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明細書 :がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定するためのバイオマーカー、抗がん剤を選択するためのコンパニオン診断薬並びに抗がん剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6548184号 (P6548184)
公開番号 特開2016-158525 (P2016-158525A)
登録日 令和元年7月5日(2019.7.5)
発行日 令和元年7月24日(2019.7.24)
公開日 平成28年9月5日(2016.9.5)
発明の名称または考案の名称 がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定するためのバイオマーカー、抗がん剤を選択するためのコンパニオン診断薬並びに抗がん剤
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P   1/00        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
FI C12Q 1/68
G01N 33/53 M
G01N 33/53 P
G01N 33/574 Z
A61P 35/00
A61K 48/00
A61P 1/00
A61K 31/7105
請求項の数または発明の数 7
全頁数 23
出願番号 特願2015-038360 (P2015-038360)
出願日 平成27年2月27日(2015.2.27)
審査請求日 平成30年2月26日(2018.2.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】北村 秀光
【氏名】武冨 紹信
【氏名】大野 陽介
【氏名】大竹 淳矢
個別代理人の代理人 【識別番号】110002480、【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
【識別番号】100160037、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 真紀
審査官 【審査官】堂畑 厚志
参考文献・文献 特開2008-239596(JP,A)
国際公開第2014/192907(WO,A1)
特表2009-531019(JP,A)
Oncogene,2015年,vol. 34,p. 4142-4152
J. Natl. Cancer Inst.,2013年 5月23日,vol. 105,p. 849-859
Int. J. Colorectal Dis.,2010年,vol. 25,p. 135-140
the Journal of Clinical Investigation,2014年,vol. 124, no. 4,p. 1853-1867
J. Gastrointestin Liver Dis.,2013年,vol. 22, no. 3,p. 311-320
調査した分野 C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
大腸がんの悪性度及び/又は予後を判定する方法であって、
1)判定対象の大腸がん患者から採取された血液における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
【表1】
JP0006548184B2_000006t.gif
【表2】
JP0006548184B2_000007t.gif
2)前記miRの発現量から前記表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)判定対象の大腸がん患者における前記表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は判定対象の大腸がん患者における前記表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、判定対象の大腸がん患者における大腸がんの悪性度が高い及び/又は予後が不良であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
【請求項2】
相対的発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
大腸がんに対する抗がん剤治療の有効性を判定する方法であって、
1)抗がん剤治療を受けた大腸がん患者から採取された血液における、請求項1に記載の表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から前記表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)抗がん剤治療を受けた大腸がん患者における前記表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は抗がん剤治療を受けた大腸がん患者における前記表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、抗がん剤治療が有効でないと判定する工程
を含む、前記判定方法。
【請求項4】
相対的発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される、請求項3に記載の判定方法。
【請求項5】
アクセッション番号がMIMAT0019810であるhsa-miR-4708-3pに対する阻害性核酸及びその機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、大腸がんに対する抗がん剤。
【請求項6】
請求項5に記載の抗がん剤を含有する医薬。
【請求項7】
大腸がん患者への請求項5に記載の抗がん剤の投与の適否を判定する方法であって、
1)判定対象の大腸がん患者から採取された血液における、hsa-miR-4708-3pの発現量を測定する工程、
2)前記発現量から相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出された相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者におけるhsa-miR-4708-3pの相対的発現量と比較する工程、及び
4)判定対象の大腸がん患者における相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合に、判定対象の大腸がん患者は前記抗がん剤の投与が有効であると判定する工程を含む、前記判定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定するためのバイオマーカーであるマイクロRNA、これらバイオマーカーを用いたがんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定する方法、前記マイクロRNA又はこれに対する阻害性核酸を有効成分とする抗がん剤、並びに抗がん剤を選択するための前記マイクロRNAを含むコンパニオン診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾患に関連して、特異的な塩基配列を有する微小なRNA(マイクロRNA、以下、miRと表す)が注目されている。miRは、ゲノムDNAから数百~数千塩基程度の長さの一次転写物(プライマリmiR、pri-miR)として転写された後、Droshaによるプロセッシングを受けて約60~70塩基程度のヘアピン構造を有するプレカーサーmiR(pre-miR)となり、さらにDicerによるプロセッシングを受けて20~25塩基程度の二本鎖成熟miRとなる。以下、本明細書では、単にmiRと表したときはこの二本鎖成熟miRを指す。
【0003】
miRは、多くの場合それぞれpre-miRNAのヘアピンを挟んだ2つのステム部分に由来し、5’末端側に-5p、また3’末端側に-3pという符号が付けられる。
【0004】
miRは、その一方のRNA鎖が標的遺伝子のmRNAに作用して標的遺伝子にコードされるタンパク質の発現を阻害することで、遺伝子発現及び転写調節に関与すると考えられている。最近では、血液中にもmiRが安定的に存在していることが明らかになり、各種がんの悪性度、患者の生命予後の判定への利用に加え、HIV感染、HCV感染、関節リウマチ、薬物性肝障害、心筋梗塞や脳梗塞のバイオマーカー又は診断薬としてのmiRの利用に関する研究開発が試みられている(例えば非特許文献1)。
【0005】
一方、がん患者の血液中のインターロイキン6(IL-6)の発現レベルが、がんの悪性度、がんの予後及び抗がん剤の投与による治療(以下、抗がん剤治療と表す)の有効性と相関することが、幾つかの研究により明らかにされている。具体的には、血液中のIL-6の発現レベルが高いがん患者については、がんの悪性度は高く、予後も不良で、抗がん剤治療の有効性も低いと報告されている(例えば非特許文献2~5)。
【0006】
しかし、がん患者の血液中のIL-6の発現レベルに関連したmiRの発現プロファイルに関する報告はなく、かかるmiRのがんの悪性度、予後及び/若しくは抗がん剤治療の有効性を判定するための利用又は適切な抗がん剤を選択するためのコンパニオン診断薬としての利用、あるいはかかるmiR自身又はその阻害性核酸の抗がん剤としての利用に関する報告はない。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Toiyamaら、J.Natl.Can.Inst.、2013年、第105巻、第12号、第849-859ページ
【非特許文献2】Knupferら、Int.J.Colorectal Dis.、2010年、第25巻、第135-140ページ
【非特許文献3】Mitsunagaら、Br.J.Cancer、2013年、第108巻、第2063-2069ページ
【非特許文献4】Guptaら、Int.J.Surg.、2012年、第10巻、第638-640ページ
【非特許文献5】Yoshitomiら、Exp.Ther.Med.、2012年、第3巻、第463-469ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、がん患者の血液中のIL-6の発現レベルと共に又はこれに代わって利用可能な、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性の判定のためのバイオマーカー、前記miRを用いたがんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定する方法、並びに前記miRを含むコンパニオン診断薬又は抗がん剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、血液中のIL-6の発現レベルが高いがん患者の血液中のmiRを網羅的に解析し、幾つかのmiRの発現レベルが上昇又は低下することを見いだし、下記の各発明を完成させた。
(1)表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRである、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定するためのバイオマーカー。
【表1】
JP0006548184B2_000002t.gif
【表2】
JP0006548184B2_000003t.gif
(2)がんが大腸がんである、(1)に記載のバイオマーカー。
(3)がん患者におけるがんの悪性度及び/又は予後を判定する方法であって、
1)判定対象のがん患者から採取された血液における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)判定対象のがん患者における表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は判定対象のがん患者における表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、判定対象のがん患者におけるがんの悪性度が高い及び/又は予後が不良であると判定する工程
を含む、前記判定方法。
(4)相対的発現量がグローバルノーマライゼーション法によって算出される、(3)に記載の判定方法。
(5)がんが大腸がんである、(3)又は(4)に記載の判定方法。
(6)がん患者における抗がん剤治療の有効性を判定する方法であって、
1)抗がん剤治療を受けたがん患者から採取された血液における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)抗がん剤治療を受けたがん患者における表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は抗がん剤治療を受けたがん患者における表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、抗がん剤治療が有効でないと判定する工程
を含む、前記判定方法。
(7)表1に示されるmiRに対する阻害性核酸、その機能的等価物、表2に示されるmiR及びその機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも一種以上の核酸を有効成分とする、抗がん剤。
(8)がんが大腸がんである、(7)に記載の抗がん剤。
(9)(7)又は(8)に記載の抗がん剤を含有する医薬。
(10)表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRを含む、がん治療のためのコンパニオン診断薬。
(11)(7)又は(8)に記載の抗がん剤の投与対象となる患者を選定するための、(10)に記載のコンパニオン診断薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、がん患者の血液中のIL-6の発現レベルと共に又はこれに代えて、血液中のIL-6の発現レベルに関連したmiRを測定することで、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を、がん患者の免疫体質又は免疫状態をも考慮した形で判定することができる。さらには、本発明で特定されるmiR、これに対する阻害性核酸又はそれらの機能的等価物は、がん細胞内に導入されることでがん細胞の増殖を抑制することができ、いずれも抗がん剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である大腸がん患者の血液における各miRのグローバルノーマライゼーション値、及び血液中のIL-6の発現レベルが高い大腸がん患者の血液における各miRのグローバルノーマライゼーション値を二次元にプロットした図である。
【図2】血液中のIL-6の発現レベルが高い患者一名及び血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である患者一名の各血液におけるhsa-miR-4708-3pの相対的発現量を示すグラフである。
【図3】血液中のIL-6の発現レベルが高い患者一名及び血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である患者一名の各血液におけるhsa-miR-4319の相対的発現量を示すグラフである。
【図4】血液中のIL-6の発現レベルが高い患者一名及び血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下である患者一名の各血液におけるhsa-miR-1538の相対的発現量を示すグラフである。
【図5】hsa-miR-4708-3pに対する阻害性核酸をヒト大腸がん細胞株DLD-1に導入したときの、同細胞の生存率(Viability)を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<定義>
本明細書を通じ、miRのID及びアクセション番号は、miRの配列情報等を集めたデータベースであるmiRBase(http://www.mirbase.org/)に定められたものが使用される。各miRの塩基配列は、前記データベースに登録されているとおりである。

【0013】
本明細書における血液は、末梢血、末梢血から常法によって調製される血清及び血漿と交換可能に用いられる。例えば、血液中の発現レベルは、末梢血の発現レベル、血清中の発現レベル又は血漿中の発現レベルを意味する。本発明において好ましい態様は血清である。

【0014】
血液中のIL-6の発現レベルが高いとは、例えばBD Bioscience社製のBD OptEIATM Human IL-6 ELISA Setその他のIL-6測定用試薬を用いた免疫学的測定法において陽性と判定される程度以上にIL-6が発現していることを意味し、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるとは、上記の免疫学的測定法においてIL-6の発現量が検出できない又は実質的に発現しているとは言えないレベル以下であることを意味する。なお、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であることを血液中のIL-6の発現レベルが低いと表すこともある。

【0015】
本明細書にいう相対的発現量とは、miRの発現量を比較解析方法によって補正した値を意味する。かかる方法としては、グローバルノーマライゼーション法、quantile法、lowess法、75percentile法などを挙げることができる。これらの方法は、いかなる検体であっても複数の遺伝子の発現データを一塊とし、遺伝子発現データ群としてとらえた場合には、発現量に差がないという原理を前提とするものである。

【0016】
相対的発現量は、定量PCRで測定した結果から算出してもよい。例えば、被験者から採取した血液サンプルについて、市販の定量PCRキットを使用して本発明にかかるmiR及び各キットで標準として使用されるコントロールsmallRNAをそれぞれ定量し、各miR発現量をコントロールsmallRNAについて標準化することで、相対的発現量を算出してもよい。

【0017】
miRの発現量は、便宜上、本明細書においては、DNAマイクロアレイ上に搭載した全遺伝子の発現量の中央値を求め、この中央値が25になるように補正するグローバルノーマライゼーション法(例えば特開2014-007995号公報など)で算出された相対的発現量を採用して説明する。

【0018】
がんの悪性度とは、がんとしての性質(たち)の悪さ、増殖・転移・再発しやすさの程度を意味する。例えば、がん細胞の増殖又は腫瘍の成長が早い、転移しやすい又は再発しやすい場合には、がんの悪性度は高いなどと表される。またがんの予後とは、がんに罹患した後の、とくに何らかの治療的処置が行われた後のがんの進行又は治療効果などの医学的な経過についての見通しを意味する。例えば、がんが進行しない、がんの進行が遅い、治療効果が期待できる又は認められる場合には予後は良好であるなどと表され、がんが進行する、がんの進行が早い、治療効果が期待できない又は認められない場合には予後は不良であるなどと表される。なお、本明細書においては、がん、腫瘍及び悪性腫瘍はいずれも交換可能に用いられる。

【0019】
一般に、悪性度の高いがんに関する予後は不良であり、また悪性度の低いがんに関する予後は良好であるという相関が経験的に認められている。本発明においても、「悪性度が高い」は予後が不良であると、また「悪性度が低い」は予後が良好であると、それぞれ交換可能に用いられる。

【0020】
本発明において、抗がん剤は、制がん剤、抗がん作用を示す化合物その他のがんの治療に有効な物質を含む。

【0021】
本発明における複数のmiRとは、表1又は表2に示されるmiRの2種以上、好ましくは5種以上、より好ましくは10種以上、さらに好ましくは20種以上のmiRをいう。

【0022】
本発明の第一の態様は、表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRである、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定するためのバイオマーカーに関する。

【0023】
また本発明の第二の態様は、上記第一の態様に関連して、被験者におけるがんの悪性度及び/又は予後を判定する方法であって、
1)判定対象のがん患者から採取された血液における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)判定対象のがん患者における表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は判定対象のがん患者における表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、判定対象のがん患者におけるがんの悪性度が高い及び/又は予後が不良であると判定する工程を含む、前記判定方法に関する。

【0024】
さらに本発明の第三の態様は、がん患者に対する抗がん剤治療の有効性を判定する方法であって、
1)抗がん剤治療を受けたがん患者から採取された血液における、表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上のmiRの発現量を測定する工程、
2)前記miRの発現量から表1及び/又は表2に示されるmiRの少なくとも一種以上の相対的発現量を算出する工程、
3)2)で算出されたmiRの相対的発現量を、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量と比較する工程、並びに
4)抗がん剤治療を受けたがん患者における表1に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して2倍以上である場合、及び/又は抗がん剤治療を受けたがん患者における表2に示されるmiRの相対的発現量が、血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者における相対的発現量に対して1/2以下である場合に、抗がん剤治療が有効でないと判定する工程を含む、前記判定方法に関する。

【0025】
本発明者らは、大腸がん患者の血液中のIL-6の発現レベルを測定するとともに、IL-6の発現レベルが高い患者群とIL-6の発現レベルが低い患者群それぞれについてDNAマイクロアレイ技術を用いて、血液中に含まれるmiRの発現量を網羅的に解析した。その結果、IL-6の発現レベルの高低に相関した、特徴的なmiRの発現変動パターンが確認された。

【0026】
表1に示されるmiRは、血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して、血液中のIL-6発現レベルが高い大腸がん患者の血液における相対的発現量が2倍以上であるmiRである。また表2に示されるmiRは、血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して、血液中のIL-6発現レベルが高い大腸がん患者の血液における相対的発現量が1/2倍以下であるmiRである。なお、1/2倍以下には、実質的に0、すなわちmiRの発現が検出できない場合も含まれる。

【0027】
先に言及したように、血液中のIL-6の発現レベルの高低とがんの悪性度、予後及び抗がん剤治療の有効性との間には、例えば血液中のIL-6の発現レベルが高いときは、がんの悪性度は高い、予後は不良である、又は抗がん剤治療の有効性は低い等の相関が認められている。したがって、表1及び表2に示されるmiRの相対的発現量はいずれも、血液中のIL-6の発現レベルの確認と共に又はこれに代えて、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性の判定に利用することができる。

【0028】
具体的には、あるがん患者の血液における表1に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して2倍以上であるときは、そのがん患者のがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。また、あるがん患者の血液における表2に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して1/2以下であるときは、その被験者にかかるがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。

【0029】
また、あるがん患者の血液における表1に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表3に示される血液中のIL-6の発現レベルが高い患者における相対的発現量(表中のIL-6高値患者における相対的発現量)と実質的に同じかそれ以上であるときは、そのがん患者のがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。同様に、あるがん患者の血液における表2に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表4に示される血液中のIL-6の発現レベルが高い患者における相対的発現量(表中のIL-6高値患者における相対的発現量)と実質的に同じかそれ以下であるときは、そのがん患者のがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。ここで表3は、表1の各miRについて血液中のIL-6の発現レベルが高い患者及びIL-6の発現レベルが検出限界以下である患者の各混合血液における相対的発現量を表した表であり、表4は表2の各miRについて血液中のIL-6の発現レベルが高い患者及びIL-6の発現レベルが検出限界以下である患者の各混合血液における相対的発現量を表した表である。

【0030】
【表3】
JP0006548184B2_000004t.gif

【0031】
【表4】
JP0006548184B2_000005t.gif

【0032】
さらに、あるがん患者の血液における表1に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表3に示される血液中のIL-6の発現レベルが低い患者における相対的発現量(表中のIL-6低値患者における相対的発現量)の2倍以上であるときは、そのがん患者のがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。同様に、あるがん患者の血液における表2に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が表4に示される血液中のIL-6の発現レベルが低い患者における相対的発現量(表中のIL-6低値患者における相対的発現量)の1/2以下であるときは、そのがん患者のがんの悪性度は高い又はその予後は不良である、と判定することができる。

【0033】
同様に、抗がん剤治療を受けているがん患者の血液における表1に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6の発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して2倍以上であるときは、その被験者に対してその抗がん剤治療の有効性はない又は低い、と判定することができる。また、抗がん剤治療を受けているがん患者の血液における表2に示されるmiRの少なくとも1種以上の相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して1/2以下であるときは、その被験者に対してその抗がん剤治療の有効性はない又は低い、と判定することができる。

【0034】
また、抗がん剤治療の有効性の判定においても、がんの悪性度及び/又は予後の判定と同様に、表3及び表4における各miRの血液中のIL-6の発現レベルが高い患者の相対的発現量又は血液中のIL-6の発現レベルが低い患者の相対的発現量に基づいても、判定することができる。

【0035】
前記第一の態様において、表1~表4に示されるバイオマーカーであるmiRはいずれか一種を単独で利用してもよいが、複数のmiRを利用することが好ましい。同様に、前記第二~第三の態様において、表1~表4に示されるバイオマーカーであるmiRのいずれか1種の相対的発現量を単独で利用してもよいが、好ましくは複数のmiRの相対的発現量を利用して判定することが好ましい。さらに好ましくは、表1又は表3に示される複数のmiR及び表2又は表4に示される複数のmiRの相対的発現量を利用して判定することが好ましい。このように、複数のmiRを対象とすることで、本発明の方法による判定の信頼性は向上する。ただし、複数のmiRを対象とした場合、必ずしも全てのmiRの相対的発現量の結果を全て反映させて判定することは必要とはされない。

【0036】
本発明の第四の態様は、表1に示されるmiRに対する阻害性核酸、その機能的等価物、表2に示されるmiR及びその機能的等価物よりなる群から選択される少なくとも1種以上の核酸を有効成分とする抗がん剤である。

【0037】
先に言及したように、悪性度の高い又は予後が不良であるがんに関連して、表1に示されるmiRは相対的発現量が上昇するmiRであり、表2に示されるmiRは相対的発現量が低下するmiRである。したがって、表1に示されるmiRの機能を阻害することのできる核酸、その機能的等価物、表2に示されるmiR又はこれらの機能的等価物は、がん患者に投与されることにより抗腫瘍効果が発揮させることができる、すなわち抗がん剤として利用することができると期待される。後の実施例に示すように、表1に示されるhsa-miR-4708-3pに対する阻害性核酸は、がん細胞株に導入されることでそのがん細胞株の生存率を低下させる、すなわちがん細胞を死滅させる活性を有している。

【0038】
本発明における抗腫瘍効果とは、がん細胞を死滅させる、がん細胞の増殖を抑制する、がん細胞の薬剤感受性を高める、腫瘍を縮退させる又は腫瘍の成長を抑制する効果を意味する。がん細胞に対する効果は、本発明の抗がん剤を適当な培地中のがん細胞に適用し、好ましくはがん細胞内に導入することで、がん細胞の増殖が抑制される又はがん細胞が死滅することを、公知の細胞増殖アッセイ又は細胞生存率アッセイを用いて確認することができる。腫瘍に対する効果は、適当な担がんモデル動物の体内に好ましくは腫瘍に直接投与することで、腫瘍の成長の抑制又は縮退を公知の方法で観察することで確認することができる。

【0039】
miRに対する阻害性核酸を設計及び生産する手法は、当業者に広く知られている。また、このような阻害性核酸の設計から生産を受託により行う会社等も多数存在する。例えばこの様な受託生産は、SIGMA-ALDRICH(http://www.sigmaaldrich.com/life-science/functional-genomics-and-rnai/mirna/microrna-mimics.html)、QIAGEN(http://www.qiagen.com/products/catalog/assay-technologies/mirna/miscript-mirna-mimics)、Applied Bioscience(https://products.appliedbiosystems.com/ab/en/US/adirect/ab?cmd=catNavigate2&catID=602400)などが行っている。このような受託先に本明細書に記載の各表中のID又はアクセッション番号から特定される塩基配列を提供すれば、阻害性核酸を入手することができる。なお、miRの塩基配列に相補する塩基配列からなる核酸は、阻害性核酸の一例である。

【0040】
本発明における機能的等価物とは、表1のmiRに対する阻害性核酸及び表2に示されるmiR(以下、これらをmiRsと表す)に関連して、下記のいずれかの核酸を意味する。
a)miRsの各塩基配列と少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を示す塩基配列からなり、かつ抗腫瘍効果を有するRNA、
b)生体内においてmiRs又はa)のRNAを産生することができる核酸、
c)miRs、a)又はb)のRNAの塩基配列において一部の塩基がデオキシリボヌクレオチドに置き換えられたキメラ核酸であって、かつ抗腫瘍効果を有する核酸、
d)miRs又はa)~c)のRNA若しくは核酸とこれに相補するDNA鎖又はRNA鎖とのハイブリッド核酸であって、かつ抗腫瘍効果を有する核酸、又は
e)miRs又はa)~d)のRNA若しくは核酸の塩基配列の一部が修飾された又は非天然塩基によって置換された塩基配列からなり、かつ抗腫瘍効果を有する核酸。

【0041】
a)のRNAは、miRsのいずれかの塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失又は置換されており、あるいは1若しくは数個の塩基が挿入されており、miRsの塩基配列に対して少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を示す塩基配列からなり、かつ抗腫瘍効果を有するRNAである。

【0042】
「同一性」とは、当該技術分野において公知のアルゴリズムを用いて算出される最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方若しくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全ヌクレオチド残基に対する、同一ヌクレオチド残基の割合(%)を意味する。

【0043】
同一性は例えば、NCBI BLAST-2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(ギャップオープン=5ペナルティ;ギャップエクステンション=2ペナルティ;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON)にて2つのヌクレオチド配列をアラインすることにより、計算することができる。

【0044】
b)の生体内においてmiRs又はa)のRNAを産生することができる核酸の一つの例は、miRs又はa)のRNAに対するpri-miR若しくはpre-miRに相当するRNAである。かかるRNAは細胞内においてDrosha及び/又はDicerによってプロセッシングされ、最終的にmiRs又はa)のRNAを産生することができる。なお、2以上のmiRs又はa)のRNAが連結された塩基配列からなり、プロセッシングによって2以上のmiRs又はa)のRNAが同時に産生されるRNAも含まれる。

【0045】
b)の生体内においてmiRs又はa)のRNAを産生することができる核酸の他の例は、miRs、a)のRNA又はそれらのpri-miR若しくはpre-miRに相当するRNAを転写誘導することができるDNAである。

【0046】
b)のDNAは、制御可能な適当な発現プロモーター配列、特にがん細胞の中で高い発現誘導能を有するプロモーター配列の支配下に置かれることが好ましい。かかるDNAががん細胞内に導入されることで、miRs、a)のRNA又はそれらのpri-miR若しくはpre-miRに相当するRNAが転写発現され、さらにこれらがプロセッシングされることで、最終的にmiRs又は上記a)のRNAが産生される。なお2以上のmiRs又はa)のRNAが連結された塩基配列からなるRNAを転写誘導することができ、プロセッシングによって2以上のmiRs又はa)のRNAを同時に産生することができるDNAも含まれる。

【0047】
b)のDNAは、前記プロモーター配列を含む発現ベクターの形態であることが好ましい。発現ベクターは、プロモーター配列の他に、転写発現を調節する任意の機能性塩基配列、例えばオペレーター配列、エンハンサーなどをさらに含んでいてもよい。これらの機能性塩基配列は、上記DNAと機能的に連結され得る。

【0048】
発現ベクターの構築方法としては、当業者に公知又は周知の手法、例えばSambrookらによる「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd.edition」(1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.)その他の、当分野の教科書又はハンドブックに記載され、当業者に広く利用されている手法を挙げることができる。また市販のキットや試薬を使用するときは、当該キットや試薬の製造者が定めたプロトコル及び/又はパラメータに従うことが好ましい。

【0049】
c)のキメラ核酸は、miRs、a)又はb)のRNAの一部の塩基が対応するデオキシリボヌクレオチドに置き換えられた核酸であって、かつ抗腫瘍効果を有する核酸である。

【0050】
d)のハイブリッド核酸は、RNA鎖及びDNA鎖からなる二本鎖又は三本鎖の核酸であって、少なくとも一の鎖の塩基配列がmiRs又はa)~c)のRNAに相当する塩基配列からなる核酸をいう。

【0051】
e)のmiRs又はa)~d)のRNA若しくは核酸の塩基配列の一部が修飾された又は非天然塩基によって置換された塩基配列からなり、かつ抗腫瘍効果を有する核酸の例としては、miRs若しくはa~d)のRNAの塩基配列の一部がヌクレアーゼによる分解に対する安定性を向上させることのできる修飾を受けたRNA、又はmiRs若しくはa)~d)のRNAの塩基配列の一部がヌクレアーゼによる分解に耐性を示す非天然塩基に置換されたRNAを挙げることができる。

【0052】
ヌクレアーゼによる分解に対する安定性を向上させるための修飾としては、2’O-メチル化、2’-F化、4’-チオ化などを挙げることができる。また、リン酸部分やヒドロキシル部分がビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等によって修飾されたものであってもよい。

【0053】
ヌクレアーゼによる分解に耐性を示す非天然塩基としては、例えば5‐(2‐アミノ)プロピルウリジン又は5‐ブロモウリジンなどの5位修飾ウリジン又はシチジン、例えば8‐ブロモグアノシンなどの8位修飾アデノシン又はグアノシン、例えば7-デアザ-アデノシンなどのデアザヌクレオチド、例えばN6-メチルアデノシンなどのO-又はN-アルキル化ヌクレオチドを挙げることができるが、これらには限定されない。

【0054】
修飾される又は置換される塩基の種類又は個数は、抗腫瘍効果を失わない限り、特に制限は無い。

【0055】
本発明の抗がん剤の有効成分となるmiRs又はそれらの機能的等価物である核酸は、その機能を妨げない限りにおいて、5’又は3’末端に付加的な塩基を有していてもよい。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0056】
本発明の抗がん剤の有効成分となるmiRs又はそれらの機能的等価物である核酸は、遺伝子組み換え技術又は化学合成技術を利用して人工的に合成することができる。遺伝子組み換え方法、核酸の化学合成方法、また非天然型の塩基の合成手法又はこれを含む核酸の合成手法としては、当業者に知られ又は周知である方法を採用することができる。またいわゆるDNAシンセサイザーなどの機器を用いることで、核酸を合成してもよい。

【0057】
本発明の抗がん剤の有効成分となるmiRs又はそれらの機能的等価物はそのまま生体に投与されてもよいが、腫瘍に対して選択的に投与される方法、特に腫瘍中の細胞内に導入することができる方法により投与されることが好ましい。かかる目的において、本発明の抗がん剤は、核酸導入用試薬と組み合わせて使用されることが好ましい。該核酸導入用試薬の例としては、アテロコラーゲン、リポソーム、ナノパーティクル、リポフェクチン、リポフェクタミン、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質等を挙げることができる。また、適当なウイルスベクターを用いて腫瘍中の細胞内に導入してもよい。

【0058】
本発明の抗がん剤は、薬学的に許容される賦形剤、担体その他の成分と共に医薬、特に医薬組成物を形成し又は製剤化して使用することができる。特に、核酸製剤の調製に好適な賦形剤等の利用が好ましい。かかる医薬も、本発明の一態様である。

【0059】
薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十六改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。また、RNA干渉誘導性核酸などを含む製剤で利用されている各種の成分を利用することが好ましい。治療対象となる疾患に応じて、本発明の抗がん剤とその他の医薬とを併用して使用してもよい。

【0060】
本発明の抗がん剤を含む医薬は、通常、注射剤、点滴剤などの非経口製剤の形態で用いられる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖、D-ソルビトールなどを含む等張液といった、製剤において通常用いられる水性担体が挙げられる。本発明の抗がん剤を含む医薬はさらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤その他の成分を含んでもよい。

【0061】
また、本発明の抗がん剤を含む医薬は、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、マイクロスフェア及びナノスフェアなどの適切なDDSに封入及び/又は固定することもできる。

【0062】
本発明の抗がん剤又はこれを含む医薬の投与方法は特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、腫瘍内又はその近傍への局所投与などを挙げることができる。好ましい態様の一つにおいて、本発明の抗がん剤又はこれを含む医薬は、静脈内投与又は腫瘍内若しくはその近傍への局所投与により対象に投与される。

【0063】
ウイルスベクターを利用して哺乳動物の体内で本発明の抗がん剤の発現を誘導する場合、その用量範囲は、例えば、ヒト対象1人あたり、1×10~1×1014、好ましくは1×10~1×1012、より好ましくは1×10~1×1011、最も好ましくは1×10~1×1010のプラーク形成単位(p.f.u.)であることができる。

【0064】
本発明の第五の態様は、表1及び表2に示されるID及びアクセッション番号で特定されるmiRよりなる群から選択される1種以上のmiRを含む、がん治療のためのコンパニオン診断薬である。特に好ましい態様は、本発明の第四の態様である抗がん剤の投与対象となる患者を選定するためのコンパニオン診断薬である。

【0065】
本発明の第一の態様により表1及び/又は表2に示されるmiRの発現パターンを確認することで、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性を判定することができること、並びにかかるmiRの発現パターン及びがんの悪性度、予後及び抗がん剤治療の有効性と血液中のIL-6の発現レベル、具体的には血液中のIL-6の発現レベルが高いこととの間には相関があることは先に説明したとおりである。したがって、表1又は表2に示されるmiRは、血液中のIL-6の発現レベルが高いことを判定するために有用であり、例えば登録商標アクテラム(一般名トリシズマブ)などの抗IL-6抗体の投与の適否を判定するためのコンパニオン診断薬として利用することができる。

【0066】
また表1又は表2に示されるmiRは、本発明の抗がん剤すなわち表1に示されるmiRに対する阻害性核酸又はその機能的等価物である抗がん剤又は表2に示されるmiR又はその機能的等価物である抗がん剤の投与が有効であり得るか否かを判定するためのコンパニオン診断薬としても利用することができる。

【0067】
具体的には、がん患者の血液中の表1に示されるmiRの相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して2倍以上であるときは、そのmiRに対する阻害性核酸又はその機能的等価物の投与が有効であると判定することができる。同様に、がん患者の血液中の表2に示されるmiRの相対的発現量を測定し、その値が血液中のIL-6発現レベルが検出限界以下であるがん患者の血液における相対的発現量と比較して1/2倍以下であるときは、そのmiR又はその機能的等価物の投与が有効であると判定することができる。

【0068】
なお、コンパニオン診断薬としての使用においても、表3及び表4における各miRの血液中のIL-6の発現レベルが高い患者の相対的発現量又は血液中のIL-6の発現レベルが低い患者の相対的発現量に基づいて、判定することができる。

【0069】
本発明はまた、本発明の抗がん剤を投与して哺乳動物の悪性腫瘍を治療する、予防する、転移を抑制する及び/又は再発を防止する方法を提供する。具体的には、哺乳動物に有効量の本発明の抗がん剤又はこれを含む医薬を投与して哺乳動物における悪性腫瘍を治療する、予防する、転移を抑制する及び/又は再発を防止する方法を提供する。

【0070】
本明細書中で用いられる「哺乳動物」の例としてはヒト、ウシ、ウマ、イヌ及びネコ等を挙げることができるが、本発明の方法は特にヒトを対象とする。

【0071】
本明細書中で用いられる「有効量」とは、哺乳動物における悪性腫瘍の増殖又は症状の悪化を抑制する、悪性腫瘍を縮退させる、がんの転移を抑制する及び/又は再発を防止するのに効果的な抗がん剤の量を意味する。かかる有効量は疾患の種類、症状の重症度、患者その他の医学的要因によって適宜調節される。

【0072】
以下、非限定的な実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。実施例において、市販のキットを用いた操作はキット製造者のプロトコルに従って行った。なお本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種及び属、コンストラクト並びに試薬に限定されるものではなく、これらは適宜変更することができるものであることは当業者に容易に理解されるものである。
【実施例】
【0073】
<実施例1>
1)血液の調製
69名の大腸がん患者から採取した血液から常法に従って調製した血清について、BD OptEIATM Human IL-6 ELISA Set(BD Bioscience社)を用いてIL-6の発現量を測定した。この測定によってIL-6の発現量が約15pg/mL血清以上と測定された患者(IL-6高値患者)5名及びIL-6の発現が上記測定では検出限界以下であった患者(IL-6低値患者)5名を選択した。各患者の血清の一部を別々に保存した残りを、IL-6高値患者、IL-6低値患者それぞれで一つに纏めて混合した。
【実施例】
【0074】
2)マイクロアレイ解析
1)で調製した2種類の混合血清に対して、東レ株式会社に委託して「miRNA Oligo chip」を用いたマイクロアレイ解析を行い、検出されたmiRごとの相対的発現量をグローバルノーマライゼーション法によって算出した。
【実施例】
【0075】
3)miRの特定
混合血清についてのマイクロアレイ解析結果から、IL-6高値患者の血清における相対的発現量がIL-6低値患者の血清における相対的発現量に対して2倍以上であるmiRを選択し、それらのID、アクセッション番号及び測定された相対的発現量を前記表3に示した。同様に、IL-6高値患者の血清における相対的発現量がIL-6低値患者の血清における相対的発現量に対して1/2倍以下であるmiRを選択した。それらのID、アクセッション番号及び測定された相対的発現量を前記表4に示した。なお、表3及び表4は、表1及び表2に対して、各miRのIL-6高値患者の混合血清及びIL-6低値患者の混合血清におけるそれぞれの相対的発現量を追記したものである。
【実施例】
【0076】
また、IL-6高値患者及びIL-6低値患者の各混合血清におけるmiRの相対的発現量(グローバルノーマライゼーション値)の値の二次元プロットを図1に示す。なお、非特許文献1で大腸がんの予後判定因子の一つとなり得ると報告されているhsa-miR-21は、上記の選択基準では表3又は表4のいずれの群にも属さないことが確認された。
【実施例】
【0077】
さらに、別に保存した患者個々の血清の一部について、hsa-miR-4708-3p、hsa-miR-4319及びhsa-miR-1538の各発現量を定量PCRによって測定した。IL-6高値患者一名及びIL-6低値患者一名における前記定量PCRの結果を図2~4に示す。各miRの発現レベルの差異は、混合血清におけるそれと一致していた。
【実施例】
【0078】
<実施例2>
表1に示されるmiRの一つであるhsa-miR-4708-3pに対する阻害性核酸(DNA)を、SIGMA-ALDRICHに依頼して化学合成した。
【実施例】
【0079】
ヒト大腸がん細胞株DLD-1(5×10個/ウェル/96穴プレート)を24時間培養した後、lipofectamine(登録商標)(life Technologies)を用いて、製造者のプロトコルに従って上記阻害性核酸及びネガティブコントロールmiR各30pmol/ウェルを別々のウェルに加えた。48時間後における大腸がん細胞株の生存率を、MTTアッセイ(Cell Quant MTT Assay Kit(BioAssay System社)を行って評価した。その結果を、ネガティブコントロールmiRを導入したがん細胞株群に対する阻害性核酸が導入されたがん細胞株群のOD値の比として、図5に示す。
【実施例】
【0080】
図5に示されるように、hsa-miR-4708-3pに対する阻害性核酸を導入されたがん細胞株の増殖は抑制された。この結果から、かかる阻害性核酸は抗がん剤として有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
表1及び表2に示されるmiRであるバイオマーカーは、がん患者の血液中のIL-6の発現レベルと共に又はこれに代わり、がんの悪性度、予後及び/又は抗がん剤治療の有効性の判定に利用することができる。また本発明は、悪性度が高い又は予後が不良ながんに対する有効な医薬を選択するためのコンパニオン診断薬として、さらにはかかるがんに対する抗がん剤として有用である。

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4