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明細書 :最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-143172 (P2018-143172A)
公開日 平成30年9月20日(2018.9.20)
発明の名称または考案の名称 最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法
国際特許分類 C12P  21/00        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12P 21/00 ZNAC
C12N 9/10
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-041685 (P2017-041685)
出願日 平成29年3月6日(2017.3.6)
発明者または考案者 【氏名】木賀 大介
【氏名】榎本 利彦
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100188994、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 裕介
【識別番号】100194892、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 麻美
【識別番号】100207653、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 聡
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B064
Fターム 4B050CC04
4B050EE03
4B050HH02
4B050LL05
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC24
4B064CC30
要約 【課題】
最適特性を有する非天然型タンパク質の取得を最適解とするときに、複数の変異体の間で試験管内組換えを行う方法によっても解決不可能な困難性を解決し、最適特性を有する非天然型タンパク質を製造するための製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
タンパク質の進化工学において、局所最適解に留まってしまう問題を回避するために、本発明では、計算機科学の最適化において行われる「焼きなまし法(Simulated annealing)」の適用を、本発明独自の改変遺伝暗号を持つタンパク質合成系によって調製されたタンパク質に対して行うことを可能とする進化工学的な手法を着想し、本着想の正当性を実験的に確認することにより、本発明を完成させた。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
標的タンパク質に対して最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法であって、
(i) 標的タンパク質を選定するステップと、
(ii) 該標的タンパク質をコードするDNAに突然変異を導入するステップと、
(iii)タンパク質合成系で移動平均暗号表を使用することで、個々の突然変異導入DNAに対して移動平均翻訳をすることにより、配列空間上の活性地形曲線又は曲面に対する配列方向の移動平均曲線又は移動平均曲面を取得するステップであって、
前記移動平均翻訳の方法が、特定のアミノ酸種の一部のアミノ酸を当該アミノ酸種以外の天然のアミノ酸に置換してなる非天然型タンパク質を取得するために、前記特定のアミノ酸種に対応する普遍遺伝暗号表を反映する塩基配列を有する天然型アミノアシルtRNAと、前記天然のアミノ酸に対応する移動平均暗号表を反映する塩基配列を有する非天然型アミノアシルtRNAとを含むタンパク質合成系で翻訳する方法である、
ステップと、
(iv) それぞれ異なる配列を持つ核酸分子群に対応して前記移動平均曲線又は移動平均曲面より最適配列により示される個々の核酸分子から生産されるタンパク質群の平均活性を評価することで最適配列に近似する非天然型タンパク質を選別するステップと、
(v) 前記最適配列に近似するアミノ酸配列を有する非天然型タンパク質に対応するDNA及びこれにさらに変異を導入したDNAに対して普遍遺伝暗号表に基づく翻訳により、最適特性を有する非天然型タンパク質を取得するステップと、
を含むことを特徴とする最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(iv)又は(v)のステップで選別された非天然型タンパク質に対応するDNAを前記ステップ(ii)の標的タンパク質をコードするDNAに置換し、前記ステップ(ii)~(v)を反復することにより移動平均暗号による翻訳でのウィンドウ幅を徐々に変化させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質合成系における天然型アミノアシルtRNAと非天然型アミノアシルtRNAとの割合を変化させた割合の条件下で翻訳することで移動平均のウィンドウ幅を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記非天然型アミノアシルtRNAが、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記の特定のアミノ酸が、トレオニン(Thr)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、システイン(Cys)、チロシン(Tyr)、アスパラギン(Asn)及びアルギニン(Arg)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記タンパク質合成系が、細胞内又は無細胞系のタンパク質合成系であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記特性が、標的タンパク質の機能特性、生理特性、生理活性、薬理活性、結合特性、酵素活性、安定性、耐熱性(熱耐性)、耐塩性、耐pH性、耐酸化性、耐溶媒性、耐低温性、又は、これら以外の過酷条件への耐性特性から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、進化分子工学的手法への焼きなまし法の導入に基づく最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を産業応用するために、野生型タンパク質のアミノ酸配列を複数の残基について改変することが多く行われている。改変についての従来技術として、変異が導入されて目的とする性質が向上した変異体をそのまま活用するだけでなく、このような第一世代変異体にさらに変異を加えた変異体ライブラリーの中から、より有用な第二世代変異体を単離する人工進化も行われている。追加変異を導入したライブラリー作製、変異体単離、のサイクルは3回以上繰り返されることも多い。
【0003】
タンパク質の複数の残基への改変を蓄積する進化工学の有効性が知られているが、その限界と課題も知られている。タンパク質のアミノ酸配列の可能性は、タンパク質の長さをn残基とすると、20のn乗となり、非常に大きなバラエティを持つため、タンパク質工学による設計のみならず、点変異と選択を繰り返す人工進化によっても、局所的な最適解としての配列が得られるのみで、活性のより高い配列を得ることが困難であった(図1参照)。そこで、複数の変異体の間で試験管内組換えを行う方法が開発されてはいるが、まだ困難が続いている。
【0004】
また、タンパク質合成系において変則暗号表に基づく翻訳時のタンパク質への変異導入方法も考案されている(特許文献1)。しかし、この文献では、局所解に陥らず最適解を求めることができる問題及びその解決法についての示唆はなく、この問題に対する解決法はなかった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2007-267733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最適特性を発揮する最適配列を有する非天然型タンパク質の取得を最適解とするときに、複数の変異体の間で人工的な組換えを行う方法によっても解決しきれない困難性を解決し、最適配列に近似するアミノ酸配列を有する非天然型タンパク質を選定し、さらに、厳密な最適特性を有する非天然型タンパク質を製造するための製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
タンパク質の進化工学において、局所最適解に留まってしまう問題を回避するために、本発明では、計算機科学の最適化において行われる「焼きなまし法(Simulated annealing)」の適用を、本発明独自の改変遺伝暗号を持つ細胞内又は無細胞系のタンパク質合成系によって調製されたタンパク質に対して行うことを可能とする進化工学的な手法を着想し、本着想の正当性を実験的に確認することにより、本発明を完成させた。
【0008】
具体的には、本発明は、標的タンパク質に対して最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法であって、
(i) 標的タンパク質を選定するステップと、
(ii) 該標的タンパク質をコードするDNAに突然変異を導入するステップと、
(iii) タンパク質合成系で移動平均暗号表を使用することで、個々の突然変異導入DNAに対して移動平均翻訳をすることにより、配列空間上の活性地形曲線又は曲面に対する配列方向の移動平均曲線又は移動平均曲面を取得するステップであって、
前記移動平均翻訳の方法が、特定のアミノ酸種の一部のアミノ酸を当該アミノ酸種以外の天然型のアミノ酸に置換してなる非天然型タンパク質を取得するために、前記特定のアミノ酸種に対応する普遍遺伝暗号表を反映する塩基配列を有する天然型アミノアシルtRNAと、前記天然型のアミノ酸に対応する移動平均暗号表を反映する塩基配列を有する非天然型アミノアシルtRNAとを含むタンパク質合成系で翻訳する方法である、
ステップと、
(iv) それぞれ異なる配列を持つ核酸分子群に対応して前記移動平均曲線又は移動平均曲面より最適配列により示される個々の核酸分子から生産されるタンパク質群の平均活性を評価することで最適配列に近似する非天然型タンパク質を選別するステップと、
(v) 前記最適配列に近似するアミノ酸配列を有する非天然型タンパク質に対応するDNA及びこれにさらに変異を導入したDNAに対して普遍遺伝暗号表に基づく翻訳により、最適特性を有する非天然型タンパク質を取得するステップと、
を含む最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の製造方法において、前記ステップ(iv)又は(v)で選別された非天然型タンパク質に対応するDNAを前記ステップ(ii)の標的タンパク質をコードするDNAに置換し、前記ステップ(ii)~(v)を反復することにより移動平均暗号による翻訳でのウィンドウ幅を徐々に変化させるステップを更に含む場合がある。
【0010】
本発明の製造方法は、前記タンパク質合成系における天然型アミノアシルtRNAと非天然型アミノアシルtRNAとの割合を変化させた割合の条件下で翻訳することで移動平均のウィンドウ幅を変化させる製造方法である場合がある。
【0011】
本発明の製造方法において、前記非天然型アミノアシルtRNAが、アラニンtRNA変異体又はセリンtRNA変異体である場合がある。
【0012】
本発明の製造方法において、前記の特定のアミノ酸が、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)の各L体及びD体からなる群から選択される少なくとも1つである場合があり、好ましくは、トレオニン(Thr)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、システイン(Cys)、チロシン(Tyr)、アスパラギン(Asn)及びアルギニン(Arg)からなる群から選択される少なくとも1つである場合がある。
【0013】
本発明の製造方法において、前記タンパク質合成系が、細胞内又は無細胞系のタンパク質合成系である場合がある。
【0014】
本発明の製造方法において、前記特性が、標的タンパク質の機能特性、生理特性、生理活性、薬理活性、結合特性、酵素活性、安定性、耐熱性(熱耐性)、耐塩性、耐pH性、耐酸化性、耐溶媒性、耐低温性、又は、これら以外の過酷条件への耐性特性から選択される少なくとも1つである場合がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、標的とするタンパク質に対して、最適特性を発揮する変異タンパク質である最適配列を有する非天然型タンパク質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】焼きなまし法を利用した移動平均曲線より最適解を選定する原理を表す図。突然変異の導入と変異体の活性評価により一歩ずつ登る進化工学で、点変異の蓄積によりごく近傍の配列を探索するだけで局所解である近傍の丘に到達することはできるが、それに続く谷を越えてより高い丘に到達することはできないため、移動平均によって谷を埋める焼きなまし法により一歩ずつの歩行であっても最適解の発見を容易にすることを表す。
【図2A】本発明の移動平均暗号表の例。セリンに対するtRNAのアンチコドンをトレオニンのアンチコドンに変異させたアミノアシルtRNA(非天然型セリンtRNA)を20種類の天然型アミノ酸に対する普遍遺伝暗号表に基づくアンチコドンを有するアミノアシルtRNAと混合することにより、普遍遺伝暗号表に基づくアミノアシルtRNAよりも増加させた種類のアミノアシルtRNAで移動平均翻訳を行い移動平均曲線又は移動平均局面を取得する。
【図2B】本発明の移動平均暗号表の例。上記非天然型セリンtRNAの添加による移動平均翻訳を行う際に、アラニンに対するtRNAのアンチコドンをリジンのアンチコドンに変異させたアミノアシルtRNA(非天然型アラニンtRNA)も使用しかつ移動平均翻訳時にリジンを共存させないことによりリジン以外の普遍遺伝暗号にコードされる19種類のアミノ酸で構成される変異体を作製する移動平均翻訳を行い、移動平均曲線又は移動平均局面を得る。
【図3】GFP(Green Fluorescence Protein)遺伝子に対して、各種混合比の非天然型のアミノアシルtRNA(移動平均暗号表を用いたトレオニンtRNAのアンチコドンを有する変異型セリンtRNA)の共存下で移動平均翻訳を行うことにより、移動平均のウィンドウ幅を変化させた場合のGFPの蛍光活性に与える影響を見た結果を表す図。縦軸は蛍光活性を、横軸は移動平均翻訳の反応時間を表す。
【図4】GFP(Green Fluorescence Protein)遺伝子に対して、各種混合比の非天然型のアミノアシルtRNA(移動平均暗号表を用いたトレオニンtRNAのアンチコドンを有する変異型アラニンtRNA)の共存下で移動平均翻訳を行うことにより、移動平均のウィンドウ幅を変化させた場合のGFPの蛍光活性に与える影響を見た結果を表す図。縦軸は蛍光活性を、横軸は移動平均翻訳の反応時間を表す。
【図5】焼きなまし法を用いて熱耐性の向上した最適酵素変異体を得るための製造方法の例を表した図。
【図6】普遍遺伝暗号と移動平均遺伝暗号により合成されたタンパク質の熱耐性を比較すると、普遍遺伝暗号の場合、核酸の変異による急峻な特性変化を有するのに対して、移動平均暗号表に基づく翻訳時の変異導入により、核酸の変異による特性変化は移動平均化され、翻訳時の非天然型アミノアシルtRNAの量比の増加に従い、この移動平均曲線は、よりなだらかな曲線となることを示した実験の結果を表す図。A図は、各サンプル毎の普遍遺伝暗号と移動平均暗号によって翻訳した場合の熱耐性を、B図は、A図で示された熱耐性に関して、普遍遺伝暗号に基づく翻訳タンパク質、及び移動平均暗号に基づく翻訳タンパク質のそれぞれについて、熱耐性が高いサンプルから低いサンプルの順序に並び替えた結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、計算機科学分野で最適解を求めるための手法である焼きなまし法(simulated annealing)を進化分子工学分野に応用し展開したものである。

【0018】
計算機科学分野において、「焼きなまし法」とは、「疑似アニーリング(simulated annealing)」とも言われ、「大域的最適化問題への汎用の乱択アルゴリズムである。広大な探索空間内の与えられた関数の大域的最適解に対して、よい近似を与える。」(ウィキペディア)と説明される。本発明は、この計算機科学で用いられる広大な探索空間内の大域的最適解に対して近似する解答を取得する手法を進化分子工学分野に展開し、最適特性を有する非天然型のタンパク質の選定と取得を最適解として、DNAに対する突然変異の導入と、そのDNAの翻訳の際の移動平均翻訳の導入との組合せを手段として展開する方法、さらに、この手法を繰り返すことにより最適解の近似解から厳密な最適解に収束させる方法を提供するものである。

【0019】
具体的には、本発明は、標的タンパク質の生理特性や酵素活性に対して最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法であって、
(i) 標的タンパク質を選定するステップと、
(ii) 該標的タンパク質をコードするDNAに突然変異を導入するステップと、
(iii)タンパク質合成系で移動平均暗号表を使用することで、個々の突然変異導入DNAに対して移動平均翻訳をすることにより、配列空間上の活性地形曲線又は曲面に対する配列方向の移動平均曲線又は移動平均曲面を取得するステップであって、
前記移動平均翻訳の方法が、特定のアミノ酸種の一部のアミノ酸を当該アミノ酸種以外の天然型のアミノ酸に置換してなる非天然型タンパク質を取得するために、前記特定のアミノ酸種に対応する普遍遺伝暗号表を反映する塩基配列を有する天然型アミノアシルtRNAと、前記天然のアミノ酸に対応する移動平均暗号表を反映する塩基配列を有する非天然型アミノアシルtRNAとを含むタンパク質合成系で翻訳する方法である、
ステップと、
(iv) それぞれ異なる配列を持つ核酸分子群に対応して前記移動平均曲線又は移動平均曲面より最適配列により示される個々の核酸分子から生産されるタンパク質群の平均活性を評価することで最適配列に近似する非天然型タンパク質を選別するステップと、
(v) 前記最適配列に近似するアミノ酸配列を有する非天然型タンパク質に対応するDNA及びこれにさらに変異を導入したDNAに対して普遍遺伝暗号表に基づく翻訳により、最適特性を有する非天然型タンパク質を取得するステップと、
を含む最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法である。

【0020】
また、前記ステップ(iv)又は(v)のステップで選別された非天然型タンパク質に対応するDNAを前記ステップ(ii)の標的タンパク質をコードするDNAに置換し、前記ステップ(ii)~(v)を反復することにより移動平均暗号による翻訳でのウィンドウ幅を徐々に変化させるステップを更に含むことにより、より厳密な最適解としての非天然型タンパク質を製造し、取得することができる。

【0021】
本発明において標的とするタンパク質は、突然変異によってその特性を向上又は改善する余地のあるタンパク質であって、天然のタンパク質、又は、人工的なタンパク質のいずれであってもよい。天然のタンパク質の例として、例えば、天然の酵素タンパク質について、基質選択性を天然の酵素よりもさらに選択的に結合するように突然変異を導入し、非天然型タンパク質とする、或いは、より低温の反応温度で酵素反応が惹起されるように突然変異を導入し非天然型タンパク質とする等が挙げられる。また、標的タンパク質に人工的なタンパク質を選定する場合、例えば、医薬、診断薬及び研究用試薬として利用可能な抗体のScFv(single-chain variable fragment)若しくはナノボディ(nanobody)の抗原に対する結合活性の最適化、及び、洗剤に使用されるタンパク質分解酵素を、より低温で高活性を発現するように改良することを目的とすることが挙げられる。

【0022】
また、本明細書において「最適配列に近似するアミノ酸配列」とは、最適遺伝子配列に対して普遍遺伝暗号表に基づいて翻訳して得られる最適特性を発揮する非天然型タンパク質を最適解とした場合に、前記最適遺伝子配列およびその近傍の配列に対して移動平均暗号表に基づく移動平均翻訳によって得られる近似解を含むアミノ酸配列であって、最適配列を有するアミノ酸配列近傍のアミノ酸配列をいう。なお、本明細書において、特に明記しない限り、アミノ酸はL-アミノ酸を表す。

【0023】
本発明の製造方法において、前記特性の例として、標的タンパク質の機能特性、生理特性、生理活性、薬理活性、結合特性、酵素活性、安定性、耐熱性(熱耐性)、耐塩性、耐pH性、酸化耐性、対溶媒性、耐低温性、又は、これら以外の安定性に問題を与える過酷条件に対する耐性特性から選択される少なくとも1つが挙げられ、本発明は、焼きなまし法の導入により、これらの特性に対する最適特性を有する非天然型タンパク質の製造方法である。

【0024】
本発明の製造方法は、進化分子工学的手法に基づく突然変異の導入を用い、これに計算機科学で利用される焼きなまし法(simulated annealing)の手法を導入することにより、所望とする特性に関して最適特性を有する非天然型タンパク質を選定し、製造することができる。以下に、その原理をより詳細に説明する。なお、以下の説明において「最適解」とは、所望の特性であって、最適な特性を有する変異導入による非天然型タンパク質を選定することをいう。「局所解」とは、突然変異の導入によって、特性の向上を示す変異導入タンパク質であって、最適解ではないものの、その配列と類似度が高い配列を持つタンパク質変異体群のなかでは最も適した特性を持つ非天然型タンパク質をいう。また、焼きなまし法で、最適解を求める際に、厳密な最適解ではなく、最適解の近傍の近似解を最適解として得る場合がある。そこで、下記の説明において、近似解と区別するために十分な所望とする特性を有する非天然型のタンパク質の取得を真の最適解として、本発明に係る方法によって得られる「厳密な最適解」と記載する場合がある。

【0025】
すなわち、従来のタンパク質の進化工学において、前記の局所最適解に留まってしまう問題を回避するために、本発明では、計算機科学の最適化において行われる「焼きなまし法(simulated annealing)」の適用を、本発明独自の普遍遺伝暗号を改変した非天然型の遺伝暗号を持つタンパク質合成系によって調製されたタンパク質に対して行うことを可能とし、この合成系を活用したものである。

【0026】
より具体的には、移動平均暗号表を含む非天然型暗号の導入により一つの核酸配列からそれぞれ類似度の高い配列を持つタンパク質群を一度に合成することを惹起し、移動平均曲線又は移動平均局面をもたらす焼きなまし法を使用した進化的探索は最適解の発見を容易にすることを意味する。例えば、図1における曲線において、移動平均遺伝暗号による一定確率の別アミノ酸の指定は、一度の翻訳で少数個の置換を施した多数の変異体を合成することを可能とするため、配列空間の活性について移動平均をとることに相当する。点線矢印で示される進化工学による特性の向上は、配列空間の活性地形上で、近傍の上がる方向へ進むことを意味する。すなわち、図1第1図において、進化の各サイクルで点変異を一つずつ蓄積することによりごく近傍の配列を探索するだけで、局所解である近傍の丘に到達することはできる。しかし、それに続く谷を越えてより高い丘に到達するためには、多数の変異を同時に施した莫大な種類からなる配列群を評価することが必要となりこれは事実上できない。そこで、結果として、進化の結果が局所解にとどまってしまうことを示している。一方、図1第3図において、移動平均を与える非天然型の移動平均暗号表に基づく翻訳によりなだらかになった地形により、最適解近辺まで一歩ずつ登ることができる。この状態は、焼きなまし法における温度上昇に相当する。その後、通常の暗号に戻すことで、丘の高さがもとに戻ると、玉の位置で示される配列は最適解に収束し、厳密な最適解を得ることができる。すなわち、進化工学における「変異・選択」の繰り返しの各ラウンド毎に、移動平均のウィンドウ幅、すなわちなだらかさを調節することが、最適な地形を得るために重要である。

【0027】
以上の原理に従い、本発明の製造方法の具体的な実施方法を以下に説明する。最初に、特性を向上又は改善する余地があると想定される標的タンパク質を選定する。次に、この標的タンパク質をコードするDNAに対して、突然変異を導入する。このDNAへの突然変異の導入法は、部位特異的突然変異導入法又は遺伝子合成の技術による一部領域への変異導入、又はランダム突然変異による導入法のいずれであってもよいが、ランダム突然変異による導入法が好ましい。ランダム突然変異による導入法の例として、当業者に周知慣用の方法、例えば、エラープローンPCR法、ディレーション(Deletion)法、リンカーインサーション法、化学物質による変異原処理法、縮重オリゴヌクレオチド法、リンカースキャニング法等を挙げることができる。DNAシャフリングなどの人工的な組換え手法と併せて活用することもできる。

【0028】
次に、この突然変異が導入されたDNAに対して、例えば、無細胞タンパク質合成系において、普遍遺伝暗号表に基づくアミノアシルtRNAに加えて移動平均暗号表に基づいて翻訳する非天然型アミノアシルtRNAの共存下で一つのタンパク質コード塩基配列から多数の類似したアミノ酸配列を同時に合成することが可能な移動平均翻訳をすることにより、さらに、アミノ酸置換が導入されたタンパク質変異体群を調製する。すなわち、これらの工程により、DNAに対する突然変異と、移動平均翻訳によって惹起させる両方のアミノ酸置換を含む変異導入タンパク質を得ることができ、突然変異の導入に対する特性変化の移動平均を取得できる。

【0029】
この時、非天然型アミノアシルtRNAのアンチコドンを有する天然型のアミノアシルtRNAとの混合割合を種々変えることにより、翻訳時の変異導入の割合は相違し、非天然型アミノアシルtRNAの量比が大きくなるに従い1つの塩基配列からの翻訳によってより多数の非天然型タンパク質を同時に合成することが可能になり、その特性の移動平均のウィンドウ幅は徐々に大きくなる。

【0030】
或いは、生細胞のタンパク質合成系を使用しても、本発明の製造方法を実施できる。例えば、前記のランダム突然変異の導入方法によって突然変異が導入されたDNAライブラリーを微生物や培養細胞等の生細胞に導入し、形質転換体を作製し、培養によってコロニーを作製し、各コロニー毎にその一部をウェルに分割し、クローン化された細胞を取得する。次に、各クローン内で非天然型アミノアシルtRNAを発現させ、移動平均翻訳させることにより、所望とする特性に対する移動平均曲線を取得できる。そして、この移動平均曲線から得られる最適解又は近似解に該当する上記形質転換体を使用し、非天然型アミノアシルtRNAの発現が無い状態で普遍遺伝暗号表に基づく翻訳を行い、その特性を評価する。所望とする特性を十分に得られない場合には、さらに、突然変異の導入と移動平均翻訳の実施を繰り返すことにより、厳密な最適解を取得できる。

【0031】
本来とは別のアミノ酸に対応するコドンにセリンやアラニンを割り当てる技術として公知の方法を使用できる(特許文献1)。しかし、この文献では、焼きなまし法によって局所解に陥らず最適解を求めることができる点についての示唆はない。また、本発明とこの特許文献1の方法とを組み合わせることで、いかなるアミノ酸のコドンに対しても、アラニン又はセリンを一定確率で挿入する移動平均翻訳を達成可能である。

【0032】
タンパク質でのアミノ酸置換について、アラニンやセリンへの置換は、取得されるタンパク質の多様性を与え、しかも、二次構造の大きな変化や溶解度の低下を招かずに立体構造を変更する可能性が高い。このため、移動平均翻訳によって追加して取り込まれるアミノ酸としては、この2種類が適している。

【0033】
そこで、移動平均翻訳を行うための移動平均暗号表に基づくアミノアシルtRNAを使用する場合の遺伝暗号表として、例えば、(1)セリンに対するtRNAのアンチコドンをトレオニンのアンチコドンに変異させたアミノアシルtRNAを20種類の天然型アミノ酸に対する普遍遺伝暗号表に基づくアンチコドンを有するアミノアシルtRNAと混合して移動平均翻訳を行う場合(図2A)、及び、(2)アラニンに対するtRNAのアンチコドンをリジンのアンチコドンに変異させたアミノアシルtRNAを使用して、移動平均翻訳時に普遍遺伝暗号表に基づくリジンを有するアミノアシルtRNAを共存させないことによりリジンをアラニンに置換した19種類のアミノ酸で構成される変異体を移動平均翻訳で製造する場合が挙げられるが、これらに限定されない。これら(1)及び(2)の移動平均翻訳のためのアミノアシルtRNAは、特許文献1の記載に基づいて製造できる。

【0034】
標的タンパク質をコードするDNAの配列における変異を普遍遺伝暗号で生産した際のアミノ酸置換によるこの非天然型タンパク質の特性変化と、同一の変異を持つDNAから移動平均暗号表で一度の操作で生産できる多数の非天然型タンパク質群の特性との関係を求めると、普遍遺伝暗号の場合、核酸の変異による急峻な特性変化を有するのに対して、移動平均暗号表に基づく翻訳時の変異導入により、核酸の変異による特性変化は移動平均化され、翻訳時の非天然型アミノアシルtRNAの量比の増加に従い、この移動平均曲線は、よりなだらかな曲線となる。その結果、上記急峻な特性変化の条件下では、最適解を得ることが困難であっても、適度になだらかな移動平均により最適解又はその近傍の解答を得ることができる。一方、なだらかさが強くなり過ぎると、最適解付近に収束できなくなる。

【0035】
次に、上記最適解又はその近傍の解答として得られた変異タンパク質のDNAの核酸配列を解析すると共に、このDNAを用いて、移動平均暗号表に基づく非天然型アミノアシルtRNAを含まない普遍遺伝暗号表に基づくアミノアシルtRNAによって翻訳することにより、最適解としての最適特性を有する非天然型タンパク質を得ることができる。

【0036】
そして、最適解又はその近傍にあるものとして選定された非天然型タンパク質をコードするDNAに対して、さらに、突然変異を導入し、移動平均翻訳によって移動平均曲線又は移動平均曲面を取得し、これらより、最適解を選定するサイクルを反復することにより、厳密な最適解としての最適特性を有する非天然型タンパク質を製造し、取得することができる。

【0037】
この非天然型の改変遺伝暗号では、例えばトレオニンのコドンに対応して、ポリペプチドにトレオニンを挿入するだけではなく、セリンも一定確率で挿入することになる(図2A参照)。その結果、最適でないアミノ酸配列を指示する遺伝子から合成される複数のタンパク質分子のうち、一定確率で最適なアミノ酸配列をもつタンパク質分子を調製できることになる。同時に、最適なアミノ酸配列を指定するDNAからも、一定確率で別のアミノ酸配列を持ち、すなわち、1つの塩基配列から、互いに類似したアミノ酸配列を同時に「多数」合成でき、多様なタンパク質を調製することになる。換言すると、移動平均暗号表による翻訳結果は、移動平均遺伝暗号による一定確率の本発明が規定した別指定を与え、タンパク質のアミノ酸配列空間における活性の地形について、配列方向の移動平均をとることに相当する。そして、他のアミノ酸の取り込み確率を高くすることは、移動平均のウィンドウ幅を大きくすることを意味し、計算機科学での焼きなまし法における温度を上昇させることを意味する。

【0038】
また、本発明の製造方法は、細胞内又は無細胞系のいずれのタンパク質合成系も使用できる。細胞内のタンパク質合成系を使用する場合には、例えば、大腸菌等の微生物に対して当業者に周知慣用の方法で突然変異を惹起し、非天然型アミノアシルtRNAを発現させ、移動平均翻訳を細胞内で行うことにより本発明の製造方法を実施できる。また、無細胞タンパク質合成系で実施する場合には、例えば、細胞抽出液を用いて試験管等の人工容器内で目的タンパク質を合成する。また、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)又はPUREfrex (ジーンフロンティア)、そして、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等の商業的に利用可能な無細胞タンパク質合成用試薬を入手し、これらを使用して本発明の製造方法を実施できる。

【0039】
標的タンパク質がリガンド又は受容体である場合、無細胞系タンパク質合成系の本発明の製造方法を使用すれば、次世代シークエンサーと組み合わせることで、ハイスループット系で容易に、最適特性を有する非天然型タンパク質を製造することができる。例えば、リガンド又は受容体をコードするDNAに対して、前記のランダム突然変異の導入方法によって突然変異を導入する。次に、突然変異が導入されたリガンド又は受容体のDNA又はRNAライブラリーに対して非天然型アミノアシルtRNAを使用し、移動平均翻訳し、突然変異が導入されたリガンド又は受容体のmRNAと、該mRNAから翻訳されたタンパク質との複合体を形成させた後、受容体又はリガンドが結合したカラム又はビーズに適用することにより、リガンド又は受容体の複合体の変異体をDNA又はRNAライブラリーから容易に単離することができる。つまり、受容体結合活性を有するリガンドの変異体、又は、リガンド結合活性を有する受容体の変異体を得ることができる。ここで、同一の配列を持つ複数の核酸分子それぞれに対してそれぞれ異なるアミノ酸置換が導入された複合体を、一度の操作で多数調製することができている。また同時に、少数の塩基置換を持つ2つの核酸分子それぞれが、同一のアミノ酸配列を持つタンパク質と複合体を形成していることもある。これにより、所望とする結合活性をもつ複合体群の配列を次世代シークエンサーで解析することで、結合活性に対する移動平均曲線を取得でき、その結果をこの移動平均曲線から得られる最適解又は近似解に該当する上記DNA又はRNA配列を知ることができる。この配列情報を使用して遺伝子合成を行ったライブラリーを使用して、普遍遺伝暗号表に基づく翻訳を行い、その結合活性を評価する。次世代シークエンサーによる解析を行わず、結合活性を持つタンパク質変異体と複合体を形成した核酸分子群をそのまま次世代のライブラリーとすることもできる。所望とする結合活性を十分に得られない場合には、さらに、突然変異の導入と移動平均翻訳の実施を繰り返すことにより、厳密な最適解を取得できる。なお、上記受容体又はリガンドが結合したカラム及びビーズは、商業的に入手可能なものを用いることができる。

【0040】
以上の説明のように、進化分子工学分野への焼きなまし法の導入による本発明の製造方法を実施し、最適特性を有する非天然型タンパク質を取得できる。さらに、この最適特性を有する非天然型タンパク質をコードするDNAを取得できる。また、このDNAより転写されるRNAについても、当業者に周知慣用の方法により取得できる。

【0041】
これらの方法によって取得された最適特性を有する非天然型タンパク質は、医薬、疾病の診断用試薬、再生医療用試薬、研究用試薬、遺伝子改変農作物、酒類・味噌・ヨーグルト及び納豆等の発酵食品、タンパク質分解酵素等を利用する洗剤等の創出などとして、多くの産業分野で利用できる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
GFP(Green Fluorescence Protein)遺伝子に対する移動平均翻訳の効果の検証
GFPをコードするDNA(配列番号1)を使用してGFPに対して、本発明における非天然型の改変遺伝暗号が、トレオニンのコドンに対応してポリペプチドにトレオニンを挿入するだけではなくセリンも一定確率で挿入することを達成するために、移動平均翻訳を導入したいコドンであるトレオニンのコドンに対応するアンチコドンを持つセリンtRNA変異体(配列番号2、3)の2種類をそれぞれ0.03、0.045又は0.09μMの濃度で、トレオニンtRNA共存下の無細胞タンパク質合成系に添加した。また、この合成について、放射標識ロイシンを加え電気泳動することで、タンパク質合成量を確認した。
【実施例1】
【0044】
結果
結果を図3に示す。加えたtRNA変異体の混合濃度の増加に依存して、翻訳されたGFPのトレオニンに対するコドンにセリンが取り込まれ、その結果としてGFPの蛍光が変異体の濃度依存的に減少した。一方、セリンtRNA変異体をGFPの蛍光低下と同じ濃度で加えても、合成量は低下しなかった。
【実施例1】
【0045】
すなわち、図3で示された移動平均翻訳の度合いをするとGFPの蛍光活性が低下することは、図1で示されるように、適度な移動平均翻訳により特性に対する移動平均が取得され、移動平均翻訳の度合いをさらに強くした場合に、その特性を表す移動曲線はよりなだらかとなり、最適解を求めることが困難となることを表している。
【実施例2】
【0046】
アラニンtRNA変異体を使用した移動平均翻訳
実施例1のセリンtRNA変異体の代わりにトレオニンのコドンに対応するアラニンtRNA変異体を使用し、実施例1と同様にアラニンtRNA変異体の2種類(配列番号4、5)をそれぞれ0.0478、0.15及び0.75μMの濃度共存下、GFP遺伝子に対して移動平均翻訳を実施し、移動平均翻訳の度合いを強くすることによるGFP蛍光活性への影響を検討した。また、この合成について、放射標識ロイシンを加え電気泳動することで、タンパク質合成量を確認した。
【実施例2】
【0047】
結果
結果を図4に示す。加えたtRNA変異体の混合濃度の増加に依存して、翻訳されたGFPのトレオニンに対するコドンにアラニンが取り込まれ、その結果としてGFPの蛍光が変異体の濃度依存的に減少した。一方、アラニンtRNA変異体をGFPの蛍光低下と同じ濃度で加えても、合成量は低下しなかった。
【実施例2】
【0048】
すなわち、実施例1と同様に、図4で示された移動平均翻訳の度合いを強くするとGFPの蛍光活性が低下することは、図1で示されるように、適度な移動平均翻訳により特性に対する移動平均が取得され、移動平均翻訳の度合いをさらに強くした場合に、その特性を表す移動曲線はよりなだらかとなり、最適解を求めることが困難となることを表している。
【実施例3】
【0049】
焼きなまし法の導入による最適活性を有する非天然型タンパク質の製造
焼きなまし法の導入による最適活性を有する非天然型タンパク質の製造は、以下の手順の操作によって実施できる。
【実施例3】
【0050】
まず、進化分子工学の適用により、既存の進化工学で得られるタンパク質変異タンパク質よりもさらに活性が向上した変異タンパク質を得る余地が想定されるタンパク質を、標的タンパク質として選定する(ステップ1)。次に、GenBank等に公開されている標的タンパク質をコードする野生型DNA配列を基に、プライマーを作製し、エラープローンPCRなどにより変異型DNAを複数種類調製する(ステップ2)。さらに、クローニングによって得たコロニーを鋳型としたPCRや1分子PCR等により、各コロニーからのDNA抽出物等それぞれ異なる配列を持つDNA分子をプレートA、Bの同一位置のウェルに分割して入れる(ステップ3)。
【実施例3】
【0051】
次に、プレートBの各ウェルに、大腸菌S30抽出液、T7RNAポリメラーゼや図2A、又は図2Bで表される移動平均暗号表に基づく変異型tRNAを含むtRNA混合液をプレートBに添加し、各ウェル固有の転写・翻訳をさせる(ステップ4)。そして、プレートBの翻訳されたタンパク質の混合物の状態の活性を測定する(ステップ5)。
【実施例3】
【0052】
次に、活性の測定結果に基づき、プレートBにおいて、最適解又はそれに近いウェルを特定する(ステップ6)。このとき、各ウェルのタンパク質合成量を併せて測定することで、比活性を指標として特定することができる。
【実施例3】
【0053】
所望とする活性が得られた場合は、プレートBの最適解又はそれに近いウェルと同一位置のプレートAの変異DNAの核酸配列を解析する(ステップ7A)。一方、活性向上が不充分な場合には、プレートBの最適解又はそれに近いウェルと同一位置のプレートAの変異DNAを増幅し、前記ステップ2の野生型DNAの代わりに用いて、前記ステップ2~6のサイクルを繰り返すことにより、所望とする活性を有する非天然型タンパク質を取得し、プレートBの最適解又はそれに近いウェルと同一位置のプレートAの変異DNAの核酸配列を解析する(ステップ7B)。
【実施例3】
【0054】
次に、最適解又はそれに近いウェルのDNA配列に対応する普遍遺伝暗号表に基づくアミノ酸によって構成されるタンパク質を産生する。この普遍遺伝暗号表に基づいて作製されたタンパク質の活性を測定し、目的とする活性の向上を確認する。必要に応じて、得られた核酸の配列をさらにステップ1の標的タンパク質コード配列として用い、さらなる人工進化を行う。
【実施例3】
【0055】
以上の操作により、最適解に到達し、目的とする最適の活性を有するタンパク質を取得する。
【実施例4】
【0056】
熱耐性に対して最適特性を示す非天然型タンパク質を有する大腸菌の取得
熱耐性に対して最適特性を示す非天然型タンパク質を有する大腸菌を取得する実験を実施した。実験操作の概要を図5に示した。
【実施例4】
【0057】
熱耐性に対して最適特性を示す非天然型タンパク質を有する大腸菌を取得する方法として、大腸菌(DH5α、東洋紡株式会社、大阪)に対して、エラープローンPCRにより標的タンパク質コード配列のDNAに突然変異を導入したライブラリーを作製した。
【実施例4】
【0058】
実験に使用した標的タンパク質であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの核酸配列を、配列番号6に示した。これを大腸菌に対して、エレクトロポレーション法により導入し、形質転換体を作製した。この形質転換体を培養し、形質転換体毎にコロニーを形成させた。このクローン化された形質転換体のそれぞれの一部をプラスミドDNAの取得のために、別の一部をこのプラスミドのタンパク質コード配列から移動平均翻訳されるタンパク質の特性を評価するために分割した。このとき、同一のフォーマットを持つ寒天培地と多穴プレートを用い、形質転換体をそれぞれ対応する位置に分取した。後者の多穴プレート内の形質転換体内のプラスミドDNAを鋳型としたPCR反応によって得られたDNAもしくは各形質転換体の培養によって得られるプラスミドDNAに対して無細胞タンパク質合成系で移動平均翻訳を実施した後、この翻訳産物を、新たな2枚の多穴プレートのそれぞれ対応するウェルの位置に分割した。この移動平均翻訳産物が入れられたプレートの1枚はウェル毎の酵素活性を評価した。もう1枚のプレートに分取された移動平均翻訳産物は熱処理(68℃、10分間)を行った後に、酵素活性を同様に評価した。両プレートの移動平均翻訳産物の酵素活性をウェル毎に比較することにより、熱耐性の向上した移動平均翻訳産物を含むウェルを選定した。
【実施例4】
【0059】
結果
結果を図6に示した。縦軸は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼの野生型DNA(サンプル1)を含むDNA突然変異を導入した計11種類のDNAに対して普遍暗号表及び移動平均暗号表に基づき翻訳した群の、それぞれの暗号表のそれぞれのサンプルについて熱処理(68℃、10分間)を加えない場合の、37℃における活性を1とした場合の熱耐性活性を表す。図6のA図は、普遍遺伝暗号の産物、及びトレオニンコドンにアラニンも追加して指定できる移動平均遺伝暗号の産物の、それぞれの熱耐性を測定し、普遍遺伝暗号での耐性が高い順にサンプルごとに並べた結果を表している。予想通り、移動平均暗号表の産物の間の差異が、普遍遺伝暗号の産物の間の際よりも小さくなっていることを確認できた。野生型遺伝子は、普遍遺伝暗号で最も高い熱耐性を、移動平均暗号で3番目に高い熱耐性を示した。
【実施例4】
【0060】
図6のB図は、A図で示された普遍遺伝暗号の産物及びトレオニンコドンにアラニンンも追加して指定できる移動平均遺伝暗号の産物の、それぞれの熱耐性を、それぞれ高い順に並べた結果を表す。予想通り、移動平均暗号表の産物の間の差異が、普遍遺伝暗号の産物の間の差異での急峻なものから、なだらかになっていることを確認できた。
【実施例4】
【0061】
すなわち、図6のB図は、普遍遺伝暗号の場合、核酸の変異による急峻な特性変化を有するのに対して、移動平均暗号表に基づく翻訳時の変異導入により、核酸の変異による特性変化は移動平均化され、翻訳時の非天然型アミノアシルtRNAの量比の増加に従い、この移動平均曲線は、よりなだらかな曲線となることを示している。
【実施例4】
【0062】
そこで、次に、以上の結果を基に本技術分野の当業者に周知慣用の方法を使用することにより、前記クローン化された形質転換体を分取した寒天培地において、選定された移動平均翻訳産物の位置に相当する形質転換体を培養して、プラスミドDNAを取得し、目的とする熱耐性を有する最適特性を有するタンパク質をコードするDNAを取得できる。このDNAを用いて、普遍遺伝暗号表に基づいてタンパク質を製造することにより、所望とする最適特性を有する非天然型タンパク質を取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法によって生理特性、生理活性、薬理活性、安定性、過酷条件に対する耐性等に対して最適特性を有する非天然型タンパク質を製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、医薬、疾病の診断用試薬、再生医療用試薬、研究用試薬、遺伝子改変農作物、酒類・味噌・納豆及びヨーグルト等の発酵食品、タンパク質分解酵素等を利用する洗剤等の創出などの多くの産業分野で利用できる。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6