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明細書 :筋衛星細胞培養用材料および筋衛星細胞の培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年8月30日(2018.8.30)
発明の名称または考案の名称 筋衛星細胞培養用材料および筋衛星細胞の培養方法
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
C07K  14/78        (2006.01)
A61K  35/34        (2015.01)
A61P  21/02        (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
A61P  21/04        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 5/0775
C07K 14/78
A61K 35/34
A61P 21/02
A61P 21/00
A61P 21/04
国際予備審査の請求
全頁数 30
出願番号 特願2017-548781 (P2017-548781)
国際出願番号 PCT/JP2016/082490
国際公開番号 WO2017/078029
国際出願日 平成28年11月1日(2016.11.1)
国際公開日 平成29年5月11日(2017.5.11)
優先権出願番号 2015216609
優先日 平成27年11月4日(2015.11.4)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA
発明者または考案者 【氏名】赤澤 智宏
【氏名】鈴木 喜晴
【氏名】馬渕 洋
【氏名】石井 佳菜
【氏名】関矢 一郎
【氏名】関口 清俊
出願人 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106297、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 克博
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
4C087
4H045
Fターム 4B029AA27
4B029BB11
4B029BB15
4B029CC02
4B065AA93X
4B065BB19
4B065BC41
4B065CA44
4C087AA03
4C087BB47
4C087CA04
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4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA94
4H045AA10
4H045AA30
4H045AA40
4H045CA40
4H045EA20
要約 未分化性を維持したまま増殖させる筋衛星細胞の培養用材料及びこれを用いた培養方法を提供することを目的とする。本発明は、ラミニンを含む筋衛星細胞培養用材料、およびこれを用いた筋衛星細胞の培養方法に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用材料。
【請求項2】
筋衛星細胞培養用培養基材または筋衛星細胞培養用培地である、請求項1記載の筋衛星細胞培養用材料。
【請求項3】
第1のラミニンがコーティングされている筋衛星細胞培養用培養基材である、請求項1または2記載の筋衛星細胞培養用材料。
【請求項4】
前記第1のラミニンが、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の筋衛星細胞培養用材料。
【請求項5】
前記第1のラミニンが、ヒトラミニンα2β1γ1、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1から成る群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の筋衛星細胞培養用材料。
【請求項6】
前記第1のラミニンが、ヒトラミニンα2β1γ1のE8フラグメントを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の筋衛星細胞培養用材料。
【請求項7】
筋衛星細胞と第1のラミニンとを接触させる接触工程を含む、筋衛星細胞の培養方法。
【請求項8】
第1のラミニンが、
a)培地に含まれている;
b)培養基材中に含まれている;または
c)培養基材にコーティングされている
ことを特徴とする、請求項7記載の筋衛星細胞の培養方法。
【請求項9】
培養基材が、ディッシュ、プレート、カバースリップ、マイクロキャリア、ゼラチンハイドロゲル、またはコラーゲンスポンジであることを特徴とする、請求項8記載の筋衛星細胞の培養方法。
【請求項10】
前記接触工程において、請求項1~6のいずれか一項に記載の培養用材料を用いることを特徴とする、請求項7に記載の筋衛星細胞の培養方法。
【請求項11】
さらに、筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程を含む、請求項7~10のいずれか一項記載の筋衛星細胞の培養方法。
【請求項12】
前記第2のラミニンが、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1から成る群より選択される少なくとも1種のヒトラミニンを含むことを特徴とする、請求項11に記載の培養方法。
【請求項13】
前記第2のラミニンが、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の培養方法。
【請求項14】
前記第2のラミニンが、筋衛星細胞の培養培地中に含まれていることを特徴とする、請求項11~13のいずれか一項記載の培養方法。
【請求項15】
前記筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程が培養基材上に筋衛星細胞を播種する前に行われることを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項記載の培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミニンがコーティングされている筋衛星細胞培養用材料、これを用いた筋衛星細胞の培養方法および筋衛星細胞培養用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋の組織幹細胞である筋衛星細胞は、筋繊維と基底膜との間隙に存在し、通常は細胞周期の静止期にとどまり未分化状態を維持している。しかし、ひとたび筋が損傷を受けると筋衛星細胞は活性化され、増殖と分化を経て筋組織を修復・再生する。加齢と共に筋衛星細胞の数及び機能が低下することが知られており、そのことにより筋繊維の損傷や萎縮に対して脆弱となった結果、筋量・筋力の低下へと繋がり、サルコペニアを発症すると考えられている(非特許文献1参照)。このような筋衛星細胞の機能不全による筋疾患や筋萎縮、または筋ジストロフィーなどの遺伝性筋疾患の新たな治療法として、局所に筋衛星細胞を移植して筋機能を再生することを目指した細胞移植治療の研究が注目されている。iPS細胞から分化誘導する方法が試みられているが、安全性・品質を満たす筋衛星細胞は得られていない。一方、生体組織から得られる筋衛星細胞はわずかであり、移植治療に十分な量を確保するためには、in vitroで培養して細胞数を増やさなくてはならない。現在、筋衛星細胞の培養には、培養ディッシュ上にコートする接着基質としてマトリゲル(商品名)が汎用されている(非特許文献2参照)。しかしマトリゲルは、マウスEngelbreth-Holm-Swarm腫瘍由来の構成成分未知な蛋白質混合ゲルであるため、ヒト移植治療用の細胞の培養基質としては適さない。
【0003】
前述したように、静止期筋衛星細胞は筋繊維と基底膜に挟まれるように存在している。基底膜の主要構成蛋白質の一つにラミニンがある。ラミニンは、α、β、γ鎖の3つのサブユニットから構成されているヘテロ三量体蛋白質で、α、β、γ鎖の組合せによって15種類のラミニンアイソフォームが同定されている。特にラミニンα鎖は組織特異的・発生段階特異的に発現していることが知られている。ラミニンの細胞接着活性を介する細胞表面レセプターはいくつか同定されているが、その主たるものはインテグリン(α6β1、α7β1、α6β4など)である。ラミニンは、各々サブユニット鎖の分子量がいずれも200~400kDと巨大で、それらを組換え蛋白質として発現・会合させヘテロ三量体蛋白質として精製することは容易ではない。
【0004】
そこで、ラミニンのインテグリン結合活性を保持した最小単位として組換えE8フラグメントが作成され、ゼノフリー条件での大量発現・精製が可能となっている。さらに、主たるラミニンアイソフォーム[ラミニン-111(α1β1γ1)、ラミニン-211(α2β1γ1)、ラミニン-332(α3β3γ2)、ラミニン-411(α4β1γ1)、ラミニン-511(α5β1γ1)]の組換えE8フラグメントが調製され、ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞の未分化維持培養法において、ラミニン-511またはラミニン-332のE8フラグメントが効果的であることが見出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開WO2011/043405号公報
【0006】

【非特許文献1】Grounds MD. Therapies for sarcopenia and regeneration of oldskeletal muscles: more a case of old tissue architecture than old stem cells.Bioarchitecture, 4, 81-87, 2014.
【非特許文献2】Grefte S, Vullinghs S, Kuijpers-Jagtman AM, Torensma R, Von den Hoff JW. Matrigel, but not collagen I, maintains the differentiation capacity of muscle derived cells in vitro. Biomed Mater, 7, 055004, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、筋衛星細胞の未分化性を維持したまま増殖する培養技術は、上述のとおりニーズが高いにも関わらず十分に確立されていなかった。そこで、本発明は、未分化性を維持したまま増殖させる筋衛星細胞の培養用材料及びこれを用いた培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい態様は以下の事項に関する。
【0009】
1. 第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用材料。
【0010】
2. 筋衛星細胞培養用培養基材または筋衛星細胞培養用培地である、上記1記載の筋衛星細胞培養用材料。
【0011】
3. 第1のラミニンがコーティングされている筋衛星細胞培養用培養基材である、上記1または2記載の筋衛星細胞培養用材料。
【0012】
4. 前記第1のラミニンが、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことを特徴とする上記1~3のいずれかに記載の筋衛星細胞培養用材料。
【0013】
5. 前記第1のラミニンが、ヒトラミニンα2β1γ1、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1から成る群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンを含むことを特徴とする上記1~4のいずれかに記載の筋衛星細胞培養用材料。
【0014】
6. 前記第1のラミニンが、ヒトラミニンα2β1γ1のE8フラグメントを含むことを特徴とする上記1~5のいずれかに記載の筋衛星細胞培養用材料。
【0015】
7. 筋衛星細胞と第1のラミニンとを接触させる接触工程を含む、筋衛星細胞の培養方法。
【0016】
8. 第1のラミニンが、
a)培地に含まれている;
b)培養基材中に含まれている;または
c)培養基材にコーティングされている
ことを特徴とする、上記7記載の筋衛星細胞の培養方法。
【0017】
9. 培養基材が、ディッシュ、プレート、カバースリップ、マイクロキャリア、ゼラチンハイドロゲル、またはコラーゲンスポンジであることを特徴とする、上記8記載の筋衛星細胞の培養方法。
【0018】
10. 前記接触工程において、上記1~6のいずれかに記載の培養用材料を用いることを特徴とする、上記7に記載の筋衛星細胞の培養方法。
【0019】
11. さらに、筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程を含む、上記7~10のいずれか記載の筋衛星細胞の培養方法。
【0020】
12. 前記第2のラミニンが、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1から成る群より選択される少なくとも1種のヒトラミニンを含むことを特徴とする、上記11に記載の培養方法。
【0021】
13. 前記第2のラミニンが、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことを特徴とする、上記11または12に記載の培養方法。
【0022】
14. i)単離した筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる工程であって、該第2のラミニンがヒトラミニンα3β3γ2E8フラグメント、ヒトラミニンα4β1γ1E8フラグメント、およびヒトラミニンα5β1γ1E8フラグメントの混合物である工程、および
ii)該筋衛星細胞を第1のラミニンがコーティングされている培養基材上で培養する工程であって、該第1のラミニンがヒトラミニンα2β1γ1E8フラグメントである工程
を含むことを特徴とする、上記11~13のいずれかに記載の筋衛星細胞の培養方法。
【0023】
15. 前記第2のラミニンが、筋衛星細胞の培養培地中に含まれていることを特徴とする、上記11~14のいずれか記載の培養方法。
【0024】
16. 前記筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程が培養基材上に筋衛星細胞を播種する前に行われることを特徴とする、上記11~15のいずれか記載の培養方法。
【0025】
17. さらに、
筋衛星細胞の増殖刺激物質と筋衛星細胞とを接触させる工程
を含むことを特徴とする、上記7~16のいずれか記載の培養方法。
【0026】
18. 前記筋衛星細胞の増殖刺激物質が、筋衛星細胞の培養培地中に含まれていることを特徴とする、上記17記載の培養方法。
【0027】
19. 前記筋衛星細胞の増殖刺激物質が、JAK阻害剤またはSTAT阻害剤であることを特徴とする、上記17または18に記載の培養方法。
【0028】
20. 前記筋衛星細胞が、ヒトまたはマウスの筋衛星細胞であることを特徴とする上記7~19のいずれか記載の培養方法。
【0029】
21. 第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用キット。
【0030】
22. さらに、培養器、第2のラミニン、および筋衛星細胞細胞用の培地からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、上記21に記載の筋衛星細胞培養用キット。
【0031】
23. 前記第1のラミニンがヒトラミニンのE8フラグメントを含むことを特徴とする、上記21または22に記載の筋衛星細胞培養用キット。
【0032】
24. 前記第1のラミニンが、ヒトラミニンα2β1γ1、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1から成る群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンを含むことを特徴とする、上記21~23のいずれかに記載の筋衛星細胞培養用キット。
【0033】
25. 前記第1のラミニンがヒトラミニンα2β1γ1E8フラグメントであり、前記第2のラミニンがヒトラミニンα3β3γ2E8フラグメント、ヒトラミニンα4β1γ1E8フラグメントおよびヒトラミニンα5β1γ1E8フラグメントの混合物であることを特徴とする、上記21~24のいずれかに記載の筋衛星細胞培養用キット。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、筋衛星細胞の未分化性を維持したまま増殖させることができる筋衛星細胞培養用培養材料、および筋衛星細胞の未分化性を維持したまま増殖させる培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】例1のマウス骨格筋組織におけるラミニンα鎖の発現の解析結果を示す。
【図1B】図1Aのラミニンα3、α4、α5鎖の染色像の拡大図を示す。
【図1C】筋再生後におけるマウス筋衛星細胞周囲のラミニンα鎖の発現の解析結果を示す。
【図2】例2におけるラミニンE8フラグメントを用いたマウス筋衛星細胞の細胞接着実験の結果を示す。
【図3A】例3-1におけるラミニンE8フラグメントを用いたマウス筋衛星細胞の培養実験における概要図およびPax7陽性細胞率の相対値の算出結果を示す。
【図3B】例3-2における様々なラミニンE8フラグメントの組み合わせによるマウス筋衛星細胞の培養実験の結果を示す。
【図4】例4のヒト筋組織におけるラミニンα鎖の発現の解析結果を示す。
【図5】例5におけるラミニンE8フラグメントを用いたヒト筋衛星細胞の培養実験の結果を示す。
【図6】例6におけるマウス筋衛星細胞の前脛骨筋への移植実験の解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本実施形態の筋衛星細胞培養用材料(以下、単に「培養用材料」と記載することもある)は第1のラミニンを含む。ここで、第1のラミニンを「含む」とは、筋衛星細胞培養用材料と第1のラミニンとが接触していればよく、例えば、筋衛星細胞培養用材料にコーティングされていてもよいし、内包されていてもよいし、その両方であってもよい。第1のラミニンを含む培養用材料を用いて筋衛星細胞の培養を行うと、筋衛星細胞が培養用材料に対する十分な接着力を有し、かつ、未分化状態を維持したまま筋衛星細胞を増殖させることができる。筋衛星細胞培養用材料としては、筋衛星細胞培養用培養基材または筋衛星細胞培養用培地であることが好ましい。

【0037】
(ラミニン)
ラミニンは、15種類のアイソフォームを形成しうる、5種のα鎖、3種のβ鎖、および3種のγ鎖が特定されている。本明細書においては、例えば、α1鎖、β1鎖及びγ1鎖から構成されるラミニンを「ラミニンα1β1γ1」または「ラミニン111」と記載する。本実施形態においてラミニンは、全長であってもよいしその一部であってもよく、例えば、ラミニン111は、そのα1鎖、β1鎖及びγ1鎖のそれぞれが、互いに独立に、全長であってもよいしその一部であってもよい。

【0038】
ラミニンのE8フラグメントは筋衛星細胞への接着活性が高いことから、本実施形態のラミニンは、少なくともE8フラグメントを含むことが好ましく、組換えタンパク質として精製しやすいことからE8フラグメントであることがより好ましく、実用化の観点からヒトラミニンのE8フラグメントであることがさらに好ましい。本明細書においては、ラミニンのE8フラグメントのことを単に「ラミニンE8」と記載することもあり、また、例えば、ラミニン111のE8フラグメントのことを「ラミニン111E8」とも記載する(他のラミニンのアイソフォームについても同様)。なお、単に「ラミニンE8」と記載したときは、ラミニンのアイソフォームは限定されず、いずれのアイソフォームのラミニンのE8フラグメントであってもよいものとする。

【0039】
ラミニンのE8フラグメントは、マウスラミニンα1β1γ1(以下、「マウスラミニン111」とも記す。)をエラスターゼで消化して得られたフラグメントの中で、強い細胞接着活性をもつフラグメントとして同定されたものである(Edgar D., Timpl R., Thoenen H. The heparin-binding domain of laminin is responsible for its effects on neurite outgrowth and neuronal survival. EMBO J., 3:1463-1468, 1984.、Goodman SL., Deutzmann R., von der Mark K.Two distinct cell-binding domains in laminin can independently promote nonneuronal cell adhesion and spreading. J. Cell Biol., 105:589-598, 1987.)。例えば、ヒトラミニンについてもエラスターゼで消化した際にマウスラミニン111のE8フラグメント(マウスラミニン111E8)に相当するフラグメントの存在が推定されるが、これらを分離・同定したことは報告されていない。したがって、本発明に用いられるヒトラミニンのE8フラグメントは、対応するヒトラミニンのエラスターゼ消化産物であることを要するものではなく、マウスラミニン111E8と同様の細胞接着活性を有し、同様の構造を有し、同程度の分子量を有するヒトラミニンのフラグメントであればよい。

【0040】
ラミニンのE8フラグメントの製造方法は特に限定されず、例えば、ラミニンの所望のアイソフォームの全長をエラスターゼ等のタンパク質分解酵素で消化し、目的のフラグメントを分取、精製する方法や、組換えタンパク質として製造する方法などが挙げられる。製造量、品質の均一性、製造コスト等の観点から、組換えタンパク質として製造することが好ましい。

【0041】
組換えヒトラミニン(全長またはその一部)は、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。組換えヒトラミニン211E8の製造方法を例として以下説明する。組換えヒトラミニン211E8の製造方法としては、例えば、ヒトラミニン211E8のα鎖、β鎖およびγ鎖の各タンパク質をコードするDNAをそれぞれ取得し、これをそれぞれ発現ベクターに挿入し、得られた3種類の発現ベクターを適切な宿主細胞に共導入して発現させ、3量体を形成しているタンパク質を公知の方法で精製することにより製造できる。例えば、Idoら(Hiroyuki Ido, Aya Nakamura, Reiko Kobayashi, Shunsuke Ito, Shaoliang Li, Sugiko Futaki, and Kiyotoshi Sekiguchi, “The requirement of the glutamic acid residue at the third position from the carboxyl termini of the laminin γ chains in integrin binding by laminins” The Journal of Biological Chemistry, 282, 11144-11154, 2007.)に記載の方法に従って作製することができるが、これに限定されるものではない。例えばヒトラミニン211を構成するα2鎖、β1鎖、γ1鎖をそれぞれコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列情報および各鎖のアミノ酸配列情報は、表1に記載したアクセッション番号で公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。表1にラミニンを構成するα鎖、β鎖、γ鎖の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報の一例を記載する。第1のラミニンは、筋衛星細胞との接着性を有していればよく、例えば、これら特定のアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたタンパク質であってもよい。

【0042】
【表1】
JP2017078029A1_000002t.gif

【0043】
本実施形態において、第1のラミニンは、動物のラミニンであることが好ましく、哺乳動物のラミニンであることがより好ましく、マウス、ラット、ブタ、ウサギ、サルまたはヒトのラミニンであることがさらに好ましく、実用化の観点からヒトのラミニンであることが特に好ましい。

【0044】
培養用材料中に含まれる第1のラミニンは、1種のみのラミニンでもよいし、2種以上のラミニンであってもよい。第1のラミニンとしては、特に限定されないが、ヒトラミニンを含むことが好ましく、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことがより好ましい。第1のラミニンのアイソフォームとしては、ヒトラミニンα2β1γ1、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1からなる群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンを含むことが好ましく、ヒトラミニンα2β1γ1を含むことがより好ましい。また、第1のラミニンとして、ヒトラミニンα2β1γ1E8、ヒトラミニンα3β3γ2E8、ヒトラミニンα4β1γ1E8およびヒトラミニンα5β1γ1E8からなる群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンのE8フラグメントを含むことが好ましく、ヒトラミニンのα2β1γ1のE8フラグメントを含むことがより好ましい。本実施形態の一態様として、第1のラミニンに含まれる全ラミニン中、ヒトラミニンα2β1γ1のE8フラグメントの割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。これら第1のラミニンを含む培養用材料を用いると、未分化の筋衛星細胞の割合が高い状態を維持して、細胞を培養することができる。

【0045】
以下、本実施形態の培養用材料として、筋衛星細胞培養用培養基材および筋衛星細胞培養用培地について説明するが、筋衛星細胞培養用材料は、筋衛星細胞の培養に用いられる材料であればよく、特にこれらに限定されるものではない。

【0046】
<筋衛星細胞培養用培養基材>
本実施形態の筋衛星細胞培養用培養基材(単に「培養基材」と記載することもある)は、第1のラミニンを含む。第1のラミニンは、培養基材にコーティングされていてもよいし、内包されていてもよく、第1のラミニンが培養基材に少なくともコーティングされている態様が好ましい。第1のラミニンが培養基材にコーティングされている場合、第1のラミニンが培養基材の一部または全部にコーティングされていてよく、好ましくは培養時に培地と接する面にコーティングされている。

【0047】
本実施形態の培養基材は、培養器等の表面が第1のラミニンでコーティングされているのが好ましい。培養器としては、筋衛星細胞の培養に使用できるものであれば限定されず、例えば、シャーレ、フラスコ、ディッシュ、プレート、カバースリップ、マルチウェルプレート、カルチャースライド、マイクロキャリア、ポリビニリデンフルオリド膜等のポリマー膜などが挙げられる。また、培養器の素材としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、またはアクリル系ブロック共重合体(BCF)等が挙げられる。

【0048】
また、本実施形態の培養基材は、マイクロキャリア、ゼラチンハイドロゲル、コラーゲンスポンジなどの足場であってもよい。これら足場の形状は特に限定されず、例えば粒状であってもよいし、シート状であってもよい。足場として、市販品を用いてもよく、例えば、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製のCytodex、和光純薬工業株式会社製のMedGel等が挙げられる。本実施形態においては、これら足場に第1のラミニンがコーティングされていてもよいし、内包されていてもよいし、その両方であってもよい。

【0049】
(筋衛星細胞培養用培養基材の製造方法)
本実施形態の培養基材の製造方法は、特に限定されないが、第1のラミニンを適当な溶媒、例えばPBS、生理食塩水、トリスヒドロキシメチルアミノメタンあるいは4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルフォン酸で中性pHとした生理的食塩水などで希釈し、この溶液を適当な培養器に添加して、例えば、約2℃~約40℃、好ましくは約2℃~約37℃で、約1時間~約24時間、好ましくは約1時間から約15時間静置することにより、ラミニンが培養器表面にコーティングされた培養基材を得ることができる。培養器としては、筋衛星細胞の培養に使用できるものであれば限定されず、例えば、シャーレ、フラスコ、マルチウェルプレート、カルチャースライド、マイクロキャリア、ポリビニリデンフルオリド膜等のポリマー膜などが挙げられる。また、培養器の素材としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、またはアクリル系ブロック共重合体(BCF)等が挙げられる。

【0050】
第1のラミニンのコーティング濃度は、特に限定されないが、約0.5μg/cm~約25μg/cmが好ましく、約0.8μg/cm~約10μg/cmがより好ましい。

【0051】
第1のラミニンを培養器上にコーティングする際、コーティングは一度に行ってもよいし、2回以上行ってもよい。例えば、1種のアイソフォームのラミニンを培養基材上にコーティングした後、別のアイソフォームのラミニンをさらにその上にコーティングしてもよい。

【0052】
本実施形態の培養基材は、ラミニン以外のヒト由来成分等がコーティングされていてもよい。例えば血清成分、細胞外マトリックス分子、成長因子、分化誘導因子、形態形成因子(モルフォゲン)などが挙げられる。また、合成高分子ゲル(合成ポリマー)などの非生物成分がコーティングされていてもよい。

【0053】
本実施形態の培養基材は、ラミニンがコーティングされていることにより、従来用いられていたマトリゲルを用いずに未分化性を保持したまま筋衛星細胞を維持培養することが可能となる。さらに、異種由来の成分が排除されている培地を使用すれば、完全に異種由来の成分を含まない培養条件(ゼノフリー:Xeno-Free)で筋衛星細胞を培養することができ、例えば、ヒトラミニンでコーティングされた培養基材を用いてヒト筋衛星細胞を培養することにより、ヒトに対して免疫原性を発現する可能性が非常に低い、安全性の高いヒト筋衛星細胞を提供することができる。

【0054】
また、本実施形態の培養基材は、ラミニンが内包されていてもよい。第1のラミニンの内包濃度は、特に限定されないが、例えば、ディッシュのコーティングの場合、約0.5μg/cm~約25μg/cmが好ましく、約0.8μg/cm~約10μg/cmがより好ましい。

【0055】
<筋衛星細胞培養用培地>
本発明の培養用材料の一態様として、第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用培地であってもよい。筋衛星細胞培養用培地としては後述の筋衛星細胞の培養方法の説明中に記載の培地を用いてよい。また、筋衛星細胞培養用培地に含まれる第1のラミニンとしては、上記筋衛星細胞培養用培養基材に含まれる第1のラミニンと同様のものを用いることができる。

【0056】
<筋衛星細胞の培養方法>
本実施形態は、筋衛星細胞の培養方法を提供する。本発明の筋衛星細胞の培養方法の一態様は、筋衛星細胞と第1のラミニンとを接触させる接触工程を含む。本発明の培養方法によると、筋衛星細胞の未分化性を維持したまま増殖させることができる。本発明の筋衛星細胞の培養方法においては、第1のラミニンが、a)培地に含まれている;b)培養基材中に含まれている;またはc)培養基材にコーティングされていることにより、筋衛星細胞と第1のラミニンとが接触する態様が好ましく、a)、b)、およびc)のうち少なくとも1つの態様を含めばよく、2つ以上の態様を含んでもよい。

【0057】
本実施形態の筋衛星細胞の培養方法においては、上述の第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用培養基材および/または第1のラミニンを含む筋衛星細胞用培地を用いることが好ましく、少なくとも第1のラミニンを含む筋衛星細胞培養用培養基材を用いることがより好ましい。

【0058】
(筋衛星細胞)
本実施形態の培養方法に用いる筋衛星細胞は、動物の筋衛星細胞であることが好ましく、哺乳動物の筋衛星細胞であることがより好ましく、マウス、ラット、ブタ、ウサギ、サルまたはヒトの筋衛星細胞であることがさらに好ましく、ヒトまたはマウスの筋衛星細胞であることがさらに好ましく、ヒトの筋衛星細胞であることが特に好ましい。筋衛星細胞は、組織から分離した筋衛星細胞であることが好ましく、ヒトまたはマウス等の動物の組織からフローサイトメーター(FACS(fluorescence activated cell sorting))等を用いて分離してもよい。組織から筋衛星細胞を分離する方法は、例えば、Fukada S, Higuchi S, Segawa M et al. Purification and cell-surface marker characterization of quiescent satellite cells from murine skeletal muscle by a novel monoclonal antibody. Exp Cell Res 2004;296:245-255.を参照してもよい。別の態様として、ES細胞またはiPS細胞から筋衛星細胞を作製してもよい。

【0059】
(培地)
本実施形態の培養方法で使用する筋衛星細胞の未分化維持用の培地は、特に限定されないが、合成培地が好ましく、異種成分を含まない(ゼノフリー)合成培地が特に好ましい。市販または市販予定の合成培地としては、mTeSR1(商品名、StemCell Technologies)、TeSR2(商品名、StemCell Technologies)、StemPro hESC SFM(商品名、Invitrogen)、hESF-GRO(商品名、株式会社細胞科学研究所)等が挙げられる。このうちTeSR2が異種成分を含まない培地である。本願の実施例においては、未分化培地として、DMEM with GlutaMAX(Life Technologies社製)、20% fetal bovine serum(FBS; Sigma-Aldrich社製)、1% Chick Embryo Extract(US Biological社製)、100units/ml penicillin and 100μg/ml streptomycin(Life Technologies社製)、および5ng/ml basic-FGF(ReproCell社製)の混合培地が用いられている。また、以下の文献(1)~(5)に記載された培地も必要に応じて適宜改変を加えて用いられうる。
(1) Liu, Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 346:131-139, 2006.
(2) Vallier, L. et al., J. Cell Sci. 118:4495-4509, 2005.
(3) Li, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 91:688-698, 2005.
(4) Yao, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103:6907-6912, 2006.
(5) Lu, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103:5688-5693, 2006.

【0060】
(培養方法)
筋衛星細胞の培養方法は、本実施形態の第1のラミニンを含む培養用材料(好ましくは第1のラミニンがコーティングされている培養基材)を用いればよく、細胞を維持または増幅し得る方法であれば特に限定されない。筋衛星細胞の播種密度は、特に限定されないが、約2.0×10cell/cm~約2.0×10cell/cmが好ましく、約5.0×10cell/cm~約1.5×10cell/cmがより好ましく、約7.0×10cell/cm~約1.25×10cell/cmがさらに好ましい。培養温度としては、例えば、30~40℃の範囲内、好ましくは36~38℃の範囲内、より好ましくは37℃を好適に例示することができる。また、細胞をより好適に維持または増幅する観点から、培地交換を適当な時期に行うことが好ましい。培地交換の頻度としては、細胞を維持または増幅し得る限り特に制限されないが、例えば1~5日間経過毎、好ましくは3日間経過毎としてもよい。培地交換においては、培地の全部を交換してもよいし、一部のみを交換してもよい。また、筋衛星細胞の培養においては必要により継代を行ってもよく、継代の頻度としては、細胞を維持または増幅し得る限り特に制限されず、細胞の集団が大きくなってきたタイミングで適宜行うことができ、例えば、4~12日間経過毎、好ましくは6~10日間経過毎とすることができる。

【0061】
また、筋衛星細胞の培養方法は、本実施形態の第1のラミニンが培地に含まれていれば、必ずしもラミニンがコーティングされている培養基材を用いる必要はない。培地に含められる第1のラミニンの使用量は、特に限定されないが、例えば、筋衛星細胞7.5×10個に対し、第1のラミニンを好ましくは0.1~0.5μg、より好ましくは0.2~0.4μgとなるように混合してもよい。

【0062】
筋衛星細胞の培養方法の一態様として、筋衛星細胞を本実施形態の培養基材を用いて培養する工程に加え、さらに、筋衛星細胞と、第1のラミニンとは別の第2のラミニンとを接触させる工程を含むことが好ましい。以下、
i)筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程(以下、「工程(i)」とも記載する)、および
ii)筋衛星細胞を、第1のラミニン含む培養基材を用いて培養する工程(以下、「工程(ii)」とも記載する)
として、説明する。

【0063】
本実施形態の培養方法においては、少なくとも工程(ii)を含めばよいが、工程(i)と工程(ii)を含むことにより、工程(ii)のみを行う場合より未分化性を維持した筋衛星細胞の割合がさらに高い状態で筋衛星細胞を増殖させることができる。工程(i)と工程(ii)を行う順序は限定されず、両工程を同時に行ってもよいし、工程(i)を行った後工程(ii)を行ってもよいし、その逆であってもよく、工程(i)と工程(ii)とを交互に繰り返し行ってもよい。

【0064】
工程(i)においては、筋衛星細胞と、第2のラミニンとを接触させる。第2のラミニンのアイソフォームは、1種であっても2種以上であってもよい。また、第2のラミニンは全長であってもその一部であってもよく、E8フラグメントを含むことが好ましい。なお、第1のラミニンと第2のラミニンのアイソフォームおよびサイズ等は互いに独立であり、その一部または全部が同一であっても異なっていてもよい。

【0065】
第2のラミニンのアイソフォームとしては、特に限定されないが、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1からなる群より選択される少なくとも1種のヒトラミニンを含むことが好ましい。すなわち、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1からなる群より選択される1種であってもよいし、2種であってもよいし、3種すべてを含んでもよい。これらのうち、第2のラミニンがヒトラミニンα3β3γ2、α4β1γ1およびα5β1γ1の混合物を含むことが特に好ましい。第2のラミニンに含まれる全ラミニン中、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1の合計含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。

【0066】
第2のラミニンは、各ラミニンのE8フラグメントを含むことが好ましく、実用化の観点からヒトラミニンのE8フラグメントであることがさらに好ましい。第2のラミニンとして複数のラミニンを用いる場合、各ラミニンの混合比は特に限定されない。例えば、ヒトラミニン332E8、ヒトラミニン411E8及びヒトラミニン511E8を用いる場合、ヒトラミニン332E8の重量100重量%に対し、ヒトラミニン411E8及びヒトラミニン511E8が、それぞれ独立に、50~200重量%であるのが好ましく、70~150重量%であるのがより好ましく、80~120重量%であるのがさらに好ましく、各ラミニンがほぼ等重量であることが特に好ましい。第2のラミニンと筋衛星細胞とを接触させることにより、未分化筋衛星細胞の増殖をさらに促進することができる。この理由は定かではないが、本発明者らは、第2のラミニンと筋衛星細胞とが接触することにより、筋衛星細胞の周囲に第2のラミニンが付着して筋衛星細胞がコーティングされ、培養基材上の第1のラミニンと相互作用しやすくなるのではないかと推測している。

【0067】
工程(i)の一態様として、第2のラミニンが、筋衛星細胞の培養培地中に含まれていてもよい。すなわち、筋衛星細胞の培養培地中で、筋衛星細胞と第2のラミニンとが接触した状態となることが好ましい。培養培地中に、筋衛星細胞と第2のラミニンが加えられる順序および方法は特に限定されない。

【0068】
本実施形態の培養方法の一態様として、工程(i)の後工程(ii)を行う、すなわち、筋衛星細胞を培養基材上に播種する前に、筋衛星細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程を行ってもよい。工程(i)においては、例えば、第2のラミニンと、播種する筋衛星細胞の一部または全部とを、筋衛星細胞用の培地等の中に含ませてプレインキュベーションを行い、このプレインキュベーション後の筋衛星細胞を第1のラミニンがコーティングされている培養基材中に播種する方法が好適に挙げられる。プレインキュベーションは、好ましくは36~38℃程度、より好ましくは約37℃で、好ましくは10分~2時間程度、より好ましくは20分~1時間程度インキュベートする方法が挙げられる。あるいは、所定の温度、時間でプレインキュベーションすることなく、筋衛星細胞と第2のラミニンとを培地等の中で混合して、そのまま培養基材上に移してもよい。

【0069】
工程(i)の別の一態様として、培養基材上に筋衛星細胞と第2のラミニンとを別々に移してもよい。例えば、培養基材上に培地とともに筋衛星細胞を播種した後に第2のラミニンを培地中に加えてもよいし、第2のラミニンを含む培地を培養基材上に移した後、筋衛星細胞を播種してもよいし、培養基材上に培地を移した後、第2のラミニンと筋衛星細胞とを別々に加えてもよい。

【0070】
工程(i)における第2のラミニンの使用量は、特に限定されないが、例えば、筋衛星細胞7.5×10個に対し、第2のラミニンを好ましくは0.1~0.5μg、より好ましくは0.2~0.4μgとなるように混合してもよい。また、工程(i)においては、特に限定されないが、培地50μlに対し、筋衛星細胞が5.0×10~1.0×10個程度になるように筋衛星細胞と第2のラミニンとを培地中で混合してプレインキュベーションする態様が好ましく挙げられる。

【0071】
本実施形態の培養方法の好ましい一態様として、
ヒトラミニン332E8、ヒトラミニン411E8及びヒトラミニン511E8から選ばれる少なくとも一種と、筋衛星細胞とを接触させて、プレインキュベーションされた筋衛星細胞を調製する工程と、
該プレインキュベーションされた筋衛星細胞を、ヒトラミニン211E8がコーティングされた培養基材中に播種する工程と
を含む培養方法が挙げられる。

【0072】
本実施形態の培養方法の一態様として、上記工程(ii)に加えて、または上記工程(i)および工程(ii)に加えて、
筋衛星細胞と、筋衛星細胞の増殖刺激物質とを接触させる工程(以下、工程(iii)とも記載する)
を含むことが好ましい。

【0073】
筋衛星細胞と増殖刺激物質とを接触させる方法は、特に限定されないが、増殖刺激物質が筋衛星細胞の培養用培地中に含まれることにより筋衛星細胞と接触することがより好ましい。

【0074】
増殖刺激物質としては、特に限定されないが、例えばJAK/STAT阻害剤、代替血清が挙げられる。増殖刺激物質を用いると、筋衛星細胞の未分化性を高い割合で維持したまま筋衛星細胞の増殖率も向上させることができ好ましい。

【0075】
本明細書において、「JAK/STAT阻害剤」は、JAK/STAT相互作用の量および/または活性を、減少もしくは抑制することができる任意の化合物のことをいう。JAK/STAT阻害剤は、JAK阻害剤またはSTAT阻害剤であってもよい。JAK阻害剤は、JAK分子の量または活性をダウンレギュレートする。STAT阻害剤は、STAT分子の量または活性をダウンレギュレートする。これらのJAK/STAT経路への阻害は、JAKに対する直接的な結合、STATに対する直接的な結合、またはJAKもしくはSTATをコードする遺伝子の発現を阻害することを含む様々な機構(例えばJAK/STAT経路の遺伝子サイレンシングのためのRNAi)、JAK/STAT経路をダウンレギュレートするためのアンチセンスオリゴヌクレオチド等によって達成され得る。一般に、JAK/STAT阻害剤は、小分子化合物(例えば4‐(4’‐ヒドロキシフェニル)アミノ‐6,7‐ジメトキシキナゾリン)、タンパク質、ポリペプチドまたは核酸であり得る。JAK/STAT阻害剤については、例えば非特許文献「Price FD, von Maltzahn J, Bentzinger CF, Dumont NA, Yin H, Chang NC, Wilson DH, Frenette J, Rudnicki MA. Inhibition of JAK-STAT signaling stimulates adult satellite cell function. Nat. Med., 20, 1174-81, 2014.」を参照することができる。具体的には、JAK/STAT阻害剤として、例えば、AG490、5,15-DPP、S3i-201、WP-1034、Stattic、ルキソリチニブ、トファシチニブ、バリシチニブ等が挙げられる。

【0076】
代替血清としては、例えば、Ultroser G Serum substitute(Pall社製)が挙げられる。

【0077】
増殖刺激物質が筋衛星細胞の培養用培地に含まれる場合、その含有量は、特に限定されないが、0.5~50nMであることが好ましい。増殖刺激物質がJAK/STAT阻害剤の場合の培地中の含有量は、好ましくは1.0~5×10nMである。

【0078】
なお、上記培養方法は筋衛星細胞の培養方法として記載したが、培養する細胞は筋衛星細胞以外の多能性幹細胞であってもよい。すなわち、多能性幹細胞と第2のラミニンとを接触させる接触工程、および多能性幹細胞を第1のラミニンでコーティングされている培養基材上で培養する工程を含む細胞の培養方法であってもよい。本発明において利用可能な多能性幹細胞としては、ES細胞(胚性幹細胞)またはiPS細胞(人工多能性幹細胞)、特に、皮膚線維芽細胞由来iPS細胞、胎児肺細胞由来iPS細胞、包皮線維芽細胞由来iPS細胞、もしくは心臓線維芽細胞由来iPS細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、腸管上皮幹細胞が挙げられる。また、GS細胞(多能性生殖幹細胞)、ES細胞と体細胞との融合細胞も用いられうる。本発明において好ましく利用可能な多能性幹細胞は、霊長類または齧歯類の細胞であり、より具体的にはヒト、マウス、またはラットの細胞のいずれかである。あるいは、ブタ、ウサギ、サルの多能性幹細胞も使用されうる。

【0079】
<キット>
本発明は、一態様として、筋衛星細胞培養用のキット(以下、単に「キット」とも呼ぶ)を提供する。本実施形態のキットは第1のラミニンを含む。これに加えて、キットは、培養器、第2のラミニン、筋衛星細胞の未分化性を維持するための培養培地、該培養培地に添加する添加剤、細胞増殖刺激因子、取扱説明書、および他の付属品等を含んでもよい。これらのうち、本実施形態のキットは、第1のラミニンに加えて、培養器及び/又は第2のラミニンを含む態様が好ましい。

【0080】
本キットに含まれる第1のラミニン、培養器、および第2のラミニンは、本明細書に記載のものが挙げられるが限定されない。培養培地の形態は、液体、固体、ゲル、粉末など任意のものでよく、解凍して、あるいは水に溶解して用いるものでもよい。培養培地は、1つの容器に全ての成分が含まれていても、成分ごとに複数の容器に分けられていてもよく、キットに含まれる培養培地の種類、数等に制限はない。また、培地は任意のサプリメントを加えて用いるものであってもよい。

【0081】
本キットの一つの態様において、第1のラミニンとして、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことが好ましい。第1のラミニンのアイソフォームとしては、ヒトラミニンα2β1γ1、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1からなる群より選択される少なくとも一種のヒトラミニンを含むことが好ましく、ヒトラミニンα2β1γ1を含むことがより好ましい。さらに好ましくは、第1のラミニンがヒトラミニンα2β1γ1E8を含む。

【0082】
本キットの一つの態様において、第2のラミニンとして、ヒトラミニンのE8フラグメントを含むことが好ましい。第2のラミニンのアイソフォームとしては、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1からなる群より選択される少なくとも1種のヒトラミニンを含むことが好ましく、ヒトラミニンα3β3γ2E8、ヒトラミニンα4β1γ1E8およびヒトラミニンα5β1γ1E8からなる群より選択される少なくとも1種のヒトラミニンのE8フラグメントを含むことがより好ましい。好適な例として、本キットの第2のラミニンは、ヒトラミニンα3β3γ2、ヒトラミニンα4β1γ1およびヒトラミニンα5β1γ1の混合物であってもよく、その混合比(重量比)は1:1:1であってもよい。

【0083】
本キットの一つの態様において、第1のラミニンおよび第2のラミニンは適当な溶媒、例えばPBS、生理食塩水、トリスヒドロキシメチルアミノメタンあるいは4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルフォン酸で中性pHとした生理的食塩水などで希釈されていてもよい。

【0084】
本キットの一つの態様において、培養器としては、筋衛星細胞の培養に使用できるものであれば限定されず、シャーレ、フラスコ、マルチウェルプレート、カルチャースライド、マイクロキャリア、ポリビニリデンフルオリド膜等のポリマー膜などが挙げられる。培養器の素材としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、またはアクリル系ブロック共重合体(BCF)等が挙げられる。

【0085】
<分化誘導>
本実施形態の筋衛星細胞は、分化誘導を行って筋芽細胞、筋管細胞、筋繊維へ分化させることができる。分化誘導は、例えば、培養液をDMEM with GlutaMAX(Life Technologies社製)、5% horse serum(Life Technologies社製)、100units/ml penicillinおよび100μg/ml streptomycin(Life Technologies社製)に変えて、5%CO、37℃の条件下で培養することで行うことができる。分化誘導の方法は、例えば、非特許文献「ISOLATION AND GROWTH OF MOUSE PRIMARY MYOBLASTS Springer, M.L., T. Rando, and H.M. Blau (1997). Gene delivery to muscle. In Current Protocols in Human Genetics.」に記載の方法を参照してもよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を示して本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
本発明者らは、筋衛星細胞の未分化維持培養方法を検討する前に、まず生体内での筋衛星細胞の周囲に存在するラミニンα鎖の発現を解析し、筋衛星細胞のニッチとしてどのラミニンα鎖が機能しているかを調べた。そのin vivoでの発現データに基づき、in vitroにおいて、ラミニンE8フラグメントの種類の組合せ等、未分化を維持した状態での筋衛星細胞の培養条件を検討した。これら新規の培養方法を、マウスの筋衛星細胞とヒトの筋衛星細胞とを用いて検証した。以下、具体的に説明する。
【実施例】
【0088】
<例1:マウス骨格筋組織でのラミニンα鎖の発現>
(組織免疫蛍光化学染色)
まず、生体内での筋衛星細胞の周囲に存在するラミニンα鎖の発現を解析した。生後8週齢のマウスを安楽死させた後、前脛骨筋を取り出し、液体窒素で冷やしたイソペンタン(Wako)で凍結させた。クライオスタット(Leica)を用いて、8μmの厚みで凍結切片を作成し、乾燥させた後に4%パラホルムアルデヒド/PBSで室温で10分間固定した。M.O.M. kit(Vector Laboratories)を用いて室温で1時間ブロッキンングした後、一次抗体としてラット抗ラミニンα鎖(α1-5)抗体、マウス抗Pax7抗体(Developmental Studies Hybridoma Bank)を4℃で一晩反応させ、PBSで洗浄後、二次抗体としてマウス/ラットIgG-Alexa488/-Alexa594(Invitrogen)を室温で一時間反応させた。PBSで洗浄後、Mounting medium for fluorescence with DAPI(Vector Laboratories)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)により解析を行った。なお、「Pax7」の発現は、静止期の未分化の筋衛星細胞の指標となる。
【実施例】
【0089】
結果を図1A及び図1Bに示す。図1A及び図1Bは、マウス筋組織(前脛骨筋)を用いて免疫蛍光化学染色により、ラミニンα鎖とPax7を検出した像である。図1A中、「DAPI(4',6-diamino-2-phenylindole)」は、UV励起光下で青色蛍光を発し、細胞内の核の局在を示す。「merge」は、ラミニン、Pax7及びDAPIの画像を電子情報的に融合した図である。左からラミニンα1、2、3、4、5鎖の各染色像である。筋繊維の辺縁に沿って基底膜由来のラミニンα2鎖の発現が確認された。さらに同じく筋線維辺縁と、特に筋衛星細胞(Pax7陽性細胞)の周囲にラミニンα3、4、5鎖の発現がみられた(図1B)。ラミニンα1鎖の発現はみられなかった。
【実施例】
【0090】
図1Bは、図1Aのラミニンα3、α4、α5鎖の染色像の拡大図を示している。筋衛星細胞の周囲にラミニンα3、α4、α5鎖が発現し局在していた。
【実施例】
【0091】
図1Cは、筋再生後、自己複製したと思われる筋衛星細胞の周囲に発現しているラミニンα鎖の解析結果を示している。マウス前脛骨筋にカルディオトキシンを注入し、筋再生を誘発し7日後の再生筋の凍結切片を作製した。上からラミニンα3、4、5鎖の免疫染色結果につき、共焦点レーザー顕微鏡によるz-stack画像を解析したものである。自己複製したと思われる筋衛星細胞の周囲にα3、α4、α5鎖が筋衛星細胞を包み込むように強く発現・局在していた。なお、「マウス前脛骨筋にカルディオトキシンを注入し、筋再生を誘発する」方法は、下記文献(6)~(8)を参照した。
(6) Biochemistry. 1975 Jul;14(13):2865-71. The complete covalent structure of a cardiotoxin from the venom of Naja nigricollis (African black-necked spitting cobra). Fryklund L, Eaker D.
(7) J Pharmacol Exp Ther. 1976 Mar;196(3):758-70. Mechanism of action of cobra cardiotoxin in the skeletal muscle. Lin Shiau SY, Huang MC, Lee CY.
(8) Biol Cell. 1988 62(2):171-82. Regeneration of muscles after cardiotoxin injury. I. Cytological aspects. Couteaux R, Mira JC, d’Albis A.
【実施例】
【0092】
<例2:マウス筋衛星細胞のラミニンE8フラグメントへの接着効率の比較>
(マウス筋衛星細胞の分離)
生後8週齢のマウスを安楽死させ、前肢と下肢の骨格筋組織を摘出し、ハサミで切り刻んだ後、0.14%II型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical社製)で37℃の条件下で一時間処理した。その後、セルストレーナー100μmと40μm(BD Biosciences社製)で細胞を濾過し、抗体標識を行った。抗CD31抗体(BD Biosciences社製)、抗CD45抗体(BD Biosciences社製)、抗Sca1抗体(BD Biosciences社製)、ビオチン化抗SM/C-2.6抗体を氷上で30分間反応させた後、ストレプトアビジン-APC(BD Biosciences社製)を氷上で20分間反応させた。抗体反応させた細胞はHBSS(WAKO社製)に20%FBS(Hyclone社製)、10%HEPES(gigco社製)、100μg/ml streptomycin(Life Technologies)を添加したものに懸濁し、Propidium Iodide(PI)を加えた。MoFlo flow cytometer(Beckman社製)を用いて、CD31陰性、CD45陰性、Sca1陰性、SM/C-2.6陽性の分画を筋衛星細胞としてソーティングした。この分離したマウス筋衛星細胞を用いて、下記の細胞接着実験を行った。
【実施例】
【0093】
(マウス筋衛星細胞の細胞接着実験)
96wellプレート(Dynex Techonologies社製)にマトリゲル(BD Biosciences社製)または図2に記載の各アイソフォームのラミニンE8フラグメント(1.53μg/cm)を4℃で一晩静置してコートした。細胞を播種する前に1%BSA(Sigma-Aldrich)/Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)with GlutaMAX(Life Technologies社製)で室温で2時間以上ブロッキングし、0.1%BSA/DMEM with GlutaMAXで2回洗浄をした。フローサイトメーターでソーティングした筋衛星細胞は0.1%BSA/DMEM with GlutaMAXで2回洗浄した後、蛋白質(マトリゲルまたは図2に記載の各アイソフォームのラミニンE8)をコートした96wellプレートに播種し、3時間37℃でインキュベーションした。その後、培養液を除き0.2%クリスタルバイオレット/20%メタノールを加え10分間固定・染色を行い、純水で2回洗浄した。風乾させた後、染色された細胞数を測定した。なお、本例及び以下の例で用いたラミニンは、ヒトラミニンの各アイソフォームである。
【実施例】
【0094】
マウス筋衛星細胞の細胞接着実験の結果を図2に示す。横軸は96wellプレートをコーティングしたタンパク質の種類を表し、縦軸はマトリゲルに接着した細胞数を1として、各ラミニンがコーティングされたプレートにおける接着した細胞の数の相対比を表す。図2中、横軸の「LM」は各ラミニンのアイソフォームのE8フラグメントを示し、例えば、「LM111」は、「ヒトラミニンα1β1γ1のE8フラグメント」を表す。図2のグラフ中、エラーバーは3個以上の独立した実験(n≧3)における標準誤差を示す。スチューデントのt検定を行い、**はマトリゲルの実験値に対してP<0.01であることを示す。既知の細胞外基質であり従来法で使われているマトリゲルと比較して、ラミニン(LM)332、411、511E8では同等以上の細胞接着活性がみられた。特にLM511E8では細胞接着活性が有意に上昇した。
【実施例】
【0095】
<例3-1:マウス筋衛星細胞のラミニンE8フラグメントを用いた培養の比較>
コーティングは8wellチャンバー(MATSUNAMI社製)に、それぞれ、マトリゲルまたは図3Aに記載のヒトラミニン(LM)の各アイソフォームのE8フラグメント(1.02μg/cm)を4℃で一晩コートした。細胞を播種する前にPBSで洗浄を行った。
【実施例】
【0096】
例2に記載の方法と同様にフローサイトメーターでソーティングしたマウス筋衛星細胞を調製し、細胞密度7.5×10個/cmとなるように、蛋白質(マトリゲルまたは図3A記載のヒトラミニンのE8フラグメント)をコートした上記8wellチャンバーに播種した。マトリゲルをコーティングしたチャンバーに筋衛星細胞を播種した試料(i)、ラミニン(LM)511E8をコーティングしたチャンバーに筋衛星細胞を播種した試料(ii)(LM511E8)、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8と、筋衛星細胞とのプレインキュベーション処理を行った後、ラミニン211E8をコートしたチャンバー上で培養した試料(iii)(pre3/4/5-on2)を作製した。図3A(a)に試料(ii)と試料(iii)の調製方法の概略を示す。試料(iii)については、播種する前に、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8を混合比(重量)1:1:1で含む培養液(0.3μg/50μl)に約7500個の筋衛星細胞を懸濁し、37℃の条件下で30分間反応させたのち、蛋白質(ラミニン211E8)をコートした8wellチャンバーに播種した。なお、プレインキュベーションに用いた培養液は下記の筋衛星細胞培養用の培養液である。
【実施例】
【0097】
筋衛星細胞培養用の培養液は、DMEM with GlutaMAXに20% fetal bovine serum(FBS; Sigma-Aldrich)、1% Chick Embryo Extract(US Biological)、100units/ml penicillin and 100μg/ml streptomycin(Life Technologies)、5ng/ml basic-FGF(ReproCell)を添加したものを用い、5%CO、37℃の条件下で4~6日培養を行った。培養3日目に培養液を交換し、4日目以降は毎日半量の培養液交換を行った。
【実施例】
【0098】
(細胞免疫蛍光化学染色)
4%パラホルムアルデヒド/PBSを用いて、上記により培養した各試料の細胞を室温で10分間固定し、0.2%Triton X-100(Sigma-Aldrich)/PBSで室温で10分間透過処理をした。Power Block Universal Blocking Reagent(BioGenex Laboratories)で1時間ブロッキンングした後、一次抗体としてマウス抗Pax7抗体を4℃の条件下で一晩中反応させ、PBSで洗浄後、二次抗体としてマウスIgG-Alexa488を室温で一時間反応させた。PBSで洗浄後、Mounting medium for fluorescence with DAPIを用いて封入し、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X700(キーエンス)により解析を行った。
【実施例】
【0099】
結果を図3A(b)および(c)に示す。図3A(b)および(c)において、「LM511E8」は、ラミニン511E8をコーティングしたチャンバーに筋衛星細胞を播種した試料を表し、「pre3/4/5-LM2」は、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8と、ヒト筋衛星細胞とのプレインキュベーション処理を行った後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した試料を表す。図3A(b)は例1と同様に行った免疫蛍光化学染色により検出した画像を示す。図3A(c)の上側のグラフにおける「Pax7陽性細胞数/DAPIの相対値」はPax7陽性細胞率であり、具体的には、Pax7陽性細胞数を全細胞数(DAPI陽性細胞数)で割った数値を、マトリゲル上で培養した場合の該値を1として相対値として示したものである。図3A(c)の下側のグラフにおける「Pax7陽性細胞数の相対値」は、Pax7陽性の細胞数を、マトリゲル上で培養した場合の該値を1として相対値として示したものである。なお、図3A(c)のグラフ中、エラーバーは3個以上の独立した実験(n≧3)における標準誤差を示す。スチューデントのt検定を行い、はマトリゲルの実験値に対してP<0.05、**はP<0.01であることを示す。Pax7陽性細胞率は、マトリゲル上で培養した筋衛星細胞の試料と比べて、LM511E8上で培養した試料では有意に上昇し、pre3/4/5-LM2はさらに有意に上昇した。また、Pax7陽性細胞数についても、pre3/4/5-LM2は、マトリゲル上で培養した試料より上昇した。
【実施例】
【0100】
<例3-2:筋衛星細胞の培養条件の検討>
培養基材であるディッシュ上をコーティングする第1のラミニンの種類、およびプレインキュベーションを行う場合の第2のラミニンの種類を、図3Bに示すとおりに変更して培養した試料について、例3-1と同様に培養してPax7陽性細胞率の相対値を算出し、培養条件をさらに詳細に検討した。図3B中の略号は下記のとおりである。なお、第2のラミニンは培養液50μl中0.3μg添加し、第2のラミニン中複数のラミニンを含む場合は、各ラミニンを等重量ずつ、合計0.3μg/50μlになるようにした。特にプレインキュベーションについての記載がない試料は、第2のラミニンは用いずに筋衛星細胞を播種した試料であることを意味する。
【実施例】
【0101】
mt:マトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した(コントロール)
lm2:ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した
lm3/4/5:ラミニン332E8、411E8、511E8をコートしたディッシュ上で培養した
lm5:ラミニン511E8をコートしたディッシュ上で培養した
prelm5-mt:ラミニン511E8でプレインキュベーションした後、マトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した
prelm5-lm2:ラミニン511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した
prelm5-lm5:ラミニン511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン511E8をコートしたディッシュ上で培養した
prelm4/5-mt:ラミニン411E8、511E8でプレインキュベーションした後、マトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した
prelm4/5-lm2:ラミニン411E8、511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した
prelm4/5-lm5:ラミニン411E8、511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン511E8をコートしたディッシュ上で培養した
prelm3/4/5-mt:ラミニン332E8、411E8、511E8でプレインキュベーションした後、マトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した
prelm3/4/5-lm2:ラミニン332E8、411E8、511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養
lm3/4/5 on lm2:ラミニン211E8を1.02μg/cmでコートした上に、ラミニン332E8、411E8、511E8を重量比1:1:1で含む混合物を1.02μg/cmでさらにコートしたディッシュ上で、筋衛星細胞を培養した
solutionlm3/4/5-lm2:ラミニン211E8をコートしたディッシュ上に筋衛星細胞を細胞密度7.5×10個/cmとなるように培養液とともに播種した後、培養液にラミニン332E8、411E8、511E8を等重量ずつ、合計0.3μg添加して培養した
prelm3/4/5-lm5:ラミニン332E8、411E8、511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン511E8をコートした上で培養
prelm2-Mt:ラミニン211E8でプレインキュベーションした後、マトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した
prelm2-lm2:ラミニン211E8でプレインキュベーションした後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した
【実施例】
【0102】
Pax7陽性細胞率は、マトリゲル上で培養した筋衛星細胞の試料と比べて、LM511E8でコーティングされたディッシュ上で培養した試料において有意に上昇し、prelm3/4/5-lm2、lm3/4/5 on lm2、solutionlm3/4/5-lm2で特に有意に上昇した。このうち、prelm3/4/5-lm2が最もPax7強陽性細胞率の平均値が高かった。
【実施例】
【0103】
<例4:ヒト筋組織でのラミニンα鎖の発現>
(ヒト筋組織の免疫蛍光化学染色)
ヒト骨格筋組織においてもマウス骨格筋組織と同様にラミニンα鎖の発現解析を行った。前十字靭帯再建術の際に摘出した半腱様筋由来組織を取り出し、液体窒素で冷やしたイソペンタン(Wako)で凍結させた。クライオスタット(Leica)を用いて、8μmの厚みで凍結切片を作成し、乾燥させた後に4%パラホルムアルデヒド/PBSで室温で10分間固定した。PowerBlock(BioGenex Laboratories)を用いて室温で1時間ブロッキンングした後、一次抗体としてマウス抗ラミニンα鎖(α1-5)抗体、マウス抗Pax7抗体(Developmental Studies Hybridoma Bank)を4℃で一晩反応させ、PBSで洗浄後、二次抗体としてマウス/ラットIgG-Alexa488/-Alexa594(Invitrogen)を室温で一時間反応させた。PBSで洗浄後、Mounting medium for fluorescence
with DAPI(Vector Laboratories)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)により解析を行った。
【実施例】
【0104】
図4は、ヒトの筋組織を用いて免疫蛍光化学染色によりラミニンとPax7を検出した像である。筋繊維に沿ってラミニンα2鎖の発現が確認された(図4(a))。さらに、筋衛星細胞の周囲にラミニンα3、α4、α5鎖の発現がみられた(図4(b))。ラミニンα1鎖の発現は見られなかった。
【実施例】
【0105】
<例5:ヒト筋衛星細胞の培養>
(ヒト筋衛星細胞の分離)
ヒト試料を用いた実験については、東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会の承認を受けている。東京医科歯科大学附属病院整形外科での前十字靭帯再建術の際に摘出した半腱様筋由来組織をハサミで切り刻んだ後、0.1%II型コラゲナーゼで37℃の条件下で一時間処理した。その後、セルストレーナー100μmと40μmを通し細胞を濾過した後に抗体標識を行った。抗CD31抗体、抗CD45抗体、抗CD235a抗体(BD Biosciences社製)、抗CD11b抗体(BD Biosciences社製)、抗CD34抗体(BD Biosciences社製)、抗CD56抗体(BD Biosciences社製)、抗インテグリンα7抗体(BD Biosciences社製)を氷上で30分間反応させた。抗体反応させた細胞はHBSSに懸濁し、PIを加えた。FACSはMoFlo flow cytometerを用いてCD31陰性、CD45陰性、CD235a陰性、CD11陰性、CD34陰性、CD56陽性、インテグリンα7陽性の分画を筋衛星細胞としてソーティングした。このソーティングされたヒト筋衛星細胞を用いて下記の培養実験を行った。
【実施例】
【0106】
(ラミニンE8フラグメントを用いたヒト筋衛星細胞の培養)
上述の方法によりフローサイトメーターを用いてソーティングしたヒト筋衛星細胞を、ラミニン332E8、411E8、511E8でプレインキュベーションした後、ラミニン211E8でコートしたディッシュ上で細胞を培養した(pre3/4/5-on2)。培養液は、DMEM with GlutaMAXに20% FBS、100units/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、25ng/ml basic-FGFを添加し5%CO、37℃の条件下で4~6日培養を行った。培養3日目に培養液を交換し、4日目以降は毎日半量の培養液交換を行った。プレインキュベーション処理は、マウス筋衛星細胞の代わりにヒト筋衛星細胞を用いた以外は例3-1と同様の方法により行った。比較実験として、マトリゲルをコーティングしたディッシュ上でヒト筋衛星細胞を培養した。各培養サンプルについて、例3-1と同様の方法によりPax7陽性細胞率の相対値、Pax7陽性細胞数の相対値を算出した。
【実施例】
【0107】
結果を図5(a)および(b)に示す。図5において、「pre345 on2」は、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8と、ヒト筋衛星細胞とのプレインキュベーション処理を行った後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した試料を意味し、「Mt」はマトリゲルをコートしたディッシュ上で培養した試料を意味する。図5(a)は例1と同様に行った免疫蛍光化学染色により検出した画像を示す。図5(b)はPax7陽性細胞率の相対値、Pax7陽性細胞数の相対値を示す。マトリゲルでディッシュをコーティングした場合と比べ、pre345 on2のヒト筋衛星細胞は、Pax7陽性細胞率およびPax7陽性細胞数共に上昇した。
【実施例】
【0108】
<例6:マウス筋衛星細胞の細胞移植実験>
例2に記載の方法と同様にC57BL/6-GFPトランスジェニックマウスからフローサイトメーターでソーティングしたマウス筋衛星細胞を調製し、細胞密度4.5×10個/cmとなるように、蛋白質(マトリゲルまたはヒトラミニンのE8フラグメント)をコートした6-wellプレート(Thermo Fisher Scientific)に播種した。(i)マトリゲルをコーティングしたチャンバーに筋衛星細胞を播種した試料と、(ii)ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8と、筋衛星細胞とをプレインキュベーション処理を行った後、ヒトラミニンのE8フラグメントとしてラミニン211E8をコートしたチャンバー上で培養した試料(pre3/4/5-on2)を作製した。プレインキュベーション処理を行った試料(ii)については、播種する前に、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8を混合重量比1:1:1で含む溶液(0.3μg/50μl)に細胞を懸濁し、37℃の条件下で30分間反応させたのち、蛋白質(ラミニン211E8)をコートした6-wellプレートに播種した。
【実施例】
【0109】
培養液は、DMEM with GlutaMAXに20% fetal bovine serum(FBS; Sigma-Aldrich)、1% Chick Embryo Extract(US Biological)、100units/ml penicillin and 100μg/ml streptomycin(Life Technologies)、5ng/ml basic-FGF(ReproCell)を添加したものを用い、5%CO、37℃の条件下で4~6日培養を行った。培養3日目に培養液を交換し、4日目以降は毎日半量の培養液交換を行った。
【実施例】
【0110】
培養した細胞をTrypsin-EDTA(Gibco)で剥がし、2.0×10個/50μlに調整し骨格筋再生を促したC57BL/6マウスの前脛骨筋に移植した。移植2週間後に移植をした前脛骨筋を取り出し、液体窒素で冷やしたイソペンタン(Wako)で凍結させた。クライオスタット(Leica)を用いて、8μmの厚みで凍結切片を作成し、乾燥させた後に4%パラホルムアルデヒド/PBSで室温で10分間固定した。M.O.M kit(VECTOR)を用いて室温で1時間ブロッキンングした後、一次抗体としてラット抗Lamininα2鎖抗体を4℃で一晩反応させ、PBSで洗浄後、二次抗体としてラットIgG-Alexa594(Invitrogen)を室温で一時間反応させた。PBSで洗浄後、Mounting medium for fluorescence with DAPI(Vector Laboratories)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)により解析を行った。
【実施例】
【0111】
結果を図6に示す。図6において、「pre3/4/5 on 2」は、ラミニン332E8、ラミニン411E8、およびラミニン511E8と、ヒト筋衛星細胞とのプレインキュベーション処理を行った後、ラミニン211E8をコートしたディッシュ上で培養した試料(上記(ii)の試料)を意味する。図6(a)は、免疫蛍光化学染色によりラミニンα2、DAPIおよびGFPを検出した像であり、下段は上段それぞれの拡大図である。図6(b)は、GFP陽性筋繊維数の相対値を示し、図6(c)は、GFP陽性筋繊維率の相対値を示す。図6のグラフ中、エラーバーは3個以上の独立した実験(n≧3)における標準誤差を示す。スチューデントのt検定を行い、マトリゲルの実験値に対して**はP<0.01、***はP<0.001であることを示す。マトリゲルでディッシュをコーティングした場合と比べ、pre3/4/5 on2で培養した筋衛星細胞を移植した前脛骨筋では、GFP陽性筋繊維数もGFP陽性筋繊維率も上昇した。これは、pre3/4/5 on2で培養したGFP陽性筋衛星細胞の方が、マトリゲルでコーティングされたディッシュ上で培養した試料より高い割合で未分化が維持されているため、損傷組織への生着率が高く、結果的にGFP陽性筋繊維の増加につながっているからであると推察される。
【実施例】
【0112】
この出願は、2015年11月4日に出願された日本出願特願2015-216609を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のラミニンがコーティングされている筋衛星細胞培養用培養基材を用いることにより、従来のマトリゲルを用いずに、ゼノフリーで、かつ未分化性を維持したまま筋衛星細胞を培養することができるため、損傷した筋への効率的な細胞移植再生治療等への利用が期待できる。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図2】
3
【図3A】
4
【図3B】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8