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明細書 :アップコンバージョン蛍光体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-135437 (P2018-135437A)
公開日 平成30年8月30日(2018.8.30)
発明の名称または考案の名称 アップコンバージョン蛍光体の製造方法
国際特許分類 C09K  11/67        (2006.01)
C09K  11/08        (2006.01)
FI C09K 11/67 CPQ
C09K 11/08 B
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2017-030250 (P2017-030250)
出願日 平成29年2月21日(2017.2.21)
発明者または考案者 【氏名】山本 伸一
出願人 【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000914、【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4H001
Fターム 4H001CA04
4H001CF02
4H001XA08
4H001XA22
4H001XA30
4H001YA67
4H001YA68
4H001YA69
4H001YA70
要約 【課題】発光強度が高く、発光特性に優れたアップコンバージョン蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】TiとZnの酸化物を含む母体結晶、ならびに、Er、TmおよびHoから選ばれる1種以上と、Ybを含む発光成分を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法であって、Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超え、各金属の有機化合物の溶液を基材に塗布し、焼成する工程を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法に関する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
TiとZnの酸化物を含む母体結晶、ならびに、
Er、TmおよびHoから選ばれる1種以上と、Ybを含む発光成分を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法であって、
Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超え、
各金属の有機化合物の溶液を基材に塗布し、焼成する工程を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法。
【請求項2】
Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が2以上である請求項1記載のアップコンバージョン蛍光体の製造方法。
【請求項3】
母体結晶におけるZnとTiのモル比が1.0:0.25~2.0であることを特徴とする請求項1または2記載のアップコンバージョン蛍光体の製造方法。
【請求項4】
発光成分の粒子の大きさが0.5μm以下であり、各粒子がYbを含有するアップコンバージョン蛍光体。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、励起波長よりも短い波長の光を放出するアップコンバージョン蛍光体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
励起波長よりも短い波長の光を放出する蛍光体は、アップコンバージョン蛍光体と呼ばれている。低エネルギーの赤外線を照射することで、高エネルギーの可視光線を発光することが可能であり、低コスト・高演色性白色LED、バイオイメージング、太陽電池の高効率化への応用が期待される。
【0003】
アップコンバージョン蛍光体に使用される材料は、90数%の母体材料と数%の発光材料により構成され、発光材料が複数の光子を同時あるいは逐次的に吸収して、多段階励起された電子が上方の準位から遷移することで発光する。たとえば、ZnとTiの複合酸化物を母体材料とし、ErとYbを発光材料する場合、Zn化合物、Ti化合物、Er化合物及びYb化合物の混合物を焼成する方法や、Zn化合物もしくはM化合物(但し、MはMg,Ca,Ba又はSr)、Si化合物、Er化合物及びYb化合物の混合物を焼成することで製造されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、従来のアップコンバージョン蛍光体材料では、発光強度も低く、発光特性が未だ十分ではなかった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2014-234479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発光強度が高く、発光特性に優れたアップコンバージョン蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アップコンバージョン蛍光体の製造方法について種々検討したところ、特定の組成の材料を使用し、金属の有機化合物を主成分とする溶液を塗布して液膜化し、乾燥・焼成処理を施すことで酸化物薄膜を形成する手法である金属有機化合物分解法(MOD法(MOD:Metal Organic Decomposition))で蛍光体を作製すれば、ErとYbがほぼ同一か所に分布した小さな粒子となり、また、粒子間距離が大きくなって、発光効率が大きく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、TiとZnの酸化物を含む母体結晶、ならびに、Er、TmおよびHoから選ばれる1種以上と、Ybを含む発光成分を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法であって、Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超え、各金属の有機化合物の溶液を基材に塗布し、焼成する工程を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法に関する。
【0009】
Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が2以上であることが好ましい。
【0010】
母体結晶におけるZnとTiのモル比が1.0:0.25~2.0であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、発光成分の粒子の大きさが0.5μm以下であり、各粒子がYbを含有するアップコンバージョン蛍光体に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各金属の有機化合物の溶液を基材に塗布し、焼成する工程を含むため、基材上に発光効率の高い蛍光体を簡便に形成することができる。また、蛍光体において、発光成分の粒子の大きさが小さく、粒子間の距離が大きく、各粒子がYbを含有するため、発光効率が非常に高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた蛍光体(Zn:Ti:Yb:Erのモル比=1:1:0.06:0.02)の元素マッピング図である。
【図2】比較例3で得られた蛍光体(Zn:Ti:Yb:Erのモル比=1:1:0.06:0.06)の元素マッピング図である。
【図3】(a)は実施例1で得られた蛍光体におけるエルビウムの元素マッピング図であり、(b)はイットリビウムの元素マッピング図である。
【図4】実施例1および比較例1~4で得られた蛍光体の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアップコンバージョン蛍光体の製造方法は、TiとZnの酸化物を含む母体結晶、ならびに、Er、TmおよびHoから選ばれる1種以上と、Ybを含む発光成分を含むアップコンバージョン蛍光体の製造方法であって、Yb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超え、各金属の有機化合物の溶液を基材に塗布し、焼成する工程を含むことを特徴とする。

【0015】
アップコンバージョン蛍光体とは、励起波長よりも短い波長の光を放出する蛍光体であって、低エネルギーの赤外線を照射することで、高エネルギーの可視光線を発光することが可能である。複数の光子を同時あるいは逐次的に吸収して多段階励起された電子が、上方の準位から遷移することで発光する。アップコンバージョン発光材料がYb、Erの場合、980nmの近赤外レーザで励起すると、電子は、Er3+イオンのエネルギーレベル2H11/2、4S3/2、4F9/2に多段階励起され、その後基底状態4I15/2へ遷移する。各々の遷移に対応し緑色(525/550nm)と赤色(660nm)の発光をもたらす。

【0016】
母体結晶は、TiとZnの酸化物を含み、ZnTiOの状態で存在するが、TiOやZnOだけでなく、他の金属酸化物を含んでも良い。他の金属酸化物としては、MgO、SrO、BaO、Al、CaO、MoO、Yなどが挙げられる。母体結晶におけるZnとTiのモル比は特に限定されないが、1.0:0.25~2.0が好ましく、1.0:0.6~2.0がより好ましい。0.25未満では、光が弱くなり、2.0を超えても発光が弱くなる傾向がある。

【0017】
発光成分は、Er、TmおよびHoから選ばれる1種以上と、Ybを含む必要がある。YbはYbTiの状態で、Er等はErTiの状態で存在する。他の発光成分の金属元素としては、Pr、Ceなどが挙げられる。Er、TmおよびHo等のYb以外の発光成分の金属元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超える必要があり、2以上であることが好ましい。モル比が1以下では、発光が弱くなる傾向がある。上限は特に限定されないが、10以下が好ましい。

【0018】
母体結晶と発光成分の割合は特に限定されないが、高い発光効率を達成するために、蛍光体中に発光成分は0.1~20モル%が好ましく、0.5~10モル%がより好ましい。

【0019】
本発明の製造方法によれば、発光成分であるErなどのYb以外の発光元素とYbはほぼ同一か所に分布した小さな粒子となり、粒子間距離が大きくなった蛍光体が得られる。ここで、ErなどのYb以外の発光元素とYbがほぼ同一か所に分布とは、各粒子がYbを必ず含むことを意味し、各粒子がErなどのYb以外の発光元素も含むことが好ましい。粒子の大きさは、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましい。粒子間距離は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。ここで粒子の大きさとは、粒子の平均の大きさをいい、円形でない場合には円形に換算して算出した値を意味する。粒子間距離とは、粒子の境界部と他の粒子の境界部の最短距離と定義する。また、粒子同士が接触している場合は、それらを一つと定義することとする。

【0020】
本発明の製造方法では、金属有機化合物分解法(MOD:Metal Organic Decomposition)法を使用することを特徴とする。金属酸化物材料を形成する手段として多岐に亘る方法が検討されており、形成方法を大別すると気相法、固相法、液相法に大別できる。液相法には金属アルコキシドを用いたゾル-ゲル法や金属有機酸塩を用いた有機金属塗布熱分解法などがある。MOD法では、金属の有機化合物が有機溶剤に溶解した溶液であるMOD溶液を基板上に滴下、コーティングする。その後、MOD溶液の液膜が形成された基板を加熱することで乾燥させ、さらに高温熱処理を施すことで金属有機化合物中の有機成分を除去すると同時に金属酸化物を結晶化させる。スパッタリング法、CVD法などと比較し、MOD材料を用いると簡単に比率や膜厚を変えた試験が実施可能であり、低コストで金属酸化物を得ることができる。また、単純に金属酸化物同士を混合して焼成する場合と比較して、その後の焼成温度を好ましくは200℃以上低減することができる。

【0021】
各金属の有機化合物は特に限定されないが、たとえばカルボン酸の金属塩、金属アルコキシド、有機化合物を配位子とする金属錯体などが挙げられる。溶液に使用する有機溶媒は特に限定されないが、エタノール、2-プロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、2-エチルヘキサン酸、キシレン、メチルセロソルブ、テレピン油、アセチルアセトンなどが挙げられる。安定化剤や粘度調整剤を含んでいても良い。

【0022】
基材は特に限定されないが、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、金属板などが挙げられる。塗布する方法も特に限定されないが、スピンコート法、ドクターブレード法、ディップコート法、エレクトロスプレー法などの方法が挙げられる。塗布厚は特に限定されないが、0.05~100μmが好ましく、0.1~50μmがより好ましい。

【0023】
焼成温度は特に限定されないが、600~1400℃が好ましく、700~1100℃がより好ましく、700~1000℃がさらに好ましい。600℃未満では、焼成が不十分となり、1400℃を超えると、結晶性が悪くなる傾向がある。単純に金属酸化物同士を混合して焼成する場合には、1300℃程度の高温で焼成する必要があるが、MOD法では1000℃程度の焼成でも、同等の特性を達成することができる。また、焼成時間は特に限定されないが、0.5~10時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。

【0024】
本発明のアップコンバージョン蛍光体は、発光効率も高く、白色LED、バイオイメージング、太陽電池などに好適に適用できる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0026】
下記の実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
酸化チタン:株式会社高純度化学研究所製コート材Ti-O3-P
(カルボン酸のチタン塩2~4重量%、安定化剤0~3重量%、エタノール84~89重量%、2-プロパノール8~10重量%含有)
酸化エルビウム:株式会社高純度化学研究所製コート材Er-O3
(カルボン酸のエルビウム塩2~4重量%、安定化剤7~9重量%、粘度調整剤4.1~9重量%、テレピン油47~52重量%、酢酸ブチル22~27重量%、酢酸エチル7~9重量%含有)
酸化ツリウム:株式会社高純度化学研究所製コート材SK-TM01
(カルボン酸のエルビウム塩1.6~1.8重量%、2-エチルヘキサン酸3~5重量%、キシレン84~89重量%、メチルセロソルブ5~7重量%含有)
酸化イッテルビウム:株式会社高純度化学研究所製コート材Yb-03
(カルボン酸のエルビウム塩2.5~3.8重量%、テレピン油48~53重量%、酢酸ブチル23~28重量%、酢酸エチル7.1~9.3重量%、安定化剤5.6~7.6重量%含有、粘度調整剤5.9~7.6重量%含有)
酸化亜鉛:株式会社高純度化学研究所製コート材Zn-05
(カルボン酸の亜鉛塩4~6重量%、アセチルアセトン4~6重量%、テレピン油51~56重量%、安定化剤/粘度調整剤31~41重量%含有)
【実施例】
【0027】
実施例1
塗布前のSi基板(1,0,0)は、紫外線(UV)照射を10分間行い、基板表面の洗浄・改質を行った。Yb:Erのモル比が0.06:0.02、Ti:Znのモル比が1:1となるように各コート材を配合し、MOD溶液を作製した。MOD溶液をスポイトで約0.05mlSi基板に滴下し、MOD溶液で基板全体を均一に満たすように塗布した。塗布後の基板は乾燥炉を用いて大気中で100℃、10分の乾燥処理を行った。これらの塗布-乾燥の処理を計5回繰り返した。その後、電気マッフル炉で焼成し、UC蛍光体を作製した。焼成の条件は大気中1000℃で1時間の熱処理を行った。
【実施例】
【0028】
比較例1~4
Ti:Znのモル比を1:1とし、Yb:Erのモル比が0:0.06、0.02:0.06、0.06:0.06、0.06:0になるように各コート材を配合して比較例1~4のMOD溶液を使用した。これらのMOD溶液を使用すること以外、実施例1と同様の操作によって比較例1~4のUC蛍光体を作製した。
【実施例】
【0029】
[元素マッピング]
走査電子顕微鏡(SEM)により観察する視野に対して、Electron Back-Scattered Diffraction(EBSD)法を用いて結晶粒の上の元素を分析した。EBSDパターンの鮮明さをパラメータ化したIQ(Image Quality) Mapを使用しEDXとIQ Mapを重ねた。濃いグレーが亜鉛とチタンを表し、薄いグレーがErとYbを表す。また、エルビウムのみの元素マッピングとイッテルビウムのみの元素マッピングも行った。薄いグレーがErまたはYbを表す。
【実施例】
【0030】
[フォトルミネッセンス(PL)特性]
波長980nmの近赤外線レーザー(200mW)を用い、レーザーを45度の角度で試料に照射し、発生する光を直上から発光スペクトルを観察した。
【実施例】
【0031】
図1および2に、実施例1および比較例3で得られた蛍光体の元素マッピング図を示す。実施例1の蛍光体では、発光材料のErとYbがほぼ同一か所に分布した大きさが0.1μmであって、粒子間距離が0.5μmの蛍光体が作製できている。一方、比較例3の蛍光体では、発光材料のEr、Ybが島状に分布しており、粒子の大きさは円形に換算すると1μmを大きく超えた。図3に実施例1の蛍光体のErとYbの元素マッピング図を示すが、ErとYbが同じ粒子中に存在することがわかる。よって、ErとYbが合金的な構造を有している。
【実施例】
【0032】
図4に、実施例1および比較例1~4で作製した蛍光体の発光スペクトルを示すが、発光材料のErとYbがほぼ同一か所に分布し、小さな粒子として存在する実施例1の蛍光体では、発光材料のエネルギーの交換が効率的に行われると同時に、アップコンバージョンで発光された光のエネルギーも、効率的に外部に取り出すことが可能となり、発光強度が向上していた。一方、Ybが存在しない比較例1の蛍光体や、Erが存在しない比較例4の蛍光体では、アップコンバージョンすることなく、全く発光しなかった。Yb:Er=0.02:0.06とErの存在量がYbを超える比較例2においては、YbとErがともに存在するにもかかわらず、アップコンバージョンによる発光は検出されなかった。Yb:Er=0.06:0.06である比較例3において、アップコンバージョンで発光された光のエネルギーも、島から外にでることができず、再び内部で消滅する確率が高くなり、発光強度が大きく低下し、Yb:Er=0.06:0.02である実施例1に比べると発光強度が十分ではなかった。これらの結果から、アップコンバージョンのためには、Yb以外の発光成分であるEr元素1モルに対して、Ybのモル比が1を超える必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、発光強度も発光効率も高いアップコンバージョン蛍光体が得られるため、高演色性白色LED、バイオイメージング、太陽電池の高効率化へ応用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3