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明細書 :微小タンパク質の骨格構造に基づく分子ライブラリ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5904565号 (P5904565)
登録日 平成28年3月25日(2016.3.25)
発行日 平成28年4月13日(2016.4.13)
発明の名称または考案の名称 微小タンパク質の骨格構造に基づく分子ライブラリ
国際特許分類 C40B  40/10        (2006.01)
C40B  40/08        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C40B 40/10 ZNA
C40B 40/08
C07K 19/00
C07K 7/06
C12N 15/00
C12Q 1/68 Z
請求項の数または発明の数 15
全頁数 40
出願番号 特願2014-554102 (P2014-554102)
出願日 平成25年12月9日(2013.12.9)
国際出願番号 PCT/JP2013/007238
国際公開番号 WO2014/103203
国際公開日 平成26年7月3日(2014.7.3)
優先権出願番号 2012285734
優先日 平成24年12月27日(2012.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年5月11日(2015.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】本田 真也
【氏名】渡邊 秀樹
【氏名】山崎 和彦
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100105991、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100117444、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 健一
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開2009-112282(JP,A)
CHENG Z.et al.,An engineered tryptophan zipper-type peptide as a molecular recognition scaffold.,J.Pept.Sci.,2009 Aug,15(8),p.523-32
HERMAN R.E.et al.,The Trp cage motif as a scaffold for the display of a randomized peptide library on bacteriophage T7,J.Biol.Chem.,2007 Mar 30,282(13),p.9813-24
渡邊 秀樹,他2名,微小蛋白質を構造構成要素とした小型人工蛋白質設計,第13回日本蛋白質科学会年会プログラム・要旨集,2013 May 31,p.80,1P-128
調査した分野 C40B 10/00-99/00
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
DWPI(Thomson Innovation)


特許請求の範囲 【請求項1】
複数の分子の群から構成される分子ライブラリであって、ライブラリの各メンバーは、ランダム化配列部分と微小タンパク質部分とを有するポリペプチドであることを特徴とする分子ライブラリ。
【請求項2】
微小タンパク質が、溶液中で自発的にフォールディングし特定の立体構造を形成する能力を有する30アミノ酸残基以下の直鎖状ポリペプチドからなるタンパク質である、請求項1に記載の分子ライブラリ。
【請求項3】
微小タンパク質が、下記のアミノ酸配列:
Gly Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Gly (配列番号1)
からなるシニョリンであるか、あるいは該アミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなるシニョリン変異体である、請求項1または2に記載の分子ライブラリ。
【請求項4】
微小タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列:
Xaa Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp Xaa (配列番号2)
Tyr Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp (配列番号3)
Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Tyr (配列番号4)
Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp (配列番号5)
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示す)
からなるシニョリン変異体である、請求項3に記載の分子ライブラリ。
【請求項5】
ライブラリの各メンバーが、下記のアミノ酸配列:
(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、nは0以上の整数であり、m は0以上の整数であり、ただしnとmは同時に0ではない)
からなるポリペプチド分子であることを特徴とする請求項1-4のいずれかに記載の分子ライブラリ。
【請求項6】
ライブラリの各メンバーが、下記のアミノ酸配列:
-[(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m]k-
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、kは2以上の整数であり、各nは独立して0以上の整数であり、各mは独立して0以上の整数である)
からなるポリペプチド分子であることを特徴とする請求項1-4のいずれかに記載の分子ライブラリ。
【請求項7】
ライブラリの各メンバーは、さらに固定配列部分を含む、請求項1-6のいずれかに記載の分子ライブラリ。
【請求項8】
前記固定配列部分が、既知のポリペプチドの全部あるいは一部のアミノ酸配列、または請求項1-6のいずれかに記載の分子ライブラリから選択されたポリペプチドの全部あるいは一部のアミノ酸配列からなる請求項7に記載のライブラリ。
【請求項9】
ライブラリの各メンバーのポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと対応付けられた形態で存在していることを特徴とする請求項1-8のいずれかに記載の分子ライブラリ。
【請求項10】
ライブラリの各メンバーのポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されていることを特徴とする請求項9に記載の分子ライブラリ。
【請求項11】
ライブラリの各メンバーのポリペプチドはバクテリオファージの表層に提示されており、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは前記バクテリオファージに内包されている、請求項9に記載の分子ライブラリ。
【請求項12】
請求項1-11のいずれかに記載の分子ライブラリの各メンバーをコードするポリヌクレオチドの群から構成されるポリヌクレオチドライブラリ。
【請求項13】
標的物質に結合しうるポリペプチド分子を同定する方法であって、下記(a)~(c)の工程:
(a) 請求項7-11のいずれかのライブラリを前記標的物質に接触させる工程
(b) 前記ライブラリから前記標的物質と結合するメンバーを選択する工程
(c) 前記選択されたメンバーのアミノ酸配列を決定する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
アミノ酸配列の決定が、ポリペプチドに対応付けられたポリヌクレオチドの塩基配列を決定することにより行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
標的物質がヒト免疫グロブリンである、請求項13または14に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は微小タンパク質の骨格構造を有するポリペプチドの分子ライブラリ、および該ライブラリを用いて新規な機能性分子を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するタンパク質や核酸などの生体高分子を高機能化する方法、あるいは新規な機能を有する分子を創製する方法として一般に進化分子工学(あるいは試験管内進化)と呼ばれる技術領域が存在する(非特許文献1)。近年、バイオ医薬品および診断検査薬の開発における基盤技術として、その利用が拡大している。
【0003】
タンパク質およびポリペプチドを対象とした進化分子工学において、初期ライブラリの構成は、新規分子創製の成否の鍵となる要素技術である(非特許文献2、3)。この初期ライブラリを構成する分子の形態には、大きく分けて二つのタイプが存在する。ひとつは10残基長程度の短鎖ペプチドで、分子のほぼ全配列がランダム化されたものである。もう一つは、特定のタンパク質の骨格構造(フォールド)を土台として利用し、その分子の一部の配列をランダム化した比較的長鎖のポリペプチドである。短鎖ペプチドライブラリとタンパク質骨格型ライブラリにはそれぞれ以下のような長所と短所がある。
【0004】
短鎖ペプチドライブラリは、ライブラリの構築やスクリーニング作業が比較的容易である。7~10残基のペプチドをランダム化した場合の分子多様性は、理論上20の7~10乗、即ち109~1013オーダーの規模になる。この程度のライブラリサイズであれば、既存技術を用いてライブラリの作製とスクリーニングを行うことができる。また、スクリーニングで広く利用されている各種のディスプレイ技術においても、分子量が小さいほうが容易に適用できる。その一方、一般に短鎖のペプチドは分子の柔軟性が高く、溶液中で特定の三次元構造を安定に形成しないことから、ペプチド-標的受容体やペプチド-標的酵素などの特異的結合において熱力学的に安定性が低く、高親和性分子、高特異性分子が得られにくいという短所を有している。
【0005】
タンパク質骨格型ライブラリは、特定の天然タンパク質(あるいは人工タンパク質)の骨格構造を土台として用いる。多くの場合、該タンパク質の三次元立体構造が既知のものを選択する。タンパク質骨格型ライブラリでは、分子全体ではなく、その一部の領域のみがランダム化される。その他の部分は特定の配列で、多くの場合天然配列のままである。この理由は、すべての領域をランダム化すると固有の三次元構造の形成が期待できなくなるからである。このため、立体構造データ等を参照して、元のタンパク質の構造安定化に寄与するアミノ酸残基は温存し、分子の表面側に位置するループ領域などをランダム化することが多い。複数のループ領域をランダム化することもある。また、近年は、天然タンパク質ではなく人為的に設計した配列からなる人工タンパク質の骨格構造を土台として用いることもある。
【0006】
タンパク質骨格型ライブラリのコンセプトは、抗体(免疫グロブリン)の分子構造様式を模したものである。すなわち、ランダム化部分は、抗体の可変領域に相当し、天然配列のままであるその他の部分は、定常領域に相当する。抗体が可変領域で抗原を認識するように、タンパク質骨格型ライブラリでは、ランダム化される部分で新たな機能の獲得を目指している。
【0007】
タンパク質骨格に導入されたランダム化配列は、短鎖ペプチドライブラリの場合と異なり、その両端が堅固な骨格構造に固定されていることから取りうるコンホメーションが限定され、その結果、分子の柔軟性に起因する欠点を回避することが期待できる。一方で、分子サイズは相対的に巨大化せざるを得ず、これに伴う研究開発上の難度、実用化した際の製造コスト、保存安定性の低下などが短所として指摘される。また、コンホメーションが限定されることで、逆に活性な構造を実現できなくなるというリスクも潜在している。
【0008】
一方、分子量が小さく、かつ安定した構造を持つポリペプチドのライブラリとして、環状オリゴペプチド骨格に基づく分子ライブラリも知られている。しかし、オリゴペプチドの環状化を行うためには、官能基の導入や煩雑な化学反応操作を必要とし、合成工程が複雑になる。また、システインの酸化反応で環状化されているオリゴペプチドは、細胞内などの還元環境での利用が一般に困難であるという欠点を有する。
【0009】
上述したようにタンパク質骨格型ライブラリは、土台として用いるための天然タンパク質(あるいは人工タンパク質)を選定する必要がある。これまで40種を超す様々なタンパク質が利用されている(非特許文献2、3)。表1に主なライブラリを示し、以下にそのいくつかを例示する。
【0010】
【表1】
JP0005904565B2_000002t.gif

【0011】
ブドウ球菌プロテインA (SPA)の抗体結合ドメインを改変したプロテインZをタンパク質骨格とするアフィボディ (非特許文献4、5、6、特許文献1、2) は、58残基(6.5 kDa)のタンパク質で、分子内ジスルフィド架橋に依存することなく高い安定性・溶解性を保ち、微生物発現系での大量製造を可能とするほか、固相合成による化学的製造も実施されている(非特許文献7)。ヘリックス上の13残基を可変化することで分子ライブラリを作製し、これまで数十種類の標的タンパク質に対する結合分子が取得されている。診断試薬として最も研究が進展しているアフィボディは、細胞表面受容体HER-2に対する高親和性アフィボディであり、腫瘍診断のイメージング分子として応用されている(非特許文献8)。
【0012】
フィブロネクチン3型ドメインはβシートからなる小型のタンパク質ドメインであり、2ないし3本のループ領域におけるアミノ酸残基をランダム化したライブラリからユビキチンなど複数の標的に対する結合性分子が取得されている(非特許文献9、特許文献3)。
【0013】
ミニボディは、モノクローナル抗体の重鎖の可変ドメインから3つのβ鎖を除去することで設計された人工タンパク質である(非特許文献10)。このタンパク質は全長61残基からなり、2つのループをもつ。この2つのループ部がランダム化される。低溶解度(10μM)が実用に際して問題視されていたが、変異導入により高溶解度(350μM)を実現した変異型ミニボディが報告されている(非特許文献11)。
【0014】
74残基からなるテンダミスタットは、サンドイッチ状の6本のβシート鎖が2つのジスルフィド結合によって結合している(非特許文献12)。この骨格には3つのループが含まれている。これまでのところ、これらのループのうちの2つについてのみ、ランダム化が試されている。
【0015】
シトクロムb562は106残基からなる4ヘリックスバンドル構造のタンパク質ドメインであり、2本のループ状のアミノ酸残基9箇所をランダム化することにより低分子ハプテンに対し290 nMの平衡解離定数で結合する分子が得られている(非特許文献13)。
【0016】
オリゴヌクレオチド/オリゴ多糖結合性フォールド(OB-フォールド)は、両親媒性のα-ヘリックスでキャップされた五本鎖β-バレルで構成される骨格構造である(特許文献4)。20種以上のゲノム配列の解析で28番目に多い代表的なフォールドである (非特許文献14)。
【0017】
環状化βターンペプチド骨格は、ジスルフィド制約型環状化によってペプチドの二次構造形成を促進し、溶液中コンホメーションを安定化させた低分子型タンパク質骨格である(特許文献5)。
【0018】
短鎖ペプチドのαヘリックスを安定化させるため、ジスルフィド架橋が導入されたコイルドコイル構造に基づくタンパク質骨格が設計されている。アルギニン-グリシン-アスパラギン酸 (RGD) 配列を導入したコイルドコイルタンパク質骨格はフィブリノーゲンに対し競合阻害活性を示す(非特許文献15)。
【0019】
アンキリンリピートタンパク質に基づく人工タンパク質(Designed AR protein, DARPin)は、繰り返し構造を有する巨大タンパク質である(非特許文献16)。繰り返し単位は33残基の小型ドメインで、ジスルフィド結合を含まないβターンおよび逆平行ヘリックスとループから構成される。
【0020】
A-ドメイン(非特許文献17)は、繰り返し単位として観察される骨格構造で、様々な種の細胞表面受容体に認められ、35-40アミノ酸残基からなるドメインの連結体として構成される。
【0021】
細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)はイムノグロブリンスーパーファミリーに属するヘルパーT細胞表面受容体であり、超可変ループへの認識配列導入によってインテングリンに対する親和性が獲得される(非特許文献18)。
【0022】
抗体(免疫グロブリン)は、高い特異性を有する結合性分子として最も広範に用いられているタンパク質である。免疫グロブリンGは12のサブユニットからなる分子量約15万の巨大分子であり、酵素処理によって抗原結合部を含む領域を有する抗原結合断片(Fab)、あるいは遺伝子工学的手法により作製された重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)からなる可変領域断片(Fv)、さらにVHとVLをペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体(scFv)なども、結合性分子の単位としてしばしば汎用される(非特許文献19)。天然の免疫レパートリーに依存しない人工抗体として、抗体可変領域のフレームワークをタンパク質骨格として用い、相補性決定領域をランダム化した分子ライブラリHuCALが報告されている(非特許文献20)。
【先行技術文献】
【0023】

【特許文献1】国際公開番号WO/1995/019374明細書
【特許文献2】国際公開番号WO/2000/063243明細書
【特許文献3】特開2009-183292号公報
【特許文献4】特開2010-511691号公報
【特許文献5】特表2006-503088号公報
【0024】

【非特許文献1】Bonsor DA,Sundberg EJ. (2011) Dissecting protein-protein interactions using directedevolution. Biochemistry. 50(13) 2394-402.
【非特許文献2】Binz HK,Amstutz P, Pluckthun A. (2005) Engineering novel binding proteins fromnonimmunoglobulin domains. Nat Biotechnol. 23, 1257-1268.
【非特許文献3】Hosse RJ,Rothe A and Power BE. (2006) A new generation of protein display scaffolds formolecular recognition. Protein Sci. 15, 14-27.
【非特許文献4】Nilsson B,Moks T, Jansson B, Abrahmsen L, Elmblad A, Holmgren E, Henrichson C, Jones TAand Uhlen M. (1987) A synthetic IgG-binding domain based on staphylococcalprotein A. Protein Eng. 1, 107-113.
【非特許文献5】Nord K,Nilsson J, Nilsson B, Uhlen M and Nygren PA. (1995) A combinatorial library ofan alpha-helical bacterial receptor domain. Protein Eng. 8, 601-608.
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【非特許文献8】Tran T,Engfeldt T, Orlova A, Sandstrom M, Feldwisch J, Abrahmsen L, Wennborg A,Tolmachev V and Karlstrom AE.(2007) (99m)Tc-maEEE-Z(HER2:342), an Affibodymolecule-based tracer for the detection of HER2 expression in malignant tumors.Bioconjug Chem. 18(6) 1956-1964.
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【非特許文献14】Qian J,Luscombe NM and Gerstein M. (2001) Protein family and fold occurrence ingenomes: power-law behaviour and evolutionary model. J Mol Biol. 313, 673-681.
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【非特許文献18】Hufton SE,van Neer N, van den Beuken T, Desmet J, Sablon E and Hoogenboom HR. (2000)Development and application of cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4 as aprotein scaffold for the generation of novel binding ligands. FEBS Lett. 475,225-231.
【非特許文献19】Nelson ALand Reichert JM. (2009) Development trends for therapeutic antibody fragments.Nat Biotechnol. 27(4) 331-337.
【非特許文献20】Knappik A,Ge L, Honegger A, Pack P, Fischer M, Wellnhofer G, Hoess A, Wolle J, PluckthunA and Virnekas B. (2000) Fully synthetic human combinatorial antibody libraries(HuCAL) based on modular consensus frameworks and CDRs randomized withtrinucleotides. J Mol Biol. 296(1) 57-86.
【非特許文献21】Honda, S.Yamasaki, Y. Sawada, and H. Morii (2004) 10-residue folded peptide designed bysegment statistics Structure 12(8) 1507-1518.
【非特許文献22】Honda, S.,Akiba, T., Kato, Y.S., Sawada, Y., Sekijima, M., Ishimura, M., Ooishi, A.,Watanabe, H., Odahara, T. and Harata, K. (2008) Crystal Structure of aTen-Amino Acid Protein J. Am. Chem. Soc., 130(46), 15327-15331.
【非特許文献23】本田真也 「アミノ酸10個の”蛋白質”、シニョリンの発見」, 蛋白質核酸酵素, 50(5), 427-433 (2005).
【非特許文献24】本田真也「タンパク質のミニマルデザイン:スーパーシニョリンの構造とゆらぎ」, 生物物理,49(3), 126-129 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、分子量が小さく、かつ安定した構造を有する分子ライブラリ、および該ライブラリを活用した新規分子の同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シニョリンなどの微小タンパク質の骨格構造を利用することにより、分子量が小さく、かつ安定した立体構造を有するポリペプチドの分子ライブラリを開発することに成功した。また、該ライブラリを用いて、標的物質に結合しうるポリペプチド分子を同定できることを実証した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0027】
シニョリンは、産業技術総合研究所により開発された、わずか10アミノ酸からなる人工微小タンパク質である(非特許文献21、22)。シニョリンは、天然タンパク質の局所領域程度のサイズでありながら、溶液中で自発的にフォールディングし特定の三次元構造を形成する。このような特性を示す非環状骨格の直鎖状ポリペプチドとしては、現時点で最も分子量が小さく、「最小のタンパク質」として認識されている(非特許文献23、24)。しかしながら、これまで、シニョリンまたはシニョリンのような微小タンパク質を土台として利用したタンパク質骨格型ライブラリは知られていない。
【0028】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 複数の分子の群から構成される分子ライブラリであって、ライブラリの各メンバーは、ランダム化配列部分と微小タンパク質部分とを有するポリペプチドであることを特徴とする分子ライブラリ;
[2] 微小タンパク質が、溶液中で自発的にフォールディングし特定の立体構造を形成する能力を有する30アミノ酸残基以下の直鎖状ポリペプチドからなるタンパク質である、[1]に記載の分子ライブラリ;
[3] 微小タンパク質が、下記のアミノ酸配列:
Gly Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Gly (配列番号1)
からなるシニョリンであるか、あるいは該アミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなるシニョリン変異体である、[1]または[2]に記載の分子ライブラリ;
[4] 微小タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列:
Xaa Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp Xaa (配列番号2)
Tyr Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp (配列番号3)
Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Tyr (配列番号4)
Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp (配列番号5)
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示す)
からなるシニョリン変異体である、[3]に記載の分子ライブラリ;
[5] ライブラリの各メンバーが、下記のアミノ酸配列:
(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、nは0以上の整数であり、m は0以上の整数であり、ただしnとmは同時に0ではない)
からなるポリペプチド分子であることを特徴とする[1]-[4]のいずれかに記載の分子ライブラリ;
[6] ライブラリの各メンバーが、下記のアミノ酸配列:
-[(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m]k-
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、kは2以上の整数であり、各nは独立して0以上の整数であり、各mは独立して0以上の整数である)
からなるポリペプチド分子であることを特徴とする[1]-[4]のいずれかに記載の分子ライブラリ;
[7]
ライブラリの各メンバーは、さらに固定配列部分を含む、[1]-[6]のいずれかに記載の分子ライブラリ。
[8] 前記固定配列部分が、既知のポリペプチドの全部あるいは一部のアミノ酸配列、または[1]-[6]のいずれかに記載の分子ライブラリから選択されたポリペプチドの全部あるいは一部のアミノ酸配列からなる[7]のライブラリ。
[9] ライブラリの各メンバーのポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと対応付けられた形態で存在していることを特徴とする[1]-[8]のいずれかに記載の分子ライブラリ;
[10] ライブラリの各メンバーのポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されていることを特徴とする[9]に記載の分子ライブラリ。
[11] ライブラリの各メンバーのポリペプチドはバクテリオファージの表層に提示されており、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは前記バクテリオファージに内包されている、[9]に記載の分子ライブラリ;
[12] [1]-[11]のいずれかに記載の分子ライブラリの各メンバーをコードするポリヌクレオチドの群から構成されるポリヌクレオチドライブラリ;
[13] 標的物質に結合しうるポリペプチド分子を同定する方法であって、下記(a)~(c)の工程:
(a) [8]~[11]のいずれかのライブラリを前記標的物質に接触させる工程
(b) 前記ライブラリから前記標的物質と結合するメンバーを選択する工程
(c) 前記選択されたメンバーのアミノ酸配列を決定する工程
を含むことを特徴とする方法。
[14] アミノ酸配列の決定が、ポリペプチドに対応付けられたポリヌクレオチドの塩基配列を決定することにより行われる、[13]に記載の方法。
[15] 標的物質がヒト免疫グロブリンである、[13]または[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の分子ライブラリを活用することで、分子量の小さい新規な機能性分子を作製することが可能になる。シニョリンは、溶液状態で自発的にフォールディングし特定の三次元構造(βヘアピン構造)を形成する。このような特性を示す直鎖状ポリペプチドとしては、現時点で最も分子量が小さく、「最小のタンパク質」として認識されている。表1で示すように、既知のタンパク質骨格型ライブラリで採用されているタンパク質が、環状骨格のものを除外すると少なくとも50残基程度以上であることを考えると、シニョリンの10残基長というサイズは極端に小さい。したがって、本発明の分子ライブラリを用いて同定されうる新規な機能性分子は、既知のタンパク質骨格型ライブラリを用いて同定されうるものに比べて低分子量になる。即ち、アミノ酸残基数を大幅に減少させた新規小型タンパク質の作製が可能となる。アミノ酸残基数が50未満であると化学合成による大量製造が容易で、細胞培養に依存した従来方法に比べ安価に調製できるので、製造コストの低減が期待できる。また、本発明の分子ライブラリは、自発的にフォールディングする微小タンパク質を内包することから、オリゴペプチドの構造安定化に通常用いられる環状化操作を含まない。したがって、ライブラリから選択され同定された分子は、環状化を行うための官能基の導入や煩雑な化学反応操作や管理を必要とせずに、簡便に合成することができる。また、システインの酸化反応で環状化されているオリゴペプチドは細胞内などの還元環境での利用が一般に困難であるが、本発明の分子ライブラリから同定された分子ではこのような問題が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】微小タンパク質シニョリン変異体を内包する分子ライブラリ設計の概要を示す。
【図2】表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したFcに対し、濃度100,80, 60, 40, 20 nMに希釈したそれぞれの2A1ペプチドの結合曲線を表す。
【図3】(A)表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドのヒトFc領域 (Jackson Immunoresearch社)に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化した2A1ペプチドに対し、濃度600,500, 400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれのヒトFc領域の結合曲線を表す。 (B)表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドの天然型ヒトモノクローナルIgGに対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化した2A1ペプチドに対し、濃度600, 500, 400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれの天然型IgGの結合曲線を表す。 (C)表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドの天然型ヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化した2A1ペプチドに対し、濃度600,500, 400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれの天然型ヒトFc領域の結合曲線を表す。 (D)表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドの酸変性型ヒトIgGに対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化した2A1ペプチドに対し、濃度250, 125 nMに希釈したそれぞれの酸変性型ヒトIgGの結合曲線を表す。 (E)表面プラズモン共鳴による、2A1ペプチドの還元処理ヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化した2A1ペプチドに対し、濃度600,400, 200 nMに希釈したそれぞれの還元処理ヒトFc領域の結合曲線を表す。
【図4】表面プラズモン共鳴による、H6ペプチドのヒトFc領域 (Jackson Immunoresearch社)に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度50,25, 12.5μMに希釈したそれぞれのH6ペプチドの結合曲線を表す。
【図5】表面プラズモン共鳴による、2A1GlyペプチドのヒトFc領域 (Jackson Immunoresearch社)に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度40,30, 20, 10, 5μMに希釈したそれぞれの2A1Glyペプチドの結合曲線を表す。
【図6】(A)2A1ペプチドのNMR構造を示す。 (B)微小タンパク質シニョリンのNMR構造を示す。構造座標はプロテインデータバンク (PDB code, 1UAO) より取得した。
【図7】特定配列と微小タンパク質シニョリン変異体を内包する分子ライブラリ設計の概要を示す。
【図8】(A)表面プラズモン共鳴による、pep11ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度500,400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれのpep11ペプチドの結合曲線を表す。 (B)表面プラズモン共鳴による、pep14ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度500,400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれのpep14ペプチドの結合曲線を表す。 (C)表面プラズモン共鳴による、pep21ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度500,400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれのpep21ペプチドの結合曲線を表す。 (D)表面プラズモン共鳴による、pep24ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度500,400, 300, 200, 100 nMに希釈したそれぞれのpep24ペプチドの結合曲線を表す。
【図9】(A)表面プラズモン共鳴による、FcIII-AlaペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度100,50, 25, 12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78μMに希釈したそれぞれのFcIII-Alaペプチドの結合曲線を表す。 (B)FcIII-AlaペプチドのヒトFc領域に対する結合曲線から導出したスキャッチャードプロットを示す。
【図10】(A)表面プラズモン共鳴による、チオレドキシン融合タンパク質Trx-p2のヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度20,16, 12, 8, 4 nMに希釈したそれぞれのチオレドキシン融合タンパク質Trx-p2の結合曲線を表す。 (B)表面プラズモン共鳴による、チオレドキシン融合タンパク質Trx-p5のヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度20,16, 12, 8, 4 nMに希釈したそれぞれのチオレドキシン融合タンパク質Trx-p5の結合曲線を表す。 (C)表面プラズモン共鳴による、チオレドキシン融合タンパク質Trx-p14のヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度20,16, 12, 8, 4 nMに希釈したそれぞれのチオレドキシン融合タンパク質Trx-p14の結合曲線を表す。 (D)表面プラズモン共鳴による、チオレドキシン融合タンパク質Trx-p17のヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度20,16, 12, 8, 4 nMに希釈したそれぞれのチオレドキシン融合タンパク質Trx-p17の結合曲線を表す。
【図11】表面プラズモン共鳴による、p17_2ペプチドのヒトFc領域に対する結合親和性解析の結果を示す。センサーチップ上に固定化したヒトFc領域に対し、濃度25,12.5, 6.25, 8.13 nMに希釈したそれぞれのp17_2ペプチドの結合曲線を表す。
【図12】2A1ペプチド固定化樹脂を用いた結合特異性評価。非天然型Fc領域の存在 (Fc(+))・非存在下 (Fc(-)) での、サンプル溶液(lysate) および溶出液(elute) のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示す。コントロールはFc領域のバンドを示す。
【図13】100℃加熱処理前 (A) 処理後 (B) の2A1ペプチド溶液を用いたSPR試験。
【図14】競合進化実験。機能選択前の混合ライブラリおよび各選択工程後の分子集団におけるCLNライブラリ由来クローンの割合 (棒グラフ) と、独立なアミノ酸配列をもつクローンの割合 (折れ線グラフ)。配列決定は16クローンずつ3回、計48クローンについて行った。
【図15】ポリペプチドp17_2全体構造のリボンモデル。
【図16】ポリペプチドp17_2とFc IIIの構造重ね合わせ。
【図17】FcIIIとFc領域の複合体構造 (A)、ポリペプチドp17_2とFc領域の複合体 (B) 構造。
【図18】C末端セグメントが形成するαヘリックス (A)、N末端セグメントが形成するループ構造(B)。
【図19】Pro46周辺の電子密度マップ(A)、Asp47周辺の電子密度マップ(B)、Arg50周辺の電子密度マップ(C)、Trp48,Met51周辺の電子密度マップ(D)。

【0031】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2012-285734号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、微小タンパク質の骨格構造を有するポリペプチドの分子ライブラリ、および該ライブラリを用いて新規な機能性分子を同定する方法に関する。本発明において、ポリペプチドの分子ライブラリとは、アミノ酸配列の異なる複数のポリペプチドの集合を意味し、好ましくは103種類以上のポリペプチド分子、さらに好ましくは106種類以上のポリペプチド分子、最も好ましくは109種類以上のポリペプチド分子の集団で構成される。

【0033】
本発明において想定される機能性分子の「機能」とは、結合親和性、認識性、触媒活性、阻害活性など、天然の生体高分子において知られているすべての機能を指す。これらの「機能」を有する新規な機能性分子は、医薬品、検査薬、研究試薬、農薬、酵素、センサー、凝固剤、除去剤、分離剤、阻害剤などの開発目的に応用することができる。上記において、ある標的物質に対して結合親和性を有する新規な分子の同定を目的とした場合、その標的物質の種類に関して特段の制限はなく、生体高分子のみならず、非生体分子あるいは非天然非生体材料、例えば、タンパク質、糖類、糖タンパク質、核酸、低分子化合物などが含まれる(参照文献1)。例としては、レセプター、細胞表面抗原、抗体、ホルモン、DNA、RNA、ウイルス表面抗原などが挙げられる。

【0034】
本発明の分子ライブラリは、ライブラリを構成する各メンバーが微小タンパク質に基づく骨格構造を有することを特徴とする。一般にタンパク質等の生体高分子の機能は、その立体構造が安定化することで向上することが知られている(参照文献2、3)。また、構造安定化により向上する機能とは特に限定されたものでなく、結合親和性、認識性、触媒活性、阻害活性など天然の生体高分子において知られているすべての機能に及ぶ。したがって、微小タンパク質を内包させることによって新規な機能性分子の構造安定化が達成できれば、その機能を効果的に向上させることが可能と考えられる。後記実施例1で詳述するように、微小タンパク質の配列部分を含むポリペプチド分子で構成される分子ライブラリを作製し、これを用いて標的物質に対して結合親和性を有する新規な分子を同定し、同定した新規分子が安定な立体構造を形成するとともに顕著な結合親和性向上を示すことを実証した。

【0035】
本発明の分子ライブラリは、ライブラリを構成する各メンバーが微小タンパク質の配列部分を含むポリペプチドであることを特徴とする。ここで、微小タンパク質とは、溶液中で自発的にフォールディングし特定の立体構造を形成する能力を有する30アミノ酸残基以下、好ましくは20アミノ酸残基以下、さらに好ましくは10アミノ酸残基以下のアミノ酸配列からなるタンパク質を指す。

【0036】
微小タンパク質の好ましい一例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるシニョリンが挙げられる。
Gly Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Gly (配列番号1)
シニョリンは、産業技術総合研究所が開発した人工タンパク質で、溶液中で自発的にフォールディングし特定の三次元構造を形成する(参照文献4、5)。このような特性を示す非環状骨格の直鎖状ポリペプチドとしては、現時点で最も分子量が小さく、「最小のタンパク質」として認識されている(参照文献6、7)。したがって、微小タンパク質にシニョリンを採用した分子ライブラリ、すなわちシニョリンの骨格構造に基づく分子ライブラリは、本発明を実施するための特に好ましい形態のひとつである。

【0037】
また、シニョリンの代わりにシニョリン変異体を採用してもよい。ここで、シニョリン変異体とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなる分子のことである。シニョリンに関しては、多くの理論研究(参照文献8~12)があり、2位のTyr、3位のAsp、4位のPro、6位のThr、7位のGly、8位のThr、9位のTrpが特定の三次元構造の形成に重要であることが明らかとなっている。したがって、下記のアミノ酸配列:
Xaa Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp Xaa (配列番号2)
Tyr Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp (配列番号3)
Tyr Asp Pro Glu Thr Gly Thr Trp Tyr (配列番号4)
Tyr Asp Pro Xaa Thr Gly Thr Trp (配列番号5)
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示す)
からなるオリゴペプチドは、好ましいシニョリン変異体の形態のひとつである。

【0038】
本発明の分子ライブラリの各メンバーは、骨格構造を形成する微小タンパク質部分と、微小タンパク質のN末端あるいはC末端、もしくは両末端に付加されるランダム化配列部分とを有する。ランダム化配列部分では、少なくとも一部のアミノ酸配列がランダム化されている。ランダム化とは、ポリペプチドの任意の所与の位置に2種類以上のアミノ酸残基が存在するようなポリペプチドの集合を用意することをいう。ランダム化配列部分においては、所与の位置に全ての可能なアミノ酸残基が同様の確率でまたは異なる確率で存在してもよく、所与の位置に選択された特定の2種類以上のアミノ酸残基が存在してもよい。例えば、配列中の特定の位置において20種類のアミノ酸残基が各5%の確率で存在することができるが、各アミノ酸残基の存在の確率は5%に限定されず、様々でありうる。また、ポリペプチド中の特定の位置のアミノ酸配列のみがランダム化され、残りの位置の配列が固定されていてもよい。アミノ酸は天然アミノ酸でも非天然アミノ酸でもよい。ランダム化配列の鎖長については制限がないが、好ましくは両末端分を合計して40以下、さらに好ましくは20以下のアミノ酸残基で構成される。

【0039】
本発明の1つの好ましい態様においては、ライブラリの各メンバーは、下記のアミノ酸配列:
(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、nは0以上の整数であり、m は0以上の整数であり、ただしnとmは同時に0ではない)
からなるポリペプチド分子である。nおよびmは、好ましくは1~20、より好ましくは3~15、さらに好ましくは5~10の整数である。また好ましくは、nとmの合計は40以下であり、より好ましくは20以下である。

【0040】
本発明の別の好ましい態様においては、ライブラリの各メンバーは、微小タンパク質部分を2個以上含んでいてもよい。一例として、ライブラリの各メンバーが、下記のアミノ酸配列ユニット:
-[(Xaa)n-Tyr-Asp-Pro-Xaa-Thr-Gly-Thr-Trp-(Xaa)m]k-
(式中、Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、kは2以上の整数であり、各nは独立して0以上の整数であり、各mは独立して0以上の整数である)
からなるポリペプチド分子であるライブラリを挙げることができる。好ましくはkは2~4である。各ユニットのnおよびmは、それぞれ独立して、好ましくは1~20、より好ましくは3~15、さらに好ましくは5~10の整数であり、また好ましくは各ユニットにおいてnとmの合計は40以下であり、より好ましくは20以下である。

【0041】
自発的にフォールディングする30アミノ酸残基以下のタンパク質としては、シニョリンの他に、20残基のTrp-cage protein (アミノ酸配列: NLYIQWLKDGGPSSGRPPPS(配列番号48)、参考文献 Neidigh JW, Fesinmeyer RM, Andersen NH. (2002) Designing a 20-residue protein. Nat Struct Biol. 9(6):425-430)、28残基からなるFSD-1(アミノ酸配列: EQYTAKYKGRTFRNEKELRDFIEKFKGR(配列番号49)、参考文献 Sarisky CA, Mayo SL. (2001) The beta-beta-alpha fold: explorations in sequence space. J Mol Biol. 307(5):1411-1418)が知られている。また、金属イオンを介してフォールディングする18残基のペプチド(アミノ酸配列: YIDTNNDGWYEGDELLAX(配列番号50)、参考文献 Nitz M, Sherawat M, Franz KJ, Peisach E, Allen KN, Imperiali B. (2004) Structural origin of the high affinity of a chemically evolved lanthanide-binding peptide. Angew Chem Int Ed Engl. 43(28):3682-3685)も報告されている。さらに、自発的にフォールディングするタンパク質を分類したデータベースSCOPの「Small proteins」のカテゴリ(http://scop.mrc-lmb.cam.ac.uk/scop/data/scop.b.h.html)や「Designed proteins」のカテゴリ(http://scop.mrc-lmb.cam.ac.uk/scop/data/scop.b.bb.html)も参照することができる。これらのタンパク質もすべて、本発明における微小タンパク質として用いることができる。

【0042】
ランダム化配列部分の微小タンパク質への付加は、段階的に複数回行ってもよい。図1および後記実施例1は、微小タンパク質シニョリン変異体を内包する分子ライブラリ設計の一例を示す。分子ライブラリの設計は段階的に行われる。一段階目の伸長として、シニョリン変異体 (図中、chignolinと記す) のC末端に8残基長のランダム領域とグリシン残基(Xaa)8 Glyを伸長したライブラリを作製する。次いで標的に対する選択を行い、そのアミノ酸配列を同定する。二段階目の伸長として、同定したアミノ酸配列 (図中、Selected
seq.と記す) をシニョリン変異体のC末端に連結し、N末端に8残基長のランダム領域を伸長したライブラリを作製し、これを用いて再び機能性分子を選択、同定する。このようにランダム化配列付加工程と機能性分子の選択工程を繰り返して行うのは、機能性分子が段階的に伸長することで、適切な配列空間の探索が実現し、結果として得られる分子の立体構造の安定化と機能向上の期待値が増すからであり、本発明の特に好ましい形態のひとつである。なお、後記実施例1では、まずC末端を伸長し、次いでN末端を伸長したが、その順番に科学的必然性はなく、逆の順の伸長も本発明の分子ライブラリを用いる限りにおいて排除しない。また、後記実施例1では、8残基長程度のランダム化配列を付加したが、既存のタンパク質骨格型ライブラリでさまざまな長さのランダム化配列が採用されているように(表1)、他の残基長での伸長も排除しない。ランダム化する残基の長さによりライブラリのサイズ(多様性)が決まるため、用いるライブラリ提示方法や選択方法にしたがって、最適な長さを適宜選択することができる。

【0043】
本発明のライブラリの各メンバ-は、微小タンパク質部分とランダム化配列部分に加えて、さらに特定の配列を有する固定配列部分を含んでいてもよい。すなわち、本発明のライブラリは、特定配列のペプチドやタンパク質との融合タンパク質のライブラリの形であってもよい。例えば、後記実施例2で示すように、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるシニョリン変異体のN末端に、特定の標的物質に対する低い結合親和性を有することが知られている13残基程度のアミノ酸配列を付加したうえ、C末端には10残基長程度のランダム化配列を付加してライブラリを作製し、これを用いて該標的物質に対して高い結合親和性を有する新規な機能性分子を選択してもよい。

【0044】
付加する特定配列には、生理活性ペプチド、配列モチーフ、エピトープ、パラトープ、アフィニティタグ、あるいはタンパク質-タンパク質複合体の界面に位置するフラグメントなどの何らかの機能を有することが知られている配列あるいは類推できる配列を用いることが好ましいが、機能未知の特定配列を付加してもよい。また、後記実施例2の1)では、特定配列をシニョリン変異体のN末端に付加したが、C末端に付加することも排除しない。

【0045】
さらに、後記実施例3で示すように、この特定配列を付加する方法と上述の段階的伸長を伴う方法を組み合わせて、新規な機能性分子を作製してもよい。図7は、そのような方法の一例を示す。特定配列部分を含む分子ライブラリの設計は段階的に行われる。一段階目の伸長として特定配列 (図中、FcIII-Alaと記す) のC末端にシニョリン変異体 (図中、chignolinと記す) と10残基長のランダム領域 (Xaa)10 を付加したライブラリを作製する。次いで標的に対する選択を行い、そのアミノ酸配列を同定する。二段階目の伸長として、同定したアミノ酸配列 (図中、Selected seq.と記す) とシニョリン変異体を特定配列のC末端に連結し、特定配列のN末端にシニョリン変異体と10残基長のランダム領域を伸長したライブラリを作製する。

【0046】
進化分子工学(あるいは試験管内進化)により目的の機能を有するポリペプチドを同定するためには、そのポリペプチド分子の遺伝子型と表現型が対応付けられている必要がある(参照文献13)。すなわち、分子ライブラリを構成する各ポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと対応付けられた形態で存在している。ここで、対応付けられているとは、ポリペプチドとそれをコードするポリヌクレオチドとが、これらを1対1で対応づけることが可能な様式で存在することを意味する。このような対応付け技術はディスプレイ技術とも称され、当該技術分野において多くの技術が知られている。

【0047】
1つの好ましい態様においては、ライブラリの各メンバーのポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されている。また別の好ましい態様においては、ライブラリの各メンバーのポリペプチドはバクテリオファージの表層に提示されており、それぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは前記バクテリオファージに内包されている。

【0048】
このようなポリペプチド-ポリヌクレオチドライブラリを用いると、対応づけられたポリヌクレオチドの塩基配列を決定することにより、目的の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列の決定を容易に行うことができる。さらに、ポリヌクレオチドと対応づけられた形のポリペプチドの分子ライブラリを用いると、標的に結合したポリペプチドの群を選択した後、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの群を回収して、これを増幅し、転写し、および翻訳することにより、第2のポリペプチド分子ライブラリを製造することができる。この第2の分子ライブラリは、個々のメンバーのポリペプチドは元の分子ライブラリと同じ微小タンパク質部分とランダム化部分とを有するが、ライブラリ全体として標的との親和性などの機能が向上しており、ランダム化部分の配列の多様性が減少しているはずである。同様にして、第3、第4の分子ライブラリを製造することができる。このようにして、ライブラリの生成と選択を多段階で行うことにより、標的との親和性がより高いポリペプチドの集合を得ることができる。

【0049】
本発明において、分子ライブラリを構成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの合成方法、ライブラリの形態、ライブラリの提示方法、標的物質の固定化方法、結合性分子の選択方法、結合親和性分子の配列同定方法、および結合性分子の機能確認方法に関しては、以下に詳述するように、当業者に公知の形態の内、技術的に適用可能な全ての形態を含む。

【0050】
本発明の分子ライブラリは、通常のペプチド合成の技術を用いて、手動または自動により製造することができる。あるいは、分子ライブラリの各メンバーのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのライブラリを製造し、無細胞系で、または細菌や動物細胞中でポリペプチドを発現させることにより製造してもよい。すなわち、本発明は、上述の本発明のポリペプチドの分子ライブラリのそれぞれのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの集合であるポリヌクレオチドの分子ライブラリも提供する。ポリヌクレオチドのライブラリの各メンバーは、ポリペプチドをコードする配列に加えて、ファージ感染に必要な配列、ポリペプチドの発現のための配列、細菌などでポリヌクレオチドを増幅させるためのベクター配列、これらの配列を付加するためのリンカーやアダプター配列などをさらに有していてもよい。

【0051】
ポリヌクレオチドの合成方法としては、有機合成や酵素的合成法などが挙げられる (参照文献14)。近年、有機合成によっても長鎖のポリヌクレオチドが合成されている (参照文献15)。酵素的合成法の例として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR) (参照文献16)、ローリングサークル増幅法 (RCA) (参照文献17)、loop-mediated amplification (LAMP) 法 (参照文献18) などが挙げられる。後記実施例1では合成方法として有機合成されたDNAをPCR法によって酵素的に合成、増幅した例を示しているが、上記技術を含む他の方法も排除しない。

【0052】
本発明の分子ライブラリは、目的とする機能を有するポリペプチドを同定する目的のために、インビトロまたはインビボで種々の方法において用いることができる。ライブラリの形態あるいはライブラリの提示方法としてはこれまで複数の技術が報告されており、汎用方法の代表例として、繊維状ファージ提示法 (参照文献19)、λファージ提示法 (参照文献20)、T7ファージ提示法 (参照文献21)、リボソーム提示法 (参照文献22)、mRNA提示法 (参照文献23)、酵母表層提示法 (参照文献24)、大腸菌チオレドキシン提示法 (参照文献25)、酵母ツーハイブリッド (参照文献26)、タンパク質アレイ技術を用いたハイスループットスクリーニング (参照文献27) などが挙げられる。後記実施例1ではT7ファージ提示法の例を示しているが、上記技術を含む他の形態による提示法も排除しない。

【0053】
別の観点においては、本発明は、本発明の分子ライブラリを用いて標的物質に結合しうるポリペプチド分子を同定する方法を提供する。この方法においては、まず本発明のライブラリを標的物質に接触させる。分子ライブラリと標的との接触は、適当な緩衝液中に分子ライブラリと標的とを加えて所定の時間インキュベートすることにより行うことができる。接触の条件は、標的との親和性の高いポリペプチドが標的物質と結合したまま残り、親和性の低いポリペプチドが結合しないように設定することができる。このような条件は、標的の特性、本発明にしたがって選択されるべきポリペプチドの用途、予測される非特異的結合の程度などを考慮して選択することができる。さらに、複数の段階の選択を行う場合には各段階ごとに接触の条件を変更してもよい。

【0054】
次に、ポリペプチドのライブラリのうち、標的物質と結合していないポリペプチドを除去し、標的物質と結合したポリペプチドを選択する。この選択工程を容易にするためには、ポリペプチドのライブラリまたは標的のいずれかを固相に固定化しておくことが便利である。固相としては、樹脂カラム、ガラスまたはプラスチックのプレート、ビーズ、多孔性粒子、膜、磁気粒子などの、当該技術分野において知られる任意のものを用いることができる。固定化方法としては、Lys残基やポリペプチドN末端のアミノ基を介した化学結合法、Cys残基のチオール基を介した化学結合法、カルボキシル基を介した化学結合法、金属配位結合による方法、親和性タグを用いた方法、物理吸着、インテインによるタンパク質スプライシングを利用した方法、DNA相補鎖を介した方法、アビジン・ビオチンを介した方法が挙げられる (参照文献28)。後記実施例1および後記実施例2ではLys残基を介した化学結合とアビジン・ビオチンによる固定化方法の例を示しているが、上記技術を含む他の方法も排除しない。

【0055】
標的物質に結合親和性を有する分子の選択方法としては、磁気ビーズを用いた方法 (参照文献29)、プレートを用いた方法 (参照文献30)、イムノチューブを用いた方法 (参照文献31)、フローサイトメトリーによる方法 (参照文献32)、カラムによる方法 (参照文献33)、遠心分離による方法 (参照文献34) などがある。後記実施例1では、磁気ビーズを利用した方法の例を示したが、上記を含む他の選択方法も排除しない。

【0056】
このようにして選択されたポリペプチドを回収して、そのアミノ酸配列を決定することにより、標的物質と結合するポリペプチドを同定することができる。特に好ましい態様においては、ポリペプチドのアミノ酸配列はこれをコードするポリヌクレオチドの配列を決定することにより行う。ポリヌクレオチドの配列同定法としては、ダイデオキシ法、マクサム-ギルバート法、パイロシークエンス法 (商標登録)、エキソヌクレアーゼによる一分子検出法 (参照文献35)、第二世代並列DNA配列解析 (参照文献36) が挙げられる。後記実施例1ではダイデオキシ法の例を示しているが、上記技術を含む他の方法も排除しない。

【0057】
このようにして同定されたポリペプチドは、特定の標的物質に結合しうる物質として、医薬品、検査薬、研究試薬、農薬、酵素、センサー、凝固剤、除去剤、分離剤、阻害剤などの開発目的に応用することができる。ポリペプチドの調製方法としては、有機化学的に合成する方法や遺伝子組換えに基づく方法 (参照文献37)、任意のタンパク質と連結した融合タンパク質の形態として発現させる方法 (参照文献38)が挙げられる。後記実施例1と2では有機化学的な合成による調製、実施例3では融合タンパク質としての細胞発現による調製、および融合タンパク質のプロテアーゼ切断による目的ポリペプチドの調製を示しているが、上記技術を含む他の方法も排除しない。

【0058】
同定した結合親和性分子の機能確認法としては、酵素結合免疫吸着法 (ELISA)、表面プラズモン共鳴法 (SPR)、等温滴定型熱量計 (ITC)、水晶発振子マイクロバランス (QCM)、原子間力顕微鏡 (参照文献39)、プルダウン法 (参照文献40)、電気泳動法 (参照文献41)、蛍光偏光度測定法 (参照文献42) などが挙げられる。後記実施例1では、酵素結合免疫吸着法、表面プラズモン共鳴法の例を示しているが、上記技術を含む他の方法も排除しない。

【0059】
結合親和性以外の機能を有する分子の選択方法や機能確認方法としては、触媒活性分子の選択例としてSzostakらによるRNAリガーゼ活性を有する新規な分子を探索した際に用いた方法(参照文献2)などが知られているが、本発明においては、これらの方法に関しても、当業者に公知の形態の内、技術的に適用可能な全ての形態を含む。

【0060】
〔参照文献〕
参照文献1;Seker UO and Demir HV. (2011) Molecules. 16(2) 1426-1451.
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【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
本実施例においては、分子内に微小タンパク質を骨格として含むポリペプチドライブラリを作製し、該ライブラリを用いてヒト免疫グロブリンG(IgG) の定常領域の一部であるFc領域に対し結合親和性を有する新規な分子を同定する方法を記す。ライブラリの作製は、ランダム配列を逐次的に付加する段階的伸長を伴う方法で行った。
【実施例1】
【0063】
1) C末端伸長ライブラリの構築
本節では、配列番号5で示される8残基長のアミノ酸配列からなるシニョリン変異体のC末端に8残基長のランダム配列(Xaa)8を付加し、N末端にGly Gly Gly Gly Serからなる5残基長のリンカーを付加したライブラリの構築を示す (図1)。ライブラリを構成するポリヌクレオチドとその発現産物であるポリペプチドを対応付ける形態の一つとしては、T7ファージ提示法を用いた。
【実施例1】
【0064】
まず、ライブラリのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに制限酵素部位EcoRIとHindIIIを付加したDNA(配列番号7)を設計した。ここで任意の天然アミノ酸残基Xaaは混合塩基のトリプレットNNKによりコードされる。配列中NはA、C、G、Tの混合塩基を示し、KはG、Tの混合塩基を示す。配列番号7の合成DNAはRIKAKENより購入したものを用い、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) によってこのDNAを増幅した。PCRはKOD DNAポリメラーゼ (TOYOBO) を用い、反応条件は添付のマニュアルに従った。増幅したDNAを制限酵素EcoRIおよびHindIIIによって消化後、T7ファージゲノムDNA上のg10遺伝子3'末端に連結した。T7ファージゲノムDNAは、T7Select10-3 Cloning Kit (Novagen)に添付の試料を用い、反応条件と手順は付属のT7Select(商標登録) System Manualに従った。連結したT7ファージゲノムDNAを用い、T7Select Packaging Kit (Novagen) によってT7ファージの試験管内パッケージングを行った。反応条件はT7Select(商標登録) System Manual (Novagen) に従った。これにより、5×106種類のポリペプチドをコードしたDNAを有するファージのライブラリを構築した。
【実施例1】
【0065】
続いてこれらのファージライブラリを増幅した。まず、ファージライブラリを、200 ml LB培地にてO.D.600 = 1.0まで培養した大腸菌BLT5403株 (Novagen) に感染させ、4時間振とう培養した。培養液を5000×gで20分間の遠心分離により、増幅したファージを含む培地上清を回収した。この上清に対し、20 mlの5 M NaCl (和光純薬工業) と35 mlの50% ポリエチレングリコール (PEG) 8000 (Sigma-Aldrich) を添加し、4℃にて12時間撹拌した。これを14000×gで20分間の遠心分離にかけ、沈殿物を2 mlのTBS-T緩衝液 (50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.01% (w/v) Tween20(商標登録) pH 7.4) にて懸濁し、0.22μm径フィルターを用いたろ過操作を行って凝集物を除去した。以上の操作で調製した溶液を、配列番号6のポリペプチドと配列番号7のポリヌクレオチドが対応付けられた分子ライブラリ形態の一つであるT7ファージ提示ライブラリとした。
【実施例1】
【0066】
2) ヒトIgGのFc領域に対する選択
次いで、前節で構築したT7ファージ提示ライブラリを用いて、該ライブラリを標的物質であるヒトIgGのFc領域に接触させる工程、およびヒトIgGのFc領域と結合したファージを選択し回収する工程を示す。
【実施例1】
【0067】
結合親和性分子の選択方法の一例として、本節では磁気ビーズを用いた方法を示す。まず、アビジン固定磁気ビーズとして用いた Streptavidin MagneSphere (商標登録) Paramagnetic Particles (Promega) 0.65 mlに、ビオチン標識したヒトIgGのFc領域 (Jackson Immunoresearch) を20μg混合し、アビジン-ビオチン結合を介してFc領域を磁気ビーズに固定化した。これにブロッキング剤SuperBlock(商標登録) T20 (TBS) Blocking Buffer (Thermo SCIENTIFIC) を1時間添加することでFc領域を固定した磁気ビーズをブロッキングした。実施例1の1)で調製したT7ファージ提示ライブラリ溶液 1 ml (5×1012 plaque forming units) とFc領域固定磁気ビーズを1時間接触させることにより、Fc領域に結合親和性を示すポリペプチド提示ファージをFc領域固定磁気ビーズに結合させ、その後MagneSphere (商標登録) Technology Magnetic Separation Stand (Promega) を用いた磁気分離によりポリペプチド提示ファージとFc領域固定磁気ビーズとの複合体を回収した。回収した複合体にSuperBlock(商標登録) T20 (TBS) Blocking Buffer (Thermo SCIENTIFIC) を1 ml添加し、10分間混合して再度磁気分離によって上清を除去し、複合体を回収した。この洗浄操作を10回行った。洗浄後、磁気分離によって回収した複合体に1% (w/v) ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むTBS-T緩衝液を1 ml添加して10分間混合し、Fc領域固定磁気ビーズから結合親和性ポリペプチドを提示したファージを溶出した。溶出したファージを、200 ml LB培地にてO.D.600 = 1.0まで培養した大腸菌BLT5403株 (Novagen) に感染させ、4時間振とう培養した。培養液を5000×gで20分間の遠心分離により、増幅したファージを含む培地上清を回収した。この上清に対し、20 mlの5 M NaCl (和光純薬工業) と35 mlの50% ポリエチレングリコール (PEG) 8000 (Sigma-Aldrich) を添加し、4℃にて12時間撹拌した。これを14000×gで20分間の遠心分離にかけ、沈殿物を2 mlのTBS-T緩衝液 (50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.01% (w/v) Tween20(商標登録) pH 7.4) にて懸濁し、0.22μm径フィルターを用いたろ過操作によって凝集物を除去することで、T7ファージ溶液を得た。以上の「該ライブラリを標的物質であるヒトIgGのFc領域に接触させる工程、およびヒトIgGのFc領域と結合したファージを選択し回収する工程」を5回繰り返し、結合親和性を示すポリペプチドを提示したファージを濃縮した。
【実施例1】
【0068】
3) ELISAによる結合親和性試験および配列解析による親和性ポリペプチドの同定
続いて、濃縮したファージ集団から、結合親和性を有する分子の機能をELISAによって確認する工程を示す。
【実施例1】
【0069】
実施例1の2)にて濃縮された、結合親和性を示すポリペプチドを提示したファージの集団から、T7Select(商標登録) System Manual (Novagen) に従ってファージプラークを形成させ、この各々のプラークから単一のポリペプチドを提示したファージを単離した。96穴プレートとして用いたMICROTEST (商標登録) 96 (BECTON DICKINSON) に、LB培地でO.D.600 = 1.0まで培養した大腸菌BL5403株の培養液0.2 mlを投入し、プラークからそれぞれ単離した96種のファージを感染させ、37℃にて12時間静置することでファージを増幅した。これらファージを含む培養液10μlを90μlのTBS緩衝液(50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.4)に希釈し、これらをMEDISORP 96 wellマイクロプレート (Nunc) に1時間投入することでファージをプレートに物理吸着させた。上清を取り除き、SuperBlock(商標登録) T20 (TBS) Blocking Buffer (Thermo SCIENTIFIC) 150μlを1時間投入してプレート表面をブロッキングした後、TBS-T緩衝液にて3回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ (HRP) 標識したFc領域 (Jackson Immunoresearch)(0.2μg/ml) を含むTBS-T緩衝液を100μl 添加し1時間静置した。TBS-T緩衝液で3回洗浄後、ABTS One Component HRP Microwell Substrate (BioFX) を100μl投入し、結合親和性を発色反応として検出した。吸光度測定には、吸光マイクロプレートリーダーSunrise R (TECAN) を用い、415 nmの吸光度を測定した。結合親和性の高い上位16種のファージについて、ポリペプチドをコードする領域のDNA配列をダイデオキシ法によりABI PRISM (商標登録) 3100 (Applied BioSystems) を用いて解析した結果、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを提示したファージが13種、これと高い配列相同性を示すものが3種同定された。
【実施例1】
【0070】
4) N末端伸長ライブラリの作製
続いて、機能性分子の段階的伸長による安定な立体構造の形成と高機能化を目的として、実施例1の3)で同定されたアミノ酸配列 (配列番号8) のN末端側に8残基長のランダム配列(Xaa)8を伸長したライブラリ構築を行った (図1)。
【実施例1】
【0071】
まず、配列番号9で示されるアミノ酸配列をコードするDNA領域に制限酵素部位EcoRIとHindIIIを付加した配列を含むDNA (配列番号10) を設計した (ここで任意の天然アミノ酸残基Xaaは混合塩基のトリプレットNNKによりコードされる。配列中NはA、C、G、Tの混合塩基を示し、KはG、Tの混合塩基を示す)。次いで、配列番号11、配列番号12で示される塩基配列からなる、有機合成された2種のDNAをRIKAKENより購入し、これらを鋳型として用いたPCRにより配列番号10からなるDNAを酵素的に合成、増幅した。PCRはKOD DNAポリメラーゼ (TOYOBO) を用い、反応条件は添付のマニュアルに従った。
【実施例1】
【0072】
実施例1の1)と同様の手順に従い、増幅DNAのT7ファージゲノムDNAへの連結、ファージの試験管内パッケージングとT7ファージ提示ライブラリの構築を行った。このファージライブラリを用いて実施例1の2)と同様の手順に従い「Fc領域に接触およびこれと結合したファージを選択し回収する工程」を6回繰り返し、Fc領域に結合親和性を示すポリペプチドを提示したファージを濃縮した。続いて実施例1の3)と同様の手順に従い、濃縮したファージ集団の中から結合親和性を有する分子をELISAによって確認し、ダイデオキシ法によるDNA配列解析を行った。DNA配列解析の結果、アミノ酸配列の収束が確認された配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを提示したファージ (以下、2A1と呼ぶ)を結合親和性ファージとして同定した。
【実施例1】
【0073】
5) 2A1ペプチドの結合親和性解析
続いて、ファージ2A1の表層に提示されたポリペプチドが結合親和性を有する新規な分子であるかを確認するため、表面プラズモン共鳴法により、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなる合成ぺプチド(以下、2A1ペプチドと呼ぶ)の結合親和性を解析した。
【実施例1】
【0074】
有機化学的に合成した2A1ペプチドはbioSYNTHESISより購入した。表面プラズモン共鳴測定装置としてBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。Jackson Immunoresearch社製のヒトFc領域を、センサーチップCM5 (GE Healthcare)にAmine Coupling Kit (GE Healthcare)を用いたアミンカップリング法により固定した。次いで、2A1ペプチドをHBS-T緩衝液 (10 mM HEPES 150 mM NaCl 0.05% (v/v) Tween20 pH 7.4) によって100, 80, 60, 40, 20 nMまでそれぞれ希釈し、反応温度25℃で結合親和性解析を行った (図2)。測定データはBiacore T00 Evaluation Software (GE Healthcare) にて処理し、結合親和性は平衡解離定数KDにして KD = 2.2×10-8 (M) と算出され、その高い結合親和性を確認した。
【実施例1】
【0075】
続いて、2A1ペプチドの分子認識特性を詳細に解析するため、2A1ペプチドをアミンカップリング法によりセンサーチップCM5に固定化し、以下に示す複数の条件下で処理したヒトIgGあるいはFc領域に対する結合親和性を解析した。測定サンプルとして以下の物を用いた。(1) Jackson Immunoresearch社製ヒトFc領域、(2) 変性処理を施さない、天然型構造のヒトモノクローナルIgG (中外製薬)、(3) (2)のIgGから調製したFc領域 (Fc領域は、IgGをPierce(登録商標) Fab Preparation Kit (Thermo SCIENTIFIC) に添付の使用書に従ってパパイン消化後、MabSelect SuRe (GE Healthcare) を用いたアフィニティークロマトグラフィー、HiTrap DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー (GE Healthcare)、Superdex200 (GE Healthcare) を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより精製することで調製した)、(4) (2)のIgGを酸性緩衝液 (20 mM 酢酸ナトリウム pH 4.5) にて50℃で10日間処理した酸変性型IgG、(5) (3)のFc領域を50 mMの2-メルカプトエチルアミン (Thermo Scientific Pierce) によって37℃、90分の還元処理を施したFc領域。
【実施例1】
【0076】
表面プラズモン共鳴試験の結果、2A1ペプチドは(1)のJackson Immunoresearch社より購入したヒトFc領域 (図3A)には結合するものの、(2)の天然型構造のヒトIgG (図3B)、およびそれから生じる(3)のFc領域 (図3C)には結合を示さない。一方、(4)の酸変性型IgG (図3D)に対してはKD = 2.2×10-9 (M) の結合親和性で、(5)の還元処理を施したFc領域(図3E)に対しては、KD = 1.0×10-7 (M) の結合親和性でそれぞれ結合した。以上の結果から、2A1ペプチドはFc領域の天然型構造を認識しているのではなく、酸処理や還元処理、および/または熱変性などにより生じた、非天然型の構造を特異的に認識しており、天然/非天然型の構造を特異的に識別していると考えられる。この性質は、いわゆる「鍵と鍵穴」に代表される高分子量ポリペプチドからなるタンパク質の精緻な立体構造の結果として実現される特異的認識能と同質の機能である。8残基シニョリン変異体を骨格として含む2A1ペプチドは、その全長が25残基長であり、従来のタンパク質骨格スキャホールド (表1を参照) に比べて顕著に小型であるにも関わらず、環状化に依存することなく高分子量タンパク質と同様に十分な機能性を示すことを実証した。
【実施例1】
【0077】
6) H6ペプチドの結合親和性解析
機能性分子の安定な立体構造の形成と高機能化を目的として実施した段階的伸長の効果を評価するため、実施例1の3)で取得した配列の特性を評価した。具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる合成ぺプチド(以下、H6ペプチドと呼ぶ)の結合親和性を表面プラズモン共鳴法により解析した。
【実施例1】
【0078】
有機化学的に合成したH6ペプチドはbioSYNTHESISより購入した。表面プラズモン共鳴測定装置としてBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。Jackson Immunoresearch社製のヒトFc領域を、センサーチップCM5 (GE Healthcare)にAmine Coupling Kit (GE Healthcare)を用いたアミンカップリング法により固定した。次いで、H6ペプチドをHBS-T緩衝液 (10 mM HEPES 150 mM NaCl 0.05% (v/v) Tween20 pH 7.4) によって50, 25, 12.5μMまでそれぞれ希釈し、反応温度25℃で結合親和性解析を行った (図4)。測定データはBiacore T00 Evaluation Software (GE Healthcare) にて処理し、結合親和性は平衡解離定数KDにして KD = 7.9×10-5 (M) と算出された。この値から、H6ペプチドを基にして段階的伸長を施した2A1ペプチドは、伸長の結果として親和性が約3600倍向上することが判明した。この結果は、微小タンパク質を含む伸長領域を段階的に付加した分子ライブラリを作製することで機能を段階的に向上できることを実証するものである。
【実施例1】
【0079】
7) 2A1変異型ペプチドの結合親和性解析
本節では、2A1ペプチドにおいて微小タンパク質であるシニョリン変異体の内包が機能としての結合親和性に有利な影響を及ぼすことを調査するため、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなる、有機化学的に合成した変異型ペプチド(2A1Glyペプチド)をbioSYNTHESISより購入し、Jackson Immunoresearch社製ヒトFc領域に対する結合親和性を評価した。この変異型ペプチドは、2A1ペプチドが内包するシニョリン変異体領域 (Tyr Asp Pro Arg Thr Gly Thr Trp) を、グリシンリッチリンカー(Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly) に置き換えたものである。一般に、配列中にグリシンを豊富に含むリンカーは柔軟で、特定の構造を保てないことが知られている (参照文献43、44)。すなわち、この変異型ペプチドの結合親和性を評価することで、2A1ペプチドが示す機能においてシニョリン骨格が及ぼす影響を明らかにすることができる。結合親和性の評価には実施例1の5)と同様にBiacoreT100を用いた表面プラズモン共鳴法により行った。変異型ペプチドをHBS-T緩衝液で40, 30, 20, 10, 5μMに調整し、実施例1の5)と同様にアミンカップリング法でセンサーチップCM5に固定化したJackson Immunoresearch社製ヒトFc領域に対する結合親和性を解析した (図5)。その結果、2A1ペプチドに比較して変異型ペプチドの結合親和性はKD = 2.3×10-5 (M) と、1/1000以下にまで大きく低下しており、2A1ペプチドは微小タンパク質であるシニョリン変異体を内包することで結合親和性が顕著に向上することが示された。
【実施例1】
【0080】
8) 2A1ペプチドの立体構造解析
微小タンパク質であるシニョリン変異体の内包が2A1ペプチドの立体構造形成に関与することを実証するため、2A1ペプチドの立体構造を核磁気共鳴 (NMR) により解析した。2A1ペプチドを、5% (v/v) D2Oと0.01% (v/v) 2,2-ジメチル-2-シラペンタン-5-スルホン酸ナトリウムを含む10 mM 酢酸-d4ナトリウム緩衝液 (pH 4.5) (Cambridge Isotope Laboratories, Inc.) に溶解し、濃度1.8 mMに調整した。Bruker AMX 500を用いて1H同種核NOESY、TOCSYスペクトルデータを取得し、解析プログラムSparky (Goddard TD and Kneller DG. SPARKY 3. University of California. San Francisco) により全アミノ酸残基について1Hの帰属を行った。構造解析にはCYANA-3.1 (参照文献45) を用いた距離制限分子動力学計算によって行い、主鎖のrmsd = 1.51 Åの収束構造を得た (図6A)。
【実施例1】
【0081】
NOESYの結果では、過去に得られたシニョリンの立体構造に起因する9位のチロシン残基と16位のトリプトファン残基間の遠距離NOEが観測されていた。構造計算の結果、2A1は、過去にNMRで決定されたシニョリンのβヘアピン構造 (図6B) (参照文献4) の大部分を維持していた。シニョリン変異体のN末端およびC末端から伸長した2つの領域は微小タンパク質として導入したシニョリン変異体を核として空間的に近接しており、全体として球状タンパク質に類似した構造を形成していた。また、N末端およびC末端領域間での複数の残基間結合が確認された。このことは、微小タンパク質シニョリン変異体を介してアミノ酸配列を段階的に伸長することにより、得られる分子の構造形成化と構造安定化が実現されることを示している。また、シニョリン変異体の16位のトリプトファン残基はC末端側に伸長した領域に取り囲まれるように埋没しており、球状タンパク質に類似した疎水コアの形成に関与していた。以上の構造解析の結果は、タンパク質骨格として導入したシニョリン変異体が構造安定化として機能していることを示しており、実施例1の6)の変異体2A1Glyペプチドの結合親和性解析との結果と照らし合わせると、微小タンパク質シニョリンの内包が安定な立体構造の形成に寄与し、それによって顕著な結合親和性向上を示すことが実証された。
【実施例1】
【0082】
本実施例1で新規に同定したポリペプチドの全長は25残基であり、このサイズは背景技術の表1に例示される他のタンパク質骨格と比較すると顕著に小さい。また、表1に示されるように、通常数十残基未満の短鎖のポリペプチドでは構造安定化のために環状化を施す必要があることが一般であるが、ここで同定した新規のポリペプチドでは、わずか8残基の微小タンパク質を骨格として導入することによりこれを核として構造安定化が生じ、環状化に依存することなく、機能発現に十分な構造形成を実現した。すなわち、本実施例1は、微小タンパク質の導入が低分子量の機能性ポリペプチドを新規に作製する手法として合理的であり、その有効性を実証するものである。
【実施例1】
【0083】
ランダム領域を段階的に伸長することは、既存のライブラリ提示方法を使用するにあたって、効率の良い新規分子の取得方法を提供する。その理由は、ファージ提示法やmRNA提示法などの既存ライブラリ提示方法においてはライブラリのサイズに物理的限界が存在し、長鎖のランダム配列を完全にカバーすることが出来ないという本質的な問題が存在することである。例えば、実験室規模における上記提示方法でのライブラリ規模は原理的に1014程度が限界とされているが、実施例1で導入したランダム領域は合計16残基長すなわち2016の多様性であり、これを完全に網羅するには1020程度のライブラリ規模が要求されるが、これを通常の実験スケールで実現することは極めて困難である。従って、段階的な微小タンパク質とランダム領域の伸長は多様性の効率的な包含にとって、合理的である。
【実施例2】
【0084】
本実施例においては、分子内に既知の特定配列とシニョリン変異体を含むポリペプチドライブラリを作製し、該ライブラリを用いてヒト免疫グロブリンG (IgG) の定常領域の一部であるFc領域に対し結合親和性を高めた新規ポリペプチドを同定する方法を記す。ライブラリの作製は、既知の特定配列とランダム配列をシニョリン変異体に付加する方法で行った。具体的には、標的であるヒトIgGのFc領域に対して非常に低い結合親和性を有することが知られている13残基長の特定配列と10残基長ランダム配列をシニョリン変異体に付加したライブラリを作製し、この集団の中から標的に対して高い結合親和性を有する新規なポリペプチドを同定した。
【実施例2】
【0085】
1) C末端伸長ライブラリの構築と親和性ポリペプチドの同定
ヒトIgGのFc領域に結合親和性を示す13残基の環状ペプチドFcIII(参照文献46)は、還元処理によるジスルフィド架橋の喪失により、結合親和性が 1/2000以下にまで低下する(参照文献47)。システイン残基ををアラニン残基に置換した変異体FcIII-Alaペプチド (Asp Ala Ala Trp His Leu Gly Glu Leu Val Trp Ala Thr) に、シニョリン変異体と10残基長のランダム配列(Xaa)10を付加したライブラリを作製した。
【実施例2】
【0086】
C末端伸長ライブラリ(図7)の構築として、まず、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるシニョリン変異体のC末端に10残基長のランダム配列(Xaa)10を、該シニョリン変異体のN末端にFcIII-Alaのアミノ酸配列を、さらにそのN末端にGly Gly Gly Gly Serからなる5残基長のリンカー配列をそれぞれもつ配列番号15のアミノ酸配列をコードするDNAに制限酵素部位EcoRIとHindIIIを付加したDNA (配列番号16) を設計した。ここで任意の天然アミノ酸残基Xaaは混合塩基のトリプレットNNKによりコードされる。配列中NはA、C、G、Tの混合塩基を示し、KはG、Tの混合塩基を示す。次いで、配列番号17、配列番号18で示される塩基配列からなる、有機合成された2種のDNAをRIKAKENより購入し、これを用いてPCRを行い、配列番号16からなるDNAを酵素的に合成、増幅した。PCRはKOD DNAポリメラーゼ (TOYOBO) を用い、反応条件は添付のマニュアルに従った。増幅したDNAを制限酵素EcoRIおよびHindIIIによって消化後、T7ファージゲノムDNA上のg10遺伝子3'末端に連結した。T7ファージゲノムDNAは、T7Select10-3 Cloning Kit (Novagen)に添付の試料を用い、手順は付属のT7Select(商標登録) System Manualに従った。
【実施例2】
【0087】
連結したT7ファージゲノムDNAを用い、T7Select Packaging Kit (Novagen) によってT7ファージの試験管内パッケージングとファージ増幅を行った。これらの操作手順は実施例1の1)と同様の手順に従い、1×108クローンからなるT7ファージ提示ライブラリを調製した。
【実施例2】
【0088】
続いて構築したT7ファージ提示ライブラリを用いて、該ライブラリを標的物質であるヒトIgGのFc領域に接触させる工程、およびヒトIgGのFc領域と結合したファージを選択し回収する工程を示す。Fc領域の調製は、ヒトモノクローナル抗体IgG (中外製薬) をPierce(登録商標) Fab Preparation Kit (Thermo SCIENTIFIC Pierce) に添付の使用書に従い、IgGをパパイン消化後、MabSelect SuRe (GE Healthcare) を用いたアフィニティークロマトグラフィー、HiTrap DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー (GE Healthcare)、Superdex200 (GE Healthcare) を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。調製したFc領域を、D-Biotinoyl-γ-Aminocaproic Acid N-Hydroxysuccinimide Ester (Roche)を用いて添付使用書に従いアミノ基を介してビオチンを化学結合させた。続いて実施例1の2)および3)と同様の手順に従い、該ライブラリをFc領域に接触およびこれと結合したファージを選択し回収する工程、結合親和性を有するポリペプチドを提示したファージをELISAによって確認する工程、ダイデオキシ法によるDNA配列解析を行った。この結果、結合親和性を示すポリペプチドを提示したファージとして、配列番号19~22で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを提示した4種のファージを同定した。以下、これらのファージ表層に提示されたポリペプチドをそれぞれpep11ペプチド (配列番号19)、pep14ペプチド (配列番号20)、pep21ペプチド (配列番号21)、pep24ペプチド (配列番号22) と呼ぶ。
【実施例2】
【0089】
2) 同定ポリペプチドの結合親和性解析
本節では、結合親和性ファージとして同定した4種類について、その表層に提示されたポリペプチドを合成ペプチドとして調製し、その機能を表面プラズモン共鳴によって結合親和性解析を行うことで、微小タンパク質と伸長領域の内包による特定配列の結合親和性向上について調査した。
【実施例2】
【0090】
合成ペプチドとして、pep11ペプチド、pep14ペプチド、pep21ペプチド、pep24ペプチド、および微小タンパク質を付加する前の特定配列であるFcIII-Alaペプチド (Asp Ala Ala Trp His Leu Gly Glu Leu Val Trp Ala Thr)をbioSYNTHESISより購入した。これをHBS-T緩衝液にて希釈し、pep11ペプチド、pep14ペプチド、pep21ペプチド、pep24ペプチドについては500, 400, 300, 200, 100 nM に、FcIII-Alaペプチドについては100, 50, 25, 12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78μMに調整した。表面プラズモン共鳴試験にはBiacoreT100 (GE Healthcare) を用いた。実施例2の1)で調製したFc領域をアミンカップリング法によってセンサーチップCM5 (GE Healthcare) に固定化した。調製した合成ペプチドを用いて結合親和性解析を行い (図8A~D)、pep11ペプチド、pep14ペプチド、pep21ペプチド、pep24ペプチド、FcIII-Alaペプチドの平衡解離定数を測定した。FcIII-Alaペプチドについては結合親和性が著しく低いことから、平衡値を用いたスキャッチャードプロットにより平衡解離定数を得た (図9A, 9B)。データ処理はBiacore T00 Evaluation Software (GE Healthcare) を用いて行い、平衡解離定数KDはpep11ペプチド、pep14ペプチド、pep21ペプチド、pep24ペプチド、FcIII-Alaペプチドについてそれぞれ、5.1×10-7 (M), 1.2×10-7 (M), 1.0×10-7 (M), 2.2×10-7 (M), 4.2×10-5 (M) と算出された。この結果、最も結合の強いpep21ペプチドは、伸長前の特定配列として用いたFcIII-Alaペプチドに対しておよそ420倍の親和性向上を示した。
【実施例2】
【0091】
本実施例2は、機能を有する特定アミノ酸配列の高機能化においても、微小タンパク質シニョリン変異体を骨格として内包することが有効であることを示す。特定配列に微小タンパク質を内包した分子ライブラリを設計することにより、機能性ペプチドの性能を高めることはもちろんのこと、低機能性ゆえに十分に活用されていなかった既存のアミノ酸配列においてもこれを効果的に活用することが可能となる。これまで蓄積されてきた機能性ペプチドを基に、新たな高機能型分子へと改変することを可能とするものである。
【実施例2】
【0092】
また実施例1と同様、実施例2で結合親和性分子として同定したポリペプチドは表1で示すタンパク質骨格と比較すると極めて小さいサイズに分類されるポリペプチドである。9残基の微小タンパク質シニョリン変異体を骨格として使用することから、全長が32残基でありながら環状化に依存することなく、機能を発現することができる。
【実施例3】
【0093】
本実施例では、実施例1で示した方法と実施例2で示した方法を組み合わせて更なる高機能化に成功した例を示す。具体的には、実施例2で示した「既知の特定配列と微小タンパク質を含む分子ライブラリ」から同定したポリペプチドに対して、実施例1で示した「ランダム配列を逐次的に付加する段階的伸長を伴う方法」を更に適用し、標的であるヒトIgGのFc領域に対して非常に高い結合親和性を有する新規な高機能化分子を同定した。また、この高機能化分子が他のタンパク質と結合している融合タンパク質を別に合成し、その特性も併せて解析した。
【実施例3】
【0094】
1) N末端伸長ライブラリの構築と親和性ポリペプチドの同定
まず、実施例2の1)で同定した4種のアミノ酸配列pep11ペプチド、pep14ペプチド、pep21ペプチド、pep24ペプチドのN末端にそれぞれシニョリン変異体 (配列番号4) と10残基長のランダム配列(Xaa)10を付加したN末端伸長ライブラリを作製した (図7)。
【実施例3】
【0095】
配列番号23~26で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに制限酵素部位EcoRIとHindIIIを付加したDNA (配列番号27~30) をそれぞれ設計した。次いで、それぞれ配列番号31と配列番号32と配列番号33、配列番号31と配列番号32と配列番号34、配列番号31と配列番号32と配列番号35、配列番号31と配列番号32と配列番号36で示される塩基配列からなる、有機合成されたDNA(RIKAKEN)を用いてPCRを行い、4種類のDNA(配列番号27~30)を合成、増幅した。PCRはKOD DNAポリメラーゼ (TOYOBO) を用い、反応条件は添付のマニュアルに従った。増幅したDNAを制限酵素EcoRIおよびHindIIIによって消化後、T7ファージゲノムDNAのg10遺伝子3'末端に連結した。T7ゲノムはT7Select10-3b (Novagen)に添付の試料を用い、手順は付属のT7Select(商標登録) System Manualに従った。連結したT7ファージゲノムを用い、T7ファージの試験管内パッケージングとファージ増幅を行った。実験手順は実施例1の1)記載と同様の手順に従い、3×108クローンからなるT7ファージ提示ライブラリを調製した。「Fc領域に接触およびこれと結合したファージを選択し回収する工程」は実施例2の1)と同様の手順に従い、この工程を10回繰り返し行った。ELISAによる結合親和性試験とDNA配列解析は実施例2の1) と同様の手順に従い、以下に名付けた4種p2 (配列番号37)、p5 (配列番号38)、p14 (配列番号39)、p17 (配列番号40) で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表層に提示したファージを結合親和性ファージとして同定した。これら4種類のポリペプチドのC末端は全てpep24ペプチドの配列を有していた。
【実施例3】
【0096】
2) チオレドキシン融合タンパク質の発現と結合親和性解析
本節では、実施例3の1)で同定したポリペプチドを、融合タンパク質の形態として細胞内に発現、調製する例を示す。融合タンパク質の形態で発現させることにより、新規ポリペプチドをその物性によらず細胞内に安定に発現させることができるほか、任意のタンパク質と連結させることで新規ポリペプチドと任意の機能を1分子に包含することも可能である。本節では連結するタンパク質の一例としてチオレドキシンを用い、これと実施例3の1)で同定したポリペプチドとの融合タンパク質を大腸菌内に発現させた例を示す。
【実施例3】
【0097】
実施例3の1)で同定した4種類のポリペプチドp2、p5、p14、p17のアミノ酸配列をコードするDNAを含むT7ファージDNAを鋳型としてPCRを行い、これらをEcoRIとHindIIIで消化し、pET-48b (Invitrogen) のEcoRI / HindIII 部位で消化した領域にそれぞれ導入することで、同定したポリペプチドをチオレドキシンのC末端に連結した4種類の融合タンパク質の発現ベクターを構築した (以下、これら同定したポリペプチドとチオレドキシンとの融合タンパク質を、Trx-p2、Trx-p5、Trx-p14、Trx-p17 (配列番号41~44) と呼ぶ)。構築した発現ベクターを用いて大腸菌BL21 (DE3) 株 (Novagen) を形質転換した。これを200 ml の2×YT培地に継代し、O.D.600 = 0.8付近まで振とう培養し、終濃度1 mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド (IPTG) によって発現誘導を行い、37℃で12時間培養した。5000×gで20分間の遠心分離で菌体を回収し、20 mM Tris-HCl 500 mM NaCl pH 7.4からなる緩衝液によって懸濁した。菌体をアストラソン Model S3000 (和研薬) によって超音波破砕し、14000×gで20分間の遠心分離によって細胞内可溶性画分を回収した。この可溶性画分をNi Sepharose(商標登録) 6 Fast Flow (GE Healthcare)を用いた金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、目的のチオレドキシン融合タンパク質を調製した。培地1リットルあたりのタンパク質収量 (mg/L) は、Trx-p2、Trx-p5、Trx-p14、Trx-p17についてそれぞれ、41、43.6、73.6、78.3 (mg/L) の高収量で得られており、本実施例2で同定された微小タンパク質の内包を特徴とする新規ポリペプチドは、融合タンパク質としての形態で安定に細胞内に発現できることが示された。
【実施例3】
【0098】
続いて、調製したポリペプチドとのチオレドキシン融合タンパク質の機能について、結合親和性を表面プラズモン共鳴法によって解析した例を示す。解析装置として、Biacore T100 (GE Healthcare) を用いた。実施例2の1)と同様の手順に従い調製したFc領域をセンサーチップCM5 (GE Healthcare) にアミンカップリング法により固定化した。次いで、調製した4種のチオレドキシン融合タンパク質 (Trx-p2、Trx-p5、Trx-p14、Trx-p17) をHBS-T緩衝液によって20, 16, 12, 8, 4 nMにそれぞれ調整し、25℃で結合親和性解析を行った (図10A~D)。データはBiacore T00 Evaluation Software (GE Healthcare) にて処理した。Trx-p2、Trx-p5、Trx-p14、Trx-p17の結合解離定数KDはそれぞれ、KD = 2.4×10-8(M)、KD = 1.4×10-8 (M)、KD = 8.8×10-9 (M)、KD = 7.8×10-9 (M) と算出された。
【実施例3】
【0099】
大腸菌発現および定量的な結合親和性解析の結果、微小タンパク質を内包するポリペプチドはチオレドキシンとの融合タンパク質と連結した場合においても、チオレドキシンの高い溶解性も同定ポリペプチドの親和性も損なうことなく、高い発現収量と高い結合親和性を有することが判明した。このことは、微小タンパク質を内包するポリペプチドは任意のタンパク質との融合タンパク質として適切に連結することにより、両者の性質を1分子に包含することが可能であることを示すとともに、請求項6で示される所の「融合タンパク質であることを特徴とする分子ライブラリ」においても十分な機能を発現することの根拠となるものである。
【実施例3】
【0100】
3) 融合タンパク質のプロテアーゼ処理による同定ポリペプチドの調製と結合親和性解析
本節では、実施例3の1)で結合親和性ポリペプチドとして同定した領域を含むポリペプチドをチオレドキシン融合タンパク質から調製し、その結合親和性を表面プラズモン共鳴によって解析した例を示す。
【実施例3】
【0101】
実施例3の2)にて最も高い結合親和性を示したTrx-p17について、チオレドキシン部分を除去したポリペプチド調製を行うこととした。発現ベクターpET-48b (Novagen) によって産生されるチオレドキシン融合タンパク質は、そのアミノ酸配列中にHRV 3C プロテアーゼ切断部位を有するため、このプロテアーゼを用いてC末端に連結した目的のポリペプチドを得ることができる。
【実施例3】
【0102】
プロテアーゼ切断部位近傍にある余分なアミノ酸配列を可能な限り除去するため、配列番号45のアミノ酸配列で示される新たなチオレドキシン融合タンパク質をコードするDNA (配列番号46) をPCRによって合成し (この新たなチオレドキシン融合タンパク質は、Trx-p17においてチオレドキシンとp17の間にあるアミノ酸配列Tyr Gln Asp Pro Asn Ser Gly Gly Gly Gly Serを除去したものである)、このDNAを発現ベクター pET-48b (Novagen) に導入した。この発現ベクターを用い、実施例3の2)と同様の手順に従い、チオレドキシン融合タンパク質を調製した。チオレドキシン融合タンパク質 40 mgをHRV 3C Protease (Novagen) 100 Unitを用いて4℃で消化反応を行った。反応条件は付属マニュアルに従った。反応産物を6Mの塩酸グアニジン溶液に希釈し、Superdex Peptide 10/300 GL (GE Healthcare) を用いたゲルろ過クロマトグラフィー、次いでμRPC C2/C18 ST 4.6/100 (GE Healthcare) を用いた逆相クロマトグラフィーによって精製した。精製したポリペプチドはp17のアミノ酸配列のN末端にGly Pro Glyの3アミノ酸残基を含むため、これを新たにp17_2ペプチド (配列番号47) と呼ぶ。
【実施例3】
【0103】
次いで、調製したp17_2ペプチドの結合親和性を、表面プラズモン共鳴を用いて解析した。測定にはBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。p17_2ペプチドをHBS-Tに希釈し、25, 12.5, 6.25, 3.13 nMに調整した。センサーチップCM5へのFc領域の固定化と結合親和性解析は実施例2の2)と同様の手順に従った。解析の結果 (図11)、p17_2はFc領域に対して平衡解離定数KD = 1.6×10-9 (M) の結合親和性でFc領域に結合し、この値は、pep24ペプチドに比べて138倍、初めに特定配列として用いたFcIII-Alaペプチドに比べておよそ26000倍の結合親和性向上を示した。
【実施例3】
【0104】
実施例3で作製したp17_2ペプチドは全長54残基からなり、このサイズは表1で示されるように、環状骨格を有さないタンパク質骨格としては最小クラスのものと同程度の小型さを示している。更に、p17_2を取得するにあたって実施例2と実施例3においてランダム化した領域は合計20残基に及び、このランダム化領域の範囲は、上記表1の50-100残基のタンパク質骨格と比較して十分に大きい。これは、骨格として導入した二つの微小タンパク質がわずか9残基からなるためであり、骨格以外の領域を十分にランダム化領域として活用できるためである。この十分なランダム化領域ゆえに該ライブラリは豊富な分子多様性を創出することが可能となり、作製したp17_2ペプチドは標的に対し平衡解離定数KD = 1.6×10-9 (M) と、強固な抗体抗原相互作用に匹敵する高親和性を実現した。
【実施例3】
【0105】
また、実施例2と実施例3において、特定配列に対し微小タンパク質とランダム化領域からなるアミノ酸配列の伸長を段階的に施すことにより、標的であるFc領域に一段階の伸長で190倍、二段階の伸長の結果138倍の高親和化が実現した。すなわち、微小タンパク質を内包したランダム配列の付加を段階的に繰り返して行うことにより、分子の立体構造安定化および/または標的に対する多価結合効果により、順次高機能化を実現できることを実証した。
【実施例4】
【0106】
本実施例においては、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなる2A1ペプチドのアミノ酸残基に変異を導入した各変異体 (配列番号51~57) の結合親和性を表面プラズモン共鳴によって測定し、各アミノ酸残基が結合親和性に与える影響について評価した例を示す。
【実施例4】
【0107】
有機化学的に合成した7種類の変異体ペプチド、2A1_Q5R (配列番号51)、2A1_W6A (配列番号52)、2A1_S7A (配列番号53)、2A1_R17A (配列番号54)、2A1_S18A (配列番号55)、2A1_S19A (配列番号56)、2A1_I20A (配列番号57) は、bioSYNTHESISより購入した。表面プラズモン共鳴測定装置としてBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。非天然型構造を有するヒトFc領域は、天然型ヒトFc領域をグリシン塩酸緩衝液 (10 mM Glycine-HCl, 150 mM NaCl, pH 2.0) に透析することで調製した。この非天然型ヒトFc領域を、センサーチップCM5 (GE Healthcare) にAmine Coupling Kit (GE Healthcare) を用いたアミンカップリング法により固定化した。次いで、ペプチドを2A1_Q5Rについては62.5, 31.3, 15.6 nM、2A1_W6Aについては500, 250, 125 nM、2A1_S7Aについては1000, 500, 250 nM、2A1_R17Aについては500, 250, 125 nM、2A1_S18Aについては125, 62.5, 31.3 nM、2A1_S19Aについては1000, 500, 250 nM、2A1_I20Aについては500, 250, 125 nMまでそれぞれHBS-T緩衝液 (10 mM HEPES, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20 (商標登録), pH 7.4) にて希釈し、反応温度25℃で結合親和性測定を行った。
【実施例4】
【0108】
測定データをBiacore
T00 Evaluation Software (GE Healthcare)にて処理し、2A1_Q5R, 2A1_W6A, 2A1_S7A, 2A1_R17A, 2A1_S18A, 2A1_S19A, 及び2A1_I20Aのそれぞれの結合解離定数KDを算出した(表2)。この結果、5位のグルタミン残基をアルギニン残基に変異することで結合活性が2.5倍上昇することが判明した。また、アラニン残基への変異によって結合親和性を大きく減少させるアミノ酸残基が同定され、それぞれ、6位のトリプトファン残基は約1/8、7位のセリン残基は約1/5、17位のアルギニン残基は約1/16、19位のセリン残基は約1/10、20位のイソロイシン残基は約1/50の結合親和性低下が認められた。以上の結果は、これらの残基が結合親和性に大きく関与していることを示すものである。
【実施例4】
【0109】
【表2】
JP0005904565B2_000003t.gif
【実施例5】
【0110】
本実施例においては、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなる2A1ペプチドの結合特異性を評価するため、夾雑タンパク質を含む溶液から標的のヒトIgGのFc領域を回収した例を示す。
【実施例5】
【0111】
0.5 mgの2A1ペプチドを1.5 mlの炭酸ナトリウム緩衝液 (0.2 M NaHCO3, 0.5 M NaCl, pH 8.3) に溶解し、これを0.1 mlのNHS-activated Sepharose (登録商標) (GE Healthcare) にアミンカップリング法によって固定化した。固定化の手順は付属の添付文書に従った。固定化の反応率は42%であった。夾雑タンパク質を含む溶液は、1 mlのLB培地で培養した大腸菌BLT5403株を1 mlのTBS-T緩衝液 (50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.05% (w/v) Tween20 (登録商標), pH 7.4) に懸濁し、超音波破砕後、遠心によって得た上清を用いた。非天然型構造を有するヒトFc領域は、天然型ヒトFc領域をグリシン塩酸緩衝液 (10 mM Glycine-HCl, 150 mM NaCl, pH 2.0) に透析することで調製した。この非天然型Fc領域 5μg相当を、上記の大腸菌破砕液62 μlに添加し、これをTBS-T緩衝液で1 mlまで希釈した溶液を、結合特異性評価のサンプル溶液とした。比較試験のコントロール溶液として、非天然型Fc領域を含まない大腸菌破砕液を調製した。
【実施例5】
【0112】
調製したサンプル溶液と、2A1ペプチドを固定化したSepharoseを20分間混合した。その後、0.5 mlのTBS-T緩衝液を用いて5回洗浄し、0.2 mlの50 mM NaOHで溶出した。溶出液は、10 μlの3M 酢酸ナトリウム (pH 5.2) で中和した。溶出液およびサンプル溶液を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析した (図12)。溶出液には、他の夾雑タンパク質に比べFc領域に相当するバンドのみが有意に存在した。この結果は、ポリペプチド2A1が多数の夾雑タンパク質の中から標的であるFc領域を特異的に認識することを示しており、本発明によって得た分子が、通常のタンパク質間相互作用に見られる高い標的特異性を有することを示すものである。
【実施例6】
【0113】
本実施例では、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなる2A1ペプチドの熱失活耐性を評価した例を示す。有機合成した2A1ペプチドをHBS-T緩衝液 (10 mM HEPES, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20 (商標登録), pH 7.4) にて27μMに希釈し、これを100 ℃、15分間加熱した。加熱処理と非加熱処理のサンプルをそれぞれHBS-T緩衝液によって125, 62.5, 31.2 nMに希釈し、表面プラズモン共鳴によって結合親和性を評価した。
【実施例6】
【0114】
表面プラズモン共鳴測定装置としてBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。非天然型構造を有するヒトFc領域は、天然型ヒトFc領域をグリシン塩酸緩衝液 (10 mM Glycine-HCl, 150 mM NaCl, pH 2.0) に透析したものを用いた。この非天然型ヒトFc領域を、センサーチップCM5 (GE Healthcare) にAmine Coupling Kit (GE Healthcare) を用いたアミンカップリング法により固定化し、反応温度25℃で結合親和性測定を行った (図13)。測定データはBiacore T00 Evaluation Software (GE Healthcare) にて処理した。加熱処理後および非加熱処理のサンプルの結合親和性は結合解離定数KDにしてそれぞれ2.0×10-8 (M), 2.2×10-8 (M)と算出された。結合レスポンスの総量も両者で同一であった。以上の結果は、2A1ペプチドの結合親和性は加熱処理によっても不可逆的には損なわれないことを示しており、高い熱失活耐性を示すものである。こうした高い熱失活耐性は、小型のタンパク質の可逆的変性・再生に特徴的な性質であり、抗体IgGなど熱処理によって不可逆的な変性・凝集物を生じる巨大タンパク質に比べ、本発明によって得られる小型タンパク質は高い利便性を有することを示している。
【実施例7】
【0115】
本実施例では、微小タンパク質をアミノ酸配列中に含む分子ライブラリ (配列番号9) が、該微小タンパク質の代替として特定の構造を持たないアミノ酸配列を含む分子ライブラリ (配列番号58) に比べて、より結合親和性の高い分子を多数含むことを競合進化実験によって実証した例を示す。
【実施例7】
【0116】
特定の構造を持たないアミノ酸配列を含む分子ライブラリとして、配列番号58のアミノ酸配列からなる分子ライブラリをT7バクテリオファージ表層に提示したファージライブラリを構築した。この分子ライブラリは、そのアミノ酸配列中に微小タンパク質の代替としてグリシンが多数含まれるグリシンリッチリンカー (Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly) を有することを除いては、配列番号9の分子ライブラリと同じアミノ酸配列を有している。一般にグリシンを多数含むポリペプチドは構造が柔軟であり、特定の構造を保てないことが知られている (参照文献43, 44)。
【実施例7】
【0117】
まず、配列番号58で示されるアミノ酸配列をコードするDNA領域に制限酵素部位EcoRIとHindIIIを付加した配列を含むDNA (配列番号59) を設計した (ここで、任意の天然アミノ酸残基Xaaは混合塩基のトリプレットNNKによってコードされる。配列中はA, C, G, Tの混合塩基を示し、KはG, Tの混合塩基を示す)。この設計したDNAを、実施例1の4)と同様の手順に従い、PCRによって酵素的に合成、増幅した。
【実施例7】
【0118】
実施例1の1)と同様の手順に従い、増幅DNAのT7ファージゲノムDNAへの連結、ファージの試験管内パッケージングとT7ファージ提示ライブラリの構築を行った。ここで、配列番号9で示される、微小タンパク質をアミノ酸配列中に含むポリペプチドを提示したファージライブラリをCLNライブラリ、配列番号58で示される、グリシンリッチリンカーをアミノ酸配列中に含むポリペプチドを提示したファージライブラリをGlyライブラリと呼称する。試験管内パッケージング後、CLNライブラリおよびGlyライブラリは、それぞれ1.7×108クローン、1.6×108クローンから構成されていた。
【実施例7】
【0119】
CLNライブラリとGlyライブラリを、ファージ力価 (plaque forming unit, pfu) にして1:10の割合で混合した。この混合ライブラリを用いて、ヒトIgGのFc領域に対する選択を行った。ライブラリを標的物質であるFc領域に接触させる工程、および結合したファージを選択し回収する工程は、実施例1の2)と同様の手順に従い、この工程を7回繰り返した。混合ライブラリ、および、各7回の工程後に得られる分子集団から任意に48クローンを単離した。16クローンごと、提示したポリペプチドをコードする領域のDNA配列をダイデオキシ法によりABI PRISM (登録商標) 3100 (Applied BioSystems) を用いて解析し、CLNライブラリに由来するクローンの割合と、独立なアミノ酸配列を有するクローンの割合を算出した(図14)。当初10%に設定したCLNライブラリに由来するクローンの割合は、Fc領域に対する選択を重ねるごとに増加した。7回の工程を繰り返した後においてもクローン配列の独立性は70%以上を示しており、このことは、偶発的に1種類のクローンが高親和性クローンとして選択されたのではなく、分子集団として高い結合親和性を示すクローンが複数存在することを示している。従って、微小タンパク質をアミノ酸配列中に含む分子ライブラリは、柔軟で特定の構造をもたないアミノ酸配列を含むライブラリに比べ、結合親和性の高いクローンを多数含んでいることを示している。
【実施例8】
【0120】
本実施例では、配列番号47からなるポリペプチドp17_2とヒトIgGのFc領域との複合体についてX線結晶構造解析を行い、その立体構造を決定した方法と結果を示す。
【実施例8】
【0121】
ポリペプチドp17_2の調製は、実施例3の3) と同様の手順に従った。ヒトIgGのFc領域の調製は、実施例2の1) と同様の手順に従った。ポリペプチドp17_2とFc領域の複合体を緩衝液 (20 mM Tris-HCl, 10% (v/v) ジメチルスルホキシド, pH 7.4) に透析し、限外ろ過によって10 mg/ml の濃度に濃縮した。結晶化の沈殿剤・緩衝液として、40% ポリエチレングリコール4000, 0.1 M クエン酸ナトリウム (pH 5.6), 0.2 M 酢酸アンモニウムを用い、シッティングドロップ式による蒸気拡散法によって結晶を得た。取得した結晶を用いて、高エネルギー加速器研究機構Photon Factory NW-12Aにて回折データを収集した。位相決定はサーチモデル (プロテイン・データ・バンク (PDB) code, 1DN2) を用いた分子置換法によって行った。CNS, ccp4i, coot (参照文献48~参照文献50) により構造精密化を行い、分解能2.9Åで複合体の結晶構造を決定した。非対称単位中には、4つの複合体、すなわち、4つのFc領域と8つのp17_2分子が含まれていた。
【実施例8】
【0122】
ポリペプチドp17_2は、4本のβストランド、3つのβヘアピン、1つの短いαヘリックス、1本のループ構造から形成されていた (図15)。p17_2に含まれるFc-III Ala部分の構造は、鋳型としたFc IIIペプチドの立体構造 (PDB code, 1DN2) と、主鎖・側鎖の両面で高い構造相同性 (r.m.s.d. = 0.639Å) を示し (図16)、Fc領域への結合部位も同等の箇所を認識していた (図17)。このことは、本発明によるペプチドの高機能化は、本来の機能の特性を損なうことなく増強できることを示している。ライブラリに導入したシニョリン由来の領域は、シニョリンと同様にβヘアピンを形成しており、ランダムアミノ酸配列として伸長した領域を、Fc-III Alaの近傍へ配置する役割を担っていた。このことは、βヘアピンを形成する微小タンパク質の使用が、二つのセグメントを効果的に近接させる役割を担っていることを示している。ランダムアミノ酸配列として伸長した二つの領域は、それぞれ全く異なる立体構造を形成していた。C末端領域は短いαヘリックスを形成しており、ヘリックス表面から突き出た側鎖が、Fc-III Alaのアミノ酸残基と接触し、結合に有利なコンホメーションを支えていた (図18)。先行研究において、鋳型としたFc IIIペプチドのFc領域への結合では、Trp残基の配向性が重要であることが示唆されており (参照文献46, 47)、Fc-III Alaにおいて相当するTrp33の芳香環残基を、αヘリックスに存在するMet51の側鎖が直接支えていた (図18)。一方、C末端領域と対照的に、N末端はループ構造を形成し、Fc-III Alaの土台にあたる、導入したシニョリン部分と接触することでこの土台を支えていた (図18)。これらの結果は、ランダムアミノ酸配列として導入されたセグメントは機能選択の結果それぞれの状況に適した立体構造を形成し、ポリペプチドの高機能化を実現したことを示している。
【実施例9】
【0123】
本実施例では、p17_2ポリペプチド (配列番号47) のC末端セグメントに存在するアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体を作製し、結合親和性を測定することで、該アミノ酸残基が結合親和性に与える影響を評価するとともに、実施例8で得た立体構造情報と照らし合わせることでそれらアミノ酸残基の役割を詳細に解析した例を示す。
【実施例9】
【0124】
配列番号60~64で示されるアミノ酸配列をコードするDNA (配列番号65~69) を設計し、これらをPCRによって合成した。実施例3の3) と同様の手順に従い、チオレドキシン融合タンパク質の発現およびプロテアーゼ処理によって変異体ポリペプチドを調製し、以下の様に名づけた: p17_P46A (配列番号60), p17_D47A (配列番号61), p17_W48A (配列番号62), p17_R50A (配列番号63), p17_M51A (配列番号64)。
【実施例9】
【0125】
次いで、調製した5種類のポリペプチドの結合親和性を、表面プラズモン共鳴を用いて解析した。測定にはBiacore T100 (GE Healthcare) を用いた。センサーチップCM5 (GE Healthcare) へのFc領域の固定化と結合親和性解析は、実施例2の2) と同様の手順に従った。解析の結果得られた、各ポリペプチドの結合親和性を表3に示す。アラニン置換を行った全ての変異体において結合親和性の低下が確認され、これらの残基が結合親和性に関与していることが示唆された。特に、p17_W48Aとp17_M51Aはアラニン置換の結果100倍以上の結合親和性の低下を招いていた。
【実施例9】
【0126】
【表3】
JP0005904565B2_000004t.gif
【実施例9】
【0127】
次いで、アラニン置換を導入した部位について、構造的観点から考察した。Pro46の部位で、プロリン残基に特徴的な構造配向性によってポリペプチドの主鎖は方向を変えており、その先に生じるαヘリックスを適切な位置へと配向させる微調整の役割を担っている (図19A)。Asp47は、近傍のArg50と水素結合しており (図19B)、Pro46と同様にαヘリックスの配向を微調整している。αヘリックスに存在するArg50はその側鎖がAla24と接触することで、結合部位を形成する23~35位のβストランド間の架橋を補助していた (図19C)。同じくαヘリックスに存在するTrp48とMet51は、Met51を中心としてこれら疎水残基同士で接触しており、結合部位に存在するTrp33の芳香環を直接安定化していた (図19D)。先行研究 (非特許文献46, 47) において、このTrp33の芳香環側鎖の配向がFc領域への結合に大きく影響を与えることが示されている。また、上述の結合親和性試験において、Met51におけるアラニン置換は100倍以上の結合親和性低下を招くことが判明している。これら二つの事実から、Met51の結合関与はTrp33の芳香環を支えることによって結合親和性を高めていると考えられる。
【実施例9】
【0128】
以上の結果は、分子ライブラリ中に導入されたランダムアミノ酸配列が機能選択の結果、機能的・構造的に適したアミノ酸残基を採用し、効果的にポリペプチドを高機能化していることを結合機能解析、立体構造解析の両面から実験的に実証するものである。
【実施例9】
【0129】
〔参照文献〕
参照文献43;Freund C, Ross A, Guth B, Pluckthun A and Holak TA. (1993) Characterization of the linker peptide of the single-chain Fv fragment of an antibody by NMR spectroscopy. FEBS Lett. 320 97-100.
参照文献44;Iwakura M and Nakamura T. (1998) Effects of the length of a glycine linker connecting the N-and C-termini of a circularly permuted dihydrofolate reductase. Protein Eng. 11(8) 707-713.
参照文献45;Guntert P, Mumenthaler C and Wuthrich K. (1997) Torsion angle dynamics for NMR structure calculation with the new program DYANA. J. Mol. Biol. 273, 283-298.
参照文献46;DeLano WL, Ultsch MH, de Vos AM and Wells JA. (2000) Convergent solutions to binding at a protein-protein interface. Science 287(5456) 1279-1283.
参照文献47;Dias RL, Fasan R, Moehle K, Renard A, Obrecht D and Robinson JA. (2006) Protein ligand design: from phage display to synthetic protein epitope mimetics in human antibody Fc-binding peptidomimetics. J Am Chem Soc. 2006 128(8) 2726-2732.
参照文献48;Brunger AT, Adams PD, Clore GM, DeLano WL, Gros P, Grosse-Kunstleve RW, Jiang JS, Kuszewski J, Nilges M, Pannu NS, Read RJ, Rice LM, Simonson T, and Warren GL. (1998) Crystallography & NMR system: A new software suite for macromolecular structure determination. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 54, 905-921)、CCP4 suite
参照文献49;Winn MD, Ballard CC, Cowtan KD, Dodson EJ, Emsley P, Evans PR, Keegan RM, Krissinel EB, Leslie AG, McCoy A, McNicholas SJ, Murshudov GN, Pannu NS, Potterton EA, Powell HR, Read RJ, Vagin A and Wilson KS. (2011) Overview of the CCP4 suite and current developments. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 67, 235-242)、Coot
参照文献50;Emsley P and Cowtan K. (2004) Coot: model-building tools for molecular graphics. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 60, 2126-2132.
【実施例9】
【0130】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0131】
進化分子工学は、近年、バイオ医薬品および診断検査薬の開発のための基盤技術として広範に利用されているが、本発明により、これら医薬品等の候補として、分子量の小さい新規な機能性分子、あるいは新規な小型タンパク質、あるいは新たな非環状型のオリゴペプチドを提供することができる。分子の小型化は、人体投与の際の組織浸潤性や免疫原性の改善、大量合成に要する製造コストの低減、保存時の安定性の向上などにおいて優位性を示す。低分子量でありながら、その立体構造形成は内包する微小タンパク質の自発的フォールディングによって駆動されるため、化学架橋やそれに要する官能基の導入を必要とせずに安定な立体構造を形成する。これより、短鎖ペプチドライブラリでは提供できない高親和性、高選択性の実現を可能にする。以上の点は、医薬品以外の分野、例えば研究試薬やバイオセンサーにおいても有益であり、本発明の産業上の利用可能性は大きい。
【配列表フリ-テキスト】
【0132】
配列番号1:シニョリン
配列番号2:シニョリン変異体
配列番号3:シニョリン変異体
配列番号4:シニョリン変異体
配列番号5:シニョリン変異体
配列番号6:シニョリンライブラリ
配列番号7:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号8:選択された配列
配列番号9:シニョリンライブラリ
配列番号10:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号11:オリゴDNA
配列番号12:オリゴDNA
配列番号13:選択された配列、2A1
配列番号14:対照ペプチド、2A1Gly
配列番号15:シニョリンライブラリ
配列番号16:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号17:オリゴDNA
配列番号18:オリゴDNA
配列番号19:選択された配列
配列番号20:選択された配列
配列番号21:選択された配列
配列番号22:選択された配列
配列番号23:シニョリンライブラリ
配列番号24:シニョリンライブラリ
配列番号25:シニョリンライブラリ
配列番号26:シニョリンライブラリ
配列番号27:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号28:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号29:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号30:シニョリンライブラリ遺伝子
配列番号31:オリゴDNA
配列番号32:オリゴDNA
配列番号33:オリゴDNA
配列番号34:オリゴDNA
配列番号35:オリゴDNA
配列番号36:オリゴDNA
配列番号37:選択された配列
配列番号38:選択された配列
配列番号39:選択された配列
配列番号40:選択された配列、p17
配列番号41:選択された配列
配列番号42:選択された配列
配列番号43:選択された配列
配列番号44:選択された配列
配列番号45:選択された配列
配列番号46:オリゴDNA
配列番号47:選択された配列、p17_2
配列番号48:Trp-cage protein
配列番号49:FSD-1
配列番号50:lanthanide-binding peptide
配列番号51:選択された配列、2A1_Q5R
配列番号52:選択された配列、2A1_W6A
配列番号53:選択された配列、2A1_S7A
配列番号54:選択された配列、2A1_R17A
配列番号55:選択された配列、2A1_S18A
配列番号56:選択された配列、2A1_S19A
配列番号57:選択された配列、2A1_I20A
配列番号58:グリシンライブラリ
配列番号59:グリシンライブラリ遺伝子
配列番号60:選択された配列、p17_P46A
配列番号61:選択された配列、p17_D47A
配列番号62:選択された配列、p17_W48A
配列番号63:選択された配列、p17_R50A
配列番号64:選択された配列、p17_M51A
配列番号65:オリゴDNA
配列番号66:オリゴDNA
配列番号67:オリゴDNA
配列番号68:オリゴDNA
配列番号69:オリゴDNA
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
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【図18】
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【図19】
18