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明細書 :ホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出方法及び検出キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-054434 (P2018-054434A)
公開日 平成30年4月5日(2018.4.5)
発明の名称または考案の名称 ホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出方法及び検出キット
国際特許分類 G01N  21/78        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
C07C 225/22        (2006.01)
C07C 229/60        (2006.01)
C07C 221/00        (2006.01)
C07C 227/04        (2006.01)
C07C 255/58        (2006.01)
C07C 253/30        (2006.01)
C07C 211/46        (2006.01)
C07C 209/36        (2006.01)
C07C 211/52        (2006.01)
FI G01N 21/78 C
G01N 33/50 Z
G01N 21/64 Z
C07C 225/22
C07C 229/60
C07C 221/00
C07C 227/04
C07C 255/58
C07C 253/30
C07C 211/46
C07C 209/36
C07C 211/52
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2016-190085 (P2016-190085)
出願日 平成28年9月28日(2016.9.28)
発明者または考案者 【氏名】田中 克典
出願人 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100169579、【弁理士】、【氏名又は名称】村林 望
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G045
2G054
4H006
Fターム 2G043AA01
2G043AA03
2G043BA14
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043DA06
2G043EA01
2G043KA02
2G043LA01
2G045FB12
2G054AA07
2G054AB02
2G054AB05
2G054CD03
2G054CE02
2G054EA03
2G054GA03
2G054GA04
2G054GB02
2G054GE01
2G054GE08
4H006AA02
4H006AC52
4H006BJ50
4H006BR30
4H006BS30
4H006QN30
要約 【課題】酸化ストレスマーカーとして機能するアクロレイン-アミン付加体等のホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出方法を提供する。
【解決手段】サンプル中のホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物を検出する方法であって、サンプルと芳香族ニトロ化合物を反応させる工程と、当該反応により生じる蛍光を検出する工程とを含む、前記方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
サンプル中のホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物を検出する方法であって、
サンプルと下記一般式(I):
【化1】
JP2018054434A_000016t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を反応させる工程と、
前記反応により生じる蛍光を検出する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記反応工程を金属イオンの存在下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルが生物学的サンプルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(I):
【化2】
JP2018054434A_000017t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を含む、ホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出用組成物。
【請求項5】
一般式(I):
【化3】
JP2018054434A_000018t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を含む、ホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出キット。
【請求項6】
金属イオンをさらに含む、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
ホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物と下記一般式(I):
【化4】
JP2018054434A_000019t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物とを反応させる工程を含む、下記一般式(II)で示される化合物の合成方法。
【化5】
JP2018054434A_000020t.gif
(式中、R1及びmは、前記と同一である)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば酸化ストレスマーカーとして機能するアクロレイン-アミン付加体等のホルミルデヒドロピペリジン構造を含む化合物の検出方法及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
有機物(油脂、木炭、材木、樹脂製品等)やタバコが燃えた際に発生する不飽和アルデヒドのアクロレイン(図1A)は、非常に高い毒性を有している(非特許文献1)。このアクロレインは、生体内における酸化ストレス条件(活性酸素種の発生等)下でポリアミン、脂質、アミノ酸等の生体分子からも産生する(非特許文献1)。アクロレインは、非常に高い化学反応性を有しており、様々な基質と反応して、生体にダメージを与える。特に、核酸やタンパク質のアミノ基、チオール基、及び水酸基等と反応した際には、生体機能が損なわれ、種々の免疫・炎症システムの異常を引き起こすと考えられている。それゆえ、アクロレインと様々な酸化ストレス疾患との関係性を分子レベルで理解することは重要であり、またアクロレインの検出法の向上が要求されている。
【0003】
これまでアクロレインの検出は、求核付加による3-アミノフェノールへの変換や蛍光ヒドラジン修飾等の誘導化により行われてきたが、厳しい反応条件や他のアルデヒド共存下での選択性(化学直交性)の低さ等が課題であった。また高速液体クロマトグラフィーを用いずに、高精度且つ高効率な方法として、固相担体を用いる手法も開発されてきた。また、本発明者は独自に見出したアクロレインとアジドのクリック反応を用いて酸化ストレス条件の癌細胞上のアクロレインのイメージングに成功している(非特許文献2)。これは、酸化ストレス条件下の細胞から内因的若しくは外因的に発生するアクロレインに対して、直接的に蛍光アジドプローブを作用させることで可視化することができた。現在は、アクロレイン関連疾患の診断法として、アクロレイン-アミン付加体(非特許文献3)である3-ホルミル-3,4-デヒドロピペリジンを検出する手法が広く知られている。バイオマーカーとしてのホルミルデヒドロピペリジン(FDP)検出はアクロレインの生体濃度を間接的に指し示している。
【0004】
アクロレインの生理学的な役割を明らかにする研究に関して、千葉大学の五十嵐一衛教授をはじめとする、幾つかのグループが精力的に行ってきた。近年では、名古屋大学の内田浩二教授のグループが、タンパク質上のFDP構造を認識するモノクローナル抗体を作製し、タカラバイオ株式会社と共同してELISA-kitを市販化した(TaKaRa Acrolein-Lysine Adduct Competitive EIA Kit;非特許文献3~7)。とりわけ、この手法は、動脈硬化、アルツハイマー病、癌、糖尿病、自己免疫疾患、高血圧といった様々な疾患・病状を査定するために使用されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Alarcon, R. A. Acrolein. IV. Evidence for the formation of the cytotoxic aldehyde acrolein from enzymatically oxidized spermine or spermidine. Arch Biochem Biophys 137, 365-372 (1970).
【非特許文献2】Rachmat, P. A. et al. Uncatalyzed Click Reaction between Phenyl Azides and Acrolein: 4-Formyl-1,2,3-Triazolines as “Clicked” Markers for Visualizations of Extracellular Acrolein Released from Oxidatively Stressed Cells. ACS Sensors 1, 623-632, doi:10.1021/acssensors.6b00122 (2016).
【非特許文献3】Uchida, K. et al. Acrolein is a product of lipid peroxidation reaction. Formation of free acrolein and its conjugate with lysine residues in oxidized low density lipoproteins. J Biol Chem 273, 16058-16066 (1998).
【非特許文献4】Uchida, K. et al. Protein-bound acrolein: potential markers for oxidative stress. Proc Natl Acad Sci U S A 95, 4882-4887 (1998).
【非特許文献5】Zhang, X. et al. Evaluation of N (epsilon)-(3-formyl-3,4-dehydropiperidino)lysine as a novel biomarker for the severity of diabetic retinopathy. Diabetologia 51, 1723-1730, doi:10.1007/s00125-008-1071-3 (2008).
【非特許文献6】Maeshima, T. et al. Quantitative analysis of acrolein-specific adducts generated during lipid peroxidation-modification of proteins in vitro: identification of N(τ)-(3-propanal)histidine as the major adduct. Chem Res Toxicol 25, 1384-1392, doi:10.1021/tx3000818 (2012).
【非特許文献7】Tran, T. N. et al. Acrolein modification impairs key functional features of rat apolipoprotein E: identification of modified sites by mass spectrometry. Biochemistry 53, 361-375, doi:10.1021/bi401404u (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、酸化ストレスマーカーとして機能するアクロレイン-アミン付加体をより簡便に且つ効率的に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
また、非特許文献4及び6によれば、酸化ストレスマーカーとしてホルミルデヒドロピペリジン(FDP)構造を有する化合物(図1A中、化合物1)だけでなく、その酸化構造であるピリジニウム(図1A中、化合物2)も産生される。この酸化還元構造の発見は、FDP自身の酸化的芳香族化に伴う還元能力を示唆している。そのような例として、FDPとよく似たジヒドロピリジン環を有するニコチンアデニンヌクレオチド(NADH)は、天然の酸化還元剤として働くことが知られている(図1B;Aizpurua, J. M. et al. Mechanistic insights on the magnesium(II) ion-activated reduction of methyl benzoylformate with chelated NADH peptide beta-lactam models. J Org Chem 74, 6691-6702, doi:10.1021/jo901236d (2009))。またvasicineのような含窒素環天然物も酸化的芳香族化に伴ってニトロ基に対する還元能を示すことが知られている(図1C;Sharma, S., Kumar, M., Kumar, V. & Kumar, N. Metal-free transfer hydrogenation of nitroarenes in water with vasicine: revelation of organocatalytic facet of an abundant alkaloid. J Org Chem 79, 9433-9439, doi:10.1021/jo5019415 (2014))。もし、FDPも同じように還元能力を示すことができれば、非蛍光ニトロ化合物から蛍光のアミン化合物への変換に伴う蛍光スイッチングが実現できる(図1D)。これを活用することで、アクロレインのバイオマーカーを従来の抗体を使用せずに検出する手法へと展開できると考えた。
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、FDP構造を含む化合物は、効率的に芳香族ニトロ化合物を対応するアニリン化合物へと還元することができ、この変換反応に伴う蛍光スイッチングに基づいてFDP構造を含む化合物を検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下を包含する。
(1)サンプル中のFDP構造を含む化合物を検出する方法であって、
サンプルと下記一般式(I):
【化1】
JP2018054434A_000002t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を反応させる工程と、
前記反応により生じる蛍光を検出する工程と、
を含む、前記方法。
【0010】
(2)前記反応工程を金属イオンの存在下で行う、(1)に記載の方法。
(3)サンプルが生物学的サンプルである、(1)又は(2)に記載の方法。
【0011】
(4)一般式(I):
【化2】
JP2018054434A_000003t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を含む、FDP構造を含む化合物の検出用組成物。
【0012】
(5)一般式(I):
【化3】
JP2018054434A_000004t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を含む、FDP構造を含む化合物の検出キット。
(6)金属イオンをさらに含む、(5)に記載のキット。
【0013】
(7)FDP構造を含む化合物と下記一般式(I):
【化4】
JP2018054434A_000005t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物とを反応させる工程を含む、下記一般式(II)で示される化合物の合成方法。
【化5】
JP2018054434A_000006t.gif
(式中、R1及びmは、前記と同一である)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化ストレスマーカーとして機能するアクロレイン-アミン付加体等のFDP構造を含む化合物を、安価に且つ簡便に検出することができる。さらに、検出したアクロレイン-アミン付加体に基づいて、アクロレインを発症因子とする様々な疾患を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】A) アクロレイン-コンジュゲート(1)及びそのピリジニウム誘導体(2)の産生、B) NAD(P)Hによる還元、C) vacisineによる還元、並びにD)非蛍光ニトロアレンから蛍光アニリンへの還元を用いたFDPの検出を示す図である。
【図2】A) シアノ置換アニリンの蛍光及び反応性プロフィール、B) 4-ニトロフタロニトリル(3p)の還元、C) 3p及び4pの340 nm励起での蛍光スペクトル、並びにD) FDP還元による蛍光強度の時間依存性分析(標準偏差と共に平均値を示す)を示す図である。λex = 励起波長, λem = 発光波長, Φ = 量子収量。
【図3】A) 様々な酸化還元試薬(air, H2O2, MgCl2, MgSO4, CaCl2, FeCl2, CuSO4, cysteine, cystine, GSH, NaSH)の存在下でのN-Bn FDPの安定性(回収率を、内部標準(ジメチルスルホン)を用いた1H NMRで決定した)、並びにB) 様々な酸化還元試薬の存在下でのニトロベンゼン3pの安定性(変換をアニリンの蛍光で評価し、標準偏差と共に平均値を示す)を示す図である。
【図4】A) 検出プロトコールにおける真正の標準として調製されたN-lys FDP 1b溶液(0, 2, 5, 10, 20, 30, 50 nmol/mL)による蛍光強度、並びにB) FDP単位当たりの蛍光強度の算出結果を示す図である。反応を、最適なキット条件(3p: 1.7 mg; CaCl2: 5.5 mg; temp: 100 ℃; 時間: 5 h)下で行った。標準偏差と共に平均値を示す。
【図5】A)マウス及びラットの血液及び尿サンプルのための本発明に係る検出方法のプロトコール、並びにB) 0 (通常)、1、20又は60日に渡ってアクロレインで処理したラットの血清を用いた検出及びELISA法との比較を示す図である。標準偏差と共に平均値を示す。**p < 0.01; p値を両側Student t検定により決定した。
【図6】A) 6週齢マウスの20倍希釈した尿サンプルを用いたFDPの検出及びELISA法との比較、並びにB) 10匹のマウス(4、10、24又は50週齢)由来の尿サンプルを用いた同時検出を示す図である。標準偏差と共に平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るサンプル中のFDP構造を含む化合物を検出する方法(以下、「本方法」と称する)は、当該FDP構造を含む化合物を含有する、又は含有する可能性があるサンプルと下記一般式(I):
【化6】
JP2018054434A_000007t.gif
(式中、
R1は、独立に、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基から選ばれる基を表し、
mは、2~5の整数を表し、好ましくは2であり、
ただし、複数のR1のうち少なくとも1つは、電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基を表す)
で示される化合物を反応させる工程を含む方法である。当該反応によれば、サンプルがFDP構造を含む場合には、一般式(I)で示される化合物がFDP構造を含む化合物との反応により還元され、一般式(I)で示される化合物に対応する下記一般式(II):
【化7】
JP2018054434A_000008t.gif
(式中、R1及びmは、上記一般式(I)のものと同一である)
で示されるアニリン化合物が生じる。当該アニリン化合物の蛍光を検出し、当該蛍光を指標にFDP構造を含む化合物の有無を検出することができる。また、当該蛍光の強度に基づいて、FDP構造を含む化合物を定量的に検出することも可能である。

【0017】
本方法において検出されるFDP構造を含む化合物としては、特に限定されず、合成された化合物や生体分子等に存在するアミノ基とアクロレインが反応して生成した化合物が挙げられる。

【0018】
具体的には、タンパク質又はペプチドに含まれるアミノ基にアクロレインが反応して生成した、下記一般式:
【化8】
JP2018054434A_000009t.gif
(式中、
R3及びR4は、タンパク質もしくはペプチドのリジン残基に結合しているアミノ酸又はアミノ酸残基であるか、又は、R3は水素原子、アセチル基であり、且つR4は水酸基、ベンジルオキシ基、である)
で示されるアクロレイン-アミン付加体が挙げられる。

【0019】
本方法によれば、サンプル(例えば、ヒト等の被験体由来の生物学的サンプル)において酸化ストレスマーカーとして機能するFDP構造を含む化合物を、安価に且つ簡便に検出することができる。また、FDP構造を含む化合物に基づいて、アクロレインを発症因子とする様々な疾患(アクロレイン関連疾患:例えば、動脈硬化、アルツハイマー病、癌、糖尿病、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、I型糖尿病等)、高血圧、脳梗塞等)を診断することができる。従って、本方法は、被験体由来の生物学的サンプルにおけるFDP構造を含む化合物を検出することによる、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクの診断、評価、検出若しくは判定方法又はアクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクを検出するためのin vitroにおけるデータ収集方法として使用することもできる。

【0020】
本方法における生物学的サンプルとしては、例えば全血、血清、血漿、唾液、髄液、関節液、滑膜液、胸水、心膜液、腹膜液、尿等の体液サンプルが挙げられる。

【0021】
一般式(I)で示される化合物において、R1の置換位置としては、下記に示す位置が好ましい:
【化9】
JP2018054434A_000010t.gif

【0022】
また、当該位置にある2つのR1は、両方とも電子求引性基、電子求引性基を有するアリール基、無置換のヘテロアリール基、及び電子求引性基を有するヘテロアリール基から選ばれる基であることが好ましい。
電子求引性基としては、例えばシアノ基、カルボキシル基、-SO2R2、-COR2、-COOR2(R2は炭素数1~4のアルキル基若しくはフェニル基)等が挙げられ、好ましくはシアノ基である。
アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ジフェニル基等が挙げられる。
ヘテロアリール基としては、例えばピロリル基、インドリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、チエニル基等が挙げられる。

【0023】
特に、一般式(I)で示される化合物としては、下記の一般式:
【化10】
JP2018054434A_000011t.gif
で示される4-ニトロフタロニトリルが挙げられ、この場合、対応するアニリン化合物は、下記の一般式:
【化11】
JP2018054434A_000012t.gif
で示される4-アミノフタロニトリルである。

【0024】
また、4-ニトロフタロニトリル等の一般式(I)で示される化合物は、例えばSigma-Aldrichや東京化成工業株式会社等から市販されているものであってよく、あるいは一般的に知られた化学合成法に準じて合成されたものであってよい。

【0025】
本方法では、先ずFDP構造を含む化合物を含有するサンプルと一般式(I)で示される化合物を反応させ、還元反応を行う。当該還元反応は、金属イオンの存在下で行うことが好ましい。金属イオンとしては、例えばCu2+、In3+等の遷移金属のイオンや、Mg2+、Ca2+等のアルカリ土類金属のイオン等が挙げられ、好ましくはアルカリ土類金属のイオンであり、より好ましくはカルシウムイオンである。

【0026】
当該還元反応は、例えば1~10mg(好ましくは1~3mg)の一般式(I)で示される化合物(例えば4-ニトロフタロニトリル)及び1~30mg(好ましくは2~10mg)の金属イオン(例えば塩化カルシウム)を含む10~300μL(好ましくは10~100μL)の溶液と、10~300μL(好ましくは10~100μL)のFDP構造を含む化合物(例えばアクロレイン-アミン付加体)を含む生物学的サンプルとを混合し、例えば1~10時間(好ましくは5~7時間)、100℃の温度下で反応させることにより行われる。

【0027】
次いで、生じた一般式(II)で示されるアニリン化合物(例えば4-アミノフタロニトリル)の蛍光強度を、一般式(II)で示されるアニリン化合物の励起-蛍光波長(例えば4-アミノフタロニトリルの励起-蛍光波長[340-404 nm])に準じて読み取る。読み取った蛍光強度から生物学的サンプル中のFDP構造を含む化合物を検出する。あるいは、標準物を用いて作成した検量線から、読み取った蛍光強度に基づく生物学的サンプル中のFDP構造を含む化合物の量又は濃度を換算し、定量することもできる。また、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクの診断においては、アクロレイン関連疾患陽性であると判断されるFDP構造を含む化合物の量又は濃度の閾値レベル又はカットオフ値と比較することで、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクを判定することができる。

【0028】
また、本方法に準じて、本発明は、検出試薬として一般式(I)で示される化合物を含む、FDP構造を含む化合物の検出用組成物又は検出キットに関する。当該組成物又はキットは、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクの診断、評価、検出若しくは判定用組成物若しくはキット、又はアクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクを検出するためのin vitroにおけるデータ収集のための組成物若しくはキットとして使用することもできる。

【0029】
当該キットは、一般式(I)で示される化合物以外に、金属イオン、検量線作成のための標準物、反応容器、FDP構造を含む化合物の検出のための取り扱い説明書等を適宜含むことができる。また、当該キットを、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクの診断に使用する場合には、当該キットは、アクロレイン関連疾患若しくはアクロレイン関連疾患のリスクの診断のための説明書を含んでもよい。

【0030】
さらに、本発明は、本方法における還元反応工程を含む、上記一般式(II)で示される化合物の合成方法に関する。当該合成方法では、還元反応工程を上記に説明する本方法の反応工程に準じて行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
1.材料及び方法
1-1.全般的な情報
全ての溶媒は、試薬グレードであった。全ての市販の化学製品を受け取ったまま使用した。
【実施例】
【0033】
1H及び13C NMRスペクトルを、JEOL RESONANCE AL400 NMR及びJEOL RESONANCE AL300 NMRスペクトロメーターにより取得した。溶媒のピークを内部標準としてケミカルシフトを帰属した。
高分解能質量分析を、micrOTOF-Q III-HCTM(BRUKER)を用いて行った。
【実施例】
【0034】
全ての蛍光測定を、96ウェル平底プレート(Corning Inc)と共にJASCO FP6500スペクトロフルオロメーターを用いて行った。量に関する各値を、真正の標準の強度から算出した。
【実施例】
【0035】
実験動物に関する全ての処置は、RIKENの倫理委員会により承認された。また、実験は研究所及び国のガイドラインに準じて行われた。
【実施例】
【0036】
1-2.FDPによるニトロアレンの還元のための全般的な手順
ニトロアレン3d (25.0 mg, 0.10 mmol)及びCaCl2 (55.0 mg, 0.50 mmol)を含むDMF (0.2 mL)溶液に、N-ベンジル 3-ホルミル-3,4-デヒドロピペリジン (N-Bn FDP, 60.0 mg, 0.30 mmol)を100℃にて添加した。当該温度で数時間撹拌した後、混合物を真空で濃縮し、粘着性ガムとして粗混合物を得た。当該粗残留物を、NMRでモニターするか、又は溶出システムとしてヘキサン-EtOAc溶媒混合物を用いた分取TLC若しくはシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、所望のアニリン生成物4d (19.6 mg, 89%収率)を得た。
【実施例】
【0037】
1-3.サンプルの調製及び検出手順
正常なラット血清(100 μL;Wako Pure Chemical Industry Ltd.)を100 μLのアクロレイン(血清タンパク質に対して>100倍等価な量)で、特定の日数(0、1、20又は60日)処理した。次いで、サンプルを蒸留水で1 mLに希釈した。
【実施例】
【0038】
新鮮な尿サンプル(100 μL)をRIKEN bio-resource centerのC57BL/6マウスから取得し、蒸留水で20倍に希釈した。
【実施例】
【0039】
ニトロアレンプローブ3k (1.7 mg, 10.0 μmol)及びCaCl2 (5.5 mg, 50.0 μmol)を含むDMF-H2O (50 μL)溶液に、所定の尿サンプルを添加し、100℃で5時間撹拌した後、粗反応混合物を濾過し、得られた濾液を、スペクトロフルオロメーターで340 nm/404 nmにて測定した。
【実施例】
【0040】
1-4.ELISAアッセイ
測定を、添付の取り扱い説明書に準じて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットシステム(TAKARA, Acrolein-Lysine adduct competitive ELISA kit)を用いて行った(非特許文献4)。450 nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(ImmunoMini NJ1000)を用いて測定した。データを、個々の実験から標準偏差と共に2回を超えるアッセイの平均値で表す。
【実施例】
【0041】
1-5.化合物の特徴付け
1-((4-aminophenyl)sulfonyl)-1H-pyrrole (4d, 89%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.63 (dd, 2H, J = 6.7, 2.0 Hz), 7.13 (apparent t, 2H, J = 2.3 Hz), 6.63 (dd, 2H, J = 6.8, 2.0 Hz), 6.26 (apparent t, 2H, J = 2.3 Hz), 4.21 (brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 151.6, 129.2(2C), 126.8, 120.6(2C), 114.1(2C), 113.1(2C); HRESI-MS m/z calcd for C10H10N2O2S [M+H]+ 223.0536, found 223.0534.
Methyl 4-aminobenzoate (4e, 69%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.85 (dd, 2H, J = 8.7, 2.8 Hz), 6.64 (dd, 2H, J = 8.7, 2.8 Hz), 4.10 (brs, NH2), 3.87 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 167.2, 150.8, 131.2(2C), 119.7, 113.9(2C), 51.6; HRESI-MS m/z calcd for C8H10N1O2[M+H]+ 152.0706, found 152.0709.
4-aminoacetophenone (4f, 88%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.79 (dd, 2H, J = 8.6, 1.4 Hz), 6.63 (dd, 2H, J = 8.7, 1.4 Hz), 4.23 (brs, NH2), 2.49 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 196,7, 151.3, 130.9(2C), 127.7, 119.7, 113.7(2C), 26.1; HRESI-MS m/z calcd for C8H9N1O1[M+H]+ 136.0762, found 136.0757.
4-aminobenzonitrile (4g, 82%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.41 (dd, 2H, J = 8.6, 1.2 Hz), 6.64 (dd, 2H, J = 8.6, 1.2 Hz), 4.17 (brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 150.5, 133.9(2C), 120.2, 114.6(2C), 100.4; HRESI-MS m/z calcd for C7H6N2[M+H]+ 119.0604, found. 119.0605
aniline (4h, 18%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.13 (ddd, 2H, J = 7.5, 7.5, 1.2 Hz), 6.74 (tt, 1H, J = 7.5, 1.2 Hz), 6.65 (dd, 2H, J = 7.5, 1.2 Hz), 3.51(brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 146.3, 129.2(2C), 118.4, 115.0(2C)
1-((4-aminophenyl)sulfonyl)-1H-indole (4j, 80%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.97 (dd, 1H, J = 8.3, 1.2 Hz), 7.66 (dd, 2H, J = 9.1, 2.4 Hz), 7.55(d, 1H, J = 3.6 Hz), 7.52 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 7.29 (ddd, 1H, J = 8.3, 8.3, 1.2 Hz), 7.20 (ddd, 1H, J = 8.3, 8.3, 1.2 Hz), 6.62 (d, 1H, J = 3.6 Hz) , 6.55 (dd, 2H, J = 9.1, 2.4 Hz), 4.11(brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 153.5, 151.3, 134.8, 130.7, 129.1 (2C), 126.3 (2C), 124.2, 122.9, 121.2, 113.9, 113.5, 108.4; HRESI-MS m/z calcd for C14H13N2O2S [M+H]+ 273.0692, found 273.0691.
4-aminobenzoic acid (4k, 61%): 1H NMR (400 MHz, d6-DMSO) δ 7.62 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 6.54 (dd, 2H, J = 8.4 Hz), 5.89 (brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 167.6, 153.2, 131.3(2C), 116.9, 112.6(2C); HRESI-MS m/z calcd for C7H7N1O2[M+H]+ 138.0550, found 138.0539.
4-aminobenzaldehyde (4l, 40%): 1H NMR (400 MHz, d6-DMSO) δ 9.56 (s, 1H), 7.54 (d, 2H, J = 8.7 Hz), 6.62 (d, 2H, J = 8.7 Hz), 4.14; 13C NMR (100 MHz, d6-DMSO) δ 189.7, 155.3(2C), 132.2, 124.8, 113.1(2C); HRESI-MS m/z calcd for C7H7N1O1[M+H]+ 122.0600, found 122.0610
4-fluoroaniline (4m, 73%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.84-6.78 (m, 2H), 6.56-6.51 (m, 2H), 3.51(brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 156.1(d, J = 235 Hz, C-F), 142.4, 115.8(2C), 115.3(2C); HRESI-MS m/z calcd for C6H6F1N1[M+H]+ 112.0557, found 112.0558.
4-chloroaniline (4n, 21%): 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.09 (d, 2H, J = 8.6 Hz), 6.58 (d, 2H, J = 8.6 Hz), 3.45(brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 145.4, 129.2(2C), 123.2, 116.3(2C); HRESI-MS m/z calcd for C6H6N1Cl1[M+H]+ 128.0262, found 128.0263.
3-aminobenzonitrile (4o, 22%): 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 7.16 (dd, 1H, J = 7.2, 7.2 Hz), 6.94 (d, 1H, J = 7.2 Hz), 6.83-6.77 (m, 2H), 3.82 (brs, NH2); 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 147.0, 130.2(2C), 122.1, 119.3, 117.6, 113.1; HRESI-MS m/z calcd for C7H6N2[M+H]+ 119.0604, found. 119.0612
4-aminophthalonitrile (4p, 78%): 1H NMR (400 MHz, d6-DMSO) δ 7.64 (d, 1H, J = 8.7 Hz), 7.03 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.68 (dd, 1H, J = 8.7, 2.4 Hz), 6.72 (brs, NH2); 13C NMR (100 MHz, d6-DMSO) δ 153.2, 135.1, 117.6, 117.3, 117.1, 116.5, 115.6, 97.9; HRESI-MS m/z calcd for C10H4N3[M+H]+ 166.0400, found 166.0380. Fluorescent excitation/emission: 304/404 nm, quantum yield Φ = 0.26.
【実施例】
【0042】
2.結果及び考察
実験結果を、下記の表1~3及び図2~6に示す。
【実施例】
【0043】
<参考例>
先ず、調製容易なN-Bn FDP 1a(Fuentes, L. et al. Direct chemical method for preparing 2,3-epoxyamides using sodium chlorite. J Org Chem 77, 5515-5524, doi:10.1021/jo300542d (2012))を還元剤として種々の基質を用いた検討を開始した。しかしながら、カルボニル基やカルボニル基で活性化された不飽和結合への還元反応は全く進行しなかった(表1A)。一方で、スルホニルを含む芳香族ニトロ化合物3dに対して作用させたところ、アニリン誘導体が生成することを見出した(表1B)。この反応は60℃では全く進行せず、80℃でも痕跡量しか生成物が得られないが、100℃まで昇温した際に45%で目的のアニリン体4dが得られてくることを明らかにした(表1B、entry1-3)。さらに反応性を調べるため、幾つかの市販のニトロ化合物を用いて検討を行った。3dと同じように、電子求引基であるエステルを有する基質でも反応が35%で進行した(entry 4)。また、4-nitroacetophenon(3f)や4-nitrobenzonitrile(3g)でも還元反応がそれぞれ50%、73%で進行した(entry 5-6)。一方で、電子求引基をもたない3hや3iのような基質では反応が進行しなかった(entry 7-8)。
【実施例】
【0044】
さらに、収率を向上させるために、ブレンステッド酸やルイス酸の触媒効果を想定した。生体内の還元試薬であるニコチンアミドアデニンジヌクレオシド(NADH)の還元機構をもとに(Aizpurua, J. M. et al. Mechanistic insights on the magnesium(II) ion-activated reduction of methyl benzoylformate with chelated NADH peptide beta-lactam models. J Org Chem 74, 6691-6702, doi:10.1021/jo901236d (2009))、3dをモデル基質として検討を開始した(表2)。塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、ボロン酸等のブレンステッド酸では、元の条件より収率が低下した(表2、entry 2-8)。一方、ルイス酸として機能する銅やインジウム等の金属イオン種が収率を向上させることを見出すことができた(entry 9-19)。さらに、NADH還元と同じように(Aizpurua, J. M. et al. Mechanistic insights on the magnesium(II) ion-activated reduction of methyl benzoylformate with chelated NADH peptide beta-lactam models. J Org Chem 74, 6691-6702, doi:10.1021/jo901236d (2009))、マグネシウムやカルシウムといったアルカリ土類金属が有効ではないかと考えて検討を続けた(entry 20-25)。最終的に、5当量の塩化カルシウムを系内に添加することで、還元反応が効率的に進行することを見出した(entry 26)。
【実施例】
【0045】
最適化した条件(塩化カルシウム5当量、100℃、5時間)により、還元反応の基質適用限界を調べることにした。表3Aに示すように、電子求引基を有する基質群(3d-3g)を用いた際に、初期検討に比べて添加剤の効果によって収率が向上した(entry 1-4)。さらに、以前は還元反応が進行しなかった単純なニトロベンゼンにおいても還元反応が進行することを確かめた(entry 5)。一方で、電子供与基を有する3iを用いた際には反応が進行しなかった(entry 6)。また、天然物合成の中間体に用いられるスルホニルインドール骨格を持つ3jでは80%で還元が進行した(entry 7)。同様に4-nitrobenzoic acid(3k)や4-nitrobenzaldehyde(3l)も、それぞれ61%、40%で還元反応が進行した(entry 8-9)。同じく、4-fluoronitrobenzene(3m)では、置換反応等を起こさずに、73%で還元が進行した(entry 10)。4-chloronitrobenzene(3n)では収率が低いものの、副生成物を伴わずに還元が進行した(entry 11)。この置換基効果は、Hammett plot上からも支持されている(表3B)。
【実施例】
【0046】
この還元反応を新たなアクロレイン・FDPの簡便な検出法として展開することとした。すなわち、アクロレインが生体組織(タンパク質アミノ基等)と反応し、はじめに還元剤となるFDPを与え、さらに還元反応によって非蛍光性ニトロプローブから蛍光性アニリン分子へと変換させることで蛍光検出を行うこととした。この検出形式では、蛍光強度が生成物のアニリンの量に比例するため、一定の割合で反応に関与するFDPの量を見積もることができる。ニトロプローブを適切に選択することで、様々な生体混合物中でもFDPレベルを測定することができる。そこで、必要となるニトロプローブを蛍光波長域や反応性に着目しながら探索することにした。
【実施例】
【0047】
<実施例>
1).有機溶媒中での反応
上記の観点で、様々なニトロアレンをプローブ候補としてスクリーニングを行った。芳香環上に電子供与基と電子求引基の両方を持つようなpull-push型の蛍光基の分子構造に焦点を当て、ニトリル基とアミノ基の組み合わせに着目した(Oshima, J. et al. Extreme fluorescence sensitivity of some aniline derivatives to aqueous and nonaqueous environments: mechanistic study and its implication as a fluorescent probe. J Phys Chem A 110, 4629-4637, doi:10.1021/jp0570014 (2006))。また反応前後での励起-蛍光波長域の変化や量子効率の高さも重要な要素となる。4gや4iを含む数十種の候補化合物をスクリーンした結果、ジシアノニトロベンゼン3pを見出した(図2A)。モデル反応では、ジシアノニトロベンゼン3pへの還元反応は78%で進行した(図2B)。さらに得られてくるアニリン体4pは励起-蛍光波長[340-404 nm]であることを確かめた(図2C)。さらに反応検討を行い、蛍光量の経時測定から5時間で反応が完結していることが明らかとなった(図2D)。
【実施例】
【0048】
2).生体における酸化還元剤との反応性についての検討
還元反応を引き金とした「蛍光オン」のFDP検出システムを実現するため、3pをプローブとして実験系を確立していくこととした。生体サンプル中での直交性を保証するため、様々な生体の酸化還元剤で確かめていくこととした。先ず、FDPに対して、酸化剤としてH2O2やCu、Mg、Fe等を作用させたが、FDPは酸化されることなく回収された(図3A)。またニトロプローブ3pに対して、還元剤としてシステインやグルタチオン(GSH)、あるいは硫化水素ナトリウム(NaSH)を反応させたところ(Wang, R. Two's company, three's a crowd: can H2S be the third endogenous gaseous transmitter? FASEB J 16, 1792-1798, doi:10.1096/fj.02-0211hyp (2002))、生理学的濃度(1μM程度)では還元による蛍光増大は確認されなかった(図3B)。また、シスチンを作用しても影響がなかった(図3B)。ここから、生体サンプルの条件下でも本システムが機能することを確かめることができた。
【実施例】
【0049】
このシステムの定量性を確認するため、標品としてN-lys FDPを用いたモデル反応を行った(図4A-4B)。様々な量のFDPを加えて、その蛍光量を測定した後に検量線を作成した。また従来の抗体ELISA法の検出限界(3.13 nmol/mL)に対して、本法では0.84 nmol/mLまで調べられることが明らかとなった。
【実施例】
【0050】
3).生体サンプルを用いた検討
上述のように確立した条件を用いて、プローブ3pや塩化カルシウム等の試薬類をキット化し、簡便な検出プロトコルを作成した(図5A)。a) 先ず、サンプルとキット溶液を混合し、b) 100℃で5時間加熱後、c) 蛍光測定を行う手法を確立した。
【実施例】
【0051】
本手法によって実際に生体検出できるかを調べるために、生体サンプルとして安価なラット血清を用いた検出試験を行った(図5B)。ラット血清存在下にアクロレインを加えてそれぞれ0、1、20、60日間保温したサンプルを調製後に、上述の操作で検出試験をそれぞれ行ったところ、また同じロットで標品FDPの蛍光量から求めた検量線から、1日間処理したサンプルで約7.7 nmol/mlのFDPを定量検出できた。また20日間処理したサンプルで約12.7 nmol/mlのFDPが観測され、アクロレイン処理時間に比例して蛍光強度が増大することが明らかとなった。また従来法であるELISAとも良い一致を示した。
【実施例】
【0052】
次に、生体サンプルとしてマウス尿サンプル(6週令)を用いた検出試験を行った(図6A)。マウス尿を20倍希釈した生体サンプルを調製後に、検出試験を行ったところ、先ほどと同様に5.2 nmol/mlのFDPを定量検出できた(図6A)。またこちらも従来法であるELISAとも良い一致を示した(非特許文献4)。
【実施例】
【0053】
さらに本手法の簡便性を実証するため、様々な週令の10匹のマウスから採取した尿を用いた、一斉検出試験を行った(図6B)。再現性のためにサンプル毎に3回ずつ行うこととし、計30ロットの試験を行った。その結果、6時間で尿中FDPの含有量が判明した。以上のように、FDPの還元反応を基に、安価で簡便な酸化ストレスマーカー検出診断法を開発し、生体サンプルで実証した。
【実施例】
【0054】
【表1】
JP2018054434A_000013t.gif
【実施例】
【0055】
【表2】
JP2018054434A_000014t.gif
【実施例】
【0056】
【表3】
JP2018054434A_000015t.gif
【実施例】
【0057】
3.結論
生体内の酸化ストレス産物であるFDPの還元反応性をはじめて明らかにし、塩化カルシウムをルイス酸として用いる、ニトロ基の効率的な還元法を開発した。さらにこの還元変換を、生体のFDPレベルを検出するための「蛍光スイッチングシステム」へと応用した。確立した検出系を、実際にモデル動物の尿や生体サンプルで評価し、検出精度を従来法と比較した。その結果、安価で簡便な酸化ストレスマーカー検出法を開発できた。本手法を活用することで、アクロレインを発症因子とする様々な病気の予前診断の普及に貢献することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5