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明細書 :ワクモの防除方法及び該方法で利用されるワクモタンパク質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6765088号 (P6765088)
登録日 令和2年9月17日(2020.9.17)
発行日 令和2年10月7日(2020.10.7)
発明の名称または考案の名称 ワクモの防除方法及び該方法で利用されるワクモタンパク質
国際特許分類 A61K  39/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/17        (2006.01)
A61P  33/14        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
FI A61K 39/00 ZNAH
A61K 48/00
A61K 38/17
A61P 33/14
C07K 14/435
C12N 15/12
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2016-523581 (P2016-523581)
出願日 平成27年5月29日(2015.5.29)
国際出願番号 PCT/JP2015/065600
国際公開番号 WO2015/182754
国際公開日 平成27年12月3日(2015.12.3)
優先権出願番号 2014113479
優先日 平成26年5月30日(2014.5.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年5月25日(2018.5.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】大橋 和彦
【氏名】村田 史郎
【氏名】伊勢崎 政美
【氏名】今内 覚
【氏名】谷口 綾香
【氏名】北條 巧
個別代理人の代理人 【識別番号】110002480、【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
【識別番号】100160037、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 真紀
審査官 【審査官】春田 由香
参考文献・文献 米国特許出願公開第2011/0118449(US,A1)
特開平11-146789(JP,A)
伊勢崎 政美 ほか,ワクモDermanyssus gallinae由来発現遺伝子の網羅的解析,第154回 日本獣医学会学術集会講演要旨集,2012年,第203頁
Hajdusek O et al.,Knockdown of proteins involved in iron metabolism limits tick reproduction and development,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2009年 1月27日,Vol.106, No.4,p.1033-1038
Bartley K et al.,Assessment of cathepsin D and L-like proteinases of poultry red mite, Dermanyssus gallinae (De Geer), as potential vaccine antigens,Parasitology,2012年,Vol.139, No.6,p.755-765
調査した分野 A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
C07K 14/00-14/825
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
SwissProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の(A)~(
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列の314番目~C末端までのアミノ酸配列を少なくとも含む、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の断片であるタンパク質、
(C)前記(A)又は(B)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなる、タンパク質、
(D)前記(A)又は(B)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに
(E)前記(A)~(D)のいずれかに規定されるタンパク質のアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク
りなる群から選択される少なくとも1のタンパク質を家畜に投与する工程を含む、ワクモに対して特異的な免疫応答を家畜に惹起させる方法。
【請求項2】
下記の(F)~(I)
(F)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(G)前記(F)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなる、タンパク質、
(H)前記(F)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに
(I)前記(F)~(H)のいずれかに規定されるタンパク質のアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
よりなる群から選択される少なくとも1のさらなるタンパク質が家畜に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記の(A)~(E)
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列の314番目~C末端までのアミノ酸配列を少なくとも含む、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の断片であるタンパク質、
(C)前記(A)又は(B)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなる、タンパク質、
(D)前記(A)又は(B)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに
(E)前記(A)~(D)のいずれかに規定されるタンパク質のアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
よりなる群から選択される、タンパク質。
【請求項4】
請求項で規定されるいずれかのタンパク質をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4で規定される核酸を含む発現ベクター。
【請求項6】
求項3で規定されるタンパク質、請求項4で規定される核酸及び請求項5で規定される発現ベクターよりなる群から選択される少なくとも1を含む、家畜用抗ワクモワクチン。
【請求項7】
下記の(F)~(I)
(F)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(G)前記(F)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなる、タンパク質、
(H)前記(F)のタンパク質のアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、並びに
(I)前記(F)~(H)のいずれかに規定されるタンパク質のアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
よりなる群から選択されるタンパク質、
前記(F)~(I)に規定されるいずれかのタンパク質をコードする核酸、並びに
前記核酸を含む発現ベクター
よりなる群から選択される少なくとも1をさらに含む、請求項6に記載の家畜用抗ワクモワクチン。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜特にニワトリに寄生する外部寄生虫であるワクモ(Dermanyssus gallinae)の防除方法及び該防除方法に用いることのできる新規タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクモによる吸血被害は、世界中の養鶏場(特に採卵鶏)における大きな問題である。ワクモは、吸血によってニワトリの貧血、産卵率の低下及び免疫応答の低下等による鶏卵生産性の低下をひき起こす。また、ワクモは様々な病原体の伝播にも関与することが報告されている。
【0003】
現行のワクモの防除方法としては、鶏舎の徹底した洗浄、殺虫剤の散布などが挙げられる。しかし、ワクモは非吸血時には鶏舎のヒビ割れのような隙間に棲息するため、洗浄又は薬剤散布で隙間に棲息するワクモを完全に防除することは困難である。また薬物散布は、生産物に薬物が残留するおそれがあることに加え、最近報告されているように薬剤耐性を有するワクモが出現するという問題を伴う。このように、現行の防除方法特に薬剤散布は幾つかの問題を有することから、薬剤散布以外の新たなワクモ防除法が必要とされている。
【0004】
抗ワクモワクチンは、薬剤散布に代わるワクモの防除方法として有望な手段である。ワクモと同様に家畜の吸血性外部寄生虫であるマダニに関する抗マダニワクチンの開発研究は、既に先行して行われている。
【0005】
抗マダニワクチンとしては、マダニから宿主に注入される分子をワクチン抗原として用いるもの、及びマダニの腸管内で発現してマダニの恒常性維持に関わる分子をワクチン抗原として用いるもの、などが挙げられる。前者の場合、マダニから宿主に注入される因子の働きが宿主内部における免疫応答によって阻害されることで、マダニの吸血が抑制され、マダニが防除される。また後者の場合、吸血に伴って宿主からマダニの体内に持ち込まれた免疫活性物質によってマダニ体内の標的分子の機能が阻害されることで、マダニが防除される(非特許文献1、非特許文献2)。前者に該当する抗マダニワクチンの一つは、Hoechst社から市販されているTickGARD(登録商標)PLUSである。
【0006】
近年、抗ワクモワクチンの研究開発も進められている。例えば、ワクモ虫体の不溶性分画及び可溶性分画を抗原として用いたワクチン試験(非特許文献3)が行われている。また、ワクモで発現している遺伝子を同定し、その組換えタンパク質を抗原として用いたワクチン試験が一定の効果を示すことが報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。さらに、ワクモの抗酸化酵素や薬剤代謝関連酵素などのワクチン抗原候補となる分子も報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。
【0007】
マダニは宿主に寄生して数日にわたって吸血を続けるため、宿主内部における免疫応答によって吸血を抑制するワクチンも有効である。一方、ワクモの吸血時間は5分から長くて1時間程度であり、マダニに比べると極めて短時間しかニワトリ個体に留まらない。そのため、より高い防除効果が期待できる抗ワクモワクチンとしては、宿主内部における免疫応答によってワクモ由来の分子の機能を阻害することでワクモを防除するものよりも、吸血に伴って宿主からワクモの体内に持ち込まれた免疫活性物質によってワクモを防除するものの方が有利であると考えられる。しかし、これまでのところ、係る機構によってワクモを防除し得る有効なワクチン抗原は見いだされていない。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】小沼ら、獣医畜産新報、2004年、第57巻、753-757ページ
【非特許文献2】Willadsenら、Parasitology、2004年、第129巻、S367-S387ページ
【非特許文献3】Wrightら、Exp.Appl.Acarol.、2009年、第48巻、81-91ページ
【非特許文献4】Bartleyら、International Journal for Parasitology、2009年、第39巻、447-456ページ
【非特許文献5】Bartleyら、Parasitology、2012年、第139巻、755-765ページ
【非特許文献6】伊勢崎ら、2010年9月18日、第150回日本獣医学会、演題番号C-52
【非特許文献7】伊勢崎ら、2012年9月15日、第154回日本獣医学会、演題番号C-2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ワクモに対する免疫応答を家畜に惹起させ、ワクモ体内で標的分子の機能を阻害することでワクモを防除する方法、そのために利用可能なワクチン抗原及び抗ワクモワクチンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ワクモで発現している遺伝子の解析によって、新規かつワクモに特徴的なタンパク質をコードする遺伝子が発現していることを突き止め、下記の各発明を完成させた。
【0011】
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質及び/又はそれらの免疫学的等価物を家畜に投与する工程を含む、ワクモに対して特異的な免疫応答を家畜に惹起させる方法。
(2)免疫学的等価物が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質又は配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質のポリペプチド断片である、(1)に記載の方法。
(3)免疫学的等価物が、
配列番号1に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され若しくは置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され若しくは置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
それらのポリペプチド断片
である、(1)に記載の方法。
(4)免疫学的等価物が、
配列番号1に示されるアミノ酸配列、
配列番号1に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され若しくは置換されたアミノ酸配列、
配列番号1に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列
配列番号2に示されるアミノ酸配列、
配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され若しくは置換されたアミノ酸配列、
配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、又はそれらの部分アミノ酸配列
のいずれかのアミノ酸配列のN末端及び/若しくはC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなる融合タンパク質
である、(1)に記載の方法。
(5)下記のa)~d)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質又は下記a)~c)のアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるポリペプチド断片であって、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の免疫学的等価物であるタンパク質又はポリペプチド断片。
a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
b)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列
c)配列番号1に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、
d)a)~c)のいずれかのアミノ酸配列又はそれらの部分アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列。
(6)下記のe)~h)のいずれかのアミノ酸配列からなるタンパク質又は下記e)~g)のアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるポリペプチド断片であって、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質の免疫学的等価物であるタンパク質又はポリペプチド断片。
e)配列番号2に示されるアミノ酸配列、
f)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列、
g)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、
h)e)~g)のいずれかのアミノ酸配列又はそれらの部分アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列。
(7)(5)又は(6)で規定されるいずれかのタンパク質又はそのポリペプチド断片をコードする核酸。
(8)(7)に記載の核酸を含む発現ベクター。
(9)(5)及び/若しくは(6)で規定されるタンパク質及び/若しくはポリペプチド断片、又は(7)で規定される核酸及び/若しくは(8)で規定される発現ベクターを含む、家畜用抗ワクモワクチン。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワクモに対する特異的な免疫応答を家畜に惹起させることができ、吸血したワクモ体内にある標的分子の機能を阻害することで、ワクモを防除することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】配列番号1に示されるワクモのカテプシンL-2と各種のダニのカテプシンLとのアミノ酸配列のアライメントである。図中の▼は、カテプシンLに特徴的なモチーフ配列を示す。
【図2】配列番号2に示されるワクモのフェリチン2と各種のダニのフェリチン2とのアミノ酸配列のアライメントである。
【図3】左のパネルはワクモのカテプシンL-2と大腸菌由来のTrigger Factorとの融合タンパク質のSDS-PAGE後のゲルの写真、及び右のパネルはワクモのフェリチン2と大腸菌由来のTrigger Factorとの融合タンパク質のSDS-PAGE後のゲルの写真である。
【図4】ワクモのカテプシンL-2の活性中心を含む部分と大腸菌由来のTrigger Factorとの融合タンパク質のSDS-PAGE後のゲルの写真である。
【図5】複数の異なる養鶏場から採取した3種類のワクモ及び対照であるトリサシダニの全RNAを鋳型とし、ワクモカテプシンL-2をコードする核酸が増幅されるように設計したプライマーセットa)~c)を用いてRT-PCRを行った結果を示す、アガロースゲル電気泳動写真である。上図の1~3はワクモ、4はトリサシダニをそれぞれ示す。また下図は各プライマーセットの位置と増幅される断片の関係を示す模式図である。
【図6】ワクモカテプシンL-2又はワクモフェリチン2を免疫したニワトリから調製した試験血液を吸血したワクモについての、吸血開始から1週目及び3週目の死亡率(吸血して死亡したワクモ数/吸血したワクモ数)を示すグラフである。
【図7】ワクモカテプシンL-2又はワクモフェリチン2を免疫したニワトリから調製した試験血液を吸血したワクモについての、吸血開始から14日目までの死亡率(吸血して死亡したワクモ数/吸血、非吸血を含むワクモ全数)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質及び/又はそれらの免疫学的等価物を家畜に投与する工程を含む、ワクモに対して特異的な免疫応答を家畜に惹起させる方法に関する。

【0015】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、そのアミノ酸配列中に含まれる複数の特徴的なモチーフ配列から、システインプロテアーゼの一種であるカテプシン(Cathepsin)Lであることが確認された。なお、本発明においてクローニングされた核酸(配列番号3)には、配列番号1のアミノ酸配列のN末端に18アミノ酸残基からなるシグナル配列が付加されたタンパク質がコードされている。

【0016】
ワクモからは既にカテプシンLをコードする遺伝子がクローニングされ(Bartleyら、前記非特許文献5)、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)にアクセッションNo.CCC33064.1として登録されているが、配列番号3の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列はこのアクセッションNo.CCC33064.1のそれと30.6%の同一性しか示さない。なお、本明細書におけるアミノ酸配列の同一性とは、当業者によって通常用いられる適当なソフトプログラム、例えばNCBI BLASTサーチ(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)などを用い、比較される配列をアラインメントしたときに得られる最大のパーセント配列同一性を意味する。

【0017】
また、配列番号3の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列をクエリー配列として前記GenBankに対して相同性検索を行ったところ、クエリー配列に対して、カブリダニのカテプシンL(アクセッションNo.XP_003745143.1、配列番号5)が72.9%、シカダニのカテプシンL(アクセッションNo.XP_002403652.1、配列番号6)が51.8%、コイタマダニのカテプシンL(アクセッションNo.AAO60045.1、配列番号7)が46.6%の同一性をそれぞれ有することが確認されたが、ダニ目の生物においてこれら以上の同一性を示す既知のアミノ酸配列は検出されなかった。

【0018】
以上から、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ワクモで特異的に発現している新規なカテプシンLであることが確認された。以下、本明細書では、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる本発明のカテプシンをカテプシンL-2と称し、DgCatL-2と略記し、アクセッションNo.CCC33064.1として登録されている既知のワクモのカテプシンLをカテプシンL-1と称し、DgCatL-1と略記することとする。

【0019】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、そのアミノ酸配列中に含まれる特徴的なモチーフ配列から、鉄の輸送・貯蔵に関与するフェリチン(Ferritin)2であることが確認された。フェリチンはダニ類から哺乳動物に至るまで広く存在する鉄貯蔵タンパク質であり、ダニ類にはフェリチン1とフェリチン2が、哺乳動物にはダニ類のフェリチン1に相当するフェリチンがそれぞれ存在することが報告されている。本発明の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるフェリチンは、フェリチン2に相当するタンパク質である。なお、本発明においてクローニングされた核酸(配列番号4)には、配列番号2のアミノ酸配列のN末端に18アミノ酸残基からなるシグナル配列が付加されたタンパク質がコードされている。

【0020】
配列番号4の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列をクエリー配列として前記GenBankに対して相同性検索を行ったところ、クエリー配列に対して、カブリダニのフェリチン2(アクセッションNo.XP_003737398.1、配列番号8)が59.0%、ヒツジダニのフェリチン2(アクセッションNo.ACJ70653.1、配列番号9)が49.5%、シュルツェマダニのフェリチン2(アクセッションNo.AGX01000.1、配列番号10)が49.5%、フタトゲチマダニのフェリチン2(アクセッションNo.BAN13552.1、配列番号11)が48.2%の同一性をそれぞれ有することが確認されたが、これら以上の同一性を示す既知のアミノ酸配列は検出されなかった。

【0021】
以上から、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ワクモで特異的に発現している新規なフェリチン2であることが確認された。以下、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる本発明のフェリチン2をDgFER2と略記することとする。

【0022】
上記DgCatL-2及びDgFER2は、いずれもワクモ体内に取り込まれた宿主の血液の消化及び吸収に関与するタンパク質であると予想される。また、その機能を阻害することができれば、ワクモの栄養摂取が不完全なものとなる結果、ワクモを防除することができると期待される。具体的には、DgCatL-2又はDgFER2に対して特異的な免疫学的応答を示す様々な物質、例えば特異抗体、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、NKT細胞などの産生を宿主の体内で誘導する、すなわちワクモ特異的な免疫応答を宿主に惹起させることにより、ワクモを防除することが可能となると期待される。

【0023】
本発明では、DgCatL-2及びDgFER2の他に、これらの免疫学的等価物を利用することもできる。本発明にいう免疫学的等価物とは、DgCatL-2又はDgFER2を標的抗原としたワクモ特異的な免疫応答を家畜動物に惹起させることのできる免疫原性タンパク質又はポリペプチドを意味する。その様な免疫学的等価物の好ましい非限定的な例としては、下記のb)~d)、f)~h)を挙げることができる。

【0024】
b)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgCatL-2の欠失型又は置換型変異体に相当するタンパク質)又はそのポリペプチド断片。

【0025】
c)配列番号1に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgCatL-2の挿入型変異体に相当するタンパク質)又はそのポリペプチド断片。

【0026】
d)DgCatL-2、前記b)、c)のタンパク質又はそれらのポリペプチド断片のいずれかのアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgCatL-2、前記b)又はc)のタンパク質と他のタンパク質、ポリペプチド又はタグ配列との融合タンパク質)。

【0027】
f)配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~数個のアミノ酸が欠失され又は置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgFER2の欠失型又は置換型変異体に相当するタンパク質)又はそのポリペプチド断片。

【0028】
g)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgFER2の挿入型変異体に相当するタンパク質)又はそのポリペプチド断片。

【0029】
h)DgFER2、前記f)、g)のタンパク質又はそれらのポリペプチド断片のいずれかのアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質(DgFER2、前記f)又はg)のタンパク質と他のタンパク質、ポリペプチド又はタグ配列との融合タンパク質)。

【0030】
本発明における前記融合タンパク質の一部として付加される任意のアミノ酸配列の代表例としては、DYKDDDDK、Hisタグなどのタグ配列、大腸菌トリガーファクター、キーホールリンペットヘモシアニン、ヘマグルチニン、c-myc、蛍光タンパク質又はグルタチオンSトランスフェラーゼなどのタンパク質のアミノ酸配列などを挙げることができるが、これらには限定されない。

【0031】
本発明は、DgCatL-2、DgFER2及び/又はそれらの免疫学的等価物、好ましくは前記b)~d)、f)~h)のタンパク質などを、ワクモ特異的な免疫応答を宿主に惹起させるための抗原として利用する。かかる発明において、免疫学的等価物がDgCatL-2のプロテアーゼ活性又はDgFER2の鉄貯蔵タンパク質としての機能を保持していることは、必ずしも要求されない。

【0032】
したがって、例えばDgCatL-2又はDgFER2の変異体に相当する免疫学的等価物において、アミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入の部位、変異後のアミノ酸残基の種類及び付加されるアミノ酸配列に、特別な制限はない。ただし、免疫学的等価物であるという条件において、変異体のアミノ酸配列は、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%以上、又は90%以上、さらには95%以上の同一性を有していることが望ましい。また、ポリペプチド断片は少なくとも10アミノ酸残基以上、又は15アミノ酸残基以上、さらに20アミノ酸残基以上、さらには30アミノ酸残基以上の長さを有するものであることが好ましい。

【0033】
またDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物は、免疫原性を保持する限り、FITCなどの蛍光物質、架橋剤その他の公知の化学物質によって修飾されていてもよい。タンパク質を修飾することのできる化学物質の選択とそれを用いた修飾は、当業者の通常の実施能力の範囲内で行うことができる。

【0034】
本発明のDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物は、当業者に公知又は周知の遺伝子組換え手法を用いて製造することができる。かかる遺伝子組換え手法は、各種の教科書、ハンドブック、典型的にはSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Press(2001)、AuSubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)に記載され、当業者に広く利用されている手法を用いて行うことができる。また、市販の実験キット又は試薬を使用するときは、当該キット又は試薬の製造者が定めたプロトコルに従えばよい。

【0035】
本発明におけるDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物は、一般的な遺伝子工学的方法によって、それらをコードする塩基配列を含む核酸を適切な発現ベクターに組み込み、宿主細胞内で発現させることで組換えタンパク質として製造することができる。発現ベクターは、転写発現を調節する任意の機能性塩基配列、例えばプロモーター配列、オペレーター配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーなどをさらに含んでいてもよい。これらの機能性塩基配列は、上記核酸と機能的に連結され得る。

【0036】
先に説明したように、本発明においてはDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物はプロテアーゼ活性又は鉄貯蔵タンパク質としての機能などの生理活性を保持していることは、必ずしも要求されない。そのため、これらタンパク質を遺伝子工学的手法で製造する場合も、前記生理活性を保持したタンパク質として発現させることも必要とされない。例えば、大腸菌を宿主細胞として異種タンパク質を発現させたときに発生し得るいわゆるインクルージョンボディの形態で、DgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物を製造してもよい。

【0037】
また、ポリペプチド断片のように比較的小さいタンパク質の場合は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの当業者に周知の化学合成法によって、又は市販のペプチドシンセサイザーを用いることによって化学的に合成してもよい。

【0038】
さらに、DgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物は、それぞれのN末端にシグナル配列を付加して組換え発現させてもよい。シグナル配列の例としては、DgCatL-2自体のシグナル配列(配列番号24)、DgFER2自体のシグナル配列(配列番号25)を利用することが好ましいが、使用する宿主細胞に応じて異なるシグナル配列を適宜利用してもよい。

【0039】
本発明であるワクモに対して特異的な免疫応答を家畜に惹起させる方法は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質及び/又はそれらの免疫学的等価物、すなわち先に説明したDgCatL-2、DgFER2及び/又はそれらの免疫学的等価物を家畜に投与する工程を含む。

【0040】
本発明は、ワクモの防除が求められる家畜に対して広く適用することができるが、ニワトリ、ヤケイ、アヒル、カモ、ガチョウ、ガン、シチメンチョウ、ホロホロチョウ、キジ、キンケイ、ウズラなどの家禽、特に採卵用、肉用及び観賞用を含むニワトリに好ましく適用される。

【0041】
DgCatL-2、DgFER2及び/又はそれらの免疫学的等価物を家畜に投与する場合には、これらを賦形剤、アジュバントその他の薬学的に利用可能な成分と組み合わせて適当な剤形へと加工して利用することが好ましい。そのような加工は、当業者の通常の実施能力の範囲内で行うことができる。また投与ルートとしては、剤形に応じた適当な方法を選択すればよく、そのような方法としては点眼投与、点鼻投与、噴霧投与、散霧投与、飲水投与、経口投与、混餌投与、卵内接種、穿刺、筋肉注射、皮下注射などを挙げることができる。本発明において特に好ましい投与方法は穿刺、筋肉注射、皮下注射などである。

【0042】
DgCatL-2、DgFER2及び/又はそれらの免疫学的等価物が投与された家畜においてワクモ特異的な免疫応答が惹起されることは、DgCatL-2又はDgFER2に免疫応答を示す特異抗体、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、NKT細胞などの産生を、宿主の体内若しくは宿主から採取された末梢血又はリンパ液において検出することにより確認することができる。かかる抗体又は各種細胞の検出は、当業者の通常の実施能力の範囲内で行うことができる。

【0043】
本発明は、ワクモに対して特異的な免疫応答を家畜に惹起させる方法において利用可能なDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物、これらをコードする核酸、発現ベクター及び形質転換された宿主細胞も提供する。これらはワクモ特異的な免疫応答を宿主に惹起させることのできるワクチンとして有用である。DgCatL-2、DgFER2、それらの免疫学的等価物、核酸、発現ベクター、宿主細胞などの詳細、さらにはそれらの製造方法などについては、好適な例も含め、先に説明したとおりである。前記核酸又は発現ベクター、特にニワトリ等の家畜の体内で機能する発現ベクターは、ワクモに対するいわゆるDNAワクチンとしても利用可能である。

【0044】
本発明におけるDgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物を家畜に投与することで惹起されるワクモ特異的な免疫応答によるワクモの防除能は、簡便な方法によって評価することができる。具体的には、DgCatL-2、DgFER2及びそれらの免疫学的等価物が投与されてから免疫応答の誘導に通常必要とされる時間飼育されたニワトリから回収した血液を用意し、これをワクモに吸血させた後、そのワクモの生死を経時的に判定する方法などによって評価することができる。この方法の場合、ワクモの吸血にはニワトリの皮膚が必要となるので、ニワトリの皮膚を隔壁の一部とし、その隔壁に接触するように前記血液を保持し、隔壁の反対側にワクモを放ち、隔壁を通じて自由に吸血できるようにしてワクモを飼育することのできる、人工的な吸血システムを用いることが好ましい。このようなシステムは、当業者の通常の実施能力の範囲内で構築し、また適宜変形して使用することが可能である。

【0045】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
<実施例1>DgCatL-2のクローニング
1)cDNA合成
常法によって、ワクモ虫体から抽出したmRNA画分を基にcDNAを合成した。cDNAを鋳型として、Life Technologies社製の3’RACEキット(3’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends)を用いて、ワクモのアセチルコリンエステラーゼ(Ace)をコードする遺伝子を増幅するために3’RACEを行った。Aceをコードする遺伝子を増幅するために設計したプライマーF1(配列番号12)及びAUAP(Life Technologies社製の5’RACE及び3’RACEキット(3’RACE・5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Endsに含まれるプライマー)を用いて1stPCRを行った。さらに、増幅されたDNA断片を鋳型として、Aceをコードする遺伝子を増幅するために設計した別のプライマーF2(配列番号13)及びAUAPを用いて、nested-PCRを行った。
【実施例】
【0047】
2)DNA断片の塩基配列解析と相同性検索
2回のPCRによって得られた1.2kbpの増幅断片の塩基配列を決定し、これにコードされるアミノ酸配列についてBLAST検索を行って特徴的なモチーフまたはドメインの保存を解析したところ、カテプシンLファミリーにおいて特徴的な3つのアミノ酸配列モチーフ(図1中の▼で示される部分に相当する)が存在することが確認された。
【実施例】
【0048】
3)完全長配列の決定
得られた塩基配列を基に、Life Technologies社製の5’RACEキット(5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends)を用いて5’RACEを行い、全長cDNAを特定した。この塩基配列をDNAシーケンサーで決定したところ、配列番号1に示されるアミノ酸配列のN末端に18アミノ酸からなるシグナル配列が付加されたタンパク質をコードする塩基配列(配列番号3)が確認された。
【実施例】
【0049】
さらに、決定された塩基配列にコードされるアミノ酸配列(シグナル配列を含む)をクエリー配列とし、GenBankに対してBLAST相同性検索を行った。その結果、クエリー配列に対して、カブリダニのカテプシンL(アクセッションNo.XP_003745143.1)が72.9%、シカダニのカテプシンL(アクセッションNo.XP_002403652.1)が51.8%、コイタマダニのカテプシンL(アクセッションNo.AAO60045.1)が46.6%の同一性をそれぞれ有することが確認された。上記4種類のアミノ酸配列のアライメント結果を図1に示す。一方、クエリー配列は、既知のワクモ由来のカテプシンL(DgCatL-1、GenBankアクセッションNo.CCC33064.1)とは30.6%の同一性しか示さなかった。
【実施例】
【0050】
以上から、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(DgCatL-2)は、既知のワクモ由来のDgCatL-1とは異なる、新規なタンパク質であると判断された。
【実施例】
【0051】
<実施例2>DgFER2のクローニング
1)完全長DgFER2の決定
常法によって、ワクモ虫体から抽出したmRNA画分を基にcDNAを合成した。cDNAを鋳型として、ダニ類のFER2遺伝子の塩基配列を参考にして設計したプライマーF2(配列番号14)及びプライマーR2(配列番号15)を用いて、PCRを行った。得られた増幅断片を基に、前記Life Technologies社製のキットを用いて5’RACE及び3’RACEを行って得られた全長配列について、塩基配列を決定した。さらにこの配列を基に、配列番号16に示されるプライマーF1及び配列番号17に示されるプライマーR1を作製し、cDNAを鋳型にPCRを行い、増幅されたDNA断片の塩基配列を決定して、配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端に18アミノ酸からなるシグナル配列が付加されたタンパク質をコードする塩基配列(配列番号4)が確認された。
【実施例】
【0052】
2)相同性検索
決定された塩基配列にコードされるアミノ酸配列(シグナル配列を含む)をクエリー配列とし、GenBankに対して相同性検索を行った。その結果、クエリー配列に対して、カブリダニのフェリチン2(アクセッションNo.XP_003737398.1)が59.0%、フタトゲチマダニのフェリチン2(アクセッションNo.BAN13552.1)が48.2%、ヒツジダニのフェリチン2(アクセッションNo.ACJ70653.1)が49.5%、シュルツェマダニのフェリチン2(アクセッションNo.AGX01000.1)が49.5%の同一性をそれぞれ有することが確認された。以上の相同性検索の結果から、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ワクモのFER2であると判断された。上記5種類のアミノ酸配列のアライメント結果を図2に示す。
【実施例】
【0053】
<実施例3>DgCatL-2及びDgFER2の生産
実施例1で決定された配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを、大腸菌用発現ベクターであるpCold-TF(TaKaRa社)に組み込んだ。同様に、実施例2で決定された配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを、pCold-TF(TaKaRa社)に組み込んだ。この遺伝子組換えにより、シグナル配列を除いたDgCatL-2及びDgFER2は、それぞれ大腸菌シャペロンの一種であるトリガーファクター(Trigger Factor(TF)、分子量48kDa)を可溶化タグとする融合タンパク質として発現される。
【実施例】
【0054】
コールドショックによって組み換えられた各遺伝子の発現を誘導した後、Hisタグ配列に対するアフィニティークロマトグラフィーにより融合タンパク質を精製し、SDS-PAGEを行った。電気泳動後のゲルを表す写真を図3に示す。
【実施例】
【0055】
また、DgCatL-2については、配列番号1の314番目~C末端までのアミノ酸配列をコードするDNAを前記pCold-TFに組み込んで、DgCatL-2の活性中心部位を含むペプチド断片とTFとの融合タンパク質を発現させた(図4)。この融合タンパク質をHisタグ配列に対するアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、SDS-PAGEを行った。電気泳動後のゲルを表す写真を図4に示す。
【実施例】
【0056】
<実施例4>ワクモにおけるDgCatL-2の発現
それぞれ異なる3箇所の養鶏場から採取したワクモから全RNA画分を調製した。配列番号18に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号19に示される塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットa、配列番号20に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号21に示される塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットb、配列番号22に示される塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号23に示される塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットcを用意し、前記全RNAを鋳型としてRT-PCRを行った。増幅断片についてアガロースゲル電気泳動を行った結果を図5に示す。
【実施例】
【0057】
3つのワクモいずれについても、またプライマーセットa~cのいずれについても、想定される大きさの増幅断片が検出された。一方、対照として採取したトリサシダニの全RNAに対して同様にRT-PCRを行ったが、増幅断片は検出されなかった。
【実施例】
【0058】
<実施例5>ワクチン投与試験
1)組換えタンパク質免疫血漿の作製
TF、実施例3で精製したTFとCatL-2との融合タンパク質(TF-CatL2)、TFとCatL-2の活性中心部を含むペプチド断片との融合タンパク質(TF-CatL2PD)及びTFとDgFER2との融合タンパク質(TF-FER2)を、それぞれ0.25mg/mLとなるように緩衝液に溶解した。
【実施例】
【0059】
各溶液100μLに同量のゲルブアジュバンド(GERBU社)を加えて、2日齢のボリスブラウン種ニワトリ(n=2~4)に一羽につき200μLずつ腹腔内に投与した。初回免疫を0日として、免疫2週後に初回免疫と同様に追加免疫を行い、さらに3週間飼育した。免疫ニワトリは麻酔下心採血にて安楽殺した。ヘパリンにより抗凝血処理した血液を3,000rpm、10分間遠心処理し、得られた血漿を-80℃で保存した。別途、ワクモ未吸血ニワトリから血液を採取してヘパリンによる抗凝血処理を行い、3,000rpm、10分間遠心処理して血漿を除去して血球成分を回収した。この血球成分と前記免疫ニワトリから調製して保存した血漿とを混合して、試験血液とした。
【実施例】
【0060】
また、同種のニワトリの腹部の羽毛を除去し、剥離した表皮をエタノール中に浸漬し4℃で保存後、エタノールをPBSに置換し、3回洗浄した後、皮下脂肪を除去し、大きな毛孔を避けて約2cm四方の大きさになるように切断して、ニワトリ表皮を調製した。
【実施例】
【0061】
2)インビトロフィーディングアッセイ
50mLチューブ内で3週間程度、飢餓状態で維持したワクモを氷上シャーレ上に開放し、動きが活発である個体をろ紙に移し、ろ紙ごとセルストレーナーキャップ付5mLラウンドチューブ(Falcon社)に移した。このとき、チューブ内のワクモの数は、第二若個体と成個体の合計が10~20匹になるようにした。ラウンドチューブの口を、上記1)で調製したニワトリ表皮で蓋をし、先端を切断加工した5mLシリンジを表皮の上からかぶせた。
【実施例】
【0062】
上記1)で調製した試験血液2mLを37℃に加温した後、シリンジに加え、チューブをやや傾けた状態でラックにたて掛け、発泡スチロール箱内に静置した。発泡スチロール箱は37℃のインキュベーター内に接地して、箱内温度35℃以上、湿度70~90%にそれぞれ保持した。このようにして、ニワトリ表皮越しに試験血液をワクモに吸血させた。
【実施例】
【0063】
静置から14時間後、試験血液を捨てシリンジのみをはずし、チューブの底を軽く叩いてニワトリ表皮に付着しているワクモを落としてからニワトリ表皮を外し、セルストレイナー付きキャップで蓋をした。吸血して腹部が赤色に変化したワクモ数を計測した後、チューブ内でワクモをさらに3週間維持した。1週目及び3週目の時点で吸血して死亡したワクモ数を計測し、吸血したワクモ全数に対する吸血して死亡したワクモ数から死亡率を算出した。その結果を図6に示す。
【実施例】
【0064】
3)ボリスブラウン種ニワトリをPNP/DO種ニワトリに代えて、上記1)及び2)と同様のワクチン効果試験を行った。ただしこの試験では、吸血終了後から14日間にわたり毎日、吸血、未吸血を問わずに死亡したワクモ数を計測し、さらに最終日にラウンドチューブに2mLのエタノールを加えてワクモを固定して、チューブ内のワクモ総数を実体顕微鏡下で数え、ワクモ総数に対する死亡ワクモ数から、各日の死亡率を算出した。その結果を図7に示す。
【実施例】
【0065】
図6及び図7に示されるように、各種の組換えタンパク質で免疫されたニワトリ血液は殺ワクモ活性を有すること、及びCatL-2で免疫されたニワトリの血液はDgFER2で免疫されたニワトリの血液よりも殺ワクモ活性が高いことが、それぞれ確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
DgCatL-2及びDgFER2はいずれもワクモの栄養分の消化・貯蔵に関わる因子であり、その機能阻害はワクモの発育や繁殖に大きな影響を与えると考えられることから、DgCatL-2、DgFER2及び/又はそれらの免疫学的等価物は、これまでに報告されていない新たな抗ワクモワクチンの候補抗原としての応用が期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6