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明細書 :受精前の卵細胞、受精卵、及び標的遺伝子の改変方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6700306号 (P6700306)
登録日 令和2年5月7日(2020.5.7)
発行日 令和2年5月27日(2020.5.27)
発明の名称または考案の名称 受精前の卵細胞、受精卵、及び標的遺伝子の改変方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/09 110
C12N 5/10 ZNA
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 15
全頁数 41
出願番号 特願2017-555960 (P2017-555960)
出願日 平成28年11月29日(2016.11.29)
国際出願番号 PCT/JP2016/085391
国際公開番号 WO2017/104404
国際公開日 平成29年6月22日(2017.6.22)
優先権出願番号 2015247960
優先日 平成27年12月18日(2015.12.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年4月20日(2018.4.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】新藤 隆行
【氏名】桜井 敬之
個別代理人の代理人 【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100163496、【弁理士】、【氏名又は名称】荒 則彦
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査官 【審査官】西村 亜希子
参考文献・文献 国際公開第2014/204725(WO,A1)
CRISPR Knockout Screens with Optimal Cas9 to sgRNA Ratios,Cellecta,2015年 5月 2日,全文,[検索日2019年5月28日]インターネット<URL:https//web.archive.org/web/20150502124654/https://www.cellecta.com/crispr-knockout-screens-with-optimal-cas9-to-sgrna-ratios>
Sci. Rep.,2016年 1月28日,Vol.6,20011
Plant Cell Rep.,2015年 7月 2日,Vol.34,pp.1807-1815
調査した分野 C12N 15/09
A01K 67/027
C12N 5/10
A01H
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト動物由来であり、Cas9をコードする遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有する、受精前の卵細胞。
【請求項2】
非ヒト動物由来であり、核にCas9をコードする遺伝子が導入された核ゲノムを有さず、母性由来のCas9のmRNA又はタンパク質が発現している受精前の卵細胞
【請求項3】
前記Cas9が改変体である、請求項1又は2に記載の受精前の卵細胞
【請求項4】
前記Cas9が標的配列を含む標的遺伝子の一方又は両方の鎖を切断する活性を欠如している改変体である、請求項に記載の受精前の卵細胞
【請求項5】
前記非ヒト動物が哺乳動物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞
【請求項6】
前記核ゲノムに前記Cas9をコードする遺伝子がタンデムに導入された、請求項1~のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞と、同種の動物由来の精子とを受精させてなる、2細胞期胚前までの受精卵。
【請求項8】
前記精子が野生型の前記同種の動物由来である、請求項に記載の受精卵。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞、又は請求項7又は8に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程を備える標的遺伝子の改変方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞、又は請求項7又は8に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程と、
前記受精前の卵細胞、又は前記受精卵内において発現しているCas9がPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的遺伝子を得る工程と、を備え、
前記標的遺伝子は前記PAM配列を有し、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子中の前記PAM配列の上流の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることを特徴とする標的遺伝子の改変方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の受精前の卵細胞、又は請求項7又は8に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程と、
前記受精前の卵細胞、又は前記受精卵内において発現しているCas9がPAM配列の3塩基上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的遺伝子を得る工程と、を備え、
前記標的遺伝子はNGG(Nは、アデニン、シトシン、チミン及びグアニンからなる群から選択された任意の1塩基)からなるPAM配列を有し、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることを特徴とする標的遺伝子の改変方法。
【請求項12】
前記導入工程において、導入対象が精卵であるとき、さらに、前記受精卵を同種の非ヒト動物の子宮又は卵管へ移植し、発生させる工程を備える、請求項11のいずれか一項に記載の標的遺伝子の改変方法。
【請求項13】
前記導入工程において、2種類以上の前記ガイドRNAを導入する、請求項12のいずれか一項に記載の標的遺伝子の改変方法。
【請求項14】
前記導入工程において、前記ガイドRNAとともに外来遺伝子を導入する、請求項13のいずれか一項に記載の標的遺伝子の改変方法。
【請求項15】
前記外来遺伝子がPAM配列を有さない、請求項14に記載の標的遺伝子の改変方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変非ヒト生物、卵細胞、受精卵、及び標的遺伝子の改変方法に関する。
本願は、2015年12月18日に、日本に出願された特願2015-247960号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
疾患のメカニズムの研究や新しい医薬品の開発研究において、その疾患の病態を反映した疾患モデル動物の存在は、研究の成否の鍵を握っている。ヒト疾患の遺伝的要因に関しては、近年の急速なゲノム解析技術の発達により、数百万ヶ所に及ぶSNP座位について比較的容易に遺伝情報を得ることができるようになってきた。この技術を用いて多数の疾患について、数多くの疾患関連遺伝子座位が同定され、報告された。その一方で、こうした疾患候補遺伝子の遺伝子改変マウスを作製しても、表現型を呈さないことがほとんどである。これは、単一遺伝子の異常では、生活習慣病の様な多因子が関与する病態を説明できるとは限らないためである。従って、これらの各々の候補遺伝子を標的にした創薬もその効果に限界があると考えられる。こうした問題の解決のためには、多遺伝子座改変疾患モデル動物を迅速、かつ体系的に準備・活用する体制を整える必要性があるが、従来のES細胞を介した遺伝子改変法では、1操作、1遺伝子座、1カ所の遺伝子改変しかできないため、その実現は困難であった。
【0003】
近年、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)システムによる遺伝子改変技術が登場した。CRISPRシステムは、従来のES細胞を介した遺伝子改変技術を超越する斬新なポテンシャルを持つ。CRISPRシステムでは、3種類のRNA又はDNA、すなわち標的遺伝子の切断をガイドするガイドRNA、実際に切断に携わるヌクレアーゼであるCas9(CRISPR-associated 9)のmRNA、切断される遺伝子領域に相同的に組み込まれる改変遺伝子の3種類を受精卵へ顕微注入して、その胚を成体まで発生させることで、遺伝子改変マウスが得られる。
【0004】
非特許文献1には、CRISPRシステムを用いて、ES細胞のROSA26遺伝子領域にCas9をコードする遺伝子をノックインすることにより、Cas9ノックインマウスを作製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Randall J. Platt, et al., Cell, vol.159, p.440-455, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変マウスの作製方法では、Cas9のmRNAが大きく、顕微注入されるその他のガイドRNA及び改変遺伝子の量に制限があった。
また、非特許文献1に記載されているCas9ノックインマウスでは、Cas9の遺伝子が1コピーしか導入されていないため、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に編集することが難しかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、よりCas9の発現が高く、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集可能な遺伝子改変非ヒト生物を提供する。また、前記遺伝子改変非ヒト生物を利用した簡便且つ迅速で標的遺伝子に部位特異的な遺伝子改変技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]非ヒト動物由来であり、Cas9をコードする遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有する、受精前の卵細胞。
[2]非ヒト動物由来であり、核にCas9をコードする遺伝子が導入された核ゲノムを有さず、母性由来のCas9のmRNA又はタンパク質が蓄積されている受精前の卵細胞
[3]前記Cas9が改変体である、[1]又は[2]に記載の受精前の卵細胞
]前記Cas9が標的配列を含む標的遺伝子の一方又は両方の鎖を切断する活性を欠如している改変体である、[]に記載の受精前の卵細胞
[5]前記非ヒト動物が哺乳動物である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞
[6]前記核ゲノムに前記Cas9をコードする遺伝子がタンデムに導入された、[1]~[5]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞
[7][1]~[6]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞と、同種の動物由来の精子とを受精させてなる、2細胞期胚前までの受精卵。
]前記精子が野生型の前記同種の動物由来である、[7]に記載の受精卵。
[1]~[6]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞、又は[7]又は[8]に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程を備えることを特徴とする標的遺伝子の改変方法。
10[1]~[6]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞、又は[7]又は[8]に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程と、
前記受精前の卵細胞、又は前記受精卵内において発現しているCas9がPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的遺伝子を得る工程と、を備え、
前記標的遺伝子は前記PAM配列を有し、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子中の前記PAM配列の上流の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることを特徴とする標的遺伝子の改変方法。
11[1]~[6]のいずれか一つに記載の受精前の卵細胞、又は[7]又は[8]に記載の受精卵にガイドRNAを導入する工程と、
前記受精前の卵細胞、又は前記受精卵内において発現しているCas9がPAM配列の3塩基上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的遺伝子を得る工程と、を備え、
前記標的遺伝子はNGG(Nは、アデニン、シトシン、チミン及びグアニンからなる群から選択された任意の1塩基)からなるPAM配列を有し、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることを特徴とする標的遺伝子の改変方法。
12]前記導入工程において、導入対象が精卵であるとき、さらに、前記受精卵を同種の非ヒト動物の子宮又は卵管へ移植し、発生させる工程を備える、[]~[11]のいずれか一つに記載の標的遺伝子の改変方法。
13]前記導入工程において、2種類以上の前記ガイドRNAを導入する、[]~[12]のいずれか一つに記載の標的遺伝子の改変方法。
14]前記導入工程において、前記ガイドRNAとともに外来遺伝子を導入する、[]~[13]のいずれか一つ記載の標的遺伝子の改変方法。
15]前記外来遺伝子がPAM配列を有さない、[14]に記載の標的遺伝子の改変方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遺伝子改変非ヒト生物、卵細胞、及び受精卵によれば、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。また、本発明の卵細胞及び受精卵によれば、遺伝子改変非ヒト生物を迅速かつ低コストで作製することができる。さらに、本発明の遺伝子改変非ヒト生物、卵細胞、及び受精卵は、多数の遺伝子の異常が関与する心臓病や癌等の生活習慣病又はゲノムワイドアソシエーション研究(GWAS)から明らかとなった疾患関連遺伝子の研究に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】実施例1におけるNFCas9(NLS及びFlagタグを有するCas9遺伝子)及びFCas9(Flagタグのみを有するCas9遺伝子)のそれぞれの構造を示す模式図である。
【図1B】試験例1におけるNFCas9-2ラインのマウスの各組織における50ngRNA中のCas9mRNAのコピー数を比較したグラフである。
【図1C】試験例1におけるNFCas9-2ラインの遺伝型が異なる雄又は雌マウス(4週齢から10週齢まで)の体重の変化を示すグラフである。
【図1D】試験例1におけるNFCas9-2ラインの遺伝型が異なるマウス(10週齢)の各組織切片をヘマトキシリン及びエオシン染色した結果の画像である。
【図1E】試験例1におけるNFCas9-2ラインの遺伝型が異なるマウス(10週齢)の血清中の生理学的マーカーの量を検出した結果を示すグラフである。
【図2A】実施例1における樹立されたNFCas9マウス4ライン及びFCas9マウス5ラインでのCas9遺伝子の導入コピー数、性別、F1世代での遺伝型、F1世代へのCas9の導入有無及びCas9の発現量を示した表である。
【図2B】実施例1における樹立されたNFCas9マウス4ライン及びFCas9マウス5ラインでの導入されたCas9のコピー数を算出するための検量線を示したグラフである。
【図2C】実施例1における樹立されたNACas9マウス及びFCas9マウスでのCas9タンパク質の発現について、Flagタグを利用したウェスタンブロッティング解析を行った結果を示す画像である。
【図3A】実施例1におけるNFCas9-2ラインのゲノムDNAを用いたspPCRのPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で検出した結果を示す画像である。
【図3B】実施例1におけるNFCas9-2ラインのNFCas9が挿入された位置を示す模式図である。
【図3C】実施例1における図3Bの結果を確認するための部位特異的プライマーを用いたPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で検出した結果を示す画像である。
【図4A】試験例2における様々な交配ペアの人工授精で得た受精卵での遺伝型を示す図である。
【図4B】試験例2における様々な交配ペアの人工授精で得た受精卵での生存数及びindel変異数を示す表である。
【図4C】試験例2におけるRamp2遺伝子の改変に用いたガイドRNAの配列を示す模式図である。
【図4D】試験例2におけるT7 endonuclease I(T7EI)アッセイの結果を示す画像である。
【図5A】試験例3における胚盤胞の生存数及びindel変異数を示す表である。
【図5B】試験例3における胚盤胞のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図6A】試験例3における移植から13.5日~15.5日後の胎児の生存数及びindel変異数を示す表である。
【図6B】試験例3における移植から13.5日後の10匹の胎児の形態を示す画像である。
【図6C】試験例3における移植から13.5日後の胎児の胚盤胞のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図6D】試験例3における移植から13.5日後の10匹の胎児のRamp1遺伝子のシークエンスの結果を示す図である。
【図6E】試験例3における移植から13.5日後の10匹の胎児のRamp1遺伝子及びRamp2遺伝子のRNAの相対的な発現量を示す図である。
【図7A】試験例4における遺伝型及び変異の有無の判定結果を示す表及びグラフである。
【図7B】試験例4における胚盤胞のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図8】試験例5における遺伝子の改変に用いたガイドRNAの配列を示す模式図である。
【図9A】試験例5における本発明の方法を用いた場合の遺伝型及び変異の有無の判定結果を示す表である。
【図9B】試験例5における本発明の方法を用いた胚盤胞10胚のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図9C】試験例5における対照群である従来法を用いた場合の遺伝型及び変異の有無の判定結果を示す表である。
【図10A】試験例6におけるプロトコールを示す概略図である。
【図10B】試験例6におけるGgat1遺伝子の改変に用いたガイドRNAの配列を示す模式図である。
【図10C】試験例6における線維芽細胞のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図10D】試験例6におけるFITC-標識isolectin、BS-I-B4(IB4)がα-Galエピトープと特異的に認識することを活用したFACS解析の結果を示すグラフである。
【図10E】試験例6におけるsaporinコンジュゲートIB4 (IB4SAP)で処理による生存アッセイ後の線維芽細胞を撮影した画像である。
【図11A】試験例7におけるプロトコールを示す概略図である。
【図11B】試験例7におけるAlb1遺伝子の改変に用いたガイドRNAの配列を示す模式図である。
【図11C】試験例7におけるCas9マウス又は野生型マウスのEGFP陽性又は陰性の肝細胞のT7EIアッセイの結果を示す画像である。
【図12A】試験例8における12.5~13日齢の胎児でのindel変異率を示す表である。
【図12B】試験例8における12.5~13日齢のエンドセリン1(ET-1)遺伝子ノックアウト表現型マウス胎児及び野生型マウス胎児の顎形成状態を示す画像である。
【図12C】試験例8における各受精卵由来の胎児におけるモザイク率を示すグラフである。
【図13】試験例9におけるガイドRNAの導入時間が異なる各受精卵由来の胎児でのモザイク率を示すグラフである。
【図14】試験例10におけるガイドRNAの導入濃度が異なる各受精卵由来の胎児でのIndel変異率及びモザイク率を示すグラフである。
【図15A】試験例11における遺伝子の改変に用いたガイドRNA及びノックイン断片の配列を示す模式図である。
【図15B】試験例11におけるCas9マウス受精卵由来の胚盤胞から調製された溶液を用いたPCRでのKlf5遺伝子を鋳型としたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果を示す画像である。
【図15C】試験例11におけるCas9マウス又は野生型マウスの受精卵由来の胚盤胞でのノックイン効率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<遺伝子改変非ヒト生物>
一実施形態として、本発明は、Cas9(CRISPR-associated 9)をコードする遺伝子が核ゲノム中に少なくとも3コピーを有する、遺伝子改変非ヒト生物を提供する。

【0012】
本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物は、全身又はいずれかの細胞においてCas9が過剰に発現されている。本発明者らにより、Cas9の過剰発現状態は、非ヒト生物生体内に影響がないことが明らかとなった。また、予めCas9が過剰に発現しているため、ガイドRNAを導入するだけで、標的遺伝子を簡便且つ迅速に改変することができる。

【0013】
本明細書において、「遺伝子改変」とは、CRISPR/Cas9システムやTranscription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN)等の技術により、標的化された遺伝子組換え又は標的化された変異(例えば、SNPや部分変異等の挿入を含む。)を実行することにより、特異的な遺伝子破壊やレポーター遺伝子のノックイン等を行うことを意味する。

【0014】
本明細書において、「非ヒト生物」としては、例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫、植物(例えば、単子葉植物又は双子葉植物等)、ニワトリ等の鳥類の動物、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、マーモセット、サル等の哺乳動物が挙げられ、これらに限定されない。中でも、哺乳動物が好ましく、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギなどの齧歯目の哺乳動物が好ましい。

【0015】
マウスとしては、例えば、純系としてはC57BL/6系統、DBA2系統等が挙げられ、交雑系としてはB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統等が挙げられ、これらに限定されない。ラットの具体例としては、例えば、Wistar、SD等が挙げられ、これらに限定されない。

【0016】
[Cas9]
「Cas9」とは、細菌及び古細菌において侵入外来核酸に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成するCasタンパク質ファミリーの一つであり、外来侵入性DNA中のPAM配列を認識して、その上流で二本鎖DNAを平滑末端になるように切断するエンドヌクレアーゼである。本明細書において、Cas9は、ガイドRNAと複合体を形成し、DNA切断活性を有するものを意味する。

【0017】
本明細書において、Casタンパク質ファミリーとしては、例えば、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、又はそれらの改変されたもの等が挙げられる。中でも、本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物は、Cas9遺伝子、それらのホモログ、又はそれらの改変されたものが導入されていることが特に好ましい。

【0018】
Cas9は、標的遺伝子中のPAM配列の最初又は最後のヌクレオチドから、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500又はそれ以上の塩基対以内での、一方又は両方の鎖の切断を指向する。PAM配列の上流の何bpのところを切断するかはCas9の由来となる細菌種によって異なるが、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes:S.pyogenes)を含め大部分のCas9はPAM配列の3塩基上流を切断する。

【0019】
また、本実施形態で用いられるCas9としては、標的配列を含む標的遺伝子の一方又は両方の鎖を切断する能力を欠如している改変体であってよい。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。Cas9をニッカーゼにする変異の他の例には、H840A、N854A及びN863Aが含まれ、これらに限定されない。また、Cas9の2つ以上の触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II及びRuvC III)は、全てのDNA切断活性を実質的に欠く変異したCas9を生産することができる。この場合、その他のDNA切断活性を有する酵素と融合したキメラ酵素であることが好ましい。D10A変異は、全てのDNA切断活性を実質的に欠くCas9を生産するために、H840A、N854A又はN863A変異のうち1つ又は複数と組み合わされていてもよい。変異したCas9のDNAの切断活性が、その非変異形態に対して約25%、10%、5%、1%、0.1%又は0.01%未満の場合に、全てのDNA切断活性を実質的に欠くとみなされる。

【0020】
本実施形態において、Cas9をコードする塩基配列は、真核生物細胞等の特定の細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよい。真核生物細胞としては、特定の生物、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ又は非ヒト霊長類等が挙げられ、これらに限定されない。一般に、コドン最適化とは、ネイティブのアミノ酸配列を維持しつつ、ネイティブの配列の少なくとも1つのコドンを、導入される生物種の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に使用されるコドンで置き換えることによって、導入される生物種における増強された発現のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種が、特定のアミノ酸の特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度における差異)は、mRNAの翻訳効率と相関する場合が多く、これは、翻訳されているコドンの特性及び特定のtRNAの利用可能性にとりわけ依存すると考えられている。細胞中の選択されたtRNAの優勢は、一般に、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンの反映である。従って、遺伝子は、コドン最適化に基づいて、所与の生物における最適な遺伝子発現のために個別化され得る。コドン使用頻度表は、例えば、www.kazusa.or.jp/codon/(2015年12月16日に訪問)に掲載されている「Codon Usage Database」において容易に入手可能であり、これらの表を用いて、コドンを最適化することができる(例えば、Nakamura,Y.ら「Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000」Nucl. Acids Res. 28:292 (2000)、参照)。特定の生物種における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムについても、例えば、Gene Forge(Aptagen社;Jacobus、PA)等において入手可能である。本実施形態において、Cas9をコードする配列中の1つ又は複数のコドンは、特定のアミノ酸について最も頻繁に使用されるコドンに対応する。

【0021】
細胞内におけるCas9の発現量が多いほど、Cas9を外部から導入する必要がなく、その分ガイドRNAを大量に導入できる。そのため、CRISPRシステムを用いて、一遺伝子を1箇所若しくは複数箇所における遺伝子改変を効率よく行うことができ、さらに一遺伝子のみならず複数の遺伝子を一度の操作で同時に改変することができる。本実施形態において、導入されたCas9遺伝子のコピー数は3コピー以上であることが好ましい。Cas9遺伝子が導入される遺伝子座やプロモーターの影響も受けるが、一般的には、導入されたCas9遺伝子のコピー数が多いほど、Cas9の発現量が多くなる傾向にあるためである。導入されたCas9をコードする遺伝子のコピー数は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50又はそれ以上の数であってもよい。

【0022】
本明細書において、「核ゲノム」とは、核内に含まれる全ての染色体を意味する。例えば、ヒトの場合、核ゲノムを構成する染色体数は22対の常染色体と2本の性染色体の合計46本あり、ウシの場合、29対の常染色体と2本の性染色体の合計60本あり、マウスの場合、19対の常染色体と2本の性染色体の合計40本である。

【0023】
本明細書において、「コピー数」とは、核ゲノム中に存在する特定の遺伝子の塩基配列の数を意味し、例えば、核ゲノムを構成する1つの染色体に特定の遺伝子が1つ存在する場合、コピー数は1である。また、1つの染色体及びその相同染色体の両方に特定の遺伝子が1つずつ存在する場合(すなわち、ホモ接合体の場合)、コピー数は2である。

【0024】
本実施形態において、Cas9遺伝子は同じ染色体上に複数導入されていてもよく、異なる染色体上に1つずつ又は複数導入されていてもよい。また、Cas9遺伝子は同じ染色体上の同じ遺伝子座にタンデムに導入されていてもよい。

【0025】
本実施形態において、Cas9遺伝子が導入される遺伝子座は、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、かつ当該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域であればよい。また、Cas9遺伝子を導入する際にCRISPRシステムを活用する場合には、近傍にPAM配列を有することが好ましい。Cas9遺伝子が導入される遺伝子座としては、例えば、GTP-binding protein 10遺伝子座、Rosa26遺伝子座、beta-Actin遺伝子座等が挙げられる。

【0026】
[プロモーター]
本実施形態において、核ゲノムに導入されたCas9遺伝子は、該Cas9遺伝子に作動可能に連結された、プロモーターを含んでいてもよい。プロモーターとしては、例えば、ウイルス性プロモーター、発現誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター又はエンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーター等が挙げられる。上記プロモーターは、Cas9遺伝子の上流(5’側)に連結されていることが好ましい。

【0027】
本明細書において、「ウイルス性プロモーター」とは、ウイルス由来のプロモーターを意味する。由来となるウイルスとしては、例えばサイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、シミアンウイルス、レトロウイルス等が挙げられる。

【0028】
本明細書において、「発現誘導性プロモーター」とは、化学薬剤、物理的ストレス等の特定の刺激を与えたときに発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)を発現することができ、刺激の非存在下では発現活性を示さないプロモーターを意味する。発現誘導性プロモーターとしては、例えば、TetO(テトラサイクリンオペレーター)プロモーター、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、IPTG/lacIプロモーター系、エクジソンプロモーター系、及び翻訳又は転写についての阻害配列を不可逆的に欠失させるための「lox stop lox」系等が挙げられ、これらに限定されない。

【0029】
本明細書において、「組織特異的プロモーター」とは、特定の組織においてのみ活性を有するプロモーターを意味する。組織特異的プロモーターとしては、例えば、黒色腫細胞又はメラニン細胞の場合は、チロシナーゼプロモーター又はTRP2プロモーター;乳房細胞又は乳癌の場合は、MMTVプロモーター又はWAPプロモーター;腸細胞又は腸癌の場合は、ビリンプロモーター又はFABPプロモーター;膵細胞の場合は、PDXプロモーター;膵ベータ細胞の場合は、RIPプロモーター;ケラチノサイトの場合は、ケラチンプロモーター;前立腺上皮の場合は、プロバシンプロモーター;中枢神経系(CNS)の細胞又は中枢神経系の癌の場合は、ネスチンプロモーター又はGFAPプロモーター;ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター、S100プロモーター、又は神経フィラメントプロモーター;Edlundら、Science, 230:912-916(1985)に記載される、膵臓特異的プロモーター;肺癌の場合は、クラーラ細胞分泌タンパク質プロモーター;心細胞の場合は、αミオシンプロモーター等が挙げられ、これらに限定されない。

【0030】
エンハンサー配列やプロモーター配列を融合させたプロモーターとしては、例えば、シミアンウイルス40(SV40)の初期遺伝子のプロモーターとヒトT細胞白血病ウイルス1のロング・ターミナル・リピートの一部の配列からなるSRαプロモーター、サイトメガロウイルスの前初期(IE)遺伝子エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターからなるCAGプロモーター等が挙げられる。特に、CAGプロモーターは、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)の3’末端にウサギのβ-グロビン遺伝子のpolyA signalサイトを有することにより、発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)をほぼ全身で過剰発現させることができる。

【0031】
中でも、プロモーターとしては、全身で恒常的に高発現させたい場合においては、ウイルス性プロモーター又はCAGプロモーターであることが好ましい。また、Cas9の発現する時期又は発現する組織を調整した場合においては、発現誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターであることが好ましい。

【0032】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、Cas9遺伝子)の転写を指向するものを意味する。

【0033】
本実施形態において、核ゲノムに導入されたCas9遺伝子は、該Cas9遺伝子の下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上記のウイルス由来、各種ヒト又は非ヒト生物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等を挙げることができる。その他Cas9遺伝子をさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。

【0034】
本実施形態において、核ゲノムに導入されたCas9遺伝子は、該Cas9遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の核局在化配列(NLS)が作動可能に連結されていてもよい。

【0035】
NLSとしては、例えば、アミノ酸配列PKKKRKV(配列番号1)を有する、SV40ウイルスラージT抗原のNLS;ヌクレオプラスミン由来のNLS(例えば、配列KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号2)を有するヌクレオプラスミンの二分NLS);アミノ酸配列PAAKRVKLD(配列番号3)又はRQRRNELKRSP(配列番号4)を有するc-myc NLS;配列NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY(配列番号5)を有するhRNPA1 M9 NLS;インポーチン-アルファ由来のIBBドメインの配列RMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV(配列番号6);筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRP(配列番号7)及びPPKKARED(配列番号8);ヒトp53の配列PQPKKKPL(配列番号9);マウスc-abl IVの配列SALIKKKKKMAP(配列番号10);インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRR(配列番号11)及びPKQKKR(配列番号12);肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL(配列番号13);マウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR(配列番号14);ヒトポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの配列KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK(配列番号15);ステロイドホルモンレセプター(ヒト)グルココルチコイドの配列RKCLQAGMNLEARKTKK(配列番号16)等が挙げられ、これらに限定されない。

【0036】
本実施形態において、核ゲノムに導入されたCas9遺伝子は、該Cas9遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の蛍光タンパク質等のマーカー遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。蛍光タンパク質としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein:YFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein:BFP)、シアン蛍光蛋白質(Cyan Fluorescent Protein)、赤色蛍光蛋白質(Red FluorescentProtein)等が挙げられる。

【0037】
[遺伝子改変非ヒト生物の作製方法]
本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物は、外来遺伝子を核ゲノムに導入した遺伝子改変非ヒト生物を作製する公知の遺伝子改変技術(例えば、CRISPRシステム、Transcription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN)を用いた方法、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いた方法等)を用いて作製することができる。また、Cas9遺伝子(好ましくは、線状化状態のもの)を対象となる非ヒト哺乳動物の受精卵、胚性幹細胞、精子又は未受精卵へ導入し、これらの細胞を用いて発生させた個体から、Cas9遺伝子が胚芽細胞を含むすべての細胞の染色体上に組み込まれた個体を選択する方法によっても作製することができる。中でも、本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物は、従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変非ヒト生物の作製方法により、効率よく得ることができる。より具体的には、後述の<標的遺伝子を選択的且つ部位特異的に改変するための方法>において示す方法が挙げられ、外来遺伝子として、上述のCas9遺伝子と該Cas9遺伝子の上流(5’側)及び下流(3’側)に標的遺伝子の挿入を行う遺伝子座と相同な配列を有する遺伝子を含むベクターを用いることで、対象となる非ヒト生物に導入することによって作製できる。
また、本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物は、さらにCas9遺伝子以外の外来遺伝子を同時に導入し、Cas9遺伝子及びCas9遺伝子以外の外来遺伝子が導入された核ゲノムを有する遺伝子改変非ヒト生物であってもよい。

【0038】
得られた遺伝子改変非ヒト生物の胚芽細胞においてCas9遺伝子が存在することは、得られた生物の子孫がその胚芽細胞及び体細胞の全てに該導入遺伝子を有することで確認することができる。個体の選択は、個体を構成する組織、例えば、血液組織、上皮組織、結合組織、軟骨組織、骨組織、筋組織、口腔内組織又は骨格系組織の一部から調製したゲノムDNAにCas9遺伝子が存在することをDNAレベルで確認することによって行われる。
又は、Cas9遺伝子が存在することは、Cas9遺伝子導入後の単一胚盤胞を用いた遺伝型決定法により確認することができる(参考資料:Sakurai T., et al., “A single blastocyst assay optimized for detecting CRISPR/Cas9 system-induced indel mutations in mice”, BMC Biotech.,14:69,2014.)。この方法によれば、従来よりも迅速にCas9遺伝子の存在の成否を判定することができる。
このようにして選択された個体は通常、相同染色体の片方にCas9遺伝子を有するヘテロ接合体であるため、ヘテロ接合体の個体同士を交配することにより、子孫の中からCas9遺伝子を相同染色体の両方に持つホモ接合体生物を取得することができる。このホモ接合体の雌雄の生物を交配することにより、すべての子孫がCas9遺伝子を安定に保持するホモ接合体となるので、通常の飼育環境で、本実施形態の遺伝子改変非ヒト生物を繁殖継代することができる。

【0039】
<卵細胞>
一実施形態において、本発明は、Cas9をコードする遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有する遺伝子改変非ヒト生物由来である卵細胞を提供する。

【0040】
本実施形態の卵細胞は、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。また、本実施形態の卵細胞と同種の生物由来の精子と受精させて得られた受精卵によれば、遺伝子改変非ヒト生物を迅速かつ低コストで作製することができる。

【0041】
本実施形態の卵細胞は、上述の遺伝子改変非ヒト生物の雌由来のものである。

【0042】
なお、本明細書において、「卵細胞」とは、雌性の生殖細胞を意味し、卵母細胞及び未受精卵を包含する。

【0043】
本実施形態における遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞としては、遺伝子改変非ヒト生物が核ゲノム中の相同染色体の片方にCas9遺伝子を有するヘテロ接合体である場合、該卵細胞の核内にCas9遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有するものと、Cas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さないものとが存在する。しかしながら、いずれの卵細胞も標的遺伝子の改変に活用することができる。これは、卵形成期において母性由来のCas9(以下、maCas9と呼ぶ。)のmRNA又はタンパク質が卵細胞に蓄積されており、受精卵から2細胞期まで機能した後に、徐々に分解されるためである。よって、外来遺伝子を有さず標的遺伝子が改変された遺伝子改変非ヒト生物を作製したい場合においては、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞を用いることが好ましい。

【0044】
本実施形態における卵細胞の由来となる遺伝子改変非ヒト生物は、Cas9遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有していればよく、卵形成期においてmaCas9のmRNA又はタンパク質が卵母細胞に蓄積され得る。また、導入されたCas9遺伝子のコピー数は多いほど、蓄積されるmaCas9のmRNA又はタンパク質が多くなるため好ましい。導入されたCas9遺伝子のコピー数は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50又はそれ以上の数であってもよい。

【0045】
<受精卵>
一実施形態において、本発明は、Cas9をコードする遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有する遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞と、同種の生物由来の精子とを受精させてなる、受精卵を提供する。

【0046】
本実施形態の受精卵によれば、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。また、本発明の受精卵によれば、遺伝子改変非ヒト生物を迅速かつ低コストで作製することができる。

【0047】
本実施形態の受精卵は、上述の遺伝子改変非ヒト生物の雌由来の卵細胞と、同種の生物由来の精子とを人工授精させることにより得られる。

【0048】
本実施形態における遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞としては、遺伝子改変非ヒト生物が核ゲノム中の相同染色体の片方にCas9遺伝子を有するヘテロ接合体である場合、該卵細胞の核内にCas9遺伝子が少なくとも1コピー導入された核ゲノムを有するものと、Cas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さないものとが存在する。しかしながら、いずれの卵細胞も標的遺伝子の改変に活用することができる。これは、卵形成期においてmaCas9のmRNA又はタンパク質が卵細胞に蓄積されており、受精卵から2細胞期まで機能した後に、徐々に分解されるためである。よって、外来遺伝子を有さず標的遺伝子が改変された遺伝子改変非ヒト生物を作製したい場合においては、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞を用いることが好ましい。

【0049】
本実施形態における卵細胞の由来となる遺伝子改変非ヒト生物は、Cas9遺伝子が少なくとも3コピー導入された核ゲノムを有していればよく、核ゲノム卵形成期においてmaCas9のmRNA又はタンパク質が卵母細胞に蓄積され得る。また、導入されたCas9遺伝子のコピー数は多いほど、蓄積されるmaCas9のmRNA又はタンパク質が多くなるため好ましい。導入されたCas9遺伝子のコピー数は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50又はそれ以上の数であってもよい。

【0050】
本実施形態における精子としては、卵細胞を得た生物種と同種のものであればよく、該精子の核内にCas9遺伝子を少なくとも1コピー導入された核ゲノムを有する遺伝子改変非ヒト生物由来のものでもよく、Cas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない遺伝子改変非ヒト生物由来のものでもよく、野生型の生物由来のものでもよい。Cas9遺伝子を有さず標的遺伝子が改変された遺伝子改変非ヒト生物を作製したい場合においては、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない生物、又は野生型の生物由来の精子であることが好ましい。

【0051】
前記核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞では、上述のとおり、maCas9のmRNA又はタンパク質が蓄積されている。よって、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞と、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない生物、又は野生型の生物由来の精子とを受精させてなる受精卵である場合、maCas9のmRNA又はタンパク質は、受精卵から2細胞期までの短期間において一過的に過剰に存在している。そのため、後述の実施例に示すとおり、モザイク型変異が従来の合成されたCas9mRNAとガイドRNAを受精卵に顕微注入するゲノム編集法よりも大幅に低くなる。

【0052】
<標的遺伝子の改変方法>
一実施形態において、本発明は、上述の遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、上述の卵細胞、又は上述の受精卵にガイドRNAを導入する工程を備える標的遺伝子の改変方法を提供する。

【0053】
また、一実施形態において、本発明は、上述の遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、上述の卵細胞、又は上述の受精卵にガイドRNAを導入する工程と、
前記遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、前記遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞、又は前記遺伝子改変非ヒト生物由来の受精卵内において発現しているCas9がPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的遺伝子を得る工程と、を備え、
前記標的遺伝子は前記PAM配列を有し、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子中の前記PAM配列の上流の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものである標的遺伝子の改変方法を提供する。

【0054】
本実施形態の方法によれば、in vitro及びin vivoにおいて、簡便且つ効率的に標的遺伝子を編集することができる。さらに、遺伝子改変非ヒト生物を迅速かつ低コストで作製することができる。

【0055】
本明細書において、「標的遺伝子」としては、PAM配列を有する遺伝子であれば特別な限定はなく、例えば、心臓病や癌等の生活習慣病関連の遺伝子等の研究対象となり得る遺伝子が挙げられる。

【0056】
本明細書において、「PAM配列」とはCas9により認識され得る配列であって、PAM配列の長さや塩基配列はCas9の由来となる細菌種によってさまざまである。例えば、S.pyogenesでは「NGG」(Nは任意の塩基を表す)の3塩基を認識する。
Streptococcus thermophilus(S.thermophilus)は2つのCas9を持っており、それぞれ「NGGNG」又は「NNAGAA」(Nは任意の塩基を表す)の5~6塩基をPAM配列として認識する。認識するPAM配列が短く編集可能な標的遺伝子が制限されにくいことから、PAM配列は「NGG」であることが好ましい。

【0057】
本実施形態において、前記遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、前記遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞、又は前記遺伝子改変非ヒト生物由来の受精卵内において発現しているCas9はPAM配列「NGG」を認識可能であるものであればよく、例えばS.pyogenes由来のCas9等が挙げられる。また、上述の<遺伝子改変非ヒト生物>に記載のとおり、Cas9は改変されていてもよく、コドンが最適化された塩基配列からなるCas9遺伝子を発現させてものでもよい。

【0058】
本明細書において、「ガイドRNA」とは細菌及び古細菌において侵入外来核酸に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成する、外来配列(ガイド配列)を含む小さなRNA断片(CRISPR-RNA:crRNA)と該crRNAと一部相補的なRNA(trans-activating crRNA:tracrRNA)とを融合させたtracrRNA-crRNAキメラのヘアピン構造を模倣したものである。
本実施形態で用いられるガイドRNAは、ガイド配列を含むcrRNAとtracrRNAとが融合した状態で合成されたtracrRNA-crRNAキメラであってもよく、ガイド配列を含むcrRNAとtracrRNAとを別々に作製し、導入前にアニーリングしてtracrRNA-crRNAキメラとしたものであってもよい。
本実施形態におけるガイドRNAは、標的遺伝子中のPAM配列の1塩基上流から、好ましくは20塩基以上24塩基以下、より好ましくは22塩基以上24塩基以下までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むものである。さらに、標的遺伝子と非相補的な塩基配列を含み、一点を軸として対称に相補的な配列になるように並び、ヘアピン構造をとり得る塩基配列からなるポリヌクレオチドを1つ以上含んでいてもよい。
本実施形態の方法について、以下に詳細に説明する。

【0059】
[導入工程]
まず、上述の遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、上述の卵細胞、又は上述の受精卵にガイドRNAを導入する。ガイドRNAの導入方法としては、公知の遺伝子導入の手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法等)を用いることができる。中でも、操作が簡便であることから、エレクトロポレーション法であることが好ましい。従来のCRISPRシステムを活用した遺伝子改変方法では、Cas9のmRNAが大きく、導入効率が悪かった。しかしながら、本実施形態の方法においては、Cas9が発現され得る遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、卵細胞、又は受精卵を使用するため、エレクトロポレーション法等により簡便且つ効率よくガイドRNAを導入することができる。

【0060】
導入対象が前記遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞である場合、生きた遺伝子改変非ヒト生物にガイドRNAを導入することができる。この場合の導入方法は、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的導入、経気管支的導入、筋内的導入、経皮的導入又は経口的導入等の当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射が好ましい。

【0061】
また、Cas9遺伝子の上流(5’側)に組織特異的プロモーターが作動可能に連結されている場合、ガイドRNAを遺伝子改変非ヒト生物の全身又は目的の組織に直接導入することにより、目的の組織においてのみガイドRNA及びCas9による遺伝子改変が行われ、疾患の動態を観察することができる。

【0062】
導入対象が前記卵細胞を受精してなる受精卵又は前記受精卵である場合、受精後4時間以上24時間以内、好ましくは6時間以上12時間以内、より好ましくは6時間以上8時間以下の雄性前核が出現している受精卵を用いることが好ましい。受精後の時間が上記範囲内であることにより、maCas9のmRNA又はタンパク質が高発現しており、標的遺伝子が改変されている細胞と標的遺伝子が改変されていない細胞とが混在する、所謂モザイク型の胚となることを防ぎ、高効率で標的遺伝子を改変することができる。

【0063】
また、上述の<受精卵>に記載したように、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さずに、標的遺伝子が改変された遺伝子改変非ヒト生物を作製したい場合においては、使用する受精卵は核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞と、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない生物、又は野生型の生物由来の精子とを受精させてなる受精卵であることが好ましい。前記核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞では、maCas9のmRNA又はタンパク質が蓄積されている。よって、使用する受精卵が、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない卵細胞と、核内にCas9遺伝子が導入された核ゲノムを有さない生物、又は野生型の生物由来の精子とを受精させてなる受精卵である場合、maCas9のmRNA又はタンパク質は、受精卵から2細胞期までの短期間において一過的に過剰に存在している。そのため、後述の実施例に示すとおり、モザイク型変異が従来の合成されたCas9mRNAとガイドRNAを受精卵に顕微注入するゲノム編集法よりも大幅に低くなる。

【0064】
受精卵においてガイドRNAを導入する場合、ガイドRNAの濃度としては、特別な限定はないが、濃度が濃いほど、遺伝子改変を高確率で行うことができる。ガイドRNAの濃度としては、例えば、1ng/μL以上300ng/μL以下であればよい。

【0065】
また、前記受精卵が遺伝子改変非ヒト動物(特に、非ヒト哺乳動物)由来である場合、ガイドRNAの導入後、前記受精卵を対応する非ヒト動物の子宮又は卵管へ移植し、発生させることで、遺伝子改変非ヒト動物を簡便に得ることができる。

【0066】
1つの標的遺伝子の2箇所以上を改変する場合、又は2つ以上の複数の遺伝子を標的遺伝子とする場合は、それぞれの遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むガイドRNAを2種類以上設計し、導入すればよい。これにより、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。

【0067】
本実施形態の方法において、ガイドRNAとともに外来遺伝子を導入してもよい。外来遺伝子を一緒に導入することにより、標的遺伝子が切断後、相同組換えにより標的遺伝子に外来遺伝子が挿入された核ゲノムを有する遺伝子改変非ヒト生物を得ることができる。

【0068】
また、外来遺伝子は、PAM配列を有さないことが好ましい。外来遺伝子において、例えば、アミノ酸配列を変更しない1塩基置換等により、PAM配列をnonPAM配列に変更した場合、核ゲノム上に外来遺伝子を相同組換えにより挿入することができ、さらに、挿入された外来遺伝子が再度内在するCas9により切断されることを防ぐことができる。

【0069】
外来遺伝子は、該外来遺伝子を含むベクターを用いて導入することが好ましい。また、外来遺伝子を含むベクターは、外来遺伝子の5’末端及び3’末端に、標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAが連結されていることが好ましい。標的遺伝子の挿入を行う部位と相同な配列を有するDNAの塩基数としては、100塩基以上300塩基以下であることが好ましい。外来遺伝子を含むベクターは、外来遺伝子の5’末端又は3’末端に、上述の<遺伝子改変非ヒト生物>に記載のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。

【0070】
本明細書で使用する場合、「ベクター」は1つの環境から別の環境への実体の移行を可能にする又は促進するツールである。例として、組換えDNA技術において使用されるいくつかのベクターは、DNAのセグメント(例えば、異種DNAセグメント、例えば、異種cDNAセグメント)等の実体が非ヒト生物の細胞中に移行されるのを可能にする。本実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、アデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクター等)、細菌ベクター、原生動物ベクター、DNAベクター又はそれらの組換えを含み得る組換えベクターを包含する。

【0071】
[切断工程]
前記遺伝子改変非ヒト生物由来の細胞、前記遺伝子改変非ヒト生物由来の卵細胞、又は前記遺伝子改変非ヒト動物由来の受精卵内において発現しているCas9と、前記ガイドRNAは、in vitro又はin vivoにおいて、温和な条件で混合することで、Cas9-ガイドRNA複合体を形成する。温和な条件とは、タンパク質が分解又は変性しない程度の温度及びpHを示しており、温度は4℃以上40℃以下であればよく、pHは4以上10以下であればよい。よって、生きた遺伝子改変非ヒト生物の生体内においても、前記Cas9-ガイドRNA複合体を形成することができる。

【0072】
前記Cas9-ガイドRNA複合体は、ガイドRNAの一部が標的遺伝子に結合し、Cas9が標的遺伝子中のPAM配列を認識する。続いて、3塩基上流に位置する切断部位で前記標的遺伝子を切断し、平滑末端を作製する。より具体的には、Cas9がPAM配列を認識し、PAM配列を起点として、標的遺伝子の二重らせん構造が引き剥され、ガイドRNA中の標的遺伝子に相補的な塩基配列とアニーリングすることで、標的遺伝子の二重らせん構造が部分的にほぐれる。このとき、Cas9は、PAM配列の3塩基上流に位置する切断部位で、標的遺伝子のリン酸ジエステル結合を切断し、平滑末端を作出する。

【0073】
[改変工程]
続いて、前記ガイドRNAと前記標的遺伝子の相補的結合によって決定される領域において、目的に応じた改変が施された標的遺伝子を得ることができる。

【0074】
本明細書中において、「改変」とは、標的遺伝子の塩基配列が変化することを意味する。例えば、標的遺伝子の切断、切断後の外因性配列の挿入(物理的挿入又は相同指向修復を介する複製による挿入)による標的二本鎖ポリヌクレオチドの塩基配列の変化、切断後の非相同末端連結(NHEJ:切断により生じたDNA末端どうしが再び結合すること)による標的遺伝子の塩基配列の変化等が挙げられる。本実施形態における標的遺伝子の改変により、標的遺伝子への変異の導入、又は、標的遺伝子の機能を破壊することができる。
よって、本実施形態において、前記受精卵を用いた場合、標的遺伝子の機能が破壊(ノックアウト)又は置換(ノックイン)された遺伝子改変非ヒト生物を容易に作製することができる。

【0075】
<用途及び活用方法>
一実施形態において、本発明は、遺伝子改変を実行するための方法及び組成物を提供する。以前に知られている標的化された遺伝子組換えの方法と対照的に、本発明は、実行が、効率的かつ安価であり、そして任意の細胞又は生物に適応可能である。細胞又は生物の標的遺伝子の任意のセグメントは、本発明の方法により改変され得る。この方法は、全ての細胞に内在性である相同組換えプロセス及び非相同組換えプロセスの両方を利用する。

【0076】
また、一実施形態において、本発明は、標的化されたDNA挿入又は標的化されたDNA欠失を行う方法を提供する。この方法は、ドナーDNAを含む核酸構築物を用いて、細胞を形質転換する工程を包含する。標的遺伝子切断後のDNA挿入及びDNA欠失に関するスキームについては、公知の方法に従って当業者が決定できる。

【0077】
また、一実施形態において、本発明は、体細胞及び生殖細胞の両方で利用され、特定の遺伝子座で遺伝子操作を提供する。

【0078】
また、一実施形態において、本発明は、体細胞において遺伝子を壊すための方法を提供する。ここで、遺伝子は、細胞又は生物に対して有害な産物を過剰発現し、細胞又は生物に対して有害な産物を発現する。このような遺伝子は、疾患において生じる1つ以上の細胞型において過剰発現され得る。本発明の方法による、前記過剰発現した遺伝子の破壊は、前記過剰発現した遺伝子に起因する疾患を被る個体に、より良い健康をもたらし得る。
すなわち、細胞のほんの小さな割合の遺伝子の破壊が働き、発現レベルを減少し、治療効果を生じ得る。

【0079】
また、一実施形態において、本発明は、生殖細胞において遺伝子を壊すための方法を提供する。特定の遺伝子が破壊された細胞は、特定の遺伝子の機能を有さない生物を作製するために選択され得る。前記遺伝子が破壊された細胞において、遺伝子は完全にノックアウトされ得る。この特定の細胞における機能の欠損は、治療効果を有し得る。

【0080】
また、一実施形態において、本発明は、遺伝子産物をコードするドナーDNAの挿入をさらに提供する。この遺伝子産物は、構成的に発現された場合、治療効果を有する。
例えば、膵細胞の個体群において、活性プロモーター及びインシュリン遺伝子をコードするドナーDNAの挿入を引き起こすために、前記ドナーDNAを、糖尿病を被る個体に挿入する方法が挙げられる。次いで、外因性DNAを含む膵細胞の前記個体群は、インシュリンを生成し、糖尿病を被る個体を治療することができる。

【0081】
また、前記ドナーDNAは作物に挿入され、薬剤的関連遺伝子産物の生成を引き起こし得る。タンパク質産物の遺伝子(例えば、インシュリン、リパーゼ、ヘモグロビン等)は、制御エレメント(構成的活性プロモーター、又は誘導性プロモーター)と一緒に植物に挿入され、植物中で大量の医薬品を生成し得る。次いで、このようなタンパク質産物は、植物から単離され得る。遺伝子改変植物又は遺伝子改変生物は、核酸移入技術(McCreath,K.J.ら(2000)Nature 405:1066-1069;Polejaeva,I.A.ら,(2000)Nature 407:86-90)を用いる方法で作製され得る。組織型特異的ベクター又は細胞型特異的ベクターは、選択した細胞内でのみ遺伝子発現を提供するために利用され得る。

【0082】
また、一実施形態において、本発明は、生殖細胞内で利用され、計画された様式で挿入が生じ、後の全ての細胞分裂が、設計された遺伝的変更を有する細胞を生成する細胞を選択し得る。

【0083】
また、一実施形態において、本発明は、すべての生物、培養細胞、培養組織、培養核(インタクトな生物を再生するために使用され得る細胞、組織又は核を含む)、配偶子(例えば、それらの発達の様々な段階の卵又は精子)において適用され得る。
また、一実施形態において、本発明は、任意の生物(昆虫、真菌、げっ歯類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、及び他の農業上重要な動物、並びに他の哺乳動物(イヌ、ネコ及びヒトが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられ、これらに限定されない)に由来する細胞に適用され得る。
また、一実施形態において、本発明は病態モデル動物(例えば、病態モデルマウス)の作製において適用され得る。

【0084】
また、一実施形態において、本発明は、植物において使用され得る。植物としては、特別な限定はなく、任意の様々な植物種(例えば、単子葉植物又は双子葉植物等)において使用され得る。
【実施例】
【0085】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
[実験材料]
本実施例において使用した、ガイドRNA及びプライマーの塩基配列について、以下の表1~3に示す。表1において、太字(塩基配列の3’側の3塩基)は標的遺伝子上のPAM配列に相同な塩基配列を示している。
【実施例】
【0087】
【表1】
JP0006700306B2_000002t.gif
【実施例】
【0088】
【表2】
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【実施例】
【0089】
【表3】
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【実施例】
【0090】
【表4】
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【実施例】
【0091】
また、上記ガイドRNAは以下の方法により調製した。
まず、pgRNA-GFP-T1ベクター(#41819、Addgene社製)を鋳型として用いて、5’末端にTTTTTTサイトが付加されたガイドRNAをPCRで増幅した。続いて、pBluescript IIベクター(Agilent Technologies社製)へガイドRNAを挿入し、pBS-T7-gRNAプラスミドを得た。得られたプラスミド上のガイドRNAの塩基配列はシークエンシングにより確認した。
続いて、MEGAshortscript(登録商標) T7 kit(Life Technologies社製)を用いて、EcoRIで線状化したプラスミドからガイドRNAを調製した。
【実施例】
【0092】
[実施例1]Cas9高発現マウスラインの樹立
(1)Cas9遺伝子挿入用コンストラクトの設計
遺伝子合成によりコドンが最適化されたCas9遺伝子(塩基配列:配列番号17)を含むphCas9(Addgene社製)を鋳型として、Cas9ATG-Sプライマー及びCas9Cla-Aを用いてPCRを行い、増幅した遺伝子産物を得た。続いて、PCRにより、SV40 nuclear localization signal(NLS)及びFlagタグの塩基配列又はFlagタグのみの塩基配列をCas9遺伝子の開始コドン(ATG)のすぐ後に挿入した。これにより、NFCas9(NLS及びFlagタグを有するCas9遺伝子)及びFCas9(Flagタグのみを有するCas9遺伝子)を得た。
続いて、NFCas9及びFCas9それぞれをpCAGGSベクターのEcoRIサイトに挿入し、pCAG-NFCas9pA及びpCAG-FCas9pAを構築した。
これらをNotIでそれぞれ線状化しCAG-NFCas9pA及びCAG-FCas9pA部位を精製した(図1A参照)。
【実施例】
【0093】
(2)マウス受精卵へのインジェクション
本実施例では、BDF1系統、C57BL6/J-Jcl系統(以下、「B6」と呼ぶ。)及びICR系統のマウスをクレアジャパン株式会社より購入し、使用した。
使用する受精卵は、雄のB6マウスの精子と、雌のBDF1マウスの卵細胞とを、一般的な体外受精(in vitro fertilization:IVF)方法により受精させて作製した。
続いて、(1)で調製した2種類のCas9遺伝子を含むベクターそれぞれを、2ng/μLとなるようにインジェクション溶液を調製した。続いて、インジェクション溶液をマウス受精卵(NFCas9は56個、FCas9は83個)の前核にインジェクションした。続いて、遺伝子を導入した受精卵を雌の偽妊娠ICRマウスの卵管に移植し、Cas9トランスジェニックマウスのF1世代を得た。Cas9の導入の同定は、CAG1620-Sプライマー及びCAS9215-Aプライマーを用いたPCRにより行った。この結果、NFCas9マウスを4ライン、FCas9を5ライン樹立した。各ラインの特徴を図2Aに示す。
【実施例】
【0094】
図2Aから、NFCas9マウスの2ラインとFCas9マウスの5ラインすべてにおいてCas9導入遺伝子が仔マウスに伝わっていることが確かめられた。
【実施例】
【0095】
また、これら全7ラインのF1仔から単離した線維芽細胞でのCas9発現は、定量的リアルタイムPCR、RT-PCR及びウェスタンブロッティング解析(図2C参照。)で確認した。
【実施例】
【0096】
なお、定量的リアルタイムPCRでのCas9の検量線(図2B参照)の作成方法は以下の通りである。
100ngのゲノムDNAとpCAG-NFCas9ベクター又はpCAG-FCas9ベクターの希釈系列(100ngゲノムDNAあたり1、2、4、8、16、32、64及び128倍のコピー)とを鋳型として含むDNA溶液を用いてPCRを行い、得られたPCR産物の量から検量線を引いた。
【実施例】
【0097】
図2Aから、樹立したマウスのうち、NFCas9-2ラインがCas9高発現であり、今後の解析に用いることにした。
【実施例】
【0098】
(3)NFCas9-2ラインでのCas9が導入された遺伝子座の確認
NFCas9-2ラインのCas9が導入された遺伝子座は、EcoRV splinkerette オリゴヌクレオチド(sp-EV Topプライマー及びsp-Bottomプライマー)を用いたsplinkerette PCR(spPCR)(Potter, C. J. & Luo, L. Splinkerette PCR for mapping transposable elements in Drosophila. PloS One 5, e10168 (2010).参照。)により、同定した。さらに、sspPCRの結果を確実にするために、Gtpbp10-Sプライマー、Sp#2プライマー、Cas9E-Sプライマー、CAGGS-Aプライマー及びGtpbp10-Aプライマーを用いて、NFCas9-2ラインのゲノムDNAのPCR産物を得た。結果を図3A~図3Cに示す。
【実施例】
【0099】
図3A~図3Cから、NFCas9-2ラインは、細胞内に9個のNFCas9導入遺伝子を持ち、それらはGtpbp10遺伝子に挿入されていることが判明した。
【実施例】
【0100】
[試験例1] NFCas9-2ラインマウスの遺伝学的、形態学的及び生理学的性質確認試験
(1)NFCas9-2ラインのマウスを用いた交配
NFCas9-2ラインの雄又は雌のマウスを、NFCas9-2ラインのマウス、野生型のBDF1系統又は野生型のB6系統のマウスと掛け合わせた交配を行った。結果、詳細なデータは示さないが、導入遺伝子の仔への伝搬率はメンデルの法則に従っていた。
また、NFCas9-2ラインは、NFCas9がホモで導入された個体でも普通に成育し、その平均産仔数は、BDF1系統の野生型マウスと同等であった(6仔/出産)。
【実施例】
【0101】
(2)恒常的なCas9mRNAの発現量の確認
NFCas9-2ラインのマウスから単離した各組織におけるCas9mRNAを定量的リアルタイムPCRで確認した。結果を図1Bに示す。
【実施例】
【0102】
図1Bから、特に心臓、筋肉及び精巣で、Cas9mRNAの発現が高いことが明らかとなった。
【実施例】
【0103】
(3)NFCas9-2ラインのマウスの形態的変化の確認
NFCas9-2ラインの雌のマウスと、野生型のBDF1系統のマウスと掛け合わせた交配を行った。続いて、得られた同腹仔である、NFCas9がヘテロ接合型(以下、「Tg/+マウス」と呼ぶ。)のマウス及びNFCas9を有さないマウス(以下、「+/+マウス」と呼ぶ。)、それぞれの4週齢から10週齢までの体重を計測した。結果を図1Cに示す。
【実施例】
【0104】
図1Cから、Tg/+マウス及び+/+マウスにおいて、体重の増加は同じ傾向であり、形態的な変化における差は認められなかった。
【実施例】
【0105】
また、Tg/+マウス及び+/+マウスにおいて、各組織を取り出し、組織切片を作製した。続いて、一般的な方法により、ヘマトキシリン及びエオシン染色を行った。結果を図1Dに示す。
【実施例】
【0106】
図1Dから、Tg/+マウスでCas9mRNAの高発現が認められた心臓、筋肉及び精巣において、+/+マウスとの形態的な差は認められなかった。
【実施例】
【0107】
(4)NFCas9-2ラインのマウスの生理学的なマーカーの確認
10週齢のTg/+マウス及び+/+マウスから血液を採取し、SRL株式会社に血清中の生理学的なマーカーとして一般的に知られているblood urea nitrogen(BUN)、creatinine(Cr)、aspartate aminotransferase (AST)、及びalanine aminotransferase(ALT)を委託検査した。結果を図1Eに示す。
図1Eから各種生理学的なマーカーが確認された。
【実施例】
【0108】
[試験例2]Ramp2遺伝子改変試験
Cas9マウス由来の受精卵は、母性因子としてCas9のmRNAとタンパク質 (両方とも、又はいずれか一方)(以下、maCas9と呼ぶ。)を細胞内に蓄積しており、ゲノム編集にCas9導入遺伝子は必要ないと考え、以下のような試験を行った。
【実施例】
【0109】
(1)ガイドRNAの導入
様々な交配ペアの人工授精で得た受精卵の前核にRamp2遺伝子改変に対するR2-gRNA(配列番号27)のみを顕微注入した。交配により作製した受精卵における遺伝型を図4Aに示す。また、R2-gRNA中のRamp2遺伝子に相同な塩基配列を図4Cに示す。図4Aにおいて、続いて、注入した受精卵をpotassium-supplements simplex-optimized medium(KSOM)中で胚盤胞まで培養した。
【実施例】
【0110】
(2)Cas9遺伝型判定
胚盤胞のうち1胚を、実施例1の(3)と同様の方法を用いて、Cas9遺伝型を判定した。結果を図4Bに示す。
【実施例】
【0111】
(3)T7 endonuclease I(T7EI)アッセイ
胚盤胞のうち1胚の核抽出液から、Ramp2-5Sプライマー及びRamp2-6Aを用いてPCRを行い、PCR産物を得る。PCR産物をT7 endonuclease I(New England Biolabs Japan社製)を加えて、DNA断片を得た。続いて、アガロース電気泳動により切断断片を確認した。結果を図4Dに示す。
【実施例】
【0112】
図4B及び図4Dから、Tg/+マウス同士又はTg/+の雌マウスと+/+の雄マウスとで人工授精した場合、indel変異(塩基の挿入又は欠損による遺伝的変異)が92~94%の高率で生じることが判明した。よって、Tg受精卵内のCas9により、高率なゲノム編集が可能となっていることが明らかとなった。
【実施例】
【0113】
一方で、+/+の雌マウスとTg/+の雄マウスとで人工授精した場合、indel変異は23%と低率であった。さらに我々は、胚盤胞の遺伝型とゲノム編集能の関係性の検討により、Cas9導入遺伝子が存在しない胚盤胞でもindel変異が高率で生じていることを見出した。
【実施例】
【0114】
また、図4Bら、Tg/+マウス同士又はTg/+の雌マウスと+/+の雄マウス間で体外受精を実施した場合、全ての+/+の胚盤胞は、Ramp2遺伝子座(5+7/5+7)に変異を有していた。受精卵期の細胞では、ゲノム上の遺伝子はまだ発現していないことが知られている。ゲノム上の遺伝子の転写物は、2細胞期までに徐々に作られる様になる。
よって、今回の結果から、maCas9のmRNAとタンパク質(両方とも、又はいずれか一方)が、受精卵でのゲノム編集を担っていると考えられる。
【実施例】
【0115】
また、図4Bに示したとおり、別のラインでありFCas9-13でもこの現象を確認することができた。
【実施例】
【0116】
[試験例3]Ramp1遺伝子及びRamp2遺伝子改変試験
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の雌マウスと+/+の雄マウスとで人工授精した受精卵の前核にRamp1遺伝子改変に対するR1-gRNA(配列番号26)、Ramp2遺伝子改変に対するR2-gRNA(配列番号27)のいずれか又は両方を顕微注入した。続いて、注入した受精卵をpotassium-supplements simplex-optimized medium(KSOM)中で胚盤胞まで培養した。R1-gRNA及びR2-gRNAを同時に導入した胚盤胞の一部については、雌の偽妊娠のICR系統マウスの子宮に移植した。移植から13.5日~15.5日後の胎児を得た。移植から13.5日後の10匹の胎児の形態を図6Bに示す。
【実施例】
【0117】
(2)変異の有無の判定
胚盤胞のうち1胚の核抽出液又は移植から13.5日後の胎児の尾或いは手から調製したDNA溶液について、Ramp1-2Sプライマー及びRamp1-2Aプライマーと、Ramp2-5Sプライマー及びRamp2-6Aとを用いてPCRを行い、PCR産物を得た。続いて、PCR産物をBigDye Terminator v.3.1 及びABI Genetic Analyzer 3130Ramp1を用いて、シークエンシングした。Ramp1遺伝子及びRamp2遺伝子の変異の有無を判定した。結果を図5A(胚盤胞)、並びに図6A及び図6D(移植から13.5日後の胎児)に示す。
【実施例】
【0118】
(3)T7EIアッセイ
胚盤胞のうち1胚の核抽出液又は移植から13.5日後の胎児の尾或いは手から調製したDNA溶液について、試験例2の(3)と同様の方法を用いて、T7EIアッセイを行った。R1-gRNAを導入した胚盤胞については、Ramp1-2Sプライマー及びRamp1-2Aプライマーを用いた。結果を図5B(胚盤胞)又は図6C(移植から13.5日後の胎児)に示す。
【実施例】
【0119】
図5A及び図5Bから、R1-gRNAのみを受精卵に注入した場合、indel変異はRamp1遺伝子座のみで認められた。同様の結果は、R2-gRNAのみを受精卵に注入した場合にも確認された。R1-gRNAとR2-gRNAを同時に注入した場合、両遺伝子座で同時の変異誘発が観察された。
【実施例】
【0120】
以上のことから、ガイドRNAのみ注入された受精卵でのゲノム編集は、標的遺伝子座に特異的に働くことが胚盤胞で確認できた。
【実施例】
【0121】
さらに、R1-gRNAとR2-gRNAを同時に注入した受精卵(Tg/+の雌マウス ×+/+の雄マウス)由来の胎児期でのindel変異を調べたところ、ほとんどすべてがヘテロ又はホモ遺伝子改変胎児であった(図6A参照)。
【実施例】
【0122】
また、Ramp1遺伝子及びRamp2遺伝子にそれぞれ想定される3種類のオフターゲット部位での変異の有無を、得られた胎児10匹(図6Aに記載のExperiment1を使用。)の尾或いは手から調製したDNA溶液について、上記表に示したオフターゲット分析用のプライマーを用いたPCRで調べた。その結果、1つの変異も認められなかった。
【実施例】
【0123】
[試験例4]従来法との比較試験1
続いて、合成されたCas9mRNAとガイドRNAを受精卵に顕微注入するゲノム編集法と、本発明のmaCas9によるゲノム編集法の比較検討を実施した。
【実施例】
【0124】
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、maCas9を含有する受精卵を作製した。続いて、maCas9含有受精卵(遺伝型;Tg/+又は+/+)の細胞質及び前核にR2-gRNA(25ng/μL)のみを顕微注入した。対照として合成Cas9mRNA(50ng/μL)及びR2-gRNA(25ng/μL)の両者を野生型受精卵(maCas9含有なし; 遺伝型+/+)の細胞質及び前核に注入した。これら受精卵を胚盤胞まで培養した。
【実施例】
【0125】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。さらに、試験例3の(2)と同様の方法を用いて、変異の有無を判定した。結果を図7Aに示す。
【実施例】
【0126】
(3)T7EIアッセイ
ヘテロ変異体(monoallelic又はmultiallelic)を持つ胚盤胞について、試験例2の(3)と同様の方法を用いて、T7EIアッセイを行なった。結果を図7Bに示す。
【実施例】
【0127】
図7Bにおいて、レーン2の「<Indel 50%」は、2つの切断されたバンドの合計強度は、親のバンドよりも小さい。また、レーン1及び4の「Indel 50%」は、2つの切断されたバンドの合計強度は、親のバンドとほぼ同様である。レーン3の「Multiallelic mutation」は、2つ以上の切断されたバンドが生成されている。
【実施例】
【0128】
図7Aから、標的部位の変異の誘発率及びindel変異型(homozygous (biallelic)、 monoallelic又はmultiallelic KO)は、3種類の実験群(maCas9保持+/+及びTg/+受精卵と、対照群(maCas9非保持+/+受精卵))とも統計的には同等であった(p>0.05、oneway-ANOVA)。また、maCas9保持+/+及びTg/+受精卵での非モザイク変異型(50% indel mutation)とモザイク型(<50% monoallelic indel mutation及びmultiallelic変異)も対照群のそれと統計的には同等であった(p>0.05、one way-ANOVA)。さらに、maCas9保持+/+受精卵でのmultiallelicモザイク型変異の誘発率は、maCas9保持Tg/+受精卵と対照群のそれと比較すると、低い傾向が認められたが、その非モザイク型変異(50% indel mutation)は高い傾向であった。
【実施例】
【0129】
また、R2-gRNAを注入したmaCas9保持受精卵から発生した胚盤胞で、想定される3種類のオフターゲット部位での塩基配列変異の有無を、上記表に示したオフターゲット分析用のプライマーを用いたPCRで調べた。結果、一カ所の変異も生じていなかった。
【実施例】
【0130】
以上のことから、maCas9によるゲノム編集能は、受精卵への合成Cas9注入法のそれと同等であると考えられる。また、maCas9によるゲノム編集では、従来の受精卵への合成Cas9注入法よりも、モザイク型変異が大幅に減少することが明らかとなった。
【実施例】
【0131】
[試験例5]同時複数遺伝子変異の確認試験
続いて、maCas9がCas9導入遺伝子の非存在下の胚において、同時に誘発できる変異の数を調べた。
【実施例】
【0132】
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の雌マウスと+/+の雄マウスの体外受精で準備した受精卵に、異なる9種類のガイドRNAを顕微注入した。ターゲットとした遺伝子は、Ramp1遺伝子、Ramp2遺伝子、Amy遺伝子、Crlr遺伝子、Et-1遺伝子、Hprt遺伝子、Imdn遺伝子及びKlf5遺伝子の9種類である。ガイドRNAの配列については上表の「ガイドRNA」、図4C、及び図8に示した通りである。対照として+/+の雌マウスと+/+の雄マウスの体外受精で準備した受精卵に、この9種類のガイドRNAと合成したCas9mRNAとを顕微注入した(図9C参照)。
【実施例】
【0133】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。さらに、試験例3の(2)と同様の方法を用いて、変異の有無を判定した。このときプライマーとして、上記表<プライマー>に示した、Amy-1Sプライマー及びAmy-1Aプライマー、Crlr-5Sプライマー及びCrlr-5Aプライマー、Et-1-1Sプライマー及びEt-1-1Aプライマー、Hprt-1Sプライマー及びHprt-1Aプライマー、Imdn-1Sプライマー及びImdn-1Aプライマー、Klf5-1Sプライマー及びKlf5-1Aプライマー、Ramp1-2Sプライマー及びRamp1-2A、Ramp2-5Sプライマー及びRamp2-6Aを使用した。結果を図9Aに示す。
【実施例】
【0134】
(3)T7EIアッセイ
試験例2の(3)と同様の方法を用いて、T7EIアッセイを行なった。結果を図9Bに示す。使用したプライマーは本試験例の(2)に挙げたものと同様である。
【実施例】
【0135】
図9A及び図9Cから、本発明の方法を用いた胚盤胞は、平均7.3遺伝子座で同時にindel変異を生じることが確認でき、それは対照群のそれと同等であった。また、同時9種のindel変異は、maCas9保持+/+及びTg/+受精卵由来の胚盤胞でそれぞれ2例が観察された。
さらに、重要なことに、本発明の方法を用いた胚盤胞発生率は42~50%であったが、対照群の胚盤胞発生率は、5~19%と、仔を得るためには大変低いものであった。
【実施例】
【0136】
以上のことから、maCas9を含有する受精卵は、多遺伝子座に同時に変異を導入でき、多遺伝子の遺伝子改変マウスの作製に極めて有用であるといえる。
【実施例】
【0137】
[試験例6]in vitroでの遺伝子改変試験
次に、in vitroでの遺伝子改変に対するCas9マウスの実用性を実証するために、細胞表面のα-Galエピトープの合成に関わるGgat1遺伝子の破壊を試みた。図10Aに本試験のプロトコールを示す。
【実施例】
【0138】
(1)ガイドRNAの導入
Cas9マウスのTg/+及び+/+仔の尻尾から、線維芽細胞を初代培養した。培養には10%ウシ血清含有DMEM(Dulbecco‘s modified Eagle’s essential medium)を用いて、5日間培養した。続いて、培養した線維芽細胞5×10個に、リン酸緩衝生理食塩水(カルシウム及びマグネシウム不不含、pH7.4)に溶解した100μg/mLのGgta1gRNA(配列番号22)をGene-Pulser II(Biorad社製)を用いたエレクトロポレーション法により一過的に導入した。Ggta1gRNA中のGgat1遺伝子に相同な塩基配列を図10Bに示す。
【実施例】
【0139】
(2)T7EIアッセイ
ガイドRNA導入後の線維芽細胞の破砕液からGgta1-Sプライマー及びGgta1-Aプライマーを用いたPCRにより、PCR産物を作製した。続いて、試験例2の(3)と同様の方法を用いて、T7EIアッセイを行なった。結果を図10Cに示す。
【実施例】
【0140】
図10Cから、Ggta1遺伝子内だけにindel変異が生じていることが確かめられた。
【実施例】
【0141】
(3)FACS解析
ガイドRNA導入後の線維芽細胞を用いて、FITC-標識isolectin、BS-I-B4(IB4)がα-Galエピトープと特異的に認識することを活用したFACS解析を行った。結果を図10Dに示す。
【実施例】
【0142】
図10Dから、標的としたα-Galエピトープ発現減少(野生型細胞に比べて~30%減少)が確認できた。
【実施例】
【0143】
(4)生存アッセイ
ガイドRNA導入後の線維芽細胞をsaporinコンジュゲートIB4(IB4SAP)で処理した。Ggta1を2遺伝子有する(+/+型)細胞及びGgta1が1遺伝子ノックアウトされた(KO/+型)細胞の死滅が認められた。一方で、biallelic Ggta1 KOと思われる細胞の生存が観察された(図10E参照)。その生存率は、5×10細胞あたり20個(コロニー)で、これから推定される遺伝子欠損の誘発効率は、~0.004%と推定された。
【実施例】
【0144】
以上のことから、Cas9マウスラインから調整された初代培養細胞はガイドRNAを導入するだけでCRISPR/Cas9によるゲノム編集を起こすことが確認された。
【実施例】
【0145】
[試験例7]in vivoでの遺伝子改変試験
Cas9マウスはガイドRNA投与でin vivoゲノム編集が可能であることを証明するために、ハイドロダイナミックガイドRNA導入法で肝細胞の遺伝子破壊を試みた。本試験のプロトコールを図11Aに示す。
【実施例】
【0146】
(1)ガイドRNAの導入
Cas9マウス及び野生型マウスの尾静脈に、TransIT-QR Hydrodynamic Delivery Solution kit(Mirus Bio社製)を用いて、120μgのalbumin(Alb)gRNA(配列番号18)と4μgのpCAG-EGFPpAとを同時注入した。AlbgRNA中のAlb1遺伝子に相同な塩基配列を図11Bに示す。
その後、それぞれのマウスから肝細胞を単離した。この方法で、0.1%(1/1000細胞)の比率でEGFP陽性細胞を得た。
【実施例】
【0147】
(2)T7E1アッセイ
Cas9マウス由来の肝細胞から30個のEGFP陽性細胞及び30個の陰性細胞を単離した。同様に野生型マウス由来の肝細胞からも30個のEGFP陽性細胞及び30個の陰性細胞を単離した。続いて、これら細胞一つ一つの破砕液からAlb-7Sプライマー及びAlb-7Aプライマーを用いたPCRにより、PCR産物を作製した。続いて、試験例2の(3)と同様の方法を用いて、T7EIアッセイにかけ、indel変異の有無を調べた。結果を図11Cに示す。
【実施例】
【0148】
図11Cから、EFGP陽性のCas9マウス由来の肝細胞だけに、約50%(15/30)の率でAlb1遺伝子indel変異が認められ、その変異を起こした肝細胞の比率は0.05%(1/2000細胞)と算定された。EGFP陰性のCas9マウス由来の肝細胞、EGFP陽性の野生型マウス由来の肝細胞及びEGFP陰性の野生型マウス由来の肝細胞ではAlb1遺伝子indel変異が認められなかった。
【実施例】
【0149】
以上の結果からin vivoでのガイドRNA投与はCas9マウスに内在する標的遺伝子のidenl変異 となることが明らかとなった。
【実施例】
【0150】
[試験例8]従来法との比較試験2
上述の試験例4から、Ramp2gRNAの受精卵注入とその胚盤胞期での解析からmaCas9によるゲノム編集能は、受精卵への合成Cas9mRNA注入法のそれと同等であること、そしてmaCas9保持+/+受精卵でのmultiallelicモザイク型ゲノム変異の誘発率は、maCas9保持Tg/+受精卵と対照群のそれと比較すると低い傾向があることが示された。この知見をより強固に証明するために、別の遺伝子のgRNAとしてET-1-gRNAの受精卵導入、その受精卵を12.5-13日齢の胎児まで発生させてIndel変異率及びモザイク率を調べた。
【実施例】
【0151】
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、maCas9を含有する受精卵を作製した。続いて、maCas9含有受精卵(遺伝型;Tg/+又は+/+)の細胞質及び前核にET-1-gRNA(200ng/μL)のみをエレクトロポレーション法を用いて導入した。対照群として合成Cas9mRNA(100ng/μL)及びET-1-gRNA(200ng/μL)の両者を野生型受精卵(maCas9含有なし; 遺伝型+/+)にエレクトロポレーション法を用いて導入した。これら受精卵を胚盤胞まで培養した。ET-1-gRNAを導入した各胚盤胞を、雌の偽妊娠のICR系統マウスの子宮に移植した。移植から12.5~13日後の胎児を得た。移植から12.5~13日後の10匹の胎児の形態を図12Bに示す。
【実施例】
【0152】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。さらに、Et-1-1Sプライマー及びEt-1-1Aプライマーを用いた以外は、試験例3の(2)と同様の方法を用いて、変異の有無を判定した。また、Tg/+及び+/+、並びに対照群のうち、Et-1KO表現型の胎児(各N=5)をランダムに選んで解析し、モザイク率を算出した。結果を図12Cに示す。
【実施例】
【0153】
図12Aから、Indel変異は、対照群75%に対し、Cas9マウスのTg/+及び+/+胎児はともに100%であり、高率であった。
また、図12Bから、Et-1ノックアウト(KO)表現型では、顎の形成異常が見られた。
図12Aから、このEt-1KO表現型は、対照群では50%であるのに対し、Cas9マウスのTg/+及び+/+胎児では、それぞれ50%及び44%であった。
また、図12Cから、モザイク率は、Cas9マウスのTg/+及び+/+胎児では、Indel変異が2種のものが大半であったが、1種のもの(homozygous:同一の変異ゲノムのみ)が得られた。一方、対照群では、3種のものが大半であった。
【実施例】
【0154】
以上の結果からmaCas9によるゲノム編集能は、受精卵への合成Cas9mRNA注入法のそれと同等であるが、従来のCas9mRNA/gRNA注入法に比べモザイク率は低いことが示され、maCas9によるゲノム編集能の特性(高率性と低モザイク率)がEt-1遺伝子においても改めて証明された。
【実施例】
【0155】
[試験例9]gRNA導入時期の検討試験
Cas9マウス由来の受精卵へのgRNA導入時期差によるIndel率及びモザイク率へ影響を検討した。
【実施例】
【0156】
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、maCas9を含有する受精卵を作製した。続いて、媒精から6~8時間後、又は10~12時間後のmaCas9含有受精卵(遺伝型;Tg/+又は+/+)の細胞質及び前核にET-1-gRNA(200ng/μL)のみをエレクトロポレーション法を用いて導入した。これら受精卵を胚盤胞まで培養した。
【実施例】
【0157】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。さらに、Et-1-1Sプライマー及びEt-1-1Aプライマーを用いた以外は、試験例3の(2)と同様の方法を用いて、変異の有無を判定した。また、Tg/+及び+/+のうち、Et-1KO表現型の胎児(各N=5)をランダムに選んで解析し、モザイク率を算出した。結果を図13に示す。
【実施例】
【0158】
図13から、媒精後6~8時間後、及び10~12時間後にgRNAを導入した受精卵いずれにおいても、高Indel率(いずれの条件においても100%)であった。
Tg/+胚盤胞で、媒精から6~8時間後、及び10~12時間後の条件での比較においては、10~12時間後の条件では単一Indelゲノム変異比率が減少し、multiallelicモザイク型変異の増加が認められた。
一方、媒精から6~8時間後、及び10~12時間後の条件の+/+胚盤胞では単一Indelゲノム変異及びmultiallelicモザイク型変異の比率について変化が認められなかった。これは、後期に導入されたgRNAは初期に導入されたgRNAよりも分解せず長く存在するためであると推察された。さらに、遺伝型がTg/+胚であることから、接合子由来のCas9が転写及び翻訳され働いた可能性が考えられた。
【実施例】
【0159】
以上のことから、Tg/+の受精卵へのgRNA導入時期差によるIndelゲノム変異数の変化が認められた。multiallelicモザイク型変異を減らすためには、早い時期の受精卵にgRNAを導入することが良いことが示唆された。一方で、multiallelicモザイク型変異を多数持つ個体を得たい目的には後期受精卵を活用すればよいことが示唆された。
【実施例】
【0160】
[試験例10]gRNA濃度の検討試験
導入するgRNA濃度の変化によるIndel変異能への影響を検討した。
【実施例】
【0161】
(1)ガイドRNAの導入
Tg/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、maCas9を含有する受精卵を作製した。続いて、媒精から6~8時間後のmaCas9含有受精卵(遺伝型;Tg/+又は+/+)の細胞質及び前核にET-1-gRNAのみを、25ng/μL、80ng/μL、及び200ng/μLと3種類の異なる濃度にてエレクトロポレーション法を用いて導入した。これら受精卵を胚盤胞まで培養した。
【実施例】
【0162】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。さらに、Et-1-1Sプライマー及びEt-1-1Aプライマーを用いた以外は、試験例3の(2)と同様の方法を用いて、変異の有無を判定した。また、Tg/+及び+/+のうち、Et-1KO表現型の胎児(各N=5)をランダムに選んで解析し、モザイク率を算出した。結果を図14に示す。
【実施例】
【0163】
図14から、Indel変異は、25ng/μL、80ng/μL、及び200ng/μLのいずれの濃度の条件においても、90~100%と高率であった。非Indel変異(Wild)は200ng/μLのET-1-gRNA導入条件では認められず、Indel変異ゲノムだけの胚は、40%まで達した。
また、胚あたりのIndel変異数は、濃度依存性で増加が認められた。すなわち、25ng/μLのET-1-gRNA導入条件では、実に80%が1種のIndel変異(homozygous(同一の変異型ゲノムのみ)及びheterozygous(Wild型と1種のIndel変異型ゲノムのみ)を含む)であった。一方、80ng/μL及び200ng/μLのET-1-gRNA導入条件では、それぞれ60%及び20%まで減少した。
また、2種のIndel変異(2種のIndel変異型ゲノムのみ、及びWild型と2種のIndel変異型ゲノムとを含む)の増加が認められた。
【実施例】
【0164】
以上のことから、導入するgRNA濃度を変えることで、胚Indel変異ゲノム数を変えることが可能であることが明らかとなった。
低濃度条件(25ng/μL)では、殆どがWild型と1種のIndel変異型ゲノムからなる胚であった。これらはホモ型変異が生じた場合、致死性となる変異を避けて遺伝子改変個体を得たい場合や、むしろheterozygous変異個体を優先的に望む場合に好都合な特性であると考えられる。
【実施例】
【0165】
[試験例11]Klf5遺伝子への外来遺伝子のノックイン試験
外来遺伝子のノックインがCas9マウス由来の受精卵においても可能であるかをKlf5遺伝子への外来遺伝子のノックイン試験により検証した。
【実施例】
【0166】
(1)ガイドRNA及び外来遺伝子(KI断片)の設計
図15Aに示すようにKlf5遺伝子の翻訳開始のatg塩基近傍にgRNAを設計した(Klf5 gRNA2:配列番号79)。さらに、その領域に5’及び3’方向に約500bpの相同なDNA配列をつなげたFlag-tag配列を含む約100bpの外来遺伝子(合計約1kb)をノックイン配列(KI断片)として合成した(KI断片:配列番号80)。
(2)ガイドRNAの導入
Tg/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、maCas9を含有する受精卵を作製した。また、+/+の卵細胞と+/+の精子を用いた人工授精で、対照群の受精卵を作製した。続いて、媒精から10~12時間後のmaCas9含有受精卵(遺伝型;Tg/+又は+/+)の細胞質及び前核に(1)で作製したKlf5 gRNA2(10ng/μL)と(1)で作製したKI断片(3.3ng/μL)とを顕微注入した。また、同時期の対照群の受精卵の細胞質及び前核に(1)で作製したKlf5 gRNA2(10ng/μL)と(1)で作製したKI断片(3.3ng/μL)とCas9 mRNA(33ng/μL)とを顕微注入した。これら受精卵を胚盤胞まで培養した。
【実施例】
【0167】
(2)遺伝型及び変異の有無の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、遺伝型を判定した。また、各胚盤胞からPCR用の溶解液を調製し、KI断片の相同配列から外のゲノムDNA配列に設定されたPCRプライマー(Klf5-1Sプライマー(配列番号52)及びKlf5-1Aプライマー(配列番号53))を用いて、PCRを実施した。ノックインされたKlf5遺伝子は、野生型PCR産物(約1.1kb)から約0.1kbサイズの大きいPCR産物(約1.2kb)の有無により判定した。結果を図15B及び図15Cに示す。
【実施例】
【0168】
図15Bから、No.1およびNo.10のサンプルにおいて、約1.2kbの野生型PCR産物よりも大きいPCR産物が検出された。
また、図15Cから、Cas9マウス受精卵由来の胚盤胞30胚中、7胚がノックイン胚(23%)であった。一方、対照受精卵由来の胚盤胞19胚中、4胚がノックイン胚(21%)であった。
以上のことから、maCas9を含有する受精卵を用いて外来遺伝子のノックインを行うことは可能であり、その効率は従来のCas9mRNA/gRNA注入法と同等であることが明らかとなった。
【実施例】
【0169】
[実施例2]Nickase Cas9(D10A)を全身発現するマウスラインの樹立
上述のCas9マウスの特性に加えて、Off-target率の低減加工能や、ゲノムNick加工能を併せ持つNickase Cas9を全身発現するトランスジェニックマウスであるNickase Cas9(D10A)マウスの樹立を行った。
【実施例】
【0170】
(1)Cas9遺伝子挿入用コンストラクトの設計
実施例1において構築したpCAG-NFCas9pA及びpCAG-FCas9pAを鋳型として、NFL(D10A)Sプライマー(配列番号81)及びNFL(D10A)Aプライマー(配列番号82)を用いてPCRを行い、Cas9の10番目のアミノ酸をDからAに置換したCas9(D10A)ベクターを構築した。
【実施例】
【0171】
(2)マウス受精卵へのインジェクション
使用する受精卵は、雄のB6マウスの精子と、雌のBDF1マウスの卵細胞とを、一般的な体外受精(in vitro fertilization:IVF)方法により受精させて作製した。
続いて、(1)で調製した2種類のCas9(D10A)ベクターそれぞれを、2ng/μLとなるようにインジェクション溶液を調製した。続いて、インジェクション溶液をマウス受精卵の前核にインジェクションした。続いて、遺伝子を導入した受精卵を雌の偽妊娠ICRマウスの卵管に移植し、Nickase Cas9(D10A)トランスジェニックマウスのF1世代を得た。
【実施例】
【0172】
(3)遺伝型の判定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、成長したF1世代の仔マウス30匹の遺伝型を判定した。Cas9(D10A)の導入の同定は、CAG1620プライマー(配列番号32)及びCas9 215-Aプライマー(配列番号34)を用いたPCRにより行った。その結果、6匹がTg個体であった。上記6匹は、Cas9マウスと同様に現時点で発生や生存に影響は認められなかった。
【実施例】
【0173】
また、上記6匹のうち交配を進めることで、2ラインのNickase Cas9(D10A)マウスを樹立した。この2ラインのNickase Cas9(D10A)マウスの仔から肺や卵巣等の主要臓器からcDNAを調整して、該cDNAを用いてReal time PCRによりCas9(D10A)の発現を検討したところ、Cas9(D10A)の発現が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の標的遺伝子の改変方法によれば、複数の異なる遺伝子又は同一遺伝子内の複数箇所を同時に高効率で編集することができる。また、本発明の標的遺伝子の改変方法によれば、遺伝子改変非ヒト生物を迅速かつ低コストで作製することができる。さらに、本発明の標的遺伝子の改変方法は、多数の遺伝子の異常が関与する心臓病や癌等の生活習慣病又はゲノムワイドアソシエーション研究(GWAS)から明らかとなった疾患関連遺伝子の研究に活用することができる。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図1D】
3
【図1E】
4
【図2A】
5
【図2B】
6
【図2C】
7
【図3A】
8
【図3B】
9
【図3C】
10
【図4A】
11
【図4B】
12
【図4C】
13
【図4D】
14
【図5A】
15
【図5B】
16
【図6A】
17
【図6B】
18
【図6C】
19
【図6D】
20
【図6E】
21
【図7A】
22
【図7B】
23
【図8】
24
【図9A】
25
【図9B】
26
【図9C】
27
【図10A】
28
【図10B】
29
【図10C】
30
【図10D】
31
【図10E】
32
【図11A】
33
【図11B】
34
【図11C】
35
【図12A】
36
【図12B】
37
【図12C】
38
【図13】
39
【図14】
40
【図15A】
41
【図15B】
42
【図15C】
43