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明細書 :分化転換制御方法および基板

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6399734号 (P6399734)
公開番号 特開2015-008701 (P2015-008701A)
登録日 平成30年9月14日(2018.9.14)
発行日 平成30年10月3日(2018.10.3)
公開日 平成27年1月19日(2015.1.19)
発明の名称または考案の名称 分化転換制御方法および基板
国際特許分類 C12N   5/0775      (2010.01)
C12N   5/077       (2010.01)
C12M   3/00        (2006.01)
FI C12N 5/0775
C12N 5/077
C12M 3/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2013-138298 (P2013-138298)
出願日 平成25年7月1日(2013.7.1)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成25年1月8日に、バイオエンジニアリング講演会講演論文集25巻、555-556ページにて、マイクロ/ナノ構造中の細胞におけるアクチン細胞骨格を公開した。
特許法第30条第2項適用 平成25年1月11日に、日本機械学会の第25回バイオエンジニアリング講演会にて、マイクロ/ナノ構造中の細胞におけるアクチン細胞骨格について公開した。
特許法第30条第2項適用 平成25年2月19日に、国立大学法人千葉大学主催の平成24年度工学部機械工学科卒業研究発表会にて、マイクロ構造を使って観察した線維芽細胞の突起形成の違いについて公開した。
審査請求日 平成28年6月8日(2016.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】三好 洋美
【氏名】西村 美紀
【氏名】安達 泰治
【氏名】山形 豊
【氏名】菅原 路子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
審査官 【審査官】藤澤 雅樹
参考文献・文献 特開2011-155865(JP,A)
特開2011-019413(JP,A)
特開2010-017128(JP,A)
国際公開第2007/097120(WO,A1)
国際公開第2010/055616(WO,A1)
国際公開第2010/071210(WO,A1)
Biophysical Journal (2009) Vol.97, pp.357-368
PNAS (2005) Vol.102, No.7, pp.2390-2395
Developmental Cell (2004) Vol.6, pp.483-495
Stem Cells (2010) Vol.28, pp.564-572
Nature Methods (2010) Vol.7, No.9, pp.733-736, ONLINE METHODS
Biomaterials (2012) Vol.33, pp.5230-5246
Adv. Funct. Mater. (2008) Vol.18, pp.1-18
van Hoorn et al., "Correlating Actin Stress Fibers to Extracellular Forces", 1765-Pos Board B535, Biophysical Journal (2012) Vol.102, No.3, Suppl.1, pp.347A-348A
Circulation Research (2013) Vol.112, pp.1433-1443
調査した分野 C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
PubMed

特許請求の範囲 【請求項1】
間葉系幹細胞又は線維芽細胞の葉状仮足を優位に誘導する方法であって、
前記方法は、柱状体の凹凸形状が一軸方向及び該一軸方向と異なる軸方向にそれぞれ主間隙及び該主間隙と異なる幅の副間隙を設けて矩形格子状に配設された基板上に前記の間葉系幹細胞又は線維芽細胞を載置する方法であり、
前記主間隙の幅は5μmから10μmであり、
前記副間隙の幅は5μmから10μmの範囲内前記主間隙の幅より小さく、
前記柱状体の側面は細胞接着性物質でコートされ、上面は細胞非接着性物質でコートされている、方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞又は線維芽細胞の糸状仮足を優位に誘導する方法であって、
前記方法は、柱状体の凹凸形状が一軸方向及び該一軸方向と異なる軸方向にそれぞれ主間隙及び該主間隙と異なる幅の副間隙を設けて矩形格子状に配設された基板上に前記の間葉系幹細胞又は線維芽細胞を載置する方法であり、
前記主間隙の幅は5μmから10μmであり、
前記副間隙の幅は3μmから5μm未満であり、
前記柱状体の側面は細胞接着性物質でコートされ、上面は細胞非接着性物質でコートされている、方法。
【請求項3】
間葉系幹細胞又は線維芽細胞の葉状仮足を優位に誘導するための基板であって、
前記基板上には柱状体の凹凸形状が一軸方向及び該一軸方向と異なる軸方向にそれぞれ主間隙及び該主間隙と異なる幅の副間隙を設けて矩形格子状に配設されており、
前記主間隙の幅は5μmから10μmであり、
前記副間隙の幅は5μmから10μmの範囲内前記主間隙の幅より小さく、
前記柱状体の側面は細胞接着性物質でコートされ、上面は細胞非接着性物質でコートされている、基板。
【請求項4】
間葉系幹細胞又は線維芽細胞の糸状仮足を優位に誘導するための基板であって、
前記基板上には柱状体の凹凸形状が一軸方向及び該一軸方向と異なる軸方向にそれぞれ主間隙及び該主間隙と異なる幅の副間隙を設けて矩形格子状に配設されており、
前記主間隙の幅は5μmから10μmであり、
前記副間隙の幅は3μmから5μm未満であり、
前記柱状体の側面は細胞接着性物質でコートされ、上面は細胞非接着性物質でコートされている、基板。
【請求項5】
ガラス、シリコン、又は樹脂により一体的に形成された請求項3又は4に記載の基板。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の基板が底面に配されたシャーレ。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の基板が底面に配されたウェルプレート。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、分化転換制御方法および基板に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の分化、生存、増殖、免疫活性制御等を、液中の化学因子で制御することが知られている(例えば、文献1参照)。
文献1:Stella Pearson, Patrycja Sroczynska, Georges Lacaud and Valerie Kouskoff (2008)
"The stepwise specification of embryonic stem cells to hematopoietic fate is driven by sequential exposure to Bmp4, activin A, bFGF and VEGF, Development, 135, 1525-1535
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、液中の化学因子を用いて細胞の分化等を制御する場合には、化学因子が拡散性を有するので、制御しにくい。特に生体内で拡散性の化学因子を制御することは困難である。さらに、制御対象である細胞を生体に移植するときに、残存する化学因子が生体に悪影響を及ぼすおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、細胞の分化転換制御方法であって、分化能および形質転換能のいずれか一方を有する元の細胞の種類と、元の細胞を分化または形質変換して得られる目的の細胞の種類と、の組み合わせに基づいて、元の細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の少なくともいずれか1つを誘導する凹凸形状を有する基板を準備する段階と、基板上に元の細胞を載置して、凹凸形状により元の細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の少なくともいずれか1つを誘導することにより、目的の細胞に分化または形質転換させる段階とを備える。
【0005】
本発明の第2の態様においては、細胞の形状を制御する基板であって、基板本体と、基板本体上に設けられ、細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の少なくともいずれか1つを誘導する凹凸形状とを備える。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態の一例としての基板100の概略斜視図である。
【図2】凹凸形状104の一部を拡大した拡大斜視図である。
【図3】凹凸形状104の平面図である。
【図4】他の凹凸形状105を示す平面図である。
【図5】シャーレ150の斜視図である。
【図6】ウェルプレート160の斜視図である。
【図7】実施例3を用いた場合の重ね合せ画像である。
【図8】実施例4を用いた場合の重ね合せ画像である。
【図9】凹凸形状と仮足の形状との相関を示す。
【図10】(a)および(b)は、実施例7を用いた場合の重ね合せ画像である。(c)および(d)は、実施例8を用いた場合の重ね合せ画像である。
【図11】葉状仮足の一例を概念的に示す。
【図12】凹凸形状と仮足の形状との相関を示す。
【図13】凹凸形状と細胞本体の位置との相関を示す。
【図14】実施例11を用いた場合の重ね合せ画像である。
【図15】実施例12を用いた場合の重ね合せ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。

【0009】
図1は、実施形態の一例としての基板100の概略斜視図である。基板100は細胞を保持して、細胞の分化、形質転換、培養等を促進する。さらに基板100は保持した細胞を顕微鏡等で観察するのにも用いられる。

【0010】
基板100は、縦横数cmで厚さ0.17mmの平板状の基板本体102と、基板本体102の一方の面上に配された凹凸形状104とを有する。図1の例で凹凸形状104は基板本体102の一方の面の一部に設けられているが、これに代えて、当該一方の面の全体に設けられてもよい。

【0011】
図2は凹凸形状104の一部を拡大した拡大斜視図であり、図3はその平面図である。凹凸形状104は、基板本体102の一方の面から突出した複数の柱状体110を有する。これら複数の柱状体110の間が間隙120となる。

【0012】
図2および図3の例において、柱状体110は高さhの四角柱であって、上面112は幅wの正方形である。また、同じ形状の複数の柱状体110が、一定の大きさsの間隙120を有して二次元的に配列されている。上記高さh、幅w、間隙の大きさsはいずれも、μmのオーダーである。

【0013】
発明者らは、上記幅wおよび間隙の大きさsが細胞の形状を制御するという知見を得た。当該知見に基づき、細胞を目的とする形状に制御するために、基板100において幅wおよび間隙の大きさsが設定される。

【0014】
凹凸形状104は、細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の少なくともいずれか1つを誘導する。細胞のストレスファイバを誘導する場合に、幅wは3μmから10μmであることが好ましい。また、細胞の仮足を誘導する場合に、間隙の大きさsは3μmから10μmであることが好ましい。特に、葉状仮足を誘導する場合に、間隙の大きさsは5μmから10μmであることが好ましい。一方、糸状仮足を誘導する場合に、間隙の大きさsは3μmから5μmであることが好ましい。

【0015】
基板100は、ガラス、シリコン、樹脂等で形成される。基板100がシリコンで形成される場合には、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングを用いて基板本体102上に凹凸形状104が一体的に設けられる。また、基板100が樹脂で形成される場合には、フォトリソグラフィーとエッチングを用いて鋳型を形成し、当該鋳型に樹脂を注入して硬化することにより、基板本体102と凹凸形状104とが一体的に形成される。樹脂としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ乳酸等が挙げられる。さらに、基板100は透明な材料で形成されることが好ましい。これにより基板100の細胞を顕微鏡等により容易に観察することができる。

【0016】
図4は、他の凹凸形状105を示す平面図である。図4において、図1から図3と同じ構成については、同じ参照番号を付して説明を省略する。

【0017】
図4の凹凸形状105において、主間隙122と、当該主間隙122とは異なる大きさの副間隙124とが形成されるように、複数の柱状体110が配列されている。図4の例においては、主間隙の大きさs1は、副間隙の大きさs2より大きい。

【0018】
主間隙122は、大きさs1が5μmから25μmであって、当該大きさs1により細胞本体を収容する。一方、副間隙124は、大きさs2が3μmから5μmであって、当該大きさs2により細胞の糸状仮足を誘導する。これに代えて、副間隙124は、大きさs2が5μmから10μmであって、当該大きさs2により細胞の葉状仮足を誘導してもよい。さらに、大きさs2が3μmから5μmの副間隙124と、大きさs2が5μmから10μmの副間隙124とを混在させて、一の細胞に対して糸状仮足と葉状仮足とをそれぞれ誘導してもよい。

【0019】
また、図1から図4の柱状体は四角柱であるが、柱状体の形状はこれに限られない。他の例として、五角柱以上の多角柱、三角柱、円柱、半円柱等であってもよく、異なる形状の柱状体が混在していてもよい。さらに、高さの違う柱状体が混在していてもよい。

【0020】
図5は、シャーレ150の斜視図である。シャーレ150は、円形の底面154と、当該底面154の外周を囲う筒状の側壁152とを有する。底面154には図2および図3に示した凹凸形状104が形成される。凹凸形状104は底面154に一体的に設けられて基板100の基板本体102が省略されてもよいし、基板100が底面154とは別体で形成されて、底面154に張り付けられてもよい。凹凸形状104に代えて、上記他の凹凸形状105等が設けられてもよい。

【0021】
図6は、ウェルプレート160の斜視図である。ウェルプレート160は、長方形の底面166と、当該底面166の外周を囲う平板状の外側壁162とを有する。ウェルプレート160はさらに、底面166を複数の離間した領域に囲む円筒形の複数の内側壁164を有する。底面166における内側壁164で囲まれた領域には凹凸形状104が形成される。凹凸形状104は底面166に一体的に設けられてもよいし、底面166とは別体で形成されて、底面166に張り付けられてもよい。凹凸形状104に代えて、上記他の凹凸形状105等が設けられてもよい。

【0022】
また、図6では6つの領域が設けられ、6つの領域のすべてに凹凸形状104が設けられている。これに代えて、6つ以下または6つ以上の領域を設けてもよいし、それらの領域のいずれかに凹凸形状104が設けられていなくてもよい。また、それらの領域間で異なる形状の凹凸形状104、105等が設けられていてもよい。

【0023】
凹凸形状104、105等はさらに、組織再生用スキャホールドの表面に設けられてもよい。凹凸形状104、105等はさらに、体内埋め込み型デバイス、再生医療用細胞機能制御チップ等の表面に設けられてもよい。

【0024】
(実施例1から実施例4)
図1から図3に示した凹凸形状104であって、表1に示す幅w、間隙の大きさsおよび高さhを有する実施例1から4の基板100を作成した。これら実施例1から4の基板100は、フォトリソグラフィーによりシリコンウエハ上に保護膜パターンを形成し、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を用いて作成された。凹凸形状104の表面にはfibronectin(20μg/ml、BD)がコートされた。

【0025】
【表1】
JP0006399734B2_000002t.gif

【0026】
実施例1から4の柱状体110の上面112上に線維芽細胞(Swiss/3T3)を播種し、アクチン細胞骨格の細胞内分布を観察した。アクチン細胞骨格はストレスファイバを形成するのに加えて細胞膜直下の細胞表層を裏打ちするタンパクでもあるので、当該アクチン細胞骨格の細胞内分布を観察することにより、細胞形状を同定することができる。

【0027】
当該観察において、アクチン細胞骨格を可視化するために、4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞を固定し、Alexa Fluor 488 phalloidin (Invitrogen)にてアクチン細胞骨格を蛍光染色した。60倍の対物レンズの共焦点レーザ顕微鏡を用いて、焦点位置を変化させながら、蛍光染色したアクチン細胞骨格の複数の断面像を取得した。当該複数の断面像を重ね合せて重ね合せ画像を生成した。

【0028】
図7は、実施例3を用いた場合の重ね合せ画像である。図8は、実施例4を用いた場合の重ね合せ画像である。

【0029】
これらの図から分かるように、ストレスファイバは柱状体110の周囲に強く局在する傾向を示す。実施例1および2の柱状体110にもストレスファイバが局在した。ストレスファイバは、Rho/ROCKの経路の活性化により形成されることが知られている。よって、上記柱状体110はRho/ROCKの経路を活性化すると推定される。

【0030】
これらの図からは、間隙へ仮足が突出していることが分かる。面に沿った方向の仮足伸展に着目すると、実施例3のように狭い間隙よりも実施例4のように広い間隙に対して、葉状仮足様の構造を優位に伸展する傾向がみられる。

【0031】
図9は、実施例1から4における、凹凸形状と仮足の形状との相関を示す。ここで、仮足の形状として、図8の白い矢印で示すように仮足の外周の幅を計測した。図9から分かるように、線維芽細胞は、大きさsが10μmの間隙へは、柱状体110の幅wによらず葉状仮足を形成した。仮足の幅は、広いものでは10μmを超えるものも観察された。大きさsが5μmの間隙へも柱状体110の幅wによらず葉状仮足が形成された。仮足幅は5μmに満たないものが大多数であった。

【0032】
葉状仮足はRacの経路の活性化により形成されることが知られている。よって、上記間隙はRacの経路を活性化すると推定される。

【0033】
(実施例5から実施例10)
図1から図3に示した凹凸形状104であって、表2に示す幅w、間隙の大きさsおよび高さhを有する実施例5から10の基板100を作成した。これら実施例5から10の基板100の鋳型をMicrochem社のレジストSU-8を用いてフォトリソグラフィーにより形成した。さらに、Dow-Corning社のPDMSSylgard184と硬化剤とを体積比10:1で混合してPDMSを調整した。このPDMSを鋳型上にスピンコートし、その後2日間室温で硬化させた。鋳型からPDMSを剥離して基板100が形成された。基板100の凹凸形状104の表面にはfibronectin(20μg/ml、BD)がコートされた。

【0034】
【表2】
JP0006399734B2_000003t.gif

【0035】
実施例5から10の柱状体110の間隙120内に線維芽細胞(Swiss/3T3)を播種し、アクチン細胞骨格の細胞内分布を観察した。観察の方法は上記実施例1から4と同様にした。

【0036】
図10(a)および(b)は、実施例7を用いた場合の重ね合せ画像である。図10(c)および(d)は、実施例8を用いた場合の重ね合せ画像である。図中の白円はそれぞれの構造により誘導される特徴的な仮足形状を示す。

【0037】
図10(a)および(b)から分かるように、間隙の大きさsが3μmである実施例7においては、間隙には1本の細い仮足が形成される。これを3D再構築画像で確認したところ、高さ方向への広がりが見られない糸状仮足であった。

【0038】
これに対し、図10(c)および(d)から分かるように、間隙の大きさsが5μmである実施例8においては、間隙の両側側面に這うような仮足が2本形成され、その間を架橋するような仮足が形成された。これを3D再構築画像で確認したところ、高さ方向への広がりのある葉状仮足であった。

【0039】
図11は、葉状仮足の一例を概念的に示す。図12は、実施例7から10における、凹凸形状と仮足の形状との相関を示す。

【0040】
図11に示すように、仮足130のうち、柱状体110の側面に接着しており、かつ高さ方向の広がりaが3μm以上を葉状仮足とした。また、柱状体110の側面に接着しているが、かつ高さ方向の広がりaが3μmよりも小さい糸状仮足と、柱状体110の側面に接着していない糸状仮足とを評価した。

【0041】
その結果、図12に示すような仮足形成の割合となった。ここで、仮足形成の割合は、一細胞中で形成される仮足のうち、葉状仮足であるものと糸状仮足であるものとの割合を、細胞間で平均した平均値とした。実施例7については4個の細胞の平均値とし、実施例8については6個の平均値とした。実施例9については9個の細胞の平均値とし、実施例10については8個の平均値とした。

【0042】
図12から明らかな通り、間隙の大きさsが3μmの実施例7においては、糸状仮足が95%以上、間隙の大きさsが4μmの実施例9においては、糸状仮足が90%程度の割合であった。これに対し、間隙の大きさsが5μmの実施例8および間隙の大きさsが7μmの実施例10においては、葉状仮足が約半数であった。

【0043】
上記実施例1から10に示すように、葉状仮足を誘導するには、間隙の大きさsが5μmから10μmであることが好ましい。これにより、Racの経路がより活性化される。

【0044】
また、糸状仮足はcdc42経路の活性化により形成されることが知られている。よって、大きさsが3μmから4μmの間隙はcdc42の経路を活性化すると推定される。

【0045】
図13は、実施例5から8における、凹凸形状と細胞本体の位置との相関を示す。実施例5から8における複数の細胞について、それぞれの細胞本体が「全て間隙120内に存在する」、「一部が間隙120内に存在して一部が柱状体110の上面112に存在する」、「全て上面112に存在する」の3つに区別して数を数えた。

【0046】
その結果、図13に示すように、柱状体110の幅wが7μmかつ間隙の大きさsが3μm以上の場合、および、幅Wが10μmかつ間隙の大きさsが5μm以上の場合に、80%以上の細胞について、細胞本体の全部もしくは一部が間隙120内に存在した。加えて、幅wが7μm、10μmのいずれの場合も間隙の大きさsが3μm以上では60%以上の細胞について、細胞本体の全部が間隙120内に存在した。

【0047】
(実施例11および実施例12)
図4に示した凹凸形状105であって、表2に示す幅w、主間隙の大きさs1、副間隙の大きさs2および高さhを有する実施例11および12の基板100を作成した。作成の方法は実施例1から4に準じた。

【0048】
【表3】
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【0049】
実施例11および12の柱状体110の主間隙122内に線維芽細胞(Swiss/3T3)を播種し、アクチン細胞骨格の細胞内分布を観察した。観察の方法は上記実施例1から4と同様にした。

【0050】
図14は、実施例11を用いた場合の重ね合せ画像である。図14の矢頭および円弧部分に示すように、葉状仮足が優位に誘導された。矢頭は、高さ方向に広がりを有する仮足を示す。円弧は、面に沿った方向に広がりを有する仮足を示す。

【0051】
図15は、実施例12を用いた場合の重ね合せ画像である。図15の矢頭に示すように少数の糸状仮足が形成されたが、葉状仮足は形成されなかった。

【0052】
よって、細胞本体の全部を収納し、ストレスファイバの形成を抑えて、仮足形状操作を効果的に行うためには,間隙120の大きさsおよび主間隙122の大きさs1はいずれも5μm以上とすることが好ましい。さらに、柱状体110の上面112に細胞接着を阻害するpoly-lysine-g-poly(ethylene glycol)などを塗布することがさらに好ましい。特に、主間隙122の大きさs1は、25μm程度以下がさらに好ましい。さらに、葉状仮足を成長させるには副間隙124の大きさs2は5μm以上であることが好ましく、糸状仮足を成長させるには5μm以下が好ましい。

【0053】
以上、本実施形態によれば、マイクロオーダーの凹凸形状104等により、細胞の形状を制御することができる。これにより、数週間程度の長期間安定的に細胞を維持または成長させることができる。また、凹凸形状104の物理的な相互作用を利用するので、外来の化学因子が細胞組織に残存することがなく、生化学的に非侵襲とすることができる。

【0054】
表4は、他の実施形態に係る元の細胞と目的の細胞との組み合わせの一例を示す。本実施形態においては、上記基板100を用いて元の細胞から目的の細胞への分化または形質転換を制御する。
【表4】
JP0006399734B2_000005t.gif

【0055】
まず、分化能および形質転換能のいずれか一方を有する元の細胞の種類と、元の細胞を分化または形質変換して得られる目的の細胞の種類と、の組み合わせを特定する。表4に示すように、分化能を有する元の細胞の種類の例は、間葉系幹細胞である。その場合の目的の細胞の種類の例は、平滑筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および骨芽細胞である。また、形質転換能を有する元細胞の種類の例は、線維芽細胞である。その場合の目的の細胞の種類の例は、平滑筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および骨芽細胞である。

【0056】
上記組み合わせに基づいて、元の細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の少なくともいずれか1つを誘導する凹凸形状104等を有する基板100を準備する。ここで、上記組み合わせにより、元の細胞から、ストレスファイバ、葉状仮足、糸状仮足のうちのいずれを優位に誘導すべきかを特定し、それらが優位に誘導される基板100を準備する。

【0057】
当該基板100上に元の細胞を載置して、凹凸形状104により元の細胞のストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足の当該少なくともいずれか1つを誘導することにより、目的の細胞に分化または形質転換させる。

【0058】
上記実施例1から10に示したように、線維芽細胞に対し基板100の凹凸形状104を選択することにより、ストレスファイバ、葉状仮足および糸状仮足のそれぞれが選択的に誘導される。さらに、線維芽細胞は平滑筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および骨芽細胞に形質転換されることが知られている。また、間葉系幹細胞に対し、葉状仮足を優位に誘導すると平滑筋細胞に分化すること(例えば、Gao et al. 2010 Stem Cellsによる報告)、ストレスファイバを優位に誘導すると骨芽細胞に分化することが知られている(例えば、McBeath et al. 2004 Dev. Cellによる報告)。

【0059】
以上によれば、間葉系幹細胞を元細胞として、そこから平滑筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および骨芽細胞のいずれに分化させるに基づいて、誘導すべき形状に対応した凹凸形状104等を有する基板100を特定し、当該基板100を用いて細胞の形状を制御することにより、目的の細胞に分化することができると考えられる。同様に、線維芽細胞を元細胞として、そこから平滑筋細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および骨芽細胞のいずれに形質転換させるかに基づいて、誘導すべき形状に対応した凹凸形状104等を有する基板100を特定し、当該基板100を用いて細胞の形状を制御することにより、目的の細胞に形質転換することができると考えられる。なお、誘導すべき形状に対応した凹凸形状104等を有する基板100を用いるのに加えて、上記表4に示す付加処理をすることが好ましい。

【0060】
分化能を有する細胞の他の例として、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、内胚葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、外胚葉系幹細胞、造血幹細胞、管内皮前駆細胞および神経幹細胞が挙げられる。これらを元の細胞として、分化させる目的の細胞に応じて、誘導すべき形状に対応した凹凸形状104等を有する基板100を特定し、当該基板100を用いて目的の細胞に分化させることができると考えられる。

【0061】
以上、本実施形態によれば、マイクロオーダーの凹凸形状104等を有する基板100を用いて、分化および形質転換を制御することができる。凹凸形状104の物理的な相互作用を利用するので、外来の化学因子が細胞組織に残存することがなく、生化学的に非侵襲とすることができる。

【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。

【0063】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0064】
100 基板、102 基板本体、104 凹凸形状、105 凹凸形状、110 柱状体、112 上面、120 間隙、122 主間隙、124 副間隙、130 仮足、150 シャーレ、152 側壁、154 底面、160 ウェルプレート、162 外側壁、164 内側壁、166 底面
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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