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明細書 :被処理水の生物学的浄化剤、生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5773541号 (P5773541)
登録日 平成27年7月10日(2015.7.10)
発行日 平成27年9月2日(2015.9.2)
発明の名称または考案の名称 被処理水の生物学的浄化剤、生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法
国際特許分類 C02F   3/34        (2006.01)
C02F   3/28        (2006.01)
C02F   3/10        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
C02F   1/62        (2006.01)
C02F   3/00        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
FI C02F 3/34 ZABZ
C02F 3/28 B
C02F 3/10 A
B09B 3/00 C
C02F 1/62 Z
C02F 3/00 D
C12N 1/20 D
請求項の数または発明の数 7
全頁数 20
出願番号 特願2012-548858 (P2012-548858)
出願日 平成23年12月13日(2011.12.13)
国際出願番号 PCT/JP2011/079270
国際公開番号 WO2012/081715
国際公開日 平成24年6月21日(2012.6.21)
優先権出願番号 2010277039
優先日 平成22年12月13日(2010.12.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年3月13日(2013.3.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
発明者または考案者 【氏名】古谷 尚稔
【氏名】増田 信行
【氏名】納 篤
【氏名】小林 幹男
【氏名】浅野 英郎
【氏名】奥村 維男
【氏名】中村 英克
【氏名】黒坂 鮎美
個別代理人の代理人 【識別番号】100147485、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 憲司
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
【識別番号】100165696、【弁理士】、【氏名又は名称】川原 敬祐
審査官 【審査官】岡田 三恵
参考文献・文献 特開平08-066698(JP,A)
特開2010-269249(JP,A)
特表2002-533218(JP,A)
特開平06-315697(JP,A)
特開2003-230872(JP,A)
古谷尚稔,パッシブトリートメント技術を用いた抗廃水処理に係る研究事例,Journal of MMIJ,日本,2010年 5月25日,Vol.126 No.6,Page232-233
Evvie Chockalingam,Chemosphere,英国,2006年 2月,Vol.62 No.5,Page.699-708
調査した分野 C02F 3/34
C02F 3/00
C02F 3/10
C02F 3/28
特許請求の範囲 【請求項1】
重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化剤であって、
前記被処理水を連続的に通水させる過程で、硫酸還元菌により前記硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成し、この硫化水素イオンと前記重金属イオンとを反応させて、前記金属イオンの硫化物を析出させるものであり、
前記硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有し、
前記連続的な通水に供される前に予め、前記被処理水によって水封および静置されることで、前記穀物殻に付着した前記硫酸還元菌が嫌気状態で培養されたものであることを特徴とする被処理水の生物学的浄化剤。
【請求項2】
前記穀物殻が籾殻またはそば殻である請求項1に記載の被処理水の生物学的浄化剤。
【請求項3】
重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化システムであって、
請求項1または2に記載の生物学的浄化剤が収容され、嫌気状態が維持された処理容器と、
該処理容器内に前記被処理水を連続的に供給する供給系と、
前記処理容器内で前記生物学的浄化剤によって前記重金属イオンが除去された処理水を前記処理容器から連続的に排出する排出系と、
を有することを特徴とする被処理水の生物学的浄化システム。
【請求項4】
前記被処理水がその重力に従って、前記供給系、前記処理容器および前記排出系の順に移動可能に構成した請求項に記載の被処理水の生物学的浄化システム。
【請求項5】
重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化方法であって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有する生物学的浄化剤を、予め前記被処理水によって水封および静置することで、前記穀物殻に付着した前記硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、
その後、前記生物学的浄化剤前記被処理水嫌気状態で連続的に通水することにより、前記硫酸還元菌により前記硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成し、この硫化水素イオンと前記重金属イオンとを反応させて、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記重金属イオンを前記被処理水から除去することを特徴とする被処理水の生物学的浄化方法。
【請求項6】
前記穀物殻が籾殻またはそば殻である請求項5に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
【請求項7】
前記被処理水は、鉱山坑廃水である請求項5または6に記載の被処理水の生物学的浄化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを除去するための生物学的浄化剤、生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などの各種排水には、種々の重金属イオンが含まれており、重金属イオンの中には人体や環境に有害な影響を及ぼすものが多数存在する。このため、これらの重金属イオンを含有する水を排出する際には、各国ごとに定められた排水基準を満足させるための処理が必要となる。
【0003】
さらに最近では、各国や地域によって排水基準を現状よりもさらに厳しくして環境汚染を防止する傾向があり、被処理水中に含有する重金属イオン濃度を安価に極力低減する技術を開発することが強く望まれている。
【0004】
ところで、鉱山坑廃水や工業用排水などの各種排水は、一般に、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等の重金属イオンを含有し、さらに、硫酸イオン(SO2-)も50~3000mg/L程度含有していることがある。
【0005】
このような被処理水中に含まれる重金属イオンを除去する手段としては、例えば、被処理水中に消石灰や炭酸カルシウム等のアルカリ剤を添加することによって被処理水を中和し、これにより、重金属イオンを水酸化物や炭酸化物として沈殿させる方法や、被処理水に人為的に硫化水素などの硫化剤を添加し、これによって、重金属イオンを硫化物として沈殿させる方法などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、アルカリ剤を添加する方法は、電気モーター等で撹拌しながら被処理水を中和する中和処理工程と、その後の中和処理により生じた沈殿物を分離する固液分離処理工程とが必要である。また、処理対象元素によっては(特にZn,Pb,Cd)中和剤等薬剤が多量に必要となる場合がある。さらに、大量の沈殿物(スラッジ)が生成するため、日常的な維持管理や沈殿物を堆積するための広大な土地の確保等が必要である。よって、これらに関連するコスト、例えば、薬剤(アルカリ剤)の使用、電力の消費および固液分離作業等に伴うコストが必要になるという問題がある。
【0007】
また、硫化剤を添加する方法は、有毒ガスである硫化水素を積極的に発生させるため危険が伴い、管理を厳重にしなければならないという欠点を有している。
【0008】
このため最近では、環境に優しい被処理水の浄化手段として、これまで不用の産物として廃棄していた未使用バイオマス資源を用いた方法が注目されている。
【0009】
未使用バイオマス資源を用いた方法としては、例えば特許文献1には、炭化籾殻又は銀白色籾殻に、無機酸及び/又はアルカリを加え、加熱した後、濾過、乾燥することを特徴とする、表面積と吸着能力の大きい活性籾殻の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、重金属を含有する被処理水をそば殻と接触させて、該被処理水中の重金属をそば殻に吸着させることを特徴とする水処理方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された方法は、いずれも被処理水中の重金属イオンを除去するために吸着に着目したものであって、この吸着のみでは重金属イオンの除去能力を長期間にわたって高いレベルで維持できないという問題があり、それを解消するためのコスト、手間等の負担も大きなものとなっていた。
【0011】
そこで、吸着によらない重金属イオンの除去方法として、近年、硫酸還元菌の作用を用いて、硫酸イオンを含む被処理水から重金属イオンを除去する技術が研究されつつある。
【0012】
特許文献3には、人工湿地において、硫酸還元菌によって硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成し、この硫化物イオンと重金属とを反応させて重金属の硫化物を生成して沈殿分離することにより、被処理水から重金属イオンを除去する技術が記載されている。この文献では、硫酸還元菌のエネルギー源としては、乳酸、肥料、培養土などの有機物を人工湿地に供給することが記載されている。また、非特許文献1には、硫酸還元菌のエネルギー源として、干し草、木材チップ、家畜の糞などを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開平6-39277号公報
【特許文献2】特開2008-23440号公報
【特許文献3】特開2010-269249号公報
【0014】

【非特許文献1】Passive Treatment of Acid Mine Drainage in Bioreactors using Sulfate-Reducing Bacteria:Critical Review and Research Needs,Carmen-Mihaela et al.,J.Environ.Qual.36,1-16(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、硫酸還元菌と、当該硫酸還元菌のエネルギー源となる有機物源とを含み、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水と所定時間接触させるのみで、重金属イオンを硫化物として長期間にわたって十分に除去可能な生物学的浄化剤の探索、選定をすべく、種々の検討を行った。すると、硫酸還元菌のエネルギー源となる有機物源として知られているものなかには、硫酸還元菌の作用を発揮させることができるものと、そうでないものとがあることがわかってきた。すなわち、硫酸還元菌が硫酸イオンを還元して硫化物イオンを生成する反応を起こし、重金属イオンを硫化物として除去するには、適切な有機物源を選択する必要があった。
【0016】
また、有機物源の種類によっては、被処理水を浄化した後の処理水中に有機物が混入する結果、処理水の化学的酸素要求量(COD)の値が大きくなることがあり、特に浄化初期の処理水ではこの傾向が顕著で、着色するものもあることが判明した。このような有機物源を含む浄化剤を用いると、処理水(特に初期の処理水)に対して別途有機物除去処理をする必要が生じ、コスト・手間がかかる。
【0017】
さらに、大量の被処理水を処理する浄化システムとして実用化するには、相当量の有機物源が必要となるため、有機物源自体のコストも考慮すべきである。硫酸還元菌のエネルギー源となる有機物源としてこれまで知られている干し草、木材チップ、家畜の糞は、家畜飼料、植物肥料、燃料等、他にも有効な用途があり、多少なりとも入手コストがかかる場合もあるため、その大部分が廃棄されている未使用バイオマス資源を有効活用することが望ましい。しかし、ほとんどコストがかからず、容易に大量入手できる未使用バイオマス資源を、硫酸還元菌のエネルギー源となる有機物源として、積極的に用いるということに重点をおいた研究は現状されていない。
【0018】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを長期間にわたって十分に除去可能とするとともに、処理水の有機物汚染を十分に抑制することが可能な、未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤、ならびに該生物学的浄化剤を用いた生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
本発明の被処理水の生物学的浄化剤は、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化剤であって、
前記被処理水を連続的に通水させる過程で、硫酸還元菌により前記硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成し、この硫化水素イオンと前記重金属イオンとを反応させて、前記金属イオンの硫化物を析出させるものであり、
前記硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有し、
前記連続的な通水に供される前に予め、前記被処理水によって水封および静置されることで、前記穀物殻に付着した前記硫酸還元菌が嫌気状態で培養されたものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の被処理水の生物学的浄化剤において、穀物殻は籾殻またはそば殻とすることができる。
【0021】
本発明の被処理水の生物学的浄化システムは、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化システムであって、
上記の生物学的浄化剤が収容され、嫌気状態が維持された処理容器と、
当該処理容器内に前記被処理水を連続的に供給する供給系と、
前記処理容器内で前記生物学的浄化剤によって前記重金属イオンが除去された処理水を前記処理容器から連続的に排出する排出系と、
を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の被処理水の生物学的浄化システムは、前記被処理水がその重力に従って、前記供給系、前記処理容器および前記排出系の順に移動可能に構成することが好ましい。
【0023】
本発明の被処理水の生物学的浄化方法は、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から、前記重金属イオンを硫化物として除去するための生物学的浄化方法であって、
硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有する生物学的浄化剤を、予め前記被処理水によって水封および静置することで、前記穀物殻に付着した前記硫酸還元菌を嫌気状態で培養し、
その後、前記生物学的浄化剤前記被処理水嫌気状態で連続的に通水することにより、前記硫酸還元菌により前記硫酸イオンを還元して硫化水素イオンを生成し、この硫化水素イオンと前記重金属イオンとを反応させて、前記金属イオンの硫化物を析出させて、前記重金属イオンを前記被処理水から除去することを特徴とする。また、本発明の被処理水の生物学的浄化方法において、前記穀物殻は籾殻またはそば殻とすることができる。
【0024】
本方法において、前記被処理水は、鉱山坑廃水とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを長期間にわたって十分に除去可能とするとともに、処理水の有機物汚染を十分に抑制することが可能な、未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤、ならびに該生物学的浄化剤を用いた生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】上段写真が、左から、牛糞入りバーク堆肥、腐葉土および籾殻を示したものであり、下段写真が、これらの各有機物:20mLと、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン濃度:0.1mg/L,SO2-濃度:250mg/L):20mLとを混合し、発生した硫化水素ガス濃度を測定している状態を示した写真である。
【図2】図1の状態で測定した硫化水素ガス濃度の経時変化を示すグラフである。
【図3】籾殻:10mLおよび牛糞入りバーク堆肥:10mLの混合物と、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン濃度:0.1mg/L,SO2-濃度:250mg/L):20mLとを混合し、発生した硫化水素ガス濃度の経時変化示すグラフである。なお、図3には、有機物が、図2に示した籾殻単体:20mLの場合と牛糞入りバーク堆肥単体:20mLの場合についての結果も併せて示した。
【図4】(a)は、珪石や有機物を充填する前のカラムの状態を示す写真であり、(b)は、本発明の一実施形態による生物学的浄化システム100の連続通水状態を模式的に示した図である。
【図5】実際に連続通水を行っている状態を示す写真である。
【図6】(a)~(d)は、カラムから排出された処理水の水質の経時変化を示すグラフであって、縦軸を、(a)が硫酸イオン(SO2-)濃度、(b)がカドミウム(Cd)イオン濃度、(c)が亜鉛(Zn)イオン濃度、そして、(d)が化学的酸素要求量(COD)としたものである。
【図7】試験開始1週間後におけるカラムから排出された処理水の色を示す写真であって、左から、籾殻と牛糞入りバーク堆肥の混合物、牛糞入りバーク堆肥単体および籾殻単体をそれぞれ有機物として用いた場合を示す。
【図8】有機物の主成分がそば殻の場合の被処理水の硫酸イオン(SO2-)濃度の経時変化を、有機物の主成分が籾殻の場合と併せて表示したグラフである。
【図9A】カラムから排出された各種の処理水の水質の経時変化を示すグラフであって、縦軸を、(a)が硫酸イオン(SO2-)濃度、(b)がカドミウム(Cd)イオン濃度としたものである。
【図9B】カラムから排出された各種の処理水の水質の経時変化を示すグラフであって、縦軸を、(c)が鉛(Pb)イオン濃度、(d)が亜鉛(Zn)イオン濃度としたものである。
【図9C】カラムから排出された各種の処理水の水質の経時変化を示すグラフであって、縦軸を、(e)が銅(Cu)イオン濃度、(f)が化学的酸素要求量(COD)としたものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明することにより、本発明を作用効果とともにより詳細に説明する。

【0028】
(被処理水の生物学的浄化剤)
本発明に従う生物学的浄化剤は、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水から重金属イオンを硫化物として除去するためのものである。本発明が対象とする被処理水は、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有するものであれば特に限定されず、例えば、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などを挙げることができる。例えば、我が国(日本国)の金属鉱山の坑廃水は、一般に、Fe,Zn,Cu,Pb,Ca,As等の重金属イオンを含有し、さらに、硫酸イオン(SO2-)も50~3000mg/L程度含有している。なお、本明細書において「被処理水」とは、生物学的浄化剤による浄化処理、すなわち重金属イオンの除去処理を施す前の水を意味し、「処理水」は、当該浄化処理後の水を意味する。被処理水のpHは、通常3.5~8.0程度である。

【0029】
本発明者らは、被処理水中の重金属イオンを、生物学的浄化作用を利用して長期間、安定して無害化除去するための手段として、硫酸還元菌(SRB)を保有する有機物を用いて処理する方法を種々検討した。硫酸還元菌は、硫酸イオンの存在下で有機物成分をエネルギー源として活動する従属栄養細菌であって、以下に示す反応式(1)のように硫酸を還元する作用を有する。すなわち、硫酸還元菌は有機物成分と硫酸イオンを取り込み、硫化水素イオンを吐き出す作用をもつ。

【0030】
2CHO+SO2-=2HCO+HS+H・・・・(1)
但し、CHOは有機物成分

【0031】
硫酸還元菌は、主に中性域(pH5~8)で活動し、嫌気性細菌であって、有機物成分をエネルギー源として活動し、硫酸を還元する菌であればよく、特に限定はされないが、例えばDesulfovibrio vulgaris等が挙げられる。

【0032】
上記反応式(1)の還元反応(反応式(1)の右方向の反応)が進むと、硫化水素イオン(HS)が生成し、この生成した硫化水素イオン(HS)が被処理水中の重金属イオンと化合して、以下に示す反応式(2)のように、重金属イオンを硫化物として沈殿させて無害化することができる。

【0033】
Me2++HS=MeS↓+H・・・・(2)
但し、Meは重金属

【0034】
既述のとおり、上記反応式(1)の硫酸イオン還元反応を十分に起こし、効果的に重金属を硫化物として析出させるには、硫酸還元菌のエネルギー源となる適切な有機物源を選択する必要があることを本発明者らは見出した。例えば、後述の実施例で述べるように、有機物源として公知の腐葉土を用いた場合には、腐葉土には硫酸還元菌が存在するものの、硫酸イオンの還元反応が起こらなかった。

【0035】
また、これも後述の実施例で述べるように、有機物源として牛糞入りバーク堆肥のような肥料系の有機物源を用いた場合には、上記反応式(1),(2)による重金属イオンの除去効果は十分に得られるものの、処理水に有機物が混入し、特に浄化初期の処理水では着色することがわかった。

【0036】
そこで本発明者らは、反応式(1),(2)による重金属イオンの除去効果が十分に得られるとともに、処理水の有機物汚染をも十分に抑制することが可能な有機物源を検討した。そして、硫酸還元菌にエネルギー源である有機物成分を与えるための有機物源として穀物殻を用いたところ、十分な効果を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に従う生物学的浄化剤は、硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有することを特徴とする。

【0037】
しかも、穀物殻は、本来は廃棄されるバイオマス資源であり、大量入手が容易で、入手コストもほとんどかからない。また、形も粒状で切断・破砕等加工する必要がなく取り扱いが簡易で、材質のバラツキも比較的少ない。よって、本発明の浄化剤は、大量の被処理水を処理する大規模な浄化システムに好適に適用可能である。穀物殻は、特許文献1および特許文献2に記載のように、これまで重金属イオンの吸着剤としては知られていたものの、硫酸還元菌の作用による重金属の除去方法において、硫酸還元菌のエネルギー源として用いることができることは、本発明者らが初めて見出した驚くべき知見である。

【0038】
穀物殻を重金属イオンの吸着剤として用いる場合、重金属イオンの除去効果は数時間~数日程度である。穀物殻中の吸着サイトが重金属イオンを捕獲すると、その後はその吸着サイトが吸着能を発揮しないためである。しかし、本発明の浄化剤によれば、穀物殼を餌として硫酸還元菌が活動する限り、継続して重金属イオンの除去が可能である。よって、被処理水中の重金属イオンをより長期間、例えば、少なくとも半年以上、あるいは1年以上にわたって除去可能となる。

【0039】
穀物殻は嫌気状態で発酵されたものであることが好ましい。これにより、穀物殻が発酵、分解され、硫酸還元菌がエネルギー源として摂取可能な状態となるため、硫酸還元菌が活性化するからである。その結果、重金属イオンを除去する効果を十分に得ることができる。

【0040】
ここで、穀物殻としては、籾殻、小麦殻、ソバ殻等が挙げられる。自然界から採取した穀物殻は、通常硫酸還元菌を添加することなくもともと保有している。本発明の浄化剤で用いる穀物殻は、硫酸還元菌を保有するものでなくてはならず、自然界から採取した穀物殻に対して硫酸還元菌を死滅させてしまうような処理(例えば熱処理など)をしたものであってはならない。つまり、穀物殻に対して、何の処理も施していないものであってもよいばかりか、水洗いや自然乾燥を施すなど、硫酸還元菌を死滅させない程度に処理を施したものであれば何でもよい。また、採取した穀物殻に対して、さらに硫酸還元菌を付加してもよいことはいうまでもない。

【0041】
生物学的浄化剤として穀物殻と混合する他の有機物としては、反応式(1),(2)による重金属イオンの除去効果は十分に得られるものが好ましく、例えば上述の牛糞入りバーク堆肥等が挙げられる。この場合、穀物殻の混合割合は、好ましくは50体積%以上であり、より好ましくは75体積%以上である。50体積%以上とすることにより、重金属除去の効果を維持しつつ、処理水の有機物汚染をより十分に抑制することができるからである。上記した本発明の効果を最も得るためには、浄化剤を生の穀物殻のみで構成することが好ましい。

【0042】
ただし、pHが3.5~5.0程度の酸性の被処理水を浄化する場合には、牛糞入りバーク堆肥などのpH調整剤を5~25体積%の適宜量混合することが好ましい。牛糞入りバーク堆肥により被処理水のpHが中性により近づき、さらに同材に含まれる硫酸還元菌が添加される結果、反応系における硫酸還元菌の活動が活発になり、重金属の除去効果が高まるからである。このようなpH調整剤および菌源となるものとしては、牛糞入りバーク堆肥のほかに、腐葉土などが挙げられる。

【0043】
(被処理水の生物学的浄化システム)
次に、本発明の被処理水の生物学的浄化システムの実施形態を説明する。例えば図4(b)に示すように、本発明の一実施形態にかかる生物学的浄化システム100は、上記の生物学的浄化剤が収容され、嫌気状態が維持された処理容器10と、この処理容器10内に被処理水を供給する供給系20と、処理容器10内で生物学的浄化剤によって重金属イオンが除去された処理水を処理容器10から排出する排出系30と、を有することを特徴とする。この浄化システムにより、本来廃棄される未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤を用いて、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを硫化物として析出させることで長期間にわたって十分に除去し、かつ、処理水の有機物汚染をも十分に抑制することができる。また、このシステムによれば、被処理水を浄化剤に対して連続的に通水することができる。

【0044】
生物学的浄化剤の効果を発現させるためには、被処理水を通水処理する前に浄化剤に含まれる有機物を十分に嫌気発酵させて分解し、同剤に付着している硫酸還元菌を培養し活性化させる必要がある。具体的な手法としては、浄化剤となる穀物殻を反応槽のような密閉系の処理容器10に充填し、被処理水によって水封および静置する。こうすることにより、有機物が嫌気発酵分解し、硫酸還元菌に必要な栄養源が効果的に供給されることなる。また被処理水には、硫酸イオンが含まれているため、同成分と上記の栄養源により、浄化剤に付着した硫酸還元菌が反応槽内で培養され活性化される。なお、上記培養は周辺温度が15℃以上30℃以下の環境で行い、静置期間は2週間~4週間確保することが望ましい。また、基本的に水封には硫酸イオンが含まれる被処理水、栄養源には生物学的浄化剤に含まれる有機物を用いるだけで、浄化剤の継続的な処理効果が見込まれる。

【0045】
供給系は、例えば被処理水を処理容器に供給するためのポンプ(不図示)や、処理容器の上部にある導入口11と連結する配水管(図4(b))を含む。また、排水系30は、処理容器の下部にある排出口12と連結する配水管(図4(b))を含む。

【0046】
処理容器10は、カラム試験を行う場合にはカラムとし、比較的大規模に処理を行う場合には、例えば1000m程度の大きさの反応槽あるいは人工湿地とすることができる。すなわち、本発明の浄化システムはオンサイト(実地)システムに適用することができる。

【0047】
本浄化システムは、被処理水がその重力に従って、供給系、処理容器および排出系の順に移動可能に構成することが好ましい。これにより、供給系または排出系に被処理水を移動させるためのポンプを用いる必要がなく、システムコストを低減することができる。

【0048】
このような実施形態の一例として、図4(b)に示すように、供給系20が処理容器10の上部と連結し、排出系30が処理容器10の下部と連結することで、被処理水が重力に従って処理容器10内を移動する過程で、重金属イオンの除去を行うことを可能する構成が好ましい。これにより、処理容器10内の目詰まりを避けることができ、また、より嫌気的環境である下部に直接導水することによる反応場での硫酸還元菌の活動低下を防ぐことができる。

【0049】
処理容器10を人工湿地または大型タンクとする場合は、嫌気環境保持のため、供給系20を処理容器の下部と連結し、処理容器10内を伏流させる構成とすることもできる。供給系20の被処理水の導入口を処理容器10よりも高い位置に設置すれば、供給系20の処理容器との連結部分の位置にかかわらず、重力を利用して処理容器内に被処理水を供給することが可能である。また、処理容器10を地下埋設の透過性反応壁とし、被処理水を地下水とする場合は、供給系20および排出系30には地下水流を利用することが可能である。

【0050】
処理容器10内での被処理水の滞留時間、被処理水の量に対する浄化剤の量などは、被処理水の含まれる重金属イオンの濃度、目標とする重金属イオンの濃度などに応じて適宜設定することができる。

【0051】
(被処理水の生物学的浄化方法)
次に、本発明に従う被処理水の生物学的浄化方法の実施形態について以下で説明する。
本発明の被処理水の生物学的浄化方法は、上記の生物学的浄化剤と被処理水とを嫌気状態で接触させることにより、重金属イオンを硫化物として沈殿させて被処理水から除去することを特徴とする。この浄化方法により、本来廃棄される未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤を用いて、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを硫化物として析出させることで長期間にわたって十分に除去し、かつ、処理水の有機物汚染をも十分に抑制することができる。

【0052】
硫酸還元菌を保有する穀物殻を含有する浄化剤と、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水とを接触させることにより、前記穀物殻を有機成分に分解し、分解した有機物成分をエネルギー源として摂取する前記硫酸還元菌の作用下で、前記有機物成分と前記硫酸イオンを反応させて硫化水素イオンを生成させ、前記重金属イオンを、生成した前記硫化水素イオンとの反応により硫化物として析出・沈殿させて前記被処理水から分離することにより、前記被処理水を前記浄化剤との接触のみで自然浄化する。

【0053】
前記被処理水中に含有する硫酸イオンの濃度は、1mg/L以上、好ましくは50mg/L以上であることが、被処理水中の重金属イオンを硫化物として十分に沈殿させるのに好ましい。

【0054】
重金属としては、Fe,Zn,Cu,Pb,Cd,As等を挙げることができるが、上記反応式(2)により硫化物として析出させることができるものであれば、特に限定されない。なお、日本における重金属イオンの排水基準は、水質汚濁防止法(平成二三年八月三〇日法律第一〇五号)及び排水基準を定める省令(平成二三年一〇月二八日環境省令第二八号)によって定められている。この基準値は例えば、Cdイオン:0.1mg/L,Pbイオン:0.1mg/L,Znイオン:2mg/L,Cuイオン:3mg/Lである。本発明者らの検討によれば、Cdイオン:0.35mg/L,Pbイオン:1.6mg/L,Znイオン:21mg/L,Cuイオン:15mg/L程度の含有量の被処理水であれば、本発明によって基準値以下の重金属イオンを含む処理水へと浄化することができる。

【0055】
また、前記被処理水は鉱山坑廃水であることが、本発明の効果を顕著に奏する上で好ましい。

【0056】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。また、本発明の浄化剤、浄化システムおよび浄化方法はいずれも、オンサイト(実地)に適用することができる。
【実施例】
【0057】
本発明の効果をより明確にするべく、以下の実施例および比較例にかかる実験を行った。
【実施例】
【0058】
(実験例1:生物学的浄化作用の有無の検討)
発明者らは、種々の有機物、具体的には牛糞入りバーク堆肥(比較例)、腐葉土(比較例)および籾殻(本発明例の生物学的浄化剤)の3種類の有機物について、これらの生物学的浄化作用の有無を検討した。
【実施例】
【0059】
図1の上段写真は、左から、牛糞入りバーク堆肥、腐葉土および籾殻を示したものであり、何らの処理も施していない。なお、牛糞入りバーク堆肥、腐葉土および籾殻はいずれも、硫酸還元菌(SRB)を添加しなくても、それら自体が硫酸還元菌(SRB)を保有している。また、図1の下段写真は、これらの各有機物:20mLと、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン濃度:0.1mg/L,SO2-濃度:250mg/L):20mLとを、100mLのバイアルビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置し、気体採取器(ガステック社製、型番:GV-100)を用いてバイアルビン内から採取した気体を、測定レンジの異なる硫化水素検知管(ガステック社製、型番:4LL、4L、4Mおよび4HMの4種のいずれか)に導入して、バイアルビン内で発生した硫化水素ガス濃度を測定している状態を示したものである。ここで測定される硫化水素ガスの濃度が高いほど、有機物中の硫酸還元菌の活動が活発であり、被処理水中に含まれる重金属イオンを、硫化物にして沈殿させる反応が起こりやすいことを間接的に示すものである。
【実施例】
【0060】
図2は、縦軸を硫化水素ガス濃度、横軸を経過日数として、3種類の有機物、すなわち、牛糞入りバーク堆肥(図2では単に「バーク堆肥」と記載。)、腐葉土および籾殻(図2では「モミガラ」と記載。)について測定結果をプロットしたものである。
【実施例】
【0061】
図2の結果から、3種類の有機物のうち、籾殻における硫化水素(HS)ガスの発生は、試験開始から10日後と最も早く、その後も高い濃度で硫化水素ガスが発生した。一方で、牛糞入りバーク堆肥および腐葉土においては、いずれも試験開始から14日後であって、籾殻よりもさらに4日経過した後に硫化水素ガスが発生し、牛糞入りバーク堆肥では、その後も硫化水素ガスの発生が継続して認められたが、腐葉土についてはその後ほとんど発生しなかった。また、試験期間中、籾殻の硫化水素(HS)濃度は、他と比べて高い水準で推移しており、被処理水中の重金属イオンを硫化物として沈殿させる反応がより起こっているものと推察される。
【実施例】
【0062】
このことから、硫酸イオンの還元反応を十分に起こすための有機物源として、籾殻は非常に適している一方、腐葉土では硫酸イオンの還元反応がほとんど起こらず、また、牛糞入りバーク堆肥でも硫酸イオンの還元反応は籾殻よりも不十分であることがわかった。
【実施例】
【0063】
次に、図3は、籾殻:10mLおよび牛糞入りバーク堆肥:10mLの混合物(本発明例の生物学的浄化剤、図3ではモミガラ/バーク堆肥混合物と記載。)と、鉱山由来の被処理水(pH:5.91,Cdイオン0.1mg/L,SO2-濃度:250mg/L):20mLとを、100mLのバイアルビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置し、ガス検知管にて発生した硫化水素ガス濃度を測定した結果を示す。なお、図3には、有機物が、図2に示した籾殻(モミガラ):20mLの場合と牛糞入りバーク堆肥(バーク堆肥):20mLの場合についてのプロットも併せて示した。
【実施例】
【0064】
図3の結果から、有機物として、籾殻と牛糞入りバーク堆肥を体積比1:1で混合した混合物を用いた場合では、牛糞入りバーク堆肥単体の場合と比較して、硫化水素(HS)ガスの発生が1週間程度早まった。また、硫化水素濃度は著しく高くなり、籾殻単体とほぼ同程度の硫化水素濃度が確認された。このことから、籾殻を含有する浄化剤では硫酸イオンの還元反応を十分に起こすことができることがわかった。
【実施例】
【0065】
(実験例2:カラム試験)
次に、実際の金属鉱山の坑廃水中に含有する重金属(Cd,Zn)イオンを被処理水中から除去する試験を行ったので以下で説明する。生物学的浄化剤は以下の3種類を用いた。すなわち、本発明例の生物学的浄化剤として、籾殻単体の浄化剤と、籾殻と牛糞入りバーク堆肥を1:1の体積割合で混合した浄化剤を用い、比較例の生物学的浄化剤として、牛糞入りバーク堆肥単体の浄化剤を用いた。
【実施例】
【0066】
高さ400mm、直径100mmのカラム(反応槽)内に、硫酸還元菌の栄養源となる有機物(本発明例または比較例の浄化剤)とカラム内の空隙を確保するための珪石とを1:1の体積割合で混合したものを充填し、被処理水を導入して、硫酸還元菌を繁殖させるため3週間静置した。その後、被処理水を、滞留時間が50時間になるように、カラムの上方から下方へ連続通水し、カラムから排出された処理水の水質変化を調査した。なお、被処理水は、表1に示す水質の鉱山浸透水(坑廃水)を用いた。図4(a)は、珪石や有機物を充填する前のカラムの状態を示す写真であり、図4(b)は、連続通水状態を模式的に示した図であり、図5は、実際に連続通水を行っている状態を示す写真である。
【実施例】
【0067】
【表1】
JP0005773541B2_000002t.gif
【実施例】
【0068】
水質汚濁防止法(平成二三年八月三〇日法律第一〇五号)及び排水基準を定める省令(平成二三年一〇月二八日環境省令第二八号)によって制定された重金属の廃水基準値は、Cdイオン:0.1mg/L,Pbイオン:0.1mg/L,Znイオン:2mg/L,Feイオン:10mg/Lであるため、この被処理水はCdイオンおよびZnイオンの含有量が基準値を超えている。よって、この2種類の重金属イオンの濃度を測定した。併せて、硫酸イオン(SO2-)濃度および化学的酸素要求量(COD)も測定した。硫酸イオンが減少することは、硫酸イオンの還元が起こり、硫化水素イオンが発生していることを示すものであり、CODが低いことは、処理水の有機物汚染が少ないことを示すものである。図6(a)~(d)は、カラムから排出された処理水の水質の経時変化をプロットしたものであって、縦軸を、(a)が硫酸イオン(SO2-)濃度、(b)がカドミウム(Cd)イオン濃度、(c)が亜鉛(Zn)イオン濃度、そして、(d)が化学的酸素要求量(COD)としたものである。なお、図6(a)~(c)には、比較のため、有機物充填なしのデータ値についても併せて破線で示した。
【実施例】
【0069】
図6(a)の結果から、3種類のいずれの浄化剤の場合でも、処理水の硫酸イオン濃度は低下傾向にあるが、本発明例である籾殻を含む2種類の浄化剤の場合で特に低下する傾向にあり、重金属イオンを硫化物として除去するために必要な、硫酸イオンを還元する反応が十分に進んでいることがわかる。なお、図6(a)では、経過日数とともに硫酸イオン濃度が増減変動する現象が認められるが、この現象は、カラム内に存在する硫酸還元菌の活動状態が経時的に変動するなどの理由によるものであると考えられる。
【実施例】
【0070】
図6(b)および図6(c)の結果から、3種類のいずれの浄化剤の場合においても、処理水におけるCdイオン、Znイオンの濃度は検出限界以下まで低下することがわかる。
【実施例】
【0071】
しかしながら、図6(d)の結果から、本発明例である籾殻を含む2種類の浄化剤の場合では、比較例の浄化剤に比べ初期の処理水のCOD値が低い値で推移しており、カラム内有機物による汚染が抑制されていることがわかる。また、本発明例の浄化剤でも籾殻のみからなる浄化剤の場合に、最もCOD値が低く、有機物汚染が抑制された。これらの傾向は特に、試験開始直後(経過日数:0日)で著しく現れた。また、図7は試験開始から1週間後におけるカラムから排出された処理水の色を示す写真であって、左から、浄化剤がそれぞれ、籾殻と牛糞入りバーク堆肥の混合物、牛糞入りバーク堆肥単体、および籾殻単体である場合を示しているが、バーク堆肥が含まれるカラムにおける処理水は、籾殻単体に比べて著しく濁色しているのがわかる。
【実施例】
【0072】
以上の結果より、本発明例の浄化剤によれば、重金属イオンの除去効果は十分に得られ、かつ、処理水の有機物汚染(COD値および着色)をも十分に抑制することが可能であることがわかった。
【実施例】
【0073】
(実験例3:そば殻の生物学的浄化作用の測定)
籾殻以外の穀物殻として、そば殻の生物学的浄化作用を以下の試験により確認した。
【実施例】
【0074】
そば殻と牛糞入りバーク堆肥の体積比が95:5となるように混合した浄化剤15gと、後述の表2「実験例3」の欄に示す鉱山由来の被処理水150mLとを、250mLのポリビン内に入れて混合し、窒素パージ後30℃の環境下で静置した。被処理水中の硫酸イオン濃度の経時変化をイオンクロマトグラフ(TOA-DKK製,ICA-2000)で測定した。硫酸イオン濃度が減少するほど、硫酸還元菌の活動が活発であり、重金属除去が起こりやすい状態にあることを示す。
【実施例】
【0075】
そば殻を籾殻に替えた以外は上記と同様の実験も併せて行った。
【実施例】
【0076】
図8に示すように、そば殻を含む浄化剤の場合も籾殻を含む浄化剤と同様に、時間がたつにつれて硫酸イオン濃度が顕著に減少したことから、硫酸イオンが還元され硫化水素イオンが生じていることがわかる。
【実施例】
【0077】
なお、それぞれの被処理水について、ORP計(TOA-DKK製,RM-20P)を用いてORP値(mV)を測定した。ORP値は減少するほど被処理水が嫌気状態となっており、硫酸還元菌が活動しやすくなっていることを示す。その結果、被処理水の元のORP値は220mVであったところ、やはり日にちがたつにつれて減少し、7日目には-200mV前後に到達し、その後も同程度を維持する結果となった。
【実施例】
【0078】
また、被処理水のpHをpH計(HORIBA製,D-54)で測定したところ、当初3.87であったpHは実験開始後すぐに6~7付近にまで上昇し、その後も同程度を維持した。これは、牛糞入りバーク堆肥のpH緩衝効果によって、被処理水が中性に近づいたためと考えられる。
【実施例】
【0079】
以上の結果より、そば殻も籾殻と同様に、重金属イオンを除去する効果を十分に有していることがわかる。なお、そば殻は籾殻と同様に肥料成分を含まないため、処理水に有機物が混入するようなことはなく、処理水の有機物汚染は少ないと予想される。
【実施例】
【0080】
(実験例4:カラム試験)
種々の被処理水、特に酸性の被処理水に対して、本発明の浄化剤が重金属除去効果を発揮することを示すため、以下の実験を行った。
【実施例】
【0081】
3Lのカラム内に、籾殻0.75Lおよび牛糞入りバーク堆肥0.75Lの混合物からなる浄化剤と、珪石1.5Lとを充填し、表2に示す被処理水を導入して、硫酸還元菌を繁殖させるため3週間静置した。その後、被処理水を、滞留時間が50時間になるように、カラムの上方から下方へ連続通水し、カラムから排出された処理水の水質変化を調査した。なお、被処理水は、採取する鉱山や時期を変えた6種類の鉱山浸透水(坑廃水)を用い、それぞれ異なる6つのカラムで試験を行った。表2には、既述の重金属イオンの排水基準値も併せて示す。
【実施例】
【0082】
【表2】
JP0005773541B2_000003t.gif
【実施例】
【0083】
それぞれの被処理水について、基準値を超えている重金属イオンの濃度の経時変化を測定した。併せて、硫酸イオン(SO2-)濃度および化学的酸素要求量(COD)も測定した。結果を図9(a)~(f)に示した。なお、図9(b)~(f)には、排水基準値を併せて破線で示した。
【実施例】
【0084】
図9(a)の結果から、試験開始から半年以上一貫して、硫酸イオン濃度は導入したときと同程度かそれよりも低い水準を維持し、硫酸還元菌による硫酸イオンの還元が起こっていることが推測される。また、図9(b)~(e)の結果から、全てのカラムにおける処理水からは排水基準値以上の重金属は検出されなかった。よって、本実験例の浄化剤によれば、種々の被処理水についても、少なくとも半年以上の長期間にわたって重金属除去の効果を維持できることがわかった。
【実施例】
【0085】
また、図9(f)の結果からCOD値は試験開始直後を除き排水基準値(120mg/L)を下回っており、有機物汚染も十分に抑制されていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、重金属イオンおよび硫酸イオンを含有する被処理水中の重金属イオンを長期間にわたって十分に除去可能とするとともに、処理水の有機物汚染を十分に抑制することが可能な、未使用バイオマス資源を用いた生物学的浄化剤、ならびに該生物学的浄化剤を用いた生物学的浄化システムおよび生物学的浄化方法を提供することが可能になった。穀物殻は、これまで不用の廃棄物とされてきた未使用バイオマス資源であり、これを有効利用することは環境にも優しく、しかも、浄化剤の原料コストもかからないので、産業上の利用可能性は極めて高い。また、本発明の生物学的浄化方法は、生物学的浄化剤を構成する穀物殻を所定期間ごとに補給するだけで、自然浄化作用を維持・管理することが容易である。
【符号の説明】
【0087】
100 生物学的浄化システム
10 カラム(処理容器)
11 導入口
12 排出口
20 供給系
30 排出系
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図6】
2
【図8】
3
【図9A】
4
【図9B】
5
【図9C】
6
【図1】
7
【図4】
8
【図5】
9
【図7】
10