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明細書 :シリコンチップ及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-140478 (P2018-140478A)
公開日 平成30年9月13日(2018.9.13)
発明の名称または考案の名称 シリコンチップ及びその製造方法
国際特許分類 B81B   1/00        (2006.01)
B32B   3/02        (2006.01)
B32B   9/00        (2006.01)
B81C   1/00        (2006.01)
FI B81B 1/00
B32B 3/02
B32B 9/00 A
B81C 1/00
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-037453 (P2017-037453)
出願日 平成29年2月28日(2017.2.28)
発明者または考案者 【氏名】平野 愛弓
【氏名】庭野 道夫
【氏名】但木 大介
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101236、【弁理士】、【氏名又は名称】栗原 浩之
【識別番号】100166914、【弁理士】、【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 3C081
4F100
Fターム 3C081AA07
3C081AA17
3C081BA03
3C081CA02
3C081CA15
3C081CA26
3C081CA28
3C081DA03
3C081DA29
3C081DA30
3C081EA01
3C081EA26
4F100AA12B
4F100AA20C
4F100AA20D
4F100AB11A
4F100AK17E
4F100BA04
4F100BA07
4F100DC11A
4F100DC11B
4F100DC11C
4F100DC11D
4F100EH46
4F100EJ15
4F100GB66
4F100JG04E
4F100JG05E
要約 【課題】有機溶剤フリーで形成できるもので、微細孔エッジの耐久性に優れた人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板に設けられた貫通孔11と、この貫通孔を覆うように設けられた窒化シリコン膜21と、この上に設けられた第1酸化シリコン膜22と、前記貫通孔の前記シリコン基板の内面及び前記窒化シリコン膜の前記第1酸化シリコン膜とは反対側に設けられた第2酸化シリコン膜23と、前記第1酸化シリコン膜、前記窒化シリコン膜及び前記第2酸化シリコン膜に設けられた微細孔と、を具備し、前記微細孔は、前記第2酸化シリコン膜側から前記第1酸化シリコン膜側の開口に向かって前記開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔の内周面は、前記窒化シリコン膜の領域の内周面である第1傾斜面31aと、前記第1酸化シリコン膜の領域の内周面である第2傾斜面32aとを含み、前記第2傾斜面の膜厚方向に対して傾斜する傾きが、前記第1傾斜面の傾きより大きい。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
シリコン基板に設けられた貫通孔と、この貫通孔を覆うように設けられた窒化シリコン(Si)膜と、この上に設けられた第1酸化シリコン(SiO)膜と、前記貫通孔の前記シリコン基板の内周面及び前記窒化シリコン膜の前記第1酸化シリコン膜とは反対側に設けられた第2酸化シリコン膜と、前記第1酸化シリコン膜、前記窒化シリコン膜及び前記第2酸化シリコン膜に設けられた微細孔と、を具備し、前記微細孔は、前記第2酸化シリコン膜側から前記第1酸化シリコン膜側の開口に向かって前記開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔の内周面は、前記窒化シリコン膜の領域の内周面である第1傾斜面と、前記第1酸化シリコン膜の領域の内周面である第2傾斜面とを含み、前記第2傾斜面の膜厚方向に対して傾斜する傾きが、前記第1傾斜面の傾きより大きいことを特徴とするシリコンチップ。
【請求項2】
前記第1傾斜面は、傾斜の傾きが前記開口に近づくほど大きくなる凸曲面で形成され、前記第2傾斜面は、傾斜の傾きが前記開口に近づくほど小さくなる凹曲面で形成されていることを特徴とする請求項1記載のシリコンチップ。
【請求項3】
前記微細孔の内周面には、前記窒化シリコン膜の領域も含めて酸化シリコン膜で覆われていることを特徴とする請求項1又は2記載のシリコンチップ。
【請求項4】
前記貫通孔の内周面には、低誘電率絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項記載のシリコンチップ。
【請求項5】
前記低誘電率絶縁膜は、アモルファスフッ素樹脂膜からなることを特徴とする請求項4記載のシリコンチップ。
【請求項6】
シリコン基板上に窒化シリコン膜を設け、この上に第1酸化シリコン膜を設ける第1膜形成工程と、
前記シリコン基板の前記窒化シリコン膜を設けた側とは反対側から、前記窒化シリコン膜まで貫通する貫通孔をウェットエッチングにより形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔内に気相法により酸化シリコン膜を積層して第2酸化シリコン膜を形成する第2膜形成工程と、
前記貫通孔に対向する領域の前記第1酸化シリコン膜に緩衝フッ化水素酸及びフッ化水素酸を用いてウェットエッチングすることにより第1微細孔を形成する第1エッチング工程と、
前記第1微細孔に対向する領域の前記窒化シリコン膜に前記第1微細孔を介してリン酸を用いてウェットエッチングにより前記第1微細孔より大きな第2微細孔を形成する第2エッチング工程と、
前記第1酸化シリコン膜の前記第1微細孔の周囲及び前記第2微細孔に対向する前記第2シリコン膜をフッ化水素酸を用いてウェットエッチングすることにより、第3微細孔及び第4微細孔を形成し、前記第2微細孔、前記第3微細孔及び前記第4微細孔からなり、前記第2酸化シリコン膜側から前記第1酸化シリコン膜側の開口に向かって前記開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔の内周面は、前記窒化シリコン膜の領域の内周面である第1傾斜面と、前記第1酸化シリコン膜の領域の内周面である第2傾斜面とを含み、前記第2傾斜面の膜厚方向に対して傾斜する傾きが、前記第1傾斜面の傾きより大きい微細孔を形成する第3エッチング工程と
を具備することを特徴とするシリコンチップの製造方法。
【請求項7】
前記第3エッチング工程の後、
ウェット酸化工程と、
前記第2酸化シリコン膜上に低誘電率材料を塗布し、前記第4微細孔に対応する領域をドライエッチングすることにより第5微細孔を有する低誘電率絶縁膜を形成する低誘電率絶縁膜形成工程と
を具備することを特徴とする請求項6記載のシリコンチップの製造方法。
【請求項8】
前記低誘電率絶縁膜形成工程の後、
前記微細孔の内周面に酸化シリコン膜を気相法により設ける第3膜形成工程を具備することを特徴とする請求項7記載のシリコンチップの製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微細孔エッジの耐久性に優れ、有機溶剤フリーで形成できる人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜は厚さ数nmのナノ薄膜であり、外界からの化学・光・力学等の刺激に非常に敏感な超高感度センサーでもある。その構造はリン脂質分子が二層整列した脂質二分子膜を基本構造とし、そこに種々の膜タンパク質が埋め込まれて構成されている。これらの膜タンパク質は細胞膜の高感度な物質感受性を担っており、創薬の重要なターゲットでもある。
【0003】
細胞膜の基本構造である脂質二分子膜は脂質分子の自己集合により人工的に構築可能であり、この人工脂質二分子膜(人工細胞膜)に精製した膜タンパク質を埋め込んだ膜系は膜タンパク質の機能や薬物作用を、化学組成を制御した上で評価できる系として、生理学・薬理学の分野で広く用いられてきた。
【0004】
一方、膜タンパク質の高度な物質認識能は、高感度バイオセンサーの認識素子として注目され、実際にイオンチャンネルを用いた脂質二分子膜センサーでは、pH(1012M(mol/L))レベルの高感度検出を達成している。
【0005】
このように人工細胞膜センサーは、薬物候補化合物の評価や高感度バイオセンサーとしての可能性をもつが、膜タンパク質の機能発現にとって必須の環境である脂質二分子膜は安定性が極めて低く、その発展の障壁となってきている。
【0006】
このような人工脂質二分子膜の安定化を図るため、2000年以降、微細加工技術と人工脂質二分子膜形成を融合する試みが盛んに行われた。これらの試みは、微細孔を作製して二分子膜の微小化を行い、膜の安定性を目指すものと、マイクロ流路の利用により、膜形成の簡便化を目指すものの二つに大別される。しかしながら、膜形成の簡便化・自動化は進んだものの、膜安定性については寿命の向上のみで、機械的強度の向上には至っていない。また、これらの研究の多くは、不揮発性の有機溶媒を膜形成に用いており、適用可能なチャンネルタンパク質の範囲には限界があった。
【0007】
そこで、発明者らは、陽極酸化ポーラスアルミナフィルムとシリコン(Si)微細加工基板の二つを二分子膜保持体として作製することを試みた。陽極酸化ポーラスアルミナは、規則的なナノポア構造をもつ絶縁膜であり、二分子膜の微細化は実現され、印加電圧耐性と膜寿命に関してはある程度の向上が得られたが、薬物スクリーニングへの応用では必須の溶液交換耐性は得られなかった(非特許文献1参照)。
【0008】
上記試みから、二分子膜の微小化では十分な膜安定性が得られないとの知見を得て、微細孔のエッジと二分子膜との接合部の形状に注目し、滑らかなエッジを持つような微細孔を半導体微細加工により、Si/Si基板中に作製した(以下「シリコンチップ」という。非特許文献1参照)。
【0009】
このシリコンチップは、十分な膜面積を保持できる孔径(20μm~30μm)をもち、小径のエッジはnmスケールでテーパーのついた滑らかな形状となるように設計した。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】応用物理 第81巻第2号(2012年)第143頁~第146頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したシリコンチップの構造では、実用上、エッジの耐久性が未だ不十分であった。
【0012】
また、上述したシリコンチップの構造は、形成の際に生体には存在しない有機溶媒(ヘキサデカン)が必要であり、有機溶剤フリーのシリコンチップの形成が望まれている。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、有機溶剤フリーで形成できるもので、微細孔エッジの耐久性に優れた人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、シリコン基板に設けられた貫通孔と、この貫通孔を覆うように設けられた窒化シリコン(Si)膜と、この上に設けられた第1酸化シリコン(SiO)膜と、前記貫通孔の前記シリコン基板の内面及び前記窒化シリコン膜の前記第1酸化シリコン膜とは反対側に設けられた第2酸化シリコン膜と、前記第1酸化シリコン膜、前記窒化シリコン膜及び前記第2酸化シリコン膜に設けられた微細孔と、を具備し、前記微細孔は、前記第2酸化シリコン膜側から前記第1酸化シリコン膜側の開口に向かって前記開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔の内周面は、前記窒化シリコン膜の領域の内周面である第1傾斜面と、前記第1酸化シリコン膜の領域の内周面である第2傾斜面とを含み、前記第2傾斜面の膜厚方向に対して傾斜する傾きが、前記第1傾斜面の傾きより大きいことを特徴とするシリコンチップにある。
【0015】
ここで、前記第1傾斜面は、傾斜率が前記開口に近づくほど大きくなる凸曲面で形成され、前記第2傾斜面は、傾斜率が前記開口に近づくほど小さくなる凹曲面で形成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記微細孔の内周面には、前記窒素シリコン膜の領域も含めて酸化シリコン膜で覆われていることが好ましい。
【0017】
また、前記貫通孔の内周面には、低誘電率絶縁膜が形成されていることが好ましい。
【0018】
また、前記低誘電率絶縁膜は、アモルファスフッ素樹脂膜からなることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様は、シリコン基板上に窒化シリコン膜を設け、この上に第1酸化シリコン膜を設ける第1膜形成工程と、前記シリコン基板の前記窒化シリコン膜を設けた側とは反対側から、前記窒化シリコン膜まで貫通する貫通孔をウェットエッチングにより形成する貫通孔形成工程と、前記貫通孔内に気相法により酸化シリコン膜を積層して第2酸化シリコン膜を形成する第2膜形成工程と、前記貫通孔に対向する領域の前記第1酸化シリコン膜に緩衝フッ化水素酸及びフッ化水素酸を用いてウェットエッチングすることにより第1微細孔を形成する第1エッチング工程と、前記第1微細孔に対向する領域の前記窒化シリコン膜に前記第1微細孔を介してリン酸を用いてウェットエッチングにより前記第1微細孔より大きな第2微細孔を形成する第2エッチング工程と、前記第1酸化シリコン膜の前記第1微細孔の周囲及び前記第2微細孔に対向する前記第2シリコン膜をフッ化水素酸を用いてウェットエッチングすることにより、第3微細孔及び第4微細孔を形成し、前記第2微細孔、前記第3微細孔及び前記第4微細孔からなり、前記第2酸化シリコン膜側から前記第1酸化シリコン膜側の開口に向かって前記開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔の内周面は、前記窒化シリコン膜の領域の内周面である第1傾斜面と、前記第1酸化シリコン膜の領域の内周面である第2傾斜面とを含み、前記第2傾斜面の膜厚方向に対して傾斜する傾きが、前記第1傾斜面の傾きより大きい微細孔を形成する第3エッチング工程とを具備することを特徴とするシリコンチップの製造方法にある。
【0020】
ここで、前記第3エッチング工程の後、ウェット酸化工程と、前記第2酸化シリコン膜上に低誘電率材料を塗布し、前記第4微細孔に対応する領域をドライエッチングすることにより第5微細孔を有する低誘電率絶縁膜を形成する低誘電率絶縁膜形成工程とを具備することが好ましい。
【0021】
また、前記低誘電率絶縁膜形成工程の後、前記微細孔の内周面に酸化シリコン膜を気相法により設ける第3膜形成工程を具備することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機溶剤フリーで形成できるもので、微細孔エッジの耐久性に優れた人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップの製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図3】実施例1、比較例1、2に係るチップの微細孔を模式的に示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を下記実施形態に基づいて詳細に説明する。以下の説明は本発明の一態様を示すものであって、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。

【0025】
(実施形態1)
図1には、本実施形態に係る人工脂質二分子膜を形成するための土台となるシリコンチップ、すなわち、人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップの構造を模式的に示す。
図1(a)に示すように、人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップ(単にチップともいう)1は、シリコン基板10を具備し、シリコン基板10には、四角錐台形状の貫通孔である貫通孔11が設けられている。シリコン基板10の貫通孔11の小面積の方の第1開口部12が形成された表面には、窒化シリコン(Si)膜21と、窒化シリコン(Si)膜21上に設けられた第1酸化シリコン(SiO)膜22とが設けられている。

【0026】
また、シリコン基板10の貫通孔11の大面積の第2開口部13側の表面及び貫通孔11の内周面並びに窒化シリコン膜21の第1酸化シリコン膜22とは反対側を覆うように第2酸化シリコン膜23が設けられている。

【0027】
開口部12を塞ぐ窒化シリコン膜21と、第1酸化シリコン(SiO)膜22と、第2酸化シリコン膜23との中央部には、微細孔30が形成されている。

【0028】
微細孔30は、窒化シリコン膜21に形成された微細孔31と、第1酸化シリコン膜22に形成された微細孔32と、第2酸化シリコン膜23に形成された微細孔33とからなり、全体として、第2酸化シリコン膜23側から第1酸化シリコン膜22側の開口に向かって開口側ほど内径が漸大する形状であり、前記微細孔30の内周面30aは、前記窒化シリコン膜21の領域の内周面である第1傾斜面31aと、前記第1酸化シリコン膜22の領域の内周面である第2傾斜面32aとを含む。

【0029】
ここで、第1傾斜面31aは、膜厚に直交する垂直面に対して35°~55°、好ましくは、40°~50°、さらに好ましくは、約45°前後傾斜し、第2傾斜面32aは、それより非常に緩やかな傾斜、例えば、数十ミクロンの範囲を平均すると、約89.7°~89.9°傾斜している。このように、第1傾斜面31aと第2傾斜面32aとの傾斜の度合いが異なることが特徴であり、第1傾斜面31aの傾斜より、第2傾斜面32aの傾斜が非常に緩やかになっている(垂直面に対する傾きは大きい)点が特徴である。このように、図中、上部開口側の第2傾斜面32aは、第2傾斜面32aの内径が前記開口側ほど漸大する割合である傾斜の傾きが、第1傾斜面31aの領域の傾斜の傾きより大きくなっている。なお、第2酸化シリコン膜23は、窒化シリコン膜21及び第1酸化シリコン膜22のそれぞれと比較して非常に薄いので、その内周面33aの影響はほとんどない。

【0030】
このような微細孔30とすることにより、窒化シリコン膜21及び第1酸化シリコン膜22の内周部、すなわち、エッジ部31b、32bの耐久性が著しく向上したものとなる。

【0031】
なお、チップ1の電気的特性を向上させるためには、チップ1の電気容量を低下させるのが好ましく、表面を低誘電率の膜で被覆するのが好ましい。

【0032】
このような低誘電率膜を設けたチップ1Aは、図1(b)に示す。このチップ1Aは、貫通孔11内の第2酸化シリコン膜23上にアモルファスフッ素樹脂などの低誘電率材料の絶縁膜25を設け、さらに、微細孔30の内周面、すなわち、第1傾斜面31a及び第2傾斜面32a上に酸化シリコン薄膜27を設けたものである。

【0033】
以下、人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップの製造方法の一例を示しながら、本発明をさらに詳細に説明する。

【0034】
まず、図2(a)に示すように、約200μmの厚さのシリコン基板10上に、窒化シリコン(Si)膜110を有する基板を用意した。窒化シリコン膜110は、200nm~220nmの厚さである。

【0035】
次に、図2(b)に示すように、シリコン基板100の窒化シリコン膜110とは反対側にドライ熱酸化法により酸化シリコン(SiO)膜130を形成し、また、RFスパッタリング法により、窒化シリコン膜110上に酸化シリコン(SiO)膜120を形成する。酸化シリコン膜120の厚さは、400nm~500nm程度とする。

【0036】
ここで、熱酸化の条件は特に限定されないが、例えば、1100°の電気炉中に純酸素を1L/min程度までの流量で流し、1時間程度アニールすることにより行うことができる。

【0037】
また、RFスパッタリングの条件も特に限定されないが、Siターゲットを用い、例えば、4.0×10-4Pa以下の真空度で、雰囲気ガスとしてArを用いて、2.6Paの圧力、高周波電力150Wなどの条件下で行う。

【0038】
次いで、図2(c)に示すように、窒化シリコン膜110とは反対側に設けた酸化シリコン膜130をマスクとして、シリコン基板100をウェットエッチングする。具体的には、酸化シリコン膜130上にレジストをスピンコートし、フォトリソグラフィーによるパターニングを行い、レジストを介して酸化シリコン膜130をパターニングし、パターニングした酸化シリコン膜130をマスクとして、90℃に加熱した25%TMAH(tetramethylammoniumhydroxide)中に基板を6時間浸漬して異方性エッチングを行い、貫通孔11を形成した。

【0039】
貫通孔11は、四角錐台であり、窒化シリコン膜110側の小面積の第1開口部12は、一辺が約50μm~60μmの正方形であり、酸化シリコン膜130側の大面積の第2開口部13は、一辺が約310μm~320μmである。

【0040】
次に、図2(d)に示すように、貫通孔11の内面及び窒化シリコン膜110の酸化シリコン膜120とは反対側に、酸化シリコン膜140をRFスパッタリング法により形成する。

【0041】
次に、図2(e)に示すように、酸化シリコン膜120上に、レジスト150を設けてフォトリスグラフィー法によりパターニングして孔151を形成し、マスクとする。

【0042】
そして、図2(f)に示すように、孔151を設けたレジスト150をマスクとして、微細孔32の元となる第1微細孔321を形成する。この第1微細孔321の形成は、緩衝フッ化水素酸とフッ化水素酸とを併用して行い、第1微細孔321の傾斜面321aは、微細孔32の第2傾斜面32aと同等の傾斜を有すると推定される。

【0043】
このエッチングの手順の一例を以下に示す。
まず、RFスパッタリングで成膜した酸化シリコン膜120をエッチング時間するのに要する時間を計測する。すなわち、ダミー基板を用いて、エッチング液に緩衝フッ化水素酸(BHF)を用いた場合と、例えば、5%フッ化水素酸(HF)を用いた場合のそれぞれについて、エッチング時間を計測する。そして、計測した時間の半分を1割増した時間をエッチング時間とし、基板をBHF、5%HFの順にエッチングすることで、第1微細孔321を形成する。

【0044】
なお、このように形成された第1微細孔321の傾斜面321aは、傾斜の傾きが開口(図中上方)に近づくほど小さくなる凹曲面となる。BHFのみ、又は5%HFのみを用いた場合にも凹曲面となるが、前者によって形成された傾斜面の傾きは傾斜面321aよりも非常に大きく、反対に後者は若干小さくなる。

【0045】
次に、図2(g)に示すように、第1微細孔321を介して、窒化シリコン膜110を等方性エッチングし、微細孔31となる第2微細孔311を形成する。このエッチングのエッチャントにはリン酸、例えば、150°に加熱した85wt%のリン酸を使用し、エッチング後、90℃程度まで冷ました後、温純粋でリンスする。なお、このとき、酸化シリコン膜120も多少、等方性エッチングされるが、図示は省略する。

【0046】
ここで、第2微細孔311の傾斜面311aは、微細孔31の第1傾斜面31aと同等なものとなる。
また、傾斜面311aは開口(図中上方)に近づくほど大きくなる凸曲面で形成される。

【0047】
次に、図2(h)に示すように、窒化シリコン膜110の第2微細孔311を介して酸化シリコン膜140を等方性エッチングすると同時に、第1微細孔321の内周面を等方エッチングし、第3微細孔322及び第4微細孔331を形成し、第2微細孔311と共に微細孔30となる。なお、微細孔30の径、例えば、第4微細孔331の領域で、約20μm~40μmであり、第3微細孔322の最大径は、例えば、140μm~160μm程度である。
ここで、酸化シリコン膜120及び140の等方性エッチングは、5%フッ化水素酸を用いて行うことができる。

【0048】
次に、図2(i)に示すように、ウェット熱酸化法により、シリコン基板10上の酸化シリコン膜140を成長させ、酸化シリコン膜145とする。ここでは、約300nm~400nmの酸化シリコンを成長させた。このウェット熱酸化の目的は、チップ自体の電気的特性の向上(電気容量の低下)である。このウェット熱酸化は、約1100℃の電気炉内に純酸素と水蒸気を導入し、1時間アニールすることにより行うことができる。

【0049】
次に、図2(j)に示すように、酸化シリコン膜145上に、アモルファスフッ素樹脂(CYTOP(登録商標))をスピンコートし、アモルファスフッ素樹脂膜160を形成し、第4微細孔331内のアモルファスフッ素樹脂膜160を第4微細孔331側から除去して微細孔161を形成した。

【0050】
次に、図2(k)に示すように、第2微細孔311及び第3微細孔322の傾斜面321a、322a上に、RFスパッタリング方により、約10nmの酸化シリコン膜170を形成した。

【0051】
図2(j)及び(k)の工程は、チップ表面を低誘電率材料で被覆して、チップの電気容量を低下させるものである。なお、図2(j)の工程で用いたアモルファスフッ素樹脂は、これに限定されず、低誘電率材料であればよく、例えば、Teflon(登録商標)AFなどを用いることができる。なお、工程(i)~(k)は、省略することもできる。

【0052】
以上説明した微細孔30を有するチップは、人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップとなるが、これを人工的な細胞膜構造に適用させるためには、チップ表面を疎水性にする必要がある。この疎水性にする工程は、例えば、チップをシランカップリング剤中に浸漬することにより実施することができる。シランカップリング剤としては、例えば、3-シアノプロピルジメチルクロロシラン(3-cyanopropyldimethylchlorosilane(CPDS))またはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルクロロシラン(PFDC)を用いる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
図2のプロセスにより工程(h)を実施したものを実施例1のチップとした。微細孔の模式図を図3(a)に示す。
【実施例】
【0054】
(比較例1)
図2のプロセスの(h)の工程の後、酸化シリコン膜120を緩衝フッ化水素酸(BHF)で除去したものを、比較例1のチップとした。微細孔の模式図を図3(b)に示す。
【実施例】
【0055】
(比較例2)
図2のプロセスの(h)の工程を、緩衝フッ化水素酸(BHF)のみを用いて実施して第2酸化シリコン膜23に傾斜が第1傾斜面31aと同程度の微細孔32Aを形成したものを、比較例2のチップとした。微細孔の模式図を図3(c)に示す。
【実施例】
【0056】
(試験例1)人工脂質二分子膜形成確率
実施例1及び比較例1、2のチップをそれぞれn個用い、以下の手順で人工脂質二分子膜を形成し、膜形成試行回数n回の内、100ギガオーム以上の膜が形成された確率を膜形成確率とした。
【実施例】
【0057】
人工脂質二分子膜形成は、3-シアノプロピルジメチルクロロシラン(CPDS)で疎水化処理を行った後、気-液界面に展開した脂質の単分子膜を、チップの微細孔中ではりあわせる方法で形成した。なお、人工脂質二分子膜形成は、Langmuir 2010, 26(3), 1949-1952のBLM Formation and Current Recordingsを参照して行った。
【実施例】
【0058】
また、人工脂質二分子膜抵抗は、膜の両側の水溶液にAg/AgCl電極を介して+100mVと-100mVの電圧を順番に印加し、その時観測された電流値の差(ΔI)を計測し、{100-(-100)}/ΔIから算出した。結果は、表1に示す。
【実施例】
【0059】
(試験例2)遠心耐性
実施例1及び比較例1、2のチップをそれぞれについて、試験例1で形成した人工脂質二分子膜について、遠心耐性試験を実施した。
【実施例】
【0060】
遠心耐性試験は、試験例1で100ギガオーム以上の膜が形成できたものに対し、遠心力(55×g)を10分間かけ、その後の膜抵抗が100ギガオーム以上のものを遠心耐性ありとした。なお、遠心耐性は、Langmuir 2010, 26(3), 1949-1952のBLM formation and protein incorporation via centrifugationを参照して行った。結果は、表1に示す。
【実施例】
【0061】
(試験例3)水面を20回上下させる操作に耐える確率
試験例1で人工脂質二分子膜抵抗が100ギガオーム以上の膜が形成できたチップについて、水面を20回上下させる操作を行い、その後の膜抵抗が100ギガオーム以上維持できたものを耐性ありとした。結果は、表1に示す。
【実施例】
【0062】
(試験例4)人工脂質二分子膜寿命
試験例1で人工脂質二分子膜抵抗が100ギガオーム以上の人工脂質二分子膜が形成できたチップを、0mVで放置し、30分毎に、膜の両側の水溶液にAg/AgCl電極を介して+100mVと-100mVの電圧を順番に印加し、観測された電流値から人工脂質二分子膜抵抗を上述した通りに算出し、人工脂質二分子膜抵抗が100ギガオームを維持していた時間を膜寿命とした。結果は、表1に示す。
【実施例】
【0063】
【表1】
JP2018140478A_000003t.gif
【実施例】
【0064】
表1の結果より、人工脂質二分子膜形成確率、遠心耐性、水面を上下させる操作に耐える確率及び人工脂質二分子膜寿命の全てについて、実施例1のチップは比較例1、2と比較して優れたものであった。これは、第1酸化シリコン膜22を除去した比較例1や第1酸化シリコン膜22の微細孔32の内面の傾斜が第1傾斜面31aのように緩やかではなく、第2傾斜面32aと同じような傾斜面となっている比較例2と比較した結果、第1酸化シリコン膜22の微細孔32の形状、すなわち、第2傾斜面32aが第1傾斜面31aより緩やかに傾斜しているためであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の人工脂質二分子膜形成用のシリコンチップは、イオンチャンネルを用いた脂質二分子膜センサーなどに応用でき、特に創薬のスクリーニングなどでの利用が期待できる。また、細胞等から抽出したタンパク質のみならず、無細胞合成系によって合成されたタンパク質と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0066】
1、1A シリコンチップ
10 シリコン基板
11 貫通孔
12 第1開口部
13 第2開口部
21 窒化シリコン膜
22 第1酸化シリコン膜
23 第2酸化シリコン膜
30、31、32、33 微細孔
30a 内周面
31a 第1傾斜面
32a 第2傾斜面
31b、32b エッジ部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2