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明細書 :シス-アルケンの製造装置及び製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-131688 (P2018-131688A)
公開日 平成30年8月23日(2018.8.23)
発明の名称または考案の名称 シス-アルケンの製造装置及び製造方法
国際特許分類 C25B   9/00        (2006.01)
C25B   3/04        (2006.01)
C25B  11/08        (2006.01)
FI C25B 9/00 G
C25B 3/04
C25B 11/08 Z
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2018-021153 (P2018-021153)
出願日 平成30年2月8日(2018.2.8)
優先権出願番号 2017027125
優先日 平成29年2月16日(2017.2.16)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】橋本 康嗣
【氏名】佐藤 康司
【氏名】跡部 真人
【氏名】深澤 篤
【氏名】簑島 樹里
出願人 【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100105924、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 賢樹
審査請求 未請求
テーマコード 4K011
4K021
Fターム 4K011AA31
4K011BA07
4K011DA10
4K021AC02
4K021DB16
4K021DB20
4K021DB43
4K021DB53
要約 【課題】シス-アルケンの新規な製造技術を提供する。
【解決手段】シス-アルケンの製造装置10は、固体高分子形電解ユニット100と、固体高分子形電解ユニット100にアルキンを供給する供給部34とを備える。固体高分子形電解ユニット100は、アルキンを電解還元してシス-アルケンを製造する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
固体高分子形電解ユニットと、
前記固体高分子形電解ユニットにアルキンを供給する供給部と、を備え、
前記固体高分子形電解ユニットは、前記アルキンを電解還元してシス-アルケンを製造することを特徴とするシス-アルケンの製造装置。
【請求項2】
前記固体高分子形電解ユニットは、アノード触媒層を含むアノードと、カソード触媒層を含むカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に設けられる固体高分子電解質膜とを有し、
前記供給部は、前記カソードに前記アルキンを供給する請求項1に記載のシス-アルケンの製造装置。
【請求項3】
前記カソード触媒層は、Pd,Ir,Ag,Auからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む請求項2に記載のシス-アルケンの製造装置。
【請求項4】
前記カソード触媒層は、Pdを含む請求項3に記載のシス-アルケンの製造装置。
【請求項5】
前記カソードの電位を、前記アルキンの理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲に調整する制御部をさらに備える請求項2乃至4のいずれか1項に記載のシス-アルケンの製造装置。
【請求項6】
前記固体高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸を含む請求項2乃至5のいずれか1項に記載のシス-アルケンの製造装置。
【請求項7】
固体高分子形電解ユニットを用いてアルキンを電解還元し、シス-アルケンを製造することを含むことを特徴とするシス-アルケンの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シス-アルケンの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一部のシス-アルケン、言い換えればシス-オレフィンは、香料等に用いられる有用な化学物質であることが知られている。例えば、特許文献1には、アルキンを蟻酸還元することでシス-アルケンを製造する化学プロセスが開示されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平5-255128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述したシス-アルケンの製造について鋭意検討を重ねた結果、シス-アルケンの新規な製造技術に想到した。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、シス-アルケンの新規な製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、シス-アルケンの製造装置である。当該製造装置は、固体高分子形電解ユニットと、固体高分子形電解ユニットにアルキンを供給する供給部と、を備える。固体高分子形電解ユニットは、アルキンを電解還元してシス-アルケンを製造する。
【0007】
本発明の他の態様は、シス-アルケンの製造方法である。当該製造方法は、固体高分子形電解ユニットを用いてアルキンを電解還元し、シス-アルケンを製造することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シス-アルケンの新規な製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態に係るシス-アルケンの製造装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】固体高分子形電解ユニットの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に用いられる「第1」、「第2」等の用語は、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。

【0011】
図1は、実施の形態に係るシス-アルケンの製造装置の概略構成を示す模式図である。なお、図1では、固体高分子形電解ユニットの構造を簡略化して図示している。シス-アルケンの製造装置10は、アルキンを電解還元してシス型のアルケンを製造する装置であり、固体高分子形電解ユニット100、電力制御部20、基質貯蔵槽30、水素貯蔵槽40及び制御部60を備える。以下では適宜、シス-アルケンの製造装置10を、単に「製造装置10」と記す。

【0012】
電力制御部20は、例えば、電力源の出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータである。電力制御部20の正極出力端子は、固体高分子形電解ユニット100のアノード(陽極)130に接続される。電力制御部20の負極出力端子は、固体高分子形電解ユニット100のカソード(負極)120に接続される。これにより、固体高分子形電解ユニット100のアノード130とカソード120との間に所定の電圧が印加される。

【0013】
電力制御部20には、正及び負極の電位検知の目的で参照極が設けられていてもよい。この場合、参照極入力端子は、固体高分子電解質膜110に設けられる参照電極112に接続される。参照電極112は、固体高分子電解質膜110におけるカソード120及びアノード130から離間した領域に、固体高分子電解質膜110に接するように設けられる。参照電極112は、カソード120及びアノード130から電気的に隔離されている。参照電極112は、参照電極電位に保持される。本願における参照電極電位は、可逆水素電極(RHE)に対する電位を意味するものとする(参照電極電位=0V)。なお、参照電極電位は、Ag/AgCl電極に対する電位であってもよい(参照電極電位=0.199V)。なお、参照電極112は、固体高分子電解質膜110におけるカソード120側の表面に設置されることが好ましい。

【0014】
カソード120とアノード130との間を流れる電流は、電流検出部113によって検出される。電流検出部113は、例えば従来公知の電流計で構成される。電流検出部113で検出された電流値は、制御部60に入力され、制御部60による電力制御部20の制御に用いられる。参照電極112とカソード120との間の電位差は、電圧検出部114によって検出される。電圧検出部114は、例えば従来公知の電圧計で構成される。電圧検出部114で検出された電位差の値は制御部60に入力され、制御部60による電力制御部20の制御に用いられる。

【0015】
制御部60は、カソード120の電位を所定の電位に調整する。制御部60は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。このことは、当業者には当然に理解されるところである。制御部60は、カソード120の電位が所定の電位となるように、電力制御部20の正極出力端子及び負極出力端子の出力を制御する。

【0016】
基質貯蔵槽30には、基質としてのアルキンが貯蔵される。本実施の形態で用いられるアルキンは、特に限定されるものではないが、例えば下記式(1)で表される。
-C≡C-R (1)
[式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。アルキル基およびアリール基は、官能基を有してもよい。]
基質としてのアルキンは、1種類が単独で用いられてもよいし、複数種類が組み合わせて用いられてもよい。

【0017】
基質が常温で固体である場合や粘性が高い場合等、基質をそのままの状態で電解反応に供せない場合には、基質を溶媒で希釈してもよい。溶媒は、特に限定されない。しかしながら、溶媒が電極に付着したり電解反応で還元されたりすると、基質の電解反応が阻害され得る。このため、溶媒は、基質の電解反応を阻害することなく基質を反応点に送り届けられるものが好ましい。例えば、好適な溶媒としては、極性の低い溶媒が挙げられる。溶媒の極性を抑えることで、溶媒が電極に付着することを抑制することができる。このため、溶媒を介して基質が電極触媒に過剰に吸着することを回避でき、よって、還元反応が進み過ぎることを回避することができる。その結果、目的物であるシス-アルケンの収率を高めることができる。

【0018】
好ましい溶媒の具体例としては、メチルシクロヘキサン、トルエン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、メチルシクロヘキサンとトルエンとがより好ましく、メチルシクロヘキサンが最も好ましい。なお、基質が常温で液体であり、且つ電解反応に供することができる程度に粘性が低い場合には、溶媒は省略することができる。

【0019】
基質貯蔵槽30に貯蔵されたアルキンは、第1供給装置32によって固体高分子形電解ユニット100のカソード120に供給される。基質貯蔵槽30と第1供給装置32とは、固体高分子形電解ユニット100にアルキンを供給する供給部34を構成する。第1供給装置32としては、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。

【0020】
基質貯蔵槽30とカソード120との間には、循環経路36が設けられる。循環経路36は、基質の流れにおけるカソード120の上流側で基質貯蔵槽30とカソード120とをつなぐ往路部36aと、基質の流れにおけるカソード120の下流側でカソード120と基質貯蔵槽30とをつなぐ復路部36bとを含む。往路部36aの途中には、第1供給装置32が設けられる。

【0021】
供給部34は、往路部36aを介してカソード120にアルキンを供給する。カソード120において還元されたアルキンの還元物と、未反応のアルキンとは、復路部36bを経て基質貯蔵槽30に戻される。なお、カソード120で進行する主反応ではガスは発生しないが、水素等のガスが副生する場合には復路部36bの途中に気液分離手段を設けてもよい。また、復路部36bは設けられなくてもよい。

【0022】
水素貯蔵槽40には、例えば加湿された水素ガスが貯蔵される。以下では適宜、加湿された水素ガスを、単に「水素ガス」と記す。水素ガスの露点温度は、例えば室温~100℃であり、より好ましくは50~100℃である。水素貯蔵槽40に貯蔵された水素ガスは、第2供給装置42によって固体高分子形電解ユニット100のアノード130に供給される。第2供給装置42としては、例えば各種のガスフローコントローラー、または自然流下式装置等を用いることができる。

【0023】
水素貯蔵槽40とアノード130との間には、循環経路44が設けられる。循環経路44は、水素ガスの流れにおけるアノード130の上流側で水素貯蔵槽40とアノード130とをつなぐ往路部44aと、水素ガスの流れにおけるアノード130の下流側でアノード130と水素貯蔵槽40とをつなぐ復路部44bとを含む。往路部44aの途中には、第2供給装置42が設けられる。

【0024】
水素ガスは、往路部44aを介してアノード130に供給される。アノード130において未反応の水素ガスは、復路部44bを経て水素貯蔵槽40に戻される。また、復路部44bは設けられなくてもよい。

【0025】
図2は、固体高分子形電解ユニット100の概略構成を示す断面図である。本実施の形態の固体高分子形電解ユニット100は、フィルム形状の電解質膜の一方の側にアノード室を、他方の側にカソード室をそれぞれ有する固体高分子形電解槽である。より具体的には、固体高分子形電解ユニット100は、膜電極接合体102と、膜電極接合体102を挟む一対のセパレータ150a,150bとを備える。膜電極接合体102は、固体高分子電解質膜110と、カソード120と、アノード130とを有する。

【0026】
固体高分子電解質膜110は、アノード130とカソード120との間に設けられる。固体高分子電解質膜110は、プロトン伝導性を有する材料(アイオノマー)で形成される。固体高分子電解質膜110は、プロトンを選択的に伝導する一方で、カソード120とアノード130との間で物質が混合したり拡散したりすることを抑制する。固体高分子電解質膜110の厚さは、例えば5~300μmである。固体高分子電解質膜110の厚さを5μm以上とすることで、固体高分子電解質膜110のバリア性を確保して、アルキン等のクロスリークの発生をより確実に抑制することができる。また、固体高分子電解質膜110の厚さを300μm以下とすることで、イオン移動抵抗が過大になることを抑制することができる。

【0027】
固体高分子電解質膜110は、プロトン伝導性を有する材料として、好ましくはパーフルオロスルホン酸を含む。例えば固体高分子電解質膜110は、パーフルオロスルホン酸のポリマーで構成され、当該ポリマーとしてはナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標)などが例示される。固体高分子電解質膜110には、多孔性のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の補強材が混合されてもよい。補強材を導入することで、固体高分子電解質膜110の寸法安定性を高めることができる。これにより、固体高分子電解質膜110の耐久性を向上させることができる。また、アルキン等のクロスオーバーを抑制することができる。

【0028】
カソード120は、アルキンを還元してシス-アルケンを生成するための電極であり、固体高分子電解質膜110の一方の側に配置される。本実施の形態では、カソード120は固体高分子電解質膜110の一方の主表面に接するように設けられている。カソード120は、カソード触媒層122及び拡散層124が積層された構造を有する。カソード触媒層122は、拡散層124よりも固体高分子電解質膜110側に配置される。

【0029】
カソード触媒層122は、固体高分子電解質膜110の一方の主表面に接している。カソード触媒層122は、プロトンでアルキンを水素化するための触媒金属を含む。好ましくは、カソード触媒層122は、Pd,Ir,Ag,Auからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む。より好ましくは、カソード触媒層122は、Pdを含む。カソード触媒層122がこれらの触媒金属を含むことで、シス-アルケンを高選択的に製造することができる。

【0030】
触媒金属は、電子伝導性材料で構成される触媒担体によって担持される。触媒金属を触媒担体に担持させることで、カソード触媒層122の表面積を拡大することができる。また、触媒金属の凝集を抑制することができる。触媒担体に用いられる電子伝導性材料の電子伝導度は、好ましくは1.0×10-2S/cm以上である。電子伝導性材料の電子伝導度を1.0×10-2S/cm以上とすることで、カソード触媒層122に対してより確実に電子伝導性を付与することができる。

【0031】
触媒担体としては、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物のいずれかを主成分として含有する電子伝導性材料を挙げることができる。多孔性カーボンとしては、例えばケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、ファーネスブラック、バルカン(登録商標)などのカーボンブラックが挙げられる。多孔性金属としては、例えばPtブラック、Pdブラック、フラクタル状に析出させたPt金属などが挙げられる。多孔性金属酸化物としては、例えばTi、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの酸化物が挙げられる。また、触媒担体には、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、部分酸化した炭窒化物といった、多孔性の金属化合物も用いることができる。

【0032】
触媒金属を担持した状態の触媒担体は、アイオノマーで被覆される。これにより、カソード120のイオン伝導性を向上させることができる。アイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマー等を挙げることができる。なお、カソード触媒層122に含まれるアイオノマーは、触媒金属を部分的に被覆していることが好ましい。これによれば、カソード触媒層122における電気化学反応に必要な3要素(アルキン、プロトン、電子)を効率的に反応場に供給することができる。

【0033】
カソード触媒層122の厚さは、例えば1~100μmである。カソード触媒層122の厚さを上述の範囲とすることで、プロトンの移動抵抗の増大を抑制でき、またアルキンの拡散性を保持することができる。

【0034】
カソード触媒層122は、例えば触媒成分粉末と、水等の溶媒と、アイオノマーとを混合して触媒インクを調製し、得られた触媒インクを拡散層124に塗布し、乾燥後にホットプレスすることで作製することができる。なお、触媒インクの塗布と乾燥とを複数回に分けて行った後に、ホットプレスを実施することが好ましい。これにより、より均質なカソード触媒層122を得ることができる。また、カソード触媒層122は、固体高分子電解質膜110上に形成してもよい。

【0035】
拡散層124は、後述するセパレータ150aから供給されるアルキンをカソード触媒層122に均一に拡散させる機能を担う。拡散層124を構成する材料は、アルキンに対して親和性が高いことが好ましい。拡散層124を構成する材料としては、例えばカーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等を挙げることができる。カーボンクロスは、数μmの径の細いカーボン繊維を数百本の束とし、この束を織布としたものである。また、カーボンペーパーは、カーボン原料繊維を製紙法にて薄膜の前駆体とし、これを焼結したものである。拡散層124の厚さは、好ましくは50~1000μmである。

【0036】
カソード120は、カソード触媒層122と拡散層124との間に図示しない緻密層を有してもよい。緻密層は、カソード触媒層122の面方向へのアルキンの拡散を促す機能を有する。特に、緻密層を設けることで、拡散層124におけるセパレータ150aと直に接する領域の直下に、アルキンを拡散させることができる。

【0037】
セパレータ150aは、固体高分子電解質膜110とは反対側のカソード120の主表面に積層される。セパレータ150aは、例えばカーボン樹脂や、Cr-Ni-Fe系、Cr-Ni-Mo-Fe系、Cr-Mo-Nb-Ni系、Cr-Mo-Fe-W-Ni系あるいはTi系などの耐食性合金で形成することができる。セパレータ150aの拡散層124側の面には、単数又は複数の溝状の流路152aが設けられる。流路152aには、往路部36a及び復路部36bが接続される。セパレータ150aと、固体高分子電解質膜110と、これらの間に配置される枠状のスペーサ126とでカソード室が画成され、カソード室にカソード触媒層122と拡散層124とが収容される。

【0038】
カソード室の流路152aには、往路部36aを介してアルキンが流入する。アルキンは、流路152aから拡散層124に浸み込む。カソード触媒層122での電解還元反応の生成物と未反応のアルキンとは、復路部36bを介してカソード室から外部に流出し、基質貯蔵槽30に戻される。流路152aの形態は、特に限定されないが、例えば直線状流路、サーペンタイン流路などを採用し得る。あるいは、セパレータ150aが多孔体層を有し、多孔体層の空隙によって流路152aが構成されてもよい。

【0039】
アノード130は、水素ガスからプロトンを生成するための電極であり、固体高分子電解質膜110の一方の側、すなわちカソード120が配置される側とは反対側に配置される。アノード130は、アノード触媒層132及び拡散層134が積層された構造を有する。アノード触媒層132は、拡散層134よりも固体高分子電解質膜110側に配置される。

【0040】
アノード触媒層132は、固体高分子電解質膜110の他方の主表面に接している。アノード触媒層132は、水素ガスからプロトンを生成するための触媒金属を含む。例えば、アノード触媒層132は、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む。触媒金属は、電子伝導性を有する金属基材に分散担持、又はコーティングされてもよい。このような金属基材としては、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wなどの金属、あるいはこれらを主成分とする合金などで構成される、金属繊維(繊維径:例えば10~30μm)、メッシュ(メッシュ径:例えば500~1000μm)、金属多孔体の焼結体、発泡成型体(フォーム)、エキスパンドメタル等を挙げることができる。アノード触媒層132の厚さは、例えば0.1~10μmである。

【0041】
拡散層134は、後述するセパレータ150bから供給される水素ガスをアノード触媒層132に均一に拡散させる機能を担う。拡散層134を構成する材料としては、例えばカーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等を挙げることができる。拡散層134の厚さは、好ましくは50~1000μmである。

【0042】
セパレータ150bは、固体高分子電解質膜110とは反対側のアノード130の主表面に積層される。セパレータ150bは、セパレータ150aと同様の材料で構成することができる。セパレータ150bの拡散層134側の面には、単数又は複数の溝状の流路152bが設けられる。流路152bには、往路部44a及び復路部44bが接続される。セパレータ150bと、固体高分子電解質膜110と、これらの間に配置される枠状のスペーサ136とでアノード室が画成され、アノード室にアノード触媒層132と拡散層134とが収容される。

【0043】
アノード室の流路152bには、往路部44aを介して水素ガスが流入する。水素ガスは、流路152bから拡散層134に浸み込む。未反応の水素ガスは、復路部44bを介してアノード室から外部に流出し、水素貯蔵槽40に戻される。流路152bの形態は、流路152aと同様である。なお、アノード130には、水素ガスに代えて、イオン交換水、純水、あるいはこれらに硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の酸を加えた水溶液(以下では適宜、これらをまとめて「アノード液」という)が供給されてもよい。この場合、アノード触媒層132は、アノード液中の水を酸化してプロトンを生成する。水素ガスに代えてアノード液を供給することで、製造装置10の簡素化を図ることができる。

【0044】
固体高分子形電解ユニット100は、アルキンを電解還元してシス-アルケンを製造する。アルキンとしてジフェニルアセチレンを用いた場合の固体高分子形電解ユニット100における反応は、以下の通りである。
<アノード130での電極反応>
→2H+2e:E=0V
<カソード120での電極反応>
ジフェニルアセチレン+2H+2e→1,2-ジフェニルエテン:E=+0.05V
<全反応>
ジフェニルアセチレン+H→1,2-ジフェニルエテン

【0045】
すなわち、アノード130での電極反応と、カソード120での電極反応とが並行して進行する。そして、アノード130で生じたプロトンが、固体高分子電解質膜110を介してカソード120に供給される。カソード120に供給されたプロトンは、カソード120においてアルキンの還元に利用される。

【0046】
カソード120での電極反応では、ジフェニルアセチレンの還元によって、1,2-ジフェニルエテンのシス体とトランス体とが生成され得る。また、1,2-ジフェニルエテンがさらに還元されて1,2-ジフェニルエタンが生成され得る。さらには、1,2-ジフェニルエタンがさらに還元されて、1,2-ジシクロヘキシルエタンが生成され得る。

【0047】
これに対し、より好ましい態様として、制御部60はカソード120の電位を、アルキンの理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲に調整する。前記「理論還元電位」とは、アルキンの酸化還元電位(vs.RHE)の理論値(E)を意味する。また、上記数値は、IR損の分を除外した値である。すなわち、制御部60は、カソード120の電位を基質の理論還元電位と一致させるか、-0.23Vまでの範囲内でマイナス側にシフトさせる。カソード120の電位を上述の範囲に調整することで、1,2-ジフェニルエテンのシス体を高選択的に生成することができる。

【0048】
[シス-アルケンの製造方法]
本実施の形態に係るシス-アルケンの製造方法では、固体高分子形電解ユニット100を用いてアルキンを電解還元し、シス-アルケンを製造することを含む。より具体的には、アノード130のアノード触媒層132に水素ガスが供給される。また、カソード120のカソード触媒層122にアルキンが供給される。そして、電力制御部20によって、固体高分子形電解ユニット100のアノード130とカソード120との間に所定の電圧が印加される。

【0049】
これにより、アノード触媒層132においてプロトンが生成される。生成されたプロトンは、固体高分子電解質膜110を通過して、カソード120側に移動する。カソード触媒層122において、固体高分子電解質膜110を通過したプロトンでアルキンが水素化されて、シス-アルケンが生成される。プロトンの生成工程と、電解還元反応によるシス-アルケンの生成工程とは、少なくとも一時において並行して起こる。

【0050】
好ましくは、カソード120の電位は、アルキンの理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲内となるように調整される。これにより、シス-アルケンを高選択的に製造することができる。

【0051】
以上説明したように、本実施の形態に係るシス-アルケンの製造装置10とシス-アルケンの製造方法とは、固体高分子形電解ユニット100によってアルキンを電解還元してシス-アルケンを製造することを含む。したがって、本実施の形態によれば、シス-アルケンの製造に関する新規な技術を得ることができる。

【0052】
従来の化学プロセスでは、触媒を分散させた溶液中に基質としてのアルキンを混合してシス-アルケンを製造することが一般的であった。このため、溶液中の触媒を分離する工程を設ける必要があった。これに対し、本実施の形態では固体高分子形電解ユニット100が用いられるため、触媒の分離工程を省くことができる。したがって、シス-アルケンの製造工程を簡略化することができる。

【0053】
また、従来の化学プロセスでは、温和な条件下でのシス-アルケンの製造を実現するために、錯体触媒を用いることがあった。しかしながら、錯体触媒は高価なため、製造コストの上昇を招く。一方、製造コストの削減を図るために錯体触媒に代えて従来公知のリンドラ-触媒等を用いた場合には、反応温度の上昇(例えば200℃程度)等を招く。これに対し、本実施の形態では固体高分子形電解ユニット100が用いられるため、製造コストと温和な反応条件との両立を図ることができる。したがって、本実施の形態によれば、工業的に優れたシス-アルケンの製造技術を得ることができる。

【0054】
また、固体高分子形電解ユニット100を用いることで、従来の液型電解に比べて、電解槽の大きさを小さくすることができる。また、カソード120における過電圧を小さくすることができる。このため、より簡単な電位制御が可能となる。電位制御が容易になるため、より高精度な電位制御も可能となる。

【0055】
また、固体高分子形電解ユニット100のカソード触媒層122は、好ましくはPd,Ir,Ag,Auからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含み、より好ましくはPdを含む。これにより、トランス-アルケンや、シス/トランス-アルケンがさらに還元されて生成されるアルカンに比べて、シス-アルケンを高選択的に製造することができる。

【0056】
また、制御部60は、好ましくはカソード120の電位を、アルキンの理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲に調整する。これにより、トランス-アルケンやアルカンに比べて、シス-アルケンを高選択的に製造することができる。すなわち、カソード120の電位を理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲に調整することで、カソード120における反応の進行速度を考慮しつつ、トランス-アルケンやアルカンといった副生成物の発生を抑制することができる。

【0057】
また、本実施の形態では、アノード130に水素ガスが供給される。このため、アノード130の電位は、0V(vs.RHE)となる。したがって、アノード130を参照電極112の代わりとして用いることができる。よって、参照電極112を省略することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
<アノードの作製>
触媒担体としての多孔性カーボンに触媒金属としての白金を担持させた、Pt/C触媒(品番:TEC10E50E、田中貴金属工業社製)の粉末に、ナフィオン(登録商標)分散液DE2020(デュポン社製)を添加し、適宜溶媒を用いてアノード触媒層用の触媒インクを調製した。ナフィオン(登録商標)分散液の添加量は、乾燥後のナフィオン(登録商標)と触媒中のカーボンとの質量比が0.8:1となる量とした。
【実施例】
【0060】
また、大きさ4cmの拡散層(製品名:SGL35BC、SGLカーボン社製)を用意した。そして、調製した触媒インクを、拡散層の一方の主表面にスプレー塗布した。触媒インクは、Ptの質量が電極面積あたり0.5mg/cmとなるように塗布した。その後、触媒インクを塗布した拡散層を80℃で乾燥させて、触媒インク中の溶媒成分を除去した。続いて、120℃、0.4MPaの条件で1分間熱接合し、アノード触媒層と拡散層とからなる第1積層体を得た。
【実施例】
【0061】
<カソードの作製>
PdClとカーボンブラック(CB)とを純水中に分散させ、得られた溶液に60℃で30分間の超音波処理を施した。その後、溶液をドライアップした。得られた試料を60℃で一晩乾燥させた後、350℃で水素還元(水添)した。得られた試料を、以下では「Pd/CB」と記す。Pd/CBにおけるPdの濃度は、熱重量分析で測定して28質量%であった。アノードの作製と同様の手順で、Pd/CBを含むカソード触媒層用の触媒インクを調製し、この触媒インクを拡散層へスプレー塗布し、熱接合を実施し、カソード触媒層と拡散層とからなる第2積層体を得た。
【実施例】
【0062】
<膜電極接合体の作製>
厚さ50μmの固体高分子電解質膜(製品名:ナフィオン(登録商標)212、デュポン社製)を用意した。そして、第1積層体と第2積層体との間にこの電解質膜を挟み込み、120℃、0.4MPaの条件で1分間熱接合した。これにより、拡散層、カソード触媒層、固体高分子電解質膜、アノード触媒層及び拡散層からなる膜電極接合体(MEA)を得た。
【実施例】
【0063】
<生成物の測定>
MEAのカソード側に加湿窒素を、アノード側に加湿水素を、それぞれ流速100mL/分で1時間流通させ、MEAに前処理を施した。加湿窒素及び加湿水素の露点は、それぞれ50℃とした。前処理の後、MEAのカソード側に、基質としてジフェニルアセチレンと溶媒としてメチルシクロヘキサンとを混合したカソード溶液を流通させた。カソード溶液の基質濃度は、1mol/Lとした。カソード溶液は、シリンジを用いて流速0.25mL/分で流通させた。また、アノード側には、引き続き加湿水素を流速100mL/分で流通させた。そして、所定の電圧をMEAに印加し、20分間の定電位電解を実施した。電圧は、ジフェニルアセチレンの理論還元電位に対するカソードの電位の差(電位差ΔV)が表1に示す値となるように設定した。表1に示す電位差ΔVは、IR損分を除外した値である。IR損分とは、セルの内部抵抗に基づく電圧損失である。
【実施例】
【0064】
定電位電解の後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)(製品名:LC-10AD VP、島津製作所製、検出器UV/VIS)を用いて、カソード溶液に含まれる反応生成物を定量した。得られた各生成物のモル比から、定電位電解で流した電流における各生成物の生成に用いられた電流の割合を、生成物の電流効率(%)として算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0065】
(実施例2)
カソード溶液の溶媒をメチルシクロヘキサンに代えてトルエンとした点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0066】
(実施例3)
カソード溶液の溶媒をメチルシクロヘキサンに代えてジクロロベンゼンとした点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0067】
(実施例4)
カソード溶液の基質をジフェニルアセチレンに代えて1-フェニル-1-プロピンとした点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。1-フェニル-1-プロピンの理論還元電位は、+0.04Vである。
【実施例】
【0068】
(実施例5)
カソード触媒層に、Pd/CBに代えてPt/C触媒(品番:TEC10E50E、田中貴金属工業社製)を用いた点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0069】
(実施例6)
カソード触媒層に、Pd/CBに代えてRh/CBを用いた点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。Rh/CBは、以下の手順で調製した。すなわち、まずRhClとカーボンブラック(CB)とを純水中に分散させ、得られた溶液に60℃で30分間の超音波処理を施した。その後、溶液をドライアップした。得られた試料を60℃で一晩乾燥させた後、350℃で水素還元して、Rh/CBを得た。Rh/CBにおけるRhの濃度は、熱重量分析で測定して29質量%であった。
【実施例】
【0070】
(実施例7)
カソード溶液の基質をジフェニルアセチレンに代えて3-ヘキシン-1-オールとした点を除いて、実施例1と同様に生成物の電流効率(%)を算出した。結果を表1に示す。3-ヘキシン-1-オールの理論還元電位は、+0.20Vである。
【実施例】
【0071】
【表1】
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【実施例】
【0072】
表1に示すように、実施例1~7から、アルキンの電解還元によってシス-アルケンを製造できることが確認された。また、実施例1,5,6の対比から、カソードの触媒金属としてPdを含む場合は、PtやRhを含む場合に比べて、シス-アルケンの選択性が高いことが確認された。なお、当業者であれば、PtやRhに対するPdの優位性を示すこの結果から、Ir,Ag,Auについてもシス-アルケンの選択性が高いことを理解することができる。
【実施例】
【0073】
また、実施例1~4、7等の結果から、カソードの電位が基質の理論還元電位に対して-0.23V以上0V以下の範囲にある場合に、シス-アルケンの選択性が高まる傾向にあることが確認された。また、実施例1~3の結果から、極性の低い溶媒ほどシス-アルケンの選択性が高まることが確認された。なお、表1において各生成物の電流効率の合計が100%とならないのは、一部の電流が水素ガスの生成に用いられたためである。
【実施例】
【0074】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【実施例】
【0075】
実施の形態で説明した構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【符号の説明】
【0076】
10 シス-アルケンの製造装置、 34 供給部、 60 制御部、 100 固体高分子形電解ユニット、 110 固体高分子電解質膜、 120 カソード、 122 カソード触媒層、 130 アノード、 132 アノード触媒層。
図面
【図1】
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【図2】
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