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明細書 :フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質及びその製造方法、並びにフザリウム菌の増殖を抑止する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-157816 (P2018-157816A)
公開日 平成30年10月11日(2018.10.11)
発明の名称または考案の名称 フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質及びその製造方法、並びにフザリウム菌の増殖を抑止する方法
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
A01N  43/90        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
A01N  41/12        (2006.01)
C07H  19/167       (2006.01)
A61K  35/74        (2015.01)
A61K  36/8962      (2006.01)
C12N   1/38        (2006.01)
C07C 321/18        (2006.01)
A01N  65/40        (2009.01)
A01H   6/04        (2018.01)
A61K 125/00        (2006.01)
FI C12N 1/20 Z
A01N 43/90 105
A01G 7/00 605Z
A01P 3/00
A01N 41/12
C07H 19/167
A61K 35/74 A
A61K 36/8962
C12N 1/38
C07C 321/18
A01N 65/40
A01H 6/04
A61K 125:00
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2018-054746 (P2018-054746)
出願日 平成30年3月22日(2018.3.22)
優先権出願番号 2017057255
優先日 平成29年3月23日(2017.3.23)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】清水 将文
【氏名】西岡 友樹
出願人 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000659、【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
4B065
4C057
4C087
4C088
4H006
4H011
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030CD28
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BD34
4B065BD35
4B065CA47
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057LL29
4C057LL41
4C087AA03
4C087BC90
4C087CA09
4C087NA20
4C088AB87
4C088AC11
4C088BA09
4C088CA05
4C088CA14
4C088MA02
4C088NA20
4H006AA03
4H006AB03
4H006TA04
4H011AA01
4H011BB03
4H011BB09
4H011DD04
要約 【課題】土壌中のフザリウム菌の増殖防止に有効な物質とその製造方法並びに物質を用いたフザリウム病を抑止する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る物質は、アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を含有し、土壌に付与することでフザリウム菌に拮抗する細菌の増殖を促進し、フザリウム菌の増殖を抑制する。本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、ネギ属の根から抽出することができる。本発明の物質は、土壌に付与することでフザリウム病を抑止することができる。
【選択図】図21
特許請求の範囲 【請求項1】
アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を含有する、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質。
【請求項2】
ネギ属の根から抽出した組成物である、請求項1記載のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質。
【請求項3】
アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を、育苗用の苗床または植物苗を定植する圃場の土壌に付与することにより、フザリウム病を抑止する方法。
【請求項4】
ネギ属の根を凍結する工程と、
凍結した前記ネギ類の根を磨砕する工程と、
磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液を濾過して濾液を得る工程と、
前記濾液をクロマトグラフィーにかけることによってアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を分画する工程と、
前記化合物を育苗用の苗床または植物苗を定植する圃場の土壌に付与する工程と、
フザリウム菌に対する拮抗細菌を増殖させる工程と、
フザリウム菌の増殖を抑制する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項3記載のフザリウム病を抑止する方法。
【請求項5】
ネギ属の根を凍結する工程と、
凍結した前記ネギ類の根を磨砕する工程と、
磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液を濾過して濾液を得る工程と、
前記濾液をクロマトグラフィーにかけることによってアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を分画する工程と、
を含むことを特徴とするフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フザリウム菌に拮抗する細菌の増殖を促進する物質及びその製造方法に関する。さらに、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を用いてフザリウム菌の増殖を抑止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物に感染し、連作障害の原因になる糸状菌の一種に、フザリウム菌がある。フザリウム菌の中で病原性を有するものは、100種以上の植物に対して、主に根から進入して導管内で増殖し、通水を阻害して葉の黄化や萎れなどの症状を生じさせ、時に枯死させる。フザリウム菌は、耐久性の高い厚壁胞子を形成しており、何年間も土壌中で生きながらえるため、一度フザリウム菌が増殖してこれに由来する病変が発生した土地では、長期にわたって宿主となる作物の栽培ができなくなる。農業現場では、フザリウム菌による病変の対策として、抵抗性品種の利用、抵抗性台木への接ぎ木を利用した栽培、及び土壌燻蒸消毒が行われているが、いずれも病変を完全に防止するには至っていない。
【0003】
以下では、フザリウム菌のうち病原性を有するもの、例えばフザリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)について、単にフザリウム菌とも称する。そして、フザリウム菌によって引き起こされる様々な作物の病変をフザリウム病とも称する。
【0004】
消毒薬等の薬品を用いずにフザリウム菌を駆除する、生物防除法の検討が進められている。土壌病害に対する生物防除法の一般的な戦略は、拮抗微生物、特に拮抗細菌といわれる細菌を土壌に大量投入し、病原菌の活動、増殖、あるいは植物体への感染を抑制することで土壌病害の発生を軽減しようとするというものである。拮抗微生物を用いたフザリウム病の防除法として、特許文献1には、非病原性フザリウム菌を用いる技術が開示されている。特許文献2には、コリモナス属細菌を用いる技術が開示されている。特許文献3には、ロドシュードモナス属細菌およびバチルス属細菌を用いる技術が開示されている。特許文献4には、シュードモナス属細菌を用いる技術が開示されている。特許文献5には、ストレプトミセス属放線菌を用いる技術が開示されている。しかしながら、pH、有機物含量、重金属等といった土壌要因、気象条件、土着微生物との生存競争などが原因で、拮抗微生物が投入場所の土壌に十分量住み着くことができず、期待された病害抑制効果を発揮できないことも多い。
【0005】
それぞれの土地に生息する土着の拮抗微生物の活動と増殖を人為的に活発化させることで、土壌病害が発生しにくい土壌を作り出す技術の開発が進められている。以下、病害の発生しにくい特性のことを、発病抑止性と称し、このような土壌を発病抑止土壌という。特許文献6および非特許文献1,2には、カニやエビの殻、カニ殻由来のキチン、キトサンおよびその分解物を含む資材を土壌に投入することにより、キチン、キトサン分解微生物の増殖を促し、キチンを細胞壁の主成分とする病原糸状菌の数を減少させ、フザリウム病をはじめとする土壌伝染性の糸状菌病害の発生を防止し、連作障害の発生を軽減する方法が公開されている。しかし、特許文献6および非特許文献1,2で開示されている資材によって十分な発病抑制効果を得るためには、土壌への多量の施用が必要であった。一方で、キチン、キトサンおよびその分解物は、近年、医薬品、健康食品等への利用が進んでおり、価格が高騰して土壌改良材としての利用は困難になっている。
【0006】
また、中国や日本の一部地域では、フザリウム病の抑制のために、ウリ科の植物に対してネギの混植やタマネギの輪作が行われており、一定の効果が認められる。図16に、フザリウム オキシスポラムが増殖している土壌に、キュウリとネギを混植した場合と、キュウリとニラを混植した場合と、キュウリのみを栽培した場合の、それぞれのキュウリの発病率を示す。ネギ属の混植や輪作栽培は、トマトやホウレンソウなど様々な作物のフザリウム病予防にも有効であることが、実験的に確認されている。しかしながら、ネギ属の栽培によってフザリウム病が防止される機構は、未だ解明されていない。また、フザリウム病を予防したい作物の作付け体系や作付け時期、収穫方法、品質への影響などの点からネギ属を混植したり輪作することができない場合が多く、汎用性が高い技術とはいえなかった。
【0007】
しかしながら、ネギやニラの混植は、ウリ科の植物だけでなく、他の植物のフザリウム菌による病害にも有効である。ホウレンソウ萎凋病もフザリウム菌による病害であるが、図17に示すように、ホウレンソウとネギやニラを混植すると、フザリウム病の発病率を低下させる効果がある。図17に示した混植の評価方法は、ホウレンソウ萎凋病菌を混和したポット内の培土にネギまたはニラの苗を移植し、その周囲にホウレンソウを10粒播種し、播種20日後まで発病を調査し、AUDPC(発病進展曲線下面積:発病の程度を表す値)を算出した結果である。ネギ属に含まれる成分を特定し、その成分を利用することができれば、フザリウム病に対する、有効な対策をとることができると考えられてきた。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平06-256126号公報
【特許文献2】国際公開第2013/038575号
【特許文献3】特開2015-39359号公報
【特許文献4】特開2010-229052号公報
【特許文献5】特開2003-277213号公報
【特許文献6】特開平07-258636号公報
【0009】

【非特許文献1】Buxton et al.(1965)「Effect of soil amendment with chitin on pea wilt caused by Fusarium oxysporum f.sp.pisi.」Ann.Biol.55:83-88
【非特許文献2】駒田旦ら(1965)「ダイコン萎黄病の生態学的研究(I)土壌中における病原菌と他の微生物との関係,およびキチン添加による生物的防除.」土と微生物 7:41-48.
【非特許文献3】Ashley et al.(1998)「Effects of chitin and chitosan on the incidence and severity of Fusarium yellows of celery.」Plant Dis.82:322-328.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の上記問題点に鑑みてなされたものであって、フザリウム病による発病を抑制する技術の提供を解決すべき課題としている。具体的には、土壌中のフザリウム菌と拮抗してフザリウム菌の増殖を抑制する細菌の増殖を促進する物質、すなわちフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質の提供、及びその製造方法の提供、並びに、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を用いたフザリウム病の抑制方法の提供、を解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、ネギ属の根から抽出した組成物であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、フザリウム菌による作物の病変を抑止する方法を提供する。本発明の方法は、アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を、育苗用の苗床または植物苗を定植する圃場の土壌に付与することにより、フザリウム病を抑止することを特徴とする。
【0014】
本発明のフザリウム病を抑止する方法は、ネギ属の根を凍結する工程と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程と、濾液をクロマトグラフィーにかけることによってアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を分画する工程と、化合物を育苗用の苗床または植物苗を定植する圃場の土壌に付与する工程と、フザリウム菌に対する拮抗細菌を増殖させる工程と、フザリウム菌の増殖を抑制する工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0015】
本発明はまた、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質の製造方法を提供する。本発明の方法は、ネギ属の根を凍結する工程と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程と、濾液をクロマトグラフィーにかけることによってアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物を分画する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
発明者は、伝統農法であるネギ属の混植と輪作がフザリウム病の抑制に有効である点に着目し、その機構を解析した。その結果、ネギ属から土中に放出される物質によって土壌中でフザリウム菌の拮抗細菌が増殖し、拮抗細菌がフザリウム菌の増殖や植物体への感染を阻害することを確認した。そして、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質がアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインからなる群から選択される一種以上の化合物であることを特定し、ネギ属の根からフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を製造する方法を確立した。さらに、本発明の物質を土壌に添加することで、フザリウム病の発病が抑制されることを確認して、本発明を為すに至った。
【0017】
本発明におけるフザリウム菌の拮抗細菌とは、フザリウム菌の作用を直接または間接的に阻害する細菌を指す。すなわち、フザリウム菌に対して抗菌作用を有しておりフザリウム菌の増殖を抑制する細菌の他、たとえば植物の免疫を活性化してフザリウム菌の組織内での活動を阻害して発病させない作用を有する細菌全般のことを指す。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、土壌に付与することで、約一週間で土壌中に拮抗細菌が集積し、増殖し、その拮抗細菌がフザリウム菌の増殖や植物体への感染を阻害することで、フザリウム病を抑制することができる。
【0019】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、フザリウム菌が土壌中で蔓延する前に付与しても、また蔓延した後に付与しても、フザリウム病を防止することができる。すなわち、フザリウム病の予防効果と、回復効果の両方を備えている。
【0020】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、それぞれの土地に生息する土着の拮抗微生物を活性化して増殖を促進する作用を有する。このため、付与する土壌の、pH、有機物含量、重金属等といった土壌の理化学性、気象条件、土着微生物等の生物性が異なっても、安定して効果を発現することができる。
【0021】
本発明により、抵抗性品種や有効な台木が開発されていない作物や、ネギ属との混植や輪作が利用できなかった作物についても、フザリウム病を予防し、フザリウム病から回復させることが可能となる。
【0022】
本発明により、土壌燻蒸消毒剤等の薬品を使用することなく発病抑止土壌を得ることができる。また、本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、土壌に1回付与すると、約4週間以上は効果が継続する。
【0023】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、ネギ属の抽出物から容易且つ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質によるフザリウム病を抑止する方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、ネギ属の栽培土壌及び本発明のネギ属の根の抽出液を添加した土壌の、キュウリつる割病の抑止効果の評価結果を示す図である。
【図4】図4は、ネギ属を栽培した土壌を加熱処理した場合の、処理温度と発病の抑制効果の関係を示した図である。
【図5】図5は、ネギの根の抽出液の有効成分の耐熱性の評価結果を示す図である。
【図6】図6は、滅菌土壌にネギの根の抽出液を付与したときのキュウリつる割病の発病度の評価結果を示す図である。
【図7】図7は、本発明のネギの根の抽出液を付与後に、土壌の加熱処理を行ったときのキュウリつる割病の発病度の評価結果を示す図である。
【図8】図8は、生物性、理化学性の異なる土壌に対する本発明のネギの根の抽出液の効果を示す図である。
【図9】図9は、本発明のネギ属の根の抽出物を添加した土壌成分を含む培地で、フザリウム菌を培養した場合の菌数の変化を示す図である。
【図10】図10は、本発明のネギの根の抽出物がキュウリつる割病菌の発病の抑止性を誘導するまでの期間を示す図である。
【図11A】図11Aは、キュウリつる割病菌が増殖した土壌に本発明のネギの根の抽出物を付与した場合のフザリウム菌の増殖抑制効果を示す図である。
【図11B】図11Bは、キュウリつる割病菌が増殖した土壌に本発明のネギの根の抽出物を付与し、さらにキュウリを定植した場合のフザリウム菌の増殖抑制効果を示す図である。
【図12】図12は、キュウリつる割病菌が増殖した土壌に対する、本発明のネギの根の抽出物付与による発病度の低減効果を示す図である。
【図13】図13は、本発明のネギの根の抽出物を有機溶媒で分画した各区分の発病抑止性の誘導効果を示す図である。
【図14】図14は、本発明のネギの根の抽出物に含まれる抗菌物質の耐熱性を検証した結果を示す図である。
【図15】図15は、植物の根の抽出物添加によって生じる土壌の細菌コミュニティーのクラスター分析結果を示す図である。
【図16】図16は、ネギ属とキュウリとを混植した場合の、フザリウム病の抑制効果を示すグラフである。
【図17】図17は、ネギ属とホウレン草とを混植した場合の、フザリウム病の抑制効果を示すグラフである。
【図18】図18は、ネギとタマネギを栽培した土壌を加熱処理したときの、土中微生物の変動を示すグラフである。
【図19】図19は、ネギ栽培土に熱処理や抗生剤処理をしたときの、フザリウム菌増殖抑制効果の変化を示すグラフである。
【図20】図20は、ネギ栽培土に抗生剤処理をしたときの、栽培土中の微生物数の変化を示すグラフである。
【図21】図21は、本発明に係る拮抗細菌増殖促進物質を添加した土壌の、フザリウム病の発病度の抑止効果を示すグラフである。
【図22】図22は、本発明に係る拮抗細菌増殖促進物質を滅菌土壌に添加した場合の、フザリウム病の発病度を示すグラフである。
【図23】図23は、本発明に係る拮抗細菌増殖促進物質をフザリウム菌の培地に直接添加した場合のフザリウム菌の増殖抑制効果を示すグラフである。
【図24】図24は、本発明に係る拮抗細菌増殖促進物質を添加した土壌の、フザリウム菌の増殖抑制効果を示すグラフである。
【図25】図25は、拮抗細菌増殖促進物質の一つであるアデノシンと他のリボヌクレオシドの、フザリウム病の発病度を対比したグラフである。
【図26】図26は、拮抗細菌増殖促進物質である5’-S-メチル-5’-チオアデノシンとγ-グルタミル-S-アリルシステインにおける、濃度とフザリウム病の発病抑止効果の関係を示すグラフである。
【図27】図27は、拮抗細菌群ごとのフザリウム病の発病抑止効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質に含まれる、アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、及びγ-グルタミル-S-アリルシステインが、フザリウム病を防除する機構とその特性を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、主に、キュウリつる割病を引き起こすフザリウム オキシスポラム エフ.エスピー.キューカメリナム(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum、以下、キュウリつる割病菌とも言う)を用いて、フザリウム病の発病抑止効果を評価している。

【0026】
図21に、本発明の3種類の拮抗細菌増殖促進物質であるアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、γ-グルタミル-S-アリルシステインを添加した土壌を用いて、キュウリつる割病の発病抑止効果を評価した結果を示す。

【0027】
効果を定量的に評価するために、圃場から採取した土壌を6Kgずつ用意し、以下に示す濃度で、それぞれの物質を付与した。アデノシンと、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンは、0.1gを1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与した。γ-グルタミル-S-アリルシステインは、1.34gを1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与した。

【0028】
比較例として、
(1)なにも付与しない無添加土壌、
(2)ネギの根200gから1リットルの濾液を調製し、更に、濾液300~350mlに対して滅菌水650~700mlの割合で添加することで約3倍に希釈し、これを6Kgの土壌に1リットル付与したもの。すなわち、6Kgの土壌に対して、ネギの根約66gから抽出した抽出物を付与したもの、
(3)アデニン0.1gを1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与したもの、
(4)チラミン0.1gを1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与したもの、
(5)2-デオキシアデノシン0.1gを1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与したもの、
の、5種類の土壌を準備した。

【0029】
図21の縦軸に示した発病度は、それぞれの土壌を、25℃で1週間培養した後に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した結果である。ここでいう発病度とは、評価を行った全ての幼苗のうち、子葉の萎れを指数1、黄化若しくは道管の褐変化及び胚軸の黄褐変化を指数2、株全体の激しい萎れ若しくは完全枯死を指数3として、それぞれの病変に対して重み付けをするように、以下の式により計算した値である。

【0030】
発病度= (3A + 2B+ C)/ 3N × 100
ここで、Aは指数3の幼苗の数であり、Bは指数2の幼苗の数であり、Cは指数1の幼苗の数であり、Nは評価を行った全ての幼苗の数である。

【0031】
図21に示したように、無添加土壌の発病度が62%であったのに対して、ネギ属の根の抽出物を添加した土壌の発病度は、24%であり、有意に発病度が低かった。本発明の物質を添加した土壌の発病度は、アデノシンが24%、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンが38%、γ-グルタミル-S-アリルシステインが18%で、有意に発病度が低いとの結果が得られた。また、比較例のアデニン、チラミン、2-デオキシアデノシンは、発病度がいずれも50%を超えており、無添加土壌との間に発病度の有意な差は認められなかった。

【0032】
アデノシンと、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンと、γ-グルタミル-S-アリルシステインをそれぞれ土壌に付与することで、フザリウム病を抑止する効果を得られることがこの実験により確認された。

【0033】
本発明に係るアデノシンと、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンと、γ-グルタミル-S-アリルシステインによるフザリウム病の抑制機構を確認するために、圃場の土に付与した場合と同一の濃度で滅菌土壌にそれぞれの物質を付与し、25℃で1週間培養し、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植えて、その発病度を評価した。結果を、図22に示す。本発明の物質はいずれも、滅菌土壌にキュウリつる割病菌を添加して培養した場合には発病度の低下が認められず、フザリウム病を抑制する明らかな効果が得られなかった。この結果から、本発明に係る物質自体にはフザリウム病を抑止する効果を有していないことが確認された。

【0034】
さらに、PSB培地に接種したキュウリつる割病菌に対して、アデノシンと、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンと、γ-グルタミル-S-アリルシステインをそれぞれ単体で添加し、25℃で30時間培養したときの、キュウリつる割病菌の菌数(GFP菌株密度)として計測した結果を図23に示す。物質を添加していない培地で培養した場合と、本発明の物質を添加した培地で培養した場合との間に、キュウリつる割病菌の菌数に関する有意差は認められなかった。本発明の物質自体に、フザリウム菌の増殖抑制効果が認められないことが確認された。

【0035】
次に、本発明の物質を添加した土壌のフザリウム菌に対する拮抗性を評価するために、以下の評価を行った。アデノシン0.1g/Lの水溶液と、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン0.1g/Lの水溶液と、γ-グルタミル-S-アリルシステイン1.34g/Lの水溶液を作成して、それぞれの水溶液を圃場の土壌に添加して1週間培養した。それらの水溶液をさらに1000倍に希釈して試料とした。それぞれの試料を、キュウリつる割病菌を接種したPSB培地に添加して、25℃で16時間培養した。このとき、キュウリつる割病菌の菌株密度を計測した結果を図24に示す。無添加の培地で培養した場合の菌株密度が6.09(Log10 bud cells/mL)であるのに対して、アデノシン添加の場合の菌株密度は5.84であり、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン添加の場合は5.82であり、γ-グルタミル-S-アリルシステイン添加の場合は5.50であり、本発明の物質の添加によって、キュウリつる割病菌の菌数が有意に減少していた。この結果から、本発明の物質は、滅菌されていない土壌に添加した場合に、フザリウム菌増殖抑制効果が得られることが確認された。

【0036】
以上の結果から、本発明に係る物質は、フザリウム菌に直接作用するのではなく、フザリウム菌の増殖を抑制する作用をもつ細菌が増殖し、これによってフザリウム病の感染を抑止する効果が得られていることが予測された。そこで、本発明の物質によって増殖が促進され、フザリウム病を抑止する細菌の特定を行った。

【0037】
ネギ属のうち、ネギとタマネギの根の周囲で増殖している優占細菌群を分離し、それぞれの菌群とキュウリつる割病菌を添加して16日間培養した土壌を用いて、キュウリつる割れ病の発病度を評価した。その結果、ネギとタマネギの根の周囲から分離されたFlavobacterium、Burkholderia、Pseudomonasの3つの菌群に、図27に示すようなキュウリつる割病の抑止効果が確認された。なお、図27に示した相対発病度(%)とは、菌株を接種していない土壌の発病度に対する、菌株を接種した土壌の発病度である。

【0038】
ネギ由来のFlavobacteriumを添加した土壌におけるキュウリつる割病の相対発病度の中央値は47%であり、タマネギ由来のFlavobacterium添加土壌の相対発病度の中央値は50%であった。ネギ由来のBurkholderia添加土壌の相対発病度の中央値は47%であり、タマネギ由来のBurkholderia添加土壌の相対発病度の中央値は37.5%であった。ネギ由来のPseudomonas添加土壌の相対発病度の中央値は75%であり、タマネギ由来のPseudomonas添加土壌の相対発病度の中央値は67%であった。このように、Flavobacterium、Burkholderia、Pseudomonasの3つの菌群は、フザリウム菌の拮抗細菌としての作用効果を有しており、フザリウム病を抑止できることが確認された。

【0039】
本発明に係る物質が、フザリウム菌の拮抗細菌を増殖させていることを確認した結果を、以下の表1に示す。表1は、アデノシン0.1g/Lの水溶液と、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン0.1g/Lの水溶液と、γ-グルタミル-S-アリルシステイン1.34g/Lの水溶液を作成して、それぞれの水溶液に圃場の土壌を添加して1週間培養した場合の、フザリウム菌の拮抗細菌であるFlavobacteriumとPseudomonasまたはBurkholderiaの生息密度の値(cfu/dry soil)を示している。

【0040】
【表1】
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【0041】
表1に示したとおり、本発明に係るアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、γ-グルタミル-S-アリルシステインの全てにおいて、フザリウム菌の拮抗細菌であるFlavobacteriumとPseudomonas又はBurkholderiaの生息密度を高める効果が確認された。

【0042】
アデノシンはリボヌクレオシドの一種であるので、他のリボヌクレオシドにおいても、フザリウム菌の拮抗細菌の増殖を促進する効果があるか否かを確認した。その結果を、図25に示す。

【0043】
アデノシン、グアノシン、リボチミジン、ウリジン、シチジン0.1gを、それぞれ1リットルの蒸留水に溶解させたものを、6Kgの土壌に付与し、25℃で1週間培養したのち、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した。図25に示したとおり、アデノシンの発病度が24%であったのに対して、他のリボヌクレオシドの発病度はいずれも50%以上であり、キュウリつる割れ病の発病度を抑止する有意な効果は確認されなかった。

【0044】
本発明の、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質のうち、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンとγ-グルタミル-S-アリルシステインについて、発病の抑止性が発現する濃度を確認した結果を図26に示す。5’-S-メチル-5’-チオアデノシンとγ-グルタミル-S-アリルシステインについて、それぞれ、1リットルの蒸留水に対して、0.1g、0.5g、1gの3段階の分量を溶解させた水溶液を用意し、それぞれを6Kgの土壌に付与した。この土壌を25℃で1週間培養したのち、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、12時間日長で21日間生育させた後の発病度を評価した。

【0045】
5’-S-メチル-5’-チオアデノシンは、0.1g/Lの水溶液を付与したときの発病度が28%であり、何も添加していない土壌と比較してDunnett検定で5%未満の有意差が確認された。γ-グルタミル-S-アリルシステインは、1g/Lの水溶液を付与したときの発病度が18%であり、何も添加していない土壌と比較してDunnett検定で1%未満の有意差が確認された。この結果から、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンは、γ-グルタミル-S-アリルシステインよりも少量で効果が得られることが確認された。

【0046】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を使用する濃度に関しては、土壌の物理化学性、生物性などにより、適宜調整して使用することが可能である。

【0047】
本発明に係るアデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、γ-グルタミル-S-アリルシステインは、土壌に付与したときに、フザリウム菌の拮抗細菌であるFlavobacteriumとPseudomonasまたはBurkholderiaの増殖を促進する、フザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質である。これらの物質は、たとえば、ネギ属の根、茎、葉を原料として、容易かつ安価に製造することができる。本発明に係るフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質の製造方法の一例を図1に示す。この製造方法は、ネギ属の根を凍結する工程(ステップS1)と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程(ステップS2)と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程(ステップS3)と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程(ステップS4)と、クロマトグラフィーによって物質の分画を行う工程(ステップS5)を含むことを特徴とする。なお、本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質の製造方法は、図1に例示した方法に限定されない。図1に記載した方法は例示であり、これらの物質が得られる方法であれば、天然物からの抽出に限らず、合成等の任意の方法を採用することができる。

【0048】
図2に、本発明にかかるフザリウム菌の拮抗細菌の増殖促進物質を用いたフザリウム病を抑止する方法の一例を、フローチャートを示す。本発明の方法は、ネギ属の根を凍結する工程(ステップS11)と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程(ステップS12)と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程(ステップS13)と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程(ステップS14)と、クロマトグラフィーによって物質の分画を行う工程(ステップS15)と、物質を含む液を土壌に付与する工程(ステップS16)と、フザリウム菌に対する拮抗細菌を増殖させる工程(ステップS17)と、フザリウム菌の増殖を抑制する工程(ステップS18)と、を含むことを特徴とする。図2に記載したフザリウム病を抑止する方法も又一例であって、本方法に適用する物質を得る方法は、ネギ属の根から抽出する方法に限定されない。フザリウム病を抑止するためには、本発明に係るフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質を投入できればよく、ステップS11からS15までは、合成等の物質の製造方法に代替可能である。

【0049】
本発明に係るフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、アデノシン、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、γ-グルタミル-S-アリルシステインであるが、これらを含むネギ属の粗抽出液を用いることによって、フザリウム菌の拮抗細菌を増殖させる同等の効果を容易に得ることができる。

【0050】
以下に説明する「ネギ属」には、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニクが含まれる。

【0051】
ネギ属の抽出物の製造方法は、図1のステップS1からS4までと同一である。すなわち、ネギ属の根を凍結する工程(ステップS1)と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程(ステップS2)と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程(ステップS3)と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程(ステップS4)と、を含むことを特徴とする。

【0052】
本発明のネギ属の抽出物の製造方法は、クロマトグラフィーを行う前に、懸濁液を濾過して得た濾液を、ヘキサン、エーテル、酢酸エチルの順で液液分配後、各画分をエバポレーターで濃縮乾固する工程を、備えることができる。

【0053】
ネギ属の根の抽出物による土壌改良法は、図2のステップS11からS14までと、ステップS16からS18までの工程を適用することができる。フローチャートで示すように、ネギ属の根を凍結する工程(ステップS11)と、凍結したネギ類の根を磨砕する工程(ステップS12)と、磨砕したネギ類の根を滅菌水に懸濁して懸濁液を得る工程(ステップS13)と、懸濁液を濾過して濾液を得る工程(ステップS14)と、濾液を土壌に付与する工程(ステップS16)と、フザリウム菌に対する拮抗細菌を増殖させる工程(ステップS17)と、フザリウム菌の増殖を抑制する工程(ステップS18)と、を含むことを特徴とする。

【0054】
本発明のネギ属の根の抽出物による土壌改良方法は、ステップS14で得た濾液を、ヘキサン、エーテル、酢酸エチルの順で液液分配後、各画分をエバポレーターで濃縮乾固し、特定の画分を土壌に付与することができる。

【0055】
以下に、ネギ属の粗抽出液のフザリウム菌の拮抗細菌を増殖させる特性を評価した結果を示す。以下の評価では、フザリウム オキシスポラムのうち、キュウリつる割病を引き起こすフザリウム オキシスポラム エフ.エスピー.キューカメリナム(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)の発病抑制効果を評価した例を挙げて、本発明の抽出物の特性と、抽出物を用いた土壌改良方法の効果を示す。

【0056】
ネギ属の根の抽出物は、根200gから1リットルの濾液を調製し、更に、濾液300~350mlに対して滅菌水650~700mlの割合で添加することで約3倍に希釈し、これを6Kgの土壌に1リットル付与している。これは、6Kgの土壌に対して、ネギの根約66gから抽出した抽出物を付与したことになる。

【0057】
図3に、ネギ属の栽培土壌及びネギ属の根の抽出液を添加した土壌の、キュウリつる割病の抑止効果の結果を示す。図3左側に示した発病度は、同一の滅菌していない土壌に対して、キュウリ、トマト、ネギ、タマネギ、ニラの根の抽出物を付与し、25℃1ヶ月培養した後に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した結果である。図3右側に示した発病度は、同一の滅菌していない土壌で、キュウリ、トマト、ネギ、タマネギ、ニラを栽培し、栽培した植物を除去した後に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した結果である。

【0058】
ネギ、タマネギ、ニラを栽培した土壌と、ネギ属の根の抽出物を添加した土壌では、何も添加しなかった土壌及びキュウリ、トマトを栽培した土壌と比較して、有意に発病が抑制される。また、ネギ属の根の抽出物を添加した土壌は、ネギ、タマネギ、ニラを栽培した土壌と同等の、発病の抑制効果が認められる。

【0059】
図4は、ネギ属を栽培した土壌を加熱処理した場合の、処理温度と発病の抑制効果の関係を示したグラフである。ネギ属として、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニクを栽培した土壌を用いた。比較のために何も栽培しなかった土壌と、キュウリを栽培した土壌をそれぞれ用いた。以上6種類の土壌を、40℃、60℃、80℃の温度でそれぞれ30分加熱処理した。また、121℃の温度では60分加熱処理した。加熱処理後のそれぞれの土壌に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した。

【0060】
キュウリを栽培した土壌は、温度処理の有無にかかわらず、何も栽培しなかった土壌と同等の、高い発病度を示した。これに対して、ネギ、タマネギを栽培した土壌は、40℃の加熱までは、非常に高い発病の抑制効果が確認された。しかしながら、60℃以上の温度の加熱処理を行った場合、発病の抑制効果は、ほぼ認められなくなった。ニラ、ニンニクを栽培した土壌は、40℃の加熱まで、キュウリの栽培土壌と比較して有意に高い発病の抑制効果が認められたが、60℃以上の温度の加熱処理を行った場合、発病の抑制効果は、ほぼ認められなくなった。以上のことから、発病の抑制効果は、1)ネギ属の根から供給される60℃以上で失活する物質、または2)ネギ属の根から供給される物質によって増殖する60℃以上の熱に弱い土壌微生物、のいずれかが、発病を抑制する効果をもたらしている。

【0061】
図5は、ネギの根の抽出液含有物の耐熱性を評価したグラフである。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出液を、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、121℃の温度でそれぞれ30分加熱処理し、滅菌していない土壌に付与して25℃1ヶ月培養した。その後に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植えて発病度を評価した。比較として、加熱処理を行わなかったネギの根の抽出液を付与して、発病度を評価した。

【0062】
40℃の加熱処理を行った抽出液は、キュウリつる割病の発病抑止性が低下した。一方で、50℃、60℃、70℃の加熱処理を行った抽出液であっても、一定の発病の抑止効果は認められており、発病抑止性が、さらに低下するのは、80℃以上の加熱処理を行った場合であった。このことから、ネギの根に含まれる発病抑止性を有する物質は、40℃未満で失活する物質と、70℃前後までの耐熱性を有する物質の少なくとも2種類以上から成ることが明らかとなった。

【0063】
図6は、滅菌土壌にネギの根の抽出液を付与したときのキュウリつる割病の発病度を評価したグラフである。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出液を、滅菌土壌に付与し、25℃1ヶ月培養し、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した。また、ネギの根の抽出液を付与して25℃1ヶ月培養した滅菌土壌を、さらに40℃、60℃、80℃、121℃の四段階の温度でそれぞれ30分加熱処理し、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した。比較評価として、滅菌土壌を25℃1ヶ月培養した後、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を育て、発病度を評価した。

【0064】
滅菌土壌にネギの根の抽出液を付与した場合、キュウリつる割病の軽度の抑制効果が認められたが、40℃以上の加熱でキュウリつる割病の抑制効果はほとんど認められなくなった。このことから、キュウリつる割病の抑制は、ネギの根の抽出液に含まれる物質自体の効果よりも、ネギ属の根から供給される物質によって増殖する土壌微生物の効果によることが判明した。

【0065】
図7は、滅菌していない土壌にネギの根の抽出液を付与し、培養した後に土壌の加熱処理を行ったときのキュウリつる割病の発病度を評価したグラフである。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出液を、滅菌していない土壌に付与し、25℃1ヶ月培養した。その後、土壌を、40℃と60℃の温度でそれぞれ30分加熱処理した。また、121℃の温度では60分加熱処理した。加熱処理後のそれぞれの土壌に、キュウリつる割病菌を添加してキュウリの幼苗を植え、発病度を評価した。比較評価として、滅菌していない土壌および滅菌していない土壌にネギの根の抽出液を添加して25℃1ヶ月培養した後、加熱処理を行わないでキュウリを育て、発病度を評価した。

【0066】
滅菌していない土壌にネギの根の抽出液を付与した場合、40℃以下の加熱処理ではキュウリつる割病の抑制効果は顕著であるが、60℃以上の加熱処理ではキュウリつる割病の抑制効果は認められなかった。このことから、キュウリつる割病の抑制は、ネギ属の根から供給される物質によって増殖する土壌微生物の効果が大きく、しかもその土壌微生物は熱に弱いことが判明した。

【0067】
図8は、図7で用いた土壌とは異なる場所から採取した、生物性、理化学性の異なる2種類の滅菌していない土壌にネギの根の抽出液を付与し、培養した後に土壌の加熱処理を行ったときのキュウリつる割病の発病度を評価したグラフである。異なる土壌に付与した場合であっても、ネギの根の抽出液はキュウリつる割病の顕著な抑制効果を示した。この効果が、40℃以下の加熱処理では維持されることもまた、同様であった。本発明のネギ属の根の抽出物は、それぞれの土地に生息する土着拮抗微生物を活性化し、増殖を促進する作用を有するため、付与する土壌の、pH、有機物含量、重金属等といった土壌の理化学性、土着微生物等の生物性が異なっても安定して効果を発現することができることが確認された。

【0068】
図9に、ネギ属の根の抽出物を添加した土壌成分を含む培地で、キュウリつる割病菌を培養した場合の菌数の変化を示す。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出液を、滅菌していない土壌に付与し、25℃1ヶ月培養した。その後、培地に添加する土壌の希釈液(以下、土壌成分とも言う)を40℃または60℃の温度で30分加熱処理した。そして液体培地に土壌成分を10%添加した後、キュウリつる割病菌を添加して、この液体培地をサンプルとした。また、他のサンプルとして、抗細菌性抗生剤を添加して1時間振とう培養した土壌成分を、キュウリつる割病菌とともに液体培地に添加してサンプルを作成した。それぞれのサンプルの振とう培養を行った。比較サンプルとして、滅菌水添加土壌についても、キュウリつる割病菌を添加した液体培地を作成し、振とう培養を行った。また、培地単独でも、キュウリつる割病菌の振とう培養を行った。それぞれのサンプルの培養後のキュウリつる割病菌の胞子(またはbud cellsと称する)の数を計測した。

【0069】
ネギの根の抽出液を付与した土壌を希釈した液体培地では、40℃の加熱処理ではキュウリつる割病菌の増殖抑制効果が得られた。一方、60℃の加熱処理ではキュウリつる割病菌の増殖抑制効果は低下した。抗細菌性抗生剤を添加した場合でも、キュウリつる割病菌の増殖抑制効果は低下した。このことから、細菌が病原菌の増殖抑制効果に影響しており、その細菌は、ネギ属の根から供給される物質によって集積し増殖するが、熱に弱いことが判明した。

【0070】
図10に、ネギの根の抽出物がキュウリつる割病菌の発病の抑止性を誘導するまでの期間を示す。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出液を、滅菌していない土壌に付与し、0日、3日、1週間、2週間、3週間、4週間の各期間、25℃で培養した。その後、キュウリつる割病菌を添加して、キュウリの幼苗を植えて、発病度を評価した。この結果、1週間の培養後には、発病抑止性が顕著に強まり、その効果が安定して継続していることが確認された。

【0071】
図11Aおよび図11Bに、既にキュウリつる割病菌が増殖して汚染されている土壌に、本発明のネギの根の抽出物を添加した場合のフザリウム菌の増殖抑制効果を示す。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出物を、キュウリつる割病菌が増殖している土壌に付与し、1ヶ月間25℃で培養した。その後、土壌中のキュウリつる割病菌の数を評価した結果を図11Aに示す。比較例として、ネギの根の抽出物の代わりに、滅菌水を付与した土壌を評価した。この結果、ネギの根の抽出物を付与した土壌は、滅菌水を付与した土壌と比較すると、有意にフザリウム菌の数が減少しており、すでにフザリウム菌が増殖している土壌であっても、ネギの根の抽出物を添加することによって、菌数が減少することが確認された。さらに、キュウリつる割病菌で汚染された土壌にネギの根の抽出物を付与して1ヶ月25℃で培養した後、キュウリの幼苗を定植し、その後にキュウリつる割病菌の数を評価した。この試験の比較例として、滅菌水を付与して培養したキュウリつる割病菌汚染土壌に、キュウリの幼苗を同期間定植し、キュウリつる割病菌の数を評価した。この結果を図11Bに示す。ネギの根の抽出物を付与した土壌は、滅菌水を付与した土壌と比較すると、キュウリを定植した後も有意にフザリウム菌の数が減少しており、すでにフザリウム菌が増殖している土壌であっても、ネギの根の抽出物を添加することによってフザリウム菌の数が減少し、その効果は作物の定植後も持続することが確認された。

【0072】
図12に、既にキュウリつる割病菌が増殖して汚染されている土壌に、ネギの根の抽出物を添加した場合の、発病度の低下効果を示す。評価方法は、以下のとおりである。図2に示した製造方法で製造したネギの根の抽出物を、キュウリつる割病菌が増殖している土壌に付与し、1ヶ月間25℃で培養した。その後、キュウリの幼苗を植えて、発病度を評価した。比較例として、ネギの根の抽出物の代わりに、滅菌水を付与した土壌を評価した。ネギの根の抽出物を付与した土壌は、滅菌水を付与した土壌と比較すると、有意に発病度が減少しており、すでにキュウリつる割病菌が増殖している土壌であっても、ネギの根の抽出物を添加することによって、発病度が減少することが発病度の違いからも確認された。

【0073】
図13に、ネギの根の抽出物を有機溶媒で分画した各区分の発病抑止性の誘導効果を示す。評価したサンプルは、図1のステップS4で得られたネギの根の抽出物の濾液を、ヘキサン、エーテル、酢酸エチルの順で液液分配後、各画分をエバポレーターで濃縮乾固したものである。土壌には、それぞれの画分を再度水に溶かして付与し、1週間と4週間培養した後の、発病抑止性の効果を確認した。なお、「エマルジョン層」で示した画分は、ヘキサンによる抽出時に、中間層に生じたエマルジョン層のことを指す。

【0074】
図13に示したとおり、エマルジョン層とヘキサン層は、添加後1週間以内には顕著な発病抑止性を誘導し、その効果は4週間後においても持続している。一方、その他の画分も添加1週間以内にある程度の抑止性を誘導するが、特に水層添加土壌については4週間後になるとさらに抑止性が高まった。

【0075】
ネギの根の抽出物に含まれる抗菌物質の耐熱性を検証した結果を、図14に示す。図14では、ネギの根の抽出物を40℃と60℃で加熱処理したサンプルと、加熱処理を行わなかったサンプルについて、キュウリつる割病菌とともに液体培地に添加して培養後、キュウリつる割病菌の胞子の増殖量を測定した結果を示している。比較例は、キュウリの根の抽出物である。熱処理を行わなかったネギの根の抽出物には、キュウリつる割病菌の増殖の抑制効果が認められる。ネギの根の抽出物に、フザリウム菌の増殖を抑制する効果があることが、図14に示した検証結果によって確認された。

【0076】
図14に示したネギの根の抽出物によるフザリウム菌の増殖抑制効果は、ネギの根の抽出物を40℃で加熱することで失われる。効果の失われる温度は、土壌とキュウリの幼苗を用いた検証時の結果よりも低い温度となっている。このことから、ネギ属の根の抽出物によるフザリウム病の抑制効果は、ネギの根の抽出物中に含まれる熱に弱い抗菌性物質による直接の抗菌効果と、ネギ属の根から供給される物質によって集積し増殖する拮抗細菌による効果の両方が含まれていることが確認された。

【0077】
ネギ属の根の抽出液を土壌に添加した際に特徴的に増えてくる細菌類であって、耐熱性の低いグラム陰性細菌で、且つどの土壌であっても存在比率が高くなる代表的な細菌類は、以下の5種類である。
ベータプロテオバクテリア綱バークホルデリア目
ガンマプロテオバクテリア綱キサントモナス目
アルファプロテオバクテリア綱スフィンゴモナス目
アルファプロテリア綱リゾビウム目
Solibacteres(綱)Solibacterales(目)
これらの細菌の一部または全部が、フザリウム オキシスポラムの拮抗細菌として機能している。

【0078】
図15に、同一の圃場から採取した滅菌していない土壌に、ネギ、ニラ、タマネギ、キュウリ、トマトの根の抽出液を添加して1ヶ月培養し、各々の土壌中における細菌コミュニティーの構成に基づいてクラスター分析を行った結果を示す。図15のそれぞれの植物名の後ろに付した数字は同じ土壌を用いた反復回数を示しており、分岐した枝の長さは類似度の違いを反映している。この結果から、植物の種類によって抽出液添加で形成される細菌コミュニティーの構成が異なること、およびネギ属の根抽出液添加土壌では、いずれも良く似た細菌コミュニティーが形成されており、発病抑止機構もほぼ同じであることが明らかになった。

【0079】
以上の解析の結果、本発明のネギ属の根の抽出物は、それ自体にフザリウム オキシスポラムの増殖を抑制する作用効果を有しており、さらに、土壌中に生息する拮抗細菌を活性化して増殖を促進することで、フザリウム オキシスポラムの増殖を抑制してフザリウム病の発病度を下げることが明らかとなった。

【0080】
図18は、ネギとタマネギを栽培した土壌を加熱処理したときの、土中微生物の変動を示すグラフである。加熱処理条件は、40℃、60℃、80℃、121℃の温度でそれぞれ30分である。40℃の熱処理ではいずれの微生物も減少しないが、60℃処理でグラム陰性菌と糸状菌が大幅に減少する。特にグラム陰性細菌の数が検出限界以下にまで低下することが確認された。

【0081】
図19は、ネギ栽培土に熱処理や抗生剤処理をしたときの病原菌増殖抑制効果の変化を示すグラフである。ネギ栽培土にはキュウリつる割病菌の胞子増殖を抑制する因子が存在する。その抑制因子は、40℃の加熱処理では失活しないが、60℃の加熱処理または抗細菌性抗生剤の添加で失活又はその効果が低下する。この結果により、キュウリつる割病菌の胞子増殖を抑制する作用には、熱に弱い細菌が関与することが確認された。さらに、このような病原菌増殖抑制作用を有する拮抗細菌の集積と増殖が、ネギ属の栽培土の発病抑止性に関わる主要因であることが明らかとなった。

【0082】
図20は、ネギ栽培土に抗生剤処理をしたときの栽培土中の微生物数の変化を示すグラフである。ネギ栽培土を1000倍に希釈し、その希釈液に抗細菌性抗生剤を加えて1時間培養後に細菌数と糸状菌数を計測している。図20に示すように、抗生剤の添加で減少するのは細菌のみで、糸状菌の数は、ほとんど変化しない。

【0083】
以上の結果から、ネギ栽培土がもたらす病原菌増殖抑制効果が熱処理や抗生剤添加によって低下した原因は、ネギ栽培土中の拮抗細菌の減少によるものであり、細菌の中でもグラム陰性菌が病原菌抑制の主役であることが確認された。すなわち、ネギ属の栽培による発病抑止土壌化には、グラム陰性の拮抗細菌の集積と増殖が関与することが明らかとなった。ネギ属の根抽出物を添加した土壌でも、類似の機構が働いて発病抑止土壌化していることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のフザリウム菌の拮抗細菌増殖促進物質は、フザリウム菌によって引き起こされる様々な作物の病変を抑止することができるため、農薬の代替品や土壌改良剤として利用することが可能である。
図面
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