TOP > 国内特許検索 > 金属空気電池用正極触媒及び金属空気電池 > 明細書

明細書 :金属空気電池用正極触媒及び金属空気電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-152298 (P2018-152298A)
公開日 平成30年9月27日(2018.9.27)
発明の名称または考案の名称 金属空気電池用正極触媒及び金属空気電池
国際特許分類 H01M   4/90        (2006.01)
H01M  12/08        (2006.01)
FI H01M 4/90 X
H01M 12/08 K
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-049070 (P2017-049070)
出願日 平成29年3月14日(2017.3.14)
発明者または考案者 【氏名】本橋 輝樹
【氏名】齋藤 美和
出願人 【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
【識別番号】100120891、【弁理士】、【氏名又は名称】林 一好
審査請求 未請求
テーマコード 5H018
5H032
Fターム 5H018AA10
5H018AS03
5H018EE13
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032AS12
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
要約 【課題】金属空気電池の環境下において、優れた耐久性や活性を有する正極触媒を提供すること。
【解決手段】本発明に係る金属空気電池用正極触媒は、YBaCo置換体を備えるものであり、その置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されているか、Coサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されているか、前記YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されており、且つCoサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されている。Yサイトの全てがCaで置換されていることが好ましい。
【選択図】図9
特許請求の範囲 【請求項1】
YBaCo置換体を備える金属空気電池用正極触媒であって、
前記YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されているか、Coサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されているか、前記YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されており、且つCoサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されている
金属空気電池用正極触媒。
【請求項2】
前記Yサイトの全てがCaで置換されている
請求項1に記載の金属空気電池用正極触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属空気電池用正極触媒を含む
金属空気電池。
【請求項4】
前記金属空気電池用正極触媒がアルカリ溶液に浸漬される
請求項3に記載の金属空気電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池用正極触媒及び金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)の更なる普及にはガソリン自動車並の航続距離を実現する高エネルギー密度蓄電池の開発が必要不可欠である。現在、現状のリチウムイオン二次電池を超えた「革新型蓄電池」の一つとして、金属空気電池が注目を集めている。金属空気電池とは、負極活物質として亜鉛等の金属、正極活物質として空気中の酸素を用いる二次電池をいう。このような金属空気電池は、非常に高い理論エネルギー密度を達成する可能性がある。金属空気電池、特に金属として亜鉛を用いた亜鉛空気電池は、国内外の研究機関で古くから研究開発が行われているが(例えば、非特許文献1、2)、現在のところ、本格的な実用化には至っていない。
【0003】
このような金属空気電池の空気極では、放電時には酸素(活物質)の4電子還元反応により水酸化物イオンが生成し、一方で、充電時には水酸化物イオンの4電子酸化反応により酸素が発生する。これら4電子の授受を伴う酸素還元反応(以下、「ORR」ということもある。)及び酸素発生反応(以下、「OER」ということもある。)は、速度論的に非常に遅い反応であることから充放電時に大きな過電圧が生じるため、ORR/OERを促進し得る高活性触媒が必要である。
【0004】
具体的に、金属空気電池の各電極における充電反応及び放電反応は、以下の(1)~(4)の式のとおりである。なお、式(1)~(4)においては、便宜のため、負極として亜鉛を用いた例を示している。
(正極)
充電反応(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e ・・・(1)
放電反応(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH ・・・(2)
(負極)
充電反応:ZnO+HO+2e→Zn+2OH ・・・(3)
放電反応:Zn+2OH→ZnO+HO+2e ・・・(4)
【0005】
ところで、金属空気電極においては、電解液として高濃度KOH水溶液の強アルカリ水溶液等を用いて、上記(1)、(4)式に関与する水酸化物イオンを供給する。そして、正極触媒は強アルカリ水溶液に浸漬されるため、優れた化学的安定性(特に、アルカリ耐久性)が求められる。
【0006】
正極触媒として、白金、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等が高いORR/OER活性を示すことが知られている。しかしながら、これらに含まれる貴金属は稀少で高価であることから自動車用蓄電池等の大規模な実用化は困難である。したがって、遷移金属等、資源的に豊富な元素を主成分とする汎用的な高性能ORR/OER活性を示す正極触媒の開発が強く望まれている。
【0007】
また、正極触媒として、ペロブスカイト(ABO)型遷移金属酸化物の開発が進められている。これまで、ペロブスカイトABO構造における六配位八面体のBサイトのエネルギー準位がt2g及びeに分裂した際、e電子数が1でORR/OER活性が極大となることが報告されている(例えば、非特許文献3、4)。しかしながら、この設計指針では、ORR/OER活性のみに着目しているため、金属空気電池の実用化に必要である耐久性については考慮されておらず、金属空気電池の動作環境下において有用な材料は見出されていない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】F.Cheng,J.Chen,Chem.Soc.Rev.,41,2172-2192(2012).
【非特許文献2】Y.Li,H.Dai,Chem.Soc.Rev.43,5257-5275(2014).
【非特許文献3】J.Suntivich,H.A.Gasteiger,N.Yabuuchi,H.Nakanishi,J.B.Goodenough,Y.S.-Horn,Nat.Chem.,3,546-550(2011).
【非特許文献4】J.Suntivich,K.J.May,H.A.Gasteiger,J.B.Goodenough,Y.S.-Horn,Science,334,1383-1385(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属空気電池の動作環境下において、優れた耐久性や活性を有する正極触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属空気電池用正極触媒として、YBaCoのYサイト又はCoサイトを所定の元素で置換したYBaCo置換体を用いることにより、優れた耐久性や活性を有する正極触媒を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、YBaCo置換体を備える金属空気電池用正極触媒であって、前記YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されているか、Coサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されているか、YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されており、且つCoサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されている金属空気電池用正極触媒である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記Yサイトの全てがCaで置換されている金属空気電池用正極触媒である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明に係る金属空気電池用正極触媒を含む金属空気電池である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記金属空気電池用正極触媒がアルカリ溶液に浸漬される金属空気電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた耐久性や活性を有する正極触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る空気金属電池の断面図である。
【図2】試料A~Fの室温又は40℃でKOH水溶液に浸漬後の水溶液の写真である。
【図3】試料Aの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図4】試料Bの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図5】試料Cの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図6】試料Dの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図7】試料Eの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図8】試料Fの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。
【図9】試料A~FのORR反応における電流密度-電位曲線である。
【図10】試料A~FのOER反応における電流密度-電位曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。

【0018】
<1.金属空気電池用正極触媒>
本実施の形態に係る金属空気電池用正極触媒は、YBaCo置換体を備える。そして、このYBaCo置換体は、Yサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類元素で置換されているか、Coサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されているか、YBaCo置換体のYサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類金属で置換されており、且つCoサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されていることを特徴とするものである。

【0019】
YBaCoは、非ペロブスカイト構造を有する化合物であり、その結晶構造中には、Coの周りに4つの酸化物イオンが配位するCoO四面体が存在する。このYBaCoは、それ自身も正極触媒として優れた耐久性や触媒活性を有する。特に、アルカリに対して高い耐久性を有する。YBaCoにおいて、Coは酸化数が平均して+2.25であり、Co2+とCo3+が概ね3:1の割合で存在すると考えられている。

【0020】
そして、このYBaCo構造のYサイト及びCoサイトは、イオン半径が比較的近い他の元素により置換することができる。本発明において、正極触媒に用いるYBaCoは、Yサイトの少なくとも一部がCa、In又は希土類元素で置換されているか、Coサイトの少なくとも一部がFe、Ga、Al又はZnで置換されている。このようなYBaCo置換体を用いることにより、YBaCoの優れた耐久性や触媒活性を基礎としながらも、より高い耐久性や触媒活性を有する特徴的な材料を得ることができる。

【0021】
なお、この化合物について、便宜上「YBaCo」と表記するが、O数については比較的広範な範囲をとり得る。そのため、一般には「YBaCo7+δ」のように表されることもある。ここで、式中の「δ」は不定比量とも呼ばれる。この不定比量の値としては、0≦δ≦1.5程度であることが知られている。このようなYBaCo7+δについても、本発明の範囲に含まれる。

【0022】
Yサイト又はCoサイトへの置換量としては、特に限定されるものではなく、各元素の添加効果と所望の性能のバランスや、各サイトへの各元素の置換限界量を考慮して適宜設計することができる。

【0023】
Yサイトは、少なくともその一部をCaで置換することができる。YサイトがCaで置換されることにより、アルカリ溶液に対する耐久性を高めることができる。また、ORR/OER活性を高めることができる。酸化数+3のYが、酸化数+2のCaで置換されると、電荷のバランスにより、Co3+の割合が増加する。例えば、Yサイトが全てCaに置換された場合には、Co2+とCo3+は概ね1:1の割合で存在すると考えられる。Co3+はCo2+よりも安定なイオンであるため、Co3+が増加することによりアルカリ溶液に溶出しにくくなり、YBaCo置換体の耐久性を高めることができると考えられる。

【0024】
Caは、Yサイトの総元素のモル数に対して0モル%超100モル%以下の割合で置換することができる。このような化合物は、一般式で、(Y1-xCa)BaCo(0<x≦1)と表すことができる。例えば、Yサイトの全てがCaで置換された場合、このような化合物は、一般式でCaBaCoと表すことができる。上述したとおり、YサイトがCaで置換されることにより、アルカリ溶液に対する耐久性、ORR活性及びOER活性のいずれをも高めることができる。このような効果は、Caの添加量が多いほど大きい。また、Caは、Yに比べて原料のコストが低いという利点をも有する。したがって、CaのYサイトへの置換量としては、例えば、20モル%以上100モル%以下(上記一般式においてxが0.2以上1以下)であることが好ましく、50モル%以上100モル%以下(上記一般式においてxが0.5以上1以下)であることがより好ましく、70モル%以上100モル%以下(上記一般式においてxが0.7以上1以下)であることがさらに好ましく、80モル%以上100モル%以下(上記一般式においてxが0.8以上1以下)であることが特に好ましい。

【0025】
Yサイトは、少なくともその一部をInで置換することができる。YサイトがInで置換されることにより、触媒活性を高めることができる。このような化合物は、一般式で、(Y1-xIn)BaCo(0<x≦1)と表すことができる。

【0026】
Yサイトは、少なくともその一部を希土類元素で置換することができる。ここで、「希土類元素」とは、置換の対象であるY及び安定同位体が存在しないPm元素を除く概念であり、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる元素群である。これらの元素群から選択される1種以上の元素を用いることができる。Yサイトが希土類元素で置換されることにより、触媒活性を高めることができる。

【0027】
希土類元素のうち、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuについては、Yサイトの総元素のモル数に対して0モル%超100モル%以下の割合で置換することができる。一方で、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd及びTbについては、部分的に置換することができる。

【0028】
Coサイトは、少なくともその一部をFeで置換することができる。CoサイトがFeで置換されることにより、ORR活性及びOER活性のいずれをも高めることができる。

【0029】
Feは、Coサイトの総元素のモル数に対して0モル%超100モル%以下の割合で置換することができる。このような化合物は、一般式で、YBa(Co1-xFe(0<x≦1)と表すことができる。このような化合物としては、例えば、YBaCoFeOが挙げられる。上述したとおり、CoサイトがFeで置換されることにより、ORR活性及びOER活性のいずれをも高めることができる。このような効果は、Feの添加量が多いほど大きい。ただし、Feの添加量が増加するにしたがって、耐久性が低下するおそれがある。したがって、FeのCoサイトへの置換量としては、Coサイトの総元素のモル数に対して、例えば5モル%以上(上記一般式においてxが0.05以上)であることが好ましく、7モル%以上(上記一般式においてxが0.07以上)であることがより好ましく、10モル%以上(上記一般式においてxが0.1以上)であることがさらに好ましい。また、FeのCoサイトへの置換量としては、40モル%以下(上記一般式においてxが0.4以下)であることが好ましく、35モル%以下(上記一般式においてxが0.35以下)であることがより好ましく、30モル%以下(上記一般式においてxが0.3以下)であることがさらに好ましい。

【0030】
Coサイトは、少なくともその一部をGa又はAlで置換することができる。CoサイトがGa又はAlで置換されることにより、触媒活性や耐久性を高めることができる。

【0031】
Coサイトは、少なくともその一部をZnで置換することができる。CoサイトがZnで置換されることにより、アルカリ溶液に対する耐久性を高めることができる。上述したとおり、YBaCoにおいて、Co2+及びCo3+が混在しているが、CoサイトをZn2+で置換することにより、Co3+に比べて不安定Co2+の量が減少するため、Co2+がアルカリ溶液に溶出しにくくなり、YBaCo置換体の耐久性を高めることができると考えられる。

【0032】
Znは、YBaCo置換体における4配位サイトの2価金属イオンを全て置換することができる。例えば、Coの平均価数が+2.25であるYBaCoにおいては、2価のCo(Co2+)が全ての価数のCoに対して3/4の割合で存在しているため、Coイオンの3/4をZnで置換することが可能であり、このような化合物は、一般式で、YBa(Co1-xZn(0<x≦1)と表すことができる。このような化合物としては、例えば、YBaCoZnOが挙げられる。上述したとおり、CoサイトがZnで置換されることにより、アルカリ溶液に対する耐久性を高めることができる。このような効果は、Znの添加量が多いほど大きい。ただし、Znの添加量が増加するにしたがって、OER活性がやや低下するおそれがある。したがって、ZnのCoサイトへの置換量としては、Coサイトの総元素のモル数に対して、例えば1モル%以上(上記一般式においてxが0.01以上)であることが好ましく、2モル%以上(上記一般式においてxが0.02以上)であることがより好ましく、5モル%以上(上記一般式においてxが0.05以上)であることがさらに好ましく、10モル%以上(上記一般式においてxが0.1以上)であることが特に好ましい。また、ZnのCoサイトへの置換量としては、35モル%以下(上記一般式においてxが0.35以下)であることが好ましく、30モル%以下(上記一般式においてxが0.3以下)であることがより好ましく、27モル%以下(上記一般式においてxが0.27以下)であることがさらに好ましく、25モル%以下(上記一般式においてxが0.25以下)であることが特に好ましい。

【0033】
Yサイトに置換可能な元素又はCoサイトに置換可能な元素としては、1種のみを単独で用いることも、2種以上を併用して用いることもできる。2種以上を併用する場合、Yサイト又はCoサイトのみを1種又は2種以上の元素で置換することも、Yサイト及びCoサイトそれぞれを1種又は2種以上の元素で置換することもできる。Yサイト及びCoサイトにそれぞれ1種ずつ置換した化合物としては、例えば、CaBaCoFeO、CaBaCoFe、CaBaCoZnOが挙げられる。

【0034】
YBaCoの形状としては、特に限定されず、使用する空気金属電池の仕様により、粒子状、バルク状等から適宜選択することができる。このうち粒子状のものを用いることが好ましい。

【0035】
粒子状のYBaCoを用いる場合、その比表面積としては、特に限定されず、例えば、0.05m/g以上であることが好ましく、0.1m/g以上であることがより好ましく、0.2m/g以上であることがさらに好ましく、0.3m/g以上であることが特に好ましい。また、比表面積としては、大きいほど好ましいが、例えば、100m/g以下又は50m/g以下であってもよい。なお、「比表面積」とは、前処理装置(VacPrep061,micromeritics製)を用いて試料に処理を施した後、その処理後の試料について比表面積/細孔分布測定装置(TriStar 3000,micromeritics製)を用いてBET法により測定した値をいう。

【0036】
YBaCo置換体としては、1種の置換体のみを単独で用いることも、2種以上の置換体を併用して用いることもできる。例えば、特にORR活性に優れる置換体と、特にOER活性に優れる置換体とを組み合わせて、ORR活性及びOER活性のいずれにも優れる正極触媒を得ることができる。

【0037】
YBaCo置換体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、セラミックス材料の各種製造方法を用いることができる。例えば、錯体重合法や水熱合成法等の液相法、焼結法等の固相法等を用いることができる。このうち、液相法は、低温焼成でも化学的に均一性の高い粒子を得ることができ、その結果として小粒径・高比表面積でより高いORR活性及びOER活性を示す正極触媒を得ることができる。

【0038】
正極触媒は、上述したYBaCo置換体を備えるものであれば、本発明の効果を損なわない範囲において、他の材料を含むことができる。具体的には、導電助剤、接着剤、プロトン伝導体等の各種材料を含むことができる。導電助剤としては、例えば、グラファイト(カーボンブラック)等を用いることができる。また、接着剤及びプロトン伝導体としては、ナフィオン(登録商標)を用いることができる。なお、正極触媒は、本発明の効果を損なわない範囲において、不純物を含むこともできる。

【0039】
<2.金属空気電池>
本実施の形態に係る金属空気電池は、上述した正極触媒を備えることを特徴とするものである。そして、このような金属空気電池は、充放電特性が高く、また、耐久性が高い。

【0040】
以下、具体的な金属空気電池の構成を、図を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る空気金属電池の断面図である。金属空気電池10は、上述した正極触媒を備えてなる正極1と、負極2と、電解質3とを備える。

【0041】
この金属空気電池10において、正極1と負極2は、電解質3を隔てて対向するように配置されている。

【0042】
図示しないが、一実施形態において、正極1は、正極触媒層及びガス拡散層により構成されている。ここで、正極触媒層はガス拡散層の電解質3側に、ガス拡散層は電解質と反対側にそれぞれ形成されている。なお、ガス拡散層は必須の態様ではない。

【0043】
正極触媒層は、上述した正極触媒を備えて構成される。正極触媒層は、例えば、担体や後述するガス拡散層上に、スラリーコート法、スプレーコート法、焼成法等の方法によって形成することができる。

【0044】
ガス拡散層としては、導電性と通気性を併せ持つ材料であれば特に限定されず、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、金属メッシュ等を用いることができる。

【0045】
負極2は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第一遷移金属及びアルミニウムから選ばれる元素を含む負極活性物質を含有する負極層で構成されている。アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca等が挙げられる。第一遷移金属としては、例えば、Zn、Fe、Ti、Ni、Co、Cu、Mn、Cr等が挙げられる。負極活性物質としては、上述した元素から構成される金属、合金及び化合物等を用いることができる。負極活性物質として用いることができる化合物としては、具体的には、上述した元素の酸化物、窒化物、炭酸塩等が挙げられる。

【0046】
電解質3は、KOH水溶液、NaOH水溶液、LiOH水溶液等、アルカリ水溶液を含む。アルカリの濃度としては、特に限定されず、例えば、水酸化物イオンの濃度([OH])が、1~10mol/L以上であることが好ましい。

【0047】
図示しないが、一実施形態において、正極1と負極2が接触して短絡することを防ぐために、正極と負極の間に(例えば、電解質3を隔てるようにして)セパレータを備えることができる。

【0048】
セパレータとしては、電解質の移動(透過)が可能な絶縁材料であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、フッ素樹脂等の樹脂からなる不織布又は多孔質膜を用いることができる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。電解質が水溶液である場合には、これらの樹脂は、親水性化して用いることもできる。

【0049】
電解質3として、アルカリ金属等陽性な金属を含む水溶液を用いる場合、電解質として、水系電解液と金属負極を直接接触させることができず、負極2側については有機電解液を介する必要がある。この場合、例えば、正極1と負極2の間を固体電解質にて隔て、正極1側に水系電解液、負極2側に有機電解液を配置することができる。

【0050】
このような金属空気電池の形状(ケースの形状)としては、特に限定されるものではなく、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型等の形状のものを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
[試料の調製]
以下に示す方法により、正極触媒としての試料A(YBaCo)、試料B(CaBaCo)、試料C(YBaCoFeO)、試料D(CaBaCoFeO)、試料E(CaBaCoFe)及び試料F(YBaCoZnO)を調製した。原料としては、以下のものを用いた。なお、試料A、Fについては、全ての金属源について酢酸塩を用いた。一方で、試料B~Eについては、全ての金属源について硝酸塩を用いた。
Y源:Y(NO・6HO(純度99.9%,和光純薬工業)又は(CHCOO)Y・4HO(純度99.9%,和光純薬工業)
Ba源:Ba(NO(純度99%,高純度化学研究所)又は(CHCOO)Ba(純度99.9%,和光純薬工業)
Co源:Co(NO・6HO(純度99.9%,高純度化学研究所)又は(CHCOO)Co・4HO(純度99%,和光純薬工業)
Ca源:Ca(NO・4HO(純度99.9%,関東化学)
Fe源:Fe(NO・9HO(純度99.9%,関東化学)
Zn源:(CHCOO)Zn・2HO(純度99.9%,和光純薬工業)
錯化剤:クエン酸(和光純薬工業)
【実施例】
【0053】
目的生成物が3mmolとなるように各硝酸塩及び酢酸塩を秤量し、坩堝に入れた後、超純水約30mL~50mLと錯化剤としてクエン酸を金属塩:クエン酸のモル比が1:1になるよう加え、テフロン(登録商標)撹拌子を入れヒーターで約70℃に加熱して溶媒除去し、ゲル化した。ゲル化した物質は、ボックス炉にて大気中600℃で7時間仮焼成し、有機物除去をし、前駆体を得た。このようにして得られた前駆体を粉砕した後、管状炉を用いて空気中1100℃で16時間本焼成を行い、本焼後に室温まで急冷した。
【実施例】
【0054】
<アルカリ耐久性の評価>
試料A~Fそれぞれ0.2gを、4Mに調整したKOH水溶液5mLに浸漬し、室温(25℃)又は40℃で24時間静置した。静置後の水溶液の色を目視で確認した。図2は、試料A~Fの室温又は40℃でKOH水溶液に浸漬した後の水溶液の写真である。
【実施例】
【0055】
試料A及びBについて、室温で浸漬した場合には、溶液の色に変化はなかった。一方で、40℃で浸漬した場合、試料Aでは茶黒色に着色した。これに対し、試料Bでは40℃でも、溶液の色に変化はなかった。
【実施例】
【0056】
Coサイトの一部をFeで置換した試料C~Eでは、室温で浸漬した場合には、溶液が僅かに青色に着色した。また、40℃で浸漬した場合には、茶黒色に着色した。
【実施例】
【0057】
Coサイトの一部をZnで置換した試料Fでは、室温で浸漬した場合には、溶液の色に変化はなかった。また、40℃で浸漬した場合には、僅かに茶黒色に着色した。
【実施例】
【0058】
KOH水溶液への浸漬及び静置後の試料をろ過し、洗浄液が中性になるまで超純水で洗浄した。その後試料を乾燥し、XRDパターン(CuKα線源)を測定した。また、浸漬前の試料のXRDパターンも測定した。
【実施例】
【0059】
図3~8は、試料A~Fの(a)浸漬前、(b)室温で浸漬後、(c)40℃で浸漬後のXRDパターンである。試料A~Fにおいては、いずれも室温で24時間浸漬後に浸漬前に見られていた主相のピークが消失しなかった。また、試料B及びFにおいては、40℃で24時間浸漬後も主相のピークが消失しなかった。特に、試料Bは、40℃で浸漬後もCoの溶出に起因して生成するCo(OH)等、副相のピークが確認されなかった。
【実施例】
【0060】
<ORR活性及びOER活性の評価>
対流ボルタンメトリー(Rotating Disk Electrode,RDE) 法により、試料A~FのORR活性及びOER活性の評価を行った。回転電極装置(RRDE-3A,BAS製)の作用電極を1600rpmで回転させ、ポテンショスタット(HZ-7000,北斗電工製又はVersaSTAT4,METEK製)と接続し、電解液に4MのKOH水溶液を用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。電極としては、以下のものを使用した。
作用電極(WE):5mmφガラス状カーボン(グラッシーカーボン,GC)電極
対電極(CE):コイル状白金(Pt)電極
参照電極(RE):アルカリ用参照電極(Hg/HgO/4M KOH)
【実施例】
【0061】
試料A~Fは、インク状にして作用電極上に塗布し、評価を行った。以下、具体的に説明する。
【実施例】
【0062】
(カーボンの前処理)
カーボンの前処理として、アセチレンブラック(Acetylene carbon black,99.99%,STREM CHEMICALS)を硝酸中で30分間超音波分散させた後、80℃で一晩加熱撹拌子し、ろ過乾燥後、粉砕した。
【実施例】
【0063】
(インク用溶媒の調製)
5%ナフィオン(商標登録)分散液(和光純薬工業)を水酸化ナトリウム・エタノール(EtOH)溶液で中和し、得られた中和液とエタノールを3:47の体積比で混合してインク用溶媒とした。
【実施例】
【0064】
(インクの調製)
サンプル瓶にインク用溶媒:アセチレンブラック:触媒(酸化物試料)=5mL:10mg:50mgの比で入れ、超音波分散させた。
【実施例】
【0065】
(作用電極へのインク塗布)
超純水とEtOHで洗浄したグラッシーカーボンにインクを20μL滴下し(触媒量:0.2mg)、完全に乾燥させた。
【実施例】
【0066】
(サイクリックボルタンメトリー測定)
サイクリックボルタンメトリー測定は以下の手順に従って、適時アルゴンまたは酸素ガスフローを行った後に開始した。測定条件は以下の通りである。
(1)クリーニング(cleaning)測定(in Ar)
0.176V~-0.324V vs.Hg/HgO,50mV/s,
30cycles
(2)バックグラウンド(BG)測定(in Ar)
0.176V~-0.324V vs Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
(3)Oバブリング
(4)ORR測定(in O
0.176V~-0.324V vs Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
(5)OER測定
0.176V~0.776V vs Hg/HgO,1mV/s,
3cycles
【実施例】
【0067】
以上のようにして得られたデータから、電位と電流密度の関係を図示し、触媒活性を評価した。なお、電位(電圧値)については可逆水素電極(Reversible hydrogen electrode,RHE)電位に換算し(U vs RHE=U vs Hg/HgO+0.924V)、得られた電流値とグラッシーカーボンの電極面積から電流密度を算出した。
【実施例】
【0068】
図9は、試料A~FのORR反応における電流密度-電位曲線である。試料B~Eは、いずれも無置換のYBaCoを用いた試料Aと比較して高いORR活性を示した。試料Fは、無置換のYBaCoを用いた試料Aと同程度のORR活性を示した。
【実施例】
【0069】
図10は、試料A~FのOER反応における電流密度-電位曲線である。試料B~Eは、いずれも無置換のYBaCoを用いた試料Aと比較して高いOER活性を示した。試料Fは、無置換のYBaCoを用いた試料AよりもOER活性が低いが、十分に実用に耐え得る高いOER活性を有する。
【実施例】
【0070】
このように、YBaCoのYサイト又はCoサイトを、所定の元素で置換することにより、高いアルカリ耐久性及び触媒活性を有しているYBaCoのアルカリ耐久性又は触媒活性をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 正極
2 負極
3 電解質
10 金属空気電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9