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明細書 :ガスクラスターイオンビーム照射装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4636862号 (P4636862)
公開番号 特開2006-156065 (P2006-156065A)
登録日 平成22年12月3日(2010.12.3)
発行日 平成23年2月23日(2011.2.23)
公開日 平成18年6月15日(2006.6.15)
発明の名称または考案の名称 ガスクラスターイオンビーム照射装置
国際特許分類 H01J  37/30        (2006.01)
C23F   4/00        (2006.01)
FI H01J 37/30 Z
C23F 4/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 9
出願番号 特願2004-343294 (P2004-343294)
出願日 平成16年11月29日(2004.11.29)
審査請求日 平成19年6月7日(2007.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】大野 茂
【氏名】佐々木 新治
【氏名】古澤 賢司
【氏名】松尾 二郎
【氏名】青木 学聡
【氏名】瀬木 利夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100100310、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 学
審査官 【審査官】遠藤 直恵
参考文献・文献 特開2004-253437(JP,A)
特開平08-120470(JP,A)
国際公開第2005/031838(WO,A1)
I. Yamada, et al.,"Materials processing by gas cluster ion beams",Materials Science and Engineering R,2001年,Vol.34,pp.253-257
調査した分野 H01J 37/30-37/36
C23F 1/00-4/04
G11B 5/56-5/60
G11B 21/16-21/26
特許請求の範囲 【請求項1】
クラスター発生機構、前記クラスター発生機構で発生させたクラスターのイオン化機構、前記イオン化機構でイオン化させたクラスターイオンの加速機構を備えたガスクラスターイオンビーム照射装置であって、照射するガスクラスターイオンのサイズ(N)と照射エネルギー(E)とワーク加工面の法線に対する角度(照射角:θ°)の関係が、0.02eV≦(Ea/N)×cos2θ≦0.5eVとなるように制御することを特徴とするガスクラスターイオンビーム照射装置。
【請求項2】
少なくともクラスターサイズ、照射エネルギー及び照射角を、真空を破らずに外部から制御するための制御装置を有する請求項1に記載のガスクラスターイオンビーム照射装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビームを照射して表面加工を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の配線微細化や磁気記録装置の記録密度向上に伴い、半導体装置や磁気ヘッドの製造方法としてガスクラスターイオンビームが注目されるようになってきた。ガスクラスターは、気体原子または分子(以後、モノマーという)が数百~数千個の塊になったものである。ガスクラスターを構成する多数の気体原子又は分子は、互いに化学結合を形成せず、単に凝集して一つの塊をなすにすぎない。その発生方法は、特許文献1に述べられている。イオン化されたガスクラスターイオンは加速電圧により加速され、ワークに照射される。ガスクラスターイオンがワークに衝突すると、入射エネルギーはガスクラスターイオンを構成する個々の原子に分配されるので、モノマーイオンビームに比べて高密度、低エネルギーでの照射が可能となる。
【0003】
上記のようにして発生させたガスクラスターイオンビームは、従来のモノマーイオンビームとは異なった特徴を持つことが非特許文献1に示されている。例えば、従来のモノマーイオンビームをワーク表面に垂直に照射すると表面荒れが発生するのに対し、ガスクラスターイオンビームをワーク表面に垂直に照射するとラテラルスパッタ効果により、凹凸面の平坦化が可能である。ガスクラスターイオンビームを用いると、平均表面粗さを1nm以下まで低減することが容易である。また、ガスクラスターイオンは大きな質量を持つため、同じ加速電圧を与えてもモノマーイオンに比べ、低速での照射が可能である。そのため、モノマーイオンを用いるプロセスに比べて、加工損傷深さを小さくすることができる。さらに、ガスクラスターイオンを構成する原子が多重衝突することに起因する非線形効果により、モノマーイオンビームプロセスに比べて約1桁高いスパッタ率が得られる。
【0004】
平坦化技術としては、化学的機械的研磨(CMP)等の研磨技術の他、イオンビームを用いる方法として特許文献2で述べられているように、従来のモノマーイオンビームを斜めから照射する方法が知られている。特許文献2の方法によれば、モノマーイオンを斜めから照射することにより、突起を選択的にエッチングできるとされている。
【0005】

【特許文献1】特開平4-354865号公報
【特許文献2】特開平10-200169号公報
【非特許文献1】I.Yamada,et al,Mater.Sci.Eng.,R.34,(2001)pp.231-295
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ディスク記録装置(HDD)の記録密度は、年率60~100%で増加しており、今後もその傾向は続くとされている。それに伴い、磁気ヘッド浮上面と磁気ディスク間の距離(ヘッド浮上量)は小さくなってきており、磁気ヘッド浮上面の表面粗さと加工損傷深さの低減が必須である。将来的には、表面粗さや加工損傷深さは1nm程度までに抑制する必要がある。
【0007】
現在、磁気ヘッド浮上面の平坦化加工プロセスで用いられている研磨では、加工損傷が発生する。スラリーや砥粒径、研磨方法等の改善により、加工損傷深さは低減されてきたものの、その値は一般に5~10nm程度と推定されている。
【0008】
モノマーイオンビームを用いて加工を行った場合も、加工損傷は発生する。モノマーイオンビームを用いて高いスパッタレートで加工するには、高エネルギーのイオンを照射する必要がある。これにより、1次イオンの打ち込み(侵入)が発生する。モノマーイオンビームの斜め照射によって1次イオン侵入深さは多少低減できるが、衝突カスケード現象(collision cascade phenomenon)によってスパッタリングが進行するため、1次イオンの侵入を防止することは不可能である。例えば、材料表面に照射されたイオンの挙動を求めるシミュレーション(TRIM,copyrighted by IBM)によれば、Arイオンビームを400eVでNiFeに照射する場合、表面に対して垂直に照射すると、最大で深さ約30nmまで打ち込まれる。同じイオンビームをNiFe表面の法線方向に対して85°の方向から照射した場合でも、約21nmまで打ち込まれるものもあり、照射角の効果は限定的である。
さらに、モノマーイオンビームを用いたスパッタの問題点として、被スパッタ材料原子のミキシングがある。照射するイオンのエネルギーを低減したり、斜め照射を行うことで、ミキシング層深さを低減することができる。照射表面の法線に対して60°の方向から、1次イオンを500eVで照射した場合のミキシング層深さは2~5nm程度と推定される。
ミキシングは、ガスクラスターイオンビームを用いても防止することはできない。クラスターサイズ2,000程度のArガスクラスターイオンビームを10keVで照射した場合、ミキシング層の厚さは約10nmとなることが実験的に確認された。
【0009】
さらに、磁気ヘッド浮上面をモノマーイオンビームの斜め照射で加工する場合に特有の水平方向のミキシングがある。磁気ヘッド浮上面には金属や金属酸化物等の極薄膜で構成された多層積層膜の断面が露出している。モノマーイオンビームを斜めから照射した場合は、衝突カスケードによってノックオン原子(knock on atom,反跳原子)が隣り合った層に移動して、水平方向のミキシングが起こる。これによって、最表面層では、所望の磁気特性を失うことになり、磁気ヘッド製造上の課題である。
上述のいかなる方法を用いても、加工損傷層深さを1nm程度に抑制するのは困難である。モノマーイオンビームであっても、ガスクラスターイオンビームであっても、照射するイオンビームのエネルギーを低下させることによって、加工損傷深さをある程度まで小さくすることは可能である。しかし、モノマーイオンビームの場合には、数10eV程度の低エネルギー且つ大電流のモノマーイオンビームを得ることは、空間電荷効果により技術的に困難である。一方、数千個の原子の集合体をイオン化したガスクラスターイオンビームでは、原子1個あたりのエネルギーを数10eV程度にすることは容易であるが、2~10nm程度の加工損傷が形成される。すなわち、従来の研磨技術やイオンビーム技術では、加工損傷深さが1nmレベルに抑制された磁気ヘッド浮上面を得るのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、ワークの加工面の法線に対する角度(照射角)を50°以上90°以下に調整するための照射角調整機構と、イオンの運動エネルギーを所望の値に調整するためのイオン加速機構と、ワークの加工面の法線方向を回転軸としてワークを回転させるためのワーク回転機構を有するガスクラスターイオンビーム照射装置を提供する。
また、ワークの加工面の法線に対する角度(照射角:θ°)を調整するための照射角調整機構と、イオンの運動エネルギー(E)を所望の値に調整するためのイオン加速機構とクラスターサイズ(N)の調整機構とワークの加工面の法線方向を回転軸としてワークを回転させるためのワーク回転機構を有するガスクラスターイオンビーム照射装置であって、前記、θ、E、Nの関係が0.02eV≦(E/N)×cosθ≦0.5eVとなるように制御する装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、従来のモノマーイオンビームと比べて1桁高いスパッタ率が得られるというガスクラスターイオンビームの特長を生かしつつ、ワーク加工面に対して垂直方向へのエネルギー成分を低減することで、モノマーイオンビームでは実現し得ない低損傷での平坦化加工が可能となる。具体的には、従来のモノマーイオンビームでは斜めから照射しても、1次イオンの侵入が避けられなかったが、ガスクラスターイオンビームでは本質的に1次イオンの侵入を抑制することができる。さらに、ガスクラスターイオンビームのスパッタリングは、衝突カスケードやノックオン現象(イオン照射された物質における反跳ミキシング)によらず、ガスクラスターイオンの衝突地点が局所的に高温高圧になることに起因しているため、斜めからガスクラスターイオンを入射させることにより、高温領域が浅くなるため、ミキシング深さを低減することができる。さらに、本発明によれば、ガスクラスターイオンビームの照射角を適正値にすることにより、水平方向のミキシングも防止することができる。また、ワーク加工面に存在する突起に対しては、ワーク加工面に対する場合よりは小さな照射角となり、スパッタ率が大きくなるため、従来のモノマーイオンビームに比べて高いスパッタ率で、突起部を選択的に平坦化することができる。また、ガスクラスターイオンビームをワーク加工面の法線方向に対して斜め方向から照射しながら、ワークをワーク加工面の法線方向を回転軸として回転させることによって、ある突起が別な突起の陰になることにより加工が進まない現象を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて実施例を示す。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施例の説明図である。配管1に接続されたノズル2から高圧のArガスをクラスター発生チャンバー3に噴出させると、電荷を持たない中性のガスクラスタービームが発生する。クラスター発生チャンバー3は、図示されていない真空ポンプにより、クラスターが生成する圧力以下に排気されている。さらにスキマー4によりガスクラスタービームの中心部分が抽出され、イオン化チャンバー5に導入される。イオン化チャンバーも、図示されていない真空ポンプにより、イオン化及びイオンビームの輸送に支障がない圧力以下に排気されている。この圧力は、ガスクラスターイオンのサイズとエネルギーに依存するが、サイズ2000のガスクラスターイオンを20keVで照射する場合、2.5×10-5Torr(≒3.3×10-3Pa)以下である。イオン化チャンバー5に設置されたイオン源6(EIイオン源として知られる)中に入ったクラスターは、フィラメント7から発生する熱電子との衝突により電離して1価のガスクラスターイオンとなり、更に電極8、9、10でイオン源6からガスクラスターイオンビーム17として引き出される。ガスクラスターイオンは、上記電極8、9、10からなるイオン加速機構により、所定の運動エネルギーを持つように加速される。加速されたガスクラスターイオンは、照射チャンバー13まで輸送され、ワークホルダー14に固定されたワーク15に照射される。図示されていないが、ワークホルダー14は、加工表面の法線16に対する角度(照射角:θ)を50°以上90°以下の所望の角度に調整するための照射角調整機構と、前記法線を中心軸として回転させるための回転機構を備えている。
【0014】
上記イオン源6では、図示していない電源によりフィラメント7が赤熱する程度の電流を流し、そこで発生した熱電子にArの電離電圧(15.7eV)以上に加速して中性のガスクラスターに衝突させることで、ガスクラスターイオンを発生させる。
【0015】
また、上記イオン加速機構は、電極8、9、10で構成されている。電極8はイオン源6と等電位であり、正の高電圧、例えば20kVが印加され、電極9には負の高電圧、例えば-20kVが印加され、電極10は接地電極となっている。この場合、電極8に印加する電圧がガスクラスターイオンの加速電圧となる。このような構成とすることにより、20keVの照射エネルギーを持つガスクラスターイオンビームを得ることができる。
【0016】
ガスクラスターイオンビームの軌道上に、ビームに対して垂直な磁界を発生させる磁石11を設置する。この磁界を通過するときに、ビーム中に含まれるモノマーイオンは、ローレンツ力の影響を強く受け、初期の軌道から逸れる。このモノマーイオンは、ガスクラスターをイオン化した際などに発生したものである。ガスクラスターイオンもローレンツ力の影響を受けるが、質量電荷比(m/z,mは質量数,zは電荷数)が大きいため、その影響は軽微である。即ち、磁石11はアルファフィルタ(alfa filter)等として知られるエネルギーフィルタとして働き、ワーク15(被加工物)の質量電荷比の小さい(加速され易い)モノマーイオンによる照射を防ぐが、所望される1価のガスクラスターイオンの質量電荷比付近(例えば、m/z≧1,000)におけるそのエネルギー分解能を下げることにより、ワーク15を1価のガスクラスターイオンで照射させる。従って、イオン化チャンバー5と照射チャンバー13の間に適切な穴径を持つアパーチャーを設けると、ガスクラスターイオンのみがアパーチャーを通過し、モノマーイオンがワークに照射されることが防止される。
【0017】
さらに、イオン源6からワーク15に至るガスクラスターイオンビーム17の軌道付近には、ニュートラライザー12が設置される。このニュートラライザー12は、ワーク15及びワークホルダー14が正電荷を有するガスクラスターイオンビーム17で照射されて正に帯電することにより、それ以降、ガスクラスターイオンビーム17が帯電したワーク15に到達し難くなる問題を解決するものである。ニュートラライザー12は、図示されていない電源を接続したフィラメントに、これが赤熱する程度の電流を流し、このフィラメントから発生した熱電子(負電荷)でワーク15及びワークホルダー14を照射することにより、これらが正に帯電することを防止する。ニュートラライザー12から発生した熱電子は概ねガスクラスターイオンビーム17と同様な軌道に沿ってワーク15に到達する。
【0018】
図2は、照射チャンバー13で、照射角調整機構及び回転機構を有するワークホルダー14に固定されたワーク15を、ワーク表面の法線16を軸として回転させながら、照射角θを50°以上90°以下に調整して、ガスクラスターイオンビーム17を照射している状態の拡大図を示す。図2において、ワークホルダー14の回転機構、及び照射角調整機構は図示されていない。さらに、図3には、ワーク15の照射表面18付近の拡大図を示す。図3に示すように、本発明によるガスクラスターイオンビーム照射装置で照射することによって、ワーク表面18上に点在する突起19の表面への照射角(θ')は、ワーク表面18への照射角(θ)より小さくなる。この照射角θ,θ'は、ワーク15及びその突起19の夫々の表面に対する法線16,20に対するガスクラスターイオンビーム17の入射方向のずれとして定義され、その値が小さいほど、ガスクラスターイオンビーム17は当該表面に垂直に近い状態で入射する。そのため、突起19の表面がガスクラスターイオンビーム17によりエッチングされる度合い(エッチレート)は、ワーク表面18のエッチレートよりも大きくなる。そのため、突起19は選択的にエッチングされて除去され、その結果、ワーク表面18の平坦化が進行する。また、ワークホルダー14をワーク表面18の法線16を回転軸として回転させているため、ワーク表面18に対してガスクラスターイオンビーム17の入射方向を固定している(ワーク表面18を回転させない)ときには、ガスクラスターイオンビーム17の入射方向から見て突起19の陰になり、エッチングが進まない他の突起(図示されず)もエッチングすることができ、ワーク表面18全域の平坦化の進行を速めることができる。
【0019】
図4には、膜厚50nmのNiFe膜が形成された試料における元素の含有量を、二次イオン質量分析計(以下、SIMSと記す)を用いて、NiFe膜の表面からの深さ方向に沿って測定した結果が示される。SIMSは、NiFe膜をその表面に照射される一次イオン(ガリウム(Ga)やセシウム(Cs)等が用いられる)で掘りながら、掘削された深さに存在する元素をイオン化し、これを二次イオンとして同定する。図4(a)は上記NiFe膜をAr(アルゴン)のガスクラスターイオンビームで、図4(b)は上記NiFe膜をArのモノマーイオンビームで、照射エネルギー20keV、ドーズ量(イオンビームの進行方向に直交する単位断面積当たりのイオン量)5×1015ions/cmの条件で夫々照射した試料におけるNi、Fe、Arの各元素の含有量(任意単位)を、当該NiFe膜の表面からの深さ方向に沿って測定した所謂「深さプロファイル」として示す。一方、図4(c)は、斯様なイオンビームのいずれにも照射されない上記NiFe膜におけるNi、Fe、Arの各々の深さプロファイルを示す。Arのガスクラスターイオンにもモノマーイオンにも照射されないNiFe膜の深さプロファイル(図4(c))にて、その深さ(厚さ:0~50nm)の全域に亘り検出されたArは、ニッケル(Ni)及び鉄(Fe)を含むスパッタリング・ターゲットをArのイオンでスパッタしながらNi原子やFe原子を試料表面に堆積する工程(NiFe膜の形成工程)で、このNiFe膜に取り込まれたものである。
【0020】
Arのモノマーイオンビームで照射されたNiFe膜では、図4(b)に示すように、その厚さ(50nm)全域に亘り、任意単位にして5,000~50,000のArイオンが検出されたが、Arのガスクラスターイオンビームで照射されたNiFe膜では、図4(a)に示すように、任意単位にして最大でも100程度のArイオンが検出されたに過ぎず、その値は図4(c)に示されたArイオンと略同程度である。従って、Arのモノマーイオンビームで照射されたNiFe膜では、図4(b)に示されるように、その厚さ(50nm)全体に亘りArが打ち込まれているのに対し、Arのガスクラスターイオンビームで照射されたNiFe膜では、図4(a)に示されるように、Arの侵入がほぼ抑制されている。
【0021】
図5の(a)及び(b)には、照射エネルギー20keV、ドーズ量1×1015ions/cmでアルゴン原子のガスクラスターイオンビームが照射された膜厚50nmのNiFe膜におけるNi、Fe、Oの深さプロファイルが示される。図5(a)の深さプロファイルを示すNiFe膜には照射角0°で、図5(b)の深さプロファイルを示すNiFe膜には照射角60°で、ガスクラスターイオンビームが夫々照射されている。図5(c)にはガスクラスターイオンビーム照射前のNiFe膜のNi、Fe、Oの深さプロファイルを示す。図5(c)に示すように、照射前の膜には自然酸化膜24が形成されている。図5(a)に示すように照射角0°で照射した場合は、表面の自然酸化膜とNiFe膜のミキシング層22が形成され、組成ずれも見られる。このミキシング層は表面の自然酸化膜に含まれる酸素原子や表面に吸着している水分子等の酸素原子が、ガスクラスターイオンの衝突に伴って、NiFe膜中に侵入したものである。それに対し、図5(b)に示すように照射角60°で照射した場合は、図5(c)と比較して、ミキシングによる酸化膜厚の増加もなく、組成ずれも抑制されており、加工損傷が1nm以下で加工することができた。図5(b)の酸化膜23(膜厚は約1nm)は自然酸化膜である。また、図5(b)のサンプルの表面粗さRaは、照射前が0.5nmであったが、加工後は0.3nmに低減することができた。
照射角が50°より小さい場合、0°から照射角を増加させるのに従って、加工面の表面粗さが増加し、及び図5(a)に示したものと同様の加工損傷深さが増加する。
同様の加工は、照射するガスクラスターイオンのサイズ(N)と照射エネルギー(E)と照射角(θ)の関係は、0.02eV≦(E/N)×cosθ≦0.5eVとすることによっても、実現できる。ここで、ガスクラスターイオンの照射エネルギーEとは、加速電圧に電荷素量を乗じたものである。クラスターサイズは、図1に示す装置の場合、ノズル2の1次側の圧力、フィラメント7に流す電流及びフィラメント7から発せられた熱電子のエネルギーによって決まる。(E/N)×cosθの値がこれより小さいと、ガスクラスターイオンの照射エネルギーが小さすぎて、加工が進まない。また、これより大きいと、高いエッチレートが得られるものの、図5(a)に示したものと同様に、膜表面に2~10nm程度の加工損傷が残る。
ところで、実際のビームに含まれるガスクラスターイオンのサイズは、単分散ではなく、分布を持っている。その場合のサイズNは、平均値や最頻値等、その分布の特徴的な数値とする。
このように、本発明のガスクラスターイオンビーム照射装置を用いると、1次イオンの侵入を防止でき、ミキシングや組成ずれ等の加工損傷が生じる深さを1nm以下の加工面を得ることができる。
上記実施例のガスクラスターイオンビーム照射装置において、クラスターサイズ、加速電圧(照射エネルギー)、照射角及びワークホルダー14の回転速度等は、真空を破らずに外部から制御できるようにすることで、加工プロセスを複数のステップで構成することが可能である。すなわち、加工前の表面粗さが大きい場合や、加工量が多い場合などは、照射エネルギーや照射角等を上記範囲にこだわらずに、例えばサイズ2000のクラスターイオンを照射エネルギー20keV、照射角45°で照射することなどにより、粗加工を行い、表面粗さRaが1nm以下、または残加工量が10nm以下までになってから、上記範囲の照射エネルギー、照射角等に調整して仕上げ加工を行う機能を有するガスクラスターイオンビーム照射装置である。粗加工から仕上げ加工にいたるまでに、加速電圧や照射角等の調整をきめ細かく行い、ステップ数を3つ以上にする機能を有していてもよい。
ところで、上記実施例では、クラスター発生チャンバー7、イオン化チャンバー5、照射チャンバー13の3つのチャンバーからなるシステムを示したが、クラスター発生機構、イオン化機構、イオン加速機構を備えていれば、チャンバーの構成は他の形態であっても構わない。クラスターの発生機構も、ノズル2を通じて高圧のArガスを真空中に噴出するものとしたが、他の方法で発生させても良い。使用するガスもArに限定するものではない。特に、ClやSF等で構成されるガスクラスターイオンを、これらのガスとの反応性を持つ材料に照射した場合は、化学反応による加工速度の増加が期待できる。また、ガスクラスターのイオン化は、フィラメントから発せられる熱電子の衝撃によって起こるとしたが、真空紫外光やX線等による光電離等であっても良い。電子付着等によって負イオンを発生させても構わない。イオン加速機構も、上記以外の構成(電極の枚数や印加する高電圧の極性等)であっても構わない。また、ガスクラスターイオンビーム中に含まれるモノマーイオンが十分少ない等の場合には、磁石11を設置しなくても良い。さらに、ニュートラライザー12は、フィラメントから電子を供給するタイプのものを示したが、プラズマを電子源とするもの等、方式は問わない。また、ワークが接地されていたり、帯電量がビームのエネルギーに比べて十分小さい等、ガスクラスターイオンビームを照射したことによる帯電が問題にならない場合にはニュートラライザー12そのものを備えていなくても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、加工損傷をナノメートルレベルに低減することを目的としている。半導体デバイスや磁気ヘッド、磁気ディスク等の磁性デバイス、また液晶ディスプレイをはじめとする表示デバイス、光デバイスの高性能化に伴って、低加工損傷で加工する必要が増加する。これらのデバイスにおいて、加工損傷を抑制しつつ、平坦化を行う工程に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ビームの照射角調整機構及びワークホルダーの回転機構を有するガスクラスターイオンビーム照射装置の概略図
【図2】照射角調整機構及び回転機構を有するワークホルダーの概略図
【図3】ガスクラスターイオンビーム照射中のワーク表面の説明図
【図4】SIMSにより測定したNi、Fe、Arの深さプロファイル
【図5】SIMSにより測定したNi、Fe、Oの深さプロファイル
【符号の説明】
【0024】
1…ガス配管、2…ノズル、3…クラスター発生チャンバー、4…スキマー、 5…イオン化チャンバー、6…イオン源、7…フィラメント、8,9,10…電極、11…磁石、12…ニュートラライザー、13…照射チャンバー、14…ワークホルダー、15…ワーク、16…ワーク表面の法線、17…ガスクラスターイオンビーム、18…ワーク表面、19…ワーク表面の突起、20…ワーク表面に生じた突起の表面の法線、22…ミキシング層、23,24…自然酸化膜。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4