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明細書 :動物の行動を評価するための設備および評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-143112 (P2018-143112A)
公開日 平成30年9月20日(2018.9.20)
発明の名称または考案の名称 動物の行動を評価するための設備および評価方法
国際特許分類 A01K  67/00        (2006.01)
FI A01K 67/00 D
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2017-038614 (P2017-038614)
出願日 平成29年3月1日(2017.3.1)
発明者または考案者 【氏名】加藤 信介
【氏名】加藤 雅子
【氏名】竹内 崇
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
【識別番号】100178571、【弁理士】、【氏名又は名称】関本 澄人
審査請求 未請求
要約 【課題】非学習型で、かつストレスを加えない(非侵襲的)、実験動物の自発行動異常の評価方法および該方法の実施のための設備を提供する。
【解決手段】実験動物の行動を評価するための設備であって、実験動物を収容するためのコンパートメント10を備え、コンパートメント10内に、誘引物および行動制限用具が設置されている設備、および該設備を使用する、実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法であって、前記制御手段が取得する実験動物の映像を解析して得られる、該実験動物のActivity(活動性)および/またはTrajectory(重心軌跡)を指標とする評価方法である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
実験動物の行動を評価するための設備であって、実験動物を収容するためのコンパートメントを備え、該コンパートメント内に、誘引物および行動制限用具が設置されている設備。
【請求項2】
前記コンパートメントの仕切りと前記行動制限用具の外表面までの距離であって、最短の距離が、前記実験動物の胴体の横幅の長さの約1.0倍~約1.5倍となるように、該行動制限用具が設置されている請求項1に記載の設備。
【請求項3】
前記行動制限用具の外表面から前記誘引物の外表面までの距離であって、最短の距離が、前記実験動物の胴体の横幅の長さの約1.5倍~約2.0倍となるように、該誘引物を設置されている請求項1または2に記載の設備。
【請求項4】
前記コンパートメント内の実験動物を検出するための検出手段であって、該コンパートメント内を撮影するビデオ手段と、該ビデオ手段を操作し、該ビデオ手段が撮影した映像を映像信号として取得する制御手段を含む検出手段をさらに備える請求項1ないし3のいずれかに記載の設備。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の設備を使用して実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法であって、前記制御手段が取得する実験動物の映像を解析して得られる、該実験動物のActivity(活動性)および/またはTrajectory(重心軌跡)を指標とする評価方法。
【請求項6】
請求項5に記載の実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法を使用して、該実験動物の認知機能障害の有無を評価する方法。
【請求項7】
以下の(a)~(c)の工程を含む請求項6に記載の評価方法。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityよりも有意に高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるActivityよりも有意に低い場合に該実験動物に認知機能に障害があると評価する工程
【請求項8】
以下の(a)~(c)の工程を含む請求項6に記載の評価方法。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも低い場合に該実験動物に認知機能に障害があると評価する工程
【請求項9】
前記認知機能障害を示す疾患が、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害のいずれかであることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の評価方法。
【請求項10】
前記実験動物が、齧歯類または小型霊長類であることを特徴とする請求項5ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項5ないし10のいずれかに記載の方法を用いて、自発行動異常を伴う疾患の治療に有効な化合物をスクリーニングする方法。
【請求項12】
前記自発行動異常を示す疾患が、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害のいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物、特に実験動物の行動を評価するための設備および該行動の評価方法に関する。より具体的には、実験動物に対する薬剤候補物質の効果を動物の自発行動の変化に基づいて評価するための設備および薬剤候補物質の効果等を自発行動の変化に基づいて評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー(Alzheimer)病は、主に記憶を司る海馬神経細胞が変性・消失することによって生じる、記銘力低下を主症状とする神経変性疾患の象徴である。神経病理学的には、アルツハイマー病の神経変性領域は海馬にとどまらず、内嗅皮質(海馬傍回)、海馬支脚、マイネルト核(Nucleus basalis of Meynert)、扁桃核に及ぶ。このため、記憶の回路であるパペッツ(Papez)記憶回路(海馬→脳弓→乳頭体→乳頭体視床路:ビック・ダジール[Vicq d'Azyr]束→視床前核→帯状回→帯状束→海馬の閉鎖回路)とヤコブレフ(Yakovlev)情動回路(扁桃体→視床背内側核(nucleus medialis dorsalis[MD])→前頭前皮質(前頭前野眼窩後方1/4皮質領域)→扁桃周囲皮質→扁桃体の閉鎖回路)も障害され、記銘力に加え、情動障害や思考力低下をきたす疾患であり、認知機能全般が低下する(非特許文献1)。このため、アルツハイマー病は認知症と呼ばれている。
【0003】
アルツハイマー病患者は近年日本において急速に増加しており、本疾患により惹起される徘徊、失踪、交通事故などが社会問題化しつつある。日本における認知症患者は約200万人いるとされ、その60%がアルツハイマー病と診断されている。当該患者においては、アルツハイマー病に対する治療に加え、日常環境には患者を介護するための介護支援が必要となる。そのため、患者本人のみならず、患者家族および介護者において、肉体的、精神的、経済的に多大な負担を強いられるのが現状である。2045年には、65歳以上の2人に1人がアルツハイマー病になるとの試算も出ている。すなわち、アルツハイマー病は日本を含む先進国において、経済学的費用対効果比の観点からみた場合、最も金銭的コストがかかるとされる疾患であり、国民病とさえ言われている。にもかかわらず、アルツハイマー病に対する治療薬に関しては、現在でもなお、有効なものが確立されていない。
【0004】
アルツハイマー病の診断に関しては、いわゆる非侵襲的な診断方法が確立されている。ここで、「非侵襲的な」という意味は、当該患者をアルツハイマー病であると確定診断する際に、脳腫瘍患者の確定診断をする際の脳からの生検組織学的診断は実施しないということと、患者に対して一定の知的課題を与えてそれを学習させ、それがうまく学べてなければ熱刺激や電気刺激を与えるという身体的侵襲刺激評価方法を実施しないということである。具体的に挙げれば、アルツハイマー病患者が検査時点で持っている高次機能を正確に評価するウェクスラー知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS)と、より簡便に行える長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa dementia rating scale-revised:HDR-R)の2つの高次機能評価方法が確立している。ウェクスラー知能検査では、主に言語性知能(Intelligence quotient:IQ)と動作性知能の二つの要素による評価をもって判定する。長谷川式簡易知能評価スケールでは、主に言語性知能をもって評価する。これら臨床的評価システムによってアルツハイマー病と診断した場合、これを一般的に臨床的アルツハイマー病という。
アルツハイマー病の正確な最終診断は、病理組織学的評価をもって行われる。すなわち、病理組織学的評価しなくてはアルツハイマー病の最終診断は存在しないということである。換言すれば、アルツハイマー病の確定診断は臨床的アルツハイマー病患者の死亡後の剖検脳の病理組織学的診断をもってなされるわけである。
【0005】
一方、自然界のマウスにおいては、ヒトアルツハイマー病に相当した自然発症の高度認知障害マウスは存在しない。従って、マウスの認知機能評価は、基本的にマウスが学習できるという前提の上に成り立っている。そのため、従来のマウスの認知機能評価方法は、ヒトアルツハイマー病のような高度認知機能障害のあるマウスを想定しておらず、非侵襲的に実施できる方法ではない。現在マウスなどのモデル動物を使用して行う認知機能評価方法、具体的には、モリス水迷路(非特許文献2)、ホットプレートテスト(非特許文献2)および電気刺激による回避試験(非特許文献2)などの評価方法は、マウスの学習到達度をマウス個体へ侵襲的なストレスを加えることによって評価する方法である。通常、このような評価方法は、評価の正確を期するために多くの試行回数が要求される。そのため、マウスの認知機能評価においては、マウス個体に対するストレスのために、マウスが死亡するリスクが高くなる。
【0006】
現段階では、ヒトアルツハイマー病のモデルマウスとしては、ヒトアミロイドプレカーサー蛋白質遺伝子およびヒトタウ蛋白質遺伝子、各々のヒト変異遺伝子をマウスに導入したダブルトランスジェニックマウスが、病理組織学的にヒトアルツハイマー患者に最も近い。このダブルトランスジェニックマウスの費用は、例えば、オリジナルラインでは10匹約185万円と非常に高価である。このような高価なアルツハイマー病モデルマウスを使用した実験では、結果の正確な最終診断をするために、一定期間ごとに当該モデルを殺し、脳の病理組織学的評価を行うのが通常である。従って、当該アルツハイマー病モデルマウスを使用した実験は、極めて高価な実験系といえる。
病理組織学的にヒトアルツハイマー病に最も近い当該モデルマウスは空間認知学習能力をすでに喪失していると想定されているところ、従来の学習型マウス認知機能評価方法は、マウスが学習できることを前提としている点と、死亡事故につながる多大なストレスを加えるという2点でふさわしくない。また、一定期間ごとに確定診断を得る病理組織学的評価方法も、実験のコストの面からふさわしいとは言えない。しかしながら、ヒトアルツハイマー病の新規治療薬の開発は、喫緊な課題である。
従って、モデルマウスを使用した認知機能評価を簡易、迅速、かつ、低コストで行うためには、実験動物に対して非侵襲的で、非学習型の評価方法を確立することが必要である。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Katoら, Acta Neuropathol 77:258-266, 1989.
【非特許文献2】Crawley JN. What’s wrong with my mouse? : Behavioral phenotyping of transgenic and knockout mice. 2nd ed. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、実験動物の自発行動の評価方法であって、実験動物の日常の自発行動にのみに立脚した、非学習型で、かつストレスを加えない(非侵襲的)方法を提供する。
また、本発明は、上記評価方法に使用する設備を提供する。
さらに、本発明は、実験動物の自発行動に影響を与える化合物のスクリーニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、実験動物の飼育ケージに、ケージ壁との間に、実験動物が通れる程度の空間(実験動物の胴体の幅程度)を空けて、用具(マウスの行動を制限する用具、以下「行動制限用具」)、および、該行動制限用具から該実験動物の胴体幅の1.5倍程度離れた位置に餌および水(以下、「誘引物」)を設置した設備を開発した。
発明者らは、行動(自発行動)を観察する動物として、マウス(アルツハイマー病モデルマウスおよび正常同腹仔マウス)を使用し、マウスの自発的日常行動のみを10分間記録し、その行動解析を行った。行動解析を行うにあたり、行動評価の要素として、Activity(活動性)とTrajectory(重心軌跡)を使用した。
発明者らが開発した上記設備では、誘引物に容易にアクセス可能な領域(餌および水が設置されている場所およびその近傍;「誘引物ゾーン」)と、行動制限用具と飼育ケージとの間の空間(「安心(comfortable)ゾーン」)が形成される。
【0010】
行動制限用具を設置しないケージでマウスの行動解析を行うと、アルツハイマー病モデルマウス群と同腹仔群との間にはActivityおよびTrajectoryに差はなかった。これに対して、制限用具を設置したケージでは、アルツハイマー病マモデルウス群のActivityは、誘引物ゾーン:48.37±5.24、安心ゾーン:17.09±5. 45の活動比率で、正常同腹仔マウス群は誘引物ゾーン:8.95±8.60、安心ゾーン:56.53±17. 35であった。
すなわち、アルツハイマー病モデルマウスは、有意に誘引物ゾーンでActivityが高く、摂食行動異常と警戒心低下を認めた。安心感を覚えると想定される安心ゾーンでのActivityが正常同腹仔マウスに比べアルツハイマー病モデルマウスでは有意に低く、危険回避能力低下と本来身を置くべき空間での活動性が低いという空間認知障害を認めた。
以上のように、発明者らが開発した設備を用いることで、非学習型非ストレス型の実験動物行動評価が可能となることが明らかとなった。
【0011】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
したがって、本発明は以下の(1)~(12)である。
(1)実験動物の行動を評価するための設備であって、実験動物を収容するためのコンパートメントを備え、該コンパートメント内に、誘引物および行動制限用具が設置されている設備。
(2)前記コンパートメントの仕切りと前記行動制限用具の外表面までの距離であって、最短の距離が、前記実験動物の胴体の横幅の長さの約1.0倍~約1.5倍となるように、該行動制限用具が設置されている上記(1)に記載の設備。
(3)前記行動制限用具の外表面から前記誘引物の外表面までの距離であって、最短の距離が、前記実験動物の胴体の横幅の長さの約1.5倍~約2.0倍となるように、該誘引物を設置されている上記(1)または(2)に記載の設備。
(4)前記コンパートメント内の実験動物を検出するための検出手段であって、該コンパートメント内を撮影するビデオ手段と、該ビデオ手段を操作し、該ビデオ手段が撮影した映像を映像信号として取得する制御手段を含む検出手段をさらに備える上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の設備。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の設備を使用して実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法であって、前記制御手段が取得する実験動物の映像を解析して得られる、該実験動物のActivity(活動性)および/またはTrajectory(重心軌跡)を指標とする評価方法。
(6)上記(5)に記載の実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法を使用して、該実験動物の認知機能障害の有無を評価する方法。
(7)以下の(a)~(c)の工程を含む上記(6)に記載の評価方法。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityよりも有意に高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるActivityよりも有意に低い場合に該実験動物に認知機能に障害があると評価する工程
(8)以下の(a)~(c)の工程を含む上記(6)に記載の評価方法。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも低い場合に該実験動物に認知機能に障害があると評価する工程
(9)前記認知機能障害を示す疾患が、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害のいずれかであることを特徴とする上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の評価方法。
(10)前記実験動物が、齧歯類または小型霊長類であることを特徴とする上記(5)ないし(9)のいずれかに記載の方法。
(11)上記(5)ないし(10)のいずれかに記載の方法を用いて、自発行動異常を伴う疾患の治療に有効な化合物をスクリーニングする方法。
(12)前記自発行動異常を示す疾患が、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害のいずれかであることを特徴とする上記(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の設備および評価方法によれば、実験動物の自発行動を、非侵襲的、非学習的な方法により、簡易、迅速、低コストで行うことが可能である。
【0013】
本発明の設備および評価方法は、実験動物の自発的な日常行動に影響を与える疾患に対する治療剤などのスクリーニングにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる設備の概略図。符号10;コンパートメント、符号11;誘引物設置位置、符号12:行動制限用具設置位置、符号20:検出手段、符号21;ビデオ手段、符号22;制御手段、符号23;信号ライン
【図2】実施例において使用した本発明にかかる設備。実験動物の行動を上から撮影するためのビデオカメラと、該ビデオカメラを操作し、映像を取得するための汎用コンピューターが接続されている。撮影は明視野の状況下で行った。
【図3】実施例において使用した設備のコンパートメント内における餌および水(誘引物)箱およびマウス用玩具(行動制限用具)の配置図。Aは、マウス用玩具(行動制限用具)を設置せず、餌および水箱のみを設置した通常飼育ケージ(コンパートメント)内の配置図(Open field条件;通常飼育ケージ内に餌および水(誘引物)のみを設置した条件)である。Bは、マウス用玩具(行動制限用具)をOpen fieldに設置した通常飼育ケージ内の配置図(With Toy条件;Open field条件に、マウス用玩具(行動制限用具)設置した条件)である。
【図4】Activityの定量的数値化のため、With Toy条件下で生じた空間的な差異に即してケージ底面を5つに区分けした説明図。本解析に使用したSmart 3.0により、任意に解析フィールドを区分し、その区分ごとの値を比較することで統計的処理を行った。
【図5】Open field条件における正常同腹仔マウスの行動解析映像から抜粋した画像。餌および水から対角線上の離れた位置にいたマウス(A)が、餌および水のほうに移動し(B)、さらに、餌および水の方に移動していった(C)。移動後は、餌や水に興味を示す行動を行った(D)。また、餌および水付近にとどまらず、(A)の位置に戻るなど、不規則な行動パターンを示した。
【図6】Open field条件の正常同腹仔マウスの行動解析結果。Activity 3Dグラフ(A)とTrajectoryの画像(B)。Aは、通常飼育ケージ内の位置に対応させて、Activityの量を示した3Dグラフである(以下、図6A、8A、10Aおよび12Aにおいて同じ)。餌および水の周囲と、その位置から離れた逆方向の通常飼育ケージ角付近の2ヶ所においてActivity活動性が高い。Bは、通常飼育ケージ内を移動するマウスのTrajectoryの軌跡の描線を上から見た図である(以下、図6B、8B、10Bおよび12Bにおいて同じ)、Trajectoryは、Activityと対応するように、餌および水の近傍と、それとは離れた通常飼育ケージ内の右上角付近あたりに集積していた。
【図7】Open field条件のアルツハイマー病モデルマウスの行動解析映像から抜粋した画像。正常同腹仔マウスの場合(図5A)同様の位置から実験を開始した(A)。アルツハイマー病モデルマウスは餌および水のほうへ移動し(B)、餌および水箱に接近した(C)。正常同腹仔マウスと同様に、移動後は、餌や水に興味を示す行動を行った(D)。正常同腹仔マウスと同様に(A)の位置に戻るなど、不規則な行動パターンを示した。
【図8】Open field条件のアルツハイマー病モデルマウスの行動解析結果。Activity 3Dグラフ(A)とTrajectoryの画像(B)。正常同腹仔マウスと同様に、餌および水の周囲と、その位置から離れた逆方向の通常飼育ケージ角付近の2ヶ所においてActivity活動性が高い(A)。また、Trajectoryは、正常同腹仔マウスと同様に、餌および水の近傍と、それとは離れた通常飼育ケージ内の右上角付近あたりに集積していた(B)。
【図9】With Toy条件の正常同腹仔マウスの行動解析映像から抜粋した画像。餌および水の設置位置とマウス用玩具の設置位置との間の位置から実験を開始した。餌および水の確認を行ったが(A)、その方向には移動せず、マウス用玩具と通常飼育ケージ壁に囲まれたZone 4(安心ゾーン)に移動した(B)。その後、Zone 4(安心ゾーン)に長く留まり、その場所で活発に活動していた(CおよびD)。
【図10】With Toy条件の正常同腹仔マウスの行動解析結果。Activity 3Dグラフ(A)とTrajectory(B)の画像。Zone 4(安心ゾーン)におけるActivityが非常に高く、餌および水の近傍に近づくにつれて低くなった(A)。また、Trajectoryは、Activityが高かった位置に非常に多く集積していた(B)。
【図11】With Toy条件のアルツハイマー病モデルマウスの行動解析映像から抜粋した画像。正常同腹仔マウスと同様の位置から実験を開始した。アルツハイマー病モデルマウスは、餌および水を確認し(A)、その方向に移動し(B)、摂食および臭いを嗅ぐなど、強い関心を示す行動を行った。その後も餌および水の設置位置近傍に高頻度に出現している様子が確認された(CおよびD)。
【図12】With Toy条件のアルツハイマー病モデルマウスの行動解析結果。Activity 3D グラフ(A) とTrajectory(B)の画像。Activityは餌および水の近傍で非常に高く、正常同腹仔マウスでは高かったZone 4(安心ゾーン)では低かった(A)。Trajectoryは、マウス用玩具の周囲に沿って円を描くように集積しており、通常飼育ケージ壁近傍(安心ゾーン)における集積は認められなかった(B)。
【図13】With Toy条件におけるActivityの各Zoneにおける割合(Activity %)を示すグラフ。5つに区分した各ゾーンにおける、アルツハイマー病モデルマウス(黒グラフ:3匹)と正常同腹仔マウス(白グラフ:4匹)のActivityの割合(Activity %)をグラフ化した。マン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定を行ったところZone2とZone4で*p<0.05の有意差を認めた。【図15】老人斑の形成および神経原線維変化を抑制しうる化合物Kの影響。化合物Kをアルツハイマー病モデルマウスに投与した場合、該マウスのActivity(上段)およびTrajectory(下段)にどのような変化が生じるかを検討した。化合物Kを投与されたアルツハイマー病モデルマウスのActivity(上段)の画像パターンは、プラセボ投与のアルツハイマー病モデルマウスとプラセボ投与の正常同腹仔マウスの各画像パターンの中間型を示した。
【図16】化合物Kを投与したアルツハイマー病モデルマウスの脳の病理組織学的解析結果を示す。プラセボ投与のアルツハイマー病マウスおよび正常同腹仔マウス、化合物K投与のアルツハイマー病モデルマウスの脳における、老人班の形成および神経原繊維変化を比較検討した。プラセボ投与のアルツハイマー病マウスでは多数の老人班と神経原線維変化を認める。プラセボ投与の正常同腹仔マウスでは両構造物は認めない。化合物K投与のアルツハイマー病モデルマウスでは、プラセボ投与のアルツハイマー病モデルマウスに比べて、老人斑と神経原線維変化の形成が顕著に抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態は、実験動物の行動を評価するための設備であって、実験動物を収容するためのコンパートメントを備え、該コンパートメント内に、誘引物および行動制限用具が設置されている設備である。
第1の実施形態にかかる設備は、実験動物を収容することができるコンパートメント(図1の符号10)を備えている。ここで、「コンパートメント」とは、実験動物を収容する(中に入れる)ことができ、その実験動物がコンパートメント内から逃げ出さないように、周囲が仕切り等で囲われた空間のことである。コンパートメントの典型的な例として、例えば、動物飼育用のケージや檻を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。コンパートメントの仕切りの材質は、収容されている実験動物によって容易に破壊されない材質のものであれば、いかなるものであってもよく、例えば、金属、プラスチック、ガラス、木などであってもよい。また、仕切りは、網状、板状いかなる形状であってもよい。コンパートメント(仕切られている空間であって、該設備の上方から見た空間の形)の形も、限定されるものではなく、例えば、飼育動物のケージに一般的な四角形であってもよく、または、円形、楕円形、三角形、菱形などいかなる形であってもよい。
コンパートメントの広さ(仕切りで囲われた底面積)は、実験動物が自由に行動可能な広さであり、行動中に誘引物および行動制限用具を知覚し得る程度の広さであれば特に限定されない。実験動物として、例えば、マウスを使用する場合であって、コンパートメントの形が四角形(正方形、長方形など)である場合、各辺の長さが、例えば、約20cm~約100cm程度、好ましくは、約40cm~約70cm程度である。また、コンパートメントの高さは、実験動物が逃げ出せない高さがあればよく、例えば、マウスを使用する場合、例えば、約20cm~約60cm程度、好ましくは、約25cm~約50cm程度であればよい。

【0016】
第1の実施形態のコンパートメント内に設置される「誘引物」(図1の符号11)とは、実験動物が本能的に好む物、または実験動物の本能に影響を与えて該動物を引き寄せる物のことで、例えば、餌、水の他、依存性薬物、使用する実験動物を引き寄せるフェロモンなどであってもよい。誘引物は、誘引物のみをコンパートメント内に設置してもよいが、必要に応じて、適当な容器に入れてコンパートメント内に設置してもよい。
また、第1の実施形態のコンパートメント内に設置される「行動制限用具」(図1の符号12)とは、実験動物が行動する上で障害となるような物のことである。例えば、実験動物が容易に乗り越えられるような物ではなく、実験動物の進行方向を変更させるなど、その行動を制限するような物が好ましい。行動制限用具は、立体的な物が好ましく、形状は特に限定されるものではなく、球状、方形状または平板状(衝立状)などいかなる形状であってもよい。
行動制限用具の大きさ(体積)は、用いる実験動物の体の体積よりも大きい方が望ましく、例えば、用いる実験動物の体の体積の約1倍~約2,500倍、より好ましくは約10倍~約1,000倍である。実験動物として、例えば、マウスを使用する場合、制限用具の大きさは、マウス体積の10倍~1,000倍程度が好ましい。

【0017】
コンパートメント内における行動制限用具の設置位置は、コンパートメント仕切りと行動制限用具との間に実験動物が身を置くことができる程度の間隔を空けて設置するのが望ましい。例えば、コンパートメントの仕切りと行動制限用具の外表面までの距離であって、最短の距離が、用いる実験動物の胴体の横幅の長さの約1.0倍~約1.5倍とするのが好ましい。
実験動物としてマウスを用いる場合は、コンパートメントの仕切りと行動制限用具の外表面までの距離であって、最短の距離を、例えば、2 cm程度とするのが好ましい。
なお、本明細書においては、コンパートメントの仕切りと行動制限用具との間にできる空間領域を「安心ゾーン」と称する。

【0018】
コンパートメント内における誘引物の設置位置は、上記「安心ゾーン」から実験動物が移動をしなければ誘引物に到達できない位置であって、実験動物が「安心ゾーン」から誘引物を知覚できる位置が好ましい。例えば、行動制限用具の外表面から誘引物の外表面までの距離であって、最短の距離が、用いる実験動物の胴体の横幅の長さの約1.5倍~約3.0倍程度が好ましく、約1.5倍~約2.0倍程度がより好ましい。ここで誘引物の外表面とは、コンパートメント内に誘引物のみを設置する場合は、該誘引物の外表面であり、誘引物を容器等に入れて設置する場合は、該容器を含めた外表面のことである。
実験動物としてマウスを用いる場合は、行動制限用具の外表面から誘引物の外表面までの距離であって、最短の距離を、例えば、4~80cm程度とするのが好ましい。
なお、本明細書においては、実験動物が移動することなく誘引物に接触できる範囲を「誘引物ゾーン」と称する。

【0019】
第1の実施形態にかかる設備には、コンパートメント内の実験動物の行動を検出するための検出手段20をさらに備えてもよい(図1)。検出手段10は、実験動物を撮影するためのビデオカメラなどのビデオ手段21と、該ビデオ手段を操作し、該ビデオ手段が撮影した映像を映像信号として取得するコンピューターなどの制御手段23、およびビデオ手段と制御手段間で信号を送受信するための信号ライン22から構成される。ここで、制御手段としてのコンピューターは、実験動物の映像信号を受信し、該コンピューターのディスプレイに実験動物を撮影した連続映像を表示するのみならず、該連続映像を解析するためのソフトウェアが組み込まれていてもよい。

【0020】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態にかかる設備を使用する、実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法であって、第1の実施形態に備えられた制御手段が取得する実験動物の映像を解析して得られる、該実験動物のActivity(活動性)および/またはTrajectory(重心軌跡)を指標とする評価方法である。
自発行動とは、移動、よじ登り、尻尾追い、立ち上がり、身づくろい、摂食行動など、本能に基づく生命維持に関与する行動の総称のことである。
ここで、ActivityおよびTrajectoryは実験動物の映像を解析することで取得することができる。実験動物を撮影する時間は、用いる実験動物によって異なり、一連の自発行動を撮影するのに必要な時間であればよい。例えば、数分~数時間(または数日)であってもよく、特にマウスなどの小型の齧歯類を使用する場合は、好ましくは、1時間以内、より好ましくは、10数分程度である。
Activityは、上記自発行動量の総和のことであり、例えば、コンパートメントに対する、実験動物の特定の体表点(例えば、実験動物の重心位置、頭部、尾部などの体表面)の変動量(例えば、特定の体表点の移動速度や移動距離など)として定量することができる。Activityの定量は、実験動物をトラッキングした情報に基づく解析ソフト(例えば、Smart 3.0、Panlab S.L.U.、バルセロナ、スペイン;PhenoScanシリーズ、プライムテック株式会社、東京、日本;EthoVision XT、Noldus Information Technology、ヴァーヘニンゲン、オランダ、;CompACT シリーズ、室町機械株式会社、東京、日本;ANY-maze、Stoelting Co.、ウッド・デール、イリノイ、米国;ABDigitizer、株式会社知能情報システム、京都、日本など)などを使用することで容易に実施することができる。

【0021】
Trajectoryは、自発行動を行う実験動物をトラッキングし、その軌跡を線として描いたものである。実験動物の自発行動が多く観察される領域においては、Trajectoryを描いた線が集積する(軌跡の線の数が多くなる)。ある領域におけるTrajectoryの集積度は、例えば、該領域における実験動物の重心軌跡の描線の数をカウントすることで判定することができる。例えば、図10Bは、実験動物をトラッキングし、解析ソフトを使用してコンパートメント内における重心軌跡を線として表したものである。安心ゾーンにおける軌跡線の数が、他のゾーンにおける軌跡線の数よりも多くなっていることから、安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が他のゾーンよりも高いと判定することができる。Trajectoryは、実験動物をトラッキングした情報に基づく解析ソフト(例えば、Smart 3.0、Panlab S.L.U.、バルセロナ、スペイン;PhenoScanシリーズ、プライムテック株式会社、東京、日本;EthoVision XT、Noldus Information Technology、ヴァーヘニンゲン、オランダ;CompACT シリーズ、室町機械株式会社、東京、日本;ANY-maze、Stoelting Co.、ウッド・デール、イリノイ、米国;ABDigitizer、株式会社知能情報システム、京都、日本;Imagepower TrackingEye、株式会社富士通九州システムサービス、福岡、日本など)などを使用することで容易に描線することができる。コンパートメント内の任意の場所における軌跡線の数をカウントする、あるいは、目視により軌跡線の集積の度合いを見積もることで、該任意の場所におけるTrajectoryの集積度を判定することができる。

【0022】
本発明の第2の実施形態にかかる評価方法は、評価対象の実験動物のActivityおよび/またはTrajectoryと、コントロールの実験動物(自発行動が正常である実験動物)のActivityおよび/またはTrajectoryを比較して、コントールの実験動物とは異なる結果が得られた場合に、評価対象の実験動物に何らかの自発行動異常があると評価(または判定)する方法である。Activityを比較する場合、Activityは上述のように定量することで容易に比較することができる。また、Trajectoryについては、各実験動物(コントロールおよび評価対象動物)の移動した軌跡(動物の重心の軌跡)のコンパートメント内の特定の領域における集積度を評価し、比較することができる。

【0023】
上記自発行動の異常は、認知機能障害(例えば、認知症の他、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害など)を発症している場合にも認められる。
そこで、本発明の第3の実施形態は、第2の実施形態にかかる実験動物の自発行動の異常の有無を評価する方法を使用して、該実験動物の認知機能障害の有無を評価する方法である。第2の実施形態にかかる実験動物の自発行動異常の評価方法を使用して、評価対象の動物に認知障害に特徴的な自発行動異常が認められた場合、評価対象の実験動物には認知機能障害の疑いがあると評価(または判定)することができる。
自発行動異常の評価指標としてActivityを用いる場合、以下の(a)~(c)の工程を行うことで、実験動物の認知機能障害の有無を評価(判定)することができる。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるActivityを測定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるActivityよりも有意に高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるActivityが工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるActivityよりも有意に低い場合に該実験動物に認知障害があると評価する工程

【0024】
自発行動異常の評価指標としてTrajectoryを用いる場合、以下の(a)~(c)の工程を行うことで、実験動物の認知機能障害の有無を評価(判定)することができる。
(a)コントロールの実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、
(b)評価対象の実験動物の誘引物ゾーンおよび/または安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度を判定する工程、および
(c)工程(b)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる誘引物ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも高い、および/または、工程(b)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度が工程(a)で得られる安心ゾーンにおけるTrajectoryの集積度よりも低い場合に該実験動物に認知機能に障害があると評価する工程
実験動物の認知機能障害の有無の評価においては、ActivityおよびTrajectoryの両方を指標にして評価してもよい。

【0025】
第3の実施形態にかかる評価方法は、例えば、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、躁うつ病、統合失調症、発達障害および病気の後遺症に基づく知的障害などによって惹起される実験動物の自発行動異常の評価に使用することができる。例えば、実施例において示すように、アルツハイマー型認知症などの疾患モデル動物が存在する場合、疾患モデル動物と正常な動物の自発行動を比較することで、該疾患に特徴的な異常行動(例えば、アルツハイマー型認知症の場合には、誘引物ゾーンにおいてActivityが高く、また、 Trajectoryの集積度が高い)を評価することができる。

【0026】
第2および第3の実施形態にかかる評価方法は、自発行動の異常の有無、さらに、認知機能障害の有無を評価するものである。従って、自発行動の異常を示す疾患、例えば、認知機能障害を伴う疾患の治療および/または予防に有効な化合物のスクリーニングに使用することができる。
第2および第3の実施形態にかかる評価方法によって評価された自発行動異常を示す疾患モデル動物に、該疾患治療(または予防)のための候補化合物を投与し、自発行動異常が改善されて、正常な実験動物と同様な自発行動を示すようになる場合、あるいは、疾患モデル動物の自発行動と正常な実験動物の自発行動の中間的な行動を示すようになる場合には、該候補化合物は、該疾患の治療に有効であると判断することができる。
特に、アルツハイマー型認知症モデルマウス(例えば、Tg(APPSWE)2576Kha Tg(Prnp-MAPT*P301L)JNPL3HImcマウスなど)のように、疾患に特徴的な病理学的特徴を有するモデル動物を使用すると、本発明の実施形態によって評価される自発行動の異常と病理学的特徴との対応付け(関連づけ)を行うことができ(実施例を参照のこと)、本発明の評価方法のみにより(病理学的診断を行うことなく)、簡易迅速な候補化合物の1次スクリーニングが可能である。

【0027】
本発明の実施形態で使用する実験動物は、特に限定はされないが、例えば、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ツパイなど)などの小型動物の他、小型霊長類(コモンマーモセットなど)などが好ましい。

【0028】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0029】
材料と方法
1.解析システム(本発明にかかる設備)に使用するマウス飼育ケージ(コンパートメント)
通常マウス用飼育ケージ(品番:KE-3101、セオービット株式会社、東京都、日本)に、マウス用の餌(商品名:CE-2、日本クレア株式会社、東京、日本)2個(1個:3.5g)とマウス用飲料水(ヒト飲料水である上水道の水を、濾過精度 0.5μmのフィルター(メーカー:アイオン、商品名:KANEFIEL、型番:FD-005)を使用して濾過した水を使用)約5mlを注いだガラス容器(商品名:BT-500の蓋、松浪硝子工業株式会社、和田、大阪、日本)を置いた113mm×81mm×15mm(高さ)の紙でできた箱(餌・水箱)(誘引物)を置き、さらにマウス用玩具(商品名:K3570・Mouse Igloo(Blue)、Bio Serv社、フレミントン、ニュージャージー、米国)(行動制限用具)を配置した。このケージには厚さ1cm程の床敷(商品名:ピュアチップ、清水実験材料株式会社、京都、日本)が敷き詰められており、餌および水箱とマウス用玩具はこの上に設置した。
【実施例】
【0030】
2.解析システムに使用する撮影用Box装置
解析用マウス飼育ケージに加えて、撮影用Box装置(外寸=縦:240mm、横:351mm、高さ:700mm、厚さ:10mmのポリカーボネート製)を設置した。撮影用Box装置の天板にカメラ(商品名:Kinect for Windows センサー L6M-00005、製造会社:Microsoft Corporation、レイモンド、ワシントン、米国)を取り付けるための穴を2か所あけ、カメラをはめ込んだ。撮影用Box装置を安定化するために、撮影用Box装置の4側面の下方にアルミ製の錘(1つ当たりの重さ:500g)をそれぞれ取り付けた。この撮影用Box装置は、通常マウス用飼育ケージである解析用マウス飼育ケージに被せて使用した。
【実施例】
【0031】
3.解析システムに使用する周辺装置
使用する汎用のパソコン([型式:ASPIRE V3-571-H54D/K、製造会社:Acer Incorporated、新北、中華民国]、[OS:Windows 7 Home Premium、製造会社:Microsoft Corporation、レイモンド、ワシントン、米国])に、カメラデータの取り込み用ソフト(商品名:Microsoft Visual Studio、製造会社:Microsoft Corporation、レイモンド、ワシントン、米国)を修正して、撮影環境を整えた。当該システムでは、パーソナルコンピューター(パソコン)からの操作で自動的にカメラが起動し、10分間撮影できる。撮影動画は解析ソフト(商品名:Smart 3.0、Panlab S.L.U.、バルセロナ、スペイン)を使用して、解析した。本実施例における動画撮影記録は、マウスを置いてから10分間であり、撮影のトータル容量は1記録あたり約20MBとなるように設定した。このデータはすべてパソコンに自動的に記録できるように設定した(図2)。解析システムに使用する周辺装置は、図2に示した様に設置した。
解析用マウス飼育ケージの設置は、上から見て左上に通常マウス飼育ケージの短辺と餌および水箱の長辺が重なるように置き、マウス用玩具は飼育ケージの右端から2.5cm~3.5cmの間になるように設置した。また、水用ガラス容器は箱の内に設置したが、飼育ケージの長辺に出来るだけ近づけて設置するのが望ましい。餌は水用ガラス容器を置いた位置とは反対側の餌・水箱の短辺近くに置いた(図3および4)。
【実施例】
【0032】
4.マウス用玩具を設置した通常飼育ケージ(With Toy)におけるZone(区画)の設定
With Toy条件における通常飼育ケージでは図4の様に5つのZone(区画)を設定した。Zone2:マウスが餌を食べることができるZone(餌ゾーン;誘引物ゾーン)、Zone3:玩具を置いているZone、Zone4:自然界では巣穴に相当すると思われるZone(Comfortable Zone:マウスにとって心地よく安心感を与えると想定されるZone;安心ゾーン)で、正常マウスであればもっとも落ち着くであろうと考えられるZone、Zone5:餌を食べられるほどには近くはないが、餌および水に対して興味を示していると思われるZone、Zone1:以上のZone2~Zone5を全底面(Total)から差し引いたZone、とそれぞれ設定した。本実施例においては、マウス体毛の色とマウス用玩具の色との色彩の違いに合わせて設定(=Detection Settings)を最適化した。Smart 3.0の詳細設定値は以下の如くとした。マウス用玩具が赤色で体毛がグレーもしくはブラックの場合:Brightness & Contrast-Brightness:255, Contrast:176、Use special lighting conditions for this zone : no check the box 、Track Detection-Detection=Threshold:87, Erosion:3, Subjects:1、Activity Detection=8。玩具が青色で体毛がグレーもしくはブラックの場合:Brightness & Contrast-Brightness:231, Contrast:231、Use special lighting conditions for this zone : check the box、zone : Zone3 Brightness:101 & Contrast : 115、Track Detection-Detection=Threshold:87, Erosion:3, Subjects:1、Activity Detection=8。
【実施例】
【0033】
5.実験動物
アルツハイマー病モデルマウスとして、系統:Tg(APPSWE)2576KhaTg(Pmp-MAPT*P301L)JNPL3HImcマウス(Taconic社、ニューヨーク、米国)を3匹使用し、正常対象マウスとして、当該マウスの同腹子マウス(Taconic社、ニューヨーク、米国)を4匹使用した。
Tg(APPSWE)2576KhaTg(Pmp-MAPT*P301L)JNPL3HImcマウスは、ヒトアミロイドプレカーサープロテイン(APP)の遺伝子の670番目のリジンがメチオニン、また671番目のアスパラギンがロイシンに点変異したヒト変異APP遺伝子(スウェーデン家系遺伝性アルツハイマー病原因遺伝子)と、ヒトタウタンパクの遺伝子の301番目のプロリンがロイシンに点変異したヒトタウ変異遺伝子をそれぞれ導入して作製したダブルトランスジェニックマウスである。このアルツハイマー病モデルマウスは、およそ1歳時には老人斑と神経原繊維が発現している。
【実施例】
【0034】
6.統計的解析法
マウス用玩具を設置した場合のZone1~Zone5までの各Zone間におけるアルツハイマー病モデルマウスと正常同腹仔マウスの定量的数値は、平均値±標準偏差で示した。すべての統計解析は、マッキントッシュソフトウェアのスタットビュー:Version 5.0(SAS Inc.、ケーリー、ノースカロライナ、米国)を用いて実施した。有意差検定には、マン・ホイットニーU(Mann-Whitny U)検定を用い、危険率p<0.05未満であることをもって、統計的有意差があるとした。
【実施例】
【0035】
7.病理組織学的解析
老人斑の形成および神経原線維の形成を抑制しうる化合物Kとプラセボ(化合物Kの溶媒)を実験動物に投与した。経口投与の方法は、プラスチックシリンジにて正確に容量を測量し、プラスチックシリンジに直接マウス用胃ゾンデをつなげ、経口・経食道的に確実に投与した。
実験動物として、特に、ヒトアルツハイマー病型認知症モデルマウス(例えば、アミロイドβ(Aβ)前駆体タンパク質の695アミノ酸をコードする遺伝子のスウェーデン変異を有する遺伝子、及びヒトタウタンパク質遺伝子の301番目のプロリンがロイシンに変異した(P301L)の変異遺伝子の両ヒト遺伝子を高発現するTg(APPSWE)2576KhaTg(Prnp- MAPT*P301L)JNPL3HImc系統のアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスなど)のように、疾患に特徴的な病理組織学的特徴を有するモデル動物を使用する。同様に、正常同腹仔マウスも使用した。
【実施例】
【0036】
実験動物に出現する老人斑と神経原線維の同定に関しては、 組織化学的染色と免疫組織化学的染色により行った。組織化学的染色としては、例えば、ヘマトキシリン・エオシン(hematoxylin and eosin: HE)染色を行った。免疫組織化学染色に関しては、老人斑のコア蛋白質であるアミロイドβプロテインの検出と神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白の検出を実施した。例えば、アミロイドβプロテイン検出方法として、アミロイドβプロテイン免疫組織化学染色キット(Code No.299-56701、和光純薬工業株式会社、大阪)を使用した。Aβ40の検出には、キット内の抗アミロイドβプロテイン(1-40)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BA27)を使用した。Aβ42の検出には、キット内の抗アミロイドβ-プロテイン(1-42)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BC05)を使用した。最終的には、発色剤として、3,3’-diaminobenzidine tetrahydrochloride (DAB; Dako, Glostrup, Denmark)を使用して可視化した。また、リン酸化タウ蛋白の検出方法として、以下の一次抗体とABC(avidin-biotin-immunoperoxidase complex)法との組み合わせによって施行した。一次抗体としては、抗リン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau protein; PHF-tau) マウスモノクローナル抗体(クローン:AT8、Innogenetics: 現在社名富士レビオ(Fujirebio)株式会社、東京)を使用した。ABCキットは、Vectastain ABC Kit (Vector Laboratories, Burlingame, CA、米国)を使用した。最終的には、DABを発色剤として可視化した。HE染色・Aβ40免疫染色・Aβ42免疫染色・AT8免疫染色の各染色標本を画像イメージ解析ソフト(FLVFS-LS Ver. 1.12: オリンパス、東京) 搭載の3CCD デジタルカメラシステム(FX380: オリンパス)装備の光学顕微鏡(BX41: オリンパス) にて検鏡し、当該装置にて写真撮影と共に画像解析を実施した。
以上の実験は、鳥取大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【実施例】
【0037】
結果
1.飼育ケージ(コンパートメント)に餌および水箱のみを設置した場合(Open field条件)の結果
マウス用玩具(行動制限用具)を設置しないOpen field条件での解析は、通常飼育ケージに、長辺:113mm×短辺:81mm×高さ:15mmの箱にマウス用飲料水約5mlと1個当たり3.5gの餌2個を入れたもの(餌・水箱)(誘引物)のみを、上から見て左上のコーナーに置く状態で解析した。
【実施例】
【0038】
1-1.Open field条件の正常同腹仔マウスの行動解析結果。
正常同腹仔マウスの行動に関しては、餌および水の設置位置と反対方向の位置から実験を開始した(図5A)。まず、強い本能刺激物である餌および水近傍に接近していった(図5B)。そして、餌および水近傍に到達すると、餌のにおいを嗅ぎ、興味を示した(図5CおよびD)。しかしながら、この状態が続くわけではなく、短時間でそこから離れ、餌および水の設置位置とは反対方向に移動したり、また反転して再度、餌および水の近傍方向に移動したりと、一定の行動傾パターンを示さなかった。
Open field条件の正常同腹仔マウスの10分間解析におけるActivity(活動性)とTrajectory(重心軌跡)を図6に示した。餌の周囲と、それと離れた逆方向の右上の角付近での2ヶ所においてActivityが高かった(図6A)。また、Trajectoryは、Activityと対応するように、餌および水の設置位置とは反対側のケージの右上角付近のあたりに集積していた(図6B)。
【実施例】
【0039】
1-2.Open field条件のアルツハイマー病モデルマウスの行動解析結果。
アルツハイマー病モデルマウスの行動を示す画像は、対比しやすいよう正常同腹仔マウスの場合と同様に、餌および水の設置位置と反対方向の位置から開始した(図7A)。アルツハイマー病モデルマウスは、本能刺激物である餌および水の近傍に接近し(図7B)、餌および水に対してにおいを嗅ぐなどの関心を示した(図7CおよびD)。しかし、比較的短時間で、餌および水から一旦離れ、餌および水の設置位置と反対方向に移動した。移動後の位置から、再び餌および水が設置されている位置の方向に移動した。このような行動を繰り返して、一定の行動パターンを示さなかった。
Open field条件のアルツハイマー病モデルマウスの10分間解析におけるActivityとTrajectoryを図8に示す。正常同腹仔マウスのTrajectoryパターンとよく類似しており、餌および水の設置付近と、餌および水の設置位置とは逆方向のケージの短辺近くの2ヶ所に高いActivityが認められた(図8A)。また、Trajectoryは、正常同腹仔マウスと同様に、餌および水の近傍と、そことは逆方向のケージ短辺近くにおいて、Trajectoryが多く集積していた(図8B)。
【実施例】
【0040】
1-3.Open field条件における正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群との2群間の統計的比較結果。
上述したように、Open field条件においても、マウス用玩具(行動制限用具)を設置した場合(With Toy条件)と同様に5つのゾーンを仮想的に設定して検討を行った。
Open field条件における正常同腹仔マウス群(n=4匹)のActivityの解析結果は、Zone1=25.58±3.06(平均値±標準偏差)、Zone2=27.94±3.66、Zone3=18.14±3.76、Zone4=18.39±1.73、Zone5=9.96±0.54であった。他方、アルツハイマー病モデルマウス群(n=3匹)のActivityの解析結果は、Zone1=22.32±2.28、Zone2=29.94±10.83、Zone3=24.55±3.53、Zone4=17.80±10.44、Zone5=5.37±1.75であった。
正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群における、Zone1、Zone2、Zone3、Zone4、Zone5の各2群間の有意差を検定したところ、いずれにおいても有意差は認められなかった。
また、Trajectoryの集積結果についても、正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群とで差異は認められなかった(図6Bおよび図8B)。
【実施例】
【0041】
2.Open field条件にマウス用玩具(行動制限用具)を追加設置した場合(With Toy条件)の結果
餌および水(誘引物)の設置位置はOpen field条件と同じ位置に設置した。すなわち、上から見て左上のコーナーの位置に置いた。マウス用玩具(行動制限用具)は飼育ケージの右端から2.5cm~3.5cmの間になるように設置した。
【実施例】
【0042】
2-1.With Toy条件における正常同腹仔マウスの行動解析結果。
正常同腹仔マウスに関し、本能刺激物である餌および水の設置位置とマウス用玩具を設置した位置との中間位置から実験を開始した。正常同腹仔マウスは、餌および水の方向を見て、餌および水であることは認識した(図9A)。しかし、正常同腹仔マウスは、餌および水を認識したものの、その設置位置とは逆方向に移動し(図9B)、餌および水の設置位置とは反対側のマウス用玩具と通常飼育ケージの壁の間の領域(Zone4(Comfortable zone;安心ゾーン))に移動し、そこに身を置いた(図9CおよびD)。
本実施例における実験は、明視野で行ったが、Zone4は、野生の正常マウスが、明視野において外界の危険から身を守る巣穴に最も相同な場所(安心ゾーン)であると想定できる。そのため、正常同腹仔マウスは、Zone4に身を置いたと考えられる。
正常同腹仔マウスの10分間解析におけるActivityとTrajectoryを図10に示す。
正常同腹仔マウスの10分間のActivityの解析結果(図10A)から、Activityは、Zone4(安心ゾーン)において最も高く、餌および水箱が設置されているZone2(誘引物ゾーン)において低いことが分かった。
Trajectoryの10分間の集積画像においても、Activityの結果と同様に、Zone4(安心ゾーン)におけるTrajectoryの集積度が最も高かった(図10B)。また、撮影画像から正常同腹仔マウスは通常飼育ケージの壁面に沿って移動する様子、Zone4(安心ゾーン)の通常時育ケージの壁に対してマウンティング(マウスが前肢を壁に挙げ、後肢を伸ばしていわゆる立ち上がりをする探索行動)をする様子が確認された。このような正常同腹仔マウスの行動は、Trajectoryの集積画像と対応している。
【実施例】
【0043】
2-2.With Toy条件におけるアルツハイマー病モデルマウスの行動解析結果。
アルツハイマー病モデルマウスの行動解析についても、正常同腹仔マウスと同様に、餌および水の設置位置とマウス用玩具の設置位置との中間位置から開始した(図11A)。アルツハイマー病モデルマウスは、餌および水の方向に直ちに移動し(図11B)、餌および水箱の設置位置であるZone2(誘引物ゾーン)に身を置いた。また、行動学的観点から観察すると、餌のにおいを嗅ぎ、餌を摂食するという行動を真っ先に行った(図10CおよびD)。明視野における摂食行動は、自然界において餌や水に注意が向くため、野生動物が襲われやすく最も危険な行動時期に相当する。にもかかわらず、アルツハイマー病モデルマウスでは、この長期にわたる摂食行動の異常が撮影初期から認められることが判明した。
アルツハイマー病モデルマウスの10分間のActivityとTrajectoryの結果を図12に示す。Activityは、餌および水の設置位置であるZone2(誘引物ゾーン)において高く、自然界における巣穴に相当すると想定されるZone4(安心ゾーン)において低かった(図12A)。
また、Trajectoryは、Zone2(誘引物ゾーン)において集積度が高く、またZone4(安心ゾーン)ではマウス用玩具に沿った様な像を示した(図12B)。正常同腹仔マウスでみられたような通常飼育ケージの壁面に沿ったTrajectoryの集積は認められなかった。
【実施例】
【0044】
2-3.With Toy条件における正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群間における、Activityの統計学的比較。
正常同腹仔マウス群(n=4匹)におけるWith Toy条件の解析結果はZone1=25.63±9.56、Zone2(誘引物ゾーン)=8.95±8.60、Zone3=3.09±1.13、Zone4(安心ゾーン)=56.53±17.35、Zone5=5.79±3.48であった。
アルツハイマー病モデルマウス群(n=3匹)におけるWith Toyの解析結果はZone1=24.35±1.46、Zone2(誘引物ゾーン)=48.37±5.24、Zone3=3.55±2.03、Zone4(安心ゾーン)=17.09±5.45、Zone5=6.65±4.20であった。
Zone2(誘引物ゾーン)において、アルツハイマー病モデルマウス群のActivityは、正常同腹仔マウス群のActivityに比べて有意に高かった(p<0.05)。Zone4(安心ゾーン)において、アルツハイマー病モデルマウス群のActivityは、正常同腹仔マウス群のActivityに比べて有意に低かった(p<0.05)。Zone1、Zone3、Zone5においては、正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群との間には有意差はなかった。【実施例】
【0045】
2-4.With Toy条件における正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群間における、Trajectoryの比較。
Trajectoryの比較は、マウス1個体における、10分間のTrajectoryの描線の集積度の比較に基づいて行った。
正常同腹仔マウス群において、Zone4(安心ゾーン)におけるTrajectoryは、通常飼育ケージの壁面に多く集積していた(図10B)。この結果は、自然界に存在する野生マウスが、壁面に沿って移動するという行動と同じ行動パターンが正常同腹仔マウスにも認められることを示す。また、正常同腹仔マウスが、壁面に対し、探索行動の1つであるマウンティングを行ってたという点も、野生マウスの典型的行動パターンに一致していた。
これに対し、アルツハイマー病モデルマウス群におけるZone4(安心ゾーン)のTrajectoryは、ケージの壁面に接する描線の集積を示さず、マウス用玩具の周囲に集積しており(図12B)、正常同腹仔マウスが描くTrajectoryとは異なっていた。すなわち、アルツハイマー病モデルマウスにおいては、正常同腹仔マウスが示した警戒心を伴う行動(壁面に沿った移動やマウンティング探索行動など)の低下が認められた。この結果は、正常同腹仔マウスとアルツハイマー病モデルマウスのTrajectory集積度について、Zone4(安心ゾーン)の結果を比較するだけで、両者を区別できるということを示している。
また、餌および水が設置されている位置:Zone2(誘引物ゾーン)における解析結果に関しても、正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群の両群間において差が見られた。すなわち、アルツハイマー病モデルマウス群のTrajectoryは、正常同腹仔マウス群と比較して、Zone2(誘引物ゾーン)において強い集積が認められた。その他ゾーンにおけるTrajectoryの集積度については、正常同腹仔マウス群とアルツハイマー病モデルマウス群との間には明らかな差は認められなかった。
【実施例】
【0046】
2-5.アルツハイマー病モデルマウスのActivity %およびTrajectoryの結果と病理組織学的解析結果の対応関係。
図13に示すWith ToyのActivity %および図12Bに示すようなTrajectoryの集積結果を示すアルツハイマー病モデルマウスの海馬割面における老人斑および神経原線維の病理組織像を、各々プロットした(図14)。その結果、図13の黒のグラフで示すように、ゾーン2におけるActivity %が高く、また、ゾーン2における Trajectoryの強い集積が認められた、アルツハイマー病モデルマウスにおいては、記憶を司る海馬とその周辺に老人班が、また情動のセンターとされる扁桃体付近に神経原線維がそれぞれ多数認められていた。
以上のことから、病理組織学的解析からアルツハイマー病の症状を呈するアルツハイマー病モデルマウスは、ゾーン2におけるActivity %の高値およびTrajectoryの強い集積を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0047】
2-6.老人斑の形成および神経原線維の形成を抑制しうる化合物K投与によるActivityおよびTrajectoryへの影響
アルツハイマー病モデルマウスに、老人斑の形成および神経原線維の形成を抑制する候補化合物Kまたはプラセボを、また、正常同腹仔マウスにプラセボを、365日間以上投与し、その後、本発明の実施形態にかかる評価方法によりこれらのマウスの自発行動の異常の有無を評価した(図15)。Activityに関しては、アルツハイマー病モデルマウスと正常同腹仔マウスにプラセボを投与すると、前者においては誘引物ゾーンのActivityが高く(図15上段左図)、後者においては安心ゾーンのActivityが高かった(図15上段右図)。これに対し、化合物Kを投与したアルツハイマー病モデルマウスでは、誘引物ゾーンと安心ゾーンの中間のゾーンにおけるActivityが増加しており(図15上段中央図)、認知症に特徴的な行動異常が正常な行動へ変化する兆候が認められた。また、Trajectoryについても、化合物Kを投与したアルツハイマー病モデルマウスのTrajectoryの集積度は(図15下段中央図)、プラセボを投与したアルツハイマー病モデルマウスの集積度と正常同腹仔マウスの集積度の中間的な特徴を示していた。
【実施例】
【0048】
また、プラセボ投与したアルツハイマー病モデルマウスおよび正常同腹仔マウスと化合物K投与したアルツハイマー病モデルマウスの脳の病理組織学的解析を行った。その結果化合物K投与したアルツハイマー病モデルマウスの脳では、老人班(図16上段中央図)および神経原繊維変化(図16下段中央図)の形成箇所が減少して、プラセボ投与の正常同腹仔マウスの組織に近い状態になっており(図16上段右図および下段右図)、化合物Kの治療効果を確認することができた。
以上の結果から、本発明の実施形態にかかる実験動物の評価方法は、自発行動異常を伴う疾患に対する治療剤のスクリーニングに使用可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、実験動物に対して非侵襲的であって、非学習型の自発行動異常の評価方法および該方法の実施のための設備を提供するものである。従って、本発明の設備および方法を用いることで、実験動物の行動異常を簡易迅速に評価することができる、また、本発明の方法を用いることで行動異常に有効な化合物のスクリーニングを容易に行うことができる。
本発明は医療分野における利用が非常に期待される。
【符号の説明】
【0050】
符号10;コンパートメン
符号11;誘引物設置位置
符号12:行動制限用具設置位置
符号20:検出手段
符号21;ビデオ手段
符号22;制御手段
符号23;信号ライン
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図15】
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【図16】
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