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明細書 :混合物試料の特性を表現する方法、混合物試料の特性を評価する方法、混合物試料の属性を識別する方法、及び混合物試料に由来する電磁波信号を処理する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6281973号 (P6281973)
公開番号 特開2015-114157 (P2015-114157A)
登録日 平成30年2月2日(2018.2.2)
発行日 平成30年2月21日(2018.2.21)
公開日 平成27年6月22日(2015.6.22)
発明の名称または考案の名称 混合物試料の特性を表現する方法、混合物試料の特性を評価する方法、混合物試料の属性を識別する方法、及び混合物試料に由来する電磁波信号を処理する方法
国際特許分類 G01N  24/08        (2006.01)
FI G01N 24/08 510Q
請求項の数または発明の数 23
全頁数 41
出願番号 特願2013-255181 (P2013-255181)
出願日 平成25年12月10日(2013.12.10)
審査請求日 平成28年12月1日(2016.12.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
【識別番号】597040902
【氏名又は名称】学校法人東京工芸大学
【識別番号】598133506
【氏名又は名称】株式会社 ユニフローズ
発明者または考案者 【氏名】小池 薫
【氏名】平川 慶子
【氏名】大野 曜吉
【氏名】森山 剛
【氏名】森川 秀行
【氏名】村木 秀樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100099623、【弁理士】、【氏名又は名称】奥山 尚一
【識別番号】100096769、【弁理士】、【氏名又は名称】有原 幸一
【識別番号】100107319、【弁理士】、【氏名又は名称】松島 鉄男
【識別番号】100114591、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 英文
【識別番号】100129425、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 護晃
【識別番号】100125380、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 綾子
【識別番号】100142996、【弁理士】、【氏名又は名称】森本 聡二
【識別番号】100154298、【弁理士】、【氏名又は名称】角田 恭子
【識別番号】100166268、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 祐
【識別番号】100170379、【弁理士】、【氏名又は名称】徳本 浩一
【識別番号】100161001、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 篤司
審査官 【審査官】田中 秀直
参考文献・文献 特開2011-095105(JP,A)
特開2013-040893(JP,A)
特開2009-300131(JP,A)
特表2013-534317(JP,A)
特開2003-329655(JP,A)
特開2004-064703(JP,A)
特表平10-510355(JP,A)
特開2010-125087(JP,A)
調査した分野 G01N 24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の特性を表現する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、及び、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムによって前記複雑・不均質な混合物試料の特性を表現すること、
を含む、方法。
【請求項2】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の特性を評価する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、及び、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムに基づいて前記複雑・不均質な混合物試料の特性を評価すること、
を含む、方法。
【請求項3】
前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出し、算出された各周波数成分の減衰特性値に基づいて前記複雑・不均質な混合物試料の特性を評価する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、
前記スペクトログラムから前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像を作成すること、及び、
前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用画像とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、
を含む、方法。
【請求項5】
前記属性識別用画像は、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と同様にして作成された前記少なくとも一つの既知混合物試料についてのスペクトログラム画像を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、
前記スペクトログラムの数値列データを用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出すること、及び、
前記被検混合物試料についての特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、
を含む、方法
【請求項7】
前記属性識別用指標は、前記被検混合物試料についての特徴量と同様にして算出された前記複数の既知混合物試料についての特徴量のうち属性毎にグループ化された前記既知混合物試料の特徴量に基づいて属性毎に設定されたものである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記特徴量は、前記被検混合物試料についてスペクトログラムと同様にして算出された前記複数の既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データに対する多変量解析に基づく特徴量である、請求項又はに記載の方法。
【請求項9】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、
前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、
前記各周波数成分の減衰特性値から前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフを作成すること、及び、
前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフと、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用グラフとを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記属性識別用グラフは、前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフと同様にして作成された前記少なくとも一つの既知混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、
前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、
前記各周波数成分の減衰特性値を用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出すること、及び、
前記被検混合物試料についての特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、
を含む、方法。
【請求項12】
前記属性識別用指標は、前記被検混合物試料についての特徴量と同様にして算出された前記複数の既知混合物試料についての特徴量のうち属性毎にグループ化された前記既知混合物試料の特徴量に基づいて属性毎に設定されたものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記特徴量は、前記被検混合物試料についての各周波数成分の減衰特性値と同様にして算出された前記複数の既知混合物試料についての各周波数成分の減衰特性値の数値列データに対する多変量解析に基づく特徴量である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する方法であって、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、及び、
前記スペクトログラムの数値列データ、及び前記スペクトログラムから作成されたスペクトログラム画像の少なくとも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力すること、
を含む、方法。
【請求項15】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する方法であって、
前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、
前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、及び、
前記各周波数成分の減衰特性値の数値列データ、及び前記各周波数成分の減衰特性値から作成された周波数成分/減衰特性値グラフの少なくも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力すること、
を含む、方法。
【請求項16】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する装置であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を入力し、入力されたFID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムから前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像を作成して出力する信号処理部と、
前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用画像とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別部と、
を有する、装置。
【請求項17】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する装置であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を入力し、入力されたFID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムの数値列データを用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出して出力する信号処理部と、
前記被検混合物試料について特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別部と、
を有する、装置。
【請求項18】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する装置であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を入力し、入力されたFID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出し、算出された各周波数成分の減衰特性値から前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフを作成して出力する信号処理部と、
前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフと、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用グラフとを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別部と、
を有する、装置。
【請求項19】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する装置であって、
前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を入力し、入力されたFID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出し、算出された各周波数成分の減衰特性値を用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出して出力する信号処理部と、
前記被検混合物試料について特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別部と、
を有する、装置。
【請求項20】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する装置であって、
入力された前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出する処理部と、
前記処理部で算出されたスペクトログラムの数値列データ、及び前記処理部で算出されたスペクトログラムから作成されたスペクトログラム画像の少なくとも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力する出力部と、
を有する、装置。
【請求項21】
生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する装置であって、
入力された前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出する処理部と、
前記処理部で算出された各周波数成分の減衰特性値の数値列データ、及び前記処理部で算出された各周波数成分の減衰特性値から作成された周波数成分/減衰特性値グラフの少なくとも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力する出力部と、
を有する、装置。
【請求項22】
請求項14又は15に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項23】
請求項22に記載のコンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、混合物試料を分析(解析)する技術に関し、特に、混合物試料の特性を表現する方法、混合物試料の特性を評価する方法、混合物試料の属性を識別する方法、及び混合物試料に由来する電磁波信号を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合物は、「単純な混合物」と「複雑・不均質な混合物」とに大別される。
「単純な混合物」とは、同定可能な比較的少数の物質が組み合わされたものをいう。
「複雑・不均質な混合物」とは、(1)数多くの物質が多様な濃度で混在し、(2)未知の成分を含み、(3)物質間相互作用を示す、ものをいう。
【0003】
ここで、前記数多くの物質には、低分子~高分子の化合物、単体(単一の元素からなる物質)などが含まれる。また、前記物質間相互作用の多くは、分子間に働く分子間力により生じる分子間相互作用であるとされている。そして、この分子間相互作用によって「複雑・不均質な混合物」中の化合物・単体は超分子的に集合・複合化し、これにより、「複雑・不均質な混合物」全体の構造・機能が決定されて、「複雑・不均質な混合物」は、全体として固有の特性を示す。
【0004】
なお、ここでの詳細な説明は省略するが、前記分子間相互作用の本質である分子間力には、クーロン力、配向力、誘起力、分散力、電荷移動力、交換斥力などがあり、実際に観測される分子間相互作用には、静電的相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、電荷移動相互作用などがある。
【0005】
「複雑・不均質な混合物」としては、例えば、化石燃料(石炭・石油など)、合成高分子、及び生物サンプルが該当する。もちろん、これらに限られるものではなく、「複雑・不均質な混合物」には、水汚染物質や悪臭物質など多数・多種類の混合物が含まれる。
【0006】
石炭は、常温で固体の炭化水素化合物(分子量数百~数千)を多数含む、組成が極めて複雑な混合物であり、発電燃料やコークス原料として利用されている。石炭全体の化学構造(石炭構造)には未だ分からない点が多く、このことが石炭の効率的・クリーンな利用を可能とする技術開発を遅らせる原因となっている。近年、分子間相互作用による石炭構造の解明及びそれに基づく高効率・高選択的な革新的石炭利用プロセスの設計・開発が進められている。
【0007】
石油は、常温で液体の炭化水素化合物(分子量数百以下)を多数含む、非常に複雑な構造を持つ混合物であり、輸送用燃料や化学原料として利用されている。これまで石油については平均的な構造式や一般性状を拠り所にした精製処理が行われてきたが、近年、原油や石油製品を分子の集合体として捉え、その詳細な組成と化学構造に基づいて物性や反応性を解析・予測するペトロリオミクス技術の開発が盛んとなっている。
【0008】
合成高分子は、一般に、多数の重合同族体からなる複雑な混合物であり、エレクトロニクス分野、バイオメディカル分野、及び航空宇宙分野をはじめとする様々な分野における先端的な材料として用いられている。合成高分子材料の要求特性は高度化しており、それに伴って合成高分子の化学構造も複雑化している。現在の分子特性解析技術(モレキュラー・キャラクタリゼーション)は、このような合成高分子の開発スピードに充分に対応できていないのが実情である。合成高分子の特性解析においては、合成された高分子毎の平均の分子量などの構造パラメータの平均値だけではなく、それらの分布や連鎖の測定に基づく物性の理解が重要になっている。
【0009】
生物サンプルは、血液、血漿、血清、唾液、胸水、鼻腔液、細胞内液、細胞間液、リンパ液、脳脊髄液、胆汁酸、滑液、心のう液、腹水、糞便、眼内液、喀痰、尿、細胞、組織、臓器などである。また、生物サンプルには、アミノ酸、アミン、ヌクレオチド、糖、脂質などの低分子量代謝物質に加えて、核酸・たんぱく質などの生体高分子や細胞膜、さらにはそれらの分解物や断片なども含まれる。生物サンプルを構成する個々の物質の物理化学的性質は、極性、電離度(イオンの電荷)、沸点、分子量などにおいて多様であり、物質間相互作用は複雑である。
【0010】
ここで、核酸を対象にしたゲノミクス、たんぱく質を対象としたプロテオミクス、低分子量代謝物質を対象にしたメタボロミクスは、それぞれ生物サンプル中に含まれる核酸、たんぱく質、低分子量代謝物質を網羅的に同定・定量することを目的とした分析技術であり、これらは、オミクス技術として遺伝学的研究や代謝学的研究に用いられている。
【0011】
混合物中の特定の物質を分析する場合には、通常、濾過、抽出、分離などの前処理を行って、分析対象以外の物質を可能な限り除去し、その後に、機器分析(質量分析、電磁波分析、電気分析など)や抗原抗体反応などを利用した手法を用いて、特定の物質を同定・定量する。前記オミクス技術によって混合物中に含まれる物質を分析する場合も、各物質を可能な限り分離・精製し、その後に、上述の混合物中の特定の物質を分析する場合に準じて個々の物質の同定・定量を行う場合がほとんどである。
【0012】
さて、今日、電磁波分析や質量分析などは、対象物を定性・定量するため又は対象物の物性等を調べる目的で広く用いられている。そのうちの電磁波分析は、物理的観測量の強度を、周波数・エネルギー・時間などの関数として示すことで、対象物の定性・定量あるいは物性を調べる手法であり、機器分析の中でもっとも広く利用されている。電磁波分析は、当初、単体あるいは単一の化合物の化学的情報を得ることを主たる目的として発展したので、混合物の定性・定量を行う場合には、成分ごとの分離や抽出などの前処理を必要としてきた。
【0013】
電磁波分析の一つであるNMRスペクトル法は、ラジオ波領域の電磁波を用いた分析手法である。このNMRスペクトル法は、単一の化合物の化学情報を得ることを目的に開発され、スペクトル上のピークから原子数や分子構造などの化学的情報を得る技術である。NMRスペクトル法は、非破壊的で、定性・定量性・再現性に優れているため、分析・解析の適用範囲が混合物にまで拡げられている。「単純な混合物」を対象とする場合には、定量核磁気共鳴法(定量NMR法:quantitative Nuclear Magnetic Resonance)やDOSY法(Three Dimensional-Diffusion-Ordered NMR Spectroscopy)などの手法を用いることによって一定の成果が得られている。
【0014】
定量NMR(qNMR)法は、NMRスペクトル上の測定対象物質由来の信号と内標準物質由来の信号の積分値を比較することで分析を行う。分子量が既知である基準物質が上位標準として用意されれば、溶液1H NMR(プロトン核磁気共鳴)を用いることにより、同時に測定された同一溶液内の他の化合物の純度を調べることも可能である。現在、定量NMRは、食品添加物公定書や生薬薬局方の参考情報に記載される信頼性の高い試験法となっている。
【0015】
DOSY法は、複数の化合物で構成される混合試料を各分子種の自己拡散係数の差を利用してスペクトルを分離する手法であり、分離・抽出等の前処理を行わずに混合試料中の各化合物のスペクトルが得られる。
【0016】
NMRスペクトル法は、現在、生物サンプルにもその応用範囲を拡げており、多くの場合、生物サンプルを構成する物質の同定・定量を目的とした分析に応用されている。NMRスペクトル法はメタボロミクスにも応用されている。例えば、サンプル中の運動性の高い低分子物質のみを選択的に検出できるスピンエコー法の一種であるパルス系列のCPMG法(Carr-Purcell Meiboom-Gill sequence)を用いた1H NMRスペクトル法は、メタボロミクスの主要な分析技術の一つとなっている。なお、スピンエコー法及びCPMG法について簡単に説明すると以下のようである。
【0017】
サンプル中の可動性の小さな高分子由来のプロトンは、交差緩和(cross relaxation:近くの分子中の磁性をもつ原子核にエネルギー放出)によってT1緩和時間(縦緩和時間)、T2緩和時間(横緩和時間)が共に短くなる。NMRスペクトル上のピーク幅はT2緩和時間に反比例するので、高分子化合物の(高分子由来のプロトンに帰属される)ピークは幅広となる。このため、高分子化合物は、それ自体の解析が容易でなく、また、そのピークが、同定・定量を容易に行える可動性の大きい低分子量の化合物のピーク(一般にT2緩和時間が長く、鋭いピークとなる)と重なり合うことによって、低分子量の化合物の解析をも困難とする。このような点を解決した測定法がスピンエコー法である。スピンエコー法は、プロトンを励起させた後に少し時間をあけて信号を取得するので、タンパク質のようなT2緩和時間の短い高分子化合物由来のプロトンは検出されず、T2緩和時間の長い低分子のピークだけが明瞭に検出される。但し、この測定法では、条件によって一部のシグナルが逆さになることがある。そこで、考案されたのが、ある特殊なパルスを用いて励起するCPMG法である。
【先行技術文献】
【0018】

【特許文献1】特表2002-543392号公報
【特許文献2】特表2012-500391号公報
【0019】

【非特許文献1】Psychogios N, Hau DD, Peng J, Guo AC, Mandal R, et al. (2011) The Human Serum Metabolome. PLoS ONE 6(2): e16957. doi:10.1371/journal.pone.0016957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ここで、混合物試料を分析する場合、特に、生物サンプルのような「複雑・不均質な混合物」を電磁波分析や質量分析などを行う場合における従来技術の問題点について検討する。
以下、混合物試料の分析において一般的に実施される<前処理>/<含有物質の同定・定量>について説明する。
【0021】
<前処理>
(1)混合物の分析のための前処理としては、濾過、抽出、分離などがある。
(2)前処理は、元来、特定の物質あるいは物質群を選択的に精製するために開発された技術である。そのため、「複雑・不均質な混合物」に対して前処理を行うと、「複雑・不均質な混合物」に含まれるいくつかの物質が除去されることとなる。当然、前処理の過程で除去された物質の同定・定量は不可能となり、また、「複雑・不均質な混合物」全体の特性も失われる。よって、「複雑・不均質な混合物」の分析のために前処理を実施することは妥当でない。
【0022】
<含有物質の同定・定量>
(1)濾過、抽出、分離などの前処理なしで同定・定量を行える分光分析法の種類は、NMRスペクトル法などに限られる。前処理なしにNMRスペクトル法を用いた同定・定量を行う場合、基本的に、既知の化合物単体のNMRスペクトルや「単純な混合物」中の既知の化合物のNMRスペクトルに関する先見知識に基づく解析が行われる。NMRスペクトル法では、観測核(例えばプロトン)の測定環境下における磁場環境の変化による観測核の共鳴周波数のずれ(ケミカルシフト値)を根拠に物質の分子構造を決定する。
(2)「複雑・不均質な混合物」では、各化合物が物質間相互作用(分子間相互作用)により不均質に集合・複合化しており、測定環境下の磁場は「複雑・不均質な混合物」固有の分布を示す。そのため、上述のような先見知識のみで「複雑・不均質な混合物」中の各化合物を正確に同定・定量することは困難である。
(3)「複雑・不均質な混合物」中における分子間相互作用の結果として発生する電磁波信号は、当該「複雑・不均質な混合物」固有の特性を示すNMRスペクトル情報となり得るものであるが、このようなNMRスペクトル情報に着目した分析は行われていない。
NMRスペクトル法は、上述のように、前処理なしで混合物中の成分の同定・定量を行う場合にも利用されてはいるが、下記(a)~(c)に示すような問題がある。
(a)定量NMR(qNMR)では、「複雑・不均質な混合物」はその適用外である。
(b)DOSY法は、その適用範囲が同種かつ数種類の化合物からなる混合物に限られており、定量性が乏しい。
(c)CPMG法は、運動性の高いプロトン由来のピークに関して定量性があり、メタボロミクスにおける低分子代謝物の分析に広く適用されている。しかし、「複雑・不均質な混合物」中では物質間相互作用等により磁場環境が不均質に変化しているため、化合物単体から得られた化合物ピークのケミカルシフト値を根拠にして物質を同定・定量した結果の信頼性は低い。
(4)「複雑・不均質な混合物」中の未知の成分に関する情報は得られない。例えば、特許文献1に記載の技術は、「複雑・不均質な混合物」である血清などのNMRスペクトル解析に関するものであり、複雑なピークパターンを示すグルコース及び高分子化合物(リポタンパク)に由来するピークの解析には適していると言える。しかし、特定の物質のみに注目した同定・定量分析であり、未知の成分に関する情報は得られないし、「複雑・不均一な混合物」全体の持つ情報は利用されない。
【0023】
このように、生物サンプルなどの「複雑・不均質な混合物」を分析する場合には、前処理を実施することは妥当ではなく、また、含有物質の同定・定量を行う方法では、「複雑・不均質な混合物」全体の特性を精度よく把握することは困難である。
【0024】
一方、含有物質の同定を行うことなく混合物を分析する技術も知られている。しかし、現状では、同定・定量を目的とした分析手法と同様の分析手法が利用されているため、混合物全体の特性を正確に把握するには限界がある。例えば、特許文献2に記載の技術は、x-yトレースとして出力されたNMRスペクトルを用いている。このため、血清などの高分子化合物が高濃度に存在する生物サンプルを対象とした場合、高分子化合物由来の運動性の低いプロトンによるブロードピークが広帯域に分布して、低分子化合物あるいは高分子化合物中の運動性の高いプロトンに由来する微小なピークの情報は得られない。
【0025】
従来技術における「複雑・不均質な混合物」の分光分析の大半は、「混合物は純物質(単体及び化合物)の集合体である」という仮定のもとで、含有純物質単体がもつ電磁波特性を利用して含有純物質を同定・定量する。このため、「複雑・不均質な混合物」に含まれる検出・同定が困難な物質(既知物質、未知物質)についての情報が取り扱われることはなかった。また、含有純物質の同定を行わない場合においては、「複雑・不均質な混合物」での分子間相互作用による電磁波信号の変化(例えば、時間変動)について考慮されていなかった。さらに、従来の混合物の分析は、化学的専門知識を必要としており、簡易性や迅速性の面などにおいても課題を有していた。
そこで、本発明は、従来の混合物の分析技術における上述のような課題の少なくとも一つを解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の特性を表現する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、及び、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムによって前記複雑・不均質な混合物試料の特性を表現すること、を含む。
【0029】
本発明の他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の特性を評価する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、及び、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムに基づいて前記複雑・不均質な混合物試料の特性を評価すること、を含む。
ここで、算出されたスペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値をさらに算出し、算出された各周波数成分の減衰特性値に基づいて前記混合物試料の特性を評価してもよい。
【0032】
本発明の他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、前記スペクトログラムから前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像を作成すること、及び、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用画像とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、を含む。
【0033】
本発明の他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、前記スペクトログラムの数値列データを用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出すること、及び、前記被検混合物試料についての特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、を含む。
【0034】
本発明の他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、前記各周波数成分の減衰特性値から前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフを作成すること、及び、前記被検混合物試料についての周波数成分/減衰特性値グラフと、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている少なくとも一つの既知混合物試料に基づいて作成された属性識別用グラフとを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、を含む。
【0035】
本発明の他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料の属性を識別する方法は、前記複雑・不均質な混合物試料であって属性が不明な被検混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによってFID信号を取得すること、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、前記各周波数成分の減衰特性値を用いて前記被検混合物試料についての特徴量を算出すること、及び、前記被検混合物試料についての特徴量と、前記被検混合物試料と同種で属性が決定されている複数の既知混合物試料に基づいて設定された属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別すること、を含む。
【0037】
本発明の更に他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する方法は、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、及び、前記スペクトログラムの数値列データ、及び前記スペクトログラムから作成されたスペクトログラム画像の少なくとも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力すること、を含む。
【0038】
本発明の更に他の側面によると、生物から採取された生物サンプルを含む複雑・不均質な混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号を処理する方法は、前記FID信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記FID信号のスペクトログラムを算出すること、前記スペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値を算出すること、及び、前記各周波数成分の減衰特性値の数値列データ、及び前記各周波数成分の減衰特性値から作成された周波数成分/減衰特性値グラフの少なくも一方を、前記複雑・不均質な混合物試料の特性を示す情報として出力すること、を含む。
【発明の効果】
【0039】
混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号から算出されるスペクトログラム(数値列データやスペクトログラム画像)、及び、混合物試料を核磁気共鳴(NMR)分析装置にかけることによって取得されたFID信号から算出されるスペクトログラムの各周波数成分の減衰特性値(数値列データ、周波数成分/減衰特性値グラフ)は、それぞれ当該混合物試料の特性を示す情報(すなわち、固有のデータ)となり得ることが確認されている。そして、これらの情報(データ)は、前記FID信号に含まれた各種の情報をほとんど失っておらず、混合物試料中に含まれる成分の種類(未知の成分を含む)や量に関する情報や物質間相互作用の影響に関する情報などをも包含している。また、これらの情報(データ)の解析(比較を含む)は、汎用の画像・音響工学技術などを用いて行うことができ、化学的専門知識(先見知識を含む)をほとんど必要とせず、しかも高精度で行うことができる。さらに、前記FID信号は、混合物試料を破壊することなく取得可能である。
【0040】
このため、前記混合物試料の特性を表現する方法によると、従来は利用できなかった又は利用されていなかった情報を活用しての混合物試料の分析が可能になる。
また、前記混合物試料の特性を評価する方法によると、混合物試料(特に、複雑・不均質な混合物)について、従来とは全く異なる方式で、高精度・非破壊的・簡便・迅速にその特性を評価することが可能となる。
さらに、前記混合物試料の特性を識別する方法によると、属性が不明な混合物試料(特に、複雑・不均質な混合物)について、従来とは全く異なる方式で、高精度・非破壊的・簡便・迅速にその属性を識別することが可能となる。
さらにまた、前記混合物試料に由来する電磁波信号を処理する方法によると、前記混合物試料に由来する電磁波信号を、解析や比較が比較的容易なデータとして出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】混合物試料に由来する電磁波信号の一例であるNMR信号を示す図である。
【図2】第1実施形態における信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態における前記信号処理装置が実施する処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態における信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】第2実施形態における前記信号処理装置が実施する処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】第3実施形態における信号処理装置(電磁波信号を処理する装置)の概略構成を示すブロック図である。
【図9】スペクトログラム画像(実際にはカラー画像)の一例を示す図である。
【図10】第3実施形態における前記信号処理装置が実施する処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】第3実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の一例を示すフローチャートである。
【図12】第3実施形態における属性識別装置(被検混合物の属性を識別する装置)の一例を示すブロック図である。
【図13】第3実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の他の例を示すフローチャートである。
【図14】第3実施形態における属性識別装置の他の例を示すブロック図である。
【図15】第4実施形態における信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図16】第4実施形態における前記信号処理装置が実施する処理の一例を示すフローチャートである。
【図17】第4実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の一例を示すフローチャートである。
【図18】第4実施形態における属性識別装置の一例を示すブロック図である。
【図19】第4実施形態において被検混合物試料の属性を識別する処理の他の例を示すフローチャートである
【図20】第4実施形態における属性識別装置の他の例を示すブロック図である。
【図21】ラット血漿のNMR信号のスペクトログラム画像の一例を示す図である。
【図22】ラット血漿のNMR信号の周波数成分/時定数グラフの一例を示す図である。
【図23】ラット血漿のNMR信号のスペクトログラム(数値列データ)に対する主成分分析結果の一例を示す図である。
【図24】ラット血漿のNMR信号のスペクトログラム(数値列データ)に対するPLS判別分析結果の一例を示す図である。
【図25】ラット血漿のNMR信号の各周波数成分の時定数(数値列データ)に対する主成分分析結果の一例を示す図である。
【図26】ラット血漿のNMR信号の各周波数成分の時定数(数値列データ)に対するPLS判別分析結果の一例を示す図である。
【図27】マウス細胞抽出物のNMR信号のスペクトログラム画像の一例を示す図である。
【図28】マウス細胞抽出物のNMR信号の周波数成分/時定数グラフの一例を示す図である。
【図29】マウス細胞抽出物のNMR信号のスペクトログラム(数値列データ)に対する主成分分析結果の一例を示す図である。
【図30】マウス細胞抽出物のNMR信号のスペクトログラム(数値列データ)に対するPLS判別分析結果の一例を示す図である。
【図31】マウス細胞抽出物のNMR信号の各周波数成分の時定数(数値列データ)に対する主成分分析結果の一例を示す図である。
【図32】マウス細胞抽出物のNMR信号の各周波数成分の時定数(数値列データ)に対するPLS判別分析結果の一例を示す図である。
【図33】ラット血漿のNIR信号の色表示の一例を示す図である。
【図34】ラット血漿のNIR信号から算出したRGB値(数値列データ)に対するSVMを用いた識別結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
まず、本発明の概要を説明する。
本発明の重要な特徴は、混合物を個々の物質の集合体ではなく、混合物全体をひとつの構造単位(統合体)として見做す点にある。本発明では、混合物試料から当該混合物試料に由来する電磁波信号を取得し、この取得した電磁波信号を、ひとつの構造単位(統合体)を表現する固有の電磁波信号として扱う。すなわち、本発明では、混合物試料に由来する電磁波信号を、当該混合物試料を構成する各成分の合成信号(すなわち、各成分の電磁波信号の集合体)としてではなく、当該混合物試料に固有の一つの電磁波信号(一つのデータ)として取り扱う。このような取り扱いによって、混合物試料中の未知の成分に関する情報や質間相互作用の影響に関する情報をも解析データに含めることができる。

【0043】
本発明は、上述の重要な特徴を前提とした上で、混合物試料の特性についての新たな表現方法を提供する。この表現方法は、従来は利用できなかった又は利用されていなかった情報を活用しての混合物の解析を可能とすると共に、例えば化学的専門知識(先見知識を含む)をほとんど有さない者が、混合物試料の特性を評価したり、混合物試料の属性を識別したりすることを可能とする。

【0044】
ここにおいて、「混合物試料に由来する電磁波信号」は、混合物試料に電磁波や熱を含む所定のエネルギーや化学反応物質を作用させることによって得られる電磁波信号、混合物試料自体が発する電磁波信号などを含む。例えば、混合物試料を各種の分析装置にかけることによって取得(観測)される電磁波信号(主に時間領域の信号)は、混合物試料に由来する電磁波信号に該当する。また、前記各種の分析装置としては、核磁気共鳴(NMR)分析装置、質量分析装置、クロマトグラフ装置、吸光分析装置、及び発光分析装置などがある。

【0045】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態及び実施例について説明する。
なお、以下の説明においては、混合物試料に由来する電磁波信号が、主にNMR信号(NMRのFID信号)である場合、すなわち、混合物試料をNMR分析装置にかけることによって得られる電磁波信号である場合について説明するが、上述のように、これに限るものではないことはもちろんである。

【0046】
<第1実施形態>
既述したように、従来の混合物の分析は、化学的専門知識を必要としており、また、混合物試料に由来する電磁波信号に含まれる「複雑・不均質な混合物」の構造・機能に関する情報の一部が利用されていない。

【0047】
第1実施形態では、混合物試料から当該混合物試料に由来する電磁波信号を取得し、取得された電磁波信号から可聴域データを生成し、生成された可聴域データを音に変換して出力し、この出力された音によって前記混合物試料の特性を表現する。
前記可聴域データは、基本的には、取得された前記電磁波信号を可聴域(ヒト可聴域)に周波数変換(例えば周波数シフト)することによって生成される。したがって、ここでは、取得された前記電磁波信号を可聴域に周波数変換して可聴域データを生成する場合について説明する。但し、これに限るものではなく、取得された電磁波信号によっては、当該電磁波信号そのものを前記可聴域データとすることもできる(この場合も混合物試料に由来する電磁波信号から可聴域データを生成することに含まれる)。

【0048】
混合物試料に由来する電磁波信号(例えば、NMR信号)は、「音」と同様に、振幅、周波数、及び波形によって特徴づけられる。「音の三要素」で考えてみると、「音の大きさ」は「振幅」で決まり、「音の高さ」は「周波数」で決まる。また、「音色」は「波形」、すなわち、「周波数の時間変化」で特徴付けられ、この「音色」によって、さまざまな属性の音(例えばピアノの音とバイオリンの音など)を区別することが可能である。そして、ヒトの聴覚は「音色」を高度に識別する能力を有している。もちろん、機器による音識別も可能である。

【0049】
したがって、混合物試料に由来する電磁波信号を音に変換して出力することにより、ヒトの聴覚を利用して、前記混合物試料の特性を評価することが可能となる。このため、化学的専門知識を有さない者であっても、混合物試料(特に、複雑・不均質な混合物)同士に類似性や相違性があることなどを、直感的かつ精度よく認知することが可能になる。例えば、二つの混合物試料の「音」が違う「音」として聞き分けることができれば、両者を容易に識別することが可能である。

【0050】
また、混合物試料に由来する電磁波信号を音に変換して出力するだけであるので、当該電磁波信号に含まれる、混合物試料の各種情報の一部が失われて利用されないおそれも大幅に抑制される。

【0051】
さらに、混合物試料に由来する電磁波信号を音として取り扱うことになるので、当該電磁波信号の解析に、汎用の音響工学技術を利用することも可能となる。例えば、前記電磁波信号(又は前記可聴域データ)に不純物や溶媒に由来する信号や外来ノイズが含まれていることが明らかな場合には、これらの除去を容易に行うことができ、混合物試料(特に、複雑・不均質な混合物)の解析精度の向上も期待できる。

【0052】
第1実施形態では、例えば、以下の工程にしたがって混合物試料の特性を評価する。
(1)第1の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の取得)
混合物試料に由来する電磁波信号(観測信号)を取得し、そのままの形(すなわち、RAW形式)で保存する。例えば、混合物試料を所定の分析装置などにかけることにより、当該混合物試料に由来する電磁波信号(例えば、NMRやテラヘルツ波のFID信号)を取得する。取得された電磁波信号は、何ら処理が加えられることなくそのままの形で保存されており、前記電磁波信号に含まれる前記混合物試料の情報は失われない。なお、図1には、混合物試料に由来する電磁波信号の一例(NMR信号)が示されている。

【0053】
(2)第2の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の処理)
第1の工程で取得(保存)した電磁波信号を可聴域(20Hz~20kHz程度)に周波数変換して可聴域データを生成し、生成された可聴域データを音に変換して出力する。但し、上述したように、第1の工程で取得した電磁波信号をそのまま可聴域データとする場合もある。

【0054】
本実施形態において、前記電磁波信号の処理(可聴域データの生成及び出力処理)は、信号処理装置1Aによって実施される。
図2は、信号処理装置1Aの概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、信号処理装置1Aは、処理部2Aと、出力部3Aとを有する。
処理部2Aは、前記混合物試料に由来する電磁波信号を入力し、入力された電磁波信号を可聴域に周波数変換して可聴域データを生成する。生成された可聴域データは、非圧縮オーディオフォーマット(例えば、非圧縮WAVフォーマット)で保存(記録)されて出力部2Aに出力される。
出力部2Aは、処理部2Aから出力される可聴域データを音に変換して出力する。

【0055】
図3は、信号処理装置1Aが実施する処理の一例を示すフローチャートである。
図3において、ステップS1では、入力された前記電磁波信号を、例えば所定の可聴域変換用係数ベクトルを用いて可聴域に周波数変換して可聴域データを生成する。
ステップS2では、ステップS1で生成された可聴域データを非圧縮オーディオフォーマット(例えば、非圧縮WAVフォーマット)で保存(記録)する。
ステップS3では、前記可聴域データを例えばDA変換して音として出力する。

【0056】
ここで、出力部2Aは、信号処理装置1Aとは別体で構成されてもよい。この場合、信号処理部1Aは、S1、S2の処理を実施し、ステップS2において非圧縮オーディオフォーマットで保存(記録)された前記可聴域データを出力する。そして、信号処理装置1Aとは別体の音声再生装置(出力部2Aに相当する)が前記可聴域データを入力し、ステップS3の処理を実施して前記可聴域データを音に変換して出力する。例えば、コンピュータを前記音声再生装置として使用する場合には、DA変換のための情報(1サンプル当たりのビット数、サンプリング周波数、チャネル数を含むWAVフォーマットヘッダ情報)をコンピュータに与えることにより、当該コンピュータのOSの用意するサウンドライブラリ関数によって、前記可聴域データが当該コンピュータのサウンド出力から音として出力される。

【0057】
(3)第3の工程(混合物試料の特性評価)
信号処理装置1Aから出力される音は、前記混合物試料に関する情報をほとんど失っておらず、前記混合物試料の特性を精度よく示す情報となり得る。したがって、出力される音によって前記混合物試料の特性を評価することが可能である。前記混合物試料の特性評価は、基本的には、ヒトの聴覚を用いて行われる。もちろん、音に変換する前の前記可聴域データを音響工学技術によって処理したり、解析したりすることによって前記混合物試料の特性を評価してもよい。

【0058】
信号処理装置1Aから出力される音及び/又はその解析結果は、混合物試料同士の類似性や相違性などを評価する指標として用いることができる。例えば、その属性区分が未設定である所定の種類の混合物については、該当する複数の混合物試料についての音に基づいてその属性区分を設定することが可能となる。また、その属性区分が所定の分類基準によって設定されている所定の種類の混合物については、新たな属性区分を設定(再設定)することができる。さらに、信号処理装置1Aから出力される音は、属性が不明な混合物試料の属性を識別するために利用することもできる。このような混合物試料の属性識別について、第4の工程として以下に説明する。

【0059】
(4)第4の工程(属性が不明な混合物試料の属性識別)
属性が不明な混合物試料(以下「被検混合物試料」という)の属性の識別は、当該被検混合物試料と同種で属性が決定されている混合物試料(以下「既知混合物試料」という)を用いて行う。具体的には、前記被検混合物試料についての可聴域データに基づく音と、前記既知混合物試料について基づいて生成された属性識別用音データに基づく音とを比較することによって、前記被検混合物試料の属性を識別することができる。

【0060】
図4は、前記被検混合物の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図4において、ステップS11は、前記被検混合物試料及び少なくとも一つの前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を取得する。この電磁波信号の取得は、前記第1の工程と同様にして行われる。ここで、前記被検混合物試料に対応する混合物について一つ又は複数の属性が決定済みである場合には、決定済みの各属性に該当する(属する)前記既知混合物試料に由来する電磁波信号を取得するのが好ましい。すなわち、決定されている属性の数と同数又はそれ以上の前記既知混合物試料に由来する電磁波信号を取得することが好ましい。

【0061】
ステップS12では、ステップS11で取得された各電磁波信号を可聴域に周波数変換して可聴域データを生成し、生成された各可聴域データを非圧縮音声フォーマットで記録する。このステップS12の処理は、前記第2の工程と同様にして行われる。

【0062】
ステップS13では、ステップS12で生成された各可聴域データを音に変換して出力する。具体的には、前記被検混合物試料についての可聴域データに基づく音と、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可聴域データに基づく音とを比較できるように出力する。例えば、前記被検混合物試料についての可聴域データに基づく音と、前記既知混合物試料についての可聴域データに基づく音とを交互に出力する。

【0063】
ステップS14では、ステップS13で出力された各音を比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についての可聴域データに基づく音が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可聴域データに基づく音に類似するか又はいずれに最も類似するかを判断することによって、前記被検混合物試料の属性を識別する。なお、前記被検混合物試料についての可聴域データに基づく音が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可聴域データに基づく音のいずれにも類似しないと判断される場合には、前記被検混合物試料の属性を不明のままとする。

【0064】
ここで、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのステップS11、S12の処理は、本フローとは別に実施されてもよい。例えば、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可聴域データの生成及び記録がなされた後に、前記被検混合物試料についてステップS11、S12の処理を実施して、ステップS13の処理を経てステップS14において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0065】
また、ステップS14における前記被検混合物試料の属性の識別は、基本的にはヒトの聴覚を用いて行われる。すなわち、ステップS11で取得された各電磁波信号が信号処理装置1Aに入力され、信号処理装置1Aから出力される各音を所定の人がその聴覚を用いて比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。但し、これに限るものではなく、属性識別装置を製造し、当該属性識別装置がステップS12~S14の処理を実施するように構成してもよい。この場合、属性識別装置は、例えば、音響工学的手法を用いて前記被検混合物試料の属性を識別するように構成される。

【0066】
<第2実施形態>
第2実施形態では、混合物試料から当該混合物試料に由来する電磁波信号を取得し、取得された電磁波信号を可視域(ヒト可視域)に周波数変換して可視域データとし、当該可視域データを色に変換して出力し、この出力された色によって前記混合物試料の特性を表現する。

【0067】
このように、混合物試料に由来する電磁波信号を色に変換して出力することにより、ヒトの視覚(色覚)を利用して、前記混合物試料の特性を評価することが可能となる。このため、前記第1実施形態と同様、化学的専門知識を有さない者であっても、「複雑・不均質な混合物」同士に類似性や相違性があることなどを直感的かつ精度よく認知することが可能になる。また、前記電磁波信号を色に変換して出力するだけであるので、前記電磁波信号に含まれる情報の一部が利用されないおそれが大幅に抑制される。さらに、前記混合物試料に由来する電磁波信号の解析に汎用の光工学技術等を利用することも可能となるため、「複雑・不均質な混合物」試料の解析精度の向上も期待できる。

【0068】
第2実施形態では、以下の工程にしたがって混合物試料の特性を評価する。
(1)第1の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の取得)
前記第1実施形態における第1の工程と同様である。

【0069】
(2)第2の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の処理)
第1の工程で取得(保存)した電磁波信号(RAW形式)を可視域(4.0×1014Hz~7.5×1014Hz程度)に周波数変換(周波数シフトを含む)して可視域データとし、当該可視域データを音に変換して出力する。

【0070】
本実施形態において、前記電磁波信号の処理は信号処理装置1Bによって実施される。
図5は、信号処理装置1Bの概略構成を示すブロック図である。
図5に示すように、信号処理装置1Bは、処理部2Bと、出力部3Bとを有する。
処理部2Bは、前記混合物試料に由来する電磁波信号(RAW形式)を入力し、入力された電磁波信号を可視域に周波数変換して可視域データを生成する。生成された可視域データは、出力部2Bに出力される。
出力部2Bは、処理部2Bから出力された可視域データを色に変換して出力する。

【0071】
図6は、信号処理装置1Bが実施する処理の一例を示すフローチャートである。
図6において、ステップS21では、入力された前記電磁波信号(RAW形式)を、例えば所定の可視域変換用係数ベクトルを用いて可視域に周波数変換して可視域データを生成して記録する。

【0072】
ステップS22では、RGBバンドパスフィルタを用いて、ステップS21で生成された可視域データのRGB値を算出する。前記RGBバンドパスフィルタは、赤帯域、緑帯域、青帯域の信号を透過する特性を有する狭帯域通過フィルタである。本実施形態では、前記赤帯域の中心周波数を4.3×1014Hzとし、前記緑帯域の中心周波数を5.5×1014Hzとし、前記青帯域の中心周波数を6.9×1014Hzとしている。

【0073】
ステップS22で算出された前記可視域データのRGB値を他の表色系の値に変換してもよい。例えば、L変換テーブルやHSV変換テーブルを用いて、ステップS22で算出された前記可視域データのRGB値をL値に変換(L変換)やHSV値に変換(HSV変換)してもよい。
ステップS23では、前記可視域データを色として出力する。

【0074】
ここで、出力部2Bは、信号処理装置1Bとは別体で構成されてもよい。この場合、信号処理部1Bは、ステップS21・S22の処理を実施して前記可視域データを保存(記録)する。そして、信号処理装置1Bとは別体の表示装置(出力部2Bに相当する)が、前記可視域データを入力し、ステップS23の処理を実施して前記可視域データを色として出力する。

【0075】
(3)第3の工程(混合物試料の特性評価)
信号処理装置1Bから出力される色は、前記第1実施形態における音と同様、前記混合物試料の特性を精度よく示す情報となり得る。したがって、出力される色によって前記混合物試料の特性を評価することが可能である。すなわち、信号処理装置1Bから出力される色は、例えば、混合物試料同士の類似性や相違性などを評価する指標として用いることができ、混合物の属性区分を設定(又は再設定)することを可能とし、属性が不明な混合物試料の属性を識別するために利用され得る。
もちろん、色に変換する前の前記可視域データを処理したり、解析したりすることによって前記混合物試料の特性を評価してもよい。

【0076】
(4)第4の工程(属性が不明な混合物試料の属性識別)
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様、属性が不明な被検混合物試料の属性の識別は、当該被検混合物試料と同種で属性が決定されている既知混合物試料を用いて行う。具体的には、前記被検混合物試料についての可視域データに基づく色と、前記既知混合物試料について基づいて生成された属性識別用色データに基づく色とを比較することによって、前記被検混合物試料の属性を識別することができる。

【0077】
図7は、前記被検混合物の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図7において、ステップS31は、図4のステップS11と同様である。すなわち、前記被検混合物試料及び少なくとも一つの前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号(RAW形式)を取得する。

【0078】
ステップS32では、ステップS31で取得された各電磁波信号(RAW形式)を可視域に周波数変換して可視域データを生成し、生成された各可視域データのRGB値を算出する。このステップS32の処理は、前記第2の工程と同様にして行われる。

【0079】
ステップS33では、前記RGB値を用いて各可視域データを色として出力する。具体的には、前記被検混合物試料についての可視域データに基づく色と、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可視域データに基づく色とを対比可能に出力する。例えば、前記被検混合物試料についての可視域データに基づく色と、前記既知混合物試料についての可視域データに基づく色とを一つの表示画面上に同時に表示する。

【0080】
ステップS34では、ステップS33で出力された各色を比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についての可視域データに基づく色が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可視域データに基づく色に類似するか又はいずれに最も類似するかを判断することによって、前記被検混合物試料の属性を識別する。なお、前記被検混合物試料についての可視域データに基づく色が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可視域データに基づく色のいずれにも類似しないと判断される場合には、前記被検混合物試料の属性を不明のままとする。

【0081】
ここで、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのステップS32、S33の処理は、本フローとは別に実施されてもよい。例えば、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての可視域データを色として出力できる状態にした後に、前記被検混合物試料についてステップS32、S33の処理を実施して、ステップS34において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0082】
また、ステップS34における前記被検混合物試料の属性の識別は、基本的にはヒトの視覚(色覚)を用いて行われる。すなわち、ステップS31で取得された各電磁波信号が信号処理装置1Bに入力され、信号処理装置1Bから出力される各色を所定の人がその視覚(色覚)を用いて比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。但し、これに限るものではなく、前記第1実施形態と同様に、属性識別装置を製造し、当該属性識別装置がステップS32~S34の処理を実施するように構成してもよい。

【0083】
なお、第2実施形態においては、前記RGB値の行列データを作成し、多変量解析などを用いてパターン認識による解析を行うことも可能である。この場合には、次に説明する第3実施形態と同様の方法を用いることができる。

【0084】
<第3実施形態>
例えば、従来のNMRスペクトル法では、混合物試料に由来する電磁波信号に相当するNMR信号(FID信号)をフーリエ変換した後、周波数スペクトル上での各周波数成分における信号強度分布に着目した解析が行われている。このため、周波数分解能を向上させる目的で時間分解能を犠牲にする(すなわち、時間の情報が失われている)。また、信号強度が低い周波数成分についてはほとんど考慮されない。

【0085】
第3実施形態では、運動性の異なる原子核由来のNMR信号は異なる減衰時間を有するという事実に着目し、NMR信号に含まれる周波数並びに時間に伴う信号強度情報をバランスよく活用する。具体的には、第3実施形態では、混合物試料から当該混合物試料に由来する電磁波信号を取得し、取得された電磁波信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムによって前記混合物試料の特性を表現する。

【0086】
このように、混合物試料に由来する電磁波信号のスペクトログラムによって当該混合物試料の特性を表現することにより、例えばNMR信号に含まれる、「複雑・不均質な混合物」の構造・機能に関する情報を網羅的に解析することが可能となり、「複雑・不均質な混合物」の特性評価において著しい精度向上が期待できる。そして、このことはNMR信号に限るものではなく、混合物試料に由来する各種の電磁波信号に共通すると言える。

【0087】
第3実施形態では、以下の工程にしたがって混合物試料の特性を評価する。
(1)第1の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の取得)
前記第1、第2実施形態における第1の工程と同様である。

【0088】
(2)第2の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の処理)
第1の工程で取得(保存)された電磁波信号を短時間周波数解析して当該電磁波信号のスペクトログラム(時間周波数表現)を算出する。
短時間周波数解析は、主に「音」や「音声」の解析に用いられている方法であり、信号全体について、その周波数成分の時間変化を知ることができる。
スペクトログラムとは、短時間周波数解析によって、すなわち、時間周波数信号などの複合信号を窓関数に通して、周波数スペクトルを計算した結果を指すものであり、スペクトログラム画像や数値列データとして出力することが可能である。前記スペクトログラム画像は、例えば2次元グラフ(時間/周波数)上に、明るさ又は色で信号成分の強度(振幅)を表示したものとすることができ、前記数値列データは、例えば2次元配列のデータとすることもできる。

【0089】
本実施形態において、前記電磁波信号の処理(スペクトログラムの算出処理)は、信号処理装置1Cによって実施される。
図8は、信号処理装置1Cの概略構成を示すブロック図である。
図8に示すように、信号処理装置1Cは、処理部2Cと、出力部3Cとを有する。
処理部2Cは、前記混合物試料に由来する電磁波信号を入力し、入力された電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって前記電磁波信号のスペクトログラム(すなわち、前記混合物試料についてのスペクトログラム)を算出する。前記短時間周波数解析としては、例えば短時間フーリエ変換が該当する。但し、これに限るものではなく、ウェーブレット変換などを用いてもよい。

【0090】
出力部3Cは、処理部2Cで算出されたスペクトログラムの数値列データ及び算出されたスペクトログラムから作成されたスペクトログラム画像の少なくとも一方を出力する。なお、図9には、前記スペクトログラム画像(実際にはカラー画像である)の一例が示されている。

【0091】
図10は、信号処理装置1Cが実施する処理(前記スペクトログラムの算出処理)の一例を示すフローチャートである。
図10に示すように、信号処理装置1Cは、前記電磁波信号を入力すると、窓関数による対象区間の切り出しを行ってその波形のフーリエ変換からパワースペクトルを算出する処理を、前記窓関数を時間軸に沿ってシフトしながら繰り返すことによって、前記電磁波信号全体を処理する。そして、信号処理装置1Cは、算出されたスペクトログラムの数値列データ及びスペクトログラム画像の少なくとも一方を出力する。

【0092】
具体的には、信号処理装置1Cは、前記窓関数として例えばハミング窓(窓長:N)を用いる場合、前記電磁波信号の「τs」サンプル目(初期値は0)を始点にしたNサンプルの範囲に前記ハミング窓を乗じて得られる波形をフーリエ変換する。ここで、高速フーリエ変換を用いる場合にはNを2のべき乗とする。信号処理装置CAは、フーリエ変換によって得られた複素フーリエスペクトルの各サンプルのノルムを二乗してパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルを、保存用の2次元配列の「τs/T」列目に代入(格納)する。次に、信号処理装置1Cは、「τs」にT(窓シフト長)サンプルを加算して切り出しの始点を更新し、「τs」+Nが前記電磁波信号のサンプル数未満である間(波形の終端となるまで)、同様の処理を繰り返す(ステップS41~S46)。
これにより、前記電磁波信号のスペクトログラム(すなわち、前記混合物試料についてのスペクトログラム)が算出され、各「τs/T」におけるパワースペクトルが前記2次元配列に格納される。

【0093】
そして、信号処理装置1Cは、算出された前記スペクトログラムの数値列データを出力する場合には、各「τs/T」におけるパワースペクトルを格納した前記2次元配列を、バイナリデータやアスキーデータ(例えば、CSV形式)として出力する(ステップS47)。一方、信号処理部1Cは、算出された前記スペクトログラムを画像(スペクトログラム画像)として出力する場合には、各「τs/T」におけるパワースペクトルを格納した2次元配列の各要素をHSV表色系の値の変換(色相変換)する(ステップS48)。例えば、H(色相)についてはパワースペクトルの値が0で青(-120°)、最大で黄(-60°)となるように係数をかけて変換し、S(彩度)についてはパワースペクトルの値にかかわらず定数(一定)とし、V(明度)についてはパワースペクトルの値に比例する値とする。

【0094】
(3)第3の工程(混合物試料の特性評価)
信号処理装置1Cから出力される前記スペクトログラムの数値列データや前記スペクトログラム画像は、前記混合物試料に関する情報をほとんど失っておらず、前記混合物試料の特性を精度よく示す情報となり得る。例えば、周波数軸では、混合物試料中に含まれる物質の種類や物質間の相互作用などに関する情報が得られ、時間軸では、混合物試料全体の物性に加えて、物質間の相互作用に関する情報が得られる。また、前記スペクトログラム画像では、各ポイントの信号強度の相違を「色相」で表示することにより、各時間における周波数の信号強度の相違も容易に把握することができる。

【0095】
したがって、前記スペクトログラムの数値列データや前記スペクトログラム画像を解析することによって、前記混合物試料の特性を評価することが可能である。前記スペクトルグラムの数値列データや前記スペクトル画像の解析、換言すれば、前記混合物試料の特性評価は、例えば、所定の装置によって公知の統計的手法(多変量解析など)や画像工学的手法を用いて行われ、あるいは、所定の人によって前記統計的手法や視覚(色覚)を用いて行われる。

【0096】
前記電磁波信号のスペクトログラム(数値列データやスペクトログラム画像)及び/又はその解析結果は、混合物試料同士の類似性や相違性などを評価する指標として用いることができる。例えば、その属性区分が未設定である所定の種類の混合物については、該当する複数の混合物試料についてのスペクトログラム(数値列データやスペクトログラム画像)を解析することによって、その属性区分を設定することが可能となる。
また、同様に、その属性区分が所定の分類基準によって設定されている所定の種類の混合物については、新たな属性区分を設定(再設定)することができる。
さらに、前記電磁波信号のスペクトログラム(数値列データやスペクトログラム画像)は、属性が不明な混合物試料の属性を識別するために利用することもできる。このような混合物試料の属性識別について、第4の工程として以下に説明する。

【0097】
(4)第4の工程(属性が不明な混合物試料の属性識別)
本実施形態においても、前記第1、第2実施形態と同様、属性が不明な被検混合物試料の属性の識別は、当該被検混合物試料と同種で属性が決定されている既知混合物試料を用いて行う。具体的には、前記被検混合物試料についてのスペクトログラムと、前記既知混合物試料についてのスペクトログラム又はこれに基づく指標とを比較することによって、前記被検混合物試料の属性を識別する。以下、前記スペクトログラム画像を用いる場合と、前記スペクトログラムの数値列データを用いる場合とに分けて説明する。

【0098】
(4-1)前記スペクトログラム画像を用いる場合
図11は、前記スペクトログラム画像を用いて前記被検混合物試料の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図11において、ステップS51は、図4のステップS11と同様である。すなわち、前記被検混合物試料及び少なくとも一つの前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を取得する。

【0099】
ステップS52では、ステップS51で取得された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによってスペクトログラム(時間周波数表現)を算出し、各電磁波信号のスペクトログラム画像を作成する。すなわち、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像及び少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像を作成する。このスペクトログラム画像の作成は、前記第2の工程と同様にして行われる。

【0100】
ステップS53では、ステップS52で作成された各スペクトログラム画像を比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像に類似するか又はいずれに最も類似するかを判断し、これによって前記被検混合物試料の属性を識別する。なお、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像が、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像のいずれにも類似しないと判断される場合には、前記被検混合物試料の属性を不明のままとする。

【0101】
ここで、少なくとも一つの前記既知混合物試料に対するステップS51、S52の処理は、本フローとは別に実施されてもよい。例えば、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像を作成した後に、前記被検混合物試料に対してステップS51、S52の処理を実施して、ステップS53において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0102】
また、ステップS53における前記被検混合物試料の属性の識別は、ヒトの視覚(色覚)又は所定の装置によって行われ得る。ヒトの視覚(色覚)によって行われる場合には、ステップS51で取得された各電磁波信号が信号処理装置1Cに入力され、信号処理装置1Cから出力される各スペクトログラム画像を、所定の人がその視覚(色覚)を用いて比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。
一方、所定の装置によって行われる場合には、以下のような構成を有する混合物試料の属性を識別する装置(以下「属性識別装置」という)を製造し、当該属性識別装置が図11のステップS52、S53の処理を実施する。

【0103】
なお、図11に示すフローチャートでは、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像とを比較しているが、前記少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像に代えて、これらに基づいて属性毎に作成された属性識別用画像を用いてもよい。

【0104】
図12は、前記スペクトログラム画像を用いて前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別装置10Aの概略構成を示すブロック図である。
図12に示すように、属性識別装置10Aは、信号処理部11Aと、属性識別部12Aと、識別結果出力部13Aとを有する。

【0105】
信号処理部11Aは、上述の信号処理装置1Cと同様の機能を有し、図11のステップS52に相当する処理を実施する。すなわち、信号処理部11Aは、前記被検混合物試料及び少なくとも一つの前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を入力し、入力された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって各電磁波信号のスペクトログラムを算出する。そして、信号処理部11Aは、前記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像及び少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像をそれぞれ作成して属性識別部12Aに出力する。

【0106】
属性識別部12Aは、例えば画像工学的手法を用いて、図11のステップS53に相当する処理を実施する。すなわち、属性識別部12Aは、前記記被検混合物試料についてのスペクトログラム画像と、少なくとも一つの前記既知混合物試料についてのスペクトログラム画像とを比較して前記被検混合物試料の属性を識別し、識別結果を識別結果出力部13Aに出力する。前記識別結果には属性不明も含まれる。

【0107】
識別結果出力部13Aは、属性識別部12Aによる前記識別結果を出力する。例えば、識別結果出力部13Aは、前記識別結果を図示省略の表示部に表示する。これにより、属性識別装置10Aの利用者は前記被検混合物試料の属性を把握することができる。

【0108】
(4-2)前記スペクトログラムの数値列データを用いる場合
図13は、前記スペクトログラムの数値列データを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図13において、ステップS61では、前記被検混合物試料及び複数の前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を取得する。この電磁波信号の取得は、前記第1の工程と同様にして行われる。

【0109】
ステップS62では、ステップS61で取得された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって各電磁波信号のスペクトログラム(時間周波数表現)を算出する。このスペクトログラムの算出は、前記第2の工程と同様にして行われる。これにより、前記被検混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データ、及び、複数の前記既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データを得る。

【0110】
ステップS63では、複数の前記既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データに対して多変量解析を行い、複数の前記既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データを、属性毎のデータ群に分離させるための合成変量を作成する。前記多変量解析は、例えば、主成分分析、PLS判別分析(PLS-DA)、SIMCA法、SVM(Support Vector Machine)法などである。

【0111】
ステップS64では、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての特徴量、すなわち、前記スペクトログラムの数値列データの合成変量値(スコア)を算出する。

【0112】
ステップS65では、複数の前記既知混合物試料ついての特徴量に基づいて属性識別用指標を設定する。具体的には、ステップS64で算出された複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての特徴量(合成変量値)を属性毎にグループ化し、グループ化された属性毎の前記既知混合物試料についての特徴量(合成変量値)に基づいて前記属性識別用指標を設定する。前記属性識別用指標は、属性毎に所定の範囲を有して設定される。前記属性識別用指標のそれぞれには、同じ属性の前記既知混合物試料が有する共通の特徴、すなわち、各属性に対応する特徴及び/又は各属性を代表する特徴が含まれる。
ここで、前記属性識別用指標は、数値であってもよいし、図や表で示されたものであってもよい。

【0113】
ステップS66では、前記被検混合物試料についての特徴量、すなわち、前記スペクトログラムの数値列データの合成変量値を算出する。

【0114】
ステップS67では、ステップS66で算出された前記被検混合物試料についての特徴量(合成変量値)と、ステップS65で設定された前記属性識別用指標とを比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についての合成変量値が、属性毎に設定された前記属性識別用指標のいずれに該当するか(含まれるか)を判断して前記被検混合物試料の属性を識別する。なお、前記被検混合物試料についての合成変量値が、前記属性識別用指標のいずれにも該当しない(含まれない)場合には、前記被検混合物試料の属性を不明とする。また、このステップS63における前記被検混合物試料の属性の識別は、図11のステップS53と同様に、所定の人や所定の装置によって行われ得る。

【0115】
ここで、複数の前記既知混合物試料に対するステップS61、S62の処理及びステップS63~S65の処理は、本フローとは別に実施されるものであってもよい。例えば、前記属性識別用指標が設定された後に、前記被検混合物試料についてステップS61、S62、及びS66の処理を実施して、ステップS67において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0116】
図14は、前記スペクトログラムの数値列データを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別装置10Bの概略構成を示すブロック図である。この属性識別装置10Bは、図13のステップS62~S67の処理を実施する。
図14に示すように、属性識別装置10Bは、信号処理部11Bと、指標設定部20Bと、属性識別部12Bと、識別結果出力部13Bとを有する。

【0117】
信号処理部11Bは、上述の信号処理装置1Cと同様の機能を有し、図13のステップS62に相当する処理を実施する。すなわち、信号処理部11Bは、前記被検混合物試料及び複数の前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を入力し、入力された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって各電磁波信号のスペクトログラムを算出する。そして、信号処理部11Bは、複数の前記既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データを指標設定部20Bに出力し、前記被検混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データを属性識別部12Bに出力する。

【0118】
指標設定部20Bは、図13のステップS63~S65に相当する処理を実施する。すなわち、指標設定部20Bは、入力された複数の前記既知混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データに対して多変量解析を行って前記合成変量を作成し、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての特徴量(合成変量値)を算出する。そして、指標設定部20Bは、算出された複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての特徴量(合成変量値)を属性毎にグループ化し、グループ化された属性毎の前記既知混合物試料についての特徴量(合成変量値)に基づいて前記属性識別用指標を設定する。指標設定部20Bは、作成された前記合成変量及び設定された前記属性識別用指標を属性識別部12Bに出力する。

【0119】
属性識別部12Bは、図13のステップテップS66及びS67に相当する処理を実施する。すなわち、属性識別部12Bは、前記被検混合物試料についてのスペクトログラムの数値列データの特徴量(合成変量値)を算出し、算出した特徴量(合成変量値)と前記属性識別用指標とを比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。そして、属性識別部12Bは、識別結果を識別結果出力部13Bに出力する。なお、前記識別結果には属性不明も含まれる。

【0120】
識別結果出力部13Bは、属性識別部12Bによる前記識別結果を出力する。例えば、出力部13Bは、前記識別結果を図示省略の前記表示部に表示する。これにより、属性識別装置10Bの利用者は前記被検混合物試料の属性を把握することができる。

【0121】
ここで、指標設定部20Bは、属性識別装置10Bとは別体で構成されてもよい。この場合、属性識別装置10B(属性識別部12B)は、前記被検混合物試料の属性の識別を実施する際に又は事前に、指標設定部20Bから前記合成変量及び前記属性識別用指標を入力するように構成される。

【0122】
<第4実施形態>
第4実施形態では、混合物試料から当該混合物試料に由来する電磁波信号を取得し、取得された電磁波信号のスペクトログラムを算出し、算出されたスペクトログラムからその各周波数成分についてその減衰特性を示す時定数をさらに算出し、算出された各周波数成分の時定数に基づいて前記混合物試料の特性を評価する。
これにより、第4実施形態においても、前記第3実施形態と同様に、混合物試料に由来する電磁波信号に含まれる、「複雑・不均質な混合物」の構造・機能に関する情報を網羅的に解析することができる。また、「複雑・不均質な混合物」の特性評価(特性解析)において著しい精度向上が期待できる。

【0123】
第4実施形態では、以下の工程にしたがって混合物試料の特性を評価する。
(1)第1の工程(混合物試料に由来する電磁波信号の取得)
前記第1~第3実施形態における第1の工程と同様である。

【0124】
(2)第2の工程(混合物資料に由来する電磁波信号の処理)
第1の工程で取得(保存)した電磁波信号(RAW信号)の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによってスペクトログラム(時間周波数表現)を算出する。この点は、前記第3実施形態の第2の工程と同様である。但し、第4実施形態では、算出されたスペクトログラムから各周波数成分についてその減衰特性を示す時定数τをさらに算出する。時定数τは、各周波数成分の信号強度(振幅)の減少の度合いを表すものであり、周波数成分/時定数グラフ(例えば、ヒストグラム)や数値列データ(例えば、1次元配列)として出力することができる。

【0125】
本実施形態において、前記電磁波信号の処理(各周波数成分の減衰特性(時定数)の算出処理)は、信号処理装置1Dによって実施される。
図15は、信号処理装置1Dの概略構成を示すブロック図である。
図15に示すように、信号処理装置1Dは、処理部2Dと、出力部3Dとを有する。
処理部2Dは、前記混合物試料に由来する電磁波信号を入力し、入力された電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことにより前記電磁波信号のスペクトログラム(前記混合物試料についてのスペクトログラム)を算出する。さらに、処理部2Dは、算出された前記スペクトログラムから各周波数成分についてその減衰特性を示す時定数を算出する。
出力部3Dは、算出された時定数の数値列データ及び算出された時定数から作成された周波数成分/時定数グラフの少なくとも一方を出力する。

【0126】
図16は、信号処理装置1Dが実施する処理(前記減衰特性値(時定数τ)の算出処理)の一例を示すフローチャートである。
信号処理部1Dは、図13のステップS61~S66の処理と同様にして、入力された各電磁波信号のスペクトログラムを算出した後、算出された各スペクトログラムの各周波数成分に対して図16に示す処理を実施する。

【0127】
信号の減衰特性は、次式(1)で表される(α:初期振幅、τ:時定数)。
f(t)=αe-t/τ・・・(1)
両辺の対数をとると、次式(2)が得られる。
logf(t)=-(1/τ)t+logα・・・(2)
そこで、信号処理部1Dは、前記スペクトログラムの各周波数成分を式(2)の右辺のとおり対数に変換し(ステップS71)、最小二乗法によってその時系列サンプルを最も近似する回帰直線を推定し(ステップS72)、その回帰直線の傾きから時定数τを算出して、保存用の一次元配列に格納する(ステップS73)。

【0128】
そして、信号処理装置1Dは、算出された各周波数成分の時定数τの数値列データを出力する場合には、時定数τを格納した前記一次元配列をバイナリデータやアスキーデータ(例えば、CSV形式)として出力する(ステップS74)。
一方、信号処理装置1Dは、算出された各周波数成分の時定数τを画像として出力する場合には、周波数成分/時定数グラフ(例えば、ヒストグラム)を作成する(ステップS75)。

【0129】
(3)第3の工程(混合物試料の特性評価)
信号処理装置1Dから出力される前記スペクトログラムの各周波数成分の時定数τの数値列データや周波数成分/時定数グラフは、前記第3実施形態における前記スペクトログラムの数値列データやスペクトログラム画像と同様、前記混合物試料の特性を精度よく示す情報となり得る。したがって、前記各周波数成分の数値列データや前記周波数成分/時定数グラフを解析することによって、前記第3実施形態と同様、前記混合物試料の特性を評価することが可能である。

【0130】
すなわち、前記各周波数成分の時定数τの数値列データや前記周波数成分/時定数グラフは、例えば、混合物試料同士の類似性や相違性などを評価する指標として用いることができ、混合物の属性区分を設定(又は再設定)することを可能とし、属性が不明な混合物試料の属性を識別するために利用され得る。

【0131】
(4)第4の工程(属性が不明な混合物試料の属性識別)
本実施形態においても、前記第1~第3実施形態と同様、属性が不明な被検混合物試料の属性を、当該被検混合物試料と同種で属性が決定されている既知混合物試料を用いて識別することができる。具体的には、前記被検混合物試料についてのスペクトログラムから算出される各周波数成分の時定数と、前記既知混合物試料についてのスペクトログラムから算出される各周波数成分の時定数とを比較することによって、前記被検混合物試料の属性を識別することができる。以下、前記周波数成分/時定数グラフを用いる場合と、前記各周波数成分の時定数の数値列データを用いる場合とに分けて説明する。

【0132】
(4-1)前記周波数成分/時定数グラフを用いる場合
図17は、前記周波数成分/時定数グラフを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図17において、ステップS81は、図4のステップS11の処理と同様である。
ステップS82では、ステップS81で取得された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって各電磁波信号のスペクトログラム(時間周波数表現)を算出する。

【0133】
ステップS83では、ステップS82で算出された各スペクトログラムについて、その各周波数成分の時定数τ(減衰特性)を算出して周波数成分/時定数グラフを作成する。すなわち、前記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフ及び少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフを作成する。この周波数成分/時定数フラグの作成は、前記第2の工程と同様にして行われる。

【0134】
ステップS84では、ステップS83で作成された各周波数成分/時定数グラフを比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフが、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフに類似するか又はいずれに最も類似するかを判断して前記被検混合物試料の属性を識別する。前記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフが、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフのいずれにも類似しないと判断される場合には、前記被検混合物試料の属性を不明のままとする。

【0135】
ここで、少なくとも一つの前記既知混合物試料に対するステップS81~S83の処理は、本フローとは別に実施されてもよい。例えば、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフが作成された後に、前記被検混合物試料についてステップS81~S83の処理を実施して、ステップS84において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0136】
また、ステップS84における前記被検混合物試料の属性の識別は、ヒトの視覚(色覚)又は所定の装置によって行われ得る。ヒトの視覚(色覚)又は所定の装置によって行われる。ヒトの視覚(色覚)によって行われる場合には、ステップS81で取得された各電磁波信号が信号処理装置1Dに入力され、信号処理装置1Dから出力される各周波数成分/時定数グラフを、所定の人がその視覚(色覚)を用いて比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。
一方、所定の装置によって行われる場合には、以下のような構成を有する属性識別装置を製造し、当該属性識別装置が図17のステップS82~S84の処理を実施する。

【0137】
なお、図17に示すフローチャートでは、前記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフと、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフとを比較しているが、前記少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフに代えて、これらに基づいて属性毎に作成された属性識別用グラフを用いてもよい。

【0138】
図18は、前記周波数成分/時定数グラフを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別装置10Cの概略構成を示すブロック図である。
図18に示すように、属性識別装置10Cは、信号処理部11Cと、属性識別部12Cと、識別結果出力部13Cとを有する。

【0139】
信号処理部11Cは、上述の信号処理装置1Dと同様の機能を有し、図17のステップS82及びS83に相当する処理を実施する。すなわち、信号処理部11Cは、前記被検混合物試料及び少なくとも一つの前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を入力し、入力された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって当該各電磁波信号のスペクトログラムを算出し、算出された前記スペクトログラムの各周波数成分の時定数(減衰特性)を算出する。そして、信号処理部11Bは、前記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフ及び少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフを作成して属性識別部12Cに出力する。

【0140】
属性識別部12Cは、例えば画像工学的手法を用いて、図17のステップS84に相当する処理を実施する。すなわち、属性識別部12Cは、前記記被検混合物試料についての周波数成分/時定数グラフと、少なくとも一つの前記既知混合物試料についての周波数成分/時定数グラフとを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別し、識別結果を識別結果出力部13Cに出力する。なお、前記識別結果には属性不明も含まれる。

【0141】
識別結果出力部13Cは、属性識別部12Cによる識別結果を出力する。例えば、出力部13Bは、前記識別結果を図示省略の表示部に表示する。これにより、属性識別装置10Cの利用者は前記被検混合物試料の属性を把握することができる。

【0142】
(4-2)前記各周波数成分の時定数の数値列データを用いる場合
図19は、前記各周波数成分の時定数の数値列データを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する処理を示すフローチャートである。
図19において、ステップS91、S92は、図13のステップS61、S62の処理と同様である。すなわち、前記被検混合物試料及び複数の前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を取得し、取得された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって当該各電磁波信号のスペクトログラム(時間周波数表現)を算出する。

【0143】
ステップS93では、ステップS92で算出された各スペクトログラムについて、その各周波数成分の時定数τ(減衰特性)を算出する(前記第2の工程を参照)。
これにより、前記被検混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データ、及び、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての前記各周波数成分の時定数の数値列データを得ることができる。

【0144】
ステップS94では、複数の前記既知混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データに対して多変量解析を行い、複数の前記既知混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データを、属性毎のデータ群に分離させるための合成変量を作成する。

【0145】
ステップS95では、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての特徴量、すなわち、前記各周波数成分の時定数の数値列データの合成変量値(スコア)を算出する。

【0146】
ステップS96では、複数の前記既知混合物試料ついての特徴量(合成変量値)に基づいて属性識別用指標を設定する。具体的には、ステップS95で算出された複数の前記既知混合物試料のそれぞれについて特徴量(合成変量値)を属性毎にグループ化し、グループ化された属性毎の前記既知混合物試料についての特徴量(合成変量値)に基づいて前記属性識別用指標を設定する。前記属性識別用指標は、属性毎に所定の範囲を有して設定される。なお、ステップS96で設定される前記属性識別用指標は、数値であってもよいし、図や表で示されたものであってもよい。

【0147】
ステップS97では、前記被検混合物試料についての特徴量、すなわち、前記各周波数成分の時定数の数値列データの合成変量値を算出する。

【0148】
ステップS98では、ステップS97で算出された前記被検混合物試料についての特徴量(合成変量値)と、ステップS96で設定された前記属性識別用指標とを比較して、前記被検混合物試料の属性を識別する。具体的には、前記被検混合物試料についての合成変量値が、属性毎に設定された前記属性識別用指標のいずれに該当するか(含まれるか)を判断して前記被検混合物試料の属性を識別する。なお、前記被検混合物試料についての合成変量値が、前記属性識別用指標のいずれにも該当しない(含まれない)場合には、前記被検混合物試料の属性を不明とする。また、このステップS98における前記被検混合物試料の属性の識別は、図17のステップS84と同様に、所定の人や所定の装置によって行われ得る。

【0149】
ここで、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについてのステップS91~S93の処理、及び、ステップS94~S96の処理は、本フローとは別に実施されてもよい。例えば、前記属性識別用指標が設定された後に、前記被検混合物試料についてステップS91~S93、S97の処理を実施して、ステップS98において前記被検混合物試料の属性を識別するようにしてもよい。

【0150】
図20は、前記各周波数成分の時定数の数値列データを用いて前記被検混合物試料の属性を識別する属性識別装置10Dの概略構成を示すブロック図である。この属性識別装置10Dは、図19のステップS92~S98の処理を実施する。
図20に示すように、属性識別装置10Dは、信号処理部11Dと、指標設定部20Dと、属性識別部12Dと、識別結果出力部13Dとを有する。

【0151】
信号処理部11Dは、上述の信号処理装置1Dと同様の機能を有し、図19のステップS92及びS93に相当する処理を実施する。すなわち、信号処理部11Dは、前記被検混合物試料及び複数の前記既知混合物試料のそれぞれに由来する電磁波信号を入力し、入力された各電磁波信号の全体にわたって短時間周波数解析を繰り返すことによって当該各電磁波信号のスペクトログラムを算出し、算出された前記スペクトログラムの各周波数成分の時定数(減衰特性)を算出する。そして、信号処理部11Dは、複数の前記既知混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データを指標設定部20Dに出力する一方、前記被検混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データを属性識別部12Dに出力する。

【0152】
指標設定部20Dは、図19のステップS94~S96に相当する処理を実施する。すなわち、指標設定部20Dは、入力された複数の前記既知混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データに対して多変量解析を行って前記合成変量を作成し、複数の前記既知混合物試料のそれぞれについての前記各周波数成分の時定数の数値列データの特徴量(合成変量値)を算出する。そして、指標設定部20Dは、算出された特徴量(合成変量値)を属性毎にグループ化して、グループ化された属性毎の前記既知混合物試料についての特徴量(合成変量値)に基づいて前記属性識別用指標を設定する。指標設定部20Dは、前記合成変量及び前記属性識別用指標を属性識別部12Dに出力する。

【0153】
属性識別部12Dは、図19のステップテップS97及びS98に相当する処理を実施する。すなわち、属性識別部12Dは、前記被検混合物試料についての前記各周波数成分の時定数の数値列データの特徴量(合成変量値)を算出し、算出した特徴量(合成変量値)と前記属性識別用指標とを比較して前記被検混合物試料の属性を識別する。そして、属性識別部12Dは、識別結果を識別結果出力部13Dに出力する。前記識別結果には属性不明も含まれる

【0154】
識別結果出力部13Dは、属性識別部12Dによる前記識別結果を出力する。例えば、出力部13Dは、前記識別結果を図示省略の前記表示部に表示する。これにより、属性識別装置10Dの利用者は前記被検混合物試料の属性を把握することができる。

【0155】
ここで、指標設定部20Dは、属性識別装置10Dとは別体で構成されてもよい。この場合、属性識別装置10D(属性識別部12D)は、前記被検混合物試料の属性の識別を実施する際に又は事前に、指標設定部20Dから前記合成変量及び前記属性識別用指標を入力するように構成される。

【0156】
また、以上では、信号処理装置1Dが、各周波数成分の減衰特性を示す値として時定数τを算出しているが、時定数τに代えて初期振幅αを算出してもよい。この初期振幅αも減衰特性値に相当する。この場合、信号処理装置1Dは、各周波数成分の初期振幅αの数値列データ及び/又は周波数成分/初期振幅グラフを出力する。また、前記混合物試料の特性評価(第3の工程)及び属性が不明な混合物試料の属性識別(第4の工程)においては、時定数の数値列データを初期振幅の数値列データと、周波数成分/時定数グラフを周波数成分/初期振幅グラフと読み替えればよい。また、信号処理装置1Dが各周波数成分の減衰特性を示す値として時定数τ及び初期振幅αを算出してもよい。

【0157】
<実施例>
(A)NMR信号を用いた実施例
発明者らは、コンピュータ上で稼働して混合物試料に由来するNMR信号を処理するプログラム及びソフトウエア(以下「NMR信号処理ソフトウエア」という)を作成した。このNMR信号処理ソフトウエアは、混合物試料に由来するNMR信号を読み込み、(a)読み込んだNMR信号を音として出力すること、(b)読み込んだNMR信号について短時間周波数解析を行ってスペクトログラムを算出し、スペクトログラム画像及び数値列データとして出力すること、及び、(c)算出されたスペクトログラムから各周波数成分の減衰特性値(時定数τ及び/又は初期振幅α)を算出し、周波数/減衰特性値グラフ(画像)及び数値列データとして出力することが可能である。つまり、前記NMR信号処理ソフトウエアは、NMR信号を入力し、処理して、音、画像、数値列データとして保存及び出力することができる。データの保存(出力)方式には、音フォーマット(RAW形式、WAV形式など)、画像フォーマット(JPEG形式、TIFF形式、PNG形式など)、及び数値列フォーマット(CSV形式など)がある。音フォーマットのデータは、汎用の再生用ソフトウエアで再生して音として聴くことができ、また、汎用の音解析ソフトウエアを用いて音響工学的な解析を行うことができる。画像フォーマットのデータは、NMR信号の短時間周波数解析の結果を視覚(色覚)によって比較することを可能とする。
以下、混合物試料の具体例として、「実施例1 ラット血漿」及び「実施例2 マウスの細胞抽出物」の実験方法と解析結果を記載する。

【0158】
(実施例1)ラット血漿
[対象と方法]
・動物実験(ラット出血性ショックモデルの作製)
体重350~400gの雄性Sprague-Dawleyラットを使用した。麻酔には、ketamine hydrochloride(65mg/kg)と、xylazine(0.7mg/kg)(2-[2,6-dimethylphenylamino]-4H-5,6-dihydrothiazine hydrochloride)との腹腔内投与を行った。体温は、直腸温度計にて測定し、加温ランプを用いて37.5~38.5℃に維持した。大腿動静脈には、ヘパリン加生理食塩水(10単位/mL)を満たしたポリエチレンチューブ(外径0.96mm、内径0.58mm)を留置した。動脈に挿入したポリエチレンチューブはトランスデューサーと動脈圧モニターに接続し、持続的に血圧を測定した。その後、ラットをBollman-type resting cageに固定した。ラットの平均動脈圧が100~110mmHgに安定した時点で、平均血圧が40mmHgに達するまで、1mL/minの速度で脱血し、出血性ショック状態を作製した。その後、必要に応じて脱血と返血を繰り返し、血圧レベルが40mmHgで30分間維持されるように、微調整を行った。

【0159】
・血漿の採取・保存
30分間の出血性ショック状態のラットから採取した動脈血を4℃で遠心分離し、上清を-80℃で保存した(「shock血漿」)。
正常ラットに上記の麻酔を行って動脈血を採取し、遠心分離して得られた血漿を、コントロール血漿(「control血漿」)とした。

【0160】
・NMR測定試料の調整
血漿50-100μLに、既知量のsodium (3-trimethylsilyl) tetradeuteriopropionate-2,2,3,3-d4 (TMSP)を含む重水500-550μLを加え、5mm径のガラス製NMR試料管に移し、NMR測定試料とした。重水は磁場不均一補正のための重水素ロックシグナル取得の目的で、また、TMSPは信号確認の指標として添加した。

【0161】
・プロトンNMR信号の取得
プロトンNMR信号の取得は、ECX NMR装置(プロトン共鳴周波数300MHzの超電導マグネット、TH5プローブ、16本オートサンプルチェンジャー、DeltaTM NMR processing and control software (version 4.3.2)を装備)にて行った。プロトンNMRシグナルの取得には、DeltaTMシステムに組み込まれた自動測定用のマクロプログラムを用いた。プローブ内温度は23℃とした。NMR信号の観測範囲は4500Hzとした。測定シークエンスとしては、一次元NMR信号取得用のシングルパルスモードを使用し、軽水の信号はホモゲート法とDANTE法により抑制した。データ解析に十分なSN比が得られるように、400回の積算を行った。取得した各サンプルのNMR信号データは、そのままの形(ここでは、JDF(ECX標準)フォーマット)で保存した。

【0162】
・データ解析(前記NMR信号処理ソフトウエアによる処理と処理結果の解析)
(1)NMR信号の音出力
JDFフォーマットで保存した各ラット血漿のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各JDFフォーマットのファイルごとに音として出力(再生)した。その結果、control血漿とshock血漿とは、明らかに異なる音として出力されること、すなわち、ヒトの聴覚によってcontrol血漿とshock血漿とを識別できることが確認された。次に、これらのデータを非圧縮WAVフォーマットで保存し、保存されたファイルが、汎用の再生用ソフトウエアで再生できること及び汎用の音解析ソフトウエアを用いて解析できることも確認された。

【0163】
(2)スペクトログラムの算出及びスペクトログラム画像の作成
JDFフォーマットで保存した各ラット血漿のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについて、信号全体にわたって短時間周波数解析を繰り返し行ってスペクトラムを算出した。算出結果は、前記コンピュータのディスプレイ上にスペクトログラム画像として表示した。なお、各スペクトログラム画像はPNGフォーマットで保存した。
図21は、control血漿のスペクトログラム画像の一例と、shock血漿のスペクトラム画像の一例とを示している。図21に示すように、control血漿のスペクトログラム画像とshock血漿のスペクトラム画像とは明らかに相違しており、スペクトログラム画像の比較によって両者を識別できることが確認された。

【0164】
(3)減衰特性値(時定数τ)の算出及び周波数成分/時定数グラフの作成
JDFフォーマットで保存した各ラット血漿のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出し、算出したスペクトログラムから各周波数成分の減衰特性値(時定数τ)を算出した。算出結果は、前記コンピュータのディスプレイ上に周波数成分/時定数グラフとして表示した。なお、各周波数成分/時定数グラフは、PNGフォーマットで保存した。
図22は、control血漿の周波数成分/時定数グラフの一例と、shock血漿の周波数成分/時定数グラフの一例を示している。図22に示すように、control血漿の周波数成分/時定数グラフと、shock血漿の周波数成分/時定数グラフとは明らかに相違しており、周波数成分/時定数グラフの比較によって両者を識別できることが確認された。

【0165】
(4)スペクトログラムの数値列データの多変量解析による識別
JDFフォーマットで保存した各ラット血漿のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出した。その算出結果である数値列データを出力してCSVフォーマットで保存した。保存した数値列データを汎用の多変量解析ソフトウエアに入力して主成分分析(PCA)を行った。その結果を図23に示す。図23に示すように、各データから算出した主成分スコアは、スコアプロット上で、主成分1(Pc1)が、異なる領域に、control群とshock群とにクラスター化して分布した。引き続きPLS-DA法によるクラス分類を行ったところ、図24に示すように、control群とshock群とを精度よく識別できることが確認された。

【0166】
(5)減衰特性値(時定数τ)の数値列データの多変量解析による識別
JDFフォーマットで保存した各ラット血漿のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出し、算出したスペクトログラムから各周波数成分の減衰特性値(時定数τ)を算出した。その算出結果である数値列データ(τ値)を出力してCSVフォーマットで保存した。保存した数値列データを汎用の多変量解析ソフトウエアに入力して主成分分析(PCA)を行った。その結果を図25に示す。図25に示すように、各データから算出した主成分スコアは、スコアプロット上で、主成分1(Pc1)が異なる領域に、control群とshock群にクラスター化して分布することが確認された。引き続きPLS-DA法によるクラス分類を行ったところ、図26に示すように、control群とshock群を精度よく識別できることが確認された。

【0167】
(実施例2)マウス細胞抽出物
[対象と方法]
・細胞の採取
(1)脂肪組織由来幹細胞(ASCs)
5週齡オスのマウス(C57BL/6)を用いた。麻酔瓶の中でエーテルを用いて安楽死させたのち、マウスを背臥位で固定し、腹部を横切開し、鼡径部から背部に至る脂肪塊を採取した。脂肪塊をPBS(Phosphate buffered saline、リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、付着した血管等は切除した。脂肪塊を細断後、PBSと共に50mLの遠心チューブに移し、さらにコラゲナーゼを加えて、0.15%のコラゲナーゼ溶液とした。この遠心チューブを温浴槽に入れ、37℃で30分インキュベートした。遠心チューブ中の脂肪塊が肉眼的に消失した後、FBS(Fetal bovine serum、ウシ胎児血清)を加えてコラゲナーゼ活性を停止させ、遠心分離を行った。遠心後の上清を吸引除去した後、10mLのcontrol medium(培養液)を同チューブにいれ、細胞ペレットを十分に攪拌し、100mLディッシュ10枚の各々に1000μLずつピペッティングした。各ディッシュを良く振盪し、細胞が均等に広がるのを肉眼で確認後、37℃でのインキュベートを開始した。1週間に2-3回培地の交換を行った。
約4日から1週間で100%コンフルエントとなった後、control mediumをすべて吸引し、PBSで洗浄した。その後、100mLディッシュ1枚に対してTrypsin-EDTAを1mLずつ入れ、37℃で10分間インキュベートした。培地が肉眼的に黄色に変化した後、顕微鏡で細胞の剥離を確認し、control mediumを2mL入れて中和した。そして、同溶液0.5-1mLずつを、あらかじめ5mLのcontrol mediumを入れた新しい100mLディッシュに分注し、37℃でのインキュベートを開始した。このようにして第二継代培養した細胞を採取し、液体窒素にて急速冷凍後、-80℃に保存した。

【0168】
(2)骨髄間葉系幹細胞(BSCs)
5週齡オスのマウス(C57BL/6)を用いた。麻酔瓶の中でエーテルを用いて安楽死させたのち、大腿骨と脛骨を採取した後、23ゲージ針をつけた20mL PBS入りシリンジを用いて骨髄を洗い出し、50mLチューブ内に回収した。他の50mLチューブにセルストレイナーをセッティングし、ここに先ほど回収した骨髄液を移し入れ、遠心分離を行った。細胞のペレットを吸わないように上清を吸引した。マウス3匹分の骨髄に対して1mLのcontrol mediumをチューブに加えて振盪後、細胞を懸濁させた。そして、同溶液1mLずつを、あらかじめ5mLのcontrol mediumを入れた新しい100mLディッシュに分注し、37℃でのインキュベートを開始した。このようにして第二継代培養した細胞を採取し、液体窒素にて急速冷凍後、-80℃に保存した。

【0169】
・NMR測定試料の調整
(1)細胞の破砕・分離抽出
NMR測定用のマウス細胞抽出物を調整するために、吉岡らのプロトコールに従ってneutral extractionを遂行した。本抽出法は基本的にはFolchの方法と同じである。Folchは、動物の組織から脂質成分を抽出するために本法をデザインしたが、吉岡は、本法が、生体から摘出した組織や細胞に特別な処理を加えることなく、また含有物質に化学変化を起こすことなく多数の化学物質を抽出できることに着目して、改良を加えた。特に、極性有機化合物を非極性有機化合物から分離できる点でも有用である。
まず、凍結保存した細胞を、冷却したクロロホルム・メタノール(2:1)混合液1.5mL中で十分に撹拌し、細胞を破砕して内容物を振盪抽出後、遠心分離を行った。次に、濾過により不溶成分を除去した抽出液に0.5mLの蒸留水を加え、上記と同じ条件で再度振盪抽出を行った。抽出液を十分に撹拌後、24時間、4℃で放置し、遠心分離を行って2層の溶液層と不溶残渣として分取した。本実験では、上層の溶液について真空エバポレーターを用いて溶媒を完全に留去し、留去の残渣をNMR測定試料とした。

【0170】
(2)NMR測定試料液の調整
上記残渣に重水(D2O)を180μL加えて再溶解し、3mmNMR試料管に入れた。別に用意した5mmNMR試料管に、25 μM sodium (3-trimethylsilyl) tetradeuteriopropionate-2,2,3,3-d4 (TMSP)を含む300μLの重水を入れ、測定試料の入った前記3mmNMR試料管を前記5mmNMR試料管中に入れて固定して、NMR測定試料とした。重水は磁場不均一補正のための重水素ロックシグナル取得の目的で、また、TMSPは信号確認の内部指標として用いた。

【0171】
・プロトンNMR信号の取得
プロトンNMR信号の取得は、ECX NMR装置(プロトン共鳴周波数300MHzの超電導マグネット、TH5プローブ、16本オートサンプルチェンジャー、DeltaTM NMR processing and control software (version 4.3.2)を装備)にて行った。プロトンNMRシグナルの取得には、DeltaTMシステムに組み込まれた自動測定用のマクロプログラムを用いた。プローブ内温度は23℃とした。NMR信号の観測範囲は4500Hzとした。測定シークエンスとしては、一次元NMR信号取得用のシングルパルスモードを使用し、軽水の信号はホモゲート法とDANTE法により抑制した。データ解析に十分なSN比が得られるように、8000回の積算を行った。取得した各サンプルのNMR信号データは、そのままの形(ここでは、JDFフォーマット(ECX標準フォーマット))で保存した。

【0172】
・データ解析(前記NMR信号処理ソフトウエアによる処理と処理結果の解析)
(1)NMR信号の音出力
JDFフォーマットで保存した各マウス細胞抽出物のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各JDFフォーマットのファイルごとに音として出力(再生)した。ASCs抽出物とBSCs抽出物は、明らかに異なる音として出力されることが確認された。次に、これらのデータをWAVフォーマットで保存し、保存されたファイルが、汎用の再生用ソフトウエアで再生できること及び汎用の音解析ソフトウエアを用いて解析できることも確認された。

【0173】
(2)スペクトログラムの算出及びスペクトログラム画像の作成
JDFフォーマットで保存した各マウス細胞抽出物のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについて、信号全体にわたって短時間周波数解析を繰り返し行ってスペクトラムを算出した。算出結果は、前記コンピュータのディスプレイ上にスペクトログラム画像として表示した。なお、各スペクトログラム画像はPNGフォーマットで保存した。
図27は、ASCs抽出物のスペクトログラム画像の一例と、BSCs抽出物のスペクトラム画像の一例とを示している(実際にはカラーである)。図27に示すように、ASCs抽出物のスペクトログラム画像とBSCs抽出物のスペクトラム画像とは明らかに相違しており、スペクトログラム画像の比較によって両者を識別できることが確認された。

【0174】
(3)減衰特性値(時定数τ)の算出及び周波数成分/時定数グラフの作成
JDFフォーマットで保存した各マウス細胞抽出物のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出し、算出したスペクトログラムから各周波数成分の減衰特性値(時定数τ)を算出した。算出結果は、前記コンピュータのディスプレイ上に周波数成分/時定数グラフとして表示した。なお、各周波数成分/時定数グラフは、PNGフォーマットで保存した。
図28は、ASCs抽出物の周波数成分/時定数グラフの一例と、BSCs抽出物の周波数成分/時定数グラフの一例を示している。図28に示すように、ASCs抽出物の周波数成分/時定数グラフと、BSCs抽出物の周波数成分/時定数グラフとは明らかに相違しており、周波数成分/時定数グラフの比較によって両者を識別できることが確認された。

【0175】
(4)スペクトログラムの数値列データの多変量解析による識別
JDFフォーマットで保存した各マウス細胞抽出物のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出した。算出結果である数値列データを出力してCSVフォーマットで保存した。保存した数値列データを汎用の多変量解析ソフトウエアに入力して主成分分析(PCA)を行った。その結果を図29に示す。図29に示すように、各データから算出した主成分スコアは、スコアプロット上で、主成分1(Pc1)が、異なる領域に、ASCs抽出物群とBSCs抽出物群とにクラスター化して分布した。引き続きPLS-DA法によるクラス分類を行ったところ、図30に示すように、ASCs抽出物群とBSCs抽出物群とを精度よく識別できることが確認された。

【0176】
(5)減衰特性値(時定数τ)の数値列データの多変量解析による識別
JDFフォーマットで保存した各マウス細胞抽出物のNMR信号データを前記NMR信号処理ソフトウエアに入力し、各NMR信号データについてスペクトラムを算出し、算出したスペクトログラムから各周波数成分の減衰特性値(時定数τ)を算出した。その算出結果である数値列データ(τ値)を出力してCSVフォーマットで保存した。保存した数値列データ(τ値)を汎用の多変量解析ソフトウエアに入力して主成分分析(PCA)を行った。その結果を図31に示す。図31に示すように、各データから算出した主成分スコアは、スコアプロット上で、主成分1(Pc1)が、異なる領域に、ASCs抽出物群とBSCs抽出物群とにクラスター化して分布した。引き続きPLS-DA法によるクラス分類を行ったところ、図32に示すように、ASCs抽出物群とBSCs抽出物群とを精度よく識別できることが確認された。

【0177】
(B)近赤外線(NIR)信号を用いた実施例
発明者らは、コンピュータ上で稼働して混合物試料に由来する電磁波信号(例えば、NIR信号)を処理するプログラム及びソフトウエア(以下「電磁波信号処理ソフトウエア」という)を作成した。この電磁波信号処理ソフトウエアは、混合物試料に由来する電磁波信号を読み込み、読み込んだ電磁波信号を色(色画像)として出力(表示)することが可能である。つまり、前記電磁波信号処理ソフトウエアは、電磁波信号を処理し、色画像として出力することができる。また、前記電磁波信号処理ソフトウエアは、処理後のデータを画像フォーマット(PNG形式等)及び数値列フォーマット(CSV形式など)で保存し、出力することができる。
以下、混合物試料の具体例として、「ラット血漿」の実験方法と解析結果を記載する。

【0178】
(実施例3)ラット血漿
[対象と方法]
・動物実験(敗血症モデルの作製)
体重280~330gの雄性Sprague-Dawleyラットに、2mg/kg又は10mg/kgのlipopolysaccharide(LPS、Escherichia coli 0111:B4)を腹腔内投与し、敗血症を惹起させる。投与6時間後に3~5%イソフルラン麻酔下で採取した静脈血を遠心分離し、その上清を-80℃で保存した(LPS血漿1(2mg/kg)、LPS血漿2(10mg/kg))。
LPSの代わりに生理食塩水を投与したラットから同様の処置を行って得られた血漿を、コントロール血漿(control血漿)とした。

【0179】
・NIR測定試料の調整
血漿試料をガラス製試料管に入れたものをNIR測定試料とした。
・NIR信号の取得
近赤外線センサーを用いた。
測定条件は、以下のとおりである。
波長:900-1700nm、蓄積時間モード:自動、蓄積時間上限:1024ms、ゲイン:GAIN_LOW、スキャン回数:10回、計測モード:回数指定計測モード、保存データ:カウント値、吸光度、スペクトル(規格化吸光度)。
NIR測定試料を近赤外線センサープローブの測定口に配置し、各試料についてそれぞれ10回の計測を行った。各測定データはCSV形式で出力し保存した。

【0180】
・データ処理
前記電磁波信号処理ソフトウエアを用いて以下の処理及び出力を行った。
(1)NIR信号の色表示
取得したNIR信号の波長のダイナミックレンジ(例:近赤外領域の場合は900~1700nm)を、可視領域(400~800nm)へ線形写像して、可視領域の信号として読み替えた(変換した)。次に、RGB感度曲線から決定される、RGB三原色の主要な帯域(例:赤は690~710nm、緑は536~556nm、青は425~445nm)のそれぞれにおける強度(平均値)を計算した。
(2)色表示された各混合物のNIRデータの視覚(色覚)評価による識別
ラット血漿試料ごとのNIR信号について算出されたRGB値を用いて、前記コンピュータのディスプレイ上で色表示すると共に、色画像データ(PNGフォーマット)として保存した。図33は、control血漿、LPS血漿1、及びLPS血漿2のそれぞれの色(色画像)の一例を示している(実際にはカラーである)。図33に示すように、control血漿の色、LPS血漿1の色、及びLPS血漿2の色は、それぞれ相違しており、表示された色の比較によって三者を識別できることが確認された。
(3)RGBデータ(数値列データ)のSVMによる識別(図34参照)
複数のcontrol血漿、複数のLPS血漿1および複数のLPS血漿2のRGBデータを出力し、CSVフォーマットで保存した。本データを汎用の多変量解析ソフトウエアに読み込み、control血漿(75データ)、LPS血漿1(77データ)、LPS血漿2(73データ)をトレーニングデータ、残りのcontrol血漿(36データ)、LPS血漿1(36データ)、LPS血漿2(36データ)をテストデータとしてSVMによる識別を行った。トレーニングデータを用いてSVMの学習を行い、セグメントサイズ9のクロスバリデーションによるトレーニングデータについての識別器の性能評価を行なったところ、高い識別率を得た。次にテストデータについて本識別器によるクラス識別を試みたところ、100%の識別率となり、本識別器が未知のデータにも高い精度で識別能を持つことが確認できた。

【0181】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述の各実施形態や各実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形等が可能である。また、本発明は、混合物の特性評価における画期的な技術であり、例えば、属性が不明な混合物試料の属性を、属性が明らかな既知混合物試料に基づき、高精度に、簡便かつ迅速に識別することができる。さらに、本発明は、属性識別に限らず、様々な分野における混合物試料の分析技術として適用可能である。

【0182】
通常、医療の現場では、症状が出現してから治療を開始する。しかし、今後は、症状が出現する以前に疾患を予測し、治療的な介入を行って、疾患の発症を防止または遅らせようとする、新しい医療(先制医療)の出現が待ち望まれている。医療分野においては、本発明を利用することで、先制医療における超早期診断、治療方針の決定、治療効果の判定、予後予測をはじめ、新しい臨床検査法・医療機器の開発の可能性がひろがる。

【0183】
また、医療分野以外においても、本発明を新しいセンシング技術として応用し、例えば産業用各種モニタリング装置・分析機器・検出器(化学製品製造・食品加工・水処理などにおける異常検出、プロセス監視など)への適用や、食品の検査及び開発、植物の育種、高分子化学などへ適用することが期待される。

【0184】
さらに、本発明を用いて「複雑・不均質な混合物」の特性評価(特性解析)を行うことにより、今まで詳細が不明であった「複雑・不均質な混合物」の構造および機能を解明する新しい学問分野が創出されることが期待できる。
【符号の説明】
【0185】
1A,1B、1C、1D…信号処理装置、2A、2B、2C、2D…処理部、3A、3B、3C、3D…出力部、10A、10B、10C、10D…属性識別装置、11A、11B、11C、11D…信号処理部、12A,12B,13C,12D…属性識別部、13A,13B,13C,13D…部、20A、20B…指標設定部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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