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明細書 :炭素繊維三次元構造体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-161766 (P2018-161766A)
公開日 平成30年10月18日(2018.10.18)
発明の名称または考案の名称 炭素繊維三次元構造体及びその製造方法
国際特許分類 B32B   5/24        (2006.01)
C23C  24/04        (2006.01)
B32B   9/00        (2006.01)
D04H   1/4242      (2012.01)
FI B32B 5/24
C23C 24/04
B32B 9/00 A
D04H 1/4242
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-059075 (P2017-059075)
出願日 平成29年3月24日(2017.3.24)
発明者または考案者 【氏名】森 正和
【氏名】池田 直
【氏名】狩野 旬
出願人 【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001885、【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
審査請求 未請求
テーマコード 4F100
4K044
4L047
Fターム 4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DG03B
4F100DG15A
4F100EH61
4F100EH90
4F100EJ12
4F100EJ42
4K044BA18
4K044BB11
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
4K044CA71
4L047AA03
4L047AB02
4L047CA05
4L047CA15
要約 【課題】炭素繊維の種類を問わず高密度かつ多面積な三次元構造体を効率的に形成できる方法であって、三次元繊維構造体の厚膜化を達成できる製造方法を提供する。
【解決手段】基材に炭素短繊維を吹き付けることにより炭素繊維三次元構造体を形成させる方法であって、炭素短繊維に対して熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施し、吹付用炭素短繊維を得る第一工程と、エアロゾルデポジション法を用いて吹付用炭素短繊維を基材に吹き付ける第二工程と、を有すること、を特徴とする炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
基材に炭素短繊維を吹き付けることにより炭素繊維三次元構造体を形成させる方法であって、
前記炭素短繊維に対して熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施し、吹付用炭素短繊維を得る第一工程と、
エアロゾルデポジション法を用いて前記吹付用炭素短繊維を前記基材に吹き付ける第二工程と、を有すること、
を特徴とする炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項2】
酸素を含む雰囲気下で前記熱処理を行い、
前記熱処理の温度を500~700℃とすること、
を特徴とする請求項1に記載の炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理を、硝酸を用いた表面処理とすること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項4】
前記炭素短繊維がピッチ系の炭素短繊維であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第二工程において、前記基材に前記炭素短繊維を50~200m/secの速度で吹き付けること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項6】
前記炭素短繊維の平均長さが100~3000μmであること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の炭素繊維三次元構造体の製造方法。
【請求項7】
炭素短繊維同士が三次元的に絡み合った炭素繊維三次元構造体であって、
前記炭素短繊維の平均長さ及び平均直径がそれぞれ100~3000μm及び5~15μmであり、
前記炭素短繊維の表面に直径が10~200nmの略円形の凹部が形成されていること、
を特徴とする炭素繊維三次元構造体。
【請求項8】
前記炭素繊維三次元構造体の厚さが3mm以上であること、
を特徴とする請求項7に記載の炭素繊維三次元構造体。
【請求項9】
前記炭素短繊維がピッチ系の炭素短繊維であること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の炭素繊維三次元構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維三次元構造体及びその製造方法に関し、より具体的には、炭素短繊維が三次元的に絡み合った炭素繊維構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の優れた電気的特性及び熱的特性を活用でき、各種母材に対する強化材や触媒担体等としても利用できる三次元構造体として、炭素短繊維の集合体である三次元構造体が注目されており、その構造や製造方法が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014-240123号公報)に記載の三次元繊維構造体においては、基材に短繊維を吹き付けることにより当該短繊維を基材に結合させてなる三次元繊維構造体であって、当該基材はゲル状の固体または空隙を有する多孔質体であって、当該固体の表面又は空隙部分に短繊維を刺し込ませることにより、短繊維を基材に結合させている三次元繊維構造体、が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の三次元繊維構造体では、基材に短繊維を高密度で吹き付けた三次元繊維構造体とすることができることから、高密度で多表面積の三次元繊維構造体を提供することができる、としている。
【0005】
また、基材上に微細粒子からなる三次元構造体を形成させる方法としては、特許文献2(特開2010-121203号)に、多孔質基材上にエアロゾルデポジション法により緻密様脆性材料構造物が形成された複合構造物の製造方法であって、多孔質基材は三次元網目構造状の連続気孔を有し、且つ、多孔質基材の表面であって緻密質脆性材料構造物との界面を形成する表面は連続気孔と連通する表面気孔を有するものであり、表面気孔に選択的に脆性材料微粒子の圧粉体様構造物を形成させる第一の工程を行い、その後に、エアロゾルデポジション法により脆性材料微粒子を噴射し、表面気孔に選択的に脆性材料微粒子の圧粉体様構造物が形成された多孔質基材の表面に脆性微粒子を衝突させることで、多孔質基材の表面に脆性材料微粒子と同じ構成材料からなる緻密様脆性材料構造物を形成させる第二の工程を行なうことを特徴とする複合構造物の製造方法、が開示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の複合構造物の製造方法においては、上記工程を有していることにより、エアロゾルデポジション法で作製することが従来困難であったセラミックスや金属の多孔質基材の表面に緻密な脆性材料の構造物が形成された複合構造物を作製することが可能となる、としている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2014-240123号公報
【特許文献2】特開2010-121203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の三次元繊維構造体の製造に用いることができる炭素繊維はPAN系の炭素繊維に限られ、高い弾性率を有するピッチ系の炭素繊維を用いることができない。また、得られる三次元繊維構造体の厚さや形成速度も十分とは言い難い。更に、上記特許文献2に記載の複合構造物の製造方法は微粒子を堆積させるものであり、原料として炭素短繊維を用いることは想定されておらず、炭素短繊維からなる三次元構造体を効率的に得ることはできない。
【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、炭素繊維の種類を問わず高密度かつ多面積な三次元構造体を効率的に形成できる方法であって、三次元繊維構造体の厚膜化を達成できる製造方法、及び当該製造方法によって得られる炭素繊維三次元構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく炭素短繊維の三次元構造体化手法について鋭意研究を重ねた結果、表面処理を施した炭素短繊維を基材に吹き付けること等が上記目的を達成する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
基材に炭素短繊維を吹き付けることにより炭素繊維三次元構造体を形成させる方法であって、
前記炭素短繊維に対して熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施し、吹付用炭素短繊維を得る第一工程と、
エアロゾルデポジション法を用いて前記吹付用炭素短繊維を前記基材に吹き付ける第二工程と、を有すること、
を特徴とする炭素繊維三次元構造体の製造方法を提供する。
なお、本発明において短繊維とは長さが3cm以下の繊維を意味し、基本的には1cm以下の繊維を対象としている。
【0012】
本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、第一工程において炭素短繊維に熱処理を施すことで、表面に微小な凹部を形成することができる。当該凹部により炭素短繊維同士が摺動する場合の抵抗が増加し、炭素短繊維同士の絡み合いが促進されて三次元構造体化が容易となる。また、当該凹部の形状、サイズ及び分布状況等によって炭素短繊維の変形挙動がランダム化され、三次元構造体化が促進される効果も存在する。
【0013】
また、第一工程において炭素短繊維に液相酸化法を用いた表面処理を施すことで、炭素短繊維表面の電荷分布をランダム化させることができ、当該電荷分布に起因する斥力及び引力によって炭素短繊維同士の絡み合いによる三次元構造体化が促進される。液相酸化方法としては、硝酸処理、過酸化水素水や次亜塩素酸ソーダでの高温酸化処理(50~80℃)、及び電解質(硫酸、苛性ソーダ、硫酸アンモニウム、食塩等)での電解酸化処理方法等を挙げることができる。なお、熱処理又は液相酸化法を用いた表面処理のどちらか一方のみを施してもよく、両方を施してもよい。
【0014】
また、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、第一工程における熱処理を酸素含有雰囲気下とし、熱処理温度を500~700℃とすることが好ましい。また、より好ましい熱処理温度は550~650℃である。当該条件で熱処理を行うことで、炭素短繊維の表面に多数の微小な凹部を形成することができる。具体的には、熱処理温度を500℃以上とすることで炭素短繊維の表面を僅かに酸化させることができ、700℃以下とすることで、当該酸化による炭素短繊維の急激な損傷を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、第一工程における液相酸化を、硝酸を用いた表面処理とすることが好ましい。当該条件で炭素短繊維の表面処理を行うことで、炭素短繊維表面の電荷分布をランダム化することができる。当該電荷分布によって炭素短繊維同士が適度に絡み合うことにより、効率的に三次元構造体化を進めることができる。
【0016】
また、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、前記炭素短繊維がピッチ系の炭素短繊維であること、が好ましい。炭素繊維はPAN系とピッチ系に大別できるが、ピッチ系の炭素繊維はPAN系と比較して弾性率が高く、三次元構造体を形成させることが困難である。しかしながら、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、上述の熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理により三次元構造体化が促進されるため、ピッチ系の炭素短繊維を用いた場合であっても良好な三次元構造体を得ることができる。
【0017】
また、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、前記第二工程において、前記基材に前記炭素短繊維を50~200m/secの速度で吹き付けること、が好ましい。吹付速度を50m/sec以上とすることで炭素短繊維同士を十分に絡み合わせることができ、200m/sec以下とすることで炭素短繊維の局所的な凝集を抑制することができる。
【0018】
更に、本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法においては、前記炭素短繊維の平均長さが100~3000μmであること、が好ましい。炭素短繊維の平均長さを100μm以上とすることで炭素短繊維同士が互いに三次元的に絡み合って効率的に三次元構造体化することができる。また、平均長さを3000μm以下とすることで、炭素短繊維の局所的な凝集を抑制することができると共に、三次元的に連続する絡み合いを実現することができ、均質な三次元構造体を形成することができる。
【0019】
また、本発明は、
炭素短繊維同士が三次元的に絡み合った炭素繊維三次元構造体であって、
前記炭素短繊維の平均長さ及び平均直径がそれぞれ100~3000μm及び5~15μmであり、
前記炭素短繊維の表面に直径が10~200nmの略円形の凹部が形成されていること、
を特徴とする炭素繊維三次元構造体、も提供する。
【0020】
本発明の炭素繊維三次元構造体においては、前記炭素繊維三次元構造体の厚さが3mm以上であること、が好ましい。バンドル状の炭素長繊維を編み込む態様ではなく、炭素短繊維同士を3次元的に絡み合わせることで構造体化(厚膜化)することは極めて困難であるが、本発明の炭素繊維三次元構造体においては炭素短繊維の表面に凹部を形成させることで炭素短繊維同士の絡み合いによる結合が容易となり、厚さを3mm以上とすることができる。
【0021】
また、本発明の炭素繊維三次元構造体においては、前記炭素短繊維がピッチ系の炭素短繊維であること、が好ましい。炭素短繊維を高い弾性率を有するピッチ系の炭素繊維とすることで、機械的性質に優れた炭素繊維三次元構造体を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭素繊維の種類を問わず高密度かつ多面積な三次元構造体を効率的に形成できる方法であって、三次元繊維構造体の厚膜化を達成できる製造方法、及び当該製造方法によって得られる炭素繊維三次元構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法の工程図である。
【図2】炭素繊維三次元構造体の概略外観図である。
【図3】表面処理前のPAN系炭素短繊維のSEM写真である。
【図4】表面処理後のPAN系炭素短繊維のSEM写真である。
【図5】実施例1で基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真である。
【図6】熱処理後の炭素短繊維のSEM写真である。
【図7】実施例2で基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真である。
【図8】熱処理前のピッチ系炭素短繊維の低倍率SEM写真である。
【図9】熱処理後のピッチ系炭素短繊維の低倍率SEM写真である。
【図10】熱処理前のピッチ系炭素短繊維の高倍率SEM写真である。
【図11】熱処理後のピッチ系炭素短繊維の高倍率SEM写真である。
【図12】実施例3で基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真である。
【図13】比較例1で基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の炭素繊維三次元構造体及びその製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎず、これらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。

【0025】
(1)炭素繊維三次元構造体の製造方法
図1に本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法の工程図を示す。本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法は、炭素短繊維に対して熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施し、吹付用炭素短繊維を得る第一工程(S01)と、エアロゾルデポジション法を用いて吹付用炭素短繊維を基材に吹き付ける第二工程(S02)と、を有している。以下、これらの各工程について詳しく説明する。

【0026】
(1-1)炭素短繊維への前処理工程(S01:第一工程)
第一工程(S01)は、炭素短繊維に対して熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施し、吹付用炭素短繊維を得るための工程である。

【0027】
炭素短繊維は長さが3cm以下の繊維を意味し、1cm以下であることが好ましく、100~3000μmであることがより好ましい。また、炭素短繊維の直径は本発明の効果を損なわない程度において特に限定されないが、5~15μmであることが好ましい。

【0028】
更に、炭素短繊維の平均長さは100~3000μmであることが好ましい。炭素短繊維の平均長さを100μm以上とすることで炭素短繊維同士が互いに三次元的に絡み合って効率的に三次元構造体化することができる。また、平均長さを3000μm以下とすることで、炭素短繊維の局所的な凝集を抑制することができると共に、三次元的に連続する絡み合いを実現することができ、均質な三次元構造体を形成することができる。

【0029】
熱処理は炭素短繊維の表面に多数の微小な凹部を形成させるための処理であり、当該凹部が形成される限りにおいて処理条件は特に限定されないが、熱処理を酸素含有雰囲気下とし、熱処理温度を500~700℃とすることが好ましく、熱処理温度を550~650℃とすることがより好ましい。当該熱処理によって炭素短繊維の表面が適度に酸化され、所望する凹部を効率的に形成させることができる。ここで、処理温度を500℃以上とすることで炭素短繊維表面の酸化を進行させることができ、700℃以下とすることで急激な酸化による炭素短繊維の損傷を抑制することができる。

【0030】
なお、当該熱処理は、一般的な電気炉を用いることで実施することができる。酸素含有雰囲気は大気であってもよいが、例えば、アルゴンに適量の酸素を混合して雰囲気中の酸素含有量を調整することで、炭素短繊維表面の酸化の進行を制御することができる。

【0031】
また、第一工程(S01)における液相酸化法を用いた表面処理には、硝酸処理、過酸化水素水や次亜塩素酸ソーダでの高温酸化処理(50~80℃)、及び電解質(硫酸、苛性ソーダ、硫酸アンモニウム、食塩等)での電解酸化処理方法等を用いることができ、特に、硝酸を用いた表面処理を施すことが好ましい。当該条件で炭素短繊維の表面処理を行うことで、炭素短繊維表面の電荷分布をランダム化することができる。当該電荷分布によって炭素短繊維同士が適度に絡み合うことにより、効率的に三次元構造体化を進めることができる。

【0032】
また、炭素短繊維にはピッチ系の炭素短繊維を用いることが好ましい。炭素繊維はPAN系とピッチ系に大別できるが、ピッチ系の炭素繊維はPAN系と比較して弾性率が高く、三次元構造体を形成させることが困難である。しかしながら、熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理により三次元構造体化を促進することができるため、ピッチ系の炭素短繊維を用いた場合であっても第二工程(S02)におけるエアロゾルデポジションにより、良好な三次元構造体を得ることができる。

【0033】
(1-2)基材への吹付工程(S02:第二工程)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)において熱処理及び/又は液相酸化法を用いた表面処理を施した炭素短繊維をエアロゾルデポジション法により基材に吹き付ける工程である。

【0034】
第二工程(S02)で用いるエアロゾルデポジション法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知のエアロゾルデポジション法を広く使用することができるが、基材に炭素短繊維を50~200m/secの速度で吹き付けることが好ましい。吹付速度を50m/sec以上とすることで炭素短繊維同士を十分に絡み合わせることができ、200m/sec以下とすることで炭素短繊維の局所的な凝集を抑制することができる。

【0035】
なお、エアロゾルデポジション法の一般的な態様は、吹付装置を用いて炭素短繊維を基材に吹き付けるものである。吹付装置はキャリアガスとともに炭素短繊維を噴射ノズルから噴き出すものであり、基材と吹付装置とは、減圧可能としたチャンバ内で吹付装置の噴射ノズルを基材に向けて配置される。ここで、例えば、チャンバ内を1000Pa以下の減圧環境とすることで、基材へ炭素短繊維を吹き付けることができる。

【0036】
また、噴射ノズルは、炭素短繊維の吹き付け方向を基材の面方向と直交する方向とし、当該基材をX-Yテーブル等の移動手段によって炭素短繊維の吹き付け方向と直交する方向に移動可能させ、スキャニングを行うことで、面状の炭素繊維三次元構造体を製造することができる。なお、噴射ノズルを移動させることでスキャニングを行い、炭素短繊維を基材に面状に吹き付けてもよい。

【0037】
また、基材は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の基材を用いることができるが、フェルト等の不織布を用いることが好ましい。基材に不織布を用いた場合、吹き付けられた炭素短繊維は当該不織布の空隙部分に刺し込まれると共に、不織布の繊維と炭素短繊維とが互いに絡み合って強固に接合することから、三次元構造体を効率的に製造することができる。

【0038】
(2)炭素繊維三次元構造体
本発明の炭素繊維三次元構造体の製造方法によって、効率的に炭素繊維三次元構造体を得ることができる。図2に当該炭素繊維三次元構造体の概略外観図を示す。

【0039】
炭素繊維三次元構造体2は、炭素短繊維4同士が三次元的に互いに絡み合って三次元構造体化したものである。基材6の表面に炭素短繊維4を吹き付けることで製造することができるが、基材6と炭素繊維三次元構造体2とは製造後に切り離してもよい。

【0040】
炭素短繊維4の平均長さ及び平均直径はそれぞれ100~3000μm及び5~15μmであり、炭素短繊維4の表面に直径が10~200nmの略円形の凹部が形成されている。

【0041】
また、炭素繊維三次元構造体2の厚さは3mm以上であることが好ましい。バンドル状の炭素長繊維を編み込む態様ではなく、炭素短繊維4同士を3次元的に絡み合わせることで構造体化(厚膜化)することは極めて困難であるが、炭素繊維三次元構造体2においては炭素短繊維4の表面に凹部を形成させることで炭素短繊維4同士の絡み合いによる結合が容易となり、炭素繊維三次元構造体2の厚さを3mm以上とすることができる。

【0042】
更に、炭素繊維三次元構造体2においては、炭素短繊維4がピッチ系の炭素短繊維であることが好ましい。炭素短繊維4を高い弾性率を有するピッチ系の炭素繊維とすることで、機械的性質に優れた炭素繊維三次元構造体2を実現することができる。

【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、炭素短繊維に他の短繊維や微細粒子等を適宜添加して三次元構造体とすることもできる。

【0044】
以下、実施例において本発明の炭素繊維三次元構造体及びその製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
≪実施例1≫
炭素短繊維としてPAN系の炭素短繊維(東レ株式会社製,トレカMLD-300)を使用した。当該炭素短繊維の平均長さは130μmであり、平均繊維径は7μmである。
【実施例】
【0046】
当該炭素短繊維を80℃の硝酸に10時間浸漬させ、表面処理を施した(第一工程)。表面処理前後の炭素短繊維のSEM写真を図3及び図4にそれぞれ示す。硝酸による表面処理によって炭素短繊維の直径は変化しておらず、表面が清浄化されている様子が確認できる。
【実施例】
【0047】
表面処理後の炭素短繊維を5g秤量し、エアロゾルデポジション法を用いてカーボンフェルト基材に吹き付けた(第二工程)。ここで、エアロゾルデポジションはキャリアガスにNガスを用い、0.5~1.5L/minの流量で幅1.5mm長さ17mmのノズルから炭素短繊維を吹き出し、10~40Pa程度に減圧したチャンバ内の基材に対して300秒間吹き付けた。なお、噴射ノズルの先端から基材までの距離は15mmとし、噴射ノズルは基材に対して垂直に配置した。
【実施例】
【0048】
基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真を図5に示す。基板上に高さ8mmの炭素繊維三次元構造体が形成されていることが分かる。ここで、付着した炭素短繊維の量は0.4291gであり、付着効率は8.6%であった。
【実施例】
【0049】
≪実施例2≫
第一工程として、硝酸による表面処理の代わりに電気炉による熱処理を施し、1gの炭素短繊維を吹き付けたこと以外は実施例1と同様にして、基板上に炭素繊維三次元構造体を形成させた。ここで、熱処理は大気中で行い、処理温度600℃、処理時間1時間とした。
【実施例】
【0050】
熱処理後の炭素短繊維のSEM写真を図6に示す。表面における筋状の凹凸が軽減されている一方で、微小な窪みが形成されていることが分かる。なお、1.0470gの炭素短繊維に熱処理を施す場合において、400℃で1時間保持すると1.0178g、450℃で1時間保持すると0.9867g、600℃で1時間保持すると0.4671gに質量が減少した。また、10.2492gの炭素短繊維に熱処理を施す場合において、600℃で1時間保持すると8.7315g、600℃で2時間保持すると6.2710gに質量が減少した。
【実施例】
【0051】
基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真を図7に示す。基板上に高さ約14mmのアスペクト比が大きな炭素繊維三次元構造体が形成されていることが分かる。ここで、付着した炭素短繊維の量は0.1076gであり、付着効率は10.7%であった。
【実施例】
【0052】
≪実施例3≫
炭素短繊維にピッチ系の炭素短繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製,チョップドファイバー,XN-100-03Z)を用い、0.5375gの炭素短繊維を吹き付けたこと以外は実施例2と同様にして、基板上に炭素繊維三次元構造体を形成させた。なお、当該炭素短繊維の長さは3mm、繊維径は11μmである。
【実施例】
【0053】
熱処理前後の炭素短繊維の低倍率SEM写真を図8及び図9にそれぞれ示す。また、熱処理前後の炭素短繊維の高倍率SEM写真を図10及び図11にそれぞれ示す。熱処理後の炭素短繊維において、微細な略円形の凹部が形成されていることが分かる。
【実施例】
【0054】
なお、1.0619gの炭素短繊維に熱処理を施す場合において、400℃で1時間保持すると1.0296g、450℃で1時間保持すると1.0185g、600℃で1時間保持すると0.7574gに質量が減少した。また、10.1982gの炭素短繊維に熱処理を施す場合において、600℃で1時間保持すると10.0597g、600℃で2時間保持すると9.9183g、650℃で1時間保持すると9.3725gに質量が減少した。
【実施例】
【0055】
基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真を図12に示す。基板上に高さ約14mmのアスペクト比が大きな炭素繊維三次元構造体が形成されていることが分かる。ここで、付着した炭素短繊維の量は0.1806gであり、付着効率は33.6%であった。
【実施例】
【0056】
≪比較例1≫
第一工程を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、基板上に炭素繊維三次元構造体を形成させた。
【実施例】
【0057】
基板上に形成された炭素繊維三次元構造体の側面写真を図13に示す。基板上に高さ2mmの炭素繊維三次元構造体が形成されていることが分かる。ここで、付着した炭素短繊維の量は0.3084gであり、付着効率は6.2%であった。
【実施例】
【0058】
≪比較例2≫
第一工程を施さなかったこと以外は実施例3と同様にして、基板上に炭素繊維三次元構造体を形成させたが、高さを測定可能な炭素繊維三次元構造体を得ることはできなかった。
【実施例】
【0059】
以上、実施例と比較例の比較により、炭素短繊維に第一工程(液相酸化法を用いた表面処理又は熱処理)を施すことで、炭素繊維三次元構造体を効率的に形成させることができることが分かる。特に、ピッチ系の炭素短繊維を用いた場合、第一工程を施さないと炭素繊維三次元構造体を得ることができないが、第一工程を施すことでPAN系の炭素短繊維と同様に良好な炭素繊維三次元構造体を形成させることができる。
【符号の説明】
【0060】
2・・・炭素繊維三次元構造体、
4・・・炭素短繊維、
6・・・基材。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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