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明細書 :発毛促進組成物およびその使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年8月30日(2018.8.30)
発明の名称または考案の名称 発毛促進組成物およびその使用
国際特許分類 A61K  31/713       (2006.01)
A61P  17/14        (2006.01)
A61K  31/444       (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/155       (2006.01)
A61Q   7/00        (2006.01)
A61K   8/41        (2006.01)
A61K   8/49        (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A61K 31/713
A61P 17/14
A61K 31/444
A61K 31/7088
A61K 39/395 P
A61K 31/155
A61Q 7/00
A61K 8/41
A61K 8/49
C12N 9/99
C07K 16/18
C12N 15/113 130
G01N 33/15 Z
国際予備審査の請求
全頁数 24
出願番号 特願2017-546549 (P2017-546549)
国際出願番号 PCT/JP2016/080815
国際公開番号 WO2017/069113
国際出願日 平成28年10月18日(2016.10.18)
国際公開日 平成29年4月27日(2017.4.27)
優先権出願番号 2015205999
優先日 平成27年10月20日(2015.10.20)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA
発明者または考案者 【氏名】篠崎 昇平
【氏名】下門 顕太郎
出願人 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106297、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 克博
審査請求 未請求
テーマコード 4C083
4C085
4C086
4C206
4H045
Fターム 4C083AB00
4C083AC521
4C083AC522
4C083AC851
4C083AC852
4C083CC37
4C083EE22
4C085AA14
4C085BB22
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
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4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA92
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA10
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA92
4C206ZC20
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
要約 本発明は、新たな、発毛もしくは育毛を促進する組成物、または脱毛を予防する組成物を提供することに関する。より具体的には、iNOS阻害剤を有効成分として含有する組成物が提供される。iNOS阻害剤を有効成分として含有する組成物を哺乳動物に投与すると発毛もしくは育毛に対して有利な効果が得られる。iNOS阻害剤としては、低分子化合物、抗体、アンチセンスオリゴやsiRNAなどの核酸医薬を使用しうる。発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に有効な物質をスクリーニングするための方法も提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための組成物であって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
iNOS阻害剤が1400W、アミノグアニジン、BYK191023、AMT塩酸塩、AR-C102222、L-NIO、L-NIL、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、およびデキサメタゾンから成る群から選択される化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
iNOS阻害剤がモノクローナル抗体またはその断片である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
iNOS阻害剤がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
iNOS阻害剤がsiRNAである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
美容用組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
美容サプリメントである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
経口剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
注射剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
外皮用剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛を予防するための方法であって、iNOS阻害剤を該哺乳動物に投与することを含む、方法。
【請求項13】
哺乳動物がヒトである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物がイヌ、ネコ、またはヒツジである、請求項12記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛を予防するための方法であって、iNOSを阻害する工程を含む、方法。
【請求項16】
発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための医薬の製造における、iNOS阻害剤の使用。
【請求項17】
発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に有効な物質をスクリーニングするための方法であって、
i)in vitroでiNOSと試験物質とを接触させる工程、
ii)iNOSの活性を測定する工程、および
iii)該試験物質がiNOSの活性を低下させるか否かを決定する工程
を含む、方法。
【請求項18】
iNOSの活性を増強する組成物を投与してiNOSの活性を増強する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法。
【請求項19】
NOを発生させる組成物を対象に投与する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛もしくは育毛を促進する組成物、脱毛を予防する組成物、または発毛もしくは育毛を促進する物質および脱毛を予防する物質のスクリーニング方法に関する。より具体的には、iNOS阻害剤を含有する組成物、またはiNOSの阻害活性を指標とするスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の成長は一般に、成長期(anagen)、退行期(catagen)、休止期(telogen)に分類される(非特許文献1)。ヒトの頭髪の場合、成長期が2~7年続いた後、退行期、休止期を経て、脱毛する。
【0003】
毛髪の主な機能としては、外傷や直射日光からの保護を提供すること、体温喪失の防止などがあるが、毛髪は、社会的コミュニケーションを媒介する上でも重要であり、頭髪量の減少は人々のQOLの低下も招きうる。
【0004】
脱毛の原因は、男性型脱毛症、脂漏性脱毛症、老人性脱毛症、円形脱毛症、制癌剤の投与などが原因の薬物脱毛症、瘢痕性脱毛症、出産後に起こる産後脱毛症などに分類することができる。しかし、これらの脱毛への対処法は、今のところ十分に確立されていない。
【0005】
現在、医薬品として認可されている主な発毛・育毛剤には、ミノキシジルとフィナステリドがある。ミノキシジルは、当初、血管拡張を主作用とする経口の高血圧治療剤として開発された医薬品であるが、高血圧治療剤による治療を受けている患者に適応したところ、血管を拡張し、毛根の再生を促すなどの多毛症が認められたことから、医療用の外用発毛剤として改めて開発された医薬品である。ミノキシジルはATP感受性Kチャネルの活性化を介して血管拡張する。ミノキシジルの主な作用は、毛包の休止期から初期成長期への移行を促進することで発毛を促す、毛包を成長させて毛髪を太い毛に成長させる、といったものであると考えられている。DHT(ジヒドロテストステロン)は皮脂腺の受容体と結びつき、毛の成長を阻害する作用をもつ。フィナステリドは、男性ホルモンテストステロンをDHTへ変換する酵素である2型5-α還元酵素を阻害し、DHTの生成を抑制することによって作用する。男性ホルモンを原因とする前立腺肥大症の治療薬を男性型脱毛症(AGA)の治療薬に応用して開発された医薬品である。
【0006】
これらの医薬品が現在市販されているものの、脱毛対策に関しては、より有効な医薬品が今なお求められている。
【0007】
一酸化窒素合成酵素(NOS、EC1.14.13.39)は、窒素酸化物である一酸化窒素(NO)の合成に関与する酵素である。NOSは常時細胞内に一定量存在する構成型NOS(cNOS)と、炎症やストレスにより誘導される誘導型NOS(iNOS、NOS2)に分類され、さらにcNOSは、神経型のnNOS(NOS1)と血管内皮型のeNOS(NOS3)とに分類される(非特許文献2)。iNOSは、炎症性刺激として知られるリポポリサッカライド(LPS)などによって誘導され、免疫系、心血管系、肺などにおいて発現される。iNOSは、病原体に対する生体防御に関与することが知られている。これまで、iNOS阻害剤は、抗炎症薬や抗がん剤としての使用、敗血症などの治療を目的として開発されてきたが、美容サプリメントや化粧品などを含め、治療に有効な薬剤の開発までには至っていない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】K. S. Stenn and R. Paus, PHYSIOLOGICAL REVIEWS Vol. 81, No. 1, January 2001, pp.449-494
【非特許文献2】Patrick Vallance & James Leiper, Nature Reviews Drug Discovery Vol. 1,No. 12, December 2002, pp.939-950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新たな発毛もしくは育毛を促進する組成物、または脱毛を予防する組成物を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、発毛もしくは育毛を促進する物質および脱毛を予防する物質の新たなスクリーニング方法を提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、炎症と糖尿病のつながりを解明する目的で作成したiNOS欠損ob/obマウスにおいて、発毛が促進されることを見出した。また、iNOS単独欠損マウスにおいても野生型と比較して発毛が促進されることを見出した。そして、既存の複数のiNOS阻害剤が発毛に対して効果を発揮することを確認した。本発明は、これらの知見を基礎とするものであり、具体的には以下の事項に関する。
【0011】
[1]発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための組成物であって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、組成物。
[2]iNOS阻害剤が1400W、アミノグアニジン、BYK191023、AMT塩酸塩、AR-C102222、L-NIO、L-NIL、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714、L-NG-ニトロアルギニン、L-NG-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、およびデキサメタゾンから成る群から選択される化合物である、[1]記載の組成物。
[3]iNOS阻害剤がモノクローナル抗体またはその断片である、[1]記載の組成物。
[4]iNOS阻害剤がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、[1]記載の組成物。
[5]iNOS阻害剤がsiRNAである、[1]記載の組成物。
[6]医薬組成物である、[1]記載の組成物。
[7]美容用組成物である、[1]記載の組成物。
[8]美容サプリメントである、[1]記載の組成物。
[9]経口剤である、[1]記載の組成物。
[10]注射剤である、[1]記載の組成物。
[11]外皮用剤である、[1]記載の組成物。
[12]哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛を予防するための方法であって、iNOS阻害剤を該哺乳動物に投与することを含む、方法。
[13]哺乳動物がヒトである、[12]記載の方法。
[14]哺乳動物がイヌ、ネコ、またはヒツジである、[12]記載の方法。
[15]哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛を予防するための方法であって、iNOSを阻害する工程を含む、方法。
[16]発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための医薬の製造における、iNOS阻害剤の使用。
[17]発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に有効な物質をスクリーニングするための方法であって、i)in vitroでiNOSと試験物質とを接触させる工程、ii)iNOSの活性を測定する工程、およびiii)該試験物質がiNOSの活性を低下させるか否かを決定する工程を含む、方法。
[18]iNOSの活性を増強する組成物を投与してiNOSの活性を増強する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法。
[19]NOを発生させる組成物を対象に投与する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】iNOS欠損ob/obマウスおよびob/obマウスの発毛経過(6週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図2】iNOSノックアウトマウスおよび野生型マウスの発毛経過(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図3】生理食塩水投与のob/obマウスの発毛経過(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図4】iNOS阻害剤(1400W)による発毛促進(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図5】iNOS阻害剤(L-NIL)による発毛促進(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図6】iNOS阻害剤(BYK191013)による発毛促進(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図7】iNOS阻害剤(アミノグアニジン)による発毛促進(4週間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。
【図8】iNOS阻害剤による発毛スコアを示す図面である。
【図9】C3Hマウスにおける、アミノグアニジン塗布(右側の上下2段)による発毛促進(16日間)を示す図面である(上段と下段はそれぞれ別の個体)。左側の上下2段は対照のマウス。
【図10】C57BL/6マウスにおける、アミノグアニジン塗布(右側)による発毛促進(12日間)を示す図面である。左側の写真は対照のマウス。
【図11】14週齢の野生型マウスとob/obマウスを用いた、皮膚片における遺伝子発現量の分析結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。発明者らは、炎症と糖尿病のつながりを解明する目的で作成したiNOS欠損ob/obマウスにおいて、発毛が促進されることを見出した。また、iNOS単独欠損マウスにおいても野生型と比較して発毛が促進されることを見出した。加えて、既存のiNOS阻害剤が発毛に対して効果を発揮することを発見した。

【0014】
発毛育毛促進組成物
本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための組成物であって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする組成物に関する。

【0015】
iNOS
一酸化窒素合成酵素(NOS、EC1.14.13.39)は、窒素酸化物である一酸化窒素(NO)の合成に関与する酵素である。NOSは常時細胞内に一定量存在する構成型NOS(cNOS)と、炎症やストレスにより誘導される誘導型NOS(iNOS、NOS2)に分類され、さらにcNOSは、神経型のnNOS(NOS1)と血管内皮型のeNOS(NOS3)とに分類される。iNOS(induced Nitric Oxide Synthase)は炎症やストレスにより誘導される誘導型NOSのうちの一つであり、免疫系、心血管系の組織や細胞、肺などで発現がみられ、病原体に対する生体防御に関与することが知られている。症性サイトカインや細菌毒素の刺激により誘導されるiNOSは多量のNOを産生し,活性酸素と反応することにより周囲の細胞に対して毒性を発揮する。iNOS由来のNOは、非自己の細胞に対してのみ毒性を発揮するのではない。たとえば,細菌毒素により血管平滑筋で誘導されたiNOS由来の多量のNOは、強力な血管拡張と過剰な透過性の亢進を生じ、エンドトキシンショックを誘発する。また、グリア細胞などで誘導されたiNOS由来のNOにより中枢神経細胞の変性や脱落が生じることやI型糖尿病などの自己免疫疾患でみられる細胞障害にもiNOSの関与が指摘されている。

【0016】
iNOS阻害剤
iNOS阻害剤は、iNOSの活性を阻害するものでも、発現を抑制するものでも良い。また、iNOS阻害剤は、選択的iNOS阻害剤であっても、非選択的NOS阻害剤であっても良い。iNOS阻害剤は、例えば、低分子化合物や、抗体、核酸などの高分子でありうる。

【0017】
低分子iNOS阻害剤
iNOSを阻害する低分子化合物としては、例えば、Tocris社より市販されている選択的iNOS阻害剤である1400Wを使用することができる。1400Wは、補酵素であるNADPHの結合を阻害する。L-NILは別の低分子阻害剤であり、基質であるアルギニンおよびチオシトルリンのアナログである。アミノグアニジンは、基質であるアルギニンおよびチオシトルリンのアナログであり、非可逆的なiNOS阻害剤として働く。BYK190123は、iNOSの二量体形成を阻害する(iNOSは二量体となることでNOを産生できる)。

【0018】
その他の選択的iNOS阻害剤としては、例えば、S-エチルイソチオ尿素、S-メチルイソチオ尿素、S-アミノエチルイソチオ尿素、2-イミノピペリジン、ブチルアミン、ONO-1714(融合ピペリジン誘導体;(1S,5S,6R,7R)-7-クロロ-3-イミノ-5-メチル-2-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタンヒドロクロリド)、AMT塩酸塩(2-アミノ-5,6-ジヒドロ-6-メチル-4H-1,3-チアジン塩酸)、AR-C102222などがある。非選択的NOS阻害剤としては、L-N-ニトロアルギニン、L-N-モノメチルアルギニン、L-ニトロアルギニンメチルエステル、L-NIOなどがある。iNOS発現抑制剤としては、デキサメタゾンがある。これらのiNOS阻害性低分子化合物は、薬学的に許容される塩または誘導体の形で用いることもできる。

【0019】
抗iNOS抗体
iNOS阻害剤は、抗iNOS抗体であってもよい。抗iNOS抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を使用できるが、モノクローナル抗体を用いることが好ましい。iNOSに対する阻害活性を有する抗体であれば、全長である必要はなく、抗体の断片であっても使用することができる。抗体の由来する哺乳動物は、特に限定されず、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体などを使用できる。ヒトに対して用いる場合、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体のいずれであっても使用することができるが、ヒト抗体であることが好ましい。また、抗体または抗体の断片は、ファージディスプレイ法等によるスクリーニングによって同定されたペプチド配列を含むものであってもよい。さらに、核酸により構成されるアプタマーも通常の抗体と同様に使用できる。

【0020】
抗iNOSアンチセンスオリゴヌクレオチド
iNOS阻害剤は、抗iNOSアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、10~50塩基のオリゴヌクレオチドをiNOS遺伝子の塩基配列に基づき設計することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNA、DNA、その他の修飾核酸を含みうる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列に完全に相補的なものであっても、1もしくは複数のミスマッチを含むものであってもよい。iNOS遺伝子の塩基配列は既知であり、例えば、GenBankなどのデータベースから入手することができる:
NOS2 nitric oxide synthase 2, inducible [ Homo sapiens (human) ]
Gene ID: 4843
mRNA: NM_000625.4
Nos2 nitric oxide synthase 2, inducible [ Mus musculus (house mouse) ]
Gene ID: 18126
mRNA: NM_001313921.1

【0021】
siRNA
iNOS阻害剤は、iNOSを標的としたsiRNAであってもよい。iNOS遺伝子の塩基配列は既知であり、例えば、GenBankなどのデータベースから入手することができる。siRNAの設計法は当業者には既知である。

【0022】
医薬組成物
本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための医薬組成物であって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物に関する。言い換えれば、本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための医薬の製造における、iNOS阻害剤の使用に関する。有効成分として働くiNOS阻害剤としては、例えば、上記のような低分子化合物、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどを使用できる。本発明に係る医薬組成物は、錠剤、粉末、液体、半固体などの任意の形態をとることができ、iNOS阻害剤に加えて、適当な賦形剤、添加剤を含みうる。また、本発明に係る医薬組成物には、ミノキシジルやフィナステリドなどの他の活性成分が配合されていてもよい。各成分の配合量は、医薬として許容される範囲で適宜決定することができる。また、組成物の投与量は、使用する阻害剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。投与経路についても、使用する阻害剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。

【0023】
本発明に係る医薬組成物は、脱毛症もしくは薄毛の治療もしくは予防に使用することができる。脱毛症の類型としては、男性型脱毛症、脂漏性脱毛症、老人性脱毛症、円形脱毛症、制癌剤の投与などが原因の薬物脱毛症、瘢痕性脱毛症、出産後に起こる産後脱毛症、精神疾患の抜毛症を挙げることができるが、これらに限定はされない。

【0024】
美容用組成物
本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための美容用組成物であって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする美容用組成物に関する。有効成分として働くiNOS阻害剤としては、例えば、上記のような低分子化合物、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどを使用できる。本発明に係る美容用組成物は、液体、エマルジョン、ゲル、クリームなどの任意の形態をとりうる。iNOS阻害剤の含有量は、使用する阻害剤の種類、適用する対象に応じて、適宜決定することができる。

【0025】
美容サプリメント
本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に有用な美容サプリメントであって、iNOS阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする美容サプリメントに関する。有効成分として働くiNOS阻害剤としては、例えば、上記のような低分子化合物、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどを使用できる。本発明に係る美容サプリメントは、錠剤、粉末、液体などの任意の形態をとりうる。本発明に係る美容サプリメントは、例えば、1日1~3回、食前、食中、食後に経口摂取するものとして調製されうる。

【0026】
発毛育毛促進方法、脱毛予防方法
本発明の実施形態の一つは、哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛の予防するための方法に関する。このような方法は、iNOSを阻害する工程、より具体的には、例えば、iNOS阻害剤を該哺乳動物に投与することを含みうる。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、ウマ、ミンク、キツネ、テン、タヌキ、チンチラ、ラッコ、カワウソ、ビーバー、アザラシなどが含まれる。投与量は、使用する阻害剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。投与経路についても、使用する阻害剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。好ましい投与経路としては、例えば、液剤、ローション剤、クリーム剤の脱毛領域への塗布または噴霧、あるいは、液剤の皮下注射、固形剤、液剤の経口投与を挙げることができる。iNOS阻害剤を含有する貼付剤を調製して皮膚に適用してもよい。

【0027】
スクリーニング方法
本発明の実施形態の一つは、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に有効な物質をスクリーニングするための方法に関する。このようなスクリーニング方法は、以下の工程i~iiiを含みうる:
i)in vitroでiNOSと試験物質とを接触させる工程、
ii)iNOSの活性を測定する工程、および
iii)該試験物質がiNOSの活性を低下させるか否かを決定する工程。

【0028】
iNOS活性の測定は、当業者に公知の任意の方法を用いて行うことができる。上記のスクリーニング方法によって同定された物質は、本発明に係る、発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための組成物の成分として有用である。また、本発明に係る、哺乳動物における発毛もしくは育毛を促進または脱毛の予防するための方法において、該哺乳動物に投与する物質としても有用である。

【0029】
毛髪の成長を阻害する方法
本発明の実施形態の一つは、iNOSの活性を増強する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法に関する。このような方法は、iNOSの活性を増強する組成物を投与する工程を含みうる。iNOSの活性は、例えば、細胞におけるiNOSの発現を誘導することによって増強しうる。iNOSの発現は、例えば、LPSやサイトカインにより誘導されることが既知であるが、これらに限られるものではなく、iNOSの発現を誘導する任意の物質が使用されうる。また、iNOSの活性自体を増強する物質またはiNOS自体(核酸もしくはタンパク質)も使用されうる。さらに、本発明の別の実施形態の一つとして、iNOSの活性を増強する物質を含む、毛髪の成長を阻害する組成物も含まれる。

【0030】
本発明の実施形態の一つは、NOを発生させる組成物(NO供与剤、NOドナーを含む組成物)を対象に投与する工程を含む、毛髪の成長を阻害する方法に関する。このようなNOを発生させる薬剤として、具体的にはSNAP、GSNO、CysNO、NOR、およびNOCが挙げられるが、これらに限定はされない。投与方法は、使用する薬剤の性質や利便性に基づき、適宜決定することができるが、例えば、液剤、ローション剤、クリーム剤の塗布または噴霧、あるいは、液剤の皮下注射、貼付剤の皮膚への適用などが挙げられる。さらに、本発明の別の実施形態の一つとして、NOを発生させる薬剤(NO供与剤、NOドナー)を含む、毛髪の成長を阻害するための組成物も含まれる。

【0031】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0032】
例1:iNOS欠損マウスを用いた発毛実験
Jackson Lab社から購入したiNOS-KOマウスおよびob/obマウスを交配し、iNOS-KO;ob/obマウスを作成した。対照群となるob/obマウスは交配の過程で得られたiNOS(+/+);ob(+/-)の個体を掛け合わせて生まれたob/obマウスを用いた。おのおの8週齢の雄性個体を用いて実験を開始した。ob/obマウスは麻酔下(塩酸ケタミン・塩酸キシラジン混合麻酔)で全マウスの背中を電気シェーバーで剃毛し、市販の除毛クリーム(クラシエ社製のエピラット除毛クリーム)で除毛した後、1ヶ月以上経過しても発毛が認められない。一方、iNOS-KO;ob/obマウスでは除毛後2週間で皮膚にメラニン色素の沈着が認められ、3週間後には広範囲に渡って発毛が確認され、6週間後にはほぼ元の状態に戻る(図1)。
【実施例】
【0033】
ob/obマウス交配の過程で得られる正常マウス(C57BL/6系統)では、除毛後一週間でメラニン色素の沈着が認められ、1ヵ月後にはほぼ元の状態に毛が生えそろう。一方、iNOS-KO;ob/obマウス交配の過程で得られるiNOS単独欠損マウスでは、正常マウスよりも発毛過程が促進されており、除毛後一週間で発毛が認められ、二週間後にほぼ元の状態にまで毛が生えそろう(図2)。
【実施例】
【0034】
これらのiNOSノックアウトマウスの観察結果は、iNOS活性の抑制により毛髪の成長を促進しうることを示している。また、これらの結果は、遺伝子ノックアウトだけでなく、他の手法によるiNOS活性の抑制、例えば任意の低分子阻害剤を用いることによっても、同様な結果が得られることを示唆している。また逆に、これらの観察結果は、iNOS活性の増強により毛髪の成長を抑制できることも示唆していると考えられる。
【実施例】
【0035】
例2:iNOS阻害剤を用いた発毛実験
この実験では、三協ラボより購入したob/obマウスを用いた。8週齢の時点で麻酔下(塩酸ケタミン/塩酸キシラジン混合麻酔)で全マウスの背中を電気シェーバーで剃毛し、市販の除毛クリーム(クラシエ社製のエピラット除毛クリーム)で除毛した。実験開始日より各iNOS阻害剤の投与あるいは塗布を行った。用いたiNOS阻害剤の用法、用量は以下のとおりである。選択的iNOS阻害剤である1400W、L-NIL、およびBYK191023はTocris社より購入し、生理食塩水に溶解し、それぞれ10mg/kg、20mg/kg、30mg/kgとなるように腹腔内投与した。コントロール群には生理食塩水を腹腔内投与した。月曜日から金曜日までの連続して5日間の投与を1ヶ月続けた。同じく選択的iNOS阻害剤であるアミノグアニジンは東京化成工業株式会社より購入し、10%(w/v)となるように生理食塩水に溶解し、除毛部に100μl塗布した。コントロール群には生理食塩水を用いた。月曜日から金曜日までの連続して5日間の塗布を1ヶ月続けた。1週間に1度、背面の写真撮影を行い、12週齢になるまで観察を続けた。投与開始日から7日毎に、刈毛部の発毛状態を、以下の発毛スコア基準を用いて採点した。
【実施例】
【0036】
(発毛スコア基準)
0=発毛無し
1=刈毛部の10%未満に発毛
2=刈毛部の10%以上、20%未満に発毛
3=刈毛部の20%以上、30%未満に発毛
4=刈毛部の30%以上、40%未満に発毛
5=刈毛部の40%以上、50%未満に発毛
6=刈毛部の50%以上、60%未満に発毛
7=刈毛部の60%以上、70%未満に発毛
8=刈毛部の70%以上、80%未満に発毛
9=刈毛部の80%以上、90%未満に発毛
10=刈毛部の90%以上に発毛
【実施例】
【0037】
これまでに知られているように(例えば、WO2012/124614A1を参照)、ob/obマウスに生理食塩水のみを投与したコントロール群では発毛が認められなかった(図3)。1400W投与開始から2週間で皮膚にメラニン色素の沈着を認め、4週間で広範囲に渡って発毛が確認された(図4)。L-NILは1400Wと比較してややメラニン色素の沈着時期が遅れ、投与開始から3週間で沈着が確認され、4週間で発毛が確認された(図5)。同じく、BYK191023は投与開始から3週間で沈着が確認され、4週間で発毛が確認された(図6)。L-NILおよびBYK191023は1400Wと比較し発毛範囲がすくなかった。アミノグアニジンは塗布開始より1週間で皮膚にメラニン色素の沈着を認め、2週間後には発毛が確認された。塗布開始3週間で広範囲に渡って発毛が確認され、4週間でほぼ元の状態と同じにまで戻った(図7)。各iNOS阻害剤投与群およびコントロール群の発毛スコアを図8に示す。
【実施例】
【0038】
これらのデータは、iNOSノックアウトマウスの観察結果から示唆されたように、複数の任意の低分子iNOS阻害剤によって、毛髪の成長を促進できることを示している。すなわち、iNOSを阻害する手法によらず、毛髪の成長を制御できると考えてよい。これらの結果は、低分子iNOS阻害剤だけでなく、抗体やアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどの他の阻害剤も同様な目的で使用可能であることを示唆している。
【実施例】
【0039】
例3:野生型マウスを用いた発毛実験
この実験では、C3HマウスおよびC57BL/6マウスを使用した点を除き、実施例2と同様な方法を用いた。8週齢の時点で麻酔下(塩酸ケタミン/塩酸キシラジン混合麻酔)で全マウスの背中を電気シェーバーで剃毛し、市販の除毛クリーム(クラシエ社製のエピラット除毛クリーム)で除毛した。実験開始日よりアミノグアニジンの塗布を行った。用いたアミノグアニジンの用法、用量は以下のとおりである。アミノグアニジンは東京化成工業株式会社より購入し、10%(w/v)となるように生理食塩水に溶解し、除毛部に100μl塗布した。コントロール群には生理食塩水を用いた。月曜日から金曜日までの連続して5日間の塗布を3週間続け、背面の写真撮影を毎日行った。
【実施例】
【0040】
結果として、アミノグアニジン塗布群では、コントロール群と比較して2~3日の休毛期の短縮が見られた(図9および10)。よって、ob/obマウスで観察されたiNOS阻害剤による毛髪の成長促進は、正常な野生型のマウスでも同様に生じることが示された。
【実施例】
【0041】
例4:皮膚片における遺伝子発現量の分析
この実験では、14週齢の野生型マウスとob/obマウスを用いた。背部除毛後に皮膚片を採取し、RNA精製キット(RNeasy Plus Universal Kit、キアゲン社)にてRNAを精製した後、cDNAを合成し(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、ABI社)、リアルタイムPCR法によりRNA量を定量した。サーマルサイクラーはTaKaRa社のThermal Cycler Dice(R) Real Time Systemを使用し、TaqMan probeはABI社TaqMan(R) Gene Expression Assay(NOS2: Mm_0040493_g1)を用いた。
【実施例】
【0042】
結果は、ob/obマウスにおいては、野生型と比較して約2.5倍のiNOS遺伝子が発現されていることを示している(図11)。
【実施例】
【0043】
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る発毛もしくは育毛の促進または脱毛の予防に用いるための組成物は、実施例において示されているように、顕著な発毛効果を有しており、異なる作用のiNOS阻害剤(薬剤による阻害)とノックアウトマウス(遺伝的にiNOSを阻害)で効果が確認されている。発毛育毛剤は、既存薬が少なく、またその効果も十分ではないため、市場におけるニーズは高いと考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10