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明細書 :曲率分布結晶レンズの製造方法、偏光制御装置、X線反射率測定装置およびX線反射率測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4759750号 (P4759750)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
発明の名称または考案の名称 曲率分布結晶レンズの製造方法、偏光制御装置、X線反射率測定装置およびX線反射率測定方法
国際特許分類 G21K   1/06        (2006.01)
G21K   1/10        (2006.01)
G01N  23/20        (2006.01)
G02B   1/02        (2006.01)
G02B   3/00        (2006.01)
G02B   3/02        (2006.01)
FI G21K 1/06 D
G21K 1/06 B
G21K 1/06 C
G21K 1/06 F
G21K 1/10 S
G01N 23/20
G02B 1/02
G02B 3/00 Z
G02B 3/02
請求項の数または発明の数 19
全頁数 25
出願番号 特願2007-551145 (P2007-551145)
出願日 平成18年12月21日(2006.12.21)
国際出願番号 PCT/JP2006/325491
国際公開番号 WO2007/072906
国際公開日 平成19年6月28日(2007.6.28)
優先権出願番号 2005368305
2006015686
優先日 平成17年12月21日(2005.12.21)
平成18年1月24日(2006.1.24)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成21年10月27日(2009.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】奥田 浩司
【氏名】落合 庄治郎
【氏名】中嶋 一雄
【氏名】藤原 航三
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】中塚 直樹
参考文献・文献 特開2005-142370(JP,A)
特開昭62-231198(JP,A)
特開2002-286658(JP,A)
特開平01-142442(JP,A)
調査した分野 G21K 1/06
G01N 23/20
G02B 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
Si単結晶である半導体単結晶板が型押し部材に挟み込まれて高温加圧により塑性変形された場合に、当該半導体単結晶板の結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、上記半導体単結晶板の片面上に残すように上記半導体単結晶板を研磨する予備研磨工程と、
集光円を回転させた凸状の2次曲面を持つ凸状型押し部材と、Johanssonの回折条件を満たすために上記半導体単結晶板の結晶格子が満たすべき曲率の凹状の2次曲面を持つ凹状型押し部材との間に、上記の研磨がされた半導体単結晶板を、上記の研磨された面が上記凸状型押し部材の2次曲面に対向し、上記の研磨がされた面の反対側の面が上記凹状型押し部材の2次曲面に対向するように挟み込み、上記半導体単結晶板の融点より114~4℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させる型押し成型工程とを有していることを特徴とするX線回折用の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項2】
Ge単結晶である半導体単結晶板が型押し部材に挟み込まれて高温加圧により塑性変形された場合に、当該半導体単結晶板の結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、上記半導体単結晶板の片面上に残すように上記半導体単結晶板を研磨する予備研磨工程と、
集光円を回転させた凸状の2次曲面を持つ凸状型押し部材と、Johanssonの回折条件を満たすために上記半導体単結晶板の結晶格子が満たすべき曲率の凹状の2次曲面を持つ凹状型押し部材との間に、上記の研磨がされた半導体単結晶板を、上記の研磨がされた面が上記凸状型押し部材の2次曲面に対向し、上記の研磨がされた面の反対側の面が上記凹状型押し部材の2次曲面に対向するように挟み込み、上記半導体単結晶板の融点より100~2℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させる型押し成型工程とを有していることを特徴とするX線回折用の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項3】
Si単結晶である半導体単結晶板を、融点より114~4℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させ、その表面が2方向に異なる曲率を有するように形成する型押し成型工程と、
上記塑性変形された単結晶板における結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、厳密あるいは近似的なJohanssonの回折条件を満たすよう、上記半導体単結晶板の表面を研磨する研磨工程とを有していることを特徴とするX線回折用の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項4】
Ge単結晶である半導体単結晶板を、融点より100~2℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させ、その表面が2方向に異なる曲率を有するように形成する型押し成型工程と、
上記塑性変形された単結晶板における結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、厳密あるいは近似的なJohanssonの回折条件を満たすよう、上記半導体単結晶板の表面を研磨する研磨工程とを有していることを特徴とするX線回折用の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の曲率分布結晶レンズの製造方法であって、
上記単結晶板が、Ge(111)結晶であるとともに、
CuKα特性X線の回折に用いられる曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項6】
上記型押し成型工程の後、上記結晶のX線回折に用いられる面に、低欠陥密度層を成長させることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法により製造された曲率分布結晶レンズを備え、無偏光X線源より直線偏光X線を取り出す集光機能を持つ偏光制御装置。
【請求項8】
X線発生源と、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法により製造された曲率分布結晶レンズと、
位置敏感検出器とを備えたことを特徴とするX線反射率測定装置。
【請求項9】
X線発生源と、
Si単結晶である半導体単結晶板を、融点より114~4℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させた結晶レンズであって、下記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズと、
位置敏感検出器とを備えたことを特徴とするX線反射率測定装置。
(1)結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有しており、当該結晶格子面と、レンズ表面とが平行になっている;
(2)結晶格子面およびレンズ表面の双方が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有している。
【請求項10】
X線発生源と、
Ge単結晶である半導体単結晶板を、融点より100~2℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させた結晶レンズであって、下記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズと、
位置敏感検出器とを備えたことを特徴とするX線反射率測定装置。
(1)結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有しており、当該結晶格子面と、レンズ表面とが平行になっている;
(2)結晶格子面およびレンズ表面の双方が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有している。
【請求項11】
上記曲率分布結晶レンズは、2次曲面で表される表面を有していることを特徴とする請求項9または10に記載のX線反射率測定装置。
【請求項12】
上記X線発生源は、線状光源であり、
上記曲率分布結晶レンズは、上記X線発生源が延びる軸に直交する平面で切断すると、その切断面が常に同じJohansson型又はJohann型モノクロの形状を有することを特徴とする請求項9または10に記載のX線反射率測定装置。
【請求項13】
X線発生源から発生されるX線を、Si単結晶である半導体単結晶板を融点より114~4℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させた結晶レンズであって、下記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズにより回折し、
その回折されたX線を、X線反射率の測定対象となる試料に導き、当該試料にて反射されたX線の強度を位置敏感検出器により測定することを特徴とするX線反射率測定方法。
(1)結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有しており、当該結晶格子面と、レンズ表面とが平行になっている;
(2)結晶格子面およびレンズ表面の双方が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有している。
【請求項14】
X線発生源から発生されるX線を、Ge単結晶である半導体単結晶板を融点より100~2℃低い温度にて結晶格子が元の単結晶状態を実質的に維持しながら塑性変形させた結晶レンズであって、下記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズにより回折し、
その回折されたX線を、X線反射率の測定対象となる試料に導き、当該試料にて反射されたX線の強度を位置敏感検出器により測定することを特徴とするX線反射率測定方法。
(1)結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有しており、当該結晶格子面と、レンズ表面とが平行になっている;
(2)結晶格子面およびレンズ表面の双方が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有している。
【請求項15】
上記曲率分布結晶レンズは、2次曲面で表される表面を有していることを特徴とする請求項13または14に記載のX線反射率測定方法。
【請求項16】
上記X線発生源は、線状光源であり、
上記曲率分布結晶レンズは、上記X線発生源が延びる軸に直交する平面で切断すると、その切断面が常に同じJohansson型モノクロの形状を有することを特徴とする請求項13または14に記載のX線反射率測定方法。
【請求項17】
上記型押し成工程において、上記半導体単結晶板を、融点より64~11℃低い温度になるように加熱することを特徴とする請求項1または3に記載の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項18】
上記半導体単結晶板がSi(100)単結晶であり、
上記型押し成工程において、上記半導体単結晶板を、融点より55~27℃低い温度になるように加熱することを特徴とする請求項1または3に記載の曲率分布結晶レンズの製造方法。
【請求項19】
上記半導体単結晶板がSi(111)単結晶であり、
上記型押し成工程において、上記半導体単結晶板を、融点より57~25℃低い温度になるように加熱することを特徴とする請求項1または3に記載の曲率分布結晶レンズの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶格子面と結晶表面が独立な曲面形状を持つような曲率分布結晶レンズの製造方法に関する。本発明の応用分野の一例として、Johann(ヨハン)型またはJohansson(ヨハンソン)型結晶レンズに代表される、X線の回折等に用いられる曲率分布結晶レンズの製造方法を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
従来のX線用モノクロメータでは、結晶を弾性的に少し曲げ、その後研磨によって所定の回折が均一に得られるように、研磨仕上げを行うか、あるいは逆に、結晶を研磨した後、曲げ変形させている。そして、弾性限界内で変形させたJohann型やJohansson型のモノクロメータ結晶は、実用化されている。
【0003】
しかしながら、この弾性限界内で変形させた従来のX線用のモノクロメータ結晶の作成方法では、曲率の大きな曲げができないため、大型のX線装置にしか用いることができなかった。また、角度分解能と積分反射能とを大幅に低下させることが許容されるような場合は、低降伏応力の結晶を塑性変形して用いる場合もあった。
【0004】
この弾性限界内で変形させたモノクロメータ結晶は、曲率や加工方法に制限があるため、コンパクトなX線装置に用いることができず、高分解能と高輝度との両立が必要なマイクロビーム回折のような用途には用いることができない。さらに、集光素子という意味でマイクロビーム生成に使われるKBミラーは、線源そのものに第3世代放射光のような高平行高輝度光が必要となり、実験室におけるX線には用いることができない。
【0005】
小角散乱では、線源強度の有効利用のため、放物面ミラー(ゲーベルミラー)、コンフォーカルミラーなども製作されている。しかしながら、これらのミラーは、特殊な多層膜蒸着技術を必要とするために、単体価格が1千万円近くするうえ、取込み可能角度が0.3度にも達しない。このような問題があるにも関わらず、代替技術がないために、これらのミラーは、国内外で数多く出荷されているのが現状である。
【0006】
X線用のJohann型やJohansson型のモノクロメータは、通常、切削・研磨加工の後に、適当な弾性変形を加えて固定するか、加工の容易な結晶を塑性変形させるといった方法で製造されている。
【0007】
なお、イオン結晶であるLiF結晶では、室温でも低速変形により塑性加工が可能であること,加熱することにより一様に塑性変形されることが知られている。しかしながら、共有結合が主であるSiやGeのような半導体単結晶の場合、従来、弾性変形が行われており、精密な塑性変形が具体的に実現されていない。すなわち、従来、SiやGeの単結晶板は、曲げるとすぐに割れ易いものと知られており、変形させようとすると壁開破壊による破断が生じてしまい、分光レンズとして使用できない。そのため、亀裂が入ることなくSiやGeの単結晶板を曲げるためには、非常に薄い結晶板をわずかな曲率で弾性変形させることしかできなかった。
【0008】
このように、弾性変形を利用した手法では、弾性変形結晶の保持における変形量の安定性、経年変化の問題があり、また弾性限界内の変形にとどまるため、見込み角が極めて小さな値に制限されてしまう。また、塑性変形を利用する場合には、塑性変形による結晶性劣化に伴い、反値幅が著しく増加し、さらに積分反射能が低下してしまう。このため、光学性能を落さないままで大きな見込み角、すなわち集光効率が得られるような分光レンズ作成方法の開発が渇望されていた。
【0009】
また、X線回折装置を小型化して、広く汎用的に使えるようにすることに対する要求は根強い。しかしながら、良好な角度精度を持つX線用のJohann型やJohansson型モノクロメータ結晶は、弾性限度内でしか作成できないため。その曲率半径を小さくできないことや、研磨による精密加工が必要な点が障害となり、上記要求は未だ満たされていない。

【特許文献1】特開平6-160600号公報(1994年6月7日公開)
【特許文献2】特開2003-014895公報(2003年1月15日公開)
【発明の開示】
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、結晶面が任意の2次元曲率分布を有するJohann型あるいはJohansson型をはじめとする曲率分布結晶レンズを効率よく作成し得る曲率分布結晶レンズの製造方法を提供することを目的の1つとする。
【0011】
本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法は、上記の目的を達成するために、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板を用い、研磨加工と高温型押しによる塑性変形との組み合わせにより、結晶表面形状と結晶格子面形状とを独立な曲面に形成することを特徴としている。
【0012】
上述したように、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板では、従来、精密な塑性変形が実現されていなかった。しかしながら、本発明者らは、上記のような製造方法を用いることにより、半導体単結晶基板であっても、高温型押しを行うことにより、精密な塑性変形を実現できることを見出した。ここで、高温とは、融点未満の温度、または、融点近傍の温度であり、融点をTmとすると、Tm × 0.80で表現できるように、融点の0.80倍とする。
【0013】
そして、予備研磨加工と高温型押しによる塑性変形とが組み合わされた工程として、たとえば後述する「予備研磨工程」の後に「型押し成型工程」を行う工程を採用したり、あるいは、以下に例示するような研磨曲面の対称性の良いいくつかの特殊な条件については、「型押し成型工程」の後に「研磨工程」を行う工程を用いたりすることで、効率よく曲率分布結晶レンズを製造できることが判明した。
【0014】
本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法は、上記従来の課題を解決するために、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板が型押し部材に挟み込まれて高温加圧により塑性変形された場合に、当該半導体単結晶板の結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、上記半導体単結晶板の表面に残すように上記半導体単結晶板を研磨する予備研磨工程と、上記研磨された半導体単結晶板を型押し部材に挟み込んで高温高圧下で塑性変形させ、その表面が2方向に異なる曲率を有するように形成する型押し成型工程とを有していることを特徴としている。
【0015】
上記製造方法において、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量は、近似的に1次元曲面(ある一方向に曲線を形成し、その方向と直角な方向には直線を形成する曲面)として与えられる。したがって、予備研磨工程では、結晶表面から1次元曲面を削り出せばよく、複雑な2次元曲面を削り出す必要がない。
【0016】
さらに、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量が表面に残された単結晶板を、型押し部材を用いて高温高圧下で塑性変形させることで、2方向に異なる曲率を有する曲率分布結晶レンズが最終的に製造される。
【0017】
このように、本発明によれば、複雑な2次元曲面を削り出すことなく曲率分布結晶レンズを得ることができるので、効率よく曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0018】
本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法は、上記従来の課題を解決するために、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板が型押し部材に挟み込まれて高温加圧により塑性変形された場合に、当該半導体単結晶板の結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、上記半導体単結晶板の片面上に残すように上記半導体単結晶板を研磨する予備研磨工程と、集光円を回転させた凸状の2次曲面を持つ凸状型押し部材と、Johanssonの回折条件を満たすために上記半導体単結晶板の結晶格子が満たすべき曲率の凹状の2次曲面を持つ凹状型押し部材との間に、上記研磨された半導体単結晶板を、上記の研磨がされた面が上記凸状型押し部材の2次曲面に対向し、上記の研磨がされていない面が上記凹状型押し部材の2次曲面に対向するように挟み込み、高温高圧下で塑性変形させる型押し成型工程とを有していることを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、半導体単結晶板の片面は、まず最初に予備研磨が行われ、その後に、集光円を回転させた凸状の2次曲面を持つ凸状型押し部材により型押し成形される。ここで、予備研磨では、型押し部材に挟み込まれて高温加圧により塑性変形された場合に、当該半導体単結晶板の結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量だけ研磨される。そのため、型押し成形された後には、半導体単結晶板の片面は、集光円に沿う面になる。
【0020】
一方、半導体単結晶板の予備研磨が行われない面は、Johanssonの回折条件を満たすために結晶格子が満たすべき曲率の凹状の2次曲面を持つ凹状型押し部材により型押しされる。そのため、半導体単結晶板は、結晶格子面がJohanssonの回折条件を満たすように変形されることとなる。
【0021】
このように、Johanssonの回折条件を満たすとともに、表面が集光円に沿うという複雑な形状の曲率分布結晶レンズを、予備研磨と型押し成形の2工程により製造することができる。ここで、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量は、近似的に1次元曲面(ある一方向に曲線を形成し、その方向と直角な方向には直線を形成する曲面)として与えられる。したがって、予備研磨工程では、結晶表面から1次元曲面を削り出せばよく、複雑な2次元曲面を削り出す必要がない。
【0022】
このように、本発明によれば、複雑な2次元曲面を削り出すことなく曲率分布結晶レンズを得ることができるので、効率よく曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0023】
また、本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法は、上記従来の課題を解決するために、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板を型押し部材に挟み込み、高温加圧して塑性変形させ、その表面が2方向に異なる曲率を有するように形成する型押し成型工程と、上記塑性変形された単結晶板における結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすよう、上記半導体単結晶板の表面を研磨する研磨工程とを有していることを特徴としている。
【0024】
上記製造方法によれば、型押し部材を用いる型押し成型工程と、半導体単結晶板の表面を研磨する研磨工程という簡易な2工程により、曲率分布結晶レンズを効率よく作成することができる。
【0025】
さらに、型押し成型工程のあとに、半導体単結晶板の表面を研磨するので、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすよう、確実に結晶表面の形状を制御できる。よって、精度の高い曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0026】
特に、CuKα特性X線を回折するための曲率分布結晶レンズを、Ge(111)結晶を用いて製造すると、333回折線2θが約90度となる。これは、上述の研磨工程において、球面を研磨すればよいことを意味している。これにより、研磨工程を簡略化できるので、より効率よく曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0027】
さらに、本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法において、上記型押し成型工程の後、上記結晶のX線回折に用いられる面に、低欠陥密度層を成長させることが好ましい。
【0028】
このように低欠陥密度層を成長させることで、良好な結晶性をもちながら、大きな曲げ半径、力学的にも十分な強度を有する単結晶板を実現することができる。また、Johansson条件を満たすような表面の研磨を許容できる十分な結晶厚さを、単結晶板に持たせることができる。これにより、X線が侵入する深さまではほぼ完全結晶である理想的な曲率分布結晶レンズが得られる。
【0029】
また、上記のような曲率分布結晶レンズをX線反射率測定装置に適用できることを本発明者らは見出した。
【0030】
X線反射率は、ナノメートル以下であっても薄膜の厚さを精度よく定量評価することができるという点で、極めて薄い絶縁膜の厚さを評価するパラメータとして有効である。従来は、このX線反射率を測定するために、2結晶あるいは4結晶モノクロメータ(「X線回折・散乱技術(上)7章(東大出版会)1992」、菊田著 参照)による高平行光学系が使われていた。
【0031】
しかしながら、X線反射率を測定するためには、試料に対するX線の入射角をθとすると、試料に対して2θの回折角をなすように検出器を置き、反射率強度R(θ)を逐次測定する必要がある。そのため、たとえば、5度程度の範囲を0.01度刻みで反射率測定するという比較的低分解能の測定でも、入射角θと回折角2θを変えた測定が500回程度必要となり、1回の測定が仮に20秒程度であっても3時間以上必要になる。
【0032】
このように、従来技術は、X線反射率を測定するために最低数時間を必要とするものであった。
【0033】
なお、従来においても、迅速にX線反射率を測定することを目的とした技術が2種類提案されている。その1つが、図16(a)に示すように、線状X線源からX線を発生するとともに、ナイフエッジスリットを試料直上に置くことにより、試料位置でそのX線の一部が一定の見込角をもって試料に入射するように設定し、これを試料で反射させ、1次元検出器(PSPC:Position Sensitive Proportional Counter)を用いてX線反射率を測定する技術である。
【0034】
しかしながら、このようにX線反射率を測定する場合、X線の利用効率が悪くなり、さらにとり得る角度範囲も光源のサイズによって大きく制限されてしまう。
【0035】
また、X線反射率を迅速に測定することを目的にしたもう1つの技術として、図16(b)に示すように、試料に対する白色X線の入射角度を固定し、試料で鏡面反射した白色X線をエネルギー分解検出器で検出する技術が提案されている。
【0036】
しかしながら、このようにX線反射率を測定すると、放射光を利用する必要があるので実験室における多頻度での測定が不可能であり、さらに、X線反射率の測定精度が検出器のエネルギー分解能で、また測定効率が検出器の最大係数率で制限を受けてしまう。
【0037】
本発明は、上記従来の問題に鑑みて、X線を効率よく利用し、なおかつ高速にX線反射率を測定し得るX線反射率測定装置およびX線反射率測定方法を提供することを目的の1つとしている。
【0038】
本発明のX線反射率測定装置は、上記の目的を達成するために、X線発生源と、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板を高温型押しにより塑性変形させた結晶レンズであって、下記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズと、位置敏感検出器とを備えたことを特徴としている。
【0039】
(1)結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有しており、当該結晶格子面と、レンズ表面とが平行になっている;
(2)結晶格子面およびレンズ表面の双方が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有している。
【0040】
上記構成によれば、X線発生源から発生されるX線を、曲率分布結晶レンズにて回折し、その回折されたX線を試料に照射することができる。そして、試料にて反射されたX線の強度は、位置敏感検出器により検出することができる。
【0041】
ここで、位置敏感検出器には、例えば、PSPC、IP(Imaging Plate)のような輝尽性フィルム、CCD(Charge Coupled Device)、PD(PhotoDiode)-arrayなどが含まれる。
【0042】
ここで、曲率分布結晶レンズは、Si,Geなどの単結晶板を高温型押しにより塑性変形させたものであり、上述の(1)または(2)を満たすものである。このような構成を有する曲率分布結晶レンズによれば、JohanssonまたはJohannの回折結晶の条件が広い角度範囲にわたって厳密に満たされており、広角度での集光が可能となる。
【0043】
したがって、X線を広角度で曲率分布結晶レンズに照射し、試料位置で広い角度幅を持って集光することが可能となり、試料のX線反射率を広い角度範囲で同時に高速に測定することが可能となる。さらに、X線反射率を測定するにあたり放射光を必要としないので、実験室で必要とされるときに必要なだけ測定が可能であり、X線発生源から発生された光の利用効率が良くなるとともに、エネルギー分解検出器の分解能に制限を受けることなくX線反射率の測定が可能となる。
【0044】
上記X線発生源として点状光源を用いる場合は、曲率分布結晶レンズとして、2次元曲面を有するものを用いる。
【0045】
上記構成によれば、試料位置でX線を点に収束させ、X線反射率を測定することができる。
【0046】
上記X線発生源として線状光源を利用する場合に用いられる曲率分布結晶レンズは、上記X線発生源が延びる軸に直交する平面で切断すると、その切断面が常に同じJohansson型又はJohann型モノクロの形状を有している。
【0047】
上記構成によれば、線状のX線発生源から発生されるX線を、曲率分布結晶レンズにより線状に集光させることができる。よって、試料の広い範囲を同時に位置敏感検出器によって測定することが可能となる。
【0048】
また、本発明のX線反射率測定方法は、上記課題を解決するために、X線発生源から発生されるX線を、Si,Ge,GaAs等の半導体単結晶板を高温型押しにより塑性変形させた結晶レンズであって、上記の(1)または(2)の条件を満たす曲率分布結晶レンズにより回折し、その回折されたX線を、X線反射率の測定対象となる試料に導き、当該試料にて反射されたX線の強度を位置敏感検出器により測定することを特徴としている。
【0049】
上記X線反射率測定方法によれば、本発明のX線反射率測定装置と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法の概略を説明するための図である。
【図2】本発明に係る製造方法の一実施形態における型押し成形工程を示す図である。
【図3(a)】結晶表面に残されるオフセット量を説明するための図である。
【図3(b)】オフセット量により形成される円を説明するための図である。
【図4(a)】X線の発生源と集光点とが対称となるように配置する対称配置型の曲率分布結晶レンズの構成を示す図である。
【図4(b)】X線の発生源と集光点とが非対称となるように配置する非対称配置型の曲率分布結晶レンズの構成を示す図である。
【図4(c)】曲率分布結晶レンズのyz平面における切断形状を示す図である。
【図5(a)】焦点円の半径Rが100mmの場合のJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を示すグラフである。
【図5(b)】焦点円の半径Rが300mmの場合のJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を示すグラフである。
【図5(c)】焦点円の半径Rが600mmの場合のJohanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を示すグラフである。
【図6】曲率分布結晶レンズの結晶表面および結晶格子面を示す図である。
【図7(a)】本発明に係る製造方法の他の実施形態における型押し成型工程に用いられる上部ボートの構成を示す図である。
【図7(b)】本発明に係る製造方法の他の実施形態における型押し成型工程に用いられる下部ボートの構成を示す図である。
【図8】Si(100)単結晶について、厚み及び温度を変えたときの変形状態の評価結果を示す図である。
【図9】Si(111)単結晶について、厚み及び温度を変えたときの変形状態の評価結果を示す図である。
【図10(a)】本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法により得られる曲率分布結晶レンズの別の構成を示すyx平面図およびzx平面図である。
【図10(b)】図10(a)に示した曲率分布結晶レンズの構成を示す斜視図である。
【図11(a)】従来の偏光制御装置の構成を示す図である。
【図11(b)】本発明の曲率分布結晶レンズの製造方法により得られる曲率分布結晶レンズを利用した偏光制御装置の構成を示す図である。
【図12】本発明のX線反射率測定装置の一実施形態に係る構成を示す図である。
【図13】図12のX線反射率測定装置における位置敏感検出器に関する2つの配置を示す図である。
【図14】図12のX線反射率測定装置を紙面上側から見た場合の構成を示す図である。
【図15】図10(a)及び図10(b)の曲率分布結晶レンズを用いるX線反射率測定装置の構成を示す図である。
【図16(a)】従来のX線反射率測定装置の構成を示す図である。
【図16(b)】従来のX線反射率測定装置の別の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 X線反射率測定装置
2 曲率分布結晶レンズ
3 X線発生源
4 発散角制御スリット
5 整形スリット
6 光学調整ブレード
7 位置敏感検出器
8 アッテネータ
10 曲率分布結晶レンズ
11 X線反射率測定装置
12 X線発生源
13 取込スリット
14 整形スリット
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
(1.曲率分布結晶レンズについて)
本発明は、出願人らにより既に出願済みである曲率分布結晶レンズ(PCT/JP2005/15442号明細書参照)を用いて、新規のX線反射率測定装置を実現するものである。そこで、先ず、本発明のX線反射率測定装置に用いられる曲率分布結晶レンズの製造方法および構成について説明する。
【0053】
まず、本発明の発明者らは、実験により、結晶の融点未満の温度にて、Siのような高降伏応力の結晶板に全体的または局所的に荷重を加え、当該結晶板を塑性変形させることで、結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有する曲率分布結晶レンズを作製することができるという知見を得た。さらに、発明者らは、結晶の融点近傍の温度にて、Siのような高降伏応力の結晶板に全体的または局所的に荷重を加え、当該結晶板を塑性変形させることにより、結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有する完全な曲率分布結晶レンズを作製することができるという知見も得た。
【0054】
ここで、結晶の融点未満の温度とは、結晶板の塑性変形が始まる温度(Siの場合1120℃)から加圧時に一部融解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。また、結晶の融点近傍温度とは、完全な半球状の凸部が得られる加熱温度、すなわち所定の曲率を有する完全な曲率分布結晶レンズを作製することができる加熱温度をいい、Siの場合には、当該結晶の融点以下280℃(または融点の0.80倍)の温度から加圧時に一部溶解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。なお、上述の一部融解が始まる温度、塑性変形が始まる温度、および結晶の融点近傍の温度は、加工する結晶材料により異なるものである。
【0055】
そして、上述のように得られる曲率分布結晶レンズにおいては、半球状の凸部を構成するSi単結晶レンズは、結晶格子が元の単結晶状態を維持したまま塑性変形しているから、表面の曲面形状に沿った(平行な)結晶格子面を有するものとなっている。なお、Si(100)単結晶による曲率分布結晶レンズ以外にも、たとえばSi(111)単結晶のように、他の面を利用した曲率分布結晶レンズも同様に作製することができる。
【0056】
また、結晶板の素材としては、Si以外にも、Ge、SiGe、およびGaAs等の半導体単結晶板を用いることができる。
【0057】
なお、本発明の製造方法は、MgO、Al、SiO等の酸化物、LiF、NaCl等のハロゲン化物にも適用できる。
【0058】
さらに、上述の結晶板の表面に、Si、Ge、SiGe、及びGaAs等の化合物半導体のいずれか1つまたは2以上よりなる薄膜結晶を堆積させた結晶板を用いて、曲率分布結晶レンズを作製してもよい。また、上述のように成型される曲率分布結晶レンズを研磨と高温変形成型とを組み合わせて作成することで、レンズ表面および結晶格子面の双方を、点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有するように形成することが可能となる。
【0059】
(2.曲率分布結晶レンズの製造方法1)
本発明に係る曲率分布結晶レンズの製造方法に係る一実施形態を説明する。本実施形態の製造方法の概略を説明すると、図1に示すように、(A)高降伏応力の結晶を予備研磨し、(B)2次元曲面を型押しするという2工程を経ることで、曲率分布結晶レンズを製造することができる。以下、これら2工程の詳細について説明する。
【0060】
(2-1.予備研磨工程)
予備研磨工程においては、曲率分布結晶レンズが図2に示すような上部ボートおよび下部ボート(詳細は後述する)により変形される場合に、結晶格子面の結晶表面からの傾きφ(図3(b)参照)が、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量が結晶表面に残されるよう、結晶表面が研磨される。なお、必要なオフセット量は結晶の変形における拘束のかけ方により差が出る。以下はその実現方法の例である。
【0061】
つまり、図3(a)に示すように、曲率分布結晶レンズの素材をなす結晶板の平面方向にx軸を設定し、x軸が設定された平面と垂直な方向にy軸を設定する。そして、(x,y)=(0,0)を、結晶板の中心に設定し、結晶板の表面の座標を座標(x,y)で表す。このとき、上述のオフセット量は、y(x)として表される。
【0062】
そして、オフセット量y(x)は、下記の式(1)を満たしていればよい。
【0063】
dy/dx=tanφ かつ Rsin(2φ)=x …式(1)
ここで、φは、図3(b)に示すように、結晶格子面の結晶表面からの傾きである。また、Rは焦点円の半径である。なお、焦点円とは、曲率分布結晶レンズの結晶表面と、光源位置(図4(a)及び図4(b)参照の点A)と、集光位置(図4(a)(b)参照の点B)とを通る円(ローランド円)を意味する。
【0064】
上記式(1)は、xを0で近似すると、dy/dx=x/2Rとなる。これは、xが0となる結晶表面上の点Poの近傍では、オフセット量y(x)が、半径2Rの円を描くことを意味している。
【0065】
したがって、曲率分布結晶レンズに関して、X線の発生源と集光点とが対称となるように配置する対称配置型の小さな曲率分布結晶レンズを作成する場合(図4(a)参照)、結晶板に対して半径2Rの円筒の一部となる面(以下、円筒面という)を形成するように研削することで、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、結晶表面に残すことができる。また、曲率分布結晶レンズに関して、X線の発生源と集光点とが非対称となるように配置する非対称配置型の曲率分布結晶レンズを作成する場合(図4(b)参照)や、大きな結晶レンズを作成する場合には、式(1)の解として得られるy(x)が結晶板に残されるよう、結晶板を研削すればよい。
【0066】
ここで、発明者らは、結晶板に対して半径2Rの円筒面を研削することで、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、結晶表面に残すことができることを確認するため、図5(a)~図5(c)に示すデータを得た。
【0067】
図5(a)~図5(c)のグラフは、上記式(1)の微分方程式の解をオフセット量として設定する場合、半径2Rの円をオフセット量として設定する場合、および半径Rの円と半径2Rの円との高さの差をオフセット量として設定する場合の間において、どの程度の誤差がでるかを検討したものである。
【0068】
なお、図5(a)は、焦点円の半径Rが100mmの場合のグラフであり、図5(b)は、焦点円の半径Rが300mmの場合のグラフであり、図5(c)は、焦点円の半径Rが600mmの場合のグラフである。また、図5(a)~図5(c)において、縦軸は、結晶板の深さであり、図3(a)におけるy座標の値に相当する。さらに、図5(a)~図5(c)において、横軸は、結晶板の中心から距離であり、図3(a)におけるx座標の値に相当する。また、図5(a)~図5(c)における実線は、オフセット量として設定された半径2Rの円を示しており、「EXACT」としてプロットされた点は上記式(1)の微分方程式の解を示しており、「Delta(2R-R)」と記載された破線は、半径Rの円と半径2Rの円との高さの差を示している。
【0069】
これら図5(a)~図5(c)からわかるように、半径Rがある程度大きければ、オフセット量は、厳密に式(1)の微分方程式の解に従うものでなくても、簡易な半径2Rの円として設定すればよいことがわかる。よって、結晶板に対して半径2Rの円筒面を研削することで、Johanssonの回折条件を満たすために必要なオフセット量を、結晶表面に残すことができるといえる。
【0070】
(2-2.2次元曲面型押し工程)
上述した予備研磨工程が行なわれた結晶板に対して、2次元曲面型押しが行われ、その表面が2方向に異なる曲率を有する曲率分布結晶レンズ(R-Hで定義される曲面を有する曲率分布結晶レンズ)が完成する。ここで、R-Hの曲面とは、図4(b)に示すように、曲率分布結晶レンズの結晶格子面における各点P(θ)において、結晶格子面の結晶表面に対する傾きが、点P(θ)と点Xとを結ぶ直線と直交する曲面を意味する。そして、このような関係が結晶格子面の傾きについて満たされていれば、その結晶格子面の傾きは、Johanssonの回折条件を満たしているといえる。
【0071】
ここで、曲面型押し工程においては、図2に示す上部ボート(凹状型押し部材)および下部ボート(凸状型押し部材)が用いられる。これらの上部ボートおよび下部ボートは、カーボン製であり、Si(100)あるいはSi(111)などの単結晶ウェハを間に挟み加圧することにより、当該単結晶ウェアに曲面を加工するものである。
【0072】
図2に示されるように、上部ボート(凹状型押し部材)の下面には、曲面状の窪み(凹部)が形成されている。この曲面は、互いに直交する2方向に対して異なる曲率を有している。すなわち、第1の方向(x’方向)に対して曲率半径が2Rであり、当該第1の方向と直交する第2の方向(y’方向)に対して曲率半径がHである。言い換えると、上部ボートの下面は、Johanssonの回折条件を満たすために結晶格子が満たすべき曲率をもつ2次曲面である。
【0073】
一方、図2に示されるように、下部ボート(凸状型押し部材)の上面には、曲面状の突起(凸部)が形成されている。この曲面も、互いに直交する2方向に対して異なる曲率を有している。すなわち、上記第1の方向(x’方向)に対して曲率半径がR(すなわち、集光円の半径)であり、当該第1の方向と直交する上記第2の方向(y’方向)に対して曲率半径がHである。言い換えると、下部ボートの上面は、曲率半径Rの円(すなわち、集光円)の一部を曲率半径Hで回転させた2次曲面となる。
【0074】
そして、上部ボートの下面と、下部ボートの上面とに、離型剤を塗布し、高温で一旦アニール処理を行う。その後、アニール処理を施した上部ボートと下部ボートとの間に、Si単結晶板を挟み、縦型炉の中に配置する。なお、離型剤の塗布は、半導体単結晶板の材料や成型条件に応じて省略することも可能である。
【0075】
上述したように、Si単結晶板は、一方の面に対して予備研磨が行われ、曲率半径2Rの円筒面が形成されている。ここでは、Si単結晶板の円筒面が下部ボートの上面に接するように配置する。また、図2に示されるように、Si単結晶板の円筒面の軸方向が上部ボート及び下部ボートの第2の方向(y’方向)と一致するように、Si単結晶板は、上部ボートと下部ボートとの間に配置される。
【0076】
このSi単結晶板の全面または一部の面に、汚染防止や熱による表面劣化を防ぐため、離型剤等の熱に全く不純物の少ない表面保護膜を塗ってもよい。この縦型炉には、金属製の押し棒が炉の上部に配置されてあり、この押し棒を外部から操作することにより、上部ボートの上面に荷重をかけて、Si単結晶板の変形に必要な力を与えることができるようになっている。
【0077】
このようにセットした上部ボートおよび下部ボートと、Si単結晶板とを水素雰囲気中でSiの融点の近くまで、適宜の温度に昇温する。この適宜の温度に到達した時、金属棒を炉内で下げ、上部ボートの上面を押して、たとえば200N程度の荷重をかける。なお、この適宜の温度については後述する。
【0078】
これにより、Si単結晶板にも圧縮力がかかり、高温加圧によりSi単結晶板が、上部ボートと下部ボートとの間で曲面状に変形する。なお、上部ボートには、0~1分程度の荷重をかければよい。
【0079】
また、Si単結晶板と上部及び下部ボートとを上述のように配置することによって、Si単結晶板は、予備研磨工程で形成された円筒面の軸方向に対して曲率半径Hで変形される。また、Si単結晶板は、上記円筒面の当該軸方向に垂直な方向について、予備研磨されていない面が曲率半径2Rの曲面となり、予備研磨された面が曲率半径Rの円(すなわち、集光円)を回転させた2次曲面となる。その結果、Si単結晶板は、当該軸方向に垂直な方向において、結晶格子面が曲率半径2Rで湾曲するとともに、研削された表面が曲率半径Rで湾曲し、集光円に沿うこととなる。また、図6に示されるように、結晶表面および結晶格子面は、それぞれ曲率Rおよび2Rで一方向に湾曲するとともに、当該方向と直交する方向に曲率Hで湾曲する。
【0080】
このように、上部ボート下面の凹状の2次曲面は、結晶格子面の形状を定義付けるものであり、下部ボート上面の凸状の2次曲面は、単結晶板の表面の形状を定義付けるものである。
【0081】
つまり、結晶の融点未満の温度にて、Siのような高降伏応力の結晶板に全体的または局所的に荷重を加え、当該結晶板を塑性変形させることで、結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有する曲率分布結晶レンズを製造することができる。さらに、結晶の融点近傍の温度にて、Siのような高降伏応力の結晶板に全体的または局所的に荷重を加え、当該結晶板を塑性変形させることにより、結晶格子面が点収束条件または線収束条件を満たす曲率分布を有する完全な曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0082】
ここで、結晶の融点未満の温度とは、結晶板の塑性変形が始まる温度(Siの場合1120℃)から加圧時に一部融解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。また、結晶の融点近傍温度とは、曲面状の凸部が得られる加熱温度、すなわち所定の曲率を有する完全な曲率分布結晶レンズを作製することができる加熱温度をいい、Siの場合には、当該結晶の融点以下280℃の温度から加圧時に一部溶解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。なお、上述の一部融解が始まる温度、塑性変形が始まる温度、および結晶の融点近傍の温度は、加工する結晶材料により異なるものである。
【0083】
そして、上述のように得られる曲率分布結晶レンズにおいては、曲面状の凸部を構成するSi単結晶が、結晶格子が元の単結晶状態を維持したまま塑性変形しているから、表面の曲面形状に沿った(平行な)結晶格子面を有するものとなっている。なお、Si(100)単結晶による曲率分布結晶レンズ以外にも、たとえばSi(111)単結晶のように、他の面を利用した曲率分布結晶レンズも同様に作製することができる。
【0084】
このように上部ボードおよび下部ボートを用いて、予備研磨された結晶板を型押しすることで、R-Hで定義される曲面を有する曲率分布結晶レンズが完成する。
【0085】
(2-3.製造方法1の利点)
上述した(A)高降伏応力の結晶を予備研磨し、(B)2次元曲面を型押しするという2工程からなる曲率分布結晶レンズの製造方法の利点は、予備研磨工程が、1次元曲面の研磨加工だけで済むという点である。つまり、曲率分布結晶レンズを製造するにあたり、複雑な2次元曲面を削り出す必要がないので、簡易に曲率分布結晶レンズを製造できる点が、製造方法1の利点であるといえる。
【0086】
(3.曲率分布結晶レンズの製造方法2)
本発明に係る曲率分布結晶レンズの製造方法に係るさらに他の実施形態を説明する。本実施形態の製造方法の概略を説明すると、(A)高降伏応力の結晶を2次元的に型押し成型し、(B)型押し成型後、2次元曲面を研磨するという2工程を経ることで、曲率分布結晶レンズを製造することができる。以下、これら2工程の詳細について説明する。
【0087】
(3-1.型押し成型工程)
図7(a)および図7(b)に示される、型押し成型工程に用いられる型押し部材の一例としての上部ボートおよび下部ボートを用いて、半球状のSi単結晶板を型押しを行う。型押しの方法は、製造方法1と同様である。
【0088】
なお、図7(b)に示すように、下部ボートには、曲面状の窪み(凹部)が形成されている。また、図7(a)に示すように、上部ボートには、下部ボートの窪みに少し余裕をもってちょうど嵌まり込む形状の曲面状の突起(凸部)が形成されている。なお、凹部や凸部の曲面形状は、半球状であってもよいし、円筒面であってもよいし、R-Hで定義される曲面であってもよい。特に、円筒面形状は、線収束条件を満たすような曲率分布結晶レンズを製造するのに好適である。また、R-Hで定義される曲面は、X線の回折角が90°でないような曲率分布結晶レンズを製造するのに好適である。
【0089】
このような上部ボートおよび下部ボートを用いる型押し成型工程により、2R(θ)-Hで定義される曲面、すなわち2方向に異なる曲率を有する曲率分布結晶レンズを得ることができる。2R(θ)-Hで定義される曲面は、以下に説明するような形状を有している。
【0090】
つまり、図4(a)に示すように、X線発生源の位置をA点とし、さらに、曲率分布結晶レンズの集光点をB点とする。そして、上記型押し成型工程により得られた曲率分布結晶レンズの結晶表面と、点Aと、点Bとを通る円の半径がRで定義されるとする。
【0091】
このとき、曲率分布結晶レンズは、2R(θ)-Hで定義される曲面、すなわち結晶格子面の曲率半径が2R(θ)であり、なおかつyz平面における切断形状が、点Aと点Bとを結ぶ直線に対する曲率分布結晶レンズからの垂線Hを半径とする円弧を形成する曲面形状(図4(c)参照)を有している。
【0092】
ここで、2R(θ)という曲率半径がいかなるパラメータであるかについて説明する。点Aと点Bとを結ぶ弦の垂直2等分線は、2箇所において焦点円と交わる。この2箇所の交点のうち、曲率分布結晶レンズと反対側に形成されるものを点Xとして図4(a)に図示している。このとき、曲率半径2R(θ)は、曲率分布結晶レンズの結晶格子面における各点P(θ)と、点Xとを結んだ線分の長さとして定義される。
【0093】
特に、曲率分布結晶レンズとX線発生源との距離が、曲率分布結晶レンズと集光点との距離と等しくなるように配置すると、上記曲率半径2R(θ)は、焦点円の直径である2Rと等しくなる。
【0094】
(3-2.研磨工程)
研磨工程においては、上述の型押し成型により得られる曲率分布結晶レンズの曲面が、R-Hの曲面となるように、曲率分布結晶レンズの表面を研磨する。
【0095】
なお、このように曲率分布結晶レンズを研磨するために用いる器具としては、通常の結晶研磨に用いられているものを用いることができる。たとえば、研磨用のダイヤモンドコンパウンド等を用いたNC加工により曲率分布結晶レンズを研磨してもよい。あるいは、セリア等の研磨粉を利用して、機械的または化学的に曲率分布結晶レンズを研磨してもよい。
【0096】
(3-3.製造方法2の利点)
上述した(A)高降伏応力の結晶を2次元的に型押し成型し、(B)型押し成型後、2次元曲面を研磨するという2工程からなる曲率分布結晶レンズの製造方法の利点は、型押し成型工程のあとに、単結晶板の表面を研磨するので、厳密あるいは近似的にJohanssonの回折条件を満たすよう、確実に結晶表面の形状を制御できることである。すなわち、精度の高い曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0097】
さらに、X線発生源としてCuKα特性X線を発するものを用いるとともに、Ge(111)結晶を用いて曲率分布結晶レンズを作製すると、333回折線2θが約90度となる。これは、上述の研磨工程において、球面を研磨すればよいことを意味している。これにより、研磨工程を簡略化できるので、より効率よく曲率分布結晶レンズを製造することができる。
【0098】
(4.型押し成型工程における最適条件)
上述したように、半導体単結晶板に対して、加熱加圧により変更を行う。本発明者らは、実験により、結晶の融点未満の温度、または、結晶の融点近傍の温度が適しているという知見を得た。なお、結晶の融点未満の温度とは、結晶板の塑性変形が始まる温度(Siの場合1120℃)から加圧時に一部融解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。また、結晶の融点近傍温度とは、完全な半球状の凸部が得られる加熱温度、すなわち所定の曲率を有する完全な曲率分布結晶レンズを作製することができる加熱温度をいい、Siの場合には、当該結晶の融点以下280℃の温度から加圧時に一部溶解が始まる温度直前までの加熱温度をいう。なお、上述の一部融解が始まる温度、塑性変形が始まる温度、および結晶の融点近傍の温度は、加工する結晶材料により異なるものである。
【0099】
ここでは、Siにおける最適条件について説明する。図8は、Si(100)単結晶について、厚み及び温度を変えたときの変形状態の評価結果を示す図である。図において、◎は塑性変形により所望どおりの形状が完全に得られたことを示しており、○は塑性変形によりほぼ所望の形状が得られたことを示しており、△は表面が溶融したことを示している。図8に示されるように、Si(100)単結晶については、融点より55~27℃低い範囲が最も好ましいことがわかる。また、図9は、Si(111)単結晶について、厚み及び温度を変えたときの変形状態の評価結果を示す図である。図示されるように、Si(111)単結晶については、融点より57~25℃低い範囲が最も好ましいことがわかる。
【0100】
なお、Si単結晶(融点1414℃)の場合、融点以下1134℃以上であればよく、望ましくは1300~1410℃(融点より114~4℃低い温度)であればよい。さらに好ましくは、1350~1403℃であれば、曲率分布結晶レンズの特性として問題の塑性変形を安定して実現できる。
【0101】
また、Ge単結晶の場合、融点よりも100~2℃低い温度で曲率分布結晶レンズの特性として問題の塑性変形を安定して実現できる。
【0102】
(5.曲率分布結晶レンズの構成)
次に、上述した曲率分布結晶レンズの製造方法1または製造方法2により得られる曲率分布結晶レンズの構成について説明する。
【0103】
上述したように、図4(a)は、曲率分布結晶レンズに関してX線発生源と集光位置とが対称となるよう、曲率分布結晶レンズを配置した構成を示す図であり、図4(b)は、曲率分布結晶レンズに関してX線発生源と集光位置とが非対称となるよう、曲率分布結晶レンズを配置した構成を示す図である。さらに、図4(c)は、曲率分布結晶レンズの曲率を説明するための図である。
【0104】
上述の製造方法1または製造方法2により得られる曲率分布結晶レンズは、図4(a)および図4(b)に示すように、光源位置A、集光位置Bに対して、平面ABC内ではJohansson型モノクロの形状を有しており、図4(c)に示すように、z方向については、半径Hの曲率を有している。なお、このような2次曲面の表面を有する曲率分布結晶レンズを、「2次元Johansson結晶」と呼ぶ場合もある。
【0105】
そして、このような曲率分布結晶レンズによれば、Johanssonの回折結晶の条件が広い角度範囲にわたって厳密に満たされており、広角度での集光が可能となる。たとえばGe(111)結晶を用いて曲率分布結晶レンズを作製すると、CuKα特性X線に対して333回折線2θが約90度となり、広角度での集光が実現される。なお、111反射または220反射を利用すれば、より直線的な光学系での集光を実現することも可能となる。
【0106】
また、曲率分布結晶レンズは、図10(a)に示すように、z方向についての曲率を有さず直線的に形成されていてもよい。すなわち、曲率分布結晶レンズを、図10(b)に示すように、線状のX線発生源が延びる軸に直交する平面で切断すると、その切断面が常に同じJohansson型又はJohann型モノクロの形状を有するように形成してもよい。
【0107】
この場合、上述の予備研磨工程においては、下記の式を満たすように、オフセット量y(x)を設定する必要がある。
【0108】
【数1】
JP0004759750B2_000002t.gif
なお、上式において、点P’は、型押し成型前の点Pに対応する点である(図3(b)参照)。なお、型押し成型時には、点Poと点P’との間における距離と、点Poと点Pとの間における距離とが等しい状態で、結晶板が塑性変形するものとする。
【0109】
(6.結晶成長工程について)
上述した製造方法1および製造方法2のいずれにおいても、結晶が高温加圧塑性変形される。この場合、本来平面である格子面が、曲面状に曲げ塑性変形されることになる。その曲げ塑性変形による歪量は、結晶の曲率半径に反比例し、基板の厚さに比例する。
【0110】
そして、曲げ塑性変形による変形量に相当する転位が、結晶中に平衡状態として存在することになる。この結晶中の転位量は、半径数cmの曲率半径の結晶において10cm台という非常に大きな値となる。さらに、この転位密度(欠陥密度)でのX線回折半値幅は、完全結晶と比較するときわめて高くなってしまう。
【0111】
そこで、上述の製造方法1および製造方法2において、高温加圧加工処理による変形の後、すなわち上部ボートおよび下部ボートを用いた型押し成型の後に、X線回折に使う面(凹面側)に、欠陥密度が数ミクロン~100μm程度の低欠陥密度層を、新たにエピタキシャルに結晶成長させることが好ましい。これにより、X線が侵入する深さまではほぼ完全結晶である理想的な回折レンズ結晶が得られる。
【0112】
このエピタキシャルな成長は、結晶表面への気相または液相成長により実現されてもよいし、またはランプアニールを用いて結晶表面を融解した後、低欠陥密度層を再成長させてもよい。
【0113】
このようなごく薄いエピタキシャル層の再成長によって、低欠陥密度層が形成される理由について以下説明する。
【0114】
曲げ変形による最大歪量は、レイヤー厚さtと曲率半径Rとにより値t/2Rとなる。ところが、一旦高温塑性変形で作成された結晶表面における歪量は、曲げ弾性変形による歪量から結晶中の転位量による緩和量が差し引かれた値となり、弾性歪成分はほとんど残っていない値となる。
【0115】
そのため、厚さdの層を結晶表面に再成長させた場合、曲げ塑性変形により発生する歪量はd/2Rであり、これはd<<tであれば圧倒的に小さな歪量となる。したがって、再成長した薄膜部分の結晶は、弾性変形するにとどまって、転位をほとんど発生させない。
【0116】
このようにして、良好な結晶性をもちながら、大きな曲げ半径、力学的にも十分な強度を持ち、さらに、Johansson条件を満たすような表面の研磨を許容できる十分な結晶厚さが設けられたJohansson結晶を製造することが可能となる。
【0117】
(7.偏光制御装置について)
ところで、従来技術では、CuKα特性X線に対し、Ge333回折条件では2θが90°となる。そして、図11(a)に示すように、X線発生源Sから出射され、yz平面内で完全にランダムな電場ベクトルを持っていたX線は、z軸となす角をφとすると、一回の回折ごとにsin2φの偏光因子分の強度変化をする。
【0118】
そのため、z軸に平行な方向の電場ベクトルを持つX線は、n回の回折後も同じ強度であるのに対して、z軸からY軸方向にφだけ傾いた方向を向いた電場ベクトルをもつX線は、n回の回折後、sinφの強度しか持たず、90°方向(y方向)では強度は0になる。つまり、繰り返し反射により、Z軸方向への直線偏光X線を作ることができる。
【0119】
ところが、従来技術では、チャネルカット結晶を使うため、X線発生源Sのうち、この繰り返し反射で伝わるX線の角度幅はきわめて小さい。すなわち、全方位に放出されるX線のうち、ごく一部、たとえば0.01度以下の角度幅のX線を取り出して偏光制御することになってしまう。
【0120】
ところが、図11(b)に示すように、上述した製造方法により得られる1次元または2次元Johansson結晶を直列に配置して偏光制御装置を構成し、当該偏光制御装置によりX線発生源からのX線を回折させると、広い角度幅にわたり、2θ=90度の回折が満たされる。したがって、図11(a)に示す従来技術と同様に、無偏光X線源から直線偏光X線を作り出すことができるにもかかわらず、X線発生源SからのX線を広い取込み角にわたって利用できるため、X線強度は、条件によっては従来技術の100倍以上となる。なお、X線の電場、磁場ベクトルは、必ずyz平面内にある。
【0121】
(8.X線反射率測定装置の構成例1)
次に、図4(a)~図4(c)を用いて説明した曲率分布結晶レンズを用いたX線反射率測定装置の構成について説明する。
【0122】
図12に示すように、X線反射率測定装置1は、曲率分布結晶レンズ2と、X線発生源3と、発散角制御スリット4と、整形スリット5と、光学調整ブレード6と、位置敏感検出器7とを備えている。なお、位置敏感検出器7としては、PSPC、IP(Imaging Plate)のような輝尽性フィルム、CCD(Charge Coupled Device)、PD(PhotoDiode)-array等を用いることができる。すなわち、本明細書において、位置敏感検出器7には、PSPC、IP(Imaging Plate)のような輝尽性フィルム、CCD(Charge Coupled Device)、PD(PhotoDiode)-arrayが含まれる。
【0123】
上記構成のX線反射率測定装置1において、X線発生源3から照射されたX線は、発散角制御スリット4により、xy平面内での発散角が規定される。その後、X線は、曲率分布結晶レンズ2(レンズの構成については図4(a)~図4(c)参照)にて回折する。
【0124】
そして、曲率分布結晶レンズ2で回折したX線は、整形スリット5にて整形され、試料上の集光位置に入射する。そして、試料にて反射したX線は、位置敏感検出器7に入射する。なお、光学調整ブレード6により、試料上で反射したX線以外の外乱光が位置敏感検出器7に入射することが防止されている。
【0125】
次に、上記構成のX線反射率測定装置1を動作させる原理について、図13を用いて説明する。なお、図13においては、図12における発散角制御スリット4、整形スリット5、および光学調整ブレード6の記載を省略している。
【0126】
図13に示すように、位置敏感検出器7は、反射率測定用配置および入射光強度分布測定用配置という2つの位置の間を、xy平面内で移動可能である。
【0127】
まず、X線の強度分布を測定するために、試料を測定位置から退避させるとともに、位置敏感検出器7を入射光強度分布用配置まで移動させる。これにより、X線発生源3から照射され、曲率分布結晶レンズ2で回折したX線が、位置敏感検出器7に直接入射する。このように位置敏感検出器7に直接入射したX線から、X線の強度分布を知ることができる。なお、位置敏感検出器7に入射するX線の強度を検出器の性能にあわせて調整するため、アッテネータ8を位置敏感検出器7の前段に設けてもよい。
【0128】
次に、試料を測定位置に移動させ、位置敏感検出器7を反射率測定用配置まで移動させる。これにより、試料上で反射したX線の反射率を、位置敏感検出器7で測定することが可能となる。
【0129】
また、上記構成のX線反射率測定装置1を上面(図12および図13における紙面上側)から見た状態を図14に示す。図14に示すように、X線発生源3から照射されたX線は曲率分布結晶レンズ2により試料上で集光された後、位置敏感検出器7に入射する。
【0130】
上記構成のX線反射率測定装置1によれば、曲率分布結晶レンズ2を用いているので、X線発生源3から照射されたX線を、広い取込み角で試料上において集光することが可能となる。したがって、試料へ入射するX線の入射角を広く設定し、広い角度範囲におけるX線の反射率を一度に測定することができるので、X線反射率を高速で測定することが可能となる。
【0131】
特に、上記構成のX線反射率測定装置1は、X線発生源3から照射されたX線を、曲率分布結晶レンズ2により、xy平面内で集光させることができるとともに(図12参照)、xz平面内でも集光させることができる(図14参照)。このように、X線反射率測定装置1は、曲率分布結晶レンズ2によりX線の2次元的な集光が可能となるので、試料における微小な部分にX線を照射するのに好適な構成といえる。
【0132】
(3.X線反射率測定装置の構成例2)
上述したX線反射率測定装置1は、試料における微小な部分にX線を照射するのに好適な構成であったが、曲率分布結晶レンズ2の構成を変更することにより、比較的大きな試料について、X線発生装置を大出力で駆動可能な線状ビームを用いてX線反射率を測定することが可能となる。そこで、以下では、大きな試料に対してX線を照射するのに適した曲率分布結晶レンズの構成を説明した後に、その曲率分布結晶レンズを用いるX線反射率測定装置の構成について説明する。
【0133】
曲率分布結晶レンズ10は、図10(a)に示すように、線状X線発生源である光源位置A、集光位置(焦点線)Bに対して、平面ABC内ではJohansson型又はJohann型モノクロの形状を有している。この点は、図4(a)を用いて説明した曲率分布結晶レンズの構成と同じである。
【0134】
曲率分布結晶レンズ10と、図4(a)~図4(c)に示す曲率分布結晶レンズとの相違点は、曲率分布結晶レンズ10が、図10(a)に示すように、z方向についての曲率を有さず直線的に形成されている点である。
【0135】
図15に、上述した曲率分布結晶レンズ10を用いるX線反射率測定装置11の構成を示す。図15に示すように、X線反射率測定装置11は、曲率分布結晶レンズ10と、線状のX線発生源12と、取込スリット13と、整形スリット14と、位置敏感検出器7とを備えている。
【0136】
上記構成のX線反射率測定装置11において、X線発生源12から照射されたX線は、取込スリット13を介して必要な取り込み角度のみに切り取られて、曲率分布結晶レンズ10へ導かれる。そして、曲率分布結晶レンズ10で回折したX線は、整形スリット14により、結晶レンズ周辺部の質が劣る回折線が遮蔽・整形され、試料上の集光位置に入射する。そして、試料にて反射したX線は、位置敏感検出器7に入射する。
【0137】
なお、X線反射率測定装置11における位置敏感検出器7は、反射率測定用配置および入射光強度分布測定用配置という2つの位置の間を移動可能である。反射率測定用配置および入射光強度分布測定用配置については、反射率測定を行う場合およびX線の強度分布を調べる場合に応じて、図13に示したX線反射率測定装置1と同様に移動させればよい。
【0138】
上記構成のX線反射率測定装置11によれば、線状のX線発生源12から発生したX線が、曲率分布結晶レンズ10により、試料上に線状に集光される(図10(b)および図15参照)。このようにX線を線状に集光させれば、試料の広い範囲を迅速にスキャンすることが可能となる。したがって、X線反射率測定装置11は、大きな試料に対してX線を照射するのに適したものといえる。
【産業上の利用の可能性】
【0139】
上述のように製造される曲率分布結晶レンズは、種々のX線装置に適用可能である。まず、曲率分布結晶レンズは、点状のX線発生源を持つX線発生装置に対して、特定のX線のみを分別するモノクロメータ機能を有している。さらに、上述の製造方法により製造された曲率分布結晶レンズによれば、大立体角でのX線の取り込みが可能となるので、X線発生源のサイズと同等のサイズまで集光を行うことができる。
【0140】
さらに、上述のように製造される曲率分布結晶レンズは、超高輝度のX線回折・散乱装置、超小型のX線回折装置、高輝度のX線蛍光分析装置、偏光X線光電子分光装置、あるいは光電子顕微鏡装置等に適用することができる。
【0141】
本発明は、サブナノメートルの薄膜の厚さを高速に評価する要請がある産業、たとえば、工場等における超薄膜の品質管理において利用することが可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3(a)】
2
【図3(b)】
3
【図4(a)】
4
【図4(b)】
5
【図4(c)】
6
【図5(a)】
7
【図5(b)】
8
【図5(c)】
9
【図6】
10
【図7(a)】
11
【図7(b)】
12
【図8】
13
【図9】
14
【図10(a)】
15
【図10(b)】
16
【図11(a)】
17
【図11(b)】
18
【図12】
19
【図13】
20
【図14】
21
【図15】
22
【図16(a)】
23
【図16(b)】
24