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明細書 :免疫体質又は免疫応答型を判定するためのバイオマーカー及び免疫応答型制御剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-010346 (P2016-010346A)
公開日 平成28年1月21日(2016.1.21)
発明の名称または考案の名称 免疫体質又は免疫応答型を判定するためのバイオマーカー及び免疫応答型制御剤
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
G01N 33/50 P
A61K 31/7088
A61K 48/00
A61P 37/02
A61P 35/00
C12N 15/00 F
G01N 33/53 M
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 32
出願番号 特願2014-133367 (P2014-133367)
出願日 平成26年6月27日(2014.6.27)
発明者または考案者 【氏名】北村 秀光
【氏名】武冨 紹信
【氏名】大野 陽介
【氏名】大竹 淳矢
【氏名】寺田 聖
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
【識別番号】100160037、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 真紀
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B024
4B063
4C084
4C086
Fターム 2G045AA25
2G045DA14
4B024AA01
4B024AA11
4B024CA01
4B024CA11
4B024HA08
4B024HA11
4B024HA17
4B063QA01
4B063QQ52
4B063QQ53
4B063QR32
4B063QS25
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB07
4C086ZB26
要約 【課題】患者の免疫体質を予測することのできるバイオマーカーとなり得るマイクロRNA、患者の免疫応答の型を判定することのできるバイオマーカーとなり得るマイクロRNA、及び患者に投与することでその免疫応答を制御することのできるマイクロRNAの提供。
【解決手段】特定のマイクロRNAである、被験者の免疫体質の判定方法に用いるための又は被験者の免疫応答の型の判定方法に用いるためのバイオマーカー、これらバイオマーカーを用いて被験者の免疫体質又は被験者の免疫応答の型を判定する方法並びに免疫応答の型の判定方法に用いるためのマイクロRNAを有効成分とする免疫応答型制御剤。患者の免疫体質を予め判定することによって、又は免疫治療を実行中の患者の免疫応答を判定することによって、感染症やがんワクチン治療の効果を予見することができる他、広く免疫関連疾患の予防、改善、治療が可能となる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるマイクロRNAよりなる群から選択される1種以上のマイクロRNAである、被験者の免疫体質の判定に用いるためのバイオマーカー。
【表1】
JP2016010346A_000009t.gif
【表2】
JP2016010346A_000010t.gif

【請求項2】
被験者の免疫体質を判定する方法であって、
1)被験者から採取された試料における、請求項1に規定される表1及び/又は表2に示されるマイクロRNAの少なくとも一種以上を含む複数のマイクロRNAの発現量を測定する工程、
2)前記マイクロRNAの発現量から前記表1及び/又は表2に示されるマイクロRNAの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、及び
3)2)で算出された前記表1に示されるマイクロRNAの相対的発現量が前記表1に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh1型であると判定し、又は2)で算出された前記表2に示されるマイクロRNAの相対的発現量が前記表2に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
【請求項3】
相対的発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される、請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
表3~表6に示されるマイクロRNAよりなる群から選択される1種以上のマイクロRNAである、被験者の免疫応答の型の判定に用いるためのバイオマーカー。
【表3】
JP2016010346A_000011t.gif
【表4】
JP2016010346A_000012t.gif
【表5】
JP2016010346A_000013t.gif
【表6】
JP2016010346A_000014t.gif

【請求項5】
被験者の免疫応答の型を判定する方法であって、
1)免疫治療開始前及び開始後においてそれぞれ被験者から採取された試料における、請求項4に規定される表3、表4、表5及び/又は表6に示されるマイクロRNAよりなる群から選択される少なくとも1種以上のマイクロRNAの発現量を測定する工程、並びに
2)1)の治療開始後の発現量が、前記表3に示されるマイクロRNAについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは前記表4に示されるマイクロRNAについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh1型であると判定し、又は前記表5に示されるマイクロRNAについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは前記表6に示されるマイクロRNAについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
【請求項6】
マイクロRNAの発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される相対的発現量である、請求項5に記載の判定方法。
【請求項7】
請求項1に規定される表1及び表2並びに請求項4に規定される表3~表6に示されるマイクロRNA、前記マイクロRNAと相補的なマイクロRNA、前記マイクロRNA及び前記相補的なマイクロRNAに対する阻害性核酸並びにそれらの機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、免疫応答型制御剤。
【請求項8】
請求項7に記載の免疫応答型制御剤を含有する医薬。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体特にヒトの免疫応答の型を予測又は確認することのできるバイオマーカーとして利用可能なマイクロRNA、これらバイオマーカーを用いた免疫体質又は免疫応答型の判定方法及び前記マイクロRNAを有効成分とする免疫応答型制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの標準治療法は、化学療法、放射線治療及び外科的切除であるが、がん治療のオプションとしてがんワクチンによる免疫治療が提唱され、実用化に向けた研究が盛んに行われている。
【0003】
これまで、がんの免疫治療によって生命予後の延長といった一定の効果は散見されている。しかしながら、ワクチン投与後に誘導された抗腫瘍免疫応答が臨床効果に直接結び付かない症例や、ワクチンの頻回投与による抗腫瘍免疫応答の疲弊が生じた症例も認められており、当初期待された腫瘍の完全退縮のような治療効果は限定的である。そのため、がん免疫治療は、標準的ながん治療法に至っているとは言いがたい状況にある。
【0004】
がん免疫治療の効果が限定的であることの要因の一つとして、がん患者体内での免疫機能の低下を含む抗腫瘍免疫の不良が考えられている。例えば、がん微小環境下で産生誘導されるIL-6が樹状細胞の機能抑制をもたらしていることが指摘されている(非特許文献1)。IL-6は、樹状細胞に作用することで、MHCクラスII分子及びCD86の発現を抑制して抗原提示能を低下させると共に、ナイーブT細胞からのエフェクターT細胞であるヘルパーT細胞への分化誘導能を有するIL-12の産生も抑制するためである。
【0005】
また、免疫治療によってがんを縮退させるためには、キラーT細胞の誘導などを含むTh1型の免疫応答が持続して惹起されることが重要である。しかし、免疫治療に利用可能な腫瘍抗原は数多く提唱されている一方で、個々の患者において果たしてTh1型の免疫応答が惹起され得るかどうかを予見する有効な手段は、未だ見いだされていない。同様に、免疫治療を継続していく過程で、Th1型の免疫応答が適切に惹起されているかどうかを簡便に判定することのできる臨床学的指標又はバイオマーカーも報告されていない。
【0006】
このように、優れた効果を奏するがん免疫治療の開発には、治療前及び治療過程における、がん患者の免疫応答を予測し又は評価する標準化されたモニタリング法の開発や、臨床効果を予見し得る新規バイオバーカーの探索と同定が求められている。
【0007】
一方、様々な疾患に関連して、特異的な塩基配列を有する微小なRNA(マイクロRNA、以下、miRと表す)が注目されている。miRは20~25塩基からなる短い一本鎖RNAであり、これと相補的な配列を持つmRNAと相互作用することによって遺伝子発現及び転写調節に関与することが知られている。また最近では、血清中にもmiRが安定的に存在していることが明らかになり、各種がんの悪性度、患者の生命予後の予測に加え、HIV感染、HCV感染、関節リウマチ、薬物性肝障害、心筋梗塞や脳梗塞のバイオマーカー又は診断薬としてのmiRの利用に関する研究開発が試みられている。
【0008】
しかし、免疫治療の開始前において、患者が免疫治療を受けたときにその免疫応答がTh1型Th2型のいずれになり易いかという免疫体質を予測することのできるバイオマーカーとしてのmiRは依然として報告されていない。また、免疫治療を受けている患者の免疫応答がTh1型であるかTh2型であるかを判定することのできるバイオマーカーとしてのmiRも、依然として報告されていない。さらに、患者の免疫応答の型を制御することができるmiR又はその機能を阻害し得る核酸も報告されていない。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Naritaら、J Immunol.、2013年、第190巻、第812-820ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、患者の免疫体質を予測することのできるバイオマーカーとなり得るmiR、患者の免疫応答の型を判定することのできるバイオマーカーとなり得るmiR、及び患者に投与することでその免疫応答の型を制御することのできるmiRを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、免疫治療を受けることによってTh1型又はTh2型の免疫応答を呈するに至った患者の血清中におけるmiRの発現量を測定した結果、特定のmiRの発現パターン又はその変化を確認することで、事前に患者の免疫体質を予測し、また治療経過における免疫応答の型を簡便に判定することができること、さらにこれらmiRを用いることで免疫応答を制御することができることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0012】
(1)表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRである、被験者の免疫体質の判定に用いるためのバイオマーカー。
【0013】
【表1】
JP2016010346A_000003t.gif

【0014】
【表2】
JP2016010346A_000004t.gif

【0015】
(2)被験者の免疫体質を判定する方法であって、
1)被験者から採取された試料における、(1)に規定される表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上を含む複数のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から前記表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、及び
3)2)で算出された前記表1に示されるmiRの相対的発現量が前記表1に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh1型であると判定し、又は2)で算出された前記表2に示されるmiRの相対的発現量が前記表2に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
(3)相対的発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される、(2)に記載の判定方法。
(4)表3~表6に示されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRである、被験者の免疫応答の型の判定に用いるためのバイオマーカー。
【0016】
【表3】
JP2016010346A_000005t.gif

【0017】
【表4】
JP2016010346A_000006t.gif

【0018】
【表5】
JP2016010346A_000007t.gif

【0019】
【表6】
JP2016010346A_000008t.gif

【0020】
(5)被験者の免疫応答の型を判定する方法であって、
1)免疫治療開始前及び開始後においてそれぞれ被験者から採取された試料における、(4)に規定される表3、表4、表5及び/又は表6に示されるmiRよりなる群から選択される少なくとも1種以上のmiRの発現量を測定する工程、並びに
2)1)の治療開始後の発現量が、前記表3に示されるmiRについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは前記表4に示されるmiRについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh1型であると判定し、又は前記表5に示されるmiRについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは前記表6に示されるmiRについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
(6)miRの発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される相対的発現量である、(5)に記載の判定方法。
(7)(1)に規定される表1及び表2並びに(4)に規定される表3~表6に示されるmiR、前記miRと相補的なmiR、前記miR及び前記相補的なmiRに対する阻害性核酸並びにそれらの機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、免疫応答型制御剤。
(8)(7)に記載の免疫応答型制御剤を含有する医薬。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、患者の免疫体質を予め判定することによって、又は免疫治療を受けている患者の免疫応答の型を判定することによって、感染症やがんワクチン治療の効果を予見することができる他、免疫治療の実施によるアナフィラキシーショックや自己免疫応答などの副作用を回避することが可能となる。また、患者の免疫体質が明らかになることで、食物アレルギー応答などの回避も可能となる。さらには、本発明で特定されるmiR、これに対する阻害性核酸又はそれらの機能的等価物を医薬として利用することにより、患者の免疫応答型を制御することができ、広く免疫関連疾患の予防、改善、治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-635のIFN-γ産生促進能(左のグラフ)及びIL-5産生抑制能(中のグラフ)並びにその阻害性核酸であるmiR-635-IのIL-5産生促進能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図2】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-224-3pのIFN-γ産生促進能(左のグラフ)及びその阻害性核酸であるmiR-224-3p-IのIL-5産生促進能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図3】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-224-5pのIFN-γ産生促進能(左のグラフ)及びIL-5産生抑制能(中のグラフ)並びにその阻害性核酸であるmiR-224-5p-IのIL-5産生促進能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図4】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-4709-3pのIFN-γ産生促進能(左のグラフ)及びhsa-miR-4709-5pに対する阻害性核酸であるhsa-miR-4709-5p-IのIL-5産生促進能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図5】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-4650-5pのIL-5産生促進能(左のグラフ)並びにその阻害性核酸であるhsa-miR-4650-5p-IのIFN-γ産生促進能(中のグラフ)及びIL-5産生抑制能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図6】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-4650-3pのIL-5産生促進能(左のグラフ)並びにその阻害性核酸であるhsa-miR-4650-3p-IのIFN-γ産生促進能(中のグラフ)及びIL-5産生抑制能(右のグラフ)を表したグラフである。
【図7】ヒト末梢血細胞に対する、hsa-miR-20b-5pのIL-5産生促進能(左のグラフ)及びその阻害性核酸であるhsa-miR-20b-5p-IのIFN-γ産生促進能(右のグラフ)を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書を通じ、miRのID及びアクセション番号は、miRの配列情報等を集めたデータベースであるmiRBase(http://www.mirbase.org/)に定められたものを使用しており、各miRの塩基配列も前記データベースに全て登録されている。

【0024】
本発明にいう免疫応答の型とはTh1型又はTh2型の免疫応答をいい、またTh1型又はTh2型の免疫応答とは、生体特にヒト患者が抗原刺激を受けたときに、Th1細胞が免疫応答において優位な状態となること又はTh2細胞が免疫応答において優位な状態となることをそれぞれ意味する。また免疫体質とは、生体特にヒト患者が抗原刺激を受けたときにTh1型又はTh2型のどちらの免疫応答を示すかに関する、生体特にヒトの性質ないし傾向を意味する。

【0025】
本明細書にいう相対的発現量とは、DNAマイクロアレイを用いて測定されるmiRの発現量を比較解析方法によって補正した値を意味する。かかる方法としては、グローバルノーマライゼーション法、quantile法、lowess法、75percentile法などを挙げることができる。これらの方法は、いかなる検体であっても複数の遺伝子の発現データを一塊とし、遺伝子発現データ群としてとらえた場合には、発現量に差がないという原理を前提とするものである。本明細書においては、DNAマイクロアレイ上に搭載した全遺伝子の発現量の中央値を求め、この中央値が25になるように補正するグローバルノーマライゼーション法(例えば特開2014-007995号公報など)で算出された相対的発現量を採用して説明する。

【0026】
本発明における複数のmiRとは、上記の相対的発現量を算出することが可能な程度の数のmiRを意味し、具体的には前記試料に含まれるmiRの一部又は全部、好ましくはマイクロアレイ法によってmiRの網羅的検出又は解析を行うためのDNAチップに固定されている核酸とハイブリダイズし得る、試料に含まれるmiRの一部又は全部である。

【0027】
被験者から採取された試料としては、本発明のバイオマーカーであるmiRを含む試料であればいずれでもよいが、好ましくは血液及びリンパ液であり、血液から調製される血清又は血漿がより好ましい。

【0028】
本発明の第一の態様は、表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRである、被験者の免疫体質の判定に用いるためのバイオマーカーに関する。以下、表1及び表2に示されるmiRを免疫体質判定用バイオマーカーと表す。

【0029】
また本発明は、上記第一の態様に関連して、表1及び/又は表2に示される免疫体質判定用バイオマーカーを利用した、被験者の免疫体質を判定する方法であって、
1)被験者から採取された試料における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上を含む複数のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、及び
3)2)で算出された表1に示されるmiRの相対的発現量が表1に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh1型であると判定し、又は2)で算出された表2に示されるmiRの相対的発現量が表2に示されるそれぞれの基準相対的発現量以上であるときは被験者の免疫体質をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法を提供する。

【0030】
本発明者らは、がんワクチン投与を伴うがん免疫治療を受けた進行又は再発大腸がん患者について、治療開始前と開始後、具体的にはがんワクチンの投与直前とがんワクチンを一定間隔で繰り返し投与した後の2回にわたって血液を採取し、DNAマイクロアレイ技術を用いて血清中に含まれるmiRの発現量を網羅的に解析した。また、治療開始後の各患者におけるインターフェロン(IFN)-γ及びインターロイキン(IL)-4の発現量を測定することで、免疫治療を受けた後の患者の免疫応答の型を調べた。これらの結果から、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答又はTh2型の免疫応答を示した患者群それぞれに、特定のmiRの発現量の特徴的な変動パターンが確認された。

【0031】
表1は、上記免疫治療開始前の血清において、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、Th2型の免疫応答を示した患者群と比較して2倍以上の相対的発現量を示したmiRと治療開始前の血清中におけるその相対的発現量を示す。この相対的発現量が、本態様の方法における基準相対的発現量として用いられる。

【0032】
表1に示されるmiRは、被験者の免疫体質を判定するための、特にその被験者の免疫体質がTh1型の免疫応答を示すものであると判定するための免疫体質判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に関して、免疫治療開始前の血清における表1に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表1に示される基準相対的発現量以上であるときは、その被験者は免疫治療を受けることによってTh1型の免疫応答を示す免疫体質を有する、と判定することができる。本発明は、かかる免疫体質の判定方法も提供する。

【0033】
表2は、上記免疫治療開始前の血清において、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、Th1型の免疫応答を示した患者群と比較して2倍以上の発現量を示したmiRと治療開始前の血清中における相対的発現量を示す。この相対的発現量が、本態様の方法における基準相対的発現量として用いられる。

【0034】
表2に示されるmiRは、被験者の免疫体質を判定するための、特にその被験者の免疫体質がTh2型の免疫応答を示すものであると判定するための免疫体質判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に関して、免疫治療開始前の血清における表2に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表2に示される基準相対的発現量以上であるときは、その被験者は免疫治療を受けることによってTh2型の免疫応答を示す免疫体質を有する、と判定することができる。本発明は、かかる免疫体質の判定方法も提供する。

【0035】
表1及び表2に示される免疫体質判定用バイオマーカーであるmiRはいずれか一種を利用してもよいが、複数のmiRを利用することが好ましい。同様に、本態様の判定方法は、表1及び表2に示される免疫体質判定用バイオマーカーであるmiRのいずれか1種の相対的発現量を基に行ってもよいが、好ましくは複数のmiRの相対的発現量を基に、より好ましくはより多数のmiRの相対的発現量を基に判定することが好ましい。さらに好ましくは、表1に示されるmiR及び表2に示されるmiRのいずれについても相対的発現量を測定し、Th1型Th2型双方の視点から免疫体質を判定することが好ましい。このように、複数又は多数のmiRを対象とすることで、本発明の方法による判定の信頼性は向上する。ただし、複数のmiRを対象とした場合、必ずしも全てのmiRの相対的発現量が考慮されることは必要とはされない。

【0036】
本態様の免疫体質の判定方法により、免疫治療を実行する前に被験者の免疫体質を判定することが可能となる。これにより、治療効果が期待でき、免疫治療を受けるべき患者の判断根拠と成り得るとともに、副作用又は治療効果の観点から免疫治療を回避すべき患者を予め選別することができ、免疫治療の実施による副作用を回避することができる他、免疫治療以外の適切な治療方法を効率的に選択することが可能になる。

【0037】
本発明の第二の態様は、表3~表6に示されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRである、被験者の免疫応答の型の判定に用いるためのバイオマーカーを提供する。以下、本態様のバイオマーカーを免疫応答型判定用バイオマーカーと表す。

【0038】
また、本発明は上記第二の態様に関連して、表3~表6に示される免疫応答型判定用バイオマーカーを利用した被験者の免疫応答の型を判定する方法であって、
1)免疫治療開始前及び開始後においてそれぞれ被験者から採取された試料における、表3、表4、表5及び/又は表6に示されるmiRよりなる群から選択される少なくとも1種以上のmiRの発現量を測定する工程、並びに
2)1)の治療開始後の発現量が、表3に示されるmiRについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは表4に示されるmiRについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh1型であると判定し、又は表5に示されるmiRについては治療開始前の発現量の2倍以上であるとき及び/若しくは表6に示されるmiRについては治療開始前の発現量の1/2以下であるときは被験者の免疫応答の型をTh2型であると判定する工程
を含む、前記判定方法を提供する。

【0039】
表3は、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における発現量と比較して治療開始後の血清における発現量が2倍以上に上昇したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を示す。

【0040】
表3に示されるmiRは、被験者の免疫応答の型を判定するための、特にその被験者がTh1型の免疫応答を示していると判定するための免疫応答型判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に免疫治療を行ったときに、治療開始前後の血清における表3に示されるmiRの発現量を測定してその変動比が2倍以上となっているときは、当該被験者はTh1型の免疫応答を示していると判定することができる。本発明は、かかる免疫応答型の判定方法も提供する。

【0041】
一方、表4は、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における相対的発現量と比較して治療開始後の血清における相対的発現量が1/2以下に減少したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を示す。

【0042】
表4に示されるmiRは、被験者の免疫応答の型を判定するための、特にその被験者がTh1型の免疫応答を示していると判定するための免疫応答型判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に免疫治療を行ったときに、治療開始前後の血清における表4に示されるmiRの発現量を測定してその変動比が1/2以下となっているときは、当該被験者はTh1型の免疫応答を示していると判定することができる。

【0043】
表5は、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における発現量と比較して治療開始後の血清における発現量が2倍以上に上昇したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を示す。

【0044】
表5に示されるmiRは、被験者の免疫応答の型を判定するための、特にその被験者がTh2型の免疫応答を示していると判定するための免疫応答型判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に免疫治療を行ったときに、治療開始前後の血清における表5に示されるmiRの発現量を測定してその変動比が2倍以上となっているときは、当該被験者はTh2型の免疫応答を示していると判定することができる。

【0045】
一方、表6は、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における発現量と比較して治療開始後の血清における発現量が1/2以下に減少したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を示す。

【0046】
表6に示されるmiRは、被験者の免疫応答の型を判定するための、特にその被験者がTh2型の免疫応答を示していると判定するための免疫応答型判定用バイオマーカーとして利用することができる。具体的には、ある被験者に免疫治療を行ったときに、治療開始前後の血清における表6に示されるmiRの発現量を測定してその変動比が1/2以下となっているときは、当該被験者はTh2型の免疫応答を示していると判定することができる。

【0047】
なお、miRの発現量はRT-PCRその他の方法で測定してもよいが、表に示されるmiRと相補的に結合し得る核酸を含むいわゆるDNAマイクロアレイ用チップを用いて測定した発現量であることが好ましく、特にグローバルノーマライゼーション法によって算出される相対的発現量であることが好ましい。

【0048】
表3~表6に示される免疫応答型判定用バイオマーカーであるmiRはいずれか一種を利用してもよいが、複数のmiRを利用することが好ましい。同様に、本態様の判定方法は、表3~表6に示される免疫応答型判定用バイオマーカーであるmiRのいずれか1種の発現量を基に行ってもよいが、好ましくは複数のmiRの発現量を基に、より好ましくはより多数のmiRの発現量を基に判定することが好ましい。さらに好ましくは、表3又は表4及び表5又は表6に示されるmiRのいずれについても相対的発現量を測定し、Th1型Th2型双方の視点から免疫応答の型を判定することが好ましい。このように、複数又は多数のmiRを対象とすることで、本発明における判定の信頼性はより向上する。ただし、複数のmiRを測定対象とした場合、必ずしも全てのmiRの発現量が考慮されることは必要とはされない。

【0049】
本態様の判定方法により、免疫治療を実行する過程において被験者の免疫応答をモニタリングすることが可能となる。これにより、被験者における治療効果の確認を追跡することができ、免疫治療の継続又は中止の判断根拠の一つとすることができる。

【0050】
本発明はさらに、表1~表6に示されるmiR、前記miRと相補的なmiR、前記miR及び前記相補的なmiRに対する阻害性核酸並びにそれらの機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、免疫応答型制御剤を提供する。

【0051】
前記表1~表6に示されるmiRは、生体特にヒトが抗原刺激を受けたときに示されるTh1型又はTh2型免疫応答に関与する様々な遺伝子をターゲットとして、それらの機能発現を制御していると考えられる。かかるターゲット遺伝子は、それぞれの型の免疫応答を誘導、促進若しくは亢進したりする、又は阻害若しくは抑制したりするなどの様々な機能が想定される。

【0052】
したがって、前記表1~表6に示されるmiRを適切に選択することによって、ヒトの免疫応答をTh1型に若しくはTh2型に誘導、促進若しくは亢進したり、又はTh1型の若しくはTh2型の免疫応答を阻害若しくは抑制したりすることができると期待される。本発明にいう免疫応答の型の制御とは、免疫応答をTh1型に若しくはTh2型に誘導、促進若しくは亢進したり、又はTh1型の若しくはTh2型の免疫応答を阻害若しくは抑制したりすることを意味する。

【0053】
本発明の免疫応答型制御剤の効果は、生体にmiRを直接投与して各免疫応答が誘導される又は抑制されることを本発明の判定方法を用いて確認してもよく、また例えば末梢血単核球(PBMC)に免疫応答型制御剤であるmiRを導入して、Th1型免疫応答の指標であるIFN-γ又はTh2型免疫応答の指標であるIL-5の発現がPBMCにおいて誘導、促進、若しくは亢進される又は阻害若しくは抑制されることをもって確認してもよい。

【0054】
また、i)前記miRと相補的なmiR、すなわちmiRの塩基配列と相補的な塩基配列からなるmiR、ii)適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1~表6に示されるmiRと同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、並びにiii)表1~表6に示されるmiRの機能を阻害することのできる阻害性核酸、例えば表1~表6に示されるmiRの塩基配列を基に適宜設計することができる塩基配列を有することで表1~表6に示されるmiRの機能を実質的に阻害することができる核酸、表1~表6に示されるmiRの塩基配列を認識してその機能を阻害することができるsiRNA若しくはshRNAなどのRNA干渉誘導性核酸、又は適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1~表6に示されるmiRの機能を実質的に阻害するRNA若しくはRNA干渉誘導性核酸であるRNAを転写誘導することのできる核酸なども、本発明における免疫応答型制御剤として利用することができるものと期待される。miRとこれに相補的なmiRは、例えばmiR-4709-5pとmiR-4709-3pなどのように、miRのIDにおいて5p及び3pと表記されて区別される関係にある。

【0055】
阻害性核酸を設計及び生産する手法は当業者に広く知られている他、このような設計から生産を受託により行う会社等も多数存在する。例えばこの様な受託生産は、SIGMA-ALDRICH(http://www.sigmaaldrich.com/life-science/functional-genomics-and-rnai/mirna/microrna-mimics.html)、QIAGEN(http://www.qiagen.com/products/catalog/assay-technologies/mirna/miscript-mirna-mimics)、Applied Bioscience(https://products.appliedbiosystems.com/ab/en/US/adirect/ab?cmd=catNavigate2&catID=602400)などが行っている。このような受託先に本明細書に記載の各表中のID又はアクセッション番号から特定される塩基配列を提供すれば、阻害性核酸を入手することができる。

【0056】
さらに、表1~表6に示されるmiRを含む上記核酸の塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸も、本発明における免疫応答型制御剤に包含される。ヌクレアーゼによる分解に対する安定性を向上させるための修飾としては、2’O-メチル化、2’-F化、4’-チオ化などを挙げることができる。

【0057】
また、表1~表6に示されるmiRを含むRNA中のリボヌクレオチドの一部が、対応するデオキシリボヌクレオチド又はヌクレオチド類似体に置き換えられたキメラRNAもまた、本発明における免疫応答型制御剤に包含される。ヌクレオチド類似体としては、例えば、5位修飾ウリジン又はシチジン、例えば5‐(2‐アミノ)プロピルウリジン、5‐ブロモウリジンなど;8位修飾アデノシン又はグアノシン、例えば8‐ブロモグアノシンなど;デアザヌクレオチド、例えば7-デアザ-アデノシンなど;O-又はN-アルキル化ヌクレオチド、例えばN6-メチルアデノシンなどを挙げることができる。

【0058】
本発明では、適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1~表6に示されるmiRと同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、表1~表6に示されるmiRの塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸及びこれらのキメラRNAを、表1~表6に示されるmiRと機能的に等価な核酸又はmiRの機能的等価物と表すこととする。

【0059】
同様に、適当な発現プロモーターの支配下に置かれることで表1~表6に示されるmiRに対する阻害性核酸と同じ塩基配列からなるRNAを転写誘導することのできる核酸、表1~表6に示されるmiRに対する阻害性核酸の塩基配列の一部が修飾されてヌクレアーゼによる分解に対する安定性が高められた核酸及びこれらのキメラRNAを、表1~表6に示されるmiRに対する阻害性核酸と機能的に等価な核酸又は阻害性核酸の機能的等価物と表すこととする。

【0060】
後の実施例に示すように、Th1型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いmiRであるhsa-miR-635及びhsa-miR-224-3p、hsa-miR-224-3pに相補的なhsa-miR-224-5p、並びに同じく相対的発現量が高いhsa-miR-4709-5pに相補的なhsa-miR-4709-3pは、抗CD3抗体による刺激(抗原刺激)を受けたヒトPBMCからのIFN-γの産生を促進する効果を有している。すなわち、hsa-miR-635、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-224-3p及びhsa-miR-4709-3pは、上記PBMCに対してIFN-γ産生促進能を有し、Th1型免疫応答を誘導又は亢進する免疫応答型制御剤として利用可能である。

【0061】
特にhsa-miR-635及びhsa-miR-224-5pは、上記PBMCからのIL-5の産生を抑制する機能を有しており、Th2型免疫応答を抑制する免疫応答型制御剤としても利用可能である。

【0062】
一方で、hsa-miR-4709-5pに対する阻害性核酸(hsa-miR-4709-5p-I)、hsa-miR-635に対する阻害性核酸(hsa-miR-635-I)、hsa-miR-224-5pに対する阻害性核酸(hsa-miR-224-5p-I)、及びhsa-miR-224-3pに対する阻害性核酸(hsa-miR-224-3p-I)は、上記PBMCからのIL-5の産生を促進する効果を有しており、Th2型免疫応答を誘導又は亢進する免疫応答型制御剤として利用可能である。

【0063】
また、Th2型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いmiRであるhsa-miR-4650-5p、hsa-miR-4650-5pに相補的なhsa-miR-4650-3p、及び同じく相対的発現量が高いhsa-miR-20b-3pと相補的なhsa-miR-20b-5pは、上記PBMCからのIL-5の産生を促進する効果を有している。すなわち、hsa-miR-4650-5p、hsa-miR-4650-3p及びhsa-miR-20b-5pはIL-5産生促進能を有し、Th2型免疫応答を誘導又は亢進する免疫応答型制御剤として利用可能である。

【0064】
一方で、hsa-miR-4650-5pに対する阻害性核酸(hsa-miR-4650-5p-I)及びhsa-miR-4650-3pに対する阻害性核酸(hsa-miR-4650-3p-I)は上記PBMCからのIFN-γの産生を促進する効果及びIL-5の産生を抑制する効果を有しており、Th1型免疫応答を誘導又は亢進する又はTh2免疫応答を抑制する免疫応答型制御剤として利用可能である。さらにhsa-miR-20b-5pに対する阻害性核酸(hsa-miR-20b-5p-I)は、上記PBMCからのIFN-γの産生を促進する機能を有しており、Th1型免疫応答を誘導又は亢進する免疫応答型制御剤として利用可能である。

【0065】
本発明の免疫応答型制御剤である核酸は、化学合成技術を利用して人工的に合成することができる。核酸の化学合成方法、また非天然型の塩基の合成手法又はこれを含む核酸の合成手法としては、当業者に知られ又は周知である方法を採用することができる。またいわゆるDNAシンセサイザーなどの機器を用いることで、本発明の免疫応答型制御剤を製造してもよい。

【0066】
本発明の免疫応答型制御剤である核酸は、生体に直接投与されてもよい。また、生体から分離された免疫細胞、典型的には造血幹細胞、T細胞や樹状細胞などに適当な方法によって導入されてもよい。また、本発明の免疫応答型制御剤である核酸は、そのまま造血幹細胞、T細胞や樹状細胞などに導入されてもよく、又はこれらの細胞内で適切に所望のRNAが誘導されるように機能的に組み込まれた発現ベクターの形態で免疫担当細胞に導入されてもよい。

【0067】
発現ベクターは、転写発現を調節する任意の機能性塩基配列、例えばPol IIIプロモーターなどのプロモーター配列、オペレーター配列、エンハンサーなどをさらに含んでいてもよい。これらの機能性塩基配列は、上記核酸と機能的に連結され得る。本発明の核酸を含む発現ベクターなどの核酸構築物もまた、本発明の範囲内にある。なお、本発明において2以上の核酸を用いる場合、これらの核酸は単一の発現ベクターに組み込んでもよく、2以上のベクターに別々に組み込んでもよい。

【0068】
本発明の核酸は、任意の既知の細胞導入手法、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクターなど)を利用する方法、又はマイクロインジェクション法などを用いることによって、造血幹細胞、T細胞や樹状細胞内に導入され得る。

【0069】
発現ベクターの構築及びその造血幹細胞、T細胞や樹状細胞などへの導入を行う遺伝子工学的方法としては、当業者に公知又は周知の手法、例えばSambrookらによる「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd.edition」(1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.)その他の、当分野の教科書又はハンドブックに記載され、当業者に広く利用されている手法を挙げることができる。また市販のキットや試薬を使用するときは、当該キットや試薬の製造者が定めたプロトコル及び/又はパラメータに従うことが好ましい。

【0070】
本発明はまた、哺乳動物の免疫応答を制御する方法を提供し、具体的には、哺乳動物に有効量の本発明の免疫応答型制御剤を投与して哺乳動物の免疫応答を制御する方法を含む。

【0071】
本明細書中で用いられる「哺乳動物」の例としてはヒト、ウシ、ウマ、イヌ及びネコ等を挙げることができるが、本発明の方法は特にヒトを対象とする。

【0072】
本明細書中で用いられる「有効量」とは、哺乳動物の免疫応答を制御するのに効果的な免疫応答型制御剤の量を意味する。かかる有効量は疾患の種類、症状の重症度、患者その他の医学的要因によって適宜調節される。

【0073】
本発明の治療方法の好ましい実施形態の一つは、Th1型の免疫応答を誘導又は亢進することのできる本発明の免疫応答型制御剤の存在下で培養したヒトのがん患者由来の造血幹細胞、T細胞や樹状細胞などを当該がん患者に投与して、がん細胞に対するその患者の免疫応答をTh1型とする方法である。かかる造血幹細胞、T細胞や樹状細胞などの培養は適当ながん抗原又はがんワクチンを含む培地を用いて行われることが好ましい。また、同様の方法によって、細菌、真菌、ウイルスその他の外来生物による感染症に対する患者の免疫応答を活性化させることも可能である。

【0074】
本発明の治療方法の好ましい別の実施形態の一つは、Th1型の免疫応答を抑制する又は阻害することのできる本発明の免疫応答型制御剤をヒト患者に投与して、その患者における肝炎、自己免疫疾患を治療する方法である。本実施形態の治療方法の対象となる疾患としては、リュウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症、移植病、クローン病、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患を挙げることができる。

【0075】
本発明の治療方法のさらなる実施形態の一つは、Th2型の免疫応答を誘導又は亢進することのできる本発明の免疫応答型制御剤をヒト患者に投与して、寄生虫その他の外来生物による感染症を治療する方法である。

【0076】
本発明の治療方法のさらなる好ましい実施形態の一つは、Th2型の免疫応答を抑制する又は阻害することのできる本発明の免疫応答型制御剤をヒト患者に投与して、その患者におけるアレルギー疾患又は自己免疫疾患を治療する方法である。本実施形態の治療方法の対象となる疾患としては、花粉症、アトピー、重症薬疹などのアレルギー疾患を挙げることができる。

【0077】
本発明の免疫応答型制御剤は、薬学的に許容される賦形剤、担体その他の成分と共に医薬組成物を形成し又は製剤化して使用することが好ましい。特に、核酸製剤の調製に好適な賦形剤等の利用が好ましい。かかる医薬組成物又は製剤の形態にある免疫応答型制御剤も、本発明の免疫応答型制御剤の一態様である。

【0078】
薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十六改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。また、RNA干渉誘導性核酸などを含む製剤で利用されている各種の成分を利用することが好ましい。治療対象となる疾患に応じて、本発明の免疫応答型制御剤とその他の医薬とを併用して使用してもよい。

【0079】
本発明の免疫応答型制御剤を含む医薬組成物は、通常、注射剤、点滴剤などの非経口製剤の形態で用いられる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D-ソルビトールなどを含む等張液といった、製剤において通常用いられる水性担体が挙げられる。本発明の免疫応答型制御剤を含む医薬組成物はさらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の成分を含んでもよい。

【0080】
また、本発明の免疫応答型制御剤を含む医薬組成物は、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、マイクロスフェア及びナノスフェアなどの適切なDDSに封入及び/又は固定することもできる。

【0081】
本発明の免疫応答型制御剤を含む医薬組成物の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、腫瘍内又はその近傍への局所投与などを挙げることができる。好ましい態様の一つにおいて、本発明の免疫応答型制御剤を含む医薬組成物は、静脈内投与又は腫瘍内若しくはその近傍への局所投与により対象に投与される。

【0082】
ウイルスベクターを利用して哺乳動物の体内で本発明の核酸の発現を誘導する場合、その用量範囲は、例えば、ヒト対象1人あたり、1×10~1×1014、好ましくは1×10~1×1012、より好ましくは1×10~1×1011、最も好ましくは1×10~1×1010のプラーク形成単位(p.f.u.)であることができる。

【0083】
以下、非限定的な実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種及び属、コンストラクト並びに試薬に限定されるものではなく、これらは適宜変更することができるものであることは当業者に容易に理解されるものである。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
1)血清の調製
国際特許公開WO2009/123188号パンフレットに記載のサーバイビンヘルパーペプチドを用いたがんワクチン免疫療法の第II相臨床試験において、所定の試験プロトコルに従って前記ペプチドを大腸がん患者に投与した。治療期間1におけるペプチドワクチンの投与は初回投与、初回投与から14日後、28日後及び42日後の計4回行った。初回投与前と各回投与後14日目に患者から採血して、それぞれ常法に従って血清を調製した。また、採血された血液中の末梢血リンパ球から調製した非付着性細胞(2×10個/ウェル)と別途IL-4とGM-CSFで誘導した樹状細胞(1×10個/ウェル)とをワクチンペプチド(5μM)で2回、1週間ごとに刺激をして、2週間培養し、2週間後の段階で、誘導されたTリンパ球(5×10個/ウェル)と樹状細胞は(5×10個/ウェル)をワクチンペプチド(2μM)で再刺激した際に、培養上清中にペプチド特異的反応により産生されたIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IL-17、TNF-α、GM-CSF及びIFN-γをそれぞれ測定した。サイトカイン測定からIFN-γがIL-4に比して高産生されたTh1免疫応答を示した患者5名を選択し、それらの血清を一つに纏めて混合した。同様にIFN-γの産生に対してIL-4の産生が比較的高値のTh2免疫応答を示した患者5名分の血清を一つに纏めて混合した。尚、Th1免疫応答を示した患者5名においては、上記方法で測定されたIFN-γ濃度は、いずれも約3890pg/mL以上であった。一方、Th2免疫応答を示した患者5名においては、上記ペプチドワクチン4回投与後のIL-4濃度は、上記方法で測定した場合、いずれも約173pg/mL以上であった。
【実施例】
【0085】
2)マイクロアレイ解析
1)のTh1型の免疫応答を示した患者の血清及びTh2型の免疫応答を示した患者の血清に対して、東レ株式会社に委託して「miRNA Oligo chip」を用いたマイクロアレイ解析を行い、検出されたmiRごとの相対的発現量をグローバルノーマライゼーション法によって算出した。
【実施例】
【0086】
3)免疫体質判定用バイオマーカーの特定
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療開始前の血清において、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、Th2型の免疫応答を示した患者群と比較して2倍以上の相対的発現量を示したmiRと治療開始前の血清中におけるその相対的発現量を表1に示した。
【実施例】
【0087】
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療開始前の血清において、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、Th1型の免疫応答を示した患者群と比較して2倍以上の相対的発現量を示したmiRと治療開始前の血清中におけるその相対的発現量を表2に示した。
【実施例】
【0088】
4)免疫応答型判定用バイオマーカーの特定
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における相対的発現量と比較して4回目投与後の血清における相対的発現量が2倍以上に上昇したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を表3に示した。
【実施例】
【0089】
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療を受けることでTh1型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における相対的発現量と比較して4回目投与後の血清における相対的発現量が1/2以下に減少したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を表4に示した。
【実施例】
【0090】
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における相対的発現量と比較して4回目投与後の血清における相対的発現量が2倍以上に上昇したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を表5に示した。
【実施例】
【0091】
上記マイクロアレイの解析結果から、免疫治療を受けることでTh2型の免疫応答を示した患者群に関して、治療開始前の血清における相対的発現量と比較して4回目投与後の血清における相対的発現量が1/2以下に減少したmiRと、DNAマイクロアレイを用いて測定した発現量からグローバルノーマライゼーション法によって算出した相対的発現量を基にしたそれぞれの変動比を表6に示した。
【実施例】
【0092】
<実施例2>
表1に示されるmiRすなわちTh1型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いmiRであるhsa-miR-635及びhsa-miR-224-3p、hsa-miR-224-3pに相補的なhsa-miR-224-5p、及びそれらに対する阻害性核酸であるhsa-miR-635-I及びhsa-miR-224-3p-I、hsa-miR-224-5p-I、さらにTh1型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いhsa-miR-4709-5pに相補的なhsa-miR-4709-3p、及びhsa-miR-4709-5pに対する阻害性核酸であるhsa-miR-4709-5p-Iを化学合成した。
【実施例】
【0093】
健常ヒト末梢血から常法によって回収したPBMC(1×10個/ウェル)に、lipofectamine(登録商標)(life Technologies)を用いて、製造者のプロトコルに従って上記miR及び阻害性核酸各30pmol/ウェルをそれぞれ加えた。24時間後に抗CD2抗体、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を含むT Cell Activation/Expansion Kit(Milteny Biotec)を用いて抗原刺激をPBMCに与えた。刺激から24時間又は48時間後に培養上清を回収し、human IFN-γ BD OptEIA set及びhuman IL-5 BD OptEIA set(いずれもBD Bioscience pharmingen)を用いて、IFN-γ及びIL-5のELISAによる定量を行った。その結果を図1~図4に示す。
【実施例】
【0094】
図1~4に示されるように、hsa-miR-635、hsa-miR-224-3p、hsa-miR-224-5p及びhsa-miR-4709-3pは、抗原刺激を受けたPBMCに対してIFN-γ産生促進能を有することが確認された。また、hsa-miR-635及びmiR-224-5pは、上記PBMCからのIL-5の産生を抑制する機能を有していることが確認された。
【実施例】
【0095】
一方、hsa-miR-635-I、hsa-miR-224-3p-I、hsa-miR-224-5p-I及びhsa-miR-4709-5p-Iは、上記PBMCからのIL-5の産生を促進する効果を有していることが確認された。
【実施例】
【0096】
<実施例3>
表2に示されるmiRすなわちTh2型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いmiRであるhsa-miR-4650-5p、hsa-miR-4650-5pに相補的なhsa-miR-4650-3p、及びこれらに対する阻害性核酸であるhsa-miR-4650-5p-I、hsa-miR-4650-3p-I、さらにTh2型の免疫応答を示す免疫体質を有する被験者において優位に相対的発現量が高いhsa-miR-20b-3pに相補的なhsa-miR-20b-5p及びこれに対する阻害性核酸であるhsa-miR-20b-5p-Iを化学合成し、実施例1と同様にPBMCに導入し、IFN-γ及びIL-5を定量した。その結果を図5~図7に示す。
【実施例】
【0097】
図5~図7に示されるように、hsa-miR-4650-5p、hsa-miR-4650-3p及びmiR-20b-5pは、抗原刺激を受けたPBMCに対してIL-5産生促進能を有することが確認された。
【実施例】
【0098】
一方、hsa-miR-4650-5p-I、hsa-miR-4650-3p-I、及びhsa-miR-20b-5p-Iは、上記PBMCからのIFN-γの産生を促進する効果を有していることが確認された。さらにhsa-miR-4650-5p-I及びhsa-miR-4650-3p-Iは、上記PBMCからのIL-5産生を抑制する機能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のバイオマーカーを用いることで、患者の免疫体質の予測又は免疫治療を実行中の患者の免疫応答の型の判定が可能となり、感染症やがんワクチン治療の効果の予測に用いるコンパニオン診断薬として有用である。また、免疫治療の実施によるアナフィラキシーショックや自己免疫応答などの副作用の回避、食物アレルギー応答などの回避などを行うことも可能となる。さらに、本発明で特定されるmiR、これに対する阻害性核酸又はそれらの機能的等価物を免疫応答型制御剤として利用することができる。このように、本発明のバイオマーカー、判定方法及び免疫応答型制御剤は、免疫関連疾患の予防、改善、治療分野において有用である。

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6