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明細書 :加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-148827 (P2018-148827A)
公開日 平成30年9月27日(2018.9.27)
発明の名称または考案の名称 加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-046540 (P2017-046540)
出願日 平成29年3月10日(2017.3.10)
発明者または考案者 【氏名】大石 健太郎
【氏名】蓑島 伸生
【氏名】尾花 明
【氏名】堀田 喜裕
出願人 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100165179、【弁理士】、【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
【識別番号】100175824、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 淳一
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ43
4B063QQ58
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
要約 【課題】本発明は、加齢黄斑変性の発症リスクを評価するための方法を提供する。
【解決手段】ヒトPANK4遺伝子上の遺伝子多型のうち、rs7535528及びrs2494620の遺伝子型に基づいてヒト被験者の加齢黄斑変性の発症リスクを評価する評価工程を有し、前記評価工程において、前記ヒト被検者が、rs7535528の遺伝子型がC、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルを2本有する場合、rs7535528の遺伝子型がC、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルと、rs7535528の遺伝子型がT、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルとを有する場合、又はrs7535528の遺伝子型がT、かつrs2494620の遺伝子型がGであるアレルを少なくとも1本有する場合に、当該ヒト被検者の加齢黄斑変性の発症リスクは高いと評価する、加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトPANK4遺伝子上の遺伝子多型のうち、rs7535528及びrs2494620の遺伝子型に基づいてヒト被験者の加齢黄斑変性の発症リスクを評価する評価工程を有し、
前記評価工程において、前記ヒト被検者が、
rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルを2本有する場合、
rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルと、rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルとを有する場合、又は
rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がGであるアレルを少なくとも1本有する場合に、
当該ヒト被検者の加齢黄斑変性の発症リスクは高いと評価することを特徴とする、加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
【請求項2】
前記加齢黄斑変性が、典型加齢黄斑変性又はポリープ状脈絡膜血管症である、請求項1に記載の加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
【請求項3】
前記ヒト被検者が女性であり、前記加齢黄斑変性がポリープ状脈絡膜血管症である、請求項1に記載の加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
【請求項4】
前記ヒト被検者が男性であり、前記加齢黄斑変性が典型加齢黄斑変性である、請求項1に記載の加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
【請求項5】
前記ヒト被検者が日本人である、請求項1~4のいずれか一項に記載の加齢黄斑変性の発症リスクの評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢黄斑変性(AMD)の発症リスクを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AMDは、中途失明疾患の原因の一つで、社会の高齢化とともに世界的に増加している網膜変性疾患である。AMDは多因子疾患であり、遺伝要因と環境要因の両方が関与するが、その発症機序の多くは不明である。
【0003】
AMDの遺伝要因は、これまでに50種近いAMD発症関連遺伝子が報告されているが、その機能は、神経変性、血管新生、免疫、炎症、視物質代謝などと多様であり(非特許文献1参照。)、それらを繋ぎ合わせてAMD発症の分子機構の全貌を理解するのは困難である。また、多因子遺伝の性格上、責任遺伝子多型は多く持つほど易罹患性が高まる。そのため、他にも未知の重要な遺伝子が発症に関連している可能性は充分にあると考えられる。ただし、これまでに、欧米を中心とした世界各地で人を対象とした大規模なゲノムワイド関連研究(GWAS)が進められているが、本発明者らの同定した責任遺伝子についての報告はない。
【0004】
AMDの環境要因については様々な報告がある(年齢(55歳以上)、性別(発症率:女性>男性)、太陽光曝露(屋外労働者等)、肌の色(発症率:白人>黄色人種>黒人)、全身疾患(高血圧、動脈硬化)、他)。環境要因については、発症までの期間が長期(55年以上)に亘るため、様々な危険因子がAMD発症に大きく影響すると考えられ、AMDの易罹患性遺伝子の責任多型を同定することの障害となっている。
【0005】
一般的に、疾患の発症機序の解明や有効な治療薬の開発には、当該疾患の動物モデルが有効なツールとされている。しかし、残念ながら、AMDを忠実に再現する動物モデルは未だ報告されていない。そこで、AMDの疾患動物モデルの代替として、過剰な光照射にて網膜変性を生じるラットの網膜光障害実験モデル(非特許文献2参照。)が歴史的に多用されてきた。ラットには黄斑がないが、この網膜光障害実験モデルは、病理・生化学的知見にはAMDと多くの共通点がある。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Katta,et al.,Journal of Genetics、2009年、第88巻、第4号、第425~449ページ。
【非特許文献2】Noell,et al.,Investigative Ophthalmology、1966年、第5巻、第5号、第450~473ページ。
【非特許文献3】Zhang, et al.,Chemistry & Biology、2007年、第14巻、第3号、第291~302ページ。
【非特許文献4】Huang, et al.,NATURE CHEMICAL BIOLOGY、2016年、第12巻、第8号、第621~627ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AMDの発症前にその発症リスクが評価できれば、環境の改善や早期発見等により、AMDの予防や治療をより効率よく行うことが可能になる。
そこで、本発明は、AMDの発症リスクを評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ラットの網膜光障害実験モデルを解析して、ラットのPank4(パントテン酸キナーゼ-4)遺伝子(rPank4遺伝子)が網膜光障害感受性の系統差に関わる遺伝子であることを見出した。そして、ヒトの相同遺伝子PANK4(hPANK4)の遺伝子多型について、AMD患者群とAMDを発症していない白内障患者群を比較したところ、特定のハプロタイプがAMD患者群において高頻度に認められることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下のAMDの発症リスクの評価方法を提供するものである。
[1] hPANK4遺伝子上の遺伝子多型のうち、rs7535528及びrs2494620の遺伝子型に基づいてヒト被験者のAMDの発症リスクを評価する評価工程を有し、
前記評価工程において、前記ヒト被検者が、
rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルを2本有する場合、
rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルと、rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルとを有する場合、又は
rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がGであるアレルを少なくとも1本有する場合に、
当該ヒト被検者のAMDの発症リスクは高いと評価することを特徴とする、AMDの発症リスクの評価方法。
[2] 前記加齢黄斑変性が、典型AMD又はポリープ状脈絡膜血管症である、前記[1]のAMDの発症リスクの評価方法。
[3] 前記ヒト被検者が女性であり、前記AMDがポリープ状脈絡膜血管症である、前記[1]のAMDの発症リスクの評価方法。
[4] 前記ヒト被検者が男性であり、前記AMDが典型AMDである、前記[1]のAMDの発症リスクの評価方法。
[5] 前記ヒト被検者が日本人である、前記[1]~[4]のいずれかのAMDの発症リスクの評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るAMDの発症リスクの評価方法により、発症前にその発症リスクを評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るAMDの発症リスクの評価方法(以下、「本発明に係るリスク評価方法」ということがある。)は、hPANK4遺伝子上の遺伝子多型のうち、rs7535528及びrs2494620の遺伝子型に基づいてヒト被験者のAMDの発症リスクを評価する評価工程を有する。より詳細には、本発明に係るリスク評価方法は、hPANK4遺伝子上のrs7535528及びrs2494620(NCBI(National Center for Biotechnology Information)のSNPデータベース(dbSNP BUILD124)のリファレンス番号)のハプロタイプをバイオマーカーとする。

【0012】
hPANK4遺伝子は1番染色体短腕テロメア近傍に位置し、rPank4遺伝子と同様に19個のエキソンで構成されており、眼を含め様々な臓器・組織で発現している。PANK4は、PANK1α、PANK1β、PANK2、PANK3とともにPANKファミリーを形成している。PANK1~3はPANKドメインをもち、パントテン酸(ビタミンB)のリン酸化を触媒してパントテン酸-4’-リン酸を生成する酵素として、補酵素A(CoA)生合成経路の第1段階を担う。一方、PANK4は、N末側にPANKドメインと配列同一性の高いドメインを持ち、その下流にDUF89(Domain of Unknown Function-89)ドメインを持つが、パントテン酸に対するリン酸化活性はなく(非特許文献3参照。)、DUF89ドメインにより、パンテテイン酸-4’-リン酸などに対する脱リン酸化活性を有する(非特許文献4参照。)。

【0013】
rs7535528及びrs2494620は、どちらもhPANK4遺伝子上のアミノ酸置換を伴うコモンSNP(一般集団に高頻度(通常、マイナーアレル頻度が1%以上)で見られる一塩基多型)である。rs7535528は、hPANK4遺伝子の第13エキソンにあるC(シトシン)/T(チミン)多型である。hPANK4の555位のアミノ酸は、rs7535528がCの場合にアラニン(A)であり、Tの場合にバリン(V)である。rs2494620は、hPANK4遺伝子の第18エキソンにあるA(アデニン)/G(グアニン)多型である。hPANK4の692位のアミノ酸は、rs2494620がAの場合にグルタミン(Q)であり、Gの場合にアルギニン(R)である。

【0014】
rs7535528及びrs2494620は、いずれも単独ではAMD発症と有意な関連はない。しかし、rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルを保有しているヒトは、当該アレルを保有していないヒトよりも、AMDの発症リスクが統計学的に有意に高い。具体的には、ヒト被検者が、rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルを2本有する場合、又は、rs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルと、rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルとを有する場合、又は、rs7535528の遺伝子型がTであり、かつrs2494620の遺伝子型がGであるアレルを少なくとも1本有する場合に、当該ヒト被検者のAMDの発症リスクは高いと評価する。2本のアレルのうちの1本がrs7535528の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がAであるアレルであっても、残る1本のアレルがrs2494620の遺伝子型がCであり、かつrs2494620の遺伝子型がGである遺伝子型は、AMD発症リスクとの相関はない。

【0015】
なお、以降において、rs7535528の遺伝子型がC(以下、「rs7535528[C]」)であり、かつrs2494620の遺伝子型がA(以下、「rs2494620[A]」)であるアレルを「C-Aハプロタイプ」ということがある。また、rs7535528[C]であり、かつrs2494620の遺伝子型がG(以下、「rs2494620[G]」)であるアレルを「C-Gハプロタイプ」と、rs7535528の遺伝子型がT(以下、「rs7535528[T]」)であり、かつrs2494620[A]であるアレルを「T-Aハプロタイプ」と、rs7535528[T]であり、かつrs2494620[G]であるアレルを「T-Gハプロタイプ」と、それぞれいうことがある。

【0016】
ハプロタイプ情報のあるデータベースである1000 Genomes(NCBI)のデーターによれば、T-Gハプロタイプは、全世界で2535人中1人と極めて低頻度(0.0002)であったことから、残る3種類のハプロタイプ(C-Aハプロタイプ、T-Aハプロタイプ、C-Gハプロタイプ)でほぼ全ての人類が構成されている。しかし、本発明者らの研究では、464人の被験者の内、T-GハプロタイプとC-Gハプロタイプの組み合わせを有する披検者が4人存在したが、その全員がAMD患者であり、またC-Gハプロタイプのホモ接合体を有する被験者はAMD発症と関連が認められなかった(表6)ため、T-Gハプロタイプの検出は重要であると考えられる。また、人種ごとのC-Aハプロタイプを保有するヒトの割合は、日本人は14.4%、南亜人は26.3%7、中南米人は34.1%、白人は47.7%である。つまり、本発明に係るリスク評価方法は、日本人をはじめ様々な人種の被験者に対して実施できる。

【0017】
AMDには、日本人に多い「滲出型」と欧米人に多い「萎縮型」に分類される。滲出型AMDは更に、従来より知られている典型AMD(tAMD)と新しい病型であるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などに分けられ、日本人のAMDの大半はtAMDとPCVである。すなわち、本発明に係るリスク評価方法により、評価対象であるヒト被検者が、tAMD又はPCVの発症リスクを評価することができる。ヒト被検者が、C-Aハプロタイプのホモ接合体である場合、C-AハプロタイプとT-Aハプロタイプのヘテロ接合体である場合、又は、T-Gハプロタイプのアレルを少なくとも1本有する接合体である場合に、当該ヒト被検者は、tAMD又はPCVの発症リスクが高いと評価する。

【0018】
ヒト被検者が女性の場合には、rs7535528及びrs2494620のハプロタイプは特にPCVと非常に高い相関を有する。すなわち、本発明に係るリスク評価方法により、ヒト女性被検者が、C-Aハプロタイプのホモ接合体である場合、C-AハプロタイプとT-Aハプロタイプのヘテロ接合体である場合、又はT-Gハプロタイプのアレルを少なくとも1本有する接合体である場合に、当該ヒト女性被検者はPCVの発症リスクが高いと評価できる。

【0019】
ヒト被検者が男性の場合には、rs7535528及びrs2494620のハプロタイプは特にtAMDと相関を有する。すなわち、本発明に係るリスク評価方法により、ヒト男性被検者が、C-Aハプロタイプのホモ接合体である場合、C-AハプロタイプとT-Aハプロタイプのヘテロ接合体である場合、又はT-Gハプロタイプのアレルを少なくとも1本有する接合体である場合に、当該ヒト男性被検者はtAMDの発症リスクが高いと評価できる。

【0020】
本発明に係るリスク評価方法を行うために、ヒト被検者のゲノムDNAのうち、rs7535528及びrs2494620のハプロタイプの遺伝子型を特定しておく必要がある。rs7535528及びrs2494620のハプロタイプの遺伝子型を特定する方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の方法の中から適宜選択することができる。ハプロタイプの遺伝子型を特定する方法としては、例えば、サンガー法を基礎とするダイレクト・シーケンス解析法、特定のアレルと特異的にハイブリダイズするプローブを用いたハイブリダイゼーション法、特定のアレルと特異的にハイブリダイズするプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅産物を解析する方法等が挙げられる。なお、各SNPの遺伝子型の特定に用いられるプローブやプライマー等の核酸分子は、例えば、ヒトゲノム上のhPANK4遺伝子領域中の各SNPが存在する部分の塩基配列情報や、hPANK4遺伝子のmRNAの塩基配列情報に基づき、常法により設計し、合成することができる。

【0021】
ハプロタイプ解析は、ダイレクト・シーケンス解析法で実施可能である。具体的には、まず、ダイレクト・シーケンス解析法を用いてrs7535528とrs2494620の遺伝子型を調べる。rs7535528及びrs2494620のハプロタイプの遺伝子型は、rs7535528の3種類の遺伝子型(C|C、C|T、T|T)及びrs2494620の3種類の遺伝子型(A|A、A|G、G|G)の組み合わせにより、9種類の組み合わせの可能性が存在する。この組み合わせから、下記(1)~(3)の3種類の方法で、ハプロタイプの組み合わせを検討する。

【0022】
(1)rs7535528とrs2494620の遺伝子型の両方がホモ接合体の場合は、ハプロタイプもホモ接合体となる。rs7535528の遺伝子型がC|Cであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Aであるハプロタイプの組み合わせはC-A|C-Aディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がC|Cであり、かつrs2494620の遺伝子型がG|Gであるハプロタイプの組み合わせはC-G|C-Gディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がT|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Aであるハプロタイプの組み合わせはT-A|T-Aディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がT|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がG|Gであるハプロタイプの組み合わせはT-G|T-Gディプロタイプとなる。

【0023】
(2)rs7535528とrs2494620の遺伝子型の何れかがホモ接合体であり、かつ残りがヘテロ接合体である場合は、ハプロタイプもヘテロ接合体となる。rs7535528の遺伝子型がC|Cであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであるハプロタイプの組み合わせはC-A|C-Gディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がT|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであるハプロタイプの組み合わせはT-A|T-Gディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がC|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Aであるハプロタイプの組み合わせはC-A|T-Aディプロタイプとなり、rs7535528の遺伝子型がC|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がG|Gであるハプロタイプの組み合わせはC-G|T-Gディプロタイプとなる。

【0024】
(3)rs7535528とrs2494620の遺伝子型の双方がヘテロ接合体の場合は、ハプロタイプの決定が困難となる。rs7535528の遺伝子型がC|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであるハプロタイプの組み合わせは、C-A|T-GディプロタイプとT-A|C-Gディプロタイプの2種類の可能性が発生する。通常は、それぞれのハプロタイプの組み合わせが50%の確率で発生する。しかし、rs7535528及びrs2494620のハプロタイプの場合には、C-Aハプロタイプ、T-Aハプロタイプ、及びC-Gハプロタイプの3種類でほぼ全ての人類が構成されているという特徴から、ほぼ全員がT-A|C-Gディプロタイプと判断できることになる。実際に、ハプロタイプ情報のある1000 Genomesのデーターにおいては、全世界の2535人中392人がrs7535528の遺伝子型がC|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであるハプロタイプの組み合わせを有するが、392人全員がT-A|C-Gディプロタイプであった。しかし、個人での遺伝子検査のためには、C-A|T-Gディプロタイプである可能性について精査する必要がある。

【0025】
hPANK4遺伝子の第13エキソンと第14エキソンの間のイントロンにあるrs744112は、rs7535528の188bp下流にあり、かつrs2494620の2868bp上流にあるSNPである。また、rs744112はrs2494620と連鎖するSNPである。rs2494620がAであるアレルではrs744112はGであり、rs2494620がGであるアレルではrs744112はAである。ヒト被験者のrs7535528、rs744112、及びrs2494620の3つの遺伝子型を調べることにより、rs7535528の遺伝子型がC|Tであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであるハプロタイプの組み合わせが、(1)T-A|C-Gディプロタイプである、(2)T-A|C-GディプロタイプとC-A|T-Gディプロタイプの両方の可能性を残す、のいずれの可能性が高いかについて決定することが可能となる。

【0026】
本発明者らの研究では、464人の被験者の内の1人(AMD患者)で、rs7535528の遺伝子型がC|Tであり、rs744112の遺伝子型がG|Gであり、かつrs2494620の遺伝子型がA|Gであって、rs744112とrs2494620の遺伝子型が対応しなかった。このことから、当該AMD患者では、rs744112とrs2494620間において片側のアレルにおいて組換えが起きていたことが示された。このタイプの被験者だけはダイレクト・シーケンス解析法ではディプロタイプ(ハプロタイプの組み合わせ)を決定できないため、更に別の方法により解析するか、T-A|C-GディプロタイプとC-A|T-Gディプロタイプの2つの可能性を提示しなければならない。

【0027】
このように、rs744112を解析対象に追加することにより、ハプロタイプ解析のために、ダイレクト・シーケンス解析法とは別の方法を必要とする症例数を、464分の1に減らすことができている。

【0028】
rs7535528とrs2494620のハプロタイプの特定に供される被験者由来の核酸は、被験者のゲノムDNAのうち、hPANK4遺伝子領域の塩基配列、又はhPANK4遺伝子領域の部分領域であってrs7535528及びrs2494620の遺伝子型が反映されている領域の塩基配列が反映されている核酸が含まれていればよい。このような核酸としては、例えば、被験者のゲノムDNAや、ゲノムDNAを鋳型としてその部分領域をPCR等により増幅させた増幅産物が挙げられる。被験者のゲノムDNAは、被験者から採取された生体試料から抽出・精製された核酸であってもよく、精製前の核酸であってもよい。

【0029】
なお、rs7535528とrs2494620のハプロタイプの特定に用いられるプローブやプライマー等の核酸分子をキット化することにより、本発明に係るリスク評価方法をより簡便に行うことができる。なお、これらの核酸分子は、発症リスクの評価キットに、乾燥粉末として含まれていてもよく、水やTrisバッファー等の適当な溶媒に溶解させた溶液として含まれていてもよく、基板に固定された状態で含まれていてもよい。また、発症リスクの評価キットには、被験者から採取された生体試料から核酸を抽出・精製するための試薬や器具等を含ませることも好ましい。
【実施例】
【0030】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[参考例1]
本発明者らは、過剰な光照射にて網膜変性を生じるラットの網膜光障害実験モデル(非特許文献2)を解析し、網膜光障害の感受性を支配する原因遺伝子及び多型を同定した。網膜光障害の表現型解析は、モリス水迷路試験(プール内を標的まで泳ぐ所要時間を測定する行動学的視機能査定法)と眼病理観察により行い、遺伝子型解析は系統特異的多型のタイピングにより行った。
【実施例】
【0032】
具体的には、まず、網膜光障害感受性であるWKY/Izm(以下、WKY)系統と、網膜光障害耐性であるLEW/SsNSlc(以下、LEW)系統とを交配したところ、得られたF-1個体は雌雄ともに網膜光障害感受性であり、網膜光障害感受性は網膜光障害耐性に対して優性であった。そこで、このF-1個体に対してLEW系統の個体を交配する戻し交配(BC)を行い、感受性個体を選択した。このBCを9世代繰り返し、得られた感受性個体の遺伝子型解析を行ったところ、WKY系統が保有する網膜光障害感受性の原因遺伝子が存在する領域が、ラット5番染色体q36内の284kb領域内に絞り込まれた。網膜光障害感受性であるF344/NSlc系統を加えた3系統間で、当該領域を含む約4Mbの遺伝子領域(D5Uwm50から5番染色体長腕テロメア(5qter)まで)について領域限定エキソーム解析を行い、各系統の表現型-遺伝子型の比較解析を行ったところ、3系統の持つ遺伝子型と表現型の関係に整合性を示す遺伝子としてrPank4遺伝子が同定された。
【実施例】
【0033】
LEW系統では、rPank4遺伝子の第19エキソン上のフレームシフト挿入欠失変異[c.2160_2163delTGGTinsACCAG(p.Val721GlyfsX20)]が生じており、当該変異により、rPank4タンパク質のC末端の54アミノ酸部分が、アミノ酸配列の異なる21アミノ酸からなる部分に置換される。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
rPank4遺伝子の相同遺伝子であるhPANK4遺伝子の遺伝子多型と、AMDの発症との関係を調べた。
【実施例】
【0035】
まず、日本人健常者のゲノム配列を解析したデータベースであるHGVD(Human genetic variation database、京都大学)及び1000 Genomesのデーターを調べたところ、日本人のhPANK4遺伝子には、アミノ酸が置換するコモンSNPとして、rs7535528とrs2494620があることがわかった。そこで、ヒトのAMD患者(333検体、AMD群)とAMDを発症していない対照者(131検体、対照群)の血液検体から抽出したゲノムDNAに対してダイレクト・シーケンス解析を行い、両SNPの遺伝子型を特定した。対照者は主に白内障患者とした。
【実施例】
【0036】
血液検体からのゲノムDNAの抽出・精製は、市販の核酸抽出・精製キット(製品名:「Relia Prep Blood gDNA MiniPrep System」、プロメガ社製)を用いて行った。遺伝子型の特定は、以下の通りで行った。まず、調製されたゲノムDNAをテンプレートとして、ベタイン(1M)存在下、DNAポリメラーゼ(製品名:「KOD Plus ver. 2」、ToYoBo社製)を用いたPCR反応による増幅を行った。次いで、PCR精製試薬(製品名:「Exo-SAP-IT」、affymetrics社製)を用いて、得られた増幅産物中のプライマーとdNTPを分解処理した後、蛍光色素(製品名:「BigDye(登録商標)」、ThermoFisher社製)を用いて蛍光標識したDNA鎖を合成した。得られたDNA鎖は、ゲルろ過クロマトグラフィー法(充填材:セファデックスG25)により精製した後、96℃でのホルムアミド処理及びその後の急冷処理によって変性させた後に、キャピラリー・シーケンサー(ABI社製)にて解析した。
【実施例】
【0037】
得られたシーケンス・データーは、コンピューター上で波形表示ソフトウェア「FinchTV」により波形をディスプレイ上に表示させ、また、核酸配列自動結合ソフトウェア「ATSQ」によりマルチプル・アライメント表示させ、各SNPタイピング及び波形の形状を確認した。SNPデーターは、χ検定などの統計手法を用いてデーター解析した。また、2種類のSNPデーターは、それぞれのアレル頻度、遺伝子型頻度に加え、ハプロタイプ頻度、ハプロタイプの組み合わせ(ディプロタイプ)頻度についても解析した。
【実施例】
【0038】
各SNPの遺伝子型とAMDの発症との関連を解析した結果を表1に示す。表中、「OR」はオッズ比を、「95%CI」は95%信頼区間を、「HWE」はHardy-Weinberg平衡を、それぞれ意味する。また、「AMD群(333検体)」と「対照群(131検体)」と「HWE(P値)」の欄における「Riskアレル」は、「rs7535528」欄ではTアレルを、「rs2494620」欄ではGアレルを、それぞれ意味する。一方で、「AMD群(検体数)」と「対照群(検体数)」と「HWE(P値)」の欄における「正常アレル」は、「rs7535528」欄ではCアレルを、「rs2494620」欄ではAアレルを、それぞれ意味する。
【実施例】
【0039】
【表1】
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【実施例】
【0040】
表1に示すように、いずれのSNPも、単独ではAMD発症との有意な関連は認められなかった。さらに、AMD群と対照群の検体に対して、性別や病型(tAMD、PCV)の臨床情報を追加して統計解析を行ったが、男女のいずれにおいても、両SNPは単独では、AMD発症との有意な関連は認められず、tAMD発症及びPCV発症との有意な関連も認められなかった。このように、両SNPが単独ではAMD発症と有意な関連がないことが、これまでのGWAS(ゲノムワイド関連解析)などを用いた大規模研究では、AMD発症の原因遺伝子としてPANK4遺伝子を同定できなかった理由と考えられた。
【実施例】
【0041】
次いで、両SNPの遺伝子型をペアとして、すなわちハプロタイプに分離して集計し直した。結果を表2に示す。表の「AMD群(333検体)」と「対照群(131検体)」の欄における「対象のハプロタイプ」の欄は、各列に示すハプロタイプが各群の全検体に存在する数を意味し、「その他のハプロタイプ」の欄は、各列に示すハプロタイプ以外の全ハプロタイプが各群の全検体に存在する数を意味する。表の「HWE(P値)」の欄における「AMD群」の欄は、AMD群における各列に示すハプロタイプのHWEのP値を示し、「対照群」の欄は、対照群における各列に示すハプロタイプのHWEのP値を示す。
【実施例】
【0042】
【表2】
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【実施例】
【0043】
4種のハプロタイプとAMD罹患感受性の関係を調べた結果、表2に示す通り、対照群のHWEのP値が0.05以上のもとで、C-AハプロタイプのP値が0.05未満であり、統計学的な有意差を示した。そこで、C-Aハプロタイプについて、さらに、性別や病型(tAMD、PCV)の臨床情報を追加して統計解析を行った。結果を表3~5に示す。この結果、C-Aハプロタイプは、AMD発症、特に女性のPCVの発症と強い関連を示した。
【実施例】
【0044】
【表3】
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【実施例】
【0045】
【表4】
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【実施例】
【0046】
【表5】
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【実施例】
【0047】
さらに、rs7535528とrs2494620のハプロタイプの組み合わせとAMD発症との関連を調べた。結果を表6~7に示す。表中、「組み合わせ」はハプロタイプの組み合わせを意味する。表の「AMD群(333検体)」と「対照群(131検体)」の欄における「対象の組み合わせ」の欄は、各列に示すハプロタイプの組み合わせが各群の全検体に存在する数を意味し、「その他の組み合わせ」の欄は、各列に示すハプロタイプの組み合わせ以外の全ハプロタイプの組み合わせが各群の全検体に存在する数を意味する。C-A|T-Gは、C-G|T-Aとの区別が未確定であるため、表7には含めなかった。
【実施例】
【0048】
【表6】
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【実施例】
【0049】
【表7】
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【実施例】
【0050】
この結果、C-AハプロタイプとC-Aハプロタイプの組み合わせ(C-Aハプロタイプのホモ接合体。以下、「C-A|C-Aディプロタイプ」ということがある。)及びC-AハプロタイプとT-Aハプロタイプの組み合わせ(C-AハプロタイプとT-Aハプロタイプのヘテロ接合体。以下、「C-A|T-Aディプロタイプ」ということがある。)は、AMD発症と有意な関連を示した。T-Gハプロタイプを少なくとも1本有する接合体はP値が大きく、統計学的な有意差は確認できなかった。しかし、T-Gハプロタイプ自体が低頻度であり、T-Gハプロタイプを保有する検体はAMD群で4検体、対照群で0検体であったことから、T-Gハプロタイプを少なくとも1本有する接合体については、この結果のみからは関連の有無の判断には適さなかった。一方で、C-AハプロタイプとC-Gハプロタイプの組み合わせ(C-AハプロタイプとC-Gハプロタイプのヘテロ接合体。以下、「C-A|C-Gディプロタイプ」ということがある。)は、AMD発症との関連が認められなかった(OR=0.90、P値=0.737)。
【実施例】
【0051】
次いで、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-Aディプロタイプのいずれかを保有する被験者におけるC-AハプロタイプとAMD発症の関連と、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-AディプロタイプとT-G|C-Gディプロタイプのいずれかを保有する被験者における、C-Aハプロタイプ及びT-GハプロタイプとAMD発症の関連を調べた。さらに、性別や病型(tAMD、PCV)の臨床情報を追加して統計解析を行った。C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-Aディプロタイプのいずれかを保有する被験者における結果を表8~10に、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-AディプロタイプとT-G|C-Gディプロタイプのいずれかを保有する被験者における結果を表11~13に、それぞれ示す。
【実施例】
【0052】
【表8】
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【実施例】
【0053】
【表9】
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【実施例】
【0054】
【表10】
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【実施例】
【0055】
【表11】
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【実施例】
【0056】
【表12】
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【実施例】
【0057】
【表13】
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【実施例】
【0058】
この結果、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-AディプロタイプにおけるC-Aハプロタイプと、T-G|C-GディプロタイプにおけるT-Gハプロタイプは、AMD発症との関連が認められ(OR=3.44、P値=6.2×10-4)、特に、女性のAMD発症との関連を示した(OR=4.69、P値=1.1×10-3)。また、PCV発症との関連を性別に分けて検討したところ、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-AディプロタイプとC-A|T-Gディプロタイプは、女性におけるPCV発症に対して更に強い関連を示した(OR=6.26、P値=3.3×10-4)。一方で、tAMD発症との関連を性別に分けて検討したところ、C-A|C-AディプロタイプとC-A|T-AディプロタイプとT-G|C-Gディプロタイプは、男性におけるtAMD発症に対して弱い関連を示した(OR=3.12、P値=0.0572)。