TOP > 国内特許検索 > 放射線検出方法及び放射線検出器並びに放射線検出に用いられる新規化合物 > 明細書

明細書 :放射線検出方法及び放射線検出器並びに放射線検出に用いられる新規化合物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-140974 (P2018-140974A)
公開日 平成30年9月13日(2018.9.13)
発明の名称または考案の名称 放射線検出方法及び放射線検出器並びに放射線検出に用いられる新規化合物
国際特許分類 C07D 417/14        (2006.01)
C09K   9/02        (2006.01)
G01T   1/04        (2006.01)
H01L  31/08        (2006.01)
FI C07D 417/14 CSP
C09K 9/02 B
G01T 1/04
H01L 31/00 A
請求項の数または発明の数 22
出願形態 OL
全頁数 35
出願番号 特願2017-037748 (P2017-037748)
出願日 平成29年2月28日(2017.2.28)
発明者または考案者 【氏名】河合 壯
【氏名】朝戸 良輔
【氏名】柳田 健之
【氏名】岡田 豪
【氏名】中嶋 琢也
出願人 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
4C063
5F849
Fターム 2G188KK02
4C063AA03
4C063BB01
4C063CC94
4C063DD62
4C063EE10
5F849AA20
5F849AB11
5F849BA01
5F849BB07
5F849XA01
5F849XA45
5F849XA46
5F849XA47
5F849XA48
要約 【課題】低量の放射線に対する感応性が優れたフォトクロミック化合物の提供。
【解決手段】式1で表される化合物。
JP2018140974A_000037t.gif
(式中、R1~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基等を表し、X1~X4、Y1、Y2がそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子等を表す。)
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物であって、
【化1】
JP2018140974A_000029t.gif
一般式(1)中、Phがフェニル基を表し、
~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す化合物。
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物であって、
【化2】
JP2018140974A_000030t.gif
式(2)中、Phがフェニル基を表し、
12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物において、
とXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択され、XとXの組み合わせがそれらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択される化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の化合物において、
及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子である化合物。
【請求項5】
請求項2に記載の化合物において、
とXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択され、XとXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択される化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の化合物において、
及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子である化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物において、
式(1)中、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子であり、Y、Yが硫黄原子である化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物において、
式(1)中、R~R11がそれぞれCHであり、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子であり、Y、Yが硫黄原子である化合物。
【請求項9】
請求項2に記載の化合物において、
式(2)中、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子であり、Y、Yが硫黄原子である化合物。
【請求項10】
請求項2に記載の化合物において、
式(2)中、R12~R26がそれぞれCHであり、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子であり、Y、Yが硫黄原子である化合物。
【請求項11】
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(3a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する第1工程と、
【化3】
JP2018140974A_000031t.gif
(式(3a)中、R~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。)
b)可視光を遮断した状態で前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(3b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化4】
JP2018140974A_000032t.gif
(式(3b)中、R~R11、X~X、Y、Y、Z、Zは式(3a)の通り定義される。)
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(3b)で表される化合物を含有する前記第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む放射線の検出方法。
【請求項12】
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(4a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する工程と、
【化5】
JP2018140974A_000033t.gif
(式(4a)中、R12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、X10がそれぞれ独立にCH、C、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。)
b)可視光を遮断した状態で、前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(4b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化6】
JP2018140974A_000034t.gif
(式(4b)中、R12~R26、X、X、X、X10、Y、Y、Z、Zは式(4a)の通り定義される。)
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(4b)で表される化合物を含有する第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む放射線の検出方法。
【請求項13】
前記低反応性溶媒が芳香族炭化水素系溶媒である、請求項11又は請求項12に記載の放射線の検出方法。
【請求項14】
前記ハロゲン化炭素溶媒がハロゲン化アルキルである、請求項11~13のいずれかに記載の放射線の検出方法。
【請求項15】
前記ハロゲン化炭素溶媒が塩化アルキルである、請求項14に記載の放射線の検出方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化炭素溶媒がクロロホルムである、請求項15に記載の放射線の検出方法。
【請求項17】
下記式(5)で表される化合物であって、
【化7】
JP2018140974A_000035t.gif
式(5)中、R~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す化合物と、
ハロゲン化炭素骨格を有する化合物と
を含有する組成物を備えた放射線検出器。
【請求項18】
下記式(6)で表される化合物であって、
【化8】
JP2018140974A_000036t.gif
式(6)中、R12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、X10がそれぞれ独立にCH、C、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン基、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す化合物と、
ハロゲン化炭素骨格を有する化合物と
を含有する組成物を備えた放射線検出器。
【請求項19】
前記ハロゲン化炭素骨格を有する化合物がハロゲン化アルキルである、請求項17又は18に記載の放射線検出器。
【請求項20】
前記ハロゲン化炭素骨格を有する化合物が塩化アルキルである、請求項19に記載の放射線検出器。
【請求項21】
前記ハロゲン化炭素骨格を有する化合物がクロロホルムである、請求項20に記載の放射線検出器。
【請求項22】
前記組成物が、液状又はゲル状である、請求項17~21のいずれかに記載の放射線検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の検出に用いることができるフォトクロミック化合物及びこれを利用した放射線検出方法、並びに放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物とは、光の作用により単一の分子が化学結合を組み換え、それによって吸収スペクトルの異なる2つの異性体に可逆的に変化する化合物をいう。このような性質を利用して、フォトクロミック化合物を用いた光記録材料や光スイッチ、調光レンズ等の製品が開発されている。
【0003】
例えばフォトクロミック化合物の一つであるジアリールエテンは、紫外線を照射することにより有色の開環体に変化し、可視光線を照射することにより無色の閉環体に変化する。これは、紫外線の照射により高エネルギー励起状態とされ、これによって閉環体から開環体への構造変化(変色反応)が誘起されるためである。このようなフォトクロミック化合物に対して放射線を照射した場合も、紫外線を照射したときと類似の励起状態を作りだすことができることから、フォトクロミック化合物を利用した放射線検出器が検討されている(特許文献1、2)。
【0004】
放射線検出器の一つに、放射線によって変色する、ロイコ色素などの酸化還元色素を含む放射線インジケータ(カラー線量計)がある。放射線インジケータは、例えば原子力発電所や放射線を取り扱う医療施設・研究施設では作業者の放射線被曝の管理のため、或いは医療器具や血液製剤等に対して滅菌を目的として放射線(X線・ガンマ線)を照射する際に必要量の放射線が照射されたか否かを調べるために用いられている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2015-174963号公報
【特許文献2】国際公開WO 02/102923 A1
【0006】

【非特許文献1】T. Kawai, J. Phys. Chem., 1995,99, pp. 6110-6114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、土壌や河川、大気等の環境中の放射線や食品中の放射性物質による放射線線量を監視するため、これらの放射線量の測定が行われている。ところが、放射線被曝の管理のためや滅菌目的で医療器具や血液製剤等に照射される放射線線量の測定に比べて、環境中や食品中に含まれる放射線線量の測定では、低量の放射線を測定する必要があり、上述した酸化還元色素を用いた放射線インジケータでは放射線を検出することができない。
【0008】
フォトクロミック化合物は熱的に安定であり、保存安定性に優れるため、環境に左右されることなく放射線を検出することができることから、環境中や食品中の放射線の検出への利用が期待されている。しかし、紫外線に比べると放射線は光子エネルギーが高く、放射線の多くはフォトクロミック化合物に吸収されずに透過してしまうため、閉環体から開環体への構造変化を誘起する確率が低く、現状のフォトクロミック化合物では、低量の放射線を検出することが難しいという問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、低量の放射線に対する感応性が優れたフォトクロミック化合物を提供すること、及び高感度の放射線検出方法及び放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ある特定の構造を有するフォトクロミック化合物が、閉環体(着色状態)にあるときに酸化剤を作用させるとその構造が開環体(無色状態)に変化すること、さらにその後の研究により、この構造変化は1分子1電子酸化反応であり、一旦、この反応が起きると多数の分子において連鎖的に1分子1電子酸化反応が進行することを見出した(非特許文献1)。本発明者は、このような知見に基づき、上述した1分子1電子酸化反応による酸化開環反応を放射線の照射をトリガーとして引き起こすことができれば、フォトクロミック化合物を放射線検出器に利用できると考え、1分子1電子酸化反応が連鎖増幅的に起きやすいフォトクロミック化合物の分子設計、及び放射線によって1分子1電子酸化反応を誘発する方法の探索を行った。その結果、成されたものが本発明である。なお、以下の説明では、1分子1電子酸化反応により連鎖的に開環体に変化する反応のうち酸化剤のよるものを「連鎖型酸化開環反応」と呼び、放射線により誘発される連鎖型酸化開環反応を「連鎖増幅型酸化開環反応」と呼ぶ。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するために成された本発明は、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【化1】
JP2018140974A_000002t.gif
上記一般式(1)中、Phがフェニル基を表し、
~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す。
【0012】
また、上記課題を解決するために成された本発明は、下記一般式(2)で表される化合物でも実現される。
【化2】
JP2018140974A_000003t.gif
式(2)中、Phがフェニル基を表し、
12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す。
【0013】
一般式(1)で示される化合物(以下、化合物(1)という)及び一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)という)はいずれも、紫外光の作用により開環体から閉環体に構造が変化し、可視光の作用により閉環体から開環体に構造が変化するという一般的なフォトクロミック化合物でみられる特性に加えて、酸化剤により閉環体から開環体に連鎖的に構造が変化するという特性を有する。上記一般式(1)及び(2)は化合物(1)及び化合物(2)が開環体の状態にあるときの構造を示している。化合物(1)及び(2)が閉環体の状態にあるときの構造は以下の一般式(1a)及び(2a)で表される。
【0014】
【化9】
JP2018140974A_000004t.gif

【0015】
図1は、酸化剤による化合物(1)及び(2)の連鎖型酸化開環反応のメカニズムを示す概略図である。
まず、図1(a)に示す開環体分子O(「O」は「Open」の略)に対して、可視光を遮断した状態で紫外線を照射し(b)に示す閉環体分子C(「C」は「Close」の略)を生成する。この状態で、酸化剤を添加すると、閉環体分子Cは電子を失い(図1に矢印A1で示す反応)、(c)に示す閉環体の陽イオンCとなり、その後、(d)に示す開環体の陽イオンOに変化する。続いて、開環体の陽イオンOは、別の閉環体分子Cから電子を奪い(図1において矢印B1で示す反応)、自身は開環体Oになる。一方、電子を奪われた別の閉環体分子Cは、閉環体の陽イオンCとなり(図1において矢印A2で示す反応)、その後、開環体の陽イオンOとなって上述した反応を連鎖的に繰り返す。
【0016】
これに対して、放射線の照射により誘発される連鎖増幅型酸化開環反応は以下の通りである。
まず、化合物(1)又は化合物(2)をトルエンなどの低反応性の溶媒に溶解して溶液を作製する。次に、可視光を遮蔽した状態で該溶液に紫外光を照射して、溶液中の化合物(1)又は(2)の分子を無色状態の開環体Oから着色状態の閉環体Cに変化させる。このとき、紫外光の照射時間を十分に長くすることにより、溶液中の95%以上の分子を閉環体Cに変化させることができる。なお、閉環体Cに変化した分子は、可視光が照射されると開環体Oに戻る。
【0017】
含まれる分子がほぼ全て閉環体Cに変化した溶液(着色溶液)にクロロホルムやジクロロメタン等のハロゲン化炭素溶媒を加え、混合溶液(着色混合溶液)を調製する。なお、この着色混合溶液は安定しており、可視光又は放射線が照射されなければ長期間色調を保持することができる。
続いて、着色混合溶液に放射線を照射すると、ハロゲン化炭素溶媒中にハロゲンラジカルが生成され、これに伴い閉環体分子Cが電子を失い陽イオンラジカルCが形成される。その後、開環体の陽イオンラジカルOとなり、別の閉環体分子Cから電子を奪い、自身は開環体Oになる。開環体の陽イオンラジカルOは非常に酸化力が強いため、別の閉環体分子Cから電子を奪って該開環体Oに変化する反応の連鎖性が、連鎖型酸化開環反応よりも増幅される。
【0018】
本発明に係る放射線の検出方法は、上記の、放射線をトリガーとする連鎖増幅型酸化開環反応を利用したものであり、
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(3a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する第1工程と、
【化3】
JP2018140974A_000005t.gif
(式(3a)中、R~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。)
b)可視光を遮断した状態で前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(3b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化4】
JP2018140974A_000006t.gif
(式(3b)中、R~R11、X~X、Y、Y、Z、Zは式(3a)の通り定義される。)
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(3b)で表される化合物を含有する前記第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む。
【0019】
また、本発明に係る放射線の検出方法は、
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(4a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する工程と、
【化5】
JP2018140974A_000007t.gif
(式(4a)中、R12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、X10がそれぞれ独立にCH、C、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。)
b)可視光を遮断した状態で、前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(4b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化6】
JP2018140974A_000008t.gif
(式(4b)中、R12~R26、X、X、X、X10、Y、Y、Z、Zは式(4a)の通り定義される。)
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(4b)で表される化合物を含有する第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む。
【0020】
前記低反応性溶媒としては、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒を用いることができる。
【0021】
また、ハロゲン化炭素溶媒は、ハロゲン化アルキルが好ましく、特に、クロロホルムやジクロロメタン等の塩化アルキルが好ましい。
【0022】
又、本発明に係る放射線検出器は、
下記式(5)で表される化合物であって、
【化7】
JP2018140974A_000009t.gif
式(5)中、R~R11がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
~Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す化合物と、
ハロゲン化炭素骨格を有する化合物と
を含有する組成物を備えていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る放射線検出器は、
下記式(6)で表される化合物であって、
【化8】
JP2018140974A_000010t.gif
式(6)中、R12~R26がそれぞれ独立に水素原子、芳香族残基、脂肪族炭化水素残基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表し、
、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、X10がそれぞれ独立にCH、C、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、
、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表し、
、Zがそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン基、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す化合物と、
ハロゲン化炭素骨格を有する化合物と
を含有する組成物を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低量の放射線に対する感応性が優れたフォトクロミック化合物を提供することができ、また、高感度の放射線検出方法及び放射線検出器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】連鎖増幅型酸化開環反応のメカニズムを示す概略図。
【図2】本発明の実施例に係る化合物100の1H-NMRスペクトル。
【図3】化合物100のMSスペクトル。
【図4】化合物200の1H-NMRスペクトル。
【図5】化合物200のMSスペクトル。
【図6】化合物100, 200, 300, 400の構造を示す図。
【図7】化合物100, 200, 300, 400のアセトニトリル溶液におけるフォトクロミック反応を示す吸収スペクトル。
【図8】化合物300のアセトニトリル溶液における消色反応を示す吸収スペクトル、及び酸化剤の量と反応した分子の量の関係を示す図。
【図9】化合物100のアセトニトリル溶液に酸化剤を添加したときの吸光度の変化を示す図。
【図10】化合物400のアセトニトリル溶液に酸化剤を添加したときの吸光度の変化を示す図。
【図11】化合物200のトルエン溶液に対して紫外線(313nm)を照射した後の経過時間と吸光度の関係を示す図。
【図12】化合物400のクロロホルム希釈溶液に紫外光を10秒間照射したときの吸収スペクトル。
【図13】化合物400のクロロホルム希釈溶液に紫外光を30秒間照射したときの吸収スペクトル。
【図14】減光フィルターを通して紫外光(313nm)を照射したときの、照射後の波長613nmの吸光度の時間的変化を示す図。
【図15】化合物400のトルエン溶液をクロロホルムで希釈したサンプルに100mGrayのX線を照射してから10分経過時の吸収スペクトル。
【図16】X線照射前のクロロホルム希釈サンプル(左側)と照射後のクロロホルム希釈サンプル(右側)の写真。
【図17】100mGray、1mGrayのX線照射時の波長613nmにおける吸光度の時間的変化。
【図18】化合物400のトルエン溶液に紫外光を照射した後、さらにトルエン、アセトニトリル、クロロホルムで希釈した溶液にX線を照射したときの吸光度の変化を示す図。
【図19】着色状態にあるトルエン溶液をクロロホルムで10倍に希釈した溶液に1mGray、10mGrayy、100mGray、200mGrayのX線照射を行ったときの吸光度(613nm)の時間的変化。
【図20】X線の照射線量と減少した吸光度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る化合物は、下記一般式(1)、及び下記一般式(2)で表される構造を有する。

【0027】
【化1】
JP2018140974A_000011t.gif

【0028】
【化2】
JP2018140974A_000012t.gif

【0029】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の特徴は、紫外線を照射することにより、下記一般式(1a)及び(2a)で表される閉環体にそれぞれ構造が変化し、可視光を照射することにより一般式(1)及び(2)にそれぞれ構造が変化することであり、さらに、下記一般式(1a)及び(2a)で表される閉環体に酸化剤を作用させると、1分子1電子酸化反応によって開環体に構造が変化し、しかも、その構造変化が連鎖的に進行することである。

【0030】
【化9】
JP2018140974A_000013t.gif

【0031】
式(1)、及び式(2)中、Phはフェニル基を表す。
また、式(1)中、R~R11が表す芳香族残基、或いは式(2)中、R12~R26が表す芳香族残基とは、芳香環又は芳香環を含む縮合環から水素原子1個を除いた基を意味し、該芳香族残基は置換基を有していてもよい。芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスレン環、ピレン環、ペリレン環、テリレン環、インデン環、アズレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピラゾール環、ピラゾリジン環、チアゾリジン環、オキサゾリジン環、ピラン環、クロメン環、ピロール環、ピロリジン環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、イミダゾール環、トリアゾール環、トリアジン環、ジアゾール環、インドリン環、チオフェン環、チエノチオフェン環、フラン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジン環、チアゾール環、インドール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ナフトチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、キノリン環、キナゾリン環、フルオレン環及びカルバゾール環等が挙げられ、炭素数4~20の芳香環又は芳香環を含む縮合環から水素原子1個を除いた基であることが好ましい。

【0032】
式(1)中、R~R11が表す脂肪族炭化水素残基、或いは式(2)中、R12~R26が表す脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和の、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられ、該脂肪族炭化水素残基は置換基を有していてもよい。脂肪族炭化水素残基の有する炭素数は1~36であることが好ましく、1~18であることがより好ましく、1~8であることが更に好ましい。これら脂肪族炭化水素残基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、ペンチニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘキサジエニル基、イソプロペニル基、イソへキセニル基、シクロへキセニル基、シクロペンタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、ペンチニル基、へキシニル基、イソへキシニル基、シクロへキシニル基等が挙げられる。また、環状のアルキル基としては、例えば炭素数3~8のシクロアルキル基などが挙げられる。

【0033】
式(1)中、R~R11が表すハロゲン原子、或いは式(2)中、R12~R26が表すハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等の原子が挙げられる。

【0034】
また、式(1)中、R~R11が表すハロゲン原子、或いは式(2)中、R12~R26が表すアミド基としては、アミド基、アセトアミド基及びアルキルアミド基等であり、その具体例としてはアミド基、アセトアミド基、N-メチルアミド基、N-エチルアミド基、N-(n-プロピル)アミド基、N-(n-ブチル)アミド基、N-イソブチルアミド基、N-(sec-ブチルアミド)基、N-(t-ブチル)アミド基、N,N-ジメチルアミド基、N,N-ジエチルアミド基、N,N-ジ(n-プロピル)アミド基、N,N-ジ(n-ブチル)アミド基、N,N-ジイソブチルアミド基、N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-(n-プロピル)アセトアミド基、N-(n-ブチル)アセトアミド基、N-イソブチルアセトアミド基、N-(sec-ブチル)アセトアミド基、N-(t-ブチル)アセトアミド基、N,N-ジメチルアセトアミド基、N,N-ジエチルアセトアミド基、N,N-ジ(n-プロピル)アセトアミド基、N,N-ジ(n-ブチル)アセトアミド基、N,N-ジイソブチルアセトアミド基、フェニルアミド基、ナフチルアミド基、フェニルアセトアミド基及びナフチルアセトアミド基等が挙げられる。

【0035】
式(1)中、R~R11が表すアルコキシ基、或いは式(2)中、R12~R26が表すアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基及びt-ブトキシ基等が挙げられる。

【0036】
式(1)中、R~R11が表すアリールオキシ基、或いは式(2)中、R12~R26が表すアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。

【0037】
式(1)中、R~R11が表すアルコキシカルボニル基、或いは式(2)中、R12~R26が表すアルコキシカルボニル基としては、例えば炭素数1~10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。その具体例としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、n-ペントキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基、n-ヘプチルオキシカルボニル基、n-ノニルオキシカルボニル基、n-デシルオキシカルボニル基がある。

【0038】
式(1)中、R~R11が表すアリールカルボニル基、或いは式(2)中、R12~R26が表すアリールカルボニル基としては、例えばベンゾフェノン、ナフトフェノン等のアリール基とカルボニルが連結した基を表す。

【0039】
式(1)中、R~R11が表すアシル基、或いは式(2)中、R12~R26が表すアシル基としては、例えば炭素数1~10のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1~4のアルキルカルボニル基で、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、トリフルオロメチルカルボニル基、ペンタフルオロエチルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。

【0040】
式(1)中、R~R11が表す芳香族残基及び脂肪族炭化水素残基が有していてもよい置換基としては、当該R~Rが表す置換基と同じものが挙げられる。同様に、式(2)中、R12~R26が表す芳香族残基及び脂肪族炭化水素残基が有していてもよい置換基としては、当該R12~R26が表す置換基と同じものが挙げられる。

【0041】
式(1)中、X~Xはそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、Y、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す。

【0042】
また、式(2)中、X、Xはそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、X、Xがそれぞれ独立にCH、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、Y、Yがそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、リン原子、セレン原子、NH、CH、P=Oを表す。

【0043】
式(1)で表される化合物においては、XとXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択され、XとXの組み合わせがそれらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択されることが好ましい。

【0044】
また、式(2)で表される化合物においては、XとXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択され、XとXの組み合わせが、それらの間に吸引的な相互作用を発現する基又は原子の組み合わせから選択されることが好ましい。

【0045】
吸引的な相互作用を発現する組み合わせとしては、酸素原子と硫黄原子の組み合わせ、窒素原子と硫黄原子の組み合わせ、CHユニットと窒素原子の組み合わせ、CHユニットと酸素原子の組み合わせ、CHユニットとフッ素の組み合わせ、リン原子と窒素原子の組み合わせ等が挙げられるが、好ましくは、式(1)で表される化合物においては、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子である。また、式(2)で表される化合物においては、X及びXがそれぞれCHであり、Xが硫黄原子であり、Xが窒素原子である。これにより、式(1)、(2)における中央の五員環と左側の五員環の間の単結合、中央の五員環と右側の六員環の間の単結合における回転が制御され、式(1)、(2)において2個のPhがそれぞれ結合する炭素原子間の距離が近接した構造が優先的に安定化される。従って、式(1)、(2)で表される化合物を閉環体(着色状態)に構造を変化させてハロゲン化炭素溶媒を加えて着色混合溶液を調製したときに、光又は放射線の照射を適切に遮断することにより該着色混合溶液の色調を長期間保持することができるため、式(1)、(2)で表される化合物は放射線検出器の材料として有用である。

【0046】
本発明の式(1)、(2)で表される化合物は、種々の反応を利用して合成することができる。後述する合成例及び実施例はその一例であり、本発明の式(1)、(2)で表される化合物の合成方法は該合成例及び実施例に記載の方法に何ら限定されるものではなく、これら合成例及び実施例で用いている原料化合物と置換基や部分構造の異なる化合物を原料に用いることにより、式(1)、(2)に包含される様々な構造の化合物を合成可能である。

【0047】
本発明に係る化合物の具体例として、
下記式(7)で表される化合物、或いは下記式(8)で表される化合物が挙げられる。

【0048】
【化10】
JP2018140974A_000014t.gif

【0049】
【化11】
JP2018140974A_000015t.gif

【0050】
また、既知の化合物である下記式(9)~(12)で表される化合物も放射線の検出に利用可能である。
【化12】
JP2018140974A_000016t.gif

【0051】
【化13】
JP2018140974A_000017t.gif

【0052】
【化14】
JP2018140974A_000018t.gif

【0053】
【化15】
JP2018140974A_000019t.gif

【0054】
本発明に係る放射線の検出方法は、
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(3a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する第1工程と、
【化3】
JP2018140974A_000020t.gif
b)可視光を遮断した状態で前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(3b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化4】
JP2018140974A_000021t.gif
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(3b)で表される化合物を含有する前記第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む。

【0055】
式(3a)で表される化合物は、上述した式(1)のPhに代えてZ、Zで表される基が結合している以外は、式(1)で表される化合物と同じ基本骨格、置換基を有する。式(3a)において、Z、Zはそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。

【0056】
また、本発明の別の態様に係る放射線の検出方法は、
a)紫外光及び可視光を遮断した状態で、下記式(4a)で表される化合物を低反応性溶媒に溶解して第1溶液を準備する工程と、
【化5】
JP2018140974A_000022t.gif
b)可視光を遮断した状態で、前記第1溶液に紫外線を照射して、該第1溶液中に下記式(4b)で表される化合物を生成させる工程と、
【化6】
JP2018140974A_000023t.gif
(式(4b)中、R12~R26、X、X、X、X10、Y、Y、Z、Zは式(4a)の通り定義される。)
c)紫外光及び可視光を遮断した状態で、前記式(4b)で表される化合物を含有する第1溶液にハロゲン化炭素溶媒を加えて第2溶液を作製し、該第2溶液に放射線を照射する工程と
を含む。

【0057】
式(4a)で表される化合物は、上述した式(2)の-X、-Xに代えてX、X10が五員環に結合している点、及び、Phに代えてZ、Zで表される基が結合している以外は、式(2)で表される化合物と同じ基本骨格、置換基を有する。式(4a)において、X、X10はそれぞれ独立にCH、C、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子、又はリン原子を表し、Z、Zはそれぞれ独立にメチル基、フェニル基、チオフェン、フラン、チアゾール、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサジアジン、ベンゾチオフェン、アザベンゾチオフェン、インドール、アザインドール、ビフェニル、キノリン、ジアジン、トリアジン、ナフタレン、アントラセン、ビニル、エチニル、又はフェニルエチニルを表す。

【0058】
また、本発明に係る放射線検出器は、式(3b)又は式(4b)で表される化合物と、ハロゲン化炭素骨格を有する化合物とを含有する組成物を備える。

【0059】
ハロゲン化炭素骨格を有する化合物は、放射線の照射による、式(3b)又は式(4b)で表される化合物の連鎖増幅型酸化開環反応を進行させる物質であり、フッ化アルキル、塩化アルキル、臭化アルキル、ヨウ化アルキル等のハロゲン化アルキルを用いることができるが、特にクロロホルムやジクロロメタン等の塩化アルキルが好適である。

【0060】
前記組成物は、式(3b)又は式(4b)で表される化合物と、ハロゲン化炭素骨格を有する化合物以外に適宜の溶媒を含んでいても良い。前記組成物に用いることができる溶媒としては、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。芳香族炭化水素系溶媒は低反応性であることから、組成物中の式(3b)又は式(4b)で表される化合物の構造を長期にわたって保持することができる。

【0061】
本発明に係る放射線検出器は、組成物に含まれる式(3b)又は式(4b)で表される化合物の連鎖増幅型酸化開環反応の進行を妨げないように、液状、もしくはゾル状であることが好ましく、該組成物の粘度を下げるために溶剤を用いることができる。溶剤としては、式(3b)又は式(4b)で表される化合物を溶解可能なもので、且つ、該化合物との化学反応を起こさないものであれば特に制限なく用いることができる。溶剤の具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等のケトン類、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチル-3-メトキシプロピオネート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びγ-ブチロラクトン等のエステル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、オクタン及びデカン等の脂肪族炭化水素、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は、単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。

【0062】
本発明の放射線検出器は、放射線を吸収し、吸収した放射線の光エネルギーをハロゲン化炭素分子に対して供与するために、増感剤を使用してもよい。ここで放射線増感剤としては原子番号が20、できれば40以上の重金属元素を含む材料で酸化物や窒化物、塩化物などの安定性の高いセラミクス素材が適用可能であり、さらに溶液や分子との接触表面積が大きい平均粒子径が10μm以下、さらに溶液中への分散性を考慮して平均粒子径が100nm以下の微細粒子が好ましい。例えばBaFClEu(株式会社ネモト・ルミマテリアル製)粒子などが可能である。

【0063】
本発明に係る放射線検出器が備える組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、着色剤、カップリング剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤等の各種添加剤を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。着色剤としては、例えばフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アイオジン・グリーン、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック、アンスラキノンレッド、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロールレッド等が挙げられる。これらの添加剤等を使用する場合は、その使用量は溶剤を除く組成物中、例えば、それぞれ30質量%以下が一応の目安であるが、使用目的及び硬化膜の要求機能に応じ適宜増減し得る。カップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。増粘剤としては、例えばオルベン、ベントン、モンモリロナイト等が挙げられ、消泡剤としては、例えばシリコーン系、フルオロアルキル系および高分子系等の消泡剤が挙げられる。これらの添加剤等を使用する場合は、その使用量は溶剤を除く組成物質量に対し、例えば、それぞれ10質量%以下が一応の目安であるが、使用形態に応じ、適宜増減し得る。

【0064】
本発明に係る放射線検出器では、放射線を照射する前の化合物、つまり、式(3b)又は式(4b)で表される化合物は着色した閉環体の状態にあり、放射線照射により無色の開環体に構造が変化する。従って、本発明に係る放射線検出器は、組成物が、式(3b)又は式(4b)で表される化合物以外の着色成分を含まない場合は、該組成物が消色したことにより、放射線の存在を検出することができる。一方、放射線によって変色しない適宜の着色剤を前記組成物に添加しておくことにより、式(3b)又は式(4b)の消色に伴い着色剤の色が現れたことによって放射線の存在を検出することができる。また、着色剤を組成物に添加することに代えて、例えばカラーシートを前記組成物で覆うようにしても良い。この場合も、放射線により該組成物が消色するとカラーシートの色が外部から視認できるようになるため、このことで放射線の存在を検出することができる。さらに、連鎖増幅型酸化開環反応は、放射線照射によりハロゲン化炭素溶媒に生成されるハロゲンラジカルの量に比例して進行するため、予め放射線照射後の経過時間と組成物の所定波長の吸光度との関係を、放射線の照射線量毎に求めておくことにより、放射線線量を測定することも可能である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特に定めない限り、「%」は重量%を示す。
【実施例】
【0066】
なお、以下の実施例においては、下記の実験装置及び測定装置を用いた。
・高速液体クロマトグラフィー
[順相HPLC]
分析用ポンプ :HITACHI Pump L2130(株式会社日立ハイテクサイエンス)
検出器 :HITACHI UV Detector L-2400(株式会社日立ハイテクサイエンス)
記録計 :HITACHI D-2500(株式会社日立ハイテクサイエンス)
カラム :COSMOSIL 5SL-II
・中圧分取液体クロマトグラフィー :EPCLC-W-Prep 2XY A-Type(山善株式会社)
・核磁気共鳴装置 :JNM-AL300 (300MHz)(日本電子株式会社)
・二重収束型質量分析装置(EI-HRMS) :JMS-700 MStation(日本電子株式会社)
・MALDI-TOF質量分析装置 :JMS-S3000(日本電子株式会社)
・DART質量分析装置 :JMS-Q1000TD(日本電子株式会社)
・有機低分子X線構造解析装置 :R-AXIS RAPID/S (3kW)(株式会社リガク)
・紫外可視分光光度計 :V-660(日本分光株式会社)
・ナノ秒時間分解分光測定装置 :TSP-1000M(株式会社ユニソク)
・蛍光分光光度計 :HITACHI H7000(株式会社日立ハイテクサイエンス)
・絶対発光量子収率測定装置 :C9920-02(浜松ホトニクス株式会社)
・光反応量子収率測定装置 :QYM-01(株式会社島津製作所)
・分光用クライオスタット :OXFORD INSTRUMENTS OptistatDN(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社)
・光源
1kW 超高圧水銀ランプ :SX-UI-501HQ(ウシオ電機株式会社)
モノクロメーター :SPG-120(株式会社島津製作所)
ナノ秒パルスNd:YAGレーザー :Minilite II(米国、Continuum社)
高出力ナノ秒パルスNd:YAGレーザー:Surelite II(米国、Continuum社)
ナノ秒オプティカルパラメトリックオシレーター:Panther EX OPO(米国、Continuum社)
・マイクロ波合成装置 :Initiator +(バイオタージ・ジャパン株式会社)
【実施例】
【0067】
(1)4-ブロモ-2-フェニルチアゾール(102)の合成
フレームドライした200mLの四つ口フラスコを窒素置換し、キサントホス(Xantphos、220mg、0.38mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3、840mg、0.38mmol)、乾燥テトラヒドロフラン(dry THF、75mL)を入れ、5分間攪拌して、THF溶液を作製した。フレームドライした別の200mLの四つ口フラスコを窒素置換し、2,4-ジブロモチアゾール (下記式(A)中の化合物101、3.6g、15mmol )、フェニルボロン酸 (1.9g、16mmol )、リン酸三カリウム(9.6g、45mmol)、上記のTHF溶液を加え、60℃で18時間加熱還流した。室温まで戻したのち、ジクロロメタンを用いてセライト濾過を行った。溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィーにより精製して、下記式(A)中、「102」で表される白色固体状の化合物 2.4gを得た (収率66%)。化合物102を重クロロホルム(CDCl3)に溶解したサンプルの核磁気共鳴装置(NMR)の測定値は以下の通りであった。
1H-NMR (300MHz, TMS, CDCl3):δ7.22 (s, 1H), 7.39-7.96 (m, 3H), 7.93-7.96 (m, 2H)
【実施例】
【0068】
【化16】
JP2018140974A_000024t.gif
【実施例】
【0069】
(2)4,5-ジブロモ-2-フェニルチアゾール(103)の合成
300mLの褐色ナス型フラスコ中で化合物102(2.38g、9.90mmol)とN-ブロモコハク酸イミド(2.64g、14.9mmol)をクロロホルム(100mL)に溶解させ、16時間加熱還流させた。チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えてクロロホルムで抽出した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去しカラムクロマトグラフィーにより精製して、上記式(A)中、「103」で示される薄茶色針状固体の化合物3.00gを得た(収率94%)。化合物103を重クロロホルムに溶解したサンプルのNMRの測定値は以下の通りであった。
1H-NMR (300MHz, TMS, CDCl3):δ7.44-7.66 (m, 3H), 7.84-8.25 (m, 2H)
【実施例】
【0070】
(3)化合物105の合成
200mLの四つ口フラスコに化合物103(0.96g、3.00mmol)と化合物104(1.28g、7.40mmol、下記式(B)参照)、トリフェニルホスフィン(0.35g、1.50mmol)、2Mのリン酸三カリウム水溶液15 mL、1,4-ジオキサン15mLを入れた。脱気後、Pd(PPh3)4を触媒量 (10mol%)添加し、24時間加熱還流させた。塩化アンモニウム水溶液を加えて中和し、水/酢酸エチル系で抽出した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去してカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記式(B)中、「105」で示す白色固体の化合物1.242gを得た(収率97.3%)。化合物105を重クロロホルムに溶解したサンプルのNMRの測定値は以下の通りであった。
1H-NMR (300 MHz, TMS, CDCl3):δ7.28-7.80 (m, 7H), 8.18 (d, 4H), 8.45 (m, 2H),
【実施例】
【0071】
【化17】
JP2018140974A_000025t.gif
【実施例】
【0072】
(4)化合物100の合成
200mLの四つ口フラスコに化合物105(1g, 2.34mmol)、フェニルボロン酸(0.65 mL、16mmol)、0.09g、トリフェニルホスフィン(0.01g、5.85mmol)、ditert-BuMePBF4(0.12g、0.47mmol)の炭酸セシウム3.31g、ピバル酸(0.143g、1.14mmol)、メスチレン4mLを入れ攪拌した。Pd(OAc)2を触媒量 (20mol%)添加し、150℃で48時間加熱還流させた。酢酸エチルを用いてセライト濾過を行った。溶媒を除去しカラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィーにより精製し、上記式(B)中、「100」で示す白色固体の化合物0.02gを得た(収率6.9%)。化合物100を重クロロホルムに溶解したサンプルのNMRの測定値は以下の通りであった。図2にその1H-NMRスペクトルを示す。図2では上下に重ねて2種類のスペクトルを示しており、上側のスペクトルは、下側のスペクトルのうち横軸が6.6-8.2(ppm)の部分を拡大したものである。
1H-NMR (600 MHz, TMS, CDCl3):δ6.52 (s, 2H), 6.68 (s, 4H),6.84-6.84 (d 2H), 6.88-6.89 (d 2H), 7.05-7.08 (q 2H), 7.14-7.19 (quin 2H) 7.24 (d 1H), 7.35-7.36 (d 1H), 7.46-7.51 (m 3H), 7.57-7.61 (q 2H), 8.13-8.14 (d 2H)
また、化合物100をHRMS(MALDI-TOF)ににより同定した結果は以下の通りであった。図3にそのときのスペクトルを示す。
HRMS(MALDI-TOF): m/z [M]+ = C37H23NS3 計算値 577.100、実測値 577.100
【実施例】
【0073】
(5)化合物202の合成
200mLの四つ口フラスコに化合物201(3g、8.95mmol)とフェニルボロン酸(2.51g、1.89mmol)、2.5Mの炭酸ナトリウム水溶液20mLを入れた。アルゴン置換後、THFを20mL、Pd(PPh3)4を 触媒量(5mol%)加え、24時間加熱還流させた。室温まで戻した後、水/酢酸エチル系で抽出した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去しカラムクロマトグラフィーにより精製して、以下の式(C)中、「202」で示す白色固体の化合物2.5gを得た(収率84%)。化合物202をEI-MSにより同定した結果を以下に示す。
HRMS (EI): m/z [M]+ = C17H13BrS [M]+ : 計算値 328.0、実測値 328.0
【実施例】
【0074】
【化18】
JP2018140974A_000026t.gif
【実施例】
【0075】
(6)化合物203の合成
フレームドライした300mLの四つ口フラスコをアルゴン置換し、化合物202(1.55g、4.72mol)、15mLのdryTHFを加え、-78 ℃に冷却し、1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液(2.96mL、5.67mmol)を滴下し、温度を保ちながら30分間攪拌させた。ボロン酸エステル(1.15mL、5.67mmol)を加え、30分かけて室温に昇温させた後、30分間攪拌させた。反応後、メタノールを加えて水/酢酸エチル系で抽出した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、上記式(C)中、「203」で示す薄黄色油状物の化合物0.75gを得た(収率52%)。化合物203を重クロロホルムに溶解したサンプルのNMRの測定値は以下の通りであった。
1H-NMR (300 MHz, TMS, CDCl3):δ1.23-1.32 (s, 12H), 2.29 (s, 3H), 7.30-7.57 (m, 10H)
【実施例】
【0076】
(7)化合物200の合成
200mLの四つ口フラスコに化合物103(0.32g、1.01mmol)と化合物203(0.75g、2.13mmol)、トリフェニルホスフィン(0.16 g、0.51 mmol)、2 Mのリン酸三カリウム水溶液(15mL)、1,4-ジオキサン(15mL)を入れた。脱気後、Pd(PPh3)4を触媒量(30mol%)添加し、3日間加熱還流させた。塩化アンモニウム水溶液を加えて中和し、水/酢酸エチル系で抽出した。有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を除去しカラムクロマトグラフィーおよび、高速液体クロマトグラフィーにより精製し、下記式(D)中、「200」で示す白色固体の化合物0.021gを得た(収率3.1%)。化合物200を重クロロホルムに溶解したサンプルのNMRの測定値は以下の通りであった。図4にその1H-NMRスペクトルを示す。
1H-NMR (300 MHz, TMS, CDCl3):δ1.27 (s, 6H), 7.18-7.30 (m, 2H), 7.35-7.63 (m 15H), 7.67 (s 6H), 8.00-8.03 (m, 2H))
また、Spiral-TOF MSにより同定した結果は以下の通りであった。図5にそのスペクトルを示す。
HRMS(MALDI-TOF): m/z [M]+ = C37H23NS3 計算値 657.168、実測値 657.149
【実施例】
【0077】
【化19】
JP2018140974A_000027t.gif
【実施例】
【0078】
(8)フォトクロミック反応の確認
上述した化合物100及び化合物200と、これら化合物100、200と構造が類似する化合物300、化合物400の計4種類の化合物のフォトクロミック反応を調べた。化合物100、200、300、400の構造を図6にまとめて示す。図6に示す通り、化合物100と化合物300、化合物200と化合物400は閉環箇所である2箇所に結合する基がフェニル基であるかメチル基であるかの点が相違する以外は同じ構造を有する。
【実施例】
【0079】
4種類の化合物100~400をそれぞれアセトニトリル、トルエン等の有機溶媒に0.1μM~0.1Mの濃度で溶解させてサンプルを作成し、各サンプルに波長313nmの紫外線を照射したところ、無色であった化合物100、300のサンプルは赤色に着色し、無色であった化合物200、400のサンプルは青色に着色した。一方、赤色又は青色に着色した各サンプルに可視光を照射すると元の無色状態へと変化した。図7(a)~(d)に、化合物100、200、300、400のアセトニトリル溶液におけるフォトクロミック反応の例を示す。図7(a)、(b)より、化合物100及び化合物200のアセトニトリル溶液中のモル吸光係数はそれぞれ20000(Mcm-1)及び31200(Mcm-1)であると評価された。これまでの知見から、このような着色・消色反応は、以下の式(E)に示す、ヘキサトリエン構造とシクロヘキサジエン構造の間での光閉環(着色)・開環(消色)反応(可逆フォトクロミック反応)に対応するものと推測された。以下の式(E)は、化合物100の可逆フォトクロミック反応による構造の変化を示す。
【実施例】
【0080】
【化20】
JP2018140974A_000028t.gif
【実施例】
【0081】
(9)化合物300の消色反応
化合物300のアセトニトリル溶液に紫外光を照射することにより赤色着色状態を形成させた後に、酸化剤としてトリス(4-ブロモフェニル)アンモニウムイル ヘキサクロロアンチモナート(以下、TBPAと略称する)のアセトニトリル溶液(濃度0.1mM)を添加したところ消色反応が観測された。この消色反応(酸化反応)に伴って、元の無色状態の吸収スペクトルが回復した。図8にTBPA添加後の吸収スペクトル、及び添加した酸化剤の量と反応した化合物300の分子の量の関係を示す。ここでは、化合物300に対する酸化剤の量比を0~1まで変化させたときの吸収スペクトルを測定した(図8中、「PSS」は、酸化剤を添加しなかったとき(つまり、酸化剤の量比が0のとき)を示す)。図8から分かるように、酸化剤の量比が1のときに化合物300のアセトニトリル溶液の吸収スペクトルがほぼ100%回復しており、添加した酸化剤の量と反応した化合物300の分子の量比はほぼ1:1であった。
【実施例】
【0082】
(10)化合物100の消色反応
化合物100のアセトニトリル溶液に紫外光を照射することにより赤色着色状態を形成させた後に、酸化剤としてTBPAのアセトニトリル溶液(濃度0.1mM)を添加したところ消色反応が観測された。この酸化反応に伴って、元の無色状態の吸収スペクトルが回復した。化合物100では、添加した酸化剤と化合物100の分子の量比が0.1:1の場合、3時間後にはほぼ完全な消色反応が見出された。図9に、化合物100のアセトニトリル溶液に紫外光を照射することにより赤色着色状態を形成させた後に0.02等量相当量のTBPAのアセトニトリル溶液(濃度0.1mM)を添加したときの添加後の波長540nmの吸光度の変化を示す。
【実施例】
【0083】
(11)化合物400の消色反応
化合物400のアセトニトリル溶液に紫外光を照射することにより青色着色状態を形成させた後に、酸化剤としてTBPAのアセトニトリル溶液(濃度0.1mM)を添加したところ消色反応が観測された。この酸化反応に伴って、元の無色状態の吸収スペクトルが回復した。化合物400では、添加した酸化剤と化合物400の分子の量比が0.02:1でも、3時間後にはほぼ完全に元の無色状態の吸収スペクトルに回復していた。図10に、化合物400のアセトニトリル溶液に紫外光を照射することにより青色着色状態を形成させた後に0.02等量相当量のTBPAのアセトニトリル溶液(濃度0.1mM)を添加したときの添加後の波長613nmの吸光度の変化を示す。
【実施例】
【0084】
(12)化合物200の消色反応
化合物200のアセトニトリルやトルエンなどの溶液に紫外光を照射することにより得られる着色状態は、他の化合物100、300、400に比べると不安定で、紫外光の照射後10分以内に自然に消色反応が進行する。図11は、化合物200のトルエン溶液(0.1mM)に対して紫外光(313nm)を照射し、その後の経過時間を横軸、613nmの吸光度を縦軸とする点をプロットしたものである。図11から分かるように、およそ5分間で自然退色した。図11より、自然体色反応は1次反応速度式に従い進行することが推測された。
【実施例】
【0085】
(13)化合物400の連鎖増幅反応(1)
化合物400のトルエン溶液(濃度1mM)に紫外光(313nm)を照射し、青色着色状態とした後に、クロロホルムにより10倍に希釈した。このクロロホルム希釈溶液に対して紫外光(313nm)をさらに10~30秒間照射し、照射終了後の波長613nmの吸収スペクトルの変化を調べた。その結果、紫外光を照射終了後の時間経過とともに吸収スペクトルが変化し続け、次第に無色状態へと変化することが確認された。図12に、クロロホルム希釈溶液に対して紫外光(313nm)をさらに10秒間照射したときの、照射前と照射終了から200分後の吸収スペクトルをそれぞれ緑色及び赤色の曲線で示す。また、図13にクロロホルム希釈溶液に対して紫外光(313nm)をさらに30秒間照射したときの、照射前及び照射終了から100分後の吸収スペクトルをそれぞれ青色及び赤色の曲線で示す。
【実施例】
【0086】
図12及び図13から分かるように、紫外光を10秒間照射したときは照射後 200分程度で完全に無色化し、紫外光を30秒間照射した場合には、照射後100分程度でほぼ完全に無色化した。
【実施例】
【0087】
(14)化合物400の連鎖増幅反応(2)
化合物400のトルエン溶液(濃度1mM)に紫外光(313nm)を照射した後、クロロホルムにより10倍に希釈した溶液に対して、さらに紫外光(313nm)を下記の条件1)~4)で照射したときの、照射後の波長613nmの吸光度の時間的変化を調べた。その結果を図14に示す。
条件1) 10%減光フィルターを通して30秒間照射
条件2) 10%減光フィルターを通して10秒間照射
条件3) 1%減光フィルターを通して30秒間照射
条件4) 1%減光フィルターを通して6秒間照射
これらの実験条件1)~4)下における見かけの光反応量子収率は390%、980%、390%および51000%と評価された。
【実施例】
【0088】
(15)化合物400の連鎖増幅反応(3)
化合物400のトルエン溶液(濃度1mM)に紫外光(313nm)を照射した後、クロロホルムにより10倍に希釈した溶液に対して、X線を照射した。X線照射には40kV-2.5mA, Wターゲットを用い、照射線量を100mGray、10mGrayおよび1mGrayとした。その結、照射終了後の時間経過とともに青色が消失し、これに伴って吸収スペクトルにおける613nmの吸収バンドが低下した。613nmにおける吸光度の経時変化を調べると、100mGrayのX線照射では10分以内に消色が進行した。一方、1mGrayのX線照射では30時間程度の時間の経過とともに消色が観測された。図15に100mGrayのX線照射から10分経過時の吸収スペクトルを示す。また、図16に、X線照射前のサンプル(左側)と消色後のサンプル(右側)を示す。さらに、図17に、100mGray、1mGrayのX線照射時の波長613nmにおける吸光度の時間的変化を示す。
【実施例】
【0089】
(16)X線照射後の吸光度の変化と化合物400の溶媒との関係
化合物400のトルエン溶液(濃度1mM)に紫外光(313nm)を照射した後の着色状態にあるトルエン溶液を、次の条件で希釈した溶液A~Cを作製し、これらに対して50mGrayのX線を照射した。その結果を図18に示す。
溶液A:着色状態にあるトルエン溶液をトルエンで10倍に希釈
溶液B:着色状態にあるトルエン溶液をアセトニトリルで10倍に希釈
溶液C:着色状態にあるトルエン溶液をクロロホルムで10倍に希釈
図18に示すように、溶液Cにおいて最も大きな吸光度の変化が観察された。
また、溶液Cに対して1mGrayのX線を照射したところ、溶液Bに対して50mGrayのX線を照射した場合よりも、より早い吸光度の変化が観察された。
【実施例】
【0090】
(17)X線照射による吸光度の変化
上述の溶液Cに対して、1mGray、10mGrayy、100mGray、200mGrayのX線照射を行ったところ、およそ10分で吸光度の減衰が観測された。10分後の吸光度の残量は放射線量の増大に伴い、低下した。図19にその結果を示す。
【実施例】
【0091】
(18)X線の照射線量と吸光度の減少量の関係
図20は、X線の照射線量と減少した吸光度の関係を示している。同図に示すように、(17)の実験によって観測された吸光度の減少はX線の照射線量の増大に伴って増加した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の式(1)及び(2)で表される化合物は、放射線検出器として有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19