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明細書 :金属回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5090697号 (P5090697)
公開番号 特開2007-113116 (P2007-113116A)
登録日 平成24年9月21日(2012.9.21)
発行日 平成24年12月5日(2012.12.5)
公開日 平成19年5月10日(2007.5.10)
発明の名称または考案の名称 金属回収方法
国際特許分類 C22B   3/18        (2006.01)
C22B  11/00        (2006.01)
FI C22B 3/00 F
C22B 11/00 101
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2006-259938 (P2006-259938)
出願日 平成18年9月26日(2006.9.26)
優先権出願番号 2005278021
優先日 平成17年9月26日(2005.9.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月25日(2009.9.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
発明者または考案者 【氏名】小西 康裕
【氏名】斉藤 範三
個別代理人の代理人 【識別番号】100098464、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 洌
【識別番号】100149630、【弁理士】、【氏名又は名称】藤森 洋介
【識別番号】100111279、【弁理士】、【氏名又は名称】三嶋 眞弘
【識別番号】100110984、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 敬子
審査官 【審査官】日比野 隆治
参考文献・文献 特許第4273161(JP,B2)
特開2005-144295(JP,A)
特表2004-517437(JP,A)
特表2003-504621(JP,A)
特表平06-506503(JP,A)
特表2003-514987(JP,A)
特開平08-041553(JP,A)
特公昭47-014602(JP,B1)
資源・素材2004(盛岡),「希薄溶液からの金のバイオ還元・回収」,P.117,118
資源・素材2003(宇部),「嫌気性細菌による金イオンの還元・回収」,P.247,248
化学工学学会秋季大会研究発表講演要旨集(CD-ROM),Vol.37,P.V040
資源・素材2005(室蘭),「還元細菌 Shewanella algaeによる金ナノ粒子の細胞内合成」,P.311,312
hydrometallurgy,vol.81,no.1(2006),p.24-29
調査した分野 C22B 1/00-61/00
特許請求の範囲 【請求項1】
電子供与体と電子受容体として3価鉄を含む培地中で、
鉄還元細菌を作用させ、3価鉄を2価鉄に還元し、
前記2価鉄を用いて、金属酸化物および金属水酸化物からなる群に含まれる金属を浸出させ、浸出液と浸出されない金属を含む残渣を生成し、
前記浸出液と残渣とを分離し、前記浸出液および/または残渣から所望の金属を回収する金属回収方法。
【請求項2】
前記所望の金属が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、亜鉛および鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属または白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電子供与体として炭素数1~7のカルボン酸塩を含む培地中で、前記浸出液のpHを調整して、白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属を浸出させる割合と残渣に濃縮させる割合を調整する請求項1または2に記載の金属回収方法。
【請求項4】
炭素数1~7のカルボン酸塩を含む緩衝液中で
鉄還元細菌を作用させ、
白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを含む液から、前記金属イオンを直接還元して、金属を回収する金属回収方法。
【請求項5】
前記鉄還元細菌が、シワネラ アルゲである請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生物浸出処理に供した金属酸化物および金属水酸化物からなる群から所望の金属の回収方法、および貴金属類および白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属イオンの還元に関する。
【背景技術】
【0002】
低品位鉱物を製錬することは、経済的な理由から、実施することが困難である。このため、低品位鉱物から、微生物を用いて、金属を浸出させることが試みられている。生物浸出法(バイオリーチング)は、エネルギー消費がより少なく、環境に対する危険性が低いので、低品位鉱物から金属を回収する有効な手段として注目されている。
【0003】
たとえば、金属含有鉱物を、硫黄を酸化するのに選択性である微生物と接触させ硫酸を系統的に生成させて、ニッケル、コバルト等の金属を浸出させる金属の回収方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この文献には、白金等の貴金属を残渣として得ることが記載されている。

【特許文献1】特表2003-514987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、硫黄酸化細菌を用いる。このため、金属を浸出させる前あるいは浸出させる際に、硫黄含有組成物と硫黄酸化細菌とを混合させている。このため、反応機構が複雑であり、浸出に非常に時間がかかるという問題がある。例えば、この文献に記載の例では、鉱石の初期ニッケル含有量を約100%溶解させるために約30日を要している。
【0005】
また、硫黄酸化細菌は、pHが1~5と、pHが小さい酸性溶液の場合に活性が増大する。このため、製造装置の材質等の選択に制限を生ずる。その上、好気性細菌である硫黄酸化細菌の生育には酸素が必要で、その利用においては空気の供給設備が不可欠である。
【0006】
さらに、上記文献には、貴金属が残渣中に含まれることは記載されているが、貴金属の含有量と濃縮率については、全く記載されていない。既存の製錬技術が適用できる濃度レベルにまで貴金属類や白金族金属類を濃縮できれば、工業的に極めて有効な技術となる。
【0007】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、金属酸化物および金属水酸化物からなる群に含まれる金属を浸出させて、所望の金属を高い濃縮率に、迅速に濃縮して回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の鉄還元細菌を用いて、金属酸化物または金属水酸化物中に含まれる低品位の金属を高速・高効率に回収することができることを見出した。同時に、特定の鉄還元細菌を用いて、金属酸化物または金属水酸化物の浸出処理をする際に、残渣に、金属酸化物または金属水酸化物に含まれる極微量の貴金属類や白金族金属類が高濃度に濃縮されること、あるいは浸出液中にほぼ完全に溶出されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
本発明の金属回収方法では、鉄還元細菌を作用させ、3価鉄を2価鉄に還元し、前記2価鉄を用いて、金属酸化物または金属水酸化物に含まれる金属を1日間だけのように短時間浸出させ、浸出液と残渣を生成し、前記浸出液と残渣とを分離し、浸出液に金属酸化物または金属水酸化物中のコバルト、ニッケルなどの有価金属をその含有量の約100%を溶解させるとともに、前記残渣中からも所望の金属を高い濃縮度で回収する、あるいは所望の金属も浸出液中にほぼ完全に溶出される。
【0010】
前記所望の金属が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、亜鉛および鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属であればよい。
【0011】
上記所望の金属は、貴金属類および白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属であればよい。
【0012】
また、本発明の金属回収方法は、鉄還元細菌を作用させ、貴金属類および白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを含む液から、前記金属イオンを直接還元するものであってもよい。
【0013】
この方法によれば、金属イオンの状態で溶液中に存在する貴金属類および白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属を、30分程度の短時間内に還元して、メタル(0価)ナノ粒子として回収することができる。
【0014】
前記鉄還元細菌が、シワネラ アルゲであればよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属回収方法によれば、酸化鉱物に含まれる貴金属類や白金族金属類を、比較的穏やかな条件下で、高い濃縮率で、濃縮して回収することができる。
【0016】
また、本発明の金属回収方法によれば、貴金属類および白金族金属類からなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを含む液から、前記金属イオンを金属固体粒子にまで還元して、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
[鉄還元細菌]
本発明で用いる鉄還元細菌としては、例えば、ゲオバクター属(代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス、ATCC(American Type Culture Collection)53774株)、デスルフォモナス属(代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株)、デスルフォムサ属(代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株)、ペロバクター属(代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株)、シワネラ属(Shewanella algae:シワネラ アルゲ、(以下、「S. algae」という):ATCC51181株)、フェリモナス属(Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株)、エアロモナス属(Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株)、スルフロスピリルム属(代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株)、ウォリネラ属(代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株)、デスルフォビブリオ属(代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株)、ゲオトリクス属(代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株)、デフェリバクター属(代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株)、ゲオビブリオ属(代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株)、ピロバクルム 属(代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株)、テルモトガ属(代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株)、アルカエグロブス属(代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株)、ピロコックス属(代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株)、ピロディクティウム属(代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株)などが挙げられる。これらの鉄還元細菌は、嫌気性細菌である。
【0019】
このような鉄還元細菌は、例えば、炭素数1~7の有機物[カルボン酸塩(脂式カルボン酸塩(脂肪酸塩):蟻酸塩、酢酸塩など、芳香族カルボン酸塩:安息香酸塩など、オキソカルボン酸塩:ピルビン酸塩など、その他のカルボン酸塩:乳酸塩など)、アルコール(エタノールなど)、不飽和芳香族(トルエンフェノールなど)]、または水素ガス(分子状水素)などの電子供与体と、電子受容体としてのFe(III)イオンとを用いて、細胞内で酸化・還元反応を起こして、生育エネルギーを獲得する。用いる電子供与体は、使用する鉄還元細菌の種類により異なり、適宜最適なものを選択すればよい。例えば、図1に示すように、S. algaeは、有機酸(この図の例では、乳酸)を電子供与体として、Fe(III)イオンを電子受容体として、細胞内で酸化・還元反応を起こして、生育エネルギーを獲得する。
【0020】
このような鉄還元細菌は、当該細菌に適した培地を用いて、増殖・維持を行えばよい。例えば S. algaeは、例えば、pHが7.0で、電子供与体として乳酸ナトリウム(32mol/m)が、電子受容体としてFe(III)イオン(56mol/m)が含まれている、クエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて、回分培養して増殖させ、維持する。鉄イオンの塩は、この例では、クエン酸塩であるが、使用する培地、使用する鉄還元細菌の種類により、適宜選択すればよい。
【0021】
[S. algaeによる浸出機構]
図2は、S. algaeを用いて、金属酸化物または金属水酸化物を還元して、浸出させる機構を説明する図である。図2に示すように、S. algaeにより、Fe(III)イオンが還元され、Fe(II)イオンを生成する。このFe(II)イオンの還元作用により、金属酸化物または金属水酸化物が還元されるに伴い、コバルトやニッケルなどが液中に浸出する。また、白金などは残渣に含まれる。このように金属酸化物または金属水酸化物を還元して、酸化されたFe(III)イオンは、S. algaeにより、還元され、Fe(II)イオンを生成(再生)し、金属酸化物または金属水酸化物に対して還元作用をする。
【0022】
本発明において、残渣に含まれる金属の濃縮率を向上させるためには、浸出する金属酸化物または金属水酸化物の浸出効率を高めればよい。
【0023】
[金属酸化物または金属水酸化物からの金属の回収]
本発明の方法に用いられる金属酸化物または金属水酸化物としては、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、亜鉛、鉛などの酸化物または金属水酸化物が挙げられる。具体的には、コバルト・リッチ・クラスト(以下、クラストと記載)のような深海底鉱物資源、ラテライトなどの金属含有酸化鉱(陸上鉱物)や、金属含有焼却残渣などの廃棄物(人工鉱物)などである。これらの金属酸化物または金属水酸化物は、貴金属類や白金族金属類を含んでいてもよい。貴金属類や白金族金属類は、鉄還元細菌による浸出作用により、溶液中に浸出せず、残渣に含まれる。また、貴金属類や白金族金属類は、金属酸化物または金属水酸化物に少量しか含まれず、これらを比較的に高濃度レベルに、迅速に濃縮して、回収することは、産業上の価値が大きい。このような貴金属類としては、例えば、金、銀などが挙げられ、白金族金属類としては、例えば、白金、レニウム、オスニウム、イリジウム、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどが挙げられる。
【0024】
これらの金属酸化物または金属水酸化物は、浸出処理に先立ち、必要により、破砕、粉砕をしておくことが好ましい。金属酸化物または金属水酸化物の粒度が大きいと、比表面積が小さくなって固液接触面積が減少し、浸出速度が低下する。また、金属酸化物または金属水酸化物の粒度が大きいと、バッチ式の反応容器を用いる場合に、浸出処理の際に沈降してしまい、十分に浸出処理ができないからである。
【0025】
浸出処理培地は、上記クエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を一部変えた、例えば下記表1に示す組成のものを用いることができる。この浸出用培地において、クエン酸ナトリウムを添加するのは、1)クエン酸ナトリウムが溶液のpH緩衝剤として作用するので、クラストの浸出が進行しても、鉄還元細菌の最適pH値に維持できること、2)クエン酸塩はコバルト(II)やニッケル(II)と錯体をつくる性質があるので、クラストからのコバルトやニッケルの浸出が促進されることを考慮したものである。このように、浸出処理培地は、緩衝作用を有しpH値を維持できる、あるいは浸出する金属イオンと錯体を形成できるような作用を有するように、使用する鉄還元細菌の種類に応じて、適宜変更して使用するとよい。浸出処理に先立ち、上記の条件で増殖させ、維持されているS. algaeを、下記表1に示す組成の培地で前培養を行い、36~48時間培養した後(対数増殖末期)に集菌し、浸出処理培地に菌体濃度が、(0.6~1.2)×1014(cells/m)になるように添加する。菌体濃度は、上記濃度に限らず、目的処理物、処理量等により、適宜好ましい濃度を選択すればよい。また、電子供与体として乳酸塩のほかに蟻酸塩を例示しているが、他の有機物を用いてもよい。

【表1】
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【0026】
浸出処理は、浸出処理培地と、鉄還元細菌と、金属酸化物または金属水酸化物とを、反応器に入れて行う。反応器としては、目的とする処理によって、適宜選択すればよく、連続式の反応器であっても、バッチ式の反応器であってもよい。
【0027】
金属処理物は、処理する金属酸化物または金属水酸化物、用いる鉄還元細菌の種類、用いる鉄還元細菌の濃度などに応じて、反応容器中の浸出処理培地に対して、適宜好ましい量を添加すればよい。例えば、金属処理物を反応容器中の浸出処理培地に対して、5~10(kg/m)添加する。また、バッチ式の反応器を用いる場合には、金属処理物を添加した後に、バルブを通して窒素ガスを通気し、容器内の酸素を除去した後に、バルブを閉じるなどを行う。反応容器内は30℃に保持し、浸出処理を行う。処理容器内のpHは、6~9である。浸出処理の開始時と終了時の間に、pHが変わることがある。この場合に、所望の金属が貴金属または白金族金属類の場合には、金属処理物中でのこれらの金属の存在状態によって、浸出処理中の最大pHが所定の値になるように調整すれば、金属処理物中の貴金属または白金族金属類の大半は溶液中に浸出される。例えば、浸出処理中の最大pHが、8.5以下、好ましくは中性(例えばpH7.5以下)になるようにする。
【0028】
浸出時間は、浸出条件により変動するが、通常24時間以内である。
【0029】
浸出処理終了後、浸出液と残渣とを分離する。分離は、ろ別、遠心分離等の公知の固液分離の手法で行う。浸出液に含まれる有価金属(コバルト、ニッケルなど)は、公知の方法で回収し、所望の用途に用いる。貴金属類や白金族金属類は、残渣に含まれる。残渣に含まれる貴金属類や白金族金属類は、公知の方法で回収する。この方法によれば、残渣に含まれる貴金属類や白金族金属類は、元の金属酸化物または金属水酸化物の含有濃度から、高濃度に濃縮される。残渣に含まれる貴金属類や白金族金属類の濃縮率は、浸出処理に用いられる金属酸化物または金属水酸化物に含まれ、かつ浸出する金属の含有割合により異なる。
【0030】
本発明の方法を用いれば、有価金属を有効に浸出させることができ、貴金属類や白金族金属類を浸出残渣中に濃縮または溶液中に有効に浸出させることができる。図3および図4は、本発明の方法を用いた場合のクラストの浸出処理の効果の一例を示す図である。図3にクラストからのコバルト、ニッケル、マンガンの浸出率の時間的変化を示す。浸出液(70mol/m クエン酸第二鉄を含む)に、70mol/m クエン酸ナトリウムを添加するとともに、S.algae(初期菌体濃度(0.6~1.2)×1014cells/m)を接種することによって、約24時間後にレアメタルの浸出率がほぼ100%にまで達することを表している。図4に示すように、クラストからコバルトやニッケルが100%浸出されることに加えて、処理前のクラストに0.7ppm程度含まれている白金が浸出処理後の残渣には20ppm程度にまでも濃縮されている。通常、白金鉱は、5ppm程度の白金を含んでいる。したがって、20ppm程度白金を含む浸出残渣から白金を回収することは十分産業上の利用価値を有する。また別のクラスト試料では、図5に示すように、クラストからコバルトやニッケルが100%浸出されることに加えて、処理前のクラストに0.24ppm程度含まれている白金も浸出処理液にほぼ100%浸出される。
【0031】
[貴金属類や白金族金属類のイオンの還元]
本発明の別な形態は、鉄還元細菌が、白金族金属類や白金族金属類のイオンを直接白金に還元・析出できることを見出したことにある。貴金属類や白金族金属類のイオンの還元・析出は、例えば以下のように行う。
【0032】
貴金属類や白金族金属類のイオン溶液は、イオン濃度が1mol/m程度の希薄溶液を用いる。対数増殖末期に集菌したS. algaeを嫌気状態した緩衝液で洗浄し、代謝物や不純物を除去する。この洗浄後のS.algaeと、貴金属類や白金族金属類のイオンの希薄溶液とを、乳酸ナトリウムを溶解させた緩衝液に添加して、処理を行うことにより、還元反応が起こり、貴金属類や白金族金属類がS.algaeの細胞に還元・析出する。この方法は、白金族金属類のイオン溶液の還元に、好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
実験の準備は、窒素ガス雰囲気(酸素濃度3%以下)のグローブボックス内で行った。
【0035】
実験に使用した液体培地の組成を上記表1に示す。この培地はクエン酸第二鉄培地(ATCC1931)を基本としたが、マンガンやニッケルがリン酸塩として沈殿するのを防ぐためにリン酸水素ナトリウム濃度を減少させた。同様に、炭酸マンガン沈殿するのを抑制するために、炭酸水素ナトリウムに代えてペプトン1kg/mを使用した。電子供与体としては、乳酸ナトリウムまたはギ酸ナトリウムを用いた。初期電子供与体濃度は、100mol/mとした。
【0036】
反応容器としては、白金を回収するために、図に示す、バッチ式の攪拌型反応器を用いた。この反応器を用いて、培地を攪拌して、浸出容器の底面に酸化物粒子を沈積させずに処理を行った。嫌気生菌であるS.algaeを用いたので、図の反応器は、反応容器1と、密閉蓋4と、攪拌翼5と、バルブ6と、バッフル7とを有する密閉構造となっている。この反応容器内に実験用液体培地を所定量(200cm3または1000cm3)仕込み、1.0kmol/m3水酸化ナトリウム溶液または1.2kmol/m3塩酸溶液を用いて所定のpHに調整した。窒素ガスを通気して容器内を嫌気性とした後、蒸気滅菌(120℃、15分)した。実験に使用するS.algaeは、実験用液体培地と同じ組成をもつ別の液体培地中を用いて前培養し、培養期間36~48時間後(対数増殖末期) に集菌し、滅菌した実験用液体培地に所定の菌体濃度(1.0×1014cells/m3)になるように接種した。この直後にクラスト試料を所定量(クラスト-溶液混合比W0/V=5.0kg/m3)添加し、再度窒素ガスを通気して容器内の酸素を除去し、バルブを閉じて密閉した。使用したクラストは、図4に示すようにコバルトを0.5wt%、ニッケルを0.4wt%、白金を0.7ppm含むものを用いた。この回分反応器を30℃に保持して、浸出実験を開始した。適当な時間間隔で液試料採取し、菌体濃度、有用金属イオン濃度を測定した。反応器内を嫌気状態に保つために、液試料採取は片方のバルブより窒素ガスを反応器内に供給し、そのガス圧力によって他方のバルブより懸濁液試料を採取した。有用金属イオン分析用の液試料は、採取した直後にメンブレンフィルター(孔径0.2μm)を用いて細菌とクラスト試料をろ過し、嫌気状態で保存した。
【0037】
浸出実験の終了後、浸出残渣中の白金濃度を測定するため、浸出残渣を分離・回収した。なお、浸出実験終了後には、クラストに含まれるコバルト、ニッケルは100%浸出していることを確認した。白金濃度の測定には、ICP発光分析法(SPS-7800、セイコーインスツルメンツ)を使用した。
【0038】
試料を王水で浸出処理し、液相白金濃度をICP発光分析によって測定した。浸出残渣の白金の分析結果を表2に示す。3回の浸出実験において、クラスト中の初期白金量に相当する白金量が、浸出残渣中から検出された。クラストのバイオリーチングを行うことによって、初期仕込み量5gのクラストが浸出操作後には0.163~0.312gまで大幅に減量した。したがって、クラスト試料中の白金(0.65ppm)を浸出残渣に21~31倍に濃縮できることが明らかになった。

【表2】
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【0039】
(実施例2)
対数増殖末期(培養期間30時間)に収穫したS.algae細胞を、緩衝液(35mol/m 炭酸水素ナトリウム、pH7.0)を用いて洗浄した。その際、遠心分離(2000rpm 5分)によって、代謝物や不純物を沈殿させた。ここで用いた緩衝液は、N-CO(80:20)混合ガスで1時間バブリングして嫌気状態にしたものである。S.algae細菌懸濁液10cmを、所定濃度の塩化白金酸と乳酸ナトリウムを溶解させた緩衝溶液(35mol/m 炭酸水素ナトリウム、pH7.0)10cmに添加して還元実験を開始した。電子供与体である乳酸ナトリウム濃度は、33.3mol/mである。電子受容体である白金(IV)イオンの初期濃度は、1.05mol/m、初期菌体濃度は1.1×1015cells/mである。細胞洗浄時の懸濁操作と実験開始時の混合操作は全て窒素ガス雰囲気(酸素濃度3%以下)のグローブボックス内で行った。実験は室温で行い、所定の時間ごとに試料採取した。白金測定用の試料は、試料採取後直ちにメンブレンフィルター(孔径0.2μm)を用いて細菌をろ過したものである。
【0040】
白金(IV)イオンの還元実験では、液中の白金濃度をフレームレス原子吸光光度法(AA-6800、島津製作所)で測定した。白金粒子の生成は電界放出型透過型電子顕微鏡(HRTEM)(HF-221、日立製作所)で観察し、エネルギー分散型X線分析計(EDX)を用いて細胞中の元素分布を把握した。
【0041】
図8に、実験結果を示す。S.algae(初期菌体濃度1.1.1×1015cells/m)を接種した実験において、電子供与体(33mol/m乳酸塩)を添加することによってのみ、60分後に初期濃度(1.05mol/m)の90%程度の白金(IV)イオンが還元・析出した。S.algaeを接種した実験でも、電子供与体として乳酸塩を添加しない場合には白金(IV)の還元・析出は起こらない。また、乳酸塩だけを添加した対照実験(S.algae細胞を接種しない無菌)では、白金(IV)の還元・析出は起こらない。
【0042】
(白金粒子およびS.algae細胞に対する電子顕微鏡観察とEDX元素分析)
細胞サイドでの白金粒子の生成を確認するため、還元実験後に採取したS.algae細胞を電界放出型透過型電子顕微鏡で観察し、その元素分析をエネルギー分散型X線分析計(EDX)によって行った。図9に電子顕微鏡での観察結果を示す。生成粒子は、直径5nm程度のナノサイズ粒子より構成される凝集体である。この生成粒子は、細胞外部には存在せずに、細胞表面または内部で生成し、その生成場に保持されていると推測される。また、生成粒子は、白金粒子であることをEDX元素分析によって確認した。
【0043】
(実施例3)
反応容器としては、図6に示す、バッチ式の攪拌型反応器で、容量が10Lのものを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。結果は、図7に示すように、容量が1Lのバッチ式攪拌型反応器を用いた場合と同程度であった。
この結果、本発明の方法を用いると、スケールアップしても、同様の効果が得られることがわかった。
【0044】
(実施例4)
図5に示すように、実施例1で用いたものとは、組成の異なるクラスト(コバルトを0.4wt%、ニッケルを0.4wt%、白金を0.24ppm)を用いた。反応器内の白金量は、全体で、1.17μgになるようにした。pHを、1.2kmol/m3塩酸溶液を用いて所定のpH(7.0、6.0)に調整した以外は、実施例1と同様にした。結果を表3に示す。なお、浸出実験で時間が経過するに伴い、pHは増加する傾向にあった。このため、浸出実験中も1.2kmol/m3塩酸溶液を添加して、溶液pHの増加を抑制した。したがって、pH値の左側の値は、処理前の値(初期値)で、右側の値は、実験途中での最大pH値を意味する。また、処理前のpHが同じであっても、浸出実験の条件、浸出実験中の1.2kmol/m3塩酸溶液の添加の程度に応じて、実験途中での最大pH値が異なった。
【0045】
この表から、実施例4のクラストを用いると、浸出実験途中での処理液の最大pHが中性(pH約7.5以下)になると、浸出液中にほとんどの白金が溶出していることがわかる。以上の結果から、金属処理物中に含まれる所望の金属の存在態様により、pHなどの浸出条件を選択すれば、所望の金属を容易に回収できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明で用いる鉄還元細菌のFe(III)を還元する作用を説明する模式図である。
【図2】図2は、本発明の方法にかかる金属酸化物の浸出機構を説明する模式図である。
【図3】図3は、容量が1Lのバッチ式攪拌型反応器を用いたクラストからのコバルト、ニッケル、マンガンの浸出率の時間的変化を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の方法を用いた場合のクラストの浸出処理の効果の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の方法を用いた場合のクラストの浸出処理の効果の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の方法に用いられる反応器の一例を示す図である。
【図7】図7は、容量が10Lのバッチ式攪拌型反応器を用いたクラストからのコバルト、ニッケル、マンガンの浸出率の時間的変化を示すグラフである。
【図8】図8は、白金(IV)イオンの還元実験のデータを示す図である。
【図9】図9は、S.algae細胞に対する電子顕微鏡での観察結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0047】
1 反応容器
4 密閉蓋
5 攪拌翼
6 バルブ
7 バッフル
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8