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明細書 :架橋性組成物及びそれを硬化してなる硬化物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-127600 (P2018-127600A)
公開日 平成30年8月16日(2018.8.16)
発明の名称または考案の名称 架橋性組成物及びそれを硬化してなる硬化物
国際特許分類 C08G  59/20        (2006.01)
C08G  59/32        (2006.01)
FI C08G 59/20
C08G 59/32
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-166154 (P2017-166154)
出願日 平成29年8月30日(2017.8.30)
優先権出願番号 2017020209
優先日 平成29年2月7日(2017.2.7)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】森長 久豊
【氏名】坂本 茉優
出願人 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査請求 未請求
テーマコード 4J036
Fターム 4J036AA01
4J036AJ09
4J036DC03
4J036DD02
4J036JA06
要約 【課題】植物成分を原料とした多官能エポキシ化合物による架橋性組成物及び架橋性組成物を硬化してなる硬化物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、リモネンオキシドを多官能化して得られる植物由来多官能エポキシ化合物と、架橋剤としてポリアルキレンイミンを含む架橋性組成物、が提供される。
【選択図】図1A
特許請求の範囲 【請求項1】
リモネンオキシドを多官能化して得られる植物由来多官能エポキシ化合物と、架橋剤としてポリアルキレンイミンを含む架橋性組成物。
【請求項2】
前記架橋剤がポリエチレンイミンである、請求項1に記載の架橋性組成物。
【請求項3】
前記架橋剤が分岐構造を有するポリエチレンイミンである、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の架橋性組成物。
【請求項4】
前記植物由来多官能エポキシ化合物が前記リモネンオキシドと多官能チオールとを反応させてなる化合物である請求項1乃至請求項3の1つに記載の架橋性組成物。
【請求項5】
前記リモネンオキシドが全リモネンオキシド中にトランス体のリモネンオキシドを40モル%以上含む、請求項1乃至請求項4の1つに記載の架橋性組成物。
【請求項6】
前記植物由来多官能エポキシ化合物が4官能エポキシ化合物である請求項1乃至請求項5の1つに記載の架橋性組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の1つに記載の架橋性組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の1つに記載の架橋性組成物を有する接着剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成分を原料とした多官能エポキシ化合物による架橋性組成物及び架橋性組成物を硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
多官能エポキシ化合物は、接着剤や半導体などの封止剤、塗料、コーティング剤を目的としたエポキシ樹脂としての有用性が高い。また、テルペン系化合物の1つであるリモネンは、オレンジやグレープフルーツ等の柑橘類より抽出される植物性の成分であり、再生可能資源であるとして、化学工業製品の石油代替原料として注目されている。
【0003】
封止剤、塗料、コーティング剤を目的としたリモネンを用いた架橋性組成物の合成に関し、例えばリモネンと多官能チオールとの架橋による架橋物の合成について開示された非特許文献1が知られている。非特許文献1には、リモネンと多官能チオールとのエン・チオール反応で架橋前駆体を作り、これにさらに多官能チオールを加えて加熱あるいは光照射することで架橋物を作ることが開示されている。特許文献1には、リモネンに重合性(メタ)アクリレート基を複数導入することで、架橋ポリマーのモノマーとして提供することが開示されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Polymer Chemistry, 2014, vol.5, p 3245-3260
【0005】

【特許文献1】特許5294259号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、多官能エポキシ化合物を用いてなる架橋性組成物及びそれを硬化してなる硬化物が知られており、昨今の化学工業製品の石油代替原料としての植物成分由来の再生可能資源を用いた開発が行われてはいるが、満足のいく植物成分由来の架橋性組成物は得られてはいない。
【0007】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、新たな架橋前駆体として植物成分(リモネン)を原料とした多官能エポキシ化合物を有する架橋性組成物及び架橋性組成物を硬化してなる硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、リモネンオキシドを多官能化して得られる植物由来多官能エポキシ化合物と、架橋剤としてポリアルキレンイミンを含む架橋性組成物が提供される。
【0009】
本発明者らは、リモネンオキシドを多官能化して得られた植物由来多官能エポキシ化合物と、架橋剤としてポリアルキレンイミンを含むことで植物成分を原料とした架橋性組成物が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
以下、本発明の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
好ましくは、架橋剤がポリエチレンイミンである、架橋性組成物である。
好ましくは、架橋剤が分岐構造を有するポリエチレンイミンである、架橋性組成物である。
好ましくは、植物由来多官能エポキシ化合物がリモネンオキシドと多官能チオールとを反応させてなる化合物である、架橋性組成物である。
好ましくは、リモネンオキシドが全リモネンオキシド中にトランス体のリモネンオキシドを40モル%以上含む、架橋性組成物である。
好ましくは、植物由来多官能エポキシ化合物が4官能エポキシ化合物である、架橋性組成物である。
好ましくは、架橋性組成物を硬化してなる硬化物である。
好ましくは、架橋性組成物を有する接着剤である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】架橋性組成物から得られた硬化物の一例(実施例12)を示す。
【図1B】架橋性組成物から得られた硬化物によって2枚のスライドガラスを接着したものの一例(実施例12)を示す。
【図2】植物由来多官能エポキシ化合物の合成スキームの一例を示す。
【図3】架橋性組成物の調製及びその架橋物の合成スキームの一例を示す。
【図4】参考例に係る架橋物の合成スキームの一例を示す。
【図5】熱重量測定結果の一例(実施例21及び参考例との比較)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明する。

【0014】
本発明の架橋性組成物は、リモネンオキシドを多官能化して得られる植物由来多官能エポキシ化合物と、架橋剤としてポリアルキレンイミンを有することを特徴とする。以下、各構成について詳細に説明する。

【0015】
1-1.植物由来多官能エポキシ化合物
植物由来多官能エポキシ化合物は、下記式(1)で表されるリモネンオキシド(植物成分であるリモネンの酸化誘導体)を多官能化することにより得られ、架橋性を有することを特徴とする。

【0016】
【化1】
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【0017】
リモネンオキシドは、柑橘類の植物成分リモネンの酸化誘導体として得ることができる。また、例えば和光純薬工業製(R)-リモネンオキシド等の市販のものを用いてもよい。

【0018】
リモネンオキシドは、一例として、シス体及びトランス体の異性体混合物が挙げられる。リモネンオキシドの反応性については、トランス体の構造のものがアミン等の求核試薬と反応しやすいと考えられており、用いるリモネンオキシドの構造によっては、以下で述べる植物由来多官能エポキシ化合物を含む架橋性組成物の物性に関係があると考えられる。架橋性組成物に含まれるリモネンオキシドのシス体及びトランス体の含有量は特に限定されないが、全リモネンオキシド中にトランス体のリモネンオキシドを40モル%以上含有することが好ましい。リモネンオキシドのトランス体は、アミン等の求核試薬と反応しやすいため、ポリアルキレンイミンとの架橋反応を形成しやすく架橋物としてより高い耐熱性を有するものが得られると考えられるためである。すなわち、架橋性組成物から得られる硬化物において、より高い耐熱性を有する硬化物を得るためにはトランス体のリモネンオキシドを45モル%以上含んでいることがより好ましい。また、リモネンオキシドのトランス体が45モル%以上においては、45モル%、50モル%、55モル%、60モル%、65モル%、70モル%、75モル%、80モル%、85モル%、90モル%、95モル%、100モル%から選択される任意の2つの数値の範囲で表されるモル%のトランス体のリモネンオキシドを含んでいてもよい。

【0019】
植物由来多官能エポキシ化合物は、上記リモネンオキシドを原料として、多官能化することにより得ることができる。リモネンオキシドを多官能化できる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の存在下、リモネンオキシドと多官能チオールとをエン-チオール反応させることにより簡易に植物由来多官能エポキシ化合物を得ることができるため好ましい。植物由来多官能エポキシ化合物を合成するスキームの一例は、図2に示した通りである。

【0020】
多官能チオールは、特に限定されず、分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物であればよい。多官能チオールとしては、例えば、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、2,5-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、2,9-デカンジチオール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジチオエリスリトール、1,2-ベンゼンジチオール、1,2-ベンゼンジメタンジチオール、3,4-ジメルカプトトルエン、4-クロロ-1,3-ベンゼンジチオール、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリスメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、その他エステル結合を有する化合物として、フタル酸ビス(2-メルカプトプロピルエステル)、フタル酸ビス(2-メルカプトブチルエステル)、エチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、プロピレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、1,3-ブタンジオールビス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、プロピレングリコールビス(2-メルカプトイソブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトイソブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトイソブチレート)などが挙げられる。上記の多官能チオールは、単独で使用しても、複数種を併用してもよい。また、多官能チオールの数平均分子量は、100~10000が好ましく、100~5000がより好ましく、100~2000がより好ましく、100~1000がより好ましく、100~500がより好ましい。

【0021】
例えば、下記式(2)~(4)で表される2官能~4官能のチオールを用いることが好ましい。

【0022】
【化2】
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【0023】
【化3】
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【0024】
【化4】
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【0025】
植物由来多官能エポキシ化合物をリモネンオキシドと多官能チオールにより合成する場合は、多官能チオールとして上記式(2)~(4)の化合物を用いることで、それぞれ下記式(5)~(7)で表される2官能~4官能の植物由来多官能エポキシ化合物が得られる。植物由来多官能エポキシ化合物は、その合成時に多段階の反応を経由する必要がなく、例えば、特許文献1に記載されたようなエポキシ化合物の合成と比べて簡便である。また、植物由来多官能エポキシ化合物は、反応性の高い官能基(例えば、アクリレート基やメタアクリレート基)を有していないため貯蔵時の安定性も高いため好ましい。

【0026】
【化5】
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【0027】
【化6】
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【0028】
【化7】
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【0029】
植物由来多官能エポキシ化合物の合成に際し、リモネンオキシドに対する多官能チオールの含有量は特に限定されないが、組成物中のチオール基数をリモネンオキシドにおける炭素-炭素二重結合基数に対して0.05当量~2.0当量とするのが好ましく、0.2当量~1.5当量とするのがより好ましい。

【0030】
植物由来多官能エポキシ化合物の合成に際し、リモネンオキシド及び多官能チオールに加えてラジカル発生剤を含んでいてもよい。ラジカル発生剤は、熱、光などによりラジカルを発生させるものを言う。ラジカル発生剤としては、アゾ化合物や有機過酸化物などが挙げられ、これらを併用して用いてもよい。ラジカル発生剤の含有量は特に限定されないが、リモネンオキシド及び多官能チオールを含む組成物100質量部に対して0.1~10質量部の範囲とするのが好ましい。

【0031】
アゾ化合物の具体例としては、2,2'-アゾビスプロパン、2,2'-ジクロロ-2,2'-アゾビスプロパン、1,1'-アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2'-アゾビスイソブタン、2,2'-アゾビスイソブチルアミド、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2'-アゾビス-2-メチルプロピオン酸メチル、2,2'-ジクロロ-2,2'-アゾビスブタン、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2'-アゾビスイソ酪酸ジメチル、3,5-ジヒドロキシメチルフェニルアゾ-2-メチルマロノジニトリル、2,2'-アゾビス-2-メチルバレロニトリル、4,4'-アゾビス-4-シアノ吉草酸ジメチル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等を挙げることができる。

【0032】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等が挙げられる。

【0033】
植物由来多官能エポキシ化合物は、以下に示すポリアルキレンイミンを含む架橋性組成物を作製することができ、硬化させた際に得られる硬化物は、従来知られているエポキシ化合物を用いて作製した硬化物と比較しても耐熱性、接着性及び光透過性において同程度の性能を有するものが得られる効果を有する。すなわち植物成分を原料として既存の架橋性組成物を硬化して得られた硬化物と同等の性能を発揮する架橋性組成物を得ることができる。

【0034】
1-2.架橋剤
架橋性組成物は、上記植物由来多官能エポキシ化合物に架橋剤としてポリアルキレンイミンを含むことを特徴とする。以下、ポリアルキレンイミンについて説明する。

【0035】
ポリアルキレンイミンは、植物由来多官能エポキシ化合物に対して開環付加反応を進行させるとともに架橋反応を進行させる反応性を有するものであるため架橋剤として用いることができる。ポリアルキレンイミンは、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミンといった炭素数2~8のアルキレンイミン、特に炭素数2~4のアルキレンイミンの1種または2種以上を常法により重合して得られるポリマー、ならびにそれらを種々の化合物と反応させて化学的に変性させたポリマー等を用いることが可能である。また、これらを併用して用いてもよい。また、ポリアルキレンイミンの構造としては特に限定されず、直鎖状のポリアルキレンイミン、分岐構造を有するポリアルキレンイミンの何れも用いることができる。

【0036】
ポリアルキレンイミンは、様々な分子量をとりうるが、その重量平均分子量は300~100,000の範囲内である。特に重量平均分子量が300~70,000、中でも500~30,000、とりわけ600~10,000の範囲であるとより好ましい。

【0037】
ポリアルキレンイミンの分岐構造については、分岐の程度として分子骨格中に存在する第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基の存在比で表すことができる。分岐構造は、特に限定されるものではないが、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ25~45モル%、35~50モル%、20~35モル%を占めているものが好ましい。特に第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ30~40モル%、30~40モル%、25~35モル%を占めているものがより好ましい。

【0038】
ポリアルキレンイミンの中でも、特に、ポリエチレンイミンを用いることが好ましい。さらにポリエチレンイミンは、分岐構造を有するものを用いることが好ましい。分岐構造を有するポリエチレンイミン(以下、BPEIとする。)は、例えば、下記式(8)で表されるような第一級、第二級、及び第三級アミンを含むBPEIが好ましい。このようなBPEIは、例えば、エチレンイミンを酸触媒の存在下、開環重合させることにより合成することができる。もちろん、市販のBPEI、例えば、日本触媒社から市販されているエポミン(登録商標)(型番:SP-003、SP-006、SP-012、SP-018、SP-200及びP-1000)、和光純薬工業社から市販されているBPEI(販売元コード161-17831(平均分子量約600)、販売元コード167-17811(平均分子量約1,800)、及び販売元コード164-17821(平均分子量約10,000))、などを用いてもよい。

【0039】
【化8】
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【0040】
1-3.架橋性組成物
架橋性組成物は、上記植物由来多官能エポキシ化合物と上記架橋剤としてポリアルキレンイミンを含むことを特徴とする。本発明の架橋性組成物において、植物由来多官能エポキシ化合物の種類やポリアルキレンイミンの分子量、又はそれらの混合割合については特に限定されるものではないし、それらを種々組み合せることによって架橋性組成物から得られる硬化物の硬度若しくは耐熱性等の性質又は硬化物の収率を調整することが可能である。

【0041】
架橋性組成物においては、植物由来多官能エポキシ化合物の官能基数については、2~6官能であることが好ましく、2~4官能であることがより好ましく、3~4官能であることがより好ましい。架橋性組成物を架橋させた際の収率を高くすることができ、得られる硬化物の耐熱性を向上させることができる点で植物由来多官能エポキシ化合物が4官能エポキシ化合物であることが最も好ましい。また、別の側面として、植物由来多官能エポキシ化合物の官能基数が2官能以下である場合に比べ、3~4官能である場合にはより高い接着力を有するため好ましく、4官能である場合に特に高い接着力を有するためより好ましい。また、上記植物由来多官能エポキシ化合物及びポリアルキレンイミンの混合割合については、植物由来多官能エポキシ化合物が2官能の場合は、ポリアルキレンイミンを15~45質量%で含むことが好ましく、20~45質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることがより好ましく、28~43質量%であることがより好ましい。上記混合割合について植物由来多官能エポキシ化合物が3官能の場合は、ポリアルキレンイミンを10~40質量%で含むことが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがより好ましく、21~35質量%であることがより好ましい。上記混合割合について植物由来多官能エポキシ化合物が4官能の場合は、ポリアルキレンイミンを10~40質量%で含むことが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがより好ましく、22~36質量%であることがより好ましい。上記の様に、植物由来多官能エポキシ化合物及びポリアルキレンイミンの混合割合、植物由来多官能エポキシ化合物の官能基数を調整することや、またはポリアルキレンイミンの分子量や構造を変更することで比較的硬質な硬化物から柔軟性のあるエラストマーまで硬化物の性質を作り分けることができる。また、植物由来多官能エポキシ化合物の官能基数を調整することで、接着力を調整することができ、高い接着強度が求められる実用の場面においても使用可能である。

【0042】
架橋性組成物において、上記のリモネンオキシドを原料とする植物由来多官能エポキシ化合物とBPEIを架橋剤として含むことが好ましい。理由としては、リモネンオキシドにおいて開環付加反応するエポキシ部位は、その立体障害に由来して反応がしづらいことが分かっているが、BPEIとの組み合わせにおいては良好に開環付加反応が進行するためである。また、この組み合わせの場合、架橋性組成物は加熱をしない状態であれば架橋反応を進行させることを抑えることができ、架橋性組成物の状態で安定的に貯蔵しておくことが可能である。

【0043】
架橋性組成物の製造方法については、特に限定されず、少なくとも植物由来多官能エポキシ化合物及びポリアルキレンイミンを常法により均一に混合することによって簡易に得ることができる。混合に際しては溶剤等を用いた希釈は特に必要とされないが、得られる架橋性組成物の粘度調整のために一般的な溶剤を用いて作製することが可能である。架橋性組成物の調製及びその架橋物の合成スキームの一例は図3に示した通りである。

【0044】
架橋性組成物は、植物由来多官能エポキシ化合物及び架橋剤としてポリアルキレンイミンを少なくとも含んでいればよいが、必要に応じて他に重合禁止剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、密着剤、離型剤、顔料、染料等を添加することが可能である。

【0045】
架橋性組成物は、植物由来多官能エポキシ化合物とポリアルキレンイミンの架橋反応を進行させることにより硬化物を得ることができる。上記架橋反応を進行させる方法は、特に限定されるものではないが、簡易的には、架橋性組成物を空気中にて加熱をすることで架橋反応を進行させることができ、容易に硬化物を得ることができる。硬化物は、その性質から工業的には、接着剤、封止材、塗料、コーティング剤、成形体等に適用することが可能である。また、植物由来多官能エポキシ化合物は、ポリアルキレンイミンと混合し加熱しない限り安定的に貯蔵できる。仮に両者を混合したとしても、例えば、10℃以下の冷蔵保存であれば数週間架橋反応を進行させずに保存することができる。

【0046】
硬化物は、上記用途に関係なく本発明の硬化物を形成することができる基材に対して適用することができる。例えば、接着剤として用いる場合では、接着対象物となる基材としては、特に限定されず、一般的にはプラスチック、ガラス、金属、木材、紙等の様々な材質のものを用いることができる。接着させる方法としては、特に限定はされず、架橋性組成物を有する接着剤を接着対象として、例えば、上記基材から選択した任意の基材に塗布し、別の基材と接触させ硬化させることにより接着する方法を採用することができる。

【0047】
硬化物を作製するに際し、目的の用途に応じて種々の方法を採用することができる。例えば、コーティング等の表面保護を目的とした硬化物を形成させる場合は、基材上に架橋性組成物を所望の厚さで塗工し、有機溶剤を含有する場合には溶剤を揮発させ、次いで加熱により組成物を硬化させて硬化膜を形成する方法が用いられる。また、成形体を本発明の硬化物から形成する場合は、例えば、架橋性組成物を所望の形状を有する金型に注入又は塗工した後に該架橋性組成物を加熱により硬化させ、金型等から離型することで得る方法が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限定されることを意図するものではない。
【実施例】
【0049】
<植物由来多官能エポキシ化合物の合成>
まず、リモネンオキシドを原料として植物由来多官能エポキシ化合物を以下の通り調整した。
【実施例】
【0050】
[合成例1]
上記式(2)の2官能チオールと2倍当量の市販のリモネンオキシド(和光純薬工業(株)(R)-リモネンオキシド(異性体混合物))をAIBN存在下でクロロベンゼンに投入し、60℃、24時間反応させた。反応後に得られた溶液はカラム精製又は加熱減圧乾燥することによって植物由来2官能エポキシ化合物(上記式(5))を得た。得られた植物由来2官能エポキシ化合物の構造解析は、核磁気共鳴分光法(NMR)によって確認された。
【実施例】
【0051】
[合成例2]
上記式(3)の3官能チオールと3倍当量のリモネンオキシドとを用いて合成例1と同様の手順により反応を行い、反応後に植物由来3官能エポキシ化合物(上記式(6))を得た。得られた植物由来3官能エポキシ化合物の構造解析は、核磁気共鳴分光法(NMR)によって確認された。
【実施例】
【0052】
[合成例3]
上記式(4)の4官能チオールと4倍当量のリモネンオキシドとを用いて合成例1と同様の手順により反応を行い、反応後に植物由来4官能エポキシ化合物(上記式(7))を得た。得られた植物由来4官能エポキシ化合物の構造解析は、核磁気共鳴分光法(NMR)によって確認された。
【実施例】
【0053】
<実施例・比較例・参考例>
上記合成例1~3で得られた植物由来多官能エポキシ化合物及び市販のエポキシ化合物並びに各種架橋剤を用いて架橋性組成物の硬化物を以下の通り作製した。
[実施例1]
合成例1で得られた植物由来2官能エポキシ化合物を80質量%と、ポリアルキレンイミンとして分子量600のBPEI(BPEI(600))を20質量%で混合し、100℃の空気中で24時間加熱を行い架橋反応させ実施例1の硬化物を得た。
[実施例2~9]
合成例1で得られた植物由来2官能エポキシ化合物と各分子量のBPEIとを以下に示す表1に記載の質量%で混合し、実施例1と同様の手順により実施例2~9の硬化物を得た。
[実施例10~18]
合成例2で得られた植物由来3官能エポキシ化合物と各分子量のBPEIとを以下に示す表2に記載の質量%で混合し、実施例1と同様の手順により実施例10~18の硬化物を得た。また、実施例12の架橋性組成物をスライドガラス2枚の間に塗布して100℃で架橋したところ、強固に接着した。その接着物の透過率は91.2%であった。
[実施例19~27]
合成例3で得られた植物由来4官能エポキシ化合物と各分子量のBPEIとを以下に示す表3に記載の質量%で混合し、実施例1と同様の手順により実施例19~27の硬化物を得た。また、実施例21の架橋性組成物をスライドガラス2枚の間に塗布して100℃で架橋したところ、強固に接着した。その接着物の透過率は91.1%であった。
[比較例1]
合成例1で得られた植物由来2官能エポキシ化合物を95質量%と、架橋剤としてテトラエチレンペンタミンを5質量%で混合し、実施例1と同様の手順により操作を行ったが、架橋反応が進行せず硬化物は得られなかった。
[比較例2]
比較例1において植物由来2官能エポキシ化合物を97質量%とし、テトラエチレンペンタミンとは異なる架橋剤である2-エチル-4-メチルイミダゾールを3質量%で混合した以外は比較例1と同様の手順により操作を行ったが、架橋反応が進行せず硬化物は得られなかった。
[比較例3]
比較例2において植物由来2官能エポキシ化合物を植物由来4官能エポキシ化合物98質量%とし、2-エチル-4-メチルイミダゾールを2質量%に変更した以外は比較例2と同様の手順により操作を行ったが、架橋反応が進行せず硬化物は得られなかった。
[参考例]
参考として、植物由来多官能エポキシ化合物の代わりに、下記式(9)で表される植物由来ではない市販の脂環式ビスエポキシ化合物を用いて参考例の硬化物を作製した。脂環式ビスエポキシ化合物55質量%と、分子量10000のBPEIを45質量%とを混合して組成物を調製し、実施例1と同様の手順により操作し、硬化物を得た。そのスキームは図4に示した通りである。また、スライドガラス2枚の間に、上記調製した組成物を塗布して100℃で架橋したところ強固に接着し、その接着物の透過率は90.7%であった。
【実施例】
【0054】
【化9】
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【実施例】
【0055】
<硬化物の収率測定>
得られた硬化物は、溶剤としてアセトンを用いて約12時間ソックスレー抽出処理を行うことで収率を算出した。
【実施例】
【0056】
<熱重量・示差熱測定硬化物の収率測定>
リガク製TG-DTAを用いて得られた硬化物の熱重量減少率と温度の関係を測定した。空気雰囲気下、毎分10℃の昇温速度で測定を行った。得られた結果から10%熱重量減少温度を算出した。
【実施例】
【0057】
<透過率測定>
架橋性組成物を2枚のスライドガラスに塗布し、100℃で加熱を行い硬化させたサンプルを準備し、島津製UV-Vis分光光度計により透過率を測定した。
【実施例】
【0058】
実施例・比較例・参考例の条件及び測定結果を表1~表4に示す。
【実施例】
【0059】
【表1】
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【実施例】
【0060】
【表2】
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【実施例】
【0061】
【表3】
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【実施例】
【0062】
【表4】
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【実施例】
【0063】
表1~表3の結果より、本発明の植物由来多官能エポキシ化合物及び架橋剤としてポリアルキレンイミンを含む架橋性組成物から硬化物を得ることができた。また、植物由来多官能エポキシ化合物の官能基数を増やすことで高い収率で硬化物を得ることができた。実施例6、実施例12、実施例21の硬化物の測定結果を見ても分かる通り、いずれの植物由来多官能エポキシ化合物から得られた硬化物も10%熱重量減少温度が200℃以上であった。この結果は、表4に参考例として示した従来のエポキシ化合物から得た硬化物の10%熱重量減少温度には劣るものの、100℃未満の使用環境であれば接着剤、封止剤、塗料、コーティング剤等の各用途での十分な実用性を有するものと言える。また、スライドガラス2枚の間に実施例12,実施例21の架橋性組成物を塗布して100℃で架橋したところ、強固に接着し、接着剤として有用であることが確認された。また、それら接着物により積層したスライドガラスの透過率は90%以上であり高い透過性を有していることが確認された。また、本発明の範囲外である架橋剤を用いた比較例1~3においては、本発明の植物由来多官能エポキシ化合物からは硬化物を得ることはできなかった。本発明の植物由来多官能エポキシ化合物は、架橋前駆体としてその構造及び分子量が単一であるので、架橋後の硬化物の物性の再現性を有している。また、本発明の架橋性組成物を接着剤として用いた場合は、従来技術に対して接着力に安定性があり、ばらつきを抑制することができる。
【実施例】
【0064】
<引張りせん断接着強さ>
植物由来2官能エポキシ化合物を用いた実施例6(BPEI(1800))、実施例9(BPEI(10000))、植物由来3官能エポキシ化合物を用いた実施例12(BPEI(600))、実施例15(BPEI(1800))、実施例18(BPEI(10000))、植物由来4官能エポキシ化合物を用いた実施例21(BPEI(600))、実施例24(BPEI(1800)),実施例27(BPEI(10000))について接着強度を評価した結果を表5に示す。なお、接着方法および接着強度の評価は、日本工業規格の方法(JIS法:JIS K6850)に準拠し引張りせん断接着強さ試験で行った。被着物として金属板(ステンレス304)を用いた。被着体として金属板(ステンレス304;100mm×25mm×1.5mm)を用い、100℃、24時間、空気中で接着した。接着強度は、万能試験機RTC-1310(ORIENTEC社製)で測定した。引張速度は5mm/minとした。
【実施例】
【0065】
【表5】
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【実施例】
【0066】
[参考例2~4]
また、表6に参考例2~4について接着強度を評価した結果を示す。参考例2~4は植物由来多官能エポキシ化合物の代わりに、上記の式(9)で表される植物由来ではない市販の脂環式ビスエポキシ化合物を用いて接着強度を評価した。参考例2は、脂環式ビスエポキシ化合物65質量%と、分子量600のBPEIを35質量%とを混合し、参考例3は、脂環式ビスエポキシ化合物65質量%と、分子量1800のBPEIを35質量%とを混合し、参考例4は、脂環式ビスエポキシ化合物65質量%と、分子量10000のBPEIを35質量%とを混合した組成物を調製し、実施例6と同様の手順により操作した。
【実施例】
【0067】
【表6】
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【実施例】
【0068】
表5に示すように植物由来2官能エポキシ化合物を用いた場合の接着力は2MPa以下であった。植物由来3官能エポキシ化合物を用いた場合ではBPEI600またはBPEI1800の系で16~18MPaの接着力があり、植物由来4官能エポキシ化合物を用いた場合ではBPEI600の系で約21MPaの接着力であった。このことから、より多官能である植物由来3官能エポキシ化合物や植物由来4官能エポキシ化合物を用いた場合においてより良好な接着強度が得られることが分かった。
【実施例】
【0069】
表6に示すように市販の脂環式ビスエポキシ化合物を用いて接着した参考例2~4では11~15MPaの接着力であるのに対し、植物由来多官能エポキシ化合物を用いた実施例12、15、21の接着力はそれを上回り、実用において高い接着力を要求される場合にも十分耐え得る数値であった。
【実施例】
【0070】
本発明は、リモネンを用いるため、柑橘類の絞りかすに含まれる精油を用いて、架橋物を簡便に作成することができる。また、上記したように柔軟性のあるエラストマーから比較的靭性のある硬化物まで容易に作り分けができる。その組成から明らかなように、石油資源への依存度を35~44%削減できる。さらには高い接着強度(約21MPa)を達成できる。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5