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明細書 :静電複合体およびオルガノゲル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-159064 (P2018-159064A)
公開日 平成30年10月11日(2018.10.11)
発明の名称または考案の名称 静電複合体およびオルガノゲル
国際特許分類 C08L  77/04        (2006.01)
C08K   5/42        (2006.01)
C08J   3/075       (2006.01)
FI C08L 77/04
C08K 5/42
C08J 3/075 CFG
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2018-052280 (P2018-052280)
出願日 平成30年3月20日(2018.3.20)
優先権出願番号 2017055221
優先日 平成29年3月22日(2017.3.22)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】芦内 誠
【氏名】白米 優一
出願人 【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100129757、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久彦
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査請求 未請求
テーマコード 4F070
4J002
Fターム 4F070AA54
4F070AC33
4F070AC36
4F070AC50
4F070AE14
4F070AE28
4F070CA11
4F070CB05
4F070CB11
4J002CL021
4J002EV186
4J002EV256
4J002FD316
4J002GD03
要約 【課題】本発明は、天然由来の高分子化合物で構成されており、有機溶媒を含むオルガノゲルを形成可能な静電複合体と、当該静電複合体から形成されるオルガノゲルを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る静電複合体は、ポリεリジン、およびスルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする。また、本発明に係るオルガノゲルは、当該静電複合体と、有機溶媒を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリεリジン、およびスルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする静電複合体。
【請求項2】
上記陰イオン界面活性剤が硫酸エステル型陰イオン界面活性剤である請求項1に記載の静電複合体。
【請求項3】
上記ポリεリジンに含まれるα-アミノ基に対する上記陰イオン界面活性剤の割合が0.9倍モル以上である請求項1または2に記載の静電複合体。
【請求項4】
上記ポリεリジンを構成するリジンのうちL-リジンの占める割合が90%以上である請求項1~3のいずれかに記載の静電複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の静電複合体、および有機溶媒を含有することを特徴とするオルガノゲル。
【請求項6】
上記有機溶媒がクロロホルムである請求項5に記載のオルガノゲル。
【請求項7】
上記有機溶媒がエタノールおよび/またはイソプロパノールである請求項5に記載のオルガノゲル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を含むオルガノゲルを形成可能な静電複合体と、当該オルガノゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲルとはコロイド分散液が流動性を失ってゼリー状になったものであり、分散媒として水を含むものはハイドロゲルと呼ばれる。ハイドロゲルは、その内部に大量の水を包含できるものがあり、食品などの他、オムツの吸水性材料などとして広く利用されている。
【0003】
それに対して分散媒として有機溶媒を含むものはオルガノゲルと呼ばれ、有機溶媒を包含することが可能であるため、エネルギー分野、エレクトロニクス分野、環境産業分野などで注目されている。しかし、オルガノゲルの研究例はハイドロゲルに比べて圧倒的に少なく、発展途上の段階にあり、開発例も限られている。
【0004】
例えば、オムツの吸水性材料は架橋アクリル酸ポリマーであるのに対して、オルガノゲルを構成する分散質は、特許文献1に開示されているような会合性低分子化合物が多い。低分子化合物で構成されたゲルには、強靭性の改善など解決すべき物性上の課題が残っており、ハイドロゲルに使われているような高分子性基材の応用が期待されている。また、天然物質は水溶性のものが多く、脂溶性物質としては石油由来のものや合成化合物が多いこともあるが、オルガノゲルの分散質として天然由来の高分子基材を用いるということは発想の段階にさえ至っていないというのが現状である。
【0005】
天然由来の高分子化合物としては、例えば、アミノ酸であるリジンを脱水縮合したポリリジンがある。リジンはα-アミノ基とε-アミノ基を有するが、化学的に合成されたポリリジンは、2つのアミノ基の内より反応性の高いα-アミノ基とα-カルボキシ基とが反応したポリαリジンである。例えば、特許文献2~5にはポリリジンとラウリル硫酸ナトリウムを含む混合物が記載されているが、この混合物はミセル溶液であるため、用いられたポリリジンはポリαリジンである。
【0006】
一方、ストレプトマイセス属細菌が、リジンのα-カルボキシ基とε-アミノ基が反応して形成されたポリεリジンを産生することが見出されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2013-104062号公報
【特許文献2】特表2002-532536号公報
【特許文献3】特表2003-525891号公報
【特許文献4】特表2003-533469号公報
【特許文献5】特開2012-6934号公報
【特許文献6】特公昭59-20359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、オルガノゲルの研究例は少なく、分散質として高分子化合物や天然由来化合物を含むオルガノゲルの研究例はさらに少ないといえる。
そこで本発明は、天然由来の高分子化合物で構成されており、有機溶媒を含むオルガノゲルを形成可能な静電複合体と、当該静電複合体から形成されるオルガノゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、天然由来の高分子基材であるポリεリジンと特定の陰イオン界面活性剤との静電複合体からであればオルガノゲルを形成可能であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] ポリεリジン、およびスルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする静電複合体。
[2] 上記陰イオン界面活性剤が硫酸エステル型陰イオン界面活性剤である上記[1]に記載の静電複合体。
[3] 上記ポリεリジンに含まれるα-アミノ基に対する上記陰イオン界面活性剤の割合が0.9倍モル以上である上記[1]または[2]に記載の静電複合体。
[4] 上記ポリεリジンを構成するリジンのうちL-リジンの占める割合が90%以上である上記[1]~[3]のいずれかに記載の静電複合体。
[5] 上記[1]~[4]のいずれかに記載の静電複合体、および有機溶媒を含有することを特徴とするオルガノゲル。
[6] 上記有機溶媒がクロロホルムである上記[5]に記載のオルガノゲル。
[7] 上記有機溶媒がエタノールおよび/またはイソプロパノールである上記[5]に記載のオルガノゲル。
[8] 有機溶媒を吸収するための方法であって、
ポリεリジン、およびスルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含有する静電複合体を調製する工程、および、
上記静電複合体に上記有機溶媒を添加する工程を含む方法。
[9] 上記陰イオン界面活性剤が硫酸エステル型陰イオン界面活性剤である上記[8]に記載の方法。
[10] 上記ポリεリジンに含まれるα-アミノ基に対する上記陰イオン界面活性剤の割合が0.9倍モル以上である上記[8]または[9]に記載の方法。
[11] 上記ポリεリジンを構成するリジンのうちL-リジンの占める割合が90%以上である上記[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 上記静電複合体が上記有機溶媒を吸収してオルガノゲルになる上記[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
[13] 上記有機溶媒がクロロホルムである[8]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 上記有機溶媒がエタノールおよび/またはイソプロパノールである[8]~[12]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る静電複合体は、天然由来の高分子化合物であるポリεリジンを構成成分として含むことから、環境に比較的優しいといえる。また、本発明に係る静電複合体は、有機溶媒を包含してオルガノゲルとなり、さらに脂溶性の有用化合物を包含可能である。かかるオルガノゲルには、例えば、水不溶性のクロロフィルやフェオフィチンを包含してその機能を発揮させたり、また、膜タンパク質をその高次構造を維持したまま包含してその機能を発揮させたりできる可能性がある。よって、本発明に係る静電複合体とオルガノゲルは、従来に無い新素材として、産業上極めて利用価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係るクロロホルム含有オルガノゲルとクロロホルム単独を開放系で放置した場合におけるクロロホルム量の経時的変化を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明に係るクロロフィル含有オルガノゲルの外観写真である。(a)はオルガノゲル調製直後の外観写真であり、(b)はオルガノゲルを暗所で静置した後の外観写真であり、(c)はオルガノゲルを明所で静置した後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る静電複合体は、ポリεリジン、およびスルホン酸基を有する陰イオン界面活性剤を含有する。

【0014】
ポリεリジンは、下記繰り返し単位を有する高分子であり、側鎖にα-アミノ基を有する以外、ナイロン6と同様の化学構造を有する。

【0015】
【化1】
JP2018159064A_000002t.gif

【0016】
ポリεリジンを形成するリジンの絶対構造は特に制限されず、例えば、L-リジンのみからなるもの、D-リジンのみからなるもの、両方を含むものがあるが、何れも用いることができる。但し、一方の割合がより多い方が立体規則性に優れ強度なども高くなり得るので、L-リジンのみからなるポリεリジンおよびD-リジンのみからなるポリεリジンが好ましく、L-リジンのみからなるポリεリジンがより好ましい。さらに、L-グルタミン酸からなるポリεリジンは生分解性に優れる。具体的には、ポリεリジンを構成するリジンの90モル%以上がL-リジンであることが好ましい。当該割合としては、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上または99モル%以上がよりさらに好ましく、実質的に100モル%が特に好ましい。

【0017】
使用するポリεリジンの分子サイズも特に制限されないが、例えば、重合度としては15以上、700以下とすることができ、数平均分子量としては2000以上、100,000以下とすることができる。重合度が15以上または数平均分子量が2000以上であれば、ゲルがより容易に形成され易くなる。一方、重合度が700以下または数平均分子量が100,000以下であれば、水溶性をより確実に確保でき、本発明に係る静電複合体を合成し易くなる。

【0018】
前述した通り、リジンを化学的に脱水縮合するとポリαリジンが得られる。よって、ポリεリジンとしては、微生物発酵により製造されたものを工程に用いることが好ましい。微生物発酵により製造されたポリεリジンは、化学合成品より安価であり入手が容易である。ポリεリジンを産生する微生物としては、例えば、ストレプトマイセス・アルブラス(Streptomyces alblus)や、ストレプトマイセス・ヌールセイ(Streptomyces noursei)に属するポリεリジン産生菌を挙げることができる。ポリεリジンは、一般的に、ポリεリジン産生菌の培地から単離精製することができる。

【0019】
本発明に係る静電複合体は、スルホン酸基を含む陰イオン界面活性剤を含む。おそらくは、ポリεリジンを構成する各リジンの側鎖α-アミノ基と、陰イオン界面活性剤のスルホン酸基が静電的相互作用により結合し、水に対して不溶化すると考えられる。なお、本発明において「スルホン酸基」とは、いわゆるスルホン酸基(-SO3Hまたは-SO3-)の他、硫酸基(-OSO3Hまたは-OSO3-)を含む。

【0020】
スルホン酸基を含む陰イオン界面活性剤としては、例えば、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)、ジアルキルスルホコハク酸塩、リグニンスルホン酸塩などを挙げることができる。
分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)は、疎水性部分である分岐鎖アルキルベンゼンにスルホン酸ナトリウム基などのスルホン酸塩基が置換している界面活性剤であり、例えば、5-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを挙げることができる。

【0021】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)は、疎水性部分である直鎖アルキルベンゼンにスルホン酸ナトリウム基などのスルホン酸塩基が置換している界面活性剤であり、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)による泡公害が問題になったことから、ABSに代わって大量に消費されているものである。LASとしては、1-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを挙げることができる。

【0022】
アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)は、疎水性部分である長鎖アルケニル基にスルホン酸塩基が置換している界面活性剤である。AOSとしては、1-テトラデセンス
ルホン酸ナトリウム、ヘキサデセンスルホン酸ナトリウム、3-ヒドロキシヘキサデシル-1-スルホン酸ナトリウム、オクタデセン-1-スルホン酸ナトリウム塩、3-ヒドロキシ-1-オクタデカンスルホン酸ナトリウムを挙げることができる。

【0023】
アルキル硫酸塩(AS)は、高級アルコールと硫酸とのエステルの塩である。ASはLASよりもタンパク質変性作用が弱く、また、高級脂肪酸塩(石鹸)に次いで生分解性が高いことから、台所洗剤、シャンプー、歯磨剤などに配合されている。ASとしては、ドデシル硫酸ナトリウムを挙げることができる。
アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)は、ASのアルキル基と硫酸塩基との間にポリアルキレングリコール鎖が挟まれている構造を有する。

【0024】
ジアルキルスルホコハク酸塩は、コハク酸のジ長鎖アルキルエステルのコハク酸がスルホン酸基に置換されている界面活性剤であり、例えば、スルホコハク酸ジオクチル(DSS)を挙げることができる。
リグニンスルホン酸塩は、リグニン分解物にスルホン酸基が結合した界面活性剤である。リグニンとは、フェノール化合物が互いに結合した高分子化合物であり、リグニン分解物は、リグニンが分解して低分子量化した化合物をいう。

【0025】
本発明に係る静電複合体としては、ゲル化能のために、ポリεリジンがスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤により十分に改質されているものが好適である。より具体的には、静電複合体を構成するスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤の割合が、ポリεリジンを構成するリジンの側鎖α-アミノ基に対して0.50倍モル以上または0.60倍モル以上であることが好ましく、0.70倍モル以上または0.80倍モル以上であることがより好ましく、0.90モル倍以上または0.95倍モル以上であることがよりさらに好ましく、0.98倍モル以上が特に好ましい。ポリεリジンを構成するリジンとスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤を等モルまたは略等モル含む静電複合体が好適である。

【0026】
スルホン酸基含有陰イオン界面活性剤は、一種のみ用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよいが、静電複合体の性質の均一性から一種のみ用いることが好ましい。

【0027】
本発明の静電複合体は、溶媒中、ポリεPGAとスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤を混合するのみで、極めて容易に製造できる。ここで使用する溶媒としては、水が好適である。原料であるポリεPGAとスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤を良好に溶解できるからであり、また、目的化合物である静電複合体は水に対して不溶性であることから、反応後における目的物の単離精製に便利だからである。但し、スルホン酸基含有陰イオン界面活性剤の水溶性などによっては、反応液に対するそれらの溶解性を高めるために、メタノールやエタノールなどのアルコール;THFなどのエーテル;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミドなどの水溶性有機溶媒を反応液に添加してもよい。しかし、反応終了後における静電複合体の分離を考慮すれば、溶媒としては水のみを用いることが好ましい。

【0028】
本発明の静電複合体は水不溶性であることから、水溶媒から容易に分離できるため、反応液における各成分の濃度は特に制限されない。例えば、反応液におけるポリεリジンの濃度を0.1質量%以上、10質量%以下程度、スルホン酸基含有陰イオン界面活性剤の濃度を0.1質量%以上、10質量%以下程度とすることができる。上記ポリεリジン濃度としては、0.5質量%以上がより好ましく、また、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がよりさらに好ましい。上記スルホン酸基含有陰イオン界面活性剤の濃度としては、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がよりさらに好ましく、また、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がよりさらに好ましい。

【0029】
反応条件に関しては、反応液を加温してもよいが、常温でも反応は進行する。また、ポリεリジンとスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤とを十分に相互作用させるには、反応時間を10分間以上、10時間以下程度とすることができ、30分間以上、5時間以下程度がより好ましい。

【0030】
本発明の静電複合体は水不溶性であることから、濾過や遠心分離などにより水溶媒から容易に分離することができる。また、分離した静電複合体は、水で洗浄することにより、過剰に用いたポリεリジンまたはスルホン酸基含有陰イオン界面活性剤、その他の副生塩などを除去することも可能である。また、水溶媒は、アセトンなどで洗浄することにより簡便に除去できる。分離された静電複合体は、減圧乾燥や凍結乾燥などの常法により乾燥することが好ましい。静電複合体の乾燥度合いが高いほど、ゲル化能が高くなる。乾燥度合いとしては、例えば、カールフィッシャー法で測定した水分含量として2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がよりさらに好ましい。当該水分含量は少ない程良いが、当該水分含量としては0質量%以上とすることができ、0.01質量%以上とすることができる。

【0031】
本発明の静電複合体は、少なくともポリεリジンが生分解性を示す上に、有機溶媒に対する親和性を示す。特に、有機溶媒を吸収してゲル化する性質を有する。かかる有機溶媒は、常温常圧下で液状である水以外の溶媒をいい、例えば、非水溶性で脂溶性の高いものを用いることができ、非極性有機溶媒を用いることができる。本発明で用い得る有機溶媒は特に制限されないが、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノールなどのアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒;クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素溶媒;ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;ギ酸、酢酸などの有機酸系溶媒;植物由来のエッセンシャルオイル;トリパルミトイルグリセロールなどのトリアシルグリセロールを挙げることができる。

【0032】
なお、本発明の静電複合体は、事実上、最大で自重の60質量倍の有機溶媒を包含してゲル化することができる。但し、オルガノゲルとしての利用や強靭性などの物性を加味すると、30質量倍程度の有機溶媒を包含させるのが特に好ましい。また、本発明の静電複合体は、保湿性を有しながらも水溶性や過剰な吸水性を示さない。さらに、明確な融点を有し且つ融点と熱分解開始点が十分に離れていることから加熱成形が可能である。よって、生分解性のプラスチック材料として利用することが可能であり、従来の石油由来の材料にとって代わり得るものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0034】
実施例1: ポリεリジンイオンコンプレックス(PELIC)の作製
ポリεリジン(JNC株式会社より譲渡)を水に溶解し、25%ポリεリジン水溶液を調製した。当該水溶液5.0mLを分取し、ポリεリジンのアミノ基と塩化物イオンが等モルとなるように12N塩酸813.0μLを添加後、さらに同塩酸437.0μLを添加することで、20%カチオン化ポリεリジン水溶液を調整した。当該水溶液のカチオン化ポリεリジンの濃度は1.25g/6.25mLとなる。当該20%カチオン化ポリεリジン水溶液1.0mLを分取し、さらに蒸留水19.0mLを添加して、1%カチオン化ポリεリジン水溶液20.0mLを調製した。当該水溶液には、カチオン化ポリεリジンが200.0mg含まれる。
カチオン化ポリεリジンのアミノ基とラウリル硫酸ナトリウム(SDS)が等モルとなるように、SDSの50.0mg/20.0mL水溶液と上記カチオン化ポリεリジン水溶液を常温で混和した後、1時間静置した。当該反応混合物を、8,000rpm、25℃で10分間遠心後、上清を捨て、沈殿物を1.5mL容エッペンチューブに100~130mgずつ詰め、減圧乾燥機を用いて常温で24時間乾燥させた。以下、得られた乾燥物を「SDS型PELIC」という。
乾燥して得られたSDS型PELICの反応効率を算出した。具体的には、ポリεリジ
ンとそのカウンターパートナーであるSDSが完全に反応した場合の理論重量で実際に得られた反応後乾燥重量を除算した。その結果、SDS型PELICの反応効率は約95%であった。反応後の回収損失分を考慮すると、SDS型PELICの反応効率は事実上100%に達するものと推察される。そのため、SDS型PELICは、完全修飾タイプのイオンコンプレックスであることが示唆された。
【実施例】
【0035】
実施例2: PELICのゲル化に与える乾燥程度の影響
SDS型PELICのゲル化能が乾燥程度の影響を受けるか否かに関して実験を行った。上記実施例1において、乾燥時間を0時間から24時間、さらには最長120時間とした以外は同様にして、SDS型PELICを作製した。各SDS型PELIC10mgを2mL容バイアル瓶に入れ、各SDS型PELICの30質量倍のクロロホルムを添加した。常温で静置した後、バイアルを逆さにし、混合物が落下しない場合はゲル化していると判断した。
実験の結果、乾燥時間が2時間までは完全なゲルを形成できず、混合物は半ゲル様の流動性を示すことが確認された。乾燥時間が3時間以上12時間未満ではゲル化するものの、ゲル化に要する時間が1時間を下回ることはなかった。しかし、乾燥時間が12時間以上の場合では1時間以内でゲル化し、24時間では10~30分以内でゲル化した。また、乾燥時間が120時間の場合も24時間と同様であった。
以上の結果の通り、十分に乾燥して水分を除去するほどPELICのゲル化能力を引き出す上で有効であるとともに、120時間という過剰乾燥にもかかわらず十分なゲル化能を保持していたことは乾燥に強い強靭な構造を有していると考えられる。
【実施例】
【0036】
試験例1: SDS型PELICの最大膨潤量
上記実施例2によりSDS型PELICが自重量の30質量倍程度までクロロホルムを含んでゲル化することは明らかとなっていたが、最大何倍程度までゲル化が可能であるかについて実験を行った。上記実施例2において、乾燥時間が24時間または120時間のSDS型PELICを用い、クロロホルム添加量の下限をSDS型PELIC質量の30倍、上限を100倍に設定して、10倍毎にゲル化時間とゲル形成の有無を確認した。その結果、60質量倍のクロロホルムを添加した場合であっても、静置時間の1時間でゲルが形成された。しかし70質量倍以上では、バイアルを逆さまに置くとPELICが落下した。本実験において、乾燥時間が24時間であるPELICと120時間のPELICとの間では、同様の結果が得られたのみであった。
【実施例】
【0037】
試験例2: ゲル化の限界反復回数
SDS型PELICについて、再ゲル化回数に関する実験を行った。SDS型PELICに対して30質量倍のクロロホルムを添加し、ゲル化した時点でバイアルのキャップを開け、常温で静置した。同様の操作を毎日定刻に行い、その前にクロロホルムが完全に揮発しているか否か確認するために質量を測定した。
実験の結果、繰り返しゲル化させることでゲル化時間が遅延していく傾向にあり、9回目ではゲル化形成を確認できなくなった。但し、本実験において使用したSDS型PELICとしては、1度ゲル化させた後に常温で2週間放置したものを使用している。従って、通常環境下においても、最低8回程度は繰り返しゲル化させられることが示唆された。
【実施例】
【0038】
試験例3: クロロホルム保持時間
SDS型PELIC10.0mgを外径15×高さ40×口内径7.4(mm)のコレクションバイアル(IWAKI社製)に入れ、さらにクロロホルム200.0μL(約300.0mg)を添加して混和した後、蓋を閉めないまま常温で放置し、クロロホルムの揮発による質量変化を経時的に記録した。対照区としてクロロホルム単独でも同様に実験を行った。結果を図1に示す。
図1に示す結果の通り、クロロホルム単独の場合、常温条件下では平均約2.1mg/
minの速度で質量が減少し、2時間後にはすべて揮発した。一方、最大で自重量の約60倍程度までクロロホルムを含んでゲル化するSDS型PELICの場合、同一条件下において、クロロホルム量が15倍程度になるまではクロロホルム単独の場合と変わらない程度の速度で質量が減少したが、それ以降は緩やかな減少速度に転じた。最終的にすべてのクロロホルムが揮発するまで12時間を要したことから、SDS型PELICは顕著なクロロホルム保持能力を備えていることが明らかとなった。
【実施例】
【0039】
比較例1: SDS単独のゲル化能
SDS型PELICのゲル化能はポリεリジンとSDSとのイオンコンプレックスに由来するものか否かにつき、確認の実験を行った。上記のSDS型PELICは完全修飾タイプなので、10.0mg中にはその質量比から6.9mgのSDSが含まれている。そこでSDS6.9mgを外径15×高さ40×口内径7.4(mm)のコレクションバイアル(IWAKI社製)に量り取り、クロロホルム200.0μLを添加した上で蓋を閉め、経過を観察した。
その結果、24時間後も変化はなく、閉鎖系においてクロロホルムが揮発するまで観察したが、終始ゲル化する様子はなかった。ポリεリジンがそもそもクロロホルムと任意の割合で溶けないことから、SDS型PELICのゲル化能はSDS型PELIC特有の能力であることが明らかになった。
【実施例】
【0040】
試験例4: 葉緑素を利用した電子授受反応場の形成
クロロフィルa粉末1.4mgにクロロホルム4.0mLを添加し、0.035%のクロロフィルa溶液を調製した。バイアルにSDS型PELIC10.0mgを入れ、さらに当該クロロフィルa溶液200.0μLを添加し、暗所にて静置した。30分経過後、バイアルを逆さまにしてもクロロフィルa溶液を吸収してゲル化し、混合物が落下しないことを確認した。
ゲル化直後の外観写真を図2(a)に示す。ゲル化が確認された後、暗所と明所にそれぞれ静置し、12時間後、再度写真を撮影した。暗所で静置したゲルの外観写真を図2(b)に、明所で静置したゲルの外観写真を図2(c)に示す。
図2(b)の通り、暗所に本発明ゲルを静置しても色の変化は認められなかったが、図2(c)の通り、明所に本発明ゲルを静置した場合にはクロロフィル特有の深緑色から褐色に変化した。
クロロフィルは葉緑体の膜中に存在し、光エネルギーを効率良く吸収して化学エネルギーに変換し、二酸化炭素と水から炭水化物と酸素を生成する光合成において重要な役割を果たす。しかしクロロフィルはクロロホルムなどの有機溶媒に溶解する一方で水には不溶であるため、水を溶媒とする一般的なバイオ技術への応用には問題があった。それに対して、本実験結果によれば明所でクロロフィルの色変化が確認できたことから、クロロフィルが光を吸収して分解、即ちマグネシウムの脱離が生じていることが示唆された。このように本発明に係るオルガノゲルは、クロロフィルなどの非水溶性化合物や膜タンパク質などの反応場となるため、水不溶性バイオ機能材料の画期的な利用手段になる可能性を有する。
図面
【図1】
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【図2】
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