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明細書 :生体高分子分画用チップ、それを用いた生体高分子の分画方法、および生体高分子の分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6338262号 (P6338262)
登録日 平成30年5月18日(2018.5.18)
発行日 平成30年6月6日(2018.6.6)
発明の名称または考案の名称 生体高分子分画用チップ、それを用いた生体高分子の分画方法、および生体高分子の分析方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
C12N  15/00        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12M   1/42        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 Z
C12M 1/00 A
C12M 1/42
請求項の数または発明の数 27
全頁数 45
出願番号 特願2017-557217 (P2017-557217)
出願日 平成29年1月27日(2017.1.27)
国際出願番号 PCT/JP2017/003069
国際公開番号 WO2017/131216
国際公開日 平成29年8月3日(2017.8.3)
優先権出願番号 2016014708
2016177163
優先日 平成28年1月28日(2016.1.28)
平成28年9月9日(2016.9.9)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成29年11月1日(2017.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】新宅 博文
【氏名】藁谷 卓哉
【氏名】上村 想太郎
【氏名】小口 祐伴
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100115255、【弁理士】、【氏名又は名称】辻丸 光一郎
【識別番号】100129137、【弁理士】、【氏名又は名称】中山 ゆみ
【識別番号】100154081、【弁理士】、【氏名又は名称】伊佐治 創
【識別番号】100194515、【弁理士】、【氏名又は名称】南野 研人
審査官 【審査官】藤井 美穂
参考文献・文献 特開2006-078475(JP,A)
特表2002-503336(JP,A)
特表2015-515263(JP,A)
特表2008-539711(JP,A)
国際公開第2015/106146(WO,A2)
日本機械学会年次大会講演論文集,2016年 6月,Vol.2016th,#J0540302
調査した分野 C12M 1/00 - 3/10
C12N 15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
生体高分子分画用チップを用いた生体高分子の分画方法であり、
前記生体高分子分画用チップは、基板および電極系を有し、
前記基板は、ターゲット細胞が有する細胞質の生体高分子を分離する分離用流路と、前記ターゲット細胞の移動を調整する調整用流路と、1以上の開口部とを有し、
前記1以上の開口部は、前記分離用流路に前記ターゲット細胞を含む試料を導入可能な第1の開口部と、前記細胞質の生体高分子を回収可能な第2の開口部と、第3の開口部とを有し、
前記分離用流路は、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有し、
前記壁は、開口を有し、
前記電極系は、1以上の電極を有し、
前記壁は、前記分離用流路において、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間に配置され、
前記1以上の電極は、前記第1の開口部内および前記第2の開口部内に配置され、
前記第1の開口部および前記第2の開口部は、前記分離用流路に連通され、
前記第3の開口部と前記分離用流路とは、前記調整用流路に連通され、
前記分離用流路は、前記分離用流路の前記壁から前記第2の開口部側において、前記調整用流路に連通され
前記第1の開口部からターゲット細胞を含む試料を導入する導入工程、
前記ターゲット細胞を、前記壁の開口にトラップするトラップ工程、
前記第1の開口部内および前記第2の開口部内の電極に電圧を印加することで、前記分離用流路に電圧を印加して、前記ターゲット細胞の細胞膜を電気的に破壊することにより、前記ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を放出させる放出工程、および
前記壁と前記第2の開口部との間の前記分離用流路に、放出されたターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する分離工程を含むことを特徴とする、生体高分子の分画方法。
【請求項2】
前記壁が、2以上の開口を有する、請求項1記載の生体高分子の分画方法
【請求項3】
前記壁の開口の径(w)が、前記ターゲット細胞の径(w)より小さい、請求項1または2記載の生体高分子の分画方法
【請求項4】
前記壁の開口の径(w)と前記ターゲット細胞の径(w)との比(w:w)が、1:2以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項5】
前記壁の開口の径(w)が、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部の径(w)より小さい、請求項1から4のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項6】
前記ターゲット細胞の径(w)と前記分離用流路の径(w)との比(w:w)が、1:1~1:100の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項7】
前記壁の開口の断面積(S)と前記分離用流路の断面積(S)との比(S:S)が、1:2以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項8】
前記第1の開口部が、前記基板の外側面から内側面に向かってテーパー状である、請求項1から7のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項9】
前記生体高分子分画用チップが、さらに、前記分離用流路内の液体を吸引および/または前記分離用流路内へ液体を吐出可能な吸引吐出部を1以上有し、
前記1以上の吸引吐出部は、前記壁と、前記第2の開口部との間で、前記分離用流路に接続するように配置される、請求項1から8のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項10】
さらに、前記生体高分子分画用チップが、前記生体高分子の捕獲部を有し、
前記捕獲部は、前記分離用流路内において、前記壁と、前記吸引吐出部の接続部との間に配置される、請求項9記載の生体高分子の分画方法
【請求項11】
前記生体高分子分画用チップが、2以上の吸引吐出部を有し、
前記捕獲部が、前記分離用流路内において、前記各吸引吐出部の接続部間に配置される、請求項10記載の生体高分子の分画方法
【請求項12】
さらに、前記生体高分子分画用チップが、前記壁と前記第2の開口部との間の液体の移動を制御する液体移動制御部を有し、
前記液体移動制御部が、前記分離用流路において、前記壁と前記第2の開口部との間に配置される、請求項1から11のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項13】
さらに、前記分離用流路および前記調整用流路を連通する接続流路を有し、
前記接続流路は、前記分離用流路の前記壁から前記第1の開口部側において、前記分離用流路に連通される、請求項1から12のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項14】
前記接続流路の断面積および長さが、前記壁の開口が前記ターゲット細胞をトラップしていない状態において、前記壁の開口を流れる前記試料の流量(F)と、前記接続流路を流れる前記試料の流量(F)との比(F:F)が、1:1~20:1の範囲となる断面積および長さを満たす、請求項13記載の生体高分子の分画方法
【請求項15】
前記1以上の電極が、さらに、前記第3の開口部内および前記調整用流路内の少なくとも一方に位置するように配置されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項16】
前記生体高分子が、核酸、糖、タンパク質、および脂質からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1から15のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項17】
前記細胞質の生体高分子が、細胞質基質の生体高分子および細胞小器官の生体高分子の少なくとも一方である、請求項1から16のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法
【請求項18】
前記細胞小器官の生体高分子が、葉緑体の核酸、ミトコンドリアの核酸、およびリポソームの核酸からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項17記載の生体高分子の分画方法
【請求項19】
記分離工程において、電気的分離方法により、前記放出された細胞質の生体高分子を分離する、請求項1から18のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法。
【請求項20】
さらに、前記分離工程において、分離された細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を回収する回収工程を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法。
【請求項21】
さらに、前記第2の開口部から、前記細胞質の生体高分子を回収する工程を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法。
【請求項22】
さらに、前記第1の開口部から、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子を回収する工程を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法。
【請求項23】
さらに、前記ターゲット細胞を含む試料を調製する工程を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の生体高分子の分画方法。
【請求項24】
ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分画する分画工程、および
前記細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を分析する分析工程を含み、
前記分画工程が、請求項1から23のいずか一項に記載の生体高分子の分画方法により実施されることを特徴とする、生体高分子の分析方法。
【請求項25】
前記分析された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を回収する工程を含む、請求項24記載の生体高分子の分析方法。
【請求項26】
前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の分画状態を保持する保持工程を含む、請求項24または25記載の生体高分子の分析方法。
【請求項27】
前記生体高分子が、核酸であり、
前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を増幅する増幅工程を含む、請求項24から26のいずれか一項に記載の生体高分子の分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子分画用チップ、それを用いた生体高分子の分画方法、および生体高分子の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲット細胞等を含む試料から核酸を分画する方法として、前記試料および分子篩機能を有する分子を含む液体に対し電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕し、さらに、電気泳動を実施することで、核の核酸と、細胞質の核酸とを分画する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】国際公開第2015/106146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記分子篩機能を有する分子を含む液体系(分画系)で核酸等の生体高分子を分画するため、分画された生体高分子は、前記分子篩機能を有する分子を含む。また、前記分子篩機能を有する分子は、前記核酸等の生体高分子の分析に干渉する。このため、分画された生体高分子を分析する場合、分析精度が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、例えば、前記分子篩機能を有する分子を含まない液体においても、核酸等の生体高分子を分画できる新たな生体高分子分画用チップ、それを用いた生体高分子の分画方法、および生体高分子の分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の生体高分子分画用チップ(以下、「チップ」ともいう)は、
基板を有し、
前記基板は、ターゲット細胞が有する細胞質の生体高分子を分離する分離用流路と、1以上の開口部とを有し、
前記1以上の開口部は、前記分離用流路に前記ターゲット細胞を含む試料を導入可能な第1の開口部を有し、
前記第1の開口部は、前記分離用流路に連通され、
前記分離用流路は、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有し、
前記壁は、開口を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の生体高分子の分画方法(以下、「分画方法」ともいう)は、ターゲット細胞を、開口を有する壁の開口にトラップするトラップ工程、
前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊することにより、前記ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を放出させる放出工程、および
放出された細胞質の生体高分子を分離する分離工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の生体高分子の分析方法(以下、「分析方法」ともいう)は、ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分画する分画工程、および
前記細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を分析する分析工程を含み、
前記分画工程が、前記本発明の生体高分子の分画方法により実施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、前記分子篩機能を有する分子を含まない液体系においても、核酸等の生体高分子を分画できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(A)は、実施形態1のデバイスの構成を示す上面図であり、(B)は、(A)のI-I方向からみた断面図であり、(C)は、(A)のII-II方向からみた断面図である。
【図2】図2(A)は、実施形態2のデバイスの構成を示す上面図であり、(B)は、前記(A)の(B)で示す二点鎖線で囲った領域の拡大図(上面図)であり、(C)は、前記(B)のI-I方向からみた断面図であり、(D)は、前記(A)の(D)で示す二点鎖線で囲った領域の拡大図(上面図)である。
【図3】図3は、実施形態3のデバイスの構成を示す上面図である。
【図4】図4は、変形例1のデバイスの構成を示す上面図である。
【図5】図5は、実施形態4のデバイスの構成を示す上面図である。
【図6】図6は、実施形態5のデバイスの構成を示す上面図である。
【図7】図7は、実施形態6のデバイスの構成を示す上面図である。
【図8】図8は、実施例2における電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。
【図9】図9は、実施例3における他の核酸の回収を示す写真である。
【図10】図10は、実施例4における電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。
【図11】図11は、実施例5における補正後の蛍光強度を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例5における蛍光強度を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例7における電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。
【図14】図14は、実施例8における各ライブラリが含む配列の種類を示すグラフである。
【図15】図15は、実施例8における各ライブラリの由来を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例9における収量を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例10におけるシミュレーション結果および近似式を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のチップは、例えば、前記壁が、2以上の開口を有する。

【0012】
本発明のチップは、例えば、前記壁の開口の径(w)が、前記ターゲット細胞の径(w)より小さい。

【0013】
本発明のチップは、例えば、前記壁の開口の径(w)と前記ターゲット細胞の径(w)との比(w:w)が、1:2以上である。

【0014】
本発明のチップは、例えば、前記壁の開口の径(w)が、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部の径(w)より小さい。

【0015】
本発明のチップは、例えば、前記ターゲット細胞の径(w)と前記分離用流路の径(w)との比(w:w)が、1:1~1:100の範囲である。

【0016】
本発明のチップは、例えば、前記壁の開口の断面積(S)と前記分離用流路の断面積(S)との比(S:S)が、1:2以上である。

【0017】
本発明のチップは、例えば、前記第1の開口部が、前記基板の外側面から内側面に向かってテーパー状である。

【0018】
本発明のチップは、例えば、前記生体高分子分画用チップが、さらに、前記分離用流路内の液体を吸引および/または前記分離用流路内へ液体を吐出可能な吸引吐出部を1以上有し、
前記1以上の吸引吐出部は、前記壁と、前記壁を基準として前記第1の開口部とは逆方向の端部との間で、前記分離用流路に接続するように配置される。

【0019】
本発明のチップは、例えば、さらに、前記生体高分子分画用チップが、前記生体高分子の捕獲部を有し、
前記捕獲部は、前記分離用流路内において、前記壁と、前記吸引吐出部の接続部との間に配置される。

【0020】
本発明のチップは、例えば、前記生体高分子分画用チップが、2以上の吸引吐出部を有し、
前記捕獲部が、前記分離用流路内において、前記各吸引吐出部の接続部間に配置される。

【0021】
本発明のチップは、例えば、前記生体高分子分画用チップが、さらに、電極を有し、
前記電極は、前記壁と、前記壁を基準として前記第1の開口部とは逆方向の端部との間で、前記分離用流路内に配置される。

【0022】
本発明のチップは、例えば、さらに、前記1以上の開口部が、前記細胞質の生体高分子を回収可能な第2の開口部を有し、
前記第2の開口部が、前記分離用流路に連通され、
前記壁は、前記分離用流路において、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間に配置される。

【0023】
本発明のチップは、例えば、さらに、前記生体高分子分画用チップが、前記壁と前記第2の開口部との間の液体の移動を制御する液体移動制御部を有し、
前記液体移動制御部が、前記分離用流路において、前記壁と前記第2の開口部との間に配置される。

【0024】
本発明のチップは、例えば、さらに、前記ターゲット細胞の移動を調整する調整用流路と、第3の開口部とを有し、
前記第3の開口部と前記分離用流路とが、前記調整用流路に連通され、
前記分離用流路は、前記分離用流路の前記壁から前記第2の開口部側において、前記調整用流路に連通される。

【0025】
本発明のチップは、例えば、さらに、前記分離用流路および前記調整用流路を連通する接続流路を有し、
前記接続流路は、前記分離用流路の前記壁から前記第1の開口部側において、前記分離用流路に連通される。

【0026】
本発明のチップは、例えば、前記接続流路の断面積および長さが、前記壁の開口が前記ターゲット細胞をトラップしていない状態において、前記壁の開口を流れる前記試料の流量(F)と、前記接続流路を流れる前記試料の流量(F)との比(F:F)が、1:1~20:1の範囲となる断面積および長さを満たす。

【0027】
本発明のチップは、例えば、さらに、電極系を有し、
前記電極系が、1以上の電極を有し、
前記1以上の電極が、前記第1の開口部内、前記分離用流路における前記壁と前記第1の開口部との間、前記第2の開口部内、および前記分離用流路における前記壁と前記第2開口部との間からなる群から選択された少なくとも1つに位置するように配置されている。

【0028】
本発明のチップは、例えば、前記生体高分子分画用チップが前記第3の開口部を有する生体高分子分画用チップであり、
前記1以上の電極が、さらに、前記第3の開口部内および前記調整用流路内の少なくとも一方に位置するように配置されている。

【0029】
本発明のチップは、例えば、前記生体高分子が、核酸、糖、タンパク質、および脂質からなる群から選択された少なくとも1つである。

【0030】
本発明のチップは、例えば、前記細胞質の生体高分子が、細胞質基質の生体高分子および細胞小器官の生体高分子の少なくとも一方である。

【0031】
本発明のチップは、例えば、前記細胞小器官の生体高分子が、葉緑体の核酸、ミトコンドリアの核酸、およびリポソームの核酸からなる群から選択された少なくとも1つである。

【0032】
本発明の分画方法は、例えば、前記放出工程において、前記ターゲット細胞の細胞膜を電気的または化学的に破壊する。

【0033】
本発明の分画方法は、例えば、前記放出工程において、前記ターゲット細胞の細胞膜を電気的に破壊することにより、前記ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を放出させ、
前記分離工程において、電気的分離方法により、前記放出された細胞質の生体高分子を分離する。

【0034】
本発明の分画方法は、例えば、さらに、前記分離工程において、分離された細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を回収する回収工程を含む。

【0035】
本発明の分画方法は、例えば、前記壁が、2以上の開口を有する。

【0036】
本発明の分画方法は、例えば、前記壁の開口の径(w)が、前記ターゲット細胞の径(w)より小さい。

【0037】
本発明の分画方法は、例えば、前記壁の開口の径(w)と前記ターゲット細胞の径(w)との比(w:w)が、1:2以上である。

【0038】
本発明の分画方法は、例えば、前記壁の開口の径(w)が、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部の径(w)より小さい。

【0039】
本発明の分画方法は、例えば、前記本発明の生体高分子分画用チップを用い、
前記第1の開口部から前記ターゲット細胞を含む試料を導入する導入工程、
前記ターゲット細胞を、前記壁の開口にトラップするトラップ工程、
前記分離用流路に電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞から生体高分子を放出させる放出工程、および
前記壁と、前記壁を基準として前記第1の開口部とは逆方向の端部との間の前記分離用流路に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する分離工程を含む。

【0040】
本発明の分画方法は、例えば、前記生体高分子分画用チップが、前記第2の開口部を有する生体高分子分画用チップであり、
さらに、前記第2の開口部から、前記細胞質の生体高分子を回収する工程を含む。

【0041】
本発明の分画方法は、例えば、さらに、前記第1の開口部から、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子を回収する工程を含む。

【0042】
本発明の分画方法は、例えば、さらに、前記ターゲット細胞を含む試料を調製する工程を含む。

【0043】
本発明の分画方法は、例えば、前記細胞質の生体高分子が、細胞質基質の生体高分子および細胞小器官の生体高分子の少なくとも一方である。

【0044】
本発明の分画方法は、例えば、前記細胞小器官の生体高分子が、葉緑体の核酸、ミトコンドリアの核酸、およびリポソームの核酸からなる群から選択された少なくとも1つである。

【0045】
本発明の分析方法は、例えば、前記分析された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画(分離)後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を回収する工程を含む。

【0046】
本発明の分析方法は、例えば、前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画(分離)後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の分画状態を保持する保持工程を含む。

【0047】
本発明の分析方法は、例えば、前記生体高分子が、核酸であり、
前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分画(分離)後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を増幅する増幅工程を含む。

【0048】
<生体高分子分画用チップ>
本発明の生体高分子分画用チップは、前述のように、基板を有し、前記基板は、ターゲット細胞が有する細胞質の生体高分子を分離する分離用流路と、1以上の開口部とを有し、前記1以上の開口部は、前記分離用流路に前記ターゲット細胞を含む試料を導入可能な第1の開口部を有し、前記第1の開口部は、前記分離用流路に連通され、前記分離用流路は、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有し、前記壁は、開口を有することを特徴とする。本発明のチップは、前記分離用流路が、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有し、前記壁が、開口を有することを特徴とし、その他の構成および条件は、特に制限されない。

【0049】
本発明のチップは、前記分離用流路において、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有し、前記壁が、開口を有する。このため、本発明のチップは、例えば、前記第1の開口部から導入したターゲット細胞を前記壁の開口にトラップした状態で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊することにより、または前記ターゲット細胞の細胞膜の破壊後、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部を前記壁の開口にトラップすることにより、前記細胞質の核酸等の細胞質の生体高分子を、前記壁の開口を通過させ、前記壁と、前記壁を基準として前記第1の開口部方向とは逆方向の端部との間の前記分離用流路に分離でき、且つ前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子(以下、「残部の生体高分子」ともいう)を、前記壁の開口にトラップできる。このため、本発明のチップによれば、前記分子篩機能を有する分子を含まない液体系においても、核酸等の生体高分子を分離できる。また、本発明のチップによれば、前記残部の生体高分子を、前記壁の開口にトラップした状態で、前記細胞質の生体高分子を分離できるため、例えば、次世代シークエンシングに利用可能な品質(例えば、高い純度)を有するサンプルを調製できる。さらに、本発明のチップは、例えば、1個のターゲット細胞を前記分離用流路に導入した際に、前記壁の開口で、前記ターゲット細胞を精度よくトラップできる。このため、本発明のチップによれば、例えば、1個のターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分離できる。したがって、本発明のチップは、例えば、1個のターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分離するチップということもできる。また、本発明のチップは、前記分離用流路が、前記開口を有する壁をその流路内に有する。このため、本発明のチップは、例えば、前記分離用流路に電圧を印加した際に、前記開口を有する壁を有さない分離用流路(例えば、前記特許文献1の分離用流路)と比較して、前記ターゲット細胞がトラップされる前記壁の開口の周囲の電流密度を増加させることができる。このため、例えば、前記ターゲット細胞の細胞膜を電気的に破壊する場合、本発明のチップによれば、前記特許文献1の分離用流路において、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕する際の電圧と比較し、より低い電圧(例えば、1/10以下の電圧)で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕できる。また、本発明のチップは、例えば、より低い電圧で使用できることから、電圧印加時のジュール熱の発生を低減でき、前記ジュール熱による核酸等の生体高分子の変性等の影響を低減できる。さらに、本発明のチップは、例えば、より低い電圧で使用できることから、生体高分子の分離に使用する分離液として、電解質を含む高伝導性溶液が使用できる。なお、本発明のチップを使用して、前記細胞質の生体高分子を分離する場合、上述のように、電気的にターゲット細胞の細胞膜を破壊してもよいし、後述するように、その他の方法により、ターゲット細胞の細胞膜を破壊してもよい。

【0050】
本発明のチップは、前記本発明の分画方法に使用可能なチップであり、後述する本発明の分画方法における説明を援用できる。

【0051】
本発明において、「チップ」は、例えば、キャピラリー管を含む。この場合、前記基板は、例えば、前記キャピラリー管の外壁を意味する。以下、チップの形態を説明するが、以下の説明は、キャピラリー管の形態の説明に援用できる。

【0052】
本発明において、前記チップの大きさは、特に制限されず、例えば、前記基板上に配置する前記分離用流路の数に応じて、適宜決定できる。前記チップが1つの分離用流路を含む場合、前記チップの最大長は、例えば、50~100mmであり、前記チップの最大幅は、例えば、10~50mmであり、前記チップの最大の厚みは、3~30mmである。本発明において、「長さ」は、前記チップの長手方向の距離であり、前記チップの最大長は、前記チップの長手方向の最長部の距離であり、「幅」は、前記チップの長手方向に対する垂直方向であり、且つ平面方向(幅方向)の距離であり、前記チップの最大幅は、前記チップの幅方向の最長部の距離であり、「厚み(深さ、高さ)」は、前記チップの長手方向および幅方向に対する垂直方向(厚み方向、高さ方向)の距離であり、前記チップの最大の厚みは、前記チップの厚み方向の最長部の距離である。

【0053】
本発明のチップにおいて、前記ターゲット細胞は、特に制限されず、任意の細胞とできる。前記ターゲット細胞は、例えば、1個の細胞でもよいし、2個以上の細胞でもよい。後者の場合、前記ターゲット細胞は、例えば、細胞塊があげられる。前記細胞は、例えば、生体由来の細胞、培養細胞等があげられる。前記細胞塊は、例えば、受精卵等があげられる。前記細胞の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物、植物、原核生物、真核生物等があげられる。前記非ヒト動物は、例えば、ヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物は、例えば、サル、マウス、ラット、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ウマ、モルモット等があげられる。前記真核生物は、例えば、ユーグレナ等があげられる。

【0054】
本発明において、前記分離用流路は、前記第1の開口部に連通する流路であり、その内部が空隙(中空)である。本発明において、前記分離用流路の軸方向に対する垂直方向を、「断面方向」といい、前記壁を中心として、前記第1の開口部側を上流、前記壁を基準として前記第1の開口部方向とは逆方向側を下流といい、前記第1の開口部と前記壁との間の分離用流路を、上流流路といい、前記壁と、前記壁を基準として前記第1の開口部方向とは逆方向の端部との間の前記分離用流路および前記壁と後述する第2の開口部との間の分離用流路を、下流流路という。なお、本発明において、「上流」および「下流」は、前記分離用流路における位置関係を示すための表現であり、前記分離用流路に導入される液体(例えば、前記試料)の移動方向は、特に制限されない。また、本発明において、特に言及しない限り、「流路の断面積」は、断面方向における、前記流路の内部の空隙の断面積を意味し、「流路の長さ」は、前記流路の軸方向の長さを意味する。

【0055】
前記分離用流路の形状は、特に制限されず、その断面の形状は、円、真円、楕円等の円形;半円形;三角形、四角形、正方形および長方形等の多角形等があげられる。前記分離用流路において、前記上流流路および前記下流流路の断面形状は、例えば、同じでもよいし、異なってもよい。

【0056】
前記分離用流路の大きさ(例えば、幅、深さ、径、断面積等)は、特に制限されず、例えば、前記ターゲット細胞が前記壁の開口まで移動可能な大きさであればよく、前記ターゲット細胞の大きさに応じて適宜決定できる。前記分離用流路において、前記上流流路の大きさが、前記ターゲット細胞が前記壁の開口まで移動可能な大きさであることが好ましい。前記分離用流路において、前記上流流路および前記下流流路は、例えば、同じ大きさでもよいし、異なる大きさでもよい。

【0057】
具体例として、前記ターゲット細胞の径(w)と前記分離用流路の径(w)との比(w:w)は、例えば、1:1以上であり、好ましくは、1:1~1:100の範囲、1:2~1:100の範囲である。前記ターゲット細胞の径は、例えば、前記ターゲット細胞の短径である。また、前記分離用流路の径は、例えば、前記分離用流路の短径であり、前記分離用流路の断面形状が円以外の場合には、例えば、前記分離用流路の断面において、最も短い距離である。前記分離用流路において、前記上流流路の径が、前記比を満たすことが好ましい。

【0058】
前記分離用流路は、例えば、前記生体高分子を分離するための分離液を含むことが好ましい。前記分離液は、例えば、Tris緩衝液、Bis-Tris緩衝液、Tris-HEPES緩衝液、イミダゾール緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液、培地等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、1~500mmol/Lである。前記分離液は、例えば、スクロース、マンニトール等の糖類、Triton(登録商標)X100、Tween(登録商標)20等の界面活性剤、牛血清アルブミン(BSA)、アセチル化BSA等のタンパク質、carrier RNA、carrier DNA等の核酸吸着剤、DMSO、pluronic(登録商標)F-127(Sigma Aldrich社製)等の溶媒、RNase inhibitor等の阻害剤、protease K等のプロテアーゼ、DNase、RNase等のヌクレアーゼ等を含んでもよい。前記分離液のpHは、例えば、pH6~9である。

【0059】
前記分離用流路は、その流路内であり、且つ断面方向に壁を有する。前記分離用流路において、前記壁の位置は、特に制限されず、例えば、前記第1の開口部端、前記第2の開口部端、またはその他の位置があげられる。前記第1の開口部端に前記壁を有する場合、例えば、前記分離用流路に前記ターゲット細胞を導入する必要がないため、前記分離用流路の大きさを自由に設定できる。前記壁が前記その他の位置の場合、前記壁の位置は、前記上流流路の長さ(l)と、前記下流流路の長さ(l)との比(l:l)が、例えば、1:10~1:500の範囲となる位置である。前記細胞質の生体高分子として、前記細胞質の核酸を分離する場合、前記比(l:l)は、例えば、より高い純度の前記細胞質の核酸を分離できることから、好ましくは、1:100~1:500の範囲となる位置である。

【0060】
前記分離用流路の軸方向における、前記壁の長さ(厚さ、l)は、特に制限されない。前記壁の厚さは、例えば、1~20μmである。前記壁の厚さを短くすることで、例えば、電気的にターゲット細胞の細胞膜を破壊する際により低い電圧で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕できる。

【0061】
前記壁は、開口(オリフィス)を有する。前記チップにおいて、前記上流流路および前記下流流路は、前記壁の開口により連通されている。前記壁の開口の数は、1以上であり、前記残部の生体高分子をより簡便に回収できることから、好ましくは、2以上であり、より好ましくは、2~3個である。

【0062】
前記壁の開口の形状は、特に制限されず、その断面の形状は、円、真円、楕円等の円形;半円形;三角形、四角形、正方形および長方形等の多角形等があげられる。前記壁が2以上の開口を有する場合、各開口は、例えば、同じ断面形状でもよいし、異なる断面形状でもよい。

【0063】
前記壁の開口の大きさは、特に制限されず、前記ターゲット細胞をトラップできる大きさであればよい。具体例として、前記壁の開口の径(w)は、例えば、前記ターゲット細胞をより精度よくトラップできることから、好ましくは、前記ターゲット細胞の径(w)より小さく、前記ターゲット細胞をさらに精度よくトラップできることから、より好ましくは、前記壁の開口の径(w)と前記ターゲット細胞の径(w)との比(w:w)が、1:2以上、1:2~1:50の範囲、1:10~1:50の範囲である。前記ターゲット細胞の径(w)は、例えば、前記ターゲット細胞の短径である。また、前記壁の開口の径(w)は、例えば、前記壁の開口の短径であり、前記壁の開口の断面形状が円以外の場合には、例えば、前記壁の開口の断面において、最も短い距離である。

【0064】
前記壁の開口は、例えば、前記細胞質の生体高分子をより高い純度で分離できることから、前記壁の開口の径(w)が、好ましくは、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部(細胞質の生体高分子が分離されたターゲット細胞、以下、「ターゲット細胞の残部」ともいう)の径(w)より小さい。前記ターゲット細胞の残部の径(w)は、例えば、前記ターゲット細胞の残部の短径である。また、前記壁の開口の径(w)は、例えば、前記壁の開口の短径であり、前記壁の開口の断面形状が円以外の場合には、例えば、前記壁の開口の断面において、最も短い距離である。

【0065】
前記壁の開口の断面形状が長方形等の矩形である場合、前記壁の開口の径(w)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。前記壁の開口の断面形状が円形である場合、前記壁の開口の径(w)は、下記式(3)を満たすことが好ましい。前記壁の開口の径(w)が、下記式(2)または(3)を満たすことで、例えば、前記ターゲット細胞が前記壁の開口にトラップされた状態で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊を抑制できるため、より高い純度の前記細胞質の生体高分子を分離できる。
≦πd ・・・(2)
≦8d ・・・(3)
π:円周率
d:壁の開口と、ターゲット細胞の核膜との最短距離

【0066】
前記壁の開口の断面積(S)は、例えば、電気的にターゲット細胞の細胞膜を破壊する際により低い電圧で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕できることから、前記壁の開口の断面積(S)と前記分離用流路の断面積(S)との比(S:S)が、好ましくは、1:2以上、1:2~1:100の範囲、1:3~1:100の範囲、1:10~1:100の範囲、より好ましくは、1:3~1:100の範囲、1:10~1:100の範囲を満たすように設定する。前記壁が2以上の開口を含む場合、2以上の開口の合計の断面積が、上記比を満たすことが好ましい。また、前記壁の開口の断面積が変化する場合、前記壁の開口における、最小の断面積が、上記比を満たすことが好ましい。また、前記分離用流路の断面積(S)の断面積が変化する場合、前記分離用流路における、最大の断面積が、上記比を満たすことが好ましい。

【0067】
前記壁が2以上の開口を含む場合、各開口の大きさは、同じでもよいし、異なってもよい。前記壁が2以上の開口を含む場合、より精度よく前記ターゲット細胞をトラップし、且つ前記残部の生体高分子をより簡易に回収できることから、全ての開口が、前述の壁の開口の大きさの条件を満たすことが好ましい。また、前記壁が異なる大きさの2以上の開口を含む場合、最大の断面積を有する開口は、例えば、前記ターゲット細胞をトラップし、その他の開口は、前記試料を通過させる。このため、前記最大の断面積を有する開口を、トラップ口、その他の開口を、バイパス口ということもできる。

【0068】
前記壁が前記トラップ口および前記バイパス口を含む場合、また、前記トラップ口の径(w)と前記バイパス口の径(w)との比(w:w)は、例えば、0.1:1~3:1の範囲である。また、前記トラップ口の断面積(S)と前記バイパス口の断面積(S)との比(S:S)は、例えば、0.1:1~3:1の範囲である。

【0069】
前記壁の開口の大きさは、例えば、前記壁の開口の上流流路側から下流流路側にかけて、同じでもよいし、異なってもよい。後者の場合、具体例として、前記壁の開口は、例えば、前記開口の上流流路側から下流流路側にかけてテーパー状である開口、前記開口の上流流路側および前記開口の下流流路側から、前記開口の中央にかけてテーパー状である開口等があげられる。また、前記開口が前記トラップ口と前記バイパス口とを含む場合、前記トラップ口の大きさが、前記トラップ口の上流流路側から下流流路側にかけて、異なり、前記バイパス口の大きさが、同じであることが好ましい。

【0070】
前記第1の開口部は、前記ターゲット細胞を含む試料を導入可能な開口部である。前記第1の開口部は、後述するように、例えば、前記壁の開口の上流流路側に前記ターゲット細胞をトラップし、前記細胞質の生体高分子を前記下流流路に分離した場合、前記分離後、前記第1の開口部から吸引することにより、前記壁の開口にトラップされた前記残部の生体高分子を回収することができる。このため、前記第1の開口部は、例えば、前記残部の生体高分子を回収可能な開口部ということもできる。また、前記第1の開口部は、後述するように、例えば、前記壁の開口の下流流路側に前記ターゲット細胞をトラップし、前記細胞質の生体高分子を前記上流流路に分離した場合、前記分離後、前記第1の開口部から吸引することにより、前記細胞質の生体高分子を回収することができる。このため、前記第1の開口部は、例えば、前記細胞質の生体高分子を回収可能な開口部ということもできる。さらに、前記第1の開口部は、前記分離用流路に前記分離液を導入または導出するのに用いてもよい。前記第1の開口部は、例えば、前記分離用流路の端部で連通されていることが好ましい。

【0071】
本発明のチップは、さらに、第2の開口部を有してもよい。前記第2の開口部は、前記細胞質の生体高分子を回収可能な開口部である。前記第1の開口部が前記細胞質の生体高分子を回収可能な開口部である場合、前記第2の開口部は、例えば、前記細胞質の生体高分子に代えて、前記残部の生体高分子を回収可能な開口部であってもよい。このような開口部とすることにより、前記壁の開口の下流流路側に前記ターゲット細胞をトラップし、前記細胞質の生体高分子を前記上流流路に分離した場合、前記分離後、前記第2の開口部から吸引することにより、前記残部の生体高分子を回収することができる。前記第2の開口部は、例えば、前記分離用流路に連通されている。また、この場合、前記壁は、前記分離用流路において、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間に配置されている。前記第2の開口部は、例えば、前記分離用流路に前記分離液等を導入または導出するのに用いてもよい。前記第2の開口部は、例えば、前記分離用流路の端部で連通されていることが好ましい。

【0072】
前記第1の開口部の形状は、特に制限されず、前記ターゲット細胞を含む試料を導入可能であればよい。また、前記第2の開口部の形状は、特に制限されず、前記細胞質の生体高分子を回収可能であればよい。前記第1の開口部および前記第2の開口部の形状は、例えば、三角柱状、四角柱状等の多角柱状、真円柱状、楕円柱状等の円柱状、錐体状等があげられる。前記第1の開口部および前記第2の開口部は、前記基板の外側面から内側面に向かってテーパー状であることが好ましく、逆円錐状であることがより好ましい。このような形状とすることで、例えば、前記第1の開口部に前記試料を導入した際に、前記試料に圧等を加えずに、前記分離用流路に前記試料を導入できる。また、このような形状とすることで、例えば、前記細胞質の生体高分子を分離後、マイクロマニピュレータ、マイクロピペット等の吸引手段を用いて、前記第1の開口部から、前記残部の生体高分子を簡易に回収することができる。また、前記第2の開口部を有する場合、前記細胞質の生体高分子を分離後、前記吸引手段を用いて、前記細胞質の生体高分子を簡易に回収することができる。前記第1の開口部および前記第2の開口部は、例えば、同じ形状でもよいし、異なる形状でもよい。本発明において、前記開口部は、例えば、分離液等を貯留することができる。このため、前記開口部は、例えば、リザーバーということもできる。

【0073】
前記第1の開口部の大きさは、特に制限されず、前記試料を導入できればよい。また、前記第2の開口部の大きさは、特に制限されない。具体例として、前記第1の開口部および前記第2の開口部は、それぞれ、前記基板の外側面の直径が、例えば、3~10mmであり、前記基板の内側面の直径が、例えば、0.01~0.2mmであり、高さが、例えば、5~25mmであり、容積が、例えば、5~500μL、5~60μLである。

【0074】
本発明のチップは、さらに、前記分離用流路内の液体を吸引および/または前記分離用流路内へ液体を吐出可能な吸引吐出部(手段)を有してもよい。本発明のチップは、前記吸引吐出部を有することにより、例えば、前記分離用流路内での液体の動きを制御でき、例えば、前記上流流路から前記下流流路方向または前記下流流路から前記上流流路方向へ前記分離用流路内の液体を移動させることができる。前記吸引吐出部は、特に制限されず、例えば、公知の吸引手段、吐出手段等が使用でき、具体例として、マイクロポンプ、ポンプ、分離用流路の容積変化を用いる手段、表面張力により液体を引き込む手段、圧力差を用いる手段等があげられる。本発明のチップは、例えば、前記吸引吐出部を1つ有してもよいし、2つ以上有してもよい。前記分離用流路の容積変化を用いる手段としては、例えば、前記分離用流路の外壁を形成する可撓性の基板があげられる。この場合、前記吸引吐出部は、前記基板の外側から前記基板の内側方向に押圧されることで、前記分離用流路内の液体を吐出し、前記押圧から解放されることにより、前記分離用流路内に液体を吸引する。前記圧力差を用いる手段としては、例えば、前記分離用流路内に配置された陰圧室または陽圧室があげられる。前記陰圧室は、例えば、前記分離用流路の他の部分と比較して、その室内の圧力が低い(例えば、真空)。このため、前記陰圧室の壁を破壊することにより、前記分離用流路の他の部分から前記陰圧室に向かって液体が移動するため、前記液体を吸引できる。また、前記陽圧室は、例えば、前記分離用流路の他の部分と比較して、その室内の圧力が高い。このため、前記陽圧室の壁を破壊することにより、前記陰圧室から前記分離用流路の他の部分、例えば、第1の開口部等に向かって液体が移動するため、前記液体を吐出できる。

【0075】
前記吸引吐出部は、例えば、前記分離用流路内の液体を吸引および/または前記分離用流路内へ液体を吐出可能なように配置されており、具体的には、前記分離用流路内または前記分離用流路に接続(例えば、隣接)するように配置されている。前記吸引吐出部は、例えば、前記上流流路に配置されてもよいし、前記下流流路に配置されてもよいし、両者に配置されてもよい。本発明のチップが2以上の吸引吐出部を含む場合、2以上の吸引吐出部は、例えば、前記上流流路および前記下流流路の一方に配置されてもよいし、両方に配置されてもよい。

【0076】
本発明のチップは、さらに、前記生体高分子の捕獲部を有してもよい。本発明のチップは、例えば、前記分離用流路に前記捕獲部を配置することにより、前記上流流路において残部の生体高分子を、前記下流流路において前記細胞質の高分子を捕獲することができるため、分離した生体高分子を簡易に回収することができる。前記捕獲部は、特に制限されず、例えば、公知の生体高分子の吸着手段が利用でき、例えば、前記生体高分子を特異的および/または非特異的に吸着するフィルター、前記生体高分子を特異的および/または非特異的に吸着する表面修飾を施された前記分離用流路の流路表面、前記生体高分子を特異的および/または非特異的に吸着する表面修飾が施されたビーズ、ゲル、高分子ポリマー、界面活性剤、およびミセル等があげられる。本発明のチップは、例えば、前記捕獲部を1つ有してもよいし、2つ以上有してもよい。

【0077】
前記捕獲部は、例えば、前記分離用流路内に、前記生体高分子を捕獲可能なように配置されており、具体的には、前記分離用流路内に、前記分離用流路に導入された液体と接液可能なように配置されている。前記捕獲部は、例えば、前記上流流路に配置されてもよいし、前記下流流路に配置されてもよいし、両者に配置されてもよい。本発明のチップが2以上の捕獲部を含む場合、2以上の捕獲部は、例えば、前記上流流路および前記下流流路の一方に配置されてもよいし、両方に配置されてもよい。

【0078】
前記捕獲部は、前記吸引吐出部と組合せて配置することが好ましい。本発明のチップは、前記捕獲部と前記吸引吐出部とを組合せることにより、より効率良く、前記捕獲部で前記生体高分子を捕獲することができ、分離した生体高分子をより簡易に回収できる。前記捕獲部は、例えば、1つの吸引吐出部と組合せてもよいし、2つ以上の吸引吐出部と組合せてもよい。前者の場合、前記捕獲部は、例えば、前記分離用流路において、前記壁と、前記吸引吐出部の接続部との間、または前記第1の開口部もしくは前記壁を基準として前記第1の開口部とは逆方向の端部と、前記吸引吐出部の接続部との間とに配置される。このように配置することにより、さらに効率良く、前記捕獲部で前記生体高分子を捕獲することができ、分離した生体高分子をさらに簡易に回収できる。また、後者の場合、前記捕獲部は、1つの吸引吐出部と組合せた場合の配置に加え、例えば、前記各吸引吐出部の接続部間に配置されてもよい。このように配置することにより、さらに効率良く、前記捕獲部で前記生体高分子を捕獲することができ、分離した生体高分子をさらに簡易に回収できる。また、本発明のチップにおいて、前記捕獲部と前記吸引吐出部とを組合せて配置する場合、前記捕獲部と前記吸引吐出部とは、前記下流流路に配置することが好ましい。このように配置することにより、前記下流流路に配置された前記捕獲部に前記細胞質の生体高分子を捕獲後、前記第1の開口から前記分離用流路内の液体を回収することで、前記細胞質の生体高分子を前記捕獲部に分離した状態で、前記残部の生体高分子をより簡易に回収することができるため、精度よく前記残部の生体高分子を回収できる。

【0079】
本発明において、前記第2の開口部を有するチップが、前記吸引吐出部および前記捕獲部の少なくとも一方を有してもよい。この場合、前記吸引吐出部および前記捕獲部の説明において、例えば、「前記壁を基準として前記第1の開口部とは逆方向の端部」を「第2の開口部」に読み替えて、その説明を援用できる。

【0080】
本発明のチップが前記第2の開口部を有する場合、本発明のチップは、前記分離用流路内の液体の移動を制御する液体移動制御部を有することが好ましい。前記液体移動制御部は、例えば、前記第1の開口部と前記壁との間の液体の移動を制御してもよいし、前記壁と前記第2の開口部との間の液体の移動を制御してもよい。前記液体移動制御部は、例えば、一方向に液体が移動できるように制御してもよく、具体的には、前記壁から前記第2の開口部方向への液体の移動を制御可能としてもよいし、前記壁から前記第1の開口部方向への液体の移動を制御可能としてもよく、具体例として、前記第2の開口部から前記壁方向への液体の移動を抑制もしくは停止可能でもよいし、または第1の開口部から前記壁方向への液体の移動を抑制もしくは停止可能でもよい。前記液体移動制御部は、例えば、両方向の液体の移動を制御可能としてもよく、具体的には、前記第2の開口部から前記壁方向への液体の移動および第1の開口部から前記壁方向への液体の移動を抑制もしくは停止可能としてもよい。これにより、例えば、前記液体移動制御部を下流流路に配置した場合、前記細胞質の生体高分子を、前記分離用流路において、前記液体移動制御部より前記第2の開口部側に分離すると、前記分離後に、前記壁の開口の残部の生体高分子と、前記細胞質の生体高分子とが、再度混合することを防止できるため、より純度の高い前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子を回収できるようになる。前記液体移動制御部は、特に制限されず、例えば、弁、マイクロバルブ等の公知のバルブ、可撓性の基板により形成された分離用流路の壁等があげられる。前記液体移動制御部が前記可撓性の基板により形成された分離用流路の壁の場合、前記基板の外側から前記基板の内側方向に押圧されると、前記分離用流路が狭窄し、前記分離用流路内の液体の移動を抑制または停止できる。前記可撓性の基板により前記分離用流路の壁を形成する場合、前記分離用流路の壁の全体または一部を前記可撓性の基板で形成する。本発明のチップは、例えば、前記液体移動制御部を1つ有してもよいし、2つ以上有してもよい。

【0081】
前記液体移動制御部は、前記分離用流路において、前記上流流路に配置されてもよいし、前記下流流路に配置されてもよし、両者に配置されてもよいが、前記下流流路に配置されることが好ましい。

【0082】
本発明のチップは、例えば、前記上流流路と前記下流流路とを連通するバイパス流路を有してもよい。これにより、例えば、前記バイパス流路を介して、前記下流流路に前記ターゲット細胞を導入することができ、前記上流流路側に前記細胞質の生体高分子を分離することができる。そして、前記細胞質の生体高分子が前記上流流路に存在し、前記残部の生体高分子が前記壁の開口にトラップされているため、前記第1の開口部から前記細胞質の生体高分子を回収する際に、前記残部の生体高分子より先に回収でき、且つ前記残部の生体高分子の混入を低減できる。このため、より純度の高い前記細胞質の生体高分子を調製できる。前記バイパス流路は、前記上流流路および前記下流流路と連通していればよく、その位置は、特に制限されない。前記バイパス流路の大きさは、特に制限されず、例えば、前記分離用流路の大きさの説明を援用できる。

【0083】
本発明のチップが前記パイパス流路を有する場合、前記チップは、さらに、前記バイパス流路における液体の移動を制御する第2の液体移動制御部を有することが好ましい。前記第2の液体移動制御部は、例えば、前記バイパス流路を介した液体の移動のON/OFFを制御する。前記第2の液体移動制御部は、例えば、前記マイクロバルブ等の公知のバルブがあげられる。

【0084】
前記第2の液体移動制御部の数は、特に制限されず、例えば、1つでもよいし、2つ以上でもよい。前記第2の液体移動制御部は、例えば、前記バイパス流路内に配置される。前記バイパス流路における前記第2の液体移動制御部の配置箇所は、特に制限されず、任意の箇所とできる。前記チップが2つ以上の第2の液体移動制御部を有する場合、前記第2の液体移動制御部は、前記バイパス流路と前記上流流路との接続部の隣接部および前記バイパス流路と前記下流流路との接続部の隣接部に配置されることが好ましい。このように配置されることで、前記バイパス流路における液体の移動のON/OFFをより精度よく制御できる。

【0085】
本発明のチップは、さらに、前記ターゲット細胞の移動を調整する調整用流路を含んでもよい。この場合、本発明のチップは、第3の開口部を有し、前記第3の開口部と前記分離用流路とが、前記調整用流路に連通され、前記分離用流路は、前記下流流路(例えば、前記分離用流路の前記壁から前記第2の開口部側)において、前記調整用流路に連通されることが好ましい。前記調整用流路を有することで、前記チップは、例えば、前記チップ内のターゲット細胞の移動を調整でき、これにより、例えば、前記ターゲット細胞の前記壁の開口からの離脱を防止できる。また、前記調整用流路を有することで、前記チップは、例えば、前記ターゲット細胞をトラップ後、前記分離液等を前記調整用流路に導入することにより、前記チップ内の溶液を置換することができる。このため、前記調整用流路を有するチップによれば、例えば、前記ターゲット細胞の洗浄、標識、前記ターゲット細胞以外の細胞由来の生体高分子の除去等ができる。

【0086】
前記調整用流路の形状は、特に制限されず、例えば、前記分離用流路の断面形状の説明を援用できる。前記調整用流路および前記分離用流路の形状は、同じでもよいし、異なってもよい。また、前記調整用流路の大きさ(例えば、幅、深さ、径、断面積等)は、特に制限されず、例えば、前記ターゲット細胞が移動可能な大きさであればよく、前記ターゲット細胞の大きさに応じて適宜決定できる。

【0087】
前記調整用流路は、例えば、前記分離用流路の前記壁から前記第2の開口部側、すなわち、前記下流流路と連通している。前記調整用流路は、例えば、前記ターゲット細胞の移動を調整できるように、前記下流流路と連通していればよい。具体例として、前記調整用流路は、例えば、前記下流流路の前記壁の近傍で連通している。

【0088】
前記第3の開口部は、例えば、前記調整用流路に前記分離液等を導入または導出するのに用いる開口部である。前記第3の開口部の形状は、特に制限されず、例えば、前記第1の開口部および第2の開口部の形状の説明を援用できる。

【0089】
本発明のチップは、さらに、前記分離用流路および前記調整用流路を連通する接続流路を有することが好ましい。この場合、前記接続流路は、前記分離用流路の前記壁から前記第1の開口部側において、前記分離用流路に連通されることが好ましい。前記接続流路を有することにより、前記チップは、例えば、複数のターゲット細胞を含む試料を前記第1の開口部に導入した際に、1個のターゲット細胞を、前記壁の開口にトラップする。そして、前記チップは、例えば、前記接続流路を介して、トラップされなかった細胞を前記調整用流路に移動させることができ、前記分離用流路内を1個のターゲット細胞が存在する状態にすることができる。このため、前記接続流路を有するチップによれば、例えば、複数のターゲットを含む試料を用いても、1個のターゲット細胞から生体高分子を分離することができる。前記接続流路を有するチップは、例えば、複数のターゲット細胞から、1個のターゲット細胞を分離することができる。このため、前記接続流路を有するチップは、例えば、1個のターゲット細胞を分離するチップということもできる。また、前記接続流路を有することにより、前記チップは、例えば、前記ターゲット細胞をトラップ後、前記分離液等を前記分離用流路に導入することにより、前記チップ内の溶液を置換することができる。このため、前記接続流路を有するチップによれば、例えば、前記ターゲット細胞の洗浄、標識、前記ターゲット細胞以外の細胞由来の生体高分子の除去等ができる。

【0090】
前記接続流路の形状は、特に制限されず、例えば、前記分離用流路の断面形状の説明を援用できる。前記接続流路および前記分離用流路の形状は、同じでもよいし、異なってもよい。

【0091】
前記接続流路の大きさ(例えば、幅、深さ、径、断面積等)は、特に制限されず、例えば、前記ターゲット細胞が移動可能な大きさであればよく、前記ターゲット細胞の大きさに応じて適宜決定できる。前記接続流路の断面積および長さは、例えば、前記壁の開口に1個のターゲット細胞をより精度よくトラップできることから、前記壁の開口が前記ターゲット細胞をトラップしていない状態において、前記壁の開口を流れる前記試料の流量(F)と、前記接続流路を流れる前記試料の流量(F)との比(F:F)が、好ましくは、1:1~20:1の範囲、前記壁の開口に1個のターゲット細胞をより精度よくトラップでき、且つ前記残部の生体高分子をより簡便に回収できることから、より好ましくは、2:1~20:1の範囲となる断面積および長さを満たす。前記壁の開口を流れる前記試料の流量と、前記接続流路を流れる前記試料の流量との比は、例えば、前記開口の断面積および長さ、ならびに前記接続流路の断面積および長さから近似することができ、例えば、下記式(1)で近似できる。

【0092】
/F=(S/l)/(S/l)・・・(1)
:壁の開口を流れる試料の流量(m/sec)
:接続流路を流れる試料の流量(m/sec)
:開口の断面積(m
:開口の長さ(壁の長さ)(m)
:接続流路の断面積(m
:接続流路の長さ(m)

【0093】
前記接続流路は、例えば、前記分離用流路の前記壁から前記第1の開口部側、すなわち、前記上流流路と連通している。前記接続流路は、例えば、前記接続流路を介して、前記壁の開口にトラップされなかった細胞を前記調整用流路に移動させられるように、前記上流流路と連通していればよい。具体例として、前記接続流路は、例えば、前記上流流路の前記壁の近傍で連通しており、より具体的には、前記上流流路の前記壁から、前記ターゲット細胞の径と同程度離れた位置(例えば、10~30μm)で連通している。

【0094】
前記接続流路は、例えば、前記調整用流路の任意の位置で前記調整用流路と連通する。前記接続流路は、例えば、前記下流流路と前記調整用流路との連通部から、前記調整用流路の径と同程度離れた位置で連通している。

【0095】
本発明のチップが前記調整用流路と前記接続流路とを含む場合、前記チップは、例えば、前記分離用流路と前記調整用流路と前記接続流路との流路群を複数含み、前記流路群が、前記連続的に接続されたチップでもよい。具体的には、前記チップは、例えば、ある流路群の調整用流路の第3の開口部が、別の流路群の分離用流路の第1の開口部を兼ねるチップである。この場合、前記チップは、例えば、前記第1の開口部と前記第3の開口部とを兼ねる開口部を省略し、前記調整用流路と前記分離用流路とを直接的に連通してもよい。このように複数の流路群を含むことにより、前記チップは、例えば、複数のターゲット細胞を導入した際に、各流路群における分離用流路の壁の開口に、それぞれ、1個のターゲット細胞をトラップできる。このため、前記複数の流路群を含むチップによれば、複数のターゲット細胞を導入しても、生体高分子の分離に供されないターゲット細胞の数を低減できる。

【0096】
本発明のチップは、例えば、前記チップ自体が電極を備えてもよいし、前記チップをセットする装置が電極を備えてもよい。前記チップ自体が電極を備える場合、本発明の分析チップは、例えば、さらに、電極系を有してもよい。この場合、前記電極系が、1以上の電極を有する。前記電極系は、例えば、1つの電極を含んでもよいし、2つ以上の電極を含んでもよい。本発明のチップにおいて、前記電極の配置箇所は、特に制限されず、例えば、前記第1の開口部、上流流路、下流流路等があげられる。前記電極は、例えば、1箇所に配置してもよいし、2箇所以上に配置してもよい。また、本発明のチップが前記第2の開口部を有する場合、前記電極は、前記第2の開口部に配置してもよい。この場合、複数の電極が、それぞれ、前記第1の開口部内および前記第2の開口部内に位置するように配置されていることが好ましい。前記第1の開口部の電極は、例えば、前記上流流路内にその一部が配置されていてもよい。また、前記第2の開口部の電極は、例えば、前記下流流路内にその一部が配置されていてもよい。前記装置が電極を備える場合、前記電極は、例えば、前記チップへの挿入が可能な固体電極が好ましく、具体例として、線電極、棒電極等があげられる。本発明のチップにおいて、前記電極は、例えば、前記第1の開口部、前記上流流路および前記下流流路のいずれかが、前記チップ自体が備える電極とし、他方の電極が、前記チップをセットする装置が備える電極としてもよい。また、本発明のチップが前記第2の開口部を有する場合、前記電極は、例えば、前記第1の開口部内の電極および前記第2の開口部の電極の一方を、前記チップ自体が備える電極とし、他方の電極が、前記チップをセットする装置が備える電極としてもよい。

【0097】
前記チップ自体が、前記第1の開口部内に電極を備える場合、前記電極は、例えば、前記第1の開口部の内壁に固定化されていることが好ましい。前記チップ自体が、前記上流流路または前記下流流路に電極を備える場合、前記電極は、例えば、前記上流流路または前記下流流路の内壁に固定化されていることが好ましい。また、前記電極が前記下流流路に配置される場合、前記電極は、前記下流流路における前記壁と逆方向の端部の内壁に固定化されていることが好ましい。また、前記チップ自体が、前記第2の開口部内に電極を備える場合、前記電極は、例えば、前記第2の開口部の内壁に固定化されていることが好ましい。

【0098】
前記電極の材料は、特に制限されず、固形の導電材料であればよく、例えば、白金、金、炭素、亜鉛、真鍮、銅、ステンレス、鉄、銀/塩化銀、パラジウム、白金黒等があげられる。

【0099】
本発明のチップが前記第3の開口部を備える場合、前記複数の電極が、さらに、前記第3の開口部内および前記調整用流路内の少なくとも一方に位置するように配置されていることが好ましい。これにより、例えば、前記第3の開口部の電極に電圧を印加することで、前記細胞質の生体高分子の移動、前記分離用流路内のターゲット細胞の移動、および前記ターゲット細胞の前記壁の開口へのトラップを制御でき、前記細胞質の生体高分子の回収量を向上できる。前記第3の開口部の電極は、例えば、前記調整用流路内にその一部が配置されていてもよい。前記第3の電極は、例えば、前記チップ自体が備えてもよいし、前記チップをセットする装置が電極を備えてもよい。前者の場合、前記電極は、前記第3の開口部の内壁に固定化されていることが好ましい。

【0100】
本発明のチップにおいて、前記チップの基板上に配置される前記分離用流路の数は、特に制限されず、例えば、1個でもよいし、2個以上でもよい。後者の場合、前記分離用流路数は、例えば、4~400個、より具体的には、4、6、8、16、48、96、384個等があげられる。

【0101】
本発明のチップにおいて、前記試料は、前記ターゲット細胞を含めばよい。前記試料は、例えば、前記ターゲット細胞を含む細胞液、単離したターゲット細胞を含む細胞液等があげられる。前記試料は、例えば、1個のターゲット細胞を含んでもよいし、2個以上のターゲット細胞を含んでもよい。前記チップが接続流路を有さない場合、前記試料は、1個のターゲット細胞を含むことが好ましい。前記試料の体積は、特に制限されず、例えば、0.1~5μLである。

【0102】
本発明のチップにおいて、前記細胞質の生体高分子は、特に制限されず、細胞質中に存在する生体高分子であればよい。具体例として、前記細胞質の生体高分子は、例えば、細胞質基質の生体高分子および細胞小器官の生体高分子があげられる。前記細胞小器官の生体高分子は、例えば、葉緑体の生体高分子、ミトコンドリアの生体高分子、リポソームの生体高分子、小胞(ベシクル)の生体高分子、エンドソームの生体高分子、ゴルジ体の生体高分子、ペロキシソームの生体高分子、リソソームの生体高分子、ファゴソームの生体高分子、オートファゴソームの生体高分子、エンラージオソームの生体高分子等があげられる。本発明のチップにおいて分画される前記細胞質の生体高分子は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。また、本発明のチップにおいて分画される前記細胞質の生体高分子は、前記細胞質の生体高分子からなる生体高分子でもよいし、前記細胞質の生体高分子を含む生体高分子でもよい。後者の場合、前記細胞質の生体高分子は、例えば、核内RNAを含んでもよい。前記チップに印加する電圧を調整することで、例えば、所望の細胞質の生体高分子を分画できる。前記生体高分子は、例えば、体内に存在する高分子の有機化合物を意味し、具体例として、核酸、糖(多糖)、タンパク質、脂質等があげられる。前記核酸の種類は、特に制限されず、例えば、DNAでもよいし、RNAでもよい。前記脂質は、例えば、前記細胞膜等があげられる。

【0103】
本発明のチップの材料は、特に制限されず、例えば、電極を除き、前記チップの内壁が絶縁性材料で形成されていることが好ましく、より好ましくは、電極を除き、前記チップ全体が絶縁性材料から形成されていることが好ましい。本発明のチップの製造方法は、特に制限されず、例えば、射出成型等により、前記流路等を有する成型体を製造してもよいし、プレート等の基材に流路等を形成してもよい。前記流路等の形成方法は、特に制限されず、例えば、リソグラフィ、切削加工等があげられる。

【0104】
前記絶縁性材料は、特に制限されず、例えば、樹脂、シリコーン、ガラス、セラミックス、ゴム等があげられる。前記樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂ガラスエポキシ等のエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂等があげられる。前記シリコーンは、例えば、ポリジメチルシロキサン等があげられる。

【0105】
<生体高分子分画装置>
本発明の生体高分子分画装置(以下、「分画装置」ともいう)は、前記本発明の生体高分子分画用チップを備えることを特徴とする。本発明の分画装置は、前記本発明のチップを備えることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の分画装置によれば、例えば、前記分子篩機能を有する分子を含まない液体系においても、生体高分子を分画できる。本発明の分画装置は、例えば、前記本発明のチップの説明を援用できる。

【0106】
本発明の分画装置は、電圧印加手段を備えることが好ましい。前記電圧印加手段は、特に制限されず、例えば、前記チップの電極系に電圧を印加できればよく、公知の手段として電圧器等が使用できる。

【0107】
前記チップが電極系を備えない場合、本発明の分画装置は、さらに、電極系を備えることが好ましい。前記電極系の配置、材料等は、例えば、前述の説明を援用できる。

【0108】
<生体高分子の分画方法>
本発明の生体高分子の分画方法は、前述のように、ターゲット細胞を、開口を有する壁の開口にトラップするトラップ工程、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊することにより、前記ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を放出させる放出工程、および放出された細胞質の生体高分子を分離する分離工程を含むことを特徴とする。本発明の分画方法は、前記開口を有する壁を用いて、前記細胞質の生体高分子を分画することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の分画方法によれば、例えば、1個のターゲット細胞から、精度よく細胞質の生体高分子を分画できる。本発明の分画方法は、例えば、前記本発明のチップ、分画装置の説明を援用できる。

【0109】
本発明の分画方法において、前記壁の開口の数、ならびに前記壁の開口の径と、前記ターゲット細胞の径および前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部の径との説明は、前記本発明のチップの説明を援用できる。

【0110】
前記トラップ工程は、前記ターゲット細胞を、前記開口を有する壁の開口にトラップする工程である。前記ターゲット細胞を前記壁の開口にトラップする方法は、特に制限されず、前記壁の開口の一方から他方(例えば、下流流路の下流側の端部または第2の開口部)にむけた流れを生じさせ、前記流れにより前記ターゲット細胞をトラップする方法があげられる。前記流れは、例えば、浸透圧差、電気浸透流、誘電泳動、毛管現象等を利用し、生じさせることができる。

【0111】
前記放出工程は、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊することにより、前記ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を放出させる工程である。前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊する方法は、特に制限されず、公知の細胞膜の破壊方法により実施でき、具体例として、電気的な破壊方法、化学的な破壊方法、熱を用いた破壊方法、冷却を用いた破壊方法、音波あるいは超音波を用いた破壊方法、レーザーを用いた破壊方法、流れあるいは押し付けによる力学的な破壊方法等があげられる。前記電気的な破壊方法は、例えば、前記壁の開口を挟むように一対の電極を配置し、前記一対の電極に電圧を印加することにより、破壊する方法があげられる。前記一対の電極に印加する電圧は、例えば、後述する本発明のチップを用いた分画方法における放出工程および分離工程の説明における電圧の説明を援用できる。前記化学的な破壊方法は、例えば、界面活性剤と前記ターゲット細胞とを接触させることにより破壊する方法、浸透圧を利用する方法等があげられる。

【0112】
前記分離工程は、放出された細胞質の生体高分子を分離する工程である。前記分離工程では、放出された細胞質の生体高分子と、前記細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部、すなわち、残部の生体高分子とを分離する。前記細胞質の生体高分子の分離方法は、特に制限されず、例えば、前記残部の生体高分子が、前記壁の開口にトラップされた状態で、前記細胞質の生体高分子を前記残部の生体高分子から分離可能な方法があげられ、具体例として、電気泳動等の公知の電気的分離方法があげられる。前記電気的分離方法は、例えば、前記壁の開口を挟むように一対の電極を配置し、前記一対の電極に電圧を印加することにより、分離する方法があげられる。前記一対の電極に印加する電圧は、例えば、後述する本発明のチップを用いた分画方法における放出工程および分離工程の説明における電圧の説明を援用できる。前記細胞質の生体高分子の分離方法は、例えば、その他に、前記壁の周囲、具体的には、壁の一方から他方に向かう流れを生じさせ、この流れにより、前記細胞質の生体高分子を分離する方法があげられる。

【0113】
本発明において、前記トラップ工程と前記放出工程の順序は、特に制限されず、例えば、前記トラップ工程後に、前記放出工程を実施してもよいし、前記放出工程後に前記トラップ工程を実施してもよい。前記放出工程において、前記電気的な破壊方法により前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊する場合、前記ターゲット細胞がトラップされる前記壁の開口の周囲の電流密度を増加させることができ、前記開口を有する壁を有さない分離用流路(例えば、前記特許文献1の分離用流路)と比較して、より低い電圧で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊できることから、前記トラップ工程後に前記放出工程を実施することが好ましい。

【0114】
本発明の分画方法は、例えば、前記本発明のチップを用いて実施することもできる。この場合、本発明の分画方法は、例えば、前記第1の開口部から前記ターゲット細胞を含む試料を導入する導入工程、前記ターゲット細胞を、前記壁の開口にトラップするトラップ工程、前記ターゲット細胞から生体高分子を放出させる放出工程、および前記壁を基準として前記ターゲット細胞がトラップされる側とは逆方向の前記分離用流路に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する分離工程を含む。前記ターゲット細胞を前記壁の開口の上流流路側にトラップする場合、前記分離工程では、例えば、前記細胞質の生体高分子を前記下流流路に分離する。また、前記ターゲット細胞を前記壁の開口の下流流路側にトラップする場合、前記分離工程では、例えば、前記細胞質の生体高分子を前記上流流路に分離する。以下、前記壁の開口の上流流路側にトラップし、前記分離用流路に電圧を印加することにより、前記放出工程および前記分離工程を実施する場合を例にあげて説明するが、本発明は、これに何ら限定されない。

【0115】
前記本発明のチップを用いて、本発明の分画方法を実施する場合、本発明の分画方法は、さらに、前記分離用流路に前記分離液を供給する工程を含んでもよい。前記分離液は、例えば、前述の説明を援用できる。

【0116】
前記導入工程は、前記第1の開口部から前記ターゲット細胞を含む試料を導入する工程である。前記試料の導入方法は、特に制限されず、例えば、公知の分注手段等を用いることができる。前記導入工程において、導入される試料の体積は、例えば、前述の説明を援用できる。

【0117】
前記トラップ工程は、前記ターゲット細胞を、前記壁の開口にトラップする工程である。前記試料が圧等を加えずに前記第1の開口部から前記分離用流路に導入される場合、前記ターゲット細胞は、例えば、前記試料または前記分離液の流れにより、前記分離用流路内を前記壁の方向に移動し、前記壁の開口にトラップされる。また、前記試料が圧等を加えることにより、前記第1の開口部から前記分離用流路に導入される場合、前記ターゲット細胞は、例えば、前記第1の開口部から前記下流流路方向(例えば、前記第2の開口部方向)への電気浸透流を生じさせることにより、前記分離用流路内を前記壁の方向に移動し、前記壁の開口にトラップされる。前記電気浸透流は、例えば、前記第1の開口部の電極と前記下流流路側の電極(例えば、前記下流流路の電極、前記第2の開口部の電極等)とに電圧を印加することにより生じる。また、前記チップが前記第3の開口部を有する場合、例えば、前記第1の開口部から前記第3の開口部への前記試料もしくは前記分離液の流れ、または前記電気浸透流等により、前記ターゲット細胞は、前記分離用流路内を前記壁の方向に移動し、前記壁の開口にトラップされてもよい。

【0118】
前記放出工程は、例えば、前記分離用流路に電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞から生体高分子を放出させる工程である。また、前記分離工程は、例えば、前記下流流路側(例えば、前記第2の開口部側)に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する工程である。具体的に、前記放出工程は、例えば、前記第1の開口部の電極および前記下流流路側の電極(例えば、前記下流流路の電極、前記第2の開口部の電極等)に電圧を印加することにより実施できる。また、前記分離工程は、前記第1の開口部の電極および前記下流流路側の電極に電圧を印加することにより実施できる。前記分離用流路への電圧印加は、例えば、電圧印加手段により実施できる。前記電圧印加手段は、例えば、前述の説明を援用できる。前記第1の開口部の電極および前記下流流路側の電極に印加する電圧は、特に制限されず、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕できる電圧であればよく、例えば、前記分離液の種類に応じて、適宜設定できる。具体的に、前記第1の開口部の電極の電圧(V)と、前記下流流路側の電極の電圧(V)との差の絶対値(|V-V|)が、例えば、50~1000Vの範囲である。具体例として、VとVとの組合せは、特に制限されず、Vが0Vの場合、Vは、例えば、-50~-1000Vであり、Vが0Vの場合、Vは、例えば、50~1000Vである。前記チップが前記第3の開口部を有する場合、前記第3の開口部の電極に電圧を印加してもよい。前記第3の開口部の電極の電圧は、例えば、前記調整用流路内の液体中の陰イオンが、前記分離用流路へ流入することにより、前記分離用流路から前記調整用流路への陰イオンの流出を抑制可能な範囲で、適宜設定できる。前記第1の開口部の電極の電圧および前記下流流路側の電極の電圧が前記具体例の範囲の場合、前記第3の開口部の電極の電圧は、例えば、-50~-1000Vに設定できる。前記電極への電圧の印加時間は、例えば、前記電圧印加後の電流値が平衡状態に達する時間であり、具体例として、10~500秒に設定できる。

【0119】
本発明の分画方法は、さらに、前記細胞質の生体高分子を精製する工程を含むことが好ましい。前記精製工程では、例えば、前記細胞質の生体高分子に含まれる複数の生体高分子のうち、いずれか1つまたは2つ以上の生体高分子を精製する。本発明の分画方法は、前記精製工程を含むことにより、例えば、前記ターゲット細胞の細胞膜の破砕により、放出されたタンパク質と、前記細胞質の核酸とを分離でき、例えば、より純度の高い前記細胞質の核酸を分画できる。前記細胞質の核酸の精製方法は、特に制限されず、公知のタンパク質と核酸との分画方法が利用でき、例えば、等速電気泳動法等により実施できる。

【0120】
本発明の分画方法は、さらに、前記分離工程において、分離された細胞質の生体高分子を、所定位置まで輸送してもよい。前記所定位置は、例えば、前記本発明のチップにおける第1の開口部、上流流路、下流流路、第2の開口部等があげられる。前記輸送は、例えば、前記分離方法と同様にして実施できる。

【0121】
本発明の分画方法は、例えば、さらに、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の少なくとも一方を回収する回収工程を含んでもよい。前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の回収は、例えば、マイクロマニピュレータ、マイクロピペット等の吸引手段等を用いて、実施できる。本発明の分画方法が前記本発明のチップを用い、前記細胞質の生体高分子を前記下流流路側に分離する場合、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子は、例えば、前記第1の開口部から回収できる。また、前記本発明のチップが前記第2の開口部を有する場合、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子は、例えば、それぞれ、前記第2の開口部および前記第1の開口部から回収できる。本発明の分画方法は、例えば、前記残部の生体高分子のみを回収してもよい。前記残部の生体高分子は、例えば、前記吸引手段を用いて、前記第1の開口部から回収できる。また、前記本発明のチップが前記捕獲部を有する場合、例えば、前記捕獲部を回収することにより、前記捕獲部に捕獲された前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の少なくとも一方の生体高分子を回収できる。

【0122】
前記生体高分子が核酸である場合、本発明の分画方法は、例えば、前記分離された細胞質の核酸および前記残部の核酸の少なくとも一方の核酸を増幅する増幅工程を含んでもよい。また、前記核酸がRNAの場合、本発明の分画方法は、前記増幅工程に先立ち、前記RNAからcDNAを合成する逆転写工程を含んでもよい。本発明の分画方法は、このような工程を含むことにより、分離した細胞質の核酸および他の核酸から核酸分析方法に供するための核酸試料を作製することができる。前記核酸試料は、例えば、cDNAライブラリということもできる。前記核酸の増幅および逆転写は、例えば、公知の核酸増幅方法および核酸の逆転写方法により実施できる。

【0123】
本発明の分画方法は、さらに、前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の分画状態を保持する保持工程を含んでもよい。これにより、前記分画された細胞質の生体高分子および残部の生体高分子が再混合することを防止できる。前記分画状態の保持は、例えば、前記分画された細胞質の生体高分子および残部の生体高分子の再混合を防止できる程度に、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の少なくとも一方の生体高分子の移動を抑制することを意味する。前記分画状態の保持は、例えば、前記分画された細胞質の生体高分子および残部の生体高分子間の液体をゲル化、固体化等することにより実施できる。前記ゲル化により前記分画状態を保持する場合、例えば、PEG-DA(Poly(ethylene glycol) diacrylate)、Pluronic(登録商標) F127、gelatin methacrylateの刺激応答性のゲル化剤を、前記分画された細胞質の生体高分子および残部の生体高分子間の液体と混合または置換させ、刺激を加えることにより分画状態を保持できる。また、前記液体移動制御部を有する本発明のチップを使用し、本発明の分画方法を実施する場合、前記分画状態の保持は、例えば、前記液体移動制御部により実施できる。具体例として、前記下流流路に前記液体移動制御部を有するチップを用い、前記下流流路側に前記細胞質の生体高分子を分離する場合、前記液体移動制御部として、前記下流流路から前記上流流路方向へ前記分離用流路内の液体の移動を抑制する液体移動制御部を用いることで、前記分離工程において、前記細胞質の生体高分子を、前記液体移動制御部より下流側に輸送することにより、前記分画された細胞質の生体高分子および細胞質の生体高分子の分離後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の分画状態を保持することができる。

【0124】
<生体高分子の分析方法>
本発明の生体高分子の分析方法は、前述のように、ターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分画する分画工程、および前記細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分画後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を分析する分析工程を含み、前記分画工程が、前記本発明の生体高分子の分画方法により実施されることを特徴とする。本発明の分析方法は、前記分画工程が、前記本発明の分画方法により実施されることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の分析方法によれば、例えば、1個のターゲット細胞から、精度よく細胞質の生体高分子を分画し、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子を分析できる。本発明の分析方法は、前記本発明の分画方法の説明を援用できる。本発明において、分析は、例えば、定性分析および定量分析のいずれの意味も含む。

【0125】
本発明の分析方法は、例えば、前記本発明のチップを用いて前記分画工程を実施する場合、さらに、前記ターゲット細胞を含む試料を調製する工程を含んでもよい。前記試料の調製方法は、特に制限されず、前記ターゲット細胞の種類に応じて、適宜決定できる。1個のターゲット細胞を含む試料を調製する場合、前記試料は、例えば、フローサイトメーターを用い、所望の1個のターゲット細胞を分離することにより、調製できる。また、前記試料は、例えば、マイクロマニピュレータ、マイクロピペット等の吸引手段を用い、所望の1個のターゲット細胞を分離することにより、調製できる。

【0126】
前記分画工程は、例えば、前記生体高分子の分画方法の説明を援用できる。

【0127】
前記分析工程では、前記細胞質の生体高分子および前記細胞質の生体高分子の分画(分離)後のターゲット細胞の残部が含む生体高分子の少なくとも一方を分析する。前記分析工程では、例えば、前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子のいずれかを分析してもよいし、両者を分析してもよい。前記残部の生体高分子は、例えば、前記分画工程において、分画された生体高分子以外の生体高分子であり、具体的には、核の生体高分子等があげられる。前記分画工程において、前記細胞質の生体高分子の一部の核酸を分画した場合、前記残部の生体高分子は、例えば、分画しなかった他の細胞質の生体高分子を含んでもよい。

【0128】
前記細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の分析方法は、特に制限されず、前記分析の対象および目的に応じて適宜決定できる。具体例として、前記生体高分子が核酸であり、分析対象の核酸の有無を分析する場合、例えば、前記分析対象の核酸にハイブリダイズするプローブを用い、融解曲線法等により分析できる。前記分析対象の核酸の発現量を分析する場合、例えば、PCR、qRT-PCR等により分析できる。また、複数の分析対象の核酸の発現パターンを分析する場合、例えば、RNA-Seq等のトランスクリプトーム解析、DNAマイクロアレイ解析等により分析できる。また、前記生体高分子が糖であり、糖の分子量、構造等を分析する場合、液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-TOF-MS)により分析できる。前記生体高分子がタンパク質であり、分析対象のタンパク質有無、量等を分析する場合、ウエスタンプロット(western blotting)、extended ligation assay、proximity ligation assay等により分析できる。

【0129】
本発明の分析方法は、さらに、分析された細胞質の生体高分子および残部の生体高分子の少なくとも一方を回収する工程を含んでもよい。前記分析された細胞質の生体高分子および前記残部の生体高分子の回収方法は、特に制限されず、例えば、前記本発明の分画方法における回収工程の説明を援用できる。

【0130】
本発明の分析方法は、例えば、さらに、前記本発明の分画方法における増幅工程、逆転写工程、および/または保持工程を含んでもよい。前記増幅工程、前記逆転写工程、および前記保持工程は、前記本発明の分画方法の説明を援用できる。

【0131】
つぎに、本発明のチップおよび分画方法について、図面を参照し、例をあげて詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定されない。なお、各図において、同一部分には、同一符号を付しており、特に示さない限り、各形態の記載を援用できる。また、図面は、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の大きさ、その比率等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。

【0132】
(実施形態1)
図1は、本発明のチップの一例を示す概略図であり、(A)は、上面図、(B)は、前記(A)のI-I方向からみた断面図、(C)は、前記(A)のII-II方向からみた断面図である。図1に示すように、チップ10は、上基板1aと下基板1bとからなる基板1を有する。上基板1aは、2つの貫通孔12および13と、下表面における凹部14、15a、15b、15c、16とを有し、これらは、上基板1aと下基板1bとの積層により、それぞれ、第1の開口部12、第2の開口部13、上流流路14、トラップ口15a、バイパス口15b、15c、下流流路16を構成している。また、上基板1aは、下表面における凹部15a、15b、15cの間の2つの凸部17a、17bを有し、これらは、上基板1aと下基板1bとの積層により、壁17a、17bを構成している。第1の開口部12と第2の開口部13とは、上流流路14、開口15、および下流流路16を含む分離用流路11で連通する。

【0133】
チップ10の大きさは、特に制限されず、以下の条件が例示できる。
第1の開口部12
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
第2の開口部13
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
上流流路14
長さ 10~5000μm(例えば、200μm)
幅 20~500μm(例えば、50μm)
深さ 15~40μm(例えば、25μm)
トラップ口15a
長さ 1~20μm(例えば、10μm)
幅 1~10μm(例えば、3μm)
深さ 0.1~40μm、15~40μm(例えば、25μm)
バイパス口15b、15c
長さ 1~200μm(例えば、5μm)
幅 0.1~3μm(例えば、3μm)
深さ 1~40μm(例えば、25μm)
下流流路16
長さ 5000~20000μm(例えば、20000μm)
幅 10~300μm(例えば、50μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)

【0134】
まず、チップ10の第1の開口部12に前記分離液を導入することで、分離用流路11に前記分離液を充填する。また、これにより第1の開口部12から第2の開口部13への分離液の流れを生じさせる。そして、前記試料を第1の開口部12に導入する。前記試料は、前記分離液の流れにより第2の開口部13方向へ移動し、前記試料中のターゲット細胞が、トラップ口15aにトラップされる。前記トラップ後、例えば、第1の開口部12の溶液を前記分離液と置換してもよい。

【0135】
つぎに、チップ10は、例えば、電圧印加手段を備える分画装置を使用することで、生体高分子を分離できる。この際、電圧を印加する電極系は、前記分画装置が備えてもよいし、チップ10が備えてもよい。前者の場合、前記分画装置の電極系を、チップ10の第1の開口部12および第2の開口部13に挿入すればよい。

【0136】
そして、前記分画装置の前記電圧印加手段により前記電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕する。そして、前記ターゲットから生体高分子を放出させ、前記第2の開口部13側に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する。他方、核の生体高分子等の分離されなかった残部の生体高分子は、トラップ口15aにトラップされる。そして、第2の開口部13から前記細胞質の生体高分子を、第1の開口部12から前記残部の生体高分子を回収する。

【0137】
(実施形態2)
図2は、本発明のチップの一例を示す概略図であり、(A)は、上面図、(B)は、前記(A)の(B)で示す二点鎖線で囲った領域の拡大図(上面図)、(C)は、前記(B)のI-I方向からみた断面図、(D)は、前記(A)の(D)で示す二点鎖線で囲った領域の拡大図(上面図)である。図2に示すように、本実施形態のチップ20は、さらに、調整用流路21、第3の開口部22、および接続流路23を含み、壁17の開口15が1つであること以外、図1に示したチップと同様の構成を有する。調整用流路21は、下流流路16の壁17の近傍で下流流路16と連通する。また、接続流路23は、一端が、上流流路14の壁17近傍で上流流路14と連通し、他端が、調整用流路21と連通する。

【0138】
チップ20の大きさは、特に制限されず、以下の条件が例示できる。
第1の開口部12
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
第2の開口部13
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
上流流路14
長さ 10~5000μm(例えば、200μm)
幅 20~500μm(例えば、50μm)
深さ 15~40μm(例えば、25μm)
開口15
長さ 1~20μm(例えば、10μm)
幅 1~10μm(例えば、3μm)
深さ 0.1~40μm、15~40μm(例えば、25μm)
下流流路16
長さ 5000~20000μm(例えば、20000μm)
幅 10~300μm(例えば、50μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)
調整用流路21
長さ 3000~40000μm(例えば、11000μm)
幅 20~500μm(例えば、50μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)
第3の開口部22
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 10~100μL(例えば、60μL)
接続流路23
長さ 20~20000μm(例えば、10000μm)
幅 20~300μm(例えば、25μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)

【0139】
まず、チップ20の第1の開口部12および第2の開口部13に前記分離液を導入し、第3の開口部22から吸引することで、分離用流路11、調整用流路21、接続流路23に前記分離液を充填する。また、これにより、第1の開口部12から第3の開口部22への分離液の流れを生じさせる。そして、前記試料を第1の開口部12に導入する。前記試料は、前記分離液の流れにより第3の開口部22方向へ移動し、前記試料中のターゲット細胞が、開口15にトラップされる。前記試料が複数のターゲット細胞を含む場合、トラップされなかった細胞は、接続流路23を介して、調整用流路21へと移動する。そして、第3の開口部22に前記分離液を導入し、第1の開口部12から第3の開口部22への流れを緩和する。

【0140】
つぎに、チップ20は、例えば、電圧印加手段を備える分画装置を使用することで、生体高分子を分離できる。この際、電圧を印加する電極系は、前記分画装置が備えてもよいし、チップ20が備えてもよい。前者の場合、前記分画装置の電極系を、チップ20の第1の開口部12および第2の開口部13に挿入すればよい。

【0141】
そして、前記分画装置の前記電圧印加手段により前記電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕する。そして、前記ターゲットから生体高分子を放出させ、前記第2の開口部13側に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する。他方、核の生体高分子等の分離されなかった残部の生体高分子は、開口15にトラップされる。また、前記細胞質の生体高分子の調整用流路21への導入を抑制する場合、第3の開口部22に電極を配置し、前記電圧印加手段により電圧を印加してもよい。

【0142】
(実施形態3)
図3は、本発明のチップの一例を示す上面図である。図3に示すように、チップ30は、分離用流路11と、第1の開口部12と、吸引吐出部31と、捕獲部32とを有する。分離用流路11は、上流流路14、開口17および下流流路16を有し、壁17は、壁17aおよび17bと、開口15とを有する。また、下流流路16には、捕獲部32が配置され、また、下流流路16の第1の開口部12と反対方向の端には、吸引吐出部31が接続されている。第1の開口部12は、上流流路14、開口15、および下流流路16を含む分離用流路11と連通する。

【0143】
チップ30の大きさは、特に制限されず、以下の条件が例示できる。また、チップ30において、捕獲部32は、下流流路16において、開口15から0~20000μmの位置に配置されている。
第1の開口部12
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
上流流路14
長さ 10~5000μm(例えば、200μm)
幅 20~500μm(例えば、50μm)
深さ 15~40μm(例えば、25μm)
開口15
長さ 1~20μm(例えば、10μm)
幅 1~10μm(例えば、3μm)
深さ 0.1~40μm、15~40μm(例えば、25μm)
下流流路16
長さ 5000~20000μm(例えば、20000μm)
幅 10~300μm(例えば、50μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)

【0144】
まず、チップ30の第1の開口部12に前記試料を導入する。導入された試料は、分離用流路11において、上流流路14から開口15を介して、下流流路16方向に移動する。この際に、前記試料中のターゲット細胞が、開口15にトラップされる。

【0145】
つぎに、チップ30は、例えば、第1の開口部12から界面活性剤を含む溶液を導入することにより、開口15にトラップされたターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、これにより、ターゲットから生体高分子を放出させる。そして、吸引吐出部31により吸引することにより、下流流路16側に前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離することで、下流流路16に配置された捕獲部32に前記細胞質の生体高分子が捕獲される。他方、核の生体高分子等の残部の生体高分子は、開口15にトラップされる。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、まず、開口15にトラップされていた残部の生体高分子を回収する。さらに、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、まず、捕獲部32にトラップされていた細胞質の生体高分子を回収する。

【0146】
(変形例1)
図4は、本発明のチップの一例を示す上面図である。図4に示すように、変形例1のチップ40は、吸引吐出部31として、吸引吐出部31aおよび31bを有する。また、チップ40において、吸引吐出部31aおよび31bは、下流流路16に接続されている。また、下流流路16の第1の開口部12と反対方向の端には、吸引吐出部31aが接続されている。そして、吸引吐出部31aと下流流路16との接続部より開口15側において、吸引吐出部31bが接続されている。吸引吐出部31aと下流流路16との接続部および吸引吐出部31bと下流流路16との接続部の間に、捕獲部32が配置されている。この点を除き、変形例1のチップ40は、前記実施形態3のチップ30と同様の構成を有し、その説明を援用できる。

【0147】
まず、チップ40の第1の開口部12に前記試料を導入する。導入された試料は、分離用流路11において、上流流路14から開口15を介して、下流流路16方向に移動する。この際に、前記試料中のターゲット細胞が、開口15にトラップされる。

【0148】
つぎに、チップ40は、例えば、第1の開口部12から界面活性剤を含む溶液を導入することにより、開口15にトラップされたターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、これにより、ターゲットから生体高分子を放出させる。そして、吸引吐出部31aにより吸引することにより、下流流路16側に前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離することで、下流流路16に配置された捕獲部32に前記細胞質の生体高分子が捕獲される。他方、核の生体高分子等の残部の生体高分子は、開口15にトラップされる。つぎに、例えば、吸引吐出部31bにより吐出することで、下流流路16から第1の開口部12への流れを生じさせることにより、開口15にトラップされた前記残部の生体高分子を開口15から第1の開口部12へ移動させる。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、前記残部の生体高分子を回収する。さらに、吸引吐出部31aにより吐出することで、下流流路16から第1の開口部12への流れを生じさせることにより、捕獲部32にトラップされた前記細胞質の生体高分子を捕獲部32から第1の開口部12へ移動させる。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、前記細胞質の生体高分子を回収する。

【0149】
(実施形態4)
図5は、本発明のチップの一例を示す上面図である。図5に示すように、チップ50は、分離用流路11と、第1の開口部12と、電極33とを有する。分離用流路11は、上流流路14、壁17および下流流路16を有し、壁17は、壁17aおよび17bと、開口15とを有する。また、下流流路16の第1の開口部12と反対方向の端には、電極33が配置されている。第1の開口部12は、上流流路14、開口15、および下流流路16を含む分離用流路11と連通する。チップ50の大きさは、特に制限されず、例えば、チップ30の大きさの説明を援用できる。

【0150】
まず、チップ50の第1の開口部12に前記試料を導入する。導入された試料は、分離用流路11において、上流流路14から開口15を介して、下流流路16方向に移動する。この際に、前記試料中のターゲット細胞が、開口15にトラップされる。

【0151】
つぎに、チップ50は、例えば、電圧印加手段を備える分画装置を使用することで、生体高分子を分離できる。この際、電圧を印加する電極系は、前記分画装置が備えてもよいし、チップ50が備えてもよい。前者の場合、前記分画装置の電極系を、チップ50の第1の開口部12に挿入すればよい。

【0152】
そして、前記分画装置の前記電圧印加手段により前記電圧を印加することにより、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕する。そして、前記ターゲットから生体高分子を放出させ電極33側に、前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離する。他方、核の生体高分子等の分離されなかった残部の生体高分子は、開口15にトラップされる。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、まず、開口15にトラップされていた残部の生体高分子を回収する。さらに、再度、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、前記細胞質の生体高分子を回収する。

【0153】
(実施形態5)
図6は、本発明のチップの一例を示す上面図である。図6に示すように、チップ60は、分離用流路11と、第1の開口部12と、吸引吐出部31と、液体移動制御部34と、バイパス流路35と、第2の液体移動制御部36aおよび36bとを有する。分離用流路11は、上流流路14、壁17および下流流路16を有し、壁17は、壁17aおよび17bと、開口15とを有する。また、下流流路16の第1の開口部12と反対方向の端には、吸引吐出部31が接続されている。液体移動制御部34は、開口15と、上流流路14およびバイパス流路35の接続部との間に配置されている。そして、第2の液体移動制御部36aは、バイパス流路35と上流流路14との接続部(連通部)に隣接するように配置されている。第2の液体移動制御部36bは、バイパス流路35と下流流路16との接続部に隣接するように配置されている。上流流路14および下流流路16は、バイパス流路35に連通されている。また、第1の開口部12は、上流流路14、開口15、および下流流路16を含む分離用流路11と連通する。チップ60の大きさは、特に制限されず、例えば、チップ30の大きさの説明を援用できる。

【0154】
まず、チップ60において、液体移動制御部34を液体が通過できないようにする。また、第2の液体移動制御部36aおよび36bを液体が通過できるようにする。つぎに、第1の開口部12に前記試料を導入する。そして、吸引吐出部31で吸引することにより、バイパス流路35を介して下流流路16に、前記試料中のターゲット細胞が導入される。

【0155】
つぎに、液体移動制御部34を液体が通過できるようにし、また、第2の液体移動制御部36aおよび36bを液体が通過できないようにする。そして、吸引吐出部31により吐出することで、下流流路16から第1の開口部12への流れを生じさせる。この際、前記ターゲット細胞が、開口15にトラップされる。

【0156】
つぎに、チップ60は、例えば、第1の開口部12から界面活性剤を含む溶液を導入することにより、開口15にトラップされたターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、これにより、ターゲットから生体高分子を放出させる。そして、吸引吐出部31により吐出することにより、上流流路14側に前記ターゲット細胞の細胞質の生体高分子を分離し、さらに、第1の開口部12へ移動させる。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、前記細胞質の生体高分子を回収する。さらに、吸引吐出部31により吸引することにより、開口15にトラップされた前記残部の生体高分子を開口15から下流流路16に移動させる。そして、液体移動制御部34を液体が通過できないようにし、また、第2の液体移動制御部36aおよび36bを液体が通過できるようにする。その後、吸引吐出部31により吐出することで、前記残部の生体高分子は、バイパス流路35および上流流路14を介して、第1の開口部12へ移動する。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第1の開口部12から、吸引することで、前記残部の生体高分子を回収する。

【0157】
(実施形態6)
図7は、本発明のチップの一例を示す上面図である。図7に示すように、チップ70は、分離用流路11と、第1の開口部12と、第2の開口部13と、液体移動制御部34とを有する。分離用流路11は、上流流路14、壁17および下流流路16を有し、壁17は、壁17aおよび17bと、開口15とを有する。また、下流流路16には、液体移動制御部34が配置されている。第1の開口部12および第2の開口部13は、上流流路14、開口15、および下流流路16を含む分離用流路11と連通する。液体移動制御部34は、例えば、前記マイクロバルブである。

【0158】
チップ70の大きさは、特に制限されず、以下の条件が例示できる。また、チップ70において、液体移動制御部34は、下流流路16において、開口15から0~20000μmの位置に配置されている。
第1の開口部12
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~500μL、5~60μL(例えば、50、10μL)
第2の開口部13
直径 3~10mm(例えば、5mm)
容積 5~60μL(例えば、10μL)
上流流路14
長さ 10~5000μm(例えば、200μm)
幅 20~500μm(例えば、50μm)
深さ 15~40μm(例えば、25μm)
開口15
長さ 1~20μm(例えば、10μm)
幅 1~10μm(例えば、3μm)
深さ 0.1~40μm、15~40μm(例えば、25μm)
下流流路16
長さ 5000~20000μm(例えば、20000μm)
幅 10~300μm(例えば、50μm)
深さ 5~40μm(例えば、25μm)

【0159】
まず、液体移動制御部34を解放し、通液可能とする。つぎに、チップ70の第1の開口部12に前記試料を導入する。導入された試料は、分離用流路11において、上流流路14から開口15を介して、下流流路16方向に移動する。この際に、前記試料中のターゲット細胞が、開口15にトラップされる。

【0160】
つぎに、チップ70は、例えば、電圧印加手段を備える分画装置を使用することで、生体高分子を分離できる。この際、電圧を印加する電極系は、前記分画装置が備えてもよいし、チップ70が備えてもよい。前者の場合、前記分画装置の電極系を、チップ70の第1の開口部12および第2の開口部13に挿入すればよい。また、チップ70は、第1の開口部12から界面活性剤を含む溶液を導入することにより、開口15にトラップされたターゲット細胞の細胞膜を破壊してもよい。

【0161】
つぎに、分離用流路11に電圧を印加することにより、前記細胞質の生体高分子を、下流流路16において、液体移動制御部34と第2の開口部13との間に分離する。さらに、前記分離後、液体移動制御部34を閉塞し、通液できないようにする。そして、例えば、前記吸引手段を用い、第2の開口部13から前記細胞質の生体高分子を、第1の開口部12から前記残部の生体高分子を回収する。
【実施例】
【0162】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0163】
[実施例1]
本発明のチップを作製し、核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0164】
(1)チップ
図1に示すチップ10を作製した。チップ10の各部位の大きさは、以下の通りとした。
第1の開口部12
直径 5mmの円柱形、容積 10μL
第2の開口部13
直径 5mmの円柱形、容積 10μL
上流流路14
長さ 4600μm、幅 50μm、深さ 25μm
トラップ口15a
長さ 5μm、幅 3μm、深さ 25μm
バイパス口15b、15c
長さ 5μm、幅 3μm、深さ 25μm
下流流路16
長さ 20000μm、幅 50μm、深さ 25μm
【実施例】
【0165】
液状のPDMS(Sylgard 184, Dow Corning社製)をマイクロ流路の鋳型に流し入れ、脱気後、150℃のオーブンにおいて30分加熱することでPDMSを固形化させた。前記固形化したPDMSを、カミソリを用いて切り出した後、分離用流路11の両端に第1の開口部12および第2の開口部13を、パンチを用いて作製し、流路構造体を得た。得られた流路構造体をガラス基板にプラズマ接合を利用して封止した。
【実施例】
【0166】
(2)試料
浮遊細胞であるK562細胞(医薬基盤研究所から入手)を37℃、5%COの条件下で培養した。培養液は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640培養液(SigmaAldrich社製)を使用した。前記培養後、前記細胞を回収し、ピペットにより撹拌することにより一細胞化した。つぎに、1000rpmで3分遠心後、上清を除去し、細胞分散液に分散した。前記細胞分散液の組成は、50mmol/L Tris、25mmol/L HEPES、175mmol/L スクロースとし、pHは、8.3とした。前記分散後の細胞は、後述するチップ10の第1の導入口12への導入に先立ち、前記細胞分散液で、さらに、20倍以上に希釈し、希釈後の細胞懸濁液を試料として使用した。
【実施例】
【0167】
(3)核酸分画
チップ10の第1の開口部12に10μLの分離液1を導入した。前記分離液1の組成は、50mmol/L Trisおよび25mmol/L HClとし、pHは、8.2とした。つぎに、第2の開口部13から10μLの分離液1を除去し、さらに、第1の開口部12に10μLの分離液1を導入することにより、第1の開口部12から第2の開口部13への分離液の流れを生じさせた。さらに、K562細胞を1個含む試料を第1の開口部12の内部に導入した。前記細胞は、前記分離液の流れにより、第2の開口部13方向に移動し、トラップ口15aにトラップされた。前記細胞が、トラップ口15aにトラップされたことは、光学顕微鏡(IX73、オリンパス社製)により確認した。そして、第1の開口部12内の液を10μLの分離液2に置換し、第2の開口部13に10μLの分離液1を導入した。前記分離液2の組成は、50mmol/L Trisおよび25mmol/L HEPESとし、pHは、8.2とした。
【実施例】
【0168】
第1の開口部12および第2の開口部13に白金線電極(直径0.8mm)を挿入後、第1の開口部12の電極に-150V、第2の開口部13の電極に0Vの電圧を印加した。前記電圧印加時にあわせ、第1の開口部12および第2の開口部13から供給される電流を計測した。そして、計測した電流値が一定値となるまで、電圧を印加することにより、前記細胞質の生体高分子を分離した。前記分離後、前記光学顕微鏡により、細胞膜を破砕された細胞(ターゲット細胞の残部)がトラップ口15aにトラップされていることを確認した。
【実施例】
【0169】
前記分画後、チップ10内の分離液1を、第2の開口部13から全量回収した。前記回収した分離液1について、逆転写キット(TaqMan RNA-to-Ct 1-Step Kit、Thermo Fisher Scientific社製)、RT-PCRキット(gene expression assay、Thermo Fisher Scientific社製)およびサーマルサイクラー(LightCycler96、Roche社製)を用い、添付のプロトコルに基づき実施した。プライマーは、GAPDHプライマー(Hs02758991_g1、Applied Biosystems社製)を用いた。具体的に、9μLの前記回収した分離液1を含む、合計20μLの反応液について、48℃15分の条件で逆転写を行い、さらに、95℃15分の条件でインキュベート後、95℃15秒、60℃1分を1サイクルとし、50回、前記サイクルを実施した。そして、60℃でインキュベート中に蛍光強度を測定し、GAPDHの発現量を測定した。この結果、GAPDHの発現が確認されたことから、細胞質中に存在するGAPDH mRNAが分画できていることが確認できた。以上のことから、本発明のチップにより、細胞質の核酸を分画できることが分かった。
【実施例】
【0170】
[実施例2]
本発明のチップを作製し、核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0171】
(1)チップ
図2に示すチップ20を作製した。チップ20の各部位の大きさは、以下の通りとした。そして、実施例1(1)と同様にして、チップ20を作製した。調整用流路21は、壁17から30μm下流側で、下流流路16と連通させた。
第1の開口部12
直径 5mmの逆円錐形、容積 10μL
第2の開口部13
直径 5mmの逆円錐形、容積 10μL
上流流路14
長さ 4600μm、幅 50μm、深さ 25μm
開口15
長さ 5μm、幅 3μm、深さ 25μm
下流流路16
長さ 20000μm、幅 50μm、深さ 25μm
調整用流路21
長さ 1100μm、幅 50μm、深さ 25μm
第3の開口部22
直径 5mmの円柱形、容積 60μL
接続流路23
長さ 7310μm、幅 25μm、深さ 25μm
【実施例】
【0172】
(2)試料
前記実施例1(2)と同様に、K562細胞を培養、回収および遠心後、上清を除去し、前記細胞分散液に分散した。
【実施例】
【0173】
(3)核酸分画
チップ20には、第1の開口部12に10μLの分離液1を第2の開口部13に10μLの分離液1を導入した。なお、本実施例の分離液1には、SYBR(登録商標)Green II(Thermo Fisher Scientific社製)を添加したものを使用した。つぎに、第3の開口部22から吸引することにより第1の開口部12から第3の開口部22への分離液の流れを生じさせた。さらに、第1の開口部12内の液を10μLの分離液2に置換し、第2の開口部13内の液を10μLの分離液1に置換した。さらに、K562細胞を複数個含む試料を第1の開口部12の内部に導入した。前記細胞は、分離液の流れにより、第3の開口部22方向に移動し、1個のK562細胞は、開口15にトラップされ、他の細胞は、接続流路23を介して、調整用流路21へ移動した。前記1個のK562細胞が、開口15にトラップされたことは、前記光学顕微鏡により確認した。そして、第3の開口部22に69μLの分離液2を導入した。
【実施例】
【0174】
第1の開口部12、第2の開口部13および第3の開口部22に白金線電極(直径0.8mm)を挿入後、第1の開口部12の電極に-150V、第2の開口部13の電極に0V、第3の開口部22の電極に-130Vの電圧を印加した。前記電圧印加時にあわせ、第1の開口部12および第3の開口部22から供給される電流を計測した。そして、蛍光顕微鏡の観察下、計測した電流値が一定値となるまで、電圧を印加した。
【実施例】
【0175】
この結果を図8に示す。図8は、電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。図8において、(A)は、電圧印加開始時の開口15および下流流路16の写真であり、(B)は、電圧印加後5秒の開口15および下流流路16の写真であり、(C)は、電圧印加後11.5秒の下流流路16の写真である。図8(A)において矢印で示すように、電圧印加開始時において、K562細胞は、開口15にトラップされていた。また、図8(B)において矢印で示すように、開口15にトラップされたK562細胞は、蛍光強度が低下し、細胞質の核酸が分離された。さらに、図8(C)において矢印で示すように、前記細胞質の核酸が、下流流路16に分離された。
【実施例】
【0176】
また、チップ20において、開口15の幅を、2~5μmとしたチップ、開口15の長さを、8~14μmとしたチップ、または接続流路23の長さを、4.9~10mmとしたチップを用いた以外は、同様にして、電圧を印加し、前記蛍光顕微鏡で観察した。この結果、これらのチップにおいても、前記細胞質の核酸を分離できることがわかった。以上のことから、本発明のチップによれば、核酸を分離できることがわかった。
【実施例】
【0177】
[実施例3]
本発明のチップを作製し、核酸を分画後、残部の核酸(以下、「他の核酸」ともいう)を回収できることを確認した。
【実施例】
【0178】
Hoechst 33258(Sigma Aldrich社製)を含む分離液1を用いた以外は、前記実施例2と同様にして、電圧を印加し、前記細胞質の核酸を分画した。前記分画後、第2の開口部13からチップ20内の溶液を回収することにより、前記細胞質の核酸を回収した。つぎに、前記蛍光顕微鏡の観察下、マイクロピペットを用いて第1の開口部12からチップ20内の溶液を吸引することにより、前記他の核酸を回収した。
【実施例】
【0179】
この結果を図9に示す。図9は、前記他の核酸の回収を示す写真である。図9において、(A)は、吸引前の開口15の写真を示し、(B)は、吸引後の開口15の写真を示す。図9に示すように、第1の開口部12から吸引することにより、開口15にトラップされた前記他の核酸が回収された。これらのことから、本発明のチップにより、核酸を分画後、他の核酸を回収できることがわかった。
【実施例】
【0180】
[実施例4]
異なる開口15を有するチップを用いて、核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0181】
(1)チップ
前記実施例2(1)のチップ20において、開口15の側面を、下流流路16から上流流路14にかけてテーパー状に形成した以外は同様にしてチップを作製した。開口15の大きさは、以下の通りとした。
開口15
長さ 42μm、上流流路14側の幅 3μm、下流流路16側の幅 50μm、深さ 25μm
【実施例】
【0182】
(2)核酸分画
チップ20に代えて、前記(1)のチップを用いた以外は、前記実施例2(2)および(3)と同様にして、前記蛍光顕微鏡の観察下、電圧を印加し、前記細胞質の核酸を分画した。
【実施例】
【0183】
この結果を図10に示す。図10は、電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。図10において、(A)は、電圧印加開始時の開口15の写真であり、(B)は、電圧印加後の下流流路16の写真である。図10(A)において矢印で示すように、電圧印加開始時において、K562細胞は、開口15にトラップされていた。また、図10(B)において矢印で示すように、電圧印加後、前記細胞質の核酸が、下流流路16に分離された。さらに、前記実施例3と同様にして、第2の開口部13から前記細胞質の核酸を、第1の開口部12から前記残部の核酸を回収した。これらのことから、異なる開口15を有するチップを用いて、核酸を分画できることおよび前記核酸を回収できることがわかった。
【実施例】
【0184】
[実施例5]
本発明のチップを用いて、ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸を分画できることおよび分離した核酸を解析できることを確認した。
【実施例】
【0185】
(1)核酸分画
MitoTrackerGreen FM(Thermo Fisher Scientific社製)を含む分離液1を用いた以外は、前記実施例2と同様にして、前記蛍光顕微鏡の観察下、電圧を印加した。そして、前記電圧印加中、前記ターゲット細胞周囲において、ミトコンドリアの存在を示す蛍光強度を、経時的に測定した。そして、各時間の蛍光強度について、電圧印加開始時(0秒)における前記ターゲット細胞以外の領域の分離用流路11の蛍光強度で割ることにより、補正後の蛍光強度を算出した。また、コントロールは、前記ターゲット細胞以外の領域において、前記ミトコンドリアの存在を示す蛍光強度を、経時的に測定した以外は、同様にして、補正後の蛍光強度を算出した。
【実施例】
【0186】
この結果を図11に示す。図11は、補正後の蛍光強度を示すグラフである。図11に示すように、補正後の蛍光強度は一定であり、ミトコンドリアは、開口15にトラップされていた。これらのことから、ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸を分画できること、すなわち、細胞質の核酸のうち特定の核酸のみを分画できることがわかった。
【実施例】
【0187】
(2)核酸分析
前記核酸分画後、前記実施例3と同様にして、前記ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸および前記他の核酸を回収した。つぎに、前記ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸については、前記実施例1(3)と同様にして、インキュベート中の蛍光強度を測定した。また、前記他の核酸は、qPCRキット(TaqMan Copy Number Assay、Thermo Fisher Scientific社製)および前記サーマルサイクラーを用い、添付のプロトコルに基づき実施した。プライマーは、前記GAPDHプライマーを用いた。具体的に、9μLの前記他の核酸を含む溶液を含む、合計20μLの反応液について、95℃15分の条件でインキュベート後、95℃15秒、60℃1分を1サイクルとし、50回、前記サイクルを実施した。そして、60℃でインキュベート中に蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0188】
この結果を図12に示す。図12は、蛍光強度を示すグラフである。図12において、横軸は、サイクル数を示し、縦軸は、蛍光強度を示す。図12に示すように、いずれの核酸を用いた場合においても、サイクル数依存的に蛍光強度が増加し、前記ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸中には、GAPDH mRNAが、前記他の核酸には、GAPDHのゲノムDNAが含まれていることが確認された。以上のことから、本発明のチップを用いて、ミトコンドリアの核酸以外の細胞質の核酸を分画できることおよび分画した核酸を解析できることがわかった。
【実施例】
【0189】
[実施例6]
本発明のチップを用いて、核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0190】
(1)試料
BJ細胞(ATCCから入手、CRL-2522)を37℃、5%COの条件下で培養した。培養液は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培養液(SigmaAldrich社製)を使用した。前記培養後、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、前記細胞を回収した以外は、前記実施例1(1)と同様にして、前記細胞分散液に分散した。
【実施例】
【0191】
(2)核酸分画
そして、前記実施例3と同様にして、前記細胞質の核酸と前記他の核酸とを回収した。これらの結果から、本発明のチップを用いて、核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0192】
[実施例7]
本発明のチップを用いて、ユーグレナの核酸を分画できることを確認した。
【実施例】
【0193】
(1)試料
ユーグレナ(Euglena gracilis Klebs NIES-48、ユーグレナ社より入手)を、継代後、29℃、連続光下で、4日間培養し、OD値(680nm)が1.5~2.0になるように調整した。ユーグレナの培地としては、Koren-Hutner培地(pH3.5)を用いた。前記培養後、培地を回収し、純水(UltraPure(TM) DNase/RNase-Free Distilled Water、Life Technologies社製)を用いて、200倍に希釈し、分散することにより、試料を調製した。
【実施例】
【0194】
チップは、前記実施例2のチップを使用した。まず、チップ20には、第1の開口部12に20μLの分離液3を、第2の開口部13に20μLの分離液2を導入した。前記分離液3の組成は、300mmol/L Trisおよび150mmol/L HClとし、pHは、8.2とした。なお、本実施例の分離液3には、SYBR(登録商標)Green IIを添加したものを使用した。つぎに、第3の開口部22から吸引することにより第1の開口部12から第3の開口部22への分離液の流れを生じさせた。つぎに、第1の開口部12に20μLの分離液2を、第2の開口部13に20μLの分離液3を導入した。さらに、1μLのユーグレナを含む試料を第1の開口部12の内部に導入した。前記細胞は、前記分離液の流れにより、第3の開口部22方向に移動し、開口15にトラップされた。ユーグレナが、開口15にトラップされたことは、前記光学顕微鏡により確認した。そして、第3の開口部22に50μLの分離液2を導入した。
【実施例】
【0195】
第1の開口部12、第2の開口部13および第3の開口部22に白金線電極(直径0.8mm)を挿入後、第1の開口部12の電極に-300V、第2の開口部13の電極に0V、第3の開口部22の電極-260Vの電圧を印加した。前記電圧印加時にあわせ、第1の開口部12および第3の開口部22から供給される電流を計測した。そして、前記蛍光顕微鏡の観察下、計測した電流値が一定値となるまで、電圧を印加した。また、コントロールは、前記ユーグレナを導入しなかった以外は、同様にして、前記蛍光顕微鏡の観察下、電圧を印加した。
【実施例】
【0196】
この結果を図13に示す。図13は、電圧印加中の核酸の分離を示す写真である。図13において、(A)は、電圧印加開始時の開口15の写真であり、(B)は、電圧印加中の開口15の写真であり、(C)は、電圧印加中の下流流路16の写真であり、(D)は、電圧印加後の開口15の写真であり、(E)は、コントロールにおける電圧印加中の下流流路16の写真である。図13(A)において矢印で示すように、電圧印加開始時において、ユーグレナは、開口15にトラップされていた。また、図13(B)において矢印で示すように、電圧印加中に葉緑体の核酸が分離された。さらに、図13(C)において矢印で示すように、前記葉緑体の核酸が、下流流路16に分離された。そして、図13(D)において矢印で示すように、電圧印加後、前記他の核酸は、開口15にトラップされていた。他方、図13(E)に示すように、コントロールでは、前記葉緑体の核酸の分離は観察されなかった。これらのことから、本発明のチップを用いて、ユーグレナの核酸を分画できることがわかった。
【実施例】
【0197】
[実施例8]
本発明のチップを用いて分画した核酸からライブラリを調製後、次世代シークエンシング技術により解析することで、細胞質の核酸と、細胞質以外の核酸を精度よく分画できていることを確認した。
【実施例】
【0198】
前記BJ細胞に代えて、前記K562用いた以外は、前記実施例3と同様にして、前記細胞質の核酸と前記他の核酸とを分画後、前記細胞質の核酸と前記他の核酸とを回収した。cDNA作成キット(SMART-Seq(登録商標) v4 Ultra(登録商標) Low Input RNA Kit for Sequencing、Clontech社製)およびサーマルサイクラー(S1000, Bio-rad社製)を用いて、添付のプロトコルに基づき得られた各核酸を含む溶液からcDNAを調製した。
【実施例】
【0199】
具体的には、1μLの前記cDNA作成キットのバッファーと、9.5μLの回収した溶液とを含む、合計10.5μLの反応液を調製した。つぎに、前記反応液について、室温(約25℃)、5分の条件で反応を行った。前記反応後、10.5μLの前記反応液に、2μLのプライマー溶液(3’ SMART-Seq CDS Primer II A, Clontech社製)を添加後、72℃で3分インキュベートした。さらに、前記インキュベート後の反応液と、7.5μLの前記cDNA作成キットのMaster mixとを含む合計20μLの逆転写反応液を調製した。前記逆転写反応液について、42℃90分の条件でインキュベート後、さらに70℃10分の条件で逆転写を行った。そして、逆転写後の逆転写反応液と、30μLの前記cDNA作成キットのPCR Master Mixとを含む合計50μLの増幅反応液を調製した。さらに、前記増幅反応液について、95℃1分の条件でインキュベート後、さらに、98℃10秒、65℃30秒、68℃3分を1サイクルとし、18回、前記サイクルを実施して増幅反応を行った。前記サイクル後、さらに、72℃10分の条件でインキュベートして前記増幅反応を終了した。
【実施例】
【0200】
つぎに、AMPure XP Kit(Beckman Coulter社製)を用いて、添付のプロトコルに基づき、前記50μLの増幅反応液から増幅cDNAを精製し、17μLのcDNA溶液を得た。さらに、TruSeq ChIP Sample Prep Kit(Illumina社製)を用いて、添付のプロトコルに基づき、ライブラリを調製した。そして、前記調製後のライブラリについて、HiSeq(Illumina社製)を用いて、Paired End、100塩基/1リード、500万リードペアの条件でシークエンス解析を行った。出力データについては、ベースコール、フィルタリング、およびIndex配列による振り分けを行い、リード配列および各塩基のクオリティデータを含むFASTQ形式のデータファイルを得た。前記データファイルはSTAR(A. Dobin et al., “STAR: ultrafast universal RNA-seq aligner”, Bioinformatics, 2012, vol.29, No.1, pp.15-21)を用いてマッピングを行い、Cufflinks(C. Trapnell et al., “Differential gene and transcript expression analysis of RNA-seq experiments with TopHat and Cufflinks.”, Nat. Protoc., 2012, Vol.7, No.3, pp562-578)により遺伝子発現解析を行った。前記遺伝子発現解析では、第2の開口部13から回収して作成したライブラリ(細胞質の核酸に由来するライブラリ(細胞質のライブラリ))と、第1の開口部12から回収して作成したライブラリ(その他の核酸に由来するライブラリ(核のライブラリ))とについて、各ライブラリが含む配列の種類(エキソンまたはイントロン)および各ライブラリの由来(常染色体由来またはミトコンドリアDNA)について検討した(n=2)。
【実施例】
【0201】
各ライブラリが含む配列の種類の結果を図14に示す。図14は、各ライブラリが含む配列の種類を示すグラフである。図14において、(A)は、前記細胞質のライブラリの結果であり、(B)は、核のライブラリの結果を示す。図14(A)に示すように、前記細胞質のライブラリでは、イントロンを含むRNAはほとんど存在せず、成熟したRNAが大半を占めた。他方、図14(B)に示すように、前記核のライブラリでは、イントロンを含むRNAが半数を占め、多数のスプライシング前の未成熟RNAが存在した。
【実施例】
【0202】
つぎに、各ライブラリの由来の結果を図15に示す。図15は、各ライブラリの由来(染色体名)を示すグラフである。図15において、横軸は、各ライブラリを構成するcDNAの由来(染色体名)を示す。各cDNAの由来において、各バーは、左から、前記細胞質のライブラリ、前記核のライブラリ、前記細胞質のライブラリ、前記核のライブラリを示す。図15に示すように、前記細胞質のライブラリおよび前記核のライブラリは、いずれも、常染色体に由来するcDNAを含んだ。他方、前記細胞質のライブラリは、ミトコンドリアDNA由来のcDNAを含むのに対し、前記核のライブラリは、前記細胞質のライブラリをほとんど含まなかった。
【実施例】
【0203】
一般的に、イントロンを含む未成熟RNAは、核に存在し、細胞質にはほとんど存在しないことが知られている。また、ミトコンドリアDNA由来のRNAは、ほとんどが細胞質に存在し、核にはほとんど存在しないことが知られている。上述の結果は、いずれもこれらの知見と合致することから、本発明のチップおよび分画方法により、極めて精度(純度)よく、細胞質の核酸と、その他の核酸(例えば、核の核酸)とを分画できることが分かった。また、本発明のチップおよび分画方法を用いることにより、極めて精度よく分画され、且つ細胞質の核酸を豊富に含むサンプルが得られることから、本発明のチップおよび分画方法により、次世代シークエンシングに利用可能な品質を有するサンプルを調製できることが分かった。
【実施例】
【0204】
[実施例9]
本発明のチップを用いて核酸を分画後、前記チップ内で核酸の増幅およびライブラリの作製が可能であることを確認した。
【実施例】
【0205】
図2に示すチップ20として、各部位の大きさが以下の通りのチップを用いた以外は、前記実施例3と同様にして、前記細胞質の核酸と前記他の核酸とを分画した。つぎに、PEG-DA溶液(Poly(ethylene glycol) diacrylate(MW575)、1% 2,2-Dimethoxy-2-phenylacetophenoneを含む)を、第3の開口部22からチップ20の分離用流路11に導入後、分離用流路11に紫外線を照射することにより、PEG-DAをゲル化した。さらにcDNAライブラリ作成キット(REPLI-g WTA Single Cell Kit、Qiagen社製)を用い、第1の開口部12および第2の開口部13において、cDNAライブラリを調製した。
第1の開口部12
直径 5mmの逆円錐形、容積 35μL
第2の開口部13
直径 5mmの逆円錐形、容積 35μL
上流流路14
長さ 4600μm、幅 50μm、深さ 25μm
開口15
長さ 5μm、幅 3μm、深さ 25μm
下流流路16
長さ 20000μm、幅 50μm、深さ 25μm
調整用流路21
長さ 1100μm、幅 50μm、深さ 25μm
第3の開口部22
直径 5mmの円柱形、容積 100μL
接続流路23
長さ 7310μm、幅 25μm、深さ 25μm
【実施例】
【0206】
具体的には、第1の開口部12および第2の開口部13に、それぞれ、4μLの前記キットの溶解溶液を加え、24℃5分、95℃3分の条件でインキュベートした。つぎに、第1の開口部12および第2の開口部13に、それぞれ、2μLのDNA wipeout bufferを加え、42℃10分の条件でインキュベートした。さらに、RNAの逆転写を行なうため、オリゴdTプライマーを含む6μLの反応液を、第1の開口部12および第2の開口部13に、それぞれに加え、42℃60分の条件でインキュベート後、95℃3分の条件で加熱した。そして、ライゲーション反応溶液を、第1の開口部12および第2の開口部13に、それぞれ、10μL加えて24℃30分の条件で反応させた後、95℃5分の条件で反応を停止した。前記反応停止後、30μLの増幅反応溶液を加えて30℃2時間の条件でインキュベートし、cDNAライブラリを得た。
【実施例】
【0207】
第1の開口部12および第2の開口部13で得られたcDNAライブラリについて、その収量を分子分光分析計(Qubit(登録商標)fluorometer、Thermo Fisher Scientific社製)および核酸定量キット(Qubit(登録商標)dsDNA HS Assay kit、Thermo Fisher Scientific社製)により測定した。
【実施例】
【0208】
この結果を図16に示す。図16は、cDNAライブラリの収量を示すグラフであり、横軸は、ライブラリの種類を示し、縦軸は、収量を示す。図16に示すように、第1の開口部12および第2の開口部13のいずれで得られたcDNAライブラリも、前記cDNAライブラリを用いて、さらなる分析を行なうのに十分な収量であった。また、第1の開口部12および第2の開口部13の両者で得られたcDNAライブラリの収量の合計は、一般的に1細胞から得られるcDNAライブラリの収量と同等以上であった。これらのことから、本発明のチップを用いて核酸を分画後、前記チップ内で細胞質の核酸およびその他の核酸の増幅が可能であり、さらに、前記チップ内で、前記細胞質の核酸およびその他の核酸に由来するライブラリの作製が可能であることがわかった。
【実施例】
【0209】
[実施例10]
本発明のチップにおいて、前記ターゲット細胞が前記壁の開口にトラップされた状態で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊をより抑制できる、壁の開口の径(w)と、壁の開口とターゲット細胞の核膜との最短距離(d)との関係式を算出した。
【実施例】
【0210】
シミュレーションソフト(COMSOL、COMSOL Inc.社製)を用い、下記の条件を設定し、壁の開口から距離dの位置にある核膜の電場(電流密度、Enuc)の壁の開口の電場(電流密度、Eorifice)に対する比をシミュレーションした。
・ターゲット細胞:核膜と細胞膜とが同心球((w-w)/2=d)
・分離用流路の壁の性質:絶縁
・壁の開口の電流密度:一様な電流密度(電場)
・分離用流路内の溶媒:水
【実施例】
【0211】
壁の開口から出てくる電気力線は、壁の開口端から放射状に広がるため、二次元の場合は円筒状に、三次元の場合は、球面状に広がる。このため、壁の開口から距離dの位置にある核膜での電気力線の密度は、壁の開口から出てくる電気力線の総数を円筒の表面積(三次元の場合は球面の表面積)で割ると算出できる。また、電場の強さは、電気力線の密度に比例する。したがって、壁の開口の電場(Eorifice)と、核膜の電場(Enuc)とは、下記式(4)により近似できると考えられた。
nuc=Eorifice×w/(πd+w) ・・・(4)
nuc:核膜の電場
orifice:壁の開口の電場
:壁の開口の径
π:円周率
d:壁の開口と、ターゲット細胞の核膜との最短距離
【実施例】
【0212】
つぎに、前記シミュレーション結果が、前記近似式により近似できるかを、前記シミュレーション結果と前記近似式とを比較することにより確認した。これらの結果を図17に示す。図17は、前記シミュレーション結果および前記近似式を示すグラフである。図17において、横軸は、壁の開口から距離dを示し、縦軸は、壁の開口から距離dの位置にある核膜の電場(Enuc)の壁の開口の電場(Eorifice)に対する比(Enuc/Eorifice)を示す。また、図17において、図中の記号は、前記シミュレーション結果を示し、実線は、前記式(4)の近似式を示し、図中の矢印で示す数字は、壁の開口の径(w)を示す。図17に示すように、前記式(4)の近似式は、前記シミュレーション結果を高い相関で近似できることが分かった。
【実施例】
【0213】
本発明者らは、壁の開口の電場および核膜の電場が、それぞれ、下記式(5)および(6)を満たすことにより、前記ターゲット細胞が前記壁の開口にトラップされた状態で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊をより抑制できるとの知見を得ている。
orifice≧100(kV/m)・・・(5)
nuc≦50(kV/m)・・・・(6)
nuc:核膜の電場
orifice:壁の開口の電場
【実施例】
【0214】
そこで、前記式(4)~(6)に基づき、前記壁の開口の断面形状が矩形および円形である場合の壁の開口の径(w)と、壁の開口とターゲット細胞の核膜との最短距離(d)との関係式を算出した。
【実施例】
【0215】
この結果、前記壁の開口の断面形状が長方形等の矩形である場合、前記壁の開口の径(w)は、下記式(2)を満たすことで、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊を抑制できることが分かった。また、前記壁の開口の断面形状が円形である場合、前記壁の開口の径(w)は、下記式(3)を満たすことで、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊をより抑制できることが分かった。
≦πd ・・・(2)
≦8d ・・・(3)
:壁の開口の径
π:円周率
d:壁の開口と、ターゲット細胞の核膜との最短距離
【実施例】
【0216】
以上のことから、本発明のチップにおいて、壁の開口の径(w)と、壁の開口とターゲット細胞の核膜との最短距離(d)との関係を、前記式(2)または(3)とすることにより、前記ターゲット細胞が前記壁の開口にトラップされた状態で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破壊でき、かつ前記ターゲット細胞の核膜の破壊を抑制できることが分かった。
【実施例】
【0217】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【実施例】
【0218】
この出願は、2016年1月28日に出願された日本出願特願2016-014708および2016年9月9日に出願された日本出願特願2016-177163を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0219】
以上のように、本発明のチップによれば、前記分子篩機能を有する分子を含まない液体系においても、核酸等の生体高分子を分画できる。また、本発明のチップによれば、前記残部の生体高分子を、前記壁の開口にトラップした状態で、前記細胞質の生体高分子を分離できるため、例えば、次世代シークエンシングに利用可能な品質を有するサンプルを調製できる。さらに、本発明のチップは、例えば、1個のターゲット細胞を前記分離用流路に導入した際に、前記壁の開口で、前記ターゲット細胞を精度よくトラップできる。このため、本発明のチップによれば、例えば、1個のターゲット細胞から細胞質の生体高分子を分離できる。また、本発明のチップは、前記分離用流路が、前記開口を有する壁をその流路内に有する。このため、本発明のチップは、例えば、前記分離用流路に電圧を印加した際に、前記開口を有する壁を有さない分離用流路(例えば、前記特許文献1の分離用流路)と比較して、前記ターゲット細胞がトラップされる前記壁の開口の周囲の電流密度を増加させることができる。このため、本発明のチップによれば、例えば、前記特許文献1の分離用流路において、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕する際の電圧と比較し、より低い電圧(例えば、1/10以下の電圧)で、前記ターゲット細胞の細胞膜を破砕できる。また、本発明のチップは、例えば、より低い電圧で使用できることから、電圧印加時のジュール熱の発生を低減でき、前記ジュール熱による生体高分子の変性等の影響を低減できる。さらに、本発明のチップは、例えば、より低い電圧で使用できることから、生体高分子の分離に使用する分離液として、電解質を含む高伝導性溶液が使用できる。このため、本発明は、臨床分野、医療分野、生命科学分野等において極めて有用である。
【符号の説明】
【0220】
1 基板
1a 上基板
1b 下基板
10、20、30、40、50、60、70 生体高分子分画用チップ
11 分離用流路
12 第1の開口部
13 第2の開口部
14 上流流路
15 開口
15a トラップ口
15b、15c バイパス口
16 下流流路
17、17a、17b 壁
21 調整用流路
22 第3の開口部
23 接続流路
31、31a、31b 吸引吐出部
32 捕獲部
33 電極
34 液体移動制御部
35 バイパス流路
36a、36b 第2の液体移動制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16