TOP > 国内特許検索 > 組換え発現ベクター及び当該ベクターを封入した脂質膜構造体 > 明細書

明細書 :組換え発現ベクター及び当該ベクターを封入した脂質膜構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年9月13日(2018.9.13)
発明の名称または考案の名称 組換え発現ベクター及び当該ベクターを封入した脂質膜構造体
国際特許分類 C12N  15/85        (2006.01)
C12N  15/88        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  35/76        (2015.01)
C12N  15/53        (2006.01)
FI C12N 15/85 ZNAZ
C12N 15/88 Z
A61P 43/00 105
A61K 48/00
A61K 35/76
C12N 15/53
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 21
出願番号 特願2017-552752 (P2017-552752)
国際出願番号 PCT/JP2016/085098
国際公開番号 WO2017/090763
国際出願日 平成28年11月28日(2016.11.28)
国際公開日 平成29年6月1日(2017.6.1)
優先権出願番号 2015230498
優先日 平成27年11月26日(2015.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA
発明者または考案者 【氏名】原島 秀吉
【氏名】山田 勇磨
【氏名】石川 卓哉
【氏名】秋田 英万
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002480、【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C087
Fターム 4C084AA13
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB211
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB21
要約 【課題】
本発明は、ミトコンドリアにおいて目的タンパク質を効率的に発現させ、かつミトコンドリア以外の細胞オルガネラでの目的タンパク質の望ましくない発現を抑制することのできる、新たな発現ベクターを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、動物細胞の細胞核内で転写活性を示すプロモーター配列、及び目的タンパク質をコードするコーディング領域であって、トリプトファンに対応するコドンとして1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域を前記プロモーター配列の制御下に有する、動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるための組換え発現ベクター、並びに当該ベクターを封入した脂質膜構造体を提供する。本発明の発現ベクターを用いることで、ミトコンドリアにおいてより効率的に、かつ選択的に目的タンパク質を発現させることができ、より安全でかつ効果の優れたミトコンドリア病治療用の医薬として利用することができる。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
動物細胞の細胞核内で転写活性を示すプロモーター配列、及び目的タンパク質をコードするコーディング領域であって、トリプトファンに対応するコドンとして1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域を前記プロモーター配列の制御下に有する、動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるための組換え発現ベクター。
【請求項2】
前記目的タンパク質をコードするコーディング領域の5’末端側に、ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域をさらに有する、請求項1に記載の組換え発現ベクター。
【請求項3】
前記目的タンパク質をコードするコーディング領域の3’末端側にミトコンドリアtRNAに対応する塩基配列を有する、請求項1又は2に記載の組換え発現ベクター。
【請求項4】
プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーター、シミアンウイルス40プロモーター、ラウスサルコーマウイルスプロモーター、EF1αプロモーター、βアクチンプロモーター及びT7プロモーターよりなる群から選択されるプロモーターの塩基配列である、請求項1~3のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
【請求項5】
プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーター又はラウスサルコーマウイルスプロモーターの塩基配列である、請求項4に記載の組換え発現ベクター。
【請求項6】
前記目的タンパク質をコードするコーディング領域におけるトリプトファンに対応するコドンの全てがTGAである、請求項1~5のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
【請求項7】
前記ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域がNADHデヒドロゲナーゼ、サブユニット4のコーディング領域である、請求項2~6のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の発現ベクターを封入した脂質膜構造体。
【請求項9】
スフィンゴミエリンを脂質膜の構成脂質として含む、請求項8に記載の脂質膜構造体。
【請求項10】
配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを脂質膜表面に有する、請求項8又は9に記載の脂質膜構造体。
【請求項11】
ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとスフィンゴミエリンとを脂質膜の構成脂質として含有し、かつ配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを脂質膜表面に有する、動物細胞のミトコンドリアに核酸を導入するための脂質膜構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるための組換え発現ベクター、及び当該ベクターを封入した脂質膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞のオルガネラの1つであるミトコンドリアは、細胞核から独立したゲノムDNAを有している。このゲノムDNAにおける変異と種々の疾患(脳筋症、神経変性疾患、癌、糖尿病など)との関連が多数報告されており、これらはミトコンドリア病と総称される。
【0003】
ミトコンドリア病の治療方法として、治療効果が期待されるタンパク質をミトコンドリア内で発現させることを目的とした遺伝子治療が挙げられる。かかる治療を実現するための方法として、細胞核内で発現させた目的タンパク質をミトコンドリア内に移送させる方法、及びミトコンドリア内で直接的に目的タンパク質を発現させることができる外来遺伝子発現システムを利用する方法が提案されている。
【0004】
細胞核内で発現させた目的タンパク質をミトコンドリア内に移送させる方法に関連して、多種多様な発現ベクターが開発されている。その多くは、細胞核ゲノムにコードされているミトコンドリアタンパク質が有する、ミトコンドリア移行性シグナルペプチド(mitochondrial targeting signal peptide、MTS)を利用している。具体的には、MTSを上流に有する目的タンパク質(MTS付加タンパク質)をコードする発現ベクターを細胞核に送達し、細胞質においてMTS付加タンパク質を発現させ、ミトコンドリアに送達するというものである。
【0005】
この方法はある種の目的タンパク質においては有用であり得るが、遺伝子治療への利用が期待される、ミトコンドリアゲノムDNAにコードされたミトコンドリアタンパク質(ミトコンドリア内因性タンパク質)に対する適用性が低いという問題を有する。ミトコンドリア内因性タンパク質の多くは細胞質内で不溶性であるために、細胞質で発現されたミトコンドリア内因性タンパク質が凝集し、ミトコンドリアへの移行が不十分となるからである。
【0006】
特許文献1は、水溶性を高めたMTSと特定のミトコンドリア内因性タンパク質とからなるMTS付加タンパク質をコードする発現ベクターを用いて、目的タンパク質の細胞質での凝集を抑える方法を開示している。しかし、ミトコンドリア内因性タンパク質は、ミトコンドリア以外の細胞内オルガネラにあると細胞毒性を示すことが多いので、特許文献1に記載された方法が利用可能な目的タンパク質の範囲は制限される。
【0007】
また、MTS付加タンパク質を利用した上記方法は、本来のミトコンドリア内因性タンパク質の細胞内輸送に干渉する又はこれと競合することで細胞に致死的ダメージを与える可能性があり、遺伝子治療のツールとしては懸念が残る。
【0008】
一方、ミトコンドリア内で直接的に目的タンパク質を発現させることができる外来遺伝子発現システムの利用では、第一にミトコンドリア内における必要十分な量の目的タンパク質の転写発現が要求される。かかる目的に適合するように、ミトコンドリアゲノムDNAに存在する遺伝子由来のプロモーター、例えばHSP(heavy strand promoter)を選択し、その制御下に目的タンパク質をコードするDNAを置いた発現ベクターが幾つか設計されている。この発現ベクターには、ミトコンドリアゲノムDNAにおいて利用頻度の高いトリプレットコドンを使用するといった工夫も加えられている。しかし、これまでのところ、それら発現ベクターの発現レベルは疾患治療に必要十分な領域には達していない。
【0009】
例えば、非特許文献1には、MTSを付加した人工ウイルスベクターの内部にHSP制御下にあるミトコンドリア内で転写誘導されるDNAを封入し、ミトコンドリアに直接的にウイルスベクターを導入して目的タンパク質を発現させようとする方法が提唱されている。この方法は、導入されたウイルスベクターからの目的タンパク質の発現レベルが比較的高いという利点を有する一方、ウイルスベクターであることに起因する安全性の問題を伴うことに加え、目的タンパク質が期待通りにミトコンドリア内で発現しているかについての検証が完全にはなされていない。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】Yu,H.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2012、109、E1238-47
【0011】

【特許文献1】US2015/0225740
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ミトコンドリアにおいて目的タンパク質を効率的に発現させ、かつミトコンドリア以外の細胞オルガネラでの目的タンパク質の望ましくない発現を抑制することのできる、新たな発現ベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、意外なことにミトコンドリアゲノムDNAに存在する遺伝子由来のプロモーターよりも細胞核内で転写活性を有するプロモーターの方が、ミトコンドリア内においてもむしろ高い転写活性を示すことを確認し、これに細胞核内での目的タンパク質の望ましくない発現を抑制する工夫を加えることで、ミトコンドリア内で目的タンパク質を安全に発現させることができることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0014】
(1)動物細胞の細胞核内で転写活性を示すプロモーター配列、及び目的タンパク質をコードするコーディング領域であって、トリプトファンに対応するコドンとして1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域を前記プロモーター配列の制御下に有する、動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるための組換え発現ベクター。
(2)前記目的タンパク質をコードするコーディング領域の5’末端側に、ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域をさらに有する、(1)に記載の組換え発現ベクター。
(3)前記目的タンパク質をコードするコーディング領域の3’末端側にミトコンドリアtRNAに対応する塩基配列を有する、(1)又は(2)に記載の組換え発現ベクター。
(4)プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーター、シミアンウイルス40プロモーター、ラウスサルコーマウイルスプロモーター、EF1αプロモーター、βアクチンプロモーター及びT7プロモーターよりなる群から選択されるプロモーターの塩基配列である、(1)~(3)のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
(5)プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーター又はラウスサルコーマウイルスプロモーターの塩基配列である、(4)に記載の組換え発現ベクター。
(6)前記目的タンパク質をコードするコーディング領域におけるトリプトファンに対応するコドンの全てがTGAである、(1)~(5)のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
(7)前記ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域がNADHデヒドロゲナーゼ、サブユニット4のコーディング領域である、(2)~(6)のいずれかに記載の組換え発現ベクター。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の発現ベクターを封入した脂質膜構造体。
(9)スフィンゴミエリンを脂質膜の構成脂質として含む、(8)に記載の脂質膜構造体。
(10)配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを脂質膜表面に有する、(8)又は(9)に記載の脂質膜構造体。
(11)ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとスフィンゴミエリンとを脂質膜の構成脂質として含有し、かつ配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを脂質膜表面に有する、動物細胞のミトコンドリアに核酸を導入するための脂質膜構造体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の発現ベクター及び脂質膜構造体によれば、ミトコンドリアにおいてより効率的に、かつ選択的に目的タンパク質を発現させることができる。本発明の発現ベクター及び脂質膜構造体は、より安全でかつ効果の優れたミトコンドリア病治療用の医薬として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターにおける組換え遺伝子の構造を模式的に表した図である。
【図2】本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターをハイドロダイナミクス法によってそれぞれ投与したマウスの肝臓における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図3】本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターをハイドロダイナミクス法によってそれぞれ投与したマウスの肝臓における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図4】本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターでトランスフェクションしたHeLa細胞における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図5】本発明の発現ベクターを封入した本発明の脂質膜構造体及び比較対象となる脂質膜構造体でトランスフェクションしたHeLa細胞における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図6】ウサギ網状赤血球を利用したインビトロ翻訳システムを用いて、本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターから転写されるmRNAを目的タンパク質(ルシフェラーゼ)へと翻訳させたときの発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図7】細胞核における転写を阻害する活性を有するα-アマニチン(amanitin)の存在下での、本発明の発現ベクター及び比較対象となる発現ベクターでトランスフェクションしたHeLa細胞における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図8】各種のプロモーター配列を有する本発明の発現ベクターをハイドロダイナミクス法によってそれぞれ投与したマウスの肝臓における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図9】ND4配列を取り除いた本発明の発現ベクター又はヒトND4配列を組み込んだ本発明の発現ベクターをハイドロダイナミクス法によってそれぞれ投与したマウスの肝臓における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【図10】各種のプロモーター配列を有する発現ベクターを封入した本発明の脂質膜構造体でトランスフェクションしたHeLa細胞における目的タンパク質(ルシフェラーゼ)の発現量(発光強度)を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一の態様は、動物細胞の細胞核内で転写活性を示すプロモーター配列、及び目的タンパク質をコードするコーディング領域であって、トリプトファン(Trp)に対応するコドンとして1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域を前記プロモーター配列の制御下に有する、動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるための組換え発現ベクターに関する。換言すれば、本発明は、上記の構成を有する組換え発現ベクター、及び動物細胞のミトコンドリア内で目的タンパク質を発現させるという当該ベクターの特定の用途にかかる発明である。

【0018】
本発明の発現ベクターで利用可能なプロモーター配列は、哺乳動物の細胞核内で転写活性すなわちmRNAの転写誘導能を示すものであれば特に制限はなく、その例としてはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV)40プロモーター、ラウスサルコーマウイルス(RSV)プロモーター、EF1αプロモーター、βアクチンプロモーター及びT7プロモーターなどの各塩基配列を挙げることができ、CMVプロモーター又はRSVプロモーターの利用が好ましい。またこれらは、転写活性が損なわれない限り、塩基配列に置換その他の変異が加わったものであってもよい。

【0019】
本発明における目的タンパク質は、ミトコンドリア内で発現させる、言い換えればその機能を発揮させることが望まれるタンパク質であればよく、ミトコンドリア病の治療に有効であると期待されるタンパク質の他に、ミトコンドリア内で発現させることに学術的な関心が持たれるタンパク質などを挙げることができる。かかる観点で、目的タンパク質は、細胞核のゲノムDNAにコードされているタンパク質、ミトコンドリアゲノムDNAにコードされているミトコンドリアタンパク質、本発明のベクターによってトランスフェクションされる細胞に対する異種のタンパク質などのいずれであってもよい。また、その大きさ(アミノ酸残基数)及び化学的特性(疎水性、親水性、電荷その他の特性)に特別な制限はない。

【0020】
本発明においてコーディング領域とは、開始コドンと終止コドンに挟まれた目的タンパク質に翻訳されるmRNAの鋳型となるDNAの塩基配列を意味する。この場合において、コーディング領域は単一のオープンリーディングフレーム(ORF)からなるものでもよく、また複数のエクソンがイントロンによって分断されてなるものであってもよい。すなわち、前記プロモーター配列によって転写誘導され、後に説明するように最終的にミトコンドリア内において目的タンパク質へと翻訳されるmRNAを提供できるDNAの塩基配列であればよい。

【0021】
本発明の発現ベクターでは、Trpに対応するコドンとして1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域が利用される。好ましくは、ミトコンドリアゲノムDNAにおけるコーディング領域、Trpに対応するコドンであるTGG(mRNA上ではUGG)がTGAに人為的に変更されたコーディング領域、Trp残基へアミノ酸残基を置換しても目的タンパク質の活性を保持することができる位置のコドンがTGAに人為的に変更されたコーディング領域などが利用される。このようなコドンの人為的な変更は、一般的な遺伝子組換え技術によって行うことができる。

【0022】
細胞質におけるmRNAからの翻訳ではTGAは終止コドンに相当するが、ミトコンドリアにおけるmRNAからの翻訳ではTGAはTrpをコードするコドンに相当する。したがって、本発明の発現ベクターを用いて動物細胞を形質転換した場合、発現ベクターが細胞核に到達してコーディング領域からmRNAが転写されたときでも、コーディング領域にコードされる目的タンパク質の合成はTGAの位置で停止するので、少なくとも目的タンパク質の全体は合成されない。これによって、細胞質内において目的タンパク質の全体が合成されてしまうことによる負の影響を抑制することができる。

【0023】
一方、本発明の発現ベクターがミトコンドリアに到達してコーディング領域からmRNAが転写されたときは、コーディング領域にコードされる目的タンパク質の合成はTGAの位置で停止することなく進行し、その結果目的タンパク質の全体が適切に合成され、ミトコンドリア内でその機能を発揮することができる。

【0024】
細胞質内における目的タンパク質の望まれない発現を抑制するという観点において、本発明では複数のTGAを含むコーディング領域の利用が好ましい。また、細胞質内における目的タンパク質の望まれない機能発現をより確実に抑制するという観点において、5’末端(目的タンパク質のN末端)により近い位置に1つ又は複数のTGAを含むコーディング領域の利用がさらに好ましい。さらに、目的タンパク質が通常は細胞質内で翻訳されるタンパク質である場合は、上記TGA以外のコドンについても、ミトコンドリアのコドンを使用するようにコーディング配列を適宜改変することが好ましい。上記の一例は、細胞核ゲノムにおいてArg残基をコードするがミトコンドリアゲノムにおいて終止コドンをコードするAGGを、細胞核ゲノム、ミトコンドリアゲノムのいずれにおいてもArg残基をコードするCGGに改変することである。

【0025】
コーディング領域をプロモーター配列の制御下に有するとは、コーディング領域がプロモーター配列に転写可能に連結されていること、すなわちプロモーター配列の転写活性によってmRNAへの転写が開始される範囲内にコーディング領域が存在することを意味する。例としては、プロモーター配列の3’末端から概ね1~200塩基の範囲内にコーディング領域の開始コドンがある場合を挙げることができるが、そのような範囲はプロモーター配列の種類によって変化し、当業者によって適宜調節することができる。

【0026】
本発明の発現ベクターは、前記目的タンパク質をコードするコーディング領域の5’末端側に、ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域をさらに有するものであることが好ましい。特に、ミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域と前記目的タンパク質をコードするコーディング領域とがインフレームで連結している、すなわちミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域にコードされるアミノ酸配列と前記目的タンパク質のアミノ酸配列とが一続きとなったアミノ酸配列からなる融合タンパク質が合成されるように連結していることが好ましい。推論であるが、ミトコンドリアにおいて本来的に転写翻訳され、安定的に機能を発揮するタンパク質分子を一部に含むことで、発現ベクターの組換え遺伝子から転写翻訳されるタンパク質分子がミトコンドリア内で安定化されるものと考えられる。

【0027】
ミトコンドリアゲノムDNAには、13種類のコーディング領域が存在することが知られており、本発明ではいずれのコーディング領域でも利用することができるが、特にND4(NADHデヒドロゲナーゼ、サブユニット4)タンパク質、特にヒトのND4タンパク質に対応するコーディング領域の利用が好ましい。

【0028】
本発明の発現ベクターは、コーディング領域の3’末端側にミトコンドリアtRNAに対応する塩基配列、特に当該tRNAに対応する塩基配列に加えてその5’末端側の非翻訳領域を含む塩基配列も併せて有するものであることが好ましい。選択されるミトコンドリアtRNAの種類に特に制限はない。推論であるが、ミトコンドリアにおいて本来的に転写され、安定的に機能を発揮するRNA分子の塩基配列を一部に含むことで、発現ベクターの組換え遺伝子から転写されるRNA分子がミトコンドリア内で安定化されるものと考えられる。

【0029】
本発明の第二の態様は、動物細胞のミトコンドリアに核酸を導入するための脂質膜構造体、及びこれに上で説明した発現ベクターを封入した脂質膜構造体を提供する。本発明の脂質膜構造体は、脂質膜の構成脂質としてスフィンゴミエリン(SM)を、好ましくはジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)とSMとを含む。本発明の脂質膜構造体はまた、脂質膜表面に配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、KALAペプチドと表す)を有することが好ましい。脂質膜構造体の好ましい具体例は、特許文献2(特許第5067733号公報)にその製造方法と共に詳細に記載された脂質膜構造体において、DOPEとSMとを脂質膜の構成脂質として含み、かつ脂質膜表面がKALAペプチドで修飾された脂質膜構造体である。特許文献2は、その全体が参照として本明細書に取り込まれる。

【0030】
KALAペプチドは、Shaheenら(Biomaterials、2011,32,6342-6350)において、脂質膜同士の膜融合を促進する機能を有する脂質膜融合性ペプチドとして記載されている。本発明においては、このKALAペプチドが脂質膜構造体の表面に置かれることで、脂質膜構造体を細胞内オルガネラであるミトコンドリアに選択的に送達させる能力が発揮されることを見いだしたことに基づき、かかるミトコンドリア送達能を利用するものである。

【0031】
本発明において最も好ましい脂質膜構造体である、本発明の発現ベクターが封入され、脂質膜の構成脂質としてDOPEとSMとを含み、かつ脂質膜の表面にKALAペプチドを有する脂質膜構造体は、特許文献2に記載されたステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)の調製及びオクタアルギニンで修飾され、DNAを封入した脂質膜構造体の製造法に準じて、オクタアルギニンとDNAをそれぞれKALAペプチドと本発明の発現ベクターに置き換えることで製造することができる。

【0032】
本発明の発現ベクター及びこれを封入した脂質膜構造体は、いずれもミトコンドリア病の治療に用いるための医薬として利用することができ、本発明の第三の態様はかかる医薬、及び有効量のかかる医薬を患者に投与することを含むミトコンドリア病の治療方法に関する。本発明の医薬は、核酸医薬又はリポソーム医薬若しくは製剤として一般に知られている剤形、用法、用量などに準じて利用することができる。

【0033】
例えば、本発明の医薬は、注射剤、点滴剤などの非経口製剤の形態で用いられることができる。また、このような非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D-ソルビトールなどを含む等張液といった水性担体が挙げられる。

【0034】
本発明の医薬はさらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の添加剤といった成分を含む組成物の形態であってもよい。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十六改訂日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。

【0035】
本発明の医薬の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与などを挙げることができる。好ましい実施形態の一つにおいて、本発明の治療剤は、静脈内投与により生体に投与される。

【0036】
以下の実施例及び実験例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例及び実験例では、ルシフェラーゼを目的タンパク質のモデルとして利用している。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
1)発現ベクターの構築
以下のa)~f)のベクターを、一般的な遺伝子組換え手法を用いて構築した。
a)pCMV-mtLuc(CGG)
このベクターは、CMVプロモーター配列、ミトコンドリアタンパク質ND4をコードするミトコンドリアゲノムDNAのコーディング領域(ND4)、FLAGタグをコードする塩基配列(FLAG)、配列番号1に示されるアミノ酸残基における479番目のTrp残基及び512番目のArg残基をコードするコドンがそれぞれTGA及びCGGであるコドン改変ルシフェラーゼをコードするコーディング領域(mtLuc)、及び5’末端の非翻訳領域を含むミトコンドリアtRNAAspをコードする塩基配列をこの順序で有する組換え遺伝子(図1の(a)、配列番号1)をEcoRI及びSmaIで開環したpBluescript SK(-)vector(Stratagene)に組み込んだ、本発明の発現ベクターである。なお、479番目のTrpをコードするコドンTGA及び512番目のArg残基をコードするコドンCGGは、野生型ルシフェラーゼにおいてはそれぞれTGG及びAGGである。また、配列番号1及び配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0038】
上記組換え遺伝子はルシフェラーゼをコードするコーディング領域内にTGAコドンを1つ有しているので、活性型ルシフェラーゼはミトコンドリア内では発現するが、細胞核内では発現しない(翻訳されない)。
【実施例】
【0039】
b)pCMV-mtLuc(CGG)/3×TGA
このベクターは、a)のpCMV-mtLuc(CGG)と同一の構成を有するが、配列番号1に示される601番目及び630番目のTrp残基をコードするコドンがTGAである(図1の(b)、配列番号3)、本発明の発現ベクターである。なお、601番目及び630番目のTrp残基をコードするコドンTGAは、野生型ルシフェラーゼにおいてはいずれもTGGである。また、配列番号3及び配列番号4に示されるアミノ酸配列は、配列番号3の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0040】
このベクターは、ルシフェラーゼをコードするコーディング領域内にTGAコドンを3つ有しているので、活性型ルシフェラーゼはミトコンドリア内では発現するが、細胞核内では発現しない(翻訳されない)。
【実施例】
【0041】
c)pCMV-mtLuc(TAG)
このベクターは、a)のpCMV-mtLuc(CGG)と同一の構成を有するが、配列番号1に示される512番目のコドンがTAGである(図1の(c)、配列番号5)ベクターである。なお、512番目のコドンは、野生型ルシフェラーゼにおいてはAGGである。また、配列番号5及び配列番号6に示されるアミノ酸配列は、配列番号5の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0042】
このベクターは、TAGが細胞核内及びミトコンドリア内いずれにおいても終止コドンとなるので、細胞核及びミトコンドリアいずれにおいても活性型ルシフェラーゼが発現(翻訳)されない、翻訳ネガティブコントロールベクターである。
【実施例】
【0043】
d)pmtLuc
このベクターは、a)のpCMV-mtLuc(CGG)の組換え遺伝子からCMVプロモーター配列を欠失させた(図1の(d)、配列番号7)ベクターである。このベクターはプロモーター配列を有しないので、細胞核及びミトコンドリアいずれにおいても組換え遺伝子が転写されない、転写ネガティブコントロールベクターである。配列番号7及び配列番号8に示されるアミノ酸配列は、配列番号7の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0044】
e)pHSP-mtLuc(CGG)
このベクターは、a)のpCMV-mtLuc(CGG)の組換え遺伝子におけるCMVプロモーター配列をHSPに置き換えた(図1の(e)、配列番号9)、比較用発現ベクターである。配列番号9及び配列番号10に示されるアミノ酸配列は、配列番号9の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0045】
f)pHSP-mtLuc(TAG)
このベクターは、c)のpCMV-mtLuc(TAG)の組換え遺伝子におけるCMVプロモーター配列をHSPに置き換えた(図1の(f)、配列番号11)、比較用翻訳ネガティブコントロールベクターである。配列番号11及び配列番号12に示されるアミノ酸配列は、配列番号11の塩基配列をミトコンドリアで使用されるコドンを用いて翻訳した場合のアミノ酸配列である。
【実施例】
【0046】
2)ベクターの細胞内導入及び発現の確認
pCMV-mtLuc(CGG)、pHSP-mtLuc(CGG)、pHSP-mtLuc(TAG)及びpmtLucの4種類のベクターについて、Yasuzakiら(J Control Release、2013、172(3):805-11)に記載されたハイドロダイナミクス法を参照して、C57BL/6Nマウス(6週齢、オス)の尾静脈内へ27Gの針を用いて2mLベクター溶液(100μg/5%グルコース溶液)を5秒で投与した。投与6時間後に肝臓を回収し、Luciferase assay reagent(プロメガ社)を製造者プロトコールに従って使用し、ルシフェラーゼ発光量を測定した。その結果を図2に示す。
【実施例】
【0047】
pCMV-mtLuc(CGG)は、比較用ベクターのpHSP-mtLuc(CGG)と比較して著しく高いルシフェラーゼ発光量を示しており、遺伝子発現効率が高いことが確認された。
【実施例】
【0048】
また、pCMV-mtLuc(CGG)、pCMV-mtLuc(CGG)3×TGA及びpCMV-mtLuc(TAG)についても同様の実験を行ったところ、pCMV-mtLuc(CGG)3×TGAの遺伝子発現効率はpCMV-mtLuc(CGG)と同等であることが確認された(図3)。
【実施例】
【0049】
<実施例2>HeLa細胞への導入
4×10cells(0.5mL)のHeLa細胞を24ウェルプレートに播種して24時間後に、0.4μg又は1μgのpCMV-mtLuc(CGG)又はpmtLuc(CGG)をそれぞれ含むLipofectamine 2000のDMEM溶液(0.25mL、血清及び抗生物質なし)を細胞に加え、5%CO2で3時間インキュベーションを行い、10%血清を含む新鮮な培地に交換してさらに21時間インキュベーションを行った。
【実施例】
【0050】
細胞を0.5mLのPBSで洗い、75μLのreporter lysis buffer(Promega)で溶解した。-80℃で30分間以上インキュベーションした後、室温で10~15分程度解凍した。その後、細胞をプレートから回収しエッペンドルフチューブに移し、15,000g、4℃、5分遠心し、上清50μLを回収した。ルシフェラーゼ活性は細胞ライセート20μLに NanoLuc assay reagent(Promega)50μLを加え、ルミノメーターを用いて測定した。細胞ライセートのタンパク質量はBCA protein assay kit(PIERCE)を用いて決定し、ルシフェラーゼ活性の補正を行った。その結果を図4に示す。
【実施例】
【0051】
pCMV-mtLuc(CGG)のトランスフェクションによるルシフェラーゼ発光強度は、添加量増加に伴って増強することが確認された(図4)。一方、転写ネガティブコントロールのpmtLuc及びLipofectamine 2000を使用せずにベクターを加えた細胞(naked)ではルシフェラーゼ発光は観察されなかった。
【実施例】
【0052】
<実施例3>脂質膜構造体の構築
1)特許文献2に記載された方法に準じて、ステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)のオクタアルギニンに代えて、膜融合性ペプチドであるKALAペプチド(Shaheenら,Biomaterials、2011,32,6342-6350、配列番号13)を用いて、KALAとステアリン酸との縮合体(STR-KALA)を調製した。
【実施例】
【0053】
2)試験管に1mMの脂質溶液(1,2-ジオレイル sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)/SM/CHEMS=9/2/1)825μLとクロロホルム750μLを加えて混合後、減圧乾燥して脂質膜フィルムを得た。これに10mM HEPES緩衝液を1.5mL加え、室温で15分間水和させた。次いで、バスタイプソニケーター(AU-25C;アイワ医科工業)で30秒間及びプローブタイプソニケーターで10分間超音波処理を行い、small unilamellar vesicles(SUV)溶液を調製した。
【実施例】
【0054】
0.1mg/mLのpCMV-mtLuc(CGG)溶液を0.1mg/mLプロタミン溶液に滴下することで核酸ナノ粒子を調製し(nitrogen/phosphate(N/P)比3.0)、これと2)のSUV溶液を1:2の体積比で混合し、さらに1)のSTR-KALAを添加(総脂質の10mol%相当量)することで、脂質構造体の表面にKALAペプチドを有する脂質膜構造体(KALA-MITO-Porter(SM))を調製した。
【実施例】
【0055】
比較対象として、KALA-MITO-Porter(SM)のSTR-KALAをSTR-R8に代えたR8-MITO-Porter(SM)、KALA-MITO-Porter(SM)のSMを等量のホスファチジン酸(PA)に代えたKALA-MITO-Porter(PA)、KALA-MITO-Porter(PA)のSTR-KALAをSTR-R8に代えたR8-MITO-Porter(PA)を、それぞれ調製した。
【実施例】
【0056】
実施例2と同様にして、各脂質膜構造体を用いてHeLa細胞(8×10cells、0.5mL)を各脂質膜構造体でトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発光を測定した。その結果を図5に示す。Lipofectamine 2000と比較して、pCMV-mtLuc(CGG)を封入したKALA-MITO-Porter(SM)のルシフェラーゼ発光強度は大きく増強されるが、R8-MITO-Porter(SM)のルシフェラーゼ発光強度は殆ど観察されなかった。また、R8-MITO-Porter(PA)及びKALA-MITO-Porter(PA)のルシフェラーゼ発光強度は、Lipofectamine 2000と実質的に差は認められなかった。
【実施例】
【0057】
以下の実験例は、本発明の発現ベクターをトランスフェクションしたときに確認されるルシフェラーゼ発光が、細胞核内での転写翻訳を通じて行われるものではないことを確認するための実験である。
【実施例】
【0058】
<実験例1 インビトロ翻訳実験>
CMVプロモーター配列の下流に野生型ルシフェラーゼをコードする遺伝子が連結されたプラスミドpNL1.1[CMV/nLuc](プロメガ社)から、HeLaScribeNuclearExtractinvitroTranscriptionSystem(プロメガ社)を用いて野生型ルシフェラーゼ-mRNAを調製した。さらに、pCMV-mtLuc(CGG)及びpCMV-mtLuc(TAG)からも同様にしてmtLuc(CGG)-mRNA及びmtLuc(TAG)-mRNAを調製した。
【実施例】
【0059】
ウサギ網状赤血球を用いたインビトロ翻訳系(プロメガ社)を用いて、上記各mRNAからタンパク質を翻訳合成させ、ルシフェラーゼ発光を測定した。その結果を図6に示す。
【実施例】
【0060】
ウサギ網状赤血球にはミトコンドリアが存在しないため、ルシフェラーゼは野生型NLuc-mRNAからは合成される一方、mtLuc(CGG)-mRNAからは終止コドンTGAがあるので合成されず、またmtLuc(TAG)-mRNAも終止コドンTAGがあるので活性型ルシフェラーゼは合成されない、と予想される。この予想のとおり、野生型NLucを有するpNL1.1[CMV/nLuc]ではルシフェラーゼ発光は観察されるが、mtLuc(CGG)を有するpCMV-mtLuc(CGG)及びmtLuc(TAG)を有するpCMV-mtLuc(TAG)ではいずれもルシフェラーゼ発光は観察されなかった。
【実施例】
【0061】
<実験例2>α-アマニチン添加実験
4×10cells(0.5mL)のHeLa細胞を24ウェルプレートに播種し、0.0001~1μg/mLのα-アマニチンの存在下で24時間インキュベートした。その後、実施例2の操作と同様にして、pCMV-mtLuc(CGG)及びpNL1.1[CMV/nLuc]を用いて細胞をトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発光強度を測定した。その結果を図7に示す。
【実施例】
【0062】
α-アマニチンは細胞核内での転写を阻害するため、細胞核内での転写を経て産生されるmRNAをコードするpNL1.1[CMV/nLuc]を用いた際には、転写が阻害されルシフェラーゼ活性は低下する事が予想される。この予想の通り、pNL1.1[CMV/nLuc]でトランスフェクションされたHeLa細胞におけるα-アマニチン存在下でのルシフェラーゼ発光強度は、α-アマニチンを添加しないコントロールと比較して大幅に低下した。一方、pCMV-mtLuc(CGG)はミトコンドリア内においてmRNAが転写されるため、α-アマニチンの有無に関わらずルシフェラーゼ活性が維持されると予想される。この予想の通り、α-アマニチンは、細胞毒性が観察されない0.0001~0.1μg/mLの添加量において、pCMV-mtLuc(CGG)でトランスフェクションされたHeLa細胞におけるルシフェラーゼ発光強度を低下させなかった。
【実施例】
【0063】
<実施例4>プロモーター配列の変更
実施例1の1)a)のpCMV-mtLuc(CGG)におけるCMVプロモーター配列を、pRc/RSV(invitrogen)に組み込まれているRSVプロモーター配列、pBluescript II SK(+)(Stratagene)に組み込まれているT7プロモーター配列又はpGL3-Control(Promega)に組み込まれているSV40プロモーター配列にそれぞれ置換した発現ベクター(pRSV-mtLuc(CGG)、pT7-mtLuc(CGG)及びpSV40-mtLuc(CGG))を構築した。
【実施例】
【0064】
pCMV-mtLuc(CGG)、pRSV-mtLuc(CGG)、pT7-mtLuc(CGG)及びpSV40-mtLuc(CGG)の4種類の発現ベクターについて、実施例1の2)と同様に、Yasuzakiら(J Control Release、2013、172(3):805-11)に記載されたハイドロダイナミクス法を参照して、C57BL/6Nマウス(6週齢、オス)の尾静脈内へ27Gの針を用いて2mLベクター溶液(100μg/5%グルコース溶液)を5秒で投与した。投与6時間後に肝臓を回収し、Luciferase assay reagent(プロメガ社)を製造者プロトコールに従って使用し、ルシフェラーゼ発光量を測定した。その結果を図8に示す。
【実施例】
【0065】
上記4種類の発現ベクターを投与したマウスにおいて、いずれも肝臓におけるルシフェラーゼの発現を確認することができた。特に、pRSV-mtLuc(CGG)を投与したマウスにおいて最も高い発現が観察された。
【実施例】
【0066】
<実施例5>ND4配列の変更
実施例1の1)a)のpCMV-mtLuc(CGG)におけるND4配列及びFLAG配列を取り除いてCMVプロモーター配列の直後にmtLuc(CGG)配列を連結させた発現ベクター(pCMV-mtLuc(CGG)[-ND4]を構築した。さらに、実施例1の1)a)のpCMV-mtLuc(CGG)におけるND4配列を、NCBIアクセッション番号NC_012920として登録されている塩基配列の10,760-12,136番目までの塩基配列(ヒトのND4配列)に置換した発現ベクター(pCMV-mtDNA(human))をそれぞれ構築した。
【実施例】
【0067】
pCMV-mtLuc(CGG)、pCMV-mtLuc(CGG)[-ND4]及びpCMV-mtDNA(human)を、実施例1の2)と同様に、Yasuzakiら(J Control Release、2013、172(3):805-11)に記載されたハイドロダイナミクス法を参照して、C57BL/6Nマウス(6週齢、オス)の尾静脈内へ27Gの針を用いて2mLベクター溶液(100μg/5%グルコース溶液)を5秒で投与した。投与6時間後に肝臓を回収し、Luciferase assay reagent(プロメガ社)を製造者プロトコールに従って使用し、ルシフェラーゼ発光量を測定した。その結果を図9に示す。
【実施例】
【0068】
上記3種類の発現ベクターを投与したマウスにおいて、いずれも肝臓におけるルシフェラーゼの発現を確認することができた。特に、pCMV-mtDNA(human)を投与したマウスにおいて、pCMV-mtLuc(CGG)と比較してより高いルシフェラーゼの発現が観察された。
<実施例6>脂質構造体を用いた形質転換
実施例1の1)a)のpCMV-mtLuc(CGG)、実施例4のpRSV-mtLuc(CGG)、pT7-mtLuc(CGG)、SV40-mtLuc(CGG)及び実施例5のpCMV-mtDNA(human)を、実施例3に記載の方法に従ってKALA-MITO-Porter(SM)又はR8-MITO-Porter(SM)に封入し、実施例2と同様にして、HeLa細胞(8×10cells、0.5mL)を各脂質膜構造体でトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発光を測定した。その結果を図10に示す。
【実施例】
【0069】
使用した全てのベクターに関して、ベクターを封入したKALA-MITO-Porterでトランスフェクションされた細胞においてベクターを封入したR8-MITO-Porterでトランスフェクションされた細胞よりも高いルシフェラーゼ発光強度が観察された。また、pCMV-mtDNA(human)を封入したKALA-MITO-Porterでトランスフェクションされた細胞において、最も高いルシフェラーゼ発光強度が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の発現ベクター及び脂質膜構造体は、いずれもミトコンドリア病の遺伝子治療を行うための医薬として、及びリサーチツールとして、産業上の利用可能性を有する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9