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明細書 :植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤及び植物の育成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-145136 (P2018-145136A)
公開日 平成30年9月20日(2018.9.20)
発明の名称または考案の名称 植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤及び植物の育成方法
国際特許分類 A01N  43/16        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
C07D 311/62        (2006.01)
FI A01N 43/16 C
A01P 21/00
C07D 311/62
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2017-042163 (P2017-042163)
出願日 平成29年3月6日(2017.3.6)
発明者または考案者 【氏名】魚住 信之
【氏名】遠藤 晃輔
【氏名】浜本 晋
【氏名】池ノ上 芳章
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100081086、【弁理士】、【氏名又は名称】大家 邦久
【識別番号】100121050、【弁理士】、【氏名又は名称】林 篤史
審査請求 未請求
テーマコード 4C062
4H011
Fターム 4C062FF56
4H011AB03
4H011BB08
4H011DA13
要約 【課題】茶に含まれるカテキン誘導体化合物をスクリーニングすることによる植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤の提供、及び、当該機能制御剤を植物に施用する改質された植物体の育成方法を提供。
【解決手段】式(1)のカテキン化合物、及び該化合物を施用する植物の育成方法。
JP2018145136A_000011t.gif
(R2は、H又はOH;R、R3からR10は、Hに代表される)
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1)
【化1】
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(式中、R1~R7は、それぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、またはR1~R7の少なくとも2種の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3~7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する2価の基を形成してもよい。前記R1~R7が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。R8~R10はそれぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、前記R8~R10が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。)
で示されるカテキンガレート誘導体を含む植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤。
【請求項2】
前記カテキンガレート誘導体が、前記一般式(1)中のR1~R10が水素原子である下記式(1-1)
【化2】
JP2018145136A_000009t.gif
で示されるカテキンガレート(CG)、または前記一般式(1)中のR2が水酸基であり、R1、R3~R10が水素原子である下記式(1-2)
【化3】
JP2018145136A_000010t.gif
で示されるガロカテキンガレート(GCG)である請求項1に記載の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤を植物に施用することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項4】
前記カリウムイオン輸送体の機能制御がカリウムイオン輸送体の機能阻害である請求項3に記載の植物の育成方法。
【請求項5】
前記カリウムイオン輸送体の機能制御がカリウムイオン輸送体の機能活性化である請求項3に記載の植物の育成方法。
【請求項6】
植物に、乾燥耐性の付与、炭酸ガス取り込み阻害による植物体の矮小化、作物サイズの調節、収穫時期の変化、植物体のみずみずしさの増強、植物体や実の糖度の調節(変化)、根の成長促進性の変化、葉の肉厚の変化、及び低カリウム化から選択される少なくとも1種の機能を付与する請求項3~5のいずれかに記載の植物の育成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のカリウムイオン輸送体(チャネル・トンランスポーター・ポンプ)の機能制御剤及び当該機能制御剤を施用する植物の育成方法に関する。さらに詳しく言えば、特定の化学構造を有するカテキン化合物からなる植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤、及びその制御剤を植物に施用する改質された植物体の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は葉や茎にある気孔から空気中の炭酸ガス(CO2)を体内に取り込み、光合成でCO2を炭素源(C源)の養分とする。窒素(N)、リン(P)、鉄(Fe)、硫黄(S)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、ホウ素(B)などの無機養分は根から吸収する。この吸収は、気孔の開口によって生じる蒸散流が寄与している。気孔の開口によって体内の水分が外界へ抜けることとなる。このため、乾燥時には気孔は閉じている必要がある。
【0003】
気孔の開閉を調節するのは、孔辺細胞と呼ばれる2つの細胞である。孔辺細胞のカリウム(K)イオン輸送体(K+チャネル・K+トンランスポーター・ポンプ)が孔辺細胞の体積を制御している。モデル植物のシロイヌナズナには、細胞外から細胞内へK+(本明細書ではK+を単にKと記載することがある。)を吸収するカリウム(K)イオンチャネル(KAT1、KAT2、AKT1)、細胞内から細胞外へカリウムイオン(K+)を排出するK+チャネル(GORK、SKOR)、両方向にK+を輸送するAKT2が存在している。特に、KAT1、KAT2、GORKは気孔で良く機能することが知られている。
【0004】
これまでの報告や教科書より、孔辺細胞が膨潤する(すなわち、気孔が開口する)場合、内向きチャネルのKAT1、KAT2がオープン(open)になり活性化する。同時に、外向きチャネル(GORK)がクローズ(close)になる。
一方、孔辺細胞が収縮する(すなわち、気孔が閉鎖する)場合、内向きチャネルのKAT1、KAT2がcloseになり活性化する。同時に、外向きチャネル(GORK)がオープン(open)になる。
【0005】
このような気孔の開閉の制御以外の目的にもカリウムイオン輸送体が利用される。根で行われるカリウムイオンの吸収と排出においても,カリウムイオン輸送体が主体となって機能している。カテキン類によるカリウムイオン輸送体の機能の制御により、養分吸収や細胞内イオン環境が調節されることになり、植物の機能の制御が可能となる。さらに、通導組織である維管束系〈導管や篩管〉などのカリウムイオンの出入りにもカリウムイオン輸送体が機能しており、上記同様にこの輸送体の機能制御を行うことにより、植物の機能の制御が可能となる。さらに、生殖組織である花においてもカリウムイオン輸送体は機能することから、この輸送体の機能制御を行うことにより、受精、果実形成が制御される。
【0006】
理論通り、内向きチャネルのKAT1、KAT2の発現量が低下した植物変異株では、気孔の閉鎖が促進されるため、乾燥耐性をもつことが実際に報告されている(非特許文献1;Plant Physiology,(2001),127,473~485)。
【0007】
特許文献1(WO2012/008042号公報)には、植物に対する様々なストレスが生じる環境において生育を促進するストレス耐性を植物に付与できる植物ストレス耐性付与方法が開示され、特定成分のセルロース誘導体とカテキン類及び水を含有する組成物が用いられ、前記セルロース誘導体の含有量が45.0~99.5重量%である植物ストレス耐性付与剤組成物を、植物ストレス率が111~200%のストレス栽培条件にある植物に施用する工程を含むことを特徴とする。
特許文献1には、また植物の適切な育成環境では、植物活力能が殆ど認められない特定のセルロース誘導体とストレス耐性付与能が殆ど認められないカテキン類とを主成分とする組成物が、前記植物にストレスがかかる環境で、予想を超えたストレス耐性を植物に付与することを開示している(特許文献1,段落[0022])。
【0008】
一方、ヒト向けの医薬品では、このようにイオン輸送体を標的としたイオンチャネル阻害剤/イオンチャネル遮断薬(ion channel blocker)(チャネルブロッカーなどと称される。)が数多く開発されている(例えば、動物のATP依存性Kチャネル阻害剤であるグリベンクラミド(オイグルコン euglucon(登録商標)など)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】WO2012/008042号公報
【0010】

【非特許文献1】Plant Physiology,(2001),127,473~485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これまで、植物のカリウムイオン輸送体を標的にした機能阻害薬及び機能遮断薬は皆無である。
なお、本発明に関連して、カテキンの抗菌作用による農薬、及び吸着剤としての使用に関する先行文献は散見されるが、カテキン類を水分調節剤として使用した先行特許文献は見当たらない。
従って、本発明の課題は植物のカリウムイオン輸送体を標的にした機能制御剤(機能阻害剤及び/または機能活性化剤)を提供することにある。
さらに、本発明は、前記植物の輸送体を標的にした機能制御剤を植物に施用する、改質された植物体の育成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
生物の生体膜にあるイオン輸送体(イオンチャネル・トランスポーター・ポンプ)が開閉することでイオンの出入りが調整されている。細胞内イオン濃度の変化に応じて、水の出入りが起こり細胞の体積も変化する。
本発明者らは、少なくとも2種類のカテキン類(カテキンガレート誘導体)が植物のカリウムイオン輸送体(K+チャネル)を効果的に阻害すること、具体的には、天然の8種類のカテキン類(カテキン化合物と言うことがある。)の中で、2種類、すなわち、カテキンガレート(CGと略記することがある。)及びガロカテキンガレート(GCGと略記することがある。)が孔辺細胞や維管束系で機能する植物のKAT1、KAT2、AKT1、AKT2(AKT3)、GORK、SKORの6つのK+チャネルを阻害することを見出した。
【0013】
すなわち、前記2種類のカテキン類が特異性、選択性の高いK輸送体阻害剤であることを示す一方、KAT1、KAT2以外の他の4種類のK+チャネル(すべてのK+チャネル)を阻害した。前記2種類のカテキン類を植物に与えた場合には、内向きK+チャネルと外向きK+チャネルの両方を同時に阻害すると考えられる。このことは、選択的に片側方向のみのK+チャネル阻害剤を開発することによって、より効果的な細胞体積の制御が可能になることを示唆するものである。
【0014】
本発明は、一般式(1)で示されるカテキン誘導体を含む下記[1]~[2]の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤(阻害剤及び/または活性化剤)、及び[3]~[6]の植物の育成方法に関する。
[1]一般式(1)
【化1】
JP2018145136A_000002t.gif
(式中、R1~R7は、それぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、またはR1~R7の少なくとも2種の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3~7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する2価の基を形成してもよい。前記R1~R7が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。R8~R10はそれぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、前記R8~R10が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。)
で示されるカテキンガレート誘導体を含む植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤。
[2] カテキンガレート誘導体が、前記一般式(1)中のR1~R10が水素原子である下記式(1-1)
【化2】
JP2018145136A_000003t.gif
で示されるカテキンガレート(CG)、または一般式(1)中のR2が水酸基であり、R1、R3~R10が水素原子である下記式(1-2)
【化3】
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で示されるガロカテキンガレート(GCG)である、前項1に記載の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤。
[3] 前項1または2に記載の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤を植物に施用することを特徴とする植物の育成方法。
[4] 前記カリウムイオン輸送体の機能制御がカリウムイオン輸送体の機能阻害である前項3に記載の植物の育成方法。
[5] 前記カリウムイオン輸送体の機能制御がカリウムイオン輸送体の機能活性化である前項3に記載の植物の育成方法。
[6] 植物に、乾燥耐性の付与、炭酸ガス取り込み阻害による植物体の矮小化、作物サイズの調節、収穫時期の変化、植物体のみずみずしさの増強、植物体や実の糖度の調節(変化)、根の成長促進性の変化、葉の肉厚の変化、及び低カリウム化から選択される少なくとも1種の機能を付与する前項3~5のいずれかに記載の植物の育成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物のカリウムイオン輸送体(K+チャネル・K+トンランスポーター・ポンプ)の機能制御剤により、K+イオンチャネルを制御することによって、乾燥時における蒸散の抑制や、良好な環境における気孔からのCO2吸収の促進などが可能である。カリウムイオン輸送体を標的とするカテキン類を外部から噴霧や添加することにより、植物の成長と分化の制御や環境変化への適応を促すことが可能である。これにより分子育種や遺伝子操作に頼らない植物の成長の調節(制御)や耐環境性の増強が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アフリカツメガエル卵母細胞生体膜K+チャネルのK+電流(の発生とその電流量)に対する効果を試験したカテキン類8種:カテキン(Catechin)、エピカテキン(Epicatechin)、ガロカテキン(Gallocatechin)、エピガロカテキン(Epigallocatechin)、カテキンガレート(Catechin gallate)、エピカテキンガレート(Epicatechin gallate)、ガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)、及びエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)の化学構造式を示す。
【図2】KAT1チャネルのK+電流に対する8種のカテキン類添加の結果を示す。
【図3】KAT2チャネルのK+電流に対する8種のカテキン類添加の結果を示す。
【図4】KAT2チャネルのK+電流に対するカテキンガレート(Catechin gallate)の効果(B)を示す((A)は無添加の対照)。
【図5】KAT2チャネルのK+電流に対するエピカテキンガレート(Epicatechin gallate)の効果(B)を示す((A)は無添加の対照)。
【図6】KAT2チャネルのK+電流に対するガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)の効果(B)を示す((A)は無添加の対照)。
【図7】KAT2チャネルのK+電流に対するエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)の効果(B)を示す((A)は無添加の対照)。
【図8】6種類のK+チャネル(KAT1、KAT2、AKT1、AKT2、GORK及びSKOR)に対するカテキンガレート(Catechin gallate)の阻害実験の結果を示す。
【図9】6種類のK+チャネル(KAT1、KAT2、AKT1、AKT2、GORK及びSKOR)に対するガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)の阻害実験の結果を示す。
【発明を実施する形態】
【0017】
本発明は、下記一般式(1)で示されるカテキン化合物を含む、植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤を提供する。
【化4】
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【0018】
式(1)中、R1~R7は、それぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、またはR1~R7の少なくとも2種の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3~7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する2価の基を形成してもよい。前記R1~R7が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。R8~R10はそれぞれ独立して、水素原子、C1~10の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、前記R8~R10が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、またはそれらによって形成される環状炭化水素鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。
【0019】
本発明で用いられる前記一般式(1)で示されるカテキン化合物において、好ましくは、式中R1~R7は、それぞれ独立して、水素原子、C1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表す。
前記R1~R7が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。R8~R10はそれぞれ独立して、水素原子、C1~6の直鎖状もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、アルコキシ基またはアルキルエステル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、1級、2級または3級アミノ基、トリハロメチル基、フェニル基及び置換フェニル基からなる群から選ばれる1価基を表すか、前記R8~R10が表すアルキル基、アルコキシ基、アルキルエステル基にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノ結合を任意の数含んでもよい。
さらに、本発明で用いられる前記一般式(1)において、好ましくは、前記一般式(1)中のR1~R10が水素原子である下記式(1-1)で示されるカテキンガレート(CG)、または前記一般式(1)中のR2が水酸基であり、R1、R3~R10が水素原子である下記式(1-2)で示されるガロカテキンガレート(GCG)であるカテキン類が、植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤に用いられる。
【化5】
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【化6】
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【0020】
さらに、本発明では、前記前記一般式(1)で示されるカテキン類を植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤として、植物に施用することにより所望の植物を育成する方法を提供することができる。カリウムイオン輸送体の機能制御は、例えば、カリウムイオン輸送体の機能阻害を与えて制御する方法であってもよく、またカリウムイオン輸送体の機能活性化を行わせる、植物育成の制御方法であってもよい。
【0021】
さらに、本発明においては前記一般式(1)で示されるカテキン類を植物に施用することにより、植物に対し、乾燥耐性の付与、炭酸ガス取り込み阻害による植物体の矮小化、作物サイズの調節、収穫時期の変化、植物体のみずみずしさの増強、植物体や実の糖度の調節(変化)、根の成長促進性の変化、葉の肉厚の変化、及び低カリウム化からなる群から選択される少なくとも1種の機能を付与することができる。
【0022】
本発明の植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤は、前記一般式(1)、(1-1)または(1-2)の化合物の有効量を含む種々の剤形にて施用される。通常は、担体、液体担体、またはガス担体と混合し、さらに必要に応じて界面活性剤、増量剤、着色剤、結合剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤などを添加して、油剤、乳剤、可溶化剤、水和剤、懸濁剤、フロアブル剤、粉剤等に製剤化して施用される。適用する植物体の部位、施用の時期、施用の方法などは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
以下、本発明のカリウムイオン輸送体(K+チャネル・K+トンランスポーター・ポンプ)の機能制御剤について説明する。
[カリウムイオンチャネル遺伝子の卵母細胞への導入と輸送活性の電気生理学的測定]
カリウムイオンチャネル遺伝子を公知の方法でアフリカツメガエル卵母細胞へ導入してK+チャネルの発現を誘導し、K+チャネルの発現した卵母細胞の生体膜に発現したK+チャネルのK+電流の発生の有無とその電流量を、茶の成分として含まれるカテキン類を添加する場合と添加しない場合について電気生理学的に測定して各種カテキン類のK+輸送体に対する阻害度を評価した。
【0024】
すなわち、カリウムイオン輸送体(K+輸送体)である6種のK+チャネル(KAT1、KAT2、AKT1、AKT2、GORK、SKOR)をコードするDNAを鋳型に用いてRNA合成をした後、各RNAをアフリカツメガエル卵母細胞に公知の方法で導入した。各卵母細胞を16~20℃にて1~3日間インキュベーションしてK+チャネルの発現を誘導した。
【0025】
+チャネルの発現した卵母細胞について、以下の測定液1及び測定液2を用いて卵母細胞の生体膜に発現したK+チャネルのK+電流の発生の有無とその電流量を、下記の8種類のカテキンを添加する場合と添加しない場合について電気生理学的に測定し、各カテキンのK+輸送体に対する阻害度を評価した。なお、8種類のカテキンは公知の化合物であり、市販品を使用した。
【0026】
測定液1(KAT1,KAT2,AKT1及びAKT2用)
120mM KCl,1mM MgCl2,1mM CaCl2,10mM HEPES-NaOH pH 7.3。
測定液2(GORK及びSKOR用)
12mM KCl,108mM NaCl,1mM MgCl2,1mM CaCl2,10mM HEPES-NaOH,pH7.3。
【0027】
KAT1、KAT2、AKT1、またはAKT2の発現した卵母細胞が入った上記測定液1、及びGORKまたはSKORの発現した卵母細胞が入った上記の上記測定液2の各々に所定のカテキン類を添加して、卵母細胞の生体膜に発現したK+チャネルのK+電流の発生の有無とその電流量を膜電位固定装置(AxoClamp 2B two-electrode voltage clamp amplifier (Axon Instruments社))を用いて、電気生理学的に測定した。KAT1、KAT2、AKT1及びAKT2の測定は、膜電位を+10mVから-170mV間へ20mVずつステップで0.5秒間、電位を一定にした。GORKとSKORの測定は、膜電位を-90mVから+70mVへ20mVずつステップで2秒間、電位を一定にした。その際に生じる電流を測定した。本方法は公知である。カテキン類としては、図1に化学構造式を示す8種類のカテキン類:カテキン(Catechin)、エピカテキン(Epicatechin)、ガロカテキン(Gallocatechin)、エピガロカテキン(Epigallocatechin)、カテキンガレート(Catechin gallate)、エピカテキンガレート(Epicatechin gallate)、ガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)、及びエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)を用い、これを添加した場合と、添加しない場合について比較することにより、阻害度を評価した。
【0028】
KAT1チャネルのK+電流に対する前記8種のカテキン類(濃度500μM)添加の結果(KAT1チャネルのカテキン阻害度)を図2に示し、KAT2チャネルのK+電流に対する前記8種のカテキン類(濃度500μM)添加の結果(KAT2チャネルのカテキン阻害度)を図3に示す。図2及び図3において、縦軸(阻害度)は、コントロール(カテキン類を添加しない系)の当該生体膜に発現したKチャネルのK電流量を1として規格化し、カテキン類を添加した時のK電流量のその相対比率で示している。
8種類のカテキンの内、カテキンガレート(Catechin gallate)とガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)のみが阻害活性を有することが判明した。カテキンガレートとガロカテキンガレートを添加した場合は、KAT1チャネル及びKAT2チャネルを大きく阻害し、その結果、K+電流の大幅な低下が観測され、細胞外から細胞内へK+を吸収する機能を阻害することが判明した。
【0029】
KAT2チャネルのK+電流に及ぼすカテキンガレート(Catechin gallate)の添加効果を図4に示す。図4中、無添加系(A)(図中、なし)と添加系(B)(図中、+カテキンガレート と表示)において、K+チャネルのK+電流の時間変化を比較している。カテキンガレート(Catechin gallate)はKAT2チャネルに対して大きな阻害活性(K+の移動に伴う電流値の大幅な低下となる)を示した。
一方、図5は、KAT2チャネルのK+電流に対するエピカテキンガレート(Epicatechin gallate)の添加効果を示す。図5中、無添加系(A)(図中、なし”)と添加系(B)(図中、+エピカテキンガレート と表示)において、同じようにK+電流の時間変化を追跡している。エピカテキンガレートは阻害活性を示さなかった。
また、KAT2チャネルのK+電流に対するガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)の添加効果を図6に示す。図6中、無添加系(A)(図中、なし)と添加系(B)(図中、+ガロカテキンガレートと表示)の比較から、ガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)はKAT2チャネルに対して大きな阻害活性を示した。一方、図7の実験結果では、エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)は、全く阻害活性を示さない。
【0030】
前述の図2及び図3の通り、KAT1チャネル及びKAT2チャネルのK+電流に対して阻害活性を示したカテキンガレート(Catechin gallate)とガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)について、他の4種のK+チャネル(AKT1、AKT2、GORK及びSKOR)に対する阻害活性を調べた結果を図8(カテキンガレート添加系)及び図9(ガロカテキンガレート添加系)に示す。図8及び図9の左端下に記述の“なし”は、カリウムイオンチャネルを発現させていない卵母細胞を使用した場合の電流量を1として、カテキン類を添加した時のK+電流量を、相対電流率で表したものである。カテキンガレート(Catechin gallate)及びエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)はK+チャネルの種類により活性の度合いは異なるが、いずれのK+チャネルについても阻害活性を有することが判明した。
【0031】
本実施例において試験した、図1に記載の8種類のカテキン類:カテキン(Catechin)、エピカテキン(Epicatechin)、ガロカテキン(Gallocatechin)、エピガロカテキン(Epigallocatechin)、カテキンガレート(Catechin gallate)、エピカテキンガレート(Epicatechin gallate)、ガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate)、及びエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate)の中から前記K+チャネルについての阻害活性の高いカテキンガレートとガロカテキンガレートには、化学構造及び立体構造に類似性が見られ、本発明ではこれらのカテキン類が気孔の開閉を調節する孔辺細胞、特に孔辺細胞のカリウム(K)イオン輸送体(K+チャネル・K+トンランスポーター・ポンプ)に立体構造を伴った構造活性相関があることを見出し、前記一般式(1)で示されるカテキンガレート誘導体を含む植物のカリウムイオン輸送体の機能制御剤及びこの機能制御剤植物に施用する植物の育成方法の発明を完成した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の、前記一般式(1)示されるカテキン化合物を含む植物のカリウムイオン輸送体(K+チャネル・K+トンランスポーター・ポンプ)の機能制御剤により、K+イオンチャネルを制御することができ、特に細胞外から細胞内へKを吸収するカリウム(K)チャネル(KAT1、KAT2)を阻害することにより、気孔で良く機能し(孔辺細胞が膨潤する)することがわかり、このことによって、乾燥時における蒸散の抑制や、良好な環境における気孔からのCO2吸収の促進などが可能であり、イオン輸送体を標的と機能制御剤を、外部から噴霧や添加することにより、植物の成長と分化の制御や環境変化への適応を促すことが可能である。これにより分子育種や遺伝子操作に頼らず、植物に乾燥耐性の付与、炭酸ガス取り込み阻害による植物体の矮小化、作物サイズの調節、収穫時期の変化、植物体のみずみずしさの増強、植物体や実の糖度の調節(変化)、根の成長促進性の変化、葉の肉厚の変化、低カリウム植物体の機能を付与する植物の育成が可能となる。
【0033】
対象となる植物は特に限定されずあらゆる種類の植物である。モデル植物のシロイヌナズナ(Arabidopsis)のほか、農業、産業に利用されている作物、資材用植物、環境整備用植物(街路樹や防風林など)、樹木、光合成生物(ラン藻や藻類など)などが対象となる(農林水産省のホームページ掲載『水陸稲麦類 豆類 かんしょ 飼肥料作物 工芸農作物;http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/index.html』”を参照)。
代表例を下記に示す。食用作物及び工業用植物(バイオエタノール・バイオプラスチックの原料)となる植物:稲類(イネ 水稲 陸稲)、小麦や大麦などの麦類、サツマイモ、ジャガイモ、キャッサバ(タピオカ)などのイモ類、豆類、飼料作物(牧草、ソルゴーなど)、トウモロコシ、ハクサイ、レタス、アイスプラント、キャベツ、ホウレンソウ、レンコン、なす、きゅうり、テンサイ、ゴボウ、ニンジン、ゴマ、ミカン、かんきつ類、イチゴ、メロン、バナナ、パイナップルなどの果実類、工芸作物の桑など、マツ、ぶな、杉、ヒノキ、マングローブ、ゴムなどの樹木(木)類、乾燥地植物であるソテツ、リュウゼツランなどのサボテン類。
農業では、カリウム、リン、窒素は、植物の3大栄養素であり、カリウムの細胞輸送は細胞の活性の維持にかかわる。K+吸収系K+チャネル(KAT1、KAT2、AKT1)の阻害や、K+排出系K+チャネル(GORK、SKOR)の活性化は、細胞内のK+量を減少させる。これとは逆に、K+吸収系K+チャネル(KAT1、KAT2、AKT1)の活性化や、K+排出系K+チャネル(GORK、SKOR)の阻害は、細胞内のK+量を増大させる。本発明において、カテキンによる選択的機能制御により、細胞の活性を上昇させることも、減じることも可能である。このことにより、K+の吸収速度の調製が可能であり、植物の成長の促進や抑制、蒸散量の調節、気孔を介した二酸化炭素吸収の調節が可能である。
全ての植物がKAT1と同じ種類の(ホモログ:オルソログ;同族輸送体)K+輸送体があることがわかっている。また、6種類の(KAT1、KAT2、AKT1、AKT2、GORK、SKOR)で機能した前記カテキンガレート誘導体は、好ましくは、穀類(イネ 小麦 大麦など)、果樹、野菜(キャベツ トウモロコシ)等の植物育成において特段の効果を顕現できる。さらに、本発明に開示のカテキンガレート誘導体の使用は、植物産業における育成に係る生産制御に利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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