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明細書 :歩行能力の検査装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-054556 (P2020-054556A)
公開日 令和2年4月9日(2020.4.9)
発明の名称または考案の名称 歩行能力の検査装置
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 5/11 200
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2018-186509 (P2018-186509)
出願日 平成30年10月1日(2018.10.1)
発明者または考案者 【氏名】池渕 充彦
【氏名】中島 重義
【氏名】加藤 良一
【氏名】西川 智哉
【氏名】菅原 鉄矢
出願人 【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
個別代理人の代理人 【識別番号】100124039、【弁理士】、【氏名又は名称】立花 顕治
【識別番号】100179213、【弁理士】、【氏名又は名称】山下 未知子
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
Fターム 4C038VA12
4C038VB02
4C038VB31
4C038VC20
要約 【課題】人の歩行能力を客観的かつ簡易に評価することが可能な検査装置を提供する。
【解決手段】人の歩行能力を検査する検査装置が提供される。前記検査装置は、前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するデータ取得部と、前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出する指標算出部とを備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
人の歩行能力を検査する検査装置であって、
前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するデータ取得部と、
前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出する指標算出部と
を備える、検査装置。
【請求項2】
前記合成指標の大きさに応じて、前記人の歩行能力のレベルを判断する判断部
をさらに備える、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記合成指標は、前記第1加速度データに含まれる、前記人の歩行方向を基準として上下方向の成分及び左右方向の成分の少なくとも一方に基づいて算出される、
請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記合成指標は、前記第2加速度データ含まれる、前記人の歩行方向を基準として上下方向の成分及び左右方向の成分の少なくとも一方に基づいて算出される、
請求項1から3のいずれかに記載の検査装置。
【請求項5】
前記合成指標は、前記第1加速度データに含まれる、複数の方向成分に基づいて算出される、
請求項1から4のいずれかに記載の検査装置。
【請求項6】
前記合成指標は、前記第2加速度データに含まれる、複数の方向成分に基づいて算出される、
請求項1から5のいずれかに記載の検査装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の検査装置と、
前記第1加速度データ及び前記第2加速度データを計測する計測装置と
を備える、検査システム。
【請求項8】
前記計測装置は、加速度計、画像センサ及びモーションキャプチャシステムの少なくとも1つを含む、
請求項7に記載の検査システム。
【請求項9】
人の歩行能力を検査するための検査プログラムであって、
前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するステップと、
前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出するステップと
をコンピュータに実行させる、プログラム。
【請求項10】
人の歩行能力を検査するための検査方法であって、
前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するステップと、
前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出するステップと、
前記合成指標の大きさに応じて、前記人の歩行能力のレベルを判断するステップと
を含む、検査方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、人の歩行能力を検査する検査装置、プログラム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞や脳出血を含む脳血管障害(急激に発症したものは、脳卒中と呼ばれる)の検査には、通常、MRIやCTが使用される。しかし、このような設備は、病院等の特定の施設にしかない。また、CTには、放射能侵襲があるし、MRIには、磁場侵襲がある。よって、MRIやCTを使用した画像診断は、日常的に受けるのには適さない。また、画像診断では、初見で脳血管障害の重症度を判断することもできない。
【0003】
脳血管障害は、片麻痺の症状を伴うことが多く、この場合、患者には、歩行障害があらわれる。脳血管障害の患者の歩行能力を評価する指標に、FAC(Functional Ambulation Classification of the Hospital at Sagunto Score)と呼ばれる指標がある。また、片麻痺の重症度を評価する指標に、ブルンストロームステージ(BRS)と呼ばれる指標がある。
【0004】
特許文献1は、片麻痺の患者及び健常者を含む被験者の腰に加速度計を装着して腰の軌道パターンを計測し、計測された腰の軌道パターンの幾何学的特徴とBRSとの関係性を評価している。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】西辰徳、他2名,「腰軌道の運動学的分析に基づく片麻痺歩行評価システム」,計測自動制御学会論文集,第47巻,第1号,8-16頁,2011年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BRSしろ、FACにしろ、通常、個々の患者の歩行能力のレベルの診断は、医師や理学療法士等の医療従事者により行われる。しかし、診断者の経験や能力によって診断結果が分かれることもしばしばであり、以上のような歩行能力を表す指標は、客観性に欠けることがある。また、医師や理学療法士等の医療従事者による検査を受ける機会は、限られる。以上のような観点から、人の歩行能力を客観的かつ簡易に評価でき、ひいては脳血管障害の有無及び重症度を判断可能な手法の確立が望まれる。
【0007】
本発明は、人の歩行能力を客観的かつ簡易に評価することが可能な検査装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1観点に係る検査装置は、人の歩行能力を検査する検査装置であって、前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するデータ取得部と、前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出する指標算出部とを備える。
【0009】
第2観点に係る検査装置は、第1観点に係る検査装置であって、前記合成指標の大きさに応じて、前記人の歩行能力のレベルを判断する判断部をさらに備える。
【0010】
第3観点に係る検査装置は、第1観点又は第2観点に係る検査装置であって、前記合成指標は、前記第1加速度データに含まれる、前記人の歩行方向を基準として上下方向の成分及び左右方向の成分の少なくとも一方に基づいて算出される。
【0011】
第4観点に係る検査装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係る検査装置であって、前記合成指標は、前記第2加速度データ含まれる、前記人の歩行方向を基準として上下方向の成分及び左右方向の成分の少なくとも一方に基づいて算出される。
【0012】
第5観点に係る検査装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る検査装置であって、前記合成指標は、前記第1加速度データに含まれる、複数の方向成分に基づいて算出される。
【0013】
第6観点に係る検査装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る検査装置であって、前記合成指標は、前記第2加速度データに含まれる、複数の方向成分に基づいて算出される。
【0014】
第7観点に係る検査システムは、第1観点から第6観点のいずれかに係る検査装置と、前記第1加速度データ及び前記第2加速度データを計測する計測装置とを備える。
【0015】
第8観点に係る検査システムは、第7観点に係る検査システムであって、前記計測装置は、加速度計、画像センサ及びモーションキャプチャシステムの少なくとも1つを含む。
【0016】
第9観点に係る検査プログラムは、人の歩行能力を検査するための検査プログラムであって、以下のステップをコンピュータに実行させる。
(1)前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するステップ
(2)前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出するステップ
【0017】
第10観点に係る検査方法は、人の歩行能力を検査するための検査方法であって、以下のステップを含む。
(1)前記人の歩行時の前記人の頭部又は頸部の加速度の時系列データである第1加速度データと、前記人の腰部の加速度の時系列データである第2加速度データとを取得するステップ
(2)前記第1加速度データ及び前記第2加速度データに基づいて、前記人の歩行能力を表す指標として、前記頭部又は前記頸部の加速度の大きさ及び前記腰部の加速度の大きさがそれぞれ大きくなるほど大きくなる合成指標を算出するステップ
(3)前記合成指標の大きさに応じて、前記人の歩行能力のレベルを判断するステップ
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人の歩行能力を客観的かつ簡易に評価することができる。これによれば、例えば、MRIやCT等の設備によらずとも、脳血管障害を検査することができる。また、医療従事者によらずとも、脳血管障害の患者の歩行能力、ひいては脳血管障害の有無及び重症度が判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る歩行能力の検査装置を含む検査システムの構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係る歩行能力の検査の流れを示すフローチャート。
【図3A】健常者及びBRSのレベルIV~VIを区別した、第1加速度データ(頸部)及び第2加速度データ(腰部)の上下成分の散布図。
【図3B】健常者及びBRSのレベルIV~VIを区別した、第1加速度データ及び第2加速度データの左右成分の散布図。
【図3C】健常者及びBRSのレベルIV~VIを区別した、第1加速度データ及び第2加速度データの前後成分の散布図。
【図4A】健常者及びFAC3、4、5(BRSレベルVI)、及び5(健常者)を区別した、第1加速度データ及び第2加速度データの上下成分の散布図。
【図4B】健常者及びFAC3、4、5(BRSレベルVI)、及び5(健常者)を区別した、第1加速度データ及び第2加速度データの左右成分の散布図。
【図4C】健常者及びFAC3、4、5(BRSレベルVI)、及び5(健常者)を区別した、第1加速度データ及び第2加速度データの前後成分の散布図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る歩行能力の検査装置、プログラム及び方法について説明する。

【0021】
<1.歩行能力の検査装置の構成>
図1に、本実施形態に係る歩行能力の検査装置1を含む検査システム100の構成図を示す。同図に示すとおり、検査システム100は、検査装置1の他、検査装置1に接続される加速度計3A及び3Bを含む。加速度計3Aは、被験者となる人P1の頸部に取り付けられ、加速度計3Bは、人P1の腰部に取り付けられる。

【0022】
検査装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、ラップトップ型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等で実現され、このような汎用のコンピュータに所定のプログラム2をインストールすることにより、人の歩行能力を検査するための装置として使用可能となる。プログラム2は、加速度計3A及び3Bにより計測される人P1の歩行時の頸部及び腰部の加速度データに基づいて、人P1の歩行能力を検査するためのアプリケーションソフトウェアであり、検査装置1に後述する処理を実行させる。

【0023】
検査装置1は、FACやBRSのような、人P1の歩行能力のレベルを示す指標を客観的かつ簡易に評価することができる。検査装置1による検査は、医師や理学療法士等の専門家とともに行うこともできるが、自分だけで行うこともできるため、人P1の歩行能力の日常的な検査も容易になる。よって、人P1の歩行能力に影響を与える脳血管障害の日常的な検査が可能になり、ひいては脳血管障害の早期発見を助けることもできる。なお、脳卒中の中でも近年多くみられる脳梗塞の場合、発症後、4、5時間以内に血栓溶解薬を注射すれば、回復が見込まれることが知られている。よって、脳血管障害の早期発見を助ける検査装置1は、この点においても非常に有用性が高いと言える。また、特に弁膜症や高血圧等の脳血管障害のハイリスク症例においては、仮に起こった場合、早急に可能な限りの回復を図ることができる点で、有用性が見込まれる。

【0024】
図1に示すとおり、検査装置1は、表示部10、入力部20、記憶部30、制御部40及び通信部50を有する。これらの部10~50は、互いにバス線7を介して接続されている。表示部10は、液晶ディスプレイ等で構成され、適当な画面をユーザーに対し表示する。入力部20は、キーボードや、マウス、タッチパネル、操作ボタン等で構成され、検査装置1に対するユーザーからの操作を受け付ける。通信部50は、加速度計3A及び3Bを含む外部機器との通信接続を実現する通信インターフェースである。記憶部30は、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置で構成され、記憶部30内には、プログラム2が格納されている。

【0025】
制御部40は、CPU、ROM及びRAM等から構成されており、記憶部30内に格納されているプログラム2を読み出して実行することにより、仮想的に、データ取得部41、指標算出部42、判断部43及び結果出力部44として動作する。各部41~44の動作については、後述する。

【0026】
加速度計3A及び3Bは、通信装置を内蔵しており、計測された加速度データを検査装置1に送信する。加速度計3A及び3Bと検査装置1との通信接続の態様は、有線式であっても、無線式であってもよい。無線式の場合、例えば、BLUETOOTH(登録商標)のような近距離無線通信ネットワークを介して両者が通信接続される。

【0027】
<2.人の歩行能力の検査の流れ>
以下、図2を参照しつつ、本実施形態に係る人P1の歩行能力の検査の流れについて説明する。まず、人P1の歩行能力の検査を行うに当たり、ユーザーは、入力部20を操作して、検査装置1上でプログラム2を起動させる。これにより、図2に示す処理が開始する。なお、ここでいうユーザーとは、被験者となる人P1本人の他、医師や理学療法士等の医療従事者のような、検査の結果を必要とする者の総称である。

【0028】
検査に際しては、図1に示すように、被験者となる人P1の頸部及び腰部にそれぞれ加速度計3A及び3Bを、図視されないベルト等を介して装着する。加速度計3A及び3Bは、いずれも3軸加速度センサである。加速度計3A及び3Bは、3軸がそれぞれ上下、左右及び前後方向に一致するように人P1に装着する。ここでいう上下、左右及び前後方向は、人P1の歩行方向を基準に定義され、互いに略直交する。これに限定されないが、本実施形態では、加速度計3Aは、第七頸椎に取り付けられ、加速度計3Bは、第三腰椎に取り付けられる。そして、この状態で、人P1がテスト歩行を行うと、加速度計3Aにより、人P1の歩行時の頸部の加速度の時系列データ(以下、第1加速度データという)が収集され、加速度計3Bにより、人のP1の歩行時の腰部の加速度の時系列データ(以下、第2加速度データ)が収集される。本実施形態のテスト歩行では、人P1に16mの直線路を歩行させる。テスト歩行時に加速度計3A及び3Bにより計測された第1加速度データ及び第2加速度データは、検査装置1に送信され、データ取得部41が通信部50を介してこれを取得し、記憶部30内に格納する(ステップS1)。

【0029】
続くステップS2では、指標算出部42が、ステップS1により取得された第1加速度データ及び第2加速度データに基づいて、合成指標Rを算出する。合成指標Rは、頸部の加速度の大きさと、腰部の加速度の大きさとを合成した指標であり、その大きさは、人P1の頸部の加速度の大きさが大きくなるほど大きくなり、かつ、人P1の腰部の加速度の大きさが大きくなるほど大きくなる。

【0030】
より具体的には、本実施形態の合成指標Rは、以下の式に従って、数値として算出される。
【数1】
JP2020054556A_000003t.gif

【0031】
ただし、An1は、第1加速度データの上下方向の成分の二乗平均平方根(以下、RMSという)であり、An2は、第1加速度データの左右方向の成分のRMSであり、An3は、第1加速度データの前後方向の成分のRMSであり、Al1は、第2加速度データの上下方向の成分のRMSであり、Al2は、第2加速度データの左右方向の成分のRMSであり、Al3は、第2加速度データの前後方向の成分のRMSである。An1~An3は、第1加速度データに含まれる各時刻の加速度の値のRMSである。同様に、Al1~Al3は、第2加速度データに含まれる各時刻の加速度の値のRMSである。

【0032】
なお、歩き始めと歩き終わりの加速度データは、定常的な歩行の状態を表さないため、後述する解析には必ずしも適さない。従って、テスト歩行時の第1加速度データ及び第2加速度データのうち、加速及び減速区間にそれぞれ対応する歩き始めと歩き終わりのデータを削除し、概ね一定速度の定常状態のデータを解析の対象とすることが好ましい。本実施形態では、合成指標Rを算出するための元データとして、歩行距離16mのうち、中央の10m分のデータが使用される。

【0033】
以上のとおり定義される合成指標Rは、人P1の歩行能力を表すことができる。本発明者らは、以下に示す実験により、このことを検証した。被験者は、健常者40名、及び脳血管障害の患者33名(FACの判定では、このうち29名)とした。そして、これらの被験者に、以上のとおりにテスト歩行させ、このときの第1加速度データ及び第2加速度データに基づいて、An1~An3及びAl1~Al3を算出した。図3A及び図4Aは、このときのAn1とAl1との関係を示す散布図であり、図3B及び図4Bは、このときのAn2とAl2との関係を示す散布図であり、図3C及び図4Cは、このときのAn3とAl3との関係を示す散布図である。図3A~図3Cでは、健常者と、BRSのレベルIV、V及びVIとを区別して示しており、図4A~図4Cでは、FACのレベル3、4、5(BRS VI)、及び5(健常者(Normal))を区別して示している。なお、脳血管障害の患者のBRSのレベルは、同一のリハビリテーション医1名が判定を行い、FACのレベルは、10年以上の経験を積んだ理学療法士1名が判断した。

【0034】
図3A~図4Cに示すように、An1とAl1、An2とAl2、An3とAl3は、全て正の相関を示し、R2が約0.8で一次曲線に回帰された。また、図3A~図3Cからは、脳血管障害の重症度(健常者、BRSのレベルIV、V及びVI)ごとに概ね4つの群が形成され、重症度が高いほど、原点からの距離が大きくなることが分かった。なお、BRSのレベルは、レベルが低い程、脳血管障害の重症度が高い。また、図3A~図3Cにおける各プロット点から原点までの距離を変数として、以上の4つの群間でt検定を行ったところ、全ての群間でp(有意確率)<0.01で統計学的有意差が認められた。また、図4A~図4Cからも、脳血管障害の重症度(FACのレベル3、4、5(BRS VI)、及び5(健常者))ごとに概ね4つの群が形成され、重症度が高いほど、原点からの距離が大きくなることが分かった。なお、FACのレベルも、レベルが低い程、脳血管障害の重症度が高い。また、図4A~図4Cにおける各プロット点から原点までの距離を変数として、以上の4つの群間でt検定を行ったところ、全ての群間でp<0.01で統計学的有意差が認められた。

【0035】
さらに、以上と同じデータに対して、BRSによる脳血管障害の重症度と健常者とで群分けした場合、合成指標Rは、レベルIVで0.78±0.38となり、レベルVで0.43±0.16となり、レベルVIで0.27±0.14となり、健常者で0.15±0.03となり、全ての群間でp値<0.05の統計学的有意差をもって、脳血管障害が重症になるに従って大きくなることが分かった。また、合成指標Rは、脳血管障害の患者全体と健常者とで群分けした場合、脳血管障害の患者で0.45±0.30となり、健常者で0.15±0.03となり、p<0.05の統計学的有意差をもって、脳血管障害患者の方が大きくなることが分かった。

【0036】
同様に、FACのレベルにより群分けした場合、合成指標Rは、レベル3で0.87±0.36となり、レベル4で0.53±0.21となり、レベル5で0.18±0.07となり、レベル3と4の群間を除き、p<0.05の統計学的有意差をもって、歩行能力が低下するに従って大きくなることが分かった。また、FACのレベル5の群をさらに健常者群と脳血管障害の群とに群分けした場合、合成指標Rは、FACのレベル5(健常者)では0.15±0.03となり、FACのレベル5(脳血管障害患者)で0.27±0.09となり、p<0.05の統計学的有意差をもって、脳血管障害患者の方が大きくなることが分かった。

【0037】
以上より、合成指標Rが人P1の歩行能力を表すことが確認された。また、この合成指標Rを用いれば、10mのテスト歩行で、健常者と脳血管障害の患者とを区別できることが分かった。また、脳血管障害の患者の歩行能力及び重症度を客観的に評価できることも分かった。

【0038】
続くステップS3では、判断部43は、ステップS2で算出された合成指標Rの大きさに応じて、歩行能力のレベルを判断する。より具体的には、記憶部30内には、歩行能力の各レベルに対し、当該レベルに対応する合成指標Rの範囲を定める変数(典型的には、上限値及び下限値等)が記憶されている。判断部43は、記憶部30内のこれらの変数を参照し、合成指標Rがどの範囲に入るかを判断し、合成指標Rが入ると判断された範囲に対応するレベルを、人P1の歩行能力のレベルとして判断する。なお、ここで判断される歩行能力のレベルは、BRSのレベルであってもよいし、FACのレベルであってもよいし、両方であってもよいし、BRSでもFACでもないレベルであってもよい。

【0039】
続くステップS4では、結果出力部44が、ステップS4の判断結果を示す画面を作成し、表示部10上に表示させる。これを見たユーザーは、人P1の歩行能力のレベルを知るとともに、脳血管障害の有無及び重症度を知ることができる。なお、ステップS4の判断結果は、表示に代えて又は加えて、検査装置1に内蔵される又は接続されるスピーカから音声出力されてもよい。また、この検査により、脳血管障害の患者の転倒リスクをより客観的に評価することが可能になる。よって、効果的なリハビリテーションを実現したり、患者のADL(日常生活動作)の維持及び向上を実現したりすることができる。

【0040】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。

【0041】
<3-1>
上記実施形態において、人P1の歩行時の加速度は、加速度計による重心動揺計により計測された。しかしながら、人P1の歩行時の頸部や腰部等の注目部位の加速度を計測する計測装置は、加速度計に限られない。例えば、加速度計での計測に代えて又は加えて、画像センサ(カメラ)により撮影される画像データを画像処理することにより、注目部位の加速度データを取得してもよい。このとき、注目部位にマーカーを付けておき、画像データ上で注目部位の位置を捉えやすくしておくことが好ましい。このようにカメラを使用する場合には、非接触型の計測で、注目部位の加速度データを取得することが可能になる。また、検査装置1を、このようなカメラ搭載のスマートグラス(眼鏡)により実現することもできる。人P1の歩行時の注目部位の加速度を計測する計測装置の他の例としては、光学式、磁気式、レーザー式等のモーションキャプチャシステムが挙げられる。

【0042】
<3-2>
上記実施形態では、合成指標Rに基づいて、検査装置1の判断部43が人P1の歩行能力のレベルを判断した。しかしながら、結果出力部44が合成指標Rを出力し、それを参考にして人が判断部43と同様の判断を行ってもよい。

【0043】
<3-3>
上記実施形態では、合成指標Rは、第1加速度データ及び第2加速度データの3方向の成分全てに基づいて算出された。しかしながら、2方向の成分から導出してもよいし、1方向の成分から導出してもよい。なお、上下方向の成分及び左右方向の成分は、歩行能力との相関が大きいため、上下方向の成分及び左右方向の成分の少なくとも一方の大きさに基づいて、合成指標Rを定義することが好ましい。

【0044】
<3-4>
上記実施形態では、第1加速度データとして、人P1の頸部の加速度データが計測されたが、これに代えて、第1加速度データとして、人P1の頭部の加速度データが計測されてもよい。なお、変形例3-1のように、非接触型の計測を行う場合には、頭部の加速度データの計測が容易になる。
【符号の説明】
【0045】
1 検査装置
2 プログラム
3A 加速度計
3B 加速度計
41 データ取得部
42 指標算出部
43 判断部
44 結果出力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図3C】
4
【図4A】
5
【図4B】
6
【図4C】
7