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明細書 :変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6803075号 (P6803075)
登録日 令和2年12月2日(2020.12.2)
発行日 令和2年12月23日(2020.12.23)
発明の名称または考案の名称 変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/29        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2018.01)
C12Q   1/6844      (2018.01)
C12Q   1/6876      (2018.01)
FI C12N 15/09 ZNAZ
C12N 15/29
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
C12Q 1/6844 Z
C12Q 1/6876 Z
請求項の数または発明の数 16
全頁数 32
出願番号 特願2017-533140 (P2017-533140)
出願日 平成28年8月5日(2016.8.5)
国際出願番号 PCT/JP2016/073164
国際公開番号 WO2017/022859
国際公開日 平成29年2月9日(2017.2.9)
優先権出願番号 2015156140
優先日 平成27年8月6日(2015.8.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和元年6月12日(2019.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】江面 浩
【氏名】有泉 亨
【氏名】増田 順一郎
【氏名】岡部 佳弘
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査官 【審査官】松浦 安紀子
参考文献・文献 国際公開第2015/108185(WO,A1)
特表2001-510685(JP,A)
特表2012-530503(JP,A)
PREDICTED: Solanum lycopersicum F-box/kelch-repeat protein At3g61590 (LOC101247559), mRNA, XM_004229918, NCBI,NCBI [online],2014年11月19日,[2020年6月10日検索],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/XM_004229918.2
調査した分野 C12N 15/09
A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 15/29
C12Q 1/6844
C12Q 1/6876
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する、単為結果性植物。
【請求項2】
向上した果実糖度を有する、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
トマトである、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
プロリンの非保存的アミノ酸置換が、プロリンのグルタミンへの置換である、請求項1~3のいずれか1項に記載の植物。
【請求項5】
前記変異型サイクリンF-box遺伝子が、
(i)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を含むアミノ酸配列
をコードする、請求項1~4のいずれか1項に記載の植物。
【請求項6】
種子又は果実である、請求項1~のいずれか1項に記載の植物。
【請求項7】
植物のサイクリンF-box遺伝子に、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、単為結果性植物を作出する方法。
【請求項8】
植物のサイクリンF-box遺伝子に、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、向上した果実糖度を有する植物を作出する方法。
【請求項9】
プロリンの非保存的アミノ酸置換が、プロリンのグルタミンへの置換である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヌクレオチド変異の導入により作製される変異型サイクリンF-box遺伝子が、
(i)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を含むアミノ酸配列
をコードする、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
植物がトマトである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の植物を育種親として用いて植物の交配を行い、子孫植物を取得し、前記変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物を選抜することを含む、植物の育種方法。
【請求項13】
子孫植物中の前記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することにより、子孫植物の選抜を行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
配列番号5に示す塩基配列を含むプライマーと配列番号6に示す塩基配列を含むプライマーとを含む、プライマーセット。
【請求項15】
請求項14に記載のプライマーセットを含む、トマト植物育種用のキット。
【請求項16】
(i)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を含むアミノ酸配列
をコードし、単為結果性をもたらす、変異型サイクリンF-box遺伝子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物、特に単為結果性及び/又は高果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トマトの需要が増加しており、特に高糖度トマトが人気を集めている。トマトの高糖度化には、栽培時のトマト植物への水ストレス負荷(トマト植物への給水量又はトマト植物による吸水量の制限)がよく行われており、水ストレス負荷によるトマト高糖度化のための様々な栽培法や栽培器具等が知られている(例えば、特許文献1~2)。トマト高糖度化の他の技術として、糖度向上剤による処理(特許文献3~5)、明期終了後の赤色光照射処理(特許文献6)等も知られている。しかし従来の高糖度化技術は、特別な栽培技術や栽培設備を必要とするため、経済性、作業性及び安定性の点でなお課題が多い。より少ない労力及びコストで安定的にトマトを高糖度化する新しい技術の開発が望まれている。
【0003】
一方、トマトは自家受粉植物であるが、施設栽培では、受粉を補助する風や虫が排除されてしまうため、受粉率が低下し着果率が下がることが知られている。そのため花房の植物ホルモン処理により単為結果及び果実肥大を促進する方法が広く使用されている。またマルハナバチやバイブレーターを使用した受粉促進法もよく用いられている。しかし植物ホルモン処理やバイブレーターによる受粉促進処理は膨大な労力が必要であり、作業性が著しく低下する。マルハナバチを用いる方法は作業性は良いが、マルハナバチの活動温度域が限定されるため、夏季及び冬季は施設内の温度管理のコストや労力が増大するという問題がある。また受粉・受精に基づく着果では、夏季や冬季の花粉稔性の低下により年間を通した安定な生産量の確保が難しいという問題もある。そこで、季節等の環境要因の影響を少なくしてより少ない労力及びコストで安定的な栽培を可能とするために、トマト植物においてより高い作業効率で単為結果を誘導する技術の開発が求められている。
【0004】
トマト植物の単為結果を誘導するための比較的最近の技術としては、非植物ホルモン性の着果促進剤を使用する方法(例えば、特許文献7)や、単為結果性遺伝子をトマト植物に導入する方法(特許文献8~9)などがある。しかし着果促進剤を使用する方法は作業性の点で依然として課題がある。また従来の単為結果性遺伝子を使用して作出された単為結果性トマト品種には、軟化など果実の品質の点で問題がある。そのため、単為結果性と共に好ましい果実特性を有するトマト品種の開発が望まれている。
【0005】
さらに、トマト植物だけでなく、他の多くの栽培植物においても、より低い労力及びコストで安定的な果実生産を可能にする単為結果誘導方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2012-100595号公報
【特許文献2】特開2012-161289号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/094557
【特許文献4】国際公開WO2009/063806
【特許文献5】国際公開WO2010/021330
【特許文献6】特開2012-65601号公報
【特許文献7】特開2004-331507号公報
【特許文献8】国際公開WO99/21411
【特許文献9】国際公開WO2009/005343
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、向上した果実糖度を有する植物及びその作出方法を提供することを課題とする。本発明はまた、単為結果性植物及びその作出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、サイクリンF-box遺伝子における遺伝子機能改変変異が、トマト等の植物において単為結果性をもたらし、また果実の糖度を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する、単為結果性植物。
[2] 向上した果実糖度を有する、[1]に記載の植物。
[3] トマトである、[1]又は[2]に記載の植物。
[4] プロリンの非保存的アミノ酸置換が、プロリンのグルタミンへの置換である、[1]~[3]のいずれかに記載の植物。
[5] 種子又は果実である、[1]~[4]のいずれかに記載の植物。
【0010】
[6] 植物のサイクリンF-box遺伝子に、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、単為結果性植物を作出する方法。
[7] 植物のサイクリンF-box遺伝子に、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、向上した果実糖度を有する植物を作出する方法。
[8] プロリンの非保存的アミノ酸置換が、プロリンのグルタミンへの置換である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9] 植物がトマトである、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] [1]~[4]のいずれかに記載の植物を育種親として用いて植物の交配を行い、子孫植物を取得し、前記変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物を選抜することを含む、植物の育種方法。
【0011】
[11] 子孫植物中の前記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することにより、子孫植物の選抜を行う、[10]に記載の方法。
[12] 配列番号5に示す塩基配列を含むプライマーと配列番号6に示す塩基配列を含むプライマーとを含む、プライマーセット。
[13] [12]に記載のプライマーセットを含む、トマト植物育種用のキット。
[14] (i)配列番号4に示すアミノ酸配列、又は
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を含むアミノ酸配列
をコードし、単為結果性をもたらす、変異型サイクリンF-box遺伝子。
[15] サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する、野生型と比較して向上した果実糖度を有する植物。
[16] トマトである、[15]に記載の植物。
[17] 37番目のセリンの非保存的アミノ酸置換が、セリンのロイシンへの置換である、[15]又は[16]に記載の植物。
[18] 301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換が、グリシンのアルギニンへの置換である、[15]又は[16]に記載の植物。
[19] 種子又は果実である、[15]~[18]のいずれかに記載の植物。
[20] 植物のサイクリンF-box遺伝子に、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、向上した果実糖度を有する植物を作出する方法。
【0012】
[21] 植物がトマトである、[20]に記載の方法。
[22] 37番目のセリンの非保存的アミノ酸置換が、セリンのロイシンへの置換である、[20]又は[21]に記載の方法。
[23] 301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換が、グリシンのアルギニンへの置換である、[20]又は[21]に記載の方法。
[24] [15]~[18]のいずれかに記載の植物を育種親として用いて植物の交配を行い、子孫植物を取得し、前記変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物を選抜することを含む、向上した果実糖度を有する植物の育種方法。
[25] 子孫植物中の前記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することにより、子孫植物の選抜を行う、[24]に記載の方法。
[26] 配列番号15に示す塩基配列を含むプライマーと配列番号16に示す塩基配列を含むプライマーとを含む、プライマーセット。
[27] 配列番号17に示す塩基配列を含むプライマーと配列番号18に示す塩基配列を含むプライマーとを含む、プライマーセット。
[28] [26]又は[27]に記載のプライマーセットを含む、トマト植物育種用のキット。
[29] (i)配列番号20又は22に示すアミノ酸配列、又は
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリンのロイシンへの置換又は301番目のグリシンのアルギニンへの置換を含むアミノ酸配列
をコードし、果実糖度の向上をもたらす、変異型サイクリンF-box遺伝子。
[30] 植物のサイクリンF-box遺伝子に、非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入し、野生型植物と比較して向上した果実糖度を有する植物を選抜することを含む、向上した果実糖度を有する植物のスクリーニング方法。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号特願2015-156140号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、単為結果性及び/又は向上した果実糖度を有する植物の作出を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は野生型及び変異型トマト植物の葉の形態を示す写真である。バー=5cm。
【図2】図2は野生型及び変異型トマト植物の主茎長を示す。
【図3】図3は野生型及び変異型トマト植物の葉におけるSPAD値を示す。
【図4】図4は野生型及び変異型トマトの果肉厚(mm)を示す。
【図5】図5は野生型及び変異型トマト植物の果実のBrix値(糖度指標)を示す。
【図6】図6は野生型及び変異型トマト植物の採種性を示す。
【図7】図7は変異型トマト植物の原因遺伝子のゲノムマッピングの概要を示す。
【図8】図8はdCAPSマーカーを用いたジェノタイピングの結果を示す。図中、MはDNA分子量マーカー(Gene Ladder Wide 1)である。
【図9】図9は各種トマト品種の、変異部位に相当する部位及びその周辺領域の塩基配列を示す。
【図10】図10は野生型及び変異型トマト植物を受粉処理して得た赤熟果の果実重(g/果実)及びBrix値(%)を示す。Turkey-Kramer HSD検定により有意差を検定した(p< 0.01)。バー上に示されたアルファベットの違いは有意差(p< 0.01)を示す。
【図11】図11はサイクリンF-box遺伝子変異の生育への影響を示す写真である。最上段のE8986系統は葉の形態異常(比較的弱い異常)を示したが、中段のW283系統は、E8986系統よりも強い葉の形態異常を示した。最下段の野生型の葉の形態が正常である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異が導入され、単為結果性及び/又は高果実糖度をもたらす、変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする遺伝子を有する植物、及びその作出方法に関する。
一実施形態では、本発明は、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物、及びその作出方法に関する。本発明において、「変異型」サイクリンF-box遺伝子とは、野生型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列中にその遺伝子機能の改変をもたらすヌクレオチド変異を有する遺伝子を意味する。本発明に係る植物は、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有することにより、単為結果能を獲得する。本発明の植物はまた、その変異型サイクリンF-box遺伝子を有することにより、野生型サイクリンF-box遺伝子を有する植物と比較して向上した果実糖度を有することが好ましい。果実糖度の向上は、受粉果実においても示されるが、単為結果果実において特に顕著に示される。

【0017】
本発明において「単為結果」とは、植物において、受粉及び受精が起こらない場合に、種子形成を伴わずに子房や花托等が肥大し、無種子の果実を生じることをいう。本発明において「単為結果性」及び「単為結果能」とは、それぞれ、植物ホルモン処理や特定の物理的刺激などの人為的な単為結果誘導処理を必要とせずに、植物が単為結果を生じる性質及び能力をいう。

【0018】
本発明で用いる植物は、典型的には被子植物であり、好ましくは果実を食用とする栽培植物である。そのような植物としては、以下に限定されないが、例えば、ナス科[トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、ピーマン(Capsicum annuum var. grossum)、又はウリ科[キュウリ(Cucumis sativus L.)、メロン(Cucumis melo L.)、スイカ(Citrullus lanatus)、カボチャ(Cucurbita)、マクワウリ(Cucumis melo var. makuwa)等]の植物が挙げられる。本発明で用いる植物は、自然環境下では単為結果性ではないか又は単為結果性がかなり低い植物であることが好ましい。特に好ましい対象植物は、トマト(トマト植物)である。

【0019】
本発明では任意のトマトを用いることができるが、より好ましいトマトの例としては、ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)、ソラナム・セラシフォルメ(Solanum cerasiforme; Lycopersicon cerasiformeとも称される)、ソラナム・ピムピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium; Lycopersicon pimpinellifoliumとも称される)、ソラナム・チーズマニイ(Solanum cheesmanii; Lycopersicon cheesmaniiとも称される)、ソラナム・パルビフロルム(Solanum parviflorum; Lycopersicon parviflorumとも称される)、ソラナム・クミエレウスキィ(Solanum chmielewskii; Lycopersicon chmielewskiiとも称される)、ソラナム・ヒルストゥム(Solanum hirsutum; Lycopersicon hirsutumとも称される)、ソラナム・ペンネリィ(Solanum Lycopersicon pennelliiとも称される)、ソラナム・ペルビアヌム(Solanum pennellii; Lycopersicon peruvianumとも称される)、ソラナム・チレンセ(Solanum chilense; Lycopersicon chilenseとも称される)、ソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)及びソラナム・ハブロカイネス(Solanum habrochaites)等に属するトマト系統・品種又はそれらの派生株が挙げられるが、これらに限定されない。トマトの一例である野生型トマト品種マイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)(Scott JW, Harbaugh BK (1989) Micro-Tom A miniature dwarf tomato. Florida Agr. Expt. Sta. Circ. 370, p.1-6)は、市販されており、またTomato Genetics Resource Center(TGRC)(米国)からアクセッション番号LA3911の下で入手することもできる。野生型トマト品種マイクロトムは、矮性(約10~20 cm)であり、葉や果実が小さく、従来トマト品種との交雑も可能である。野生型トマト品種マイクロトムについては全ゲノム配列が決定されている(Kobayashi M, et al., (2014)Plant Cell Physiol. 2014 Feb;55(2):445-454)。

【0020】
なお本明細書において派生株とは、元の植物と他の植物系統・品種との1回以上の交配を経て又は変異誘発若しくは変異導入を経て得られた子孫植物を指す。

【0021】
サイクリンF-box遺伝子は、特定のタンパク質の認識と分解に関与するF-boxファミリータンパク質(F-box領域と呼ばれるドメインを有するタンパク質群)の1つであるサイクリンF-boxタンパク質(サイクリン型(Cyclin-type)F-boxタンパク質と称されることもある)をコードする遺伝子である。様々な植物においてサイクリンF-box遺伝子が同定されている。例えば、トマトサイクリンF-box遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列の例はNCBI(National Center for Biotechnology Information、米国)データベースアクセッション番号XM_004229918及びXP_004229966に示されている。トマト野生型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列(CDS配列)及びそれにコードされるトマト野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2に示す。また、他の植物種のサイクリンF-box遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列の例(NCBIアクセッション番号)はスイートオレンジ(XM_006491151及びXP_006491214、XM_006491152及びXP_006491215、XM_006491153及びXP_006491216)、リンゴ(XM_008377812及びXP_008376034、XM_008377813及びXP_008376035)、チュウゴクナシ(XM_009378963及びXP_009377238)、ブドウ(XM_002276408及びXP_002276444、XM_010663560及びXP_010661862、XM_010663561及びXP_010661863、XM_010663562及びXP_010661864、並びにXM_010663563及びXP_010661865)、キュウリ(XM_004133777及びXP_004133825、XM_011652398及びXP_011650700)、メロン(XM_008439705及びXP_008437927、XM_008439706及びXP_008437928、並びにXM_008439707及びXP_008437929)で示されている。配列番号1に示す塩基配列を含むトマト野生型サイクリンF-box遺伝子の、他の植物由来の相同遺伝子(ホモログ)も、サイクリンF-box遺伝子の範囲に含まれる。なおサイクリンF-box遺伝子の「CDS配列」とは、開始コドンから終止コドンまでのサイクリンF-boxタンパク質コード領域の塩基配列をいう。

【0022】
単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子は、植物ゲノム中の内因性のサイクリンF-box遺伝子に単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異が導入された遺伝子であることが好ましい。

【0023】
本明細書における「遺伝子」は、DNA及びRNA(mRNA等)を包含する。本発明において遺伝子は、タンパク質コード配列(開始コドン~終止コドン)からなるものであってもよいが、翻訳開始部位等を含む5'非翻訳領域、ポリアデニレーションシグナルやRNA分解性制御領域等を含む3'非翻訳領域などをさらに含んでもよい。

【0024】
本発明において、変異型サイクリンF-box遺伝子中の、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異とは、サイクリンF-box遺伝子の機能を改変することにより単為結果性をもたらすヌクレオチド変異を意味する。サイクリンF-box遺伝子の機能の改変とは、より具体的には、サイクリンF-box遺伝子にコードされるサイクリンF-boxタンパク質の機能の改変(例えば、タンパク質の立体構造の変化、活性変化、分解性等の特性の変化等)を意味する。

【0025】
変異型サイクリンF-box遺伝子に含まれる単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異は、例えば、単為結果性をもたらす限り、野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列において1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~10個、例えば1~5個のアミノ酸残基の欠失、置換(好ましくは非保存的置換)、挿入、又は付加を引き起こすヌクレオチド変異であってよい。

【0026】
本発明で用いる単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の1つの例として、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列(トマト野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列)を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異として含む、サイクリンF-box遺伝子が挙げられる。すなわち、この変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を有するサイクリンF-boxタンパク質をコードする。プロリンの非保存的アミノ酸置換とは、プロリンとは性質が異なるアミノ酸への置換を意味する。具体的には、例えば、プロリン(疎水性、非極性アミノ酸)の、極性非電荷アミノ酸(セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、若しくはシステイン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファン)、酸性アミノ酸(極性電荷;グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、又は塩基性アミノ酸(極性電荷;リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換が挙げられる。あるいはプロリン(疎水性、非極性アミノ酸)の、極性アミノ酸又は親水性アミノ酸(セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)への置換も挙げられる。プロリンの非保存的アミノ酸置換の好ましい一実施形態は、プロリンのグルタミンへの置換である。プロリンのグルタミンへの置換を引き起こすヌクレオチド変異は、例えば、コドンCCT、CCC、CCA及びCCGのいずれかから、コドンCAA又はCAGへの変異である。

【0027】
本発明において、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」とは、配列番号2で示されるアミノ酸配列とアラインメントされた任意のアミノ酸配列(任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列)中で、配列番号2の398番目に位置するプロリンに対してアラインメントされるプロリンを指す。したがって「配列番号2で示されるアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」は、アラインメントされる任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列中では、398番目に位置するプロリンであってもよいし、398番目とは異なる位置に存在するプロリンであってもよい。例えばN末端近傍に1アミノ酸の欠失が存在するサイクリンF-boxタンパク質中では397番目に位置づけられるプロリンも、配列番号2の398番目のプロリンとアラインメントされる限り、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」として特定される。本発明において、配列番号2で示されるアミノ酸配列と任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列との間のアラインメントは、ギャップを含んでもよく、配列間の変化(挿入、欠失、置換、付加等)が最小限になり、かつ最も高い一致度を示すように作成されるものとする。なお「配列番号“X”で示される塩基配列を基準として特定される“Y”番目の(塩基)」及び「配列番号“X”で示されるアミノ酸配列を基準として特定される“Y”番目の(アミノ酸)」等の類似の表現も同様に解される。

【0028】
上記のような単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上、例えば99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードするものであってよい。このプロリンの非保存的アミノ酸置換は、好ましくは、プロリンから、極性非電荷アミノ酸(セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、若しくはシステイン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、又は塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換であり、より好ましくはプロリンから極性アミノ酸又は親水性アミノ酸(セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)への置換であり、さらに好ましくはプロリンから極性非電荷アミノ酸(セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、若しくはシステイン)への置換であり、特に好ましくはプロリンからグルタミンへの置換である。上記変異型サイクリンF-box遺伝子は、以下に限定するものではないが、好ましくはナス科又はウリ科植物、より好ましくはトマトの野生型サイクリンF-box遺伝子の変異体であってよい。上記の変異型サイクリンF-box遺伝子は、特に、配列番号4に示すアミノ酸配列をコードするものであってもよい。配列番号4に示すアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列(野生型トマトサイクリンF-boxタンパク質)の398番目のプロリンがグルタミンに置換されたアミノ酸配列である。本発明は、単為結果性をもたらす、このような変異型サイクリンF-box遺伝子も提供する。

【0029】
変異型サイクリンF-box遺伝子は、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、配列番号2に示すアミノ酸配列において1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~10個、例えば1~5個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列をコードするものであってもよい。この変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換、好ましくはグルタミンへの置換を含む。

【0030】
変異型サイクリンF-box遺伝子はまた、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、(i)配列番号3に示す塩基配列を含むものであるか、又は(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、例えば99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される1192~1194番目のコドンCCA(プロリンをコードする)からコドンCAA又はCAG(グルタミンをコードする)への変異を含む塩基配列を含むものであってもよい。そのような変異は、例えば、サイクリンF-box遺伝子における配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される1193番目のシトシン(C)からアデニン(A)への置換によるものであってよい。変異型サイクリンF-box遺伝子は、上記で規定した塩基配列をタンパク質コード配列(開始コドン~終止コドン)として含むものであってよい。

【0031】
本明細書において特定のアミノ酸配列又は塩基配列に対する配列同一性(%)は、その特定のアミノ酸配列又は塩基配列の全長に対する配列同一性(%)を意味する。

【0032】
本発明に係る植物は、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子についてホモ接合性であることが好ましい。本発明における単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は劣性遺伝である。単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を有する本発明に係る植物は、変異型サイクリンF-box遺伝子の存在する遺伝子座以外に、ゲノム中に野生型サイクリンF-box遺伝子を有さないことも好ましい。

【0033】
単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を有する本発明に係る植物は、単為結果性であり、すなわち、受粉及び受精が起こらず、植物ホルモン処理などの人為的な単為結果誘導処理を実施しなくても、着果及び果実の肥大が起こる。そこで本発明は、植物のサイクリンF-box遺伝子(通常は、内因性サイクリンF-box遺伝子)に、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異、例えば、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、単為結果性植物を作出する方法も提供する。このプロリンの非保存的アミノ酸置換については上記と同様であり、特に好ましくは、プロリンからグルタミンへの置換である。

【0034】
植物のサイクリンF-box遺伝子への、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異の導入は、常法により行うことができる。例えば、上記変異をサイクリンF-box遺伝子に導入するために、標的遺伝子(サイクリンF-box遺伝子)に相同な配列に目的の変異を導入した短いオリゴヌクレオチドを植物細胞に導入し、細胞のミスマッチ修復機構を利用してゲノム上で目的の変異を誘発する、オリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発法(Oligonucleotide-Directed Mutagenesis;ODM)や、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)と標的遺伝子に相同な配列に目的の変異を導入した短いオリゴヌクレオチドを用いたZFN媒介突然変異誘発法等の部位特異的変異導入法などを用いることができる。あるいは、変異型サイクリンF-box遺伝子又はその変異部位含有核酸断片を鋳型DNAとして植物細胞に導入することにより、相同組換えを介して植物のサイクリンF-box遺伝子に上記変異を導入してもよい。変異の導入はまた、ランダム突然変異誘発技術を用いて行ってもよい。例えば、化学変異原による処理や、ガンマ線、X線、中性子、ベ-タ線、紫外線、イオンビーム、シンクロトロン等の放射線の照射によって植物ゲノム中に突然変異を誘発することができる。化学変異原としては、エチルメタンスルホン酸(EMS)、エチレンイミン(EI)、メチルニトロソウレア(MNU)、エチルニトロソウレア(ENU)、アジ化ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)の溶液に種子を浸漬して一定時間処理することにより、突然変異を誘発することができる(EMS変異誘発)。複数のランダム突然変異誘発技術を組み合わせて用いてもよい。オリゴヌクレオチドや核酸断片の植物細胞への導入は、ウィスカー法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール(PEG)法、マイクロインジェクション法等を用いることができる。

【0035】
また、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子をゲノム中に有する変異体植物を他の植物と交配することにより、上記変異を子孫植物に導入することもできる。得られた子孫植物について、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の有無を判定し、当該変異型サイクリンF-box遺伝子を有する個体を選抜することが好ましい。

【0036】
本発明に係る植物が単為結果性であるかどうかの確認は、常法により行えばよい。例えば、植物個体を育成し、開花前に除雄処理を行って受粉が起こらないようにし、その後の栽培で着果(果実形成)が全く認められなければその植物は単為結果性ではなく、一方、着果が認められれば、その植物は単為結果性であると判定できる。なお除雄処理とは、自家受粉を防ぐために花の雄性機能を除去する処理であり、例えばつぼみから雄しべを取り除く方法や、熱処理により花粉の機能を喪失させる方法などが挙げられる。変異型サイクリンF-box遺伝子を有する本発明に係る植物は、以下に限定するものではないが、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上の単為結果率を示す。本発明において単為結果率は、一個体又は一系統における除雄花数に対する着果数の割合(%)として算出することができる。本方法を用いれば、より容易に植物に単為結果性を付与することができる。植物に単為結果性を付与することにより、植物を単為結果性に改変するか又は植物の単為結果性を増強することができる。

【0037】
本発明に係る植物はまた、サイクリンF-box遺伝子における上記変異(変異型サイクリンF-box遺伝子)により、向上した糖度を有する果実を産生する能力を獲得することができる。したがって本発明は、植物のサイクリンF-box遺伝子に、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異、例えば、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、向上した果実糖度を有する植物を作出する方法も提供する。このプロリンの非保存的アミノ酸置換については上記と同様であり、特に好ましくは、プロリンからグルタミンへの置換である。植物は、果実を食用とする植物が好ましい。植物は、ナス科又はウリ科植物が好ましく、特にトマトが好ましい。単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異の導入は、上記と同じである。

【0038】
本発明に係る植物について「向上した果実糖度を有する」とは、野生型サイクリンF-box遺伝子(単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異を有しない)を有する同品種又は同系統の植物(野生型)と比較して、本発明に係る植物が産生する果実の糖度が統計学的に有意に増加することを意味する。なお、「向上した果実糖度を有する植物」とは、特別な高糖度化処理を行うことなく向上した糖度を有する果実を産生する能力を有する植物を意味し、向上した糖度を有する果実を現に保持している植物だけでなく、向上した糖度を有する果実を産生していた又は将来的に産生可能な植物又はその一部(例えば、種子、実生、果実)なども包含する。向上した糖度を有する果実は、単為結果果実を包含し、好ましくは、種子形成果実(受粉処理により生産された果実;受粉果実とも称する)と単為結果果実の両方を包含する。単為結果果実が、種子形成果実よりも高い糖度向上レベルを示すことも好ましい。限定するものではないが、単為結果果実又は種子形成果実の糖度は、野生型の果実と比較して、例えば、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.8倍以上に増加し得る。果実の糖度は、常法により測定することができるが、本発明では果実から生成した果汁のBrix値(%)を糖度指標として用いることができる。Brix値は、常法により測定することができ、通常は糖度計(例えば、ポータブル糖度計BX-1、京都電子工業、日本;又は手持屈折計N-20E、ATAGO、日本)を用いて測定することができる。糖度を測定する果実は、成熟果であり、例えばトマトであれば赤熟果である。なお日本で生産されている一般的なトマト(糖度の高いフルーツトマトを除く)の平均的な糖度(Brix値)は5%程度といわれている。本方法を用いれば、ストレス負荷等の高糖度化処理を行うことなしに、高糖度果実を生産する植物をより容易に作製することができる。

【0039】
植物のサイクリンF-box遺伝子に、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異、例えば、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することにより得られた、単為結果性植物、及び当該変異を保持するその子孫植物は、本発明に係る単為結果性植物の範囲に含まれる。

【0040】
サイクリンF-box遺伝子における上記変異(単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を有する本発明に係る植物はまた、野生型植物と比較して、様々な形態上又は生育特性上の変化を有していてもよい。例えば、本発明に係る植物では、葉や果実に変化(葉の形態、葉色、又は果実の形態などの変化)が生じてもよい。例えば、一般的な野生型トマト植物の葉は、縁に鋸歯(切れ込み)がある複数の小葉から構成されているが、そのような野生型トマト植物の変異体である、変異型サイクリンF-box遺伝子を有する本発明に係るトマト植物では、葉の縁の鋸歯の弱化(鋸歯の深さや数の低減)、小葉の融合、野生型植物と比較した葉色の濃さの増加等が生じることが好ましい(図1及び図3参照)。葉色の濃さは、葉のSPAD(葉緑素光学濃度)値に基づいて判定することができる。SPAD値は試料についてクロロフィルのみを吸収する赤色域と色素にほとんど吸収されない赤外領域の光学濃度差に基づいて常法により算出できる。SPAD値は市販のSPAD値測定機器(葉緑素計)を用いて非破壊的に測定することができる。本発明に係る植物では、同じ播種後日数の上記変異を有しない植物と比較して、葉色の濃さが増加し、具体的には、SPAD値が、以下に限定するものではないが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上増加し得る。

【0041】
また、サイクリンF-box遺伝子における上記変異(単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を有する本発明に係る植物では、野生型植物と比較して、主茎長の減少等も認められ得る。

【0042】
また、サイクリンF-box遺伝子における上記変異(単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を有する本発明に係る植物では、野生型植物と比較して、成熟果形成までの期間の短縮化及び/又は果肉厚の増加等も認められ得る。

【0043】
なおサイクリンF-box遺伝子における上記変異(単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を有する本発明に係る植物は、単為結果性であるが、稔性を有し、すなわち受粉及び受精による着果能も有することが好ましい。

【0044】
本発明は、単為結果性をもたらす遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物(本発明に係る植物)を育種親として用いて植物の交配を行い、子孫植物を取得し、前記変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物を選抜することを含む、植物の育種方法にも関する。本発明に係る植物を「育種親として用いて植物の交配を行う」とは、本発明に係る植物のサイクリンF-box遺伝子における上記変異(単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を子孫植物に導入する目的で、本発明に係る植物同士、又は、本発明に係る植物と同種又は近縁種の植物とを交配することを指す。交配は1回でもよいし、繰り返し行ってもよい。例えば、本発明に係る植物を同種又は近縁種の植物(反復親)と交配し、その子孫植物を反復親と交配し(戻し交配)、その子孫植物をさらに反復親と交配することを繰り返してもよい(連続戻し交配)。あるいは、本発明に係る植物を同種又は近縁種の植物と交配し、その子孫植物を別の同種又は近縁種の植物と交配してもよい。本発明に係る植物の子孫植物の自家交配を繰り返すことにより、上記変異及びそれに起因する形質(単為結果性、果実糖度の向上、葉の変化など)を植物ゲノム中で固定することもできる。

【0045】
変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された(すなわち、サイクリンF-box遺伝子における上記変異を有する)子孫植物の選抜は、子孫植物中の前記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することにより、行うことができる。前記変異型サイクリンF-box遺伝子の検出は、例えば、子孫植物由来の核酸試料(例えば、ゲノムDNA、mRNA、mRNAから逆転写したcDNA等)について、ヌクレオチド変異を検出するための様々な周知の方法、例えば、核酸増幅及び/又はサザンハイブリダイゼーション等を用いる方法により行うことができる。例えば、ゲノム中のサイクリンF-box遺伝子上の上記変異を含む領域を核酸増幅し、増幅産物の塩基配列を決定し、野生型ゲノム配列と比較して上記変異の有無を判定することができる。そのような核酸増幅に用いるプライマーは、対象植物のゲノム配列、例えばサイクリンF-box遺伝子の塩基配列と、導入した変異の位置及び種類に基づいて当業者であれば適宜設計することができる。あるいは、上記変異を含む増幅断片のみが所定の制限酵素で切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子の増幅断片はその制限酵素で切断されないように設計したプライマーセットを用いて核酸増幅を行い、増幅産物をその制限酵素で切断し、その制限酵素切断の結果に基づいて、子孫植物中の上記変異の有無を判定することもできる。上記変異を含む増幅断片のみが所定の制限酵素で切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子の増幅断片はその制限酵素で切断されないように設計したプライマーセットの例としては、配列番号5に示す塩基配列を含むプライマー(フォワードプライマー)と配列番号6に示す塩基配列を含むプライマー(リバースプライマー)とを含む、プライマーセットが挙げられる。このプライマーセットを用いてトマト植物由来のDNA(ゲノムDNA)を増幅する場合、配列番号3に示す塩基配列を有する変異型サイクリンF-box遺伝子をはじめとする、配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される1193番目のシトシン(C)がアデニン(A)に置換されたサイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物のみが制限酵素NcoIで切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物は制限酵素NcoIで切断されない。そのため、このプライマーセットを用いて得た増幅産物を制限酵素NcoI処理し電気泳動した結果等に基づき、子孫トマト植物中の上記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することができる。したがってこのプライマーセットは、そのような変異型サイクリンF-box遺伝子が導入されたトマト植物の選抜や識別に有用である。本発明は上記のようなプライマー及びプライマーセットも提供する。本発明に係るプライマーは、当業者に周知の任意の化学合成法により作製することができ、例えば市販の自動DNA合成装置を使用して慣用手順により合成することができる。例えば本発明に係るプライマーは、その5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)及び/又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)を含んでいてもよい。本発明に係るプライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。本発明に係るプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、RNAである場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。本発明はまた、本発明に係るプライマーセットを含むキットも提供する。本キットは、ポリメラーゼ、制限酵素(NcoI等)、使用説明書などから選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。本キットは、単為結果性トマト植物の作出用、及び向上した果実糖度を有する植物の作出用にも好適である。本キットはまた、トマト植物の育種用に好適である。

【0046】
あるいは、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の検出は、変異型サイクリンF-box遺伝子中の変異導入領域の増幅産物と野生型サイクリンF-box遺伝子中の変異を導入していない同じ領域の増幅産物をハイブリダイズさせてヘテロ二重鎖を形成させ、変異が導入されていれば生じるミスマッチサイトを特異的に検出(例えば、ヌクレアーゼ等によるミスマッチサイトの特異的切断を利用した検出)することにより、変異の有無を判定する方法により行ってもよい。また、競合ハイブリダイゼーションとFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を組み合わせたF-PHFA法や、上記変異を導入した領域に特異的に結合するプローブによるハイブリダイゼーション又はそのハイブリダイゼーションとリアルタイムPCRとを組み合わせた方法なども用いることができる。このような各種の変異検出法は、シークエンサーやPCR装置、各種の変異検出キットなどの市販品を用いて実施することができる。

【0047】
単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物の選抜はまた、変異型サイクリンF-box遺伝子の導入により引き起こされる子孫植物の形態上又は生育特性上の変化に基づいて行うこともできる。例えば、本発明に係る植物では、葉の変化に基づいて子孫植物を選抜することもできる。例えばトマト植物では、葉が縁に鋸歯(切れ込み)がある複数の小葉から構成されていることは野生型植物の表現型を示し、野生型と比較して葉の縁の鋸歯が弱くなり小葉の融合が確認されることは、変異型植物(変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された植物)の表現型を示すものと認められることから、葉の形態の違いに基づく野生型と変異型の選別が可能である。トマト植物における葉の形態の違いに基づく野生型と変異型の選別は、葉の小葉の融合の有無を判定することにより行うこともできる。またトマト植物の葉色(典型的には、SPAD値)が野生型植物よりも濃いことは、変異型植物の表現型を示すものと認められるため、葉色の違いを指標として用いて選別を行ってもよい。また、本発明に係る植物が示す、サイクリンF-box遺伝子における上記変異に基づいて変化した上述の他の表現型(例えば、上昇した果実糖度)を、子孫植物の選抜の際の指標としてもよい。これらの他の表現型は単独で選抜の指標に用いてもよいが、変異型サイクリンF-box遺伝子の検出や葉の変化に基づく選別と組み合わせて指標に用いることがより好ましい。

【0048】
このようにして単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を子孫植物に導入することにより、単為結果性の植物を育種することができる。また、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を子孫植物に導入することにより、向上した果実糖度を有する植物を育種することができる。本発明の育種方法では、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を子孫植物に導入することにより、上述の様々な変異型植物の表現型も植物に付与することができる。

【0049】
本発明において用語「植物」は、植物の各種生育段階や部分、例えば植物体、茎、葉、根、花、蕾、果実(果肉、果皮)、種子、組織、細胞、及びカルス等を基本的に包含する。但し本発明における用語「植物」は、文脈によっては植物体を指すこともあり、当業者であればその意味は容易に理解できる。本発明における「トマト」及び「トマト植物」は、トマトの各種生育段階や部分、例えば植物体、茎、葉、根、花、蕾、果実(果肉、果皮)、種子、実生、組織、細胞、及びカルス等を基本的に包含するが、文脈によりトマト果実又はトマト植物体を指すこともあり、当業者であればその意味は容易に理解できる。本発明に係る植物の好ましい態様は、以下に限定するものではないが、種子、果実、実生、又は植物体である。

【0050】
本発明に係る植物は、受粉処理や植物ホルモン処理などの単為結果誘導処理を実施せずに栽培し、着果させ、果実を取得することができる。本発明に係る植物の栽培では、そのような単為結果誘導処理は行ってもよいが、行わなくてもよい。単為結果果実を取得する目的では、本発明に係る植物について、開花前に除雄処理を施してもよい。除雄処理により、受粉を回避し、確実に単為結果果実を取得することができる。栽培は、水耕栽培、施設栽培(温室栽培、植物工場栽培等)、露地栽培、プランター栽培などの任意の栽培法で行うことができる。本発明は、本発明に係る植物を単為結果誘導処理を実施せずに栽培することを含む、果実の栽培方法にも関する。

【0051】
別の実施形態として、本発明は、向上した果実糖度をもたらす他の遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物、及びその作出方法に関する。本発明に係るこの植物は、野生型サイクリンF-box遺伝子を有する植物と比較して向上した果実糖度を有する。

【0052】
本発明において果実糖度を向上させる対象植物は、単為結果性植物について上述した植物と同じであり、特に好ましくはトマト(トマト植物)である。

【0053】
本発明において向上した果実糖度を有する植物においては、植物ゲノム中の内因性のサイクリンF-box遺伝子に、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異が導入されていることが好ましい。

【0054】
本発明で用いる向上した果実糖度をもたらす他の変異型サイクリンF-box遺伝子の例として、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異として有する、サイクリンF-box遺伝子が挙げられる。これらの変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を有するサイクリンF-boxタンパク質をコードする。

【0055】
37番目のセリンの非保存的アミノ酸置換は、セリンとは性質が異なるアミノ酸への置換を意味する。具体的には、例えば、セリン(親水性、極性非電荷アミノ酸)の、脂肪族アミノ酸(疎水性;アラニン若しくはグリシン)、分枝アミノ酸(疎水性;バリン、ロイシン、若しくはイソロイシン)、他の疎水性アミノ酸(メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)、又は酸性アミノ酸(グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換が挙げられる。セリンの非保存的アミノ酸置換の好ましい一実施形態は、セリン(親水性)の、疎水性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)への置換であり、より好ましくは、分枝アミノ酸(バリン、ロイシン、若しくはイソロイシン)への置換であり、さらに好ましくは、ロイシンへの置換である。セリンのロイシンへの置換を引き起こすヌクレオチド変異は、例えば、コドンTCT、TCC、TCA、TCG、AGT及びAGCのいずれかから、コドンTTA、TTG、CTT、CTC、CTA、及びCTGのいずれかへの変異である。

【0056】
301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換は、グリシンとは性質が異なるアミノ酸への置換を意味する。具体的には、例えば、グリシン(疎水性、非極性アミノ酸)の、極性非電荷アミノ酸(セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、若しくはシステイン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、又は塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換が挙げられる。グリシンの非保存的アミノ酸置換の好ましい一実施形態は、グリシン(疎水性、非極性アミノ酸)の、極性アミノ酸又は親水性アミノ酸(セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)への置換であり、より好ましくは、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換であり、さらに好ましくは、アルギニンへの置換である。グリシンのアルギニンへの置換を引き起こすヌクレオチド変異は、例えば、コドンGGT、GGC、GGA、及びGGGのいずれかから、コドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGA、及びAGGのいずれかへの変異である。

【0057】
本発明において、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン」又は「配列番号2で示されるアミノ酸配列を基準として特定される301番目のグリシン」とは、配列番号2で示されるアミノ酸配列とアラインメントされた任意のアミノ酸配列(任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列)中で、配列番号2の37番目に位置するセリン又は301番目のグリシンに対してそれぞれアラインメントされるセリン又はグリシンを指す。

【0058】
向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上、例えば99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリンの非保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードするものであってよい。このセリンの非保存的アミノ酸置換は、セリンから、セリンとは性質が異なるアミノ酸、例えば、脂肪族アミノ酸(疎水性;アラニン若しくはグリシン)、分枝アミノ酸(疎水性;バリン、ロイシン、若しくはイソロイシン)、他の疎水性アミノ酸(メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)、又は酸性アミノ酸(グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換であってよく、より好ましくはセリンの、疎水性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)への置換であり、さらに好ましくはセリンの分枝アミノ酸(バリン、ロイシン、若しくはイソロイシン)への置換であり、特に好ましくはセリンのロイシンへの置換である。当該変異型サイクリンF-box遺伝子は、以下に限定するものではないが、好ましくはナス科又はウリ科植物、より好ましくはトマトの野生型サイクリンF-box遺伝子の変異体であってよい。当該変異型サイクリンF-box遺伝子は、特に、配列番号20に示すアミノ酸配列をコードするものであってもよい。配列番号20に示すアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列(野生型トマトサイクリンF-boxタンパク質)の37番目のセリンがロイシンに置換されたアミノ酸配列である。本発明は、向上した果実糖度をもたらす、このような変異型サイクリンF-box遺伝子も提供する。

【0059】
向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上、例えば99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードするものであってよい。このグリシンの非保存的アミノ酸置換は、グリシンから、グリシンとは性質が異なるアミノ酸、例えば、極性非電荷アミノ酸(セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、若しくはシステイン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸、若しくはアスパラギン酸)、又は塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換であってよく、より好ましくはグリシンの、極性アミノ酸又は親水性アミノ酸(セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)への置換であり、さらに好ましくはグリシンの塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、若しくはヒスチジン)への置換であり、特に好ましくはグリシンのアルギニンへの置換である。当該変異型サイクリンF-box遺伝子は、以下に限定するものではないが、好ましくはナス科又はウリ科植物、より好ましくはトマトの野生型サイクリンF-box遺伝子の変異体であってよい。当該変異型サイクリンF-box遺伝子は、特に、配列番号22に示すアミノ酸配列をコードするものであってもよい。配列番号22に示すアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列(野生型トマトサイクリンF-boxタンパク質)の301番目のグリシンがアルギニンに置換されたアミノ酸配列である。本発明は、向上した果実糖度をもたらす、このような変異型サイクリンF-box遺伝子も提供する。

【0060】
向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は、果実糖度の向上をもたらす変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、配列番号2に示すアミノ酸配列において1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~10個、例えば1~5個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列をコードするものであってもよい。このような変異型サイクリンF-box遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を含み得る。

【0061】
上述の向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子は、果実糖度の向上をもたらす変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、(i)配列番号19に示す塩基配列を含むものであるか、又は(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、例えば99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される109~111番目のコドンTCA(セリンをコードする)からコドンTTA、TTG、CTT、CTC、CTA、又はCTG(ロイシンをコードする)への変異を含む塩基配列を含むものであってよい。その変異は、例えば、サイクリンF-box遺伝子における配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される110番目のシトシン(C)からチミン(T)への置換によるものであってよい。この変異型サイクリンF-box遺伝子は、上記で規定した塩基配列をタンパク質コード配列(開始コドン~終止コドン)として含むものであってよい。

【0062】
上記の向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子はまた、果実糖度の向上をもたらす変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、(i)配列番号22に示す塩基配列を含むものであるか、又は(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、例えば99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有し、かつ配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される901~903番目のコドンGGG(グリシンをコードする)からコドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGA、又はAGG(ロイシンをコードする)への変異を含む塩基配列を含むものであってよい。その変異は、例えば、サイクリンF-box遺伝子における配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される901番目のグアニン(G)からアデニン(A)への置換によるものであってよい。この変異型サイクリンF-box遺伝子は、上記で規定した塩基配列をタンパク質コード配列(開始コドン~終止コドン)として含むものであってよい。

【0063】
植物のサイクリンF-box遺伝子への、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異の導入は、常法により行うことができ、具体的には単為結果性をもたらす変異の導入について上述したのと同様である。本発明は、植物のサイクリンF-box遺伝子に、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異、例えば、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することを含む、向上した果実糖度を有する植物を作出する方法も提供する。本方法を用いれば、ストレス負荷等の高糖度化処理を行うことなしに、高糖度果実を生産する植物をより容易に作製することができる。

【0064】
本発明に係る向上した果実糖度を有する植物は、上記の向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子についてホモ接合性であることが好ましい。

【0065】
また、向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子をゲノム中に有する変異体植物を他の植物と交配することにより、上記変異を子孫植物に導入することもできる。得られた子孫植物について、向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の有無を判定し、当該変異型サイクリンF-box遺伝子を有する個体を選抜することが好ましい。

【0066】
変異型サイクリンF-box遺伝子が向上した果実糖度をもたらすかどうかは、変異型サイクリンF-box遺伝子中の変異を植物の内因性サイクリンF-box遺伝子に導入し、その植物変異体の受粉果実(好ましくは成熟果)の糖度を測定し、同様に測定した野生型植物の受粉果実(好ましくは成熟果)の糖度と比較することにより判断することができる。野生型と比較して糖度が増加(統計学的に有意に増加)した場合、当該変異を有する変異型サイクリンF-box遺伝子は、向上した果実糖度をもたらすと判断することができる。変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物が向上した果実糖度を有するかどうかの判断も、当該植物の受粉果実(好ましくは成熟果)の糖度を測定し、同様に測定した野生型植物の受粉果実(好ましくは成熟果)の糖度と比較して糖度が増加したかどうかを確認することにより行うことができる。果実糖度は、常法により測定することができるが、本発明では果実から生成した果汁のBrix値(%)を糖度指標として用いることができる。Brix値は、通常は糖度計(例えば、ポータブル糖度計BX-1、京都電子工業、日本;又は手持屈折計N-20E、ATAGO、日本)を用いて測定することができる。

【0067】
向上した果実糖度をもたらす変異に対する「野生型」とは、サイクリンF-box遺伝子が向上した果実糖度をもたらす変異を有しないことを意味する。なお向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物は、向上した果実糖度を有する一方で、単為結果性であってもなくてもよい。「向上した果実糖度を有する植物」の定義は上述のとおりである。

【0068】
植物のサイクリンF-box遺伝子に、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異、例えば、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン、37番目のセリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入することにより得られた、向上した果実糖度を有する植物、及び当該変異を保持するその子孫植物は、本発明に係る向上した果実糖度を有する植物の範囲に含まれる。

【0069】
サイクリンF-box遺伝子中に向上した果実糖度をもたらす変異を有する本発明に係る植物はまた、野生型植物と比較して、様々な形態上又は生育特性上の変化を有していてもよい。例えば、本発明に係る植物では、葉や果実に変化が生じてもよい。例えば、一般的な野生型トマト植物の葉は、縁に鋸歯(切れ込み)がある複数の小葉から構成されているが、向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を有する本発明に係るトマト植物では、葉の縁の鋸歯の弱化(鋸歯の深さや数の低減)、小葉の融合等の、葉の形態異常を呈し得る。配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン又は301番目のグリシンの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を有する変異型サイクリンF-box遺伝子を有するトマト植物は、特に強い葉の形態異常を呈し得る。

【0070】
本発明は、向上した果実糖度をもたらす遺伝子機能改変変異を含む変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物を育種親として用いて植物の交配を行い、子孫植物を取得し、前記変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物を選抜することを含む、植物の育種方法にも関する。本発明に係る向上した果実糖度を有する植物を「育種親として用いて植物の交配を行う」とは、当該植物のサイクリンF-box遺伝子における上記変異(向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子)を子孫植物に導入する目的で、本発明に係る植物同士、又は、本発明に係る植物と同種又は近縁種の植物とを交配することを指す。交配は1回でもよいし、繰り返し行ってもよい。例えば、本発明に係る植物を同種又は近縁種の植物(反復親)と交配し、その子孫植物を反復親と交配し(戻し交配)、その子孫植物をさらに反復親と交配することを繰り返してもよい(連続戻し交配)。あるいは、本発明に係る植物を同種又は近縁種の植物と交配し、その子孫植物を別の同種又は近縁種の植物と交配してもよい。本発明に係る植物の子孫植物の自家交配を繰り返すことにより、上記変異及びそれに起因する向上した果実糖度を植物ゲノム中で固定することもできる。

【0071】
向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された(すなわち、サイクリンF-box遺伝子における上記変異を有する)子孫植物の選抜は、子孫植物中の当該変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することにより、行うことができる。変異型サイクリンF-box遺伝子の検出は、単為結果性をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の検出について上述したのと同様である。向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の増幅断片のみが所定の制限酵素で切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子の増幅断片はその制限酵素で切断されないように設計したプライマーセットを用いて核酸増幅を行い、増幅産物をその制限酵素で切断し、その制限酵素切断の結果に基づいて、子孫植物中の上記変異の有無を判定することもできる。そのようなプライマーセットの例として、配列番号15に示す塩基配列を含むプライマー(フォワードプライマー)と配列番号16に示す塩基配列を含むプライマー(リバースプライマー)とを含む、プライマーセットが挙げられる。このプライマーセットを用いてトマト植物由来のDNA(ゲノムDNA)を増幅する場合、配列番号21に示す塩基配列を有する変異型サイクリンF-box遺伝子をはじめとする、配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される901番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換されたサイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物のみが制限酵素BsaXIで切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物は制限酵素BsaXIで切断されない。そのため、このプライマーセットを用いて得た増幅産物を制限酵素BsaXI処理し電気泳動した結果等に基づき、子孫トマト植物中の上記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することができる。同様に配列番号17に示す塩基配列を含むプライマー(フォワードプライマー)と配列番号18に示す塩基配列を含むプライマー(リバースプライマー)とを含む、プライマーセットも挙げられる。このプライマーセットを用いてトマト植物由来のDNA(ゲノムDNA)を増幅する場合、配列番号19に示す塩基配列を有する変異型サイクリンF-box遺伝子をはじめとする、配列番号1に示す塩基配列を基準として特定される110番目のシトシン(C)がチミン(T)に置換されたサイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物のみが制限酵素XspIで切断され、野生型サイクリンF-box遺伝子由来の増幅産物は制限酵素XspIで切断されない。そのため、このプライマーセットを用いて得た増幅産物を制限酵素XspI処理し電気泳動した結果等に基づき、子孫トマト植物中の上記変異型サイクリンF-box遺伝子を検出することができる。したがってこれらのプライマーセットは、そのような変異型サイクリンF-box遺伝子が導入されたトマト植物の選抜や識別に有用である。本発明は上記のようなプライマー及びプライマーセットも提供する。本発明に係るプライマーは、当業者に周知の任意の化学合成法により作製することができ、例えば市販の自動DNA合成装置を使用して慣用手順により合成することができる。例えば本発明に係るプライマーは、その5'末端又は3'末端に当該プライマーの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)及び/又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー部分等)を含んでいてもよい。本発明に係るプライマーは、5'末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。本発明に係るプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、RNAである場合には、その塩基配列はDNA配列における「T(チミン)」を「U(ウラシル)」に読み替えるものとする。本発明はまた、本発明に係るプライマーセットを含むキットも提供する。本キットは、ポリメラーゼ、制限酵素(BsaXI、XspI等)、使用説明書などから選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。本キットは、向上した果実糖度を有する植物の作出用に好適である。本キットはまた、トマト植物の育種用に好適である。

【0072】
あるいは、向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子の検出は、上記変異型サイクリンF-box遺伝子中の変異導入領域の増幅産物と野生型サイクリンF-box遺伝子中の変異を導入していない同じ領域の増幅産物をハイブリダイズさせてヘテロ二重鎖を形成させ、変異が導入されていれば生じるミスマッチサイトを特異的に検出(例えば、ヌクレアーゼ等によるミスマッチサイトの特異的切断を利用した検出)することにより、変異の有無を判定する方法により行ってもよい。また、競合ハイブリダイゼーションとFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を組み合わせたF-PHFA法や、上記変異を導入した領域に特異的に結合するプローブによるハイブリダイゼーション又はそのハイブリダイゼーションとリアルタイムPCRとを組み合わせた方法なども用いることができる。このような各種の変異検出法は、シークエンサーやPCR装置、各種の変異検出キットなどの市販品を用いて実施することができる。

【0073】
向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子が導入された子孫植物の選抜はまた、変異型サイクリンF-box遺伝子の導入により引き起こされる子孫植物の形態上又は生育特性上の変化に基づいて行うこともできる。例えば、本発明に係る植物では、葉の形態異常に基づいて子孫植物を選抜することもできる。そのような変化を単独で選抜の指標に用いてもよいが、変異型サイクリンF-box遺伝子の検出と組み合わせて指標に用いることがより好ましい。

【0074】
このようにして向上した果実糖度をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を子孫植物に導入することにより、向上した果実糖度を有する植物を育種することができる。

【0075】
向上した果実糖度を有する植物に関して、用語「植物」の定義や説明は、単為結果性を有する植物に関して上述したのと同様である。

【0076】
サイクリンF-box遺伝子は果実の形成や葉の形成などに関与している。特に植物ゲノム中のサイクリンF-box遺伝子における非保存的アミノ酸置換(例えば、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸の間の置換など)は、サイクリンF-boxタンパク質の機能を改変することにより、果実糖度の向上をもたらし得る。そこで本発明は、植物のサイクリンF-box遺伝子に、非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入し、野生型植物と比較して向上した果実糖度を有する植物を選抜することを含む、向上した果実糖度を有する植物のスクリーニング方法も提供する。非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異は、植物の内因性(ゲノム中)のサイクリンF-box遺伝子の任意の部位に対して導入することができる。非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異の導入は、上述のとおり行うことができる。当該変異を導入した植物について、栽培し、果実を取得し、果実糖度を測定する。当該変異を導入した植物は、当該変異(変異型サイクリンF-box遺伝子)をホモ接合で有することが好ましい。果実糖度の測定は、受粉果実(種子形成果実)又は単為結果果実に対して行うことができる。果実糖度の測定及び野生型植物の果実糖度との比較は、上述のとおり行うことができる。同様に測定した野生型植物の受粉果実(好ましくは成熟果)の糖度と比較して糖度が増加(統計学的に有意に増加)した場合、当該非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異又はそれを有する変異型サイクリンF-box遺伝子を保持する植物は、向上した果実糖度をもたらすと判断することができ、それにより向上した果実糖度を有する植物を選抜することができる。本方法では、サイクリンF-box遺伝子に非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異が導入されたことを確認することも好ましい。例えば、変異を導入した植物についてサイクリンF-box遺伝子の塩基配列を決定し、当該遺伝子に非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異が導入されたことを確認し、変異導入が確認された植物について果実糖度を測定してもよい。このようにして変異型サイクリンF-box遺伝子を確実に有する植物個体のみについて栽培、果実取得及び果実糖度の測定を行うことにより、試験工程をより効率化することができる。本スクリーニング方法により、サイクリンF-box遺伝子中の様々な非保存的アミノ酸変異によって果実糖度が向上した植物を効率良く取得することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
[実施例1]トマト変異体系統の作製及び単為結果性トマト系統の選抜
野生型トマト品種マイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)の3000粒の種子を、滅菌水で4時間、室温で吸水させた後、100mlの1.0%エチルメタンスルホン酸(EMS)溶液に浸漬して16時間撹拌することによりEMS処理(EMS変異誘発処理)を行った。EMS溶液から種子を取り出し、100mlの滅菌水で撹拌しながら4時間にわたり洗浄した。この洗浄を3回繰り返した後に、種子を滅菌水を含ませたろ紙上で発芽させ、ガラス温室内で栽培した。各系統(M1世代)から自家受粉によりM2種子を形成させ、採取した後、1つの系統につきM2種子を各10粒播種し、ガラス温室内において、培養土を入れた連結ポットで栽培した。このようにしてトマト植物のマイクロEMS変異誘発集団を得た。M2系統の中から、高い着果率を示した個体(系統)を選抜し、その選抜系統のそれぞれから種子を採取した。
【実施例】
【0079】
採取した種子を滅菌水を含ませたろ紙上に播種して発芽させ、発芽した種子をロックウール(ミニブロック,サイズ:50cm x 50cm x 50cm,grodan)に定植し、栽培(育成)した。栽培は、25℃、16時間日長(16時間明期及び8時間暗期/日)下の植物工場内で行った。栽培中、潅水は、養液栽培用肥料であるOATハウス1号及びOATハウス2号(OATアグリオ株式会社)をEC(電気伝導度)約1.5 ms/cmに調整した養液を1日に1回循環させることにより行った。
【実施例】
【0080】
それぞれの系統の育成植物個体について、単為結果性検定を行い、単為結果率を調査した。単為結果性検定では、開花前に除雄処理を行い、その後の着果数を調査した。単為結果率は系統内での除雄花数に対する着果数の割合(%)として算出した。
【実施例】
【0081】
その結果、1系統が67%という高い単為結果率を示した。そこでこの系統(E8986系統)を単為結果性変異体系統として選抜し、さらなる分析に用いた。具体的には、以下の実施例において、この単為結果性変異体系統の生育特性、果実特性、及び遺伝性を調査し、また原因遺伝子のマッピングを行った。
【実施例】
【0082】
[実施例2]単為結果性トマト変異体系統の生育特性の調査
実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(E8986系統)と、野生型トマト品種マイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)の種子を22及び24粒ずつ用いて、それぞれの生育特性をさらに比較した。得られたデータの処理群間の有意差検定はTukey HSD検定を用いて行った。
【実施例】
【0083】
種子は、3日間、滅菌水で吸水させた。吸水3日後の種子をロックウール(ミニブロック,サイズ:50cm x 50cm x 50cm,grodan)に定植し、植物工場内で25℃、16時間日長下で定植8週間後まで栽培した。栽培中、潅水は、養液栽培用肥料であるOATハウス1号及びOATハウス2号でEC(電気伝導度)約1.5 ms/cmに調整した養液(大塚ハウスA処方)を1日に1回循環させることにより行った。
【実施例】
【0084】
定植後、主茎長を2週間おきに8週間にわたり調査した。定植8週間後に、葉のSPAD値(葉緑素含量の指標値)についても調査した。SPAD値の計測は、葉緑素計(SPAD-502Plus,コニカミノルタ)を用いて定植8週間後に行った。なお、SPAD値は主茎頂部の第1葉から第3葉までについて測定し、それらの平均値を算出した。また葉の形態の観察も行った。結果を図1~3に示す。
【実施例】
【0085】
単為結果性変異体系統は特徴的な葉の形態を有していた。野生型は鋸歯状の葉を有しているのに対し、変異型では葉の縁の鋸歯が弱くまた小葉同士が融合した形態を示していた(図1)。
【実施例】
【0086】
変異型では、野生型に比べ、定植2週間後にはすでに主茎長の生育が抑制されており、定植8週間後の平均主茎長は、野生型で6.6cm、変異型で5.6cmであった(図2)。それぞれの週数で、変異型の主茎長は野生型と比較して統計学的に有意に短いことが示された(図2)。変異型は主茎長が短いため、茎の誘引作業がより容易になると思われる。また変異型の葉のSPAD値(平均)は、野生型に比べて統計学的に有意に高い値を示し、このことから、変異型の葉は葉色が濃いことが示された(図3)。
【実施例】
【0087】
[実施例3]単為結果性トマト変異体系統の果実特性の調査
実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(変異型)と野生型トマト品種マイクロトム(野生型)の植物個体を13及び10個体ずつ栽培し、それぞれについて果実特性を比較した。得られたデータの処理群間の有意差検定はTukey HSD検定を用いて行った。
【実施例】
【0088】
野生型及び変異型について、開花後に受粉処理、又は開花前に除雄処理を行った。受粉処理は、バイブレーターによって花を振動させる(振動受粉)ことによって行った。着果数を1花房あたり2つに制限し、それ以上に形成された果実は除去した。果皮全体が赤くなった果実(赤熟果)を採取し、直ちに果実特性調査を行った。果実特性調査では、着果率/単為結果率、果肉厚、Brix(ブリックス)値(糖度指標)、並びに種子数を測定した。受粉処理を行った場合の着果率は開花数に対する種子形成果実数と種子非形成果実(単為結果果実)数の合計数の割合(%)として算出した。なおこの場合の単為結果率は受粉花数に対する種子非形成果実(単為結果果実)数の割合(%)として算出した。除雄処理を行った場合の着果率(ここでは単為結果率に相当)は、除雄花数に対する着果数の割合(%)として算出した。Brix値の測定は、採取した果汁について糖度計(ポータブル糖度計<BX-1>,KEM)を用いて行った。果肉厚、Brix値、及び種子数については、1個体毎に採取した全ての赤熟果の平均値を算出し、各試験群の個体間平均値をさらに算出した。
【実施例】
【0089】
野生型及び変異型の各処理群における着果率の平均は、受粉処理した野生型では91.7%、除雄処理した野生型では0%であったのに対し、受粉処理した変異型では84%(種子形成果実が81%、単為結果果実が3%)、除雄処理した変異型では64%であった。このことから、変異型の単為結果率は60%超程度であることが確認された。
【実施例】
【0090】
受粉処理した野生型、受粉処理した変異型、及び除雄処理した変異型では、受粉処理又は除雄処理から赤熟果が形成されるまでに、それぞれ、50±1.2日、46±1.0日、33±0.5日要した(平均±標準誤差)。除雄処理した変異型で得られる果実(単為結果果実)は、受粉処理した野生型や変異型と比べ、統計学的に有意に少ない日数で赤熟果が形成されることが示された。
【実施例】
【0091】
果肉厚にも違いが見られ、受粉処理した野生型の果実と比べて、受粉処理した変異型の果実及び除雄処理した変異型の果実の果肉厚は統計学的に有意に大きい(図4)ことが示された。
【実施例】
【0092】
糖度指標であるBrix値の平均は、受粉処理した野生型の果実(種子形成果実/受粉果実)で5.3%、受粉処理した変異型の果実では6.7%であったのに対し、除雄処理した変異型の果実(単為結果果実)では10.3%であり顕著な上昇が見られた(図5)。これらのBrix値については、変異型の単為結果果実と、受粉処理した野生型及び変異型の果実(種子形成果実/受粉果実)との間で、Tukey HSD検定によりp<0.001で有意差が認められた。また受粉処理した野生型の果実と、受粉処理した変異型の果実との間でも、Brix値にTukey HSD検定によりp<0.001で有意差が認められた。このように、変異型では、受粉処理で得られる種子形成果実と除雄処理で得られる種子非形成果実(単為結果果実)のいずれにおいても野生型と比較して糖度が上昇することから、変異型は高糖度の果実を生産することが示された(図5)。【0093】
以上の結果から、実施例1で得られた単為結果性トマト変異体系統(変異型)は、単為結果性と共に果実の糖度向上を示すトマト変異体であることが明らかになった。
【実施例】
【0094】
なお、受粉処理した野生型では1果実あたり平均40粒の種子が形成され、受粉処理した変異型でも1果実あたり平均24粒の種子が形成された(図6)。このことから、変異型でも野生型の半分以上の種子が採種でき、育種に必要な変異型の採種性には問題がないことも示された。
【実施例】
【0095】
[実施例4]変異型における単為結果性及び糖度向上をもたらす原因遺伝子の同定
(1)単為結果性トマト変異体系統(変異型)における遺伝性の調査
実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(E8986系統;変異型)と野生型トマト品種マイクロトム(野生型)を交配し、形成されたF1種子を採種した。F1種子を播種して育成し、開花後に自家受粉させ、形成されたF2種子を採種した。F2種子を播種して育成した。具体的には、吸水3日後の種子を、培養土を入れた連結ポットに播種し、ガラス温室内で栽培を行った。開花後、バイブレーターを用いた振動受粉により着果を促し、得られた果実から種子を採取した。
【実施例】
【0096】
得られたF1種子及びF2種子について、それぞれから育成したトマト植物の葉の形態の違い(変異型の葉は小葉が融合している)に基づき、野生型と変異型の表現型の分離比を調査した。
【実施例】
【0097】
その結果、F1集団では野生型と変異型の表現型の分離比は6:0、F2集団では野生型と変異型の表現型分離比は77:30であった。χ2検定を行った結果、F2集団の分離比は期待される分離比3:1に適合する可能性が高いことが示され(分離比3:1であることを帰無仮説としたときに、χ2値 0.53、p値 0.47)、変異型の表現型をもたらしている原因遺伝子(変異)は単因子劣性であることが示された。
【実施例】
【0098】
[実施例5]原因遺伝子のラフマッピング
実施例4の結果に基づき、トマトゲノム上への原因遺伝子のラフマッピングを行った。まず、実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(変異型)と、近縁種ソラナム・ピンピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium)を交配して、形成されたF1種子を採種した。F1種子を播種して育成し、開花後に自家受粉させ、形成されたF2種子を採種した。F2種子を播種して育成した。具体的には、吸水3日後の種子を、培養土を入れた連結ポットに播種し、ガラス温室内で栽培を行った。得られたF2集団の中から、変異型の表現型(小葉が融合した葉)を有する個体を22個体選抜した。
【実施例】
【0099】
選抜した22個体から、DNAを抽出するために1個体あたり小葉3枚を採取した。採取した小葉を液体窒素で凍結し、マイクロペッスルを用いて小葉を粉砕した。DNAは、粉砕した小葉から、DNA精製キット Maxwell(R) 16 Tissue DNA Purification Kit(Promega)を用い、DNA自動精製装置(Maxwell(R) 16 Instrument ,Promega)で抽出し、それをSolCAP(Solanaceae Coordinated Agricultural Project)に基づく多型解析に用いた。このSolCAP解析で得られた結果から、変異型由来の原因遺伝子の遺伝子頻度を算出し、原因遺伝子が座乗する染色体の位置を絞り込んだ。トマト第1染色体の約77.4Mb(77351578 bp)~79.8Mb(79847862 bp)の領域(約4.3Mb)内に、変異型由来の原因遺伝子の遺伝子頻度が0.87~0.93と高い領域が見出されたことから、その領域内に原因遺伝子が存在すると考えられた。
【実施例】
【0100】
[実施例6]ゲノム解析に基づく原因遺伝子の同定
(1)ゲノム解析による変異同定
実施例4と同様に実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(変異型)と野生型トマト品種マイクロトム(野生型)を交配して得たF1種子を栽培し自家受粉させて得られたF2種子を播種して育成し、変異型の表現型(小葉が融合した葉)を示す29個体を選抜した。この29個体から、1個体あたり3つの小葉を採取した。小葉からのDNA抽出は実施例5に記載したのと同様に行った。DNA抽出後、1/10倍量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量の99.5%エタノール、1/100倍量のEthachinmate(エタチンメイト;ニッポン・ジーン、日本)を加え、エタノール沈殿を行った。エタノール沈殿後、70%エタノールを加えてDNAを洗浄し、滅菌水でDNA溶液を調製した。エタノール沈殿後、各個体のDNAを等量ずつ混合してバルク化し、シーケンサーIllumina HiSeq 2000で次世代シーケンス解析を行った。得られた塩基配列を野生型の基準配列に対してアラインメントし、変異を同定した。
【実施例】
【0101】
その結果、第1染色体の約77.4Mb(77351578 bp)~79.8Mb(79847862 bp)の領域内で生じていた突然変異の数は186個であった。そのうち、翻訳領域に見出された変異は1つであり(185個は非翻訳領域内)、その変異が存在する遺伝子座はサイクリンF-boxタンパク質(Cyclin F-box protein; F-boxファミリータンパク質)をコードしていることが明らかになった(図7)。そのサイクリンF-box遺伝子中の変異は、コドンCCAからCAAへの変異(シトシンのアデニンへの塩基置換)によりアミノ酸をプロリンからグルタミンへと変化させるミスセンス変異であった(図7)。プロリンは疎水性アミノ酸であるのに対し、グルタミンは親水性アミノ酸であるため、このアミノ酸変異はサイクリンF-boxタンパク質の立体構造を変化させるものと考えられる。以上の結果から、サイクリンF-box遺伝子におけるこの変異が、変異型の表現型(小葉が融合した葉、単為結果性及び高糖度等)をもたらしたものと考えられた。
【実施例】
【0102】
上記のシーケンス解析で得られた、変異型トマトのサイクリンF-boxタンパク質をコードする塩基配列(CDS配列)を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4に示した。また野生型トマト品種マイクロトムのサイクリンF-boxタンパク質をコードする塩基配列(CDS配列)を配列番号1に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示した。トマトサイクリンF-box遺伝子中の上記変異部位(C→A)は、配列番号1及び3の1193番目の塩基に相当する。また当該変異部位は、配列番号2及び4に示すアミノ酸配列中の398番目のアミノ酸に対応する。
【実施例】
【0103】
(2)dCAPSマーカーによるジェノタイピング
実施例4と同様に、実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(変異型)と野生型トマト品種マイクロトム(野生型)を交配して得たF1種子を栽培し自家受粉させて得られたF2種子を播種して育成し、128個体のF2個体(F2集団)を取得した。128個体について、葉の形態の違いに基づいて野生型と変異型の表現型を判別したところ、野生型の表現型(小葉が融合していない)を示したのは104個体、変異型の表現型(小葉が融合している)を示したのは24個体であった。128個体の全F2個体から、1個体あたり3つの小葉を採取した。小葉からのDNAの抽出は実施例5に記載したのと同様に行った。
【実施例】
【0104】
次いで、抽出DNAを鋳型として用いて、dCAPSプライマーを用いたPCRにより、サイクリンF-box遺伝子中の変異箇所を含んだ領域を増幅した。PCR反応液の組成は、2xGo Taq(R)GreenMaster Mix(promega) 12.5μL、10μMプライマー各2.5μL、滅菌水6.5μL、及び鋳型DNA 1μLからなる総量25μLとした。dCAPSプライマーは、野生型で得られるPCR産物のみが制限酵素NcoIで消化され、変異型で得られるPCR産物は消化されないように設計した。dCAPSプライマー(dCAPSマーカー)として使用したフォワードプライマーの塩基配列は、5’-CCCGCATGCCACACAAGTATTT-3’(配列番号5)、リバースプライマーの塩基配列は、5’-ATCACATATCAGGGAGACATCTCAAGCCAT-3’(配列番号6)であった。PCR反応条件は、95℃で2分の熱変性の後、95℃で30秒、56℃で1分、72℃で2分を35サイクル行った後、72℃、7分間とした。PCR後、10μLのPCR産物に制限酵素NcoIを0.5μL加えて、37℃で16時間静置し、DNAを消化した。消化後のDNA試料を、制限酵素を不活化するために、70℃で15分インキュベートした。その後、DNA試料について1.5%アガロースゲルで電気泳動を行った。なお対照として、野生型トマト品種マイクロトムの小葉から抽出したDNAを同様に試験した。
【実施例】
【0105】
その結果を図8に示す。フォワードプライマーとリバースプライマーにより増幅される核酸断片(241bp)とそのNcoI切断断片(210bp)のバンドが確認された。野生型の表現型を示したF2の104個体は優性ホモ又はヘテロ接合性のバンドを示した(優性ホモ38個体、ヘテロ66個体)のに対し、変異型の表現型を示したF2の24個体は全て劣性ホモ接合性のバンドを示した(図8、表1)。またこの結果に基づくF2の128個体の分離比も、期待される分離比1:2:1に適合する可能性が高いことが示された(表1)。このように表現型と遺伝子型が完全に一致したことから、サイクリンF-box遺伝子が原因遺伝子である可能性が高いことが示され、サイクリンF-box遺伝子における上記の単為結果誘導性変異が変異型に特徴的な表現型を引き起こしたことが裏付けられた。また、上記で使用したdCAPSマーカーは、原因遺伝子の連鎖マーカーとして使えることも示された。
【実施例】
【0106】
【表1】
JP0006803075B2_000002t.gif
【実施例】
【0107】
[実施例7]実用品種のサイクリンF-box遺伝子の配列解析
実施例1で選抜した単為結果性トマト変異体系統(E8986系統;変異型)(以下で変異型マイクロトムとも称する)、及び野生型トマト品種マイクロトム(以下で野生型マイクロトムとも称する)、並びにトマト実用品種9種「愛知ファースト(Aichi First)」、「ハウス桃太郎(House Momotaro)」、「瑞光102(Zuiko 102)」、「麗容(Reiyou)」、「麗夏(Reika)」、「エイルサ・クレーグ(Ailsa Craig)」、「マネー・メーカー(Money maker)」、「M82」、「レバンソ(Levanzo)」を使用して、サイクリンF-box遺伝子の塩基配列を解析した。
【実施例】
【0108】
栽培容器は、培養土(ジフィーミックス,サカタのタネ)を入れた連結ポット(信和株式会社)を用い、吸水3日後の種子を播種し、ガラス温室内で栽培した。各系統又は品種から小葉3枚を採取し、それを液体窒素で凍結し、マイクロペッスルで小葉を粉砕した。粉砕後、DNA精製キットMaxwell(R) 16 Tissue DNA Purification Kit(Promega)を用い、DNA自動精製装置(Maxwell(R) 16 Instrument ,Promega)でDNAを抽出した。DNA抽出後、サイクリンF-box遺伝子の変異部位を含む領域をPCRで増幅した。PCRの反応液の組成は、DNA鋳型 1μL、KOD-Plus Neo buffer 5μL、25mM dNTPs 5μL、2mM MgSO4 3μL、10μMプライマー 各1.5μL、滅菌水 32μL、及びKOD Plus Neo 1.0μLからなる計50μLとした。PCRに使用したフォワードプライマーの塩基配列は、5’-GGAAACCAGACCGTCCTGAC-3’(配列番号7)、リバースプライマーの塩基配列は、5’-TGCATTGAGAGGAGCTAGGG-3’(配列番号8)であった。PCRの反応条件は、94℃、2分で熱変性を行った後、98℃で10秒、57℃で30秒、68℃で1分を45サイクル行った。その後、PCR反応液について1.5%のアガロースゲルで電気泳動を行い、約400bpのDNAを切り出し、アガロースゲルからDNAを回収した。アガロースからのDNAの回収には、FastGene Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス株式会社)を用いた。DNA回収後、シークエンス反応を行った。シークエンス反応液は、100ngの鋳型DNA、シークエンスバッファー 3.75μL、3.2pmolプライマー 1μL、及びBig Dye 0.5μLを混合し、滅菌水で20μLに調整することにより調製した。プライマーとしては、上記に記載したフォワードプライマー(配列番号7)を使用した。反応後、BigDye XTerminator(R) Purification Kit(アプライドバイオシステムズ)を用いてDNAを精製し、ジェネティックアナライザApplied Biosystems(R)3500xLを使ってシークエンス解析を行った。
【実施例】
【0109】
その結果、野生型マイクロトムと変異型マイクロトムの解析配列を比較すると、実施例6と同様に、野生型マイクロトムではCCAであった塩基配列が、変異型マイクロトムではCAAに変異していることが確認された。また、実用品種の解析配列はいずれも野生型マイクロトムの解析配列と同一であり、すなわち、実用品種の全品種で変異部位に相当する部位の塩基配列はCCAであった。この結果を図9にまとめた。野生型マイクロトム及び実用品種の解析配列を配列番号9に、変異型マイクロトムの解析配列を配列番号10に示す。
【実施例】
【0110】
以上の結果から、変異型マイクロトムのサイクリンF-box遺伝子に認められた上記の単為結果性変異は、EMS処理で誘発された突然変異であることが裏付けられた。さらに、実用品種の解析配列は野生型マイクロトムの解析配列と100%同一であったことから、上記の単為結果誘導性変異は他のトマト品種にも導入できることが示された。
【実施例】
【0111】
[実施例8]サイクリンF-box遺伝子変異体の取得
実施例1に記載されているのと同様の方法を用いて作製した約9,000系統のトマトEMS変異誘発系統のM2種子を10粒ずつ培養土に播種し、栽培した。各系統の生育した植物個体の群よりまとめて常法によりDNA抽出を行った。抽出したDNA(M2 DNA)は96ウェルプレートへ分注し、-20℃で保存した。次いでM2 DNAを8系統ずつ混合して新しい96ウェルプレートに分注し、DNAプールを作製した。作製した約9,000系統に由来するDNAプールを、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)による変異体選抜に用いた。TILLINGによる変異体選抜は、Okabe et al. (2011) Plant and Cell Physiology 52:1994-2005に記載の方法に準じて実施し、サイクリンF-box遺伝子(Solyc01g095370)内に変異を有する系統を選抜した。具体的には、まず、それぞれの5'端を異なる蛍光色素で標識したサイクリンF-box遺伝子特異的フォワード及びリバースプライマーを用いて上記DNAプールのDNAを鋳型としたPCRを行い、サイクリンF-box遺伝子内の標的領域を増幅した。用いたサイクリンF-box遺伝子特異的フォワード及びリバースプライマーを表2に示す。
【実施例】
【0112】
【表2】
JP0006803075B2_000003t.gif
【実施例】
【0113】
次いで、得られたPCR産物を加熱及び冷却することにより、ヘテロ二重鎖の形成を促進した。次いで、加熱及び冷却処理後の核酸を組換えSlENDO1ヌクレアーゼで処理することにより、形成されたヘテロ二重鎖内の塩基のミスマッチ部位を切断した。組換えSlENDO1ヌクレアーゼは、SlENDO1ヌクレアーゼ遺伝子(アクセッション番号AB667996)をクローニングしたpGWB8バイナリーベクター(Nakagawa et al. (2007) J. Biosci. Bioeng., 104: 34-41)を導入したSlENDO1過剰発現性トランスジェニックトマトから抽出し精製した。組換えSlENDO1ヌクレアーゼで処理した核酸をポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供し、切断断片が観察された場合には変異が存在すると判定し、変異の導入が示唆された系統を選抜した。変異が導入が示唆された系統を含むDNAプールについて、2次スクリーニングにおいて系統ごとにTILLINGを実施し、変異が導入された系統を選抜した。シークエンス解析により当該変異を同定した。
【実施例】
【0114】
選抜された系統のM3種子をそれぞれ20粒、培養土に播種して栽培し、生育した植物個体の中からTILLINGを用いた遺伝子型判別法により変異をホモ型に持つ個体を選抜した。具体的には、各植物個体から常法によりDNAを抽出した後、各植物個体のDNAのみを含むPCR鋳型(ヘテロ型検出用)、及び各植物個体のDNAを野生型DNAと混合したPCR鋳型(ホモ型・ヘテロ型検出用)の2種類の鋳型核酸試料を調製し、それらを遺伝子型判別のために供試した。上記と同様にサイクリンF-box遺伝子内の標的領域をPCRにより増幅し、得られたPCR産物を加熱及び冷却することにより、ヘテロ二重鎖の形成を促進し組換えSlENDO1ヌクレアーゼでヘテロ二重鎖内の塩基のミスマッチ部位を切断し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供して切断断片の有無を観察した。植物個体のDNAを野生型DNAと混合したPCR鋳型を用いた場合のみで切断断片が観察され、植物個体のDNAのみを含むPCR鋳型を用いた場合に切断断片が観察されなかった場合、当該系統の遺伝子型をホモ型と判断した。ホモ型と判別された変異体系統のサイクリンF-box遺伝子の増幅領域の塩基配列を決定し、野生型系統のサイクリンF-box遺伝子(配列番号1)の当該領域の塩基配列と比較し、遺伝子変異を同定した。
【実施例】
【0115】
同定された遺伝子変異に基づいて、変異部位を認識する特定の制限酵素により、野生型で得られるPCR産物のみが消化され、変異型で得られるPCR産物は消化されない増幅産物が得られるようにdCAPSプライマーを設計した。このdCAPSプライマーを用いて変異系統のサイクリンF-box遺伝子を増幅し、変異部位を認識する制限酵素で切断することにより遺伝子変異と遺伝子型の確認を行った。ホモ型変異体であることが確認された植物個体(M3)について実施例3と同様にして果実を形成させ、得られた果実(赤熟果)のBrix値(糖度)を手持屈折計N-20E(ATAGO)を用いて測定した。ホモ型変異体の個体より種子(M4種子)を採取した。
【実施例】
【0116】
その結果、サイクリンF-box遺伝子内にミスセンス変異を有し、かつM3世代において高糖度を示した系統を2系統単離した。これらの変異体系統(W283系統及びW3583系統)は、サイクリンF-box遺伝子の塩基配列中に非保存的アミノ酸置換をもたらす塩基置換を有していた。具体的には、W283系統はサイクリンF-boxタンパク質(配列番号2)の301番目のグリシンのアルギニンへの置換を引き起こす変異(配列番号1の塩基配列における901番目のグアニンからアデニンへの置換)を有していた。W3583系統はサイクリンF-boxタンパク質(配列番号2)の37番目のセリンのロイシンへの置換を引き起こす変異(配列番号1の塩基配列における110番目のシトシンからチミンへの置換)を有していた。
【実施例】
【0117】
W283系統及びW3583系統の遺伝子変異及び遺伝子型の確認に用いたdCAPSプライマーは以下のとおりである。
【実施例】
【0118】
【表3】
JP0006803075B2_000004t.gif
【実施例】
【0119】
W283系統及びW3583系統の受粉果実(赤熟果)について測定したBrix値(糖度)を、同様に測定した野生型の受粉果実(赤熟果)及び実施例1で取得したE8986系統の受粉果実(赤熟果)のBrix値と比較した結果を表4及び図10に示す。表4及び図10には各系統で得られた受粉果実の果実当たりの平均重量も示した。
【実施例】
【0120】
【表4】
JP0006803075B2_000005t.gif
【実施例】
【0121】
W283系統及びW3583系統は野生型と比較して高い糖度を示し、さらにE8986系統をも上回る高い糖度を示した。またE8986系統も野生型と比較して高い糖度を示した。この結果から、サイクリンF-boxタンパク質における非保存的置換により果実糖度を増加(向上)させることができることが示された。
【実施例】
【0122】
なおW283系統は特に特徴的な葉の形態を有しており、E8986系統よりもさらに強い葉の形態異常を示した(図11)。一方、W3583系統は比較的弱いレベルの葉の形態異常を示し、また単為結果性を示さなかった(単為結果率0%)。
【実施例】
【0123】
W3583系統及びW283系統の変異型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号19及び21に、それらの配列にコードされた変異型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号20及び22に示す。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の植物(例えば、トマト)は、果実高糖度化のための特別な栽培方法及び栽培設備を必要とせずに、高糖度果実を簡単かつ安定的に生産するために用いることができる。本発明に係る植物はまた、単為結果性植物や、高糖度果実を産生する植物を作出するための育種素材として用いることもできる。単為結果性である本発明に係る植物を用いれば、夏季及び冬季栽培での果実収量の低下や品質劣化を抑制することができ、年間を通して果実の高品質化を可能にすることができる。
【0125】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0126】
配列番号1:野生型サイクリンF-boxタンパク質をコードするCDS配列
配列番号2:野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:変異型サイクリンF-boxタンパク質(E8986由来)をコードするCDS配列
配列番号4:変異型サイクリンF-boxタンパク質(E8986由来)のアミノ酸配列
配列番号5~8:プライマー
配列番号9:野生型マイクロトムの解析配列
配列番号10:変異型マイクロトム(E8986)の解析配列
配列番号11~18:プライマー
配列番号19:変異型サイクリンF-boxタンパク質(W3583由来)をコードするCDS配列
配列番号20:変異型サイクリンF-boxタンパク質(W3583由来)のアミノ酸配列
配列番号21:変異型サイクリンF-boxタンパク質(W283由来)をコードするCDS配列
配列番号22:変異型サイクリンF-boxタンパク質(W283由来)のアミノ酸配列
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10