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明細書 :タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-155538 (P2018-155538A)
公開日 平成30年10月4日(2018.10.4)
発明の名称または考案の名称 タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤
国際特許分類 G01N  33/50        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  38/55        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12Q   1/37        (2006.01)
FI G01N 33/50 ZNAZ
A61K 45/00
A61K 38/55
A61P 43/00 105
A61P 37/08
G01N 33/15 Z
C12Q 1/37
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-051126 (P2017-051126)
出願日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明者または考案者 【氏名】善本 知広
【氏名】福岡 あゆみ
【氏名】松下 一史
出願人 【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C084
Fターム 2G045AA40
4B063QA05
4B063QR16
4B063QR58
4B063QS36
4B063QX02
4C084AA02
4C084AA17
4C084AA30
4C084DC32
4C084MA59
4C084NA14
4C084ZB13
4C084ZB21
要約 【課題】タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法、及びタイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤を提供すること。
【解決手段】被検物質によりCST1の機能が促進された場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定することを含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法、及び、有効成分として、CST1の機能を促進する作用を有する物質を含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤による。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
被検物質によりCST1の機能が促進された場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定することを含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項2】
被検物質によりCST1の機能が促進された場合に、被検物質がタイトジャンクション構成タンパク質の破壊阻害能を有すると判定することを含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項3】
CST1の機能が、花粉由来のプロテアーゼの活性阻害である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
以下の工程1)~3)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質と接触させていない花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
2)被検物質と接触させた花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
3)工程1)のプロテアーゼ活性に比較して、工程2)のプロテアーゼ活性が低い場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
【請求項5】
基質が、メチルクマリンアミドと基質ペプチドとの結合した合成基質であり、プロテアーゼ活性が、合成基質から遊離したアミノメチルクロマリンの蛍光強度により測定される、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
以下の工程1)~3)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質に接触させていない上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程:
2)被検物質に接触させた上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程:
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のCST1の機能が促進されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
【請求項7】
以下の工程1)~3)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質の非存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、タイトジャンクションの機能を測定する工程:
2)被検物質の存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、タイトジャンクションの機能を測定する工程:
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のタイトジャンクション機能が増強されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
【請求項8】
以下の工程1)~3)を含む、請求項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)CST1発現形質転換非ヒト動物にアレルゲンを感作させ、その後アレルゲンに曝露させた非ヒト動物について、タイトジャンクションの破壊の程度を測定する工程;
2)前記非ヒト動物に、被検物質を投与し、タイトジャンクション破壊の程度を測定する工程;
3)工程1)の非ヒト動物に比較して、工程2)の非ヒト動物のタイトジャンクション破壊が抑制されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
【請求項9】
タイトジャンクション機能低下に起因する疾患が、アレルギー疾患である、請求項1~8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
有効成分として、CST1の機能を促進する作用を有する物質を含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項11】
有効成分として、CST1の機能を促進することにより、タイトジャンクション構成タンパク質の破壊の阻害作用を有する物質を含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項12】
CST1の機能を増強する作用を有する物質が、CST1タンパク質である、請求項11に記載のタイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項13】
タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤が、点鼻剤である、請求項10~12のいずれかに記載のタイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法、および、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は上皮細胞層及び血管内皮細胞層によって、脳、血管、腎臓などのコンパートメントが形成されている。上皮細胞層や血管内皮細胞層は、生体内外および組織内外を隔てるバリアとして機能することにより、恒常性維持に深く関わっている。これらの細胞層では、隣接する細胞間にタイトジャンクション(tight junction)(以下「TJ」)が発達しており、TJによって細胞と細胞の間隙がシールされ、物質の透過が制御されている。TJ構成タンパク質(例えば、ZO-1やClaudin-1等)が何らかの原因で減少した場合、TJの構造的な破壊が起こり、物質の透過バリアとして機能が低下することが知られている。
【0003】
TJは、花粉やダニなど、アレルギーを引き起こす様々なアレルゲンの体内への侵入を予防しており、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患において重要な役割を果たす。アレルギー性鼻炎では、鼻粘膜上皮細胞におけるTJの崩壊により、抗原が上皮組織下に侵入することが、発症と増悪につながる。アレルギー性鼻炎の発症の起点は、鼻粘膜に付着したアレルゲン(抗原)が上皮細胞を通過し、上皮組織下に侵入することである。アレルギー性鼻炎の抑制には、鼻粘膜上皮細胞が「物理的バリア」として上皮組織下への抗原の侵入を防ぐことが重要であり、より詳細には物理的バリアである上皮細胞のTJの機能を維持することが重要である。実際、本発明者らは特許文献1にて、1)大気中の微小粒子状物質(PM2.5)が鼻粘膜上皮細胞のTJを破壊する結果、抗原透過性が亢進しアレルギー性鼻炎を増悪させること、2)PM2.5に対する阻害薬はTJを保護しアレルギー性鼻炎の増悪を予防・治療できることを見出してきた。
【0004】
アレルゲンにはプロテアーゼが含まれており、外来性プロテアーゼは直接的にTJ構成タンパク質を分解することで、上皮バリアを破壊、または上皮細胞や免疫細胞を刺激してサイトカイン/ケモカイン産生を誘導することが知られている。Cystatin Aはヒトの汗に含まれる内在性プロテアーゼ阻害タンパク質であり、ダニのプロテアーゼ抗原(Der p1やDer f1)に対するIgE抗体の産生を抑制することが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
Cystatinファミリーに属するシステインプロテアーゼ阻害タンパク質の1つに、CST1がある。CST1は、主にヒトの唾液、涙液、血漿や尿中等に分泌されていることが知られている。CST1は基質と競合し、パパイン等の外来性プロテアーゼの活性を阻害する。非特許文献2では、鼻粘膜上皮における網羅的遺伝子解析を行ったところ、スギ花粉の飛散時期に相関してCST1がスギ花粉症患者の鼻粘膜上皮細胞に著明に発現することが報告されている。しかしながら、スギ花粉症患者の鼻粘膜でCST1が発現上昇する生理的または病因的意義については、明らかにはされていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2016-148636号公報
【0007】

【非特許文献1】Kato T, Takai T, Mitsuishi K, Okumura K, Ogawa H., J Allergy Clin Immunol. 2005 Jul; 116(1): 169-76.
【非特許文献2】意元 義政,徳永 貴広,藤枝 重治,耳鼻咽喉科免疫アレルギー 32(4), 211-215, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法、及び、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CST1が花粉由来のプロテアーゼ活性を阻害すること、更には生体内において花粉によるTJ破壊をCST1が抑制することを見出し、CST1の機能を促進することにより、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療が可能となることに着目し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、以下よりなる。
1.被検物質によりCST1の機能が促進された場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定することを含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法。
2.被検物質によりCST1の機能が促進された場合に、被検物質がタイトジャンクション構成タンパク質の破壊阻害能を有すると判定することを含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤をスクリーニングする方法。
3.CST1の機能が、花粉由来のプロテアーゼの活性阻害である、前項1又は2に記載のスクリーニング方法。
4.以下の工程1)~3)を含む、前項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質と接触させていない花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
2)被検物質と接触させた花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
3)工程1)のプロテアーゼ活性に比較して、工程2)のプロテアーゼ活性が低い場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
5.基質が、メチルクマリンアミドと基質ペプチドとの結合した合成基質であり、プロテアーゼ活性が、合成基質から遊離したアミノメチルクロマリンの蛍光強度により測定される、前項4に記載のスクリーニング方法。
6.以下の工程1)~3)を含む、前項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質に接触させていない上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程:
2)被検物質に接触させた上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程:
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のCST1の機能が促進されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
7.以下の工程1)~3)を含む、前項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)被検物質の非存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、タイトジャンクションの機能を測定する工程:
2)被検物質の存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、タイトジャンクションの機能を測定する工程:
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のタイトジャンクション機能が増強されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
8.以下の工程1)~3)を含む、前項1~3のいずれかに記載のスクリーニング方法:
1)CST1発現形質転換非ヒト動物にアレルゲンを感作させ、その後アレルゲンに曝露させた非ヒト動物について、タイトジャンクションの破壊の程度を測定する工程;
2)前記非ヒト動物に、被検物質を投与し、タイトジャンクション破壊の程度を測定する工程;
3)工程1)の非ヒト動物に比較して、工程2)の非ヒト動物のタイトジャンクション破壊が抑制されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。
9.タイトジャンクション機能低下に起因する疾患が、アレルギー疾患である、前項1~8のいずれかに記載のスクリーニング方法。
10.有効成分として、CST1の機能を促進する作用を有する物質を含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
11.有効成分として、CST1の機能を促進することにより、タイトジャンクション構成タンパク質の破壊の阻害作用を有する物質を含む、タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
12.CST1の機能を増強する作用を有する物質が、CST1タンパク質である、前項11に記載のタイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
13.タイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤が、点鼻剤である、前項10~12のいずれかに記載のタイトジャンクション機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスクリーニング方法によれば、新規なTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤を選択することができる。また本発明のTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、CST1機能を促進してTJ機能を増強することにより、アレルゲンの体内への侵入を抑制し、疾患の症状を予防及び/又は治療することができると考えられる。本発明のTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、様々なアレルギー性疾患に対しても適用可能であり、新たな作用機序を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒトCST1トランスジェニックマウス(hCST1-Tgマウス)の作製に用いたBACクローンを表す図(図1A)、hCST1-Tgマウスのジェノタイピングの結果を示す図(図1B)、hCST1-Tgマウスの鼻粘膜におけるCST1遺伝子のmRNA量を測定した結果を示す図(図1C)である。(実施例1)
【図2】アレルギー性鼻炎を発症させてアレルギー性鼻炎モデルマウスを作製する方法を示す模式図である。(実施例2)
【図3】hCST1-Tgマウスにアレルギー性鼻炎を発症させた場合の実験系の模式図(図3A)、くしゃみ回数を測定した結果を示す図(図3B,C)である。(実施例2)
【図4】hCST1-Tgマウスにアレルギー性鼻炎を発症させた場合の、スギ花粉特異的血清IgE値を測定した結果を示す図(図4A)及び鼻粘膜好酸球数を測定した結果を示す図(図4B)である。(実施例2)
【図5】hCST1-Tgマウスにアレルギー性鼻炎を発症させた場合の実験系の模式図(図5A)、ZO-1を免疫組織染色した結果を示す写真図(図5B)、ZO-1の免疫組織染色による蛍光強度を測定した結果を示す図(図5C)である。(実施例3)
【図6】リコンビナントCST1(rCST1)投与によるアレルギー性鼻炎に対する影響を確認するための実験系の模式図(図6A)、くしゃみ回数を測定した結果を示す図(図6B)である。(実施例4)
【図7】rCST1投与によるアレルギー性鼻炎に対する影響を確認した結果であり、スギ花粉特異的血清IgE値を測定した結果を示す図(図7A)及び鼻粘膜好酸球数を測定した結果を示す図(図7B)である。(実施例5)
【図8】rCST1投与による鼻粘膜上皮細胞のTJ破壊に対する影響を確認するための実験系の模式図(図8A)、ZO-1を免疫組織染色した結果を示す写真図(図8B)、ZO-1の免疫組織染色による蛍光強度を測定した結果を示す図(図8C)である。(実施例6)
【図9】花粉に含まれるプロテアーゼ活性を測定するためのアッセイ系の原理を説明した図である。(実施例7)
【図10】花粉に含まれるプロテアーゼ活性測定アッセイ系の手法を示す模式図(図10A)、及び、rCST1によるスギ花粉(JC)に含まれるプロテアーゼ活性阻害作用を確認した結果を示す図である。(実施例7)
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず本発明の経緯を説明する。本発明では生体内におけるCST1の役割を解明するために、BACクローンを用いてヒトのCST1を過剰発現するヒトCST1発現形質転換マウス(hCST1-Tgマウス)を作製した。hCST1-Tgマウスでは、ヒトと同様に鼻粘膜上皮細胞にCST1を高発現していることが確認された。hCST1-Tgマウスを花粉で免疫し、その後花粉を点鼻したところ、hCST1-Tgマウスでは野生型マウスに比べて、くしゃみ回数の増加が抑制された。さらに野生型マウスでは、鼻粘膜上皮細胞のTJ破壊が顕著であったが、hCST1-TgマウスではTJ破壊が抑制されることが確認された。さらに花粉で免疫した野生型マウスに、花粉を曝露すると同時にCST1を点鼻したところ、くしゃみの回数の増加が抑制され、TJが正常なままであることを見出した。in vitroアッセイ系では、CST1により花粉に含有されるプロテアーゼの活性が阻害されることを確認した。すなわち本発明は、CST1が生体内においてTJ破壊を抑制し、バリア機能の恒常性維持に働く防御的因子であることを明らかにした。

【0014】
CST1はCystatin SNとも称され、Cystatin familyに属するプロテアーゼ阻害因子である。Cystatin familyはtype I、type II、type IIIに分類されるが、CST1はtype IIに属する。CST1は、気道上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞、涙腺、顎下腺、膀胱に発現している。CST1の機能としては、細菌等由来の外因性プロテアーゼに対する阻害作用、カテプシン等の内因性プロテアーゼに対する阻害作用が報告されている。本発明では、CST1がTJ機能増強作用を有することが明らかにされた。すなわちCST1は、TJ破壊因子である外因性プロテアーゼに対する阻害作用やTJ構成タンパク質に対する機能増強作用を発揮し、その結果上皮細胞におけるTJ構成タンパク質の破壊を抑制することができる。ヒトCST1のアミノ酸配列及び塩基配列を以下に示す。

【0015】
ヒトCST1のアミノ酸配列(配列番号1:GenBank Accession No. NP_001889)
MAQYLSTLLLLLATLAVALAWSPKEEDRIIPGGIYNADLNDEWVQRALHFAISEYNKATKDDYYRRPLRVLRARQQTVGGVNYFFDVEVGRTICTKSQPNLDTCAFHEQPELQKKQLCSFEIYEVPWENRRSLVKSRCQES

【0016】
ヒトCST1遺伝子の塩基配列(配列番号2:GenBank Accession No. NM_001898)
ATGGCCCAGTATCTGAGTACCCTGCTGCTCCTGCTGGCCACCCTAGCTGTGGCCCTGGCCTGGAGCCCCAAGGAGGAGGATAGGATAATCCCGGGTGGCATCTATAACGCAGACCTCAATGATGAGTGGGTACAGCGTGCCCTTCACTTCGCCATCAGCGAGTATAACAAGGCCACCAAAGATGACTACTACAGACGTCCGCTGCGGGTACTAAGAGCCAGGCAACAGACCGTTGGGGGGGTGAATTACTTCTTCGACGTAGAGGTGGGCCGCACCATATGTACCAAGTCCCAGCCCAACTTGGACACCTGTGCCTTCCATGAACAGCCAGAACTGCAGAAGAAACAGTTGTGCTCTTTCGAGATCTACGAAGTTCCCTGGGAGAACAGAAGGTCCCTGGTGAAATCCAGGTGTCAAGAATCCTAG

【0017】
TJとは、上皮細胞に形成される接着構造の一つであり、ストランド上の構造を形成して細胞膜間の距離を縮めて細胞側面を取り囲むことで、細胞間隙透過のバリアとして機能し、生体の恒常性の維持や特定の分子ないしイオンを透過する働きをもつ。TJを構成するタンパク質として、細胞間接着分子である、occludin、caludin、tricellulin、juncional adhesion colecules(JAMs)などが同定されている。claudin等は膜貫通型タンパク質が隣接細胞間に接着する一方で、同一細胞内において線状に重合することでストランド状の構造体(TJストランド)を形成する。TJを構成するタンパク質には、TJの膜直下に集積する裏打ちタンパク質も含まれる。膜貫通型タンパク質と膜裏打ちタンパク質とが相互作用することで、TJの形成や制御がされている。膜裏打ちタンパク質としては、ZOタンパク質(zonula occludens proteins)、PAR3、PAR6、cingulin4などが知られている。ZOタンパク質には、ZO-1、ZO-2、ZO-3等が含まれる。

【0018】
TJ機能低下に起因する疾患は、上皮細胞のTJ機能低下に起因する疾患であり、より具体的にはアレルギー性疾患である。アレルギー性疾患には、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis:AR)、呼吸器疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患など)、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)、食物アレルギー等が含まれるが、好ましくは、アレルギー性鼻炎である。アレルギー性鼻炎は、発作性反復性のくしゃみ、水性鼻汁、鼻閉といった症状を呈する鼻粘膜のI型アレルギーとして知られている。アレルギー性鼻炎のアレルゲンとしては、花粉、ダニ、ハウスダストなどが知られている。花粉は、裸子植物由来であっても被子植物由来であってもよいが、裸子植物由来が好ましい。裸子植物としては具体的には、マツ網マツ目に属する植物が例示され、より具体的にはスギ科又はヒノキ科に属する植物が例示される。被子植物には単子葉植物及び双子葉植物が含まれる、単子葉植物にはイネ科、双子葉植物にはカバノキ科、キク科、アサ科が含まれる。キク科にはブタクサ属に属する植物が含まれる。本発明のTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、アレルゲンによる鼻粘膜上皮細胞のTJ破壊を抑制することにより、アレルギー性鼻炎の治療、発症の予防や、症状の緩和、症状の増悪を予防又は抑制することのできるものである。

【0019】
(スクリーニング方法)
本発明のTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤のスクリーニング方法における被検物質は、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤の候補物質となり得るものであればいかなるものであってもよい。被検物質としては、例えば、低分子化合物、タンパク質、核酸等を用いることができる。タンパク質は、タンパク質の断片であってもよく、ポリペプチド等であってもよい。

【0020】
本発明では、CST1自体の機能促進を指標として、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤のスクリーニングを行うことができる。本発明ではCST1自体の機能を促進し得る物質がTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤として選択されるが、例えばCST1の活性を増強し得る物質や、CST1自体の量を増大し得る物質が挙げられる。被検物質が存在しない場合に比べて、被検物質が存在する場合に、CST1の機能が促進される被検物質が選択される。本発明のスクリーニング方法は、CST1の機能を測定できる手段であればいかなる手段も利用することができ、例えば、in vitroのプロテアーゼ活性のアッセイ系や、非ヒト動物を用いた系、培養細胞を用いる系を利用することができる。

【0021】
本発明のCST1自体の機能促進を指標とするスクリーニング方法の一つの実施態様は、以下の工程1)~3)を含む。
1)被検物質と接触させていない花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
2)被検物質と接触させた花粉由来のプロテアーゼを基質と反応させ、プロテアーゼ活性を測定する工程;
3)工程1)のプロテアーゼ活性に比較して、工程2)のプロテアーゼ活性が低い場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。

【0022】
上記実施態様における基質は、花粉由来のプロテアーゼ活性を測定可能なものであればいかなるものであってもよい。基質は好ましくは、メチルクマリンアミド(MCA)と基質ペプチドとの結合した合成基質が挙げられる。プロテアーゼ活性は、合成基質から遊離したアミノメチルクロマリンの蛍光強度により測定することができる。合成基質における基質ペプチドは、花粉由来のプロテアーゼの基質として機能するものであればよい。具体的には、Gln-Gly-Argが挙げられる。ペプチドのN末端にはBoc等の保護基が結合していてもよい。また、花粉由来のプロテアーゼとしては、花粉抽出液を用いることができる。花粉抽出液は、後述する実施例に記載の方法によって調製することができる。

【0023】
本発明のCST1自体の機能を指標とするスクリーニング方法の別の実施態様は、以下の工程1)~3)を含む。
1)被検物質に接触させていない上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程;
2)被検物質に接触させた上皮細胞について、CST1の機能を測定する工程;
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のCST1の機能が促進されている場合に、被検物質がタイトジャンクション機能増強能を有すると判定する工程。

【0024】
上記実施態様の上皮細胞は、培養細胞等のin vitroの系であってもよいし、非ヒト動物を用いたin vivoの系におけるものであってもよい。上皮細胞は、CST1が発現しており、機能しているものであれば特に限定されない。具体的には、CST1遺伝子を発現するアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物や、培養鼻粘膜上皮細胞を用いた手段が挙げられる。

【0025】
非ヒト動物としては、CST1活性が測定可能な動物であればよい。例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル等のヒト以外の哺乳動物を用いることができる。また、非ヒト動物は、CST1を発現する非ヒト動物のアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物であってもよい。アレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物とは、ヒト以外の非ヒト動物をアレルゲンで感作したモデル動物であり、アレルゲンを追加投与することによりアレルギー性鼻炎の症状を呈する。アレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物は、少なくともアレルゲンで感作したモデル動物であればよいが、その後アレルゲンを追加投与した後のモデル動物を用いてもよい。本発明において使用するモデル動物は、CST1を発現しており、アレルゲンによってアレルギー性鼻炎を発症しうるものであれば特に限定されるものではない。またモデル動物は、特許番号5800263号に示される通り、少なくとも鼻粘膜上皮細胞核内に、IL-33を含有することが好ましい。なお、鼻粘膜上皮細胞核内のIL-33は、抗体を用いた免疫染色法によって存在を確認することができる。CST1を発現する非ヒト動物は、CST1遺伝子を導入した形質転換したマウスであってもよい。

【0026】
モデル動物のアレルゲンによる感作は、モデル動物の生体内に、アレルゲン特異的Th2免疫応答(アレルゲン特異的Th2細胞およびアレルゲン特異的IgE抗体)を誘導することを意味する。アレルゲンとしては、スギ花粉やブタクサ花粉等の花粉、ダニ、ハウスダスト等の種々のものが使用でき、市販のものでも天然のものでも用いることができる。アレルゲンは花粉であることが好ましく、スギ花粉であることがより好ましい。モデル動物のアレルゲンによる感作は、特許番号5800263号に記載の方法に準じて行うことができる。モデル動物のアレルゲンによる感作は、例えば、Th2免疫応答を誘導するアジュバントである水酸化アルミニウムとアレルゲンとをモデル動物に投与し、その後(例えば1週間後)に再度アレルゲンを投与する方法により行うことができる。アレルゲンと水酸化アルミニウムの投与およびその後の再度のアレルゲンの投与の経路は、アレルゲンの感作が可能なものであれば、皮下注射、腹腔内投与等のいずれであってもよい。感作に用いるアレルゲンの投与量は、モデル動物の種類や、体重、年齢等にあわせて、適宜設定すればよい。例えば、上記モデル動物がマウスであり、アレルゲンがスギ花粉である場合、投与量は体重1kgあたり4mg~8mgであることが好ましい。

【0027】
アレルゲンを感作したアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物に、アレルゲンを追加投与(曝露)することにより鼻炎症状を呈する。追加投与するアレルゲンの投与経路は、鼻炎症状のパラメーターがくしゃみ回数である場合は鼻腔内投与(以下単に「点鼻」ともいう)であることが好ましい。アレルゲンの鼻腔内への投与量および投与方法は、アレルゲンの種類、上記モデル動物の種類や、体重、年齢等にあわせて、適宜設定することができる。上記モデル動物がマウスであり、スギ花粉を点鼻する場合、体重1kgあたり4mg~8mgを2回~6回投与することが好ましい。2回点鼻であっても、鼻炎症状は十分観察できると考えられる。また、アレルゲンの感作終了後、アレルゲンの追加投与までの時間は、5日~16日であることが好ましい。

【0028】
アレルゲンを感作したアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物へアレルゲンを投与する。アレルゲンは、上皮細胞のTJに影響を与え得るものであればいかなるものであってもよい。また、点鼻投与が好ましい。アレルゲンの鼻腔内への投与量および投与方法は、アレルゲンの種類、上記モデル動物の種類や、体重、年齢等にあわせて、適宜設定することができる。アレルゲンとしては、花粉を用いることができる。

【0029】
アレルゲンを感作したアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物への被検物質は、アレルゲンと同じ投与経路であることが好ましく、点鼻投与が好ましい。被検物質の投与の時期は、アレルゲンの感作終了後、アレルゲンの投与と同時または投与の前が例示される。感作終了後、アレルゲンの投与前に被検物質を投与することにより、被検物質によるCST1機能促進を介した鼻粘膜上皮細胞のTJ破壊の予防効果を確認することができる。アレルゲン投与前に被検物質を投与する場合の被検物質投与とアレルゲン投与までの時間は、上記モデル動物がマウスである場合は、5分間~1日間程度であればよい。

【0030】
培養鼻粘膜上皮細胞は、培養により維持または増殖が可能な鼻粘膜上皮細胞であり、CST1を発現可能なものであればいかなるものであってもよいが、例えば、ヒトCST1遺伝子を発現する正常ヒト鼻粘膜細胞上皮初代培養細胞や、ヒト鼻粘膜上皮細胞株等を用いることができる。ヒトCST1遺伝子をトランスフェクトして発現させたヒト鼻粘膜上皮細胞株を用いても良い。鼻粘膜上皮細胞の培養は、常法に従って行えばよい。培養液に、アレルゲンを添加しても、添加しなくてもよい。アレルゲンを添加して培養することにより、CST1によるアレルゲンに含まれるプロテアーゼの活性に対する阻害作用を確認することができる。培養液へのアレルゲンの添加量は、TJを破壊し得る程度であればよいが、例えば培養液への添加後の濃度で15~75μg/mLであればよい。アレルゲン添加後の培養期間は、特に限定されないが、12~48時間であればよい。被検物質の添加は、鼻粘膜上皮細胞のCST1機能に影響を与え得る時期であればよく、例えば、アレルゲンの添加と同時または添加の前が例示される。

【0031】
CST1の機能の測定は、CST1活性の測定やCST1発現量の測定等により行うことができる。CST1の活性は、CST1による花粉由来のプロテアーゼ阻害活性を測定することにより、確認することができる。CST1による花粉由来のプロテアーゼ阻害活性の測定は、上述したとおり、MCAと基質ペプチドとの結合した合成基質を用いて、花粉由来のプロテアーゼ活性を測定することにより行うことができる。

【0032】
本発明では、CST1によるTJ機能への影響を指標として確認することにより、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤のスクリーニングを行うことができる。本発明は、CST1の機能としてTJ機能を確認し、TJ機能を増強し得る被検物質を、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤の候補物質として選択するものである。CST1が存在する系において、被検物質が存在しない場合に比べて、被検物質が存在する場合に、TJの機能が増強される被検物質を選択する。

【0033】
本発明の、CST1によるTJ機能への影響を指標とするスクリーニング方法の実施態様は、以下の工程1)~3)を含む。
1)被検物質の非存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、TJの機能を測定する工程:
2)被検物質の存在下でCST1を上皮細胞に接触させ、TJの機能を測定する工程:
3)工程1)の上皮細胞に比較して、工程2)の上皮細胞のTJ機能が増強されている場合に、被検物質がTJ機能増強能を有すると判定する工程。

【0034】
上記実施態様の上皮細胞は、培養細胞等のin vitroの系であってもよいし、非ヒト動物を用いたin vivoの系におけるものであってもよい。また上皮細胞は、TJ機能を有するものであれば特に限定されない。CST1は、上皮細胞が発現していてもよいし、上皮細胞に投与若しくは添加されてもよい。具体的には、CST1遺伝子を発現するアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物や、CST1発現形質転換非ヒト動物、又は培養鼻粘膜上皮細胞等を用いた手段が挙げられる。

【0035】
本発明の、CST1によるTJ機能への影響を指標とするスクリーニング方法の別の実施態様は、CST1発現形質転換非ヒト動物を用いるものである。CST1発現形質転換非ヒト動物を用いたスクリーニング方法は、以下の工程1)~3)を含む。
1)CST1発現形質転換非ヒト動物にアレルゲンを感作させ、その後アレルゲンに曝露させた非ヒト動物について、TJの破壊の程度を測定する工程;
2)前記非ヒト動物に、被検物質を投与し、TJ破壊の程度を測定する工程;
3)工程1)の非ヒト動物に比較して、工程2)の非ヒト動物のTJ破壊が抑制されている場合に、被検物質がTJ機能増強能を有すると判定する工程。

【0036】
CST1発現形質転換非ヒト動物は、CST1が形質転換により導入されており、CST1が上皮細胞に発現しているものであればよい。CST1は、ヒト由来のCST1(hCST1)であることが好ましい。CST1発現形質転換非ヒト動物は、後述する実施例に記載の方法により作製することができる。またCST1発現形質転換非ヒト動物へのアレルゲンの感作及び曝露は、上述のアレルギー性鼻炎非ヒトモデル動物の作製時と同様にして行うことができる。被検物質の投与時期は、アレルゲンの感作終了後であり、アレルゲンによる鼻粘膜上皮細胞のTJ機能に対する作用を抑制し得る時期であればよい。例えば、アレルゲンの投与と同時または投与の前であることが好ましい。アレルゲンの投与前に被検物質を投与することにより、鼻粘膜上皮細胞のTJ破壊の被検物質による予防効果を確認することができる。アレルゲン投与前に被検物質を投与する場合の被検物質投与とアレルゲン投与までの時間は、上記動物がマウスである場合は、5分間~1日間程度であればよい。

【0037】
TJ機能は、CST1発現形質転換非ヒト動物やCST1遺伝子を発現するアレルギー性鼻炎モデル動物については、鼻粘膜上皮細胞のTJの破壊の程度を測定することにより確認できる。例えば、上記アレルゲンの追加投与の終了後10分間にくしゃみの回数を測定したり、鼻粘膜上皮細胞を含む組織を採取してTJを構成するタンパク質を免疫染色することにより、評価することができる。なお非ヒト動物においては、鼻粘膜上皮細胞のTJの破壊が増大するにつれ、くしゃみ回数が増大する(特許番号5800263号)。

【0038】
また培養鼻粘膜上皮細胞を用いたスクリーニング方法における被検物質の添加は、アレルゲンによる鼻粘膜上皮細胞のTJの破壊を抑制可能な時期であればよい。例えば、アレルゲンの添加と同時または添加の前であることが例示される。培鼻粘膜上皮細胞のTJの破壊は、a)培養鼻粘膜上皮細胞のTJ構成タンパク質の免疫染色、b)培養鼻粘膜上皮細胞の細胞膜電気抵抗の測定、c)培養鼻粘膜上皮細胞の細胞膜透過性の測定により、評価することができる。これらの手段は、常法により行うことができる。具体的には特許文献1に開示されている方法が例示される。a)のTJ構成タンパク質の免疫染色においては、当該タンパク質に特異的に結合する抗体を用いればよい。標識化された2次抗体を用いてもよい。b)の細胞膜電気抵抗の測定は、いわゆる経上皮/内皮電気抵抗(TER)を測定すればよく、緊密な細胞層は高い電気抵抗値を示すことが知られている。c)細胞膜透過性の測定は、細胞膜を透過し得ない物質(例えばデキストラン)に標識物質(例えばFITC)を結合させたものを用いて、透過性を測定することができる。TJが破壊された上皮細胞においては、細胞膜を透過し得ない物質が透過性を示すことが知られている。b)およびc)の測定は、トランスウェルを用いて行うことができる。

【0039】
(TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤)
本発明は、有効成分として、CST1の機能を増強する作用を有する物質を含む、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤にも及ぶ。CST1の機能を増強する作用を有する物質は、CST1が例示される。CST1は、全長タンパク質であってもよいし、断片であってもよく、花粉由来のプロテアーゼに対して阻害活性を有するものであればよい。CST1は、生体から単離されたものであってもよいし、組換えタンパク質であってもよい。

【0040】
本発明の予防及び/又は治療剤は、通常、それ自体公知の薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、その他の添加剤、具体的には水、植物油、エタノール又はベンジルアルコールのようなアルコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアゼテートゼラチン、ラクトース、デンプン等のような炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ワセリン等と混合して製剤化することができる。本発明の予防及び/又は治療剤は、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、注射剤、液剤、懸濁剤等の形態であり得る。また、本発明の予防及び/又は治療剤の投与経路は、経口又は非経口であり得るが、点鼻であることが好ましい。本発明の予防及び/又は治療剤は、乾燥粉末の形態、エアロゾルスプレー又は点鼻剤として、鼻腔内又は吸入によって投与されることが好ましい。

【0041】
本発明の予防及び/又は治療剤は、ヒト用医薬としての使用は勿論、他の哺乳動物用医薬としても使用可能である。投与量は疾患の程度、投与する有効成分並びに投与経路、患者の年齢、性別、体重等により変わりうるが、点鼻投与の場合、通常、成人1回当たり、約1μg~1000mg/kg、好ましくは約1mg~100mg/kgを投与する。投与回数は1日1回でも、複数回でもよい。また、本発明の予防及び/又は治療剤は、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療のために単独で投与する以外に、各種TJ機能低下に起因する疾患の予防、治療に有用な別の薬剤と併用することもできる。
【実施例】
【0042】
本発明について理解を深めるために、以下に実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。実施例に記載の実験は、兵庫医科大学動物実験委員会の動物実験ガイドラインに沿って行った。
【実施例】
【0043】
(実施例1)ヒトCST1トランスジェニックマウスの作製
ヒトCST1(hCST1)ゲノム(CST1:3.3 kb)を含むヒトのBAC(Bacterial Artificial Chromosome:大腸菌人工染色体)cloneであるWI2-2587F6(BACPAC Resources center)を購入し、大腸菌株DH5αに導入後(図1A)、Large-Construct Kit(QIAGEN)でDNA(50 ng/ml)を精製した。その後、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター 生体モデル開発ユニット/生体工学研究チームにトランスジーンのマイクロインジェクションを依頼した。ヒトCST1トランスジェニックマウス(hCST1-Tgマウス)の作製にはICRマウスの前核期受精卵を用いた。hCST1-Tgマウスのジェノタイピングには、P1_Fw:TAATACGACTCACTATAGGG(配列番号3)、P1_Rev: CAGAGTCCTGAAGTTTATAC(配列番号4)、P2_Fw:TGGCCCAGTATCTGAGTACCCT(配列番号5)、P2_Rev: CCGCAGCGGACGTCTGTAGT(配列番号6)、P3_Fw: TTAGCAAATCAAATTCCTCAC(配列番号7)、P3_Rev:CTCGTATGTTGTGTGGAATTGTGAGC(配列番号8)のプライマーを用いた。また、hCST1-Tgマウスの鼻粘膜のヒトCST1遺伝子(hCST1)発現を、RT-PCR法にて確認した。
【実施例】
【0044】
図1Bのジェノタイピングの結果から、作製されたhCST1-Tgマウス(#1、#2、#3)が、hCST1遺伝子を有していることが確認された。また図1Cの結果から、野生型マウス(WT)では鼻粘膜にhCST1遺伝子が発現していないのに対して、作製されたhCST1-Tgマウス(#1)(Tg)の鼻粘膜にはhCST1遺伝子が発現していることが確認された。
【実施例】
【0045】
(実施例2)アレルギー性鼻炎モデル動物の作製
特許番号5800263号を参考にして、アレルギー性鼻炎モデル動物を作製した(図2)。具体的には、6~7週齢のCrlj:CD1(ICR)マウス(オリエンタル酵母工業株式会社)および実施例1で作製したhCST1-Tgマウスに、スギ花粉(HAYASHIBARA)(100 μg/200μL/回)(JC)と水酸化アルミニウム(2 mg/200μL/回)(alum)を、day0、day7、day14に腹腔内投与し、スギ花粉に感作したアレルギー性鼻炎モデルマウスを作製した。
【実施例】
【0046】
後述する各実施例では種々の条件下で、アレルギー性鼻炎モデルマウスに、スギ花粉(1 mg/20 μl/回)を、day21から4日間(1回/day)連日点鼻投与し、毎回点鼻後10分間のくしゃみ回数(早期相)と、最終点鼻24時間後(day25) にマウスから血清と鼻粘膜組織を採取し、スギ花粉特異的血清IgE値の測定と鼻粘膜の組織染色による好酸球数の測定(遅発相)を検討した。さらに、鼻粘膜組織のタイトジャンクション構成タンパク質(Zonula occludens-1; ZO-1)の免疫染色を行った。また後述する各実施例においては、各群3~5匹のマウスを使用し、2~3回繰り返して実験を行った。結果は、平均値±SEMで示しており、統計学的有意差はt検定(two tailed Student's t-test)により確認した。
【実施例】
【0047】
(実施例3)hCST1-Tgマウスのスギ花粉症発症への影響の確認
実施例2にてスギ花粉に感作させたICRマウス(野生型(WT)マウス)又はhCST1-Tgマウスに、スギ花粉(JC)をday21から4日間連日(1回/day)点鼻投与した。またコントロールとして、PBS 20μL/回を点鼻した。
【実施例】
【0048】
(1)鼻炎症状の早期相のパラメーターとして、毎回点鼻後10分間のくしゃみ回数を測定した(図3A)。結果を図3Bに示す。野生型マウスは、スギ花粉点鼻でくしゃみ回数が経時的に増加したのに対し、hCST1-Tgマウス(#1、#3)では、スギ花粉点鼻によるくしゃみ回数は軽度上昇のみ確認され、増加は著明に抑制された。
【実施例】
【0049】
(2)鼻炎症状の遅発相のパラメーターとして、最終点鼻24時間後(day25)の鼻粘膜の組織染色による好酸球数の測定、スギ花粉特異的血清IgE値の測定を行った(図3A)。
鼻粘膜の組織染色による好酸球数の測定は以下の方法で測定した。鼻粘膜組織を、4% (w/v)ホルムアルデヒドに固定し、パラフィンに包埋した。パラフィン包埋切片(4μm厚)を、脱パラフィン化し、ヘマトキシリン・エオジン染色または過ヨウ素酸シッフ染色を行い、好酸球数を確認した。
またスギ花粉特異的血清IgE値は以下の方法で測定した。Anti-mouse-IgE(SouthernBiotech)を固相化したプレートに、採取した血清を室温で2時間反応させた。次に、当該研究室で作製した二次抗体(biotinylated-Japanese Cedar pollen extract)を室温で1時間反応させた。その後、Streptavidin-HRPを室温で30分間反応させ、基質溶液(TMB Microwell Peroxidase Substrate System; SeraCare Life Sciences)を加え発色させた後、プレートリーダーで吸光度(波長450 nm)の測定を行った。
【実施例】
【0050】
結果を図4A,Bに示す。鼻粘膜好酸球数、スギ花粉特異的血清IgE値は、野生型マウスとhCST1-Tgマウスとで差が認められなかった。よって鼻粘膜でのCST1の発現増強は、Th2免疫応答には影響しないと考えられた。
【実施例】
【0051】
(実施例4)hCST1-Tgマウスの鼻粘膜上皮細胞TJと鼻炎症状の関係の検討
実施例3と同様にして、花粉感作したアレルギー性鼻炎モデルマウスにスギ花粉(JC)またはPBSをday21から4日間連日(1回/day)点鼻投与した。鼻炎症状の遅発相のパラメーターとして、最終点鼻24時間後(day25)の鼻粘膜上皮細胞のZO-1の発現を免疫染色により検討した(図5A)。
【実施例】
【0052】
なおZO-1の免疫染色は以下の方法で行った。パラフィン包埋した鼻粘膜組織を4 μmで薄切し脱パラフィン処理後、pH 6.0のクエン酸バッファーで抗原の賦活化を行った。ブロッキングを行い、一次抗体(anti-ZO-1; invitrogen)をサンプルにのせて4℃で一晩反応させた。次に、二次抗体(Alexa 488 anti-rabbit IgG; Invitrogen)を室温で1時間反応させた後DAPI染色を室温で5分間行った。Prolong Gold antifade reagent(invitrogen)で封入し、共焦点顕微鏡(Axiovert/LSM510; Carl Zeiss)で観察を行った。画像解析およびZO-1の蛍光強度の測定はLSM Browser(Carl Zeiss)を用いて行った。
【実施例】
【0053】
鼻粘膜組織を共焦点顕微鏡で観察した写真を図5Bに、ZO-1の蛍光強度を測定した結果を図5Cに示す。野生型マウスではスギ花粉点鼻によって鼻粘膜上皮細胞のTJは破壊されるのに対し、hCST1-Tgマウス(#1)ではTJは破壊されなかった。
【実施例】
【0054】
(実施例5)リコンビナントCST1(rCST1)のスギ花粉症発症への影響の確認
実施例2にてスギ花粉に感作したICRマウス(野生型(WT)マウス)に、スギ花粉(JC)、または予めrCST1(recombinant Cystatin SN; R&D systems)を用いて処理したスギ花粉(JC+rCST1)を、day21から4日間連日(1回/day)点鼻投与した。rCST1を処理したスギ花粉は、スギ花粉1 mgに250 mMのrCST1を加え、37℃で15分間反応させたものを使用した。またコントロールとして、PBS 20μL/回を点鼻した。
【実施例】
【0055】
(1)鼻炎症状の早期相として、毎回点鼻後10分間のくしゃみ回数を測定した(図6A)。結果を図6Bに示す。スギ花粉点鼻によりマウスのくしゃみ回数が経時的に増加したのに対し、rCST1で前処理したスギ花粉点鼻では、くしゃみ回数は軽度上昇のみであり、増加は著明に抑制された。
【実施例】
【0056】
(2)鼻炎症状の遅発相のパラメーターとして、最終点鼻から24時間後の鼻粘膜組織の好酸球数とスギ花粉特異的血清IgE値に対する影響を検討した(図6A)。結果を図7A,Bに示す。鼻粘膜好酸球数、スギ花粉特異的血清IgE値は、rCST1での処理の有無に関わらず差が認められなかった。よってrCST1は、Th2免疫応答には影響しないと考えられた。
【実施例】
【0057】
(実施例6)rCST1のスギ花粉による鼻粘膜上皮細胞TJ破壊への影響の確認
実施例5と同様にして、スギ花粉に感作した野生型マウスに、スギ花粉(JC)、または予めrCST1を用いて処理したスギ花粉(JC+rCST1)をday21から4日間連日(1回/day)点鼻投与した。鼻炎症状の遅発相のパラメーターとして、最終点鼻24時間後(day25)の鼻粘膜上皮細胞のZO-1の発現を免疫染色により検討した(図8A)。
【実施例】
【0058】
鼻粘膜上皮細胞を共焦点顕微鏡で観察した写真を図8Bに、ZO-1の蛍光強度を測定した結果を図8Cに示す。スギ花粉点鼻によってマウスの鼻粘膜上皮細胞のTJが破壊されるのに対し、rCST1で前処理したスギ花粉点鼻ではTJは破壊されなかった。
【実施例】
【0059】
(実施例7)rCST1のスギ花粉由来プロテアーゼ阻害活性への影響の確認
rCST1は花粉に含まれるプロテアーゼ活性を阻害するかをin vitroにて検討した。プロテアーゼ活性の測定は以下の方法で行った。96ウェルプレート(Perkin Elmer)にスギ花粉抽出液(蛋白質量30 μg)(Cedar pollen extract-Cj(Cat.No.LG-5280);LSL社)(JC extract)と、rCST1(250 nM; R&D systems)を37℃で15分間反応させた後、基質ペプチドとメチルクマリンアミド(MCA)から成る合成基質(Boc-Gln-Gly-Arg-MCA;10 μM)を加えた。基質ペプチドと結合したメチルクマリンアミドは蛍光を発しないが、プロテアーゼにより基質ペプチドから遊離したメチルクマリンアミドはアミノメチルクロマリン(AMC)として蛍光を発する。この原理を応用して、経時的にマイクロプレートリーダー(TECON)で遊離アミノメチルクマリン強度(励起波長380 nm/蛍光波長460 nm)を測定した(図9、図10A)。
【実施例】
【0060】
結果を図10Bに示す。rCST1は、スギ花粉抽出液に含まれるプロテアーゼ活性を完全に阻害した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のスクリーニング方法によれば、TJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤として作用を有する候補物質を、簡便かつ効果的に選択することができる。また本発明によれば、様々なアレルゲン、例えば、ヒノキ、シラカバ、ハンノキなどの花粉、ダニなどのプロテアーゼに対する阻害活性を発揮する物質をスクリーニングすることができ、アレルギー性鼻炎を始めとするTJ機能低下に起因する疾患に対する治療手段の開発に大きく寄与するものと考えられる。
【0062】
本発明のTJ機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療剤は、特に、アレルギー性鼻炎に対する予防及び/又は治療の効果が期待される。アレルギー性鼻炎の患者数は先進国を中心に増加の一途にあり、世界中で推定6億人を超える。わが国においても、国民の40%がアレルギー性鼻炎に罹患しているが、現行のアレルギー性鼻炎の治療は「対症療法」が主流である。既存の治療薬は中枢神経への作用によって眠気や目眩などの副作用を発症し、日常生活に支障をきたすことが多いことが問題となっており、従来とは異なる観点からのアレルギー性鼻炎の予防・治療薬が開発されることが切望されている。本発明の予防及び/又は治療剤は、従来にない作用機序に基づき、アレルギー性鼻炎に対して予防及び/又は治療効果を発揮することから有用である。
【0063】
また本発明の予防及び/又は治療剤は、種々のアレルゲンのプロテアーゼ活性阻害作用を有する。よって本発明は、アレルギー性鼻炎に留まらず、呼吸器疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患など)、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)、食物アレルギーなど多岐にわたるアレルギー性疾患に対して効果を示すと考えられ、有用性の高いものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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