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明細書 :血管内皮前駆細胞の調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-110548 (P2018-110548A)
公開日 平成30年7月19日(2018.7.19)
発明の名称または考案の名称 血管内皮前駆細胞の調製方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A61K  35/44        (2015.01)
A61K  35/545       (2015.01)
A61P   9/10        (2006.01)
FI C12N 5/10
A61K 35/44
A61K 35/545
A61P 9/10
A61P 9/10 103
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-002691 (P2017-002691)
出願日 平成29年1月11日(2017.1.11)
発明者または考案者 【氏名】松永 民秀
【氏名】坡下 真大
【氏名】青木 啓将
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C087
Fターム 4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB34
4B065BB40
4B065BC41
4B065BD14
4B065BD39
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA60
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA36
要約 【課題】、簡便且つ安価での血管内皮前駆細胞の調製を可能にする、新たな手段を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)人工多能性幹細胞を培養し、嚢状構造物を形成させる工程、(2)前記嚢状構造物を構成する細胞集団を分離する工程、(3)分離した細胞集団を、基底膜成分を含む材料でコートした培養面上に播種し、血管内皮増殖因子の存在下、培養面に接着性を示す細胞を培養する工程によって、血管内皮前駆細胞を調製する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程(1)~(3)を含む、血管内皮前駆細胞の調製方法:
(1)人工多能性幹細胞を培養し、嚢状構造物を形成させる工程、
(2)前記嚢状構造物を構成する細胞集団を分離する工程、
(3)分離した細胞集団を、基底膜成分を含む材料でコートした培養面上に播種し、血管内皮増殖因子の存在下、培養面に接着性を示す細胞を培養する工程。
【請求項2】
工程(1)の培養が、フィーダー細胞の存在下で行われる、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
工程(1)の培養が、フィーダー細胞の非存在下で行われる、請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
工程(1)の培養期間が8日間~20日間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記基底膜成分が、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプI、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン及びバーレクチンからなる群より選択される一以上の物質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項6】
前記基底膜成分がフィブロネクチンとコラーゲンタイプIVである、請求項1~4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
工程(3)の培養期間が5日間~30日間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
工程(3)において、少なくとも1回の継代培養が行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項9】
前記継代培養の回数が1回~7回である、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
工程(3)の前、及び/又は工程(3)の途中で不要成分が除去される、請求項1~9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項11】
人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、請求項1~10のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の調製方法で得られた血管内皮前駆細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の血管内皮前駆細胞を含む、細胞製剤。
【請求項14】
請求項12に記載の血管内皮前駆細胞の、in vitroでの血管の構築又はヒト血液脳関門モデルの構築への使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem:iPS)から血管内皮前駆細胞を調製する方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮前駆細胞(EPC)は骨髄や血液中に存在する未分化な細胞であり、その機能ないし役割に関して、血流に乗って虚血部位に集積し、血管内皮細胞に分化して新しい血管を形成することや、血管新生を促す因子を分泌して新生血管の形成を促進することが知られている。新生血管形成という特性から、EPCは冠動脈疾患や下肢虚血性疾患等の重傷虚血性疾患に対する再生療法に用いることが可能であり、実際に虚血性疾患に対する臨床試験で良好な成績が得られている。EPCは研究対象として非常に注目されており、EPCの生体からの効率の良い選別・単離方法や、虚血性疾患モデルマウスを用いたEPCの注入実験等様々な実験が行われている。さらに、胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化させたEPCと虚血性疾患モデルマウスを用いた血管再生実験や、リンパ管内皮細胞や脳毛細血管内皮細胞などの特殊な内皮細胞への分化方法の確立など、EPCの研究内容は多岐に渡っている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第5617631号公報
【0004】

【非特許文献1】Lian X, Bao X, Al-Ahmad A, Liu J, Wu Y, Dong W, Dunn KK, Shusta EV, Palecek SP. Efficient differentiation of human pluripotent stem cells to endothelial progenitors via small-molecule activation of WNT signaling. Stem Cell Reports. 3:804-816, 2014
【非特許文献2】Takayama N, Nishikii H, Usui J, Tsukui H, Sawaguchi A, Hiroyama T, Eto K, Nakauchi H. Generation of functional platelets from human embryonic stem cells in vitro via ES-sacs, VEGF-promoted structures that concentrate hematopoietic progenitors. Blood. 111:5298-5306, 2008.
【非特許文献3】Takayama N, Nishimura S, Nakamura S, Shimizu T, Ohnishi R, Endo H, Yamaguchi T, Otsu M, Nishimura K, Nakanishi M, Sawaguchi A, Nagai R, Takahashi K, Yamanaka S, Nakauchi H, Eto K. Transient activation of c-MYC expression is critical for efficient platelet generation from human induced pluripotent stem cells. J Exp Med. 207:2817-2830, 2010.
【非特許文献4】大手万里子ら、日本薬学会年会講演集、2013年、第133回、28pmC-141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通りEPCは有用性の高い細胞であるが、ヒトからのEPC供給量には限りがあることや、採取したEPCの性質が一定しないこと、また長期培養が困難であることなど、その実用化を図るためには克服すべき課題が多い。解決策として、ほぼ無限の増殖能を持つヒトES細胞やヒトiPS細胞をEPCに分化誘導させることが挙げられる。これまでにもヒトES細胞やヒトiPS細胞からEPCへの分化誘導に成功したとの報告(例えば非特許文献1を参照)は存在するが、手順が煩雑であると同時に多くの時間と費用がかかることが問題となっている。そこで本発明は、簡便且つ安価でのEPCの調製を可能にする、新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み本発明者らは、高山らによって報告されたiPS-sac法(例えば非特許文献2、3を参照)に着目した。iPS-sac法とは、内部に血液前駆細胞を含み、外側は血管内皮様細胞からなる嚢状構造物(慣例に従い、「iPS-sac」とも呼ぶ)の形成を介して血液細胞を誘導する方法である。iPS-sac法は血球細胞(巨核球、血小板、好中球など)の調製に利用されている(特許文献1、非特許文献4)。その一方で、iPS-sac法でEPCの調製又は単離に成功したとの報告はない。このような状況の中、本発明者らはiPS-sac法を応用した新規なEPC分化誘導法の確立を目指した。詳細な検討の末、極めて簡便な操作にもかかわらず、効率的にEPCを分化誘導できる方法の確立に成功した。新規分化誘導法は簡便である上に、必要な材料や試薬なども少なく、費用の面でも有利である。
【0007】
以下の発明は以上の成果に基づく。
[1]以下の工程(1)~(3)を含む、血管内皮前駆細胞の調製方法:
(1)人工多能性幹細胞を培養し、嚢状構造物を形成させる工程、
(2)前記嚢状構造物を構成する細胞集団を分離する工程、
(3)分離した細胞集団を、基底膜成分を含む材料でコートした培養面上に播種し、血管内皮増殖因子の存在下、培養面に接着性を示す細胞を培養する工程。
[2]工程(1)の培養が、フィーダー細胞の存在下で行われる、[1]に記載の調製方法。
[3]工程(1)の培養が、フィーダー細胞の非存在下で行われる、[1]に記載の調製方法。
[4]工程(1)の培養期間が8日間~20日間である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の調製方法。
[5]前記基底膜成分が、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプI、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン及びバーレクチンからなる群より選択される一以上の物質である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の調製方法。
[6]前記基底膜成分がフィブロネクチンとコラーゲンタイプIVである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の調製方法。
[7]工程(3)の培養期間が5日間~30日間である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の調製方法。
[8]工程(3)において、少なくとも1回の継代培養が行われる、[1]~[7]のいずれか一項に記載の調製方法。
[9]前記継代培養の回数が1回~7回である、[8]に記載の調製方法。
[10]工程(3)の前、及び/又は工程(3)の途中で不要成分が除去される、[1]~[9]のいずれか一項に記載の調製方法。
[11]人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の調製方法。
[12][1]~[11]のいずれか一項に記載の調製方法で得られた血管内皮前駆細胞。
[13][12]に記載の血管内皮前駆細胞を含む、細胞製剤。
[14][12]に記載の血管内皮前駆細胞の、in vitroでの血管の構築又はヒト血液脳関門モデルの構築への使用。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】A: ヒトiPS細胞をiPS-sacへと分化誘導したときの形態変化の様子。B: 分化開始後7日目、14日目、21日目における、ECマーカー及びEPCマーカーの遺伝子発現量の比較。0日目:ヒトiPS細胞(409B2株)。平均±S.D.(n=3)
【図2】A: iPS-sac(14日目)を基底膜成分(フィブロネクチン+コラーゲンタイプIV)コートディッシュ上に播種した細胞(iPS-sac由来のEPCとの意味で「sac-EPC」と呼称する)の形態(播種後2日目)。B: ゼラチン及び基底膜成分により単離したsac-EPCのCD31、CD34の発現をFACS分析により解析した結果。
【図3】A: sac-EPCのECマーカー/EPCマーカーの遺伝子発現量。平均±S.D.(n=3) HUVEC: n=1。B: マトリゲル上に播種したsac-EPCによって形成された血管様構造物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.血管内皮前駆細胞の調製方法
本発明は人工多能性幹細胞(iPS細胞)から血管内皮前駆細胞(EPC)を調製する方法(以下、「本発明の調製方法」とも呼ぶ。)に関する。本発明によれば、血管内皮細胞(EC)への分化能を有するEPCが得られる。EPCを適切な条件で分化誘導するか、或いはEPCを分化誘導に適した環境に置けば(典型的には、生体においてECが存在する部位又はその近傍などへの移植/投与)、ECが生じることになる。EPCは、冠動脈疾患や下肢虚血性疾患などの重傷虚血性疾患に対する再生療法や血管再生実験などに利用されている。本発明の調製方法は、このように有用性の高いEPCを簡便且つ安価に調製することを可能にする。尚、本明細書において「分化誘導する」とは、特定の細胞系譜に沿って分化するように働きかけることをいう。

【0010】
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」とは、初期化因子の導入などにより体細胞をリプログラミングすることによって作製される、多能性(多分化能)と増殖能を有する細胞である。人工多能性幹細胞はES細胞に近い性質を示す。iPS細胞の作製に使用する体細胞は特に限定されず、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。また、その由来も特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒトやチンパンジーなどの霊長類、マウスやラットなどのげっ歯類)の体細胞、特に好ましくはヒトの体細胞を用いる。iPS細胞は、これまでに報告された各種方法によって作製することができる。また、今後開発されるiPS細胞作製法を適用することも当然に想定される。

【0011】
iPS細胞作製法の最も基本的な手法は、転写因子であるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycの4因子を、ウイルスを利用して細胞へ導入する方法である(Takahashi K, Yamanaka S: Cell 126 (4), 663-676, 2006; Takahashi, K, et al: Cell 131 (5), 861-72, 2007)。ヒトiPS細胞についてはOct4、Sox2、Lin28及びNonogの4因子の導入による樹立の報告がある(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)。c-Mycを除く3因子(Nakagawa M, et al: Nat. Biotechnol. 26 (1), 101-106, 2008)、Oct3/4及びKlf4の2因子(Kim J B, et al: Nature 454 (7204), 646-650, 2008)、或いはOct3/4のみ(Kim J B, et al: Cell 136 (3), 411-419, 2009)の導入によるiPS細胞の樹立も報告されている。また、遺伝子の発現産物であるタンパク質を細胞に導入する手法(Zhou H, Wu S, Joo JY, et al: Cell Stem Cell 4, 381-384, 2009; Kim D, Kim CH, Moon JI, et al: Cell Stem Cell 4, 472-476, 2009)も報告されている。一方、ヒストンメチル基転移酵素G9aに対する阻害剤BIX-01294やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)或いはBayK8644などを使用することによって作製効率の向上や導入する因子の低減などが可能であるとの報告もある(Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (7), 795-797, 2008; Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (11), 1269-1275, 2008; Silva J, et al: PLoS. Biol. 6 (10), e 253, 2008)。遺伝子導入法についても検討が進められ、レトロウイルスの他、レンチウイルス(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)、アデノウイルス(Stadtfeld M, et al: Science 322 (5903), 945-949, 2008)、プラスミド(Okita K, et al: Science 322 (5903), 949-953, 2008)、トランスポゾンベクター(Woltjen K, Michael IP, Mohseni P, et al: Nature 458, 766-770, 2009; Kaji K, Norrby K, Pac a A, et al: Nature 458, 771-775, 2009; Yusa K, Rad R, Takeda J, et al: Nat Methods 6, 363-369, 2009)、或いはエピソーマルベクター(Yu J, Hu K, Smuga-Otto K, Tian S, et al: Science 324, 797-801, 2009)を遺伝子導入に利用した技術が開発されている。

【0012】
iPS細胞への形質転換、即ち初期化(リプログラミング)が生じた細胞はFbxo15、Nanog、Oct/4、Fgf-4、Esg-1及びCriptなどの多能性幹細胞マーカー(未分化マーカー)の発現などを指標として選択することができる。選択された細胞をiPS細胞として回収する。

【0013】
iPS細胞は、例えば、国立大学法人京都大学又は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから提供を受けることもできる。

【0014】
本発明の調製方法では以下の工程(1)~(3)が行われる。
(1)人工多能性幹細胞を培養し、嚢状構造物を形成させる工程
(2)前記嚢状構造物を構成する細胞集団を分離する工程
(3)分離した細胞集団を、基底膜成分を含む材料でコートした培養面上に播種し、血管内皮増殖因子の存在下、培養面に接着性を示す細胞を培養する工程

【0015】
<工程(1) 嚢状構造物(iPS-sac)の形成>
この工程ではiPS細胞を培養し、嚢状構造物(iPS-sac)を形成させる。即ち、iPS-sac法を利用して目的の細胞集団を含む構造体を得る。iPS細胞を培養し、嚢状構造物(iPS-sac)を形成するための操作、条件などは、既報(上掲の非特許文献2、3など)に準じればよい。例えば、フィーダー細胞の存在下、iPS細胞を造血系細胞の分化誘導に適した条件で培養し、iPS-sacを形成させる。フィーダー細胞にはマウス胚由来線維芽細胞株(具体例はC3H10T1/2)、マウス骨髄由来間質細胞株(具体例はOP9などを用いることができる。フィーダー細胞は、通常、使用に先立って細胞の増殖を抑制する処理(例えばマイトマイシンC処理やγ線照射処理)に供される。一方、臨床応用を視野に入れた場合等、安全性の高い細胞を提供することが望まれる場合には、フィーダー細胞の非存在下でiPS細胞を培養(無フィーダー細胞培養)し、iPS-sacを形成させるとよい。

【0016】
iPS-sacの形成に適した条件となるように培地及び添加成分などを選択すればよい。基本培地としては例えば、Iscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)、MEMα培地、無血清血管内皮細胞用培地(HE-SFM, Thermo)、Stempro-34(Thermo)を用いることができる。iPS-sacの形成を促すため、培地には血管誘導因子である血管内皮増殖因子(VEGF)を添加する。iPS-sacが形成可能である限りにおいてVEGFの添加濃度は限定されないが、例えば、培地中のVEGF濃度を20 ng/mL~100 ng/mL、好ましくは20 ng/mL~50 ng/mLとする。全培養期間を通してVEGF濃度を一定にするのではなく、例えば段階的にVEGF濃度を増加させるなど、VEGF濃度に変化を設けても良い。尚、VEGFはBiolegend社やThermo社などが提供している。

【0017】
培地中に添加可能なその他の成分の例は血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)、サプリメント(例えばITS-Gサプリメント)、L-グルタミン、L-アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物、非必須アミノ酸、低分子化合物(TGF-β受容体阻害剤)などである。

【0018】
工程(1)の期間(培養期間)は例えば8日間~20日間、好ましくは12日間~16日間である。培養期間が短すぎることはiPS-sacの形成不全や未成熟を引き起こす。他方、培養期間が長すぎると、iPS-sacを構成する細胞間の連結が必要以上に強固となり、細胞集団の分離(工程(2))に影響が出たり、必要以上に分化が進むことでiPS-sac内に存在する目的の細胞(即ち、EPC及びEPCへの分化能を有する細胞)の数/存在率が低下したりする。また、培養期間が過度に長くなれば、EPCの効率的な調製という、本発明の効果の一つが損なわれ得る。

【0019】
<工程(2) 細胞集団の分離>
工程(1)によって形成されたiPS-sacはEPC及び/又はEPCへの分化能を有する細胞を含む細胞集団によって構成されている。工程(1)に続く工程(2)では、iPS-sacを構成する細胞集団を分離する。ここでの「分離」はiPS-sacから細胞を取り出すことを意味し、分離後の各細胞は独立して存在している状態(解離した状態)になっていなくてもよい。但し、好ましくは、いわゆる「細胞懸濁液」が得られるように、例えばピペッティング操作によって細胞が分散した状態(解離状態)にする。尚、細胞集団の分離の際、セルストレーナーなどを利用して不要成分を除去することにしてもよい。

【0020】
<工程(3) 血管内皮前駆細胞(EPC)の選択培養>
工程(3)では、工程(2)で分離した細胞集団を出発材料として、EPCが選択的に維持・増殖する条件下で培養する。具体的には、工程(2)で分離した細胞集団を、基底膜成分を含む材料でコートした培養面上に播種した後、血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下、培養面に接着性を示す細胞を培養する。尚、本明細書では、ここでの培養を「選択培養」と呼称することがある。

【0021】
この工程では、培養に先立って、基底膜成分を含む材料でコートした培養面を用意しておく。培養皿ないしマルチウェルプレート(12ウェルプレート、24ウェルプレート、96ウェルプレートなど)の内底面を、基底膜成分を含む材料でコート(被覆)することにより、本発明で使用する培養面を形成することができる。基底膜成分としてはフィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプI、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、バーレクチンなどを単独で又は二以上を組み合わせて使用することができる。好ましい一態様では、フィブロネクチンとコラーゲンタイプIVを併用する(更に別の成分を併用してもよい)。後述の実施例に示す通り、EPCの効率的な選択的培養にとってフィブロネクチンとコラーゲンタイプIVの併用が有効であることが確認されている。基底膜成分にD-リジン(D-Lysine)を併用することにしてもよい。

【0022】
工程(2)で分離した細胞集団を、用意した培養面上に播種し、所定の条件下で培養を開始する。目的の細胞(EPC及びEPCへの分化能を有する細胞)は培養面に接着性を示し、選択的に維持され、そして増殖することになる。不要な細胞、即ち浮遊性細胞(血球細胞)を積極的に除去することにしてもよいが、通常、培地交換に伴って浮遊性細胞は除去される。即ち、本発明の方法によれば、特別の操作を追加することなく、目的の細胞(EPC)を選択的に培養(濃縮)することができる。培地交換は例えば、24時間~3日に1回の頻度で行えばよい。

【0023】
工程(3)の培養は、血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下、即ち、培地中にVEGFが添加された条件下で行われる。工程(3)の培養に使用可能な基本培地や添加成分などは工程(1)の培養の場合と同様である。好ましくは、工程(1)で使用する培地と同一組成の培地を工程(3)の培養に使用する。このようにすれば、工程毎に培地を用意する必要がなくなり、操作の更なる簡便化が図られる。

【0024】
工程(3)の培養期間は例えば5日間~30日間、好ましくは10日間~20日間である。好ましくは、培養期間中に少なくとも1回(例えば1回~7回)の継代培養を行う。継代培養の際、クローニングリングやクローニングシリンダーなどを利用することでEPCのコロニーを選別して次の培養に供するとよい。また、磁気細胞分離法やセルソータ等による単離を行うことにしてもよい。これらの操作は、効率的にEPCの純度を高めることに有効である。

【0025】
培養後の細胞は、通常、回収されて各種用途に供される。回収操作は常法(ピペッティング、セルスクレーバーによる剥離、TrypLE selectなどの剥離液の使用など)で行えばよい。EPCの純度を高めるために、回収の際、磁気細胞分離法やセルソータ等によって単離することにしてもよい。回収した細胞がEPCであることは、EPCに特徴的なマーカー分子の発現を指標として確認することができる。EPCに特徴的なマーカー分子の例はCD31、CD34、CD133、CD144、vWF、FLK1である。但し、CD31の高発現はECであることの指標になる点や、分化が進むとCD133の発現が低下する点に留意するとよい。

【0026】
尚、本発明を構成する各工程(工程(1)、(3))における、その他の培養条件(培養温度など)は、動物細胞の培養において一般に採用されている条件にすればよい。即ち、例えば37℃、5%CO2の環境下で培養すればよい。尚、臨床応用を視野に入れた場合等、安全性の高い細胞を提供することが望まれる場合には無血清培養(例えば血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を用いた無血清培養)を採用することが好ましく、血清を使用又は併用するのであれば、自己血清(即ちレシピエントの血清)を用いるとよい。

【0027】
2.血管内皮前駆細胞の用途
本発明の別の局面は、本発明の調製方法で得られた血管内皮前駆細胞(説明の便宜上、以下、「本発明のEPC」と呼ぶ)の用途に関する。第1の用途として、本発明のEPCを含有する細胞製剤が提供される。上記の通り、EPCは冠動脈疾患や下肢虚血疾患(バージャー病や閉塞性動脈硬化症など)などの治療への適用が期待されている。実際、EPCを用いた臨床試験も行われており、良好な成績が報告されている。本発明の細胞製剤は、EPCの投与/移植が有効とされる各種疾患の治療(再生医療)に利用され得る。

【0028】
本発明の細胞製剤は、例えば、本発明のEPCを生理食塩水や緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)などに懸濁することによって調製することができる。治療上有効量の細胞を投与できるように、一回投与分の量として例えば1×105個~1×1010個の細胞を含有させるとよい。細胞の含有量は、使用目的、対象疾患、適用対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。

【0029】
細胞の保護を目的としてジメチルスルホキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導等を目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水等)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。

【0030】
細胞製剤として再生医療に利用するのではなく、再生医療に用いられる材料、具体的には、移植用の血管をin vitroで構築するために本発明のEPCを用いることもできる。血管内皮前駆細胞を用いた血管の構築方法については、例えば血管再生治療(井村裕夫 監修、診断と治療社)に詳しい。

【0031】
本発明のEPCを、ヒト血液脳関門モデルの構築に利用することも可能である。例えば、EPCをトランズウェルのインサート部に播種し、その裏側にペリサイト、ウェル底面にアストロサイトを播種することで、生体内の血液脳関門と同様の構造を模倣する。(Nakagawa S, Maria A. D, Nakao S, Honda M, Hayashi M, Nakaoke R, Kataoka Y, Niwa M. Cellular and Molecular Neurobiology. 27:687-694, 2007)。
【実施例】
【0032】
新規なEPC分化誘導法の確立を目指し、以下の検討を行った。
1.方法
(1)細胞
ヒトの繊維芽細胞にエピソーマルベクター(pCXLE)を用いて6因子(Oct3/4,Sox2,Klf4,L-Myc,Lin28,p53 shRNA)を導入することで樹立された409B2株(理化学研究所より購入)を用いて実験を行った。フィーダー細胞はマウス胎仔線維芽細胞(MEF)を使用した。iPS-sac分化に用いるフィーダー細胞はマウス骨髄間質細胞(C3H10T1/2)を使用した。また、リアルタイムPCR法を用いた解析におけるポジティブコントロールとしてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた。
【実施例】
【0033】
(2)培地
MEFの培養には10%ウシ胎仔血清(FBS)、2 mmol/L L-グルタミン(L-Glu)、1%非必須アミノ酸(NEAA)、100 units/mLペニシリンG、100 μg/mLストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。MEFの剥離液には0.05%トリプシン-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、MEFの保存液にはセルバンカー1を用いた。C3H10T1/2の培養には10%ウシ胎仔血清(FBS)、2 mmol/L L-グルタミン(L-Glu)、1%非必須アミノ酸(NEAA)を含むイーグル最小必須培地(EMEM)を用いた。C3H10T1/2の剥離液には0.05%トリプシン-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、C3H10T1/2の保存液にはセルバンカー1を用いた。HUVECの培養にはEGM2培地(Lonza)を用いた。HUVECの剥離液には0.25%トリプシン-エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を、HUVECの保存液にはセルバンカー1を用いた。ヒトiPS細胞の維持培養には20%ノックアウト血清代替物(KSR)、0.8% NEAA、2 mmol/L L-Glu、0.1 mmol/L 2-メルカプトエタノール(2-MeE)、5 ng/mL線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むDMEM Ham’s F-12 (DMEM/F12)を用いた。ヒトiPS細胞の剥離液には1 mg/mLコラゲナーゼ IV、0.25%トリプシン、20% KSR、1 mmol/L塩化カルシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。ヒトiPS細胞の保存液にはセルリザーバーワン(ナカライテスク)を用いた。
【実施例】
【0034】
(3)ヒトiPS細胞の培養
ヒトiPS細胞はマイトマイシンC処理を施したMEF(5×105 cells/100 mm ディッシュ)上に播種し、5% CO2/95% air条件下、CO2インキュベーター中37℃にて培養した。ヒトiPS細胞の継代は、3~5日培養後、1:4~1:6のスプリット比で行った。ヒトiPS細胞は解凍48時間後に培地を交換し、それ以降は毎日交換した。
【実施例】
【0035】
(4)ヒトiPS細胞のiPS-sacへの分化
ヒトiPS細胞を、マイトマイシンC処理を施したC3H10T1/2(1.2×106 cells/100 mm ディッシュ)上に播種し、5% CO2/95% air条件下、CO2インキュベーター中37℃にて培養した。ヒトiPS細胞の播種は培養ディッシュに対し、未分化コロニーの占める割合が約50%になった状態で開始した。分化培地(iPS-sac培地)は15%ウシ胎仔血清(FBS)、1×ITS-G サプリメント、2 mmol/L L-グルタミン(L-Glu)、100 units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン、450 mmol/Lモノチオグリセロール、50μg/mL L-アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物を含むIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)を用いた。培地交換は分化開始から3、6、9、11、13、15、17、19、21日目に行った。培地交換時にVEGFを終濃度20 ng/mLになるよう添加した。なお、iPS-sacの作製にはIMDM培地の他、MEMα培地、無血清血管内皮細胞用培地(HE-SFM, Thermo)等の培地でも作製することが可能である。
【実施例】
【0036】
(5)基底膜成分、ゼラチンのコート
基底膜成分コートディッシュ: フィブロネクチンとコラーゲンタイプIVをそれぞれ終濃度25μg/mL、100μg/mLになるようD-PBS(-)を用いて希釈し、ディッシュに分注し、4℃で一晩静置した。翌日37℃で2時間以上静置し、D-PBS(-)で1回洗った後、細胞を播種した。
ゼラチンコートディッシュ: ゼラチンを0.1%になるようD-PBS(-)を用いて希釈し、ディッシュに分注し、4℃で一晩以上静置した後、細胞を播種した。
【実施例】
【0037】
(6)iPS-sacから血管内皮前駆細胞(sac-EPC)の単離
分化開始から14日目のiPS-sacをピペット(p-1000)で吸い上げ、ピペッティング操作でバラバラにした後、セルストレーナー(孔径40μm)に通し50 mLチューブに回収した後、1000 rpmで5分間遠心した。上清を可能な限り除去し、沈殿した細胞を1 mLの培地に再懸濁させ、フィブロネクチンとコラーゲンタイプIVがコートしてあるディッシュに播種した。翌日、HE-SFMで2回洗った後HE-SFMを再度加え、培養を継続した。培地は、HE-SFMの他iPS-sac培地やEGM2培地(Lonza)等の培地でも培養可能であるが、HE-SFMで培養するのが好ましい。尚、sac-EPCの分離にはフィブロネクチンとコラーゲンタイプIVによるコーティングの他、コラーゲンタイプI、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、バーレクチン等のような基底膜成分を含む細胞接着成分にて分離することが可能である。基底膜成分にD-リジン(D-Lysine)を併用することにしてもよい。
【実施例】
【0038】
(7)FACS(fluorescence activated cell sorting)分析
基底膜成分コートディッシュに播種後2日経過したsac-EPCをD-PBS(-)で2回洗浄し、TrypLETM Select(Thermo)を37℃で8分間作用させ、細胞を剥離した後、iPS-sac培地を用いて50mLチューブに回収した。培地をD-PBS(-)に置換し、細胞をセルストレイナー(40μm)に通すことで、細胞以外の不純物を除去した。D-PBS(-)から染色バッファーに置換し、抗原抗体反応を4℃で一時間行なった。抗体を反応させたサンプルをBD FACS VERSETMを用いて取り扱い説明書に従って解析した。
【実施例】
【0039】
(8)RNA抽出
Agencourt(登録商標)RNAdvanceTM Tissue Kitの添付マニュアルに従い抽出した。
【実施例】
【0040】
(9)逆転写反応
相補的DNA(cDNA)の合成は、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mixを使用し、添付マニュアルに従い行った。
【実施例】
【0041】
(10)RT-q PCR法
RT-q PCRはKAPA SYBR Fast qPCR Kitを用い、cDNAを鋳型にして、反応は添付マニュアルに従い行った。結果は内在性コントロールとしてグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を用いて補正した。
【実施例】
【0042】
(11)血管新生アッセイ
基底膜成分コートディッシュに播種後2日経過したsac-EPCを剥離し、150μLのマトリゲルがコートされた48wellプレートに7.5×104個播種した。培養には50ng/mLのVEGFを添加したEGM2培地を使用した。その後、10時間経過後における細胞形態を顕微鏡にて観察した。
【実施例】
【0043】
以下、実験に利用したマーカー分子及びその特徴を示す。
CD31:血管内皮細胞マーカー
CD34:造血系細胞、血管内皮(前駆)細胞マーカー
CD133:未成熟造血幹細胞および前駆細胞を含む多能性前駆細胞マーカー
CD144:カドヘリンファミリーに属する接着分子であり、血管内皮細胞に発現する
vWF:血液凝固因子であり、血管内皮細胞に発現する
FLK1:血管内皮(前駆)細胞に発現し、血管新生を促進する
【実施例】
【0044】
2.結果・考察
(1)iPS-sacにおける血管内皮細胞(EC)及びEPCマーカーの経時的変化の解析
iPS-sacからEPCを単離するため、分化開始から7日目、14日目、21日目の時点のiPS-sac(図1A)のECマーカー及びEPCマーカーの発現量をリアルタイムPCR法によって解析した。その結果、分化開始から14日目においてEC及びEPCマーカーとして知られているvWF、CD144、CD31のmRNA の発現量がコントロール(409B2)と比較して上昇していることが認められた(図1B)。分化21日目の細胞においてはvWFの発現量が分化14日目の細胞と比較して低下しており、コントロールと比較して差が認められなかった(図1B)。
【実施例】
【0045】
(2)sac-EPCの単離
EC及びEPCマーカーの遺伝子発現量が高いことが認められた分化開始14日目のiPS-sacをピペット及びセルストレイナー(孔径40μm)を用いてバラバラにした後、ゼラチンもしくは基底膜成分(フィブロネクチンとコラーゲンタイプIV)をコートしたディッシュに播種し、培地交換を行った。その結果、造血幹細胞を含む丸型の浮遊細胞が取り除かれ、iPS-sacとは形態的に異なる細胞を単離することができた(図2A)。単離された細胞群のECマーカー/EPCマーカーの発現量をFACS分析法を用いて解析したところ、ゼラチンコート群と比較して基底膜成分コート群においてCD31・CD34保持細胞の割合が高くなることがわかった(図2B)。また、単離された細胞の総数も基底膜成分を用いた場合の方が多かった(データ示さず)。
【実施例】
【0046】
(3)sac-EPCの性状解析
基底膜成分によって単離された細胞群のEC及びEPCマーカーの遺伝子発現量をRT-qPCR法によって解析した。その結果、4つのEC及びEPCマーカーの遺伝子発現量がコントロールと比較して上昇した。また、未分化性の指標であるCD133も成熟血管内皮細胞であるHUVECと比較して高い発現量を示した(図3A)。続いて、sac-EPCの血管形成能を評価するため、マトリゲルコートした48wellプレートにsac-EPCを播種したところ、血管様構造物が観察された(図3B)。
【実施例】
【0047】
3.まとめ
iPS-sac法は造血幹細胞と血管内皮様細胞を含む細胞塊を簡便かつ安価に分化誘導する方法であるが、これまでにiPS-sacから血管内皮様細胞を単離した報告はない。そこで我々は、iPS-sacを基底膜成分上に播種することにより血管内皮(前駆)細胞を単離することを試みた。まず、iPS-sacの血管内皮(前駆)細胞マーカーの遺伝子発現量をRT-qPCR法によって経時的に解析したところ、分化14日目、21日目で顕著に上昇していることがわかった。そこで、分化開始14日目のiPS-sacをピペット操作で物理的に砕き、基底膜成分上に播種したところ、sac-EPCが得られた。また、FACS分析によってsac-EPCの単離にはゼラチンと比較してフィブロネクチンとコラーゲンタイプIVを混合した基底膜成分の方がより適していることがわかった。
【実施例】
【0048】
続いて、sac-EPCの血管内皮(前駆)細胞マーカーの遺伝子発現量をRT-qPCR法で解析したところ、血管内皮前駆細胞としての特徴を有していることがわかった。また、マトリゲル上に播種すると血管様構造を構築したことから、血管形成能を持つことが示唆された。
【実施例】
【0049】
以上より、本検討でヒトiPS細胞から分化誘導・単離した細胞群は血管内皮前駆細胞としての特徴を備えていることがわかった。また、本研究で用いた分化誘導法は、これまでに報告されている分化誘導法と比較して非常に簡便かつ安価であるため、血管内皮前駆細胞の供給法として非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば簡便かつ安価にiPS細胞由来血管内皮前駆細胞を調製することが可能となる。本発明の調製方法で得られたiPS細胞由来血管内皮前駆細胞は、冠動脈疾患や下肢虚血疾患等に対する治療用細胞製剤の有効成分として利用され得る。また、再生医療用の血管をin vitroで構築するため或いはヒト血液脳関門モデルを構築するための材料としての利用も想定される。
【0051】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2