前記タンパク質と前記化合物のモル比(前記化合物のモル数/前記タンパク質のモル数)は、前述したように、10を超えることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましい。このモル比の上限は特にないが、前記タンパク質に対する前記化合物のモル比がある値を超えると、前記化合物を添加しても、それ以上前記タンパク質と結合しなくなり、添加した前記化合物が有効に利用されなくなるので、その値(頭打ちになるモル比)を超えないモル比にすることが好ましい。

【0031】
反応時のpHは、中性(例えば、6.4~8.4、好ましくは、6.9~7.9)としてもよいし、塩基性(例えば、9.0~11.0、好ましくは、9.5~10.5)としてもよい。リジン残基と結合する基の種類によっては、塩基性でなければ効率的にコンジュゲートを生成しない場合があるので(例えば、リジン残基と結合する基がイソチオシアネート基である場合など)、そのような場合、反応時のpHは塩基性とすることが好ましい。

【0032】
反応温度は、特に限定されないが、通常、0~50℃であり、好適には、10~40℃である。

【0033】
反応時間は、特に限定されないが、通常、5分~24時間であり、好適には、1時間~12時間である。

【0034】
式(I)で表される化合物は、実施例に記載された方法に従って、あるいはその記述を参照しつつそれらの方法に適宜に改変や修飾を加えた方法に従って合成することができる。例えば、10Bを含有する基を誘導できる化合物(クロソドデカボレートやBSHなど)にリンカーを結合させ、このリンカーにリジン残基と結合する基を誘導できる化合物(マレイミドやTCDIなど)を結合させることにより、合成できる。

【0035】
本発明の医薬組成物は、ホウ素中性子捕捉療法に用いられる。即ち、本発明の医薬組成物をヒト又はヒト以外の動物(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)に投与し、その後、低エネルギー熱中性子を照射し、それにより腫瘍細胞を選択的に破壊する。治療対象とする疾患としては、悪性腫瘍、例えば、脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部癌、肺癌、肝癌、甲状腺癌、皮膚癌、膀胱癌、中皮腫、膵癌、乳癌、髄膜腫、肉腫などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。

【0036】
式(I)で表される化合物とリジン残基を有する腫瘍集積性タンパク質とのコンジュゲートを医薬組成物として使用する場合、公知の方法に従い薬学的に許容される担体又は希釈剤と混合することにより、このコンジュゲートを製剤化することができる。剤型は特に限定されず、注射剤、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、坐剤、徐放剤などとすることができる。投与方法も特に限定されず、経口的又は非経口的(皮内、腹腔内、静脈、動脈、又は脊髄液への注射又は点滴等による投与)に投与することができる。投与量は、投与対象、投与方法などにより異なるが、例えば、成人に対して、注射剤として投与する場合、1回当たり、前記コンジュゲートが10~1000mg/kgとなるように1度の治療に1~数回に分けて投与することができる。

【0037】
従来のホウ素中性子捕捉療法に用いられるホウ素薬剤は、腫瘍細胞だけでなく、腎臓や脾臓の正常細胞にも取り込まれてしまう問題があったが、本発明の医薬組成物は、腫瘍細胞に選択的に取り込まれ、正常な細胞にはほとんど取り込まれないため、正常細胞に重大な障害を与えることなく、腫瘍細胞を選択的に破壊することができるという利点がある。

【0038】
また、本発明の医薬組成物は、腫瘍細胞に取り込まれるホウ素の量も、従来のホウ素薬剤よりも多いので、投与量を少なくすることができるという利点もある。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕 MIDの合成
(1)化合物3の合成
【化2】
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文献既知の化合物である(Igor B. Sivaev, Nadezhda Yu. Kulikova, Evgeniya A. Nizhnik, Maxim V. Vichuzhanin, Zoya A. Starikova, Andrei A. Semioshkin, and Vladimir I. Bregadze, J. Organomet. Chem. 2008, 693, 519-525)化合物4(1.3 g, 2.0 mmol)を出発原料として、NaBF4(1.1 g, 10.0 mmol)と4 M HClを1 ml、1, 4-dioxaneを70 ml加えて、温度100 ℃で12時間加熱還流した。室温まで冷却した後、副生成物を濾過して取り除き、濾液を除去した。この沈殿を塩化メチレンに溶かし、セライト濾過で不純物の沈殿を取り除いた後に、固体をエタノールで再結晶し、キリヤマ濾過をして化合物3を得た。収率 87%
1H NMR (400 MHz; CD3Cl): δ 3.72 (m, 6H), 3.30 (m, 18H), 1.53 (m, 16H), 0.99 (m, 24H)
【実施例】
【0041】
(2)化合物5の合成
【化3】
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文献既知の化合物である(Anna V. Orlova, Nikolay N. Kondakov, Boris G. Kimel, Leonid O. Kononov, Elena G. Kononova, Igor B. Sivaev, and Vladimir I. Bregadze, Appl. Organometal. Chem. 2007, 21, 98-100)化合物3(100.0 mg, 0.2 mmol)を塩化メチレン溶媒中、Bu4NN3(120.7 mg, 0.4 mmol)を加えて24時間撹拌した。反応混合液を水で3回洗い、水層を塩化メチレンで3回抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥させた。その後、カラムクロマトグラフィーで精製して、目的化合物5を得た。展開溶媒D:M = 20:1, Rf = 0.4-0.5. 収率 97%
1H NMR (400 MHz; CD3Cl): δ 4.59 (m, 4H), 3.94 (m, 4H), 3.20 (m, 8H), 1.63 (m, 8H), 1.25 (m, 8H), 1.00 (t, J= 14.8 Hz, 12H)
【実施例】
【0042】
(3)化合物2の合成
【化4】
JP2017026276A1_000006t.gif
化合物5(200.0 mg, 0.27 mmol)をTHF / H2O(10 : 1)溶媒中、Ph3P(80.8 mg, 0.31 mmol)を加えて24時間撹拌した。混合溶媒を除去して、酢酸エチル / ジエチルエーテル混合溶媒300mlで洗い、化合物2を得た。化合物2は、これ以上精製することなく、化合物MID-TBA(化合物6)の合成に用いた。
【実施例】
【0043】
(4)化合物MID-TBA(化合物6)の合成
【化5】
JP2017026276A1_000007t.gif
化合物2(300.0 mg, 0.42 mmol)を塩化メチレン溶媒中、4-Maleimidobutyric Acid(91.0 mg, 0.5 mmol)とBOP(221.0 mg, 0.5 mmol)、Et3N(0.088 ml, 0.63 mmol)を加えて24時間撹拌した。その後、2M HCl溶液(10 ml)を加え、塩化メチレンで抽出、有機層をNa2SO4で乾燥させた。溶液をセライト濾過した後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、油状物質MID-TBA(化合物6)を得た。展開溶媒D:M = 20:1, Rf = 0.2-0.3. 収率 77%
【実施例】
【0044】
(5)化合物MID-TMA(化合物7)の合成
【化6】
JP2017026276A1_000008t.gif
化合物MID-TBA(化合物6)(200.0 mg, 0.22 mmol)をメタノールに溶かし、そこへメタノールに溶かした5当量のTMA-Cl(121.8 mg, 1.12 mmol)を加え、キリヤマ濾過をして白色固体の目的化合物MID-TMA(化合物7)を得た。収率94%.
MP. 135-136 oC; IR (KBr, cm-1): 3027, 2480, 1708, 1638, 1487, 949, 829; 1H NMR (400 MHz; D2O): δ 7.09 (s, 1H), 6.65 (s, 2H), 3.44 (t, J= 5.2 Hz, 2H), 3.41-3.38 (m, 6H), 3.17 (m, 2H), 3.02 (s, 12H), 2.08 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 1.71 (m, 2H); 13C NMR (75 MHz; CD3CN): δ 173.61, 171.57, 134.50, 72.23, 70.51, 67.49, 58.59, 39.37, 37.19, 33.09, 24.54, 23.60, 19.59, 13.10; 11B NMR (96.3 MHz; D2O): δ 1.56, -21.09, -22.45, -27.236; HRMS (ESI, negative) m/z calcd. for C12H28B12N2O5Na1 [M + Na]-: 433.3093, found: 433.3098.
【実施例】
【0045】
(6)化合物MID(化合物1)の合成
【化7】
JP2017026276A1_000009t.gif
化合物MID-TMA(化合物7)(300.0 mg, 0.54 mmol)を100 mlナスフラスコに秤量し、そこへ蒸留水 20 ml、ナトリウムフォームのアンバーライトを25 ml加えて、12時間撹拌(KPG-Stirr)した。キリヤマ濾過することで、ナトリウムアンバーライトを取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで除去した後に凍結乾燥して目的化合物MID(化合物1)を得た。収率93%.
1H NMR (400 MHz; D2O): δ 6.70 (s, 2H), 3.51-3.38 (m, 8H), 3.20 (m, 2H), 2.16 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 1.76 (m, 2H); 13C NMR (75 MHz; CD3CN): δ 176.26, 173.86, 134.99, 71.50, 69.16, 68.20, 39.78, 33.46, 24.33; 11B NMR (96.3 MHz; D2O): δ 1.71, -21.15, -23.00, -27.96; HRMS (ESI, negative) m/z calcd. for C12H28B12N2O5Na1 [M + Na]-: 433.3093, found: 433.3095.
【実施例】
【0046】
〔実施例2〕MID-BSAコンジュゲートの生体分布
MIDとBSAをモル比が10:1になるようにPBS(pH 7.4)中で混合し、23℃で、12時間反応させ、MID-BSAコンジュゲートを生成させた。このMID-BSAコンジュゲートを、CT26(マウス大腸癌細胞株)を接種したBALB/cマウスの尾静脈に注入した。MID-BSAコンジュゲートの注入量は、3~30mg B/kgとなるようにした。注入後の血液、腫瘍組織、肝臓、腎臓、及び脾臓のホウ素濃度を、ICP-AESを用いて測定した。
【実施例】
【0047】
図2に示すように、腫瘍組織におけるホウ素濃度は、60 ppm(注入量:30mg B/kg)又は38 ppm(注入量:15mg B/kg)にも達した。一方、肝臓、腎臓、及び脾臓のホウ素濃度は、10 ppm以下であった。リポソームを利用したホウ素のデリバリーシステムでは、腫瘍組織だけでなく、腎臓及び脾臓にもホウ素が蓄積することから(H. Koganei etal., Bioconjugate Chem. 24, 124-132 (2013))、これらの臓器におけるホウ素濃度が低いということは驚くべきことであった。
【実施例】
【0048】
〔実施例3〕 MIDのBSAに対する結合評価
アルブミンの-SHを前もってIAA(2-iodoacetamide)、及びN-ethymaleimideによりブロックしておいてからMIDを加えることにより-SH以外のアルブミンの結合部位の同定を試みた。BSA溶液(100μM)にIAA及びN-ethymaleimide(10mM)を加えて1h撹拌した後、MID(1mM)を加えて反応を進行させ、SDS-PAGE、Western Blottingを行った。図3に示すように、SDS-PAGEの結果によりタンパク量が揃っていることが確認され、Western Blottingの結果より-SHをブロックする試薬を加えたレーン(lane 3及びlane 4)においてもアルブミンとMIDとの結合が観察された。
【実施例】
【0049】
IAAやN-ethylmaleimideの代わりに、リジン残基を選択的にブロックする試薬であるN-acetyl succinimideを用いて、上記と同様にSDS-PAGE及びWestern Blottingを行った。図3に示すように、N-acetyl succinimideのみを加えた場合は、弱いバンドが観察された(lane 5)。このバンドは、MIDとアルブミンの-SHとの結合によるものと考えられる。一方、IAAとN-acetyl succinimideを加えた場合(lane 6)、及びN-ethylmaleimideとN-acetyl succinimideを加えた場合は(lane 7)、バンドが検出されなかった。以上のことから、MIDは、-SHとリジン残基の両方でアルブミンと結合していると考えられる。
【実施例】
【0050】
次に、MID-BSAの濃度依存性評価を行ったところ、図4に示すように、BSA:MID=1:30の反応条件(lane4)において反応は頭打ちとなり、それ以上MIDを加えても結合量は増加しないことが分かった。
【実施例】
【0051】
BSA:MID=1:100の反応比率で反応を進行させた後、どれくらいの時間で反応が頭打ちになるか評価した。その結果、図5に示すように、BSAとMIDとの反応は反応時間6hまで時間依存的に進行した後、頭打ちになることが分かった。
【実施例】
【0052】
〔実施例4〕 NCS-ドデカボレートの合成
(1)NCS-ドデカボレート テトラブチルアンモニウム(TBA)塩(化合物9)の合成
【化8】
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化合物8(400mg, 0.55mmol)を塩化メチレン溶媒中、TCDI(129.9mg, 0.73mmol)とEt3N(151.9μL, 1.10mmol)を加えて一晩中撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、酢酸エチル:ジエチルエーテル=1:1混合溶媒200mLで洗った。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=15:1)を通すことで不純物の除去を行い、化合物9(319.4mg, 75%)を得た。
1H NMR (400 MHz; CD3CN): δ 3.71-3.65(m, 4H), 3.58-3.54(m, 4H), 3.10-3.06(m, 16H), 1.64-1.58(m, 16H), 1.40-1.36(m, 16H), 0.98-0.95(m, 24H)
MS ESI, negative, m/z calcd. for C5H19B12NO2S [M /2]2-:143.5 , found: 144.0.
【実施例】
【0053】
(2)NCS-ドデカボレート テトラメチルアンモニウム(TMA)塩(化合物10)の合成
【化9】
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化合物9(319.4mg,0.41mmol)をメタノールに溶かし、そこへメタノールに溶かしたTMA-Cl(226.7mg, 2.07mmol)を滴下した。3h撹拌させた後、濾過を行うことで白色固体の化合物10(152mg, 84%)を得た。
1H NMR (400 MHz; CD3CN): δ 3.71-3.69(m, 2H), 3.66-3.64(m, 2H), 3.54(m, 4H), 3.10(s, 24H);
13C NMR ( CD3CN): δ 72.56, 68.53, 67.78, 55.35, 45.42
MS ESI, negative, m/z calcd. for C5H19B12NO2S [M /2]2-:143.5 , found: 143.6.
【実施例】
【0054】
(3)NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)の合成
【化10】
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化合物10(522mg, 1.20mmol)にNa+-Amberlite(20mL)と蒸留水(50mL)を加えて一晩中撹拌を行った。キリヤマ濾過を行うことでAmberliteを取り除き、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後に凍結乾燥することで化合物11(329mg, 83%)を得た。
1H NMR (400 MHz; D2O): δ 3.79(m,4H), 3.70(m, 4H)
13C NMR ( D2O): δ 71.14, 68.67, 67.66, 45.00
MS ESI, negative, m/z calcd. for C5H19B12NO2S [M /2]2-:143.5 , found: 143.6.
【実施例】
【0055】
〔実施例5〕 ヒト血清トランスフェリンに対するホウ素化合物結合評価
ヒト血清トランスフェリン(Tf)に対してNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)を反応させた後にSDS-PAGE及びWestern Blottingにより結合評価を行った。結果を図6に示す。ここでは反応溶液のpHを変えることにより結合評価を行った。pH=10においてTfとの結合能が最も大きいことが観察された(lane 5)。また、末端にアミノ基を有するホウ素クラスター化合物との結合は観察されなかった(lane 6)。
【実施例】
【0056】
続いてTfに対してNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)の結合評価を濃度依存性について確認を行った。反応時間1時間、Tf : ホウ素クラスター化合物=1:1, 1:10, 1:50, 1:100の濃度比で反応を行った。結果を図7に示す。NCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)は濃度依存的にTfに結合した。また、pH=10 (Lanes 2-5) の方が、pH=7.4 (lanes 6-9)よりも効率よく結合することが分かった。
【実施例】
【0057】
また、Tfに対してMIDの結合実験を行った。Tfはfreeの-SHを含まないことが分かっており、通常マレイミドを含む化合物はTfには結合しない。図8に示すように、BSAに対してはpH 7.4において、MIDの方がNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)よりも結合能が高いことが分かった(lanes 2 and 3)。また、興味深いことにfreeの-SHを含まないTfに対してもMIDはNCS-ドデカボレート ナトリウム塩(化合物11)と同様に結合することが分かった(lanes 5 and 6)。
【実施例】
【0058】
〔実施例6〕 Tfに対するMIDの結合評価
MID-TfコンジュゲートをWestern Blottingにより分析した。PBS緩衝液(pH 7.4)中で、12時間、Tf(0.1mM)をMID(1mM)と反応させた。比較のため、Na2B12H11SH (BSH)及び Na2B12H12もTfと反応させ、同様に分析した(図9)。
【実施例】
【0059】
図9に示すように、TfをMIDと反応させた場合、両者の結合が確認された(lane 4)。一方、TfとNa2B12H11SH又はNa2B12H12と反応させた場合、結合は確認されなかった(lane 5及びlane 6)。
【実施例】
【0060】
〔実施例7〕 MID-BSAコンジュゲートとpHとの関係
BSAとMIDの結合性とpHとの関係をSDS-PAGEとWestern Blottingにより調べた。様々なpH条件(pH 5-10)下で、BSA(0.1mM)をMID(1mM)で処理し、処理後の混合物を電気泳動し、Western Blottingを行った(図10)。Western Blottingは、抗BSH抗体を用いて行った。
【実施例】
【0061】
図10に示すように、酸性条件下では、BSAとMIDはほとんど結合しなかった(lane 2及びlane 3)。
【実施例】
【0062】
〔実施例8〕 ホウ素取込み量の評価
マウス大腸癌細胞(colon 26細胞)へのホウ素試薬(MID又はMID-BSAコンジュゲート)の取込み量を調べた。
【実施例】
【0063】
細胞を培養皿中で24時間プレインキュベートした後、FBSの存在又は非存在下で、ホウ素試薬(ホウ素濃度は30、100、又は300ppmになるようにした。)で1時間処理し、その後、PBS(5mL x 3)で洗浄した。細胞を集め、2mLの60% HClO4 / 30% H2O2 (1:2)で70℃、1時間消化した。溶液中のホウ素濃度をICP-AESを用いて測定した。比較のため、BSHの取込み量も調べた。結果を図11に示す。図中の黒いバーがFBS存在下でのホウ素濃度を示し、白いバーがFBS非存在下でのホウ素濃度を示す。
【実施例】
【0064】
図11に示すように、いずれのホウ素試薬を用いた場合も、処理濃度に依存したホウ素の取込みが観察された。BSHの場合、FBSの非存在下の方がホウ素濃度は低かった。このことは、BSHの細胞への取込みには、FBSが必須であることを示唆する。MIDの取込みにおいても、BSHと同様の現象が観察された。これに対し、MID-BSAコンジュゲートの取込みは、FBSの存在下で抑制され、FBS非存在下で促進された。このことは、MID-BSAコンジュゲートの細胞内における蓄積がアルブミンを介在した能動的な取込みメカニズムによって誘発されることを示唆する。
【実施例】
【0065】
〔実施例9〕 MIDで処理したマウス血液のWestern Blotting
マウスの血液をPBS(lane 1)又はMIDを含むPBS(lane 2)中で1時間インキュベートした。処理後の血液を、抗BSH抗体を用いたWestern Blottingによって分析した(図12)。
【実施例】
【0066】
図12に示すように、抗BSH抗体と結合するバンドが60 kDa付近に観察された。このバンドは、血清アルブミンのものであると考えられる。従って、MIDは、注入後、循環する血液中の血清アルブミンと結合し、MID-BSAコンジュゲートと同様の作用を示すと考えられる。
【実施例】
【0067】
〔実施例10〕 MID-BSAコンジュゲートを注入したマウスにおける腫瘍量の変化
BSAへのMIDの結合を、PBS中、12時間、37℃で実施した。腫瘍を有するマウスに、尾静脈からMID-BSAのPBS溶液を注入し、京都大学研究用原子炉(KUR)で、投与後12時間に、熱中性子を照射した。照射後、時間間隔をおいて腫瘍量を測定した。この結果を図13に示す。図中の○はMID-BSAを注入せず、熱中性子を照射した場合を示す。図中の△、●、及び■は、それぞれ7.5、15、及び30mg[10B]/kgのMID-BSAを注入し、熱中性子を照射した場合を示す。
【実施例】
【0068】
図13に示すように、MID-BSAを注入しなかった場合は、時間の経過に伴い腫瘍量が増えた。これに対し、15及び30mg[10B]/kgの容量でMID-BSAを注入した場合は、腫瘍増殖の有意な抑制が観察された。30mg[10B]/kgのMID-BSAを注入した場合、照射から3日後に腫瘍サイズの一時的な増加が観察されたが、これは、おそらく腫瘍組織において高い中性子捕獲反応によって引き起こされる急性炎症に起因すると考えられる。また、腫瘍増殖の有意な抑制は、7.5mg[10B]/kgの容量で注入した場合においても観察された。
【実施例】
【0069】
本発明者らは、以前に腫瘍を有するマウスにおけるホウ素クラスター脂質リポソームの抗腫瘍効果を報告した(M. Ueno et al., Bioorg. Med. Chem., 18 (2010) 3059-3065.)。この場合、1週間、腫瘍増殖はある程度抑制されたが、熱中性子照射から1週間後に腫瘍の再増殖が観察された。これらの結果は、腫瘍組織におけるホウ素の分布はリポソームとMID-BSAで異なっており、MID-BSAはリポソームよりも積極的に腫瘍細胞に蓄積され、その結果、腫瘍を有するマウスにより高い抗腫瘍効果を示すことを示唆する。熱中性子を照射している間、高レベルのホウ素が血液中を循環しているが、照射後の右大腿部の領域では深刻な障害は観察されなかった。これらの現象は、ホウ素化リポソームの本発明者らの以前の研究でも観察された(S. Tachikawa et la., Chem. Commun., 50 (2014) 12325-12328.及びH. Koganei et la., Bioconjug. Chem., 24 (2013) 124-132.)。障害は、おそらく各ホウ素試薬に依存すると考えられる。MID-BSAは、血管や血液内容物(例えば赤血球、白血球、及び血小板)と相互作用せず、その結果、血管の損傷を最小限に留めると考えられる。また、有意なホウ素の蓄積が肝臓や腎臓など他の臓器でも観察されたが、これらのオフターゲット分布は毒性に影響を与えると考えられない。なぜなら、MID自体が潜在的に低毒性(IC50 > 1 mM)であり、これらの臓器に中性子が照射されない限り、有意な毒性を示さないからである。
【実施例】
【0070】
〔実験方法〕
上記実施例においてSDS-PAGE及びWestern Blottingは、以下のように行った。
(1)SDS-PAGE
Tf溶液(50μL, 100μM)に対して化合物11(0.5μL, 100mM)を加えた後、1時間ボルテックスによる撹拌を行った。反応溶液を低分子除去カラム(Micro Bio-Spin(登録商標) 6 Chromatography Columns)に通した後、DTTを含む5×sample buffer(12.5μL)を加え、95℃で5分間加熱した。得られたサンプルを30倍希釈したものを用いてSDS-PAGE(10%アクリルアミドゲル, 200V, 50min)を行い、CBB染色することでタンパク質のバンドを可視化した。
【実施例】
【0071】
(2)Western Blotting
SDS-PAGEにより得られたアクリルアミドゲルをメンブレンフィルターへと転写(300mA, 45min)した後、メンブレンにイムノブロックを加えシェーカーにより1時間振とうさせた。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、抗BSH抗体を用いた1次抗体結合反応を4℃環境下、一晩中撹拌を行った。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、HRPを有する2次抗体結合反応を4℃環境下、3時間撹拌を行った。TTBSバッファーによる10分間の洗浄を3回行った後、化学発光検出試薬を加え、イメージャーによる検出測定を行った。
【実施例】
【0072】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、医薬品として利用可能な組成物に関するものなので、製薬産業などの産業分野において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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